説明

地中埋設基礎構造物の底面深度の調査方法

【課題】地中埋設基礎構造物の底面深度を簡易かつ高精度に測定する。
【解決手段】一定の間隔を介して3つ以上の電極を配した電極ゾンデを、地中埋設基礎構造物脇の検査孔内に装入、選択した等間隔にある3つの電極のうち、1つを電流電極C1、他の2つを電位電極P1、P2とし、地表に配置した無限遠電極C2と上記電極ゾンデの電流電極C1との間に定電流を印加し大地内に発生した電位を一対の電位電極P1・P2により電位差として測定し、測定された電流値と電位値とから電極配列と電極間隔に対応した係数を乗じて測定に使用した上記電極ゾンデ中の3つの電極C1・P1・P2の正・逆方向2種類の見掛け比抵抗曲線のうち、高比抵抗側から低比抵抗に変化する曲線をみつけ、曲線の高比抵抗側に最も近い位置で最大傾斜を示す位置をもって基礎構造物の底面深度として特定することにより経験を問わず地中埋設基礎構造物の底面深度を、より高精度に探索できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばL型擁壁や送電線の支柱などにおける地中に埋設されている既設の基礎コンクリートなど地中埋設基礎構造物の底面深度や上面深度を簡易かつ高精度に測定するための調査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中埋設基礎構造物の上面深度を調査する手段としては、貫入試験機を用いるのが一般的である。また底面深度を調査するためにはボーリング装置等により基礎構造物自体を掘削して、そのコアの厚みにより底面深度を推定するか、あるいは基礎構造物の近傍にボーリング孔を掘削して孔内レーダー(たとえば特開平6−324162号公報)や磁気探査法(たとえば特開2004−301745号公報参照)あるいは電磁波(特開平5−196728号公報参照)によって底面深度を推定する方法が知られている。
【0003】
また、地中埋設基礎構造物が、例えばL型擁壁である場合のように構造物の一部が地表に出ている場合においては衝撃弾性波を用いることにより構造物底面までの往復時間から底面までの距離を推定することも考えられている(たとえば特開2003−57024号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−324162号公報
【特許文献2】特開2004−301745号公報
【特許文献3】特開平5−196728号公報
【特許文献4】特開2003−57024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ボーリング装置等により地中埋設基礎構造物自体を掘削してそのコアの厚みを測定する方法にあっては、大切な基礎構造物自体を損傷することになるので好ましくはなく、また特許文献1(孔内レーダー)や特許文献2(磁気探査)、あるいは特許文献3(電磁波)の各方法についても、測定精度の面で誤差が多く、また測定作業者の経験に頼るところが大きいところから実用面で問題があるためにそれぞれ単独での使用には不向きである。
【0006】
したがってより高精度の測定を要する場合には基礎構造物周辺地盤を掘削して、目視により確認することがおこなわれるが、基礎構造物の特に底面深度を測定する場合においては多くの時間と多額のコストがかかり、また測定が多数箇所に及ぶ場合には事実上採用できない。さらに衝撃弾性波を用いることにより構造物底面までの往復時間から底面までの距離を推定する特許文献4に記載の方法による場合にも、L型擁壁である場合のようにコンクリート構造物の一部が地表に出ている場合にしか適用できない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題を解決し、測定作業者の経験如何によることなく、比較的簡単かつ低コストで地中埋設基礎構造物の底面深度あるいは上面深度を、より高精度に探索するようにしたものであって、具体的には一定の間隔を介して深度方向に向け一定間隔毎に少なくとも3つ以上の電極を配した電極ゾンデを、選択した等間隔の3つの電極の組合わせのうち、少なくとも1つ以上の組合わせが構造物の推定下面より下方に位置するよう基礎構造物脇の検査孔内に装入し、選択した等間隔の3つの電極のうち、その1つを電流電極C1、他の2つを電位電極P1、P2とし、地表に配置した無限遠電極C2と上記電極ゾンデの電流電極C1との間に定電流を印加して大地内に発生した電位を一対の電位電極P1・P2により電位差として測定し、測定された電流値と電位値とから電極配列と電極間隔に対応した係数を乗じて測定に使用した上記電極ゾンデ中の3つの電極C1・P1・P2の中点位置における見掛け比抵抗値を測定する。
【0008】
電極の配列は、孔底側より電流電極C1−電位電極P1−電位電極P2と並ぶ組合せと、同じく孔低側より電位電極P1−電位電極P2−電流電極C1と並ぶ組合せとによる電極組合せで得られた2種類の見掛け比抵抗曲線のうち、高比抵抗側から低比抵抗に変化する曲線をみつけ、かかる曲線において高比抵抗側に最も近い位置で最大傾斜を示す点位置を特定するとともに、上記した曲線状における最大傾斜を示す位置をもって基礎構造物の底面深度として特定するようにした地中埋設基礎構造物の底面深度の調査方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上記したように、一定の間隔を介して深度方向に向け一定間隔毎に少なくとも3つ以上の電極を配した電極ゾンデにより、該ゾンデに設けた電極のうち等間隔の3つの電極を用いて地表に配置した無限遠電極との間における定電流をもとにした電流値と電位値とによる2種類の見掛け比抵抗曲線のうち、高比抵抗側から低比抵抗に変化する曲線をみつけ、かかる曲線において高比抵抗側に最も近い位置で最大傾斜を示す点位置を特定するとともに、上記した曲線状における最大傾斜を示す位置をもって地中埋設基礎構造物の底面深度として特定するようにしたために、基礎構造物の底面深度を経験や技術レベルの如何を問わず解釈のばらつきなく短時間に、しかも高精度に特定することができ、また必要に応じて基礎構造物の上面深度も求めて基礎構造物の厚みを簡単に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例である地中埋設基礎構造物の底面深度調査方法概念図(A)および電極ゾンデの部分詳細図(B)。
【図2】本発明において用いられる電極ゾンデを断面的にあらわした要部拡大図。
【図3】本発明において用いられる電極ゾンデに施された特定電流電極と、距離の異なる2つの電位電極の配置関係をあらわした概念図(A)と、上記した電極の配置関係を反転させた場合の概念図(B)。
【図4】第2実施例の電極ゾンデを用いた場合における各電極間の電極組み合わせ例をあらわした説明図。
【図5】見掛け比抵抗値の相違により求められた2つの見掛け比抵抗曲線の特性と、その特性対比による埋設構造物(ブロック)の端部を特定する一例をあらわした説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の具体的な内容について、図の実施例に基づいて説明をする。図1(A)には本発明の一実施例である地中に埋設された基礎構造物1と、該基礎構造物1の地中埋設部分の位置を特定するための機器類の概要、および図1(B)には電極ゾンデ3の部分詳細が示されている。具体的には該基礎構造物1の脇に穿設された検査孔2と、該検査孔2内に装入された電極ゾンデ3、および電極ゾンデ3より取り出された電線6に接続された測定装置7、さらに該測定装置7に繋がれたパソコン装置8とをあらわしている。なお7a・8aはそれぞれの電源部をあらわしている。
【0012】
基礎構造物1は、この場合には上端の一部1aが地上に突出しているだけで、それ以外の部分は地中に埋設されており、基礎構造物の埋設上面1bおよび底面1dのそれぞれの深さ、ならびに端部角部1c・1dの位置は不明であるものとする。また電極ゾンデ3の深度方向に向け一定間隔毎に複数の電極が配列され、電極ゾンデ3を、選択した等間隔の3つの電極の組合わせのうち少なくとも1つ以上の組合わせの電極5が基礎構造物1の推定下面より下方に位置するよう基礎構造物1脇の検査孔2内に装入される。
【0013】
なお各電極5の電線6は束ねられて地上の測定装置7を介してパソコン装置8に接続されている。また上記した機器類のほかに、図示はしないが、埋設されている基礎構造物1の上面1bの深さや端部角部1cを探索する手段として必要に応じて探針装置が用いられる。上記した機器類を用いた地中埋設基礎構造物1の底面深度の調査方法について以下に説明をする。
【0014】
〔電極ゾンデの装入〕
電極ゾンデ3は、電極部がステンレス製、接続パイプがスチロン製で外径Φ20mm〜33mm程度、長さは本実施例のものでは電極部、接続パイプ共にそれぞれ1,200mm〜1,800mm程度であるが、測定深度にあわせて適宜の長さに設定するものとし、また先端寄りの電極部4には一定の間隔を介して深度方向に向け一定間隔毎に複数の電極5が設けられている(図2参照)。電極ゾンデ3を、選択された等間隔の3つの電極5の組合わせのうち少なくとも1つ以上の組合わせの電極5が基礎構造物1の推定下面より下方に位置するよう検査孔2内に装入し、装入深度を確認する。
【0015】
〔基礎構造物の底面深度調査〕
基礎構造物1の底面深度の調査については、電極ゾンデ3の選択された3つの等間隔の電極5を用いた2種類の見掛け比抵抗値による見掛け比抵抗曲線の特性を対比することによりおこなわれる。比抵抗は測定器7を介して地表に設置した遠電極C2により交替直流電流を流した際に地表に生じる電位応答から地下の比抵抗分布を求めることができ、また地盤の比抵抗が導電性鉱物や粘度鉱物の含有量あるいは間隙率、飽和度と含水する水の比抵抗に依存する性質を利用して比抵抗分布から地盤の状況を推定することができる。つまり比抵抗値は、その物質の電流の流れにくさをあらわす定数となる。
【0016】
そこで本発明においては上記したような電極ゾンデ3を用いる。すなわち地表に遠電極(無限電極)C2を設置して定電流を流した状態で地盤の比抵抗(単位体積当りの電気抵抗)値を現位置にて測定する場合には電極周辺の接地抵抗の影響を回避するために電流電極Cと電位電極Pとを別々に設置して電位電極間の電位差Vを地上の測定装置7およびパソコン8により測定するが、地盤は一般に不均質であるところから平均的な比抵抗値として「見掛け比抵抗値」と定義することができる。そして上記により測定された見掛け比抵抗値が選択した等間隔の3つの電極5の組合わせの移動によってどのように変化するのかを表した図をもって「見掛け比抵抗曲線」と定義することができる。
【0017】
図2および図1(B)には本発明において用いられる電極ゾンデ3の詳細があらわされている。この場合には電極ゾンデ3に、深度方向一定間隔毎に配した電極5が多数個(少なくとも10以上)であって、図2では電極5が電極ゾンデ3の深度方向に向けて一定間隔毎に56個配置されており、使用時においてはそのうちの任意の3つの等間隔にある電極を選ぶことにより測定する。具体的には選択された等間隔の3つの電極5のうち最下部に位置する特定の電極5を電流電極C1とし、該電流電極C1に対して距離の異なる同一方向(電極ゾンデ3の上方に向けて)に間隔a・aを介して等間隔に配置された2個の電極5・5をもってそれぞれ電位電極P1およびP2とし、それぞれの電極のリード線6a・6b・6c(図1(B)参照)を地表の測定装置7およびパソコン8に接続する。
【0018】
上記した電極ゾンデ3を用いた場合に、図3にあらわしたように、同図(A)(B)では共に左側が電極ゾンデ3の先端(下端深度)方向となり、電流電極C1と一対の電位電極P1およびP2との間において、中間に位置する比抵抗の表示点(見掛け比抵抗表示点)は電流電極C1と電位電極P2との中点である電位電極P1となる。上記した1つの電流電極C1と一対の電位電極P1およびP2間に測定装置7から地表の遠電極C2により送られた定電流を、基礎構造物1の中央領域を挟む電極ゾンデ3のそれぞれの電極5間における電位差Vによる見掛け比抵抗値を測定装置7で計測しつつ、これをパソコン8のモニター画面に第1の見掛け比抵抗曲線として表示させる。
【0019】
上記の測定による場合には、地盤中に埋設されている基礎構造物1の、特に端部においては見掛け比抵抗曲線が大きくあらわれるところから、図5にあらわされた2種類の見掛け比抵抗曲線において、測定方向に沿って電極が高比抵抗領域から低比抵抗領域に移行する際に大きく変化する見掛け比抵抗曲線に着目し、見掛け比抵抗が大きく変化する区間(最大勾配部)に接線を引き、見掛け比抵抗曲線が接線と沿う区間の中間点(接線中点)付近をもって基礎構造物1の底面端部1cと認定する。したがって図5において、地下31cm付近に上面位置が、また65cm付近に下面位置がそれぞれ存在し、基礎構造物1の上下端部があるものとそれぞれ認定することができる。
【0020】
なお図4には、本発明における電極ゾンデ3について、選択した電極の間隔をそれぞれ2cm(左欄/隣接電極)、4cm(中央欄/電極1個置き)、10cm(右欄/電極3個置き)と設定した場合の各電極間隔における電極組み合わせ例について、電流電極C1と一対の電位電極P1およびP2間の測定方向別にあらわしている。
【実験例1】
【0021】
コンクリート製地中埋設基礎構造物の埋設深さおよび厚み(構造物表面から底面までの厚み)が未確認の基礎構造物の底面深度の調査を試み、探針装置を用いて推定地上面より該基礎構造物の端部および上面深度を探索した後、基礎構造物端部を外れた直近付近に検査孔を穿設し、該検査孔内に一定の間隔を介して長さ(深さ)方向に向け一定間隔毎に複数の電極5を配した電極ゾンデ3を、最下部の電極が基礎構造物の推定下面より下方に位置するよう検査孔内に装入した。
【0022】
すなわち、一定の間隔を介して深度方向に向け一定間隔毎に少なくとも3つ以上の電極を配した電極ゾンデを、選択した等間隔の3つの電極の組合わせのうち少なくとも1つ以上の組合わせの電極が構造物の推定下面より下方に位置するよう基礎構造物脇の検査孔内に装入し、選択した等間隔の3つの電極のうち、その1つを電流電極C1、他の2つを電位電極P1、P2とし、地表に配置した無限遠電極C2と上記電極ゾンデの電流電極C1との間に定電流を印加して大地内に発生した電位を一対の電位電極P1・P2により電位差として測定した。
【0023】
測定された電流値と電位値とから電極配列と電極間隔に対応した係数を乗じて測定に使用した上記電極ゾンデ中の3つの電極C1・P1・P2の中点位置における見掛け比抵抗値を測定する場合に、孔底側より電流電極C1−電位電極P1−電位電極P2と並ぶ組合せと、同じく孔低側より電位電極P1−電位電極P2ー電流電極C1と並ぶ組合せとによる電極組合せで得られた2種類の見掛け比抵抗曲線をパソコン8のモニター画面上に表示させ、2種類の見掛け比抵抗曲線のうち、高比抵抗側から低比抵抗に変化する曲線をみつけ、かかる曲線において高比抵抗側に最も近い位置で最大傾斜を示す点位置を特定するとともに、上記した曲線状における最大傾斜を示す位置をもって基礎構造物の底面深度として特定することができた。
【0024】
その後基礎構造物周辺の土砂を除去して目視のうえおこなった実際の基礎構造物の埋設深さおよび厚みの測定結果と対比したところ、誤差は僅かに5cm以内であることを確認した。
【実験例2】
【0025】
電極と埋設コンクリート固形物の離間距離が5cmの場合と10cmの場合とした水槽内実験を試みたところ、いずれも実測値との誤差は5cm以内であった。また土槽内実験で、電極とコンクリート固形物の離間距離を5cmとした場合の実測値との誤差についても5cm以内であることが確認された。
【符号の説明】
【0026】
1 基礎構造物
1a 上端の一部
1b 上面
1c 端部角部
1d 端部角部
2 検査孔
3 電極ゾンデ
4 電極部
5 電極
6 リード線
7 測定装置
7a 電源部
8 パソコン
8a 電源部
C2 遠電極
C1 電流電極
P1 電位電極
P2 電位電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の間隔を介して深度方向に向け一定間隔毎に少なくとも3つ以上の電極を配した電極ゾンデを、選択した等間隔にある3つの電極の組合わせのうち、少なくとも1以上の組合わせからなる電極が構造物の推定下面より下方に位置するよう地中埋設基礎構造物脇の検査孔内に装入し、選択した等間隔にある3つの電極のうち、その1つを電流電極C1、他の2つを電位電極P1、P2とし、地表に配置した無限遠電極C2と上記電極ゾンデの電流電極C1との間に定電流を印加して大地内に発生した電位を一対の電位電極P1・P2により電位差として測定し、測定された電流値と電位値とから電極配列と電極間隔に対応した係数を乗じて測定に使用した上記電極ゾンデ中の3つの電極C1・P1・P2の中点位置における見掛け比抵抗値を測定する場合に、孔底側より電流電極C1−電位電極P1−電位電極P2と並ぶ組合せと、同じく孔低側より電位電極P1−電位電極P2−電流電極C1と並ぶ組合せとによる電極組合せで得られた2種類の見掛け比抵抗曲線のうち、高比抵抗側から低比抵抗に変化する曲線をみつけ、かかる曲線において高比抵抗側に最も近い位置で最大傾斜を示す点位置を特定するとともに、上記した曲線状における最大傾斜を示す位置をもって基礎構造物の底面深度として特定するようにした地中埋設基礎構造物の底面深度の調査方法。
【請求項2】
電極ゾンデに配した電極が3個以上の複数個であって、そのうちの任意の3つの等間隔にある電極を選ぶことにより測定するようにした請求項1に記載の地中埋設基礎構造物の底面深度の調査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−133301(P2011−133301A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291969(P2009−291969)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000206196)大成基礎設計株式会社 (12)
【出願人】(508239045)有限会社地球情報・技術研究所 (2)