説明

地下構造物の防水工法

【課題】現場にてプライマーにフィラーを混入分散する作業を無くすことができ、しかも、プライマーの塗布むらの発生を抑えることができ、防水工事の作業効率を向上できる地下構造物の防水工法の提供。
【解決手段】フィラーを内添したプライマーを収容した容器を現場に搬入し、前記容器内のプライマーを、地下構造物の壁面を形成する無機質材製の防水下地に塗布し、次いで、熱硬化性樹脂からなる防水層を形成するための液状樹脂材料を塗布し、該液状樹脂材料の塗膜の硬化によって前記防水層を形成する地下構造物の防水工法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下擁壁や地下トンネル等の地下構造物の防水工法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下擁壁や地下トンネル等の地下構造物の躯体を直接する防水する防水工法としては、例えばコンクリート、モルタルといった無機質材料で構築された下地に、地山とは反対の側(構造物内面側)から、例えば、ポリウレタン系樹脂、ポリウレア系樹脂といった熱硬化性樹脂からなる防水層を形成することが広く行われている。
前記防水層は、前記下地にプライマーを塗布した後、液状防水材料(液状樹脂材料)をスプレー塗布、手塗り塗布などによって塗布して形成することが一般的である(例えば、特許文献1)。液状防水材料としては、例えば、1液型ポリウレタン系材料、2液反応型ポリウレタン系材料、1液型ポリウレア系材料、2液反応型ポリウレア材料などが採用される。
【0003】
プライマーとしては、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、エポキシウレタン系、合成ゴム系、シラン系のものが知られており、また、1液湿気硬化型のもの、主剤と硬化剤とからなる2液反応硬化型のものが多く用いられている。このプライマーは、容器に充填された状態で現場に搬入され、ローラ等の塗工用手工具を用いた手塗り塗布などによって下地(防水下地)に塗布されることが一般的である。防水層は、プライマーを下地に塗布した塗膜が硬化してなるプライマー層に液状樹脂材料を塗布することで形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−134944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような防水工法にあっては、無機質材料からなる下地に対する防水層の接着性の向上等を目的として、現場にてプライマーにフィラーを添加(後添とも言う)し、このフィラー入りのプライマーを下地に塗布してプライマー層を形成することが広く行われている。しかしながら、現場にてプライマーにフィラーを添加して塗布する場合、フィラーがプライマー中に充分に分散されずにだま状になりやすく、分散に手間が掛かる、塗布むらの原因になるといった問題があった。また、プライマーに添加したフィラーが沈降しやすいため、攪拌混合後のフィラーの沈降によって下地に塗布するプライマーの濃度が安定しにくく、これが塗布むらの原因になるといった不満があった。これに鑑みて、攪拌機を用いて容器内のプライマーを常時攪拌してフィラーの沈降を防止することも検討されるが、運転コスト(例えば、電動モーター式攪拌機の駆動のための電力コストや発電機の運転コスト)が掛かる上、攪拌状況の監視の手間も要するため、プライマーの施工のための労力、コストの増大を招くといった問題がある。
【0006】
また、プライマー中にてフィラーが沈降しやすいという性質は、ローラ等の塗工用手工具を用いた手塗り塗布においても塗布むらの発生等の影響を与える。例えば、フィラー入りプライマーをローラを用いて防水下地に塗布する場合、ローラに付着させたプライマー中のフィラーが経時的に下方に移動して、ローラの外周におけるプライマー中のフィラー濃度の偏在が生じることがあり、これが塗布むらの原因になる。
地下構造物にプライマー層及び防水層を形成する防水工事を行うための作業現場は、充分な作業スペースが確保できないことが多々発生する。このように現場が狭隘である場合、現場にて、フィラーの計量、計量したフィラーのプライマーへの投入、常時攪拌及び攪拌状況の監視を行うのでは、作業性が悪く、防水工事全体の作業効率の低下を招くといった不満があった。また、
【0007】
本発明は、前記課題に鑑みて、現場にてプライマーにフィラーを混入分散する作業を無くすことができ、しかも、プライマーの塗布むらの発生を抑えることができ、防水工事の作業効率を向上できる地下構造物の防水工法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では以下の構成を提供する。
本発明は、地下構造物の防水工法であって、フィラーが内添されたプライマーを収容した容器を現場に搬入し、前記容器内のプライマーを、地下構造物の壁面を形成する無機質材製の防水下地に塗布するプライマー施工工程と、このプライマー施工工程の後に、前記防水下地に熱硬化性樹脂からなる防水層を形成するための液状樹脂材料を塗布し、該液状樹脂材料の塗膜の硬化によって前記防水層を形成する防水層形成工程とを具備する地下構造物の防水工法を提供する。
本発明は、前記プライマーが、増粘剤、揺変剤、沈降防止剤から選ばれる1以上を含有しているものであることが好ましい。
また、本発明は、前記プライマーが、濡れ性向上剤を含有しているものであることが好ましい。
また、本発明は、前記プライマーに内添するフィラーが、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、炭酸カルシウム、防錆顔料、着色顔料、セメント、揺変性付与フィラー、導電性カーボンから選ばれる1又は複数であることが好ましい。
また、本発明は、前記防水層を形成するための前記液状樹脂材料として、前記プライマーとは明度が異なる色を有するものを使用することが好ましい。
また、本発明は、前記プライマー施工工程にて防水下地に塗布したプライマーの塗膜の硬化によって形成されたプライマー層に前記液状樹脂材料を塗布することで、前記液状樹脂材料の塗膜によって、前記プライマー層を目視確認できないように隠蔽することが好ましい。
また、本発明は、前記防水層形成工程にて、前記防水下地に形成した前記液状樹脂材料の塗膜の明度に基づいて前記液状樹脂材料の塗膜の厚さを判定する厚さ判定工程を行うことが好ましい。
また、本発明は、前記液状樹脂材料として黄色のものを用いることが好ましい。
また、本発明は、前記防水層として、1液型ポリウレタン樹脂、2液反応型ポリウレタン樹脂、1液型ポリウレア樹脂、2液反応型ポリウレア樹脂、あるいは、これらの発泡体、から選択される1つからなるものを形成することが好ましい。
また、本発明は、前記液状樹脂材料として速硬化性のものを用いることが好ましい。
【0009】
本発明に係る防水工法のプライマー施工工程にて使用するプライマーは、1液湿気硬化型のもの、2液反応硬化型プライマー等の、複数の液剤(プライマー液剤)を混合して使用(防水下地に塗布)する構成のもの(例えば2液反応硬化型プライマー等)を採用できる。1液湿気硬化型プライマーは、1液のプライマー液剤からなるものとみなす。本発明に係るプライマーは、1又は複数の液剤(プライマー液剤)によって構成されるものである。本発明では、プライマーとして、フィラーを内添(予め混入、分散)したプライマー液剤(以下、フィラー内添液剤とも言う)を含む構成のものを使用する。複数の液剤(プライマー液剤)を混合して使用(防水下地に塗布)する構成のプライマーにあっては、該プライマーを構成する複数のプライマー液剤のうちの1以上がフィラー内添液剤である構成とする。1液湿気硬化型プライマーは、該プライマーを構成する1液のプライマー液剤自体がフィラー内添液剤である構成とする。プライマー液剤は、容器に収容した状態で現場に搬入して使用する。
フィラー内添液剤を含む1又は複数のプライマー液剤からなる構成のプライマーを採用することで、現場でのプライマーへのフィラーの後添を省略できる。
【0010】
また、本発明に係る防水工法では、フィラーの他に、増粘剤、揺変剤、沈降防止剤といった分散維持機能剤も内添された状態になっている構成のプライマー(以下、フィラー・分散剤内添プライマー、とも言う)を使用することが好適である。このような構成のプライマー(フィラー・分散剤内添プライマー)の使用により、現場にてフィラー及び分散維持機能剤を計量してプライマーに混入するといった作業を省略でき、防水工事の作業効率の向上に有効に寄与する。
また、分散維持機能剤の作用によってプライマー中にフィラーが均等に分散された状態を安定に維持できるため、プライマー(フィラー・分散剤内添プライマー)を防水下地に塗布する際に塗布むらが発生しにくく、フィラーが均等に分散されたプライマー層を容易に得ることができる。また、このフィラー・分散剤内添プライマーであれば、常時攪拌する必要が無くなるため、防水下地に塗工(塗布)するために要するコスト及び労力を軽減することができ、防水工事の作業効率の向上にも有効に寄与する
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、現場にてフィラーを計量してプライマーに混入しフィラーが所望の配合比で配合されたプライマーを得る作業が不要であり、プライマーの塗布むらの発生を抑えることができ、現場での防水工事の作業効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明にかかる地下構造物の防水工法を説明する図であって、地中連続壁(地下構造物)にプライマーを塗布してプライマー層を形成するプライマー施工工程を説明する図である。
【図2】本発明にかかる地下構造物の防水工法を適用して、地中連続壁(地下構造物)に防水層を形成した状態を示す断面図である。
【図3】本発明にかかる地下構造物の防水工法の1実施形態を説明する図であって、プライマー塗膜の形成後の液状樹脂材料の塗布によるプライマー塗膜の隠蔽性を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について説明する。
図1、図2は、本発明にかかる地下構造物の防水工法(以下、単に防水工法とも言う)を説明する図であって、図1は、地中連続壁1(地下構造物、防水下地。以下、単に連続壁とも言う)にプライマーを塗布してプライマー層を形成するプライマー施工工程を説明する図、図2は前記連続壁1に防水層3を形成した状態を示す断面図である。
【0014】
図1、図2において、前記連続壁1は、コンクリート若しくはモルタル等の無機質材によって形成された山留め壁である。この連続壁1の地山Tとは反対側の面1a(以下、下地面とも言う)は、本発明にかかる地下構造物の壁面として機能する。
なお、連続壁1としては、下地面を形成する部分がコンクリート若しくはモルタル等の無機質材によって形成されているものであれば良く、例えば、コンクリート製の連続壁本体に積層状態に設けられたモルタル層が下地面を形成する構成等も採用可能である。
【0015】
図1、図2中、符号2はプライマー層である。このプライマー層2は、連続壁1の下地面1aに塗布したプライマーの塗膜の硬化によって形成されたものである。但し、ここで説明する防水工法は、フィラー入りのプライマーを用いてプライマー層2を形成する。プライマー層2を形成するためのプライマーについては後述する。
前記プライマー層2は、防水下地(ここでは連続壁1)へのプライマーの塗布によって下地面1aを覆う連続した膜状に形成されることで、防水下地に対する防水層3(後述)の接着性を向上するものであり、その膜厚は極めて薄いもので良い(例えば10〜300μm)。
【0016】
防水層3は、ここでは防水性に優れる熱硬化性樹脂であるポリウレタン樹脂からなる樹脂層を採用している。この防水層3は、ポリウレタン樹脂からなる樹脂層を形成するための液状樹脂材料をプライマー層2(詳細には、プライマー層2の連続壁1とは反対側の面)に塗布した塗膜の硬化によって形成されるものである。
【0017】
但し、この防水層3を形成する樹脂としては、塗膜防水層の形成に使用される周知の熱硬化性樹脂であれば良く、ポリウレタン樹脂に限定されず、例えば、ポリウレア系樹脂やアクリルウレタン系樹脂等を用いてもよい。防水層3は、該防水層3(熱硬化性樹脂の層)を形成するための液状樹脂材料をプライマー層2(詳細には、プライマー層2の連続壁1とは反対側の面)に塗布した塗膜の硬化によって形成される。プライマー層2に液状樹脂材料を塗布する手法としては、例えばスプレー塗布、ローラーや鏝や刷毛等の塗工用手工具を用いた手塗り塗布等を採用できる。
【0018】
また、防水層3を形成するための液状樹脂材料としては、例えば、1液湿気硬化型のものや2液反応型のものを挙げることができる。1液湿気硬化型の液状樹脂材料によって防水層を形成する熱硬化性樹脂としては、例えば、1液湿気硬化型ポリウレタン樹脂、1液湿気硬化型ポリウレア樹脂等を挙げることができる。2液反応型の液状樹脂材料を用いて防水層を形成する熱硬化性樹脂としては、例えば、2液反応型ポリウレタン樹脂、2液反応型ポリウレア樹脂等を挙げることができる。また、熱硬化性樹脂からなる防水層3は、該防水層3を形成するための液状樹脂材料の塗膜の硬化によって形成される発泡の無い塗膜層(中実な熱硬化性樹脂層)を採用できるが、これに限定されず、上記の熱硬化性樹脂の発泡体(例えば、2液反応型発泡ポリウレタン樹脂、2液反応型発泡ポリウレア樹脂)からなるものも採用可能である。この発泡体は、防水性の確保の点で、独立気泡型の発泡体(発泡樹脂)であることが好ましい。
また、2液反応型の熱硬化性樹脂としては、硬化時間(2液を混合してから硬化が完了するまでの時間)が2〜120分程度の速硬化性のものを採用することが好ましい。
塗膜層(中実な熱硬化性樹脂層)である防水層3の膜厚は経済性も考慮して0.5〜3mm程度が好ましい。
【0019】
ここで説明する防水工法は、連続壁1の下地面にプライマーを塗布するプライマー施工工程(図1参照)を行った後、このプライマー施工工程にて形成されたプライマーの塗膜が硬化してなるプライマー層2に防水層3を形成するための液状樹脂材料を塗布し、該液状樹脂材料の塗膜の硬化によって前記防水層3を形成する防水層形成工程を行うものである。
【0020】
プライマー層2(下地接着層)としては、防水下地(連続壁1)及び防水層3に対する親和性が高いものが好ましく、例えばウレタン系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、エポキシウレタン系樹脂、合成ゴム系樹脂、シラン系樹脂等の樹脂を主成分とするものが好適である。
また、このプライマー層2を形成するためのプライマーとしては、例えば、1液湿気硬化型のもの、主剤と硬化剤とからなる2液反応硬化型のものを好適に採用できる。
【0021】
2液反応硬化型のプライマーとしては、プライマー層2の主成分の樹脂(詳細には、該樹脂のプレポリマー)を含有する液剤である主剤、及び、主剤の樹脂をグラウト重合によって硬化させる硬化剤成分(例えば、ポリアミン、酸無水物)を含有する液剤である硬化剤、の2種類の液剤(以下、プライマー液剤とも言う)からなるものが採用される。この2液反応硬化型プライマーは、2種類の液剤(主剤と硬化剤)を現場にて混合し、得られた混合液(プライマー)を連続壁1の下地面に塗布してプライマー層2の形成に用いる。防水下地(連続壁1)に塗布したプライマーの塗膜の硬化によってプライマー層2が形成される。主剤としては、プライマー層2の樹脂成分(詳細には、該樹脂のプレポリマー)を有機溶剤中に含有するもの、硬化剤としては、硬化剤成分を有機溶剤中に含有するものを採用できる。
プライマーを防水下地(ここでは連続壁1)に塗布するための手法としては、例えばスプレー塗布、鏝や刷毛等の塗工用手工具を用いた手塗り塗布等を採用できる。
【0022】
また、本発明にかかるプライマー施工工程にて使用するプライマーは、1又は複数のプライマー液剤からなるものであって、フィラーを内添(予め混入、分散)したプライマー液剤(以下、フィラー内添液剤とも言う)を含む構成のものである。また、ここで説明するプライマーは、フィラー内添液剤中のフィラーの均等な分散状態の安定維持を目的として、後述の分散維持機能剤を含有する構成の前記フィラー内添液剤を用いたものである。
【0023】
プライマー施工工程では、プライマー液剤を容器に収容した状態で現場に搬入して、防水下地(連続壁1)へのプライマーの塗布に用いる。
例えば、1液型(1液湿気硬化型)のプライマーは、1液のプライマー液剤からなる構成であり、フィラーを内添したプライマー液剤(プライマー)を収容した容器を現場に搬入して、防水下地(連続壁1)への塗布、プライマー層の形成に用いる。
【0024】
2液反応硬化型のプライマーとしては、該プライマーを構成する2種類のプライマー液剤(主剤と硬化剤)の一方又は両方がフィラー内添液剤である構成のものを用いる。フィラー内添液剤は分散維持機能剤を含有する構成のものである。2液反応硬化型のプライマーを用いたプライマー施工工程は、主剤を収容した容器と、硬化剤を収容した液剤とを現場に搬入し、現場にて2液を混合し、フィラーが混入分散された混合液(プライマー)を防水下地(連続壁1)に塗布する。
【0025】
図1は、2液反応硬化型のプライマー層2を形成するプライマー施工工程を説明する図であり、具体的には、プライマーをプライマー塗工装置6を用いて連続壁1の下地面1aにスプレー塗布してプライマー層2を形成する場合を例示する。
図1に示すように、このプライマー施工工程では、主剤41を収容した容器51と、硬化剤42を収容した容器52とを現場に搬入し、前記容器51、52内の液剤を、別途用意した混合用容器53にて目的の配合比にて混合(攪拌して混合する)して得たプライマー43を、プライマー塗工装置6を用いて該プライマー塗工装置6に設けられているスプレーガン61から噴射して防水下地(連続壁1)に吹き付け塗布(スプレー塗布)する。 図1において、プライマー塗工装置6は、プライマー43を防水下地(連続壁1)に吹き付け塗布(スプレー塗布)するためのスプレーガン61と、混合用容器53からプライマー43を吸い出してホース62を介してスプレーガン61に圧給するためのポンプ63とを具備する。
【0026】
本発明にかかる防水工法のプライマー施工工程は、プライマーを構成する液剤に現場にてフィラーを混入分散(後添)してフィラー入りの液剤を得るのではなく、予めフィラーが混入分散されたプライマー液剤(フィラー内添液剤)を容器に収容した状態で現場に搬入して使用するものである。
プライマー液剤に内添するフィラーとしては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、炭酸カルシウム、防錆顔料(防錆剤)、着色顔料(着色剤)、セメント、揺変性付与フィラー、導電性カーボン等を挙げることができる。
【0027】
フィラーが混入分散されたプライマーを用いて形成されたプライマー層は、フィラーが混入されていないプライマーを用いて形成されたプライマー層に比べて防水下地に対する接着性を向上することができる。また、プライマーのリコート性(再塗布、重ね塗布)も良好(接着性が良い)となる。特に吹き付けモルタルのようなポーラスな下地(防水下地)に対しては過度な浸透を生じないため、プライマー層2に対する防水層3の接着性の向上にも有効に寄与する。すなわち、フィラーは、プライマー層の防水下地に対する接着性の向上や、リコート性の向上、プライマー層2に対する防水層3の接着性の向上に寄与する。なお、酸化チタン、酸化亜鉛は、着色剤(着色顔料)としても機能する。
【0028】
前記フィラー内添液剤は、増粘剤、揺変剤(チクソインデックス値(T.I.値)を高めるもの)、沈降防止剤から選ばれる1以上を含有している構成となっている。
増粘剤、揺変剤、沈降防止剤は、プライマー液剤に内添したフィラーの沈降防止に有効に寄与するものであり、フィラー内添液剤中のフィラーの均等な分散状態の安定維持に貢献する。本明細書においては、増粘剤、揺変剤、沈降防止剤を総称して分散維持機能剤とも言う。フィラー内添液剤は、予めフィラーと分散維持機能剤とが混入(内添)された構成のものであり、容器に収容された状態で現場に搬入される。
【0029】
2液反応硬化型のプライマーの場合は、主剤、硬化剤のうち、少なくともフィラー内添液剤に、分散維持機能剤を含有する構成とする。1液型(1液湿気硬化型)のプライマーの場合は、1液のプライマー液剤からなる構成であり、フィラーとともに分散維持機能剤が内添された構成とする。分散維持機能剤を含有するフィラー内添液剤であれば、液中にフィラーが均等に分散された状態を長期にわたって安定に維持することができる。
増粘剤としては、例えば上述のタルクのように増粘剤として機能するフィラー(増粘用フィラー)であっても良いが、増粘用フィラー以外の液状増粘剤を用いることも可能である。プライマーとしては、増粘用フィラー及び液状増粘剤の一方を含有する構成以外、1又は複数種類の増粘用フィラーと、1又は複数種類の液状増粘剤とを含有する構成であっても良い。増粘剤としては、例えば、酸化ポリエチレン、疎水性に修飾されたエチレンオキシドエーテルコポリマー、疎水性ポリ(メタ)アクリル酸、疎水性ヒドロキシエチルセルロース、疎水性アクリルアミド、アエロジル等を挙げることができる。
【0030】
揺変剤としては、例えば、微粉末酸化ケイ素(アエロジル)、セピオライト等の揺変性付与フィラーであっても良いが、揺変性付与フィラー以外の液状揺変剤を用いることも可能である。プライマーとしては、揺変性付与フィラー及び液状揺変剤の一方を含有する構成以外、1又は複数種類の揺変性付与フィラーと、1又は複数種類の液状揺変剤とを含有する構成であっても良い。また、揺変剤としては有機系のものと無機系のものとに大別できる。有機系の好適な揺変剤としては、例えば、酸化ポリエチレン、脂肪酸アマイド、脂肪酸グリセリン、脂肪酸エステル等の合成ワックス、尿素ウレタン、硫酸エステル、ポリカルボン酸、硬化ヒマシ油、セルロース等を挙げることができる。無機系の好適な揺変剤としては、例えば、炭酸カルシウム、カーボンブラック、クレータルク、カーボンブラック、酸化チタン、生石灰、カオリン、ゼオライト、珪藻土、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、ベントナイト等を挙げることができる。
【0031】
沈降防止剤としては、例えば、酸化ポリエチレン系沈降防止剤、水添ヒマシ油系ワックス、脂肪酸アミド系アマイドワックス等を挙げることができる。
なお、沈降防止剤の中には、沈降防止機能のみを有するものの他に、例えば酸化ポリエチレン系沈降防止剤等のように、増粘剤及び/又は揺変剤としての機能を果たすものが存在する。沈降防止剤としては、このように沈降防止機能のみならず、増粘剤及び/又は揺変剤としての機能も果たすものを採用することも可能である。
本発明に係る増粘剤は、増粘剤として機能し得る沈降防止剤を含む。また、本発明に係る揺変剤は、揺変剤として機能し得る沈降防止剤を含む。増粘剤として機能し得る沈降防止剤を含むプライマー液剤は、増粘剤及び沈降防止剤を含有しているものとして扱う。揺変剤として機能し得る沈降防止剤を含むプライマー液剤は、揺変剤及び沈降防止剤を含有しているものとして扱う。
【0032】
プライマー液剤中にフィラーが均等に分散された状態を維持する点では、プライマー液剤の粘度が高い方が有利である。但し、プライマー液剤の粘度が高すぎると、防水下地への塗布作業に影響を与える。例えば、プライマーのスプレー塗布によって防水下地にプライマー層を形成する場合は、プライマー液剤の粘度(特に回転粘度計により計測される回転粘度)が高いと、スプレー塗布用のスプレーガンへプライマー液剤を圧送供給するための圧力を高める必要が生じる。
【0033】
このことに鑑みて、フィラー内添液剤としては、分散維持機能剤として揺変剤を含有する構成であることが有利である。この構成のフィラー内添液剤であれば、揺変剤の作用によって回転粘度を低く抑えることができるため、スプレーガンへの圧送に要する圧力が低くて済む。換言すれば、この構成のフィラー内添液剤によれば、揺変剤を含有していないフィラー内添液剤に比べて、スプレーガンへの圧送に要する圧力を上昇させることなく、容器内のプライマー液剤中のフィラーの均等な分散状態の安定維持を図るべくプライマー液剤の粘度を高く設定することが可能となる。
【0034】
なお、揺変剤としては、増粘剤としても機能し得るものが多く存在する。このような揺変剤を含有するフィラー内添液剤にあっては、揺変剤自体が、プライマー液剤中のフィラーの均等な分散状態の安定維持のための粘度確保に寄与する。本発明に係る増粘剤は、増粘剤として機能し得る揺変剤を含む。増粘剤として機能し得る揺変剤を含むプライマー液剤は、増粘剤及び揺変剤を含有しているものとして扱う。
【0035】
また、プライマーとしては、分散維持機能剤の他に、濡れ性向上剤を含有させることも採用可能である。例えば2液反応硬化型のプライマーの場合、濡れ性向上剤を含有させるプライマー液剤は、主剤、硬化剤のいずれでも良い。濡れ性向上剤は、主剤、硬化剤の両方に含有させても良い。濡れ性向上剤は、プライマー層の防水下地に対する接着性の向上や、リコート性の向上に有効に寄与する。また、プライマー層2に対する防水層3の接着性の向上にも機能するものを採用することがより好ましい。
【0036】
フィラー及び分散維持機能剤を含有するプライマー液剤を含む1又は複数のプライマー液剤からなる構成のプライマー(フィラー・分散剤内添プライマー)は、分散維持機能剤によってフィラー濃度のばらつきを抑えることができフィラー濃度を均等化できるため、防水下地(連続壁1)の下地面1aに塗布する際に塗布むらや塗布残しが生じにくく(塗布管理容易性の向上)、プライマー層2の膜厚安定性も向上できる(膜厚管理容易性の向上)。
【0037】
また、プライマー層2におけるフィラー濃度(密度)の均等化により、プライマー層2の防水下地に対する接着性や、リコート性のばらつきを抑えることができる。フィラーを後添したプライマー液剤(以下、フィラー後添液剤とも言う。分散維持機能剤は含有していない)を含む1又は複数のプライマー液剤からなる構成のプライマー(以下、フィラー後添プライマーとも言う)を用いて形成したプライマー層は、容器内のフィラー後添液剤を常時攪拌を行わずに使用する場合では、フィラー後添液剤におけるフィラー濃度のばらつきによって、防水下地に対する接着性や、リコート性にばらつきが生じることがある。これに対して、前記フィラー・分散剤内添プライマーによれば、プライマー層2の防水下地に対する接着性や、リコート性のばらつきを抑えることができ、プライマー層2全体について接着性、リコート性の均一化を図ることができる(接着性の向上、リコート性の向上)。
【0038】
また、分散維持機能剤として増粘剤及び/又は揺変剤を含有するフィラー・分散剤内添プライマーは、防水下地(連続壁1)の表面(下地面1a)に開口する微細な気孔の埋め込みを容易に実現できる(気孔埋め込み性の向上)。したがって、プライマー層2に膜厚が局所的に薄い箇所が生じたり、防水下地にプライマー層2によって隠蔽されていない箇所が生じるといった不都合を防止することができる(下地隠蔽性の向上)。このことも、プライマー層2の膜厚安定性の向上に有効に寄与する。また、プライマー層2の膜厚安定により、防水層3のピンホール発生も抑制できる。
さらに、着色剤(フィラー)を含有するフィラー・分散剤内添プライマーの場合、下地隠蔽性、膜厚安定性の向上により、視覚的な色むらを抑えることにも有効である。
【0039】
分散維持機能剤として揺変剤を含有するフィラー・分散剤内添プライマーは、垂直面、傾斜面に対する塗布時のダレ抑制に有効である(ダレ抵抗性の向上)。また、既述のように、揺変性の付与は、容器内のフィラー内添液剤の粘度を高く設定することに有利(スプレーガンへの圧送時の圧力を低く抑えることができるため)であり、液剤中のフィラーの分散状態の安定化にも有効に寄与する。このため、例えば、搬送時の振動の作用などによって、フィラー内添液剤中のフィラーの分散状態が変動して、容器内でフィラー濃度のばらつきが生じてしまうといった不都合を防止することができる(貯留安定性の向上)。
【0040】
本発明者は、様々な配合の試験材料(2液反応硬化型プライマー)を用いて試験(スプレー塗布試験)を行い、フィラー・分散剤内添プライマーであれば、分散維持機能剤及びフィラーを含有していないプライマー(以下、フィラー無しプライマーとも言う)、及び、フィラー後添プライマー(分散維持機能剤を含有していない)に比べてスプレー塗布の際のミストの発生抑制に有利であることを突き止めた。この原因については、さらなる検証が必要であるが、以下のことが予想される。
【0041】
フィラー入りのプライマーをスプレー塗布する場合は、フィラー無しプライマーのスプレー塗布に比べてミストが減少する傾向がある。これは、フィラー入りのプライマーの場合は、混入されたフィラーによって粘度が上昇するとともに、フィラーが、スプレーガンから噴射されたプライマーの微細な液滴を形成するための芯材となるため、液滴が形成されやすく、液滴以外のミストの発生が少なくなるものと考えられる。
【0042】
しかしながら、フィラー後添プライマーは、容器内のプライマー液剤中のフィラーの沈降等によって容器からスプレーガンに供給されるフィラー入りプライマー液剤中のフィラー濃度が変動しやすく、フィラー濃度が低い(粘度が低く、液滴形成のための芯材が少ない)プライマー液剤の供給によってミストが発生しやすくなるものと考えられる。これに対して、フィラー・分散剤内添プライマーのスプレー塗布の場合は、分散維持機能剤によって容器内のプライマー液剤中のフィラー濃度の均一性が安定に保たれるため、スプレーガンに供給されるプライマー中のフィラー濃度も安定に維持される。このため、プライマーに対するフィラーの添加量(重量%)が同じである場合、フィラー・分散剤内添プライマーの方がフィラー後添プライマーに比べて、スプレーガンに供給されるフィラー内添液剤のフィラー濃度が安定である分、ミストの発生を少なくできると考えられる。
【0043】
また、分散維持機能剤の内、増粘剤を含有するフィラー・分散剤内添プライマーについては、プライマー液剤の粘度上昇によってフィラーに付着した液滴のフィラーからの離脱を生じにくくすることで、ミストの発生を少なくできる。ここで増粘剤としては、液滴形成のための芯材となるフィラーよりも格段に微細な増粘用フィラー(例えば、比表面積が、芯材となるフィラーの10倍以上のもの。あるいは、平均粒径が芯材となるフィラーの2分の1以下のもの。)、あるいは、液状増粘剤(例えば酸化ポリエチレン、疎水性に修飾されたエチレンオキシドエーテルコポリマー、疎水性ポリ(メタ)アクリル酸、疎水性ヒドロキシエチルセルロース、疎水性アクリルアミド、アエロジル等)を用いることが好ましい。
【0044】
(評価試験)
本発明に係るフィラー・分散剤内添プライマー(後述の実施例1、2、3の3種)と、フィラー無しプライマー(比較例1)、フィラー後添プライマー(比較例2)とを用いて下記の表6に示す評価方法にて評価試験を行った。
実施例1、2、3のプライマー、及び、比較例1、2のプライマーは、いずれも2液反応硬化型のプライマーである。使用した3種のフィラー・分散剤内添プライマー(実施例1、2、3)は、いずれも、2液(主剤と硬化剤)の内、主剤のみがフィラー内添液剤であり、硬化剤はフィラーを含有していないプライマー液剤である、構成のものを採用している。
【0045】
以下、表1〜5を参照して、実施例1、2、3、比較例1、2のプライマーの配合を説明する。なお、表1〜5において、主剤を構成する各成分の含有量は主剤の全重量に対する重量%、硬化剤を構成する各成分の含有量は硬化剤の全重量に対する重量%を表示している。また、表5のフィラー(ポルトランドセメント)の含有量(%)は、セメント成分(クリンカー成分)の純度を示す。評価試験は、表6に示す各評価方法に従い、それぞれ複数の供試材について実施した。複数回の評価試験において使用したプライマーの構成成分にはばらつきがある。表1〜5における各プライマーの構成成分の含有量(%)は、評価試験に使用したプライマーの含有量の範囲を示す。
【0046】
下記の表1に実施例1のフィラー・分散剤内添プライマーの配合を示す。
このフィラー・分散剤内添プライマーは、フィラーとしてセメント(ポルトランドセメント)と、酸化チタン(TiO)を含有するものである。酸化チタンは、着色剤として機能するフィラーである。また、主剤に、分散維持機能剤として沈降防止剤(酸化ポリエチレン系沈降防止剤)を含有している。この酸化ポリエチレン系沈降防止剤は、増粘剤及び揺変剤としても機能するものである。
【0047】
【表1】

【0048】
下記の表2に実施例2のフィラー・分散剤内添プライマーの配合を示す。
このフィラー・分散剤内添プライマーは、フィラーとしてセメントを含有していないものである。また、主剤に、分散維持機能剤として増粘剤及び揺変剤を含有している。
【0049】
【表2】

【0050】
下記の表3に実施例3のフィラー・分散剤内添プライマーの配合を示す。
このフィラー・分散剤内添プライマーは、揺変剤を変更した(セピオライトを使用した)点のみが実施例2のフィラー・分散剤内添プライマーと異なるものであり、揺変剤以外の構成は実施例2のフィラー・分散剤内添プライマーと同じになっているものである。
【0051】
【表3】

【0052】
下記の表4にフィラー無しプライマー(比較例1)の配合を示す。
【0053】
【表4】

【0054】
下記の表5にフィラー後添プライマー(比較例2)の配合を示す。
【0055】
【表5】

【0056】
下記の表6に評価方法を纏めて示す。また、下記表7に、表6の評価方法に基づく評価結果を示す。
下記の表6、表7において、「塗布性(ミスト飛散量)」、「塗布性(フィラー沈殿)」、「塗布性(ダレ抵抗性)」、「塗布管理容易性」、「下地隠ぺい性」、「下地の微細気孔の埋め込み性」の評価は、いずれも、試験用に用意した下地材の立面にプライマーをスプレー塗布(本明細書においては、スプレー塗工とも言う)して行った。
下地材としてはコンクリート板と、菱形金網(いわゆるラス金網)を内設した木型枠内へのモルタル吹き付けによって作製した空隙率の高いモルタル板(以下、ポーラス下地とも言う)とを用意した。モルタル板作製用の木型枠は、その内側に、菱形金網を型枠底板かたモルタル吹き付け厚の半分程度の高さになるようにして内設したものである。
上述の6種の評価のうち「下地の微細気孔の埋め込み性」の評価はモルタル板を用いて行い、他はコンクリート板を用いて行った。なお、使用したモルタル板の空隙率は15〜30%である。
【0057】
【表6】

【0058】
【表7】

【0059】
「防水層のピンホール抑制」の評価は、「下地の微細気孔の埋め込み性」の評価にてモルタル板に形成したプライマー層に2液反応型ポリウレタン樹脂からなる防水層(塗膜層。つまり、中実な熱硬化性樹脂層)を、2液の液状樹脂材料(主剤と硬化剤)のスプレー塗布によって形成して行った。「接着性」、「リコート性」、「防水層の膜厚管理容易性」の評価は、コンクリート板にプライマーをスプレー塗布して形成したプライマー層に、2液反応型ポリウレタン樹脂からなる防水層(塗膜層。つまり、中実な熱硬化性樹脂層)を、2液の液状樹脂材料(主剤と硬化剤)のスプレー塗布によって形成して試験体を作製して行った。
実施例1、2、3、比較例1のプライマーの下地材に対するスプレー塗工は、ひとつの容器にて主剤と硬化剤とを混合して得たプライマーを、図1に例示した構成のプライマー塗工装置を用いて下地材に吹き付け塗布した。比較例2のプライマーの下地材に対するスプレー塗工は、ひとつの容器にて主剤、硬化剤、フィラーを混合し、常時攪拌して、図1に例示したプライマー塗工装置を用いて下地材に吹き付け塗布した。
【0060】
実施例1、2、3のプライマーのスプレー塗布(塗工)時のミスト飛散量は、比較例1、2のプライマーに比べて大幅に減少した。比較例1、2のプライマーのスプレー塗布時のミスト飛散量は同程度であった。これに対して、実施例1、2、3のミスト飛散量は、いずれも比較例1、2に比べて格段に少なかった。このため、表7の塗布性(ミスト飛散量)の実施例1、2、3欄には「少ない」を表示している。
【0061】
実施例1、2、3のプライマーについては、主剤と硬化剤とを混合攪拌して攪拌停止後に5分程度静置した後に容器底部を確認したところ、フィラーの沈殿は認められなかった。これに対して、比較例2のプライマーは、主剤、硬化剤を混合攪拌した混合液にフィラーを投入して攪拌した後、攪拌を停止したところフィラーは真っ直ぐに沈降した。攪拌停止から5分程度静置した後に、容器底部を確認したところ、フィラーの沈殿が認められた。比較例2のプライマーについては、フィラー後添後の混合液を常時攪拌しながら、スプレー塗布に使用した。
【0062】
実施例1、2、3、比較例1、2のプライマーをそれぞれコンクリート板の立面下地に設定した塗布領域に塗布し、硬化後に、垂れ長さを確認したところ、比較例1、2のプライマーについては、垂れ長さが1cm以上になっている箇所が複数確認された。これに対して、実施例1、2、3のプライマーについては、垂れ長さが2mm以上の垂れ箇所が存在しなかった。実施例2、3のプライマーについては、実施例1のプライマーに比べて垂れ長さが格段に短かったため、表7中の塗布性(ダレ抵抗性)欄に◎を表示した。
【0063】
実施例1、2、3、比較例1、2のプライマーをそれぞれコンクリート板に塗工後に、数m離れた所から塗布ムラや塗布残し部分を目視確認したところ、比較例1の方が比較例2に比べて塗布ムラや塗布残しが多く確認できた。また、実施例1、2、3のプライマーについては、塗布ムラや塗布残しが殆ど目視確認できず、比較例2に比べても、塗布ムラや塗布残しの箇所が格段に減少した。このため、実施例1、2、3について表7の「塗布管理容易性」欄に○を表示した。また、表7の「下地隠ぺい性」も、塗布管理容易性と同様の評価となるため、実施例1、2、3、比較例1、2について「下地隠ぺい性」欄には塗布管理容易性欄と同じ評価を表示した。
【0064】
なお、実施例1,比較例2にて使用したポルトランドセメントは、比表面積が3000〜3500cm/g程度であり、実施例2、3に着色剤、増粘剤、揺変剤として含有させたフィラーに比べて粒子サイズが格段に大きい(表面積比で10倍以上)ものである。比較例2(増粘剤や揺変剤を含んでいない)のプライマーをコンクリート板に塗布したときには、ポルトランドセメント粒子を下地表面に残してプライマー中の液部が下地に浸透する傾向があり、実施例1、2、3に比べて塗布ムラや塗布残しが生じやすいことが判った。
【0065】
表6、表7の「下地の微細気孔の埋め込み性」の評価は、コンクリート板とは別に用意した既述のモルタル板(ポーラス下地)に実施例1、2、3、比較例1、2のプライマーをそれぞれプライマー塗工装置を用いてスプレー塗布し、硬化後の塗膜のピンホールの有無を目視確認したものである。比較例1、2のプライマーは、いずれも、ピンホールの存在が認められた。比較例1に比べて比較例2の方がピンホールの数が格段に少なかった。また、実施例1、2、3のプライマーによって形成したプライマー層についてはピンホールの存在が認められなかった。実施例1、2、3については、プライマーを塗布した領域の気孔を全て埋め込むことができた。但し、実施例1のプライマーによって形成したプライマー層については、気孔に対応する箇所が大きく窪んでいる箇所が存在した。これに対して、実施例2、3のプライマーによって形成したプライマー層については、実施例1に比べて表面の凹凸が格段に小さかった。このため、実施例2、3について表7の「下地の微細気孔の埋め込み性」欄に◎を表示した。
【0066】
表6、表7の「防水層のピンホール抑制」の評価は、上述の「下地の微細気孔の埋め込み性」の評価のためにポーラス下地にプライマーを塗布して形成したプライマー層に2液反応型ポリウレタン樹脂からなる防水層を、2液の液状樹脂材料(主剤と硬化剤)のスプレー塗布によって形成し、この防水層の目視確認によって行ったものである。
防水層は、膜厚2mmとなるように形成し、この防水層を目視確認した。比較例1、2の試験施工によって形成した防水層については、僅かながらピンホールの存在が確認された。実施例1、2、3の試験施工によって形成した防水層についてはピンホールが認められなかった。
下地の微細気孔の埋め込み性が良ければ、プライマー上に塗工するウレタンにはピンホールができ難いことを確認できた。
【0067】
表6、表7の「接着性」の評価は、既述のコンクリート板にプライマー層及び防水層を形成してなる試験体について、JIS K 6854の剥離接着強さ試験によってコンクリート板に対する防水層の接着強度を調べたものである。実施例1、2、3の試験体の方が比較例1、2の試験体に比べて高い接着強度が得られた。実施例1、2、3の試験体の接着強度は相互の差は殆ど無かった。比較例1、2の試験体の接着強度の相互の差も殆ど無かった。
【0068】
表7の「リコート性」の評価は、表6記載のように行った。
実施例1、2、3の試験体及び比較例2の試験体については、同程度の接着強度が得られた。比較例1の試験体は、実施例1、2、3、比較例2の試験体に比べて接着強度が格段に低かった。
【0069】
表7の「防水層の膜厚管理容易性」の評価は、表6記載のように、目視による評価と、機器(明度計)による評価とを行った。防水層を形成するための液状樹脂材料(2液反応型ポリウレタン樹脂からなる防水層を形成するための2液反応型の液状樹脂材料)は、無機顔料及び/又は有機顔料を混入分散(ここでは2液の液状樹脂材料(主剤と硬化剤)のうちの一方に混入)したグレー色のものである。この液状樹脂材料(2液を混合したもの)はグレー色の半透明のものであり、スプレー塗布によって形成される塗膜の膜厚が大きいほど、プライマー層を視認しにくくなり隠蔽度が高まる。
【0070】
実施例1のプライマーによってコンクリート板にプライマー層を形成してなる供試材を複数用意し、前記液状樹脂材料をスプレー塗布して、プライマー層が目視確認できなくなる(目視確認できなくなったことを、以下、液状樹脂材料の塗膜によってプライマー層を隠蔽をした、こととして扱う)液状樹脂材料の膜厚を計測したところ、その膜厚はほぼ一定であった。液状樹脂材料における顔料の含有量を適宜変更して同様の試験を行ったところ、顔料の含有量が同じであればプライマー層を隠蔽できる液状樹脂材料の膜厚はほぼ一定であることを確認できた。顔料の含有量を適宜調整した液状樹脂材料を、実施例2のプライマーによってコンクリート板に形成したプライマー層、実施例3のプライマーによってコンクリート板に形成したプライマー層にそれぞれスプレー塗布した場合についても、同様に、顔料の含有量が同じであればプライマー層を隠蔽できる液状樹脂材料の膜厚はほぼ一定であることを確認できた。
このことから、実施例1、2、3のプライマーによってコンクリート板に形成したプライマー層にそれぞれ液状樹脂材料をスプレー塗布した場合、目視にて防水層の膜厚管理を行えることを確認できた。
【0071】
一方、比較例1のプライマーを用いてプライマー層をコンクリート板に形成した供試材を複数用意し、それぞれに液状樹脂材料(顔料含有量は、実施例1、2、3のプライマーを使用して作製した供試材に塗布した液状樹脂材料と同じ)をスプレー塗布したところ、プライマー層を隠蔽できる液状樹脂材料の膜厚は、実施例1、2、3のプライマーによってコンクリート板に形成したプライマー層に液状樹脂材料をスプレー塗布した場合に比べて格段にばらつきが大きかった。比較例2のプライマーを用いてプライマー層をコンクリート板に形成した供試材についても同様の試験を行ったところ、プライマー層を隠蔽できる液状樹脂材料の膜厚は、実施例1、2、3のプライマーによってコンクリート板に形成したプライマー層に液状樹脂材料をスプレー塗布した場合に比べて格段にばらつきが大きかった。但し、比較例2のプライマーを用いて作製した供試材については、比較例1のプライマーを用いて作製した供試材に比べて、プライマー層を隠蔽できる液状樹脂材料の膜厚のばらつきは若干小さかった。
【0072】
比較例1のプライマーは顔料及びフィラーを含有していないため、これを用いて作製した供試材には、フィラー(ポルトランドセメント)を含有している比較例2のプライマーに比べて透明度の高いプライマー層が形成される。このため、プライマーを塗布したコンクリート板表面の明度のばらつきが直接的に、プライマー層を隠蔽できる液状樹脂材料の膜厚に影響を与えて、プライマー層を隠蔽できる液状樹脂材料の膜厚のばらつきが大きくなるものと考えられる。プライマーを塗布したコンクリート板表面の明度は、コンクリート板表面の粗さや、コンクリート板表層へのプライマーの浸入程度によってもばらつきが生じるため、これがプライマー層を隠蔽できる液状樹脂材料の膜厚に影響を与えるものと考えられる。一方、比較例2のプライマーを用いて作製した供試材の場合は、プライマー層中におけるフィラー(ポルトランドセメント)の密度のばらつきがプライマー層の明度のばらつきの原因となり、これがプライマー層を隠蔽できる液状樹脂材料の膜厚に影響を与え、実施例1、2、3のプライマーによってコンクリート板に形成したプライマー層に液状樹脂材料をスプレー塗布した場合に比べてばらつきが大きくなるものと考えられる。
【0073】
また、プライマー層が目視確認できなくなる膜厚の把握にかえて、液状樹脂材料の塗膜の明度を明度計を用いて計測し、この明度計測値に基づいて、前記試験用液状樹脂材料の塗膜によってプライマー層が隠蔽されたときの液状樹脂材料の塗膜の膜厚を計測したところ、実施例1、2、3のプライマーによって形成したプライマー層の隠蔽、比較例1、2のプライマーによって形成したプライマー層の隠蔽、に要する液状樹脂材料の塗膜の膜厚は、プライマー層の隠蔽を目視で確認した場合と殆ど同じであり、実質的に目視確認の場合と同等の結果が得られた。
このため、表7の「防水層の膜厚管理容易性」欄において、実施例1、2、3に○、比較例1に×、比較例2に△を表示した。
【0074】
図3のように、本発明者は、プライマー層に塗布した液状樹脂材料の塗膜の膜厚と該塗膜の明度(塗膜材質の固有の明度ではなく、塗膜の表面側から観測される見かけの明度)との間に相関関係が存在することを見出した。
図3は、顔料を含有する半透明の液状樹脂材料(2液反応型ウレタン樹脂からなる防水層を形成するための液状樹脂材料)の塗膜の膜厚と、明度との関係の一例を示す図(グラフ)である。図3は、具体的には、実施例1のプライマーによってコンクリート板にプライマー層(白色顔料(酸化チタン)を含有)を形成した供試材を2つ作製し、それぞれの供試材のプライマー層に、顔料(具体的にはカーボンブラック及び酸化チタン。色はグレー。以下、グレー顔料とも言う)を混入分散した2液反応型ポリウレタン系の液状樹脂材料をスプレー塗布し、その塗膜の膜厚と明度との関係を調べたものである(図3の試験1、2)。
【0075】
図3の試験1、2で使用した液状樹脂材料は、顔料を含有していない主剤と、グレー顔料を含有する硬化剤とからなるものである。試験1の液状樹脂材料は、グレー顔料を4.2%の含有量で含有する硬化剤を用い、試験2の液状樹脂材料は、グレー顔料0.35%の含有量で含有する硬化剤を用いている。液状樹脂防水材の硬化剤におけるグレー顔料の含有量は硬化剤の全重量に対する重量%である。試験1、2の液状樹脂材料は、主剤と硬化剤との配合比を互いに同じに揃えている。
試験2の液状樹脂材料は、例えば膜厚0.5mm程度の薄膜の塗膜に、目視で半透明性が認められるもの(半透明液状樹脂防水材)であるが、試験1の液状樹脂材料は、膜厚0.5mm程度の薄膜の塗膜に目視で半透明性が認められないもの(着色液状樹脂防水材)であった。
【0076】
2つの供試材のプライマー層の明度を明度計を使用して計測したところ、明度は92程度(明度92±3の範囲)であった。
試験2にて使用した液状樹脂材料の塗膜の明度は、膜厚2.5mmで、該液状樹脂材料の塗膜に固有の明度(図3では43程度(43±1)。以下、固有値とも言う)に達し、膜厚が3〜4mm程度でも明度は同じである。この液状樹脂材料の塗膜は、膜厚2.5mmでプライマー層を隠蔽できる。なお、図3において縦軸の明度は値が大きいほど、明度が高い(白に近い)ことを示す。
【0077】
図3に示すように、試験1における塗膜厚さが概ね0〜0.6mmの範囲、及び試験2における塗膜厚さが概ね0〜1mmの範囲は、膜厚が増大するほど明度の値が低くなる関係がある。図3の結果から、プライマー層に塗布した液状樹脂材料の塗膜の膜厚と該塗膜の明度との間に相関関係が存在することが明らかである。このことは、塗膜層(中実な熱硬化性樹脂層)である防水層を形成するための液状樹脂材料であって、顔料を含有する半透明の液状樹脂材料について共通する。また、スプレー塗布に限定されず、例えばローラーや鏝や刷毛等の塗工用手工具を用いた手塗り塗布においても共通する。
【0078】
このため、液状樹脂材料のスプレー塗布等による塗工作業において、液状樹脂材料の塗膜の明度の値が該塗膜の固有値に達すれば、液状樹脂材料の塗膜にプライマー層を隠蔽(プライマー層が、観測される明度に影響を与えない)できる膜厚が確保できていることを把握できる。
但し、このことは、上述の実施例1、2、3のようにフィラーが均等に分散されたプライマー層に液状樹脂材料の塗布によって防水層を形成する場合に有効であり、比較例2のようにフィラー密度が不均一(フィラー密度のばらつきが大きい)のプライマー層に液状樹脂材料の塗布によって防水層を形成する場合では有効にならない。
【0079】
本発明に係る実施形態の防水工法にあっては、液状樹脂材料のスプレー塗布等による塗工作業において、液状樹脂材料の塗膜の明度に基づいて前記液状樹脂材料の塗膜の厚さを判定し(厚さ判定工程を行う)、膜厚管理に利用することも可能である。この厚さ判定工程は、明度計を用いて計測した明度に基づいて行うことができるが、これに限定されず、例えば、明度別に着色した色見本を使用して目視判定した明度に基づいて行うことなども可能である。この厚さ判定工程を具備する防水工法によれば、液状樹脂材料の塗膜の明度が塗膜の固有値となっていることを確認することで、液状樹脂材料の塗膜にプライマー層を隠蔽できる膜厚が確保できていることを把握できる。なお、この防水工法(厚さ判定工程を具備する防水工法)は、前記防水層を形成するための前記液状樹脂材料として、前記プライマーとは明度が異なる色を有するものを使用することが前提である。
【0080】
また、ポリウレタン樹脂等の経時的に黄変しやすい熱硬化性樹脂からなる防水層を形成するための前記液状樹脂材料としては、黄色の顔料を混入したものを用いることも好適である。これにより、防水層の外観上の色の変化を抑えることができ、変色が美観に影響を与えることを防止できる。
【0081】
プライマー液剤へのフィラーの内添によって、現場でのフィラーの後添を省略して、フィラーが均等に分散されたプライマー層を形成するには、既述のように分散維持機能剤を含有するフィラー内添液剤を具備する構成のプライマーを採用することが有効であり、特に、フィラー内添液剤として分散維持機能剤として揺変剤を含有する構成のものを採用することが好適である。揺変剤を含有する構成のフィラー内添液剤は、揺変剤の含有によってT.I.値を高めることができる。このため、既述のように、フィラー内添液剤を収容した容器を長期保管してもフィラー内添液剤中のフィラーの分散状態が変動しにくく、また、搬送時の振動の作用などによって、フィラー内添液剤中のフィラーの分散状態が変動して容器内でフィラー濃度のばらつきが生じてしまうといった不都合を防止することができ、液剤中のフィラーの分散状態の安定化に有効に寄与(貯留安定性の向上)するとともに、揺変剤の作用によってプライマーの回転粘度の上昇を抑えることができるため、スプレー塗布等によるプライマーの塗布作業を効率良く行える。さらに、塗布後のプライマーの塗膜中におけるフィラーの分散状態も安定に維持できるため、フィラーが均等に分散されたプライマー層の形成に有効に寄与するものである。
【0082】
下記表8は、比較例1,2、比較例3(後述)、実施例1のプライマーの回転粘度を纏めて示す。比較例3のプライマーは、比較例2の変形例であり、主剤及び硬化剤に対するセメント(ポルトランドセメント)の配合比(重量比)を2倍にしたものである。
【0083】
【表8】

【0084】
表8を参照して判るように、実施例1のプライマーは、比較例1、2、3に比べてチクソインデックス値(T.I.値)が高い。実施例1のプライマーは、6rpmにおける回転粘度が比較例1、2のプライマーに比べて高いが、60rpmにおける回転粘度はフィラーを含有する比較例2のプライマーよりも低い。また、実施例1のプライマーの60rpmにおける回転粘度は比較例3のプライマーの60rpmにおける回転粘度を大きく下回る。
【0085】
これらのことから、この実施例1のプライマーは、比較例2のプライマーに比べて貯留安定性に優れ(フィラー内添液剤中のフィラーの分散状態が変動しにくい)、かつ、比較例2のプライマーに比べて塗布作業性を向上できるものと言える。また、この実施例1のプライマーによれば、フィラーを後添した比較例2、3のプライマーに比べて、スプレー塗布の際のスプレーガンへの材料(プライマー)の大量圧送を低い圧力で行うこと可能であり、スプレーガンへのプライマーの圧給のためのポンプの消費エネルギー及び運転コストの低減の点でも有利である。
【0086】
本発明に係る実施形態の防水工法で用いるプライマーは、粘性を低く抑えることができ、スプレー塗布を容易に実現でき、スプレー塗布による施工効率の向上を図ることができるといった利点がある。
また、従来、フィラー入りのプライマーとしては、例えば吹き付けモルタルのようなポーラスな下地表面の空孔を埋め込んで、ピンホール等の欠陥の無い防水層の安定形成に行えるようにする下地処理材(以下、フィラー入り下地処理材兼プライマー)が知られている。しかしながら、従来のフィラー入り下地処理材兼プライマーは粘度(回転粘度)が比較的高く、スプレー塗布は適用できず、鏝等の塗工用手工具を用いた手塗り塗布で施工されるものとなっている。
これに対して、本発明に係る実施形態の防水工法で用いるプライマーは、フィラーが混入されているものの、従来のフィラー入り下地処理材兼プライマーに比べて回転粘度を比較的低く抑えることができ、上述の表8の試験結果から判るように、スプレー塗布を容易に実現できるものであり、スプレー塗布による施工効率の向上を図ることができる。
【0087】
本発明に係る防水工法は、フィラー内添液剤を具備する構成のプライマーを採用することで、現場でのプライマーへのフィラーの後添を省略できる。本発明に係る防水工法であれば、フィラーがプライマー液剤中に予め内添された状態になっている構成のプライマーを使用するため、現場でフィラーをプライマー液剤に混入してフィラーが所望の配合比で配合されたプライマーを得る作業が不要であり、現場での防水工事の作業効率を向上できる。
【0088】
地下構造物にプライマー層及び防水層を形成する防水工事を行うための作業現場は、充分な作業スペースが確保できないことが多々発生する。しかしながら、上述のように本発明に係る防水工法であれば、現場でフィラーをプライマー液剤に混入してフィラーが所望の配合比で配合されたプライマーを得る作業が不要であるため、狭隘な現場での防水工事の作業効率の向上に有効に寄与する。
【0089】
また、上述のように、本発明に係る防水工法では、フィラーに加えて分散維持機能剤もプライマー液剤中に予め内添された状態になっている構成のプライマーを使用することが好適である。このような構成のプライマーの使用により、現場にてフィラー及び分散維持機能剤をプライマー液剤に混入してフィラー及び分散維持機能剤が所望の配合比で配合されたプライマーを得る作業が不要となる。したがって、現場での防水工事の作業効率を向上でき、特に狭隘な現場での防水工事の作業効率の向上に有効に寄与する。
【0090】
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれら実施例に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付のクレームの範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0091】
1…地下構造物、防水下地(地中連続壁)、1a…下地面、2…プライマー層、3…防水層、41…主剤、42…硬化剤、43…プライマー、51、52…容器、53…混合用容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下構造物の防水工法であって、
フィラーが内添されたプライマーを収容した容器を現場に搬入し、前記容器内のプライマーを、地下構造物の壁面を形成する無機質材製の防水下地に塗布するプライマー施工工程と、このプライマー施工工程の後に、前記防水下地に熱硬化性樹脂からなる防水層を形成するための液状樹脂材料を塗布し、該液状樹脂材料の塗膜の硬化によって前記防水層を形成する防水層形成工程とを具備する地下構造物の防水工法。
【請求項2】
前記プライマーが、増粘剤、揺変剤、沈降防止剤から選ばれる1以上を含有しているものである請求項1に記載の地下構造物の防水工法。
【請求項3】
前記プライマーが、濡れ性向上剤を含有しているものである請求項1又は2に記載の地下構造物の防水工法。
【請求項4】
前記プライマーに内添するフィラーが、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、炭酸カルシウム、防錆顔料、着色顔料、セメント、揺変性付与フィラー、導電性カーボンから選ばれる1又は複数である請求項1〜3のいずれか1項に記載の地下構造物の防水工法。
【請求項5】
前記防水層を形成するための前記液状樹脂材料として、前記プライマーとは明度が異なる色を有するものを使用する請求項1〜4のいずれか1項に記載の地下構造物の防水工法。
【請求項6】
前記プライマー施工工程にて防水下地に塗布したプライマーの塗膜の硬化によって形成されたプライマー層に前記液状樹脂材料を塗布することで、前記液状樹脂材料の塗膜によって、前記プライマー層を目視確認できないように隠蔽する請求項5記載の地下構造物の防水工法。
【請求項7】
前記防水層形成工程にて、前記防水下地に形成した前記液状樹脂材料の塗膜の明度に基づいて前記液状樹脂材料の塗膜の厚さを判定する厚さ判定工程を行う請求項5又は6に記載の地下構造物の防水工法。
【請求項8】
前記液状樹脂材料として黄色のものを用いる請求項5〜7のいずれか1項に記載の地下構造物の防水工法。
【請求項9】
前記防水層として、1液型ポリウレタン樹脂、2液反応型ポリウレタン樹脂、1液型ポリウレア樹脂、2液反応型ポリウレア樹脂、あるいは、これらの発泡体、から選択される1つからなるものを形成する請求項1〜8のいずれか1項に記載の地下構造物の防水工法。
【請求項10】
前記液状樹脂材料として速硬化性のものを用いる請求項1〜9のいずれか1項に記載の地下構造物の防水工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−2249(P2013−2249A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137687(P2011−137687)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000133342)株式会社ダイフレックス (24)