説明

地中熱利用システム

【課題】ボーリング孔の周辺地盤の地下水を上昇させ、周辺地盤を水飽和状態とし、また、ボーリング孔の周辺地盤の地下水を流動させて、地中での熱交換効率を高める。
【解決手段】この地中熱利用システムSでは、U字形の密閉配管1を有する採熱装置2とともに地下水揚水管3及び地下水環水管4をボーリング孔Bに設置し、充填材6により固定して、U字形の密閉配管1内の熱媒体の循環とともに、地上のポンプ5により地下水揚水管3から地下水を揚水し、地下水環水管4を通じて環水して、ボーリング孔B内に充填材6を通して地下水を循環させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中の熱を熱源として利用する地中熱利用システムに関し、特に、採熱効率に優れた地中熱利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地中の熱を熱源として、地中に採熱装置として設置した配管内に水やエチルグリコールなどの不凍液を循環させて、地中から熱を取り出したり、地中に熱を放出したりする地中熱利用システムが、優れた経済性(電力消費の抑制)、地球環境保護(化石燃料消費を減らしてCO2発生量の削減)などの観点から注目されている。
【0003】
図2に一般に知られている地中熱利用システムの概要を示している。図2に示すように、採熱装置2には、ポリエチレン管などからなるU字形の密閉配管1が用いられ、この密閉配管1が長さ80−100m程度の坑(ボーリング孔)に挿入され、坑に充填材6が充填されて固められる。このようにしてU字形の密閉配管1内に熱媒体(水やエチルグリコールなどの不凍液)が循環され、地中の熱を温熱源として利用する場合は、そこから熱エネルギーを取り出して、暖房設備や融雪設備などの熱利用装置に温熱を供給し、地中の熱を冷熱源として利用する場合は、そこに熱を放出して、冷房設備などの熱利用装置に冷熱を供給するようになっている。
【0004】
この種の地中熱利用システムが例えば特許文献1に開示されている。この文献1のシステムは、図3に示すように、地中Gに埋設された地下水流動筒10と、地下水流動筒10の上部を覆うように配設された外筒13と、地中Gの地下水wが保有する熱を利用する熱利用機器としての熱交換器20と、地下水w(第1の領域G1の地下水w1)を熱交換器20に導入する地下水揚水管25、及び熱交換器20において熱が利用された地下水w(w2)を地下水流動筒10(第2の領域G2)に導出する地下水還水管26と、熱利用設備としてのヒートポンプチラー30と、ヒートポンプチラー30で利用される熱の媒体である熱媒体uを流す熱媒体管33とを備え、地下水流動筒10において、地下水の流れを作り出すことによって、有効に利用できる地中の熱を継続して採取できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−292030公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような地中熱利用システムでは、地中での熱交換効率が坑の周辺地盤の有効熱伝達率に支配されるため、坑の周辺地盤が水不飽和である場合や水飽和であっても地下水の流動がなければ、熱交換効率は低くなる(その結果、ボーリング長さを長くする必要がある。)。また、同じ坑の周辺地盤でも、地下水面以上のところと地下水面以下のところとでは地下水の流動の有無により熱交換効率が大きく異なってくる。
また、特許文献1のシステムは、地下水流動筒内に地下水揚水管及び地下水環水管を設置して、地下水からの採熱を行う装置で、地下水流動筒内で地下水を循環させることにより、地下水流動筒内における熱交換効率の向上を企図するものであるが、周辺地盤が水不飽和である場合や水飽和であっても地下水の流動がない場合の発生効果は不明である。
【0007】
本発明は、このような従来の問題を解決するものであり、この種の地中熱利用システムにおいて、特に、坑の周辺地盤の地下水を上昇させ、周辺地盤を水飽和状態とし、また、坑の周辺地盤の地下水を流動させて、地中での熱交換効率を高めること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の地中熱利用システムは、配管を有する採熱装置を備え、前記採熱装置が地中に掘削された坑内に配設され、前記坑内に充填材が充填されて固定される型式の地中熱利用システムにおいて、前記坑内に設置され、地下水を揚水するための地下水揚水管と、前記坑内に設置され、環水口を坑口付近に配置されて、前記坑内に地下水を環水するための地下水環水管と、前記地下水揚水管と前記地下水環水管との間に接続され、地下水を吸引吐出するポンプとを備え、前記坑内に前記充填材を通して地下水を循環させる、ことを要旨とする。
【0009】
また、この地中熱利用システムは各部が次のように具体化されることが好ましい。
(1)地下水揚水管の揚水口は複数の小孔により形成され、充填材を通さないフィルタ材で被覆される。
(2)地下水環水管の環水口は複数の小孔により形成され、充填材を通さないフィルタ材で被覆される。
(3)充填材に不透水性の材料又は透水係数の小さい材料を含み、前記不透水性の材料又は前記透水係数の小さい材料が坑口に充填される。
(4)充填材に不透水性の材料又は透水係数の小さい材料を含み、前記不透水性の材料又は前記透水係数の小さい材料が坑内の地下水位レベル付近に充填される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の地中熱利用システムによれば、上記の構成により、坑の周辺地盤の地下水を上昇させて、周辺地盤を水飽和状態とし、また、坑の周辺地盤の地下水を流動させて、地中での熱交換効率を高めることができる、という格別な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態における地中熱利用システムを示す一部断面正面図
【図2】一般に知られている地中熱利用システムの概要を示す一部断面正面図
【図3】従来の地中熱利用システムを示す模式的系統図
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、この発明を実施するための形態について図を用いて説明する。図1に地中熱利用システムを示している。図1に示すように、この地中熱利用システムSは、配管1を有する採熱装置2を備え、この採熱装置2が地中に掘削された坑内に配設され、坑内に充填材6が充填されて固定される型式になっている。
この場合、採熱装置2の配管1にポリエチレン管などからなるU字形の密閉配管が使用され、この密閉配管1がボーリング孔Bに挿入される。そして、ボーリング孔Bに砂などの充填材6が充填される。このようにしてU字形の密閉配管1内に熱媒体(水やエチルグリコールなどの不凍液)が循環される。
【0013】
また、この地中熱利用システムSでは、坑内の地下水を揚水するための地下水揚水管3と、坑内に地下水を環水するための地下水環水管4と、これら地下水揚水管3と地下水環水管4との間に接続され、地下水を吸引吐出する循環ポンプ5とを備え、U字形の密閉配管1とともに坑内に配設される。
この場合、地下水揚水管3にポリエチレン管などが使用される。この揚水管3はボーリング孔Bの底B1付近に到達可能な長さを有し、下端数メートル程度の長さに揚水口300として有孔区間が設けられる。この有孔区間には複数の小孔が形成され、この有孔区間にさらにボーリング孔B内の充填材を通さない不織布などのフィルタ材301が被覆されて、揚水口300(小孔)の目詰まりの防止が施される。この地下水揚水管3はボーリング孔BにU字形の密閉配管1の片側一方に沿って設置され、下端の揚水口300がボーリング孔Bの底B1付近に配置され、上端側は所定の長さで地上に取り出される。地下水環水管4にポリエチレン管などが使用される。この環水管4はボーリング孔Bの孔口B2の下方所定の位置に到達可能な長さを有し、下端数メートル程度の長さに環水口400として有孔区間が設けられる。この有孔区間には複数の小孔が形成され、この有孔区間にさらにボーリング孔B内の充填材を通さない不織布などのフィルタ材401が被覆されて、環水口400(小孔)の目詰まりの防止が施される。この地下水環水管4はボーリング孔BにU字形の密閉配管1の片側他方に沿って設置され、下端の環水口400がボーリング孔B内の孔口B2付近(地表付近)に配置され、上端側は所定の長さで地上に取り出される。そして、循環ポンプ5が地上に設置され、循環ポンプ5の吸引口側に地下水揚水管3の上端の口が接続され、循環ポンプ5の吐出口側に地下水環水管4の上端の口が接続される。このように地下水揚水管3と地下水環水管4が採熱装置2とともにボーリング孔B内に配設されて、このボーリング孔Bに充填材6が詰められる。
【0014】
この地中熱利用システムSでは、充填材6に、砂などの透水性を有する材料601と、土質材料(粘性土)などの不透水性を有する材料又は透水係数が小さい材料602が使用される。
この充填材6の施工では、ボーリング孔Bに充填材6を詰めた後の充填部B6において地下水位の上昇、地下水の流動を促進するために、まず、ボーリング孔Bの底B1から孔口B2付近の所定の高さまで砂などの透水性を有する材料601を充填し、そして、地表からの雨水の浸透を防ぎ、またボーリング孔B内に充填した砂などの透水性の材料601の沈下に追随するために、孔口B2に土質材料などの不透水性の材料又は透水係数の小さい材料602を充填するのを基本とし、この透水性の材料601の充填部B61において地下水の流れが特に大きい場合(循環流量が特に大きい場合)は、ボーリング時に測定される地下水面W1付近に土質材料などの不透水性の材料又は透水係数の小さい材料602を所定の高さまで充填する。
したがって、このシステムSでは、ボーリング孔Bに充填材6が、ボーリング孔Bの底B1から孔口B2付近の所定の高さまでが砂などの透水性の材料601の層、孔口B2が土質材料などの不透水性の材料又は透水係数の小さい材料602の層の2層構造に充填される場合と、ボーリング孔Bの底B1から地下水位(地下水面W1)当たりまでが砂などの透水性の材料601の層、この地下水位の当たりから上方所定の高さまで、すなわち透水性の材料601の上、所定の高さまでが土質材料などの不透水性の材料又は透水係数の小さい材料602の層、この不透水性の材料又は透水係数の小さい材料602の上、孔口B2付近の所定の高さまでが砂などの透水性の材料601の層、孔口B2が土質材料などの不透水性の材料又は透水係数の小さい材料602の層の多層構造に充填される場合がある。なお、図1には後者の構造を例示している。
【0015】
このようにこのシステムSでは、採熱装置2とともに地下水揚水管3及び地下水環水管4が地中に設置され、U字形の密閉配管1内の熱媒体の循環とともに、地上のポンプ5が駆動されて、地下水揚水管3から地下水が吸い上げられ、この地下水が地下水環水管4を通して環水される。
ボーリング孔B内の充填材6が2層構造の場合、ボーリング孔B内の充填材充填部B6の底(B1)付近に配置された地下水揚水管3の揚水口300から地下水が吸い上げられて地下水揚水管3に導入され、この地下水は地下水揚水管3から地下水環水管4に導出されて、ボーリング孔B内の充填材充填部B6の孔口(B2)付近に配置された地下水環水管4の環水口400から注水され、この地下水がボーリング孔B内の充填材充填部B6、さらにその周辺の地盤を通じて循環される。この地下水の循環により、ボーリング孔Bの周辺地盤の地下水が上昇して、周辺地盤は水飽和状態となり、また、ボーリング孔Bの周辺地盤の地下水が適宜流動して、周辺地盤の有効熱伝達率が高められる。
例えば、長さ100メートルのボーリングにおいて、地下水位がGL−20メートルの位置にある場合、砂地盤の見かけ熱伝導率(Ra)は次のとおりとなる。
(Ra)=(1.53×80+1.19×20)/100=1.46[W/m・K]
そして、このシステムSを導入した場合、不飽和区間(20メートル)の水位状況が見込まれ、砂地盤の見かけ熱伝導率(Rb)は次のようになる。
(Rb)=1.53×100/100=1.53[W/m・K]
以上から、Rb/Ra=1.53/1.46=1.05
よって、従来の採熱量より5パーセントの向上が見込まれることが分かる。
また、ボーリング孔B内の充填材6が多層構造の場合、地下水面W1付近に土質材料などの不透水性の材料又は透水係数の小さい材料602の層が介在されるので、充填材充填部B6が2層構造では、ボーリング孔Bの周辺地盤の地下水の上昇や地下水の流れが期待できないような場合でも、周辺地盤の地下水が上昇して、周辺地盤が水飽和状態となり、また、周辺地盤の地下水が適宜流動して、周辺地盤の有効熱伝達率が高められる。
このシステムSの地下水の循環作用により、採熱装置2の採熱量は向上し、これにより、ボーリング長を短縮し、コストの低減を図ることが可能となる。
【0016】
以上説明したように、この地中熱利用システムSでは、U字形の密閉配管1を有する採熱装置2とともに地下水揚水管3及び地下水環水管4をボーリング孔Bに設置し、充填材6により固定して、U字形の密閉配管1内の熱媒体の循環とともに、地上のポンプ5により地下水揚水管3から地下水を揚水し、地下水環水口4を通じて環水して、ボーリング孔B内に充填材6を通して地下水を循環させるようにしたので、ボーリング孔Bの周辺地盤の地下水を上昇させて、周辺地盤を水飽和状態とし、また、ボーリング孔Bの周辺地盤の地下水を流動させて、地中での熱交換効率を高めることができる。
【0017】
また、この地中熱利用システムSでは、さらに次のような効果を奏する。
(1)地下水揚水管3の揚水口300及び地下水環水管4の環水口400を複数の小孔により形成し、この揚水口300及び環水口400をボーリング孔B内の充填材6を通さない不織布などのフィルタ材301、401で被覆したので、これら揚水口300及び環水口400の小孔を充填材6で目詰まりするのを防止することができ、このシステムSを確実かつ円滑に動作させることができる。
(2)ボーリング孔Bの孔口B2に土質材料などの不透水性の材料又は透水係数の小さい材料602を充填するので、ボーリング孔B内に地表からの雨水の浸透を防ぎ、またボーリング孔B内に充填した砂などの透水性の材料601の沈下に追随させることができる。
(3)ボーリング孔Bに充填材6を充填する場合に、地下水位の上昇、地下水の流動を促進するために、ボーリング孔Bの底B1から孔口B2付近の所定の高さまで砂などの透水性を有する材料601を充填し、地表からの雨水の浸透を防ぎ、またボーリング孔B内に充填した砂などの透水性の材料601の沈下に追随するために、孔口B2に土質材料などの不透水性の材料又は透水係数の小さい材料602を充填する2層構造を基本とし、この透水性の材料601の充填部B61において地下水の流れが特に大きい場合に、地下水面W1付近に土質材料などの不透水性の材料又は透水係数の小さい材料602を充填するようにしたので、充填材6の2層構造では、ボーリング孔Bの周辺地盤の地下水の上昇や地下水の流れが期待できないような場合でも、周辺地盤の地下水を上昇させて、周辺地盤を水飽和状態とし、また、周辺地盤の地下水を適宜流動させて、周辺地盤の有効熱伝達率を高くすることができる。
【符号の説明】
【0018】
S 地中熱利用システム
1 配管(U字形の密閉配管)
2 採熱装置
3 地下水揚水管
300 揚水口
301 フィルタ材
4 地下水環水管
400 環水口
401 フィルタ材
5 ポンプ
6 充填材
601 透水性を有する材料
602 不透水性を有する材料又は透水係数が小さい材料
B ボーリング孔
B1 底
B2 孔口
B6 充填材充填部
B61 透水性の材料の充填部
W1 地下水面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管を有する採熱装置を備え、前記採熱装置が地中に掘削された坑内に配設され、前記坑内に充填材が充填されて固定される型式の地中熱利用システムにおいて、
前記坑内に設置され、地下水を揚水するための地下水揚水管と、
前記坑内に設置され、環水口を坑口付近に配置されて、前記坑内に地下水を環水するための地下水環水管と、
前記地下水揚水管と前記地下水環水管との間に接続され、地下水を吸引吐出するポンプとを備え、
前記坑内に前記充填材を通して地下水を循環させる、
ことを特徴とする地中熱利用システム。
【請求項2】
地下水揚水管の揚水口は複数の小孔により形成され、充填材を通さないフィルタ材で被覆される請求項1に記載の地中熱利用システム。
【請求項3】
地下水環水管の環水口は複数の小孔により形成され、充填材を通さないフィルタ材で被覆される請求項1又は2に記載の地中熱利用システム。
【請求項4】
充填材に不透水性の材料又は透水係数の小さい材料を含み、前記不透水性の材料又は透水係数の小さい材料が坑口に充填される請求項1乃至3のいずれかに記載の地中熱利用システム。
【請求項5】
充填材に不透水性の材料又は透水係数の小さい材料を含み、前記不透水性の材料又は透水係数の小さい材料が坑内の地下水位レベル付近に充填される請求項1乃至4のいずれかに記載の地中熱利用システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−179693(P2011−179693A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41500(P2010−41500)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)