説明

地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造

【課題】車両通行により生じる蓋のガタツキと、蓋の受枠への過剰な食い込みを確実に防止することができる、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造を提供する。
【解決手段】地下構造物用蓋1と受枠2との嵌合構造において、蓋1が嵌め込まれる受枠2の内側周面(S2)は、上方に向って拡径するように傾斜し、蓋1の外側周面(S1)には、蓋1が受枠2に嵌め込まれた時に、受枠2の内側周面(S2)に当接する角部P1、P2が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造、特に、車両通行により生じる蓋のガタツキと、蓋の受枠への過剰な食い込みを確実に防止することができる、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、上下水道における地下構造物としての埋設管路への連絡口を開閉するために、地下構造物用蓋は、車道部分に埋設された受枠内に嵌め込まれている。
【0003】
このような地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造の一例が特許文献1(特開昭53−72357号公報)に開示されている。以下、この地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造を従来嵌合構造といい、図面を参照しながら説明する。
【0004】
図10は、従来嵌合構造を示す断面図、図11は、従来嵌合構造を示す部分拡大断面図である。
【0005】
図10および図11に示すように、従来嵌合構造は、円形状の蓋3が嵌合する受枠4の内側周面(S4)は、上方に向って連続的に拡径するように傾斜し、蓋3の外側周面(S3)は、下方に向って連続的に縮径するように傾斜し、受枠4の内側周面(S4)の傾斜角度(θ1)と蓋3の外側周面(S3)の傾斜角度(θ2)とは等しく、5°から10°の範囲内であることからなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭53−72357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来嵌合構造によれば、荷重が蓋3にかかった場合には、受枠4の内側周面(S4)の傾斜角度(θ1)と蓋3の外側周面(S3)の傾斜角度(θ2)とが等しいので、蓋3は、受枠4に対して面接触により嵌合する。このように、くさび効果が発生することにより蓋3は、ガタツキを発生させることなく受枠4に設置される。
【0008】
しかし、設置環境等により大型車両が頻繁に通過するような状況において、過大な荷重が絶えず蓋3にかかった場合には、蓋3は、受枠4の傾斜した内側周面(S4)に沿って下方向に滑り落ちるために、蓋3が受枠4に過剰に食い込んでしまう。この蓋3の食い込みは、過大な荷重を受ければ受けるほど進行し、食い込みの進行に伴い受枠4の傾斜した内側周面(S4)と蓋3の外側周面(S3)との間のくさび効果が一層強くなる。この結果、蓋3が受枠4に強固に拘束されるので、人力で蓋3を開けるのが非常に困難になる。
【0009】
また、蓋3の過剰な食い込みを防止するために、受枠4の内側周面(S4)の下方部にストッパー5を形成し、過剰な食い込みが発生する前に蓋3の下面をストッパー5に当接させることもある。
【0010】
しかし、この場合、適正な食い込みとなる前に蓋3がストッパー5に当接することになるので、蓋3は、受枠4に対して、くさび効果による拘束が低く、いわゆる、平受けに近い状態となる。この結果、荷重がかかった時には、平受け部において蓋3と受枠4が強く接触すると同時に、衝撃により蓋3のズリ上がりも発生する。
【0011】
荷重が連続的にかかる状況になると、強い接触の衝撃とズリ上がりが絶えず発生することになるので、平受け部や受枠4の内側周面(S4)、蓋3の外側周面(S3)に摩耗が生じ、この結果、蓋3のガタツキが発生する。仮に、荷重がかかった状態でも蓋3が当接しない高さにストッパー5を形成した場合には、前述したように、人力で蓋3を開けるのが困難な状態にまで蓋3が食い込んでしまう。
【0012】
荷重は、車両通行等により設置場所によって様々な条件となるため、予め形成されたストッパー5で全ての蓋に対してガタツキを起こさずに蓋3の沈み込みを確実に防止することは極めて困難である。
【0013】
さらに、蓋3の端部に局所的に荷重がかかった場合、すなわち、蓋3に偏荷重がかかった場合、荷重がかかった側の蓋3の端部は、受枠4の内側周面(S4)を滑り落ち、蓋3の反対側の端部は、受枠4の内側周面(S4)をズリ上がるために、蓋3は、受枠4に対して斜めに嵌合することになる。荷重のかかり具合が車両のタイヤの転がりと考えた場合には、蓋3の上面をタイヤが転がっていくために、蓋3の滑り落ちとズリ上がりの両現象が交互に連続して発生することになる。この結果、前記両現象が生じた蓋3と受枠4の接触部分のみが摩耗するので、蓋3は、摩耗していない部分を軸としてガタつくことになる。
【0014】
従って、この発明の目的は、車両通行により生じる蓋のガタツキと、蓋の受枠への過剰な食い込みを確実に防止することができる、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は、上記目的を達成するためになされたものであって、下記を特徴とするものである。
【0016】
請求項1に記載の発明は、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造において、前記蓋が嵌め込まれる前記受枠の内側周面は、上方に向って拡径するように傾斜し、前記蓋の外側周面には、前記蓋が前記受枠に嵌め込まれた時に、前記受枠の前記内側周面の一部を塑性変形させる塑性変形手段が形成されていることに特徴を有するものである。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造において、前記塑性変形手段は、角部からなっていることに特徴を有するものである。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造において、前記塑性変形手段は、前記蓋の前記外側周面に1つ、または、前記外側周面の高さ方向に間隔をあけて複数個、設けられていることに特徴を有するものである。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3の何れか1つに記載の、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造において、前記塑性変形手段は、前記蓋の前記外側周面の周方向の少なくとも一部に形成されていることに特徴を有するものである。
【0020】
請求項5に記載の発明は、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造において、前記蓋が嵌め込まれる前記受枠の内側周面は、上方に向って拡径するように傾斜し、前記受枠の前記内側周面には、前記蓋が前記受枠に嵌め込まれた時に、前記蓋の前記外側周面の一部を塑性変形させる塑性変形手段が形成されていることに特徴を有するものである。
【0021】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造において、前記塑性変形手段は、角部からなっていることに特徴を有するものである。
【0022】
請求項7に記載の発明は、請求項5または6に記載の、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造において、前記塑性変形手段は、前記受枠の前記内側周面に1つ、または、前記内側周面の高さ方向に間隔をあけて複数個、設けられていることに特徴を有するものである。
【0023】
請求項8に記載の発明は、請求項5から7の何れか1つに記載の、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造において、前記塑性変形手段は、前記受枠の前記内側周面の周方向の少なくとも一部に形成されていることに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、蓋と受枠との嵌合構造において、蓋が嵌め込まれる受枠の内側周面を、上方に向って拡径するように傾斜させ、受枠の内側周面に当接する塑性変形手段としての角部を蓋の外側周面に形成することによって、車両通行により生じる蓋のガタツキと、蓋の受枠への過剰な食い込みを確実に防止することができる。蓋の外側周面に当接する塑性変形手段としての角部を受枠の内側周面に形成した場合も同様な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造を示す部分断面図である。
【図2】図1のA部拡大図である。
【図3】図2のB部拡大図である。
【図4】蓋の外側周面に角部が張り出して形成された、この発明の、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造を示す部分断面図である。
【図5】蓋の外側周面が階段状に形成された、この発明の、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造を示す部分断面図である。
【図6】蓋の外側周面が円弧面状に形成された、この発明の、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造を示す部分断面図である。
【図7】受枠側に角部が形成された、この発明の、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造を示す部分断面図である。
【図8】図7のC部拡大図である。
【図9】図8のD部拡大図である。
【図10】従来嵌合構造を示す断面図である。
【図11】従来嵌合構造を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、この発明、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造の一実施態様を、図面を参照しながら説明する。
【0027】
図1は、この発明の、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造を示す部分断面図、図2は、図1のA部拡大図、図3は、図2のB部拡大図である。
【0028】
図1に示すように、この発明の、地下構造物用蓋1と受枠2との嵌合構造は、円形状の蓋1と受枠2との嵌合構造において、蓋1が嵌め込まれる受枠2の内側周面(S2)は、上方に向って連続的に拡径するように傾斜している。蓋1の外側周面(S1)には、蓋1の高さ方向の上部および下部の2箇所において、蓋1が受枠2に嵌め込まれた時に、受枠2の内側周面(S2)の一部を塑性変形させる塑性変形手段としての角部P1、P2が外側周面(S1)の全周に亘り形成されている。なお、角部は、1つまたは蓋1の高さ方向に間隔をあけて3つ以上形成しても良い。
【0029】
このように構成されている、この発明の、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造によれば、蓋1が受枠2内に嵌め込まれると、蓋1の外側周面(S1)と受枠2の内側周面(S2)とは、角部P1、P2の2箇所において接触する。さらに蓋1に荷重がかかると、蓋1の外側周面(S1)と受枠2の内側周面(S2)とが2箇所の角部P1、P2において塑性変形を起し、蓋1が受枠2に食い込む。
【0030】
例えば、角部P2が受枠2に食い込むと、図2および図3に示すように、蓋1の外側周面(S1)と受枠2の内側周面(S2)とは、図2および図3中、(K)で示すように、わずかな範囲であるが面接触する。角部P1においても基本的には同じである。
【0031】
また、図3に示すように、面接触部(K)の下部には、受枠2の内側周面(S2)の傾斜角度(θ1)よりも大きく、水平に近い角度の棚部(H)が形成される。このため、この棚部(H)がストッパーとなることにより蓋1の沈み込みによる過剰な食い込みを防止することができる。
【0032】
さらに、わずかな面接触部(K)においても、蓋1が受枠2に対して支持されることになる。この結果、蓋1に荷重がかかっても、蓋1は、それ以上、受枠2に食い込まず、しかも、車両の走行により蓋1に偏荷重がかかっても、蓋1のガタツキは生じない。
【0033】
この塑性変形により形成される面接触部(K)および棚部(H)は、設置場所で受ける荷重の大きさによって適度な形状が形成される。そのため、予めストッパーが形成された従来技術とは異なり、様々な設置場所に対応することが可能となる。
【0034】
また、上記効果を生じさせるためには、蓋1の材質を受枠2の材質より硬くすると良い。例えば、蓋1の材質をFCD700、受枠2の材質をFCD600とする。
【0035】
以上の実施例は、蓋1の外側周面(S1)にその全周に亘って角部P1、P2を形成したものであるが、蓋1は、図4に示すように、蓋1の外側周面(S1)にその全周に亘って1つの角部P3を形成し、受枠2の上部を内側に突出させたものであっても良い。
【0036】
また、蓋1は、図5に示すように、蓋1の外側周面(S1)を階段状に形成し、各段部に外側周面(S1)の全周に亘って角部P4、P5を形成したものであっても良い。
【0037】
また、蓋1は、図6に示すように、外側周面(S1)を外側に円弧状に湾曲して形成し、上部および下部の2箇所において角部P6、P7を外側周面(S1)の全周に亘り形成したものであっても良い。
【0038】
以上は、何れも、角部を蓋1の外側周面(S1)の全周に亘り形成したものであるが、角部を外側周面(S1)の周方向に断続的に形成しても良い。
【0039】
また、蓋1の外側周面(S1)に塑性変形手段としての角部を形成する以外に、受枠2の内側周面(S2)に、蓋1が受枠2に嵌め込まれた時に、蓋1の外側周面(S1)の一部を塑性変形させる塑性変形手段としての角部を形成しても良い。
【0040】
すなわち、図7に示すように、受枠2の内側周面(S2)に角部P8、P9を形成する。なお、角部は、1つまたは受枠2の高さ方向に間隔をあけて3つ以上形成しても良い。受枠2の内側周面(S2)に角部P8、P9を形成した場合においても、蓋1の外側周面(S1)と受枠2の内側周面(S2)とは、図7のC部拡大図である図8、および、図8のD部拡大図である図9中、(K)で示すように、わずかな範囲ではあるが面接触する。
【0041】
図9に示すように、この面接触部(K)の上部には、蓋1の外側周面(S1)の傾斜角度(θ2)よりも大きく、水平に近い角度の棚部(H)(図3参照)が形成される。このため、この棚部(H)がストッパーとなることにより蓋1の沈み込みによる過剰な食い込みを防止することができる。
【0042】
さらに、わずかな面接触部(K)においても、蓋1が受枠2に対して支持されることになる。この結果、蓋1に荷重がかかっても、蓋1は、それ以上、受枠2に食い込まず、しかも、車両の走行により蓋1に偏荷重がかかっても、蓋1のガタツキは生じない。
【0043】
この塑性変形により形成される面接触部(K)および棚部(H)は、設置場所で受ける荷重の大きさによって適度な形状が形成される。そのため、予めストッパーが形成された従来技術とは異なり、様々な設置場所に対応することが可能となる。
【0044】
この他、受枠2に形成する角部は、受枠2の内側周面(S2)の全周に亘り形成する以外に、内側周面(S2)の周方向に断続的に形成しても良い。
【0045】
以上説明したように、この発明によれば、蓋が嵌め込まれる受枠の内側周面を、上方に向って拡径するように傾斜させ、受枠の内側周面に当接する塑性変形手段としての角部を蓋の外側周面に形成することによって、車両通行により生じる蓋のガタツキと、蓋の受枠への過剰な食い込みを確実に防止することができる。蓋の外側周面に当接する塑性変形手段としての角部を受枠の内側周面に形成した場合も同様な効果がもたらされる。
【符号の説明】
【0046】
1:蓋
2:受枠
3:蓋
4:受枠
5:ストッパー
S1:蓋の外側周面
S2:受枠の内側周面
P1からP7:蓋の外側周面に形成した角部
P8、P9:受枠の内側周面に形成した角部
K:面接触部
H:棚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造において、
前記蓋が嵌め込まれる前記受枠の内側周面は、上方に向って拡径するように傾斜し、前記蓋の外側周面には、前記蓋が前記受枠に嵌め込まれた時に、前記受枠の前記内側周面の一部を塑性変形させる塑性変形手段が形成されていることを特徴とする、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造
【請求項2】
前記塑性変形手段は、角部からなっていることを特徴とする、請求項1に記載の、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造。
【請求項3】
前記塑性変形手段は、前記蓋の前記外側周面に1つ、または、前記外側周面の高さ方向に間隔をあけて複数個、設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造。
【請求項4】
前記塑性変形手段は、前記蓋の前記外側周面の周方向の少なくとも一部に形成されていることを特徴とする、請求項1から3の何れか1つに記載の、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造。
【請求項5】
地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造において、
前記蓋が嵌め込まれる前記受枠の内側周面は、上方に向って拡径するように傾斜し、前記受枠の前記内側周面には、前記蓋が前記受枠に嵌め込まれた時に、前記蓋の前記外側周面の一部を塑性変形させる塑性変形手段が形成されていることを特徴とする、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造。
【請求項6】
前記塑性変形手段は、角部からなっていることを特徴とする、請求項5に記載の、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造。
【請求項7】
前記塑性変形手段は、前記受枠の前記内側周面に1つ、または、前記内側周面の高さ方向に間隔をあけて複数個、設けられていることを特徴とする、請求項5または6に記載の、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造。
【請求項8】
前記塑性変形手段は、前記受枠の前記内側周面の周方向の少なくとも一部に形成されていることを特徴とする、請求項5から7の何れか1つに記載の、地下構造物用蓋と受枠との嵌合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−57435(P2012−57435A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204135(P2010−204135)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000231877)日本鋳鉄管株式会社 (48)
【Fターム(参考)】