説明

地盤注入剤および地盤注入工法

【課題】高浸透水圧に対して、特に亀裂を有する岩盤注入において、優れた耐久性を有し、高い浸透性および止水効果が得られる地盤注入剤および地盤注入工法を提供する。
【解決手段】pHが2〜7であり、かつ、シリカ濃度が1〜50質量%であるシリカコロイドを含有する地盤注入剤である。該の地盤注入剤を地盤に注入し、地盤中の地下水が、海水やカルシウム、マグネシウムを含有する地盤注入工法である。シリカコロイドの粒径が、5〜50nmであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤注入剤および地盤注入工法に関し、詳しくは、高浸透水圧に対して優れた耐久性を有し、高い浸透性および止水効果が得られるシリカコロイドを主材とし、pHが2〜8の非アルカリ性シリカコロイドである地盤注入剤および地盤注入工法に関する。特に、海岸付近や岩盤中へのLPG(液化石油ガス)等の燃料の掘削岩盤空洞中への貯蔵や、岩盤の地下水中に溶出している金属塩の存在下での産業廃棄物の岩盤空洞への封じ込め、炭酸ガスや液化炭酸ガスの岩盤や海底等の空洞への封じ込め等、花崗岩等から溶出するCa、Mgイオン、海岸付近や海底等の地盤中や海水に含まれるCa、Mg、Na、Kイオン等により浸透性や固結性に悪影響を受けることなく、また、周辺の構造物や、岩盤中の貯蔵物質や廃棄物の被膜物に対して悪影響を加えることなく高浸透水圧下の亀裂のある岩盤の止水や岩盤掘削によって形成された空洞周辺部の岩盤の微細な亀裂へのゲルの充填性に優れ、かつ、高浸透水圧が作用してもゲルが押し出されることなく長期止水性を維持することができ、塩や金属イオンを多く含む地下水面下における地盤、岩盤の亀裂において高い浸透性と止水性を持ち、またベントナイトで被覆した廃棄物の岩盤貯蔵において、ベントナイトを変質させることなく貯蔵性を保つ止水層を形成する地盤注入工法にかかわるものであって、上記効果を得られるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、護岸の吸い出し防止や海岸付近の液状化対策、ダム、地下ダム、トンネル等の岩盤亀裂注入はもとより、放射性廃棄物の地下空洞内の封じ込め、LPG等の地下空洞内の貯溜等の岩盤の微細な亀裂の充填において、高い浸透性をもつグラウト注入での強度と止水効果に優れた地盤注入剤が求められている。
【0003】
従来、一般に軟弱砂地盤等の地盤改良に用いられるグラウトとして、水ガラスを原料とした種々の溶液型シリカグラウトが知られている。例えば、水ガラス系アルカリ性グラウト、酸性シリカゾルを主成分としたグラウト、水ガラスを陽イオン交換樹脂またはイオン交換膜で処理して得られる活性シリカを主成分としたグラウト、活性シリカを濃縮増粒してpHが9〜10の弱アルカリ性で安定したシリカコロイド等である(特許文献1および2)。
【0004】
しかしながら、LPG等の岩盤空洞貯留、原子力発電等の廃棄物処理のための岩盤空洞貯蔵、COの岩盤空洞貯留、あるいは有害金属塩を含む有害物の封じ込め等において、上述の溶液型シリカグラウトでは、細い亀裂への浸透固結が不十分となり、注入後土粒子間のゲルまたは岩盤の亀裂中のシリカゲルが、水圧で押し出されてしまい、止水性や長期耐久性が低減するため掘削によって構築した空洞が浸透水で埋まってしまう、あるいは貯蔵した有害物が外部へ溶出してしまう等の問題があった。
【0005】
そこで、このような点を改良した技術として、超微粒子セメントを用いたり、あるいは特許文献3に記載のようにシリカグラウトが6〜50nmの粒径のシリカコロイドと微粒子セメントを有効成分として含有することが提案されている。これらにより、上記シリカグラウトによる固結地盤が浸透水圧下であっても、長期に亘り止水性と強度を保持する地盤注入工法が、本出願人により開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3205900号公報
【特許文献2】特開2004−35584号公報
【特許文献3】特開2006−226014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献3記載の方法は、長期に亘り止水性と強度を保持することはできるものの、高浸透水圧に対しては、なお十分ではなく、今日、特に岩盤の亀裂注入においてより優れた耐久性、浸透性および止水効果が得られる地盤注入剤及び地盤注入工法が求められている。
【0008】
また、岩盤亀裂注入においては、従来セメント等が用いられてきた。しかしながら、原子力廃棄物、LPG、炭酸ガス等の空洞貯留において、または土壌汚染物の土中固定においては、貯留物や有害物の地下水への溶出を防ぐための恒久的止水機能が求められる。
【0009】
さらに、海岸付近の地盤や花崗岩等の岩盤地帯等、湧水に塩や金属イオン等を含有する場合、アルカリ領域のシリカ溶液では部分的なゲル化が起り、あるいはゲル化時間が短縮し微細な亀裂を有する地盤へのグラウトの浸透性が低下し、期待した止水効果が得られない場合がある。そこで、セメントを併用することで強度を保持し、止水性を高めるが、セメントのカルシウムやマグネシウム等の塩により、注入剤の急速な部分ゲルが生成してしまい浸透性が阻害され、またセメント中のアルカリ成分にて一度形成したゲルが溶解してしまう問題がある。
【0010】
そこで本発明の目的は、上記従来技術における問題を解消して、高浸透水圧に対して、特に亀裂を有する岩盤注入において、優れた耐久性を有し、高い浸透性および止水効果が得られる地盤注入剤および地盤注入工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、上記課題を解決するには、以下の要件を必要とすることを見出した。
【0012】
即ち、本発明の地盤注入剤は、pHが酸性(pH2〜8)であり、かつ、シリカ濃度が1〜50質量%であるシリカコロイドを含有することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の地盤注入剤は、前記シリカコロイドの粒径が、5〜100nmであることが好ましく、塩、酸、金属イオン封鎖剤、活性シリカ(活性ケイ酸)及び水ガラスからなる群から選択される1種以上を含有することが好ましい。
【0014】
さらに、本発明の地盤注入剤は、施工後に要求される一軸圧縮強度に応じて、水ガラス由来のシリカ濃度が、全シリカ濃度の0〜9.5質量%に調整されてなることが好ましい。
【0015】
本発明の地盤注入工法は、本発明の地盤注入剤を地盤に注入し、前記地盤中の地下水が、海水やカルシウム、マグネシウムを含有することを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の地盤注入工法は、前記金属イオン封鎖剤として、リン酸またはリン酸化合物を使用し、前記地盤中のカルシウムまたはマグネシウムと、前記金属イオン封鎖剤を含むシリカとを結合させてリン酸塩を生成して不動態化し、注入液の不均質なゲル化を防ぐことができる。このようにして、地盤中の上記イオンを含む地下水を外周へ追いやった上で続けてアルカリ領域のシリカコロイドを注入すれば、地下水中のCa、Mg、K、Na等によって直ちに不均質な柔らかいゲル化物を形成することなく均質なゲル化が可能になる。なぜならば、アルカリ領域のシリカコロイドは地盤中にNa,K,Ca,Mgイオンが殆ど無ければ酸性領域のシリカコロイドグラウトよりもゲル化強度が高く、強度上昇も早いし、又ゲル化時間も早い。このため浸透性は高いが強度発現が遅いシリカコロイドの注入液を岩盤の亀裂の奥に閉じ込めて注入孔近くではゲル化が早く、強度の高いゲルで遮蔽することができる。
【0017】
さらに、本発明の地盤注入工法は、前記地下水の水面下の地盤内に止水層を形成して、廃棄物または土壌汚染物を封じ込めることに適しており、浸透水下における岩盤内に止水層を形成して、廃棄物または土壌汚染物を封じ込める、あるいはガスや液体燃料を貯蔵することに適している。また、前記廃棄物または前記土壌汚染物がベントナイトで覆われている場合にベントナイトを劣化させることなくベントナイトの密封効果を持続させるのに適している。
【0018】
本発明の地盤注入工法は、本発明の地盤注入剤を地盤に注入し、
以下の(1)〜(3)、
(1)注入後期にはシリカグラウトのpHがアルカリ領域である
(2)注入初期にはシリカ濃度の低いシリカグラウトを注入する
(3)注入初期にはシリカコロイドの粒径が小さいシリカグラウトを注入する
のいずれか、あるいは併用して岩盤の亀裂への浸透を向上させることを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明の地盤注入工法は、pH2〜8の範囲、かつ、前記シリカグラウトのシリカ濃度が1〜50質量%、コロイドの粒径が5〜100nmの範囲で、前記シリカグラウトのシリカ濃度を低濃度から高濃度へ段階的に変化させ、該シリカグラウトを注入することで浸透性を高めることが好ましい。なぜならば、本出願人によればシリカコロイドの濃度が高い程ゲルの強度や水圧に対する抵抗性は大きいが、細い岩盤の亀裂への浸透が困難になる。しかるに注入初期において低いシリカ濃度のシリカコロイドの注入液を注入して、続けてシリカ濃度を濃くすると容易に濃い濃度のシリカコロイドが注入されることが判ったからである。又、上記において前記シリカグラウトを注入する前または後に、セメント系グラウトまたはカルシウム系グラウトを注入し止水性と強度を高めることが好ましい。
【0020】
本発明の地盤注入工法は、施工後に要求される一軸圧縮強度に応じて、水ガラス由来のシリカ濃度が、全シリカ濃度の0〜9.5質量%に調整されてなる地盤注入剤を、地盤に注入して液状化を防止することを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明の地盤注入工法は、前記セメント系グラウトまたはカルシウム系グラウトが、低アルカリ懸濁液であることが好ましく、三次元浸透注入工法、柱状浸透注入工法および三次元同時浸透注入工法からなる群から選択される急速浸透注入工法を用いて、前記地盤注入剤を地盤に注入することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、高浸透水圧に対して、特に亀裂を有する岩盤注入において、優れた耐久性を有し、塩や金属イオンを含む地下水中であっても、高い浸透性および止水効果が得られる地盤注入剤および地盤注入工法を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の地盤注入材を注入する装置の原理図を表した説明図である。
【図2】本発明の地盤注入材を注入する装置の一具体例の説明図である
【図3】図2における注入部の注入管路の一具体例であって、地盤中に設置された状態を表した断面図である。
【図4】本発明の地盤注入材を注入する装置の基本的構成を説明するための断面図である。
【図5】養生水槽を示す断面図である。
【図6】養生水槽の断面を示す断面図である。
【図7】岩盤の割れ目を模したスチールパイプ装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態につき具体的に説明する。
すでに知られていることではあるがセメントでは粒径が大きいため、岩盤の微細な亀裂に浸透しえない。また、アルカリ領域のシリカ系グラウトでも岩盤の細かい亀裂への浸透固結性が不十分であるし、ゲル化後の収縮が大きく、長期的止水が不可能である。本発明者の研究によれば、岩盤へのアルカリ系シリカ溶液の浸透性が不十分である理由は岩盤中に含まれるCa、Mgや、Na、Kが、シリカ系グラウトのシリカ分と反応して、直ちに不均一なシリカ凝集物を形成し、これが岩盤の亀裂や土粒子間につまってその後のシリカ溶液の浸透と阻害することが判った。それを解決するために、本出願人の研究によればそのような反応はシリカ溶液がアルカリ性を呈する場合に生じシリカ溶液が酸性から中性の場合は生じないことが判った。
【0025】
また、シリカ系注入液によるゲル化物はアルカリに弱く、特に微粒子セメントを一次注入し、大きな亀裂を填充したあとシリカ系注入液を二次注入して細かい亀裂を填充する場合、セメントからのアルカリの溶出液がシリカのゲル化物を溶解する問題があった。しかるにこの問題は酸性領域のシリカコロイドを用いることにより防ぐことができることが判った。その理由として、岩盤亀裂中に存在するセメントのアルカリ性の上澄液は酸性シリカコロイドの酸によって中和される。かつ、コロイドの粒径が大きいことより、そのゲル化物の安定性に悪影響を与えないことが判った。
【0026】
酸性領域ではSiOはCa,Mg等のアルカリ土類金属や、Na、K等のアルカリ金属とはゲル化したり不均質なシリカ凝集物を生じない。また、リン(P)は酸性領域でSiOの存在のもとにCaやMgと反応に不溶性塩を形成するが、アルカリ領域では顕著な反応を生じにくい。したがって、地盤や岩盤中の湧水や海水中に遊離するCa、Mg、Na、K、等の金属イオンは、シリカ系注入剤をアルカリ側に配合すると主剤であるシリカと反応し沈澱が起こる。
【0027】
また、原子力廃棄物、LPG、炭酸ガス等の空洞貯留において人口バリア材として使用されている、セメントから溶出するCa、Mg等のイオンによってもアルカリ領域のシリカ溶液は反応し沈澱が起こる。
SiO+Ca,Mg,→SiO−Ca、Mg↓
【0028】
これは遊離したイオンとシリカ系注入剤と接触した部分から起こるため、岩盤や地盤の注入剤吐出孔部分の空隙に目詰まりを起こし、地盤への浸透を妨げる。そこで、シリカ系注入剤を酸性領域に調整することにより、シリカとCa、Mg等のイオンとの反応を抑え、浸透性を高くする。即ち、本発明の地盤注入剤は、シリカコロイドを含有する地盤注入剤であって、地盤注入剤のpHが、酸性(pH2〜8)であり、かつ、シリカ濃度が1〜50質量%、好ましくはシリカ濃度が15〜50質量%であり、さらに好ましくは、粒径5〜100nmであるシリカコロイドを含有する。これにより、浸透性と止水性を高めることができる。
【0029】
酸性調整剤としては、硫酸、リン酸、重硫酸ソーダ、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム等の酸性塩が用いられる。このうち、酸性調整剤としてリン酸等のリン酸化合物を用いることで、ゲル化後にゲルから溶出するリンイオンがセメントから遊離するCaやMgと結合しリン酸カルシウム等の不溶性被膜を形成してセメント固結物の表面を覆い、固結したゲルがセメントから溶出するアルカリ成分によるゲルの溶解を防ぐことができる。また、注入液のpHを酸性から弱酸性にすることでセメントから溶出したアルカリを中和してゲルが中性付近を呈し、ゲル化物の耐久性を保ち、貯蔵物の長期安定性を保つ。また、ベントナイトの被膜効果を保つことができる。なぜならばベントナイトはアルカリ中で膨潤して分散して密封機能を失うからである。
【0030】
また、本発明の地盤注入剤は、シリカコロイドの粒径が、5〜50nmであることが好ましく、塩、酸、金属イオン封鎖剤、活性シリカ(活性ケイ酸)及び水ガラスからなる群から選択される1種以上を含有することが好ましい。これにより、ゲル化時間を調節し、かつ浸透性を高めることができる。
【0031】
さらに、本発明において、金属イオン封鎖材としてリン酸化合物を用いることで、湧水中に存在する、あるいは一次注入剤のアルカリ性懸濁液のブリージング水中に存在する、カルシウムやマグネシウム等の塩と、金属イオン封鎖材とを結合し、不溶性のリン酸塩を生成することにより、ゲル表面を保護し、アルカリによるゲルの溶解を保護することができる。
【0032】
本発明の地盤注入工法は、上記シリカグラウトを酸性(pH2〜7)に調整し、シリカ濃度を1〜50質量%の範囲で低濃度から高濃度へ段階的に変化させたシリカグラウトを注入することで、浸透性を高めることができる。
【0033】
また、本発明の地盤注入工法は、本発明の地盤注入剤を注入することで地盤を固結し、長期にわたり強度を持つことができる。さらに、かかる地盤注入剤を注入することで、地下における浸透水圧下において長期にわたり止水性と強度を持つことができる。
【0034】
さらにまた、本発明の地盤注入工法は、地盤が透水圧下の亀裂を有する岩盤を主とする地盤であって、該岩盤に本発明の地盤注入剤を注入し、亀裂をゲルで充填し、浸透水圧下でも、ゲルが押し出されることなく長期の止水性を持つことができる。また、本発明の地盤注入工法は、本発明の地盤注入剤を注入することにより、浸透水下における地盤中や岩盤内や海底下に廃棄物や炭酸ガス等を封じ込め、あるいはガスや液体燃料を貯蔵する空洞の止水層を形成することができる。
【0035】
また、地下水面下の岩盤注入であって、酸性シリカコロイドで岩盤亀裂を填充する方法において、以下の要件を満たすことが好ましい。
1.酸性シリカコロイドはアルカリ性シリカコロイドを、リン酸または硫酸等の酸で調整し、あるいは酸、塩、酸性シリカゾル、活性珪酸のいずれかまたは複数をくわえることもできる。
2.酸性シリカコロイドは、微粒子セメントまたは低アルカリセメントのいずれかまたは両方を併用して注入することもできる。
3.地下水は、Ca、Mg、Na、Kのいずれかまたは複数を含有してなる。
4.岩盤注入が、岩盤空洞止水注入である。
5.岩盤空洞が、廃棄物貯蔵、LPG等の燃料貯蔵、CO貯蔵用、土壌汚染物貯蔵用である。
6.岩盤空洞は、セメントまたはベントナイトにより貯蔵物を被覆するものである。
【0036】
本発明においては、上述のシリカコロイドを有効成分とする地盤注入剤と、懸濁型注入剤とを併用して地盤中に注入することができる。この懸濁型注入剤としては、微粒子セメントや微粒子スラグあるいはこれらの混合物を有効成分とする注入剤等がある。これらの懸濁溶液をあらかじめ地盤に注入して、粗い割れ目を充填しておくことにより、地下における浸透水圧下であっても、長期に亘り止水性と強度を保持し、地盤を改良することができる。
【0037】
上記において、あらかじめ微粒子スラグを有効成分とする懸濁型注入剤を地盤中に注入し、次いで、この注入された地盤に本発明のシリカコロイドを主材とする地盤注入剤を注入し、地盤中で併用することもできる。また、該地盤注入剤を注入の後、該懸濁型注入剤グラウトを注入する。該懸濁型注入剤と該地盤注入剤を交互に複数回にわたり注入する、等により両者を地盤中で併用することもできる。
【0038】
一次注入剤として上記懸濁型注入材を用いる場合、二次注入剤として上記金属イオン封鎖剤(好ましくはリン酸化合物)を用いた地盤注入剤を注入することで、懸濁型注入剤の接触面でのゲルの溶解の原因となるアルカリ成分を中性化し、さらに地下水中に遊離した一次注入剤のブリージング水由来のカルシウムやマグネシウム等の金属イオンと結合し膜を形成することで長期的に安定なゲルを得ることができる。
【0039】
本発明の地盤注入工法は、地盤を固結する地盤注入工法において、上記地盤注入剤を用いることを特徴とするものである。
【0040】
一般に、大深度地下開発等、地盤中に空洞を形成する工事は、用地取得費が不要であり、さらに、既存構造物に左右されずに開発できるという経済面・計画面でのメリットが大きいため、シールド技術を活用した様々な構造物の開発が見込まれている。とりわけ、長距離かつ多方向への建設が不可欠となるライフラインには40m〜100m下の大深度地下が最適とみられており、当面、電力・ガス用のライフラインの建設が先行すると予想される。
【0041】
また、数100mから1000m級の大深度のたて坑を掘削して、大空洞を形成し、そこに放射性廃棄物を封じこみ、あるいはLPGを貯蔵することができる。この場合の高水圧にも耐える止水層を形成して、かつ空洞を保持する強度と止水性を維持できる。
【0042】
さらに、海底トンネルや火山堆積物中のトンネル掘削には100m〜200mの水圧に相当する被圧水下の掘削工事になることもある。これらは掘削工事に長期間かかるのみならず、工事完成後も高い水圧下にあり、高浸透圧水がトンネル内部に漏水する可能性がある。そこで、高被圧水下のトンネル掘削工事や大深度地下開発を目的とした恒久的地盤改良の際、掘削地盤には大きな土圧と水圧がかかり、かつ掘削工事は長期に及ぶため、できるだけ地盤を均一に高強度化してかつ長期にわたって止水効果と固結効果も得られることが必要である。また、耐久性に優れていることは注入後掘削工事までの長期化にも耐えることと工事完成後のメンテナンス、充填周辺地下水の低下を防ぐためにも必要である。本発明の地盤注入剤および地盤注入工法は、このような用途に使用される。
【0043】
また、本発明の地盤注入剤は、特に液状化防止注入等の耐久性に優れた地盤改良工法に用いて、施工後に要求される透水係数および一軸圧縮強度に応じて、水ガラス由来のシリカ濃度が、全シリカ濃度の0〜9.5質量%に調整されてなることが好ましい。水ガラス由来のシリカ濃度を調整することで、透水係数および一軸圧縮強度を好適に調整できる。
【0044】
本発明に用いられるシリカコロイドは、粒径が5〜50nmの粒径の弱アルカリ性に安定させてなるシリカコロイドである。また、水ガラス、あるいは水ガラスと酸を混合してなる酸性水ガラスをイオン交換樹脂やイオン交換膜で処理して得られる活性シリカの重合体である。この活性シリカコロイドに水ガラス、酸あるいは塩を加えてなるシリカコロイド等である。
【0045】
本発明におけるシリカコロイドは、液状のアルカリ金属シリカ塩水溶液(水ガラス)からアルカリ金属イオンのほとんどを除去して得られるものであって、例えば、ゼオライト系陽イオン交換体、アンモニウム系イオン交換体のイオン交換樹脂に水ガラスを通過させ、生成したシリカコロイドを80℃〜90℃の温度でさらに水ガラスに加え、再び上記イオン交換樹脂に通過してイオン交換を行って得られるものであり、比較的純粋な(希薄な)シリカコロイド(活性シリカコロイド)が得られる。
【0046】
さらに、純粋なシリカコロイドを得るには、前述の希薄なシリカコロイドを微アルカリ性に調製し、これにさらに前述のシリカコロイドを加えながら蒸発し、安定化と濃縮を同時に行う方法、あるいはイオン交換後の活性シリカコロイドを適当なアルカリの下に加熱し、これにさらに活性シリカコロイドを加えて安定化する方法が用いられる。
【0047】
本発明におけるシリカコロイド溶液は、Naイオンがほとんど分離除去されているため、通常pHが10以下の弱アルカリ性を示しており、NaOは0.2質量%〜4.0質量%の範囲にある。NaOは4.0質量%以上になるとシリカコロイドは溶けてしまい、ケイ酸塩の水溶液となってしまう。一方、NaOが0.2質量%より少なくなるとシリカコロイドは安定して存在し得ず、凝集してしまう。すなわち、NaOが0.2質量%〜4.0質量%の範囲で、Naイオンがシリカコロイドの表面に分布して安定したコロイド状に保ち得る。
【0048】
このようにして調製されたシリカコロイドは、ほとんど中性に近く、かつ、半永久的に安定しており、これを注入液として用いる場合、工場から現場への搬入ならびに注入操作の際にゲル化する心配がない。このシリカのコロイド溶液をそのまま地盤中に注入してもそれ自体実用時間内にゲル化することはないので実用上の固結効果は得られない。
【0049】
また、本発明の地盤注入剤は、さらに水ガラスのシリカ分(SiO)1〜20質量%含有することもできる。ガラスはシラノール基を多く含み、反応性が早いため、初期の強度発現が早い。しかし、シリカコロイドに比べNaを多く含み、ゲル化後、ゲル化物の収縮が起こるため、上記の量にとどめる必要がある。
【0050】
水ガラスを用いた液状化対策用、又は恒久止水用注入剤として効果的な地盤注入剤とするには、水ガラスとシリカコロイドの配合液を下記の範囲内に設定することが好ましい。
pH : 2〜7
シリカ濃度 : 1〜10質量%
シリカコロイド濃度 : 0.5〜8質量%(全シリカ中の5〜80質量%)
水ガラスのシリカ濃度 : 0〜9.5質量%(全シリカ中の5〜95質量%)
【0051】
以上のシリカを含む酸性シリカ溶液は、シリカコロイド、水ガラス、酸を有効成分とし、これらの三成分を同時に配合してもよいし、酸をいずれかのシリカ混合した上で配合してもよいし、酸の中に上記シリカをそれぞれ、あるいは同時に混合してもよい。
【0052】
上記シリカ濃度での配合の場合のシリカコロイド(コロイダルシリカ)と、水ガラスのシリカ濃度の比率は(A)体積変化、(B)透水係数、(C)一軸圧縮強度の経時変化に関係がある。シリカコロイドは、体積変化がほとんど無く、透水係数の増加が無いことから、止水性は高いが一軸圧縮強度の増加はゆるやかである。一方、水ガラスは、シリカコロイドに比べ一軸圧縮強度は大きいが体積変化でのゲルの収縮が見られ、これにより透水係数の増加がみられる。以上より、シリカコロイド比が大きいほど強度は小さいが、収縮率は小さく、強度低下が少ない。しかし、長期的に強度が増大するには水ガラス比が大きいほど強度は大きいが、収縮率が大きく、強度低下があるので、コロイドを含有することで強度は一定の値に収斂する。
【0053】
そこで、実施工において設計値に添う強度と止水性を得るためには、これらのことを考慮して、効果的なシリカコロイドと水ガラスの比に混合すればよい。
以上より以下の式により配合を選定することもできる。
28=水ガラスのシリカ濃度(質量%)/全シリカ濃度(質量%)=50〜95質量%
3年以上=水ガラスのシリカ濃度(質量%)/全シリカ濃度(質量%)=5〜50質量%
なお、式中、T28は、短期(注入後28日経過後)、T3年以上は、長期(注入後3年以上経過後)を示す。
【0054】
さらに、本発明において、水ガラスを加える場合には、水ガラスと酸を混合して酸性水ガラスとして加えるか、あるいは水ガラスと酸を含む酸性複合シリカコロイドとすることによって、酸性水ガラスの1nm以下の小さなコロイドが加わった複合シリカコロイドが形成される。従って、3つの異なる粒径からなる複合シリカコロイドが形成される。
【0055】
本発明では、粒径が大きいシリカは、シリカ濃度の高い割には強度が低く、かつ、強度発現が遅いが、高浸透水圧下でも長期間の耐水圧効果を有する。一方、粒径が小さいシリカは、シリカ濃度が薄くても強度発現と固結性に優れる。また、本発明は、これらの混合物からなる複合シリカコロイドであるため、特に、高浸透水圧下において、初期のうちに優れた止水性と強固な固結効果を確実に達成することができる。このため、本発明では、セメントを配合せずに、所望の効果を得ることができる。
【0056】
本発明にかかる上述の複合シリカコロイドは、反応性が高く、アルカリ性を呈する微粒子の懸濁液が注入された地盤に、これを注入しても、アルカリ性の影響を受けにくく、高水圧下において、大きな固結性と止水性を同時に発現する。特に、本発明にかかる複合シリカコロイドは高浸透水圧下の岩盤亀裂注入に用いて、長期耐久性に優れた止水性と強固な固結性を達成し、注入対象地盤を確実に固結止水する。
【0057】
さらに、本発明の地盤注入剤に酸やNaClやKCl等一価のアルカリ金属塩や、Al、Ca、Mg等の多価金属塩やこれらの水酸化物やその他の塩等のゲル化材を加えて混合物として地盤中に注入すると、シリカコロイド溶液は地盤中で上記ゲル化材により不安定化されたコロイド粒子同士が結合し、強固な固結体を形成して地盤を固結する。
【0058】
本発明において、シリカコロイドは、酸や塩のいずれか、あるいは併用することによりpHをアルカリ性または酸性に調整してゲル化時間を調整できる。金属イオン封鎖剤はキレート効果を有し、地下水に岩盤から溶解する金属イオンや岩盤の亀裂から溶出する金属イオンを不動態化する。地下水に存在する金属イオンとして、Ca2+、Mg2+、鉄イオン等が挙げられ、リン酸、リン酸系化合物をはじめとする金属イオン封鎖剤、キレート剤等はシリカと共に地中の金属イオンをマスキング作用によって被覆膜を形成し、地下水の微量金属や貝殻などのカルシウムやマグネシウム分と反応して不溶性あるいは難溶性の化合物をつくるものと推測される。このため地盤中のCa、Mgによってシリカコロイドの浸透が阻害されない効果を生ずる。
【0059】
リン酸系化合物のうちヘキサメタリン酸ソーダのような縮合リン酸塩は、コンクリート表面上では非アルカリ性シリカと共に最も強固な被覆層を形成するが、リン酸も優れた効果を示すのは、シリカ溶液中で徐々に縮合系を形成して、縮合リン酸塩と同じような作用を示すようになるためと思われる。リン酸化合物は後述した例があり、いずれも上記と同様な効果をもつので、本発明においては、リン酸化合物を、キレート効果を有する金属イオン封鎖剤として扱う。金属イオン封鎖剤としてはリン酸化合物以外に後述した化合物があるが、シリカと共存下ではリン酸化合物がコンクリート表面に強固な被覆を形成しやすい。上記効果の優れた保護膜を形成するにはシリカ溶液中のアルカリが除去されていることが必要である。そのためにはリン酸のような酸性を呈して酸性中和剤も兼ねる化合物が望ましい。リン酸以外のリン酸化合物や金属イオン封鎖剤を用いる場合には、他の酸、例えば、硫酸や硫酸塩のように酸性を呈する化合物を併用することが脱アルカリに効果的である。
【0060】
リン酸は、水ガラスと混合するとそれ自体で水ガラスのアルカリを中和して酸性シリカ溶液をつくると共に、シリカ分とコンクリート表面のCa2+、Mg2+と共にコンクリート被覆膜を形成し、地下水中に存在するSO2−やClからコンクリートを守ることができる。また、リン酸およびリン酸化合物は、硫酸イオンの共存下において、上述のようにコンクリート表面に保護膜をつくる。この場合、シリカ溶液中に含まれる硫酸は水ガラスのアルカリを中和する作用を分担し、リン酸化合物はアルカリを除去したシリカ分と共にコンクリート表面にキレート作用で被覆層をつくる役割を分担するものと思われる。特に、リン酸とヘキサメタリン酸ソーダの併用、あるいはリン酸と他の金属イオン封鎖剤と併用したシリカ溶液は、優れたキレート効果による被覆層を形成する。
【0061】
本発明に用いられるリン酸系化合物および/またはキレート剤は、キレート効果を有するものであり、例えば、リン酸、各種の酸性リン酸塩、中性リン酸塩、塩基性リン酸塩が挙げられ、テトラポリリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩、酸性ヘキサメタリン酸塩、酸性ピロリン酸塩等の縮合リン酸塩類等を挙げることができ、縮合リン酸塩類がナトリウム塩であることが好ましく、非アルカリ性シリカ溶液を形成するリン酸化合物としては、ヘキサメタリン酸ソーダが特に強固なマスキングシリカを形成するため、好ましい。また、キレート剤としては、上記リン酸化合物の他に、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロトリ酢酸、グルコン酸、酒石酸またはこれらの塩類等を挙げることができ、本発明においては、リン酸化合物がシリカ溶液の存在下でコンクリート表面に最も効果的な被覆を形成する。
【0062】
本発明の地盤注入剤は、ゲル化直前まで低い粘性を保持することから低注入速度による土粒子間浸透注入と大吐出量による急速施工が可能である。また、本発明の地盤注入工法は、三次元浸透注入工法、柱状浸透注入工法および三次元同時浸透注入工法からなる群から選択される急速浸透注入工法を用いて、地盤注入剤を地盤に注入することが好ましい。以下に、地盤注入工法の例を挙げる。
【0063】
本発明の地盤注入工法の一例として、注入細管の一点からの低吐出量で多点同時に注入する多点注入工法がある(特開2003−232030号公報)。かかる地盤注入工法は、吐出口37を有する注入管38を複数本、地盤31の複数の注入ポイント36に埋設し、これら注入管38を通して複数の吐出口37から、本発明の地盤注入剤を同時に多点注入するものである。この地盤注入工法にはそれぞれ独立した駆動源34で作動し、かつ、集中管理装置46で制御される多数のユニットポンプ33を備えた多連装注入装置Aを用い、これら多数のユニットポンプ33が導管40を通して複数の注入管38と接続され、多数のユニットポンプ33の作動により、地盤注入剤を複数の吐出口37から地盤31中の複数の注入ポイント36を通して多点注入することで地盤状況が各層毎に異なる地盤31に対して、これら各層毎に最適な注入を同時にあるいは選択的に達成し得るのみならず、地盤31中の縦方向、横方向への立体的な注入をも可能とし、かつ、複数の注入管38からの注入を任意に制御し得るとともに、複数の注入管38を通して同時に注入することができる。このため、微細土層への浸透注入の信頼性が向上し、かつ急速施工によって注入工期も短縮される。図1に示すように、それぞれ独立した駆動源34で作動し、かつ、集中管理装置46で制御される多数のユニットポンプ33を備えた多連装注入装置35を用い、これら多数のユニットポンプ33が導管40を通して複数の注入管38と接続され、多数のユニットポンプ33の作動により、地盤注入剤を複数の吐出口37から地盤31中の注入領域44にある複数の注入ポイント36を通して多点注入する。なお、図1中、32は貯蔵タンク、39は導管、45は回転数変速機、48はバルブ、47は流量圧力検出器を示し、図1に示す注入管38には後述する図3を用いることもできるし、図4を用いることもできる。
【0064】
本発明の他の地盤注入工法の一例として、注入細管の一点からの低吐出量で多点同時に注入する多点注入工法がある(特開2001−323451号公報)。かかる地盤注入工法は、図2に示すように、地盤58中に設置した複数本の注入管59から、対象とする土層に地盤注入剤を注入して地盤58を改良するに際して、最適な設定流量ないしは設定圧力をもって地盤注入剤を同時に、自動的に注入する。これにより、広範囲の地盤58を急速かつ確実に改良できる。地盤注入装置は地盤注入剤を加圧する注入液加圧部Yと、この注入液加圧部Yに連結され、それぞれ複数の注入管59に通じる、分岐バルブV〜Vおよび/またはオリフイスO〜Oの装着された複数本の分岐管Sを有する注入液分配部Zと、注入液加圧部Yから注入液分配部Zへの加圧注入液の送液系57に備えられた送液流量計fおよび/または送液圧力計P、送液流量計fおよび/または送液圧力計P、および注入液加圧部Yとそれぞれ信号回路によって接続される制御部Xとを備えて構成される。また、制御部Xは、注入監視盤X1、操作盤X2、注入記録盤X3およびデータ入力装置X4を有する。さらに、図2中、52は注入液槽、53はインバータ、GPはグラウトポンプ、61は第一改良ブロック、62は第二改良ブロックを示す。
【0065】
さらに、注入管について図3で説明する。注入管は、複数本の細管70を、固定板71を通して結束して構成された結束注入管69である。固定板71は結束バンドでもよい。各細管70は先端吐出口72がそれぞれ軸方向の異なる位置に開口され、かつこれら吐出口72にはゴムスリーブ73が装着され、注入孔74に注入されたスリーブグラウト75中に埋設するように地盤68中に設置される。吐出口72からの注入液は固化したスリーブグラウト75を破って地盤68中に浸透、注入される。なお、ゴムスリーブ73やスリーブグラウト75は、用いなくてもかまわない。
【0066】
さらに、本発明の地盤注入剤を用い、削孔間隔を広くとって削孔数を少なくし、大きな柱状浸透源からの大吐出量の注入で浸透注入を実現する柱状浸透工法がある(特開2002−167745号公報)。図4に示す注入管装置Tは、袋体84の内部に開口する吐出口85から袋体84中に硬化性懸濁液を填充し、袋パッカ83を形成するとともに、袋体84、84間に開口する吐出口85から地盤注入剤を注入して地盤86を固結する。注入管装置Tにおいて、袋体84が硬化性懸濁液の一部を透過する透水性袋体であり、かつ、削孔87の径よりも大きな直径を有してなり、袋体84中に懸濁液を充填し、膨らませて袋パッカ83を形成する際、袋体84の直径が削孔87の径よりも大きいため、袋パッカ83によってパッカ周りの削孔壁89が圧密されるとともに、袋体84が透水性袋体であるため、袋体84から通過した硬化性懸濁液が圧密された削孔壁89に浸透硬化し、袋体84内を高濃度で硬化して高強度の袋パッカ83を形成するとともに袋パッカ83周りの地盤86の領域に地盤注入剤の浸透しにくい、密な地盤内パッカ90形成する。図4中、81は注入管、82は管壁、88は空間、95はゴムスリーブを示す。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例によって詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実験−1)
本発明が浸透水圧下にて強度と固結強度の長期耐久性の効果を確かめるために一例として本発明のシリカコロイドを含有する地盤注入剤を浸透水圧下にて養生したものの強度変化を観察した。
【0068】
使用材料
1.砂
6,7号混合珪砂を使用。砂の密度(ρs)は2.667g/cm
2.注入剤:下記表1(注入液1000L当たりの配合)のものを使用した。これらの注入剤は配合後にシリカ濃度を約8%になるように調整した。
【0069】
【表1】

【0070】
3.注入供試体
内径5cm×高さ10cm 透明アクリルモールド使用
【0071】
実験方法
シリカを30質量%含むシリカコロイドに、水ガラスと塩化カリウムを混合し、透明アクリル円筒モールドに砂の密度が1.5g/cmとなるように砂をいれ、注入方式で作製した。
【0072】
その後、2日間20℃の室内養生をした。養生後供試体をアクリルモールドから外し、浸透水養生のできるモールドの中央に置き、その周りにはベントナイトを隙間や空洞がないように詰めた。これによって供試体以外からの浸透水を完全に遮断できた。モールドを組み立てた後、図5および6に示す養生水槽に設置した。この水槽は浸透水圧がかけられるようになっており、浸透水圧は注入供試体の下方から作用させた。水圧は動水勾配が10となるようにした。また、同様に作成した供試体を静水圧下にて養生し、比較した。
【0073】
また、別の実験より55℃、65℃養生強度の促進倍率は標準養生20℃に対し約30倍、約50倍が得られることが判っていることから、促進養生を行った。養生温度は20℃、55℃、65℃の3通りであった。
【0074】
供試体を静水圧下にて養生させたものと、水中にて水圧は動水勾配50をかけ、長期養生させたものの強度変化を測定した。結果を下記表2に示す。
【表2】

【0075】
これより、従来の水ガラス系注入剤である比較例1は初期の28日強度は高いものの、長期の1000日後においては強度が低下し、本発明のコロイダルシリカ系地盤注入剤は初期の強度発現は緩やかであるが、強度低下がなく、コロイダルシリカを主剤に用いた実施例1、5、6は強度低下が見られなかった。また、本発明の地盤注入剤は長期間浸透水圧の影響を受けず、静水圧状態と同じ強度増加を得ることができることがわかった。
【0076】
(実験−2)
実験−1の実施例1の体積変化を測定した。ホモゲルの体積変化試験は、メスフラスコ法により実施した。栓付200mLメスフラスコに注入剤100mLを入れ、24時間静置しゲル化させる。イオン交換水を標線まで入れ、室温20℃で養生した。養生日数0、7、14、28日経過時にゲルの体積およびpHを測定し、変化を観察した。なお、ホモゲルの体積変化率(%)は次式により算出した。

【0077】
実施例1、2、5、6は体積変化が1000日後においてもほとんど見られなかったのに対し、実施例3は8%の体積収縮があった。比較例1は20%の体積収縮があった。これより、実施例1の配合はゲルの収縮や膨張がないことより、亀裂中での収縮により通水が起こらないものと考えられる。
【0078】
さらに、イオン交換水のかわりにセメントのブリージング水を用い、金属イオン封鎖剤によるゲルのへの影響を調べた。これより、金属イオン封鎖剤を添加した実施例1、2、はpHが中性化し、体積変化もほとんどなかった。実施例3は体積変化においてわずかに低下がみられた。比較例1は、pHは中性化したが、体積変化は収縮が見られた。
【0079】
(実験−3)
図7に示す岩盤の割れ目を模した長さ50cmのスチール製パイプを用いて、注入剤の水圧に対する抵抗を測定した。パイプの孔径を1、3、5mmとし、上記表1の注入剤を3パイプの一方より注入し、室温にて28日間養生した。地盤深約500mに相当する水圧5MPaを装置側面よりゲル断面に掛け水圧への抵抗を測定した。結果を下記表3に示す。
【0080】
これより、以下のことが分かった。上記表1の配合の実施例1、2、5において、1、3、5mmのそれぞれにおいて水に対する抵抗性を示し、水を止水した。これに対し、実施例3、6では1、3mmでは抵抗性を示したものの、5mmでは通水した。実施例4では1mmでは抵抗性を示したものの、3、5mmでは通水した。比較例1では全て通水した。比較例1は収縮がおこり、スチール板との間に隙間ができ、通水してしまったものと考えられる。以上により本発明のシリカコロイドを含有する地盤注入剤は水圧に対する抵抗力に優れていることが判った。
【0081】
【表3】

【0082】
さらに、下記表4の組み合わせになるように初期注入300mLと後期注入300mLの注入剤を変えて注入を行い、同様の実験をおこなった。用いられた配合を下記表5に示す。水に対する抵抗性は1、3、5、10mmまで行った。
【0083】
実験3−1は、5mmまでの抵抗性がみられた。実験3−2で作製したものは10mmまでの抵抗性が得られ、注入後期にpHがアルカリ領域シリカグラウトを注入することで強度増加がみられた。実験3−3、実験3−4は初期において、シリカ濃度を低くする、あるいはシリカコロイドの粒径を小さくすることにより、管内への注入が早く、水に対する抵抗性は実験3−1と同様の結果が得られた。
【0084】
【表4】

【0085】
【表5】

【0086】
原油やLPGの貯蔵方式に地下に掘った岩盤空洞内に封じ込める「水封式地下岩盤タンク方式」がある。水封式地下岩盤タンク方式は、岩盤タンクの位置を地下水位より深い位置に設け、周りにある地下水の持つ圧力が、タンク内の原油やLPGの圧力より常に高くなる状態に保つ。このとき本発明の地盤注入剤をタンク周辺の地盤や地盤の亀裂に注入し固結することで、本発明の地盤注入剤による長期の強度と止水性よりタンク内への止水をおこなうことができ、原油やガスの封じ込めを行うことができる。
【0087】
(実験−4)
本発明の地盤注入剤を二次注入剤として注入した際、地盤中のセメント系一次注入剤によるアルカリとカルシウムのゲルへの影響を確認するため、セメント系一次注入剤の固化に際し発生するブリージング水と実施例1、5の配合のホモゲルを接触した時のpH変化、形状観察より行った。また、実施例1で得られた接触前のブリージング水,接触後のブリージング水,反応物について分析を行った。なお、用いたセメントは微粒子セメントを用い、水粉体比6:1で配合した。
【0088】
実験方法
(1)実施例1、または実施例5を密閉容器に200mL入れ、24時間静置する。
(2)セメントを配合し、24時間静置する。
(3)セメントのブリージング水をメスシリンダーで200mLはかりとり、(1)に入れる。
(4)経過時間ごとにブリージング水のpH、ホモゲルとブリージング水の形状変化を観察する。
【0089】
実施例1においてブリージング水は0日目においては白濁していたが、7日経過後には透明になりpHも中性付近に低下した。また、ゲルとブリージング水との境界に白色の沈澱物が見られた。なお、実施例5ではpHは低下したものの白色沈澱は得られなかった。
【0090】
実施例1を用いたときの、ゲルとブリージング水の境界に得られた白色沈澱物をろ過し、採取して簡易蛍光10線法、10線回折法により分析を行った。結果を下記表6に示す。
【0091】
下記表6の分析結果より、得られた白色沈澱物はハイドロキシアパタイトのピークが見られたことより、リン酸が金属イオン封鎖剤としてブリージング水中のカルシウムが反応したものと考えられる。
【0092】
本発明はこの実施例に限定せず、セメントの他に低アルカリセメント等を用いることもできる。
【0093】
【表6】

【符号の説明】
【0094】
1 スチールパイプ
2 水圧
11 養生タンク
12 表面の水
13 モールド
14 ウォーターヒーター
15 試料
16 水圧
21 上蓋
22 砂利
23 ベントナイト
24 ゴム
25 注入供試
26 金網
27 下蓋
31、58、68、86 地盤
32 貯蔵タンク
33 ユニットポンプ
34 駆動源
35 多連装注入装置
36 注入ポイント
37 吐出口
38、59、81 注入管
39 導管
40 導管
44 注入領域
45は回転数変速機
46 集中管理装置
47 流量圧力検出器
48 バルブ
52 注入液槽
53 インバータ
57 送液系
61 第一改良ブロック
62 第二改良ブロック
69 結束注入管
70 細管
71 固定板
72、85 吐出口
73 ゴムスリーブ
74 注入孔
75 スリーブグラウト
82 管壁
83 袋パッカ
84 袋体
87 削孔
88 空間、
89 削孔壁
90 地盤内パッカ
95はゴムスリーブ
A 多連装注入装置
X 制御部
X1 注入監視盤
X2 操作盤
X3 注入記録盤
X4 データ入力装置
Y 注入液加圧部
〜V 分岐バルブ
〜O オリフイス
S 分岐管
T 注入管装置
Z 注入液分配部
送液流量計
送液圧力計
GP グラウトポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが2〜8であり、かつ、シリカ濃度が1〜50質量%であるシリカコロイドを含有することを特徴とする地盤注入剤。
【請求項2】
前記シリカコロイドの粒径が、5〜100nmである請求項1記載の地盤注入剤。
【請求項3】
塩、酸、金属イオン封鎖剤、活性シリカ及び水ガラスからなる群から選択される1種以上を含有する請求項1または2の地盤注入剤。
【請求項4】
施工後に要求される一軸圧縮強度に応じて、水ガラス由来のシリカ濃度が、全シリカ濃度の0〜9.5質量%に調整されてなる請求項3記載の地盤注入剤。
【請求項5】
請求項1〜4記載のうちいずれか一項記載の地盤注入剤を地盤に注入し、
前記地盤中の地下水が、海水やカルシウム、マグネシウムを含有することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項6】
前記金属イオン封鎖剤として、リン酸またはリン酸化合物を使用し、前記地盤中のカルシウムまたはマグネシウムと、前記金属イオン封鎖剤とを結合させてリン酸塩を生成して、前記地盤中の他の成分による固結体の劣化を防ぐ請求項5記載の地盤注入工法。
【請求項7】
前記地下水の水面下の地盤内に止水層を形成して、廃棄物または土壌汚染物を封じ込める請求項5〜6のうちいずれか一項記載の地盤注入工法。
【請求項8】
浸透水下における岩盤内に止水層を形成して、廃棄物または土壌汚染物を封じ込める、あるいはガスや液体燃料を貯蔵する空洞を形成する請求項5〜7のうちいずれか一項記載の地盤注入工法。
【請求項9】
前記廃棄物または前記土壌汚染物がベントナイトで覆われている請求項7または8記載の地盤注入工法。
【請求項10】
請求項1〜4記載のうちいずれか一項記載の地盤注入剤を地盤に注入し、
以下の(1)〜(3)、
(1)注入後期にはシリカグラウトのpHがアルカリ領域である
(2)注入初期にはシリカ濃度の低いシリカグラウトを注入する
(3)注入初期にはシリカコロイドの粒径が小さいシリカグラウトを注入する
のいずれか、あるいは併用して岩盤の亀裂への浸透を向上させることを特徴とする地盤注入工法。
【請求項11】
前記シリカグラウトを注入する前または後に、セメント系グラウトまたはカルシウム系グラウトを注入し止水性を高める請求項5〜10のうちいずれか一項記載の地盤注入工法。
【請求項12】
前記セメント系グラウトまたはカルシウム系グラウトが、低アルカリ懸濁液である請求項11記載の地盤注入工法。
【請求項13】
請求項4記載の地盤注入剤を地盤に注入して液状化を防止することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項14】
三次元浸透注入工法、柱状浸透注入工法および三次元同時浸透注入工法からなる群から選択される急速浸透注入工法を用いて、前記地盤注入剤を地盤に注入する請求項5〜13のうちいずれか一項記載の地盤注入工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−185020(P2010−185020A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30481(P2009−30481)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔発行者名〕 社団法人土木学会 〔刊行物名〕 第63回年次学術講演会講演概要集(CD−ROM) 〔発行年月日〕 平成20年8月13日
【出願人】(509023447)強化土株式会社 (31)
【出願人】(000162652)強化土エンジニヤリング株式会社 (116)
【Fターム(参考)】