説明

地下水採水装置

【課題】ボーリング孔や井戸に降ろして複数の深度ごとの地下水を連続して一工程で採水することができる簡単な構造の地下水採水装置を提供する。
【解決手段】ボーリング孔に降ろされて深度毎の地下水を採水する地下水採水装置において、ボーリング孔6内に先に降ろされて地下水が採水される内管1が、地下水が流入流出する開口8を有する縦方向に接続・分離可能な有底の内管1からなり、接続された各内管1に地下水が採水された後に内管を取り囲んでボーリング孔6に降ろされる外管2が、各内管1に対応して独立して取り囲む縦方向に接続・分離可能な外管2からなり、各外管2の下部に各内管1の下部の外面に接触して各外管内を独立して閉塞するOリング9が取り付けられている地下水採水装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボーリング孔や井戸に降ろして複数の深度ごとの地下水を一度で採水することができるだけでなく、所定の深度の地下水も採水することができる地下水採水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機化合物、重金属、農薬、油などによる地下水汚染を把握するために、ボーリング孔に地下水採水装置を降ろして採水し、地下水汚染物質や濃度を分析している。従来の採水装置の主なものは、簡易採水器(ベーラー)、小型水中ポンプ、井戸用採水器(非特許文献1参照)等があり、所定の深度で一箇所のみの採水装置であった。この様な従来技術の課題を解決するために、1地点における複数深度の地下水の採水を行う採水方法および装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
前記特許文献1に記載された、採水方法および採水装置は次のとおりである。採水方法は、複数の所望の深度に各々ストレーナを有する単孔を設置し、各々が一端に取水口を有する複数の採水管を単孔に導入して各採水管の取水口を前記所望の深度付近に位置させ、吸水により膨張する区画部材を前記取水口ストレーナの間に位置するように配置し吸水させて各取水口間が遮断されるように単孔内を膨張した区画部材によって区画し、該区画部材によって区画された単孔から前記採水管の各々を通して採水する。また、採水装置は、各々が一端に取水口を有し所望の深度付近に該取水口が位置するように単孔に導入される複数の採水管と、単孔内の前記採水管の各取水口間に配置され吸水により膨張して該取水口間を遮断するように単孔内を区画する区画部材と、前記区画部材により区画された単孔から前記採水管を通して採水するために該採水管の各他端に接続される吸引装置とを備えるものである。
【特許文献1】特開平8−226143号公報
【非特許文献1】地盤工学会編,「地盤調査の方法と解説」p.715〜719,(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献に記載された採水では、複数箇所に単孔を形成し、各単孔ごとに採水管を所望の深度付近に位置させ区画部材によって区画して遮断しなければならないので、準備のための施工に手間がかかる。また、各単孔にそれぞれ採水装置を配置しなくてはならないため、設備が複雑となる。
【0005】
そこで、本発明は、ボーリング孔や井戸に降ろして複数の深度ごとの地下水を連続して一工程で採水することができる簡単な構造の地下水採水装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の地下水採水装置は、ボーリング孔に降ろされて深度毎の地下水を採水する地下水採水装置において、ボーリング孔内に先に降ろされて地下水が採水される内管が、地下水が流入流出する開口を有する縦方向に接続・分離可能な有底の内管からなり、接続された各内管に地下水が採水された後に内管を取り囲んでボーリング孔に降ろされる外管が、各内管に対応して独立して取り囲む縦方向に接続・分離可能な外管からなり、各外管の下部に各内管の下部の外面に接触して各外管内を独立して閉塞するOリングが取り付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
地下水汚染は汚染物質、深度および地層状態によって汚染分布が異なっているが、本発明の地下水採水装置は、全深度の地下水を深度毎に同時に採取できるので、地下水汚染分布を的確に把握することが可能となる。そのため、複数本のボーリング孔で測定すれば、2次元、3次元的に汚染分布域が解明される。地下水汚染の時間的な拡散状態もモニタリングすることができる。また、修復対策の設計・施工が合理的にでき、修復施工後のモニタリングも信頼性が高い。
【0008】
本発明の地下水採水装置は、内管と外管が規定長さで独立し、引き上げ時に水密状態の採水器となっているので、所定深度での地下水を確実に採水することができる。
【0009】
本発明の地下水採水装置は、採水器となる内管と外管がネジの接続により自由に延長・短縮することができるので、あらゆる深度に対応することが可能となる。
【0010】
本発明の地下水採水装置は、内管どうしおよび外管どうしをネジで接続する簡単な構造なので、簡単な操作で1人でも作業可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は本発明の地下水採水装置をボーリング孔にセットした状態を示す全体模式図、図2は本発明の地下水採水装置の外管と内管の断面を示す図、図3は本発明の地下水採水装置の外管と内管を示す分解斜視図である。
【0013】
図1において、本発明の採水装置の内管1どうしおよび外管2どうしがそれぞれ垂直方向に接続された状態で最上位の内管1の上部に取り付けられたフック3に掛けられたワイヤ4によりやぐら5から吊り下げられて、ボーリング孔や井戸6の中に挿入されセットされる。外管2は最下位の外管支持用フランジ7に支持される。内管には地下水が通る通水開口8、例えばスリット、孔、メッシュが設けられている。外管2どうしはOリング9を介して接続されている。
【0014】
図2および図3において、内管1は円形断面の筒状で、上部が開放された有底の容器である。内管1はステンレスなどの化学変化しない材質で製作する。内管1は、例えば、ボーリング孔の直径が約5cm、深さ約20mの場合、内管1の直径約3cm、内管1の長さ1m程度にして約1mごとに採水する。
【0015】
内管1は、その上端の外周に外ネジ10および下端の内周に内ネジ12が形成される。上下の内管1は外ネジ10と内ネジ12の螺合により接続される。
【0016】
内管1の表面には内管内に地下水を通す通水開口8が形成される。通水開口8は、例えば、図2および図3に示すように、複数のスリット8を設ける。スリット8は、内管1をボーリング孔6に挿入する際に上の水が流入するが、所定位置に放置することによって所定位置の地下水と完全に入れ替わるようにするために底の近辺まで長く形成し、底部分の空間を小さくする。
【0017】
最下位の内管1の下端には、外管2を支持するため内管1の外周から張り出した外管支持用フランジ7が設けられる。外管支持用フランジ7は内管と一体に形成したり、内管1の下端にネジを形成して螺合させて取り付けたりしてもよい。
【0018】
最上位の内管1の上端には、ワイヤ4を掛けるフック3が設けられたフック接続具11を着脱自在に接続できるようにする。フック接続具11は、下部を内管上端の外ネジ10に螺合できる内ネジが形成されている。フック接続具11は上部に形成した孔に通して回転自在のフック3で構成される。フック3をフック接続具11の孔に通して回転自在に設けることにより、フック3に掛けたワイヤ4を捩ることなく内管1を回すことができる。
【0019】
内管1の上部には、内管1のボーリング孔6への挿入時および引き上げ時に内管1の落下を防止するためにボーリング孔6の開口部を取り囲んで設置された環状の開口部カラー22に支持される落下防止ピン13(図5)を挿入する落下防止孔14が対向して形成される。
【0020】
内管1を取り囲んで外管2が配置され、水封構造により、内管1の引き上げ時に採水された地下水が漏れるのを防止する。外管2は、その上端の外周には外ネジ15が形成され、下端の内周の段部には内ネジ16が形成される。外管2どうしは、外ネジ15と内ネジ16との螺合により接続される。外管2はステンレスなどの化学変化しない材質で製作する。
【0021】
外管2の下端の内ネジ16が形成された内周の段部には弾性を有する化学変化しないシリコンゴムなどのOリング9が取り付けられている。内ネジと外ネジを螺合させ、締め付けることによりOリング9は固定される。Oリング9は、内管1の外周に軽く接する幅にする。接触の程度は、外ネジ15と内ネジ16の締め付けの程度により調整できる。
【0022】
外管2のうち、外管支持用フランジ7に支持される最下位の外管2は、Oリング9を取り付けるため、外管最下部管21の上端の外ネジ23と外管2の下端の内ネジ16を螺合させ締め付けてOリング9を固定する。
【0023】
図4は本発明の地下水採水装置の外管を降ろす際に使用する外管保持具20の一例を示す平面図である。
【0024】
外管2をボーリング孔内に降ろす際に使用する外管保持具20は、外管2を取り囲むように対向する2分割された、シリコンゴムパッキン17を内周に備えたシリコンゴムパッキン保持体18を蝶ナット19により締め付けて外管2を挟んで保持する。
【0025】
次に、本発明の地下水採水装置の使用手順について説明する。図5は本発明の地下水採水装置の内管を取り出す方法の説明図である。
【0026】
(1)内管のセッティング
図2および図5において、下端に外管支持用フランジ7を有する最下位の内管1の落下防止孔14に落下防止ピン13を通し、内管1をボーリング孔6の開口部の回りに設置された開口部カラー22に支持する。支持した内管1の上端の外ネジ10と、2番目に接続する内管1の下端の内ネジ12を螺合させて接続する。
【0027】
接続が終了すると、落下防止孔14から落下防止ピン13を抜き、接続された内管1を下降させた後、接続された2番目の内管1の落下防止孔14に落下防止ピン13を通してボーリング孔6の開口部カラー22に支持する。接続された内管は深度が浅い場合は手作業で保持しながら下降させることができるが、深度が深くなると下降時の万が一の落下を防ぐため、下降の際には、フック接続具11を内管1に取り付け、フック3にワイヤ4を掛けて降下させ、内管1の落下防止孔14に落下防止ピン13を通してボーリング孔6の開口部カラー22に支持するようにする。
【0028】
以上のボーリング孔6の開口への内管1の支持、内管1どうしの接続、接続された内管1の下降の手順を繰り返して内管1を接続していく。この接続作業を最下位の内管1がボーリング孔6の底に達するまで行う。この内管1を下降させる際、気泡の発生や地下水の乱れを生じさせないように静かに降下させるように注意を払う。
【0029】
こうして、接続された内管1がボーリング孔6にセットされると、各内管1に設けられているスリット8を通して地下水がその流れにより流入、流出する。内管内が各深度の地下水で入れ替わる所定の期間そのままの状態に維持しておく。
【0030】
所定の期間経過後、内管1の引き上げ作業を行う。
【0031】
(2)外管のセッティング
内管1の引き上げ作業の際に、内管1の中に取り入れた地下水を採水するために、各内管1の外周を外管2で取り囲んで水封した状態にセッティングして、内管1と外管2をともに引き上げていく。
【0032】
外管2のセットの手順は次のとおりである。まず、最下位の内管1を取り囲む最下位の外管2を図4に示す外管保持具20に保持し、外管を保持した外管保持具20をボーリング孔6の開口部カラー22に支持する。最下位の外管2の下部は外管最下部管21の上端の外ネジ23と外管2の下端の内ネジ16を螺合させ締め付けてOリング9が固定されて内管1に軽く接して水密構造となる。
【0033】
次いで、最下位の外管2に2番目に接続する外管2を螺合により接続する。その際、2番目の外管2の下端の内周に形成された段部に取り付けられたOリングが螺合により締め付けられ、内管1に軽く接して水密構造となる。
【0034】
2番目の外管2の接続が完了すると、2番目の外管2に外管保持具20を取り付けた後、最下位の外管2に取り付けていた外管保持具20を外して接続された外管2を、ボーリング孔6内の地下水が撹乱しないようにゆっくり下降させる。下降後、3番目の外管2を2番目の外管2に螺合させ、締め付けによりOリング9が内管に軽く接して水密構造となる。
【0035】
以上のボーリング孔6の開口部カラー22への外管保持具20による外管2の支持、外管2どうしの接続、接続された外管2への外管保持具20の取り付けと前行程の外管保持具20の取り外し、接続された外管2の下降の手順を繰り返して外管2を接続していく。この接続作業を最下位の外管2が内管1の外管支持用フランジ7に達するまで行う。こうして、各内管1は、各外管2に独立して取り囲まれ、水密構造となる。
【0036】
(3)内管および外管の引き上げ
図5は本発明の地下水採水装置の内管を取り出す手順の説明図である。
【0037】
外管2のセッティングが完了すると、最上位の内管1の上端にフック接続具11を取り付け、フック3にやぐらのワイヤ4を掛けて巻き上げて内管1を引き上げる。内管1の外管支持用フランジ7に支持されている外管2も引き上げられる。内管1は、2番目の内管1の落下防止孔14に落下防止ピン13が挿入できるレベルまで巻き上げる。
【0038】
この状態で最上位の外管2を回転させてネジを外し、2番目の外管2から切り離し、2番目の内管1の落下防止孔14に落下防止ピン13を挿入して内管1を開口部カラー22に支持する。
【0039】
次いで、最上位の内管1を回転させてネジを外し、2番目の内管1から切り離す。フック3はフック接続具11に自転可能に取り付けられているので、内管1の回転にワイヤ4が捩れることはない。このとき、外管2の下端のOリング9は内管に接して水密状態になっているので、採水した地下水の漏れを抑えることができる。
【0040】
切り離された内管1および外管2を取り出し、外管2の先端部にOリング9を内管に取付け先端部からの水漏れを防いで内管1内の地下水を分析用の試料容器に移す。
【0041】
前記と同様の手順により、外管をその下の外管から切り離し、内管を落下防止孔に落下防止ピンを挿入して支持した後、内管をその下の内管から切り離し、切り離された内管および外管内の地下水を分析用の試料容器に移す手順を繰り返すことにより、深度毎の地下水を順次採水することができる。
【0042】
地下水を採取した後の内管1および外管2は、次の採水に備えて水または中性洗剤でブラシ、タオルなどを用いて丁寧に洗浄して、地下水が残留しないようにする。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の地下水採水装置をボーリング孔にセットした状態を示す全体模式図である。
【図2】本発明の地下水採水装置の外管と採水管の接続部分を示す断面図である。
【図3】本発明の地下水採水装置の外管と採水管を示す分解斜視図である。
【図4】本発明の地下水採水装置の外管を降ろす際に使用する外管保持具の平面図である。
【図5】本発明の地下水採水装置の内管を取り出す手順の説明図である。
【符号の説明】
【0044】
1:内管 2:外管
3:フック 4:ワイヤ
5:やぐら 6:ボーリング孔
7:外管支持用フランジ 8:通水開口(スリット)
9:Oリング 10:内管の外ネジ
11:フック接続具 12:内管の内ネジ
13:落下防止ピン 14:落下防止孔
15:外管の外ネジ 16:外管の内ネジ
17:ゴムパッキン 18:ゴムパッキン保持体
19:蝶ナット 20:外管保持具
21:外管最下部管 22:開口部カラー
23:外管最下部管の外ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボーリング孔に降ろされて深度毎の地下水を採水する地下水採水装置において、ボーリング孔内に先に降ろされて地下水が採水される内管が、地下水が流入流出する開口を有する縦方向に接続・分離可能な有底の内管からなり、接続された各内管に地下水が採水された後に内管を取り囲んでボーリング孔に降ろされる外管が、各内管に対応して独立して取り囲む縦方向に接続・分離可能な外管からなり、各外管の下部に各内管の下部の外面に接触して各外管内を独立して閉塞するOリングが取り付けられていることを特徴とする地下水採水装置。
【請求項2】
内管の上部にボーリング孔の回りから内管を支持する落下防止用ピンが挿入される落下防止用孔が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の地下水採水装置。
【請求項3】
ボーリング孔に降ろされた最下位の内管の下端に外管の下端を受けて支持する外管支持用フランジが設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の地下水採水装置。
【請求項4】
最上位の内管の上部に取り付けられた内管を吊るフックが自転可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1、2または3に記載の地下水採水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−257047(P2009−257047A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−110266(P2008−110266)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【特許番号】特許第4187226号(P4187226)
【特許公報発行日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(508122530)