説明

地震計及びこれを用いる加速度検出方法

【課題】簡単な構成で複雑な操作、設定を必要とせずに、地震に伴う微小な変形量を計測して記録することができる地震計を提供する。
【解決手段】木造建物の変形を計測し易い仕口部分に設置されて木造建物の横揺れによる変形を計測し記録する地震計であって、横揺れにより変形する仕口部分の柱に当接するように設置されて前記柱の変形に応じて移動する測定子40と、前記測定子に連結されて前記測定子の移動に応じて回動するアーム20と、前記アームに設けられて前記アームの回動量を記録する記録手段24と、前記測定子を移動可能に保持すると共に、前記アームを回動可能に軸支し、前記記録手段による記録領域を持つベース10とを含む。前記測定子は、その長さを調節可能な構造にされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地震計に関し、例えば地震の際に木造建物が受けた被害を簡便に数値化できる地震計及びこの地震計を用いて木造建物に実際に作用した地震の加速度を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地震の際に建物、特に木造建物におよぶ地震力は、建物の重量に依存する。また、建物が倒壊するか否かは、建物の強さと粘りによって決定される。建築基準法において、建物の強さ、粘りは保有耐力と称されており、建物の壁の種類、量から計算される。
【0003】
地震力の大きさと保有耐力の大きさの拮抗により、建物の変形量が決まる。建物の変形量が大きければ建物は倒壊し、小さければ軽微な被害ですむ。これは、変形量を増すごとに建物の随所が損傷し、最終的には自重を支えることができなくなるためである。
【0004】
建物の変形量は最大層間変形角(あるいは量)という数値で定義することができる。すなわち、地震時の最大層間変形角(あるいは量)は、建物の劣化(建物の損傷状況)に関連し、建物の被災度判定の基準の一つとなっている。非特許文献1では、地震時に建物に生じた一番大きな変形を「経験最大変形角」という角度で表現している。また、非特許文献1の中で、経験最大変形角は、地震後の残留変形や、壁などの破損状況から推定する値とされている。ただし、破損状況を把握するうえである程度の個人差が生じることは否めない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3974853号公報
【特許文献2】特開2010−261193号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「震災建築物の被災度区分判定基準および復旧技術指針 木造編」263−268頁、監修 国土交通省住宅局建築指導課、発行 財団法人 日本建築学会
【非特許文献2】「小規模建築物基礎設計指針」、日本建築学会発行、第65頁
【非特許文献3】「木造住宅の耐震診断と補強方法」、日本建築防災協会発行
【非特許文献4】平成12年建設省告示第1654号 第5 評価方法の基準 1.構造の安全に関すること
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在の建築基準で建てられた家屋(主に2階建ての木造建物)は、地震等により1/30(rad)変形すると、倒壊する可能性が高くなると言われている。これは、一階床に対して、2階の床が、水平方向に、100mm変形することを意味している(1階床から2階床までの高さが3mの場合)。また、1/120(rad)の変形で、建物が破損し始めると言われており、この時の変形量は25mmとなる(同じく1階床から2階床までの高さが3mの場合)。
【0008】
一方、地震が発生すると、気象庁より地震速報として震源を中心とする周辺地域(例えば市、町、村)毎に震度が発表される。従って、この発表では、ある広さの地域がすべて同じ震度であったと見なされ、大雑把であると言わざるを得ない。一方、震度そのものについても、例えば震度5の場合、震度5弱、震度5強というように分類されているものの、これを地震の加速度(gal)で表すと、震度5の場合、80(gal)〜250(gal)という広い範囲となる。そのため、地震速報によりある地域において、例えば震度5弱と発表された場合、ある地域内のある建物では実際にどの程度の震度であったのかを知ることができないし、実際にどの程度の加速度が作用したのかを知ることもできない。加速度を知ることの必要性については後で詳しく説明する。
【0009】
以上のような点に鑑み、本発明の主たる課題は、簡単な構成で複雑な操作、設定を必要とせずに、地震に伴う微小な変形量を計測して記録することができる地震計を提供することにある。
【0010】
本発明の別の課題は、地震が建物、特に木造建物に及ぼす損傷の程度を判定する手段の1つのツールとして利用することのできる地震計を提供することにある。
【0011】
本発明の更に別の課題は、上記の地震計を用いて、地震の際に、木造建物に実際に作用した地震の加速度を検出する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の態様によれば、建物の変形を計測し易い箇所に設置されて建物の横揺れによる変形を計測し記録する地震計であって、横揺れにより変形する建物の構成部材に当接するように設置されて前記構成部材の変形に応じて移動する測定子と、前記測定子に連結されて前記測定子の移動に応じて回動するアームと、前記アームに設けられて前記アームの回動量を記録する記録手段と、前記測定子を移動可能に保持すると共に、前記アームを回動可能に軸支し、前記記録手段による記録領域を持つベースとを含み、前記測定子は、その長さを調節可能な構造にされていることを特徴とする地震計が提供される。
【0013】
本発明の好ましい態様においては、前記建物が木造建物であって、前記建物の変形を計測し易い箇所は仕口部分であり、前記ベースを前記仕口部分の梁に固定する一方、前記測定子はその先端が前記仕口部分の柱に当接するように設置される構成とされるのが望ましい。
【0014】
本発明の別の態様によれば、対象木造建物に対して横揺れを与え、この横揺れにより生じる対象木造建物の変形量を一方の軸、対象木造建物に作用する横揺れの加速度を他方の軸とする変形量−加速度特性を、対象木造建物に対して決定するステップと、対象木造建物の変形を計測し易い箇所に地震計を設置して実際の地震時の変形量を計測し、記録するステップと、前記決定された変形量−加速度特性を用いて、前記記録された変形量に対応する加速度を判定するステップと、を含み、前記地震計として、対象木造建物の変形を計測し易い箇所に設置されて対象木造建物の横揺れによる変形を計測し記録する地震計であって、横揺れにより変形する対象木造建物の構成部材に当接するように設置されて前記構成部材の変形に応じて移動する測定子と、前記測定子に連結されて前記測定子の移動に応じて回動するアームと、前記アームに設けられて前記アームの回動量を記録する記録手段と、前記測定子を移動可能に保持すると共に、前記アームを回動可能に軸支し、前記記録手段による記録領域を持つベースとを含み、前記測定子が、その長さを調節可能な構造にされている地震計を用いることを特徴とする加速度検出方法が提供される。
【0015】
なお、前記対象木造建物に対して横揺れを与えて前記変形量−加速度特性を対象木造建物に対して決定するステップを実行する手段としては、対象木造建物の2階に水平動起振機を設置して対象木造建物を横揺れ振動させた時の振動の加速度を検出して検出信号を出力するための少なくとも2つの振動検出器と、少なくとも2つの前記検出信号を受けて予め定められた解析処理を行う解析器を含む耐震診断システムであって、該解析器が、前記解析処理として、前記少なくとも2つの検出信号についてフーリエ変換を行なってから加速度値と振動の周波数に関する解析を行って前記加速度値がピーク加速度値を示す時の前記振動の周波数を建物の動的固有周波数f(Hz)として検出する、耐震診断システムを用いることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明による地震計は、建物の内部に少なくとも1個設置することで、建物の最大変形量(角)を計測し記録することができ、複雑な操作、設定も必要ない。
【0017】
本発明による地震計は実際の変形量を測定し、記録することから、建物の損傷の判定に際して目視などの個人差が生じることがなく、より定量的な判断を行うことができる。
【0018】
本発明による加速度の検出方法は、地震の際に実際に木造建物に作用した加速度を知ることができ、実際に作用した加速度と木造建物の損傷の程度を考慮して、補強の必要性の有無を判断する際の一助とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による地震計の設置に適した箇所の一例として木造建物の仕口部分を示した図である。
【図2】図1に示した仕口部分が地震の横揺れにより変形することを説明するための図である。
【図3】図1に示した仕口部分に本発明による地震計を設置した状況を示す図である。
【図4】本発明による地震計を正面(図a)及び側面(図b)から見た図である。
【図5】図4におけるアームを回動可能に軸支する軸部の一例を説明するための図である。
【図6】図4に示した測定子の一例を説明するための図である。
【図7】図4に示したガイドプレートの一例を説明するための図である。
【図8】図4に示した記録用プレートの一例を説明するための図である。
【図9】本発明による地震計を用いて地震の加速度を検出する際に併用される耐震診断システムの構成を示すブロック図である。
【図10】2階建て木造建物の場合における振動検出器の設置形態及び建物上部荷重の定義を説明するための図である。
【図11】2階建て木造建物の場合における振動検出器の設置形態を説明するための平面図である。
【図12】図9の耐震診断システムにおいて検出される加速度と動的共振周波数の関係を示した図である。
【図13】木造建物における地震の加速度及び震度と変位量の関係を示す特性図である。
【図14】木造建物の必要耐力Qr1の算定に必要な木造建物の単位重量を示した図である。
【図15】木造建物の必要耐力Qr2の算定に必要な木造建物の必要耐力係数を示した図である。
【図16】木造建物の動的剛性Kdの算定に必要な、品確法により定められている壁量を示した図である。
【図17】木造建物の安全限界時の保有耐力の算定に必要な耐力低減係数dの算定例を示した図である。
【図18】中古住宅の改修前と改修後の保有耐力の算定に必要な劣化係数の例を示した図である。
【図19】図9の耐震診断システムによる耐震診断で決定された、ある木造建物Aの変形量−加速度特性の例を示した図である。
【図20】図9の耐震診断システムによる耐震診断で決定された、別の木造建物Bの変形量−加速度特性の例を示した図である。
【図21】図19の木造建物Aに設置された地震計で計測、記録された変形量を基に、図19に示した変形量−加速度特性から木造建物Aに作用した加速度を検出することを説明するための図である。
【図22】図20の木造建物Bに設置された地震計で計測、記録された変形量を基に、図20に示した変形量−加速度特性から木造建物Bに作用した加速度を検出することを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明による地震計は、木造建物の場合には図1に示すように、柱100と梁200の接する仕口部分に設置するのが好ましい。これは、図2に示すように、地震時の横揺れにより柱100と梁200の間に変形角θで示されるような変形が生じることを想定しているからである。なお、本明細書で変形というのは、図2に示されるように、厳密に言えば変位であり、柱100が細くなったり、太くなったりする変形よりも、むしろ元々の位置からの変位を意味する。
【0021】
本発明による地震計は、地震時の横揺れによる最大変形量(あるいは角)を計測するのに適しており、計測された最大変形量(あるいは角)が記録手段によりリアルタイムで記録される。
【0022】
図3は、本発明による地震計の設置形態を示す。地震計1の下部側から水平方向に突出している測定子40の先端を柱100の一面(正面から見て側面)に当接させた状態で、地震計1を梁200に固定している。これにより、地震の横揺れによる柱100の変形(変位)を測定子40の変位量として検出し、この変位量を増幅したうえで記録手段の振れ量(角)に変換して記録する。記録された振れ量(角)で利用されるのは、主に最大振れ量(角)である。
【0023】
図4〜図8を参照して、本発明による地震計を木造建物に適用する場合の実施の形態について説明する。
【0024】
図4を参照して、地震計1は、仕口部分の梁に取り付けられるベース10、アーム20、記録用プレート30、測定子40を含む。ベース10は、機械的強度の大きい、例えば金属製の長四角形の板である。アーム20は、地震に伴う木造建物の変形量を記録するためのものであり、ベース10の主面に沿って回動可能なようにその下端側が軸部21を介して軸支されている。アーム20は、板状部材と、この板状部材の上端側に板状部材の延長方向に延びるように取り付けた板バネによるジョイント22と、ジョイント22の先端に取り付けた記録部ホルダー23を含む。アーム20の板状部材の材料は、金属製、樹脂製等何でも良い。アーム20の下端側には、軸部21を、ベアリング21−1を介して装着するための貫通穴20−1がここでは2個設けられている。貫通穴20−1を2個にする理由は後述する。
【0025】
図5は軸部21を示し、ベアリング21−1(図4b)に挿通される軸21−2と、これよりも太い軸部本体21−3から成る。軸部本体21−3には、雌ネジ21−4が形成されている。
【0026】
図4に戻って、アーム20の貫通穴20−1にベアリング21−1を装着し、ベアリング21−1に軸部21の軸21−2を挿通した後、軸21−1の抜けを防止するロック部材を軸21−1に装着する。その後、ベース10の裏面側からベース10にネジを通し、軸部本体21−3の雌ネジ21−4に螺入する。これにより、アーム20は、ベース10の主面に沿って回動可能な状態で軸支される。
【0027】
記録部ホルダー23は筒状部材を有する。筒状部材は、記録手段24、ここでは鉛筆を、ベース10の主面側に向けた状態で保持する。筒状部材には、その内部に進入可能なネジ23−1が取り付けられ、ネジ23−1を締めることで鉛筆を筒状部材に固定保持し、ネジ23−1を緩めることで鉛筆を筒状部材から取り外すことができる。ジョイント22を板バネで構成しているのは、鉛筆の筆圧を適度にするためである。記録手段24は、鉛筆のほか、ペン、その他、記録が可能なものであれば何でも良い。アーム20の下端側は、ベアリング21によってこのベアリング21の中心を軸として回動可能に軸支されているほか、軸支部より少し上方の位置で測定子40の一端と連結されている。
【0028】
図6は測定子40の一例を示す。測定子40は、ドーム状の頭部を持つネジ体41と、このネジ体41を受け入れる雌ネジ部42−1を持つ連結棒42から成る。連結棒42の一端側、すなわち雌ネジ部42−1側とは反対側の端部は2股になるように切り分け加工され、2股部にはピン43(図4)を通すための貫通穴42−2が設けられている。
【0029】
図4に戻って、連結棒42の一端側を2股にするのは、この間にアーム20の板状部材を通すためであるので、2股部の間隔は板状部材の板厚より少し大きくされる。アーム20の板状部材において連結棒42と連結される部分には、アーム20の延在方向に長い長孔20−2が設けられている。そして、連結棒42の貫通穴42−2、アーム20の長孔20−2を通してピン43を通しピン43の両端を潰すことでアーム20と測定子40とを連結している。長孔20−2をアーム20の延在方向に長くしている理由は後述する。
【0030】
測定子40は、ベース10に取り付けられたホルダー12により、ベース10の主面に沿って往復動自在に保持されている。すなわち、ホルダー12は、そこに設けられた貫通孔に測定子40の連結棒42を挿通することで測定子40を往復動自在に保持している。アーム20は測定子40と連結された状態でベース10に設置される。
【0031】
地震計1は、図3で説明したように、測定子40のネジ体41のドーム状頭部が柱に接するように設置される。設置に際しては、連結棒42に対するネジ体41のねじ込み量を調節することで、ドーム状頭部が柱の側面に当接するように設定される。
【0032】
図4(a)において、測定子40のドーム状頭部が柱の側面に当接するように、ベース10が梁に取付けられていると仮定して、柱が地震に伴う横揺れにより図2に示すように揺れると、測定子40は柱で押されて柱が揺れた分だけ右方向に移動する。これにより、測定子40の一端に連結されたアーム20が押され、アーム20はベアリング21−1の中心を軸として時計回りに回動する。
【0033】
ベース10とアーム20の間であってアーム20と測定子40との連結部に近い位置には、引張りバネ13が設けられている。引張りバネ13は、測定子40に対する押圧力が無くなった時に、時計回りに回動したアーム20を回動前の位置に復帰させるためのものである。これにより、地震によって柱が図2に示す方向の揺れに続いて反対方向に揺れると、測定子40の一端に連結されたアーム20が引張りバネ13で引っ張られ、アーム20はベアリング21−1の中心を軸として反時計回りに回動する。このようにして、地震に伴う柱の揺れにより、アーム20も往復回動する。アーム20においてピン43を通すための孔を長孔20−2としているのは、次の理由による。つまり、ピン43は測定子40の連結棒42と一体であり、測定子40の往復動によってアーム20を円滑に回動させるためには、測定子40の往復動に伴いピン43がアーム20の延在方向にわずかにずれることを許容する必要があるからである。
【0034】
アーム20と測定子40の連結部における横方向への変位量はアーム20で増幅されアーム20の先端に保持された記録手段24が往復回動する。アーム20の回動範囲は、ガイドプレート50で規制される。
【0035】
ガイドプレート50は、図7に示すように、両端側に脚部50−1を持つ略U型の板状部材である。ガイドプレート50の中央部と脚部50−1にはそれぞれ、ネジを通すための貫通穴が設けられている。
【0036】
図4に戻って、ガイドプレート50は、アーム20と測定子40との組立体をベース10に設置した後、ベース10に取り付けられる。すなわち、アーム20がガイドプレート50の2つの脚部50−1の間に位置した状態で、脚部50−1をベース10の主面側に向けてネジでベース10に取り付けることにより、ベース10の主面とガイドプレート50との間に空間ができる。脚部50−1の高さは、ベース10の主面に沿うように設置されているアーム20の表面側がガイドプレート50の内面側と接触しないように設定される。一方、2つの脚部50−1の間隔は、アーム20の回動範囲を規定する。
【0037】
地震時には、アーム20が往復回動することにより記録部ホルダー23で保持された記録手段24も往復回動する。ベース10の主面であって記録手段24の往復回動範囲には、ベース10に対して記録用プレート30が着脱自在に取り付けられる。
【0038】
記録用プレート30は、図8に示すように、取り付け用のネジを通すための孔を長孔30−1としている。これにより、記録手段24による記録用プレート30への記録を複数回行なうことができるようにしている。図8では、記録を3回行なうことができるように、記録領域30A、30B、30Cを持つ記録用プレート30を示している。例えば、記録領域30Aに対して記録が行なわれたら、取り付け用のネジを緩めて記録用プレート50を少し上方に移動させて再度取り付け用のネジを締めるようにされる。このためには、長孔30−1は、実際には、図8に示されているものよりも長くされることは言うまでも無い。記録用プレート30の材料は、記録手段24に何を用いるかで決められる。例えば、鉛筆の場合は、板材の上に紙を貼り付けたようなものでも良い。いずれにしても、記録領域30A、30B、30Cには、例えば1mm単位の目盛り(あるいは1乃至数度単位の角度目盛り)を付けておくことが好ましい。
【0039】
ベース10は、図3で説明したように、仕口部分における梁にネジ等で取り付けられる。ベース10の上端部には2箇所にネジ止用の穴10−4が設けられている。なお、測定子40のドーム状の頭部を柱の側面に当接させるためには、ベース10の上部を梁の後面に取り付ける必要がある。測定子40のドーム状の頭部を柱の中央寄りに位置させるために、図4(b)に一点鎖線で示すように、ベース10の上部をクランク状にしても良い。
【0040】
ところで、図4(a)は、地震計1として組立後の状態を示し、便宜上、アーム20をその往復回動範囲の中心に示している。しかし、実際は、アーム20は引張りバネ13によりガイドプレート50で規制される位置まで回動した状態になる。アーム20をその往復回動範囲の中心におくために、図4(b)に示す位置決めピン15が用いられる。
【0041】
位置決めピン15は、つまみ15−1と雄ネジ15−2から成る。ガイドプレート50の中央部と、アーム20にはそれぞれ雄ネジ15−2を挿通するための貫通穴が設けられ、ベース10には雄ネジ15−2が螺入する雌ネジ10−5が切られている。地震計1として組立後、図4(a)に示す状態にしてガイドプレート50の貫通穴及びアーム20の貫通穴を通して位置決めピン15の雄ネジ15−2をベース10の雌ネジ10−5に螺入する。図4(b)は位置決めピン15でアーム20を保持した状態を示している。製品としての持ち運びはこの状態で行なわれるが、記録手段24は、通常、仕口部分への設置後に取り付けられる。
【0042】
地震計1の設置方法は以下の通りである。
【0043】
図4(b)のように組み立てた地震計1のベース10を木造建物の仕口部分における梁に取付けて固定する。続いて、測定子40におけるネジ体41のねじ込み量を調節してネジ体41のドーム状頭部が仕口部分における柱の側面に当接するように設定する。その後、位置決めピン43を取外すと、アーム20は、図4(a)に示す状態で保持される。
【0044】
次に、アーム20に2つの貫通穴20−1を設ける理由について説明する。
【0045】
アーム20の回動中心からアーム20と測定子40との連結部までの距離をL1とし、アーム20の回動中心から記録手段24の中心までの距離をL2とする。この場合、アーム20と測定子40との連結部の中心の変位量をD1とすると、記録手段24の中心の変位量D2は、D2=D1×(L2/L1)に増幅される。
【0046】
本実施の形態においては、アーム20の軸支部を構成する軸部21及びベアリング21−1を装着するための貫通穴20−1を2箇所に設けていることにより、距離L1を2種類設定できるようにし、結果として、増幅度となる(L2/L1)を、例えば10倍、5倍の2種類設定できるようにしている。
【0047】
図4に示すような設置状態にて地震による横揺れが発生すると、その揺れ量に応じて記録手段24により記録用プレート30には、振れが変形量として記録される。本実施の形態では、振れ幅の最大の目盛りが最大変形量として読まれる。
【0048】
以上のような地震計1は建物の内部に少なくとも1個設置され、電力が不要で、簡単な構成でかつ複雑な操作、設定を必要とせずに地震に伴う微小な変形量(角)を計測して記録することができる。地震計1はまた、実際の変形量を測定し、記録することから、建物の損傷の判定に際して目視などの個人差が生じることがなく、より定量的な判断を行うことができる。
【0049】
なお、最大変形量(角)が建物の随所で異なることが考えられる場合には、地震計は、できれば1階、2階の各所に設置するのが望ましい。また、長期計測を行うものなので、目盛りを確認しやすいところに設置することが望ましい。
【0050】
上記の地震計1は電力を必要としないが、警報表示を行なうために電気系統を組み合わせても良い。これは例えば、顧客によっては、地震に伴う横揺れが建物に設定した振れ幅の基準を超えた場合に、ランプ点灯やアラームといった警報表示を行なうことが要求されることが考えられるからである。このような警報表示の簡単な例を説明すると、以下の通りである。
【0051】
図4のベース10とアーム20との間に、アーム20の振れ幅が所定の値を超えるとオンとなる接点スイッチあるいは無接点スイッチを設置する。警報表示は、この接点あるいは無接点スイッチのオン動作に伴う電気信号をそのままあるいは増幅して利用する。警報表示は地震計1自体に警報表示手段を設置して行なうようにしても良いし、警報表示手段を地震計1の設置場所とは別場所、例えば居間に設置し、地震計と警報表示手段を無線あるいは有線で結んで行なうようにしても良い。また、電源としては停電を考慮してバッテリーを使用するのが好ましいが、商用電源でも良い。オン動作に伴う電気信号は、警報表示以外に利用できるようにしても良い。
【0052】
ところで、本発明による地震計は、上述のような形態で地震に伴う建物の変形量を計測、記録する手段として用いられるだけでなく、本発明者らにより提案されている木造建物の耐震診断システムと併用することで、地震の際に、木造建物に作用した横揺れの加速度を検出する要素として用いることができる。
【0053】
図9〜図18を参照して、本発明者らにより提案されている木造建物の耐震診断システムについて説明する。
【0054】
図9は、上述した地震計と併用される、本発明者らにより提案されている耐震診断システムの構成を示すブロック図である。以下で説明される各種指標の算出は、特に「中古」ということわりの無い限り、新築の木造建物の場合であるが、中古の木造建物であっても同様に適用可能である。また、各種指標に「動的」という語句を付しているのは、木造建物(以下、建物と略称する)を強制的に振動させた結果得られる計測信号を用いて得られた値であるので、固定値のみで算出される、いわば「静的」な値とは区別されるべきであることを企図している。
【0055】
本耐震診断システムは、周波数可変の加振信号を発生する任意波発振器411、加振信号を増幅する電力増幅器412、電力増幅器412からの増幅された加振信号で建物に対して加振を行なう水平動起振機420、水平動起振機420で加振されている間の横揺れ振動の加速度を検出する第1、第2、第3の振動検出器421、422、423、これらの検出信号を増幅するための第1、第2、第3の増幅器413、417、424、アナログ信号である検出信号をディジタルの加速度信号に変換する第1、第2、第3のA/D変換器414、418、425、解析器415、パラメータ入力部419を含む。振動検出器は加速度や速度を検出する手段として用いられており、以下では加速度を検出する場合について説明するが、速度を検出するようにしても良い。
【0056】
2階建ての建物の場合、図10に示すように、水平動起振機420、第1〜第3の振動検出器421〜423は建物基礎401の上面、すなわち1階の床面から階高hの2階の床に設置され、特に第3の振動検出器423は建物400の重心対応位置またはその近傍に設置された水平動起振機420に近い位置に設置される。図10に示すWは建物400の単位重量(荷重)(KN/m)であり、2階建の建物の場合、建物基礎401の上面から所定の高さh(m)、ここではh/2(m)の高さより上方の建物400の重量が建物400の1m当たりの単位重量Wとして扱われる。
【0057】
本耐震診断システムは、水平動起振機420を導入して、建物400に対して積極的に振動を与える。従って、水平動起振機420により、X方向(東西方向)の揺れを発生させるような振動を与えつつ建物2階の床の北側端部、南側端部、及びこれらの中間部に設置した第1、第2、第3の振動検出器による計測を行う一方、Y方向(南北方向)の揺れを発生させるような振動を与えつつ東側端部、西側端部、及びこれらの中間部に設置した第1、第2、第3の振動検出器による計測を行う。なお、説明を簡単にするためにX方向を東西方向、Y方向を南北方向としているが、建物は、横断面が必ず長四角形であったり、4つの壁が東西、南北に面していたりするとは限らない。この場合、水平動起振機420による加振は、壁に対して直角に作用するように行なわれる。
【0058】
図11は、図10に示された水平動起振機420、第1〜第3の振動検出器421〜423の設置形態を平面図で示す。図11は、水平動起振機420でX方向について起振する場合について示している。この場合、建物の2階床の北側端部、南側端部にそれぞれ、第1、第2の振動検出器421、422が設置され、建物400の重心対応位置またはその近傍に設置された水平動起振機420に近い中間位置に第3の振動検出器423が設置される。すなわち、第1〜第3の振動検出器421〜423はY方向(南北方向)に並設される。一方、水平動起振機420でY方向について起振する場合、2階床の東側端部、西側端部にそれぞれ、第1、第2の振動検出器421、422が設置され、水平動起振機420に近い中間位置に第3の振動検出器423が設置される。すなわち、第1〜第3の振動検出器421〜423はX方向に並設される。
【0059】
なお、本耐震診断システムは、振動検出器を3個備える3チャンネルタイプであるが、3チャンネルタイプに比べて安価な2チャンネルタイプ、つまり振動検出器を2個備えたものでも良い。これは、図11のY方向について言えば、解析に必要な加速度検出信号は、北側の壁と南側の壁について解析すれば良い場合には第1、第2の振動検出器421、422の組み合わせ配置による1回の計測作業で得ることができ、北側の壁と南側の壁及びこれらの間の床について解析が必要である場合には第1、第3の振動検出器421、423の組み合わせ配置による計測作業と、第2、第3の振動検出器422、423の組み合わせ配置による計測作業で得ることができるからである。言い換えれば、北側の壁と南側の壁及びこれらの間の床について解析を行う場合について言えば、図11の3チャンネルタイプの場合、水平動起振機420による加振及び計測作業は1回で済む。一方、2チャンネルタイプの場合には2個の振動検出器を図11の421と423の位置(いずれも実線で示す)に配置して加振及び計測作業を行い、次に2個の振動検出器を図11の422と423の位置(いずれも実線で示す)に変更配置して加振及び計測作業を行うことで3チャンネルタイプと同等の検出を行うことができる。この場合、北側の壁と南側の壁の間の床については重複することになるが、一方の値を採用すれば良い。X方向の場合も同様である。
【0060】
そこで、以下では、図11における第1、第3の振動検出器421、423の組み合わせのみについて説明する。この場合、後述する各指標は、第1の振動検出器421の検出信号を用いて建物の北側の壁について算出され、第3の振動検出器423の検出信号を用いて北側の壁と南側の壁の間の床について算出されることを意味する。
【0061】
次に、本耐震診断システムによる耐震性能診断について説明する。以下の耐震性能診断は、解析器415の記憶装置にインストールされている耐震性能診断のための解析処理プログラム(耐震診断プログラム)に基づいて行われる。従って、解析器415は、パーソナルコンピュータ、特にポータブルタイプのパーソナルコンピュータによって実現され、耐震診断に際しては記憶装置から解析処理プログラムを読み出して解析処理を実行する。この場合、パラメータ入力部419はキーボードで実現される。また、増幅器、A/D変換器は解析器に内蔵されていても良い。
【0062】
図11に示すように、建物2階の北側端部に設置された第1の振動検出器421、建物2階の南側端部に設置された第2の振動検出器422は、水平動起振機420による東西方向の揺れに起因する加速度を検出する。第1、第2の振動検出器421、422からの加速度検出信号は、様々な周波数成分の加速度を持つ。第1、第2の振動検出器421、422で検出された加速度検出信号は、第1、第2の増幅器413、417で増幅され第1、第2のA/D変換器414、418でディジタル信号に変換されて解析器415に与えられる。解析器415は、前述のように解析処理プログラムに基づいて信号処理及び解析処理を行う。
【0063】
解析器415は、第1、第2のA/D変換器414、418の出力信号をそれぞれA(t)、B(t)とした場合、信号処理として以下の数1によるフーリエ変換を行なう。
【0064】
【数1】

【0065】
解析器415はまた、解析処理として、処理された信号S(f)、S(f)に対してここでは周波数分析を行い、各加速度検出信号における周波数成分と加速度値との関係を分析する。すると、図12に示すように、ある特定の周波数において加速度値がピーク値を示す。この時の周波数は固有周波数(共振周波数)と呼ばれ、解析器415はこの固有周波数fを動的固有周波数(動的共振周波数)として検出する。
【0066】
ここで、図11で説明したように、東西方向に揺れる振動について計測した場合には、第1、第2の振動検出器421、422の出力である第1、第2の加速度検出信号からは同じ動的固有周波数(但し、加速度のピーク値は異なることが多い)が検出されることとなる。これをX方向(東西方向)の動的固有周波数fmXとする。この検出値は記憶装置に保存される。
【0067】
東西方向に揺れる振動について計測が終了すると、第1、第2の振動検出器421、422をそれぞれ、東側端部、西側端部に移し替える。建物2階の東側端部に設置された第1の振動検出器421、建物2階の西側端部に設置された第2の振動検出器422は、水平動起振機420による南北方向の揺れに起因する加速度を検出する。その結果、上記と同様の信号処理及び解析処理により、解析器415は、南北方向に揺れる振動に対し、第1、第2の振動検出器421、422からY方向(南北方向)の動的固有周波数fmYを検出し、これを記憶装置に保存する。
【0068】
以下では、上記のようにして得られたX方向の動的固有周波数fmXとY方向の動的固有周波数fmYを用いて各種計算が行なわれるが、動的固有周波数fmXを用いた計算と動的固有周波数fmYを用いた計算は同じであるので、説明を簡単にするために、動的固有周波数fとして説明を行う。従って、以下の説明は、X方向に関する各種算定、Y方向に関する各種算定のいずれにも適用され得る。
【0069】
さて、解析器415は、予め定められた演算処理を行なって建物の必要耐力を算出すると共に、上記の動的固有周波数fを使用して耐震性能診断に必要な指標として、少なくとも動的壁率、動的剛性、保有耐力、加速度、動的評点を算出する。以下に、これらの算出方法について説明する。
【0070】
なお、図11のY方向に関して言えば、前述した通り、図11の421と423の位置(いずれも実線で示す)に配置した2個の振動検出器からの加速度検出信号を用いて建物の北側の壁(図11の上側)と北側の壁と南側の壁の間の床についての上記各指標が算出される。X方向に関して言えば、例えば図11の421(破線で示す)と423の位置に配置した2個の振動検出器からの加速度検出信号を用いて建物の東側の壁(図11の右側)と東側の壁と西側の壁の間の床についての上記各指標が算出される。
【0071】
1.建物の必要耐力の算出
建物の必要耐力というのは、建物に耐力壁などの地震に有効な部材がどれだけ必要かを表す数値で、解析器415は、必要耐力を、以下の式(1)又は(2)に基づいて算出する。
【0072】
必要耐力Qr1=Co×Wi×S×K1 (1)
必要耐力Qr2=S×必要耐力係数 (2)
式(1)は、建築基準法により定められている式を、層せん断力係数Co(=0.20)、建物の単位重量Wi(KN/m)、建物の1階床面積S(m)、建物形状による低減係数K1を用いて簡略化した式である。単位重量Wi、低減係数K1は、図14を参照して決められる。例えば、一般地域の2階建の軽量屋根の場合、単位重量Wiは3.67を用いる。図14は非特許文献2の第65頁に記載されているが、単位重量Wiは建物仕様の実状に合わせて別途算定する場合がある。建物形状による低減係数K1は非特許文献3に記載されている。
【0073】
式(2)は非特許文献3に記載されており、必要耐力係数は図15を参照して決められる。例えば、一般診断の場合の2階建の建物の必要耐力係数は図15の0.83を用い、精密診断の場合の2階建の建物の必要耐力係数は図15の0.72を用いる。図15の一般診断、精密診断については非特許文献3に記載されている。
【0074】
上記の算出に必要な緒元は、いずれもパラメータ入力部419から入力される。そして、上記の算出に用いられる諸元はすべて固定値であるので、得られる値は、いわば静的耐力である。
【0075】
2.建物の動的壁率の算出
動的壁率というのは、建物の壁率の倍数(壁倍率)であり、解析器415でこれを算出することで、建物の壁に対する補強の必要性の有無を判定するために用いる。
【0076】
解析器415は、加速度検出信号を用いて得られた動的固有周波数fを用い、動的壁率を、以下の式(3)に基づいて算出する。
【0077】
動的壁率Md=(f/4.98) (3)
この式(3)は、以下のように導かれたものである。
【0078】
一般的に、重力の加速度g=980(cm/sec)と建物の固有周波数f(Hz)の間にはg=(2πfの関係がある。この式からf=√980/2π=4.98(Hz)となり、耐震等級Iの建物の固有周波数4.98(Hz)が求められ、建物について計測して得られた動的固有周波数f(Hz)より動的壁率Mdが得られる。
【0079】
動的壁率Mdは、建物の壁量の過不足を表す数値(倍率)で、数値が1.0より大きいほど壁量が多く耐震性能の高い建物であることを表し、数値が1.0より小さいほど壁量が少なく耐震性能の低い建物であることを表す。つまり、数値の大小によって建物の耐震性能が分かり、下記のように、建築基準法で定められている耐震等級I、II、IIIと、後述される動的評点Hdとの比較が可能である。
【0080】
耐震等級 I II III
安全倍率 1.0 1.25 1.5
動的壁率Md 1.0 1.5 2.0
動的評点Hd 1.0 1.25 1.5
動的壁率が1.0より小さい場合には、壁の場合には主に壁、筋交い、その他、床の場合には主に梁、床板、その他について補強を行なって1.0を超えるようにする。
【0081】
3.建物の損傷限界時の動的剛性(バネ定数)の算出
解析器415は、上記項目2で算出した動的壁率Mdを用い、建物のY方向(南北方向)あるいはX方向(東西方向)の動的剛性Kd(KN/cm)を、以下の式(4)に基づいて算出する。
【0082】
動的剛性Kd=1.96×120×R×Md×S/h (4)
式(4)は、一般的な建物の剛性を導く式に、動的壁率Mdを加えて導き出したもので、基準耐力1.96(KN)、変位角1/120(rad)を代入している。前述したように、hは建物基礎の上面から2階床面までの階高(cm)である。Rは建築基準法で定められた必要壁率であり、図16を参照して決められる。図16は、建築基準法における品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律:第3条第1項に基づく、平成12年建設省告示第1654号)に定められた壁量を示している(非特許文献4参照)。図16を参照して一例を挙げると、2階建の軽量材による軽い屋根の場合0.36(m/m)、重量材による重い屋根の場合0.46(m/m)という値が定められている。
【0083】
動的剛性Kdは、建物の曲げ強さ、すなわち建物が外力によって変形しない強さ、変形のしづらさの度合いを表し、数値が大きいほど変形しづらく耐震性能の高い建物を表し、数値が小さいほど変形しやすく耐震性能の低い建物を表す。動的剛性Kdは、動的壁率Mdの大きさに比例して変動する。解析器415は、動的剛性Kdが小さい場合には補強の必要性有りとの判定結果を出力する。
【0084】
4.建物の損傷限界時の保有耐力の算出
建物の保有耐力というのは、建物が耐力壁などの地震に有効な部材をどれだけ保有しているかを表す数値で、解析器415は、上記項目3で算出した動的剛性Kdを用い、保有耐力を以下の式(5)に基づいて算出する。
【0085】
保有耐力Qkd1=Kd×△x (5)
△xは変位量{=h/120(cm)}である。
【0086】
保有耐力Qkd1(KN)は、地震に対して建物が保有している強さで、数値が大きいほど強い建物で耐震性能の高い建物を表し、数値が小さいほど弱い建物で耐震性能の低い建物を表す。保有耐力Qkd1は、動的剛性Kdの大きさに比例して変動する。解析器415は、保有耐力Qkd1が小さい場合には補強の必要性有りとの判定結果を出力する。
【0087】
5.建物の損傷限界時の加速度の算出
解析器415は、上記項目4で算出した保有耐力Qkd1を用い、建物のY方向(南北方向)あるいはX方向(東西方向)の加速度α(gal)を、以下の式(6)に基づいて算出する。
【0088】
加速度α={Qkd1/(S×Wi)}×980 (6)
加速度αは、地震の大きさを表す数値で、加速度値が大きいほど耐震性能の高い建物を表し、加速度値が小さいほど耐震性能の低い建物を表す。加速度αは、保有耐力Qkd1の大きさに比例して変動する。解析器415は、加速度αが小さい場合には補強の必要性有りとの判定結果を出力する。
【0089】
6.建物の安全限界時の耐力低減係数の算出
建物の耐力低減係数というのは、安全限界での弾性とみなした加速度値から安全限界での塑性とみなした加速度値が減少している割合を表す数値であり、解析器415は、上記項目5で算出した加速度αを用い、以下の式(7)に基づいて耐力低減係数を算出する。
【0090】
耐力低減係数d=(α+200)/(4×α) (7)
式(7)は、木造建物の加速度−変形量(変位量)特性を示す図13を参照して、安全限界での塑性とみなした加速度値(α+200)(gal)を、安全限界での弾性とみなした加速度値4×α(gal)で割って導かれる。すなわち、図13より(α+200)は、損傷限界での加速度値α(gal)に、安全限界での塑性曲線加速度値の増加分200(gal)を足した値で、(4×α)は損傷限界での加速度値α(gal)に、安全限界での弾性直線加速度値の増加分120/30=4倍したものである。
【0091】
7.建物の安全限界時の保有耐力の算定
建物の保有耐力というのは、建物が耐力壁などの地震に有効な部材をどれだけ保有しているかを表す数値であり、解析器415は、上記項目4で算出した保有耐力Qkd1、項目6で算出した耐力低減係数dを用い、安全限界時の保有耐力を以下の式(8)に基づいて算出する。
【0092】
保有耐力Qkd2=Qkd1×d×(120/30)
=Kd×△x×d×(120/30) (8)
式(8)は、項目4で説明した損傷限界{変位角1/120(rad)}時の保有耐力Qkd1の算出式(5)を基にし、安全限界{変位角1/30(rad)}での建物の耐力低減係数d、変位量の換算値120/30=4から導かれたものである。建物の耐力低減係数dの算定例を図17に示す。
【0093】
8.中古住宅の場合の劣化係数の算出
中古住宅の劣化係数というのは、建物各部の劣化状況を目視により判定した数値で、劣化係数は以下の式(9)で表される。
【0094】
改修前の劣化係数(J×E×D)=0.62
改修後の劣化係数(J×E×D)=0.71 (9)
式(9)は、建物の基礎と接合部の低減係数J、建物の床仕様と偏心の低減係数E、建物の目視による劣化度Dを、それぞれ日本建築防災協会の一般耐震診断ソフトを使用して、6棟の中古住宅について実際に改修前と改修後を解析した結果の平均値(図18参照)から導き出したものである。
【0095】
解析器415は、算出した前記損傷限界時の建物の保有耐力Qkd1、上記の方法で得られた中古住宅の改修前の劣化係数0.62、及び中古住宅の改修後の劣化係数0.71を用い、以下の式(10)を用いて中古住宅の改修前の保有耐力Qkd3(KN)と中古住宅の改修後の保有耐力Qkd4(KN)を算出する。
【0096】
Qkd3=Qkd1×0.62
Qkr4=Qkd1×0.71 (10)
9.建物の動的評点の算出
建物の動的評点というのは、想定された地震に対する建物が保有する耐力の安全率であり、解析器415は、動的評点を以下の式(11)に基づいて算出する。
【0097】
損傷限界時の動的評点 Hd1=Qkd1/(Qr1又はQr2)
安全限界時の動的評点 Hd2=Qkd2/(Qr1又はQr2)
中古住宅の改修前の動的評点Hd3=Qkd3/(Qr1又はQr2)
中古住宅の改修後の動的評点Hd4=Qkd4/(Qr1又はQr2)
(11)
動的評点は、建物の保有耐力(建物が実際に保有している耐力)Qkd(KN)を建物の必要耐力(設計上、建物に要求される耐力)Qr1又はQr2(KN)で割ることで得られる。つまり、損傷限界時の保有耐力Qkd1を必要耐力Qr1又はQr2で割ると新築住宅の損傷限界時の動的評点Hd1が得られ、安全限界時の保有耐力Qkd2を必要耐力Qr1又はQr2で割ると新築住宅の安全限界時の動的評点Hd2が得られる。同様にして、中古住宅の改修前の保有耐力Qkd3を必要耐力Qr1又はQr2で割ると中古住宅の改修前の動的評点Hd3が得られ、中古住宅の改修後の保有耐力Qkd4を必要耐力Qr1又はQr2で割ると中古住宅の改修後の動的評点Hd4が得られる。
【0098】
言うまでもなく、動的評点は1以上であることが望ましく、もし、動的評点が1より小さいという診断結果が出た場合には、その程度に応じて動的評点が1以上になるような補強を施すことになる。補強は、壁の補強、筋交の補強、梁の補強、床板の補強、重い屋根を軽い屋根に代える(例えば瓦を代える)等、様々な形態で実施することができる。
【0099】
ところで、非特許文献3には、垂れ壁・腰壁を詳細に評価しない方法ではその他の耐震要素の耐力は、垂れ壁・腰壁、フレーム効果を考慮し、建物の必要耐力Qrに25%の係数を用いて耐力PeをPe=0.25×Qrとして算出することが記載されている。
【0100】
これに対し、上記の「2.建物の動的壁率の算出」において用いた耐震等級Iの建物の固有周波数4.98(Hz)は、垂れ壁・腰壁、フレーム効果を考慮していない数値であり、垂れ壁・腰壁、フレーム効果を考慮する場合には上記の建物の固有周波数4.98(Hz)も上記の25%の係数が考慮されるべきである。そして、上記の25%の係数を考慮した場合の耐震等級Iの建物の固有周波数fm1は、
m1=(1+0.25)1/2×4.98
=5.57(Hz)
となる。
【0101】
そこで、垂れ壁・腰壁、フレーム効果を考慮する場合、建物の動的壁率の算出は、「2.建物の動的壁率の算出」において用いたMd=(f/4.98)に代えて、Md’=(f/5.57)を用いて動的壁率Md’を算出し、算出結果から建物の壁に対する補強の必要性の有無を判定することが望ましい。そして、この場合、前述した「3.建物の損傷限界時の動的剛性(バネ定数)の算出」における動的剛性Kdは、前述した式(4)のMdに代えて、Md’を代入して算出を行なう。「4.建物の損傷限界時の保有耐力の算出」以降の動作はまったく同様である。
【0102】
以上が本発明者らにより提案されている耐震診断システムである。
【0103】
以下に、本発明による地震計と上記の耐震診断システムを併用して木造建物に作用した加速度を検出する方法について説明する。説明を理解し易くするために、上記の耐震診断システムにより、ある地域の建物Aと、別の地域の建物Bに対して耐震診断が行なわれたものとする。
【0104】
特に、上記項目5における加速度の算出に際し、診断対象建物に対して、例えば変形角1/120(rad)での加速度を計算し、横軸を変形角(量)、縦軸を加速度とする変形角−加速度特性をあらかじめ決定しておく。
【0105】
ここで、ある地域の建物Aに対する耐震診断の結果、変形角1/120(rad)(h=3mで2.5cmの変形量に等しい)で加速度が200(gal)であったとする。一方、別の地域の建物Bに対する耐震診断の結果、変形角1/120(rad)(h=3mで2.5cmの変形量に等しい)で加速度が180(gal)であったとする。
【0106】
この場合、建物Aに対する変形量−加速度特性を、変形角1/120(rad)、加速度が200(gal)という数値を用いて図19の近似直線のように決定する。一方、建物Bに対する変形量−加速度特性を、変形角1/120(rad)、加速度が180(gal)という数値を用いて図20の近似直線のように決定する。なお、これらの変形量−加速度近似特性の縦軸には、加速度に対応させて震度を付している。
【0107】
上記の耐震診断システムによる耐震診断が終了したら、耐震診断システムは撤去される。そして、ある地域の建物A、別の地域の建物Bの仕口部分にはそれぞれ前述した地震計1が設置される。
【0108】
地震計1の設置後、例えば震度5程度の地震が発生し、建物A、Bの地震計でそれぞれ2cmの最大変形量が計測、記録されたものとする。
【0109】
この場合、建物Aについては、図19の変形量−加速度近似特性に、記録された変形量2cmを適用することにより、図21に示すように、建物Aに作用した加速度αを、α=200×(2.0/2.5)=160(gal)として算出することができる。一方、建物Bについては、図20の変形量−加速度近似特性に、記録された変形量2cmを適用することにより、図22に示すように、建物Bに作用した加速度αを、α=180×(2.0/2.5)=144(gal)として算出することができる。
【0110】
建物Aのある地域、建物Bのある地域のいずれも、地震速報による震度は5と発表されるが、実際に作用した加速度がどの程度の値であったのかは、これまでは知ることができなかった。
【0111】
これに対し、本発明による地震計を本発明者らによる上記の耐震診断システムと併用することで、容易に加速度を算出することができ、この加速度を以後の建物の補強の是非の判断に利用することができる。
【0112】
なお、本発明による地震計と併用することのできる耐震診断システムとして、上記の耐震診断システムのほか、特許文献1や特許文献2に開示された耐震診断システムを挙げることができる。
【0113】
上記の耐震診断システムの説明では、2階建ての木造建物に適用した場合について説明したが、3階建ての木造建物にも適用可能であり、3階建ての場合も水平動起振機及び振動検出器を2階の床面に設置して解析が行われる。また、1階建て、つまり平屋であっても、規模の大きな建物、例えば寺社、神社のような大きな平屋の場合には、天井の梁に水平動起振機及び振動検出器を設置して解析を行うことができる。
【符号の説明】
【0114】
10 ベース
12 ホルダー
15 位置決めピン
20 アーム
21 軸部
21−1 ベアリング
22 ジョイント
23 記録部ホルダー
24 記録手段
30 記録用プレート
40 測定子
41 ネジ体
42 連結棒
50 ガイドプレート
400 木造建物
401 建物基礎
420 水平動起振機
421、422、423 第1、第2、第3の振動検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の変形を計測し易い箇所に設置されて建物の横揺れによる変形を計測し記録する地震計であって、
横揺れにより変形する建物の構成部材に当接するように設置されて前記構成部材の変形に応じて移動する測定子と、
前記測定子に連結されて前記測定子の移動に応じて回動するアームと、
前記アームに設けられて前記アームの回動量を記録する記録手段と、
前記測定子を移動可能に保持すると共に、前記アームを回動可能に軸支し、前記記録手段による記録領域を持つベースとを含み、
前記測定子は、その長さを調節可能な構造にされていることを特徴とする地震計。
【請求項2】
前記建物が木造建物であって、前記建物の変形を計測し易い箇所は仕口部分であり、
前記ベースを前記仕口部分の梁に固定する一方、前記測定子はその先端が前記仕口部分の柱に当接するように設置される構成とされていることを特徴とする請求項1に記載の地震計。
【請求項3】
前記アームを回動可能に軸支する軸支部が前記アームの一端側寄りにあると共に前記測定子と前記アームの連結部が前記一端側とは反対側の前記軸支部に近い位置にあり、しかも前記軸支部を、前記アームの延在方向に関して異なる複数箇所に設定できる構成とされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の地震計。
【請求項4】
前記測定子を、前記横揺れにより変形する建物の構成部材に当接するドーム状の頭部を持つ雄ネジ体と、該雄ネジ体の螺入可能な雌ネジを持つ棒状体とで構成することにより長さを調節可能としていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の地震計。
【請求項5】
前記記録手段は前記アームの一端側とは反対側の他端部に筆圧設定用の板バネを介して設けられ、前記記録手段の回動範囲に対応する前記ベースには記録用プレートが着脱自在に取り付けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の地震計。
【請求項6】
前記記録用プレートの前記ベースに対する取り付け位置を前記アームの延在方向にずらすことができるように構成して、複数回の記録を可能にしたことを特徴とする請求項5に記載の地震計。
【請求項7】
対象木造建物に対して横揺れを与え、この横揺れにより生じる対象木造建物の変形量を一方の軸、対象木造建物に作用する横揺れの加速度を他方の軸とする変形量−加速度特性を、対象木造建物に対して決定するステップと、
対象木造建物の変形を計測し易い箇所に地震計を設置して実際の地震時の変形量を計測し、記録するステップと、
前記決定された変形量−加速度特性を用いて、前記記録された変形量に対応する加速度を判定するステップと、
を含み、
前記地震計として、
対象木造建物の変形を計測し易い箇所に設置されて対象木造建物の横揺れによる変形を計測し記録する地震計であって、
横揺れにより変形する対象木造建物の構成部材に当接するように設置されて前記構成部材の変形に応じて移動する測定子と、
前記測定子に連結されて前記測定子の移動に応じて回動するアームと、
前記アームに設けられて前記アームの回動量を記録する記録手段と、
前記測定子を移動可能に保持すると共に、前記アームを回動可能に軸支し、前記記録手段による記録領域を持つベースとを含み、
前記測定子が、その長さを調節可能な構造にされている地震計を用いることを特徴とする加速度検出方法。
【請求項8】
前記アームを回動可能に軸支する軸支部が前記アームの一端側寄りにあると共に前記測定子と前記アームの連結部が前記一端側とは反対側の前記軸支部に近い位置にあり、しかも前記軸支部を、前記アームの延在方向に関して異なる複数箇所に設定できる構成とされていることを特徴とする請求項7に記載の加速度検出方法。
【請求項9】
前記測定子を、前記横揺れにより変形する建物の構成部材に当接するドーム状の頭部を持つ雄ネジ体と、該雄ネジ体の螺入可能な雌ネジを持つ棒状体とで構成することにより長さを調節可能としていることを特徴とする請求項7又は8に記載の加速度検出方法。
【請求項10】
前記対象木造建物に対して横揺れを与えて前記変形量−加速度特性を対象木造建物に対して決定するステップを実行する手段として、
対象木造建物の2階に水平動起振機を設置して対象木造建物を横揺れ振動させた時の振動の加速度を検出して検出信号を出力するための少なくとも2つの振動検出器と、
少なくとも2つの前記検出信号を受けて予め定められた解析処理を行う解析器を含む耐震診断システムであって、
該解析器が、前記解析処理として、前記少なくとも2つの検出信号についてフーリエ変換を行なってから加速度値と振動の周波数に関する解析を行って前記加速度値がピーク加速度値を示す時の前記振動の周波数を建物の動的固有周波数f(Hz)として検出する、耐震診断システムを用いることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の加速度検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−92488(P2013−92488A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235654(P2011−235654)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(591213519)ビイック株式会社 (11)