説明

地下構造物用蓋の食込み解除構造

【課題】良好な止水性を実現して地下構造物内への雨水等の流入を確実に防止できると共に、専用のバールを要することなく蓋本体の食込み解除を実施できる地下構造物用蓋の食込み解除構造を提供する。
【解決手段】バール孔7を蓋本体3の外周縁より中心側に形成して受枠2との間の止水性を確保した上で、圧縮ばね26により可動支点蓋21を上方に付勢してバール孔7を閉鎖し、バール41の押圧による可動支点蓋21の下降を規制するためのストッパ面54を受枠2に形成し、可動支点蓋21の上面をバール41の支点として利用し、てこの原理で蓋本体3に上方への力を作用させて食込み解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下構造物用蓋の食込み解除構造に関する。
なお、本願明細書でいう「地下構造物用蓋」とは、下水道における地下埋設物,地下構造施設等と地上とを通じる開口部を閉塞する大型鉄蓋,マンホール蓋,汚水桝蓋、電力・通信における地下施設機器や地下ケーブル等を保護する開閉可能な共同溝用鉄蓋,送電用鉄蓋,配電用鉄蓋、上水道やガス配管における路面下の埋設導管およびその付属機器と地上とを結ぶ開閉扉としての機能を有する消火栓蓋,制水弁蓋,仕切弁蓋,空気弁蓋,ガス配管用蓋,量水器蓋等を総称する。
【背景技術】
【0002】
各種の地下構造物用蓋は、地下構造物の上端に設置されて内部が地下構造物と連通する受枠と、当該受枠に嵌まり込んで閉塞する蓋本体とから構成され、蓋本体上を車両が走行したときのガタツキ音の抑制等のために蓋本体は受枠にテーパ嵌合等により支持されている。このような構造のため蓋本体上を通過する車両の重量等により蓋本体は受枠内に次第に食込み、受枠より蓋本体を取り外す際には食込み解除のために単に蓋本体を持ち上げる場合より遥かに強い力を要することから、蓋本体の一側に形成したバール孔内にバールの先端を挿入し、てこの原理を利用して受枠に対する蓋本体の食込みを解除する手法が採られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された技術では、蓋本体の周縁の一側に上方および蓋本体の外周方向に開放された形状をなすようにバール孔を形成すると共に、バール孔内の両側に相対向して一対の張出し部を形成し、受枠に嵌め込まれた蓋本体の食込みを解除する際には、バールの先端に略T字状をなすように形成された係合部をバール孔内に挿入して両張出し部に下方よりそれぞれ当接させ、この当接個所を作用点とし、バールの一側を受枠の周縁上に当接させて支点とした上で、バールの基端側を力点と見なして下方に揺動操作し、てこの原理によりバール孔の張出し部に上方への力を作用させて受枠内から蓋本体を離脱させて食込み解除している。
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、受枠の周縁をバールの支点として利用すべく、蓋本体に形成されたバール孔を外周方向に開放する形状としているため、当該個所では蓋本体の外周に十分なテーパ面が形成されず、受枠に対して蓋本体が僅かに傾斜した姿勢で支持されると、受枠の内周面と蓋本体に形成されたバール孔の個所との間に地下構造物の内外を連通する隙間が生じて、この隙間から雨水等が地下構造物内に流入することから止水性の点で問題があった。
【0005】
そこで、このような止水性の問題に着目した提案もなされている(例えば、特許文献2参照)。当該特許文献2の技術では、蓋本体のバール孔の外周側を開放することなく閉塞し、これによりバール孔の個所でも他の個所と同様のテーパ状をなす蓋本体の外周面を形成して止水性の向上を図っている。そして、バール孔の外周側を閉塞したことにより、先端に係合部を形成しただけの一般的なバールでは受枠の周縁上にバールの一側を当接させて支点として利用不能となることから、バール孔の張出し部に係合するようにバールの先端をフック状に形成した上で、バールの先端近傍をフックに倣った方向に屈曲させて係止爪部を突設し、これによりバールの先端をバール孔の張出し部に係合させた状態で、蓋本体の外周を跨いで干渉を避けながらバールの係止爪部を受枠の周縁上に当接させて支点として利用できるように配慮している。
【特許文献1】実公昭58−5712号公報
【特許文献2】特許第2617868号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2の技術では、蓋本体の外周との干渉を回避するために先端部が特殊な形状をした専用のバールを必要とするため、当該バールの準備を要するという問題がある。また、実際の地下構造物用蓋の保守作業では、上記特許文献1および特許文献2が想定する形式の地下構造物用蓋が混在している場合もあるため、このような地域での保守作業では、一般的なバールと共に特許文献2のバールも携帯しなければならず、保守作業の負担が増大するという別の問題もある。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、良好な止水性を実現して地下構造物内への雨水等の流入を確実に防止できると共に、専用のバールを要することなく蓋本体の食込み解除を実施することができる地下構造物用蓋の食込み解除構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、地下構造物の上端に設置された受枠と、受枠内に着脱可能に嵌め込まれて受枠を閉鎖し、外周縁より中心側に離間した位置に蓋開閉用のバールの係合部を挿入可能なバール孔が貫設された蓋本体と、付勢手段により上方に付勢されて蓋本体のバール孔を下方より閉塞し、且つ、バールの係合部により上方より押圧されたときに、付勢手段の付勢力に抗して下降してバール孔を開放すると共に蓋本体の下面との間に間隙を形成する可動支点蓋と、受枠の内周に形成されて、付勢手段の付勢力に抗して可動支点蓋が下降したときに可動支点蓋に当接して下降を規制するストッパ部とを備えたものである。
【0009】
従って、蓋本体の外周縁より中心側に離間した位置にバール孔が形成されることにより、蓋本体のバール孔の外周側は閉塞されて他の個所と同様に受枠の内周面との間で良好な止水性を奏する。
一方、付勢手段の付勢力により可動支点蓋は上昇して蓋本体のバール孔を下方より閉塞しており、バールの先端の係合部により可動支点蓋を上方より押圧すると、可動支点蓋は付勢手段の付勢力に抗して下降して受枠のストッパ部に当接する。そして、この状態では可動支点蓋の下降がストッパ部により規制され、且つ、可動支点蓋と蓋本体の下面との間に間隙が形成されているため、バールの係合部の一側を可動支点蓋上に当接させて支点として機能させ、バールの係合部の他側を蓋本体の下面に当接させて作用点として機能させ、バールの上端を力点と見なして揺動操作すれば、てこの原理により蓋本体に上方への力を作用させて、受枠に対する蓋本体の食込みを解除可能となる。
【0010】
即ち、バールの係合部としては、上記支点および作用点に一側をそれぞれ当接可能な形状であればよく、先端が特殊な形状の専用のバールを使用することなく、一般的な形状のバールを使用可能となる。
【0011】
請求項2の発明は、地下構造物の上端に設置された受枠と、受枠内に着脱可能に嵌め込まれて受枠を閉鎖し、外周縁より中心側に離間した位置に蓋開閉用のバールの係合部を挿入可能なバール孔が貫設された蓋本体と、蓋本体のバール孔の下方に揺動可能に支持され、受枠に設けられた係合突起に対して係合爪を係合させて蓋本体の開蓋を規制する一方、バールの係合部により揺動操作されて係合突起に対する係合爪の係合を解除可能な揺動部材と、揺動部材に対して案内手段により上下動可能に支持され、付勢手段により上方に向けて付勢されて蓋本体のバール孔を下方より閉塞し、且つ、バールの係合部により上方より押圧されたときに、付勢手段の付勢力に抗して下降してバール孔を開放すると共に蓋本体の下面との間に間隙を形成する可動支点蓋と、受枠の内周に形成されて、付勢手段の付勢力に抗して可動支点蓋が下降したときに可動支点蓋に当接して下降を規制するストッパ部とを備えたものである。
【0012】
従って、蓋本体の外周縁より中心側に離間した位置にバール孔が形成されることにより、蓋本体のバール孔の外周側は閉塞されて他の個所と同様に受枠の内周面との間で良好な止水性を奏する。
一方、可動支点蓋は揺動部材に上下動可能に支持され、付勢手段の付勢により上昇して蓋本体のバール孔を下方より閉塞しており、また、揺動部材の係合爪が受枠の係合突起に係合して蓋本体の開蓋を規制している。
【0013】
バールの先端の係合部により可動支点蓋を上方より押圧すると、可動支点蓋は付勢手段の付勢力に抗して下降して受枠のストッパ部に当接する。そして、この状態では可動支点蓋の下降がストッパ部により規制され、且つ、可動支点蓋と蓋本体の下面との間に間隙が形成されているため、バールの係合部の一側を可動支点蓋上に当接させて支点として機能させ、係合部の他側を蓋本体の下面に当接させて作用点として機能させ、バールの上端を力点と見なして揺動操作すれば、てこの原理により蓋本体に上方への力を作用させて、受枠に対する蓋本体の食込みを解除可能となる。
【0014】
即ち、バールの係合部としては、上記支点および作用点に一側をそれぞれ当接可能な形状であればよく、先端が特殊な形状の専用のバールを使用することなく、一般的な形状のバールを使用可能となる。
また、蓋本体の食込み解除後に、バール孔に挿入されているバールの係合部で揺動部材を揺動操作すると、係合突起に対する係合爪の係合が解除されて蓋本体を開蓋可能となる。このようにバール孔内に挿入したバールの係合部により蓋本体の食込み解除操作と解錠操作とを一連の連続したバール操作として完結可能となる。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1または2において、可動支点蓋の上面に、バールの係合部に押圧されて付勢手段の付勢力に抗して可動支点蓋が下降したときに、バールの係合部を摺接させながら蓋本体の下側に移動させるガイド傾斜面が形成されているものである。
従って、蓋本体の下面にバールの係合部を当接させて作用点として機能させるには、バール孔に挿入したバールの係合部を蓋本体の下側まで移動させる必要があるが、バールの係合部に押圧されて可動支点蓋が下降したときに、可動支点蓋上のガイド傾斜面によりバールの係合部が自ずと蓋本体の下側に移動するため、特別な操作を行うことなく容易に実行可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように請求項1の発明の地下構造物用蓋の食込み解除構造によれば、蓋本体の外周縁より中心側に離間した位置にバール孔を形成することにより良好な止水性を実現して地下構造物内への雨水等の流入を確実に防止できると共に、受枠のストッパ部により下降を規制されたときの可動支点蓋を支点として利用して、バールの係合部によりてこの原理で蓋本体の食込みを解除するようにしたため、専用のバールを要することなく一般的な形状のバールにより蓋本体の食込みを解除することができる。
【0017】
請求項2の発明の地下構造物用蓋の食込み解除構造によれば、蓋本体の外周縁より中心側に離間した位置にバール孔を形成することにより良好な止水性を実現して地下構造物内への雨水等の流入を確実に防止できると共に、受枠のストッパ部により下降を規制されたときの可動支点蓋を支点として利用して、バールの係合部によりてこの原理で蓋本体の食込みを解除するようにしたため、専用のバールを要することなく一般的な形状のバールにより蓋本体の食込みを解除でき、しかも、バール孔に挿入したバールの係合部により揺動部材を揺動動作して蓋本体を解錠できるため、蓋本体の食込み解除操作と解錠操作とを一連の連続したバール操作として迅速且つ容易に実行することができる。
【0018】
請求項3の発明の地下構造物用蓋の食込み解除構造によれば、請求項1および2に加えて、可動支点蓋に対するバールの係合部の押圧力を利用して、係合部をガイド傾斜面上で摺接させて蓋本体の下側に移動させるため、蓋本体の食込み解除操作を一層容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の地下構造物用蓋の食込み解除構造を具体化した一実施例を図面に基づいて説明する。
図1は本実施形態の地下構造物用蓋の食込み解除構造を示す断面図であり、地下構造物用蓋1は受枠2と蓋本体3とから構成されている。受枠2は平面視で環状をなし、図示はしないが周囲をアスファルト等で舗装された状態で路面上に設置され、その内部を地下構造物内と連通させている。蓋本体3は受枠2と対応するように平面視で円形状をなして受枠2内にテーパ嵌合により嵌め込まれ、その外周の一側は蝶番構造4により受枠2と連結される一方、外周の180°対向する他側には、受枠2に対する蓋本体3の食込みを解除する食込み解除構造5、および蓋本体3の不用意な開蓋を防止する施錠構造6が設けられている。
【0020】
これらの食込み解除構造5および施錠構造6は、蓋本体3上の外周縁より中心側に離間した位置に開口形成されたバール孔7に食込み解除および蓋開閉用の工具であるバール41(図2に示す)の先端を挿入して適宜バール41を揺動操作することで作動し、これにより任意に食込み解除や施錠・解錠を行うことができる。以下、当該食込み解除構造5および施錠構造6について詳述する。
【0021】
図2は蓋本体の閉蓋時における食込み解除構造5および施錠構造6を示す部分拡大断面図、図3は図2のIII−III線断面図、図4は揺動鉤体11、圧縮ばね26、可動支点蓋21を示す分解斜視図である。図2に示すように、受枠2の内周面および蓋本体3の外周面は共に下方に向けて縮径するテーパ状断面に形成され、受枠2内に蓋本体3がテーパ嵌合して固定される。上記バール孔7は蓋本体3の外周縁から若干中心側(図2,3の右方)に形成され、中心側が円弧状をなす略長方形状に形成されて蓋本体3を上下に貫通している。
【0022】
即ち、本実施形態の地下構造物用蓋1では、上記した特許文献2の技術と同じく蓋本体3のバール孔7の外周側(図2,3の左方)が開放されることなく閉塞されているため、蓋本体3の外周のバール孔7の個所も他の個所と同様のテーパ状の外周面を形成して、受枠2の内周面との密着により十分な止水性を奏している。
蓋本体3の下面にはバール孔7の左右両側(図3の上下両側)に位置するように一対の軸受部10が突設され、軸受部10にはそれぞれ軸受孔10aが形成されている。蓋本体3のバール孔7の下方には揺動鉤体11(揺動部材)が配設され、図4に示すように揺動鉤体11の左右両側には上方に向けて一対の支持アーム12が延設されている。右側の支持アーム12の上端右側面および左側の支持アーム12の上端左側面には揺動軸13がそれぞれ突設され、これらの揺動軸13が上記蓋本体3の軸受孔10a内で回動可能に支持されることにより、揺動鉤体11は蓋本体3の中心および外周方向に揺動可能な状態で垂下されている。
【0023】
揺動鉤体11の下部には外周側に向けて係合爪14が一体形成され、この係合爪14の上方に位置するように受枠2の内周面には係合突起15が一体形成され、揺動鉤体11は、図2に実線で示すように蓋本体3から垂下した略直立姿勢(以下、施錠位置という)では係合爪14を受枠2の係合突起15の下方に位置させて蓋本体3の開蓋を規制する一方、仮想線で示すように下部を中心方向に揺動させた姿勢(以下、解錠位置という)では係合爪14を係合突起15の下方より退避させて蓋本体3の開蓋を許容する。
【0024】
揺動鉤体11は両支持アーム12間において断面四角状のガイド孔16が上下方向に貫設され、ガイド孔16の上部開口個所にはばね座18が同心上に形成され、ガイド孔16の下部開口個所は下方より円筒状に穿設されてワッシャ当接面19が形成されている。
揺動鉤体11の両支持アーム12の間には可動支点蓋21が配設され、可動支点蓋21には下方に向けてガイドロッド22が延設されている。ガイドロッド22は断面四角状をなして揺動鉤体11のガイド孔16内に上方より挿入され、ガイド孔16の下側開口部に突出したガイドロッド22の下端にはワッシャ23がカシメ固定されている。これにより揺動鉤体11に対して可動支点蓋21が水平方向への回転を規制された状態で上下動可能に支持され(案内手段)、ガイド孔16とガイドロッド22との間には若干の遊びが設けられ、後述する下降ガイド面51による可動支点蓋21の位置変位を許容するように配慮されている。
【0025】
可動支点蓋21の下面には、ガイドロッド22を中心としてばね座24が形成され、可動支点蓋21のばね座24と揺動鉤体11のばね座18との間には圧縮ばね26(付勢手段)が介装されている。圧縮ばね26の付勢力により揺動鉤体11に対して可動支点蓋21は常に上方に向けて付勢され、ガイドロッド22の下端のワッシャ23を揺動鉤体11のワッシャ当接面19に当接させている。
【0026】
図3の平面視において可動支点蓋21の外形は蓋本体3のバール孔7より中心および外周方向と左右方向とに共に大きく、その上面にはバール孔7の形状に対応する押圧部31が形成されると共に、押圧部31の周囲にはゴム製のパッキン32が装着されてパッキン32上を当接面33としている。
上記した圧縮ばね26の上方への付勢力により、可動支点蓋21は蓋本体3のバール孔7内に押圧部31を嵌め込んだ状態で当接面33を蓋本体3の下面におけるバール孔7の周囲に当接させ、これによりバール孔7を閉鎖して十分な止水性を奏している(以下、閉鎖位置という)。そして、この状態から圧縮ばね26の付勢力に抗して可動支点蓋21が下降すると、可動支点蓋21の押圧部31がバール孔7から下方に離脱すると共に、当接面33が蓋本体3の下面から離間し、結果としてバール孔7が開放される。また、可動支点蓋21の閉鎖位置において、可動支点蓋21を付勢している圧縮ばね26の反力および揺動鉤体11自体の自重により、揺動鉤体11は図2に実線で示す施錠位置に保持されている。
【0027】
可動支点蓋21の押圧部31上の外周端にはガイド傾斜面34が形成され、このガイド傾斜面34は蓋本体3の外周側ほど略直線状に隆起する形状をなしている。ガイド傾斜面34の形状はバール41の先端に形成された係合部41aの形状に倣って設定されたものであり、ここで、バール41の先端の形状について述べる。
端的に表現して本実施形態の地下構造物用蓋1の食込み解除構造5および施錠構造6に適用されるバール41は、例えば上記特許文献1に適用されるバールと同様の一般的なものであり、その先端にはバール41に対して略T字状をなして直交する係合部41aが形成されている。図3に示す平面視においてバール孔7の左右方向の寸法Aは、バール41の係合部41aの幅Wより広く、且つ係合部41aの長さLより狭く設定されている。
【0028】
従って、バール41の係合部41aを中心および外周方向に沿わせた姿勢では、上方より係合部41aをバール孔7内に挿入可能であり、バール孔7への挿入後に係合部41aを水平方向に90°角度変更して左右方向に沿わせると、係合部41aはバール孔7の左右両側で蓋本体3の下面に当接して掛止される。そして、係合部41aの両端には、バール先端側に面するように面取り状のガイド傾斜面41bがそれぞれ形成され、上記のように係合部41aを中心および外周方向に沿わせた姿勢では、何れか一方のガイド傾斜面41bが可動支点蓋21のガイド傾斜面34と対応する。
【0029】
図4に示すように、揺動鉤体11の左右の支持アーム12には蓋本体3の中心側に面するように下降ガイド面51がそれぞれ形成され、これらの下降ガイド面51の上部は下方ほど中心側となるように円弧状に傾斜し、その下側の個所は略垂直に形成されている。これらの下降ガイド面51に対応するように、可動支点蓋21の左右両側にはガイドピン52がそれぞれ突設され、上記のように可動支点蓋21が蓋本体3のバール孔7を閉塞している状態では、各ガイドピン52が揺動鉤体11の下降ガイド面51の直上に位置する一方、可動支点蓋21が下降したときには、各ガイドピン52が下降ガイド面51上を上側から下側へと摺接し、下降ガイド面51に沿って可動支点蓋21は若干中心側に位置変位しながら下降し、このときの位置変位はガイド孔16とガイドロッド22との遊びにより許容される。
【0030】
一方、可動支点蓋21の外周端には下方に向けてストッパ突部53が突設され、このストッパ突部53は上記した受枠2の係合突起15の直上に位置している。ストッパ突部53と対応するように係合突起15の上面には平坦なストッパ面54が形成され、ストッパ面54の中心側には段差部55が上方に向けて突出形成されている。ガイドロッド22の案内により下降したときの可動支点蓋21は、ストッパ突部53を受枠2のストッパ面54上に当接させることによりそれ以上の下降を規制される(以下、支点位置という)。この支点位置においては、段差部55によりストッパ突部53の中心側への位置変位が防止されると共に、可動支点蓋21の上面と蓋本体3の下面との間には、バール41の係合部41aが進入可能な間隙が形成される。
【0031】
本実施形態の地下構造物用蓋1の食込み解除構造5および施錠構造6は以上のように構成されており、次に蓋本体3を開蓋および閉蓋する際の手順について説明する。
まず、図2に示す蓋本体3の閉蓋時においては、圧縮ばね26の付勢力により可動支点蓋21が上方に付勢されて閉鎖位置に保持されており、その押圧部31が蓋本体3のバール孔7内に嵌め込まれると共に、当接面33が蓋本体3の下面に当接してバール孔7を閉塞している。また、このときの圧縮ばね26の反力および自重により揺動鉤体11は蓋本体3から垂下した施錠位置に保持されて、その係合爪14を受枠2の係合突起15の下方に位置させており、蓋本体3と共に揺動鉤体11が上昇したときには、係合爪14が下方より受枠2の係合突起15に係合して開蓋を規制する。
【0032】
従って、バール孔7を介して雨水等が地下構造物内に流入する事態が確実に防止されると共に、地下構造物内での溢水等に起因する開蓋、或いは不法投棄等を目的とした第三者による開蓋等が未然に防止される。
この状態からの開蓋操作は、食込み解除および解錠の2段階の操作を経て行われる。
まず、食込み解除の操作として、図2に示すようにバール41を蓋本体3の中心側に若干傾斜させた直立姿勢として、その係合部41aを蓋本体3の中心および外周方向に沿わせてバール孔7内に上方より挿入する。挿入されたバール41の係合部41aにより可動支点蓋21の押圧部31が下方に押圧され、圧縮ばね26の付勢力に抗して可動支点蓋21が次第に下降し、図5に示すようにストッパ突部53を受枠2のストッパ面54上に当接させた支点位置に切換えられる。下降時の可動支点蓋21はガイドピン52を下降ガイド面51上で摺接しながら若干中心側に位置変位し、これにより可動支点蓋21は蓋本体3の内周に干渉することなく下降する。
【0033】
次いで、バール41を蓋本体3の外周側に揺動操作して略直立させると、係合部41aの外周側のガイド傾斜面41bが可動支点蓋21のガイド傾斜面34上を摺接しながら蓋本体3の中心側に向けて移動する。結果として図6に示すように係合部41aのガイド傾斜面41bは可動支点蓋21のガイド傾斜面34と対応すると共に、バール41の係合部41aの中心側端が蓋本体3の下側に侵入する。
【0034】
この状態で図7に示すようにバール41を蓋本体3の外周側にさらに揺動操作すると、上記したように受枠2のストッパ面54により可動支点蓋21の下降が規制されていることから、係合部41aの外周側端が可動支点蓋21の押圧部31上に当接して支点として機能し、係合部41aの中心側端が蓋本体3の下面に当接して作用点として機能し、バール41の上端の揺動操作個所が力点として機能し、てこの原理により蓋本体3に強力な上方への力が作用する。従って、受枠2に対して蓋本体3がテーパ嵌合により食込んでいる場合であっても、その食込みが容易且つ確実に解除される。
【0035】
以上で食込み解除操作が完了し、引き続き解錠操作を行う。まず、外周側に揺動操作したバール41を図8に示すように一旦略直立姿勢まで戻した上で、図9に実線で示すように係合部41aを水平方向に90°角度変更して左右方向に沿わせた姿勢とする。結果としてバール41の係合部41aの両端はバール孔7の左右両側で蓋本体3の下面に当接して掛止される。この状態で図9に仮想線で示すようにバール41の係合部41aを外周側に移動させると、それに伴って可動支点蓋21に対する係合部41aの押圧個所は圧縮ばね26の軸心Cより外周側に移動するため、この押圧個所を中心として圧縮ばね26の反力により揺動鉤体11には下部を中心側に移動させる方向にモーメントが作用する。但し、この時点では可動支点蓋21のストッパ突部53が段差部55により中心側への移動を防止されているため、揺動鉤体11は直立姿勢のまま保持される。
【0036】
そして、図10に示すように、バール41と共に蓋本体3を僅かに引き上げるとストッパ突部53が段差部55を乗り越えるため、上記圧縮ばね26の反力で発生したモーメントにより揺動鉤体11は下部を中心側に移動させるように揺動し、その結果、揺動鉤体11が解錠位置に切換られ、その係合爪14が受枠2の係合突起15の下方より退避して解錠操作が完了する。そして、この状態で図11に示すようにバール41を上方に引き上げると、係合部41aに掛止された蓋本体3が可動支点蓋21および揺動鉤体11と一体で受枠2内から引き上げられ、蝶番構造4を介して蓋本体3を水平旋回または垂直反転することで開蓋できる。
【0037】
また、蓋本体3を閉蓋するときには、揺動鉤体11を自由な状態としておき、そのまま受枠2内に蓋本体3を配置すると、揺動鉤体11が圧縮ばね26の反力および自重により施錠位置に切換えられて蓋本体3の開蓋を防止すると共に、このときの可動支点蓋21は圧縮ばね26の付勢力により閉鎖位置に切換えられてバール孔7を閉鎖する。
【0038】
以上のように本実施形態の地下構造物用蓋1の食込み解除構造5では、蓋本体3のバール孔7の外周側を閉鎖することにより受枠2の内周面との間の止水性を確保すると共に、蓋本体3の食込み解除の支点として利用できなくなった受枠2の周縁に代えて、バール孔7を閉塞する可動支点蓋21を下降させて受枠2のストッパ面54に当接可能に構成し、このときの可動支点蓋21を蓋本体3の食込み解除時の支点として利用している。従って、食込み解除時には、可動支点蓋21の押圧面31上を支点とし、バール孔7の中心側に相当する蓋本体3の下面を作用点として上方に力を作用させて開蓋できるため、バール41の係合部41aとしては、これらの支点および作用点に一側および他側をそれぞれ当接可能な形状であれば、てこの原理を利用した開蓋が可能となる。
【0039】
よって、特許文献2に記載されたような特殊な形状のバールを要することなく、上記した一般的な係合部41aを有するバール41を使用でき、例えば、特許文献1が想定する一般的な形式の地下構造物用蓋と本実施形態の地下構造物用蓋1とが混在している地域の保守作業においても、上記した一般的なバール41を携帯するだけで大きな負担を強要することなく保守作業を実施できるという利点が得られる。
【0040】
加えて、バール孔7の中心側に相当する蓋本体3の下面を作用点として機能させるには、バール孔7にバール41の係合部41aを挿入した後に、係合部41aを蓋本体3の中心側に移動させて蓋本体3の下側に進入させる必要がある。そのためにはバール41の下部を把持して中心側に移動させる等、バール41の上部に対して行う他の操作とは異なる操作を要して作業が煩雑化してしまうが、本実施形態ではバール41を揺動操作により略直立姿勢にするだけで、係合部41aのガイド傾斜面41bと可動支点蓋21のガイド傾斜面34との摺接により自ずとバール41の係合部41aが蓋本体3の下側に進入するため、他の操作と同じくバール41の上部を把持して揺動操作するだけでよく、極めて容易に実行できるという利点もある。
【0041】
一方、本実施形態では食込み解除構造5と施錠構造6とを全く独立して構成することなく相互に関連して構成しているため、蓋本体3の食込み解除操作と解錠操作とを連続した一連のバール操作として実行できる。具体的には、本実施形態では、揺動に伴って蓋本体3を施錠・解錠する揺動鉤体11に対して可動支点蓋21を上下動可能に支持する構成を採っていることから、バール41の押圧により可動支点蓋21を支点位置に切換えて蓋本体3の食込み解除を行った後に、バール41の押圧位置を蓋本体3の外周側に移動させるだけで、可動支点蓋21を介して揺動鉤体11を揺動させて解錠位置に切換えることができる。即ち、蓋本体3の食込み解除操作と解錠操作とは、共にバール孔7内にバール41の係合部41aを挿入して行う一連の連続したバール操作として完結できるため、例えば食込み解除構造5とは全く別個に施錠構造6を設けた場合のように双方の操作を別個に実行するときに比較して、両操作を迅速且つ容易に実行することができる。
【0042】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、食込み解除構造5に加えて施錠構造6を備えた地下構造物用蓋1に具体化したが、必ずしも施錠構造6を備える必要はなく、食込み解除構造5のみを備えた地下構造物用蓋1に具体化してもよい。この場合、上記実施形態で揺動鉤体11に対して上下動可能に支持されていた可動支点蓋21を、蓋本体3に対して上下動可能に支持した上で圧縮ばね26により上方に付勢するように構成すればよい。
【0043】
また、上記実施形態では可動支点蓋21を上下方向に直線状に案内したが、バール41の係合部41aの押圧により可動支点蓋21を下降させて受枠2側のストッパ面54上に当接させると共に、蓋本体3の下面との間にバール41の係合部41aをてことして作用可能な間隙を形成できるものであれば、可動支点蓋21の案内は直線状に限ることはない。従って、例えば図2において可動支点蓋21の中心側端をヒンジにより揺動可能に支持し、バール41の係合部41aの押圧により可動支点蓋21の外周側端を下方に揺動させて受枠2側のストッパ面54上に当接させると共に、可動支点蓋21の上面と蓋本体3の下面との間に間隙が形成されるように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施形態の地下構造物用蓋の食込み解除構造を示す断面図である。
【図2】蓋本体の閉蓋時における食込み解除構造および施錠構造を示す部分拡大断面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】揺動鉤体、圧縮ばね、可動支点蓋を示す分解斜視図である。
【図5】バールの押圧により可動支点蓋を支点位置に切換えたときの食込み解除手順の説明図である。
【図6】ガイド傾斜面によりバールの係合部を中心側に移動させたときの食込み解除手順の説明図である。
【図7】てこの原理で食込み解除したときの食込み解除手順の説明図である。
【図8】バールを直立に戻したときの解錠手順の説明図である。
【図9】バールを水平方向に角度変更したときの解錠手順の説明図である。
【図10】揺動鉤体を解錠位置に切換えたときの解錠手順の説明図である。
【図11】バールにより蓋本体を引き上げたときの解錠手順の説明図である。
【符号の説明】
【0045】
2 受枠
3 蓋本体
7 バール孔
11 揺動鉤体(揺動部材)
14 係合爪
15 係合突起
16 ガイド孔(案内手段)
21 可動支点蓋
22 ガイドロッド(案内手段)
26 圧縮ばね(付勢手段)
34 ガイド傾斜面
41 バール
41a 係合部
54 ストッパ面(ストッパ部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下構造物の上端に設置された受枠と、
上記受枠内に着脱可能に嵌め込まれて該受枠を閉鎖し、外周縁より中心側に離間した位置に蓋開閉用のバールの係合部を挿入可能なバール孔が貫設された蓋本体と、
付勢手段により上方に付勢されて上記蓋本体のバール孔を下方より閉塞し、且つ、上記バールの係合部により上方より押圧されたときに、上記付勢手段の付勢力に抗して下降して上記バール孔を開放すると共に上記蓋本体の下面との間に間隙を形成する可動支点蓋と、
上記受枠の内周に形成されて、上記付勢手段の付勢力に抗して上記可動支点蓋が下降したときに該可動支点蓋に当接して下降を規制するストッパ部と
を備えたことを特徴とする地下構造物用蓋の食込み解除構造。
【請求項2】
地下構造物の上端に設置された受枠と、
上記受枠内に着脱可能に嵌め込まれて該受枠を閉鎖し、外周縁より中心側に離間した位置に蓋開閉用のバールの係合部を挿入可能なバール孔が貫設された蓋本体と、
上記蓋本体のバール孔の下方に揺動可能に支持され、上記受枠に設けられた係合突起に対して係合爪を係合させて上記蓋本体の開蓋を規制する一方、上記バールの係合部により揺動操作されて上記係合突起に対する上記係合爪の係合を解除可能な揺動部材と、
上記揺動部材に対して案内手段により上下動可能に支持され、付勢手段により上方に向けて付勢されて上記蓋本体のバール孔を下方より閉塞し、且つ、上記バールの係合部により上方より押圧されたときに、上記付勢手段の付勢力に抗して下降して上記バール孔を開放すると共に上記蓋本体の下面との間に間隙を形成する可動支点蓋と、
上記受枠の内周に形成されて、上記付勢手段の付勢力に抗して上記可動支点蓋が下降したときに該可動支点蓋に当接して下降を規制するストッパ部と
を備えたことを特徴とする地下構造物用蓋の食込み解除構造。
【請求項3】
上記可動支点蓋の上面には、上記バールの係合部に押圧されて上記付勢手段の付勢力に抗して上記可動支点蓋が下降したときに、該バールの係合部を摺接させながら上記蓋本体の下側に移動させるガイド傾斜面が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の地下構造物用蓋の食込み解除構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−100295(P2007−100295A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287283(P2005−287283)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(505093769)株式会社ライセンス&プロパティコントロール (16)
【Fターム(参考)】