説明

圧電素子のクラック検出方法及びその装置

【課題】圧電素子のクラックを確実に検出する。
【解決手段】一対の電極37,39間に配置され前記電極37,39を介した電圧の印加状態に応じて変形する圧電素子5のクラック検出方法であって、少なくとも前記圧電素子5に共振周波数の電圧を印加し、該電圧の印加による前記一対の電極37,39間の誘電正接を測定し、該測定された誘電正接に基づいて前記圧電素子5のクラックを検出することを特徴とする。これにより、圧電素子5の共振周波数での誘電正接がクラックの有無によって大きなピークを持つか否かで異なることから、その共振周波数での誘電正接に基づいて圧電素子5のクラックを容易且つ確実に検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧印加状態に応じて変形する圧電素子のクラック検出方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器の小型化、精密化が急速に進展し、微小距離での位置決め制御が可能なマイクロ・アクチュエータの需要が高まっている。例えば、光学系の焦点補正や傾角制御、インクジェット・プリンタ装置、磁気ディスク装置のヘッド・アクチュエータ等の技術分野での要請がある。
【0003】
磁気ディスク装置では、単位長さあたりのトラック数 (TPI : Track Per inch)を増大して記憶容量を大きくしているため、トラックの幅が益々狭くなっている。
【0004】
このため、トラック幅方向の磁気ヘッド位置決め精度の向上が必要となり、微細領域で高精度の位置決めが可能なアクチュエータが望まれていた。
【0005】
こうした要請に応える技術としては、例えば特許文献1のように、いわゆるデュアル・アクチュエータ方式のヘッド・サスペンションがある。このヘッド・サスペンションは、キャリッジを駆動するボイス・コイル・モータの他に、ベース・プレートとロード・ビームとの間に圧電素子を有する圧電アクチュエータが設けられている。
【0006】
従って、デュアル・アクチュエータ方式のヘッド・サスペンションでは、ボイス・コイル・モータによる旋回駆動に加え、圧電素子の電圧印加状態に応じた変形によりロード・ビームを介して先端のヘッド部をスウェイ方向へ微少移動させることができる。これにより、磁気ヘッドの位置決めを高精度に行うことができる。
【0007】
こうしたヘッド・サスペンションでは、磁気ディスク装置の小型化等に伴って薄型化も要求され、これに応じて圧電素子の薄型化も要求されている。
【0008】
薄型の圧電素子は、その生産時やヘッド・サスペンションへの組付け時等の外力によってマイクロ・クラックが生じやすい。マイクロ・クラックが生じた圧電素子は、長期信頼性の低下が懸念されるため、不良品として廃棄される必要がある。
【0009】
しかしながら、マイクロ・クラックは、一般的に実体顕微鏡による外観観察では発見が困難であり、圧電素子の表面に金メッキ等による電極が形成されることからも発見が困難である。
【0010】
しかも、マイクロ・クラックは、電気特性の測定によっても、その発見が困難である。すなわち、圧電素子は、ヘッド・サスペンションに組付けた後に例えば静電容量を測定して性能評価試験を行うが、マイクロ・クラックレベルでは静電容量に変化は見られない。
【0011】
これに対し、圧電素子のクラック検出方法としては、例えば特許文献2及び3のように、インピーダンスや位相の周波数特性のパターン比較を行うものや圧電素子の光透過性を利用するものもある。
【0012】
しかしながら、かかる検出方法は、判別が困難であり或いは現実の適用自体が困難であり、結果としてマイクロ・クラックを含めて圧電素子のクラックを確実に検出できないという問題があった。このため、従来では、いかに圧電素子にクラックを発生させないかに注力していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002-184140号公報
【特許文献2】特開平6−003305号公報
【特許文献3】特開2002−367306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
解決しようとする問題点は、圧電素子のクラックを確実に検出できない点である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、圧電素子のクラックを確実に検出するために、一対の電極間に配置され前記電極を介した電圧の印加状態に応じて変形する圧電素子のクラック検出方法であって、少なくとも前記圧電素子に共振周波数の電圧を印加し、該電圧の印加による前記一対の電極間の誘電正接を測定し、該測定された誘電正接に基づいて前記圧電素子のクラックを検出することを最も主な特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、圧電素子の共振周波数での誘電正接がクラックの有無によって大きく異なることから、その共振周波数での誘電正接に基づいて圧電素子のクラックを容易且つ確実に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】圧電素子のクラック検出装置を示す概念図である(実施例1)。
【図2】図1の圧電素子を示す斜視図である(実施例1)。
【図3】図2の圧電素子のIII−III線矢視に係る断面図である(実施例1)。
【図4】図1のクラック検出装置の概略構成を示すブロック図である(実施例1)。
【図5】圧電素子のクラック検出方法を示すフローチャートである(実施例1)。
【図6】圧電素子の誘電正接の測定値と閾値との関係を示すグラフである(実施例1)。
【図7】共振周波数に対するインピーダンス及び誘電正接の特性パターンを示すグラフであり、(a)はクラックのない圧電素子、(b)はクラックのある圧電素子である(実施例1)。
【図8】クラックのない圧電素子に係り、圧電素子の共振周波数に対する誘電正接の特性パターンを示すグラフである(実施例1)。
【図9】クラックを有する圧電素子に係り、圧電素子の共振周波数に対する誘電正接の特性パターンを示すグラフである(実施例1)。
【図10】マイクロ・クラックを有する圧電素子に係り、圧電素子の共振周波数に対する誘電正接の特性パターンを示すグラフである(実施例1)。
【図11】図8の誘電正接のピーク値を示す図表である(実施例1)。
【図12】図9の誘電正接のピーク値を示す図表である(実施例1)。
【図13】図10の誘電正接のピーク値を示す図表である(実施例1)。
【図14】クラック検出装置の概略構成を示すブロック図である(実施例2)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
圧電素子のクラックを確実に検出するという目的を、電極間の圧電素子に少なくとも共振周波数の電圧を印加し、この電圧印加による電極間の誘電正接に基づいて圧電素子のクラックを検出することによって実現した。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の実施例1に係る圧電素子のクラック検出装置を示す概念図である。
【0020】
本実施例のクラック検出装置1は、図1のように、ヘッド・サスペンション3に組み付けられた圧電素子5に対するクラックの検出を行うものである。まず、圧電素子5の一例について、ヘッド・サスペンション3の概略構成と共に説明する。
[ヘッド・サスペンション]
ヘッド・サスペンション3は、図1のように、被駆動部材としてのロード・ビーム7と、基部としてのベース・プレート9と、圧電アクチュエータ11とを備えている。
【0021】
ロード・ビーム7は、先端側のヘッド部13に負荷荷重を与えるもので、例えばばね性を有するステンレス鋼等の金属製薄板からなっている。ロード・ビーム7の板厚は、30〜150μm程度に設定される。ロード・ビーム7には、配線部材としてのフレキシャ15が取り付けられている。
【0022】
フレキシャ15は、ばね性を有する薄いステンレス鋼圧延板(SST)等の導電性薄板17に、電気絶縁層を介して配線パターン19が形成されている。配線パターン19は、信号伝送用の配線部及び給電用の配線部からなっている。配線パターン19の両端には、端子部21,23が設けられている。
【0023】
フレキシャ15の先端側には、ヘッド部13のスライダ25が支持され、スライダ25は、配線パターン19の一端側の端子部21に導通接続されている。
【0024】
前記ロード・ビーム7の基端側は、ベース・プレート9に支持されている。ベース・プレート9は、例えばステンレス鋼等の金属製薄板からなり、その板厚は、150〜200μm程度に設定される。
【0025】
ベース・プレート9には、略円形状のボス部27が設けられている。このボス部27を介して、ベース・プレート9は、図示しないキャリッジ側に取り付けられボイス・コイル・モータによって旋回駆動されるようになっている。ベース・プレート9とロード・ビーム7との間には、圧電アクチュエータ11が介設されている。
【0026】
圧電アクチュエータ11は、圧電素子5の電圧印加状態に応じた変形によりロード・ビーム7をスウェイ方向に微小駆動させるようになっている。
【0027】
圧電素子5は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電セラミックスからなり、略矩形形状に形成されている。圧電素子5の板厚は、例えば、70〜200μm程度に設定される。この圧電素子5は、ロード・ビーム7及びベース・プレート9間に形成された開口部29内に、非導電性接着剤によって取り付けられている。
【0028】
図2は、図1の圧電素子を示す斜視図、図3は、図2の圧電素子のIII−III線矢視に係る断面図である。
【0029】
圧電素子5は、図2及び図3のように、幅方向(左右方向)に並設された一対の圧電体29,31に分割形成されている。圧電体29,31は、180°異なる分極方向となっている。圧電素子5の板厚方向の両側面33,35には、電圧印加用の電極37,39が各別に形成されている。従って、圧電素子5は、電極37,39間に配置された構成となっている。
【0030】
電極37,39は、例えば、金(Au)等の導電性金属板からなる。この電極37,39は、蒸着、スパッタリング、メッキ、又は金属ペースト等によって成膜されている。
【0031】
一方の電極37は、一対の電極部41,43からなっている。電極部41,43は、圧電素子5の一側面33上で一対の圧電体29,31に対応して形成されている。各電極部は、銀ペースト等の導電性樹脂を介してロード・ビーム7側に接地されている。
【0032】
電極部41,43の相互間は、隙間45によって分離されている。一方の電極部43には、隙間45と連通する凹部47が設けられている。凹部47は、その形状によって圧電素子5の極性等を表している。
【0033】
他方の電極39は、圧電素子5の他側面35全体に形成され、一方の電極37に対する共通電極となっている。この他方の電極39は、図1のように、ボンディング・ワイヤ等によってフレキシャ15の配線パターン19に導通接続されている。
[クラック検出装置]
図4は、図1のクラック検出装置の概略構成を示すブロック図である。
【0034】
クラック検出装置1は、図1及び図4のように、測定装置49と、検出部としての処理装置51とを備えている。
【0035】
測定装置49は、例えばLCRメータからなり、表面に表示部53、操作パネル55、測定ケーブル57,59等を備えている。この測定装置49は、測定ケーブル57,59を介してフレキシャ15の配線パターン19の他端側の端子部23に接続される。測定装置49内には、電圧印加部としての測定用電源61及び測定部63が設けられている。
【0036】
測定用電源61は、測定ケーブル57,59を介して設定に応じた周波数の測定電圧を圧電素子5の電極37,39に印可する。測定電圧は、例えば500mV等に設定可能であり、周波数は、例えば100Hz〜2MHzの間で5kHz毎に変更可能となっている。
【0037】
これにより、測定用電源61は、少なくとも圧電素子5に共振周波数の電圧を印加可能な構成となっている。
【0038】
測定部63は、測定電圧を印加した際に流れる電流に基づいて圧電素子5の電極37,39間の誘電正接(tanδ)を測定する。従って、測定部63は、圧電素子5の共振周波数での電極37,39間の誘電正接を測定可能な構成となっている。この誘電正接の測定値は、処理装置51に出力される。
【0039】
処理装置51は、例えばパーソナル・コンピュータ等の情報処理装置からなり、判断部69及び記憶部71を備えている。判断部69は、CPU等からなり、記憶部71内のプログラムを実行することで構成される。
【0040】
判断部69は、測定装置49から入力された共振周波数での誘電正接の測定値を、記憶部71内に記憶された所定の閾値Tと比較する。この比較により、判断部69は、測定値が閾値Tを下回る場合に圧電素子5にクラックがあるものと判断する。判断部69の判断結果は、例えば処理装置51のモニター73に表示される。
【0041】
誘電正接の閾値Tは、クラックのない圧電素子及びクラックのある圧電素子の双方のサンプルから得られた共振周波数での誘電正接の測定値(ピーク値)間に設定する。本実施例では、閾値Tが10に設定されている。
[クラック検出方法]
図5は、本実施例の圧電素子のクラック検出方法を示すフローチャートである。
【0042】
本実施例のクラック検出方法は、クラック検出装置1を用いて、圧電素子5の共振周波数での誘電正接によってクラックを検出する。この方法で用いる圧電素子5は、延設方向の寸法が約1mm、幅方向の寸法が約1.2mm、板厚が約0.1mm、共振周波数がヘッド・サスペンション3に取り付けられた状態(圧電アクチュエータの組付状態)で約1.4MHzに設定されている。
【0043】
圧電素子5のクラック検出の際は、図1のように、予めヘッド・サスペンション3を図示しないステージ等の所定位置に設置し、クラック検出装置1の測定ケーブル57,59をフレキシャ15の配線パターン19の他端側の端子部23に接続しておく。この状態で、図5のフローチャートが開始される。
【0044】
まず、図5のステップS1のように、測定装置49の測定用電源61から圧電素子5に対して共振周波数の測定電圧を印可する。
【0045】
本実施例の測定電圧は、例えば500mVであり、その周波数は、例えば1.4MHzとなっている。なお、測定電圧の印加は、共振周波数周辺の周波数帯において、周波数を段階的に変化(スウィープ)させながら行うのが好ましい。これにより、圧電素子5の製品誤差による共振周波数のばらつきに対応することができる。
【0046】
次いで、ステップS2のように、この測定電圧の印加による誘電正接を測定する。すなわち、測定装置49の測定部63は、測定電圧の印加によって流れる電流に基づいて誘電正接を測定する。この誘電正接の測定値は処理装置51に入力される。
【0047】
処理装置51では、ステップS3のように、誘電正接の測定値を所定の閾値Tと比較する。本実施例では、閾値Tが10に設定されているため、誘電正接の測定値が10未満であれるか否か、つまり一桁か二桁かを判断する。
【0048】
図6は、圧電素子の誘電正接の測定値と閾値との関係を示すグラフである。なお、図6の縦軸は誘電正接を示し、横軸は周波数を示している。
【0049】
共振周波数での誘電正接は、圧電素子5にクラックがない場合に線分75のように10を大きく上回り、クラックがある場合に線分77のように10を大きく下回る。詳細については、実験結果と共に後述する。
【0050】
従って、共振周波数での誘電正接が10を下回る一桁の場合は、ステップS4のように圧電素子5にクラックがあるものと判断することができる。逆に、共振周波数での誘電正接が10を以上である二桁の場合は、ステップS5のように圧電素子5にクラックがないものと判断することができる。
【0051】
なお、上記のように測定電圧の周波数を段階的に変化させながら印加を行う場合は、その周波数帯でのピーク値を共振周波数での誘電正接として用いればよい。
【0052】
こうして、本実施例のクラック検出方法では、圧電素子5の共振周波数での誘電正接によってクラックを容易且つ確実に検出することができる。
[実験結果]
(基本原理)
図7は、共振周波数に対するインピーダンス及び誘電正接の特性パターンを示すグラフであり、(a)はクラックのない圧電素子、(b)はクラックのある圧電素子である。なお、図7の左側縦軸はインピーダンス(ZO)、右側縦軸は誘電正接(D)、横軸は周波数を示している。
【0053】
図7では、測定電圧を約500mV、周波数を約100Hz〜2MHzの間で約5kHz毎に変更しながら、各周波数でのインピーダンス及び誘電正接を測定してこれをプロットした。測定の際には、本実施例のクラック検出装置1の測定装置49と同様の測定装置を用いた。
【0054】
図7(a)のように、クラックのない圧電素子5では、通常、電圧に対する電流の位相が共振周波数より低い周波数で−90度、共振周波数から反共振周波数の間(位相反転領域)で+90度となり、反共振周波数を超えると−90度にもどる。
【0055】
このときの誘電正接は、共振周波数より低い周波数及び反共振周波数を超えた周波数での推移に対し、位相反転領域で大きなピーク・パターンを持っている。
【0056】
一方、クラックのある圧電素子5では、図7(b)のように、クラックのない圧電素子5と同様の位相反転領域は見られるものの、誘電正接の大きなピーク・パターンを持っていない。
【0057】
このように、位相反転領域では、誘電正接が小さいほど製品として良い圧電素子であるという一般概念とは逆の概念が成立し、誘電正接がクラックの有無によって大きなピークを有するか否かで異なることが分かった。本発明のクラック検出方法及び装置1は、これを基本原理として位相反転領域である共振周波数での誘電正接に基づいて圧電素子5のクラックを検出する。
(閾値設定)
図8〜図10は、圧電素子の共振周波数に対する誘電正接の特性パターンを示すグラフであり、図8はクラックのない圧電素子、図9はクラックのある(クラックを外観から明確に識別可能な)圧電素子、図10はマイクロ・クラックのある(クラックを外観から判別不可或いは判別が困難な)圧電素子を示している。
【0058】
なお、図8〜図10は、図7の場合と同様にして複数の圧電素子サンプルから測定した誘電正接の測定値をプロットしたものであり、縦軸が誘電正接、横軸が周波数を示している。また、測定に用いた圧電素子サンプルは、上記クラック検出方法に用いたものと同一である。
【0059】
図11〜図13は、それぞれ図8〜図10の誘電正接のピーク値を示す図表である。なお、図13のNSは外観から判別不可能なマイクロ・クラックのある圧電素子、同NBは外観から判別困難なマイクロ・クラックのある圧電素子を示している。
【0060】
クラックのない圧電素子5は、図8及び図11から明らかなように、共振周波数1.4MHzでの誘電正接が何れも10以上の大きなピーク値(ピーク・パターンの頂点)を持ち、他の周波数において5未満で推移している。
【0061】
これに対し、クラックのある圧電素子5では、図9、図10、図12及び図13から明らかなように、そのような大きなピーク値(ピーク・パターンの頂点)を持たず、周波数の全域にわたって5未満で推移している。
【0062】
このように、クラックある圧電素子5においては、共振周波数での誘電正接がクラックの大きさに拘わらず大きなピーク値を持たない5未満で推移する特性を示す。
【0063】
従って、共振周波数での誘電正接の閾値Tを上記のように10とすれば、それを下回るか否かで静電容量において製品誤差程度の差しか見られな圧電素子5のマイクロ・クラックをも確実に検出することができる。
【0064】
なお、閾値Tは、図8〜図10のようなクラックのない圧電素子及びクラックのある圧電素子の双方のサンプルから得られた共振周波数での誘電正接のピーク値(測定値)間に設定すれば良く、10未満等に変更することも可能である。この場合は、閾値Tを確率的に算出するのが好ましい。
[実施例1の効果]
本実施例のクラック検出方法では、一対の電極37,39間に配置され電極37,39を介した電圧の印加状態に応じて変形する圧電素子5のクラック検出方法であって、少なくとも圧電素子5に共振周波数の電圧を印加し、該電圧の印加による前記一対の電極37,39間の誘電正接を測定し、該測定された誘電正接に基づいて圧電素子5のクラックを検出する。
【0065】
従って、本実施例のクラック検出方法では、圧電素子5の共振周波数での誘電正接がクラックの有無によって大きなピークを持つか否かで大きく異なることから、その共振周波数での誘電正接に基づいて圧電素子5のクラックを容易且つ確実に検出することができる。
【0066】
本実施例のクラックの検出では、圧電素子5の共振周波数での誘電正接が所定の閾値Tを下回る場合にクラックがあると判断するため、共振周波数での誘電正接のみを測定すればよく、より容易且つ確実に圧電素子5のクラックを検出することができる。
【0067】
本実施例では、誘電正接の閾値Tが、クラックのない圧電素子及びクラックのある圧電素子の双方のサンプルから得られた共振周波数での誘電正接のピーク値間に設定するため、より容易且つ確実に圧電素子5のクラックを検出することができる。
【0068】
さらに、本実施例では、誘電正接の閾値Tが10であるため、共振周波数での誘電正接が一桁であるか二桁であるかを判断すればよく、処理を簡素化してより容易且つ確実に圧電素子5のクラックを検出することができる。
【0069】
本実施例では、圧電素子5の共振周波数がヘッド・サスペンション3への取り付け状態、つまり圧電アクチュエータ11への組付状態での共振周波数であるため、圧電アクチュエータ11に対して容易且つ確実に圧電素子5のクラックの検出を行わせることができる。
【0070】
本実施例では、圧電素子5に対してフレキシャ15を介して電圧の印加が行われるため、ヘッド・サスペンション3に対して容易且つ確実に圧電素子5のクラックの検出を行わせることができる。
【0071】
本実施例のクラック検出装置1は、少なくとも圧電素子5に共振周波数の電圧を印加する測定用電源61と、電圧の印加による一対の電極37,39間の誘電正接を測定する測定部63と、該測定された誘電正接に基づいて圧電素子5のクラックを検出する検出部としての処理装置51とを備えている。
【0072】
従って、本実施例のクラック検出装置1は、容易且つ確実にクラックの検出方法を実施して圧電素子5のクラックを検出することができる。
【0073】
また、処理装置51は、誘電正接のピーク値の閾値Tを記憶する記憶部71と、誘電正接のピーク値が所定の閾値Tを下回る場合に圧電素子5にクラックがあると判断する判断部69とを備えている。
【0074】
従って、本実施例のクラック検出装置1は、容易且つ確実に閾値Tによるクラックの検出を行わせることができる。
【実施例2】
【0075】
図14は本発明の実施例2に係るクラック検出装置を示すブロック図である。なお、図14のクラック検出装置1Aは、上記実施例のクラック検出装置1と基本構成が共通しているため、対応する構成部分について同符号にAを付して詳細な説明を省略する。
【0076】
クラック検出装置1Aでは、上記実施例の誘電正接の閾値比較に代えて、誘電正接の特性パターンを直接比較して圧電素子5のクラックを検出する。
【0077】
すなわち、本実施例のクラック検出装置1Aでは、測定装置49Aの測定用電源61Aによって、例えば500mVの測定電圧を100Hz〜2MHzの周波数帯で5kHz毎に周波数を変更しながら印可する。測定部63Aは、各周波数の誘電正接を測定して処理装置51Aの判断部69Aに出力する。
【0078】
従って、測定用電源61Aは、少なくとも圧電素子5の共振周波数を含めた周波数帯で測定電圧を印加し、測定部63Aは、その周波数帯で連続的に誘電正接の測定を行う構成となっている。
【0079】
処理装置51Aの判断部69Aは、上記実施例の図8〜図10のような各周波数の誘電正接の測定値をプロットした誘電正接の特性を示す特性パターンを形成し、これを記憶部71A内に記憶された予め定められた基準パターンRと比較する。
【0080】
基準パターンRは、予めクラックのない圧電素子のサンプルに対する誘電正接の測定値をプロットしたものであり、誘電正接の基準となる特性パターンである。この基準パターンRは、例えば上記実施例の図6の線分75等とすることができる。
【0081】
これにより、判断部69Aは、特性パターンが基準パターンRと異なる場合、つまり特性パターンがピーク・パターンを有しない場合に圧電素子5にクラックがあるものと判断する。
【0082】
ただし、上記判断の際は、特性パターンと基準パターンRとが完全に一致する必要はなく、例えば特徴点を抽出して比較してもよい。また、確率的に算出した基準パターンの範囲内であれば、特性パターンと基準パターンRとが一致するものと判断しても良い。
【0083】
なお、基準パターンRは、クラックのある圧電素子5に対するものであっても良い。この場合は、例えば上記実施例の図6の線分77等とすることができ、特性パターンが基準パターンRと一致する場合、つまり特性パターンがピーク・パターンを有する場合に圧電素子5にクラックがあるものと判断する。
【0084】
また、特性パターン及び基準パターンRは、上記周波数帯全体で形成する必要はなく、少なくともピーク・パターンが現れる共振周波数を含めた周波数帯において形成すればよい。
【0085】
本実施例では、上記実施例と同様の作用効果を奏することができるのに加え、圧電素子5の共振周波数での誘電正接がクラックの有無によって大きなピークを持つか否かで異なるため、誘電正接の特性パターンと基準パターンRとの直接比較によるピーク・パターンの有無によってクラックの有無を容易且つ確実に判断することができる。
[その他]
上記実施例では、一対の圧電体29,31からなる圧電素子5に適用したが、例えば単一の圧電体からなる圧電素子にも同様に適用することができる。
【0086】
上記実施例のクラック検出方法及び装置は、ヘッド・サスペンション3の圧電アクチュエータ11の圧電素子5に対してクラックを検出していたが、他の圧電アクチュエータの圧電素子のクラック検出にも同様に適用することができる。
【0087】
クラック検出装置は、LCRメータからなる測定装置49の測定用電源61によって電圧を印可していたが、例えば別構成のプローブ・ユニットから電圧を印可する構成とすることも可能である。この場合は、測定の安定性を得ることができる。
【符号の説明】
【0088】
1 クラック検出装置
3 ヘッド・サスペンション
5 圧電素子
7 ロード・ビーム(被駆動部材)
9 ベース・プレート(基部)
11 圧電アクチュエータ
15 フレキシャ(配線部材)
37,39 電極
51 処理装置(検出部)
61 測定用電源(電圧印加部)
63 測定部
69 判断部
71 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に配置され前記電極を介した電圧の印加状態に応じて変形する圧電素子のクラック検出方法であって、
少なくとも前記圧電素子に共振周波数の電圧を印加し、
該電圧の印加による前記一対の電極間の誘電正接を測定し、
該測定された誘電正接に基づいて前記圧電素子のクラックを検出する、
ことを特徴とする圧電素子のクラック検出方法。
【請求項2】
請求項1記載の圧電素子のクラック検出方法であって、
前記クラックの検出では、前記共振周波数での前記誘電正接が所定の閾値を下回る場合に前記圧電素子にクラックがあると判断する、
ことを特徴とする圧電素子のクラック検出方法。
【請求項3】
請求項2記載の圧電素子のクラック検出方法であって、
前記誘電正接の閾値は、クラックのない圧電素子及びクラックのある圧電素子の双方のサンプルから得られた前記共振周波数での誘電正接のピーク値間に設定する、
ことを特徴とする圧電素子のクラック検出方法。
【請求項4】
請求項3記載の圧電素子のクラック検出方法であって、
前記誘電正接の閾値が10である、
ことを特徴とする圧電素子のクラック検出方法。
【請求項5】
請求項1記載の圧電素子のクラック検出方法であって、
前記電圧の印加は、少なくとも前記共振周波数を含めた周波数帯で行い、
前記誘電正接の測定は、前記周波数帯で連続的に行い、
前記クラックの検出では、前記周波数帯で測定された誘電正接の特性を示す特性パターンを形成し、該特性パターンと予め定められた基準パターンとの比較によるピーク・パターンの有無で前記クラックの有無を判断する、
ことを特徴とする圧電素子のクラック検出方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の圧電素子のクラック検出方法であって、
前記圧電素子は、基部及び被駆動部間に配置され前記変形によって前記被駆動部を前記基部に対して駆動する圧電アクチュエータを構成し、
前記共振周波数は、前記圧電アクチュエータの組付状態での前記圧電素子の共振周波数である、
ことを特徴とする圧電素子のクラック検出方法。
【請求項7】
請求項6記載の圧電素子のクラック検出方法であって、
前記被駆動部は、ヘッド・サスペンションのロード・ビームであり、
前記圧電素子の一対の電極の一方は、前記ヘッド・サスペンションの配線部材に接続され、
前記圧電素子は、前記配線部材を介して前記電圧の印加が行われる、
ことを特徴とする圧電素子のクラック検出方法。
【請求項8】
一対の電極間に配置され前記電極を介した電圧の印加状態に応じて変形する圧電素子のクラック検出装置であって、
少なくとも前記圧電素子に共振周波数の電圧を印加する電圧印加部と、
前記電圧の印加による前記一対の電極間の誘電正接を測定する測定部と、
該測定された誘電正接に基づいて前記圧電素子のクラックを検出する検出部とを備えた、
ことを特徴とする圧電素子のクラック検出装置。
【請求項9】
請求項8記載の圧電素子のクラック検出装置であって、
前記検出部は、前記共振周波数での前記誘電正接の所定の閾値を記憶する記憶部と、前記測定された誘電正接が前記閾値を下回る場合に前記圧電素子にクラックがあると判断する判断部とを備えた、
ことを特徴とする圧電素子のクラック検出装置。
【請求項10】
請求項9記載の圧電素子のクラック検出装置であって、
前記誘電正接の閾値は、クラックのない圧電素子及びクラックのある圧電素子の双方のサンプルから得られた前記共振周波数での誘電正接のピーク値間に設定する、
ことを特徴とする圧電素子のクラック検出装置。
【請求項11】
請求項9又は10記載の圧電素子のクラック検出装置であって、
前記誘電正接の閾値が10である、
ことを特徴とする圧電素子のクラック検出装置。
【請求項12】
請求項8記載の圧電素子のクラック検出装置であって、
前記電圧印加部は、少なくとも前記共振周波数を含めた周波数帯で前記電圧の印加を行い、
前記測定部は、前記周波数帯で連続的に誘電正接の測定を行い、
前記検出部は、圧電素子のサンプルから得られた誘電正接の基準パターンを記憶する記憶部と、前記周波数帯で測定された誘電正接の特性を示す特性パターンを形成し該特性パターンと前記基準パターンとの比較によるピーク・パターンの有無で前記クラックの有無を判断する判断部とを備えた、
ことを特徴とするクラック検出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−122866(P2012−122866A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274270(P2010−274270)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】