説明

地下構造物用鉄蓋のスリップ防止構造

【課題】有効なスリップ防止効果を発揮するとともに、鉄蓋の早期摩耗を招かずに済む地下構造物用鉄蓋のスリップ防止構造を提供する。
【解決手段】車両が通行する路面に設置される、地下構造物用鉄蓋の表面に設けたスリップ防止模様による滑り止め構造であって、二輪車のタイヤのトレッドパターン12に基づいてスリップ防止模様11を有することを特徴とする。上記スリップ防止模様は、トレッドパターンを構成する最大の溝13の溝幅d以上の大きさの頂部14の平面形状を有し、かつ相互に密接して配置する基本突起15と、上記トレッドパターンの溝幅dよりも小さい大きさの頂部の平面形状を有し、上記基本突起の間に配置する小突起17とから構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が通行する路面に設置される、地下構造物用鉄蓋の表面に設けたスリップ防止模様による滑り止め構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地下構造物用鉄蓋は降雨等により水に濡れた場合、アスファルト路面に対して摩擦係数が相対的に低下し、通行する車両に影響を与えることがある。特に、二輪車ではスリップが転倒事故につながるため、地下構造物用鉄蓋の製造に携わる各社はスリップ防止効果を高めるために努力を重ねてきた。例えば、特許第3094008号は角錐台形状を基本形状とし、かつその傾斜した側面の下部から上部に及ぶ凹部を有する突起から成る発明を開示しており、特許第3356694号は角錐台形状を基本としながら、摩耗が進行して高さが低くなると、当初とは別の模様が表面に現れる突起から成る発明を開示している。これらの突起の基本形状は角錐台形状であるが、鉄蓋表面の全体に密に突起を配置しているので、走行するタイヤに対して問題は殆ど生じない。しかし、供用直後、突起が尖鋭である間はタイヤへの食い込みも生じていると考えられる。
【0003】
特許第2878663号は独立した凸部からなるとともに、その凸部が多段のものを含み、かつ凸部の最上面の大きさが25mmの円に収まり、隣接凸部間の間隔が10〜30mmとしたものを開示している。ところが、三角形状の縦断面として上端が先細りするような形状のものが最も有効であり、それも凸状部分の最上面の大きさは直径が25mmの円の中に含まれるという条件を満たすという説明が図4(c)を参照してなされており、三角形状の凸部であればタイヤに突き刺さることは明らかである。特許第2796087号は独立した凸部から成るとともに、その凸部にその上面の外周で開口する排出溝を設けた発明を開示している。この凸部はタイヤに突き刺さらないと思われるが、小さな凹凸を形成する小凸部によってタイヤに対する摩擦力を増すことが許容されているので、尖った小凸部を形成した場合にはタイヤへの影響が顕著になる恐れがある。
【0004】
また、特許第3564005号のものは一般面より小高く形成された主突起と、主突起よりも平面視で小型かつより低く形成された副突起と、鉄蓋周縁部の縁突起を有し、主突起の上面には円盤型のものを複数個階段状に積み重ね、コーン状の隆起体にして、その頂部中心を通って分割する溝を形成するという構造を含んでいる。従って、コーン形状によるタイヤへの食い込みが問題になると考えられる。上述したように、スリップ防止を突起で行うこれまでの地下構造物用鉄蓋におけるスリップ防止構造は、突起を如何に効果的にタイヤゴムへ食い込ませるかの工夫であったということもできる。そのために突起頂部の面積を多かれ少なかれ小さくする必要性を生じる訳であるが、そのようなメカニズムは、実は頂部の面積の小さい突起をタイヤの溝に嵌合させてタイヤ溝を削ったり、恰も剣山を走行したときのようにタイヤの走行面に突き刺さったりという、タイヤの損傷を代償として目的の摩擦力を獲得するものであった。
【0005】
ところで、車両の走行時にタイヤは鉄蓋上面を転がっており、タイヤと鉄蓋との間に相対速度差は生じていないが、タイヤがロックし、スリップを発生しているときには、タイヤと鉄蓋の間には大きな速度差が生じるので、スリップ防止構造の突起がタイヤゴムに突き刺さったようになり、タイヤゴムを引っ掻き、傷付けるという状況が起こる。ある実験例によれば、僅か数回のロックでタイヤがボロボロになっていたこともあるほどである。一般的に、タイヤと路面の摩擦係数を検討する場合には、すべり率が議論となり、具体的には、惰性走行におけるタイヤすべり率0%、タイヤロック状態のすべり率100%と定義される。タイヤがABS(アンチロックブレーキシステム)などと呼ばれる装置のもとにあって、路面の摩擦係数を最大限に利用するように制御される場合に、得られる最も高い摩擦係数はすべり率20%程度であることも知られている。換言すれば、運転者がタイヤロックを意識していないときでも、ブレーキのかけ方によってはすべり率20%でタイヤと路面が擦れ合っている状態は起こると考えられるのであり(図7参照)、従って、タイヤと鉄蓋は常時擦れ合い、相互に摩耗し合っているといえる。
【0006】
地下構造物用鉄蓋の側に立ってその摩耗の問題を考察すると、鋳物から成る鉄蓋といえども長期にわたりタイヤとの接触が繰り返されると、鉄蓋表面に設けたスリップ防止模様は次第に摩耗し、特に、小さな突起は早期に消失してしまうため、スリップ防止模様による効果が長続きせず、鉄蓋を早期に交換する必要を生じ、鉄蓋交換の費用もそれだけ多く発生させることになる。鉄蓋交換に要する費用は平均して1基当たり25万円程度であるので、交換頻度が高ければ管理者である自治体等の財政を圧迫する。現に、或る地方都市の例を報じた新聞記事によれば、市内に6万基のマンホール鉄蓋があるのに対して、予算の関係から年間300箇所の交換工事にとどまっているということである。このように、現状は、スリップ防止効果を優先すれば鉄蓋を早期に交換すべきであり、鉄蓋の寿命を優先すればスリップ防止効果は必ずしも向上しないという二律背反的な状況にあるが、ことは安全性に関わる問題でもあるから、鉄蓋の長寿命化も考慮されるべきである。
【0007】
【特許文献1】特許第3094008号
【特許文献2】特許第3356694号
【特許文献3】特許第2878663号
【特許文献4】特許第2796087号
【特許文献5】特許第3564005号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の点に着目してなされたもので、その課題は、有効なスリップ防止効果を発揮するとともに、鉄蓋の早期摩耗を招かずに済む地下構造物用鉄蓋のスリップ防止構造を提供することである。また、本発明の他の課題は、転倒事故に結び付きやすい二輪車のタイヤに着目し、そのトレッドパターンに基づくスリップ模様を備えた地下構造物用鉄蓋のスリップ防止構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するため、本発明は、車両が通行する路面に設置される、地下構造物用鉄蓋の表面に設けたスリップ防止模様による滑り止め構造について、二輪車のタイヤのトレッドパターンに基づく、スリップ防止模様を有することを特徴とし、上記スリップ防止模様は、トレッドパターンを構成する最大の溝の溝幅d以上の大きさの頂部の平面形状を有し、かつ相互に密接して配置する基本突起と、上記トレッドパターンの溝幅dよりも小さい大きさの頂部の平面形状を有し、上記基本突起の間に配置する小突起とから構成するという手段を講じたものである。
【0010】
上記の構成では、二輪車のタイヤのトレッドパターンに基づいてスリップ防止模様を決めるものとしている。既に論じたとおり、二輪車ではスリップが転倒事故につながり易いためであるが、より具体的には原動機付自転車、中でも第一種原動機付自転車に属する排気量50cc以下のものに使用される、10インチホイール用タイヤのトレッドパターンに着目してスリップ防止模様を決定するものである。その理由は、統計資料によると運転技量が低いと見做される第一種原動機付自転車の方が自動二輪車よりも単独転倒事故件数が多いこと、また、自動二輪車(普通自動二輪車、大型自動二輪車)の免許を持っていないが、普通自動車等の免許を持っている者は自動二輪車の危険性を知らないまま誰でも乗ることができ、運転者の年齢も若年者から高齢者にわたるので事故も起こり易く、それらの救済が先決であるなどの判断による。
【0011】
上記スリップ防止模様は、基本突起として、トレッドパターンを構成する最大の溝の溝幅d以上の大きさの頂部の平面形状を有するものとする。基本突起は、トレッドパターンの溝幅dと同等以上の大きさの幅の頂部平面形状を有するが、基本突起の基部ではほぼ接するか接しないか程度とし、相互に密接して配置することによってトレッドパターンの溝に深く入り込まず、ダメージを与えないように図っている。また、基本突起は、タイヤの進行方向(二輪車の走行方向)に対して縦横に直角に配置することも望まれる。トレッドパターンはリブ型、ラグ型、リブラグ型或いはブロック型などに分類されているが、タイヤの進行方向に対して縦横に直角の模様のみから成るトレッドパターンは少なく、タイヤの進行方向に対して傾斜方向の模様が多く、タイヤの進行方向に対して縦横に直角にスリップ防止模様を設けることはトレッドパターンの溝への嵌り込みを少なくする。
【0012】
また、上記スリップ防止模様は、また、トレッドパターンの溝幅dよりも小さい大きさの頂部の平面形状を有し、かつ基本突起の間に配置する小突起を有している。小突起は、その名のとおり基本突起よりも小型の突起であり、トレッドパターンの溝幅dよりも小さいけれども、基本突起の間にあって同じ高さを有し、タイヤゴムに深く入り込まず、ダメージを与えることも殆どない。タイヤダメージを避けるにしても、所期の摩擦抵抗を発揮するには或る程度の食い込みを生じさせる必要があり、基本突起のスリップ防止効果を補助するために、小突起を設けているものである。
【0013】
基本突起は、頂部の平面形状が矩形又は矩形を基準とする多角形状であり、その矩形又は多角形状の最小の幅Dがトレッドパターンを構成する最大の溝の溝幅d以上の大きさとすることが望ましい。頂部の平面形状を矩形又は矩形を基準とする多角形状とすることによって、基本突起を縦横に直角に、かつ、相互に密接して配置することも容易になる。その多角形状の頂部の最小の幅Dは、トレッドパターンの最大の溝幅d以上とする。また、基本突起と小突起は、共に四角錐台又は四角錐台を基準とする突起形状を有し、夫々の突起形状の基部における平面形状は多角形から成り、上記小突起の基部の面積を基本突起の基部の平面積のほぼ二分の一とすることも望ましい構成である。このような突起を相互に密接配置し、スリップ防止模様全体としてほぼ均等な分布とすることで、摩擦抵抗の急変する部分が無くなり、安定したスリップ防止効果を得ることができる。
【0014】
さらに、小突起には、四角錐台形状における稜線部分をえぐり取るようにして形成した曲面部分を設けることができる。これによって、微小かつ部分的な角が形成され、タイヤとの接触によりタイヤゴムに食い込み、スリップ防止効果を高めることができる。背景技術において言及した発明には、突起の摩耗が進行して高さが低くなると、当初とは別の模様が表面に現れる凹凸構造を設けるものも開示されているが、これと同様な凹凸構造を併せ設けることも有効である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は以上のように構成されかつ作用するものであるから、基本突起を二輪車のタイヤのトレッドパターンと所定の関係を持った大きさ形状とし、かつ相互に密接して配置するとともに、上記基本突起間に小突起を配置し、スリップ防止効果を維持、向上することで、鉄蓋の早期摩耗を招かない長寿命の地下構造物用鉄蓋のスリップ防止構造を提供することができる。また、本発明によれば、二輪車のタイヤに着目し、そのトレッドパターンに基づくスリップ模様を備えたことで、二輪車事故の一つの典型である第一種原動機付自転車の転倒事故の防止に効果を発揮する地下構造物用鉄蓋のスリップ防止構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下図示の実施形態を参照して本発明をより詳細に説明する。図1は本発明に係るスリップ防止構造を施した地下構造物用鉄蓋10の一例を示す平面図であり、図示の地下構造物用鉄蓋10は円形鉄蓋であってその全面にスリップ防止模様11を有している。図示のスリップ防止模様11は、二輪車のタイヤのトレッドパターンに基づいて創作されたものである。
【0017】
上記のスリップ防止模様11は突起から成るものであり、図2に示した、トレッドパターン12を構成する最大の溝13の溝幅d以上の大きさの頂部14の平面形状を有し、かつ相互に密接して配置する基本突起15と、上記トレッドパターン12の溝幅dよりも小さい大きさの頂部16の平面形状を有し、上記基本突起15の間に配置する小突起17とから構成されている。図2のトレッドパターン12は、周方向に連続したやや波型のリブパターンに近いもの12aとその両側に配置した周方向と径方向の要素を持つラグパターンに近いもの12bとをあわせ持つリブラグ折衷型というべきものである。このトレッドパターン12の場合、それを構成する上記の溝13は比較的大きい溝幅dを有しており、異なるパターン12a、12bの溝の溝幅dはほぼ同じである。
【0018】
図2等に示したトレッドパターン12は、代表的な第一種原動機付自転車として選択した本田技研工業株式会社製原動機付自転車、「HONDA Dio」に装着されていた、10インチタイヤ(井上護謨工業株式会社=IRC社製品、MB38)のトレッドパターンを借りたものである。感圧紙を用いて上記のタイヤと路面の接地面を測定したところ、タイヤ接地面25の大きさは長さNが約125mm、幅Mが約55mmの楕円形状であった。また、トレッドパターン12の溝幅dは約6mmであった。よって、この実施形態において基本突起15の頂部の平面形状の最小の幅Dは6mm以上となり、小突起17の頂部の平面形状の最小の幅D′、D″(図4)は6mmよりも小さい数値を有する。
【0019】
また、図2において、基本突起15は、頂部14―1の平面形状が矩形のもの15−1と、頂部14―2の平面形状が矩形を基準とする多角形状のもの15−2から成り、その矩形又は多角形状の最小の幅Dがトレッドパターン12を構成する最大の溝の溝幅d以上の大きさとされている。図2に示した基本突起15−1は、突起形状の基部から頂部14−1までの平面形状が長方形つまり矩形の四角錐台であり、もう一つの基本突起15−2は四角錐台を基本として一方の長辺の稜角部に基部から頂部14−2まで面取り状にし、切除部18を設けた多角錐台の形態を有している。さらに、上記2種の基本突起15−1、15−2は、摩耗が進行して高さが低くなると、当初とは別の模様が表面に現れる凹凸構造19としての凹部を長辺の側面に設けている。
【0020】
上記2種の基本突起15−1、15−2は、夫々長手方向の長さL1、L2が異なっている。平面形状が矩形の基本突起15−1を2個長手方向に平行に僅かな間隙を設けて配置し、平面形状が多角形状の基本突起15−2を平行にならんだ上記矩形の基本突起15−1の両端に、僅かな間隙を設けて恰もカッコで括るように配置し、相互に密接した4個一組の突起群20を形成している。4個一組の突起群20は一群の突起全体として縦横の長さの異なる長方形を構成しており、その四隅に当たる周囲に、小突起17を配置している。この長方形の突起群20は、さらに、1群ずつ縦横90度向きを変えて、交互に、一列に並べ、隣接する突起群20の向きが異なるスリップ防止模様11が円形鉄蓋の全面に分布するように構成されている(図3参照)。
【0021】
図3は、そのようにして相互に密接した配置を取る4個一組の突起群20の寸法関係を例示したものである。D=6mm、L1=14mm、L2=20mmとしたとき、適切な間隔L3を一辺とする正四角形を想定しその四隅に小突起17を配置すると、突起群20としても相互に密接して、かつ基本突起間に小突起17を配置することができる。実施形態の場合、この間隔L3は42mmが適切であった。また、小突起17の大きさの例としては、基部の平面形状を正四角形とすると、その一辺の長さL4を12mmとするのが好適であり、密接配置された基本突起15−1、15−2の間に適度の密度で配置することができる。
【0022】
図3Cは、このような4個一組の突起群20の変形例であり、間に位置する2個の平行な基本突起15−1、15−1の間に基本突起15の高さHよりも低い高さhの高まりをスリップサイン21として設けたものである。基本突起15が摩耗して、その頂部14がスリップサイン21まで低下したときに、鉄蓋10の耐用限界に達したことを知らせる作用をする。スリップサイン21は、地下構造物用鉄蓋10の表面全面に数箇所設けることが望ましい(図1参照)。
【0023】
図4を参照して、小突起17について説明を補足すると、それには四角錐台形状を持つもの17−1と、四角錐台形状における稜線部分をえぐり取るようにして形成した曲面部分22を有しているもの17−2との2種類のものが用意されている。図示の実施形態の場合、小突起17−1の頂部16−1の最小の幅D′は4.5mm、小突起17−2の頂部16−2の最小の幅D″は4.46mm、共に事実上の方形であった。なお、図4に示したもののうちでaからgまでは曲面部分22を有している小突起17−2の例であり、hからlまでが四角錐台形状の小突起17−1の例であって、図4a、hが摩耗前の状態である。また、図4fは使用前の小突起17−2の外観を示しており、図4gは側面形状を示している。小突起17−1、17−2は使用初期と使用終期では同等のスリップ防止性能であるが、使用中期における小突起17−2頂部の面積(図4bからd)は使用中期における小突起17−1の面積(図4iからk)の夫々の約90%であり、曲面部分22を有することで、小さな接触面積でタイヤと接触して効果的にタイヤゴムに食い込み、スリップ防止性能を高めることが期待できる。
【0024】
図4は、小突起17−1、17−2の摩耗による上記頂部16の面積拡大状況を示しており、当初小さかった頂部の四角形が年月の経過とともに面積を拡大し形状を変えて行く変化を把握することができる。なお、図4eとlの最大摩耗形状は、必ずしも、前記のスリップサイン21が出たときの状態ではない。本発明のスリップ防止構造は、このような基本突起15−1、15−2及び小突起17−1、17−2を縦横に配置して構成するものであるが、その際、縦横の配列を地下構造物用鉄蓋10の敷設方向と一致させることも有効である。下水管路は道路地下に埋設されることが多く、下水の流下方向は車両の進行方向とほぼ平行している。そのため、下水道管理者は蓋開閉用ヒンジの位置を管路上流又は下流に統一して指定しておくことで、開蓋せずに下水の流下方向を鉄蓋上から推測することができる。図1はそのように構成されており、図中の上部23は鉄蓋開閉用ヒンジの取り付け部、下部24は開蓋用手かぎの差し込み口であって、上部23と下部24を通る直径方向を例えば縦方向とし、これと直交する方向を横方向として前記突起群20を配置している。よって、車両が図1の紙面の上から下へ移動するように地下構造物用鉄蓋10を設置することになる。
【0025】
次に、上記のスリップ防止構造の作用について図5以下を参照して説明する。図5は図1ないし図3を参照して説明したのと同じスリップ防止構造に関するものであり、AとBは同じ状態であるが、頂部14、16を強調した描画としてタイヤとの接触部分をより明確に把握できるようにされている。図5Bによれば、タイヤ接地面25には12個の基本突起15−1、15−2と4個の小突起17−2を数えることができ、小突起17−2の頂部16−2の面積は基本突起15−1の頂部14−1の面積の半分以下であるので、殆どの摩擦抵抗を基本突起15−1、15−2で得ており、小突起17−2による分は僅少であることが分かる。また、タイヤ接地面25におけるトレッドパターン12a、12bには基本突起15−1、15−2が嵌合しないことが分かる。図6は、図5における小突起17−2を小突起17−1に変えたスリップ防止構造に関するもので、図5同様にAとBは同じ状態である。従って、12個の基本突起15−1、15−2と4個の小突起17−1を有すること、小突起17−1の頂部16−1の面積は基本突起15−1の頂部14−1の面積の半分程度であることなどの条件はほぼ同様である。
【0026】
本発明を構成する各二種類の基本突起15−1、15−2と小突起17−1、17−2について、上面14−1、14−2、16−1、16−2の面積と面圧を測定したので、これらの測定結果を背景技術に記載した特許文献2、3、5とともに表1に掲載する。何れの地下構造物用鉄蓋も直径600mmの円形蓋とし、特許文献2、3、5のものに関する数値は、各々の特許発明実施品とみなされる公道上に敷設された製品の実測値である。なお、供試車両の前車輪のタイヤ接地荷重はブレーキング時において荷重移動を考慮した約100Kgであり、この重量に基づいて表中の面圧を計算した。
表1

【0027】
表1によれば、本発明のスリップ防止構造による突起頂部の面圧は、特許文献2のものの2分の1以下、特許文献5のものの約6分の1であり、従って、本発明によれば鉄蓋使用可能年数を上記特許発明実施品の少なくとも2倍以上ないしは6倍以上に延長できることになる。
【0028】
社団法人日本下水道協会発行の資料「下水道マンホールふたの維持管理マニュアル(案)平成12年12月」の43ページには、「マンホール鉄蓋表面の摩耗は0.1〜0.3mm/年進行して行くと思われる。」と記載されている。同資料は、使用開始時の鉄蓋表面の模様は6mmの高さを有するので、そこから使用限界の3mmに至る時間を0.2mm/年の摩耗速度と仮定して、3÷0.2=15年と耐用年数を計算している。上記特許文献2、3、5による実施品もこの条件を満たすはずであるから、それらをはるかに凌駕する本発明の実施品では摩耗量がさらに減少することから、鉄蓋耐用年数の著しい向上を期待することができる。
【0029】
このように構成されている本発明のスリップ防止構造によれば、鉄蓋耐用年数を著しく延長できることは上記したとおりであるが、本来のスリップ防止効果についても、以下に示す通り十分な効果を期待することができる。本発明のスリップ防止構造を適用した地下構造物用鉄蓋のスリップ防止性能について、特開2009−75074号に開示されている「地下構造物用蓋体表面における摩擦係数測定装置」を用いて試験を行った。そこで、その結果を特許文献2のものとともに表2に示す。
表2

【0030】
特許文献3及び5のものについても同じ試験を行ったが、測定を20回程度繰り返したところでタイヤのトレッドパターンの溝の角がちぎれるなどの大きなダメージを観測した。本発明を適用した地下構造物用鉄蓋については、50回測定を繰り返してもタイヤのトレッドパターンの溝の角にダメージは無く、表2のとおり優れた滑り抵抗係数を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るスリップ防止構造を適用した地下構造物用鉄蓋の一例を示す平面図である。
【図2】同上における突起群とトレッドパターンの一例を示す説明図である。
【図3】同じく突起群を示すもので、Aは突起群相互の位置関係を例示する平面図、Bはスリップサインを設けた突起群の平面図、CはBにおけるIIIC−IIIC線断面図である。
【図4】小突起の二つの例を示すもので、a〜eとh〜lはそれらの小突起の摩耗による形状変化を示す平面図である。
【図5】本発明のスリップ防止構造の作用を示すもので、Aはタイヤ接地面の説明図であり、Bは各突起の頂部を強調したタイヤ接地面の説明図である。
【図6】図5と異なる小突起を有するものの作用を示すもので、Aはタイヤ接地面の説明図であり、Bは各突起の頂部を強調したタイヤ接地面の説明図である。
【図7】タイヤのスリップ率と動摩擦係数の関係を概念的に示すグラフである。
【符号の説明】
【0032】
10 地下構造物用鉄蓋
11 スリップ防止模様
12 トレッドパターン
13 トレッドパターンを構成する最大の溝
14、14−1、14−2、16−1、16−2 頂部
15、15−1、15−2 基本突起
17、17−1、17−2 小突起
18 切除部
19 凹凸構造
20 突起群
21 スリップサイン
22 曲面部分
23 鉄蓋の図1における上部
24 同じく下部
25 タイヤ接地面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が通行する路面に設置される、地下構造物用鉄蓋の表面に設けたスリップ防止模様による滑り止め構造であって、二輪車のタイヤのトレッドパターンに基づく、スリップ防止模様を有することを特徴とし、上記スリップ防止模様は、トレッドパターンを構成する最大の溝の溝幅d以上の大きさの頂部の平面形状を有し、かつ相互に密接して配置する基本突起と、上記トレッドパターンの溝幅dよりも小さい大きさの頂部の平面形状を有し、上記基本突起の間に配置する小突起とから構成されている地下構造物用鉄蓋のスリップ防止構造。
【請求項2】
基本突起は、頂部の平面形状が矩形又は矩形を基準とする多角形状であり、その矩形又は多角形状の最小の幅Dがトレッドパターンを構成する最大の溝の溝幅d以上の大きさとした請求項1記載の地下構造物用鉄蓋のスリップ防止構造。
【請求項3】
基本突起と小突起は、共に四角錐台又は四角錐台を基準とする突起形状を有し、夫々の突起形状の基部における平面形状は多角形から成り、上記小突起の基部の面積を基本突起の基部の平面積のほぼ二分の一とした請求項1又は2記載の地下構造物用鉄蓋のスリップ防止構造。
【請求項4】
小突起は、四角錐台形状における稜線部分をえぐり取って形成した曲面部分を有している請求項3記載の地下構造物用鉄蓋のスリップ防止構造。
【請求項5】
平面形状が矩形の基本突起を2個長手方向に平行に僅かな間隙を設けて配置し、平面形状が多角形状の基本突起を、平行にならんだ上記矩形の基本突起の両端に僅かな間隙を設けて配置し、相互に密接した4個一組の突起群を構成し、上記突起群の周囲に小突起を配置して構成した請求項1記載の地下構造物用鉄蓋のスリップ防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−117272(P2012−117272A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267458(P2010−267458)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000214696)長島鋳物株式会社 (38)
【Fターム(参考)】