地山補強用鋼管および地山補強用鋼管の製造方法
【課題】 掘削中には、不必要な管外への漏水が防止されるとともに、切削後には、容易に切除、分割が可能となる。
【解決手段】 地山補強用鋼管10は、外周部に長手方向に所定の間隔をおいて形成された、複数の環状溝12−1〜12−4と、環状溝によって仕切られた複数の区分17−1〜17−3の各々において、長手方向の少なくとも全体にわたって、長手方向の切断面が接触している切断面接触部20であって、隣接する前後の区分では周方向の位置が互いにずらされて形成された切断面接触部20と、複数の区分17−1〜17−3の各々において形成された吐出孔として機能する複数のスリット21と、を有する。
【解決手段】 地山補強用鋼管10は、外周部に長手方向に所定の間隔をおいて形成された、複数の環状溝12−1〜12−4と、環状溝によって仕切られた複数の区分17−1〜17−3の各々において、長手方向の少なくとも全体にわたって、長手方向の切断面が接触している切断面接触部20であって、隣接する前後の区分では周方向の位置が互いにずらされて形成された切断面接触部20と、複数の区分17−1〜17−3の各々において形成された吐出孔として機能する複数のスリット21と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル掘削等において、地山の補強に使用される地山補強用鋼管および地山補強用鋼管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地山補強先受け工、鏡補強工などのトンネル掘削工事において、地山補強のために、二重管方式の削孔装置で地山を穿孔すると同時に後続する鋼管を引き込み、地山内に鋼管を埋設した後、鋼管内に、セメント系、レジン系などの固結材を注入して、鋼管全長にわたって設けられている吐出孔から固結材を地山に浸透、定着させることで、地山補強・安定化をはかる工法が採用されている。たとえば、AGF工法やFIT工法が、上記工法として知られている。
【0003】
上記工法においては、トンネル掘削断面内から切羽前方地山内に所定の仰角で削孔を施し、そこに、直列に連結された複数の地山補強用鋼管を打設して、地山補強用鋼管にモルタルやウレタン樹脂などの固結材を注入し、補強用鋼管に設けた吐出孔から地山に、固結材を浸透させている。固結材の注入により補強した後、地山の掘削が行われる。通常、1回の掘削の進行長さは約1mである。掘削後に鋼製支保工が建て込まれるが、この時、掘削断面内に位置する地山補強用鋼管は不要であるので、1回のトンネル掘進毎に適切な位置で切除している。
【0004】
切断除去を容易にするために、複数本数の地山補強用鋼管のうち、最後端の地山補強用鋼管は、除去が容易な構造であることが望ましい。また、除去された地山補強用鋼管において、鋼管内部に硬化した固結材が固着しており、これまでは産業廃棄物として廃棄されていた。しかしながら、昨今、金属である鋼管の本体と固結材との分離が求められており、分離を実現可能な地山補強用鋼管が必要となっている
たとえば、特許文献1には、外周部に、長手方向に所定の間隔をおいて形成した複数の環状溝によって、長手方向に複数の区分に仕切られた地山補強用鋼管が開示されている。この地山補強用鋼管では、さらに、環状溝で仕切られた各区分にそれぞれ長手方向の複数のスリットを設けてなり、該複数のスリットは、隣接する前後の区分では周方向の位置が互いにずらされている。スリットは、地山補強用鋼管の内部に通じているため、上記固結材を注入した際には、スリットから固結材が吐出する。その一方、地山補強用鋼管の除去の際に、外周部に設けられた管状溝により、容易に軸方向に破断されるとともに、スリットにより、長手方向にも複数(たとえば2つ)に分割される。地山補強用鋼管が長手方向に複数に分割されるため、地山補強用鋼管の内面に固着した固結材の除去も実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3882118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
たとえば、上記特許文献1に開示された地山補強用鋼管では、スリットが長手方向に、地山補強用鋼管のほぼ全体にわたって設けられている。地山補強用鋼管の打設工においては、複数本数の連結された地山補強用鋼管の最前端から、繰り粉(地山補強用鋼管に挿入されたビットによって破砕された岩など)や排泥水が、地山補強用鋼管の内部を通って、地山補強用鋼管の最後端から排出される。しかしながら、地山補強用鋼管内部を経由して、地山補強用鋼管の最後端から地山外へ排出すべき繰り粉や排泥水が、スリットから鋼管外部へ漏水することが多々あった。
【0007】
スリットからの漏水は、地山補強用鋼管内部において繰り粉を押し流すために必要な削孔水の流量や水圧を下げる原因となり、排泥効率を低下させた。これが原因で、地山補強用鋼管の打設時における穿孔速度が低下し、結果として施工時間を費やす結果となった。
【0008】
また、鋼管打設中の漏水により、削孔装置によって形成された孔壁を荒らす原因となり、固結材注入による定着に対して悪影響を及ぼし、施工上、あまり好ましくなかった。
【0009】
本発明は、掘削中には、不必要な管外への漏水が防止されるとともに、切削後には、容易に切除、分割が可能な地山補強用鋼管、および、当該地山補強用鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、地山に打設され、内部に注入された固結材を地山に浸透させて該地山を補強するために使用される地山補強用鋼管であって、
外周部に長手方向に所定の間隔をおいて形成された、複数の環状溝と、
前記環状溝によって仕切られた複数の区分の各々において、長手方向の少なくとも全体にわたって、前記長手方向の切断面が接触している切断面接触部であって、隣接する前後の区分では周方向の位置が互いにずらされて形成された切断面接触部と、
前記複数の区分の各々において形成された複数の吐出孔と、
を備えたことを特徴とする地山補強用鋼管により達成される。
【0011】
好ましい実施態様においては、 前記切断面接触部のそれぞれにおいて、前記所定の位置に、前記切断面を部分的に接合させる接合部材が設けられる。
【0012】
より好ましい実施態様において、前記所定の位置の接合部材は、前記切断面を接合させる溶接部である。
【0013】
また、好ましい実施態様においては、前記吐出孔が、前記切断面接触部に隣接して形成された、長手方向に延びるスリットである。
【0014】
別の好ましい実施態様においては、前記複数の区分の各々において、一対の切断面接触部が、周方向に180度の角度間隔で形成され、かつ、隣接する前後の区分においては、周方向に90度ずらされて前記一対の切断面接触部が形成される。
【0015】
好ましい実施態様においては、前記切断面接触部の長手方向両端部に、切断面が離間した状態の離間部が設けられる。
【0016】
また、本発明の目的は、地山に打設され、内部に注入された固結材を地山に浸透させて該地山を補強するために使用される地山補強用鋼管の製造方法であって、
鋼管の外周部に長手方向に所定の間隔をおいて複数の環状溝を形成する工程と、
前記環状溝によって仕切られた複数の区分の各々において、所定数の吐出孔を形成する工程と、
前記環状溝によって仕切られた複数の区分の各々において、長手方向の少なくとも全体にわたってスリットを形成する工程と、
前記スリットによる分割された前記区分の両側部に圧力を加えて、前記スリットを閉鎖させて切断面接触部を形成する工程と、を備えたことを特徴とする地山補強用鋼管の製造方法により達成される。
【0017】
好ましい実施態様においては、前記切断面接触部の所定の位置において、前記切断面を部分的に接合させる工程を備える。
【0018】
より好ましい実施態様においては、前記接合させる工程が、前記切断面接触部の所定の位置を溶接する工程を含む。
【0019】
好ましい実施態様においては、前記切断面接触部の所定の位置を溶接する工程を備える。
【0020】
また、別の好ましい実施態様においては、前記吐出孔を形成する工程が、各区分において、長手方向に整合した位置に所定の長さの他のスリットを形成する工程を有し、
前記少なくとも全体にわたってスリットを形成する工程が、前記他のスリットと隣接するようにスリットを形成する工程を有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、掘削中には、不必要な管外への漏水が防止されるとともに、切削後には、容易に切除、分割が可能な地山補強用鋼管、および、当該地山補強用鋼管の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管の平面図である。
【図2】図2は、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管を含む、掘削に使用する地山補強用鋼管の組み合わせの一例を示す図である。
【図3】図3は、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管を含む、掘削に使用する地山補強用鋼管の組み合わせの他の例を示す図である。
【図4】図4は、図1のA−A線断面図である。
【図5】図5は、図1のB−B線断面図である。
【図6】図6は、図1のC−C線断面図である。
【図7】図7は、打設時および固結材の注入時に、地山補強用鋼管の後端部に栓部材およびキャップを取り付けた状態を示す図である。
【図8】図8は、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管の製造工程を説明する図である。
【図9】図9は、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管を用いたトンネル掘削工法
【図10】図10は、本発明の第2の実施の形態にかかる地山補強用鋼管の平面図である。
【図11】図11は、第1の区分17−1の後端に位置する離間部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態につき説明を加える。図1は、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管の平面図である。図1に示す地山補強用鋼管10は、中空円筒状であり、トンネル掘削工事の際に用いられる直列に連結された複数の地山補強用鋼管のうち、少なくとも最後端、つまり、切羽に最も近い位置で用いられる。なお、本明細書において、切羽に近い方向を「後方」、地山が掘削される方向を「前方」と称する。また、図1〜図3に示す地山補強用鋼管のそれぞれにおいては、左側が前方、右側が後方となる。
【0024】
図2は、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管を含む、掘削に使用する地山補強用鋼管の組み合わせの一例を示す図、図3は、同様に、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管を含む、掘削に使用する地山補強用鋼管の組み合わせの他の例を示す図である。図2および図3とも、上に位置する地山補強用鋼管が、より前方に配置される。
【0025】
図2に示す組み合わせでは、前方の3つの地山補強用鋼管201〜203は、従来の地山補強用鋼管であり、最後方の地山補強用鋼管10のみが本実施の形態にかかるものである。その一方、図3に示す組み合わせでは、最前方の地山補強用鋼管11およびその後方に位置する3つの地山補強用鋼管10の全てが本実施の形態にかかるものである。このように、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管10は、最後方だけでなく任意の位置で使用することが可能である。なお、地山補強用鋼管11および地山補強用鋼管10は、全長が異なるほかはほぼ同様である。
【0026】
なお、図2に示す最前方の地山補強用鋼管201においては、その最前端に、削孔用のビットユニット220が接続された状態を示している。図3についても同様である。
【0027】
本実施の形態にかかる地山補強用鋼管10は、全長約3m10cm、外径114.3mm、内径102.3mmである。無論、地山補強用鋼管のサイズはこれに限定されるものではない。図1に示すように、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管10は、その外周部に、長手方向に所定の間隔で複数の環状溝12−1〜12−4が形成されている。環状溝12は、鋼管の肉厚部を所定深さだけ切り込んで形成した有底溝であり、溝の深さは鋼管の肉厚の35〜85%とするのが好ましい。たとえば、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管の肉厚が6mmでれば、環状溝12の深さは4mm程度とすればよい。また、環状溝12の幅は、約3〜7mmとするのが好ましく、約5mm程度とするのがより好ましい。環状溝12は、打設後に地山補強用鋼管10をその位置から折断するために設けられており、深さや幅が大きすぎると打設時の強度が不足し、小さすぎると折断が困難となるからである。
【0028】
本実施の形態においては、第1の環状溝12−1と第2の環状溝12−2との間隔(つまり、後述する第1の区分17−1の長さ)は870mm、第2の環状溝12−2と第3の環状溝12−3との間隔(後述する第2の区分17−2の長さ)は1000mm、第3の環状溝12−3と第4の環状溝12−4との間隔(後述する第3の区分17−3の長さ)は、1030となっている。無論、隣接する環状溝の間隔(つまり区分の長さ)は、上述したものに限定されず、等間隔であっても良いことは言うまでもない。
【0029】
最前方の環状溝12−1のさらに前方には、約120mの前端部13が設けられる。前端部13の内周14には雌ねじが形成され、連結すべき他の地山補強用鋼管(たとえば、図2に示す地山補強用鋼管203)の後端部に形成された雄ネジと螺合するようになっている。雌ネジが形成される長手方向(軸方向)の長さは、たとえば50mm程度である。
【0030】
また、最後方の環状溝12−4よりさらに後方には、約120mmの後端部15が設けられる。後端部15の外周16には雄ネジが形成される。雄ネジが形成される長手方向(軸方向)の長さは、たとえば50mm程度である。地山補強用鋼管10を、最後方の地山補強用鋼管として利用する場合には、内周に雌ネジが形成された逆支弁キャップ(図7)が、後端部15に取り付けられる。また、地山補強用鋼管10を、最後方以外の地山補強用鋼管として利用する場合には、後端部15には、他の地山補強用鋼管の前端部が螺合されて連結される。
【0031】
本実施の形態においては、隣接する環状溝の間が、長手方向(軸方向)に3つの区分を形成する(第1の区分17−1〜第3の区分17−3)。さらに、第1の区分17−1〜第3の区分17−3には、それぞれ、長手方向(軸方向)に、所定の長さの一対の切断面接触部20が形成される。本実施の形態においては、切断面接触部20は、少なくとも区分の長手方向(軸方向)の全長にわたって形成されている。
【0032】
切断面接触部20は、後述するように、地山補強用鋼管10にスリット(第2のスリット80:図8(c)参照)を形成して、当該第2のスリット80の形成後に、地山補強用鋼管10の両側から圧力を加えてその形状を矯正し、スリットにおける長手方向に対向する壁面(端面)を接触させて、第2のスリット80を閉じることにより形成することができる。なお、第2のスリットの幅は0.8mm〜3.0mmであるのが望ましい。第2のスリットの幅を3.0mmより大きくすると、加圧による矯正後の残留歪みがおおきくなり、地山補強用鋼管10の変形および機械的特性の低下を招くおそれがあるからである。また、矯正による内径の減少が無視できないものとなり、鋼管内を経由して排出される繰り粉や排泥水の量が制限され、さらに、内部に挿入・設置されている打設資材およびさく孔ロッドの回収に支障をきたすおそれがあるからである。
【0033】
また、切断面接触部20に隣接するように、長手方向(軸方向)に所定の間隔で、所定長さのスリット21が形成されている。スリットの長さは約50mmで、その幅は0.8mm〜3.0mmである。特に、スリットの幅は1.5mm程度であるのが望ましい。本実施の形態においては、1つの切断面接触部20に隣接して、2つのスリット21が形成されている。たとえば、スリット21の中心位置が、各区分17−1〜17−3において、区分をほぼ三等分した位置になるように形成すれば良い。
【0034】
各区分における一対の切断面接触部20、20は、地山補強用鋼管10の直径方向に対向する位置に配置される。つまり、一対の切断面接触部20は周方向に180度の角度間隔で配置される。また、隣接する区分(たとえば、第1の区分17−1と、第2の区分17−2)との間では、切断面接触部20の周方向の位置は90度ずれている。なお、打設中に、切断面接触部20が離間して鋼管が長手方向に分割されることが防止できれば良いため、上記隣接する区分の間での切断面接触部20の周方向のずれは90度に限定されるものではなく、たとえば、60度であっても良い。
【0035】
さらに、本実施の形態においては、切断面接触部20の長手方向(軸方向)の端部は、環状溝12をわずかに越えて位置している。つまり、切断面接触部20は、隣接する他の区分に食い込んでいる。また、上記切断面接触部20の端部においては、地山補強用鋼管10の切断面はわずかに離間しており、離間部22が形成される。離間部22は、長手方向(軸方向)の長さは約50mm、最大幅は約1。5mmである。図11は、第1の区分17−1の後端に位置する離間部の拡大図である。図11に示すように、離間部22における隙間は、区分における端部に向かって広がるような楔型となっている。これは、後述するように、切断面接触部20は、第2のスリット80の両端に圧力を加えてその端面を閉鎖することにより形成されるが、各区分の両端部は、端面が閉鎖されずに残る。したがって、図11に示すような楔形状となる。なお、この楔形状の離間部22は、長手方向(軸方向)に25mmの長さのスリットと同様の面積を有する。
【0036】
さらに、本実施の形態においては、第1の区分17−1〜第3の区分17−3のそれぞれの切断面接触部20において、切断面接触部20の長手方向(軸方向)の両端部近傍に、切断面を溶接により接合させた溶接部44を有する。溶接部44の長手方向(軸方向)の長さは、たとえば10mm程度である。
【0037】
本実施の形態において、スリット21の面積および離間部22の面積の総和は、直列に連結して使用する従来の地山補強用鋼管(図2の符号201〜203参照)のそれぞれに形成された孔部(たとえば、符号211、212参照)の面積の総和とほぼ等しいのが望ましい。
【0038】
図4、図5および図6は、それぞれ、図1のA−A線断面図、B−B線断面図およびC−C線断面図である。図4に示すように、第1の区分17−1で切断面接触部22のみが形成されている部分では、一方の壁面41と他方の壁面42とが接触しているしたがって、切断面接触部22のみが形成されている部分では、地山補強用鋼管10の内部からの固結材の吐出は生じない。図5に示すように、第1の区分17−1で、切断面接触部22およびスリット21が形成されている部分では、一方の壁面51と他方の壁面52との間はスリット21の幅(たとえば、1.5mm)だけ離間している。したがって、当該スリット21を介して地山補強用鋼管10の内部から固結材が吐出し得る。
【0039】
また、図6に示すように、第1の区分17−1と第2の区分17−2との境界部に位置する環状溝が形成されている部分では、その外周部60は、他の外周部63と比較して窪んでいる。また、一方の壁面61と他方の壁面62との間は離間しており(離間部22)、当該離間部22を介して地山補強用鋼管10の内部から固結材が吐出し得る。なお、離間部22の長手方向(軸方向)の長さおよび幅は、双方とも、スリット21よりも小さい。したがって、離間部22から吐出する固結材の量は、スリット21からの量よりも少ない。
【0040】
図7は、打設時および固結材の注入時に、地山補強用鋼管の後端部に栓部材70およびキャップ73を取り付けた状態を示す図である。図7に示すように、地山補強用鋼管10の後端部15には、注入管や配水管を挿通させるための複数の孔部71、72が形成された栓部材70がはめ込まれる。たとえば、栓部材70は合成ゴムなど弾力のある材料で構成され、栓部材70の外周面は、後端部15の内周面に密着する。キャップ73の内周面には雌ネジが形成され、後端部15の外周に形成された雄ネジと螺合する。また、キャップの後端は、半径方向内側に延長部74が形成される。したがって、キャップ73を地山補強用鋼管10に取り付けることにより、栓部材70が地山補強用鋼管10から脱落することを防止することができる。
【0041】
次に、上記構成の地山補強用鋼管10の製造工程について説明する。まず、適切な寸法(全長)に切断され、両端に雄ネジおよび雌ネジが加工された中空の鋼管の外周に所定の間隔で、環状溝12が形成される。環状溝12は、鋼管の周囲を切削することで形成することができる(図8(a)参照)。次いで、第1の区分17−1、第3の区分17−3のそれぞれにおいて、長手方向(軸方向)に一致する位置に、スリット21が形成される。また、第2の区分17−2において、上記第1の区分17−1、第3の区分17−3のスリット21に対して、周方向に90度ずらされた位置に、スリット21が形成される。図8(b)は、鋼管にスリット21を形成した状態を示す平面図である。スリット21は、汎用性が高くまたコストが低いガス溶断を適用することができる。無論、他の手法にてスリットを形成しても良い。
【0042】
本実施の形態においては、スリットは、各区分において、周方向に180度の角度間隔で、2つずつのスリット21が形成される。したがって、1つの区分においては、4つのスリットが形成されることになる。
【0043】
次いで、第1の区分17−1〜第3の区分17−3において、スリット21に接触するように、切断面接触部20に対応する位置に、第2のスリット80が形成される。第2のスリット80も、スリット21と同様に、ガス溶断を適用することにより形成することができる。無論、これに限定されるものではなく、幅の狭いスリットが形成可能であれば、他の機械加工設備を用いて切断によりスリットを形成しても良い。
【0044】
この状態では、第2のスリット80とスリット21とは連通している。また、第1の区分17−1における第2のスリット80の長手方向(軸方向)の位置と、第3の区分17−3における第2のスリット80の長手方向(軸方向)の位置とは一致する。また、第2の区分17−2における第2のスリット80は、第1の区分17−1、第3の区分17−3におけるスリットと、周方向に90度ずらされた位置に形成される。
【0045】
その後、第2スリット80の長手方向に沿って形成された端面(切断面)を密着させるように、第2のスリット80の両側部に圧力を加えて矯正し、第2のスリット80の壁面(端面)を密着させる。これにより、第2のスリット80により長手方向に形成されていた空隙は閉鎖され、その部分が、切断面接触部20となる。なお、第2のスリット80の長手方向の両端部、つまり、上記鋼管の矯正の始点と終点は、矯正すること(つまり、端面を密着させること)は不可能である。したがって、上記両端部は、離間部22として、鋼管の内部に連通した部分となる。この離間部22も、スリット21と同様に、固結材の吐出孔として利用される。
【0046】
なお、第2のスリット80を形成した後に、その両側部に圧力を加えて矯正して隙間を閉鎖するため、地山補強用鋼管10において、切断面接触部20が形成される部分では、鋼管の内径(および内周長)は他の部分よりわずかに小さくなる。鋼管の外径が114.3mmであれば、製造工程において長手方向に加工する第2のスリット80の幅を3.5mm以下に抑えることで、内径を100mm以上確保することができる。したがって、鋼管打設後における削孔工具の回収において十分な空間(断面)を確保することができ、また、鋼管内部において後方へ排泥水を送り出すための断面積は保たれるため、施工上、悪影響を及ぼさない。ただし、加工する第2のスリット80の幅が狭いほど矯正する量は小さく抑えられ、スリットを塞いだ後の残留応力もわずかであるとから、第2のスリット80の幅は3mm以下に抑えることがより好ましい。
【0047】
その後、第1の区分17−1〜第3の区分17−3のそれぞれにおいて、切断面接触部20の長手方向(軸方向)ほぼ中央部が溶接されて、切断面接触部20の端面が部分的に接合された溶接部44が形成される。切断面接触部20に少なくとも1箇所ずつ溶接部44を設けることで、切断面接触部20を固定することができ、打設時に地山補強用鋼管10に長手方向に力が加えられることよる切断面接触部20におけるスプリングバックにより開口することを防止することができる。このようにして、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管10を製造することができる。
【0048】
次に、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管を用いたトンネル掘削工法について説明する。図2に示す複数の地山補強用鋼管、或いは、図3に示す複数の地山補強用鋼管を、順次直列に連結し、図9に示すように、連結された複数の地山補強用鋼管901、902を、前方に向けて所定角度上向きに傾斜させ、最前端の地山補強用鋼管の内部から突出したパイロットビット、あるいは先端に取り付けられたビットユニット(図2の符号220参照)で、地山900に穿孔するとともに、複数の地山補強用鋼管901を順次地山900に引き込んで行く。
【0049】
なお、前述したように、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管10は、少なくとも最後端の鋼管として用いられる。直列に連結された複数の地山補強用鋼管は、通常、トンネル断面に対し円周方向120度の角度にわたって、たとえば、打設角度として上向き8度で29本程度打設される。
【0050】
打設の際に、地山補強用鋼管の内部に挿入された削孔ロッドの水供給路を介して水が供給されパイロットビットの先端から噴出され、また、パイロットビットの排水孔から、排泥水が、地山補強用鋼管の内部を通って、後方に流れて最後端に位置する地山補強用鋼管10の後端部から吐出される。このときに、従来の地山補強用鋼管(図2の符号201〜203参照)の孔部(たとえば、符号211、212参照)や、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管10のスリット21および離間部2から、若干の排泥水が漏れ出す。しかしながら、前述したように、従来の各地山補強用鋼管に形成された孔部の面積の和と、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管10のスリット21および離間部22の面積の和とはほぼ等しい。したがって、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管10において漏れ出す排泥水の量は、従来の地山補強用鋼管と同等とすることができる。
【0051】
所定の距離だけ地山補強用鋼管を引き込んで、地山補強用鋼管を打設すると、パイロットビットとさく孔ロッドを、地山補強用鋼管の内部を通して回収し、地山補強用鋼管の内部に固結材を注入する。固結材は、従来の地山補強用鋼管(図2の符号201〜203参照)の孔部(たとえば、符号211、212参照)から吐出するとともに、本字四肢の形態にかかる地山補強用鋼管10のスリット21および離間部22からも吐出する。前述したように、従来の各地山補強用鋼管に形成された孔部の面積の和と、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管10のスリット21および離間部22の面積の和とはほぼ等しい。したがって、地山補強用鋼管10から吐出する固結材の量と、従来の地山補強用鋼管から吐出する固結材の量とを略等しくすることができる。
【0052】
固結材の注入が終了すると、たとえば、バックホー(図示せず)を用いて、地山の下側を前方に1m程度掘削する。すると、傾斜して打設されている複数の地山補強用鋼管901、902のうち、最後端の地山補強用鋼管10の所定の区分(初期的には第1の区分17−1)が露出する。したがって、バックホーにて、地山補強用鋼管10に下向きの力を加えて、露出して地山補強用鋼管10の露出した区分を折断する。
【0053】
本実施の形態においては、地山補強用鋼管10に周方向に複数の環状溝12が形成されているため、何れかの環状溝12にて切断され、第1の区分17−1〜第3の区分17−3に、順次分割され得る。また、第1の区分17−1〜第3の区分17−3のそれぞれにおいて、溶接部44により切断面接触部20が固定された状態となっている。しかしながら、溶接部44の長さは10mm程度であり、切断面接触部20の長手方向(軸方向)の長さと比較して十分に短い。したがって、第1の区分17−1〜第3の区分17−3のそれぞれについて、切断面接触部20を分割させるように力を加えることにより、切断面接触部20から2つの部分に分割され得る。各区分が二つに分割された後、その内周面に付着した固結材を回収することで、金属である地山補強用鋼管(の部分)と、固結材とを分離して別々に回収することができる。
【0054】
その後、掘削した部分の内側に支保工903を建て込み、内面にモルタルを吹き付ける。しかるのち、再度、バックホーを用いて、前方に1m程度掘削を行い、露出した最後端の地山補強用鋼管10の所定の区分の切断と、支保工の建て込みとモルタルの吹き付けが行なわれる。以下同様の手順で作業が繰り返される。
【0055】
本実施の形態によれば、周方向に複数の環状溝12を形成して、第1の区分17−1〜17−3を設けている。また、第1の区分17−1〜第3の区分17−3のそれぞれに、長手方向(軸方向)に、スリットの端面を接触させてスリットを閉じることにより形成された切断面接触部20を備えている。打設時や固結材の投入時には、切断面接触部20から排泥水や固結材が漏れ出すことがない。その一方、環状溝12にて切断することにより第1の区分17−1〜第3の区分17−3は、それぞれ、切断面接触部20に沿って長手方向に分割される。したがって、内周面に付着した固結材を分別回収することができる。
【0056】
隣接する区分においては、切断面接触部20は、所定の角度間隔(たとえば90度)で形成されている。したがって、打設時に長手方向に力が加えられた場合でも、切断面接触部20の変形によるスプリングバックを最小限に抑制することができる。特に、本実施の形態においては、切断面接触部20のそれぞれの離間部22を残した略両端部に、溶接部44を形成することで、スプリングバックにより開口することを抑制することが可能となる。
【0057】
また、上記切断面接触部20に隣接するように、スリット21が形成され、スリット21および切断面接触部20の両端部の離間部22が、固結材の吐出孔として機能する。また、切断面接触部20のために一時的に形成され、閉鎖される第2のスリット80と、スリット21とは同一の機械を用いて同一の工程で形成され得る。したがって、工程を複雑化させることなく、地山補強用鋼管を製造することができる。
【0058】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【0059】
たとえば、前記実施の形態においては、切断面接触部20と隣接するように、長手方向(軸方向)に延びるスリット21が形成され、当該スリット21を吐出孔として利用している。しかしながら、これに限定されるものではなく、従来の地山補強用鋼管と同様に複数の丸孔を形成しても良い。図10は、本発明の第2の実施の形態にかかる地山補強用鋼管の平面図である。図10に示す地山補強用鋼管100においても、4つの環状溝12−1〜12−4が形成され、また、隣接する2つの環状溝12により第1の区分117−1〜第3の区分117−3が画定される。また、第1の実施の形態と同様に、第1の区分117−1〜第3の区分117−3のそれぞれに、180度の角度間隔で切断面接触部20が形成される。また、切断面接触部20の両端には離間部22が形成される。
【0060】
第2の実施の形態では、第1の区分117−1〜第3の区分117−3のそれぞれに、スリット21が形成される代わりに、従来の地山補強用鋼管と同様に複数の丸孔121が形成される。第2の実施の形態においても、丸孔121の面積および離間部22の面積の総和は、従来の地山補強用鋼管の面積の総和と等しい。
【0061】
第2の実施の形態にかかる地山補強用鋼管100の製造工程も、第1の実施の形態の製造工程と、スリット21と丸孔121の形成の部分を除き同一である。すなわち、第2の実施の形態においても、環状溝12の形成、吐出孔である丸孔121の形成、第2のスリット80の形成、第2のスリットの閉鎖による切断面接触部20の形成、および、切断面接触部20の略両端部を溶接することによる溶接部44の形成という手順により地山補強用鋼管100を製造することができる。
【0062】
また、前記実施の形態においては、切断面接触部20の長手方向(軸方向)の略両端部に溶接部44を形成しているが、これに限定されるものではなく、地山補強用鋼管10、100の厚みなどからスプリングバックが十分に抑制されるのであれば、溶接部を省略しても良い。
【0063】
また、前記実施の形態におけるスリット21のサイズも上記実施の形態に限定されるものではない。上述したように、本実施の形態においては、スリット21の面積と離間部22の面積の総和が、同等の長さを有する従来の地山補強用鋼管における固結材の吐出孔の面積の総和とほぼ等しくなるようにしている。したがって、この条件が満たされている状態で、スリット21の個数を増大させても良いことは言うまでもない。
【0064】
前記実施の形態においては、切断面接触部20の所定の位置を溶接して溶接部44を形成し、切断面を部分的に接合しているがこれに限定されるものではない。たとえば、接着剤を用いて切断面を部分的に接合しても良いし、ステンレスバンドなど機械的な部材を用いて切断面を部分的に接合しても良い。
【0065】
また、前記実施の形態において、溶接部44は、切断面接触部20のそれぞれについて、両端部近傍に2箇所設けている。しかしながら、これに限定されるものではなく、切断面接触部20の中央付近に溶接部44を形成しても良い。また、溶接部44の数も上記実施の形態のものに限定されない。
【0066】
さらに、前記第1の実施の形態においては、吐出孔としてのスリット21は、切断面接触部20に隣接して形成されている。しかしながら、これに限定されるものではなく、スリット21を、切断面接触部20と離間して形成しても良い。
【符号の説明】
【0067】
10 地山補強用鋼管
12−1〜12−3、12 環状溝
13 前端部
14 前端部の内周
15 後端部
16 後端部の外周
17−1〜17−3 第1の区分〜第3の区分
20 切断面接触部
21 スリット
22 離間部
44 溶接部
70 栓部材
73 キャップ
80 第2のスリット
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル掘削等において、地山の補強に使用される地山補強用鋼管および地山補強用鋼管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地山補強先受け工、鏡補強工などのトンネル掘削工事において、地山補強のために、二重管方式の削孔装置で地山を穿孔すると同時に後続する鋼管を引き込み、地山内に鋼管を埋設した後、鋼管内に、セメント系、レジン系などの固結材を注入して、鋼管全長にわたって設けられている吐出孔から固結材を地山に浸透、定着させることで、地山補強・安定化をはかる工法が採用されている。たとえば、AGF工法やFIT工法が、上記工法として知られている。
【0003】
上記工法においては、トンネル掘削断面内から切羽前方地山内に所定の仰角で削孔を施し、そこに、直列に連結された複数の地山補強用鋼管を打設して、地山補強用鋼管にモルタルやウレタン樹脂などの固結材を注入し、補強用鋼管に設けた吐出孔から地山に、固結材を浸透させている。固結材の注入により補強した後、地山の掘削が行われる。通常、1回の掘削の進行長さは約1mである。掘削後に鋼製支保工が建て込まれるが、この時、掘削断面内に位置する地山補強用鋼管は不要であるので、1回のトンネル掘進毎に適切な位置で切除している。
【0004】
切断除去を容易にするために、複数本数の地山補強用鋼管のうち、最後端の地山補強用鋼管は、除去が容易な構造であることが望ましい。また、除去された地山補強用鋼管において、鋼管内部に硬化した固結材が固着しており、これまでは産業廃棄物として廃棄されていた。しかしながら、昨今、金属である鋼管の本体と固結材との分離が求められており、分離を実現可能な地山補強用鋼管が必要となっている
たとえば、特許文献1には、外周部に、長手方向に所定の間隔をおいて形成した複数の環状溝によって、長手方向に複数の区分に仕切られた地山補強用鋼管が開示されている。この地山補強用鋼管では、さらに、環状溝で仕切られた各区分にそれぞれ長手方向の複数のスリットを設けてなり、該複数のスリットは、隣接する前後の区分では周方向の位置が互いにずらされている。スリットは、地山補強用鋼管の内部に通じているため、上記固結材を注入した際には、スリットから固結材が吐出する。その一方、地山補強用鋼管の除去の際に、外周部に設けられた管状溝により、容易に軸方向に破断されるとともに、スリットにより、長手方向にも複数(たとえば2つ)に分割される。地山補強用鋼管が長手方向に複数に分割されるため、地山補強用鋼管の内面に固着した固結材の除去も実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3882118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
たとえば、上記特許文献1に開示された地山補強用鋼管では、スリットが長手方向に、地山補強用鋼管のほぼ全体にわたって設けられている。地山補強用鋼管の打設工においては、複数本数の連結された地山補強用鋼管の最前端から、繰り粉(地山補強用鋼管に挿入されたビットによって破砕された岩など)や排泥水が、地山補強用鋼管の内部を通って、地山補強用鋼管の最後端から排出される。しかしながら、地山補強用鋼管内部を経由して、地山補強用鋼管の最後端から地山外へ排出すべき繰り粉や排泥水が、スリットから鋼管外部へ漏水することが多々あった。
【0007】
スリットからの漏水は、地山補強用鋼管内部において繰り粉を押し流すために必要な削孔水の流量や水圧を下げる原因となり、排泥効率を低下させた。これが原因で、地山補強用鋼管の打設時における穿孔速度が低下し、結果として施工時間を費やす結果となった。
【0008】
また、鋼管打設中の漏水により、削孔装置によって形成された孔壁を荒らす原因となり、固結材注入による定着に対して悪影響を及ぼし、施工上、あまり好ましくなかった。
【0009】
本発明は、掘削中には、不必要な管外への漏水が防止されるとともに、切削後には、容易に切除、分割が可能な地山補強用鋼管、および、当該地山補強用鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、地山に打設され、内部に注入された固結材を地山に浸透させて該地山を補強するために使用される地山補強用鋼管であって、
外周部に長手方向に所定の間隔をおいて形成された、複数の環状溝と、
前記環状溝によって仕切られた複数の区分の各々において、長手方向の少なくとも全体にわたって、前記長手方向の切断面が接触している切断面接触部であって、隣接する前後の区分では周方向の位置が互いにずらされて形成された切断面接触部と、
前記複数の区分の各々において形成された複数の吐出孔と、
を備えたことを特徴とする地山補強用鋼管により達成される。
【0011】
好ましい実施態様においては、 前記切断面接触部のそれぞれにおいて、前記所定の位置に、前記切断面を部分的に接合させる接合部材が設けられる。
【0012】
より好ましい実施態様において、前記所定の位置の接合部材は、前記切断面を接合させる溶接部である。
【0013】
また、好ましい実施態様においては、前記吐出孔が、前記切断面接触部に隣接して形成された、長手方向に延びるスリットである。
【0014】
別の好ましい実施態様においては、前記複数の区分の各々において、一対の切断面接触部が、周方向に180度の角度間隔で形成され、かつ、隣接する前後の区分においては、周方向に90度ずらされて前記一対の切断面接触部が形成される。
【0015】
好ましい実施態様においては、前記切断面接触部の長手方向両端部に、切断面が離間した状態の離間部が設けられる。
【0016】
また、本発明の目的は、地山に打設され、内部に注入された固結材を地山に浸透させて該地山を補強するために使用される地山補強用鋼管の製造方法であって、
鋼管の外周部に長手方向に所定の間隔をおいて複数の環状溝を形成する工程と、
前記環状溝によって仕切られた複数の区分の各々において、所定数の吐出孔を形成する工程と、
前記環状溝によって仕切られた複数の区分の各々において、長手方向の少なくとも全体にわたってスリットを形成する工程と、
前記スリットによる分割された前記区分の両側部に圧力を加えて、前記スリットを閉鎖させて切断面接触部を形成する工程と、を備えたことを特徴とする地山補強用鋼管の製造方法により達成される。
【0017】
好ましい実施態様においては、前記切断面接触部の所定の位置において、前記切断面を部分的に接合させる工程を備える。
【0018】
より好ましい実施態様においては、前記接合させる工程が、前記切断面接触部の所定の位置を溶接する工程を含む。
【0019】
好ましい実施態様においては、前記切断面接触部の所定の位置を溶接する工程を備える。
【0020】
また、別の好ましい実施態様においては、前記吐出孔を形成する工程が、各区分において、長手方向に整合した位置に所定の長さの他のスリットを形成する工程を有し、
前記少なくとも全体にわたってスリットを形成する工程が、前記他のスリットと隣接するようにスリットを形成する工程を有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、掘削中には、不必要な管外への漏水が防止されるとともに、切削後には、容易に切除、分割が可能な地山補強用鋼管、および、当該地山補強用鋼管の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管の平面図である。
【図2】図2は、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管を含む、掘削に使用する地山補強用鋼管の組み合わせの一例を示す図である。
【図3】図3は、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管を含む、掘削に使用する地山補強用鋼管の組み合わせの他の例を示す図である。
【図4】図4は、図1のA−A線断面図である。
【図5】図5は、図1のB−B線断面図である。
【図6】図6は、図1のC−C線断面図である。
【図7】図7は、打設時および固結材の注入時に、地山補強用鋼管の後端部に栓部材およびキャップを取り付けた状態を示す図である。
【図8】図8は、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管の製造工程を説明する図である。
【図9】図9は、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管を用いたトンネル掘削工法
【図10】図10は、本発明の第2の実施の形態にかかる地山補強用鋼管の平面図である。
【図11】図11は、第1の区分17−1の後端に位置する離間部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態につき説明を加える。図1は、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管の平面図である。図1に示す地山補強用鋼管10は、中空円筒状であり、トンネル掘削工事の際に用いられる直列に連結された複数の地山補強用鋼管のうち、少なくとも最後端、つまり、切羽に最も近い位置で用いられる。なお、本明細書において、切羽に近い方向を「後方」、地山が掘削される方向を「前方」と称する。また、図1〜図3に示す地山補強用鋼管のそれぞれにおいては、左側が前方、右側が後方となる。
【0024】
図2は、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管を含む、掘削に使用する地山補強用鋼管の組み合わせの一例を示す図、図3は、同様に、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管を含む、掘削に使用する地山補強用鋼管の組み合わせの他の例を示す図である。図2および図3とも、上に位置する地山補強用鋼管が、より前方に配置される。
【0025】
図2に示す組み合わせでは、前方の3つの地山補強用鋼管201〜203は、従来の地山補強用鋼管であり、最後方の地山補強用鋼管10のみが本実施の形態にかかるものである。その一方、図3に示す組み合わせでは、最前方の地山補強用鋼管11およびその後方に位置する3つの地山補強用鋼管10の全てが本実施の形態にかかるものである。このように、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管10は、最後方だけでなく任意の位置で使用することが可能である。なお、地山補強用鋼管11および地山補強用鋼管10は、全長が異なるほかはほぼ同様である。
【0026】
なお、図2に示す最前方の地山補強用鋼管201においては、その最前端に、削孔用のビットユニット220が接続された状態を示している。図3についても同様である。
【0027】
本実施の形態にかかる地山補強用鋼管10は、全長約3m10cm、外径114.3mm、内径102.3mmである。無論、地山補強用鋼管のサイズはこれに限定されるものではない。図1に示すように、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管10は、その外周部に、長手方向に所定の間隔で複数の環状溝12−1〜12−4が形成されている。環状溝12は、鋼管の肉厚部を所定深さだけ切り込んで形成した有底溝であり、溝の深さは鋼管の肉厚の35〜85%とするのが好ましい。たとえば、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管の肉厚が6mmでれば、環状溝12の深さは4mm程度とすればよい。また、環状溝12の幅は、約3〜7mmとするのが好ましく、約5mm程度とするのがより好ましい。環状溝12は、打設後に地山補強用鋼管10をその位置から折断するために設けられており、深さや幅が大きすぎると打設時の強度が不足し、小さすぎると折断が困難となるからである。
【0028】
本実施の形態においては、第1の環状溝12−1と第2の環状溝12−2との間隔(つまり、後述する第1の区分17−1の長さ)は870mm、第2の環状溝12−2と第3の環状溝12−3との間隔(後述する第2の区分17−2の長さ)は1000mm、第3の環状溝12−3と第4の環状溝12−4との間隔(後述する第3の区分17−3の長さ)は、1030となっている。無論、隣接する環状溝の間隔(つまり区分の長さ)は、上述したものに限定されず、等間隔であっても良いことは言うまでもない。
【0029】
最前方の環状溝12−1のさらに前方には、約120mの前端部13が設けられる。前端部13の内周14には雌ねじが形成され、連結すべき他の地山補強用鋼管(たとえば、図2に示す地山補強用鋼管203)の後端部に形成された雄ネジと螺合するようになっている。雌ネジが形成される長手方向(軸方向)の長さは、たとえば50mm程度である。
【0030】
また、最後方の環状溝12−4よりさらに後方には、約120mmの後端部15が設けられる。後端部15の外周16には雄ネジが形成される。雄ネジが形成される長手方向(軸方向)の長さは、たとえば50mm程度である。地山補強用鋼管10を、最後方の地山補強用鋼管として利用する場合には、内周に雌ネジが形成された逆支弁キャップ(図7)が、後端部15に取り付けられる。また、地山補強用鋼管10を、最後方以外の地山補強用鋼管として利用する場合には、後端部15には、他の地山補強用鋼管の前端部が螺合されて連結される。
【0031】
本実施の形態においては、隣接する環状溝の間が、長手方向(軸方向)に3つの区分を形成する(第1の区分17−1〜第3の区分17−3)。さらに、第1の区分17−1〜第3の区分17−3には、それぞれ、長手方向(軸方向)に、所定の長さの一対の切断面接触部20が形成される。本実施の形態においては、切断面接触部20は、少なくとも区分の長手方向(軸方向)の全長にわたって形成されている。
【0032】
切断面接触部20は、後述するように、地山補強用鋼管10にスリット(第2のスリット80:図8(c)参照)を形成して、当該第2のスリット80の形成後に、地山補強用鋼管10の両側から圧力を加えてその形状を矯正し、スリットにおける長手方向に対向する壁面(端面)を接触させて、第2のスリット80を閉じることにより形成することができる。なお、第2のスリットの幅は0.8mm〜3.0mmであるのが望ましい。第2のスリットの幅を3.0mmより大きくすると、加圧による矯正後の残留歪みがおおきくなり、地山補強用鋼管10の変形および機械的特性の低下を招くおそれがあるからである。また、矯正による内径の減少が無視できないものとなり、鋼管内を経由して排出される繰り粉や排泥水の量が制限され、さらに、内部に挿入・設置されている打設資材およびさく孔ロッドの回収に支障をきたすおそれがあるからである。
【0033】
また、切断面接触部20に隣接するように、長手方向(軸方向)に所定の間隔で、所定長さのスリット21が形成されている。スリットの長さは約50mmで、その幅は0.8mm〜3.0mmである。特に、スリットの幅は1.5mm程度であるのが望ましい。本実施の形態においては、1つの切断面接触部20に隣接して、2つのスリット21が形成されている。たとえば、スリット21の中心位置が、各区分17−1〜17−3において、区分をほぼ三等分した位置になるように形成すれば良い。
【0034】
各区分における一対の切断面接触部20、20は、地山補強用鋼管10の直径方向に対向する位置に配置される。つまり、一対の切断面接触部20は周方向に180度の角度間隔で配置される。また、隣接する区分(たとえば、第1の区分17−1と、第2の区分17−2)との間では、切断面接触部20の周方向の位置は90度ずれている。なお、打設中に、切断面接触部20が離間して鋼管が長手方向に分割されることが防止できれば良いため、上記隣接する区分の間での切断面接触部20の周方向のずれは90度に限定されるものではなく、たとえば、60度であっても良い。
【0035】
さらに、本実施の形態においては、切断面接触部20の長手方向(軸方向)の端部は、環状溝12をわずかに越えて位置している。つまり、切断面接触部20は、隣接する他の区分に食い込んでいる。また、上記切断面接触部20の端部においては、地山補強用鋼管10の切断面はわずかに離間しており、離間部22が形成される。離間部22は、長手方向(軸方向)の長さは約50mm、最大幅は約1。5mmである。図11は、第1の区分17−1の後端に位置する離間部の拡大図である。図11に示すように、離間部22における隙間は、区分における端部に向かって広がるような楔型となっている。これは、後述するように、切断面接触部20は、第2のスリット80の両端に圧力を加えてその端面を閉鎖することにより形成されるが、各区分の両端部は、端面が閉鎖されずに残る。したがって、図11に示すような楔形状となる。なお、この楔形状の離間部22は、長手方向(軸方向)に25mmの長さのスリットと同様の面積を有する。
【0036】
さらに、本実施の形態においては、第1の区分17−1〜第3の区分17−3のそれぞれの切断面接触部20において、切断面接触部20の長手方向(軸方向)の両端部近傍に、切断面を溶接により接合させた溶接部44を有する。溶接部44の長手方向(軸方向)の長さは、たとえば10mm程度である。
【0037】
本実施の形態において、スリット21の面積および離間部22の面積の総和は、直列に連結して使用する従来の地山補強用鋼管(図2の符号201〜203参照)のそれぞれに形成された孔部(たとえば、符号211、212参照)の面積の総和とほぼ等しいのが望ましい。
【0038】
図4、図5および図6は、それぞれ、図1のA−A線断面図、B−B線断面図およびC−C線断面図である。図4に示すように、第1の区分17−1で切断面接触部22のみが形成されている部分では、一方の壁面41と他方の壁面42とが接触しているしたがって、切断面接触部22のみが形成されている部分では、地山補強用鋼管10の内部からの固結材の吐出は生じない。図5に示すように、第1の区分17−1で、切断面接触部22およびスリット21が形成されている部分では、一方の壁面51と他方の壁面52との間はスリット21の幅(たとえば、1.5mm)だけ離間している。したがって、当該スリット21を介して地山補強用鋼管10の内部から固結材が吐出し得る。
【0039】
また、図6に示すように、第1の区分17−1と第2の区分17−2との境界部に位置する環状溝が形成されている部分では、その外周部60は、他の外周部63と比較して窪んでいる。また、一方の壁面61と他方の壁面62との間は離間しており(離間部22)、当該離間部22を介して地山補強用鋼管10の内部から固結材が吐出し得る。なお、離間部22の長手方向(軸方向)の長さおよび幅は、双方とも、スリット21よりも小さい。したがって、離間部22から吐出する固結材の量は、スリット21からの量よりも少ない。
【0040】
図7は、打設時および固結材の注入時に、地山補強用鋼管の後端部に栓部材70およびキャップ73を取り付けた状態を示す図である。図7に示すように、地山補強用鋼管10の後端部15には、注入管や配水管を挿通させるための複数の孔部71、72が形成された栓部材70がはめ込まれる。たとえば、栓部材70は合成ゴムなど弾力のある材料で構成され、栓部材70の外周面は、後端部15の内周面に密着する。キャップ73の内周面には雌ネジが形成され、後端部15の外周に形成された雄ネジと螺合する。また、キャップの後端は、半径方向内側に延長部74が形成される。したがって、キャップ73を地山補強用鋼管10に取り付けることにより、栓部材70が地山補強用鋼管10から脱落することを防止することができる。
【0041】
次に、上記構成の地山補強用鋼管10の製造工程について説明する。まず、適切な寸法(全長)に切断され、両端に雄ネジおよび雌ネジが加工された中空の鋼管の外周に所定の間隔で、環状溝12が形成される。環状溝12は、鋼管の周囲を切削することで形成することができる(図8(a)参照)。次いで、第1の区分17−1、第3の区分17−3のそれぞれにおいて、長手方向(軸方向)に一致する位置に、スリット21が形成される。また、第2の区分17−2において、上記第1の区分17−1、第3の区分17−3のスリット21に対して、周方向に90度ずらされた位置に、スリット21が形成される。図8(b)は、鋼管にスリット21を形成した状態を示す平面図である。スリット21は、汎用性が高くまたコストが低いガス溶断を適用することができる。無論、他の手法にてスリットを形成しても良い。
【0042】
本実施の形態においては、スリットは、各区分において、周方向に180度の角度間隔で、2つずつのスリット21が形成される。したがって、1つの区分においては、4つのスリットが形成されることになる。
【0043】
次いで、第1の区分17−1〜第3の区分17−3において、スリット21に接触するように、切断面接触部20に対応する位置に、第2のスリット80が形成される。第2のスリット80も、スリット21と同様に、ガス溶断を適用することにより形成することができる。無論、これに限定されるものではなく、幅の狭いスリットが形成可能であれば、他の機械加工設備を用いて切断によりスリットを形成しても良い。
【0044】
この状態では、第2のスリット80とスリット21とは連通している。また、第1の区分17−1における第2のスリット80の長手方向(軸方向)の位置と、第3の区分17−3における第2のスリット80の長手方向(軸方向)の位置とは一致する。また、第2の区分17−2における第2のスリット80は、第1の区分17−1、第3の区分17−3におけるスリットと、周方向に90度ずらされた位置に形成される。
【0045】
その後、第2スリット80の長手方向に沿って形成された端面(切断面)を密着させるように、第2のスリット80の両側部に圧力を加えて矯正し、第2のスリット80の壁面(端面)を密着させる。これにより、第2のスリット80により長手方向に形成されていた空隙は閉鎖され、その部分が、切断面接触部20となる。なお、第2のスリット80の長手方向の両端部、つまり、上記鋼管の矯正の始点と終点は、矯正すること(つまり、端面を密着させること)は不可能である。したがって、上記両端部は、離間部22として、鋼管の内部に連通した部分となる。この離間部22も、スリット21と同様に、固結材の吐出孔として利用される。
【0046】
なお、第2のスリット80を形成した後に、その両側部に圧力を加えて矯正して隙間を閉鎖するため、地山補強用鋼管10において、切断面接触部20が形成される部分では、鋼管の内径(および内周長)は他の部分よりわずかに小さくなる。鋼管の外径が114.3mmであれば、製造工程において長手方向に加工する第2のスリット80の幅を3.5mm以下に抑えることで、内径を100mm以上確保することができる。したがって、鋼管打設後における削孔工具の回収において十分な空間(断面)を確保することができ、また、鋼管内部において後方へ排泥水を送り出すための断面積は保たれるため、施工上、悪影響を及ぼさない。ただし、加工する第2のスリット80の幅が狭いほど矯正する量は小さく抑えられ、スリットを塞いだ後の残留応力もわずかであるとから、第2のスリット80の幅は3mm以下に抑えることがより好ましい。
【0047】
その後、第1の区分17−1〜第3の区分17−3のそれぞれにおいて、切断面接触部20の長手方向(軸方向)ほぼ中央部が溶接されて、切断面接触部20の端面が部分的に接合された溶接部44が形成される。切断面接触部20に少なくとも1箇所ずつ溶接部44を設けることで、切断面接触部20を固定することができ、打設時に地山補強用鋼管10に長手方向に力が加えられることよる切断面接触部20におけるスプリングバックにより開口することを防止することができる。このようにして、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管10を製造することができる。
【0048】
次に、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管を用いたトンネル掘削工法について説明する。図2に示す複数の地山補強用鋼管、或いは、図3に示す複数の地山補強用鋼管を、順次直列に連結し、図9に示すように、連結された複数の地山補強用鋼管901、902を、前方に向けて所定角度上向きに傾斜させ、最前端の地山補強用鋼管の内部から突出したパイロットビット、あるいは先端に取り付けられたビットユニット(図2の符号220参照)で、地山900に穿孔するとともに、複数の地山補強用鋼管901を順次地山900に引き込んで行く。
【0049】
なお、前述したように、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管10は、少なくとも最後端の鋼管として用いられる。直列に連結された複数の地山補強用鋼管は、通常、トンネル断面に対し円周方向120度の角度にわたって、たとえば、打設角度として上向き8度で29本程度打設される。
【0050】
打設の際に、地山補強用鋼管の内部に挿入された削孔ロッドの水供給路を介して水が供給されパイロットビットの先端から噴出され、また、パイロットビットの排水孔から、排泥水が、地山補強用鋼管の内部を通って、後方に流れて最後端に位置する地山補強用鋼管10の後端部から吐出される。このときに、従来の地山補強用鋼管(図2の符号201〜203参照)の孔部(たとえば、符号211、212参照)や、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管10のスリット21および離間部2から、若干の排泥水が漏れ出す。しかしながら、前述したように、従来の各地山補強用鋼管に形成された孔部の面積の和と、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管10のスリット21および離間部22の面積の和とはほぼ等しい。したがって、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管10において漏れ出す排泥水の量は、従来の地山補強用鋼管と同等とすることができる。
【0051】
所定の距離だけ地山補強用鋼管を引き込んで、地山補強用鋼管を打設すると、パイロットビットとさく孔ロッドを、地山補強用鋼管の内部を通して回収し、地山補強用鋼管の内部に固結材を注入する。固結材は、従来の地山補強用鋼管(図2の符号201〜203参照)の孔部(たとえば、符号211、212参照)から吐出するとともに、本字四肢の形態にかかる地山補強用鋼管10のスリット21および離間部22からも吐出する。前述したように、従来の各地山補強用鋼管に形成された孔部の面積の和と、本実施の形態にかかる地山補強用鋼管10のスリット21および離間部22の面積の和とはほぼ等しい。したがって、地山補強用鋼管10から吐出する固結材の量と、従来の地山補強用鋼管から吐出する固結材の量とを略等しくすることができる。
【0052】
固結材の注入が終了すると、たとえば、バックホー(図示せず)を用いて、地山の下側を前方に1m程度掘削する。すると、傾斜して打設されている複数の地山補強用鋼管901、902のうち、最後端の地山補強用鋼管10の所定の区分(初期的には第1の区分17−1)が露出する。したがって、バックホーにて、地山補強用鋼管10に下向きの力を加えて、露出して地山補強用鋼管10の露出した区分を折断する。
【0053】
本実施の形態においては、地山補強用鋼管10に周方向に複数の環状溝12が形成されているため、何れかの環状溝12にて切断され、第1の区分17−1〜第3の区分17−3に、順次分割され得る。また、第1の区分17−1〜第3の区分17−3のそれぞれにおいて、溶接部44により切断面接触部20が固定された状態となっている。しかしながら、溶接部44の長さは10mm程度であり、切断面接触部20の長手方向(軸方向)の長さと比較して十分に短い。したがって、第1の区分17−1〜第3の区分17−3のそれぞれについて、切断面接触部20を分割させるように力を加えることにより、切断面接触部20から2つの部分に分割され得る。各区分が二つに分割された後、その内周面に付着した固結材を回収することで、金属である地山補強用鋼管(の部分)と、固結材とを分離して別々に回収することができる。
【0054】
その後、掘削した部分の内側に支保工903を建て込み、内面にモルタルを吹き付ける。しかるのち、再度、バックホーを用いて、前方に1m程度掘削を行い、露出した最後端の地山補強用鋼管10の所定の区分の切断と、支保工の建て込みとモルタルの吹き付けが行なわれる。以下同様の手順で作業が繰り返される。
【0055】
本実施の形態によれば、周方向に複数の環状溝12を形成して、第1の区分17−1〜17−3を設けている。また、第1の区分17−1〜第3の区分17−3のそれぞれに、長手方向(軸方向)に、スリットの端面を接触させてスリットを閉じることにより形成された切断面接触部20を備えている。打設時や固結材の投入時には、切断面接触部20から排泥水や固結材が漏れ出すことがない。その一方、環状溝12にて切断することにより第1の区分17−1〜第3の区分17−3は、それぞれ、切断面接触部20に沿って長手方向に分割される。したがって、内周面に付着した固結材を分別回収することができる。
【0056】
隣接する区分においては、切断面接触部20は、所定の角度間隔(たとえば90度)で形成されている。したがって、打設時に長手方向に力が加えられた場合でも、切断面接触部20の変形によるスプリングバックを最小限に抑制することができる。特に、本実施の形態においては、切断面接触部20のそれぞれの離間部22を残した略両端部に、溶接部44を形成することで、スプリングバックにより開口することを抑制することが可能となる。
【0057】
また、上記切断面接触部20に隣接するように、スリット21が形成され、スリット21および切断面接触部20の両端部の離間部22が、固結材の吐出孔として機能する。また、切断面接触部20のために一時的に形成され、閉鎖される第2のスリット80と、スリット21とは同一の機械を用いて同一の工程で形成され得る。したがって、工程を複雑化させることなく、地山補強用鋼管を製造することができる。
【0058】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【0059】
たとえば、前記実施の形態においては、切断面接触部20と隣接するように、長手方向(軸方向)に延びるスリット21が形成され、当該スリット21を吐出孔として利用している。しかしながら、これに限定されるものではなく、従来の地山補強用鋼管と同様に複数の丸孔を形成しても良い。図10は、本発明の第2の実施の形態にかかる地山補強用鋼管の平面図である。図10に示す地山補強用鋼管100においても、4つの環状溝12−1〜12−4が形成され、また、隣接する2つの環状溝12により第1の区分117−1〜第3の区分117−3が画定される。また、第1の実施の形態と同様に、第1の区分117−1〜第3の区分117−3のそれぞれに、180度の角度間隔で切断面接触部20が形成される。また、切断面接触部20の両端には離間部22が形成される。
【0060】
第2の実施の形態では、第1の区分117−1〜第3の区分117−3のそれぞれに、スリット21が形成される代わりに、従来の地山補強用鋼管と同様に複数の丸孔121が形成される。第2の実施の形態においても、丸孔121の面積および離間部22の面積の総和は、従来の地山補強用鋼管の面積の総和と等しい。
【0061】
第2の実施の形態にかかる地山補強用鋼管100の製造工程も、第1の実施の形態の製造工程と、スリット21と丸孔121の形成の部分を除き同一である。すなわち、第2の実施の形態においても、環状溝12の形成、吐出孔である丸孔121の形成、第2のスリット80の形成、第2のスリットの閉鎖による切断面接触部20の形成、および、切断面接触部20の略両端部を溶接することによる溶接部44の形成という手順により地山補強用鋼管100を製造することができる。
【0062】
また、前記実施の形態においては、切断面接触部20の長手方向(軸方向)の略両端部に溶接部44を形成しているが、これに限定されるものではなく、地山補強用鋼管10、100の厚みなどからスプリングバックが十分に抑制されるのであれば、溶接部を省略しても良い。
【0063】
また、前記実施の形態におけるスリット21のサイズも上記実施の形態に限定されるものではない。上述したように、本実施の形態においては、スリット21の面積と離間部22の面積の総和が、同等の長さを有する従来の地山補強用鋼管における固結材の吐出孔の面積の総和とほぼ等しくなるようにしている。したがって、この条件が満たされている状態で、スリット21の個数を増大させても良いことは言うまでもない。
【0064】
前記実施の形態においては、切断面接触部20の所定の位置を溶接して溶接部44を形成し、切断面を部分的に接合しているがこれに限定されるものではない。たとえば、接着剤を用いて切断面を部分的に接合しても良いし、ステンレスバンドなど機械的な部材を用いて切断面を部分的に接合しても良い。
【0065】
また、前記実施の形態において、溶接部44は、切断面接触部20のそれぞれについて、両端部近傍に2箇所設けている。しかしながら、これに限定されるものではなく、切断面接触部20の中央付近に溶接部44を形成しても良い。また、溶接部44の数も上記実施の形態のものに限定されない。
【0066】
さらに、前記第1の実施の形態においては、吐出孔としてのスリット21は、切断面接触部20に隣接して形成されている。しかしながら、これに限定されるものではなく、スリット21を、切断面接触部20と離間して形成しても良い。
【符号の説明】
【0067】
10 地山補強用鋼管
12−1〜12−3、12 環状溝
13 前端部
14 前端部の内周
15 後端部
16 後端部の外周
17−1〜17−3 第1の区分〜第3の区分
20 切断面接触部
21 スリット
22 離間部
44 溶接部
70 栓部材
73 キャップ
80 第2のスリット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山に打設され、鋼管内部に注入された固結材を地山に浸透させて該地山を補強するために使用される地山補強用鋼管であって、
外周部に長手方向に所定の間隔をおいて形成された、複数の環状溝と、
前記環状溝によって仕切られた複数の区分の各々において、長手方向の少なくとも全体にわたって、前記長手方向の切断面が接触している切断面接触部であって、隣接する前後の区分では周方向の位置が互いにずらされて形成された切断面接触部と、
前記複数の区分の各々において形成された複数の吐出孔と、
を備えたことを特徴とする地山補強用鋼管。
【請求項2】
前記切断面接触部のそれぞれにおいて、前記所定の位置に、前記切断面を部分的に接合させる接合部材が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の地山補強用鋼管。
【請求項3】
前記所定の位置の接合部材が、前前記切断面を接合させる溶接部であることを特徴とする請求項2に記載の地山補強用鋼管。
【請求項4】
前記吐出孔が、前記切断面接触部に隣接して形成された、長手方向に延びるスリットであることを特徴とする請求項1ないし3の何れか一項に記載の地山補強用鋼管。
【請求項5】
前記複数の区分の各々において、一対の切断面接触部が、周方向に180度の角度間隔で形成され、かつ、隣接する前後の区分においては、周方向に90度ずらされて前記一対の切断面接触部が形成されていることを特徴とする請求項1ないし4の何れか一項に記載の地山補強用鋼管。
【請求項6】
前記切断面接触部の長手方向両端部に、切断面が離間した状態の離間部が設けられることを特徴とする請求項1ないし5の何れか一項に記載の地山補強用鋼管。
【請求項7】
地山に打設され、内部に注入された固結材を地山に浸透させて該地山を補強するために使用される地山補強用鋼管の製造方法であって、
鋼管の外周部に長手方向に所定の間隔をおいて複数の環状溝を形成する工程と、
前記環状溝によって仕切られた複数の区分の各々において、所定数の吐出孔を形成する工程と、
前記環状溝によって仕切られた複数の区分の各々において、長手方向の少なくとも全体にわたってスリットを形成する工程と、
前記スリットによる分割された前記区分の両側部に圧力を加えて、前記スリットを閉鎖させて切断面接触部を形成する工程と、を備えたことを特徴とする地山補強用鋼管の製造方法。
【請求項8】
前記切断面接触部の所定の位置において、前記切断面を部分的に接合させる工程を備えたことを特徴とする請求項7に記載の地山補強用鋼管の製造方法。
【請求項9】
前記接合させる工程が、前記切断面接触部の所定の位置を溶接する工程を含むことを特徴とする請求項8に記載の地山補強用鋼管の製造方法。
【請求項10】
前記吐出孔を形成する工程が、各区分において、長手方向に整合した位置に所定の長さの他のスリットを形成する工程を有し、
前記少なくとも全体にわたってスリットを形成する工程が、前記他のスリットと隣接するようにスリットを形成する工程を有することを特徴とする請求項7ないし9の何れか一項に記載の地山補強用鋼管の製造方法。
【請求項1】
地山に打設され、鋼管内部に注入された固結材を地山に浸透させて該地山を補強するために使用される地山補強用鋼管であって、
外周部に長手方向に所定の間隔をおいて形成された、複数の環状溝と、
前記環状溝によって仕切られた複数の区分の各々において、長手方向の少なくとも全体にわたって、前記長手方向の切断面が接触している切断面接触部であって、隣接する前後の区分では周方向の位置が互いにずらされて形成された切断面接触部と、
前記複数の区分の各々において形成された複数の吐出孔と、
を備えたことを特徴とする地山補強用鋼管。
【請求項2】
前記切断面接触部のそれぞれにおいて、前記所定の位置に、前記切断面を部分的に接合させる接合部材が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の地山補強用鋼管。
【請求項3】
前記所定の位置の接合部材が、前前記切断面を接合させる溶接部であることを特徴とする請求項2に記載の地山補強用鋼管。
【請求項4】
前記吐出孔が、前記切断面接触部に隣接して形成された、長手方向に延びるスリットであることを特徴とする請求項1ないし3の何れか一項に記載の地山補強用鋼管。
【請求項5】
前記複数の区分の各々において、一対の切断面接触部が、周方向に180度の角度間隔で形成され、かつ、隣接する前後の区分においては、周方向に90度ずらされて前記一対の切断面接触部が形成されていることを特徴とする請求項1ないし4の何れか一項に記載の地山補強用鋼管。
【請求項6】
前記切断面接触部の長手方向両端部に、切断面が離間した状態の離間部が設けられることを特徴とする請求項1ないし5の何れか一項に記載の地山補強用鋼管。
【請求項7】
地山に打設され、内部に注入された固結材を地山に浸透させて該地山を補強するために使用される地山補強用鋼管の製造方法であって、
鋼管の外周部に長手方向に所定の間隔をおいて複数の環状溝を形成する工程と、
前記環状溝によって仕切られた複数の区分の各々において、所定数の吐出孔を形成する工程と、
前記環状溝によって仕切られた複数の区分の各々において、長手方向の少なくとも全体にわたってスリットを形成する工程と、
前記スリットによる分割された前記区分の両側部に圧力を加えて、前記スリットを閉鎖させて切断面接触部を形成する工程と、を備えたことを特徴とする地山補強用鋼管の製造方法。
【請求項8】
前記切断面接触部の所定の位置において、前記切断面を部分的に接合させる工程を備えたことを特徴とする請求項7に記載の地山補強用鋼管の製造方法。
【請求項9】
前記接合させる工程が、前記切断面接触部の所定の位置を溶接する工程を含むことを特徴とする請求項8に記載の地山補強用鋼管の製造方法。
【請求項10】
前記吐出孔を形成する工程が、各区分において、長手方向に整合した位置に所定の長さの他のスリットを形成する工程を有し、
前記少なくとも全体にわたってスリットを形成する工程が、前記他のスリットと隣接するようにスリットを形成する工程を有することを特徴とする請求項7ないし9の何れか一項に記載の地山補強用鋼管の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−153402(P2011−153402A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13754(P2010−13754)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(593172131)株式会社トーキンオール (12)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(593172131)株式会社トーキンオール (12)
【Fターム(参考)】
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