説明

垂直搬送式めっき装置

【課題】ワーク端部のめっき膜圧が厚くなったり、焼けを生じたりすることのない垂直搬送式めっき装置を提供する。
【解決手段】平板状のワークWを垂直に搬送してめっきする垂直搬送式めっき装置において、めっき槽1内にワークWと対向する複数のアノード9、10、11を上下方向に並べて配置し、複数のアノード9、10、11相互間に絶縁材からなる遮蔽板13、14を水平に設け、各アノード9、10、11をアノードと同数の個別に運転されるめっき用電源装置にそれぞれ接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フープ材やプリント基板のような平板状のワークを垂直に搬送してめっきする垂直搬送式めっき装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フープ材やプリント基板のような平板状のワークを垂直に搬送する垂直搬送式めっき装置では、陽極の面積がワークの面積より広いとワーク端部に電流が集中しやすくなり、めっき膜圧が厚くなったり、極端な場合は焼けを生じたりする。ワークの寸法が一定であればワーク端部に電流が集中しないように陽極の面積を定めておくことができるが、ワークの寸法が変化する場合に陽極の面積を変化させることは極めて困難である。垂直搬送式めっき装置の場合、ワークは上端をクランプして搬送され、寸法の異なるワークは下端部が上下することになるので、アノードとワーク下端部との間に遮蔽板を設けておき、作業者が遮蔽板をワークの寸法に合わせて昇降させることでワーク端部への電流の集中を回避している。
【0003】
これに対し、遮蔽板をワークの寸法に合わせて昇降させ、位置決めすることができるようにした、例えば特許文献1に示されるようなものが提案されている。この特許文献1の請求項1には、めっき槽本体内のワーク下端部を挟む位置にワーク側遮蔽板を対向して設け、該ワーク側遮蔽板を遮蔽板昇降枠に取り付けて昇降動自在とし、遮蔽板昇降枠に固定した吊り糸を巻き取りあるいは巻き戻すことにより遮蔽板昇降枠を昇降させる巻き取り機構をめっき槽本体に設けたものが示されている。また、請求項2にはめっき槽本体内側壁に沿って配置したアノードの内側にアノード側遮蔽板を昇降動自在に設け、該アノード側遮蔽板に固定した吊り糸を巻き取りあるいは巻き戻すことにより遮蔽板昇降枠を昇降させる巻き取り機構をめっき槽本体に設けたものが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−277783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上述べたように、従来の垂直搬送式めっき装置では、陽極の面積がワークの面積より広いとワーク端部に電流が集中し、めっき膜圧が厚くなったり、焼けを生じたりするという問題があった。アノードとワーク端部との間に遮蔽板を設け、遮蔽板をワークの寸法に合わせて昇降させるのは問題を解決するための一つの手段であるが、作業者が遮蔽板を昇降させるのは面倒であり、また、特許文献1に示されるような遮蔽板を昇降させて位置決めするものでは、昇降させるための機構をめっき槽に設けるためその機構がめっき槽から発生するガスやミストに曝されて故障し易いという問題があり、メンテナンスが面倒であるという問題があった。
【0006】
本発明は上記の問題点を解決しようとするものであり、ワーク端部のめっき膜圧が厚くなったり、焼けを生じたりすることのない垂直搬送式めっき装置を、昇降動する遮蔽板を設けることなく実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そして、本発明は上記目的を達成するために、平板状のワークを垂直に搬送してめっきする垂直搬送式めっき装置において、めっき槽内にワークと対向する複数のアノードを上下方向に並べて配置し、複数のアノード相互間に絶縁材からなる遮蔽板を水平に設け、各アノードをアノードと同数の個別に運転されるめっき用電源装置にそれぞれ接続したものである。
【0008】
また、第2の課題解決手段は、上下方向に並べて配置した複数のアノードをそれぞれワークの進行方向に分割し、進行方向に分割したアノード相互間に遮蔽板を垂直に設け、分割した各アノードをアノードと同数の個別に運転されるめっき用電源装置にそれぞれ接続したものである。
【0009】
上記第1の課題解決手段による作用は次の通りである。すなわち、ワークには上下方向に並べた複数のアノードが対向しており、各アノードはそれぞれ個別に運転されるめっき用電源装置に接続されている。ワークはその高さ方向の寸法により複数のアノードの内のいくつかと正対するので、その正対するアノードが接続されているめっき用電源装置だけを運転すればワークには正対するアノードだけからめっき電流が流れてめっきが行われ、正対しないアノードからはめっき電流が流れないのでワークの下端部に電流が集中することはない。各アノードからの電流は、遮蔽板によりワークの正対する部分以外に拡散することが妨げられるので、ワーク表面の電流が均一化される利点がある。
【0010】
また、第2の課題解決手段による作用は、上下方向に並べて配置した複数のアノードがワークの進行方向に分割され、各アノードはそれぞれ個別に運転されるめっき用電源装置に接続されているので、ワークの進行に合わせてワークが対向するアノードが接続されているめっき用電源装置を個別に制御することができ、ワークの前端部及び後端部への電流集中を緩和することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上述べたように、本発明の垂直搬送式めっき装置は、高さ方向の寸法の異なるワークを処理する場合に、ワークに正対するアノードが接続されているめっき用電源装置を運転し、他のめっき用電源装置を停止することでワークの下端部に電流が集中することを防止しており、昇降する遮蔽板のような動く部分がなく、機械的故障を生じる恐れのない垂直搬送式めっき装置を提供することができる。
【0012】
また、上下方向に並べて配置したアノードをワークの進行方向に分割した場合には、ワークに正対するアノードが接続されているめっき用電源装置を運転することでワークの前端あるいは後端への電流集中を回避することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態を示す要部の縦断図である。
【図2】本発明の実施形態を示す要部の平面図である。
【図3】遮蔽板とアノードの組み立て前の状態を示す斜視図である。
【図4】遮蔽板とアノードの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0015】
図において1はめっき槽であって、要求されるめっき厚みに応じて長さ方向の寸法が定められており、ワークWはめっき槽1の中心を搬送される。図1はワークの進行方向前方から見ためっき槽1の縦断面図、図2はめっき槽1の部分平面図であり、ワークWは図1では中央部を紙面奥から手前に進行し、図2では矢印で示すように上から下へ進行する。図示していないが、従来の垂直搬送式めっき装置と同様に、めっき槽1の上部にはワークWの上端を挟んで搬送する搬送装置が、めっき槽1の前端及び後端の側壁には液漏れ防止装置がそれぞれ設けられている。
【0016】
めっき槽1にはワークWに向けてめっき液を噴射する多数のノズル2、2が上下方向及びワークの進行方向に並べて設けられている。めっき槽1の底部にはめっき液流通室3が設けられており、めっき液流通室3に連通するめっき液供給管4、4と、めっき槽1に連通するめっき液排出管5、5が設けられている。前記多数のノズル2、2は内部にめっき液供給路を設けた柱状のノズル取り付け基盤6、6に取り付けられており、ノズル取り付け基盤6、6のめっき液供給路はめっき液流通室3に連通させられている。これにより、めっき液供給管4、4から供給されるめっき液はめっき液流通室3とノズル取り付け基盤6、6を経てノズル2、2から噴射され、めっき槽1を満たしてめっき液排出管5、5から排出されることになる。
【0017】
ノズル2、2とワークWとの間には多数の垂直方向のガイド軸7、7がワークの進行方向に並べて設けられており、各ガイド軸7、7にはそれぞれ複数のガイド円盤8、8が回転自在に軸着されている。前記ノズル2、2、ノズル取り付け基盤6、6、ガイド軸7、7及びガイド円盤8、8と、次に説明するアノード9、10、11及び遮蔽板12、13、14、15、16、16等のめっき槽1内に設けられる各構成要素はワークWを中心として対称に配置されており、めっき液はノズル2、2からワークWの両面に噴射され、ワークWはガイド円盤8、8により挟まれて振れないように誘導される。
【0018】
ノズル取り付け基盤6、6の外側には複数のアノード9、10、11が上から下へ並べて設けられており、アノード9の上、アノード9とアノード10の間、アノード10とアノード11の間、アノード11の下にはそれぞれ絶縁材からなる遮蔽板12、13、14、15が水平に設けられている。また、アノード9、10、11の前後には遮蔽板16、16が垂直に設けられている。実際には遮蔽板12、13、14、15と遮蔽板16、16は図3に示すように棚状に成型されており、図4に示すように棚の各段にアノード9、10、11が挿入された形となっている。遮蔽板12、13、14、15及び16、16の前面はアノード9、10、11の前面から100mm以上ワークW側に位置させるのが好ましい。
【0019】
アノード9、10、11は不溶性金属からなる網で成型され、その中に銅ボールが投入されるものであり、各アノード9、10、11の背面側にはめっき槽1の上面で開口するボール投入口9a、10a、11aが設けられている。上で説明したものではアノード9、10、11は上下方向に3個配列されたものとなっているが、これは大中小3種類のワークWに対応したものである。アノード9、10、11の上下方向の配列数はワークWの種類に応じて定められるものであり、これに限るものではない。
【0020】
通常、ワークWの高さ方向の寸法には規格があり、例えば大中小3種類のワークWがある場合、小のワークWには上段のアノード9が、中のワークには上段のアノード9と中段のアノード10が、大のワークには全てのアノード9、10、11がそれぞれ対向するように構成される。各アノード9、10、11は同数の図示しないめっき用電源装置の正極にそれぞれ個別に接続され、めっき用電源装置の負極はまとめてワークWに接続される。このめっき用電源装置としては直流電源のほかパルス電源を使用することができる。
【0021】
このように構成された本発明の垂直搬送式めっき装置において、ワークWは従来の垂直搬送式めっき装置と同様に搬送装置により上端を挟まれ、ガイド円盤8、8により誘導されてめっき槽1内を搬送される。めっき液供給管4、4からはめっき液が供給され、めっき液流通室3とノズル取り付け基盤6、6を経てノズル2、2からワークWの両面に噴射される。その後めっき液はめっき槽1を満たしてめっき液排出管5、5から排出される。ワークWの高さ方向の寸法が小の場合、一番上に配列されたアノード9が接続されているめっき用電源装置だけを運転すると、ワークWには正対するアノード9からめっき電流が流れてめっきが行われ、中段に配列されたアノード10からは電流が流れないので下端部に電流が集中することはない。
【0022】
ワークWの高さ方向の寸法が中の場合、上段のアノード9が接続されているめっき用電源装置と中段のアノード10が接続されているめっき用電源装置を運転すると、ワークWには正対するアノード9、10からめっき電流が流れてめっきが行われ、下段に配列されたアノード11からは電流が流れないので下端部に電流が集中することはない。また、ワークWの高さ方向の寸法が大の場合には、全てのアノード9、10、11が接続されているめっき用電源装置を運転するとアノード9、10、11からワークWの全面にめっき電流が流れてめっきが行われる。
【0023】
ワークWの高さ方向の寸法が中の場合は上段のアノード9と中段のアノード10から、ワークWの高さ方向の寸法が大の場合は全てのアノード9、10、11からめっき電流が流れるが、このときめっき電流は各アノード9、10あるいは9、10、11からそれぞれワークWの正対する部分に流れる。このめっき電流は遮蔽板13あるいは13、14によりワークWの正対する部分以外に拡散することが妨げられるので、ワークW表面の電流が均一化される。また、上段のアノード9の上の遮蔽板12と、下段のアノード11の下の遮蔽板15は迷走電流が発生するのを防止する。途中から寸法の異なるワークWに切り替える場合には、アノード9、10、11の内、切り替え後のワークWに正対するアノードが接続されているめっき用電源装置だけを運転するように切り替えることによって対応できる。
【0024】
めっき槽1の長さが長い場合には、このように組み立てられたアノード9、10、11と遮蔽板12、13、14、15及び16、16の組がワークWの進行方向に複数並べて配列される。これが請求項2の発明であり、ワークWの進行方向に長いアノード9、10、11をワークの進行方向に分割したのと同等になる。遮蔽板16、16は進行方向に分割したアノード相互間に垂直に設けられる遮蔽板になって重複することになるが、重複していても支障はなく、重複する遮蔽板16の一方を取り除いて一体の棚状のものとして成型することも可能である。
【0025】
これによりワークWは上下方向とワークWの進行方向にそれぞれ複数配列されたアノード9、9、10、10、11、11に対向することになり、各アノード9、9、10、10、11、11の相互の間はそれぞれ遮蔽板13、14と遮蔽板16、16により区画された状態になる。各アノード9、9、10、10、11、11は同数の図示しないめっき用電源装置の正極にそれぞれ個別に接続され、めっき用電源装置の負極はまとめてワークWに接続される。
【0026】
このように構成された請求項2の発明の垂直搬送式めっき装置では、ワークWの進行に合わせてワークWが対向するアノードが接続されているめっき用電源装置だけを順次運転することができ、めっき用電源装置の無駄な運転をなくすことができる。また、ワークWの入槽時あるいは出槽時、めっき槽1の入口側あるいは出口側のアノード9、10、11が接続されているめっき用電源装置の電流を、当該アノードと対向するワークWの進行にともなう面積の変化に応じて漸増あるいは漸減させれば、ワークWの前端あるいは後端への電流集中を回避することができる。
【0027】
以上説明したように、本発明の垂直搬送式めっき装置は、高さ方向の寸法の異なるワークを処理する場合にめっき用電源装置の運転、停止だけで対応することができ、昇降する遮蔽板等動く部分がないので故障の恐れがないという利点がある。なお、前記の実施の形態において、アノードは不溶性金属からなる網で成型され、その中に銅ボールが投入されたものとしているが、これに限るものではない。
【符号の説明】
【0028】
1 めっき槽
2 ノズル
3 めっき液流通室
4 めっき液供給管
5 めっき液排出管
6 ノズル取り付け基盤
7 ガイド軸
8 ガイド円盤
9、10、11 アノード
9a、10a、11a ボール投入口
12、13、14、15、16 遮蔽板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状のワークを垂直に搬送してめっきする垂直搬送式めっき装置において、めっき槽内にワークと対向する複数のアノードを上下方向に並べて配置し、複数のアノード相互間に絶縁材からなる遮蔽板を水平に設け、各アノードをアノードと同数の個別に運転されるめっき用電源装置にそれぞれ接続したことを特徴とする垂直搬送式めっき装置。
【請求項2】
上下方向に並べて配置した複数のアノードをそれぞれワークの進行方向に分割し、進行方向に分割したアノード相互間に遮蔽板を垂直に設け、分割した各アノードをアノードと同数の個別に運転されるめっき用電源装置にそれぞれ接続したことを特徴とする請求項1に記載の垂直搬送式めっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−52278(P2011−52278A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202371(P2009−202371)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000150202)株式会社中央製作所 (35)