説明

圧電体を用いたジャーク(加加速度)の測定方法

【課題】運動する物体のジャーク(加加速度)を測定するための簡易なセンサの測定方法を提供する。
【解決手段】被測定対象物にセンサを搭載し、被測定対象物が運動してセンサ内の圧電素子が自重または付加質量の慣性力により変形して発生する電荷を、圧延素子の電極間を短絡させて電流に変換することにより測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動する物体の加加速度すなわちジャークを測定するための測定技術に関するものである。ジャークの値を計測し、運動の制御に利用する分野としては、自動車やエレベータなどの乗り心地の制御、建築構造物の地震に対する振動制御、ロボットアームの運動やNC工作機械の切削工具の軌跡の制御などの分野がある。
【背景技術】
【0002】
運動を制御するために利用するために、ジャークを計測したり計算したりする方法はこれまでに数例あるが、本質的に感度を上げることが困難であったり、変位センサなど他のセンサを必要として構造が複雑であったりするなどの問題があった。従来の技術には、加速度センサの出力をそのまま微分したりその微分信号から計算により推定したりするもの、電磁石を利用するもの、片持ち梁とジャイロ(角速度センサ)を利用するものなどがある。
【0003】
加速度センサの出力を微分する場合には、信号に含まれた電気的ノイズが微分されるため、さらにそのノイズの影響が増大し、S/N比が非常に小さなものになってしまう。また、その微分した信号から推定する方法が紹介されているが、直接にジャークを測定しているものではないという問題と、さらに位相遅れを伴うという問題とがある。(例えば、非特許文献1参照)
【0004】
電磁石を利用したセンサは、内部に振子を有し、その振子の変位を筐体に対して一定に保つようなフィードバック制御をかけているサーボ型センサであるため、変位センサを内蔵する必要があり、高価でしかも機構が複雑になってしまうという問題点がある。(例えば、非特許文献2参照)
【0005】
片持ち梁とジャイロ(角速度センサ)を利用するセンサは、片持ち梁の先端にジャイロをつけて被測定対象物に載せ、被測定対象物が運動するとジャイロの質量による慣性力で片持ち梁がたわんでジャイロが傾き、その傾いた際の角速度をジャイロで測定するという方式を採用している。この場合、もともと片持ち梁先端の傾き自体が微小なため角速度の値も小さくなり、本質的かつ原理的にジャークセンサとしての感度を上げることができないという問題がある。さらにこのセンサの場合には、被測定対象物が回転運動するとジャークの値に無関係に出力に影響してしまうといった問題点もあり、回転運動を伴うような被測定対象物には使うことができない。(例えば、非特許文献3参照)
【0006】
【非特許文献1】「”Real-time algorithms for estimating jerk signals fromnoisy acceleration data”, Shin-ichi Nakazawa, Tadashi Ishihara andHIkaru Inooka, Proceedings of the International Conference on Mechtronics andInformation Technology, p423-428, 2001」
【非特許文献2】「“加々速度センサを用いた振動制御の基礎検討”、土屋豪、山門誠、石井雅治、菅野正治、日本機械学会論文集(C編)、63巻、614号、p3432-3437、1997-10.」
【非特許文献3】「“振動ジャイロと片持ち梁を組み合わせたジャークセンサによる建築構造物の地震応答に含まれる不連続点の検出”、田村雅巳、山本鎮男、曽根彰、増田新、日本建築学会構造系論文集、517号、p53-60、1999-3.」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明では、上述のような従来のジャーク測定技術の問題、すなわち、変位センサなどの他のセンサを利用しなければならないという問題点、構造が複雑になってしまうという問題点、本質的に測定感度を上げられないという問題点、被測定対象物が回転運動する場合には正確に測定できないという問題点をそれぞれ克服する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のセンサは、被測定対象物に圧電素子を搭載して測定するサイズモ系のセンサである。一連の測定原理の考え方の流れは図1に示すとおりである。被測定対象物が運動すると、圧電素子自身の質量または圧電素子に付加した錘などの質量による慣性力で圧電素子が微小変形し、圧電効果によって慣性力に比例した電荷が発生する。慣性力は加速度に比例するため、その電荷量は加速度に比例している。圧電素子の電極両端を導線で短絡させておくと、発生した電荷は導線内を流れて電流が発生する。電流は電荷の時間微分であるため、結果として電流はジャークに比例した値となる。この電流を計測することによってジャークを測定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、圧電体の変形をそのまま李世しているため、内部に変位センサなどの他のセンサを使わずに、簡易で廉価な構造で、本質的に低感度であるというような問題もなく、さらに被測定対象物の回転の影響なくジャークを測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のセンサの構造として種々の形態をとることができるが、その数例を図2から図8に示す。図2から図6はバイモルフ型圧電素子のたわみ変形を利用したタイプのものであり、図7と図8はそれぞれ圧電素子の伸縮変形およびせん断変形を利用したタイプのものである。図5と図6は同じものを平面図と側断面図として描いている。図2、図4、図5、図6では圧電素子とシム材の自重による慣性力を利用し、図3、図7、図8では付加質量の慣性力を利用する。いずれの場合も被測定対象物に搭載するタイプのサイズモ系のセンサである。圧電素子の直接変形を利用しているため、計測のためのフィードバック制御が必要なく、構造で廉価に構成できる。たわみの角度を利用せず、圧電素子の変形そのものを利用しているため、シム材と圧電素子の寸法を変更することによって要求される応答帯域に応じて簡単にセンサ感度を設計することができる。
【0011】
図2から図6のタイプのセンサには圧電素子をシム材の金属薄板の両面に圧電素子を設けているが、シム材の片面のみに圧電素子を設けるいわゆるユニモルフタイプにしてもよい。
【0012】
電流の検出はどのように測定してもよく、被測定対象物のジャークの変化に対応できだけの応答速度を有するものであれば、市販の電流系を用いて検出することも可能であるが、検出の一例を図9に示す。図9は電流検出用に短絡導線を利用する場合の例を示している。短絡回路に電流検出用の抵抗器Rを挿入して、抵抗器の両端電圧VJを測定すれば、電流地IはI=VJ/Rとして対応させることができる。
【実施例】
【0013】
図2に示したような自重たわみ変形型片持ち短冊構造のセンサを実際に製作し、加振器によりセンサを正弦波加振し、入力したジャークに対する本ジャークセンサの出力の応答を測定した。加振変位を変位センサで測定し、そのときの変位振幅と振動数から基準となるジャーク信号の振幅を算出し、変位の位相から+270°進んだ値をジャークの基準位相として算出した。電流の計測には図9に示した抵抗器を挿入して検出する方法を採用した。挿入した抵抗器は10Ωとした。図10に入力ジャークの振幅を一定にして正弦波加振した際の本ジャークセンサの振幅の周波数応答を、図11に位相の周波数応答を示す。入力したジャークの振幅は500、2200、4000m/sでそれぞれ一定にした。図10をみると、入力するジャークの振幅が一定であれば駆動周波数が100Hzから150Hzの範囲では一定であることがわかる。また図11の位相特性をみると、同周波数範囲においては位相遅れがなく出力されていることがわかる。
【0014】
図2に示した構造のセンサを正弦波加振により入力したジャークの振幅を変化させ、ジャークに対するジャークセンサの出力電圧を測定した結果を図12に示す。この結果から、本ジャークセンサはジャークに比例した振幅を出力することがわかる、以上により、本発明が簡易な構造のジャークセンサとして実現できることが実験により実証された。
【0015】
さらに図2とは別の構造のセンサについても実際に特性を測定した。図4に示したような自重たわみ変形型両持ち短冊構造のセンサについて同様に実際に製作し、加振器によりセンサを正弦波加振し、入力したジャークに対する本ジャークセンサの出力の応答を測定した。ジャークセンサを固定している両端変位を2本の変位センサで測定し、それら2つの平均値から加振変位を出した。2本の変位センサで計測していることを利用し,加振時に傾きが生じていないことも確認しつつ測定を進めた。基準となるジャーク信号の定め方や電流の計測方法などはすべて図2のセンサに対する測定ときと同様にした。図13、図14がそれぞれ振幅と位相の周波数応答である。図13をみると、入力するジャークの振幅が一定であれば駆動周波数が200Hzから300Hzの範囲ではほぼ一定であることがわかる。図4の両端固定構造の場合、図2の構造よりも剛性が上がり振動しにくくるため測定可能な周波数帯域狭くなってしまうが、傾向としては同じ結果が見られる。図14の位相特性をみると、同周波数範囲においてやはり位相遅れがなく出力されていることがわかる。すなわちジャークセンサの構造が変わっても原理的に同様の特性が得られることがわかる。
【0016】
図4のセンサについても正弦波加振時の、ジャークの振幅に対するジャークセンサの出力電圧の振幅の比を測定した結果を図14に示す。この結果から,図2の構造のセンサと同様に図4の構造のセンサであっても、本ジャークセンサはジャークに比例した振幅を出力することがわかる。以上により、本発明が簡易な構造のジャークセンサとして実現できること、およびセンサの構造を変えても同様の結果が得られ、測定原理の有効性および正当性が実験により実証された。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】測定原理の考え方の流れ
【図2】自重たわみ変形型片持ち短冊構造のセンサ例の側面図
【図3】付加質量たわみ変形型片持ち短冊構造のセンサ例の側面図
【図4】自重たわみ変形型両持ち短冊構造のセンサ例の側面図
【図5】自重たわみ変形型円盤構造のセンサ例の平面図
【図6】自重たわみ変形型円盤構造のセンサ例の側断面図(図5のB-B断面)
【図7】付加質量伸縮変形型構造のセンサ例の側面図
【図8】付加質量せん断変形型構造のセンサ例の側面図
【図9】電流検出方法の一例(抵抗器を用いた場合)
【図10】本発明によるジャークセンサ一例(図2の構造)の振幅の周波数応答
【図11】本発明によるジャークセンサ一例(図2の構造)の位相の周波数応答
【図12】本発明によるジャークセンサ(図2の構造)に与えたジャークの振幅とセンサ出力振幅の関係
【図13】本発明によるジャークセンサ一例(図4の構造)の振幅の周波数応答
【図14】本発明によるジャークセンサ一例(図4の構造)の位相の周波数応答
【図15】本発明によるジャークセンサ(図4の構造)に与えたジャークの振幅とセンサ出力振幅の関係
【符号の説明】
【0018】
1・・・シム材(金属薄板)
2・・・圧電素子電極
3・・・圧電素子
4・・・電流計、電流測定装置
5・・・導線
6・・・運動する被測定物
7・・・慣性力発生用付加質量
8・・・筐体
9・・・電流検出用抵抗器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子に発生する電荷を電流として検出することにより、ジャークが測定できる測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2006−23287(P2006−23287A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−156726(P2005−156726)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)