説明

地下環境計測装置及び地下環境計測方法

【課題】
本発明の目的は、地層の発熱や機器の発熱が、地下環境計測装置内の構成機器の耐熱性を上回る場合でも、簡便で冷却効率が高い冷却機能を備えた地下環境計測装置及び地下環境計測方法を提供することにある。
【解決手段】
地下環境計測装置において、計測機器の上部に冷却機構を配置し、計測機器の収納容器の一部または全部を二重管構造とする。二重管構造は、計測機器の発熱時に、計測機器の収納容器内に空気の循環流が発生するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボーリング孔内で計測を行う地下環境計測装置に係わり、特に、冷却機構を有する地下環境計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボーリング孔を利用して地下環境を計測する従来技術としては、孔壁に設けた流路にトレーサーを通液し、その濃度変化を測定することで固相中のトレーサー移行特性を評価する方法(特許文献1)、トレーサーを水中に浮遊させ、その流動状態を監視することで地下水の流速と流向を計測する方法(特許文献2)、パッカーにより孔内空間を隔離し、地下水を採取する方法(特許文献3)がある。
【0003】
【特許文献1】特開2005−315607号公報
【特許文献2】特開2005−172574号公報
【特許文献3】特開平9−25783号公報 これらの従来技術で用いる地下環境計測装置は、冷却機構を有していない。これは、従来のボーリング孔内における計測が比較的地温が低い浅い地層深さを対象としており、計測機器の発熱も小さく、計測機器が高温に晒されることはなく、特に冷却機構を必要としなかったためである。
【0004】
一方、異なる技術であるが、ボーリング孔内を冷却する手段として、岩掘削時の発熱に対して、地表から泥水等を掘削部位に注入することが行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の地下環境計測装置では、構成機器数が少なく、かつ発熱量も比較的小さいものが多く、計測機器内の発熱は問題にならなかった。しかし、現在は、地下環境でも高度な分析技術が求められている。例えば、地下水中の硫化物イオン濃度や二価鉄イオン濃度などは、放射性廃棄物処分時の環境を評価する際に非常に重要な指標であり、これらの濃度を深地層のボーリング孔内の環境下でリアルタイムにモニタリングする技術が必要とされている。
【0006】
これを実現するためには、従来、地上の実験室で行っていた分析を地下のボーリング孔内に持ち込む必要がある。例えば、吸光光度法により分析する場合には、ハロゲンランプ等の発熱性の機器を計測装置に組み込む必要があり、また、分析試薬の混合等に非常に多くのバルブやポンプ,制御回路を組み込む必要がある。このため、第一に環境計測装置自身の発熱性が問題となる。
【0007】
次に、より深い地層を対象とする計測では、地層の温度(地温)が上昇する問題がある。地温は深さ百mにつき数℃上昇することが知られており、1000m級の地層では、地温は地表に比べて30℃程度高くなる場合がある。このため、第二に地層の発熱性が問題となる。
【0008】
以上の二つの発熱性は、地下環境計測装置における計測機器類の耐熱性の観点で問題となり、機器の損傷やICチップ等の制御基板の誤動作の原因となる。従って、このような場合には、地下環境計測装置に冷却機構を設ける必要がある。
【0009】
しかし、地下環境計測装置は地下深くに設置されるため、地表からの冷却は困難である。例えば、地表から冷媒等を送液しても、途中で冷媒の温度が上昇するなどの問題が生じ、冷却効率が非常に低くなる。
【0010】
また、計測装置の近傍に小型の冷却機構を設置する対策も考えられる。しかし、計測装置はボーリング孔内という狭い空間に長い距離にわたって気密に配置されるため、狭い空間に機器と配線が混在し、有効な冷却が困難となる問題がある。
【0011】
本発明の目的は、地層の発熱や機器の発熱が、地下環境計測装置内の構成機器の耐熱性を上回る場合でも、簡便で冷却効率が高い冷却機能を備えた地下環境計測装置及び地下環境計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の地下環境計測装置は、計測機器の上部に冷却機構を配置し、計測機器の収納容器の一部または全部を二重管構造とする。二重管構造は、計測機器の発熱時に、計測機器の収納容器内に空気の循環流が発生するように構成する。
【0013】
本発明の地下環境計測方法は、冷却機構を計測機器の上部に配置した地下環境計測装置を用いて、計測機器の収納容器の二重管構造によって収納容器内に空気の循環流(対流)を発生させ、地下環境の計測を行う。冷却機構で空気の循環流を冷却することにより、収納容器内を冷却する。
【0014】
本発明は、発明者らが、冷却機構を有する地下環境計測装置において、計測機器を収納する容器の一部または全部を二重管構造とすることで、地下環境計測装置内を効率良く冷却できることを見出したことに基づく。
【0015】
発明者らは、まず、地下環境計測装置の計測機器の上部に冷却装置を配置することにより、計測装置を冷却する試験を実施した。図2に、4つの計測機器6を収納容器(収納管)7内に配置して冷却装置4による冷却効果を測定した例を示す。(a)は収納容器7が一重管構造の場合、(b)は収納容器7が二重管構造の場合である。(b)では、収納容器7の内側に内側容器8を設置した。試験では、発熱性の計測機器6を配置した収納容器7(円筒形状)の中心軸に沿って、冷却装置4の作動後の定常温度(安定化した温度)を測定した。
【0016】
(a)に示すように、一重管構造の場合、冷却装置の近傍(高さが0近傍)では温度は下がるが、冷却装置から離れた場所(高さが1.5 〜2m)では局所的に温度が上昇する部分(最大90℃)が生じることが判った。図中の高さは、収納容器7の中心軸上で、冷却装置4からの下方向の距離を意味する。
【0017】
一方、(b)に示すように、二重管構造の場合、一重管構造のような局所的な温度上昇が抑制され、冷却装置から離れた場所(高さが1.5 〜2m)でも最大で50℃に冷却できることが確認できた。これは、計測機器6からの発熱により内側容器8内の空気が暖められて上昇流が生じ、この温度の高い空気が上部の冷却装置4によって効率的に冷やされる効果によるものである。冷却装置4で冷却された空気は、外側の収納容器7に沿って下に流れ、再び内側容器8内に流入する。これを繰り返すことにより、収納容器7内に自然対流が生じ、計測装置全体の温度が均質化(均一化)し、局所的な温度上昇を抑制する効果が得られる。
【0018】
このことから、計測機器を収納する容器を二重管構造とすることにより、収納容器内の空気の流れが改善し、計測機器を効率良く冷却できることが判った。これにより、計測機器全体の温度むらを低減できるので、計測機器が安定し、計測精度が向上する効果も得られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、地層の発熱や機器の発熱が、地下環境計測装置内の構成機器の耐熱性を上回る場合でも、地下環境計測装置内を効率良く冷却でき、安定した地下環境計測が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(実施例1)
以下、本発明による地下環境計測装置の第1実施例を、図1を用いて説明する。図1は、第1実施例の地下環境計測装置の概略構成図である。本実施例は、ボーリング孔内において地下水中の硫化物イオン濃度を計測する例である。ボーリング孔1の中には地下水2が満たされている。図1のように、地下環境計測部(地下環境計測プローブ)3,冷却装置4,放熱装置5を備える地下環境計測装置を、ボーリング孔1内の地下1000mまで挿入する。この位置における周囲の地層温度は約60℃、地下環境計測部3内の計測機器の耐熱温度は約70℃である。
【0021】
この状態で、周辺の地下水を地下環境計測部3内に連続的に採取し、ハロゲンランプ等の計測機器6を用いて、吸光光度法により地下水中の硫化物イオン濃度を計測する。冷却装置4による冷却をしない場合に、計測機器6が作動することによる地下環境計測装置内の温度上昇を、発熱量等の計算により求めた結果、約15℃となることが判った。このため、計測時には、冷却装置4を運転した。
【0022】
計測機器6は収納容器(外側容器)7と内側容器8からなる二重管内に配置されているため、計測機器6の発熱により暖められた空気は内側容器8内を上昇する。この空気は、上部の冷却装置4によって冷やされ、外側の収納容器7に沿って下に流れ、再び内側容器8内に流入する。計測中は、このような空気の循環流が収納容器7内で繰り返される。
【0023】
本実施例では、収納容器7内を簡便な二重管構造として、収納容器7内の空気の循環流(対流)を利用することにより、冷却装置4は、局所的な温度上昇なしに効率良く計測機器6を冷却できる。このため、地下環境計測装置内の最高温度を60℃以下に保つことができた。このように、地下環境計測装置の温度を、計測対象である地層の温度と同等の温度にできたため、精度の高い測定が実現(実施)できた。
【0024】
収納容器7を一重容器で構成し、収納容器内を強制的に冷却した比較例と比べた結果、本実施例の方が、計測装置内の温度がより均質(均一)になり、計測精度がより向上する効果が得られた。
【0025】
本実施例によれば、地層温度や計測機器の発熱の影響が、地下環境計測装置内の構成機器の耐熱性を上回る場合でも、簡便な構造で、地下環境計測装置内を効率良く冷却でき、安定した(高精度な)地下環境計測が可能となる。
【0026】
尚、本実施例では、収納容器7の全部(全周)を二重管構造としたが、上記した収納容器内の水の循環流(対流)を発生できれば、収納容器7の一部(全周の一部)を二重管構造としても同様な効果を得ることができる。
【0027】
(実施例2)
次に、本発明による地下環境計測装置の第2実施例を、図3を用いて説明する。図3は、第2実施例の地下環境計測装置の概略構成図である。本実施例は、ボーリング孔内において地下水中の鉄イオン濃度を計測する例である。
【0028】
ボーリング孔9の中には地下水10が満たされている。地下環境計測部11,冷却装置12,放熱装置13を備えた地下環境計測装置を、ボーリング孔9内の地下1000mに挿入する。この位置における周囲の地層温度は約80℃、地下環境計測部11内の計測機器の耐熱温度は約70℃である。この状態で、周辺の地下水を地下環境計測部11内に連続的に採取し、ハロゲンランプ等の計測機器を用いて、吸光光度法により鉄イオン濃度を計測する。
【0029】
冷却装置12による冷却をしない場合に、計測機器6が作動することによる地下環境計測装置内の温度上昇を、発熱量等の計算により求めた結果、約15℃となることが判った。これを考慮して、本実施例では、地下環境計測装置を70℃以下にするように冷却を工夫している。
【0030】
本実施例でも、第1実施例と同様に、収納容器(外側容器)7内を内側容器8との二重管構造としている。これにより、収納容器7内の空気の循環流(対流)を利用して、冷却装置12は、局所的な温度上昇なしに効率良く計測機器6を冷却できる。ただし、冷却の目標温度が地層温度よりも低いため、放熱方法を改良している。
【0031】
本実施例では、放熱装置13にも二重管構造を採用している。放熱装置13は、放熱チューブ14,内側容器15,外側容器16を備えている。放熱チューブ14は、その一端が冷却装置12に接続(接触)し、らせん状の形状をして、内側容器15内に配置されている。このため、冷却装置12からの放熱は、内側容器15内の放熱チューブ14に伝えられ、その発熱によって暖められた地下水10は、内側容器15内を上昇する。地層温度は上の方が低いため、地下水10は、内側容器15内を上昇するに伴って徐々に冷却される。冷却された地下水10は、放熱装置13の最上部で内側容器15と外側容器16の間を通って下に流れ、再び内側容器15の下側から流入し、放熱チューブ14に循環される。放熱装置13の最上部は開放されていても、閉鎖されていても良い。
【0032】
本実施例の地下環境計測装置を用いて、地下水中の鉄イオン濃度の計測を行った結果、地下環境計測部11の温度を約65℃まで冷却することが可能となり、精度の高い測定を実現できた。即ち、放熱装置13も二重管構造とすることにより、地下環境計測部11を効率的に冷却できることが判った。
【0033】
本実施例でも、地層温度や計測機器の発熱の影響が、地下環境計測装置内の構成機器の耐熱性を上回る場合に、簡便な構造で、地下環境計測装置内を効率良く冷却でき、安定した(高精度な)地下環境計測が可能となる。
【0034】
(実施例3)
次に、本発明による地下環境計測装置の第3実施例を、図4を用いて説明する。図4は、第3実施例の地下環境計測装置の概略構成図である。本実施例は、ボーリング孔内において地下水中のコロイド濃度を計測する例である。
【0035】
ボーリング孔17の中には地下水18が満たされている。地下環境計測部19,冷却装置20,放熱装置21を備える地下環境計測装置を、ボーリング孔17内の地下1000mに挿入する。この位置における周囲の地層温度は約70℃、地下環境計測部19の構成機器の耐熱温度は約70℃である。
【0036】
この状態で、周辺の地下水18を地下環境計測部19内に連続的に採取し、ハロゲンランプ等の計測機器6を用いて、吸光光度法によりコロイド濃度を計測する。冷却装置20による冷却をしない場合に、計測機器6が作動することによる地下環境計測装置内の温度上昇を、発熱量等の計算により求めた結果、約15℃となることが判った。このため、計測時には、冷却装置20を運転した。
【0037】
冷却装置20は、コンプレッサー22と減圧膨張弁23を有するヒートポンプ方式を採用した。ヒートポンプは、ガス状の冷媒をコンプレッサー22で圧縮して高温・高圧状態にし、その後、放熱チューブ等を通して放熱を行い、更に減圧膨張弁23から放出することで断熱膨張現象によりガスを冷却する。この冷却したガスを冷却チューブや冷却板中を通すことにより、冷却を行う。
【0038】
このヒートポンプは、装置の小型化が容易であり、地表からの電力供給により遠隔冷却が可能となる。また、距離の離れた箇所(位置)で放熱と冷却ができるため、放熱の影響を受けずに効率の良い冷却が可能となる。
【0039】
この冷却装置20を用いて地下水中のコロイド濃度を計測した結果、計測機器6の発熱を抑制して、地下環境計測装置を目標管理温度である70℃以下に制御(調整)することができた。この結果、精度の高い測定が実現できた。
【0040】
本実施例でも、地層温度や計測機器の発熱の影響が、地下環境計測装置内の構成機器の耐熱性を上回る場合に、簡便な構造で、地下環境計測装置内を効率良く冷却でき、安定した(高精度な)地下環境計測が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、ボーリング孔内で計測を行う地下環境計測装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1実施例の地下環境計測装置の概略構成図。
【図2】収納容器内の冷却装置による冷却効果を測定した例を示す図で、(a)は収納容器が一重管構造の場合、(b)は収納容器が二重管構造の場合。
【図3】本発明の第2実施例の地下環境計測装置の概略構成図。
【図4】本発明の第3実施例の地下環境計測装置の概略構成図。
【符号の説明】
【0043】
1,9,17 ボーリング孔
2,10,18 地下水
3,11,19 地下環境計測部
4,12,20 冷却装置
5,13,21 放熱装置
6 計測機器
7 収納容器
8,15 内側容器
14 放熱チューブ
16 外側容器
22 コンプレッサー
23 減圧膨張弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却機構を備え、ボーリング孔内で計測を行う地下環境計測装置において、
計測機器の上部に冷却機構を配置し、前記計測機器を収納する容器の一部または全部が二重管構造を有することを特徴とする地下環境計測装置。
【請求項2】
請求項1において、前記計測機器の発熱時に、前記計測機器を収納する容器内に空気の循環流が発生するように、前記二重管構造を構成したことを特徴とする地下環境計測装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記冷却機構の放熱部位が二重管構造を有することを特徴とする地下環境計測装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかにおいて、前記冷却機構にヒートポンプを用いることを特徴とする地下環境計測装置。
【請求項5】
ボーリング孔内に冷却機構を有する地下環境計測装置を設置して、地下環境の計測を行う地下環境計測方法において、
前記冷却機構を計測機器の上部に配置した地下環境計測装置を用いて、前記計測機器を収納する容器の二重管構造によって前記計測機器を収納する容器内に空気の循環流を発生させ、地下環境の計測を行うことを特徴とする地下環境計測方法。
【請求項6】
請求項5において、前記空気の循環流を前記冷却機構で冷却することにより、前記計測機器を収納する容器内を冷却することを特徴とする地下環境計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−268039(P2008−268039A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112481(P2007−112481)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)