説明

地盤改良体の造成方法及び地盤改良基礎構造

【課題】構造物の直下において土くさびが形成され、あるいは柱状の地盤改良体の鉛直支持力が終局鉛直支持力程度のレベルに達するような状況下においても、柱状の地盤改良体に十分な耐力を発揮させることができる地盤改良体の造成方法、及び地盤改良基礎構造を提供する。
【解決手段】構造物1の直下において土くさび2が形成され、あるいは柱状の地盤改良体10の鉛直支持力が終局鉛直支持力程度のレベルに達するような状況下において、地盤改良体10に対して曲げ荷重が作用する深度まで、H形鋼等の補強体を挿入することにより補強部18を構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良体の造成方法及び地盤改良基礎構造に関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤上に構造物を建設する際には、その直下に柱状の地盤改良体を造成し、地盤沈下の抑制、及び鉛直支持力の増大を図っている。現在は、地盤改良体の設計を行うにあたって、まず、鉛直支持力の検討として、地盤の支持力、改良体の応力に関する検討や、偏土圧が生じる場合における地盤と地盤改良体の平均せん断強度を用いた円弧すべり計算による検討等が行われる。そして、その検討結果に基づいて地盤改良体の設計が行われる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、基礎底面(支持層)と地盤改良体との両者により構造物の載荷重を支持するような鉛直載荷実験を、遠心模型を用いて行ったところ、鉛直支持力が終局鉛直支持力程度のレベルに達した際に、地盤改良体には、円弧すべりによるせん断破壊ではなく、曲げ破壊が生じる可能性があることが判明した。これは、図7に示すように、構造物1の沈下に伴い土の塊である土くさび2が形成され、この土くさび2が周辺の地盤を押し広げることによって、地盤改良体3に曲げ荷重が作用することによる。
【特許文献1】特開2004−211502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事実を考慮してなされたものであり、構造物の直下において土くさびが形成され、あるいは柱状の地盤改良体の鉛直支持力が終局鉛直支持力程度のレベルに達する(柱状の地盤改良体に終局鉛直荷重が作用する)ような状況下においても、柱状の地盤改良体に十分な耐力を発揮させることができる地盤改良体の造成方法、及び地盤改良基礎構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の地盤改良体の造成方法は、構造物を支持する柱状の地盤改良体の造成方法であって、前記構造物の直下において土くさびが形成された場合に、前記地盤改良体において曲げ応力が生じる深さを求め、少なくとも当該深さまで前記地盤改良体の曲げ耐力を増加させる補強を施すことを特徴とする。
【0006】
構造物の直下において土くさびが形成された場合には、該土くさびが周辺の地盤を押し広げることにより、柱状の地盤改良体に曲げ応力が生じる。
【0007】
請求項1に記載の地盤改良体の造成方法では、このような場合に、地盤改良体において曲げ応力が生じる深さを求めて、少なくとも当該深さまで地盤改良体の曲げ耐力を増加させる補強を施す。
【0008】
これにより、構造物の直下において土くさびが形成されるような状況下においても、柱状の地盤改良体に十分な耐力を発揮させることが可能である。
【0009】
請求項2に記載の地盤改良体の造成方法は、構造物を支持する柱状の地盤改良体の造成方法であって、前記地盤改良体に対して終局鉛直荷重が作用した場合に、前記地盤改良体において曲げ応力が生じる深さを求め、少なくとも当該深さまで前記地盤改良体の曲げ耐力を増加させる補強を施すことを特徴とする。
【0010】
柱状の地盤改良体に対して終局鉛直荷重が作用した場合には、柱状の地盤改良体に曲げ応力が生じる。
【0011】
請求項2に記載の地盤改良体の造成方法では、このような場合に、地盤改良体において曲げ応力が生じる深さを求めて、少なくとも当該深さまで地盤改良体の曲げ耐力を増加させる補強を施す。
【0012】
これにより、柱状の地盤改良体の鉛直支持力が終局鉛直支持力程度のレベルに達する(柱状の地盤改良体に終局鉛直荷重が作用する)ような状況下においても、柱状の地盤改良体に十分な耐力を発揮させることが可能である。
【0013】
請求項3に記載の地盤改良体の造成方法は、請求項1又は請求項2に記載の地盤改良体の造成方法であって、前記構造物の外周部に配設された前記地盤改良体にのみ曲げ耐力を増加させる補強を施すことを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の地盤改良体の造成方法では、構造物の外周部に配設された地盤改良体にのみ曲げ耐力を増加させる補強を施すことにより、地盤改良体に十分な耐力を発揮させると共に、曲げ耐力の補強に要するコスト、工数等を低減させることを可能としている。
【0015】
請求項4に記載の地盤改良基礎構造は、構造物を支持する柱状の地盤改良体により構成された地盤改良基礎構造であって、前記構造物の直下において土くさびが形成された場合に、前記地盤改良体において曲げ応力が生じる深さを求め、少なくとも当該深さまで前記地盤改良体の曲げ耐力を増加させる補強を施したことを特徴とする。
【0016】
構造物の直下において土くさびが形成された場合には、該土くさびが周辺の地盤を押し広げることにより、柱状の地盤改良体に曲げ応力が生じる。
【0017】
請求項4に記載の地盤改良基礎構造では、このような場合に、地盤改良体において曲げ応力が生じる深さを求め、少なくとも当該深さまで地盤改良体の曲げ耐力を増加させる補強を施している。
【0018】
これにより、構造物の直下において土くさびが形成されるような状況下においても、柱状の地盤改良体に十分な耐力を発揮させることが可能である。
【0019】
請求項5に記載の地盤改良基礎構造は、構造物を支持する柱状の地盤改良体により構成された地盤改良基礎構造であって、前記地盤改良体に対して終局鉛直荷重が作用した場合に、前記地盤改良体において曲げ応力が生じる深さを求め、少なくとも当該深さまで前記地盤改良体の曲げ耐力を増加させる補強を施したことを特徴とする。
【0020】
柱状の地盤改良体に対して終局鉛直荷重が作用した場合には、柱状の地盤改良体に曲げ応力が生じる。
【0021】
請求項5に記載の地盤改良基礎構造では、このような場合に、地盤改良体において曲げ応力が生じる深さを求めて、少なくとも当該深さまで地盤改良体の曲げ耐力を増加させる補強を施す。
【0022】
これにより、柱状の地盤改良体の鉛直支持力が終局鉛直支持力程度のレベルに達する(柱状の地盤改良体に終局鉛直荷重が作用する)ような状況下においても、柱状の地盤改良体に十分な耐力を発揮させることが可能である。
【0023】
請求項6に記載の地盤改良基礎構造は、請求項4又は請求項5に記載の地盤改良基礎構造であって、前記構造物の外周部に配設された前記地盤改良体にのみ曲げ耐力を増加させる補強を施したことを特徴とする。
【0024】
請求項6に記載の地盤改良基礎構造では、構造物の外周部に配設された地盤改良体にのみ曲げ耐力を増加させる補強を施すことにより、地盤改良体に十分な耐力を発揮させると共に、曲げ耐力の補強に要するコスト、工数等を低減させることを可能としている。
【発明の効果】
【0025】
本発明は上記構成にしたので、構造物の直下において土くさびが形成され、あるいは柱状の地盤改良体の鉛直支持力が終局鉛直支持力程度のレベルに達するような状況下においても、柱状の地盤改良体に十分な耐力を発揮させることができる地盤改良体の造成方法、及び地盤改良基礎構造を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0027】
図1に示すように、本実施形態では、構造物1の直下の地盤(軟弱地盤)12を深層混合処理工法等の地盤改良工法によって部分的に改良することで、地盤12に複数の柱状の地盤改良体10を縦横に形成する。深層混合処理工法等による地盤改良体10の形成は、地盤12上に設置された施工機械(図示省略)によって実施する。この施工機械は、攪拌翼(図示省略)を地盤12へ回転させながら貫入、引抜し、貫入、或いは引抜時にセメントミルクを攪拌翼の近傍から吐出させながら土壌と攪拌混合させ、地盤を固化させる。
【0028】
その際、地盤改良体10が固化する前に、H形鋼や鋼管等の剛性の高い芯材である補強体を所定深さHまで挿入することにより、地盤改良体10に曲げ耐力が増加された補強部18を形成する。
【0029】
以下、地盤改良体10の設計方法について説明する。
【0030】
まず、従来と同様に、鉛直荷重に対する検討として、地盤12の支持力、地盤改良体10の応力に関する検討、及び、偏土圧が生じる場合における地盤12と地盤改良体10との平均せん断強度を用いた円弧すべり計算による検討を行う。その検討結果に基づいて、地盤改良体10についての種々のパラメータ(深さ、直径、せん断強度等)を設定する。
【0031】
次に、終局鉛直荷重が地盤12に作用した状況下で地盤改良体10に対して曲げ荷重が作用する深度について検討する。
【0032】
当該検討では、まず、遠心模型実験において地盤12の下層である支持層14と地盤改良体10との両者で構造物1の載荷重を支持するような鉛直載荷実験を行う。その結果、図7に示すように、構造物1の直下には、V字状の土塊である土くさび2が形成される。この土くさび2は、周辺地盤を側方及び下方へ押し広げ、地盤改良体10に対して曲げ荷重を作用させる。
【0033】
このため、図1に示すように、地盤12に対して終局鉛直荷重が作用した状況下では、土くさび2の斜辺2Aの延長線4と当該斜辺2Aとにより囲まれた範囲5において、地盤改良体10に対して曲げ荷重が作用する。よって、当該範囲5を含む所定深さH(例えば、構造物1の基礎幅A程度)に曲げ耐力を増加させる補強部18を形成する。
【0034】
補強部18は、図1に示すように、構造物1の基礎を構成する全ての地盤改良体10に設ける場合と、図2〜図5に示すように、構造物1の基礎の外周部に配置された地盤改良体10にのみ設ける場合とが考えられる。例えば、図2及び図3に示すように、地盤改良体10が3列以上配列されている場合における最外列のみに補強部18を形成したり、図4及び図5に示すように、地盤改良体10が3列配列されている場合における中央列を除いた両側の列のみに補強部18を形成したりする場合である。
【0035】
また、補強部18は、上述したように、H形鋼や鋼管等の剛性の高い芯材を、硬化する前の地盤改良体10に挿入する方法以外に、地盤改良体10の外周に鋼管を打設する方法、あるいは、ビニロン短繊維等の化学繊維等を混合する方法(繊維補強ソイルセメント固化体の形成)等により構築すればよい。
【0036】
次に、本実施形態における作用について説明する。
【0037】
地盤12に対して終局鉛直荷重が作用するような状況下では、土くさび2が形成され、上記範囲5において、該土くさび2により地盤改良体10に対して曲げ荷重が作用される。ここで、当該範囲5においては、地盤改良体10に対して曲げ耐力を増加させる補強が施され(補強部18が形成され)ているため、地盤12に対して終局鉛直荷重が作用するような状況下においても、また、土くさび2が形成されるような状況下においても、地盤改良体10の十分な曲げ耐力を確保できる。
【0038】
一方、図6のグラフに破線で示すように、地盤改良を行わなかった場合には、グラフ中に実線及び一点鎖線で示す地盤改良を行った場合と比して、鉛直支持力の増加に対する地盤沈下の割合が高くなる。よって、地盤改良を行わなかった場合には、鉛直支持力が終局鉛直支持力のレベルに達する状況下において、地盤沈下を防止しきれないこととなる。
【0039】
また、グラフ中一点鎖線で示すように、地盤改良は行ったものの本実施形態のように曲げ耐力を増加させる補強を施さなかった場合には、鉛直支持力が終局鉛直支持力のレベルに達すると、地盤改良体10に曲げ破壊が発生することにより地盤改良体10の鉛直支持力が発揮されなくなり、地盤沈下の進行が顕著になる。
【0040】
これに対して、本実施形態では、鉛直支持力が終局鉛直支持力のレベルに達した場合でも、地盤改良体10が十分な曲げ耐力を維持することにより、地盤改良体10の鉛直支持力が十分に発揮され、地盤沈下の進行が食い止められる。
【0041】
また、本実施形態では、補強部18を、地盤改良体10の最深部までではなく、土くさび2により曲げ荷重が与えられる所定深さH、即ち、曲げ耐力を増加させることが必要な深度にのみ形成することにより、地盤改良体10の十分な曲げ耐力の確保を合理的に達成している。
【0042】
さらに、本実施形態では、地盤改良体10とH形鋼等の補強体との支持力合算効果が得られることにより、地盤12の改良率の低減や改良長の短縮等による地盤改良にかかるコストの低減という効果も得ることができる。
【0043】
以上、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施形態に係る地盤改良体の概略を示す側断面図である。
【図2】図3に示す地盤改良体の2−2側断面図である。
【図3】図2に示す地盤改良体の3−3断面図である。
【図4】図5に示す地盤改良体の4−4側断面図である。
【図5】図4に示す地盤改良体の5−5断面図である。
【図6】鉛直支持力と地盤沈下との相対関係を示すグラフである。
【図7】従来例に係る地盤改良体の概略を示す側断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 構造物
2 土くさび
10 地盤改良体
12 地盤
18 補強部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を支持する柱状の地盤改良体の造成方法であって、
前記構造物の直下において土くさびが形成された場合に、前記地盤改良体において曲げ応力が生じる深さを求め、少なくとも当該深さまで前記地盤改良体の曲げ耐力を増加させる補強を施すことを特徴とする地盤改良体の造成方法。
【請求項2】
構造物を支持する柱状の地盤改良体の造成方法であって、
前記地盤改良体に対して終局鉛直荷重が作用した場合に、前記地盤改良体において曲げ応力が生じる深さを求め、少なくとも当該深さまで前記地盤改良体の曲げ耐力を増加させる補強を施すことを特徴とする地盤改良体の造成方法。
【請求項3】
前記構造物の外周部に配設された前記地盤改良体にのみ曲げ耐力を増加させる補強を施すことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の地盤改良体の造成方法。
【請求項4】
構造物を支持する柱状の地盤改良体により構成された地盤改良基礎構造であって、
前記構造物の直下において土くさびが形成された場合に、前記地盤改良体において曲げ応力が生じる深さを求め、少なくとも当該深さまで前記地盤改良体の曲げ耐力を増加させる補強を施したことを特徴とする地盤改良基礎構造。
【請求項5】
構造物を支持する柱状の地盤改良体により構成された地盤改良基礎構造であって、
前記地盤改良体に対して終局鉛直荷重が作用した場合に、前記地盤改良体において曲げ応力が生じる深さを求め、少なくとも当該深さまで前記地盤改良体の曲げ耐力を増加させる補強を施したことを特徴とする地盤改良基礎構造。
【請求項6】
前記構造物の外周部に配設された前記地盤改良体にのみ曲げ耐力を増加させる補強を施したことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の地盤改良基礎構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate