説明

地山固結用樹脂材料の吐出装置およびそれを用いた地山固結方法

【課題】 装置コストおよび作業工数の増加なしに地山固結させ、併せて、地山内の応力集中によるトンネル崩壊のおそれを取除く。
【解決手段】 周壁に複数の貫通孔4を有する外管3内に、吐出パイプ5を挿入配置し、この吐出パイプ5の先端部に袋体6を取付けるとともに、袋体6より上流側にスタティックミキサ7を配設する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、たとえばトンネルの掘削等に当たって崩落のおそれのある軟弱な地山を、そこへの樹脂材料の浸透硬化によって堅牢な地山に改質するに用いて好適な、地山固結用樹脂材料の吐出装置およびそれを用いた地山固結方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】たとえば、特公平7−997号公報、特公平7−48997号公報等に開示されているように、軟弱地山、破砕地山等の地層帯でのトンネル掘削に当たり、トンネルの切羽先端で、天盤に複数個の孔を穿設し、各孔内へ注入した樹脂材料を地山に浸透させて硬化させることで天盤を固結強化することは従来から広く行なわれている。
【0003】しかるに、この従来技術では、天盤に斜め前方に向けて穿設されて、トンネルの正面視でほぼ放射状に延びる比較的浅い深さのそれぞれの孔内へ各一本の吐出パイプを挿入して樹脂液を注入していることから、一回の固結作業工程によって固結される、トンネル掘削方向の範囲が狭いという不都合があった。
【0004】そこで、一回の固結作業工程にて固結される、トンネル掘削方向の範囲を十分大ならしめるべく、特公平7−987号公報、特公平7−988号公報等に開示されているように、地山のトンネル掘削予定面の外周に沿って、たとえば、30m程度の長さの、周壁に穿孔した長尺管の複数本を地山の奥部に向かってほぼ水平に埋め込んだ状態の下で、その長尺管内に、長手方向に所定間隔で設けた隔壁によって内部が複数の空間に区切られ、複数本の吐出管のそれぞれの先端が、複数の空間のそれぞれに開口している周壁孔あき中管を挿嵌固定し、そこで、中管内の吐出管の先端開口から固結用薬液を吐出して上記各空間内に充満させたのち、その固結用薬液を、中管の周壁孔を経由して長尺管周壁の孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させて、長尺管内、中管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成すること、および、前記長尺管内に、長手方向に所定間隔で袋体が設けられ、かつ周壁に穿設された孔部によって上記袋体と内部とが連通している隔壁形成管を挿入するとともに、その隔壁形成管の、隣合った2個の袋体の間にそれぞれ先端開口を位置決めするようにして複数の吐出管を挿入し、上記隔壁形成管内に膨張硬化性薬液を圧入し、これを上記袋体内に吐出して硬化させることにより、長尺管内に、膨張した袋体からなる複数の隔壁を形成し、この状態で、上記複数の吐出管の先端開口から固結用薬液を吐出して、複数の隔壁で区切られる各空間内に充満させたのち、その固結用薬液を長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させて、長尺管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成することが提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】これらの提案技術によれば、トンネルの掘削方向の広い範囲にわたって地山に固結領域を形成することが可能となるも、中管を用いる前者の技術にあっては、中管の存在それ自体が地山の固結のための装置の、コストの増加をもたらすことになる他、隔壁および吐出管を予め組み込んだその中管を長尺管に挿嵌固定することが作業工数の増加をもたらすことになる問題があり、しかも、中管内での、固結用薬液の固結領域が、各個の隔壁によって前後に分離されることになって、その固結領域の、中管内での均一性が損なわれるため、中管の長さ方向での固結強度のばらつきが不可避となるという問題もあった。
【0006】また、隔壁形成管および複数の袋体を用いる後者の技術にあっては、その隔壁形成管が、装置コストおよび作業工数の増加をもたらし、加えて、前記袋体に充填した膨張硬化性薬液がそれの硬化によって、長尺管内に上記隔壁と同様の隔壁を形成することになるため、その隔壁が、先に述べたとほぼ同様の問題をもたらしていた。
【0007】この発明は、地山を、トンネル等の掘削方向に広い範囲にわたって固結させる場合の、このような問題点を解決することを課題とするものであり、それの目的とするところは、長尺管の他に、中管、隔壁形成管等を配設することによる、装置コストおよび作業工数の増加をもたらすことなく地山を固結させ、また、長尺管内への吐出樹脂材料を、隔壁の配設等なしに、その長尺管の全長にわたってほぼ一様に反応させ、硬化させることで、長尺管内等に、前述のような独立した隔壁を形成する場合のような、不均一な固結領域の発生、ひいては、それに起因する、地山内の応力集中によるトンネルの部分的崩壊のおそれを十分に除去することができる、地山固結用樹脂材料の吐出装置およびそれを用いた地山固結方法を提供するにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】この発明の、地山固結用樹脂材料の吐出装置は、周壁に複数の貫通孔を有する長尺の外管内に、少なくとも一本の吐出パイプを挿入配置し、この吐出パイプの先端部に一の袋体、たとえばゴム製袋体を取付けるとともに、その袋体より上流側にミキサ、たとえばスタティックミキサを配設したものである。
【0009】この吐出装置では、好ましくは二液反応型の樹脂材料を、スタティックミキサで十分に攪拌混合して袋体に送給し、これによってその袋体を外管一杯に膨らませる一方で、樹脂材料の、袋体内での反応、たとえば発泡反応を進行させて、好ましくは、このときの反応熱および膨張圧力による、袋体の融解を伴う破袋をもたらし、そして、外管内へ流出した樹脂材料の、そこでの反応膨張に基づいて、その樹脂材料を、外管の貫通孔を経て地山内へ浸透させることで、外管内に、隔壁を配設したり、形成したりする必要なしに、また、中管、隔壁形成管等を配設することもなしに、樹脂材料を地山内へ十分均等に、かつ十分深く浸透させることができる。
【0010】従って、この装置では、装置コストおよび作業工数のそれぞれをともに有効に低減させることができ、また、樹脂材料を外管の全長にわたって十分均一に反応硬化させて、外管内での固結強度をその全長にわたってほぼ一定として特定個所への応力集中を有効に防止することができる。
【0011】また、この装置では、外管の、吐出パイプ挿入側の端部分で、その外管と吐出パイプとの間にシール部材を介装することが好ましい。樹脂材料が袋体の破袋によって外管内へ流出する時点にては、その樹脂材料は、それ自身の反応の進行によってほぼゲル状を呈して保形性を有することから、上記シール部材を必須のものとしなくても、樹脂材料をそれの反応膨張下で地山内に浸透させることは可能であるが、上述のようなシール部材を設けた場合には、樹脂材料それ自体および膨張圧の管外への漏れ出しを十分に防止して、地山への浸透効率を高めることができる。
【0012】この発明の地山固結方法は、周壁に複数の貫通孔を有する外管内に、ミキサを具える吐出パイプを配設し、この吐出パイプの先端から吐出した二液反応型の樹脂材料を外管の貫通孔を経て地山内へ浸透させて地山を固結させるに当たって、ミキサ、好ましくはスタティックミキサによって混合された前記樹脂材料で、吐出パイプの先端部に取付けた袋体を、たとえば外管一杯に膨らませるとともに破袋させて、その樹脂材料を外管内へ流出させるものである。
【0013】この方法では、スタティックミキサを経て十分に攪拌混合された樹脂材料の反応を、隔壁間の空間内で進行させることに代えて袋体内で進行させて、その反応、たとえば発泡反応がある程度進行したところで袋体を破袋させて樹脂材料を外管内へ流出させ、そこでの樹脂材料の継続した発泡反応の進行による体積膨張に基づき、外管内の全体を樹脂材料によってほぼ均等に充満させるとともに、その樹脂材料を外管の貫通孔を経て地山内へ浸透させることで、外管の長さ方向のいずれの部分からも、樹脂材料を地山内へほぼ均等に浸透させることができる。
【0014】ここで、袋体は樹脂材料の反応熱および膨張圧力の両者によって破袋させることが好ましい。たとえば、ゴム、ラテックス、塩化ビニル、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレン等にて構成することができる袋体は、樹脂材料の反応時の膨張圧のみによって破裂させることも可能であるが、この場合には、膨張状態の袋体を、それの長さ方向の各個所でほぼ同時にかつ均等に破袋させることは保証の限りではなく、たとえば一個所での破袋によって、袋内材料が外管内に不均等に流出するおそれが高いのに対し、膨張圧力によって薄肉化した袋体を反応熱によって融解破袋させる場合には、袋体の長さ方向の、たとえば複数個所での、ほぼ同時にしてほぼ均等な融解破袋を行わせることができ、これより、樹脂材料を外管の全長にわたって実質上均一に流出させるとともに、そこでほぼ均等に体積膨張させることができるので、地山中への浸透むらを有利に防止することができる。
【0015】ここでより好ましくは、外管内に配設した、長さの異なる複数本の吐出パイプのそれぞれに、樹脂材料をほぼ同時に送給する。これによれば、袋体を外管一杯に膨らませるに要する時間を短縮して作業能率を高めることができる。なおこの場合には、それぞれの袋体はほぼ同時に破袋することになるも、より厳密には、吐出パイプの長さの短いものほど速くに破袋することになってる。
【0016】
【発明の実施の形態】以下にこの発明の実施の形態を図面に示すところに基づいて説明する。図1は、この発明に係る吐出装置の実施形態を示す部分断面図であり、図中1は地山を、2は、削岩機等を用いて地山1に形成した長穴をそれぞれ示す。また3は、長穴2内へ打込んだ、たとえば剛性の、長尺管としての外管を示し、この外管3はその周壁に、長さ方向および周方向に所定の間隔をおく複数個の貫通孔4を有する。
【0017】ここでは、このような外管3内に一本の吐出パイプ5の先端部分を挿入して位置決めするとともに、そのパイプ5の先端部に、たとえば十分な弾性を有するゴム製の袋体6を好ましくは液密に取付ける。ここで袋体6をゴム製とした場合には、プラスチック製とした場合に比してはるかに大きく伸長させることができ、たとえば、40cm程度の長さのものを、それの膨張によって、約4〜4.5m程度に伸長させることができる。
【0018】またここでは、袋体6の上流側で、吐出パイプ5にミキサ、好ましくは、可動部のないスタティックミキサ7を配設するとともに、外管3の、吐出パイプ挿入側の端部分で、その外管3と吐出パイプ5との間に適宜のシール部材8を介装してそれらの間を封止する。
【0019】なおここにおけるこの封止をより確実なものとするためには、たとえば図2に部分断面図で示すように、吐出パイプ5をシール部材8としてのゴムパッキンに貫通させるとともに、このゴムパッキンを保持するホルダ9を外管3の外周に螺合させることが好ましく、これによれば、ゴムパッキンを、吐出パイプ5の位置決め保持にも有効に寄与させることができる。
【0020】このように構成してなる装置の使用に当っては、はじめに、吐出パイプ5に、二液反応型の樹脂材料、たとえば、二液型発泡ウレタンのポリイソシアネート系成分とポリオール系成分とを送給して、それら両者をスタティックミキサ7で十分に攪拌混合した後に袋体6へ流入させ、これによって、その袋体6を、図3(a)に示すように、外管3の内側一杯に膨らませるとともに、袋体内での両成分の反応を進行させる。
【0021】なおここで、袋体6が完全に膨満される時点と、発泡反応が始まる時点とのタイミングは、上記両成分の注入速度および材料の種類を選択することで所要に応じてコントロールすることができる。
【0022】その後は、袋体6内の、発泡反応の進行に伴う、およそ90℃を越える発泡熱によって、その袋体6を、その長さ方向の複数個所で、または、その全長にわたってほぼ同時にかつ均一に融解させて、混合液体の外管3内への流出をもたらし、そして、その混合液体の、外管内での引続く発泡反応による体積増加に基き、外管内の混合液体、ひいては、発泡ウレタンを、図3(b)に示すように、外管3の全長にわたって十分均一に地山内へ浸透させ、そこで硬化させる。
【0023】かくしてここでは、外管内に中管を配設することはもちろん、隔壁を配設したり形成したりする必要なしに、発泡ウレタンを地山内へ十分均一に、かつ十分深く浸透させて地山を堅牢に改質することができるので、従来技術に比して、装置コストおよび作業工数を有効に低減させることができ、しかも、外管内部での固結強度のばらつきを除去して、高い固結強度を実現することができる。
【0024】図4はこの発明の他の実施形態を示す部分断面図であり、これはとくに、外管長さが長い場合に、樹脂材料の送給時間を短縮して作業能率の向上を図るものであり、外管3内に、そこへの挿入長さが順次異なる三本の吐出パイプ5a,5b,5cを位置決め配置するとともに、それらの各先端部に、スタティックミキサ7a,7b,7cを介して袋体6a,6b,6cを、相互に独立させて取付けたものである。
【0025】この構成によれば、それぞれのパイプ5a,5b,5cへの樹脂材料の送給を同時に開始することで、三個の袋体を、図5に示すように、ほぼ同時に膨満させることができるので、材料送給時間を、図1に示すもののほぼ1/3とすることができる。
【0026】なおこの装置においてもまた、袋体6a,6b,6cの破袋、およびその後に続く、樹脂材料の、反応および流動態様ないしは作用は先に述べたところと同様である。
【0027】従って、これによれば、前述した作用効果をもたらしてなお、作業能率を大きく向上させることができる。
【0028】
【発明の効果】以上に述べたところから明らかなように、この発明によれば、外筒内に隔壁を配設等する必要なしに、樹脂材料を、外管の全長にわたって十分均等に地山内へ浸透させて地山を強固に固結させるとともに、外管内の固結強度をもまた均等にならしめることができるので、従来技術に比し、装置コストおよび作業工数を有利に低減させてなお、応力集中等に起因する地山の崩壊等のおそれをより効果的に取除くことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明に係る装置の実施形態を示す部分断面図である。
【図2】 シール部材の適用例を示す部分断面図である。
【図3】 袋体の膨満状態および破袋状態を示す部分断面図である。
【図4】 この発明に係る装置の他の実施形態を示す部分断面図である。
【図5】 それぞれの袋体の膨満状態を示す部分断面図である。
【符号の説明】
1 地山
2 長穴
3 外管
4 貫通孔
5,5a,5b,5c 吐出パイプ
6,6a,6b,6c 袋体
7,7a,7b,7c スタティックミキサ
8 シール部材
9 ホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 周壁に複数の貫通孔を有する外管内に、少なくとも一本の吐出パイプを挿入配置し、この吐出パイプの先端部に一の袋体を取付けるとともに、袋体より上流側にミキサを配設してなる地山固結用樹脂材料の吐出装置。
【請求項2】 外管の、吐出パイプ挿入側の端部分で、その外管と吐出パイプとの間にシール部材を介装してなる請求項1に記載の地山固結用樹脂材料の吐出装置。
【請求項3】 周壁に複数の貫通孔を有する外管内に、ミキサを具える吐出パイプを配設し、この吐出パイプの先端から吐出した二液反応型の樹脂材料を外管の貫通孔を経て地山内へ浸透させて地山を固結させるに当たり、ミキサによって混合された前記樹脂材料で、吐出パイプの先端部に取付けた袋体を膨らませるとともに破袋させて、その樹脂材料を外管内へ流出させることを特徴とする地山固結方法。
【請求項4】 袋体を、前記樹脂材料の反応熱および膨張圧力によって破袋させることを特徴とする請求項3に記載の地山固結方法。
【請求項5】 外管内に配設した、長さの異なる複数本の吐出パイプのそれぞれに、前記樹脂材料をほぼ同時に送給することを特徴とする請求項3もしくは4に記載の地山固結方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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