説明

地震損害評価システム

【課題】 ある特定の物件が地震によりこうむる損害の程度を正確に算定する。また、その際の計算速度を向上させる。
【解決手段】 地震損害評価システムは、特定物件の位置情報を入力するための物件位置入力手段11と、地震動の発生源たる震源の位置情報及び深度情報を記憶する震源データベース21と、地震動が前記特定物件に及ぼす影響度を、震源データベースに含まれる複数の震源の全部又は一部について想定するとともに、当該影響度が想定された一又は二以上の震源の中から当該影響度が所定レベル以上となる一又は二以上の評価対象震源を選択する震源選択手段25と、評価対象震源の各々について発生が想定される地震動に係る地表面速度を算出する地表面速度算出手段51と、地表面速度に基づいて、当該地表面速度に対応する震源を発生源とする地震動によって前記特定物件に発生する損害の程度を算定する損害算定手段61と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震損害評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、将来発生する可能性のある地震によって、ある特定の物件がどの程度の損害を被るかを予め見込んでおくシステムが提供されている。このようなシステムとしては、例えば特許文献1に開示されているようなものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−175623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この特許文献1に開示される技術には、次のような問題がある。
すなわち、この特許文献1の「地震損害評価システム」によれば、震動による「建物被害」を求めるにあたって、「地表面加速度と建物被害率の関係曲線(建物フラジリティ曲線)を用いて」(特許文献1の〔0018〕)、地表面を適当な方法によって細分化した各メッシュにつき当該建物被害を求めるようになっている(特許文献1の〔図6〕も参照)。これは、特許文献1においては、地震により発生する建物被害の原因をもっぱら「地表面加速度」に求めていることに起因しているものと思われる(特許文献1の〔0014〕内の第4文等参照)。
しかし、近時、「地表面加速度」の大きさの如何が、建物に与える被害の程度に、必ずしも主要因として影響を及ぼしているわけではないことが明らかとなってきた。そうだとすると、特許文献1のような地表面加速度を用いた方法では、建物の損害の程度(特許文献1によれば建物被害率)を精度よく求めることはできないことになる。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、地震によって発生する建物の損害の程度を好適に推定することの可能な地震損害評価システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る地震損害評価システムは、上述した課題を解決するため、特定の物件の位置情報を入力するための物件位置入力手段と、地震動の発生源たる震源の位置情報及び深度情報を記憶する震源データベースと、前記地震動が前記特定の物件に及ぼす影響度を、前記震源データベースに含まれる複数の前記震源の全部又は一部について想定するとともに、当該影響度が想定された一又は二以上の震源の中から当該影響度が所定レベル以上となる一又は二以上の評価対象震源を選択する震源選択手段と、前記評価対象震源の各々について発生が想定される地震動に係る地表面速度を算出する地表面速度算出手段と、前記地表面速度に基づいて、当該地表面速度に対応する震源を発生源とする前記地震動によって前記特定の物件に発生する損害の程度を算定する損害算定手段と、を備える。
【0007】
本発明によれば、まず、特定の物件に生じるであろう損害の程度の算定が、地表面速度に基づいて算出される(あるいは、より厳密な観点から言えば、当該地表面速度をもつ地震動によって引き起こされる当該物件の振動に係る応答速度に基づいて算出される)ようになっているので、当該損害の程度をより正確に算定することができる。
また、本発明では特に、震源選択手段によって、特定の物件に、より大きな影響を及ぼしそうな評価対象震源が選択された上で、この評価対象震源を根拠に、地表面速度、損害の程度が算出・算定されるようになっているから、例えば全震源を対象とした計算を実行する場合との対比から明らかなように、計算速度の向上が実現される。
【0008】
この発明に係る地震損害評価システムでは、前記影響度は、前記特定の物件と前記震源との間の物件・震源間距離、を含み、前記所定レベルは、下記(i)式を満たす距離Xthで与えられ、
【数1】


前記震源選択手段は、前記物件・震源間距離が、前記距離Xthを上回るか否かに基づいて、前記評価対象震源を選択する、ように構成してもよい。
ただし、前記(i)式におけるA及びBは、それぞれ、
【数2】


【数3】


であり、かつ、これらの式中、M´は、想定最大モーメント・マグニチュード、D´は、前記想定最大モーメント・マグニチュードを有する震源の深さ、d´は、地震動の種類に基づいて定まる定数、Vは、前記特定の物件の建物、構造物、及び、当該物件の内部又は外部に付属する付属物に前記損害を発生させないと想定される地表面速度、αは、前記特定の物件の所在位置における表層地盤増幅率、a,b,cは、適当な定数、である。
この態様によれば、前述した「所定レベル」が好適に設定されることから、評価対象震源の選択を極めて適切に行うことができる。このことは当然、特定の物件に発生する損害の程度の算定の信頼性を高める。
なお、この形態が更に具体化された一好適例については、後の実施形態において説明される。
【0009】
本発明に係る地震損害評価システムでは、前記震源は、前記地震動の発生源としての複数の破壊開始点を含み、前記地表面速度算出手段は、前記評価対象震源に含まれる前記複数の破壊開始点ごとに前記地表面速度を算出し、前記損害算定手段は、前記損害を前記破壊開始点ごとに算定する、ように構成してもよい。
この態様によれば、「震源」に比べて、より微細な観点で見た「破壊開始点」ごとに、地表面速度及び損害の程度の算出・算定が行われるようになっているので、現実に発生するであろう損害の実態をより正確に把握することが可能である。
【0010】
本発明に係る地震損害評価システムでは、前記地表面速度算出手段は、前記評価対象震源について下記(iv)式に従って求められるPGVb600に、前記特定の物件の所在位置における表層地盤増幅率を乗じることに基づいて、前記地表面速度を算出する、ように構成してもよい。
【数4】


ただし、この(iv)式中、PGVb600は、S波速度600m/s相当の硬質地盤たる工学的基盤における最大速度、Mは、当該評価対象震源に係るモーメント・マグニチュード、Dは、当該評価対象震源の深さ、dは、地震動の種類に基づいて定まる定数、Xは、前記特定の物件と当該評価対象震源との間の距離、である。
この態様によれば、地表面速度が、いわゆる司・翠川の公式(例えばインターネット上のホームページ「内閣府(防災部門) 地震・火山担当のページ」、あるいは同ホームページのリンク先であるURL;http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/nankai/26/sankousiryou4.pdf等、参照。)が用いられてもとめられるようになっていることから、この後に続く損害の程度の算定の信頼性はより高まる。
【0011】
本発明に係る地震損害評価システムでは、前記地表面速度算出手段は、前記(iv)式におけるM及び前記表層地盤増幅率を修正する修正手段を含む、ように構成してもよい。
この態様によれば、例えば、評価対象となっている物件の地盤について特別にボーリング調査等が行われたことがあり、その地質等についてのより正確・詳細な知見がある場合であって、そのような知見を用いれば、前記(iii)及び(iv)式中に現れるモーメント・マグニチュードM、表層地盤増幅率をより正確に推定することが可能である場合、等に、そのような知見を踏まえた上で、これら各値の修正を行うことができる。これによれば、この後に続く損害の程度の算定の信頼性はより高まる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る地震損害評価システム100の構成を示すブロック図である。
【図2】地震損害評価の処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】(iii)式中の無被害境界地表面速度Vの設定例を示す図である。
【図4】(i)式中のAの算出例を示す図である。
【図5】(i)式中のBの算出例を示す図である。
【図6】(i)式中の無被害境界距離Xthの算出例を説明するための図(その1;地殻内地震の場合)である。
【図7】(i)式中の無被害境界距離Xthの算出例を説明するための図(その2;プレート間地震の場合)である。
【図8】評価対象震源の選択例を示す図である。
【図9】断層面EPに設定される破壊開始点Vの一例を示す図である。
【図10】イベントツリーの一例を示す図である。
【図11】損害額の算出結果の表示例を示す図である。
【図12】本発明の他の実施形態に係り、図8とは異なる評価対象震源の選択例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明に係る実施の形態について図1を参照しながら説明する。
地震損害評価システム100は、図1に示すように、物件位置データ入力手段11、各種データベース(21,31,41)、地表面速度算出手段51、損害額算出手段61、及び算出結果出力手段71等を備える。本実施形態に係る地震損害評価システム100は、これらの各手段を適宜用いることによって、物件位置データ入力手段11において入力されたある特定の物件の位置情報、及び、それを基準として適当に取捨選択された震源の情報、マグニチュード情報等々に基づき、最終的には、当該震源を起因とする地震によって当該物件に生じ得る損害の程度を評価、算定する。以下、前記各手段の詳細について説明する。
【0014】
物件位置データ入力手段11は、評価対象となる物件の位置情報等を入力するための手段である。物件の位置情報の表現形式が何であるかを問わない。例えば、緯度・経度で表現された情報であってよいし、住所で表現された情報であってもよい。もっとも、このシステム(100)において、後述する震源情報データベース等の震源の位置情報の表現形式が、緯度・経度表現等、特定の形式で与えられている場合には、その特定の形式以外の形式で物件の位置情報が入力された場合には、物件位置データ入力手段11は、当該位置情報を当該特定の形式に変換する機能を備えておくのが好ましい(例えば、“住所”を、“緯度・経度”に変換する等というようである。)。
この物件位置データ入力手段11は、具体的には、キーボード、タッチパネル等々であり得る。
【0015】
各種データベースは、震源情報データベース21、マグニチュード・データベース31、表層地盤増幅率データベース41からなる。
このうち震源情報データベース21は、地震動の発生源となる震源に関する情報を体系的に蓄えているデータベースである。震源に関する情報とは、例えば活断層等の震源の位置情報、その深さ、等々を含む。また、いま述べたような位置情報等の各種情報は、当然、複数の震源の各々について対応付けられるようにして整理されている。本実施形態においては、このような複数の震源(ないし、その各々についての位置情報等の各種情報)のうち一定のものは、物件位置データ入力手段11において入力された特定の物件の位置情報と関連付けられる。
【0016】
この関連付けに際しては、図1に示す震源選択手段25が関与する。すなわち、震源選択手段25は、入力された特定の物件の位置情報を基準として、ある特定の震源を選択する。この震源選択手段25の動作ないし機能の詳細については後に改めて説明する。
【0017】
マグニチュード・データベース31は、想定される地震のマグニチュードに関する情報を体系的に蓄えているデータベースである。マグニチュードに関する情報は、上述の震源情報データベース21に蓄えられている各震源(あるいは、後述する破壊開始点V(後に参照する図9参照)の各々)に対応する。つまり、震源(ないし破壊開始点V)とマグニチュードとは、典型的には、1対1で対応する。なお、震源(ないし破壊開始点V)とマグニチュードとの間の、このような親密な関係に注目すれば、震源情報データベース21とマグニチュードデータベース31とが図1に示すように別々に構成される必要はなく、両者は一体的に構成されてよい。そのほうが、両データベース(21,31)を設ける場合に比べて、システム構成がより簡易・効率的になるという利点が得られる。
表層地盤増幅率データベース41は、地表面に震動が到達する場合において、工学的基盤(あるいは、地震基盤)のS波速度の最大値を基準とした増幅率である表層地盤増幅率に関する情報を体系的に蓄えているデータベースである。このデータベース(41)に蓄えられている表層地盤増幅率データのうち一定の数のデータは、物件位置データ入力手段11において入力された特定の物件の位置情報と関連付けられる。つまり、その特定の物件に係る損害を評価するに当たっては、当然、その物件の所在位置における表層地盤増幅率データ、あるいはその物件が建っている地盤に係る表層地盤増幅率データが利用されるということである。なお、この表層地盤増幅率データベース41は、図1に示すように表層地盤増幅率に関する情報のみを蓄えるデータベースとして準備されてもよいし、あるいは、当該情報以外の情報を体系的に蓄えた他のデータベース(例えば、地質地盤類型データベース等)と併存するように準備されてもよい。
【0018】
地表面速度算出手段51は、前述した物件位置データ入力手段11によって入力された、ある特定の物件の位置情報、及び、各種データベース(21,31,41)から取得した必要なデータに基づいて、当該物件が経験する震動に係る地表面速度を算出する。この際、この算出手段(51)は、以下のような手順を踏む。
すなわち、まず、以下の(iv)式を用いて、S波速度600m/s相当の硬質地盤たる工学的基盤における最大速度PGVb600を求める。
【0019】
【数5】

【0020】
この式において、Mはモーメント・マグニチュード、Dは震源の深さ(単位;km)、dは地震動の種類に基づいて定まる定数(地殻内地震ではd=0、プレート間地震ではd=−0.02、プレート内地震ではd=0.12)、Xは特定物件と断層との間の最短距離(単位;km)、である。
【0021】
なお、本実施形態においては、後述するように、1個の震源について、複数の破壊開始点Vが想定された上で(後に参照する図9参照)、地表面速度の算出が行われるので、前記(iv)式中、震源の深さD、モーメント・マグニチュードM等には、同じ震源内であっても、それに含まれる複数の破壊開始点Vごとに異なる値が代入される可能性がある(むろん、たまたま、同じ値である可能性もある。)。他方、後に説明する、震源選択の際に利用される(i)式中の想定最大モーメント・マグニチュードM´、このM´を有する震源の深さD´等は、1個の震源について、当該震源を代表しうるような値が1個ずつ与えられる。
【0022】
次に、このPGVb600に、評価対象となっている物件が建っている地盤に係る表層地盤増幅率を乗じて、地表面速度を算出する。すなわち、
(地表面速度)=(表層地盤増幅率)×PGVb600 …… (v)
である。
【0023】
なお、本実施形態では、前述した(iv)式の右辺に現れるモーメント・マグニチュードM、及び、(v)式の右辺に現れる表層地盤増幅率については、図1に示すように、マグニチュード修正手段35、及び、表層地盤増幅率修正手段45による修正が行われ得る。この修正は、例えば、評価対象となっている物件の地盤について特別にボーリング調査等が行われたことがあり、その地質等についてのより正確・詳細な知見がある場合であって、そのような知見を用いれば、想定すべき表層地盤増幅率をより正確に推定することが可能である場合、等に行われる。このようなことは当然、モーメント・マグニチュードについても行われることである。こうした修正により後述する損害額算出の信頼性を高める結果をもたらす。
【0024】
損害額算出手段61は、地表面速度算出手段51によって算出された地表面速度に基づいて、評価対象となっている物件に生じ得る損害額を算出する。
この損害額の算出に当たっては、例えばイベントツリー解析による手法が好適に利用可能である。なお、前記地表面速度を用い、かつ、これに併せてイベントツリー解析による手法を用いた損害額の算出に際しては、物件位置データ入力手段11において入力された特定の物件の所在位置における地盤類型、当該物件の建物構造を考慮して算出された応答スペクトルから求められる倍率値を当該地表面速度に乗じることによって得られる地表面速度(これは、地震動に応じて振動する当該物件の「応答速度」とみなすことができる。)が用いられ得る。
以上に述べたようなイベントツリー解析による手法の一例の詳細については後に改めて説明する。
【0025】
なお、本実施形態では、地表面速度に基づいて、地表面速度算出手段51の一部を構成する地表面加速度算出手段63が地表面加速度を算出し、同じく同手段(51)の一部を構成する震度算出手段64が震度を算出する(図1参照)。これら地表面加速度及び震度はいずれも、例えば、ある地表面速度が観測されるならば、そのときの地表面加速度はこの程度であり震度はこの程度である、等といった適当な経験則あるいは経験式、等に基づいて求められ得る。あるいは、地表面加速度は、一定の時間経過を伴う地表面速度の変化を算出するとともに、それを微分することによっても求められ得るし、震度は、その逆フーリエ変換することによっても求められ得る。
このように、地表面加速度、あるいは震度が求められることによれば、一般的には、地震の規模を把握するために、地表面加速度表現や震度表現が用いられることがまだ多いという現状(あるいは、当該システム100を利用する顧客の要望)に、よりよく応えることができる。また、これらの表現による把握のほうが直感的把握には優れている等という側面があることもあって、当該の表現がそれなりに有用で役立つ場合もある。
なお、本実施形態においては、上述したように、地表面加速度算出手段63及び震度算出手段64が、地表面速度算出手段51の一部を構成するようになっているが、本発明は、かかる形態に限定されるわけではない。前者の各々(63,64)は、後者(51)とは別々のものとして設けられるようになっていてもよい。
【0026】
算出結果出力手段71は、損害額算出手段61によって算出された損害額や、地表面加速度算出手段63・震度算出手段64によって算出された地表面加速度・震度等のほか、地表面速度算出手段51によって算出された地表面速度それ自体等々、様々な情報を出力する。
この算出結果出力手段71は、具体的には、ディスプレイ、プリンタ等々であり得る。
【0027】
以上に述べた構成を持つ本実施形態に係る地震損害評価システム100は、次に述べるように動作する。以下、これを、既に参照した図1に加えて、図2乃至図11を参照しながら説明する。
まず、本実施形態に係る地震損害評価システム100のユーザは、物件位置データ入力手段11を介して、物件位置情報を入力する(図2のステップS10)。前述のように、この入力される情報の形式は、“緯度・経度”の形式、“住所”の形式等であり得る。
【0028】
次に、震源選択手段25が、この入力された特定物件の位置情報に基づいて、当該物件に損害を及ぼすことになるであろう震源を選択する(図2のステップS20)。この場合、選択の候補となるべき震源は、震源データベース25に蓄積されている震源の全部が対象となってもよいし、適当な選別方法によって、その一部が対象となってもよい。
本実施形態においては、このような震源の選択にあたって、特定物件の所在位置と、各種の震源の位置との間の距離に着目する。そして、この距離が、ある閾値を超えるか否かに基づいて、当該特定物件に損害を及ぼすことになるであろう震源、あるいは、当該特定物件に損害を及ぼすことになる蓋然性が比較的高いであろう震源を選択する。
【0029】
その際、前記の閾値としては、以下の(i)式内に含まれる無被害境界距離Xthが利用される。
【数6】

【0030】
ただし、この(i)式におけるA及びBは、それぞれ、
【数7】


【数8】


であり、かつ、これらの式中、M´は想定最大モーメント・マグニチュード、D´は前記想定最大モーメント・マグニチュードを有する震源の深さ、d´は地震動の種類に基づいて定まる定数(地殻内地震ではd´=0、プレート間地震ではd´=−0.02、プレート内地震ではd´=0.12)、Vは無被害境界地表面速度、αは特定物件の所在位置における表層地盤増幅率、a,b,cは適当な定数、である。なお、(iii)式は、(iv)式の一種の変形と考えることができるので、定数a,b,cは、当該(iv)式中に含まれる各係数に準じて適当に定めることが可能である。例えば、a=0.58、b=0.0038、c=0.0028などというようである((iii)式と(iv)式とを対比参照)。
【0031】
これらのうち無被害境界地表面速度Vとは、特定物件の建物、構造物、及び、当該特定物件の内部又は外部に付属する付属物に損害を発生させないと想定される地表面速度を意味する。付属物とは、主に、当該特定物件の内部に収容されている収容物(例えば、各種建具、設備、機械・装置、商品等の各種動産)を含む。
このVは、例えば図3に示すように段階的に定められて好適である。図3においては、特定物件の種類A〜Eが、前記収容物が地震動に対しどのような性質をもつかに応じて定められており、無被害境界地表面速度Vは、これらの種類A〜Eの各々に応じて5段階に設定されている。この中から1つだけ例をあげて説明すれば、特定物件が、震動に対してかなり強靭な耐性を有する物件、即ち種類Eに属する物件である場合は、Vは、相対的に大きな値である20〔m/s〕と定められる。これは、このような物件が、相対的に大きな地表面速度をもつ地震動に襲われたとしても、当該物件に損害は発生しにくいだろうという想定に基づいている。
【0032】
ちなみに、ある物件が、図3に示す種類A〜Eのどこに属するかを定めるに当たっては、当該物件が、如何なる業種・業態の事業を行っている物件であるかを参考にするとよい。例えば、大量の動産を頻繁に庫出し・倉入れ等する倉庫業等に使用される物件は、地震動に対して極めて脆弱といえるから、当該物件は図3の種類Aに属する、等というようである。
もちろん、物件の種類を特定するに当たっては、このような定性的な判断に加えて、特定物件の現地調査の結果等が反映されてよい。また、そのような現地調査が行われるときには、図3に示す無被害境界地表面速度Vの各値は、適宜、微調整を受けてもよい。上の倉庫業の例に即していえば、同じ種類Aに属する倉庫業を営む物件ではあるが、一定の耐震対策が施されている物件については、Vを5.2(=4+4×0.3。即ち図3の数値の30%増)とし、全く耐震対策が施されていない物件については、Vを2.8(=4−4×0.3。即ち図3の数値の30%減)とする、等というようである。
【0033】
以上のVをはじめ、(i)〜(iii)式に適当な数値を代入することにより、無被害境界距離Xthは定まる。図4から図7は、無被害境界距離Xthが定められる一連の流れを視覚的に表現している。
まず、図4は、上述の(ii)式に対応し、したがって(i)式の左辺に対応する。この図4では、想定最大モーメント・マグニチュードM´が7.5から9.5まで0.5刻みに増加する場合における、(ii)及び(i)式中のAの値が算出されている。
また、図5は、上述の(iii)式に対応し、したがって(i)式の右辺に対応する。この図5では、特定物件の所在位置における表層地盤増幅率αが2.0に固定された上で、想定最大モーメント・マグニチュードM´が7.5から9.0まで0.5刻みに増加し、かつ、地震動の種類に応じて震源深さD´及びd´が適当に定められた場合における、(iii)及び(i)式中のBの値が算出されている。なお、図5ではさらに、前述した無被害境界地表面速度Vが、図3に従って変動するパラメータとなっている。
【0034】
これら図4及び図5のように算出されるA及びBのそれぞれを、(i)式の左辺及び右辺に代入して、Xthの値を適当にふれば、(i)式中の等号を成立させるXthは算出され得ることになる。
あるいは、このようなXthの算出は、図6及び図7に示すように、グラフを用いて説明することもできる。
図6は、図5に示す活断層地震の場合における無被害境界距離Xthの算出を例示し、図7は、プレート境界地震の場合における無被害境界距離Xthの算出を例示する(なお、両図において、想定最大モーメント・マグニチュードM´は適当な値に固定されている。図6ではM´=8.5、図7ではM´=9.0である。)。これらの図において、横軸のXthの増加に連れて比例関数的に増加する直線は、図4のように算出されたAの具体値が代入された(i)式の左辺に相応する。また、図6及び図7において、横軸のXthの増加に連れて指数関数的に減少する各曲線は、図5のように算出されたBの具体値が代入された(i)式の右辺に相応する。これら各曲線の実線、短破線、一点差線、二点差線、及び長破線の各々は、図示するように、パラメータである無被害境界地表面速度Vの値の相違に対応する。なお、これら図6及び図7において、縦軸の値((i)式左辺の値、あるいは右辺の値)は、「影響指数」と名付けられている。
(i)式中の等号が成立するためには、Xthが、前記の直線と、各曲線との交点における値をとる必要がある。例えば、特定物件が図3の種類A(V=4)に属する場合には、図中に示す点Zに対応するXth(図6中、「Xth1」参照)が求めるべき無被害境界距離Xthということになる。
【0035】
無被害境界距離Xthは以上のようにして求められるが、震源選択手段25は、特定物件と震源情報データベース21の中に蓄積されている複数の震源の全部又は一部の各々との間の距離が、このXthを超えるかどうかによって、当該物件に損害を及ぼすことになるであろう震源(あるいは、その蓋然性が高い震源)の選択を行う。具体的には、ある震源についての前記距離がXthよりも小さい場合には、当該震源は選択され、前記距離がXthよりも大きい場合には、当該震源は選択されない、などというようである。
【0036】
以上の結果、例えば図8に示すように、特定の震源E1,E2及びE3が選択される。この図においては、評価対象となる特定物件81は星印で表されており、この特定物件81が、海岸線SL沿いの土地の上に建っている状況が表現されている(なお、この海岸線SLは想像上のものに過ぎない。)。そうして、この図における震源E1,E2及びE3は、特定物件81の位置情報を基準として、それら各々の位置が無被害境界距離Xthを超えないという条件を満たすものとして選択されている(特定物件81と震源E1との間の距離D1は、Xthよりも小さい。)。ちなみに、震源E1及びE2は内陸に、震源E3は海岸線SL沿いの海中(海底)に存在するものである。
以下、この図3に示すような震源E1,E2及びE3が選択されたことを前提とした説明を行う。なお、このように選択される震源E1,E2及びE3は、本発明にいう「評価対象震源」の一例に該当する。
【0037】
次に、地表面速度算出手段51は、震源E1,E2及びE3に関する情報、モーメント・マグニチュードM、及び特定物件81の所在位置に係る表層地盤増幅率を取り込んだ上で(図2のステップS30)、上述した(iv)及び(v)式に基づいて地表面速度を算出する(図2のステップS40)。
この際、本実施形態においては、図9に示すように、各震源E1,E2及びE3の断層面EPに関して、格子状に分布する破壊開始点Vが想定される。この図では、震源E1の断層面EPを例に取り、その断層面EP上に、全部でn×m個の破壊開始点V(1,1),V(1,2),…,V(n,m)(n,mは正の整数)が設定される例が示されている(以下、このような破壊開始点を一般にV(i,j)と表現することがある(i=1,2,…,nであり、j=1,2,…,mである。)。
地表面速度は、このような破壊開始点V(i,j)ごとに固有に求められる。すなわち、(iv)式において、震源の深さD、モーメント・マグニチュードM等は、破壊開始点V(i,j)ごとに固有に定められる。
以下では説明を簡単にするため、震源E1,E2及びE3の全てに関して、同様に、n×m個の破壊開始点V(i,j)が想定されるものと仮定する(もっとも、このような単純な仮定は、各断層の構造が異なることがむしろ通常であると考えられる以上、格子点の間隔を各断層で統一する限りは、ふつうは成立しないと考えてよい。かかる仮定をおくのは、あくまでも説明の便宜のためである。)。
【0038】
なお、地表面速度算出手段51が上述のような個々の破壊開始点V(i,j)に固有の地表面速度を算出するに当たっては、(iv)及び(v)式の所定の項に代入すべきモーメント・マグニチュードMと表層地盤増幅率の具体値を、それら各々のデータベース(31,41)から取り込むが、これらの値に対しては、適宜、マグニチュード修正手段35及び表層地盤増幅率修正手段45による修正が行われ得る(図1参照)。これにより、既に述べたように、特定物件81に発生する後述の損害額算出の信頼性はより高まる。
【0039】
次に、損害額算出手段61は、上述の震源E1,E2及びE3の別ごと、かつ、破壊開始点V(i,j)ごとに求められた地表面速度に基づいて、評価対象となっている特定物件81の損害額を算出する(図2のステップS50)。この損害額の算出には、前述のようにイベントツリー解析による手法が好適に利用可能である。
イベントツリーは、一般的には、例えば図10に示すように構築される。この図におけるイベントツリーでは、上述の手順に従って算出された個々の地表面速度を起点として(言い換えると、当該地表面速度をもつ地震動の発生を起点として)、各イベントA,B,…を構成する各事象の発生の有無及びその態様、並びにその発生確率、等が問題とされている(なお、イベントツリーの起点には、「地表面速度」に代えて、前述した「応答速度」が用いられてもよい。)。例えば、図10においては、イベントAに関し、事象aが発生確率Pで発生すると、その後イベントBに関し、事象bが発生確率Qで発生し、事象bが発生確率1−Qで発生する(後者の場合の発生確率は前者の場合の余事象を意味するから、事象bの発生とは、事象bの非発生とみなすことができる。)。また、このイベントツリーでは、イベントAに関し事象aが発生すると、その後、イベントCに関する事象は発生し得ないことも表現されている(イベントAに関し事象aが発生すると、その後、イベントCに関し事象c及びcの発生の有無が問題とされていることと対比されたい。)。
このようなイベントツリーは、場合によっては、算出された地表面速度の値の別に従い、複数種類、準備され得る。
【0040】
より具体的に言えば、上述のイベントA,B,…の各々は、例えば物件損壊の有無及びその程度、火災発生、津波発生、防波堤決壊、等々を意味する。例えば、図中の「イベントA」が「物件損壊」を意味するとすれば、それは全壊、半壊、一部損壊、及び非損壊の各事象に区分可能である。そうすると、図10は、これら各事象の発生確率をそれぞれP,P,P,1−(P+P+P)と定めているものと読むことができる。このような個々の具体的な事象に関する発生確率は、例えば既存の各種統計情報を利用すること等により適当に定めることができる。
【0041】
このようなイベントツリーを辿っていくと、最終的に、複数のイベントに関する複数の事象の連鎖から構成される特定の事象と、その発生確率を定めることが可能である。例えば、図10に示す「最終事象A」は、事象a,b,c,dの連鎖から構成され、その発生確率は、P・(1−Q)・R・Sで与えられる。そして、このような事象a,b,c,dの各々、あるいはその連鎖によって生じる損害の額を適当に見積もっておけば、当該最終事象Aが発生した場合の損害額を算出すること(及び、その発生確率を算出すること)が可能になる。
最終的には、このような最終事象Aをはじめとする、図10のイベントツリーにおいて想定可能な最終事象の各々についての損害額と、その発生確率との積和を計算していけば、評価対象となっている特定物件81における想定地震シナリオによる損害額期待値を算出することができる。そして、この結果は、当該イベントツリーの起点、つまり先に求めた地表面速度(ないしは、当該地表面速度に対応する破壊開始点V(i,j)を発生源とする地震動)に帰せられることになる。
【0042】
以上のようにして求められた損害額は、算出結果出力手段71によって、ユーザに視認可能、あるいは判読可能な形で出力される(図2のステップS60)。図11にはその一例が示されている。この図11においては、横軸に損害額が、縦軸に損害発生確率がとられたグラフ平面が描かれており、前述した破壊開始点V(i,j)ごとに求められた損害額と、その破壊開始点V(i,j)を起点とする破壊によって地震動が発生する確率(即ち損害発生確率)との関係が、このグラフ平面上にプロットされている。なお、図中、pは、2,3,…,n−1のいずれか1つの値を意味し、qは、2,3,…,m−1のいずれか1つの値を意味する。また、図11の縦軸上の値の増大方向が逆にとられるならば、この縦軸は、当該地震の発生の「再現期間」を意味するものと読み替え可能である。
【0043】
この図からは、例えば以下のような各種の特徴をよみとることが可能である。
(a) 震源E1内の破壊開始点V(1,1)を起点とする破壊及び地震動は発生しやすいと考えられるが、地震動の大きさ(即ち、本実施形態においては地表面速度)はさほどではなく、損害額は相対的に小さい。
(b) 震源E2内の破壊開始点V(1,1)を起点とする破壊及び地震動の発生は、損害額及び損害発生確率の点で震源E1内のそれと同視しうる。
(c) 損害発生確率の減少とともに損害額は増大する傾向にあるが、その増大に関して震源E1,E2及びE3の別が強い相関を持つわけではない。例えば、同じ震源E2内でも、より小さな損害しか想定されない破壊開始点V(1,1)があり、より大きな損害が想定される破壊開始点V(n,m)がある一方、両者の中間程度の損害が想定される震源E3の破壊開始点V(1,1)も存在する。このように、損害額の大小は、震源E1,E2及びE3それ自体に依存するというよりも、それら各震源E1,E2及びE3をより微細な観点で見た破壊開始点V(i,j)の各々に依存するということができる(各破壊開始点V(i,j)の中には、通常は強く固着しているが破壊時には激しい地震波を出す領域(即ち、アスペリティ)に含まれるものもある。)。同じ震源でも、破壊開始点が異なれば、それを原因とする地震動、地表面速度及び発生損害の程度は異なってくることが通常である以上、この点を強調して一般化すれば、図11のようなグラフが描かれうることは不思議ではない。
【0044】
図11からは、そのほかの特徴を読み取ることも可能であるが、いずれにせよ、本実施形態においては、このようにして特定物件81に発生する損害の程度及びその発生傾向が算定されることになる。
なお、本実施形態においては、算出結果出力手段71は、地表面加速度算出手段63、あるいは震度算出手段64によって算出された、地表面加速度あるいは震度を、図11に示すような出力・表示とともに又はこれに代えて、出力・表示することが可能である(図2のステップS40及びS60参照)。この場合、当該加速度あるいは震度の出力・表示は、特定物件81近傍の領域を一定の大きさ(例えば50mとか1km等)で区切ったメッシュごとに行うことが可能である(この場合更に、加速度等の大きさを色の塗分けによって表現した、より視覚的に訴求力のある地図的表示を行うことも当然可能である。なお、地表面速度についても、同様の出力・表示を行うことが可能である。)。これにより、既に述べたように、顧客の要望によりよく応えることが可能となり、あるいは、地震の態様の直感的把握に資する、等といった各種効果が奏される。
【0045】
以上に述べたような構成をもち動作する、本実施形態に係る地震損害評価システム100によれば、次のような効果が奏される。
まず、この地震損害評価システム100では、上述のように、特定物件81の損害額を算出するための評価対象となる震源が、震源選択手段25によって適当な手法により選択されているために、例えば全震源を対象とした計算を実行する場合との対比から明らかなように、損害額算出のための計算速度の向上が達成される。
また、これに関連して、本実施形態においては、このような震源選択に際して、前記(i)〜(iii)式から導かれる無被害境界距離Xthが利用されていることから、特定物件81に影響を及ぼしそうな震源の選択を極めて適切に行うことができる。
【0046】
さらに、この地震損害評価システム100によれば、地表面速度の算出、及びそれに引き続く損害額の算出が、破壊開始点V(i,j)ごとに行われるようになっているので、それらの算出・算定結果の実態をより正確に把握することが可能であるとともに、これによって当然、当該結果の信頼性をより高めることができる。
加えて、そもそも、本実施形態においては、地表面速度の算出に当たって、前記(iv)式のように表現される、いわゆる司・翠川の公式が利用されていることから、その算出結果の信頼性は高く、したがって、特定物件81に生じる損害額の算出の信頼性も極めて高い。
【0047】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明に係る地震損害評価システムは、上述した形態に限定されることはなく、各種の変形が可能である。
上記実施形態においては、本発明にいう「評価対象震源」たる震源E1,E2及びE3を選択するに際して、前記(i)〜(iii)式を利用して無被害境界距離Xthを求める手順等を踏んでいるが、本発明は、かかる形態に限定されない。
例えば、図12に示すように、特定物件81の周囲に存在する震源のうち当該特定物件81により近いものから順に数えて5つまでの震源E1〜E5を、本発明にいう「評価対象震源」として選択するという態様であっても、本発明の範囲内にある。この場合、本発明にいう「影響度」が、特定物件81と各震源との距離であることは上記実施形態と変わりないが、本発明にいう「所定レベル」は、無被害境界地表面速度V等の各種要素への配慮を払った上で定められた無被害境界距離Xthなのではなくて、極めて素朴に、予め定めた震源の個数でもって定められているとみることができる(より正確に言えば、この場合における「所定レベル」とは、“特定物件81の周囲に存在する震源のうち当該特定物件81により近いものから順に数えて所定個数に至るまでの震源であって、その中で最遠の震源と当該特定物件81との間の距離”、が、それに該当するということもできる。)。
このような素朴な手法は、基本的に、特定物件81を基準として一定の範囲を画する、あらゆる方法に応用可能である。例えば、特定物件81を中心とし、一定の半径をもつ円状の領域を仮定するとともに、そこに含まれる震源の全部を評価対象とするという態様であっても、本発明の範囲内に含まれる。この場合における「半径」には、無被害境界距離Xthの背景に控える前述したような技術的思想は特になくてよい(もちろん、前述したのとは異なる技術的思想等による裏付けがあってもよい。)。
【0048】
これらのような場合、上記実施形態に比べて震源選択の適切性に劣るおそれはあるものの、全震源を対象とした計算を実行するよりは、計算の負担はやはり格段に減少するから、上述したのと同様の効果が奏されることに変わりはない。
【符号の説明】
【0049】
100……地震損害評価システム、11……物件位置データ入力手段、21……震源情報データベース、31……マグニチュード・データベース、41……表層地盤増幅率データベース、25……震源選択手段、35……マグニチュード修正手段、45……表層地盤増幅率修正手段、51……地表面速度算出手段、61……損害額算出手段、63……地表面加速度算出手段、64……震度算出手段、71……算出結果出力手段、81……物件、E1,E2,E3,E4,E5……震源、SL……海岸線、V(i,j)……破壊開始点、EP……断層面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の物件の位置情報を入力するための物件位置入力手段と、
地震動の発生源たる震源の位置情報及び深度情報を記憶する震源データベースと、
前記地震動が前記特定の物件に及ぼす影響度を、前記震源データベースに含まれる複数の前記震源の全部又は一部について想定するとともに、当該影響度が想定された一又は二以上の震源の中から当該影響度が所定レベル以上となる一又は二以上の評価対象震源を選択する震源選択手段と、
前記評価対象震源の各々について発生が想定される地震動に係る地表面速度を算出する地表面速度算出手段と、
前記地表面速度に基づいて、当該地表面速度に対応する震源を発生源とする前記地震動によって前記特定の物件に発生する損害の程度を算定する損害算定手段と、
を備えることを特徴とする地震損害評価システム。
【請求項2】
前記影響度は、
前記特定の物件と前記震源との間の物件・震源間距離、を含み、
前記所定レベルは、
下記(1)式を満たす距離Xthで与えられ、
【数1】

前記震源選択手段は、
前記物件・震源間距離が、前記距離Xthを上回るか否かに基づいて、
前記評価対象震源を選択する、
ことを特徴とする請求項1に記載の地震損害評価システム。
ただし、前記(1)式におけるA及びBは、それぞれ、
【数2】

【数3】

であり、かつ、
これらの式中、
´は、想定最大モーメント・マグニチュード、
D´は、前記想定最大モーメント・マグニチュードを有する震源の深さ、
d´は、地震動の種類に基づいて定まる定数、
は、前記特定の物件の建物、構造物、及び、当該物件の内部又は外部に付属する付属物に前記損害を発生させないと想定される地表面速度、
αは、前記特定の物件の所在位置における表層地盤増幅率、
a,b,cは、適当な定数、
である。
【請求項3】
前記震源は、前記地震動の発生源としての複数の破壊開始点を含み、
前記地表面速度算出手段は、
前記評価対象震源に含まれる前記複数の破壊開始点ごとに前記地表面速度を算出し、
前記損害算定手段は、
前記損害を前記破壊開始点ごとに算定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の地震損害評価システム。
【請求項4】
前記地表面速度算出手段は、
前記評価対象震源について下記(4)式に従って求められるPGVb600に、
前記特定の物件の所在位置における表層地盤増幅率を乗じることに基づいて、
前記地表面速度を算出する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の地震損害評価システム。
【数4】

ただし、この(4)式中、
PGVb600は、S波速度600m/s相当の硬質地盤たる工学的基盤における最大速度、
は、当該評価対象震源に係るモーメント・マグニチュード、
Dは、当該評価対象震源の深さ、
dは、地震動の種類に基づいて定まる定数、
Xは、前記特定の物件と当該評価対象震源との間の距離、
である。
【請求項5】
前記地表面速度算出手段は、
前記(4)式におけるM及び前記表層地盤増幅率を修正する修正手段を含む、
ことを特徴とする請求項4に記載の地震損害評価システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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