説明

地熱発電所の運転制御方法

【課題】
発電機の出力を安定させ,効率的な発電を可能とする地熱発電所の運転制御方法を提供する。
【解決手段】
井戸からの蒸気によって回転するタービンの排気を凝縮する復水器と,当該復水器で凝縮された水を空気と熱交換させて冷却して再び前記復水器に供給する冷却塔と,当該冷却塔に熱交換のための空気を外部から吸入するファンとを備える地熱発電所の運転制御方法において,冷却塔で熱交換により冷却された冷却水の温度を測定し,当該測定された冷却水の温度を16℃乃至18℃の範囲内となるようにファンの回転数を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,地下のマグマによって加熱された地熱蒸気によって蒸気タービンを回転させて発電する地熱発電所の運転制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地熱発電システムは,地下のマグマによって加熱された蒸気(地熱蒸気)を,井戸を掘削して地上に導き出し,この蒸気を直接タービンに導入して作動流体とし,タービンを回転させて発電機により発電するようにしたものである。タービンで仕事をした蒸気(タービン排気)は,高真空状態の復水器において冷却塔からの冷却水によって冷却され,40℃前後の温水となる。そして,この温水は,循環ポンプで冷却塔に送られ,そこで外気と熱交換し冷却され,冷却水として再び復水器に送られてタービン排気の凝縮に使われる。
【0003】
冷却塔の側部に空気の吸入部が設けられ,冷却塔の頂部に設けられた少なくとも1台のファンの回転により,吸入部から冷却塔内部に外気が吸引される。冷却塔に送られた温水は,冷却塔内で上方から散水されて落下しながら,吸入部から取り込まれた外気と熱交換して冷却され,冷却塔の底部の貯水槽で冷却水として回収される。
【0004】
地熱発電所では,冷却水の水温が低いほど復水器の真空度が良くなり,結果として発電機の出力を増大させることができるので,冷却塔は,温水を必要十分な低温にまで冷却できる冷却性能を有することが好ましい。従って,このような冷却塔は,一般に最も負荷の大きくなる夏季の運転条件を基準に設計されており,外気温が高い夏季においても,十分な冷却容量を得られる空気流入量を確保するために複数のファンが設けられている。そして,夏季には,空気流入量を最大とするように全てのファン(例えば4台)を稼動させるが,外気温が氷点下まで下がるような冬季には,全てのファンを稼働させるとむしろ冷却容量が過大となり無駄な電力消費となるために,一部のファン(例えば4台中の3台)のみを稼働する。
【0005】
また,冬季の厳寒期には,冷却塔の吸入部に氷柱が大量に付着する氷柱現象が発生する。吸入部に氷柱が付着すると,外部から吸込む空気量が減少することにより,冬季であっても,冷却塔の冷却能力が著しく低下してしまう。この氷柱除去のために,冷却塔のファンを逆回転して温風により氷柱を解凍する対策が知られている(特許文献1,2)。また,冷却塔の空気吸入部に可変ルーバを設け,外気温度が低いときは,可変ルーバを調節して空気流入量を抑制するように調整することで,氷柱現象の発生を防止する対策も知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−213898号公報
【特許文献2】特開平10−267590号公報
【特許文献3】特開2000−249478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら,上述のような季節に応じたファンの稼働台数の増減や,氷柱除去対策又は氷柱発生防止対策がとられているものの,これら対策だけでは,四季を通じて地熱発電所の効率的な運転制御が十分に行なわれているとはいえない。すなわち,夏季と冬季では外気温に大きな差があり,このような外気温の大きな変動に対して冷却塔の冷却能力が必ずしも十分に追随できていないのが実情である。例えば,外気温が高くなる夏季には,設計上十分な冷却容量を確保するだけのファン台数が設けられているものの,約13℃程度の外気温のときに全台(通常4台程度)のファンをフル稼動して約40℃の温水を冷却した場合でも冷却水の温度を約20℃程度までしか下げることができず,ファン稼動に電力を多く消費した割りには冷却水の水温が高く十分な発電出力の増大が得られていない。一方,氷点下の冬季には,ファンの稼働台数を減らして運転した場合でも冷却塔の吸入部に氷柱が付着する過冷却現象を完全に防止することができず,冷却能力を低下させる要因ともなっている。また地熱発電所では,その真空度の良し悪しが発電機の出力を増減させるといわれているが,一方で真空度に影響を及ぼす冷却水の水温は,季節毎の外気温の変動に大きく影響されるために,発電機の出力も外気温の変動に左右され,地熱発電所全体の発電出力が不安定となる問題を引き起こすことにもなる。
【0008】
さらに,温水を冷却するためのファンは地熱発電所で発電された電力により駆動されるので,温水を所定の冷却水の温度まで下げるために,ファンを最大限に稼働させると,ファンの消費電力が増大することになるために,供給用の発電電力を無駄に消費する結果となり,地熱発電所全体としての供給可能電力を低下させるという問題をも引き起こすことになる。
【0009】
このように,現状の地熱発電所では,その発電出力が季節毎の外気温の変動に大きく影響されて不安定であり,その対策は季節の状況に応じてその都度場当たり的に行われているにすぎないから,無駄な所内電力の消費も多く,必ずしも効率的な運転制御がなされているとはいえない。
【0010】
そこで,本発明の目的は,四季を通じて発電機の出力を安定化させ,無駄な所内電力の消費を減らし供給可能電力を増大させる効率的な地熱発電所の運転制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は,冷却水の水温が復水器の真空度に良い結果を及ぼすという従来周知の事実に着目し,その確認のために鋭意実験を繰り返してその実験データを分析したところ,熱交換後の冷却水温度が16℃近傍になると復水器の真空度がそれ以上変化せず一定(発電機の出力も一定)となる特性があることを見いだした。また,本発明者は,冷却水温度の上昇に伴う発電機の出力の減少分とファン7の消費電力の減少分とを比較し,冷却水温度が16℃以上において,ファンの消費電力の減少分の方が大きく,地熱発電所から外部に供給される実質的な供給電力が増大する冷却水温度帯が存在することを確認し,その供給電力が増大する温度帯が16℃乃至18℃であることを見いだした。
【0012】
そこで,本発明は,上記知見から,冷却塔のファンの回転数を冷却水温度が16℃乃至18℃の範囲内となるように制御して,復水器の安定的な高真空度の維持により地熱発電所における発電出力の不安定性という課題を解決するものである。また,冷却水温度の下限を16℃に制御することで冬季に生成する虞のある過冷却現象を極力回避して所内電力の無駄な消費という課題をも解決するものである。
【0013】
具体的には,請求項1の地熱発電所の運転制御方法は,井戸からの蒸気によって回転するタービンの排気を凝縮する復水器と,当該復水器で凝縮された水を空気と熱交換させて冷却して再び前記復水器に供給する冷却塔と,当該冷却塔に熱交換のための空気を外部から吸入するファンとを備える地熱発電所の運転制御方法において,前記冷却塔で熱交換により冷却された冷却水の温度を測定し,当該測定された冷却水の温度を16℃乃至18℃の範囲内となるように前記ファンの回転数を制御することを特徴とする。
【0014】
また,請求項2の地熱発電所の運転制御方法は,外部から空気を吸入する正回転方向に回転している各ファンのうちの少なくとも1台を,所定期間だけ正回転と反対の逆回転方向に回転させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
冷却水温度が一定の温度範囲内になるように制御することで,四季を通じて復水器の高真空状態を安定的に維持して発電機の出力を安定化させることができるとともに,ファンの回転数を制御して冷却水の過冷却を極力回避することでファンの消費電力を低減させることができ,所内電力の低減(供給可能電力の増大)に寄与する。
【0016】
また,冷却水温度が一定の温度範囲内になるように制御することで,復水器の高真空状態を安定的に維持したまま,冬季にはファンの逆回転処理を適宜行うことで冷却塔に生成する虞のある氷柱を解凍し又は氷柱の生成を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態における地熱発電所の主要機器系統図である。
【図2】冷却塔出口の冷却水温度と復水器の真空度との関係のグラフデータである。
【図3】外気温10℃における冷却塔出口の冷却水温度に対する発電機4の発電電力減少分とファン7の減速運転による所内電力減少分との関係を示すグラフである。
【図4】外気温5℃における冷却塔出口の冷却水温度に対する発電機4の発電電力減少分とファン7の減速運転による所内電力減少分との関係を示すグラフである。
【図5】外気温−5℃における冷却塔出口の冷却水温度に対する発電機4の発電電力減少分とファン7の減速運転による所内電力減少分との関係を示すグラフである。
【図6】インバータ制御装置12のファン回転数制御フローを示す図である。
【図7】インバータ制御装置12の冷却水温度設定フローを示す図である。
【図8】ファンの逆回転による氷柱解凍処理を説明する図である。
【図9】複数台のファンの逆回転タイミングスケジュールの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下,図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
図1は,本発明の実施の形態における地熱発電所の主要機器系統図である。蒸気井を掘削して取り出された蒸気及び熱水の混合した二相流体は,図示されないセパレータにより分離され,熱水は還元井から再び地中に還元され,熱水から分離された蒸気は主塞弁1及び加減弁2を備えた蒸気管を介してタービン3に送られる。蒸気は,このタービン3を駆動して回転エネルギーに変換し,タービン3に直結された発電機4を駆動して,発電が行われる。発電された電気は,主変圧器5から送電網を経由して消費地に送られるとともに,高圧電源(例えば6000V)を供給するための母線A及び低圧電源(例えば400V)を供給するための母線Bにより地熱発電所内の電気機器にも供給される。図1では,低圧電源が,インバータ装置6を介して冷却塔11のファン7を駆動する電動機8に供給される系統が例示される。インバータ装置6は冷却塔11のファン7の回転数を可変させる装置であり,インバータ制御装置12からの制御信号によりファン7の回転数が制御される。インバータ制御装置12の制御については,後述する。
【0020】
断熱膨張してタービン3で仕事をした蒸気(排気)は,復水器9の冷却水で凝縮され温水となる。温水温度は約40℃であり,復水器9内の圧力は約0.008-0.012Mpa(絶対圧力)の高い真空となっている。また,地熱の蒸気には,蒸気に対して質量で数%程度の二酸化炭素や硫化水素などの不凝縮ガスが含まれている。この不凝縮ガスは復水器9内で凝縮しないので,そのまま復水器9内に留まると復水器9内の圧力が高くなり(真空度が低くなり),タービン3の入口と出口の熱落差が小さくなり,発電量が低下する。そのため,復水器9内の不凝縮ガスはガス抽出器によって系外に放出される。
【0021】
復水器9内の温水は,循環水ポンプ10により冷却塔11に送られる。温水は,冷却塔11の上部から散水され,冷却塔11の底部の貯水槽に落下する。温水は,冷却塔11の上部から落下する間に冷却塔11内の空気と熱交換し,冷却される。冷却塔11の貯水槽に貯まった冷却水は,大気圧力と復水器9内の圧力の差圧で復水器9に戻り,再び,復水器9における冷却水として利用される。冷却塔11の頂部に設けられるファン7は,外気を冷却塔内に吸入し,吸入された空気は,冷却塔11の上部から落下する温水と熱交換する。ファン7は,1台又は複数台設けられ,複数台設けられる場合,それぞれ独立に駆動される。
【0022】
冷却水の温度は,外気温が一定の場合,ファン7の駆動台数及びファン7の回転速度(回転数)と関連する空気流入量に依存し,空気流入量が大きいほど,冷却水の温度は低くなる。ここで,本出願の発明者は,冷却水の温度が低いほど,復水器の真空度が高まるという従来周知の事項に着目し,その事実の確認のために,冷却水温度と復水器の真空度との関係を実験により分析し,表1及び図2の実験データを得た。冷却水温度は,熱交換した後の復水器に供給される冷却水の温度であり,例えば冷却塔出口付近で測定される。
【0023】
【表1】

【0024】
表1は,冷却塔出口の冷却水温度と復水器の絶対真空度の具体的な数値を示すものである。また,図2は,冷却塔出口の冷却水温度と復水器の絶対真空度との関係のグラフデータである。表1及び図2のデータによれば,冷却塔出口の冷却水温度が16℃以上の範囲においては,冷却塔出口温度の冷却水温度が低くなるほど,復水器の真空度も高まり,冷却塔出口の冷却水温度が16℃近傍になると,冷却水温度がそれより低い温度となっても,復水器の真空度がそれ以上変化せず一定となる特性があることが明らかである。すなわち冷却塔出口の冷却水温度が16℃の場合に真空度は7.4kPaであり,冷却水温度が16℃未満の15℃の場合でも,真空度の値は同じであるから,真空度に左右される発電機4の出力は16℃の場合が最大ということになり,それ以上に冷却水温度を下げても発電機4の出力は増大しない。したがって,冷却水温度を16℃未満とするのは発電出力の点で何ら効果がなく,むしろファン稼動による所内電力の無駄な消費にすぎず,冬季には過冷却現象の誘引ともなるから,本発明では,冷却水温度の下限を16℃に設定するものである。
【0025】
このように,復水器の絶対真空度と発電機4の発電出力との関係からみれば,冷却水温度を16℃に設定する方が望ましいが,一方で,発電機4の発電出力の減少分とファン7の稼動のための所内の消費電力の減少分とを比較すれば,冷却水温度が16℃超であっても望ましい場合がある。すなわち,ファン7の消費電力の減少分の方が大きい場合は,地熱発電所から外部に供給される実質的な供給電力が増大することを本発明者は見いだした。図3乃至図5は,冷却塔出口の冷却水温度に対する発電機4の発電電力減少分とファン7の減速運転による所内電力減少分との関係を示すグラフである。
【0026】
図3は,外気温10℃における冷却塔出口の冷却水温度に対する発電機4の発電電力減少分とファン7の減速運転による所内電力減少分との関係を示すグラフである。なお,図3乃至図5のグラフにおいて,実線aは発電機4の発電電力減少分,点線bはファン7の減速運転による所内電力減少分,一点鎖線cは,発電機4の発電電力減少分とファン7の減速運転による所内電力減少分の差分(b−a),すなわち,外部へ供給可能な供給電力の増大分を示す。
【0027】
外気温10℃の場合における図3のグラフによれば,冷却塔出口の冷却水温度が16℃より高い温度範囲の場合には,水温が高くなるに応じて真空度が低くなるために発電機4の発電出力が減少しその電力減少分は増加していくが,一方で,温水を冷却するためのファン7の減速運転に消費する所内電力も少なくて済むから,その減少分も増加していくことになる。したがって,冷却水温度が約16℃乃至20℃の範囲においては,発電機4の発電電力減少分よりもファン7の消費電力減少分の方が大きくなるために,その差分をとれば冷却水温度が18℃付近で供給可能な電力の増大分が最大となるから,ファン7の回転数を制御して冷却水温度を18℃に調節すれば,無駄な所内消費電力を減らして最大の供給可能電力を得る効率的な運転が可能となる。
【0028】
図4は,外気温5℃における冷却塔出口の冷却水温度に対する発電機4の発電電力減少分とファン7の減速運転による所内電力減少分との関係を示すグラフである。図3と同様に,冷却塔出口の冷却水温度が16℃より高い温度範囲の場合には,水温が高くなるに応じて真空度が低くなるために発電機4の発電出力が減少しその電力減少分は増加していく。一方で,図3の場合と比較して外気温がより低いので,その低い分だけ温水を効果的に冷却することができ,冷却に必要なファン7の消費電力もより少なくて済むことになる。図4によれば,温水を冷却水温度16℃に冷却する場合でも十分な所内電力の減少分が得られる一方で,冷却水温度を16℃より低い温度側,図では13.5℃付近まで冷却した場合には,所内電力の減少分が殆ど得られなくなることが分かる。したがって,外気温が5℃の場合には,ファン7の消費電力の減少分が冷却水温度16℃以下を含む約13.5℃乃至20℃という広範囲に亘って得られるために,発電機4の発電電力減少分とファン7の消費電力減少分との差分をとれば冷却水温度が16℃付近で供給可能電力の増大分が最大となるから,ファン7の回転数を制御して冷却水温度を16℃に調節すれば,無駄な所内消費電力を減らして最大の供給可能電力を得る効率的な運転が可能となる。
【0029】
【表2】

【0030】
表2には,5℃,10℃以外の外気温で運転制御した場合の結果を示す。この表2によれば,外気温が5℃,10℃でない8.9℃や8.5℃の場合でも,ファンの回転数を制御して冷却水温度を17℃,18℃に調節した場合には,供給可能電力が増大するという結果が得られるが,冷却水温度を20.5℃までしか調節できない場合には,供給可能電力の増大分が減少する結果となっている。
【0031】
図5は,外気温−5℃における冷却塔出口の冷却水温度に対する発電機4の発電電力減少分とファン7の減速運転による所内電力減少分との関係を示すグラフである。図3及び図4と同様に,冷却塔出口の冷却水温度が16℃より高い温度範囲の場合には,水温が高くなるに応じて真空度が低くなるために発電機4の発電出力が減少しその電力減少分は増加していく。一方で,図4と比較してさらに外気温が低いので,冷却に必要なファン7の消費電力もさらに少なくて済むことになる。図5によれば,所内電力の減少分は,冷却水温度16℃までほぼ一定であるが,16℃を境により低い温度側まで冷却する場合にはその減少分が少なくなる傾向にあり,図では9℃付近でその減少分が殆ど得られなくなることが分かる。また,冷却水温度が約9℃乃至16℃の範囲では,復水器の高真空度が一定に維持されているから,真空度に左右される発電機4の発電電力も一定であるために,ファン7の消費電力の減少分(点線b)がそのまま外部へ供給可能な供給電力の増大分となるから,16℃付近でそれが最大であるといえる(なお,一点鎖線cの記載は省略されている)。さらに,冷却水温度が16℃を超えた高温の範囲では,ファン7の消費電力の減少分はほぼ一定であるものの,一方で真空度の低下により発電機4の発電出力も高温側では徐々に低下していくことになるから,冷却水温度が16℃を超えた高温の範囲では,発電機4の発電電力減少分とファン7の消費電力減少分との差分をとれば,冷却水温度が16℃付近で供給可能電力の増大分が最大であるといえる。
【0032】
したがって,外気温が氷点下の−5℃の場合でも,ファンの回転数を制御して冷却水温度を16℃付近に調節すれば,無駄な所内消費電力を減らして最大の供給可能電力を得る効率的な運転が可能となる。しかし,外気温が氷点下の場合に,冷却水の水温を16℃より低い温度まで下げるような運転を行なえば,冷却塔の吸入部に氷柱が付着する過冷却現象が発生する虞があるので,外気温の変動や冷却水の水温を適宜測定して水温が16℃未満にならないような運転制御を行うことが好ましい。
【0033】
以上の表1及び表2や図3乃至図5に示したデータ等から明らかなように,冷却水温度に応じた発電機4の発電電力減少分とファン7の回転数を制御した減速運転による所内電力減少分との関係から,地熱発電所の供給可能電力が最大となるような冷却水温度の範囲が存在することが判明し,その温度範囲は,16℃乃至18℃であることが分かった。そこで,本発明では,上述した復水器の真空度の特性との関係をも考慮して,冷却水温度が16℃乃至18℃の範囲内となるように,ファン7の回転数をインバータ制御するものである。これにより,地熱発電所における発電機出力が安定し,さらに過冷却を発生させるような無駄なファン稼動による消費電力損失の増大を防止することができる。
【0034】
具体的には,インバータ制御装置12は,外気温及び冷却塔出口の冷却水温度の情報を取得し,外気温に基づいて16℃乃至18℃の範囲内の冷却水温度となるように設定し,また冷却塔出口の冷却水温度を測定しつつ当該温度となるようにフィードバック制御(例えばPI制御)を行う。
【0035】
図6は,インバータ制御装置12のファン回転数制御フローを示す図である。インバータ制御装置12では,外気温の変動に応じた冷却水温度が設定される。設定された冷却水温度に対して,後述するように,外気温の変動に応じて自動的に変更する制御が行われてもよい。
【0036】
インバータ制御装置12は,所定のサンプリングタイミング毎に冷却塔出口に設置された温度計により冷却水温度の情報を取得すると(S100),取得した冷却水温度と設定された冷却水温度との偏差を算出する(S102)。インバータ制御装置12は,偏差が所定値以上であるかどうか判定し(S104),偏差が所定値以上であると判定されると,インバータ制御装置12は,ファン7の加減速指令信号をインバータ装置6に送る(S106)。インバータ装置6は,加減速指令信号に従って,電動機8をインバータ駆動し,ファン7の回転を加減速させる。
【0037】
具体的には,取得した冷却水温度が設定された冷却水温度よりも所定値以上低い場合は,減速指令信号を送り,取得した冷却水温度が設定された冷却水温度よりも所定値以上高い場合は,加速指令信号を送り,偏差が所定値未満に収まるまで,加減速制御が続けられる。ファン7の加速度(減速度)は例えば0→1500rpm/minであり,加減速指令信号が出されている間,この加減速度でファン7の回転数は連続的に変化する。
【0038】
S104において,偏差が所定値未満であると判定されると,ファン7の定速指令信号をインバータ装置6に送る(S108)。インバータ装置6は,定速指令信号に従って,電動機8を定速駆動し,ファン7の回転数をその時点での回転数で定速回転させる。
【0039】
この回転数制御フローを冷却塔出口の冷却水温度の情報取得タイミング毎に繰り返すことで,冷却塔出口の冷却水温度を設定された冷却水温度に収束する。こうして,冷却塔出口の冷却水温度を設定された冷却水温度に調節することで,発電機の出力が安定し,効率的な発電が可能となり,電力損失を抑えることができる。
【0040】
図7は,インバータ制御装置12の冷却水温度設定フローを示す図である。インバータ制御装置12は,あらかじめ実験などにより得られた外気温とそれに対応する冷却水温度との関係を示すテーブルを有する。そして,初期設定時において,インバータ制御装置12は,外気温を測定する温度計より外気温の情報を取得すると,当該テーブルを参照して,取得した外気温に対応する冷却水温度を初期値として設定する(S200)。
【0041】
インバータ制御装置12は,外気温の取得タイミング毎に外気温を取得し(S202),取得した外気温と設定されている冷却水温度に対応する外気温との偏差を算出し(S204),偏差が所定値以上であるか判定する(S206)。偏差が所定値以上である場合に,テーブルを参照して,現在設定されている冷却水温度を,取得した外気温に対応する冷却水温度に変更する(S208)。この冷却水温度設定フローにより,外気温の変化に応じて自動的に冷却水温度を変更することができる。
【0042】
冷却塔11のファン7が複数台設けられている場合,各ファン7は,上記のインバータ制御装置12により指示された同一の加減速制御及び低速制御により駆動される。背景技術の欄で述べたように,冷却塔11のファン7については,外気温が高い夏季においても,十分な冷却容量を得られる空気流入量を確保するのに必要な台数が設けられており,夏季には,全てのファン(例えば4台)を稼動させることになるが,外気温が低い冬季には,全てのファンを稼働させると冷却容量が過大となるために,一部のファン(例えば4台中の3台)のみを稼働する。
【0043】
本実施の形態におけるファン7の回転数制御処理によれば,冬季に全てのファンを回転させた状態でも,冷却塔出口の冷却水温度を一定にするようにファンの回転数を最適に制御することができる。すなわち,駆動させるファンの台数に関係なく,冷却塔出口の冷却水温度を一定にするようにファンの回転数を制御することができるため,従来行っていた季節に応じて駆動ファンの台数を増減する必要がなくなる。
【0044】
また,図8に示すように,冬季において,冷却塔の吸入部に氷柱が付着した場合は,運転中のファンを一時的に逆回転させて,温風により氷柱を解凍する対策が従来行われている。図8は,ファンの逆回転による氷柱解凍処理を説明する図である。従来の運転方法では,ファンを逆回転させる場合,その分冷却塔内に吸入される風量が減少するので,冷却能力が一時的に変化し,冷却水温度を一定に維持することができない。これに対して,本実施の形態におけるファンの回転数制御処理によれば,氷柱解除のために一部のファンを一時的に逆回転させても,常時,冷却塔出口の冷却水温度を監視し,その冷却水温度が一定になるように残りのファンの回転数を制御することにより冷却水温度を一定に維持することができるというメリットがある。なお,本発明のファンの回転数制御処理は,逆回転させるファンには適用されず,逆回転させるファン以外の正回転するファンにのみ適用される。
【0045】
図9は,複数台のファンの逆回転タイミングスケジュールの一例を示す図である。図9の例は,4台のファン7A,7B,7C及び7Dを一定期間毎に逆回転させるスケジュールであり,例えば,1日に各ファンを一回ずつ逆回転させる。逆回転の開始時刻,逆回転による運転時間,逆回転開始タイミングのインターバル期間などは任意に設定可能である。逆回転時の回転数も任意に設定可能である。図9の例では,4台とも正回転している期間と3台が正回転している期間が混在し,また,正回転から逆回転に移行する期間,逆回転から正回転に移行する期間では,ファンの回転数が大きく変動するが,本実施の形態によるファン回転数制御処理により,冷却水温度を常時一定に維持することができる。
【0046】
このように,冬季には,冷却塔に生成する虞のある氷柱を解凍し又は氷柱の生成を抑制するためのファンの逆回転処理を適宜行うことができるので,氷柱除去のための人件費や補修費を大幅に削減することができ,冷却塔通風量の確保による安定的な連続運転が可能となる。
【符号の説明】
【0047】
1:主塞弁,2:加減弁,3:タービン,4:発電機,5:主変圧器,6:インバータ装置,7:ファン,8:電動機,9:復水器,10:循環水ポンプ,11:冷却塔,12:インバータ制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
井戸からの蒸気によって回転するタービンの排気を凝縮する復水器と,当該復水器で凝縮された水を空気と熱交換させて冷却して再び前記復水器に供給する冷却塔と,当該冷却塔に熱交換のための空気を外部から吸入するファンとを備える地熱発電所の運転制御方法において,
前記冷却塔で熱交換により冷却された冷却水の温度を測定し,
当該測定された冷却水の温度を16℃乃至18℃の範囲内となるように前記ファンの回転数を制御することを特徴とする地熱発電所の運転制御方法。
【請求項2】
請求項1において,
前記冷却塔に複数台のファンが設置され,外部から空気を吸入する正回転方向に回転している各ファンのうちの少なくとも1台を,所定期間だけ正回転と反対の逆回転方向に回転させることを特徴とする地熱発電所の運転制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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