説明

地中への計測器設置装置。

【課題】ボーリング孔内に設置する計測器の方向を簡単に制御できる構造と方法を提供する。
【解決手段】計測器4搭載用の台盤1と、ワイヤ2とねじれ止め材3とより構成する。3本のワイヤ2を、台盤1とねじれ止め材3とのワイヤ2孔を貫通させる。ワイヤ2を鉛直に垂下させた場合の同一水平面の位置に台盤1を位置させ、台盤1とは異なる位置にねじれ止め材3を位置させる。ワイヤ2群の上端には方向制御材7を取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中へ計測器を設置するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地盤の応力、ひずみ、加速度などを計測するためには、計測器を地中に設置しなければならない。
そのような用途のために、層別沈下計や、パイプ歪計が開発され使用されている。
層別沈下計は、1本のロッドに任意の間隔で水圧式アンカーと変位計を取り付けたものであり、これをボーリング孔内に挿入し、ボーリング孔との間隙はグラウト材を充填する。
この沈下計によって地盤のリバウンド量や沈下量を計測するものである。
パイプ歪計は、塩ビパイプに歪ゲージを貼り付けたものであり、ボーリング孔内へ挿入し、ボーリング孔との間隙はグラウト材を充填する。
塩ビパイプは柔軟性が高いので、地盤の変形があると塩ビパイプが歪を発生する。そのひずみを計測して地盤の地滑りを感知する装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−205956号公報。
【特許文献2】特開2007−114079号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した従来の地中への計測器設置装置にあっては、次のような問題点がある。
<1> 層別沈下計は1本のロッドに取り付けて数十メートルの深さまで挿入すると、ロッドが撓むことから、ボーリング孔内で徐々に方向を変えてしてしまう。そのような方向の変化を地上から修正することは困難である。
<2> 水圧式アンカーは回転しながら地盤と密着するために、計測器の方位を制御することができない。
<3> またこの沈下計は地盤の鉛直方向の変位量を計測するための装置であるために、地盤の歪成分(X、Y、Z)を計測するには適していない。
<4> パイプ歪計は、塩ビパイプを継ぎ足すことで地中深くまで設置することが可能である。しかしパイプの継ぎ足し個所が増加すればするほど、計器の方向のずれが生じやすくなり、塩ビパイプの鉛直精度も低下する。
<5> パイプ歪計は、地盤とはその変形特性が異なる塩ビパイプに歪ゲージを貼り付けるので、地滑りなどの大規模な変形を計測することは可能であるが、地盤の微小な歪を正確に計測することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような課題を解決するために本発明の地中への計測器設置装置は、計測器搭載用の台盤と、ワイヤとねじれ止め材とより構成し、3本のワイヤを、台盤とねじれ止め材とのワイヤ孔を貫通させ、ワイヤを鉛直に垂下させた場合の同一水平面の位置にストッパを設置し、このストッパを複数段に位置させ、台盤はストッパの上に位置させ、ねじれ止め材はストッパの下側に位置させ、ワイヤ群の上端には方向制御材を取り付けて構成したことを特徴としたものである。
また前記の方向制御材は、主パイプの周囲に平行に取り付けた3本の副パイプによって構成したことを特徴としたものである。
また本発明の地中への計測器設置方法は、上記の装置を使用し、前記の台盤の上に計測器を搭載してボーリング孔内に吊り下ろし、方向制御材によって地上からワイヤの位置を調整して行うことを特徴としたものである。
また本発明の地中への計測器設置方法は、前記の台盤の上に現地で採取したコアを搭載し、コアに計測器を取り付けてボーリング孔内に吊り下ろし、方向制御材によって地上からワイヤの位置を調整して行うことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の地中への計測器設置装置は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<1> 地上から、計測器の設置深度と設置方位の制御をおこなうことができるから、地中の任意の深度、任意の方位に向けて計測器を設置することができる。
<2> そのために、任意の位置の変位量だけではなく、その位置での応力、ひずみ、加速度などを正確に計測できる。
<3> 特に異方性をもつ地盤の計測では、設置深度とともに設置方位が重要であるが、その要求にこたえることができる。
<4> 孔内への設置を塩ビパイプなどに依存せず、ワイヤによって行い、ワイヤに全重量が作用するためワイヤが自然に鉛直性を維持し、塩ビパイプのように曲がることがない。
<5> ワイヤの複数の位置に計測器を設置すれば、1つのボーリング孔によって、多深度、多方位に計測器を設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の地中への計測器設置装置の実施例の斜視図。
【図2】地中への計測器設置装置の実施例の側面図。
【図3】方向制御材の実施例の斜視図。
【図4】台盤にコアを搭載して地中に設置する実施の説明図。
【図5】地中に設置した状態の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図面を参照にしながら本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0009】
<1>全体の構成。
本発明の地中への計測器設置装置は、計測器4搭載用の台盤1と、ワイヤ2とねじれ止め材3とより構成する。
以下個別の部材とそれらの関連、および使用方法について説明する。
【0010】
<2>台盤。
この台盤1は図の実施例では円形の薄板で構成した場合を示す。
しかしこの台盤は、後述するように計測器やコア等を搭載したり取り付けるという機能を発揮できるものであればよい。
したがって板状に限らず、所定の強度があればリング状や、網状、多角形などの枠状でもよく、形状や大きさを問わない。
特にリング状、網状、枠状の場合には、ボーリング孔内の水や充填材の抵抗にならないので有利である。
この台盤1の上に市販の計測器4や、たとえばすでに採取したコア5を搭載する。
ここで「コア」とは、計測器4の設置以前の段階で、行ったコアボーリングによって切り取った地盤の柱状体である。
このコア5にセンサーを貼り付け、そのコア5をボーリング孔に吊り下ろして切り取り前の位置に戻してから計測を行うと、ボーリング孔内をモルタルなどで充填する場合に比較して、よりボーリング前の現地盤に近い精度の高い測定値を得ることができる。
ただし本発明の用途はそのような場合に限定するものではなく、特に方位の特定を必要とする市販の各種の計測器4を搭載して使用することができる。
台盤1には三か所の貫通孔を開口して、後述するワイヤ2を貫通させる。
複数個所に計測器4を設置したい場合には、台盤1はワイヤ2に沿って複数の位置に配置する。
【0011】
<3>ワイヤ。
本発明の装置では3本のワイヤ2を使用する。
ワイヤ2が2本では台盤1の姿勢を維持できず、4本では均等に負荷をかけることが困難であるために3本を選択した。
ワイヤ2の長さはボーリング孔の深さより長く構成するが、短い場合にはターンバックルを介在させてワイヤ2の伸びや製作誤差の調整を行って台盤1の位置を正確に保つ。
台盤1に搭載する計測器4の信号線はワイヤ2に添わせて地上部に誘導する。
【0012】
<4>台盤とワイヤ。
台盤1とワイヤ2との取り付けは、ワイヤ2に取り付けたストッパ6を介して行う。
このストッパ6は各ワイヤ2に取り付けるが、3本のワイヤ2を鉛直に垂下させた場合の同一水平面の位置に設置する。
そして、台盤1をストッパ6の上に位置させる。
台盤1の上には重量のある計測器4やコア5を搭載するから台盤1が上方向にスライドすることはない。
台盤1を複数の段に設置することによって、1本のボーリング孔によって多深度、多方位に計測器4を設置することができる。
【0013】
<5>傾斜方向の変位測定。
複数のストッパを、同一の水平面に位置させるのではなく、異なった高さに配置することもできる。
すると、測定器を水平に限らず角度を付けて設置することとなり、斜め方向の計測を行うことができる。
その場合には3本のワイヤをそれぞれ別々に上下操作することで、水平方向の「方位」だけでなく、台盤の傾き(上下方向の斜めの角度)を任意の傾斜角に設定することができる。
【0014】
<6>ねじれ止め材。
ねじれ止め材3は、3本のワイヤ2がねじれたり、絡んだりする現象の発生を阻止するための部材である。
そのために前記した台盤1とほぼ同様の薄い円盤で構成し、3個所に表面から裏面に貫通穴を貫通する。
このねじれ止め材3は、3本のワイヤ2のねじれなどを阻止するための部材であるから、円盤である必要はなく、3本のワイヤ2の相互の間隔を維持できればよいから、軽量な材料を正三角に形成したような部材を採用することもできる。
さらにねじれ止め材3は、比重の小さい材料で構成して、ボーリング孔内の水や充填材によって押し上げられるように構成する。
このねじれ止め材3の設置位置は、ワイヤ2の長さや直径、剛性によって異なるが、ワイヤ2のねじれを阻止できる位置に1か所、あるいは複数個所に配置する。
【0015】
<7>ねじれ止め材とワイヤ。
ねじれ止め材3とワイヤ2との取り付けは、ワイヤ2に取り付けたストッパ6を介して行う。
前記したように、ストッパ6は各ワイヤ2に取り付けるが、3本のワイヤ2を鉛直に垂下させた場合の同一水平面の位置に設置する。
そして、ねじれ止め材3はストッパ6の下に位置させる。
したがってねじれ止め材3はワイヤ2に沿って下降してしまうが、ボーリング孔内に充填した水や充填材によって押し上げられるので、ストッパ6の位置にとどまることになる。
【0016】
<8>方向制御材。
ワイヤ2群の上端には方向制御材7を取り付ける。
この方向制御材7は、3本のワイヤ2の上端を支持できればよいから、たとえば、ねじれ止め材3と同様の円盤や、三角形に形成した鉄筋のような棒状体であってもよい。
図3の実施例では、方向制御材7を中心に位置する主パイプ71と、その周囲に均等に割り振って平行に添えた3本の副パイプ72によって構成する。
主パイプ71の直径は台盤1やねじれ止め材3の外径より小さく、副パイプ72の位置はワイヤ2の位置に一致させて形成する。
主パイプ71の内部には計測器4の信号線を通し、副パイプ72にはワイヤ2を通す。
したがって副パイプ72は、正確に主パイプ71の中心軸と平行に設置する必要がある。
このように構成すると、主パイプ71、あるいは副パイプ72を使って位置を移動させることによって、ワイヤ2の位置を変える作業が容易である。
【0017】
<9>仮固定。
方向制御材がアンカー孔内に落下しないように、アンカー孔の上端で仮に固定しておく。
そのために、アンカー孔の上端に、孔を横断する方向に水平に、孔の直径よりも十分に長い長尺部材を配置する。
このような機能を果たす部材を通常「カンザシ筋8」と称するが、このカンザシ筋8の上に方向制御材7を跨らせておけば、ワイヤ2の延長作業、ストッパ6の取り付け作業、ねじれ止め材3の嵌合作業、さらには充填材の充填作業などを安全に行うことができる。
【0018】
<10>ボーリング孔への設置。(図5)
まず計測器4を地中に設置するためにボーリング孔9を開口する。
そして水や充填材で満たされたボーリング孔9の内部に本発明の装置を吊り下ろす。
そのために、ワイヤ2の上端をクレーンや人力、あるいは組み立てたやぐらのホイストで支持する。
そして台盤1には加速度計などの計測器4を搭載し、ワイヤ2には充填ホースを添わせてボーリング孔9の孔底に向けて吊り下ろす。
すると重力によって自然に鉛直性を確保でき、従来の塩ビパイプを数十メートルも挿入する方法のように、途中で曲がることがない。
さらに比重の小さいねじれ止め材3は、ストッパ6の位置まで押し上げられて所定の高さに位置することになる。
【0019】
<11>方位の制御。
ワイヤ2は自然に鉛直性を確保できるから、ワイヤ2群の上端に位置する方向制御材7を、鉛直線を中心に回転してやれば、3本のワイヤ2の位置を変えることができる。
したがって方向性の決まった計測器4を、地中で正確な方位に向けて設置することができる。
このような地中での方向性の維持、確保を、精密で高額なジャイロ装置などを使用することなく、簡単に行えることが本発明の特徴である。
計測目的の深さに、正確な方向に向けて計測器4を設置したら、ボーリング孔9の内部に挿入した配管を通して、モルタルなどの固化充填材を孔底から注入する。
充填材が固化したらワイヤ2上端を開放して、クレーンややぐらなど撤去する。
【0020】
<12>コアの原位置への設置。
異方性を持つ地盤のひずみ特性を知るには、原位置地盤の三次元ひずみを得る必要がある。
その場合には図4に示すように台盤1の上に、ボーリングで採取したコア5を搭載し、原位置まで吊り下げることもできる。
そしてコア5にはストレインゲージなどのセンサーを貼り付けて、信号を取り出す。
このように本発明の装置であれば、コア5の方向を地上で制御して正確に原位置地盤と一致させ、その状態で各種の計測を行うことができる。
その後、リング孔9の底からモルタルを注入する。
【符号の説明】
【0021】
1:台盤
2:ワイヤ
3:ねじれ止め材
4:計測器
5:コア
6:ストッパ
7:方向制御材
8:カンザシ筋
9:ボーリング孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測器搭載用の台盤と、
ワイヤとねじれ止め材とより構成し、
3本のワイヤを、台盤とねじれ止め材とのワイヤ孔を貫通させ、
ワイヤを鉛直に垂下させた場合の同一水平面の位置に台盤を位置させ、
台盤とは異なる位置にねじれ止め材を位置させ、
ワイヤ群の上端には方向制御材を取り付けて構成する、
地中への計測器設置装置。

【請求項2】
計測器搭載用の台盤と、
ワイヤとねじれ止め材とより構成し、
3本のワイヤを、台盤とねじれ止め材とのワイヤ孔を貫通させ、
ワイヤを鉛直に垂下させた場合の同一水平面の位置にストッパを設置し、
このストッパを複数段に位置させ、
台盤はストッパの上に位置させ、
ねじれ止め材はストッパの下側に位置させ、
ワイヤ群の上端には方向制御材を取り付けて構成する、
地中への計測器設置装置。

【請求項3】
請求項1または2記載の方向制御材は、
主パイプの周囲に平行に取り付けた3本の副パイプによって構成する、
地中への計測器設置装置。

【請求項4】
請求項1または2記載の装置を使用し、
前記の台盤の上に計測器を搭載してボーリング孔内に吊り下ろし、
方向制御材によって地上からワイヤの位置を調整して行う、
地中への計測器設置方法。

【請求項5】
請求項1または2記載の装置を使用し、
前記の台盤の上に現地で採取したコアを搭載し、
コアに計測器を取り付けてボーリング孔内に吊り下ろし、
方向制御材によって地上からワイヤの位置を調整して行う、
地中への計測器設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−209138(P2011−209138A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77861(P2010−77861)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(303056368)東急建設株式会社 (225)
【出願人】(509028844)株式会社東陽土質技研 (2)