説明

圧電素子及び圧電素子製造方法

【課題】 より耐久性の高い圧電素子を提供する。
【解決手段】 本発明の圧電素子1は、電圧印加時に形状が変化する2以上の第1の領域3と、電圧印加時の形状の変化量が第1の領域3より小さい第2の領域5とを、該第2の領域5が該第1の領域3同士の間に位置するように積層することにより作られる。第1の領域3は、正極電極及び負極電極に挟まれたセラミックス材料からなり、第2の領域5は、同じ極の電極に挟まれたセラミックス材料からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
印加する電圧の大きさに応じて変形する圧電素子が知られている。
例えば、下記特許文献1には、側面に極性の異なる一対の外部電極を有する圧電アクチュエータであって、複数の圧電体と内部電極層とが積層され、各内部電極層に接続される外部電極の極性が一層ごとに異なるように作られている圧電アクチュエータが開示されている。この圧電アクチュエータでは、一方の外部電極に接続された内部電極と他方の外部電極とを離間する必要があるので、かかる内部電極と外部電極との間付近には、圧電体のうち、電圧印加時に変形しない(電位差が生じない)領域が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−5680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の形式の圧電アクチュエータでは、例えば圧電体のうちの変形する領域と変形しない領域との境界部分に圧力がかかるので、破損し易いという問題がある。
本発明は、より耐久性の高い圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の圧電素子は、電圧を印加することにより形状が変化する2以上の第1の領域と、形状の変化量が前記第1の領域より小さい第2の領域と、を有し、前記第1の領域及び前記第2の領域は、該第2の領域が該第1の領域の間に位置するように積層されている、ことを特徴とする。
【0006】
本発明の実施態様では、前記第2の領域は、前記圧電素子に電圧を印加しても形状が変化しない不活性層を積層して作ることができる。
また別の実施態様では、前記第2の領域は、それぞれ前記圧電素子の厚みの3%以上の厚みに作るのがよい。圧電素子の厚みとは、第1及び第2の領域を積層する方向の長さをいう。
また別の実施態様では、前記第2の領域は、それぞれ前記圧電素子の厚みの4%以上の厚みに作るとより好ましい。
【0007】
また別の実施態様では、前記第2の領域は、前記圧電素子を二等分、三等分、又は四等分するように設けられている。
本発明の圧電素子は、電圧印加時に形状が変化する2以上の第1の領域と、形状の変化量が前記第1の領域より小さい第2の領域とを、該第2の領域が該第1の領域の間に位置するように積層することにより作られる、ことを特徴とする。
【0008】
本発明の圧電素子製造方法は、電圧印加時に形状が変化する2以上の第1の領域と、形状の変化量が前記第1の領域より小さい第2の領域とを、該第2の領域が該第1の領域の間に位置するように積層して圧電素子を形成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、形状の変化量が第1の領域より小さい第2の領域を圧電素子中に設けることにより、圧電素子に電圧を印加した場合に生ずる形状の変化に基づく物理的な損傷を軽減することができるので、第2の領域に相当する領域を有しない従来の圧電素子に比べて、より高い耐久性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(A)は実施形態の圧電素子を模式的に示す図であり、(B)は実施形態の圧電素子の一部を拡大して示す図である。
【図2】インピーダンスアナライザで計測した波形の例を示す図である。
【図3】実施例1、実施例2、及び比較例1それぞれの構成と試験結果を示す図である。
【図4】比較例2、実施例3、及び実施例4それぞれの構成と試験結果を示す図である。
【図5】実施例5乃至11それぞれの構成と試験結果を示す図である。
【図6】4分割構成の圧電素子についての電圧印加時の変形量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態の圧電素子1について、図面を参照して説明する。
図1(A)は、圧電素子1を模式的に示し、図1(B)は、圧電素子1の一部を拡大して示す。
圧電素子1は、図1(A)に示すように、電圧を印加することにより形状が変化する2以上の第1の領域3と、形状の変化量が第1の領域3より小さい第2の領域5とを有し、第1の領域3及び第2の領域5を、第2の領域5が第1の領域3の間に位置するように積層して作られている。
第1の領域3は、図1(B)に示すように、極性の異なる内部電極7a,7bが交互に積層されるように、内部電極7a又は内部電極7bと該内部電極7a,7bのいずれかに接続された外部電極9a,9bとを有する圧電体(例えば、圧電セラミックスなど)11を重ね合わせて作られる。例えば、圧電体11は、いずれも同じ厚み(例えば100μm厚)で作られている。
【0012】
内部電極7a,7b及び外部電極9a,9bは、印刷技術を用いて圧電体11の表面に形成することができる。また例えば、図1(B)の例では、左側の外部電極9a及び該外部電極9aに接続されている内部電極7aを正極とし、右側の外部電極9b及び該外部電極9bに接続されている内部電極7bを負極とする。
より詳細には、内部電極7a,7bは、圧電体11を重ね合わせた場合に極性の異なる外部電極9b,9aと接触しないように、図1(B)に示すように、圧電体11の一方の端とは離間するように圧電体11の表面に形成される。例えば、正極の内部電極7aは、圧電体11を重ね合わせた場合に負極の外部電極9bと接触しないように、圧電体11の右端(図において右端)から離間されている。なお、かかる第1の領域3の形成方法は、従来の圧電素子の製造方法と同様である。
【0013】
第2の領域5は、第1の領域3より形状の変化量が小さく、圧電素子1に対する電圧印加時における形状の変化(例えば膨張)に基づく損傷を緩和するための領域であり、例えば圧電素子1に電圧を印加しても形状が変化しない不活性層13を積層して作られる。圧電素子1中に第2の領域5を設けることにより、圧電素子1に電圧が印加され、各圧電素子11が変形した場合でも、後述の試験結果に示すように、物理的損傷を軽減することができる。
第2の領域5を形成する不活性層13としては、例えば圧電体11と同様の材料を用いることができる。図示の例では、第2の領域5は、圧電体を用いて形成されるものとするが、第1の領域3とは異なり、その上面に内部電極を有していない。また、図1(B)に示すように、第2の領域5の上端と下端とに同じ極性の内部電極(図では内部電極7a)がそれぞれ配置されるように、第1の領域3が形成されている。これにより、かかる同じ極性の内部電極7a間に配置された圧電体(第2の領域5)は、圧電素子1に電圧を印加しても電圧の影響を受けない(電圧が印加されない)ので、形状が変化しない。
【0014】
また、図1(A)の例では、第2の領域5は、圧電素子1を四分割(例えば四等分)するように、3箇所に形成されているが、第1の領域3それぞれの厚み(図では、上下方向の厚みであり、第2の領域5間のピッチともいえる)D1、圧電素子1の分割数(第1の領域3の個数)、及び第2の領域5それぞれの厚み(図では、上下方向の厚み)D2等の種々のパラメータについては適宜変更することができる。より好ましいパラメータの設定値については、実施例及び試験結果を参照して後述する。
【0015】
上記実施形態で説明したように、第2の領域5が第1の領域3の間に位置するように第1の領域3及び第2の領域5を積層することにより、圧電素子1に電圧を印加した場合に第1の領域3が変形しても、第2の領域5が物理的な損耗を軽減し、圧電素子1の耐久性が高まるという優れた効果が得られる。
【実施例】
【0016】
以下、具体的な実施例、比較例、及び試験結果を参照して本発明について詳細に説明する。
[試験方法]
圧電素子の実施例及び比較例に対し、下記の試験を実施した。
(1)DC電源(KENWOOD PA500−0.1A)を用いて一定の電圧(70〜200V)を3秒間印加する。
(2)3秒間の電圧印加が終了する度にインピーダンスアナライザ(hp 4294A)で波形を確認して、波形異常が認められない場合は合格とし、波形異常(例えば、図2における破線で囲った部分を参照)が認められる場合はマイクロクラック(破壊)が発生したものと推定し、不合格とする。
【0017】
図3は、圧電素子の実施例1、実施例2、及び比較例それぞれの構成と試験結果とを示す。この試験は、圧電素子中に不活性層を設けることの効果と、不活性層の厚みの合計(第2の領域5の厚みD2)を大きくすることの効果とを検証するために行った。
まず、実施例1、実施例2、及び比較例それぞれの構成について説明する。
[実施例1]
(1)全長=10mm、
(2)分割数(第1の領域3の個数)=2(第2の領域5を1つ有する)、
(3)圧電体の厚み=100μm、
(4)不活性層13の厚みの合計(第2の領域5の厚み)D2=400μm(例えば、100μm×4層)、
(5)供試体の数=10個、
(6)印加電圧=70V、100V、120V、150V。
【0018】
[実施例2]
(1)全長=10mm、
(2)分割数(第1の領域3の個数)=2(第2の領域5を1つ有する)、
(3)圧電体の厚み=100μm、
(4)不活性層13の厚みの合計(第2の領域5の厚み)D2=800μm(例えば、100μm×8層)、
(5)供試体の数=10個、
(6)印加電圧=70V、100V、120V、150V。
【0019】
[比較例]
(1)全長=10mm、
(2)分割数(第1の領域3の個数)=1(第2の領域5を有しない)、
(3)圧電体の厚み=100μm、
(4)供試体の数=10個、
(5)印加電圧=70V、80V、90V、100V、110V、120V。
【0020】
図3に示す試験結果によれば、不活性層を一切有していない比較例1の圧電素子(従来の圧電素子)は、80Vを印加した時点で半数が破壊しており、120Vに耐えられるものは存在しないことがわかる。なお、比較例1の圧電素子は、70Vの電圧印加に対して合格率90%を示しているので、突発的な電圧増加が発生する可能性を考慮すると、せいぜい50V程度の低い電圧の下で使用するのが限度であると思われる。
一方、不活性層を有する実施例1と実施例2それぞれの圧電素子は、100Vの電圧印加に対する合格率が90%であり、比較例の圧電素子より明らかに電圧印加(詳細には、電圧印加時に生ずる変形に基づく物率的な損傷)に対する耐久性が高いことがわかる。さらに、150Vの電圧を印加した場合、実施例1の圧電素子の合格率は50%であるのに対し、実施例2の圧電素子の合格率は80%である。
この試験により、圧電素子中に不活性層を設けることにより、圧電素子の耐久性が高まるという傾向が確認された。また、不活性層の厚みの合計(第2の領域5の厚み)を大きくすることにより、圧電素子の耐久性がより高まるという傾向が確認された。
図4は、圧電素子の比較例2(実施例1)、実施例3、及び実施例4それぞれの構成と試験結果とを示す。この試験は、第2の領域5の数を増やすことの効果を検証するために行った。なお、比較例2(実施例1)の構成及び試験結果は、図3を参照して説明したものと同じである。
【0021】
まず、実施例3及び実施例4それぞれの構成について説明する。
[実施例3]
(1)全長=10mm、
(2)分割数(第1の領域3の個数)=3(第2の領域5を2つ有する)、
(3)圧電体の厚み=100μm、
(4)不活性層13の厚みの合計(第2の領域5の厚み)D2=400μm(例えば、100μm×4層)、
(5)供試体の数=10個、
(6)印加電圧=100V、120V、150V、200V。
【0022】
[実施例4]
(1)全長=10mm、
(2)分割数(第1の領域3の個数)=4(第2の領域5を3つ有する)、
(3)圧電体の厚み=100μm、
(4)不活性層13の厚みの合計(第2の領域5の厚み)D2=400μm(例えば、100μm×4層)、
(5)供試体の数=10個、
(6)印加電圧=100V、120V、150V、200V。
【0023】
図4に示す試験結果によれば、150Vの電圧を印加した場合の合格率は、比較例(実施例1)が50%、実施例3が80%、実施例4が100%であり、200Vの電圧を印加した場合の合格率は、実施例3が70%、実施例4が100%である。この試験により、第2の領域5の数を増やすことにより、圧電素子の耐久性がより高まるという傾向が確認された。
【0024】
図5は、圧電素子の実施例5乃至11それぞれの構成と試験結果とを示す。この試験は、図3に示す試験結果において2分割品の圧電素子については第2の領域5の厚みが大きいほど耐久性が向上するという傾向が確認されたが、念のために、図4に示す試験で最も良い結果を示した4分割構成の圧電素子について、不活性層の厚みの合計(第2の領域5の厚み)D2と耐久性との関係を検証するために行った。具体的には、不活性層の厚みの合計D2を100μm、200μm、300μm、又は400μmとし、分極電圧を1.0kV/mm又は1.5kV/mmとした。なお、この試験では、図3及び図4の試験とは異なり、まず始めに分極を行い、インピーダンスアナライザで分極後の波形についても確認した。
図5に示す試験結果によれば、1.5kV/mmの分極電圧を印加した場合には、分極後の合格率がいずれも高くないものの、1.0kv/mmの分極電圧を印加した場合には、分極後の合格率は実施例9(90%)を除き、いずれも100%である。また、150Vの電圧を印加した場合の合格率は、実施例9が70%、実施例11が100%であり、200Vの電圧を印加した場合の合格率は、実施例9が20%、実施例11が100%である。この試験により、第2の領域5の厚みD2を大きくすることにより、圧電素子の耐久性が高まるという傾向がより明確に確認された。また、実施例11の構成によれば、150〜200Vの電圧にも耐えられるため、通常時に100〜150Vの電圧が印加され得る環境で利用することができる。
【0025】
図6は、4分割構成の圧電素子1についての電圧印加時の変形量を示す。なお、第2の領域5の厚みD2と分極電圧の組み合わせについて6種類のパターンを用意した。この図に示すように、圧電素子1に電圧を印加した場合の変形量は、第2の領域5の厚みD2を変化させても、ほとんど同じであることが確認できた。
以上のように、実施形態の圧電素子1によれば、電圧を印加することにより形状が変化する2以上の第1の領域3と、形状の変化量が第1の領域3より小さい第2の領域5とを、第2の領域5が第1の領域3の間に位置するように積層することにより、従来の圧電素子と比較して電圧印加時の変形に基づく物理的損傷に対してより高い耐久性を得ることができる。
より詳細には、前述の試験結果を踏まえると、第2の領域5を、それぞれ圧電素子1の厚みの3%以上の厚み、より好ましくは4%以上の厚みに作ることにより、圧電素子1の耐久性がより高くなる傾向があるといえる。また、第2の領域5は、圧電素子1を二等分するよりも三等分するように、より好ましくは四等分するように設けることにより、より高い耐久性を得ることができる。
以上、本発明の実施形態及び実施例を説明したが、本発明は、上記に限定されることなく種々に変形して適用することが可能である。
【0026】
[変形例]
例えば、実施形態では、第2の領域5を形成する不活性層13として、第1の領域3を形成する圧電体11と同じ材料を用いているが、圧電素子1に対する電圧印加時の変形量が第1の領域3より小さい任意の材料を用いることができる。或いは、不活性層13として、そもそも電圧を印加しても変形(膨張)しない材料を用いてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1…圧電素子、3…第1の領域、5…第2の領域、7a,7b…内部電極、9a,9b…外部電極、11…圧電体、13…不活性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧を印加することにより形状が変化する2以上の第1の領域と、
形状の変化量が前記第1の領域より小さい第2の領域と、
を有し、前記第1の領域及び前記第2の領域は、該第2の領域が該第1の領域の間に位置するように積層されている、ことを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
前記第2の領域は、前記圧電素子に電圧を印加しても形状が変化しない不活性層を積層して作られている請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
前記第1の領域は、正極電極及び負極電極に挟まれたセラミックス材料からなり、
前記第2の領域は、同じ極の電極に挟まれたセラミックス材料からなる
請求項2に記載の圧電素子。
【請求項4】
前記第2の領域は、それぞれ前記圧電素子の厚みの3%以上の厚みに作られている請求項1又は2に記載の圧電素子。
【請求項5】
前記第2の領域は、それぞれ前記圧電素子の厚みの4%以上の厚みに作られている請求項1又は2に記載の圧電素子。
【請求項6】
前記第2の領域は、前記圧電素子を二等分、三等分、又は四等分するように設けられている請求項4又は5に記載の圧電素子。
【請求項7】
電圧印加時に形状が変化する2以上の第1の領域と、形状の変化量が前記第1の領域より小さい第2の領域とを、該第2の領域が該第1の領域の間に位置するように積層することにより作られる、ことを特徴とする圧電素子。
【請求項8】
電圧印加時に形状が変化する2以上の第1の領域と、形状の変化量が前記第1の領域より小さい第2の領域とを、該第2の領域が該第1の領域の間に位置するように積層して圧電素子を形成する、ことを特徴とする圧電素子製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−19178(P2012−19178A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157384(P2010−157384)
【出願日】平成22年7月11日(2010.7.11)
【出願人】(390010216)ニッコー株式会社 (49)