説明

圧電素子およびその製造方法、圧電アクチュエーター、液体噴射ヘッド、並びに、液体噴射装置

【課題】応力を緩和することができる信頼性の高い圧電素子を提供する。
【解決手段】本発明に係る圧電素子100は、基板10と、基板10の上方に形成された第1電極20と、第1電極20の上方に形成された第1圧電体30と、第1圧電体30の側方に形成され、第1圧電体30の密度より小さい密度を有する低密度領域40と、第1圧電体30および低密度領域40を覆って形成された第2圧電体50と、第2圧電体50の上方に形成された第2電極60と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子およびその製造方法、圧電アクチュエーター、液体噴射ヘッド、並びに、液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子は、電圧印加によりその形状を変化させる特性を有する素子であり、圧電体を電極で挟んだ構造を有する。圧電素子は、例えばインクジェットプリンターの液滴吐出ヘッド部分や、各種アクチュエーターなど多様な用途に用いられている。
【0003】
圧電素子は、例えば、下部電極上に第1圧電体を形成し、下部電極および第1圧電体を覆うように第2圧電体を形成して得ることができる。このような圧電素子では、第1圧電体の側面近傍に応力が集中し、圧電体にクラックが生じてしまうことがある。例えば特許文献1には、応力集中を緩和するため、圧電体にイオンを注入して低活性部を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−195316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、第1圧電体の側面近傍の応力を緩和することができる信頼性の高い圧電素子およびその製造方法を提供することにある。また、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、上記圧電素子を含む圧電アクチュエーター、液体噴射ヘッド、並びに、液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る圧電素子は、
基板と、
前記基板の上方に形成された第1電極と、
前記第1電極の上方に形成された第1圧電体と、
前記第1圧電体の側方に形成され、前記第1圧電体の密度より小さい密度を有する低密度領域と、
前記第1圧電体および前記低密度領域を覆って形成された第2圧電体と、
前記第2圧電体の上方に形成された第2電極と、
を含む。
【0007】
このような圧電素子によれば、前記低密度領域によって、前記第1圧電体層の側面近傍の応力を緩和することができ、高い信頼性を有することができる。
【0008】
本発明に係る圧電素子において、
前記第1圧電体の側面は、前記基板の上面に対して、第1角度で傾いており、
前記第1電極の側面は、前記基板の上面に対して、第2角度で傾いており、
前記第1角度は、前記第2角度より大きいことができる。
【0009】
このような圧電素子によれば、前記第1電極における電界集中を緩和することができる。
【0010】
本発明に係る圧電素子において、
前記低密度領域は、空隙を有することができる。
【0011】
このような圧電素子によれば、確実に前記低密度領域の密度を前記第1圧電体層の密度より小さくすることができ、いっそう応力を緩和することができる。
【0012】
本発明に係る圧電素子の製造方法は、
基板上に第1電極層を成膜する工程と、
前記第1電極層の上方に第1圧電体層を成膜する工程と、
前記第1圧電体層をパターニングして、第1圧電体を形成する工程と、
前記第1圧電体層を形成する工程に続いて、前記第1電極層をエッチングして、第1電極を形成する工程と、
前記第1圧電体層をパターニングして、第1圧電体を形成する工程と、
前記第1電極層をパターニングして、第1電極を形成する工程と、
前記第1圧電体および前記第1電極を覆うように、第2前駆体層を成膜する工程と、
熱処理を行い、前記第2前駆体層を結晶化させて第2圧電体層とする工程と、
前記第2圧電体層の上方に第2電極層を成膜する工程と、
前記第2圧電体層および前記第2電極層をパターニングして、前記第1圧電体および前記第1電極を覆う第2圧電体および第2電極を形成する工程と、
を含み、
前記第1圧電体を形成する工程では、前記第1圧電体の側面を、前記基板の上面に対して第1角度で傾くように形成し、
前記第1電極を形成する工程では、前記第1電極の側面を、前記基板の上面に対して第2角度で傾くように形成し、
前記第1角度は、前記第2角度より大きい。
【0013】
このような圧電素子の製造方法によれば、前記第1圧電体の側方に低密度領域が形成され、前記第1圧電体の側面近傍の応力を緩和することができる信頼性の高い圧電素子を得ることができる。
【0014】
本発明に係る圧電素子の製造方法において、
前記熱処理によって、前記第1圧電体の側方には、前記第1圧電体の密度より小さい密度を有する低密度領域が形成されることができる。
【0015】
このような圧電素子の製造方法によれば、前記低密度領域が形成されることにより、信頼性の高い圧電素子を得ることができる。
【0016】
本発明に係る圧電アクチュエーターは、
本発明に係る圧電素子を含む。
【0017】
このような圧電アクチュエーターによれば、高い信頼性を有することができる。
【0018】
本発明に係る液体噴射ヘッドは、
本発明に係る圧電アクチュエーターを含む。
【0019】
このような液体噴射ヘッドによれば、高い信頼性を有することができる。
【0020】
本発明に係る液体噴射装置は、
本発明に係る液体噴射ヘッドを含む。
【0021】
このような液体噴射装置によれば、高い信頼性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態に係る圧電素子を模式的に示す断面図。
【図2】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図3】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図4】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図5】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図6】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図7】本実施形態に係る液体噴射ヘッドを模式的に示す断面図。
【図8】本実施形態に係る液体噴射ヘッドを模式的に示す分解斜視図。
【図9】本実施形態に係る液体噴射装置を模式的に示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
1. 圧電素子
まず、本実施形態に係る圧電素子100について、図面を参照しながら説明する。図1は、圧電素子100を模式的に示す断面図である。
【0025】
圧電素子100は、図1に示すように、基板10と、第1電極20と、第1圧電体30と、低密度領域40と、第2圧電体50と、第2電極60と、を含む。
【0026】
基板10の材質としては、例えば、導電体、半導体、絶縁体などを例示することができる。ただし、少なくとも基板10の上面12は、基板10の上面12に第1電極20を形成することから、絶縁体であることが好ましい。より具体的には、基板10としては、例えば、単結晶シリコン基板を用いることができる。
【0027】
基板10は、例えば、可撓性を有し、第1圧電体30および第2圧電体50の動作によって変形(屈曲)する振動板であってもよい。この場合、圧電素子100は、振動板と、第1電極20と、第1圧電体30と、低密度領域40と、第2圧電体50と、第2電極60と、を含む圧電アクチュエーター102となる。したがって、以下の説明においては、圧電素子100を圧電アクチュエーター102と読み替えることもできる。基板10が振動板である場合は、基板10の材質としては、例えば、単結晶シリコン上に酸化シリコン(SiO)と酸化ジルコニウム(ZrO)とを積層したものを用いることができる。
【0028】
第1電極20は、基板10上に形成されている。図示の例では、第1電極20の側面22は、基板10の上面12に対して第2角度βで傾いている。第2角度βは、鋭角であり、例えば、15度〜40度である。第1電極20の材質としては、例えば、白金、イリジウム、それらの導電性酸化物、ランタンニッケル酸化物(LaNiO:LNO)などを例示することができる。第1電極20は、前述の例示した材料の単層構造でもよいし、複数の材料を積層した構造であってもよい。第1電極20の厚さは、例えば、50nm〜300nmである。第1電極20は、第1圧電体30および第2圧電体50に電圧を印加するための一方の電極である。
【0029】
なお、図示はしないが、第1電極20と基板10との間には、例えば、第1中間層が形成されていてもよい。第1中間層としては、例えば、チタン層などを用いることができる。第1中間層によって、第1電極20と基板10との密着性を向上させることができる。すなわち、第1中間層は、密着層ともいえる。
【0030】
第1圧電体30は、第1電極20上に形成されている。第1圧電体30の側面32は、基板10の上面12に対して第1角度αで傾いている。第1角度αは、第2角度βより大きな鋭角であり、例えば、45度〜75度である。第1圧電体30としては、ペロブスカイト型酸化物の圧電材料を用いることができる。より具体的には、第1圧電体30としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O:PZT)、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O:PZTN)などを用いることができる。第1圧電体30の厚さは、例えば、50nm〜300nmである。
【0031】
低密度領域40は、第1圧電体30の側方に形成されている。図示はしないが、低密度領域40は、第1電極20の側方に形成されていてもよい。図示の例では、低密度領域40は、第1圧電体30の側面32と第1電極20の側面22との接続部Pに接して形成されている。低密度領域40の数および形状は、特に限定されない。低密度領域40の密度は、第1圧電体30および第2圧電体50の密度より小さい。低密度領域40は、空隙(ボイド)を有し、そのために、第1圧電体30および第2圧電体50の密度より小さい密度を有していてもよい。低密度領域40の材質は、特に限定されない。低密度領域40は、アモルファス状であってもよい。低密度領域40は、多孔質性(ポーラス状)であってもよい。低密度領域40の誘電率は、第1圧電体30および第2圧電体50の誘電率より小さくてもよい。低密度領域40のグレインサイズは、第1圧電体30および第2圧電体50のグレインサイズより小さくてもよい。
【0032】
第2圧電体50は、第1圧電体30および低密度領域40を覆って形成されている。第2圧電体50の幅(厚み方向と直交する方向の長さ)は、少なくとも、第1圧電体30の幅より大きい。第2圧電体50は、例えば、第1圧電体30と同じ材質であってもよい。第2圧電体50の厚さは、例えば、第1圧電体30の厚さより大きく、300〜3000nmである。
【0033】
第1圧電体30および第2圧電体50は、電極20,60によって電界が印加されることで変形(駆動)することができる。基板10として振動板を用いる場合、この変形により基板10は、振動することができる。第1圧電体30および第2圧電体50のうち、第1電極20と第2電極60とに挟まれている領域(平面視において、第1電極20と第2電極60とが重複している領域)は、第1圧電体30および第2圧電体50の実質的な駆動部といえる。したがって、第1圧電体30の側面32は、駆動部の端部ともいえる。
【0034】
なお、図示はしないが、第2圧電体50と、第1圧電体30、第1電極20および基板10と、の間には、例えば、第2中間層が形成されていてもよい。第2中間層としては、例えば、チタン層などを用いることができる。第2中間層によって、その上に形成される第2圧電体50の結晶の配向を制御することができる。すなわち、第2中間層は、配向制御層ともいえる。
【0035】
第2電極60は、第2圧電体50上に形成されている。図示の例では、第2電極60は、第2圧電体50の上面に形成されているが、さらに、第2圧電体50の側面および基板10の上面12に形成されていてもよい。第2電極60の材質としては、例えば、上述の第1電極30として例示した材質を用いることができる。第2電極60の厚さは、例えば、50nm〜300nmである。第2電極60は、第1圧電体30および第2圧電体50に電圧を印加するための他方の電極である。
【0036】
本実施形態に係る圧電素子100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0037】
圧電素子100によれば、第1圧電体30の側方には、低密度領域40が形成されている。低密度領域40の密度は、第1圧電体30および第2圧電体50の密度より小さい。これにより、第1圧電体30の側面32近傍の応力を緩和することができる。すなわち、低密度領域40が形成されない場合は、例えば、実質的な駆動部の端部となる電極20,60に挟まれた第1圧電体30および第2圧電体50と、電極20,60に挟まれていない第2圧電体50と、の間で応力が集中し、第1圧電体30および第2圧電体50にクラックが発生することがあるが、本実施形態によれば、低密度領域40によって、この応力を緩和することができる。したがって、圧電素子100では、クラックの発生を抑制でき、高い信頼性を有することができる。
【0038】
圧電素子100によれば、低密度領域40は、空隙を有することができる。これにより、確実に低密度領域40の密度を第1圧電体30および第2圧電体50の密度より小さくすることができ、いっそう応力を緩和することができる。また、空隙によって低誘電率層ができるため、低密度領域40の上方の第2圧電体50にかかる電圧が低下し、実質、駆動量が小さい圧電体となる。すなわち、第1電極20の側面22の近傍と第2電極60に挟まれた、駆動量が小さい第2圧電体50と、電極20,60に挟まれていない、駆動しない第2圧電体50と、の間の応力集中をより緩和することができる。
【0039】
圧電素子100によれば、第2角度βは、第1角度αより小さい。すなわち、第1電極20の側面22は、なだらかであるため、第1電極20の端部における電界集中を緩和することができる。よって、絶縁破壊(焼損)を抑制することができる。
【0040】
2. 圧電素子の製造方法
次に、本実施形態に係る圧電素子100の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図2〜図6は、本実施形態に係る圧電素子100の製造工程を模式的に示す断面図である。
【0041】
図2に示すように、基板10上に、第1電極層20aを成膜する。第1電極層20aは、例えば、スパッタ法、めっき法、真空蒸着法などにより形成される。次に、第1電極層20a上に、第1圧電体層30aを成膜する。第1圧電体層30aは、結晶化されていてもよい。第1圧電体層30aは、公知の方法で成膜されることができ、例えば、ゾルゲル法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、MOD(Metal Organic Deposition)法、スパッタ法、レーザーアブレーション法などにより形成される。また、必要に応じて、熱処理を行い、結晶化を行う。熱処理は、例えば、酸素雰囲気中において、500〜800度で行われる。また、第1圧電体層30aの結晶化は、第1圧電体層30aおよび第1電極層22aのパターニング後に行っても良い。
【0042】
図3に示すように、第1圧電体層30aをパターニングして、第1圧電体30を形成する。パターニングは、例えば、フォトリソグラフィー技術およびエッチング技術によって行われる。エッチングは、例えば、ICP(Inductively Coupled Plasma)のような高密度プラズマ装置を用いたドライエッチングにより行うことができる。該高密度プラズマ装置(ドライエッチング装置)において、1.0Pa以下の圧力に設定すると良好にエッチングを行うことができる。エッチングガスとしては、例えば、塩素系ガスとフロン系ガスとの混合ガス(以下、「第1混合ガス」ともいう)を用いることができる。第1混合ガスを用いると、第1圧電体30のエッチング速度を200nm/min以上と大きくすることができ、レジスト選択比を約1.0と大きくすることができる。また、第1圧電体30は、特に塩素ガスとの反応性が高く、パターニングの際にマスクとなるレジスト(図示せず)は、第1混合ガスに対して後退速度(第1圧電体30の厚み方向と直交する方向へのエッチング速度)が小さい。そのため、第1混合ガスにおいて、塩素系ガスの流量比を、例えば、40%〜70%とすると、第1角度α(第1圧電体30の側面32の、基板10の上面12に対する傾き角)を、45度〜75度とすることができる。
【0043】
図4に示すように、第1電極層20aをパターニングして、第1電極20を形成する。パターニングは、例えば、フォトリソグラフィー技術およびエッチング技術によって行われる。エッチングは、例えば、ICPのような高密度プラズマ装置を用いたドライエッチングにより行うことができる。エッチングガスとしては、例えば、塩素系ガスとアルゴン系ガスとの混合ガス(以下、「第2混合ガス」ともいう)を用いることができる。エッチングにおいて、レジスト(図示せず)および第1圧電体30の後退速度を制御することにより、第2角度β(第1電極20の側面22の、基板10の上面12に対する傾き角)を制御することができる。レジストおよび第1圧電体30の後退速度が、第1電極層20a(第1電極層20aの厚み方向と直交する方向へのエッチング速度)より大きくなるほど、第2角度βは小さくなる。レジストおよび第1圧電体30の後退速度は、第2混合ガスにおける塩素ガスの流量比や、圧力によって制御することができる。例えば、第2混合ガスの塩素ガスの流量比を60%〜80%、圧力を0.3Pa〜1.0Paとすることにより、第2角度βを15度〜40度とすることができる。
【0044】
例えば、第1電極層20aとして、Pt層(下層)と、Pt層上に形成されたLNO層(上層)と、の積層体を用いた場合は、LNO層は、Pt層に比べて第2混合ガスに対するエッチング速度が小さいため、後退速度も小さく、それに伴い下層のPt層の後退速度も小さくなる。これにより、第1電極層20aの後退速度は、レジストおよび第1圧電体30の後退速度よりさらに遅くなり、第2角度βをより小さくすることができる。
【0045】
図5に示すように、第1圧電体30および第1電極20を覆うように、第2前駆体層52aを成膜する。第2前駆体層52aは、例えば、第1圧電体層30aと同じ方法で成膜される。このとき、第2前駆体層52aは、結晶化されていない、または、一部のみ結晶化されている。
【0046】
図6に示すように、第2前駆体層52aを結晶化させるために、熱処理を行う。熱処理は、例えば、酸素雰囲気中において、500〜800度で行われる。これにより、第2前駆体層52aは、結晶化して第2圧電体層50aとなる。この熱処理工程において、第1圧電体30の側面32付近から成長した第2圧電体層50aのグレインは、はじめ第1圧電体30の側面32と垂直な方向へ成長し、徐々に基板10に垂直な方向に成長する、柱状構造となる。一方、第1電極20の側面22付近から成長した第2圧電体層50aのグレインは、はじめ第1電極20の側面22と垂直な方向へ成長し、徐々に基板10に垂直な方向へ成長する、柱状構造となる。このため、これらの部分のグレインは、初期の成長方向が異なるので、ぶつかる部分(衝突部分)が発生し、この衝突部分に低密度領域40が発生する。例えば、衝突部分(低密度領域40)では、第2圧電体層50aの柱状構造のグレインが大きく成長することができず、小さいグレインとなり、そのためにグレイン同士に隙間が生まれ、結果として第1圧電体30および第2圧電体層50aより密度が小さくなる。また、例えば、衝突部分(低密度領域40)では、グレインが大きな柱状構造を保とうとし、それを補填するために大きな空隙が形成され、結果として第1圧電体30および第2圧電体層50aより密度が小さくなる。低密度領域40は、第2圧電体層50aのグレインの成長方向(柱状構造の方向)の違いが大きいほど発生しやすい。すなわち、第1角度αと第2角度βとの差が大きいほど発生しやすい。また、熱処理により体積が大きく収縮するゾルゲル法やMOD法を使用すると、より好適に低密度領域40を形成できる。
【0047】
次に、図示はしないが、第2圧電体層50a上に第2電極層を成膜する。第2電極層は、例えば、第1電極層20aと同じ方法で形成される。
【0048】
図1に示すように、第2電極層および第2圧電体層50aをパターニングして、第2電極60および第2圧電体50を形成する。パターニングは、例えば、フォトリソグラフィー技術およびエッチング技術によって行われる。第2電極層および第2圧電体層50aのパターニングは、一括で行われてもよいし、個別に行われてもよい。
【0049】
なお、第2前駆体層52aを結晶化させるために熱処理を行う工程は、第2電極層を成膜する工程の後に行うこともできる。また、パターニングによって第2電極60および第2圧電体50を形成する工程の後に行ってもよい。
【0050】
以上の工程により、圧電素子100を製造することができる。
【0051】
圧電素子100の製造方法によれば、上述のとおり、低密度領域40によって、応力を緩和することができる信頼性の高い圧電素子を得ることができる。
【0052】
3. 液体噴射ヘッド
次に、本発明に係る圧電素子が圧電アクチュエーターとして機能している液体噴射ヘッド200について、図面を参照しながら説明する。図7は、液体噴射ヘッド200の要部を模式的に示す断面図である。図8は、液体噴射ヘッド200の分解斜視図であり、通常使用される状態とは上下を逆に示したものである。
【0053】
液体噴射ヘッド200は、本発明に係る圧電素子を有する。以下の例では、本発明に係る圧電素子として圧電素子100を有する液体噴射ヘッド200について説明する。なお、上述のとおり、圧電素子100が圧電アクチュエーター102として機能する場合、基板10は、可撓性を有し、第1圧電体30および第2圧電体50の動作によって変形する振動板となることができる。
【0054】
液体噴射ヘッド200は、図7および図8に示すように、ノズル孔212が形成されたノズル板210と、流路222を形成するための流路基板220と、圧電素子100(圧電アクチュエーター102)と、を含む。さらに、液体噴射ヘッド200は、図8に示すように、筐体230を有することができる。なお、図8では、圧電素子100の積層体110(第1電極20、第1圧電体30、低密度領域40、第2圧電体50および第2電極60を含む積層体110)を簡略化して図示している。
【0055】
ノズル板210には、図7および図8に示すように、ノズル孔212が形成されている。ノズル孔212からは、インクが吐出されることができる。ノズル板210には、例えば、多数のノズル孔212が一列に設けられている。ノズル板220の材質としては、例えば、シリコン、ステンレス鋼(SUS)などを列挙することができる。
【0056】
流路基板220は、ノズル板210上(図8の例では下)に設けられている。流路基板220の材質としては、例えば、シリコンなどを例示することができる。流路基板220がノズル板210と基板10との間の空間を区画することにより、図8に示すように、マニホールド(例えば液体貯留部ともいえる)224と、マニホールドと連通する流路222(例えば圧力室ともいえる)と、が設けられている。すなわち、マニホールド224および流路222は、ノズル板210と流路基板220と基板10とによって区画されている。例えば、図8に示すように、マニホールド224と流路222とは、供給口226を介して、連通していてもよい。マニホールド224は、外部(例えばインクカートリッジ)から、基板10に設けられた貫通孔228を通じて供給されるインクを一時貯留することができる。マニホールド224内のインクは、流路222に供給されることができる。流路222は、基板10の変形により容積が変化する。流路222はノズル孔212と連通しており、圧力室222の容積変化によって、ノズル孔212からインクが吐出される。流路222は、圧電素子100に対応して設けられていることができる。
【0057】
圧電素子100は、流路基板220上(図8の例では下)に設けられている。積層体110は、圧電素子駆動回路(図示せず)に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて動作(振動、変形)することができる。基板10は、積層体110(第1圧電体30および第2圧電体50)の動作によって変形し、流路222の内部圧力を瞬間的に高めることができる。
【0058】
筐体230は、図8に示すように、ノズル板210、流路基板220および圧電素子100を収納することができる。筐体230の材質としては、例えば、樹脂、金属などを列挙することができる。
【0059】
液体噴射ヘッド200によれば、圧電素子100を有することができる。そのため、液体噴射ヘッド200は、高い信頼性を有することができる。
【0060】
なお、上述した例では、液体噴射ヘッド200がインクジェット式記録ヘッドである場合について説明した。しかしながら、本発明の液体噴射ヘッドは、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドなどとして用いられることもできる。
【0061】
4. 液体噴射装置
次に、本実施形態に係る液体噴射装置300について、図面を参照しながら説明する。図9は、液体噴射装置300を模式的に示す斜視図である。液体噴射装置300は、本発明に係る液体噴射ヘッドを有する。以下では、液体噴射装置300がインクジェットプリンターである場合について説明する。
【0062】
液体噴射装置300は、図9に示すように、ヘッドユニット330と、駆動部310と、制御部360と、を含む。さらに、液体噴射装置300は、装置本体320と、給紙部350と、記録用紙Pを設置するトレイ321と、記録用紙Pを排出する排出口322と、装置本体320の上面に配置された操作パネル370と、を含むことができる。
【0063】
ヘッドユニット330は、例えば、上述した液体噴射ヘッド200から構成されるインクジェット式記録ヘッド(以下単に「ヘッド」ともいう)を有する。ヘッドユニット330は、さらに、ヘッドにインクを供給するインクカートリッジ331と、ヘッドおよびインクカートリッジ331を搭載した運搬部(キャリッジ)332と、を備える。
【0064】
駆動部310は、ヘッドユニット330を往復動させることができる。駆動部310は、ヘッドユニット330の駆動源となるキャリッジモーター341と、キャリッジモーター341の回転を受けて、ヘッドユニット330を往復動させる往復動機構342と、を有する。
【0065】
往復動機構342は、その両端がフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸344と、キャリッジガイド軸344と平行に延在するタイミングベルト343と、を備える。キャリッジガイド軸344は、キャリッジ332が自在に往復動できるようにしながら、キャリッジ332を支持している。さらに、キャリッジ332は、タイミングベルト343の一部に固定されている。キャリッジモーター341の作動により、タイミングベルト343を走行させると、キャリッジガイド軸344に導かれて、ヘッドユニット330が往復動する。この往復動の際に、ヘッドから適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
【0066】
なお、本実施形態では、液体噴射ヘッド200および記録用紙Pがいずれも移動しながら印刷が行われる例を示しているが、本発明の液体噴射装置は、液体噴射ヘッド200および記録用紙Pが互いに相対的に位置を変えて記録用紙Pに印刷される機構であってもよい。また、本実施形態では、記録用紙Pに印刷が行われる例を示しているが、本発明の液体噴射装置によって印刷を施すことができる記録媒体としては、紙に限定されず、布、フィルム、金属など、広範な媒体を挙げることができ、適宜構成を変更することができる。
【0067】
制御部360は、ヘッドユニット330、駆動部310および給紙部350を制御することができる。
【0068】
給紙部350は、記録用紙Pをトレイ321からヘッドユニット330側へ送り込むことができる。給紙部350は、その駆動源となる給紙モーター351と、給紙モーター351の作動により回転する給紙ローラー352と、を備える。給紙ローラー352は、記録用紙Pの送り経路を挟んで上下に対向する従動ローラー352aおよび駆動ローラー352bを備える。駆動ローラー352bは、給紙モーター351に連結されている。制御部360によって供紙部350が駆動されると、記録用紙Pは、ヘッドユニット330の下方を通過するように送られる。
【0069】
ヘッドユニット330、駆動部310、制御部360および給紙部350は、装置本体320の内部に設けられている。
【0070】
液体噴射装置300によれば、液体噴射ヘッド200を有することができる。そのため、液体噴射装置300は、高い信頼性を有することができる。
【0071】
なお、上記例示した液体噴射装置は、1つの液体噴射ヘッドを有し、この液体噴射ヘッドによって、記録媒体に印刷を行うことができるものであるが、複数の液体噴射ヘッドを有してもよい。液体噴射装置が複数の液体噴射ヘッドを有する場合には、複数の液体噴射ヘッドは、それぞれ独立して上述のように動作されてもよいし、複数の液体噴射ヘッドが互いに連結されて、1つの集合したヘッドとなっていてもよい。このような集合となったヘッドとしては、例えば、複数のヘッドのそれぞれのノズル孔が全体として均一な間隔を有するような、ライン型のヘッドを挙げることができる。
【0072】
以上、本発明にかかる液体噴射装置の一例として、インクジェットプリンターとしてのインクジェット記録装置を説明したが、本発明にかかる液体噴射装置は、工業的にも利用することができる。この場合に吐出される液体(液状材料)としては、各種の機能性材料を溶媒や分散媒によって適当な粘度に調整したものなどを用いることができる。本発明の液体噴射装置は、例示したプリンター等の画像記録装置以外にも、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射装置、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)、電気泳動ディスプレイ等の電極やカラーフィルターの形成に用いられる液体材料噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機材料噴射装置としても好適に用いられることができる。
【0073】
上記のように、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。したがって、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0074】
10 基板、12 基板の上面、20 第1電極、20a 第1電極層、
22 第1電極の側面、30 第1圧電体、32 第1圧電体の側面、
40 低密度領域、50 第2圧電体、50a 第2圧電体層、52a 第2前駆体層、
60 第2電極、100 圧電素子、102 圧電アクチュエーター、110 積層体、
200 液体噴射ヘッド、210 ノズル板、212 ノズル孔、220 流路基板、
222 流路、224 マニホールド、226 供給口、228 貫通孔、
230 筐体、300 液体噴射装置、310 駆動部、320 装置本体、
321 トレイ、322 排出口、330 ヘッドユニット、
331 インクカートリッジ、332 キャリッジ、341 キャリッジモーター、
342 往復動機構、343 タイミングベルト、344 キャリッジガイド軸、
350 給紙部、351 給紙モーター、352 給紙ローラー、
352a 従動ローラー、352b 駆動ローラー、360 制御部、
370 操作パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上方に形成された第1電極と、
前記第1電極の上方に形成された第1圧電体と、
前記第1圧電体の側方に形成され、前記第1圧電体の密度より小さい密度を有する低密度領域と、
前記第1圧電体および前記低密度領域を覆って形成された第2圧電体と、
前記第2圧電体の上方に形成された第2電極と、
を含む、圧電素子。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1圧電体の側面は、前記基板の上面に対して、第1角度で傾いており、
前記第1電極の側面は、前記基板の上面に対して、第2角度で傾いており、
前記第1角度は、前記第2角度より大きい、圧電素子。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記低密度領域は、空隙を有する、圧電素子。
【請求項4】
基板上に第1電極層を成膜する工程と、
前記第1電極層の上方に第1圧電体層を成膜する工程と、
前記第1圧電体層をパターニングして、第1圧電体を形成する工程と、
前記第1圧電体層を形成する工程に続いて、前記第1電極層をエッチングして、第1電極を形成する工程と、
前記第1圧電体および前記第1電極を覆うように、第2前駆体層を成膜する工程と、
熱処理を行い、前記第2前駆体層を結晶化させて第2圧電体層とする工程と、
前記第2圧電体層の上方に第2電極層を成膜する工程と、
前記第2圧電体層および前記第2電極層をパターニングして、前記第1圧電体および前記第1電極を覆う第2圧電体および第2電極を形成する工程と、
を含み、
前記第1圧電体を形成する工程では、前記第1圧電体の側面を、前記基板の上面に対して第1角度で傾くように形成し、
前記第1電極を形成する工程では、前記第1電極の側面を、前記基板の上面に対して第2角度で傾くように形成し、
前記第1角度は、前記第2角度より大きい、圧電素子の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記熱処理によって、前記第1圧電体の側方には、前記第1圧電体の密度より小さい密度を有する低密度領域が形成される、圧電素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の圧電素子を含む、圧電アクチュエーター。
【請求項7】
請求項6に記載の圧電アクチュエーターを含む、液体噴射ヘッド。
【請求項8】
請求項7に記載の液体噴射ヘッドを含む、液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−121179(P2011−121179A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278267(P2009−278267)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】