説明

地絡方向継電装置

【課題】 電力系統において周波数変動がある際でも、電力系統における2つ以上の零相電気量の位相関係を十分な精度で算出することができ、時間軸でのサンプリング位置にかかわりなく正しく判定が行える地絡方向継電装置を提供すること
【解決手段】 電力系統の電圧,電流の瞬時値をメモリ部1へ記憶し、抽出部2は所定時期についてデータ抽出を行う。複数の演算部3,4,6,7により瞬時値データについて所定の演算を行い、判定部5は最終的な演算結果が所定しきい値以内であるときに保護動作信号を出力する。抽出は基準時点,定格周波数の電気角で90°前の時点,定格周波数の電気角で180°前の時点の3つの時点データを抽出し、零相データ演算部3はそれら瞬時値データから2つ以上の電気量について零相電気量を演算し、位相差演算部4は零相電気量の位相差演算を行い、乗算演算部7は補正値演算部6からの補正値を統合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統における2つ以上の零相電気量の位相関係から地絡事故点の方向の判別を行う地絡方向継電装置に関するもので、より具体的には、所定周期のサンプリングにより得られる電力系統の瞬時値データを使用して零相電気量について位相差演算を行う演算方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
地絡方向継電装置は、電力系統における零相電圧および零相電流など、2つ以上の零相電気量の位相関係を比較して地絡事故点の方向を判別し、保護範囲内の事故の場合に遮断器のトリップ信号を出力する構成になっている。この地絡方向継電装置については、例えば特許文献1などに見られるような提案がある。また、方向判定の動作にはディジタル積形の演算を行う構成も知られている。
【0003】
地絡事故点の方向の判定は、2つ以上の零相電気量として零相電圧,零相電流を利用するものでは、図1に示すように、零相電圧−Vを位相基準とし、零相電流Iが零相電圧−Vに対して遅れとなった場合は前方での地絡事故と判定し、零相電流Iが零相電圧−Vに対して進みとなった場合は後方での地絡事故と判定する。図中に示すφは判定しきい値との境界に対する垂線のなす角になっていて、地絡方向継電装置の最大感度角である。
【0004】
零相電圧と零相電流との位相関係は両者の内積を演算することにより調べることができる。そこで、地絡事故点の方向判定は、零相電圧Vと零相電流Iの内積を演算し、その演算結果を所定値Kと比較することで行い、その判定式(1)は、

|V||I|・cosθ ≧ K …(1)

となり、θは零相電圧Vと零相電流Iとの位相差になっている。
【0005】
判定式(1)の左辺は、各相の電圧瞬時値,電流瞬時値により零相電圧V,零相電流Iを演算することで求めることができ、所定周期のサンプリングによる瞬時値データを使用して演算を行う演算方法を適用している。
【特許文献1】特開2000−197259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、そうした従来の演算方法では以下に示すような問題がある。電力系統において周波数に変動が生じると、サンプリング周波数と電力系統の電気量との間に成立していた周期性の関係が成り立たなくなり、判定式(1)の左辺は周波数変動に起因した系統誤差を含むものとなる。また、周期波形に対するサンプリングでは、サンプリングする時点つまり時間軸で見た波形位置(サンプリング位置)の影響があり、これに起因した系統誤差がある。このため、地絡方向継電装置が系統誤差に起因した誤動作を起こす問題がある。
【0007】
具体的には、地絡方向継電装置において取り込む2つの電気量が電圧v,電流iであるとき、それらは正弦関数なので、

(t)=Vsin(ωt+φ) …(2)
(t)=Isin(ωt) …(3)

となり、それぞれ時刻tでの瞬時値を示している。ここで、Vは電圧の振幅値、Iは電流の振幅値、ωは電圧および電流の角周波数、φは電流に対する電圧の進み位相である。角周波数ωは電力系統の周波数fに関してω=2πfという関係になる。各電気量において添え字nは、a相,b相,c相それぞれを意味する。
【0008】
電圧v(t),電流i(t)は各相において所定周期のサンプリングにより得ており、これには電力系統において定格周波数の12倍のサンプリング周波数により電圧,電流の瞬時値をサンプリングして記憶する。電力系統の定格周波数が50Hzの場合、その12倍をサンプリング周波数とすると600Hzとなり、サンプリングの周期Tは1/600secとなる。
【0009】
零相電気量は、サンプリング周期Tでの各相の電圧瞬時値,電流瞬時値をそれぞれで全相を合成することで演算し、零相電圧V0b,零相電流I0bは、

0b=Vsin(ωkT+θ) …(4)
0b=Isin(ωkT) …(5)

と表すことができる。ここで、Vは零相電圧の振幅値、Iは零相電流の振幅値、θは零相電圧と零相電流の位相差であり、各電気量において添え字kは瞬時値データの時点を意味し、瞬時値データの時点kは1,2,3,…という値をとることになる。
【0010】
電力系統の周波数fの変動(周波数変動率α)は基本周波数fに関して、

α=(f−f)/f …(6)

と定義し、例えば基本周波数fが50Hzであるとき、電力系統の周波数fが60Hzに変動したのであれば周波数変動率αは0.2となる。
【0011】
そこで、零相電気量には周波数変動率αを考慮するので、上記式(4),(5)は、

0b=Vsin{ω(1+α)kT+θ} …(7)
0b=Isin{ω(1+α)kT} …(8)

となる。
【0012】
サンプリングは、サンプリング位置をmとして、ある時点kを基準時点(m−0)とおくことができ、基準時点k=m−0および基準時点から90°前のk=m−3における零相電圧,零相電流は、

0(m−0)=Vsin{ω(1+α)(m−0)T+θ} …(9)
0(m−0)=Isin{ω(1+α)(m−0)T} …(10)

0(m−3)=Vsin{ω(1+α)(m−3)T+θ} …(11)
0(m−3)=Isin{ω(1+α)(m−3)T} …(12)

となる。これらの式(9)〜(12)は判定式(1)の左辺つまり位相差演算に対して代入するので、

|V0b||I0b|・cosθ=V0(m−0)・I0(m−0)+V0(m−3)・I0(m−3)
…(13)

となり、この式(13)は数1に示す式(14)となる。
【数1】

【0013】
式(14)には周波数変動率αの項とサンプリング位置mの項が存在するため、周波数変動がない場合(α=0)は位相差演算を正確に行えるが、周波数変動がある場合には誤差が生じることになる。
【0014】
つまり、この式(14)を適用することでは、図2に示す誤差率の特性となる。同図において、横軸は周波数変動率α、縦軸が位相差演算での誤差率であり、演算の条件はθ=0つまり電圧,電流の位相差は0°であると仮定している。図中に示す実線はサンプリング位置mを0°とした特性であり、点線はサンプリング位置mを60°とした特性である。同図から明らかなように、周波数変動があるときに誤差が生じ、時間軸でのサンプリング位置mの違いでも誤差が生じることがわかる。
【0015】
この発明は上記した課題を解決するもので、その目的は、電力系統において周波数変動がある際でも、電力系統における2つ以上の零相電気量の位相関係を十分な精度で算出することができ、時間軸でのサンプリング位置にかかわりなく正しく判定が行える地絡方向継電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記した目的を達成するために、本発明に係る地絡方向継電装置は、電力系統の電圧,電流の瞬時値を各相について記憶するメモリ部と、メモリ部から所定時期についてデータ抽出を行う抽出部と、抽出部が抽出した瞬時値データについて所定の演算を行う演算部と、演算部から最終的に出力する演算結果が所定しきい値の範囲内であるときに保護動作信号を出力する判定部とを備えて、抽出部での抽出はある時点を基準時点とし、当該基準時点の電圧瞬時値vn0 と電流瞬時値in0 、基準時点から電力系統の定格周波数の電気角90°前の時点における電圧瞬時値vn3と電流瞬時値in3、基準時点から電力系統の定格周波数の電気角180°前の時点における電圧瞬時値vn6と電流瞬時値in6とを抽出し、演算部では複数の演算部により瞬時値データから2つ以上の電気量について零相電気量を演算するとともに、それら零相電気量の位相差演算を行う構成にする(請求項1)。
【0017】
また、演算部として零相データ演算部および位相差演算部を備え、零相データ演算部での演算は、抽出部が出力する瞬時値データについて全相の値を加算することにより零相電気量とし、位相差演算部での演算は、零相データ演算部が出力する零相電気量を取り込み、零相電圧値V03 と零相電流値I03 とを乗算して電力計算値P0aとし、零相電圧値V06と零相電流値I00とを乗算して電力計算値P0bとし、零相電圧値V00と零相電流値I06とを乗算して電力計算値P0cとし、電力計算値P0bと電力計算値P0cとの加算平均値を求め、電力計算値P0aから加算平均値を減算する演算を行う構成にする(請求項2)。
【0018】
また、演算部には補正値演算部および乗算演算部を備え、補正値演算部での演算は、零相データ演算部が出力する零相電気量を取り込み、零相電圧値V03 を2乗して補正計算値d0dとし、零相電圧値V00と零相電圧値V06との加算平均値を2乗して補正計算値d0eとし、補正計算値d0dから補正計算値d0eを減算して補正計算値d0fとし、補正計算値d0dを補正計算値d0fで除算する演算とし、乗算演算部での演算は、位相差演算部が出力する演算結果に補正値演算部が出力する演算結果を乗算する演算とし、電力系統の周波数変動を補正する演算を行う構成にする(請求項3)。
【0019】
係る構成にすることにより本発明では、サンプリングは3つの時点での瞬時値データを抽出し、それら3つの時点での瞬時値データを使って零相電気量を演算するので、位相差演算式には周波数変動に応じた一定の誤差は含むものの、サンプリング位置の項を排除できる。
【0020】
また、補正値演算部の出力は補正値になっており、その補正値を乗算演算部において統合するので、最終的な位相差演算式には周波数変動率,サンプリング位置の何れの項も排除できる。
【0021】
したがって、周波数変動率,サンプリング位置に起因した系統誤差を格段に低減した演算結果を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明に係る地絡方向継電装置では、サンプリングは3つの時点での瞬時値データを抽出し、それら3つの時点での瞬時値データを使って零相電気量を演算するので、サンプリング位置の影響を除外することができる。また、補正値演算部の出力は補正値になっており、その補正値を乗算演算部において統合するので、周波数変動,サンプリング位置の何れの影響も除外することができる。
【0023】
したがって、周波数変動率,サンプリング位置に起因した系統誤差を格段に低減した演算結果を得ることができ、電力系統における2つ以上の零相電気量の位相関係を十分な精度で算出できる。その結果、電力系統において周波数変動がある際でも、その影響を受けずに高精度に方向判定を行うことができ、時間軸でのサンプリング位置にかかわりなく地絡事故点の方向判定を正しく行える。そして、系統誤差に起因した誤動作を回避することができる。
【0024】
また、時間軸でのサンプリング位置にかかわりなく方向判定の演算が行えるため、従来の一般的なサンプリング周期であっても、高精度の演算結果を得ることができる。したがって、装置構成の各部をむやみと高性能のものにする必要がなく、装置構成を簡素にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(第1の実施の形態)
図3は本発明の第1の実施の形態を示している。本実施形態において、地絡方向継電装置は、メモリ部1,抽出部2,零相データ演算部3,位相差演算部4,判定部5を備え、電力系統の電圧v,電流iを各相それぞれメモリ部1へ取り込み、そのメモリ部1から瞬時値データを抽出部2へ送り込んで各演算部3,4において抽出データに基づく零相電気量の演算を行い、それらの演算結果から判定部5において地絡事故点の判定を行う構成になっている。
【0026】
メモリ部1には、電力系統の電圧v,電流iの瞬時値を各相それぞれ記憶し、抽出部2ではメモリ部1が取り込んだ瞬時値データから特定データを抽出するようになっている。ここで抽出はある時点を基準時点とし、当該基準時点の電圧瞬時値vn0 と電流瞬時値in0 、前記基準時点から電力系統の定格周波数の電気角90°前の時点における電圧瞬時値vn3と電流瞬時値in3、前記基準時点から電力系統の定格周波数の電気角180°前の時点における電圧瞬時値vn6と電流瞬時値in6とを抽出する。各電気量において添え字nは、a相,b相,c相それぞれを意味する。
【0027】
抽出した各相の瞬時値は零相データ演算部3に送り、まず零相電気量を求める演算を行う。零相データ演算部3では、抽出部2が出力する瞬時値データについて全相の値を加算することにより零相電気量とし、演算により求めた零相電圧V0b,零相電流I0bを位相差演算部4へ送り出す。各電気量において添え字kは、瞬時値データの時点を意味する。
【0028】
位相差演算部4では、零相データ演算部3が出力する零相電気量を取り込み、零相電圧値V03 と零相電流値I03 とを乗算して電力計算値P0aとし、零相電圧値V06と零相電流値I00とを乗算して電力計算値P0bとし、零相電圧値V00と零相電流値I06とを乗算して電力計算値P0cとし、電力計算値P0bと電力計算値P0cとの加算平均値を求め、電力計算値P0aから加算平均値を減算する演算を行う。
【0029】
そして判定部5では、位相差演算部4から取り込んだ演算結果つまり後述する式(24)が、所定しきい値Kの範囲内にあるときに保護動作信号を出力する。
【0030】
次に原理を説明する。まず条件として、電力系統の定格周波数が50Hzの場合、12倍のサンプリング周波数は600Hz、周期T=1/600となる。サンプリング間隔は、定格周波数が50Hzでは電気角30°となる。
【0031】
メモリ部1は、各相それぞれ電圧vnk ,電流inkの瞬時値をサンプリング周期Tによりサンプルして記憶する。このサンプリングは、添え字nで示すa相,b相,c相それぞれにおいて、添え字kで示す瞬時値データの時点は1,2,3,…という値をとる。
【0032】
抽出部2は、メモリ部1の瞬時値データから所定周期のデータについて抽出を行い、時点kがm−0,m−3,m−6の3つの時点における瞬時値を抽出する。この瞬時値は電気角では、定格周波数が50Hzの場合、ある時点kを基準時点(m−0)とすれば、そのk=m−0が基準時点の瞬時値となる。k=m−3は、

ω(m−3)T−ω(m−0)T =−3ωT
=−3×2π×50×(1/600)
=−π/2

という計算になるので基準時点から90°前の瞬時値となる。そしてk=m−6は、


ω(m−6)T−ω(m−0)T =−6ωT
=−6×2π×50×(1/600)
=−π

という計算になるので基準時点から180°前の瞬時値となる。
【0033】
零相データ演算部3は、抽出部2が出力する瞬時値データについて全相の値を加算し、零相電圧V0b,零相電流I0bを演算する。つまり、各相での電圧vnk,電流ink(n:a相,b相,c相)から零相電圧V0b,零相電流I0bは、

0b=vak+vbk+vck …(15)
0b=iak+ibk+ick …(16)

という演算により求め、零相電圧V0b,零相電流I0bは前述したように正弦関数なので、

0k=Vsin(ωkT+θ) …(4)
0b=Isin(ωkT) …(5)

と表すことができる。ここで瞬時値データの抽出は、時点kがm−0,m−3,m−6の3時点なので、零相データとしての電気量は、

0(m−0)=Vsin{ω(m−0)T+θ} …(17)
0(m−0)=Isin{ω(m−0)T} …(18)

0(m−3)=Vsin{ω(m−3)T+θ} …(19)
0(m−3)=Isin{ω(m−3)T} …(20)

0(m−6)=Vsin{ω(m−6)T+θ} …(21)
0(m−6)=Isin{ω(m−6)T} …(22)

となる。
【0034】
位相差演算部4は、零相データ演算部3が出力する零相電圧,零相電流を乗算して見かけ上の電力値を求める演算を行い、つまり式(17)〜(22)に示した各零相電気量V0(m−0),I0(m−0),V0(m−3),I0(m−3),V0(m−6),I0(m−6)を用いて、

電力計算値P0a=V0(m−3)・I0(m−3)
電力計算値P0b=V0(m−6)・I0(m−0)
電力計算値P0c=V0(m−0)・I0(m−6)

を求める。そして電力計算値P0bと電力計算値P0cとの加算平均値を求め、電力計算値P0aから加算平均値を減算する演算を行うので、位相差演算部4の出力は、

0(m−3)・I0(m−3)−{(V0(m−6)・I0(m−0)+V0(m−0)・I0(m−6) )/2}
…(23)

となる。
【0035】
電力系統には周波数の変動があるので、角周波数ωは、前述した式(6)に示す周波数変動率αを考慮してω(1+α)と表すことができ、式(17)〜(22)は以下のようになる。

0(m−0)=Vsin{ω(1+α)(m−0)T+θ} …(9)
0(m−0)=Isin{ω(1+α)(m−0)T} …(10)

0(m−3)=Vsin{ω(1+α)(m−3)T+θ} …(11)
0(m−3)=Isin{ω(1+α)(m−3)T} …(12)

0(m−6)=Vsin{ω(1+α)(m−6)T+θ} …(21a)
0(m−6)=Isin{ω(1+α)(m−6)T} …(22a)
【0036】
したがって、位相差演算部4の出力は、数2に示す式(24)となる。
【数2】

【0037】
そして、この式(24)の演算結果を判定部5へ出力し、判定部5において所定しきい値Kとの比較を行い、所定しきい値Kの範囲内(動作領域)にあるときに保護動作信号を出力する判定動作を行うことになる。
【0038】
この場合、式(24)にはサンプリング位置mの項を含まず、従来の位相差演算式(14)よりも誤差を低減することができる。つまり、この式(24)を適用することでは、図4に示す誤差率の特性となる。同図において、横軸は周波数変動率α、縦軸が位相差演算での誤差率であり、演算の条件はθ=0つまり電圧,電流の位相差は0°であると仮定している。図中に示す実線はサンプリング位置mを0°とした特性であり、点線はサンプリング位置mを60°とした特性であるが、同図から明らかなように、両者は一致していて図中には実線のみとなっている。
【0039】
このように、サンプリングは3つの時点での瞬時値データを抽出し、それら3つの時点での瞬時値データを使って零相電気量を演算するので、位相差演算式(24)には周波数変動に応じた一定の誤差は含むものの、サンプリング位置mの項を排除できる。したがって、その分は誤差を格段に低減した演算結果を得ることができ、電力系統における2つ以上の零相電気量の位相関係を十分な精度で算出することができる。その結果、時間軸でのサンプリング位置mにかかわりなく、地絡事故点の方向判定を正しく行える。そして、系統誤差に起因した誤動作を回避することができる。
【0040】
また、時間軸でのサンプリング位置mにかかわりなく方向判定の演算が行えるため、従来の一般的なサンプリング周期であっても、高精度の演算結果を得ることができる。したがって、装置構成の各部をむやみと高性能のものにする必要がなく、装置構成を簡素にすることができる。
【0041】
(第2の実施形態)
図5は本発明の第2の実施の形態を示している。本実施形態において、地絡方向継電装置は、図3に示した第1実施形態と基本的には構成が同一であり、演算部の構成として、補正値演算部6および乗算演算部7を追加して備え、電力系統の周波数変動αの補正をより十分に行い得るようにしている。第1実施形態と同様な構成には同一符号を付してあり、その説明を省略する。
【0042】
補正値演算部6では、零相データ演算部3が出力する零相電気量を取り込み、零相電圧値V03 を2乗して補正計算値d0dとし、零相電圧値V00と零相電圧値V06との加算平均値を2乗して補正計算値d0eとし、補正計算値d0dから補正計算値d0eを減算して補正計算値d0fとし、補正計算値d0dを補正計算値d0fで除算する演算を行う。
【0043】
乗算演算部7では、位相差演算部4が出力する演算結果に補正値演算部6が出力する演算結果を乗算する演算を行う。
【0044】
次に原理を説明する。補正値演算部6は、零相データ演算部3が出力する零相電気量により補正値を求める演算を行い、つまり式(17),(19),(21)に示した各零相電気量V0(m−0),V0(m−3),V0(m−6)を用いて、

補正計算値d0d=(V0(m−3)
補正計算値d0e={(V0(m−0) +V0(m−6) )/2}
補正計算値d0f=(V0(m−3)−{(V0(m−0) +V0(m−6) )/2}

を求める。そして、補正計算値d0dを補正計算値d0fで除算する演算を行うので、補正値演算部6の出力は数3に示す式(25)となる。

【数3】

【0045】
なお、補正値演算部6において演算を行う零相電気量としては、零相電圧には限らない。例えば零相電流でもよく、また各相電圧や線間電圧および各相電流など、電力系統の周波数が関係する電気量を用いることもできる。
【0046】
乗算演算部7は、位相差演算部4の演算結果と補正値演算部6の演算結果とを乗算し、電力系統の周波数変動を補正する演算を行うので、これは数4に示す式(26)となる。

【数4】

【0047】
そして、この式(26)の演算結果は判定部5へ出力し、判定部5において所定しきい値Kとの比較を行い、所定しきい値Kの範囲内(動作領域)にあるときに保護動作信号を出力する判定動作を行うことになる。
【0048】
この場合、式(26)には周波数変動率αおよびサンプリング位置mの項を含まず、従来の位相差演算式(14)よりも誤差を低減することができる。つまり、この式(26)を適用することでは、図6に示す誤差率の特性となる。同図において、横軸は周波数変動率α、縦軸が位相差演算での誤差率であり、演算の条件はθ=0つまり電圧,電流の位相差は0°であると仮定している。図中に示す実線はサンプリング位置mを0°とした特性であり、点線はサンプリング位置mを60°とした特性であるが、同図から明らかなように、両者は一致していて図中には実線のみとなっている。
【0049】
前述したように、位相差演算部4の出力つまり位相差演算式(24)には、周波数変動に応じた一定の誤差は含むものの、サンプリング位置mの項を排除できる。そして、補正値演算部6の出力は式(25)に示す補正値になっており、その補正値を乗算演算部7において統合するので、最終的な位相差演算式(26)には周波数変動率α,サンプリング位置mの何れの項も排除できる。したがって、周波数変動率α,サンプリング位置mに起因した系統誤差を格段に低減した演算結果を得ることができ、電力系統において周波数変動がある際でも、電力系統における2つ以上の零相電気量の位相関係を十分な精度で算出することができる。
【0050】
その結果、電力系統において周波数変動がある際でも、その影響を受けずに高精度に方向判定を行うことができ、時間軸でのサンプリング位置mにかかわりなく地絡事故点の方向判定を正しく行える。そして、系統誤差に起因した誤動作を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】地絡方向の判定に係る位相特性の一例を示すグラフである。
【図2】従来の位相差演算式(14)における誤差率を示すグラフである。
【図3】本発明に係る方向継電装置の第1の実施の形態を示す構成図である。
【図4】本発明に係る位相差演算式(24)における誤差率を示すグラフである。
【図5】本発明に係る方向継電装置の第2の実施の形態を示す構成図である。
【図6】本発明に係る位相差演算式(26)における誤差率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0052】
1 メモリ部
2 抽出部
3 零相データ演算部
4 位相差演算部
5 判定部
6 補正値演算部
7 乗算演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の電圧,電流の瞬時値を各相について記憶するメモリ部と、前記メモリ部から所定時期についてデータ抽出を行う抽出部と、前記抽出部が抽出した瞬時値データについて所定の演算を行う演算部と、前記演算部から最終的に出力する演算結果が所定しきい値の範囲内であるときに保護動作信号を出力する判定部とを備えて、
前記抽出部での抽出はある時点を基準時点とし、当該基準時点の電圧瞬時値vn0と電流瞬時値in0、前記基準時点から電力系統の定格周波数の電気角90°前の時点における電圧瞬時値vn3と電流瞬時値in3、前記基準時点から電力系統の定格周波数の電気角180°前の時点における電圧瞬時値vn6と電流瞬時値in6とを抽出し、前記演算部では複数の演算部により前記瞬時値データから2つ以上の電気量について零相電気量を演算するとともに、それら零相電気量の位相差演算を行うことを特徴とする地絡方向継電装置。
【請求項2】
前記演算部として零相データ演算部および位相差演算部を備え、
前記零相データ演算部での演算は、前記抽出部が出力する前記瞬時値データについて全相の値を加算することにより零相電気量とし、
前記位相差演算部での演算は、前記零相データ演算部が出力する零相電気量を取り込み、零相電圧値V03 と零相電流値I03 とを乗算して電力計算値P0aとし、零相電圧値V06と零相電流値I00とを乗算して電力計算値P0bとし、零相電圧値V00と零相電流値I06とを乗算して電力計算値P0cとし、前記電力計算値P0bと前記電力計算値P0cとの加算平均値を求め、前記電力計算値P0aから前記加算平均値を減算する演算を行うことを特徴とする請求項1に記載の地絡方向継電装置。
【請求項3】
前記演算部には補正値演算部および乗算演算部を備え、
前記補正値演算部での演算は、前記零相データ演算部が出力する零相電気量を取り込み、零相電圧値V03 を2乗して補正計算値d0dとし、零相電圧値V00と零相電圧値V06との加算平均値を2乗して補正計算値d0eとし、前記補正計算値d0dから前記補正計算値d0eを減算して補正計算値d0fとし、前記補正計算値d0dを前記補正計算値d0fで除算する演算とし、
前記乗算演算部での演算は、前記位相差演算部が出力する演算結果に前記補正値演算部が出力する演算結果を乗算する演算とし、電力系統の周波数変動を補正する演算を行うことを特徴とする請求項2に記載の地絡方向継電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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