説明

地盤改良工法の施工管理方法および地盤改良処理機

【課題】地盤改良工法の施工管理方法および地盤改良処理機を提供する。
【解決手段】施工場所の土質構成とN値データ等が明解なボーリングデータ採取位置の近傍位置に、地盤改良処理機1による掘削・貫入の試験施工を行い、前記地盤改良処理機1の試験施工における貫入速度、貫入深度、貫入所要時間、および当該地盤改良処理機1の貫入動力源である電動機の負荷トルク値又は負荷電流値、並びに掘削時における掘削抵抗値をそれぞれ、前記ボーリングデータにより明らかな支持層へ到達するまでの貫入深度毎に採取し、採取した支持層到達時点の予想深度、支持層到達時点における前記電動機の予想負荷トルク値又は予想電流値と、支持層到達時点の予想貫入速度値、並びに支持層到達時点における予想掘削抵抗値をそれぞれ、支持層への到達判定基準値に採用して以降の地盤改良工法の施工を隣接位置から順に進める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地盤改良処理機により造成する地盤改良杭(以下、単に造成杭という場合がある。)を連続させて山留め壁や止水壁、或いは液状化防止対策として平面視が格子状の壁体(以下、単に格子壁という場合がある。)を施工する場合に重要な着底管理、ラップ管理、或いは到達土層の判定管理を行う方法の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
地盤改良処理機により造成する山留め壁などの施工に際しては、壁体の用途、機能に応じて到達させるべき地層が選択される。よって、その到達土層ないし着底の管理が重要である。また、先行の造成杭とのラップ長(一体化又は連続化施工)の管理も重要である。
そのため従来から地盤改良工法の施工管理方法が種々研究されてきた。例えば下記の特許文献1に提案された着底判定管理方法の発明、或いは下記の特許文献2に提案されたソイル柱列杭のラップ長の施工管理方法の発明がそれぞれ公知であり、実用に供されている。
【0003】
【特許文献1】特許第3156050号公報(平成13年2月9日登録)
【特許文献2】特許第3156049号公報(平成13年2月9日登録)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1の発明は、支持層へ到達するまで改良施工することを条件とした場合の着底判定方法であり、地盤改良処理機の貫入速度の変化、電動機の負荷の変化、到達深度などの条件とデータを組み合わせて判定を行っている。
しかし、地盤改良処理機の能力によっては、着底判定が機種能力ごとに違ってくるという問題点がある。したがって、一つの工区に能力が異なる複数種の地盤改良処理機が導入された場合には、前記の問題が顕在化して施工管理が面倒になり不都合である。同じ施工場所、同じ条件下では、複数の地盤改良処理機は同じ能力仕様でなければ、共通条件での判定ができないという面倒な問題がある。
その一方で、液状化防止対策として多く施工される平面視が格子状の格子壁の施工(特許第1930164号公報参照)においては、液状化層と非液状化層を判別し、液状化層より下方の非液状化層へ到達する壁体の施工管理が望まれているが、現状の技術ではこの要望は充分に満たされない。前記要望を満たすには、地層毎のN値を把握し、また、土質の性状として支持層や液状化層、非液状化層を正確に判定し、或いは先行して造成した改良杭の性状をそれぞれ判別可能な技術を確立する以外にない。
【0005】
上記した特許文献2の発明に係るラップ長の施工管理は、傾斜計とジャイロセンサーを組み合わせた3次元ジャイロセンサーを攪拌掘削軸の先端位置の計測手段として設置し、一方、地盤改良処理機の自己位置を測定するGPSを装備させることを前提とする。施工場所での座標位置を求め、杭位置登録管理システムへ入力して位置合わせを行うことによって実質のラップ長を把握し、適時に掘削攪拌翼軸の制御に反映制御するという内容であり、熟練した施工管理と、地盤改良処理機の位置の制御技術とを必要とし、その実施は容易でない。
【0006】
ところで、地盤改良処理工法の実施に際しては、その施工場所の土質構成や、液状化層、非液状化層の位置、およびN値データ等を予め採取するボーリングを、施工場所内の複数箇所に実施してボーリングデータを用意することは、通常行われている。
図8はそのようにして採取した深度25mに及ぶボーリングデータの一例を示す。図8中の右側に表示した土質構成によれば、表層土の下がシルト層Acで、以下砂層As1、砂泥層As2、そして、支持層と目される礫層Dsの順で構成されていることが明らかである。ボーリングN値は、砂層As1に到達した段階で急増大し、以下の砂泥層As2まではほぼ同様なN値を示し、更に支持層と目される礫層Dsに至って一段と大きなN値になっていることが明解である。通例、砂層As1は一般的に液状化層とみなされ、シルト層Acは非液状化層とみなされるが、前記ボーリングN値の変化を見るかぎりではその区別はできない。
【0007】
上記ボーリングデータによると、支持層と目される礫層Dsの存在と深度(約21m)は、前記ボーリングN値の明解な変化と傾向により、およそ正確に認定、把握できる。しかし、前記ボーリングデータの採取位置から離れた位置では、支持層と目される礫層Dsの存在と深度は推定を働かせる以外にないわけである。しかも支持層と目される礫層Dsの深度は、通例、場所によって上下に変化することは常識であるから、前記推定にはそれなりの根拠を伴うことが要求される。
同様に、上記液状化層と目される砂層As1、あるいは非液状化層と目されるシルト層Acおよび砂泥層As2の存在と深度を知得することも地盤改良工法の施工に重要であるが、上記ボーリングデータにおけるボーリングN値の推移を見るかぎり、それと明確に認定、把握するに足る明白な変化や傾向を断定することは難しい。
【0008】
従来、地盤改良処理機の貫入動力源である電動機の負荷トルク値又は負荷電流値を、掘削時における地盤の掘削抵抗を推定するデータとして記録、確認することは、通例行われている。
しかし、前記ボーリングデータと、電動機の負荷トルク値又は負荷電流値などを組み合わせ、或いは照合処理して支持層等への到達判定方法を実施する場合に、前記電動機の能力(出力)が常に一定状態に発揮されるとしても、地盤の固さや土質に応じて切削抵抗値は当然に変化するから、目的とする地層へ到達するまでの貫入速度や貫入深度、貫入所要時間、或いはは、時々刻々に変化する。したがって、単にそれらの各データを採取し、目標土層への到達管理(土層別判定)などを積極的、具体的に行う方法は未だ実施されていない。
【0009】
本発明の目的は、施工場所の土質構成と液状化層や非液状化層の位置、N値データ等が明解なボーリングデータを先行実施して、そのボーリングデータ採取位置の近傍位置に、地盤改良処理機による掘削・貫入の試験施工を行って、直近の管理データを取得することにより、ボーリングデータに前記管理データを照合することで、施工上必要とされる着底管理、目標土層への到達管理(土層別判定)、或いはラップ管理などを簡易に正確に判定可能とし、もって地盤改良処理機による地盤改良工法の施工管理に即座に反映・実施できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る地盤改良工法の施工における支持層到達判定方法は、
施工場所の土質構成とN値データ等が明解なボーリングデータ採取位置の近傍位置に、地盤改良処理機1による掘削・貫入の試験施工を行い、
前記地盤改良処理機1の試験施工における貫入速度、貫入深度、貫入所要時間、および当該地盤改良処理機1の貫入動力源である電動機の負荷トルク値又は負荷電流値、並びに掘削時における掘削抵抗値をそれぞれ、前記ボーリングデータにより明らかな支持層へ到達するまでの貫入深度毎に採取し、
採取した支持層到達時点の予想深度、支持層到達時点における前記電動機の予想負荷トルク値又は予想電流値と、支持層到達時点の予想貫入速度値、並びに支持層到達時点における予想掘削抵抗値をそれぞれ、支持層への到達判定基準値に採用して以降の地盤改良工法の施工を隣接位置から順に進めることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明に係る地盤改良工法の施工における非液状化層到達判定方法は、
施工場所の土質構成と非液状化層の位置、N値データ等が明解なボーリングデータ採取位置の近傍位置に、地盤改良処理機1による掘削・貫入の試験施工を行い、
前記地盤改良処理機1の試験施工における貫入速度、貫入深度、貫入所要時間、および当該地盤改良処理機の貫入動力源である電動機の負荷トルク値又は負荷電流値、並びに掘削時における掘削抵抗値をそれぞれ、前記ボーリングデータにより明らかな非液状化層へ到達するまでの貫入深度毎に採取し、
採取した非液状化層到達時点の予想深度、および前記電動機の非液状化層到達時点の予想負荷トルク値又は予想電流値、非液状化層到達時点の予想貫入速度値、並びに非液状化層到達時点の予想掘削抵抗値をそれぞれ、非液状化層到達判定基準値に採用して以降の地盤改良工法の施工を隣接位置から順に進めることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載した発明に係る地盤改良工法の施工における液状化層又は非液状化層の判定方法は、
施工場所の土質構成と液状化層や非液状化層の位置、N値データ等が明解なボーリングデータ採取位置の近傍位置に、地盤改良処理機1による掘削・貫入の試験施工を行い、
前記地盤改良処理機1の試験施工における液状化層や非液状化層での貫入速度や貫入深度、貫入所要時間、および当該地盤改良処理機の貫入動力源である電動機の負荷トルク値又は負荷電流値、並びに掘削時における掘削抵抗値をそれぞれ貫入深度毎に採取し、
採取した液状化層や非液状化層の位置情報に基づいて、原地盤土層における液状化層又は非液状化層の位置を深度毎に判別して地盤改良施工法の施工条件に反映させて以降の施工を隣接位置から順に進めることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載した発明に係る地盤改良工法の施工におけるラップ切削管理方法は、
施工場所の土質構成と液状化層や非液状化層の位置、N値データ等が明解なボーリングデータ採取位置の近傍位置に、地盤改良処理機1による掘削・貫入の試験施工を行い、
前記試験施工で、ボーリングデータにより明解な原地盤土層における地盤改良処理機1の貫入速度、貫入深度、貫入所要時間、および当該地盤改良処理機の貫入動力源である電動機の負荷トルク値又は負荷電流値、並びに掘削時における地盤の掘削抵抗値をそれぞれ、前記ボーリングデータにより明らかな非液状化層へ到達するまでの貫入深度毎に採取し、
その後、同じ場所に設計強度を満足する改良杭を造成し、造成した前記改良杭を、実施工の施工と同じ手順によりラップ切削施工を行い、前記ラップ切削時の切削抵抗を深度方向に採取し、前記の切削抵抗値を前記地盤の掘削抵抗値と深度毎に対比、判別して改良済み杭とのラップ切削管理を行うことを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載した発明は、請求項1〜4のいずれか一に記載した地盤改良工法の施工管理方法において、
地盤改良処理機1の掘削時における掘削抵抗値を貫入深度毎に採取する手段として、地盤改良処理機1の軸継手部10に、トルク伝達材として、トルクの大きさに比例して一定の角度変位を発生する弾性なゴム質材13を介在させ、前記の角度変位をポテンショメータ19による電流値として取り出すことを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載した発明は、請求項1〜5のいずれか一に記載した地盤改良工法の施工管理方法において、
請求項1に記載した支持層到達判定方法における掘削抵抗値を貫入深度毎に採取する手段として、3軸型の掘削攪拌翼軸3において先行する中央の掘削攪拌翼軸に、貫入深度毎に掘削抵抗値を採取する手段を設置することを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載した発明に係る地盤改良処理機は、
地盤改良処理機1の掘削攪拌翼軸3の軸継手部10に、地盤改良処理機1の掘削時における掘削抵抗値を貫入深度毎に採取する手段として、トルクの大きさに比例して一定の角度変位を発生する弾性なゴム質材13がトルク伝達材として介在され、前記の角度変位を電流値として取り出すポテンショメータ19が設置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
地盤改良処理機1の貫入動力源は通例電動機であるが、その電動機の能力(出力)が常に一定状態に発揮されるとしても、地盤の固さや土質に応じて切削抵抗値は当然に変化するから、目的とする地層へ到達するまでの貫入速度や貫入深度、貫入所要時間、或いは電動機の負荷トルク値又は負荷電流値、並びに掘削時における地盤の掘削抵抗値は、時々刻々に変化する。したがって、単にそれらの各データを採取し、時々刻々の変化をつぶさに眺めてみても、支持層への到達であるとか、液状化層や非液状化層への到達やその位置の確認は困難で、推定の域を出ないが、本願発明のように施工場所の土質構成とN値データ等が明解にするボーリングデータの採取位置の近傍位置に、地盤改良処理機による掘削・貫入の試験施工を行って、試験施工における貫入速度、貫入深度、貫入所要時間、および当該地盤改良処理機の貫入動力源である電動機の負荷トルク値又は負荷電流値、並びに掘削時における掘削抵抗値をそれぞれ、前記ボーリングデータにより明らかな支持層へ到達するまでの貫入深度毎に採取すると、直近のボーリングデータと照合することにより、支持層への到達、液状化層や非液状化層への到達やその位置の確認はほぼ正確に把握、確認することができる。ちなみに、地盤改良工法の施工場所には、従前より、一定の距離と配置でボーリングデータの採取を複数箇所行うことが必須条件とされているので、そのボーリングデータを利用することで本発明を容易に実施できる。
【0018】
本発明の方法により支持層への到達、液状化層や非液状化層への到達を判定基準値に採用して以降の地盤改良工法の施工を隣接位置から順に進めると、地盤改良工法の施工場所全域にわたり正確な管理と施工を能率良く進めることができる。
同様に、既成の改良杭とのラップ管理、更には土層別に必要な改良材の種別、注入量を判定、操作して施工管理することが可能となり、地盤改良施工の精度と品質の向上に大きく寄与する。
【0019】
土質の種類も、砂、粘土、シルト、腐植土の程度に分類すると、同地盤のN値も切削抵抗=硬さ=N値の関係が明らかとなり、ボーリングデータにより適正な施工機種を選択できることになる。一方、引き抜き攪拌混合時における攪拌抵抗値(混ぜ練り攪拌抵抗値)を検出して、その抵抗値により混合基準の目安にすることも可能である。
したがって、施工する壁体の品質の向上に大きく寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
施工場所の土質構成とN値データ等が明解なボーリングデータ採取位置の近傍位置に地盤改良処理機1による掘削・貫入の試験施工を行い、前記地盤改良処理機1の試験施工における貫入速度、貫入深度、貫入所要時間、および当該地盤改良処理機の貫入動力源である電動機の負荷トルク値又は負荷電流値、並びに掘削時における掘削抵抗値をそれぞれ、前記ボーリングデータにより明らかな支持層へ到達するまでの貫入深度毎に採取する。
採取した支持層到達時点の予想深度、および支持層到達時点における前記電動機の予想負荷トルク値又は予想電流値と、支持層到達時点の予想貫入速度値、並びに支持層到達時点における予想掘削抵抗値をそれぞれ、支持層への到達判定基準値に採用して以降の地盤改良工法の施工を進める。
或いはボーリングデータにより明らかな非液状化層へ到達するまでの貫入深度毎に掘削抵抗値等を採取し、採取した非液状化層到達時点の予想深度、および前記電動機の非液状化層到達時点の予想負荷トルク値又は予想電流値、非液状化層到達予想時点の貫入速度値、並びに非液状化層到達時点の予想掘削抵抗値をそれぞれ、非液状化層への到達判定基準値に採用して以降の地盤改良工法の施工を進める。
若しくは得られた液状化層や非液状化層の位置情報に基づいて、原地盤土層における液状化層又は非液状化層の位置を深度毎に判別して地盤改良施工の条件に反映させて施工を進める。
【実施例1】
【0021】
以下に、請求項1〜7に記載した発明に係る地盤改良工法の施工における支持層到達判定方法とラップ切削管理方法、および同方法の実施に使用する地盤改良処理機を、図示した実施例に基づいて説明する。
本発明の支持層到達判定方法、ラップ切削管理方法を実施する際にも、先ずは従前通り、地盤改良工法を施工する場所の幾つかの地点に、地盤の土質構成とN値データ、検出トルク等を明解にするボーリングデータを採取するためのボーリング工事を先行実施することに変わりがない。
既述した図8は、そのようにして採取した深度25mに及ぶボーリングデータの一例であるものとし、ここでは段落番号[0006]および[0006]の説明を援用する。
図8のボーリングN値は、砂層As1に到達した段階(K点)で急増大し、以下の砂泥層As2まではほぼ同様傾向のN値を示す。支持層と目される礫層Dsに至って一段と大きなN値になることが明解である。
砂層As1は一般的に液状化層とみなされ、シルト層Acは非液状化層とみなされるが、前記ボーリングN値の変化を見るかぎりでは両層の区別は明解でない。
【0022】
上記したように、図8のボーリングデータを参照すると、支持層と目される礫層Dsの存在と深度(約21m)は、前記ボーリングN値の明解な変化と傾向により、およそ正確に認定、把握できる。ところが同ボーリングデータの採取位置から離れた位置における、支持層と目される礫層Dsの存在と深度は不明であるから、従前は推定を働かせて認定・把握する以外になかったわけである。因みに支持層と目される礫層Dsの深度は、通例、場所によって上下に変化することは常識であるから、前記推定にもそれなりの根拠を伴うことが当然に要求される。
同様に、ボーリングデータの採取位置から離れた位置における、上記液状化層と目される砂層As1、あるいは非液状化層と目されるシルト層Acおよび砂泥層As2の存在と深度を知得することも地盤改良工法の施工に重要であるが、上記ボーリングデータにおけるボーリングN値の推移を見るかぎり、これらを認定、把握するに足る明白な変化や傾向を把握することは難しいことは上述した。
【0023】
そこで請求項1に係る発明の支持層到達判定方法は、上記図8のボーリングデータ採取位置の近傍ないし隣接位置、具体的には半径にして1m内外の位置に、一例として図2に示したような公知の地盤改良処理機1による掘削・貫入の試験施工を行うことから始める。図2の地盤改良処理機1は、リーダー2のレール2aを伝って昇降する3軸型の回転駆動部4と、これに接続された1本ないし複数本の駆動軸5およびその先端部の掘削攪拌翼軸3とで構成されている。
この地盤改良処理機1による試験施工における掘削攪拌翼軸3の貫入速度、貫入深度、貫入所要時間を計測する。また、当該地盤改良処理機1を貫入させる回転駆動部4の動力源である電動機の負荷トルク値又は負荷電流値を測定する。更に掘削時の掘削抵抗値(以下、これを検出トルクという。)を測定する。それぞれの測定値は、上記図8のボーリングデータにより明らかな支持層Dsへ到達するまで予め定めた各貫入深度毎に採取する。
こうして採取した電動機の負荷トルク値(又は負荷電流値)を「発生トルク」と表し、また、掘削時の掘削抵抗値を「検出トルク」として表し、上記図8のボーリングデータに重畳させて作成・表示したのが、図1に示す試験施工データ一図表である。
【0024】
因みに、上記地盤改良処理機1を貫入させる回転駆動部4の動力源である電動機の負荷トルク値又は負荷電流値の測定は、既往技術の通り、予め動力源である電動機の電源回路へ組み入れた電流計により電流値として検出し、データ集計装置(パーソナルコンピュータ等)へ入力、記録され、或いはディスプレイを通じてリアルタイムに目視確認することも行う。掘削攪拌翼軸3の貫入速度、貫入深度、貫入所要時間の計測もそれぞれ、既往技術として地盤改良処理機1に予め付属する貫入速度計、貫入深度計および計時装置により行い、各測定値はやはり共通のデータ集計装置(パーソナルコンピュータ等)へ入力、記録される。
【0025】
次に、地盤改良処理機1による掘削・貫入の試験施工における掘削時の掘削抵抗値を計測する手段としては、たとえば図3〜図6に示す、ポテンショメータ利用のトルク検出器を好適に実施することができる。
図3A、Bは、3軸型地盤改良処理機1における中央の駆動軸5を回転駆動部4と接続する軸継手部10に、上記ポテンショメータ利用のトルク検出器を設置した実施例を示している。中央の駆動軸5の軸継手部10にトルク検出器を設置した理由は、図6を見る通り、3軸型地盤改良処理機1の掘削攪拌翼軸3の構成は、中央軸が正転する場合、両側の軸は逆転駆動されるので、各軸の先端の攪拌翼3aが相互間で干渉を起こさせないため、中央軸の攪拌翼3aが最先に位置する。よって、この中央軸で地盤の掘削抵抗値の大きさ(検出トルク)を検出するのが実質値に近いと考えられるからである。
【0026】
ポテンショメータ利用のトルク検出器の具体的構成を、図4と図5に示した。図4と図5から明らかなように、中央の駆動軸5を回転駆動部4と接続する軸継手部10を構成する最外周の下向きに碗状をなす主動カプラー11と、内側の従動カプラー12とが同心配置とされ、両者間の隙間に、トルクの大きさに比例した回転変位を発生するゴム質材の一例としてポリウレタン系ゴム13が介在され、このポリウレタン系ゴム13を介して回転駆動部4の原動トルクが駆動軸5の駆動トルクとして伝達される構成とされている。外側の主動カプラー11は、溶接とボルト接合により、回転駆動部4に内蔵された図示省略の動力源である電動機の出力軸と接続される雄ジョイント軸14と一体的に回転する構造とされている。他方、内側の従動カプラー12は、やはり溶接とボルト接合により、駆動軸5の上端を嵌め込んで接続する雌ジョイント軸15と一体的に回転する構造とされている。雄ジョイント軸14の外周面と、従動カプラー12の内周面とは、ラジアルとスラスト兼用のアンギュラー軸受16で同心円の相対回転が可能に組み合わされている。そして、拡大して示す図5で明らかなように、従動カプラー12および雌ジョイント軸15の回転中心位置に上向きに立ち上がる支持体17と、主動カプラー11および雄ジョイント軸14の回転中心に位置する下向きの支持体18との境界部位に、ポテンショメータ19が設置されている。
したがって、地盤改良処理機1による地盤の掘削・貫入時に、駆動軸5に伝達される回転トルクの大きさに比例してポリウレタン系ゴム13に発生する回転変位を、掘削抵抗値としてポテンショメータ19でリアルタイムに直接正確に計測することができる。ポテンショメータ19の計測値は、図示を省略したリード線により地上の共通するデータ集計装置(パーソナルコンピュータ等)へ入力、記録される。
【0027】
上記構成の地盤改良処理機1による掘削・貫入の試験施工においてデータ集計装置(パーソナルコンピュータ等)で採取した図1の試験施工データ一図表を、図8の単なるボーリングデータと対比して参照すると、次の事項が明らかである。
図1の試験施工データ一図表によれば、上述したボーリングN値の変化におよそ倣った傾向で、「発生トルク」と、「検出トルク」がより一層明快な変化を呈していることが認められる。
たとえば「発生トルク」の変化として明解な第一のピークP1は、およそシルト層Acから砂層As1へ移行する境界領域に明瞭に発生している。また、第二のピークP2と第三のピークP3は、砂層As1から砂泥層As2へ移行する境界領域に明瞭に発生している。第四のピークP4は、砂泥層As2から礫層Dsへ移行する境界領域に明瞭に発生していることが認められる。
【0028】
つまり、図1の「発生トルク値」の変化、とりわけ第一から第四のピークP1〜P4は、図8に示すボーリングデータのボーリングN値の推移を見るだけではとうてい理解できない土質構成の変化を知るデータと認められる。
即ち、第一のピークP1が現れると、非液状化層と目されるシルト層Acを突き抜けて液状化層と目される砂層As1への到達時期と認識することができる。第二のピークP2が現れると、前記の砂層As1を抜けて次の非液状化層である砂泥層As2への移行を予測でき、第三のピークPは砂泥層As2へ到達したことを認識できる。そして、第四のピークP4はいよいよ支持層と目される礫層Dsへの到達時期を認識することができる。
【0029】
同様に、図1の試験施工データ一図表における「検出トルク」の変化と傾向も、ボーリングN値の変化におよそ倣った傾向で、より一層明確な変化を呈していることが認められる。
たとえば「検出トルク」の変化として明解な第一のポイントLは、シルト層Acから砂層As1へ移行する境界部に現れ、次の第二ポイントMは、砂層As1から砂泥層Asへ移行する境界部に現れている。そして、第三、第四のポイントN、Rは砂泥層Asから支持層と目される礫層Dsへの移行する境界部(到達時期)に現れていることがわかる。
【0030】
したがって、以降の地盤改良工法の実施工を、試験施工に隣接する位置から順次につないで連続するように行い、その際に先ずは前記図1の試験施工データ一図表の土層構成とボーリングN値、および発生トルク、並びに検出トルクの変化とその傾向を相互に参照しつつ、地盤改良工法の実施工を進めると、支持層と目される礫層Dsへの到達予想深度はもとより、その途中経過である非液状化層と目されるシルト層Acの存在(位置)と深度、次いで液状化層と目される砂層As1の存在(位置)と深度、および次の非液状化層である砂泥層As2の存在(位置)とその深度をそれぞれ、正確に認識、把握しつつ地盤改良工法の施工を進めることができる。
勿論、当該位置での地盤改良工法の施工に際しても、やはり掘削攪拌翼軸3の貫入速度、貫入深度、貫入所要時間を計測するほか、当該地盤改良処理機1を貫入させる回転駆動部4の動力源である電動機の負荷トルク値又は負荷電流値を発生トルクとして測定し、更に掘削時の掘削抵抗値(以下、これを検出トルクという。)をそれぞれ、支持層Dsへ到達するまで予め定めた各貫入深度毎に採取して、共通のデータ集計装置(パーソナルコンピュータ等)へ入力、記録して、当該位置での「施工データ一図表」を作成する。
そして、隣接する次順位置における地盤改良工法の施工に際しては、やはり直前に作成した前記の「施工データ一図表」を参照すると、その各データはほぼ正確なものとして活用できる。
【0031】
かくして、施工場所について、複数箇所の各ボーリングデータ採取位置を始点とする地盤改良工法の施工を必要な位置乃至場所にまで、順次に隣接する関係で進めると、直前の「施工データ一図表」が活きた施工データとして利用できると共に、各「施工データ一図表」を順次に並べた関係で集計すると、施工場所の全域に及ぶ詳細な地層構成のデータを得ることができる。
【0032】
その一方で、直前施工において作成した前記「施工データ一図表」を参照しつつ、隣接位置の施工における土質とその深度に応じて、予め設計された地盤安定剤の添加量を調整し施工することにより、改良地盤(改良杭)の強度、剛性を設計値に一致させる施工制御が可能である。したがって、品質、精度の高い地盤改良工法の実施ができる。
のみならず、土質に応じて地盤安定剤の添加量を調整し施工するから、地盤安定剤の使用量を節減でき、ひいては同地盤安定剤を構成するセメント等の使用量を節減でき、大幅なコストダウンを実現できるのである。
【実施例2】
【0033】
最後に、地盤改良工法の施工は、たとえば3軸型地盤改良機による場合には、図7に示した通り、先ずは先行する地盤改良施工(I)を実施し、次に1工程分のピッチ相当を隔てた位置に次順の地盤改良施工(II)を実施し、最後に前記二つの地盤改良施工(I)と(II)を連結する地盤改良施工(III)を実施して一連につながった地盤改良体(壁体)を連続状態に施工するのが通例である。つまり、第三の地盤改良施工(III)は、W1とW2とにラップ部を有するラップ施工を実施する。
よって請求項4に係る発明の実施例としては、3軸型地盤改良機による地盤改良に際しては、3軸全ての駆動軸5と回転駆動部4との軸継手部10に、上記ポテンショメータ利用のトルク検出器を設備した3軸型地盤改良機を使用し、地盤の掘削・貫入時に、中央の駆動軸5に伝達される回転トルクの大きさを、地盤の掘削抵抗値としてリアルタイムに直接正確に計測し、左右両側の駆動軸5に伝達される回転トルクの大きさを、上記ラップ部W1、W2のラップ切削抵抗値としてリアルタイムに直接正確に計測し、これは前記掘削抵抗値とは別異の測定値としてする共通のデータ集計装置(パーソナルコンピュータ等)へ入力、記録する。
【0034】
その結果、ラップ部W1、W2のラップ切削抵抗値が大小に変化すると、それはラップ量の大小変化とみなし得るので、中央軸により得られる地盤の掘削抵抗値(検出トルク)と深度毎に対比・判別して改良済み杭とのラップ切削管理を行い、3軸型地盤改良機における掘削攪拌翼軸3の建て入れ精度の調節を行うことにより地盤改良工法の施工を正確に進めることができる。
【0035】
以上に本発明を実施例と共に説明したが、もとより本発明は実施例の内容に限定されるものではない。本発明の要旨と目的を逸脱しない範囲で、いわゆる当業者が必要に応じて行う設計変更や応用、利用として種々な態様で実施されることを念のため申し添える。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の方法により得られた試験施工データ図表の一例である。
【図2】地盤改良機の一例を示す立面図である。
【図3】A、Bは3軸型地盤改良機の回転駆動部を示す正面図と側面図である。
【図4】aはポテンショメータ利用のトルク検出器を内蔵した軸継手の正面図、bはその断面図、cはb図のC−C線矢視図である。
【図5】図4b図の拡大図である。
【図6】3軸型の掘削攪拌翼軸の例を示す正面図である。
【図7】ラップ掘削施工の施工図を示す。
【図8】ボーリングデータの一例を示す。
【符号の説明】
【0037】
1 地盤改良処理機
2 リーダー
2a レール
3 掘削攪拌翼軸
3a 攪拌翼
4 回転駆動部
5 駆動軸
10 軸継手部
11 主動カプラー
12 従動カプラー
13 ゴム質材
14 雄ジョイント軸
15 雌ジョイント軸
16 アンギュラー軸受
17、18 支持体
19 ポテンショメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工場所の土質構成とN値データ等が明解なボーリングデータ採取位置の近傍位置に、地盤改良処理機による掘削・貫入の試験施工を行い、
前記地盤改良処理機の試験施工における貫入速度、貫入深度、貫入所要時間、および当該地盤改良処理機の貫入動力源である電動機の負荷トルク値又は負荷電流値、並びに掘削時における掘削抵抗値をそれぞれ、前記ボーリングデータにより明らかな支持層へ到達するまでの貫入深度毎に採取し、
採取した支持層到達時点の予想深度、支持層到達時点における前記電動機の予想負荷トルク値又は予想電流値と、支持層到達時点の予想貫入速度値、並びに支持層到達時点における予想掘削抵抗値をそれぞれ、支持層への到達判定基準値に採用して以降の地盤改良工法の施工を隣接位置から順に進めることを特徴とする、地盤改良工法の施工における支持層到達判定方法。
【請求項2】
施工場所の土質構成と非液状化層の位置、N値データ等が明解なボーリングデータ採取位置の近傍位置に、地盤改良処理機による掘削・貫入の試験施工を行い、
前記地盤改良処理機の試験施工における貫入速度、貫入深度、貫入所要時間、および当該地盤改良処理機の貫入動力源である電動機の負荷トルク値又は負荷電流値、並びに掘削時における掘削抵抗値をそれぞれ、前記ボーリングデータにより明らかな非液状化層へ到達するまでの貫入深度毎に採取し、
採取した非液状化層到達時点の予想深度、および前記電動機の非液状化層到達時点の予想負荷トルク値又は予想電流値、非液状化層到達時点の予想貫入速度値、並びに非液状化層到達時点の予想掘削抵抗値をそれぞれ、非液状化層到達判定基準値に採用して以降の地盤改良工法の施工を隣接位置から順に進めることを特徴とする、地盤改良工法の施工における非液状化層到達判定方法。
【請求項3】
施工場所の土質構成と液状化層や非液状化層の位置、N値データ等が明解なボーリングデータ採取位置の近傍位置に、地盤改良処理機による掘削・貫入の試験施工を行い、
前記地盤改良処理機の試験施工における液状化層や非液状化層での貫入速度や貫入深度、貫入所要時間、および当該地盤改良処理機の貫入動力源である電動機の負荷トルク値又は負荷電流値、並びに掘削時における掘削抵抗値をそれぞれ貫入深度毎に採取し、
採取した液状化層や非液状化層の位置情報に基づいて、原地盤土層における液状化層又は非液状化層の位置を深度毎に判別して地盤改良施工法の施工条件に反映させて以降の施工を隣接位置から順に進めることを特徴とする、地盤改良工法の施工における液状化層又は非液状化層の判定方法。
【請求項4】
施工場所の土質構成と液状化層や非液状化層の位置、N値データ等が明解なボーリングデータ採取位置の近傍位置に、地盤改良処理機による掘削・貫入の試験施工を行い、
前記試験施工で、ボーリングデータにより明解な原地盤土層における地盤改良処理機の貫入速度、貫入深度、貫入所要時間、および当該地盤改良処理機の貫入動力源である電動機の負荷トルク値又は負荷電流値、並びに掘削時における地盤の掘削抵抗値をそれぞれ、前記ボーリングデータにより明らかな非液状化層へ到達するまでの貫入深度毎に採取し、
その後、同じ場所に設計強度を満足する改良杭を造成し、造成した前記改良杭を、実施工の施工と同じ手順によりラップ切削施工を行い、前記ラップ切削時の切削抵抗を深度方向に採取し、前記の切削抵抗値を前記地盤の掘削抵抗値と深度毎に対比、判別して改良済み杭とのラップ切削管理を行うことを特徴とする、地盤改良工法の施工におけるラップ切削管理方法。
【請求項5】
地盤改良処理機の掘削時における掘削抵抗値を貫入深度毎に採取する手段として、地盤改良処理機の軸継手部に、トルク伝達材として、トルクの大きさに比例して一定の角度変位を発生する弾性なゴム質材を介在させ、前記の角度変位をポテンショメータによる電流値として取り出すことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載した地盤改良工法の施工管理方法。
【請求項6】
請求項1に記載した支持層到達判定方法における掘削抵抗値を貫入深度毎に採取する手段として、3軸型の掘削攪拌翼軸において先行する中央の掘削攪拌翼軸に、貫入深度毎に掘削抵抗値を採取する手段を設置することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載した地盤改良工法の施工管理方法。
【請求項7】
地盤改良処理機の掘削攪拌翼軸の軸継手部に、地盤改良処理機の掘削時における掘削抵抗値を貫入深度毎に採取する手段として、トルクの大きさに比例して一定の角度変位を発生する弾性なゴム質材がトルク伝達材として介在され、前記の角度変位を電流値として取り出すポテンショメータが設置されていることを特徴とする、地盤改良処理機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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