説明

圧電素子およびその製造方法

【課題】製作工程を複雑化することなく、アクチュエータ表面の破壊による不良を防止することのできる圧電素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】矩形に形成され、電圧の印加により伸縮する積層型の圧電素子100であって、圧電層112と内部電極111とが交互に積層された素子本体110と、内部電極111に接続し、積層方向に沿って素子本体110の側面に設けられた外部電極114と、固着により外部電極114に接続された金属製板状のリード部材130と、素子本体110のリード部材130より積層方向端部側で外周に接して設けられ、積層面に沿って形成された応力緩和層113とを備える。これにより、圧電素子100の表面115がリード部材130によって引っ張られた際に、応力緩和層113が広がるように圧電素子110が変形し、表面115に発生する引張応力を軽減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、矩形に形成され、電圧の印加により伸縮する積層型の圧電素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層型圧電アクチュエータは、内部電極が重なっている部分、すなわち活性部のみが圧電効果を有し変位する。図3は、従来の積層型圧電アクチュエータ300を示す断面図である。積層型圧電アクチュエータ300は、アクチュエータ本体310、半田320およびリード線330を有しており、素子本体310は、内部に内部電極311、側面に外部電極314を有している。従来は、図3に示すように不活性部が活性部に引っ張られて変位し、その変位は不活性部自体が圧電効果で変形しないため微小であった。なお、両端の内部電極311の間で積層方向に内部電極311が重なっている領域、すなわち電圧の印加により変形する領域を活性領域と呼ぶ。また、その他の周囲の領域、すなわち電圧の印加によっても変形しない領域を不活性領域と呼ぶ。また、両端の内部電極より端部側の不活性領域を保護層と呼ぶ。
【0003】
このような積層型圧電アクチュエータには、電圧印加時に内部電極付近に応力が発生することが知られている。この応力は、積層型圧電アクチュエータの耐久性に悪影響を与えるため、内部電極層間で積層方向に内部電極が重ならない部分すなわち不活性部に、応力緩和部として空乏層(スリット)を設け応力を緩和する技術が開発されている。たとえば特許文献1記載の圧電アクチュエータは、スリットを設けることで不良品発生率の減少や生産コストの低減等を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−267646号公報
【特許文献2】特開2010−74033号公報
【特許文献3】特開2010−98026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のようなスリットを設けた積層型圧電アクチュエータでは、不活性部のスリットにより、不活性部が活性部に追従しやすい。また、不活性部の変位が従来の積層型圧電アクチュエータの変位より大きい。これにより、外部電極の疲労破壊防止用に埋め込まれたリード線、およびリード線を取り付けている半田によってアクチュエータ表面に発生していた引張応力が増加し、アクチュエータ表面の破壊による不良が増加している。図4は、従来の積層型圧電アクチュエータ400を示す断面図である。積層型圧電アクチュエータ400は、アクチュエータ本体410、半田420およびリード線430を有しており、素子本体410は、内部に内部電極411およびスリット413、側面に外部電極414が設けられている。
【0006】
これに対し、外部電極414の疲労破壊の防止およびアクチュエータの表面415に発生する引張応力の低下を目的として、外部電極414がアクチュエータ400の駆動に合わせて変形する構造(特許文献2参照)や、リード線430を直接ではなく、複数本の金属線を介して外部電極414に接続する構造(特許文献3参照)等が提案されている。しかしながら、このような構造を有するアクチュエータは、形状の複雑さのために製品の組み上げが困難であり、積層型圧電アクチュエータを規定のケース内に設置する製品を製作する場合には、難儀な製作過程を強いられる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、製作工程を複雑化することなく、アクチュエータ表面の破壊による不良を防止することのできる積層型圧電アクチュエータを構成する圧電素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の圧電素子は、矩形に形成され、電圧の印加により伸縮する積層型の圧電素子であって、圧電層と内部電極とが交互に積層された素子本体と、前記内部電極に接続し、積層方向に沿って前記素子本体の側面に設けられた外部電極と、固着により前記外部電極に接続された金属製板状のリード部材と、前記素子本体の前記リード部材より積層方向端部側で外周に接して設けられ、積層面に沿って形成された応力緩和層とを備えることを特徴としている。
【0009】
このように、本発明の圧電素子では、積層面に沿って形成された応力緩和層がリード部材より積層方向端部側で外周に接して設けられている。これにより、圧電素子の表面がリード部材によって引っ張られた際に、応力緩和層が広がるように圧電素子が変形し、表面に発生する引張応力を軽減できる。その結果、表面の破壊による不良を防止できる。また、応力緩和層とリード部材との位置関係で引張応力を軽減する構成であるため、製品として組み上げるのが容易であり、製作工程を複雑化することがない。
【0010】
(2)また、本発明の圧電素子は、前記応力緩和層が、前記素子本体の前記内部電極より積層方向端部側に設けられていることを特徴としている。これにより、応力緩和層が変形に対して不活性な保護層に位置することになり、リード部材および外部電極が疲労破壊した場合でも、導通が取れない部分が形成されるのを防止できる。
【0011】
(3)また、本発明の圧電素子は、前記リード部材から前記応力緩和層までの距離が、0.1mm以上0.3mm以下であることを特徴としている。このように、リード部材から応力緩和層までの距離が0.3mm以下であるため、引張応力のほとんどを応力緩和層の変形によって緩和することが可能であり、引張応力の軽減をより顕著にできる。一方、リード部材から応力緩和層までの距離が0.1mm以上であるため、実際の製作が容易となる。
【0012】
(4)また、本発明の圧電素子は、前記リード部材の厚みが、0.1mm以上0.15mm以下であることを特徴としている。これにより、圧電素子の駆動により、応力緩和層の位置でリード部材を自己破断させることができる。
【0013】
(5)また、本発明の圧電素子の製造方法は、電圧の印加により伸縮する積層型の圧電素子の製造方法であって、圧電層と内部電極とが交互に積層され、積層方向端部付近で外周に接し、積層面に沿った応力緩和層を有する素子本体を形成する工程と、前記応力緩和層より積層方向中央側で、前記素子本体の側面に積層方向に沿って、前記内部電極に接続された外部電極を形成する工程と、金属製板状のリード部材を、前記応力緩和層に重なるように前記外部電極に固着させる工程と、前記リード部材を前記応力緩和層の位置で疲労破壊させる工程と、を含むことを特徴としている。
【0014】
このように、本発明の圧電素子の製造方法では、最端の応力緩和層を跨ぐ形でリード部材を配置し、圧電素子の連続駆動により疲労破壊させて、リード部材から応力緩和層までの距離をゼロに近い状態を作り出すことが可能である。この場合、既存の寸法の範囲で製作可能であり、外観の大幅な変更を要しない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、圧電素子の表面に発生する引張応力を軽減でき、表面の破壊による不良を防止できる。また、製品として組み上げるのが容易であり、製作工程を複雑化することがない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の圧電素子を示す断面図である。
【図2】本発明の圧電素子を示す拡大断面図である。
【図3】従来の圧電素子を示す断面図である。
【図4】従来の圧電素子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0018】
(圧電素子の構成)
図1は、圧電素子100を示す断面図である。圧電素子100は、積層型で矩形に形成され、電圧の印加により伸縮する。圧電素子100は、たとえば圧電アクチュエータである。図1に示すように、圧電素子100は、素子本体110、外部電極114、接続層120、リード部材130および応力緩和層113を備える。素子本体110は、圧電層112と内部電極111とが交互に積層されている。
【0019】
外部電極114は、内部電極111に接続し、積層方向に沿って素子本体110の側面に設けられている。接続層120は、たとえば半田で形成され、外部電極114とリード部材130とを接続する。接続層120としての半田の厚みに関しては、小さいほうが好ましい。素子変位時に発生する応力が小さくなり負担が減るためである。
【0020】
リード部材130は、金属製板状に形成され、固着により外部電極114に接続されている。リード部材130は、リン青銅、銅、SUS等の金属により形成されている。応力緩和層113は、素子本体110のリード部材130より積層方向端部側で外周に接して設けられ、積層面に沿って形成されている。これにより、圧電素子100の表面115(端面)がリード部材130によって引っ張られた際に、応力緩和層113が広がるように圧電素子100が変形し、表面115に発生する引張応力を軽減できる。
【0021】
その結果、表面115の破壊による不良を防止できる。また、応力緩和層113とリード部材130との位置関係で引張応力を軽減する構成であるため、製品として組み上げるのが容易であり、製作工程を複雑化することがない。応力緩和層113は、たとえば空乏層(スリット)で形成されるが、上記の効果を有するものであれば圧電体より弾性の小さい材料で形成されていてもよい。
【0022】
また、応力緩和層113は、素子本体の内部電極111より積層方向端部側、すなわち保護層内に設けられていることが好ましい。これにより、応力緩和層113が変形に対して不活性な保護層に位置することになり、リード部材130および外部電極114が疲労破壊した場合でも、導通が取れない部分が形成されるのを防止できる。
【0023】
なお、素子本体110のリード部材より積層方向中心側に他の応力緩和層が形成されている方が、応力緩和層113が効果的に機能する。他の応力緩和層により不活性領域の応力が緩和されるとともに表面115の応力は大きくなる。応力緩和層113は、この表面115の応力を緩和することができる。
【0024】
図2は、圧電素子100を示す拡大断面図である。図2に示すように、応力緩和層113の位置は、圧電素子100に設けられるリード部材130および半田の端点より外側(圧電素子の端側)に配置する。応力緩和層113を外部電極114の端より中心側に配置した場合、リード部材130および外部電極114の疲労破壊によって導通が取れない部分が形成される可能性がある。これを避けるため、応力緩和層113は保護層内に配置することが望ましい。図2に示す配置により、圧電素子100の表面115がリード部材130および半田によって引っ張られた際に、応力緩和層113が広がるように変形し、表面115に発生する引張応力を軽減することができる。
【0025】
圧電素子100が駆動した際には応力緩和層113が広がるように変形し、表面115に発生する引張応力の軽減が可能であるものの、応力緩和層113の端点からリード部材130および接続層120の端点までの距離Aの存在により表面115に引張応力が発生する。距離Aが極端に小さくなった状態では、引張応力のほとんどを応力緩和層113の変形によって緩和することが可能である。距離Aが0mmである場合には、最も引張応力を軽減することができるが、実際に距離Aを0mmとすることは製作上困難である。
【0026】
このような事情を考慮すれば、リード部材130から応力緩和層113までの距離Aは、0.1mm以上0.3mm以下であることが好ましい。距離Aを0.3mm以下にすることで、引張応力のほとんどをスリットの変形によって緩和することが可能であり、引張応力の軽減をより顕著にできる。一方、リード部材130から応力緩和層113までの距離を0.1mm以上にすることで、実際の製作が容易となる。
【0027】
(圧電素子の製造方法)
まず、圧電層112と内部電極111とが交互に積層された素子本体110を形成する。このとき、積層方向端部付近で外周に接し、積層面に沿った応力緩和層113を形成する。具体的には、圧電セラミックスのグリーンシートにAgやAg/Pd等の電極ペーストを印刷して積層、圧着し、焼成することで素子本体を得ることができる。電極ペーストの印刷の際には、焼結しない材料を応力緩和層113の位置に印刷しておく。焼成後に焼結しない材料が消失することで、スリット状の応力緩和層113を形成することができる。
【0028】
次に、応力緩和層113より積層方向中央側で、素子本体110の側面に積層方向に沿って、内部電極111に接続された外部電極114を形成する。たとえば、素子本体110の側面に電極ペーストを印刷して焼成することで外部電極114を形成できる。
【0029】
次に、金属製板状のリード部材130を、応力緩和層113に重なるように外部電極114に固着させる。予め所定の寸法を有するリード部材130を用意し、たとえば半田で取り付けることができる。リード部材130の材料には、リン青銅を用い、リード部材130の厚みは、0.1mm以上0.15mm以下とすることが好ましい。リン青銅製のリード部材については、厚みを0.1mm以上にすることでリード部材の形状を保つことができ、一方、0.15mm以下である場合に自己破断を確認できたためである。
【0030】
あらかじめ応力緩和層113が、素子本体110のリード部材130より積層方向端部側で外周に接して設けられるように設計されている場合には、これで圧電素子100の製作は終了する。最端の応力緩和層113を跨ぐ形でリード部材130を配置する場合には、さらにリード部材130を応力緩和層113の位置で疲労破壊させる。疲労破壊は圧電素子100の連続駆動により行うことができる。これにより、リード部材130から応力緩和層113までの距離をゼロに近い状態を作り出すことが可能である。この場合、既存の寸法の範囲で製作可能であり、外観の大幅な変更を要しない。
【符号の説明】
【0031】
100 圧電素子
110 素子本体
111 内部電極
112 圧電層
113 応力緩和層
114 外部電極
115 表面
120 接続層(半田)
130 リード部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形に形成され、電圧の印加により伸縮する積層型の圧電素子であって、
圧電層と内部電極とが交互に積層された素子本体と、
前記内部電極に接続し、積層方向に沿って前記素子本体の側面に設けられた外部電極と、
固着により前記外部電極に接続された金属製板状のリード部材と、
前記素子本体の前記リード部材より積層方向端部側で外周に接して設けられ、積層面に沿って形成された応力緩和層と、を備えることを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
前記応力緩和層は、前記素子本体の前記内部電極より積層方向端部側に設けられていることを特徴とする請求項1記載の圧電素子。
【請求項3】
前記リード部材から前記応力緩和層までの距離が、0.1mm以上0.3mm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の圧電素子。
【請求項4】
前記リード部材の厚みは、0.1mm以上0.15mm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の圧電素子。
【請求項5】
電圧の印加により伸縮する積層型の圧電素子の製造方法であって、
圧電層と内部電極とが交互に積層され、積層方向端部付近で外周に接し、積層面に沿った応力緩和層を有する素子本体を形成する工程と、
前記応力緩和層より積層方向中央側で、前記素子本体の側面に積層方向に沿って、前記内部電極に接続された外部電極を形成する工程と、
金属製板状のリード部材を、前記応力緩和層に重なるように前記外部電極に固着させる工程と、
前記リード部材を前記応力緩和層の位置で疲労破壊させる工程と、を含むことを特徴とする圧電素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−114356(P2012−114356A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263879(P2010−263879)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)