説明

地下灌漑システム

【課題】傾斜地の圃場にも効果的に給水することができる地下灌漑システムを提供する。
【解決手段】。
傾斜地に設けられた耕作地11に設置される地下灌漑システムであって、耕作地11の傾斜方向上部側に設けられた給水路12から傾斜方向下部側に設けられた排水路13に向かって設けられた主給排水路14と、主給排水路14から分岐した複数の給排水支管15とを備え、給排水支管15は、耕作地11の地中にあらかじめ設定された深さで、かつ、耕作地11における等高線に平行な方向に埋設した有孔管である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下灌漑システムに関し、詳しくは、傾斜した土地に形成された畑地への灌漑を行う地下灌漑システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から行われている地下灌漑は、主に、畑作時の地下水位を調節して毛管現象により水分を補給するものであって、地下水位を作物に適した水位に調節することによって収穫量の向上を図るようにしている。この地下灌漑は、圃場の地中に有孔管を埋設し、該有孔管を介して、地中の余剰地下水を排水路に排水するとともに、不足する用水を圃場に供給するもので、有孔管の下流側には水位設定器が設置され、該水位設定器により地下水位を設定している(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3671373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献を含めて従来の地下灌漑システムは、地面が水平な圃場を対象とするものであり、傾斜地においても、棚田や段々畑など、耕作部の地面を水平に整備した場所で使用することを主目的としていた。一方、傾斜が緩やかで、広い土地では、水田の場合には適当な区画に区切って地面を水平に整備する必要があるが、畑地の場合は、凹凸をならす程度で、傾斜状態のまま使用している例がほとんどである。しかし、土地が傾斜していると、雨水が傾斜に沿って流れてしまうために保水性に難点があり、さらに、土地自体の透水性が高い場合には、作物にとって慢性的な水不足状態となってしまう。また、近年の夏の暑さでは、地表から、例えばスプリンクラーで散水しても、散水した水の多くが空中で蒸発してしまい、地表面に落下した水も、表面近くを潤すだけであり、地下の作物の根の部分にはほとんど到達しないのが実情である。
【0005】
そこで本発明は、傾斜地の圃場にも効果的に給水することができる地下灌漑システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の地下灌漑システムは、傾斜地に設けられた耕作地に設置される地下灌漑システムであって、前記耕作地の傾斜方向上部側に設けられた給水路から傾斜方向下部側に設けられた排水路に向かって設けられた主給排水路と、該主給排水路から分岐した複数の給排水支管とを備え、該給排水支管は、前記耕作地の地中にあらかじめ設定された深さで、かつ、該耕作地における等高線に平行な方向に埋設した有孔管であることを特徴としている。
【0007】
さらに、本発明の地下灌漑システムは、前記給排水支管が前記給排水支管からの分岐部と反対側の端部に該給排水支管内の点検洗浄を行うための点検洗浄部を備えていること、前記給排水支管が前記主給排水路に立ち上がり管を介して接続され、前記主給排水路より深い位置に埋設されていること、前記主給排水路は、前記給排水支管の分岐位置に給排水支管が接続される分岐枡を備えており、該分岐枡は、前記給排水支管の接続部の下流側に水位設定部を備え、前記給排水支管は前記分岐枡の底部に対して水平方向に配置されていること、前記主給排水路が前記耕作地の一側に沿って埋設されたパイプであることを特徴としている。
【0008】
また、前記耕作地が前記給排水支管の埋設深さより深い位置に、下層の土砂を圧縮した不透水層が形成されていること、前記下層の土砂の圧縮は、耕作地の地面と平行な方向に配置される下層土圧縮刃と、該下層土圧縮刃から上方に立ち上がった圧縮刃保持部材とを備えた下層土圧縮装置を使用し、前記圧縮刃保持部材を作業機にて保持し、該作業機を作動させて前記下層土圧縮刃を地中のあらかじめ設定された深さに挿入した状態で下層土圧縮刃を地面と平行な方向に移動させることにより行われることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の地下灌漑システムによれば、主給排水路から分岐した給排水支管を等高線に平行な方向に埋設しているので、主給排水路から給排水支管に流入した用水を給排水支管の全長にわたって均等に導くことができる。これにより、耕作区全体の地下灌漑を確実に行うことができる。特に、給排水支管の埋設深さより深い位置に不透水層を形成しておくことにより、耕作区内への地下灌漑を、少ない用水量でより確実に行うことができる。さらに、水位設定部を備えた分岐枡を設けることにより、地下水位の調整が可能になるとともに、暗渠排水機能も付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の地下灌漑システムの一形態例を示す平面図である。
【図2】同じく地下灌漑システムの断面図である。
【図3】地下供給管と有孔管との分岐部の一例を示す断面図である。
【図4】点検洗浄部の一例を示す断面図である。
【図5】不透水層を形成する作業状態の一例を示す説明図である。
【図6】不透水層を形成する下層土圧縮装置の一例を示す正面図である。
【図7】地下水位設定用の分岐枡の一例を示す断面側面図である。
【図8】同じく分岐枡の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1乃至図5は、本発明の地下灌漑システムの一形態例を示すもので、本形態例に示す耕作地11は、略長方形状に区画されており、水平線Hに対して、図1における右上側の標高が高く、左下側に向かって緩やかな下り勾配を有する斜面となっており、耕作区11内の傾斜角度は、凹凸の存在によって僅かに異なったものとなっている。
【0012】
耕作地11の傾斜方向上部側の短辺11aの近傍には、該短辺11aに沿うようにして給水路12が設けられており、耕作地11の傾斜方向下部側の短辺11bの近傍には、該短辺11bに沿うようにして排水路13が設けられている。さらに、耕作地11の傾斜方向下部側の長辺11cの近傍には、下り勾配を有する主給排水路14が長辺11cに沿うようにして設けられており、該主給排水路14の上流側は、給水口12aを介して前記給水路12に接続され、主給排水路14の下流側は前記排水路13に接続されている。なお、給水路12、排水路13及び主給排水路14は、状況に応じて開放型の水路で形成してもよく、パイプラインで形成することもできる。
【0013】
前記主給排水路14からは、複数の給排水支管15が分岐している。この給排水支管15は、周壁に通水孔を有する有孔管からなるものであって、耕作区11の傾斜度や土質、作物の種類などの条件に応じて設定された間隔及び深さで地中に埋設されている。給排水支管15の軸線は、耕作区11を通る標高線に平行な方向、すなわち、等高線に沿う方向になるように設定されており、長辺11cに沿う方向に設けられて下り勾配を有する前記主給排水路14に対して耕作区11を斜めに横切る状態で設けられている。
【0014】
一つの耕作区11内で傾斜角度や傾斜方向が異なっている場合、図1に示すように、各給排水支管15を埋設する部分を通る等高線に合わせて給排水支管15の方向をそれぞれ設定し、給排水支管15を等高線に合わせて屈曲させることにより、給排水支管15の埋設深さを一定にすることができ、より確実な地下灌漑を行うことができるが、傾斜角度の変化が小さく、全ての給排水支管15を平行に設けても給排水支管15の埋設深さが大きく異なることがなければ、全ての給排水支管15を平行に設けてもよい。さらに、等高線が大きく屈曲して隣接する給排水支管15同士の間隔が大きく開きすぎたり、近付きすぎたりするような場合は、給排水支管15を分岐させたり、合流させたりすることも可能であり、給水路12から直接的に給排水支管15を分岐させることも可能である。
【0015】
また、図3に示すように、給排水支管15の基部の分岐側は、主給排水路14に立ち上がり管16を介して接続されており、主給排水路14より深い位置に給排水支管15を配置している。これにより、給水路12から供給されて主給排水路14を流れる用水を、主給排水路14から給排水支管15に確実に流入させることができるとともに、給排水支管15内の用水に立ち上がり管16の高さ分の水頭圧を与えることができるので、給排水支管15に流入した用水を給排水支管15の先端までより確実に行き渡らせることができ、耕作区11全体の地下灌漑を確実に行うことができる。さらに、地下灌漑時の地下水位を主給排水路14の埋設深さで設定することができ、例えば、果実用樹木への用水供給など、地下水位を大きく変化させない用途に適用する際には、水位の設定を簡単かつ確実に行うことができる。
【0016】
一方、図4に示すように、給排水支管15の先端には、該給排水支管内の点検洗浄を行うための点検洗浄部17が設けられている。この点検洗浄部17は、主給排水路14から給排水支管15に流入した用水が給排水支管15の先端まで到達しているか否かを点検するとともに、用水が給排水支管15の先端まで到達していなかった場合に、給排水支管15の先端開口からパイプクリーナーを挿入して給排水支管15内に溜まった土砂などを排出して給排水支管15内の洗浄を行うためのものである。点検洗浄部17は、給排水支管15の先端部を収納する上方が開口した枡部材17aと、該枡部材17aの開口に開閉可能に設けられた蓋部材17bとで形成され、給排水支管15の先端開口にはキャップ15aが装着されている。
【0017】
さらに、本形態例では、前記給排水支管15の埋設深さより深い位置に、下層の土砂を圧縮した不透水層18が形成されている。この不透水層18は、例えば、火山灰地のように、透水性が大きな土地に耕作区を形成する場合に必要に応じて設けられ。不透水層18は、耕作区を所定深さに掘り起こした後に、固形粘土を敷きつめて締め固める方法(特開平7−50938号公報参照)やセメントやアスファルトなどの止水材を混合する方法(特開平2−42903号公報参照)などの方法で形成することが可能である。
【0018】
さらに、図5及び図6に示すように、耕作地11の地面と平行な方向に配置される下層土圧縮刃21と、該下層土圧縮刃21から上方に立ち上がった圧縮刃保持部材22と、該圧縮刃保持部材22の上部に設けられた作業機装着部23とを備えた下層土圧縮装置24を使用し、作業機装着部23を作業機25に装着した状態で作業機25を作動させ、下層土圧縮刃21を地中に挿入して地面と平行な方向に移動させることにより、下層土圧縮刃21が通過した部分の下層に、下層土を押し固めた状態の不透水層18を形成することができる。このように、バックホーやブルドーザなどの作業機25に下層土圧縮装置24を装着して作業機25を走行作動させたり、アーム25aを屈曲作動させたりして不透水層18を形成することにより、耕作区11の上層部を掘り起こしたりすることなく、給排水支管15の埋設深さより深い、地中のあらかじめ設定された深さ位置に不透水層18を形成することができ、耕作区11の所定位置に不透水層18を短時間で容易に、かつ、経済的に形成することができる。
【0019】
このような不透水層18を耕作区11に形成してから前記主給排水路14及び給排水支管15を施工して地下灌漑を行うことにより、給排水支管15から地中に供給された用水が下層に流れ出すことを防止でき、少ない用水量で耕作区11の地下水位を確実に保持することができる。
【0020】
また、図7及び図8に示すように、主給排水路14から給排水支管15が分岐する位置に分岐枡31を設けておくこともできる。この分岐枡31は、上部が開口した箱形の枡本体の対向する内面に水位設定を行うための堰板32を着脱可能に装着するための堰板装着溝33を形成し、堰板装着溝33の位置よりも上流側に主給排水路14の上流側流路14aと給排水支管15とをそれぞれ接続するとともに、堰板装着溝33の位置よりも下流側に下流側流路14bを接続したものである。
【0021】
給排水支管15と下流側流路14bとは、枡本体の底部にそれぞれ開口するように接続されており、給排水支管15は、前述のような立ち上がり管を介さずに枡本体の底部側面から水平方向に延設され、給排水支管15内の用水が枡本体内に流入可能な状態に形成され、下流側流路14bは、枡本体内の用水を下流側流路14bを介して排水路13に排出可能な状態に形成されている。なお、上流側流路14aの位置は、上流側流路14aから枡本体内に用水が流入可能な任意の位置に設けることができる。また、枡本体の上部開口には着脱可能な蓋が設けられる。
【0022】
このような分岐枡31を給排水支管15の分岐位置に設けておき、堰板装着溝33に装着する堰板32の高さを変更することにより、耕作区11の地下水位を堰板32の高さによって設定することができるので、耕作区11の地下水位を、栽培する作物に適した地下水位に設定することができる。例えば、幅10cmの板を堰板32として使用した場合、堰板32の装着枚数を変えることにより、10cm単位で地下水位を設定することができる。また、全ての堰板32を取り外すことにより、給排水支管15内の用水を分岐枡31から下流側流路14bを介して排水路13に排出することができるので、耕作区11内に溜まった余剰の地下水を給排水支管15から速やかに排出することができる。
【符号の説明】
【0023】
11…耕作地、11a…短辺、11b…短辺、11c…長辺、12…給水路、12a…給水口、13…排水路、14…主給排水路、14a…上流側流路、14b…下流側流路、15…給排水支管、15a…キャップ、16…立ち上がり管、17…点検洗浄部、17a…枡部材、17b…蓋部材、18…不透水層、21…下層土圧縮刃、22…圧縮刃保持部材、23…作業機装着部、24…下層土圧縮装置、25…作業機、25a…アーム、31…分岐枡、32…堰板、33…堰板装着溝、H…水平線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜地に設けられた耕作地に設置される地下灌漑システムであって、前記耕作地の傾斜方向上部側に設けられた給水路から傾斜方向下部側に設けられた排水路に向かって設けられた主給排水路と、該主給排水路から分岐した複数の給排水支管とを備え、該給排水支管は、前記耕作地の地中にあらかじめ設定された深さで、かつ、該耕作地における等高線に平行な方向に埋設した有孔管であることを特徴とする地下灌漑システム。
【請求項2】
前記給排水支管は、前記給排水支管からの分岐部と反対側の端部に該給排水支管内の点検洗浄を行うための点検洗浄部を備えていることを特徴とする請求項1記載の地下灌漑システム。
【請求項3】
前記給排水支管は、前記主給排水路に立ち上がり管を介して接続され、前記主給排水路より深い位置に埋設されていることを特徴とする請求項1又は2記載の地下灌漑システム。
【請求項4】
前記主給排水路は、前記給排水支管の分岐位置に給排水支管が接続される分岐枡を備えており、該分岐枡は、前記給排水支管の接続部の下流側に水位設定部を備え、前記給排水支管は前記分岐枡の底部に対して水平方向に配置されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の地下灌漑システム。
【請求項5】
前記主給排水路は、前記耕作地の一側に沿って埋設されたパイプであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の地下灌漑システム。
【請求項6】
前記耕作地は、前記給排水支管の埋設深さより深い位置に、下層の土砂を圧縮した不透水層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の地下灌漑システム。
【請求項7】
前記下層の土砂の圧縮は、耕作地の地面と平行な方向に配置される下層土圧縮刃と、該下層土圧縮刃から上方に立ち上がった圧縮刃保持部材とを備えた下層土圧縮装置を使用し、前記圧縮刃保持部材を作業機にて保持し、該作業機を作動させて前記下層土圧縮刃を地中のあらかじめ設定された深さに挿入した状態で下層土圧縮刃を地面と平行な方向に移動させることにより行われることを特徴とする請求項6記載の地下灌漑システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−95621(P2012−95621A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247586(P2010−247586)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(596029085)株式会社パディ研究所 (28)
【出願人】(508320941)キャタピラー九州株式会社 (8)