説明

地盤改良方法及びこれに用いる再掘削用固化材の製造方法

【課題】軟弱地盤の改良工事後において初期で所定の固化強度が得られ、その後に固化強度の増進を十分に抑制できるとともに、改良地盤からの六価クロムの溶出量を十分に小さくできる地盤改良方法及びこれに用いるセメントクリンカーの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る地盤改良方法は、セメントクリンカーにおける水硬率(HM)が2.20〜2.35、ケイ酸率(SM)が2.50〜2.90及び鉄率(IM)が2.50〜3.50であり且つ全クロム含有量が30〜70mg/kgであるセメントクリンカー83〜93質量%及びせっこう7〜17質量%を含む再掘削用固化材を、ポゾラン活性度が15〜25%及び自然含水比が30〜50%の対象土1m当たり40〜100kg添加し混合する工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再掘削が容易であり、且つ、六価クロムの溶出量を少なくすることができる地盤改良方法及びこれに用いる再掘削用固化材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軟弱地盤の土質改良に、セメント系固化材が多用されている。改良工事がなされた地盤は、比較的早期の段階で所定の固化強度を発現することが求められる。例えば、一般的に路床や仮設改良で必要な固化強度は、材齢7日で一軸圧縮強さが300〜500kN/m程度である。他方、地中に管などが埋設される地盤にあっては、埋設物の補修などの目的で施工後に地盤を再度掘削する場合がある。改良地盤の掘削にはバックホウを用いることが主流であり、一般に掘削可能な地盤強度は一軸圧縮強さで500〜1000kN/mとされている。
【0003】
しかし、セメント系固化材を使用した場合、対象地盤が砂質土あるいはシルト質土などでは、少量の固化材添加で初期の固化強度が1000kN/m以上となることがある。更に、対象地盤が粘性土の場合、長期的にポゾラン反応が起こり、改良地盤の強度が経時的に増進して1000kN/m以上となり、バックホウによる再掘削が困難となるケースがある。このような場合、ブレーカー等の特殊な掘削機が必要となる。
【0004】
固化強度を適切に制御するために、固化材添加量を少なくする方法もあるが、砂質土やシルト質土のような元々少量の固化材添加で強度発現性の良い地盤では、固化材添加量を減らすと、土と固化材との混合精度の面から固化強度が不均一な改良地盤となる問題がある。このため、セメント系固化材を用いた地盤改良では、現場での混合の均一性を確保するために、最低固化材添加量は対象地盤1m当たり50kg以上と規定されている(非特許文献1)。また、対象地盤が粘性土の場合、固化材添加量を低減すると初期に必要な固化強度を得ることが困難となる。
【0005】
上記の問題に対処すべく、改良地盤の再掘削を前提とするセメント系固化材についてこれまでにも種々の検討がなされている。例えば、特許文献1には、セメント系材料に速硬性混和材、長期強度抑制材、流動化材を含有する組成物は、初期の強度発現性が良く、それ以降の材齢における強度増進が小さいことが開示されている。また、特許文献2には、普通ポルトランドセメント、フライアッシュ、石灰石粉との混合物を、対象土1m当たり140〜200kg添加することにより、一軸圧縮強さで300〜1000kN/mの適切な強度が得られ、且つ、均一な強度の地盤に改良できることが開示されている。更に、特許文献3では、セメント系材料の速硬性土質改良材に炭酸カルシウム、フライアッシュ及び高炉スラグ粉などの混和材を含有させることで、長期強度を適切に抑制できることが開示されている。
【0006】
特許文献4には、ポルトランドセメントと半水せっこうとを組合わせた固化材が開示されている。半水せっこうの特徴である速やかな水和の進行を利用することにより、長期材齢においても再掘削が容易な地盤を造成しやすい。また、固化材量が多くなっても初期と長期の強度はほとんど変わらないため、改良地盤の強度を制御しやすいのが特徴である。
【0007】
ところで、再掘削を行うことを前提とした上記固化材を使用した場合、改良地盤の強度は、一般の改良地盤に比較して小さくなりやすい。この場合、セメント水和物が十分に生成せず、六価クロムが溶出しやすい傾向にあり、環境への影響も懸念される。セメント系固化材を用いた固化処理土からの六価クロムの溶出抑制方法については、多くの検討がなされており、例えば、特許文献5ではセメントに各種還元剤を添加することで固化処理土からの六価クロムの溶出を低減する方法が開示されている。
【0008】
また、六価クロム溶出量を確実に低減するためには、セメントクリンカー中の六価クロム含有量を減らすことも有効である。その手法としては、例えば、セメントクリンカー製造時にセメントクリンカー粒子の内部及びその表面付近の酸素分圧を適度な条件にすることにより、還元性を有する硫化物硫黄を適量に含有させること(特許文献6)、セメントクリンカーの焼成工程で可燃物による還元作用を利用し、セメントクリンカー中の六価クロム含有量を減らす方法(特許文献7)がある。また、キルンバーナーの角度や設置位置、補助バーナーの角度や設置位置を調整して、セメントクリンカーを炎膜焼成することにより、全クロム含有量に対する六価クロム生成割合を低減する製造方法(特許文献8)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−158049号公報
【特許文献2】特開平2−34546号公報
【特許文献3】特開平11−35939号公報
【特許文献4】特開平8−109377号公報
【特許文献5】特開2000−86322号公報
【特許文献6】特開2003−171152号公報
【特許文献7】特開平11−100244号公報
【特許文献8】特開2008−137826号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】セメント協会:セメント系固化材による地盤改良マニュアル第3版、p48、2005.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の通り、改良地盤の再掘削を前提とするセメント系固化材がこれまでにも開発されているものの、特許文献1〜3においては、長期材齢が28日程度であり、それ以降の強度増進の抑制効果は具体的に示されていない。また、これらの文献に記載の固化材は、一般的な地盤改良における最低固化材添加量である対象土1m当たり50kg以上で所要強度を得るために、フライアッシュ、石灰石粉、高炉スラグ等を増量材として用いている。しかし、高炉スラグとセメントとを併用すると、スラグの潜在水硬性により長期強度が増進する場合がある。また、一般的に固化材の初期や長期の強度発現性は、対象土の種類によって異なり、全ての対象土に対して再掘削が可能な強度に抑えることは困難である。対象土の含水比が高く、初期強度を得るための固化材添加量が増加すると、長期強度も増進する傾向にあるからである。
【0012】
また、特許文献4に記載の固化材組成物は、セメント系固化材に比較して所要強度を得るのに必要な添加量が多く、粘性土のような含水比が高い土を対象とする場合に特に多くの添加量を必要とする。このため、処理コストの点で未だ改善の余地があった。
【0013】
かかる状況に鑑み、本発明は、軟弱地盤の改良工事後において初期で所定の固化強度が得られ、その後に固化強度の増進を十分に抑制できるとともに、改良地盤からの六価クロムの溶出量を十分に小さくできる地盤改良方法及びこれに用いる再掘削用固化材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、水硬率(HM)が2.20〜2.35、ケイ酸率(SM)が2.50〜2.90及び鉄率(IM)が2.50〜3.50であり且つ全クロム含有量が30〜70mg/kgであるセメントクリンカー83〜93質量%及びせっこう7〜17質量%を含む再掘削用固化材を、ポゾラン活性度が15〜25%及び自然含水比が質量比基準で30〜50%の対象土1m当たり40〜100kg添加し混合する工程を備える地盤改良方法を提供する。
【0015】
上記地盤改良方法によれば、上記要件を満たすセメントクリンカーとせっこうの比率を所定の範囲とし且つポゾラン活性度及び自然含水比が所定の範囲の土壌を対象土としたことにより、軟弱地盤の改良工事後において初期の固化強度が十分に高く、その後に固化強度の増進を十分に抑制できる。これに加え、改良地盤からの六価クロムの溶出量を十分に小さくできる。
【0016】
本発明者らの検討によると、本発明の効果をより一層安定的に且つ高度に得る観点から、以下の条件の少なくとも一つを満たすことが好ましい。
(1)セメントクリンカーの六価クロム含有量が20〜45mg/kgである。
(2)対象土が、シルト、砂質土及び粘性土から選ばれる1種以上である。
(3)対象土の湿潤密度が1.5〜2.5g/cmである。
(4)対象土が礫分を0〜20質量%、砂分を10〜40質量%及び細粒分を50〜80質量%含むものである。
【0017】
また、本発明は上記地盤改良方法に用いる再掘削用固化材の製造方法を提供する。すなわち、本発明に係る再掘削用固化材の製造方法は、セメントクリンカー1トン当たり、乾燥ベースで、石灰石を1100〜1300kg、石炭灰を150〜400kg、建設発生土を10〜100kg、下水汚泥を10〜50kg使用して混合物を得る第1混合工程と、混合物を焼成してセメントクリンカーを得る焼成工程と、セメントクリンカーとせっこうを混合して再掘削用固化材を得る第2混合工程とを備える。焼成工程において水硬率(HM)が2.20〜2.35、ケイ酸率(SM)が2.50〜2.90及び鉄率(IM)が2.50〜3.50であるセメントクリンカーが得られるように、第1混合工程において石灰石、石炭灰、建設発生土及び下水汚泥の配合比を調整する。第2混合工程において再掘削用固化材100質量部に対し、セメントクリンカー83〜93質量部とせっこう7〜17質量部を混合する。
【0018】
上記焼成工程においてAl含有量が5.0〜7.0質量%及びFe含有量が1.4〜2.8質量%であるセメントクリンカーが得られるように、上記第1混合工程において石灰石、石炭灰、建設発生土及び下水汚泥の配合比を調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、軟弱地盤の改良工事後において初期で所定の固化強度が得られ、その後に固化強度の増進を十分に抑制できるとともに、改良地盤からの六価クロムの溶出量を十分に小さくできる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施形態に係る地盤改良方法で用いる再掘削用固化材は、セメントクリンカー83〜93質量%及びせっこう7〜17質量%を含む。
【0021】
<再掘削用固化材>
(セメントクリンカー)
本実施形態に係るセメントクリンカーは、固化処理地盤に強度を付与する効果がある。使用するセメントクリンカーは、セメントクリンカーにおける水硬率(HM)が2.20〜2.35、ケイ酸率(SM)が2.50〜2.90、鉄率(IM)が2.50〜3.50であり且つ全クロム含有量が30〜70mg/kgである。
【0022】
セメントクリンカーの水硬率(HM)は、上記の通り、2.20〜2.35であり、好ましくは2.22〜2.30であり、より好ましくは2.24〜2.29であり、更に好ましくは2.25〜2.28である。水硬率(HM)が2.20未満では、軟弱地盤を改良する場合に所定の強度が得られにくくなり、2.35を超えるとセメントクリンカーの易焼成性が低下する。セメントクリンカーの水硬率(HM)は以下の式(1)で算出される。
HM=CaO/(SiO+Al+Fe)・・・(1)
【0023】
セメントクリンカーのケイ酸率(SM)は、上記の通り、2.50〜2.90であり、好ましくは2.55〜2.80であり、より好ましくは2.60〜2.75であり、更に好ましくは2.65〜2.70である。ケイ酸率(SM)が2.50未満では適正な組成のセメントクリンカーが得られ難くなり、2.90を超えるとセメントクリンカーの製造原価が上がってしまう。セメントクリンカーのケイ酸率(SM)は以下の式(2)で算出される。
SM=SiO/(Al+Fe)・・・(2)
【0024】
セメントクリンカーの鉄率(IM)は、上記の通り、2.50〜3.50であり、好ましくは2.70〜3.40であり、より好ましくは2.80〜3.30であり、更に好ましくは2.90〜3.25である。鉄率(IM)が2.50未満では全クロム含有量の低減効果が小さくなる。六価クロム溶出抑制を向上させる観点から、鉄率(IM)は可能な限り高いことが望ましいが、鉄率(IM)が3.50を超えると原料調合が困難となる。セメントクリンカーの鉄率(IM)は以下の式(3)で算出される。
IM=Al/Fe・・・(3)
【0025】
セメントクリンカーの全クロム含有量は、上記の通り、30〜70mg/kgである。ここで、全クロム含有量とは、セメントクリンカー中に含まれる三価クロムや六価クロム等の価数の異なる全てのクロムの合計含有量をいう。全クロム含有量は、可能な限り少ないことが好ましい。ただし、セメントクリンカーにおける全クロム含有量が30mg/kg未満になると、産業副産物及び産業廃棄物のセメントクリンカー原料としての調合量が少なくなり、セメントクリンカーの製造原価が上がってしまう。一方、セメントクリンカーにおける全クロム含有量が70mg/kgを超えると、関東ローム等のような火山灰質粘性土を固化処理する場合に、固化処理条件によっては固化処理土からの六価クロム溶出量が増大する恐れがある。セメントクリンカーにおける全クロム含有量は、十分に低い製造原価及び十分に低い六価クロム溶出量を両立させる観点から、好ましくは40〜65mg/kgであり、より好ましくは43〜62mg/kgであり、更に好ましくは45〜61である。
【0026】
セメントクリンカーにおける六価クロム含有量は、20〜45mg/kgであることが好ましい。全クロム含有量と同様に、六価クロム含有量はできるだけ少ないことが好ましいが、セメントクリンカーにおける六価クロム含有量が20mg/kg未満では、セメントクリンカー原料に使用できる産業副産物及び産業廃棄物の量が少なくなり、製造原価が上がる傾向がある。一方、セメントクリンカーにおける六価クロム含有量が45mg/kgを超えると、関東ローム等のような火山灰質粘性土を固化処理する場合に、固化処理条件によっては固化処理土からの六価クロム溶出量が増大する傾向がある。セメントクリンカーにおける六価クロム含有量は、十分に低い製造原価及び十分に低い六価クロム溶出量を両立させる観点から、より好ましくは25〜40mg/kgであり、更に好ましくは30〜35mg/kgであり、より一層好ましくは30〜33である。
【0027】
セメントクリンカー1トン当たりの原料原単位は、乾燥ベースで、石灰石が1100〜1300kg、石炭灰が150〜400kg、建設発生土が10〜100kg及び下水汚泥が10〜50kgであることが好ましい。ここで、セメントクリンカー1トン当たりの原料原単位とは、セメントクリンカーを1トン製造するための原材料の調合量を意味する。
【0028】
本実施形態におけるセメントクリンカーの製造方法は、石灰石、石炭灰、建設発生土及び下水汚泥を所定の配合比で調合する混合工程を有し、上記混合工程において、上記セメントクリンカーの水硬率(HM)が2.20〜2.35、ケイ酸率(SM)が2.50〜2.90及び鉄率(IM)が2.50〜3.50となるように配合比を調整するものである。
【0029】
上述のとおり、水硬率(HM)、ケイ酸率(SM)及び鉄率(IM)は、上記式(1)〜(3)により算出される値であり、セメントクリンカーに含まれるAl、Fe、SiO及びCaOの量で決定される。よって、セメントクリンカーを製造する際に、石灰石、石炭灰、建設発生土及び下水汚泥におけるAl、Fe、SiO及びCaOの含有量を分析し、その分析結果に基づいて、水硬率(HM)、ケイ酸率(SM)及び鉄率(IM)が上記所定の範囲となるように、石灰石、石炭灰、建設発生土及び下水汚泥の配合比を調整することが好ましい。
【0030】
上記混合工程において、セメントクリンカーを1トン製造するに当たり、石灰石を1100〜1300kg、石炭灰を150〜400kg、建設発生土を10〜100kg及び下水汚泥を10〜50kgの配合比で調合することが好ましい。
【0031】
また、上記混合工程において、セメントクリンカー中のAl含有量が5.0〜7.0質量%及びFe含有量が1.4〜2.8質量%となるように、石灰石、石炭灰、建設発生土及び下水汚泥の配合比を調整することが好ましい。
【0032】
上記セメントクリンカー中のAl含有量が5.0質量%未満になると、全クロム含有量を十分に低減することが困難となる傾向があり、7.0質量%を超えると原料の調達及び原料調合が困難になる傾向がある。Al含有量は、より好ましくは5.5〜6.5質量%であり、更に好ましくは5.7〜6.3質量%であり、より一層好ましくは5.9〜6.2質量%である。
【0033】
上記セメントクリンカー中のFe含有量は1.4質量%未満に制御することが難しく、かつ製造原価が上昇する。一方、Fe含有量が2.8質量%を超えると、上記式(3)からAl含有量を7.0質量%とする必要がある。この場合、原料の調達及び原料調合が難しくなるとともに、セメントクリンカー中の液相生成量が多くなって、製造上の不都合が発生し易くなる傾向がある。セメントクリンカー中のFe含有量は、より好ましくは1.6〜2.6質量%であり、更に好ましくは1.8〜2.4質量%であり、より一層好ましくは1.9〜2.2質量%である。
【0034】
本実施形態のセメントクリンカーは、セメントクリンカー製造時の石炭灰の調合量が、通常のポルトランドセメントクリンカーと比べて多いことが特徴の一つである。石炭灰の種類は特に限定されるものではなく、例えば、石炭火力発電所等から発生するものであり、フライアッシュ、ボトムアッシュ等が使用できる。
【0035】
上記セメントクリンカーを1トン製造するために用いる石炭灰の調合量は、乾燥ベースで、好ましくは150〜400kgである。石炭灰の調合量は、150kg未満では、製造原価が上昇するとともに、セメントクリンカーの鉄率(IM)が過小となる傾向があり、400kgを超えると原料調合が難しくなる傾向がある。石炭灰調合量は、より好ましくは180〜365kgであり、更に好ましくは210〜330kgであり、より一層好ましくは240〜335kgである。
【0036】
上記セメントクリンカー1トン当たりの石灰石の調合量は、乾燥ベースで、好ましくは1100〜1300kgである。石灰石の調合量が1100kg未満になると、所定の水硬率が得られにくくなり、1300kgを超えると易焼成性が著しく低下する。石灰石の調合量は、より好ましくは1170〜1290kgであり、更に好ましくは1230〜1280kgであり、より一層好ましくは1235〜1270kgである。
【0037】
上記セメントクリンカー1トン当たりの建設発生土の調合量は、乾燥ベースで、好ましくは10〜100kgである。なお、上記建設発生土としては、例えば、建築工事や土木工事などにおいて副産物として発生する土壌などが挙げられる。建設発生土の調合量は、より好ましくは12〜90kgであり、更に好ましくは14〜80kgであり、より一層好ましくは16〜70kgである。
【0038】
上記セメントクリンカー1トン当たりの下水汚泥の調合量は、乾燥ベースで、好ましくは10〜50kgである。下水汚泥の調合量は、より好ましくは12〜48kgであり、更に好ましくは14〜46kgであり、より一層好ましくは16〜44kgである。
【0039】
本実施形態に係るセメントクリンカーは、初期の強度発現性が良く、初期に所定強度を得るためのセメントクリンカー量を少量にすることができるため、ポゾラン反応の進行による長期強度の増進を抑えるのに有利である。また、固化処理土からの六価クロムの溶出量は、セメントクリンカー中のクロム含有量に起因することから、セメントクリンカー中の六価クロムが少ないことやセメントクリンカー量が少ないことは有利である。
【0040】
再掘削用固化材のセメントクリンカー含有量は、再掘削用固化材の全質量基準で、83〜93質量%であり、好ましくは85〜91質量%であり、より好ましくは87〜90質量%であり、更に好ましくは88〜89質量%である。セメントクリンカー含有量が83質量%より少ないと、所定の固化強度を得るための固化材添加量が増加しやすく、93質量%より多いと、含水比が高い土で所定の固化強度を得るための固化材添加量が増加し、長期材齢で強度増進するおそれがある。
【0041】
(せっこう)
再掘削用固化材に配合するせっこうとして、無水せっこう、半水せっこう及び2水せっこうから選ばれる1種又は2種類以上を混合して使用することができる。せっこうは、セメントの水和物であるエトリンガイトを多量に生成させ、固化強度を高くする役割を有する。これらのうち、無水せっこうが好適である。無水せっこうは、セメントの水和物であるエトリンガイトを初期材齢で多く生成するため、含水比の高い土に対しても固化材添加量が少量でよく有利である。
【0042】
再掘削用固化材のせっこう含有量は、再掘削用固化材の全質量基準で、7〜17質量%であり、好ましくは9〜15質量%であり、より好ましくは10〜13質量%であり、更に好ましくは11〜12質量%である。せっこう含有量が7質量%より少ないと、含水比が高い土で所定の固化強度を得るための固化材添加量が増加し、長期材齢で強度増進するおそれがある。一方、せっこう含有量が17質量%より多いと所定の固化強度を得るための固化材添加量が増加しやすい。
【0043】
本実施形態に係る再掘削用固化材は、長期材齢におけるセメントの水和反応を抑えるため、水和促進剤を含有するものであってもよい。水和促進剤としては、例えば、炭酸ナトリウム、硫酸カリウムなどのセメントの一般的な促進剤を使用することができる。なお、再掘削用固化材におけるセメントクリンカー及びせっこうの合計量は、再掘削用固化材の全質量基準で、好ましくは90.0〜99.9質量%であり、より好ましくは93.0〜99.9質量%である。
【0044】
再掘削用固化材は、粉末状の原材料を混合することによって調製可能であるため、その調製に際しては特別な機器や手段を必要としない。そのため、当該固化材は、公知の粉体混合用の機器(例えば、ミキサー)を使用して得ることができる。
【0045】
<地盤改良方法>
本実施形態に係る地盤改良方法は、ポゾラン活性度が15〜25%及び自然含水比が30〜50%の対象土1mに対し、上記再掘削用固化材を40〜100kg添加し、バックホウなどを用いて混合する工程を備える。
【0046】
セメントを水硬性材料として使用した固化材は、セメントの水和によって水酸化カルシウムが遊離すると、土とのポゾラン反応が進行し長期強度が増進する。また、セメント量が多くなるほど遊離する水酸化カルシウム量が増加し、ポゾラン反応を促進させる。対象土の含水比が高いほど初期に所定強度を得るために固化材の添加量を増量せざるを得ず、結果としてポゾラン反応が進行する。このため、上記再掘削用固化材は、全ての土に対して所望の強度特性が得られるものではない。すなわち、ポゾラン活性度及び自然含水比が所定の範囲である対象土に対し、所定量の再掘削用固化材を使用することが本発明のポイントの一つである。
【0047】
ここで、土のポゾラン活性度とは、「近年におけるフライアッシュのポゾラン活性とその迅速定量方法について」:高倉、生野、白方;第43回セメント技術大会講演集、pp212〜217、1989に記載されたフライアッシュのポゾラン活性度の測定方法を土に適用して測定した値である。測定方法は、具体的には以下のとおりである。
【0048】
対象土を110℃で24時間炉乾燥後に粉砕し、この粉砕した対象土を0.2g、生石灰0.2g及び純水20mlを圧力容器に入れ、充分に振とうした後、120℃に加熱されている乾燥機中で4.5時間放置する。これを室温に冷却した後に内容物を0.2Nの塩酸120mlで圧力容器内を洗浄しながら取出し、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、このろ液中のSi、Al及びFeを原子吸光法により定量し、乾燥土当たりの質量%を求め、これらの合計値(SiO質量%+Al質量%+Fe質量%)を土のポゾラン活性度とする。
【0049】
対象土のポゾラン活性度は、上記の通り、15〜25%であるが、好ましくは17〜24%であり、より好ましくは19〜23%であり、更に好ましくは20〜22%である。土のポゾラン活性度が15%未満の場合、初期材齢で所定強度を得るための固化材添加量が、一般の施工における最低固化材添加量の対象土1m当たり50kg以下となり改良地盤が不均一となる可能性がある。他方、土のポゾラン活性度が25%を超えると、初期材齢で所定の強度を得るために60kg以上の固化材の添加が必要となり、長期材齢における土と固化材とのポゾラン反応により、長期材齢強度が増進し、再掘削が困難となるおそれがある。
【0050】
対象土1mに対する再掘削用固化材の添加量は、上記の通り、40〜100kgであるが、好ましくは45〜80kgであり、より好ましくは50〜70kgであり、更に好ましくは52〜60kgである。再掘削用固化材の添加量が50kg未満の場合、改良地盤が不均一となる可能性があり、60kgを超えると、長期材齢における土と固化材とのポゾラン反応により、長期材齢強度が増進し、再掘削が困難となるおそれがある。
【0051】
対象土の自然含水比は、上記の通り、30〜50%であり、好ましくは35〜49%であり、より好ましくは40〜49%であり、更に好ましくは43〜49%である。本発明において、対象土の自然含水比の好ましい範囲を規定したのは、土のポゾラン活性度が土の自然含水比と相関があることを本発明者らが見出したためである。土の自然含水比が30%未満の場合、初期材齢で所定強度を得るための固化材添加量が、一般の施工における最低固化材添加量の対象土1m当たり50kg以下となり改良地盤が不均一となる可能性がある。他方、土の自然含水比が50%を超えると、初期材齢で所定の強度を得るために60kg以上の固化材の添加が必要となり、長期材齢における土と固化材とのポゾラン反応により、長期材齢強度が増進し、再掘削が困難となるおそれがある。
【0052】
ここで、土の自然含水比とは、土が自然状態で保持している含水量であり、JIS A 1203:1999「土の含水比試験方法」で測定する。
【0053】
対象土は、シルト、砂質土及び粘性土から選ばれる1種以上であり、特定の湿潤密度、粒度を有するものが好ましい。対象土の湿潤密度は好ましくは1.5〜2.5g/cmであり、より好ましくは1.7〜2.3g/cmであり、更に好ましくは1.8〜2.2g/cmである。ここで湿潤密度とは、土の単位体積当たりの質量であり、JIS A 1225:2000「土の湿潤密度試験方法」で測定する。
【0054】
対象土は、礫分、砂分及び細粒分を含む土が好ましい。礫分は、0〜20質量%、好ましくは5〜15質量%、より好ましくは5〜10質量%である。
【0055】
砂分は、10〜40質量%、好ましくは20〜35質量%、より好ましくは25〜30質量%である。
【0056】
細粒分は、50〜80質量%、好ましくは55〜75質量%、より好ましくは60〜70質量%である。
【0057】
ここで、対象土に含まれる礫分、砂分及び細粒分の量は、土粒子径の分布状態を質量百分率で表したものであり、JIS A 1204:2000「土の粒度試験方法」で測定する。
【0058】
上記のような対象土の湿潤密度、粒度の範囲であれば、材齢初期に適度な強度が得られ、その後の強度増進が小さく、再掘削可能である。
【実施例】
【0059】
以下では、具体例を示し、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
(1)セメントクリンカーの製造及び分析
まず、各実施例及び各比較例で使用するセメントクリンカーの原料(石灰石、硅石、高炉ダスト、銅ガラミ、石炭灰、建設発生土、下水汚泥、脱鉄スラグ、焼却灰)の化学組成を求めた。各原料の化学組成を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
上述の原料を用いて、水硬率(HM)、ケイ酸率(SM)及び鉄率(IM)が所定の値となるように、原料原単位を調整して、セメントクリンカーK1及びK2をそれぞれ調製した。セメントクリンカーの調製は、具体的には以下の通りに行った。
【0063】
まず、上述の原料を竪型ミルにて所定の粒度になるまで250〜300℃で乾燥粉砕した。その後、乾燥粉砕した原料をサスペンションプレヒーター上部から送入し、プレヒーター中で予熱及び仮焼して、ロータリーキルン中で約1450℃の高温で焼成した。その後、クーラーで急冷することによりセメントクリンカーK1及びK2を調製した。
【0064】
セメントクリンカーK1及びK2の原料原単位及び主要化学組成を表2及び表3に示す。なお、セメントクリンカーの化学組成は、JIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて測定した。また、f.CaO量は、セメント協会標準試験方法のJCAS I−01:1997「遊離酸化カルシウムの定量方法」に準じて測定した。
【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
上記表3のセメントクリンカーK1及びK2の化学組成から下記式(1)〜(3)により、水硬率(HM)、ケイ酸率(SM)及び鉄率(IM)を算出した。その値を表4に示す。
HM=CaO/(SiO+Al+Fe)・・・(1)
SM=SiO/(Al+Fe)・・・(2)
IM=Al/Fe・・・(3)
【0068】
表4に、セメントクリンカーK1及びK2中の全クロム含有量及び六価クロム含有量も併せて示す。セメントクリンカー中の全クロム含有量は、セメント協会標準試験方法のJCAS I−52「ICP発光分光分析および電気加熱式原子吸光分析によるセメントの微量成分の分析方法」に準じて測定した。また、セメントクリンカー中の六価クロム含有量は、セメントクリンカーをpH13に調整したエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)溶液中で溶解すると、セメントクリンカー中の三価クロムは水酸化クロム(Cr(OH))として沈殿(溶解度積(22℃):6.3×10−31)し、溶液中には六価クロムだけが残存するという性質を利用して測定した。なお、六価クロムの定量にはICP発光分光分析装置を用いた。
【0069】
【表4】

【0070】
(2)セメント系固化材(再掘削用固化材)の調製
試製したK1又はK2のセメントクリンカー及びセントラル硝子(株)製のフッ酸無水せっこうを混合して固化材を調製した。
【0071】
(3)対象土
対象土の性状を表5に示す。
【0072】
【表5】

【0073】
(4)土のポゾラン活性度試験
対象土を110℃で24時間炉乾燥後に粉砕し、この粉砕した対象土を0.2g、生石灰0.2g及び純水20mlを圧力容器に入れ、充分に振とうした後、120℃に加熱されている乾燥機中で4.5時間放置した。これを室温に冷却した後に内容物を0.2Nの塩酸120mlで圧力容器内を洗浄しながら取出し、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、このろ液中のSi、Al及びFeを原子吸光法により定量し、乾燥土当たりの質量%を求めた。これらの合計値(SiO質量%+Al質量%+Fe質量%)を土のポゾラン活性度とした。
【0074】
(5)固化試験
表5に示した対象土に、(2)で調製した固化材を添加し、ホバートミキサーで3分間混合した後、砂質土及びシルトではJCAS L−01:2006「セメント系固化材による改良体の強さ試験方法」、また、粘性土(1)及び粘性土(2)では、JGS 0821−2000「安定処理土の締固めをしない供試体作製方法」に準拠してφ5×10cmの円柱供試体を作製した。この供試体をポリラップで密封し、室温20℃、湿度90%で養生し、所定材齢で一軸圧縮強さをJIS A1216「土の一軸圧縮試験方法」に準拠して測定した。ここで、固化処理土の目標強度は、材齢7日では、一般的な路床や仮設改良に必要とされる一軸圧縮強さ300kN/m以上、材齢28〜365日までの長期材齢では、材齢7日強度の1〜1.5倍とした。
【0075】
通常、固化材配合設計は、室内で土と固化材とを混合して固化処理土を作製して、強度を測定し、所要強度を得るための固化材添加量を決定する。しかし、実際の施工とは混合精度が異なるため、現場/室内強度比0.5を採用して設計することが多い。すなわち、設計強度が300kN/mであれば、600kN/mの強度が得られるような固化材添加量を設定する。その場合、改良地盤は平均的には300kN/mの強度を有する。本発明における長期材齢強度の目標値は、強度が高くなる部分を想定したため、材齢7日の1〜1.5倍とした。
【0076】
(6)固化処理土からの六価クロム溶出試験
(5)と同様に固化処理土を作製して密封養生した後、材齢7日で環境庁告示46号(平成3年8月23日)に則って溶出試験を行い,六価クロムの定量は振とう後のろ液をジフェニルカルバジド吸光光度法により行った。六価クロム溶出量の目標値は、土壌汚染対策法に定める溶出量基準である0.05mg/L以下とした。
【0077】
結果を表6に示す。
【0078】
【表6】

【0079】
実施例1に示すように、試製セメントクリンカーK1とせっこうからなる固化材は、土のポゾラン活性度が本発明の範囲の場合、固化材を土1m当たり52kg添加したことにより、材齢7日で一軸圧縮強さ300kN/mが得られ、その後、材齢28〜365日の固化強度が材齢7日の1.5倍以下であることがわかる。
【0080】
一方、比較例1、3に示すように、土のポゾラン活性度が本発明の範囲より低い場合、材齢7日で目標強度を得るための固化材所要量は最低固化材添加量である50kg/mを下回る。比較例2に示すように、ポゾラン活性度が本発明の範囲を下回る砂質土に最低固化材添加量である土1m当たり50kgを添加した場合、材齢7日で再掘削が困難となる一軸圧縮強さである1000kN/mを超える。また、比較例5に示すように、土のポゾラン活性度が本発明の範囲より高い場合、材齢186日及び365日の固化強度が材齢7日の1.5倍以上となる。更に、比較例5に示すように、土のポゾラン活性度が本発明の範囲より高い場合、長期材齢の固化強度が材齢7日の1.5倍以上となる。
【0081】
固化処理土からの六価クロム溶出量は、実施例1に示す試製セメントクリンカーK1とせっこうからなる固化材では、環境基準の0.05mg/L以下となるのに対して、比較例4に示す試製セメントクリンカーK2とせっこうからなる固化材では、環境基準の0.05mg/Lを超過することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカーにおける水硬率(HM)が2.20〜2.35、ケイ酸率(SM)が2.50〜2.90及び鉄率(IM)が2.50〜3.50であり且つ全クロム含有量が30〜70mg/kgであるセメントクリンカー83〜93質量%及びせっこう7〜17質量%を含む再掘削用固化材を、ポゾラン活性度が15〜25%及び自然含水比が30〜50%の対象土1m当たり40〜100kg添加し混合する工程を備える地盤改良方法。
【請求項2】
セメントクリンカーの六価クロム含有量が20〜45mg/kgである、請求項1に記載の地盤改良方法。
【請求項3】
対象土が、シルト、砂質土及び粘性土から選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の地盤改良方法。
【請求項4】
対象土の湿潤密度が1.5〜2.5g/cmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の地盤改良方法。
【請求項5】
対象土が、礫分を0〜20質量%、砂分を10〜40質量%及び細粒分を50〜80質量%含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の地盤改良方法。
【請求項6】
セメントクリンカー1トン当たり、乾燥ベースで、石灰石を1100〜1300kg、石炭灰を150〜400kg、建設発生土を10〜100kg、下水汚泥を10〜50kg使用して混合物を得る第1混合工程と、
前記混合物を焼成してセメントクリンカーを得る焼成工程と、
前記セメントクリンカーとせっこうを混合して再掘削用固化材を得る第2混合工程と、
を備え、
前記焼成工程において水硬率(HM)が2.20〜2.35、ケイ酸率(SM)が2.50〜2.90及び鉄率(IM)が2.50〜3.50であり且つ全クロム含有量が30〜70mg/kgであるセメントクリンカーが得られるように、前記第1混合工程において石灰石、石炭灰、建設発生土及び下水汚泥の配合比を調整し、
前記第2混合工程において再掘削用固化材100質量部に対し、セメントクリンカー83〜93質量部とせっこう7〜17質量部を混合する、再掘削用固化材の製造方法。
【請求項7】
前記焼成工程においてAl含有量が5.0〜7.0質量%及びFe含有量が1.4〜2.8質量%であるセメントクリンカーが得られるように、前記第1混合工程において石灰石、石炭灰、建設発生土及び下水汚泥の配合比を調整する、請求項6に記載の再掘削用固化材の製造方法。

【公開番号】特開2011−195714(P2011−195714A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64284(P2010−64284)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】