説明

地盤改良用固化材、地盤改良用スラリー及び地盤改良方法

【課題】施工性に優れ、地盤を十分に改良することが可能な地盤改良用固化材を提供する。
【解決手段】セメント、高炉スラグ粉末、骨材及び石膏を含有し、セメント、高炉スラグ粉末、骨材及び石膏の合計100質量部に対し、セメントを50〜75質量部、高炉スラグ粉末を15〜35質量部、骨材を1〜15質量部、及び石膏を1〜15質量部含有する地盤改良用固化材、及び水を含有し、前記地盤改良用固化材100質量部に対し、水を10〜65質量部含有する地盤改良用スラリー30。混練工程では、地盤改良用スラリー30と、その下部にある地盤20の土壌の一部とを混練して混練物50を得る。この混練物50が硬化して改良土となり、地盤20が改良されることとなる。このようにして得られる改良土は、地盤改良用スラリー30を用いて改良されたものであることから、高い強度を有しており、且つ地盤強度のばらつきが小さいものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良用固化材、地盤改良用スラリー及び地盤改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近では、耐震性向上のため、低層マンションや戸建住宅などを建築する前に、地盤の土壌に固化材を配合して地盤の表層を改良する地盤改良工事を行うことが多くなっている。地盤の表層改良は、一般的には、粉末状の固化材、土壌及び土砂等を、重機を用いて混合し、固化材と地盤中との水分を反応させることによって行われる。このような地盤改良工事は、都市部や住宅密集地で行われることが多いため、単なる施工性だけではなく、粉塵飛散防止等の環境対策を十分に配慮することが求められる。
【0003】
しかしながら、粉末状の固化材を用いた場合、地盤上に撒布された固化材が風等によって飛散するため、環境上好ましくない。このような点を解消するために、特許文献1では、予め固化材と水とを混練して得られる固化材スラリー組成物を用いて地盤を改良する方法が提案されている。
【0004】
ところで、地盤改良用に用いられる固化材としては、セメント系固化材、石灰系固化材、石膏系固化材などが挙げられる。このうち、安定して優れた地盤改良効果が得られる固化材として、セメント系固化材がよく用いられている。セメント系固化材は、通常、セメント、高炉スラグ、フライアッシュ、石膏及びシリカなどを含有する(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−169563号公報
【特許文献2】特開2001−40652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
地盤改良用固化材をスラリー状にして地盤改良工事を行えば、粉塵飛散を抑制することができる。しかしながら、地盤改良は、建築物のサイズや形状等に応じて、工事対象領域が変わるため、地盤改良用固化材を、所望の領域に確実に行き亘るように施工することが求められる。一方で、工事は都市部や住宅密集地で行なわれることが多いため、工事対象領域外に、地盤改良用固化材が流出したり飛散したりしないように施工することが求められる。
【0007】
ところが、上述の特許文献1の固化材スラリー組成物の場合、スラリーの粘度が低いために、地盤上に散布するとスラリーが工事対象の領域外に流出してしまうことが懸念される。このよう工事対象領域外へのスラリーの流出は、予め地盤表面を掘削することによって抑制することができるものの、この場合、工事の工程数が増えてしまうため、工事が煩雑となる。一方、単に固化材スラリー組成物の水の配合量を減らしてスラリーの粘度を上げると、均一な混練が困難になるとともにスラリーの散布が不均一となって、地盤を改良することが困難になる傾向にある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、施工性に優れ、地盤を十分に改良することが可能な地盤改良方法を提供することを目的とする。また、施工性に優れ、地盤を十分に改良することが可能な地盤改良用固化材及び地盤改良用スラリーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、セメント、高炉スラグ粉末、骨材及び石膏を含有し、セメント、高炉スラグ粉末、骨材及び石膏の合計100質量部に対し、セメントを50〜75質量部、高炉スラグ粉末を15〜35質量部、骨材を1〜15質量部、及び石膏を1〜15質量部含有する地盤改良用固化材を提供する。
【0010】
このような地盤改良用固化材は、セメント、高炉スラグ粉末及び石膏を所定量含有するとともに骨材を含有することから、水の含有量を減らさなくてもスラリーを高粘度にすることが可能となり、スラリー中で固形分が分離することを十分に抑制することができる。また、骨材は軟弱な地盤の改良に際し、強度発現の核となる機能を有するため、地盤改良用固化材の添加量が少なくても地盤の強度を向上する効果が期待できる。また、スラリーを高粘度にすることが可能となるため、地盤表面を掘削しなくても、工事対象領域の外の領域にスラリーが流出することを抑制することができる。したがって、本発明の地盤改良用固化材は、施工性に優れており、また、工事対象領域の地盤を十分に改良することができる。
【0011】
本発明では、上述の地盤改良用固化材、及び水を含有し、地盤改良用固化材100質量部に対し、水を10〜65質量部含有する地盤改良用スラリーを提供する。
【0012】
このような地盤改良用スラリーは、固形分の分離を十分に抑制しつつ従来のスラリーよりも粘度を高くすることができる。このため、地盤表面を掘削しなくても、所望の工事対象領域内のみに固化材を行き亘らせることが可能であり、また、粉塵飛散も防止できるため、施工性に特に優れる。さらに、工事対象領域の地盤を十分に改良することができる。
【0013】
本発明では、地盤改良用固化材を収容する粉体タンクと水を収容する水タンクとを有し、地盤改良用スラリーを地盤上に散布可能な車両からなる移動手段と、地盤改良用スラリーと地盤の土砂とを混練して混練物を作製する混練手段と、を用いる地盤改良方法であって、移動手段において、セメント、高炉スラグ粉末、骨材及び石膏を含有する地盤改良用固化材と水とを混合して、地盤改良用スラリーを調製する調製工程と、地盤改良用スラリーを地盤の上に散布する散布工程と、混練手段により混練物を作製する混練工程と、を有し、調製工程では、セメント、高炉スラグ粉末、骨材及び石膏の合計100質量部に対し、セメントを50〜75質量部、高炉スラグ粉末を15〜35質量部、骨材を1〜15質量部、及び石膏を1〜15質量部含有する地盤改良用固化材を用いるとともに、地盤改良用固化材100質量部に対し、水を10〜65質量部混合して地盤改良用スラリーを調製する、地盤改良方法を提供する。
【0014】
このようは地盤改良方法によれば、工事現場において、地盤改良用スラリーを必要量だけ調製することができる。このため、粉塵飛散を抑制するとともに余剰の地盤改良用スラリーの発生を低減し、環境負荷を低減することができる。また、地盤改良用スラリーが高い粘度を有しているため、予め地盤表面を掘削する等の工程を行う必要がなく、工程数が低減されるため、施工性に優れる。さらに、工事対象領域の地盤を十分に改良することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、施工性に優れ、地盤を十分に改良することが可能な地盤改良用固化材及び地盤改良用スラリーを提供することができる。また、施工性に優れ、地盤を十分に改良することが可能な地盤改良方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の地盤改良方法の好適な実施形態における移動手段を示す概略図である。
【図2】本発明の地盤改良方法の好適な実施形態における一工程を説明するための説明図である。
【図3】本発明の地盤改良方法の好適な実施形態における一工程を説明するための説明図である。
【図4】本発明の地盤改良方法の好適な実施形態における一工程を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図面において、同一または同等の要素には同一の符号を付与し、重複する説明を省略する。
【0018】
<地盤改良用固化材>
本実施形態の地盤改良用固化材は、粉末状であり、セメント、高炉スラグ粉末、骨材及び石膏を含有する。セメントとしては、ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメントなどの各種セメントなどを用いることができる。これらのうち、ポルトランドセメントが好ましい。
【0019】
ボーグ式により算出されるセメントの鉱物組成は、C3Sの含有量が、好ましくは40〜70質量%、より好ましくは50〜69質量%、さらに好ましくは63〜66質量%である。また、C2Sの含有量は、好ましくは8〜40質量%、より好ましくは9〜30質量%、さらに好ましくは9.5〜11質量%である。また、C3A及びC4AFの含有量は、特に制限するものではない。セメントの鉱物組成を上述の範囲とすることにより、より一層優れた地盤改良効果を得ることができる。
【0020】
セメントの原料としては、石灰石、珪石、粘土、鉄原料等の主原料以外に、石炭灰、下水汚泥、スラッジ、建設発生土及び各種焼却灰等の産業廃棄物及び副産物を使用することができる。ここで、石炭灰としては、石炭火力発電所等から発生するものであり、フライアッシュ、ボトムアッシュ等を使用することができる。建設発生土としては、建設工事の施工に伴い副次的に発生する残土、土壌、廃土等を使用することができる。焼却灰としては、都市ゴミ焼却灰、燃え殻、焼却残渣等を使用することができる。上述の原材料を用いて、ロータリーキルン等を用いた通常の方法により、セメントクリンカーを製造することができる。このようにして得られるセメントクリンカーに石膏を添加することによって、セメントを得ることができる。
【0021】
セメントに含まれる石膏は、SO基準で好ましくは0.5〜4.0質量%、より好ましくは1.0〜3.5質量%、さらに好ましくは1.5〜3.0質量%である。セメント中におけるf.CaO(遊離の酸化カルシウム)の含有量は、好ましくは0.2〜2.0質量%、より好ましくは0.3〜1.5質量%、さらに好ましくは0.4〜1.0質量%である。セメントの調製に使用する石膏は、二水石膏、無水石膏、半水石膏のいずれの形態でもよい。
【0022】
地盤改良用固化材に含まれる高炉スラグ粉末としては、市販のものを用いることができる。高炉スラグ粉末のブレーン比表面積は、粉砕に要するコストを低減するとともに地盤改良土の強度発現性を向上する観点から、好ましくは3000〜10000であり、より好ましくは4000〜6000であり、さらに好ましくは4100〜4500であり、特に好ましくは4300〜4400である。このブレーン比表面積は、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に準拠して、ブレーン空気透過装置を用いて測定される値である。
【0023】
地盤改良用固化材に含まれる石膏としては、二水石膏、無水石膏又は半水石膏のいずれの形態のものを用いてもよく、強度発現性の観点から二水石膏又は無水石膏を好ましく用いることができる。石膏としては、粒径が600μm以下のものを用いることが好ましい。
【0024】
地盤改良用固化材に含まれる骨材としては、珪砂、スラグ骨材、石炭灰、石灰石砂、コンクリート用砕砂等の市販のものを用いることができる。骨材の粒度範囲は、一層高い強度を有する処理土(改良土)を得る観点から、好ましくは0.6〜0.07mmであり、より好ましくは0.5〜0.1mmである。同様の観点から、骨材の平均粒径(個数平均径)は、好ましくは0.1〜0.3mmであり、より好ましくは0.15〜0.25mmである。
【0025】
本実施形態の地盤改良用固化材は、セメント、高炉スラグ粉末、骨材及び石膏の合計100質量部に対し、セメントを50〜75質量部、高炉スラグ粉末を15〜35質量部、骨材を1〜15質量部、及び石膏を1〜15質量部含有する。このようは質量比率で各成分を含有することによって、施工性に優れるとともに、地盤を十分に改良することができる。改良する土壌の特性に応じて、各成分の質量比を調整することができる。
【0026】
本実施形態の地盤改良用固化材は、セメント、高炉スラグ粉末、骨材及び石膏の合計100質量部に対し、セメントを55〜70質量部、高炉スラグ粉末を20〜30質量部、骨材を5〜10質量部、及び石膏を5〜10質量部含有することが好ましく、セメント60〜65質量部、高炉スラグ粉末20〜25質量部、骨材を5〜10質量部、及び石膏を5〜10質量部含有することがより好ましい。このような質量比率で各成分を含有することによって、地盤改良によって得られる処理土の強度を一層高くすることができる。
【0027】
本実施形態の地盤改良用固化材は、上述の成分の他に、石灰石粉、フライアッシュ、消石灰、シリカフューム、及び炭酸カルシウムを含有してもよい。なお、地盤改良用固化材全体に対する、セメント、高炉スラグ粉末、骨材及び石膏の合計含有量は、一層高い固化強度を有する改良土を得る観点から、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0028】
<地盤改良用スラリー>
本実施形態の地盤改良用スラリーは、上述の地盤改良用固化材及び水を含有し、地盤改良用固化材100質量部に対し、水を10〜65質量部含有する。地盤改良用固化材の好適な組成は上述のとおりである。このような地盤改良用スラリーは、地盤改良用固化材が上述の組成を有していることから各成分が分離し難く、従来のスラリーよりも水の含有量を減らして粘度を高くすることができる。このため、所望の工事対象領域に確実に固化材を行き亘らせることが可能であり、施工性に優れる。
【0029】
本実施形態の地盤改良用スラリーは、地盤改良用固化材100質量部に対し、水を30〜45質量部含有することが好ましい。水の含有量が45質量部を超えると、地盤改良用スラリーの粘度が低くなるものの、材料分離が発生しやすくなる傾向にある。この場合、所望の領域に均質に精度高く地盤改良用スラリーを行き亘らせることが困難になる傾向、及び、水の含有量の増加に伴って強度が低下する傾向にある。また、地盤改良用スラリーをリザーバー等のタンク内で調製した場合に、攪拌羽根の周囲だけが攪拌され、攪拌羽根から離れた部分が十分に攪拌されず、分散状態が不均一になったり、固形分(例えば骨材)が分離してタンクの底部に滞積したりする傾向にある。
【0030】
地盤改良用スラリーにおける水セメント比、すなわちセメントに対する水の質量比率は、固化処理土の強度と地盤改良用スラリーの流動性とを高く維持しつつ固形分の分離を十分に抑制する観点から、好ましくは20〜65質量%であり、より好ましくは30〜55質量%であり、さらに好ましくは35〜50質量%である。
【0031】
地盤改良用スラリーは、地盤改良方法の工程簡略化の観点から、高粘度であることが好ましい。JASS15M−103に基づいて測定されるフロー値が、好ましくは70〜200mm、より好ましくは100〜190mmであり、JSCE−F531−1999PC(グラウトの流動性試験方法、土木学会基準)に基づいて測定されるJ14値が、好ましくは2〜15秒、より好ましくは2〜12秒である。このようなフロー値及びJ14値を有する地盤改良用スラリーは、固形分を十分に均一に分散させることが可能であるとともに、施工性に十分に優れる。
【0032】
<地盤改良方法>
本発明に係る地盤改良方法の好適な実施形態について説明する。本実施形態の地盤改良方法は、地盤改良用固化材を収容する粉体タンクと水を収容する水タンクとを有し、地盤改良用スラリーを地盤上に散布可能な車両からなる移動手段と、地盤改良用スラリーと前記地盤の土砂とを混練して混練物を作製する混練手段と、を用いる地盤改良方法であって、移動手段内で、セメント、高炉スラグ粉末、骨材及び石膏を含有する地盤改良用固化材と水とを混合して、地盤改良用スラリーを調製する調製工程と、地盤改良用スラリーを地盤の上に散布する散布工程と、混練手段により混練物を作製する混練工程と、を有する。
【0033】
図1は、本実施形態の地盤改良方法に用いられる移動手段である車両の模式図である。車両10は、積載部に、地盤改良用固化材32が収容された第1のタンク12と、水34が収容された第2のタンク14とを備える。第1のタンク12と第2のタンク14は、配管を介して、車両側混練部18の入口にそれぞれ連結されており、車両側混練部18の出口には(図2参照)、ホース16の一端が連結されている。
【0034】
地盤改良用固化材32としては、粉末状である上記実施形態の地盤改良用固化材を用いることができる。すなわち、地盤改良用固化材32は、セメント、高炉スラグ粉末、骨材及び石膏の合計100質量部に対し、セメントを50〜75質量部、高炉スラグ粉末を15〜35質量部、骨材を1〜15質量部、及び石膏を1〜15質量部含有する。水34としては通常の水道水や工業用水等を用いることができる。
【0035】
車両10は工事現場に移動可能であり、工事現場において、地盤改良用固化材と水とを混練して所望量の地盤改良用スラリーを調製することができる。この地盤改良用スラリーとしては、上記実施形態に係る地盤改良用スラリーとすることができる。
【0036】
図2は、本実施形態の地盤改良方法における調製工程及び散布工程を説明するための説明図である。調製工程では、車両10内で、セメント、高炉スラグ粉末、骨材及び石膏を含有する地盤改良用固化材32と水34とを車両側混練部18で混合して、地盤改良用スラリー30を調製する。この際、地盤改良用固化材100質量部に対し、水10〜65質量部、より好ましくは30〜45質量部の比率で地盤改良用固化材32と水34とを配合する。
【0037】
散布工程では、車両側混練部18で調製された地盤改良用スラリー30を、車両側混練部18に備えられたスラリーポンプによって、ホース16の他端から地盤20の上に散布する。地盤改良用スラリー30の散布量は、地盤20の土壌の種類や求められる改良地盤の特性に応じて調整することができる。例えば、地盤改良用スラリー30の散布量は、地盤1mあたり、地盤改良用スラリー30に含まれる地盤改良用固化材32に換算して、好ましくは50〜500kgであり、より好ましくは100〜350kgである。
【0038】
地盤改良用スラリー30は、従来よりも粘度を高くすることが可能であるため、地盤20に予めスラリーを流し込むための穴や溝を設けることなく散布しても、工事対象領域以外の領域に拡がることを十分に抑制することができる。なお、地盤20の形状や、地盤20の土壌の性状等に応じて、地盤20に予め穴や溝を設けてもよい。
【0039】
図3及び図4は、本実施形態の地盤改良方法における混練工程を説明するための説明図である。図3は、混練工程を地盤20に垂直な方向から見た図であり、図4は、混練工程を地盤20に平行な方向から見た図である。混練工程では、地盤改良用スラリー30と、その下部にある地盤20の土砂の一部とを、混練手段である重機40を用いて混練する。混練手段としては、バックホウやクラムシェルなどの原位置混合方式の公知の混合手段(重機)を用いることができる。
【0040】
混練工程では、地盤改良用スラリー30と、その下部にある地盤20の土壌の一部とを混練して混練物50を得る。この混練物50が硬化して改良土となり、地盤20が改良されることとなる。このようにして得られる改良土は、地盤改良用スラリー30を用いて改良されたものであることから、高い強度を有しており、且つ地盤強度のばらつきが小さいものとなる。
【0041】
地盤20の土壌の種類は特に限定されないが、一層高い強度を有する改良土を得る観点から、土壌はシルト又はロームを含有することが好ましい。すなわち、土壌の土質が地盤改良用固化材に含まれる骨材よりも小さくなるほど、改良土の強度向上効果が大きくなる傾向にある。一層高い強度を有する改良土を得る観点から、土壌の含水比[(水の質量/水と土壌の合計質量)×100]は、例えば、好ましくは100%以下であり、より好ましくは60%以下であり、さらに好ましくは40%以下である。
【0042】
本実施形態では、土壌の含水比や種類に応じて、地盤改良用固化材と水との配合比を調整することができる。このように土壌の特性に応じて地盤改良用スラリーの組成を調整することによって、一層強度の高い改良土を得ることができる。
【0043】
また、地盤改良用スラリー30を、必要な分だけ施工現場で作製することが可能であるため、地盤改良用スラリー30の余剰量、及び余剰の地盤改良用スラリー30が硬化したモルタルの廃棄量を十分に低減することができる。したがって、余剰の地盤改良用スラリー30及び硬化後のモルタルを処理することに伴う環境負荷を十分に低減することができる。また、地盤20の土壌と地盤改良用スラリーとの混合時に骨材を加えるのではなく、予め骨材を含む地盤改良用スラリー30を用いていることから、均質な混練物50が得られ易くなり、得られる改良土の性状のばらつきを十分に小さくすることができる。さらに、地盤改良用スラリー30を高粘度のスラリーとする場合、コンクリート用添加剤(流動化剤、分散剤等)を添加する必要がない。このように、添加剤の使用量を低減することによって、地盤改良に伴うコストも低減することができる。
【0044】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の内容を実施例と比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
(製造例1)
市販のセメント(宇部三菱セメント株式会社製、商品名:ユースタビラー50)、高炉スラグ粉末(千葉リバーメント製、密度:2.86g/cm、ブレーン比表面積:4340cm/g、JIS A 6206:1997に規定される高炉スラグ微粉末4000の適合品)、骨材(宇部サンド工業株式会社製、珪砂6号(粒度範囲:0.6〜0.07mm、平均粒径:約0.2mm))、無水石膏(旭硝子株式会社製)を準備した。また、試料土として、砂質土、粘性土及びロームを採取した。採取した各試料土の性状を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
準備したセメント、高炉スラグ粉末、骨材及び無水石膏を、表2に示す配合割合で配合して地盤改良用固化材(以下、場合により「固化材」という。)を調製した。この固化材と水とを表2に示す水/固化材比(固化材に対する水の質量比率)で混合して地盤改良用スラリー(以下、場合により「スラリー」という。)を調製した。表1に示す各試料土1mに対し、調製したスラリーを表2に示す添加量(固化材基準の質量)で添加し、ホバートミキサーを用いて練り混ぜて、地盤改良用固化材と土壌とからなる混練物(試料)を調製した。
【0049】
調製した混練物を、直径50mm×高さ100mmの円柱型枠内にランマーを用いて3層詰めした後、20℃で材齢7日まで密封養生し、各試料番号の固化処理土を作製した。
【0050】
作製した固化処理土の密度及び材齢7日における一軸圧縮強さを評価した。一軸圧縮強さは、JIS A 1216「土の一軸圧縮試験方法」に準拠して測定した。表2に示す各試料において、それぞれ固化処理土を3つ作製し、それぞれの密度及び一軸圧縮強さの測定を行い、算術平均値を算出した。表2には、各試料の算術平均値を示した。
【0051】
【表2】

【0052】
なお、試料番号2−1では、スラリーを調製せずに、粉末状の固化材を試料土に添加して地盤改良用固化材と土壌とからなる混練物を調製した。この試料番号2−1の場合、粉末状の地盤改良用固化材と土壌とを混練していることから、混練時に粉塵等が発生した。このように、粉末状の地盤改良用固化材をそのまま土壌と混練すると、工事現場の周辺に粉塵等が発生してしまうこととなり、優れた施工性を実現することができないことが確認された。
【0053】
表2に示す各実施例の試料は、高い粘度を有するスラリーであったことから、良好な施工性を有していることが確認された。また、スラリー中において固形分の分離も十分に抑制されていたことから、作製した固化処理土はいずれも十分に高い一軸圧縮強さを示した。一方、比較例である試料1−1,2−2,3−1は、十分に高い一軸圧縮強さを有する固化処理土を得ることができなかった。これは、骨材による強度向上効果が得られなかったこと、及びスラリー中において固形分が分離して、固化処理土の固化状態にばらつきが生じたためであると考えられる。
【0054】
(製造例2)
次に、試料土として、別の砂質土、ローム及びシルトを採取した。採取した各試料土の性状を表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
表1に示す試料土に代えて表3に示す試料土を用いたこと以外は、製造例1と同様にして、表4に示す各試料番号の固化処理土を作製した。なお、表4の試料番号5−4,6−4,7−5,8−4,9−4では、水を用いずに固化材と土壌とを直接混練して混練物を調製した。作製した固化処理土の密度、及び材齢7日における一軸圧縮強さを、製造例1と同様にして評価した。評価結果は表4に示すとおりであった。なお、製造例1と同様に、表4に示す各試料において、それぞれ固化処理土を3つ作製し、それぞれの密度及び一軸圧縮強さの測定を行い、算術平均値を算出した。表4には、各試料で測定された3つの固化処理土の密度及び一軸圧縮強さの平均値を示した。
【0057】
【表4】

【0058】
水を用いずに、地盤改良用固化材と土壌とを直接混練した試料番号5−4,6−4,7−5,8−4,9−4では、混練時に粉塵等が発生した。このように、粉末状の地盤改良用固化材をそのまま土壌と混練すると、工事現場の周辺に粉塵等が発生してしまうこととなり、優れた施工性を実現することができないことが確認された。
【0059】
一方、表4に示す各実施例の試料は、高い粘度を有するスラリーであったことから、良好な施工性を有していることが確認された。また、スラリー中において固形分の分離も十分に抑制されていたことから、作製した固化処理土はいずれも十分に高い一軸圧縮強さを示した。一方、各比較例の試料では、十分に高い一軸圧縮強さを有する固化処理土を得ることができなかった。これも、表2に示す結果と同様に、骨材による強度向上効果が得られなかったこと、及びスラリー中において固形分が分離して、固化処理土の固化状態にばらつきが生じたためであると考えられる。
【0060】
なお、表4に示す結果によれば、固化処理土の一軸圧縮強さは、試料土としてシルトを用いたときが最も大きく、砂質土を用いた時が最も小さかった。これは、試料土の土質又は粒径が固化材に含有される骨材に近似しているか否かによるものであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、施工性に優れ、地盤を十分に改良することが可能な地盤改良用固化材及び地盤改良用スラリーを提供することができる。また、施工性に優れ、地盤を十分に改良することが可能な地盤改良方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0062】
10…車両、12…第1のタンク、14…第2のタンク、16…ホース、18…車両側混練部、20…地盤、30…地盤改良用スラリー、32…地盤改良用固化材、34…水、40…重機、50…混練物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、高炉スラグ粉末、骨材及び石膏を含有し、
前記セメント、前記高炉スラグ粉末、前記骨材及び前記石膏の合計100質量部に対し、前記セメントを50〜75質量部、前記高炉スラグ粉末を15〜35質量部、前記骨材を1〜15質量部、及び前記石膏を1〜15質量部含有する地盤改良用固化材。
【請求項2】
請求項1に記載の地盤改良用固化材、及び水を含有し、
前記地盤改良用固化材100質量部に対し、水を10〜65質量部含有する地盤改良用スラリー。
【請求項3】
地盤改良用固化材を収容する粉体タンクと水を収容する水タンクとを有し、地盤改良用スラリーを地盤上に散布可能な車両からなる移動手段と、
前記地盤改良用スラリーと前記地盤の土砂とを混練して混練物を作製する混練手段と、を用いる地盤改良方法であって、
前記移動手段において、セメント、高炉スラグ粉末、骨材及び石膏を含有する前記地盤改良用固化材と前記水とを混合して、前記地盤改良用スラリーを調製する調製工程と、
前記地盤改良用スラリーを前記地盤の上に散布する散布工程と、前記混練手段により前記混練物を作製する混練工程と、を有し、
前記調製工程では、前記セメント、前記高炉スラグ粉末、前記骨材及び前記石膏の合計100質量部に対し、前記セメントを50〜75質量部、前記高炉スラグ粉末を15〜35質量部、前記骨材を1〜15質量部、及び前記石膏を1〜15質量部含有する前記地盤改良用固化材を用いるとともに、前記地盤改良用固化材100質量部に対し、前記水を10〜65質量部混合して前記地盤改良用スラリーを調製する、地盤改良方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−31574(P2012−31574A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169245(P2010−169245)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】