説明

地下構造物用蓋の蓋本体

【課題】鋳鉄製部材の凹部に樹脂製のプレート部材を装着した地下構造物用蓋の蓋本体において、樹脂製のプレート部材のガタツキの発生を長期に亘り防止できるようにすること。
【解決手段】その表面側に凹部211を有する鋳鉄製蓋部210と、凹部211に着脱可能な樹脂製プレート220とを備え、樹脂製プレート220は、当該樹脂製プレートの下面と凹部211の底面との間に樹脂製シート260を介在させて、機械的手段により凹部211に装着固定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面を露出し地中に設置される地下構造物用蓋の蓋本体に関する。
【0002】
なお、本願明細書でいう「地下構造物用蓋」とは、下水道における地下埋設物,地下構造施設等と地上とを通じる開口部を閉塞するマンホール蓋,大型鉄蓋,汚水桝蓋、電力・通信における地下施設機器や地下ケーブル等を保護する開閉可能な共同溝用鉄蓋,送電用鉄蓋,配電用鉄蓋、上水道やガス配管における路面下の埋設導管及びその付属機器と地上とを結ぶ開閉扉としての機能を有する消火栓蓋,制水弁蓋,仕切弁蓋,空気弁蓋,ガス配管用蓋,量水器蓋等を総称する。
【背景技術】
【0003】
従来より、地下構造物用蓋においては、鋳鉄製の蓋本体の凹部に、エポキシ樹脂等からなる着色樹脂を充填することにより、色彩豊かなデザインとして路上の景観性を向上させたり、地下に埋設された施設や装置の表示をして維持管理の利便性や視認性を向上させることが行われている。
【0004】
このような地下構造物用蓋としては、特許文献1に記載の地下構造物用カラー鉄蓋がある。これは、蓋本体の表面に凸部と凹部とで模様を形成し、凹部に着色樹脂を充填したものである。
【0005】
しかしながら、このように鋳鉄製の蓋本体の凹部に着色樹脂を充填すると、着色樹脂が凝固する際の収縮によって、当初から蓋本体と着色樹脂との間に隙間を生じることがあり、隙間がない場合であっても内部応力が残存しているところに、車両の通過等による繰り返し荷重が加わることによって剥離が生じてしまい、景観性や視認性が悪化するという問題があった。
【0006】
また、景観性や視認性を回復させるためには、蓋本体自体を交換する必要があるため、維持管理者のコスト負担も大きくなるという問題があった。
【0007】
このような問題を解決するものとして、鋳鉄製のフレームの窪部に、樹脂製のベースプレートを嵌め込んで着脱可能に固定した地下構造物用蓋がある(特許文献2)。
【0008】
しかしながら、特許文献2の地下構造物用蓋においては、大型車輌の交通量が多い場合、樹脂製のベースプレートに水平方向の力が働いて横ずれが発生し、樹脂製のベースプレートの下面が摩耗して、樹脂製のベースプレートのガタツキが発生するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−299154号公報
【特許文献2】特開2010−84407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、鋳鉄製部材の凹部に樹脂製のプレート部材を装着した地下構造物用蓋の蓋本体において、樹脂製のプレート部材のガタツキの発生を長期に亘り防止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、表面を露出し地中に設置される地下構造物用蓋の蓋本体において、前記蓋本体は、その表面側に凹部を有する鋳鉄製蓋部と、前記凹部に着脱可能な樹脂製プレートとを備え、前記樹脂製プレートは、当該樹脂製プレートの下面と前記凹部の底面との間に樹脂製シートを介在させて、機械的手段により前記凹部に装着固定されたことを特徴とする。
【0012】
このように、樹脂製プレートと鋳鉄製蓋部の凹部との接触面に樹脂製シートを介在させることで、樹脂製プレートと凹部との接触面が改質され、樹脂製プレートの横ズレによる樹脂製プレート下面の摩耗が抑制され、ガタツキの発生を長期に亘り防止できる。
【0013】
前記接触面に介在させる樹脂製シートの材質は、硬すぎると樹脂製プレート下面が摩耗しやすくなり、柔らかすぎると樹脂製プレートの固定が不安定になりやすい。すなわち、樹脂製シートの材質は、樹脂製プレートの材質との関係において同程度の硬さを有するものを選択することが好ましく、具体的には、樹脂製シートの材質は樹脂製プレートと同材質とすることが好ましい。
【0014】
また、樹脂製プレート下面と鋳鉄製蓋部の凹部底面との接触による樹脂製プレート下面の摩耗をより確実に抑制する点から、樹脂製シートは、凹部底面の全面を覆う形状を有することが好ましい。
【0015】
更に本発明では、樹脂製プレートの少なくとも側面の一部を全周にわたって囲むようにパッキンを配置することが好ましい。このようにパッキンを配置することにより、樹脂製プレートの横ズレが抑制されるとともに、樹脂製プレートと鋳鉄製蓋部の凹部との接触面への土砂の浸入が抑制され、樹脂製シートによる摩耗低減効果を更に高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、鋳鉄製蓋部の凹部に装着した樹脂製プレートのガタツキの発生を長期に亘り防止できる。したがって、樹脂製プレートによる景観性や視認性を長期に亘り維持することができ、地下構造物用蓋の蓋本体に固定された樹脂製プレートの交換サイクルを延ばすことができるとともに鋳鉄製蓋部の寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の蓋本体を適用した地下構造物用蓋の一例を示し、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図2】図1に示す地下構造物用蓋の蓋本体の構成を示す分解斜視図である。
【図3】図1に示す地下構造物用蓋の蓋本体を構成する樹脂製プレートの裏面図である。
【図4】ICタグの装着状態を示す要部の断面図である。
【図5】図1(a)のB−B断面による蓋本体の要部の拡大断面図である。
【図6】本発明品と比較品の輪荷重試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
図1は、本発明の蓋本体を適用した地下構造物用蓋の一例を示し、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【0020】
図1に示す地下構造物用蓋100は仕切弁蓋であり、蓋本体200と、この蓋本体200を、蝶番機構400を介して開閉可能に支持する受枠500とを備えて構成されている。この地下構造物用蓋100は、蓋本体200の表面が地表に露出するように地中に設置される。
【0021】
図2は、蓋本体200の構成を示す分解斜視図である。蓋本体200は、その表面側に凹部211を有する鋳鉄製蓋部210と、この鋳鉄製蓋部210の凹部211に装着可能な樹脂製プレートとしてベースプレート220を備える。
【0022】
ベースプレート220は、耐摩耗性、耐衝撃性及び耐圧縮強度を有するポリカーボネート等の熱可塑性樹脂製で、射出成形等によって成形され、その表面には、スリップ防止及びデザインとして複数の凸部221が設けられている。また、ベースプレート220の表面には、弁栓類の種類、口径、流体の種類、流れ方向、管理番号等の情報を表示する各種の情報表示プレート230が情報伝達媒体として取り付けられる。更に、ベースプレート220の裏面側には、予め、六角ナット290がインサート成形されるとともに(図5参照)、無線で位置情報やメンテナンス情報等の読み取り及び書き込みが可能なICタグ240が情報記憶媒体として取り付けられる。
【0023】
ICタグ240は、具体的には、図3に示すベースプレート220の裏面に円形リブによって形成した筒状部222に挿入され、その下側から図2に示す弾性を有する樹脂発泡体からなる固定部材250を嵌め込むことで、図4に示すように、固定部材250の上面に載置された状態で筒状部222内の所定の高さ位置に配置される。そして、ICタグ240の装着位置がベースプレート220の表面側からわかるように、ベースプレート220の表面には、ICタグ240の装着位置に対応する位置に図2に示すICタグ位置表示マーク223が設けられている。
【0024】
また、本実施形態ではベースプレート220の裏面側に、材質がSUS304、M6の六角ナット290が12個インサート成形されている。本実施形態における六角ナット290の設置箇所は図3に示すとおりであるが、使用する個数が多い方がベースプレート220と鋳鉄製蓋部210をより強固に固定することができる一方、製作工数が増えることになるため、六角ナット290を設置する個数は蓋本体の形状、大きさによって、適宜、設定することができる。
【0025】
以上の構成を有するベースプレート220は、鋳鉄製蓋部210の凹部211に嵌め込まれ一体に固定される。図5は、その固定状態を示す図で、図1(a)のB−B断面による蓋本体200の要部の拡大断面図である。
【0026】
ベースプレート220を鋳鉄製蓋部210の凹部211に嵌め込み固定する際には、予め、六角ナット290をインサート成形したベースプレート220の下面と凹部211の底面との間に樹脂製シート260を介在させるとともに、ベースプレート220の下面周縁部及び側面下端部の全周を囲むようにパッキン270を配置する。そして、鋳鉄製蓋部210の裏面側から平座金300を介して高張力六角ボルト280をペースプレート220にインサート成形した六角ナット290に装着し、ベースプレート220と鋳鉄製蓋部210とを締結し、これによりベースプレート220を鋳鉄製蓋部210の凹部211に装着固定する。高張力六角ボルト280を取り外せば、ベースプレート220を鋳鉄製蓋部210から取り外せるようになり、ベースプレート220のみの交換が可能となる。なお、ベースプレート220を鋳鉄製蓋部210の凹部211に装着固定するための手段は、機械的手段であれば高張力六角ボルト280とインサート成形した六角ナット290に限定されず、タッピングねじや押しピンを使用してもよい。
【0027】
ベースプレート220の下面と凹部211の底面との間に介在させる樹脂製シート260は、図2に示すように、凹部211の底面の全面を覆う形状を有する。つまり、樹脂製シート260の平面形状は、凹部211の底面の平面形状と同じである。また、樹脂製シート260の材質は、ベースプレート220と同様にポリカーボネート等の熱可塑性樹脂製であり、本実施形態では、ベースプレート220と同材質(ポリカーボネート)としている。材質は、ポリカーボネートには限定されないが、エンジニアプラスチックが好ましい。樹脂製シート260の厚さは、0.1〜1.0mm程度とする。このような樹脂製シート260は、原板をトムソン型で打ち抜き成形することで得ることができる。
【0028】
パッキン270は、図2に示すように、ベースプレート220の下面周縁部及び側面下端部を囲む形状を有し、使用時には図5に示すように、ベースプレート220の下面周縁部及び側面下端部の全周を囲むように配置される。このような配置とするためには、パッキン270を、予め、ベースプレート220にその下面周縁部及び側面下端部の全周を囲むように接着しておくと簡単である。このほか、パッキン270を樹脂製シート260の上面周縁部を囲むように接着してもよい。パッキン270の材質は、止水性及び耐候性を有するものであれば限定されず、例えばクロロプレンゴム製とする。パッキン270は、射出成形にて成形することで得ることができる。
【0029】
ここで、ベースプレート220の外周には、図5に示すように、鋳鉄製蓋部210の凹部211内径よりわずかに径大となる縦断面形状が四分割円状の突起部224が全周にわたり形成されている。この突起部224が鋳鉄製蓋部210の凹部211側面に確実に当接することで、ベースプレート220が凹部211に確実に嵌め合わされる。突起部224の縦断面形状は、ベースプレート220を押し込んだときに鋳鉄製蓋部210の凹部211側面に当接しながらスムーズに嵌り込むように、四分割円状や半円状等の曲面状とすることが好ましい。また、突起部224を設ける位置は、雨水や土砂の流入を防止するため、ベースプレート220側面の上部側が好ましい。
【0030】
以上のとおり、本発明の蓋本体200においては、ベースプレート220と鋳鉄製蓋部210の凹部210との接触面に樹脂製シート260を介在させることで、ベースプレート220と凹部210との接触面が改質され、ベースプレート220の横ズレによるベースプレート220下面の摩耗が抑制される。したがって、ベースプレート220のガタツキの発生を長期に亘り防止できる。
【0031】
また、本実施形態では、ベースプレート220の下面周縁部及び側面下端部の全周を囲むようにパッキン270を配置しているので、ベースプレート220の横ズレが抑制されるとともに、ベースプレート220と鋳鉄製蓋部210の凹部211との接触面への土砂の浸入が抑制され、樹脂製シート260による摩耗低減効果を更に高めることができる。なお、本実施形態では、パッキン270は、ベースプレート220の下面周縁部と側面下端部の両方の全周を囲むように配置したが、少なくとも側面の一部を全周にわたって囲むように配置すれば、ベースプレートの横ズレ及び土砂の浸入を抑制する効果は得られる。
【0032】
また、以上の実施形態では、樹脂製プレートとしてベースプレート220を鋳鉄製蓋部210の凹部211に装着したが、樹脂製プレートはベースプレート220には限定されず、例えば、図2に示している情報表示プレート230の一つである、弁栓類の種類を示すプレート部材231や管理番号を示すプレート部材232を樹脂製プレートとして鋳鉄製蓋部の凹部に装着するようにしてもよい。この場合も、樹脂製プレートと鋳鉄製蓋部の凹部との接触面に樹脂製シートを介在させることで、樹脂製プレート下面の摩耗を抑制することができる。なお、本発明でいう「樹脂製プレート」とは、上述のプレート部材232のようにプレート本体部分に固定用脚部のような付属物が設けられているものも含む概念である。
【0033】
また、本実施形態では、本発明を仕切弁蓋に適用したが、マンホール蓋や消火栓蓋などのその他の地下構造物用蓋にも適用可能であることは言うまでもない。
【実施例】
【0034】
図2において樹脂製シート260を使用した(パッキン270は使用しない)本発明の蓋本体(本発明品)と、図2において樹脂製シート260を使用しなかった(パッキン270も使用しない)比較例の蓋本体(比較品)とを、輪荷重走行試験に供した。輪荷重走行試験では、大型車両に使用されているダブルタイヤを使い、そのタイヤに垂直荷重を付加した上で、敷設された蓋本体上を繰り返し走行し、ベースプレート220下面の摩耗量を測定した。具体的には、タイヤに付加する垂直荷重を100kNとし、蓋本体の表面及び周囲に土砂を敷いた状態で水を散布しながら試験を行った。
【0035】
その結果を図6に示す。同図に示すように比較品では3万回走行で0.07mm、6万回走行で0.08mmの摩耗が発生したのに対し、本発明品では横ズレは観察されたが、6万回走行でも摩耗は観察されず、樹脂製シートによる摩耗低減効果が確認された。
【符号の説明】
【0036】
100 地下構造物用蓋
200 蓋本体
210 鋳鉄製蓋部
211 凹部
220 ベースプレート(樹脂製プレート)
221 凸部
222 凹部
223 ICタグ位置表示マーク
224 突起部
230 情報表示プレート
231 弁栓類の種類を示すプレート部材
232 管理番号を示すプレート部材
240 ICタグ
250 固定部材
260 樹脂製シート
270 パッキン
280 高張力六角ボルト
290 六角ナット
300 平座金
400 蝶番機構
500 受枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を露出し地中に設置される地下構造物用蓋の蓋本体において、
前記蓋本体は、その表面側に凹部を有する鋳鉄製蓋部と、前記凹部に着脱可能な樹脂製プレートとを備え、
前記樹脂製プレートは、当該樹脂製プレートの下面と前記凹部の底面との間に樹脂製シートを介在させて、機械的手段により前記凹部に装着固定されたことを特徴とする地下構造物用蓋の蓋本体。
【請求項2】
前記樹脂製プレートと前記樹脂製シートの材質が同一である請求項1に記載の地下構造物用蓋の蓋本体。
【請求項3】
前記樹脂製シートが、前記凹部の底面の全面を覆う形状を有する請求項1又は2に記載の地下構造物用蓋の蓋本体。
【請求項4】
前記樹脂製プレートの少なくとも側面の一部を全周にわたって囲むようにパッキンを配置した請求項1〜3のいずれかに記載の地下構造物用蓋の蓋本体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−36252(P2013−36252A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173891(P2011−173891)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(505093769)株式会社ライセンス&プロパティコントロール (16)
【Fターム(参考)】