垂直磁気記録媒体およびその製造方法
【課題】より低ノイズ化およびSN比等の性能が向上され、高密度磁気記録が実現可能な垂直磁気記録媒の提供。
【解決手段】垂直磁気記録媒体において、非磁性基板上に少なくとも、第1非磁性中間層、第2非磁性中間層、および磁気記録層が順次積層され、前記第1非磁性中間層をCoCrRuW合金から形成し、かつ前記第2非磁性中間層をRu基合金から形成する。
【解決手段】垂直磁気記録媒体において、非磁性基板上に少なくとも、第1非磁性中間層、第2非磁性中間層、および磁気記録層が順次積層され、前記第1非磁性中間層をCoCrRuW合金から形成し、かつ前記第2非磁性中間層をRu基合金から形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種磁気記録装置に搭載する垂直磁気記録媒体に関する。より詳細には、コンピュータ、AV機器等の外部記憶装置として用いられるハードディスクドライブに搭載される、高密度磁気記録が実現可能な垂直磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクドライブ(HDD)として用いられる磁気記録媒体は、磁気記録の高密度化をより実現する技術として、垂直磁気記録方式が採用されている。その層構成は、例えば、非磁性基体上に下地層と磁気記録層と保護膜と液体潤滑層とが順次積層されて形成される。垂直磁気記録方式では、垂直磁気記録媒体に記録された記録ビットは、隣接する記録ビットの反磁界の影響により、高記録密度であるほど残留磁化の大きさが安定するという利点がある。その結果、垂直磁気記録媒体は、優れた熱揺らぎ耐性を実現することもできる。
【0003】
そこで、垂直磁気記録媒体の記録密度を、さらに高密度化する方法が種々検討されてきた。例えば、2層垂直磁気記録媒体と呼ばれている方法では、下地層と基板の間に軟磁性裏打ち層を有する媒体が用いられている。2層垂直磁気記録媒体では、軟磁性裏打ち層が磁気ヘッドから発生される磁界を急峻に引き込むため、磁界勾配が小さくなり、信号の書き広がりの影響が低減される(例えば、非特許文献1等参照)。
【0004】
このほか、垂直磁気記録媒体のさらなる高記録密度を実現するために、磁性結晶粒の微細化、およびその分離性向上、ならびに磁性層の磁化容易軸であるc軸の配向分散Δθ50の減少などが検討され、以下に示すような種々の層構造を有する垂直磁気記録媒体が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1は、軟磁性裏打ち層、NiCr、NiCuを主成分とするfcc構造を有する配向制御下地層、およびhcp構造を有する垂直磁化膜からなる記録層を含む垂直記録媒体を開示する。また、特許文献1には、配向制御下地層にFe、Al、Rh、Pd、Ag、Pt、およびAuのうちから少なくとも1種がさらに添加されていること、Ta,W、Moのうちから1種を主成分とする非磁性非晶質層を配向制御下地層の下側に用いること、さらには、配向制御下地層と記録層の間に、Ru合金、またはTiのうちの1種からなる配向制御中間層を用いることが開示されている。
【0006】
また特許文献2では、基板上に、少なくとも裏打ち層、配向制御層、磁気記録層及び保護層を有する磁気記録媒体であって、配向制御層は少なくともシード層及び中間層を有する積層構造を有し、シード層は中間層より基板側に配されており、かつシード層にはCuを主成分とするCu−Ti合金層を有する磁気記録媒体が開示されている。また中間層は、Ru、Reまたはこれらの合金の少なくともいずれかを含有する合金材料を主材料とし、hcp構造を有することを開示する。さらには、中間層を2層化することで結晶配向と微細化を両立することを開示する。
【0007】
特許文献3は、非磁性基体上に下地層、磁気記録層、保護層、液体潤滑層を順次有する垂直磁気記録媒体を開示し、下地層が非磁性NiFeCrを含むことを特徴とする。さらに、下地層と磁気記録層の間に、CoCr、CoCrB、Ru、Pdの非磁性材料のいずれかを含む中間層を含むことが記載されている。
【0008】
また特許文献4では、非磁性基体上に軟磁性裏打ち層、中間層、CoCr系合金層の磁性層、保護層、および液体潤滑層を順次有する垂直磁気記録媒体であって、磁性層がグラニュラー構造の第1の磁性層と非グラニュラー構造の第2の磁性層とから構成された垂直磁気記録媒体を開示している。さらに、中間層は、hcp構造を有するTi、Re、Ru、Osのうちの少なくとも一種の金属を含む合金で構成されることが開示されている。
【0009】
特許文献5は、非磁性基体上に、シード層、下地層、磁気記録層、および被覆層が順次積層されてなる垂直磁気記録媒体であって、磁気記録層が異なる材料からなる磁性層を積層した構造からなる垂直磁気記録媒体を開示する。また、シード層として、NiFe合金あるいはNiFeに少なくともB、Si、Nb、Moのいずれかを添加した合金、またはCo或いはCoに少なくともB、Si、Nb、Mo、Fe、Niのいずれかを添加した合金を、さらに、下地層としては、例えばTi、Zr、Ru、Zn、Tc、Re等のhcp構造となる金属、またはCu、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Ni、Coなどのfcc構造となる金属を用いることがそれぞれ開示されている。
【0010】
特許文献6では、非磁性基体上に、軟磁性裏打ち層、中間層、CoCr系合金層の磁性層、保護層、および液体潤滑剤層が順次積層されてなる垂直磁気記録媒体であって、磁性層がグラニュラー構造の第1の磁性層と非グラニュラー構造の第2の磁性層とから構成された垂直磁気記録媒体を開示している。また、中間層がhcp結晶構造を有するTi、Re、Ru、Osのいずれかの金属、又はTi、Re、Ru、Osのうちの少なくとも一種の金属を含む合金で構成されることを開示する。
【0011】
特許文献7では、基板上に、軟磁性裏打ち層、FeCoBシード層、fcc構造の結晶配向制御層、非磁性下地層、及び磁気記録層を有する磁気記録媒体が開示され、該結晶配向制御層は、Ni、Fe、Co、Cu、Rh、Ir、Pd、Pt,Al、Au、およびAgのうち少なくとも1種の元素を含む合金より形成されることが開示されている。
特許文献8には、非磁性基体上に少なくとも下地層と磁気記録層と保護膜及び液体潤滑材層が順次積層されてなる垂直磁気記録媒体の製造方法が開示され、Ru或いはRuW、RuTi、RuAl、RuCu、RuSi、RuC、RuB、RuCoCrなどの少なくともRuを含む合金からなる下地層の下に、NiFe等のNi基合金であるシード層をさらに設けた磁気記録媒体の製造方法も開示されている。さらに、磁気記録層には、グラニュラー層と呼ばれる、CoCrPt合金を微粒子として、微粒子界面にSiO2、及びTiO2などの酸化物を偏析させた構造からなる磁気記録層を用いることを開示する。
【0012】
一方、特許文献9では、非晶質Taを含むシード層、NiおよびWを含む非磁性fcc合金下地層、非磁性hcp下地層、および磁気層を含む垂直磁気記録媒体が開示されており、hcp下地層にはRuCr30下地層を用いることが述べられている。また、媒体中からは、Ru、Ptのような貴金属元素は極力減らすことが望ましいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−34060号公報
【特許文献2】特開2010−44842号公報
【特許文献3】特開2002−358617号公報
【特許文献4】特開2003−168207号公報
【特許文献5】特開2005−196898号公報
【特許文献6】特開2006−277950号公報
【特許文献7】特開2008−84413号公報
【特許文献8】特許第4224804号公報
【特許文献9】特表2010−518536号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】「垂直磁気記録の最新技術」中村廣久監修 シーエムシー出版(2007)第127−131頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このように垂直磁気記録媒体の記録密度を向上させるための技術として多くの提案がなされている。しかしながら、垂直磁気記録媒体の特性は、積層される各層の成分、組成、及び積層順序などの諸事項に依存し、従来提案されている技術においては、これら諸事項のすべてを好適化しているとはいえず、ゆえに媒体特性は一長一短である。このため、近年においては、垂直磁気記録媒体の特性のさらなる改善が要請されている。
【0016】
垂直磁気記録媒体の信号出力の増大およびノイズの低減によって高い信号−ノイズ比(SN比)を実現するためには、磁気記録層の配向分散を可能な限り小さくする必要がある。さらに、磁気記録媒体の低ノイズ化のためには、磁気記録層の結晶粒径を縮小する必要がある。
【0017】
一方、シード層または中間層は、その上に形成される磁気記録層の結晶性、配向性および結晶粒径等を制御する機能を有しており、磁気記録層の特性に影響を及ぼすことが知られている。したがって、磁気記録層材料の結晶粒径を低減させるためには、シード層または中間層の結晶粒径を縮小することが有効である。
【0018】
しかしながら、シード層または中間層の膜厚を減少させた場合、磁気記録層材料の結晶配向性の低下、磁気結晶粒間の磁気的分離の阻害が起こり、磁気記録層の磁気特性が低下することも知られている。よって、これらの点を考慮すると、シード層または中間層は、磁気記録層の磁気特性を維持ないし向上させながら、膜厚を制御する必要がある。
【0019】
したがって、本発明の目的は、磁気記録層の配向分散低減および結晶粒径微細化と同時に、シード層及び中間層の膜厚の低減を可能とし、それによって低ノイズ化、およびSN比等の性能の向上を可能とする垂直磁気記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
このような状況に鑑み、本発明者らは、特定の金属合金からなる複数の非磁性中間層を積層させることで、それぞれの膜厚を、単層を中間層に用いた場合の膜厚よりも薄くすることができ、さらに磁気記録層の特性を低下させることなく磁気記録層の粒径を微細化しやすくすることを明らかにし、以下の手段に至った。
【0021】
本発明に係る垂直磁気記録媒体は、非磁性基板上に少なくとも、第1非磁性中間層、第2非磁性中間層、および磁気記録層が順次積層された垂直磁気記録媒体であって、前記第1非磁性中間層がCoCrRuW合金から形成され、かつ第2非磁性中間層がRu基合金から形成されることを特徴とする。
【0022】
本発明において、該CoCrRuW合金は、Cr量が14.5at.%以上、25.5at.%以下であり、Ru量が4.5at.%以上、20.5at.%以下であり、W量が 4.5at.%以上、8.5at.%以下であり、残部がCoであることが望ましい。また、第1非磁性中間層の膜厚は5〜14nm、好ましくは6〜12nmとする。また、該磁気記録層がグラニュラー構造を含むことが望ましい。
【0023】
さらに、本発明は、これらの垂直磁気記録媒体の製造方法も含む。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、より低ノイズ化およびSN比等の性能が向上され、高密度磁気記録が実現可能な垂直磁気記録媒を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の垂直磁気記録媒体の層構成を示す断面模式図である。
【図2】実施例1および比較例1におけるROWに対するMFspiSNRの値をプロットしたものである。
【図3】実施例1および比較例1におけるROWに対するSquashの値をプロットしたものである。
【図4】実施例2および比較例1におけるROWに対するMFspiSNRの値をプロットしたものである。
【図5】実施例2および比較例1におけるROWに対するSquashの値をプロットしたものである。
【図6】実施例3および比較例1におけるROWに対するMFspiSNRの値をプロットしたものである。
【図7】実施例3および比較例1におけるROWに対するSquashの値をプロットしたものである。
【図8】実施例4および比較例1におけるROWに対するMFspiSNRの値をプロットしたものである。
【図9】実施例4および比較例1におけるROWに対するSquashの値をプロットしたものである。
【図10】実施例5におけるROWに対するMFspiSNRの値をプロットしたものである。
【図11】実施例5におけるROWに対するSquashの値をプロットしたものである。
【図12】実施例6におけるROWに対するMFspiSNRの値をプロットしたものである。
【図13】実施例6におけるROWに対するSquashの値をプロットしたものである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の単なる一例であって、当業者であれば、適宜設計変更可能である。
【0027】
図1は、本発明の垂直磁気記録媒体を示す断面図である。本発明の垂直磁気記録媒体は、非磁性基板101上に、軟磁性裏打ち層103、第1非磁性中間層108、第2非磁性中間層109、および磁気記録層110をこの順に備えている。また、本発明の垂直磁気記録媒体は、任意選択的に、図1に示すように軟磁性裏打ち層103と第1非磁性中間層108との間にプレシード層106およびシード層107を有してもよい。さらに、本発明の垂直磁気記録媒体は、図1に示すように任意選択的に磁気記録層110上に形成された保護層114を有してもよく、また前記保護層114上に形成された潤滑層115を有してもよい。
【0028】
(非磁性基板)
本発明において用いる非磁性基板101は、非磁性体であり、また、後述する各層の形成に用いられる条件(溶媒、温度など)に耐えるものが用いられ、通常の磁気記録媒体に用いられる、表面が平滑である様々な基板を利用することができる。詳細には、NiPメッキを施したAl合金、強化ガラス、結晶化ガラス、およびシリコンなどの材料からなる基板を用いることができる。
【0029】
非磁性基板101は、他の構成要素102〜115を形成する前に洗浄しておくことが好ましい。洗浄は、ブラシやスポンジを用いたスクラブ方式、高圧水噴射方式、アルカリ洗剤への浸漬方式などにより行うことができる。また、これらの方式による洗浄を行った後、さらに紫外線照射を行うことができる。
【0030】
本発明の非磁性基板101は、その上に任意選択的に密着層102を設けてもよい。密着層102は、その上に形成される軟磁性裏打ち層103と非磁性基板101との密着性を高めるために用いられる。密着層102の材料としては、CrTi合金など、ガラス等の基板材料と密着性が良好な材料を用いることができる。
【0031】
(軟磁性裏打ち層)
軟磁性裏打ち層103は、非磁性基板101または密着層102上に形成され、情報の記録時に磁気ヘッドから発生する磁束の広がりを防止すべく、垂直方向の磁界を十分に確保する役割を担う構成要素である。軟磁性裏打ち層103の材料としては、Ni合金、Fe合金、Co合金を用いることができる。特に、非晶質のCoZrNb、CoTaZr、CoTaZrNb、CoFeZrNb、CoFeNiZrNb、CoFeTaZrNb、CoFeTaZr、 CoFeZrTaTiNb、FeCoTaBなどを用いることにより、良好な電磁変換特性を得ることができる。
【0032】
軟磁性裏打ち層103は、特定の組成を有する単層膜として構成することもできる。また、磁気記録層110に記録された磁化を安定化させるとともに媒体表面から漏洩する磁化強度を増大させ、その結果、記録媒体のノイズを低減するように、本発明の軟磁性裏打ち層103は、複数の磁性膜を強磁性的または反強磁性的に結合させた積層膜としてもよい。好ましくは、軟磁性裏打ち層103は、下軟磁性裏打ち層103aおよび上軟磁性裏打ち層103bを含む。
【0033】
下軟磁性裏打ち層103aと、上軟磁性裏打ち層103bの合計の膜厚は、情報の記録に使用する磁気ヘッドの構造および/または特性に応じて適宜設計変更することができるが、生産性を考慮した場合には、10〜100nmの膜厚で用いることが好ましい。10nm以上とすることで、十分な垂直方向の磁界を確保できる一方、100nm以下とすることで、生産性を向上できる。
【0034】
さらに好ましくは、軟磁性裏打ち層103は、下軟磁性裏打ち層103aと上軟磁性裏打ち層103bとの間に、軟磁性裏打ち層のRKKY結合を切断するRu層104を含む。Ru層104は、上下軟磁性裏打ち層同士の反強磁性結合を導出する目的で使用される。また、Ru層104のかわりに、Cr、Cu、Ag等を主成分とする非磁性合金を用いてもよい。
【0035】
(プレシード層およびシード層)
本願発明は、任意選択的にプレシード層106およびシード層107を、またはシード層107単独で、軟磁性裏打ち層103の上に形成してもよい。プレシード層106は、当該層に接して形成されるシード層107の配向性および粒径を好適に制御する。また、シード層107は、その上に形成される第1非磁性中間層108の配向性および粒径を好適に制御し、さらに第2非磁性中間層109の配向性および粒径を好適に制御し、その結果として磁気記録層110の良好な垂直配向性および粒径を好適に実現するために配設する構成要素である。
【0036】
プレシード層106の材料としては、XRD等ではブロードな回折線を示し、特有な結晶構造を有しないアモルファス状のTa、Ti、W等の合金、または金属間化合物を用いることができる。
【0037】
シード層107の材料としては、fcc構造を有するNi基合金を用いることができる。また、シード層107に、Mo、Ti、Ta、Wなどに代表される高融点金属を添加してもよい。
【0038】
プレシード層106およびシード層107の膜厚はその上に形成される層の配向性および粒径を制御できるものであれば特に限定されるものではないが、それぞれ1〜20nmおよび3〜8.5nmが好ましい。さらに好ましくは、プレシード層106の膜厚は 1〜9.5nmであり、シード層107の膜厚は3.5〜6.5nmである。
【0039】
(非磁性中間層)
本発明において用いる非磁性中間層は、CoCrRuW合金からなる材料からなる第1非磁性中間層108とRu基合金からなる第2非磁性中間層109とを含む。非磁性中間層は、その上に形成される磁気記録層110の結晶性、配向性および結晶粒径等を制御する機能を有する構成要素である。したがって、磁気記録層材料の結晶粒径を低減させるためには、非磁性中間層の結晶粒径を縮小することが有効である。
【0040】
一方、非磁性中間層の結晶粒径を縮小させるために中間層の膜厚を減少させた場合、磁気記録層材料の結晶配向性の低下により、磁気記録層の磁気特性が低下することも知られている。これらの点を考慮すると、単に非磁性中間層の膜厚を減少させるだけではなく、磁気記録層110の磁気特性を維持ないし向上させることも同時に必要とされる。
【0041】
本発明は、特定の金属合金からなる複数の非磁性中間層を積層させることで、それぞれの膜厚を、Ru単層を非磁性中間層に用いた場合の膜厚よりも薄くすることができ、さらに磁気記録層110の特性を低下させることなく磁気記録層の粒径を微細化しやすくするという効果を提供することができる。
【0042】
第1非磁性中間層108および第2非磁性中間層109の膜厚の合計は、10〜30nmとすることが好ましい。10nm以上とすることにより、第1非磁性中間層108および第2非磁性中間層109においてそれぞれ良好な結晶性が得られ、優れた配向性を実現することができる。そのため、第1非磁性中間層108および第2非磁性中間層109上に配設される磁気記録層110においても、優れた配向性および優れた結晶粒の分離性が得られる。
【0043】
また、第1非磁性中間層108および第2非磁性中間層109を合わせた膜厚を30nm以下とすることにより、非磁性中間層の粒径の肥大化がそれぞれ抑制され、前記磁気記録層110の粒径の肥大化も抑制され、その結果、磁気記録層110のノイズ低減に起因した優れたSN比を得ることができる。磁気記録層110と軟磁性裏打ち層103のスペースを低減でき、書き込み特性(writability)を高く維持できる。
【0044】
第1非磁性中間層108および第2非磁性中間層109の膜厚は、それぞれ4〜20nmであることが好ましい。第1非磁性中間層108の膜厚は5〜14nmが好ましく、6〜12nmがさらに好ましい。第2非磁性中間層109の膜厚は6〜11nmが好ましく、7〜9nmがさらに好ましい。
【0045】
本発明の第1非磁性中間層108は、hcp構造を有するCoCrRuW合金からなる。好ましくは、該CoCrRuW合金は、Cr含有量が14.5at.%以上、25.5at.%以下であり、Ru含有量が4.5at.%以上、20.5at.%以下であり、W含有量が4.5at.%以上、8.5at.%以下であり、かつ残部が主元素であるCoである。さらに好ましくは、Cr含有量が15at.%以上、25at.%以下であり、Ru含有量が5at.%以上、15at.%以下であり、W含有量が5at.%以上、10at.%以下であり、残部がCoである。
【0046】
薄膜合金材料に対し、Mo、Ti、Ta、Wなどに代表される高融点金属を添加することは、結晶粒子の微細化を促進が期待され、なかでも、最も融点が高い金属であるWについて、最もその効果が期待される。しかし、Coに対して、24at.%以上より多いMo、Ti、Ta、Wの金属を添加する場合にはCoW3などの金属間化合物が形成し、望ましくない結晶構造を生ずるため、それ以下の添加量が望ましい。
【0047】
本発明の第2非磁性中間層109は、Ru単独で、またはhcp構造を有するRu基合金により形成することができる。Ruは原子半径が大きいことから、より原子半径の大きなWやTaを第2非磁性中間層109に添加してもよい。Ru基合金はRuを5at.%以上含む合金をいい、好ましくは70at.%以上、さらに好ましくは95at.%以上のRuを含む。
【0048】
(磁気記録層)
磁気記録層110は、情報を記録するために配設する構成要素である。磁気記録層110は、垂直磁気記録媒体の構成要素として用いる場合、磁化容易軸が基板面に対して垂直方向に配向している必要がある。具体的には、hcp(0002)面が基板面に平行に配向していることが好ましい。
【0049】
また、磁気記録層110は、Co基合金からなる強磁性結晶粒を、酸化物を主成分とする非磁性結晶粒が囲むいわゆるグラニュラー構造を呈することが好ましい。グラニュラー構造とすることにより、前記磁気記録層110の電磁変換特性を十分に担保し、磁気記録媒体のノイズ低減に起因した優れたSN比を得ることができる。ここで、「酸化物を主成分とする」とは、他の成分を微量に含有することを妨げないことを意味し、酸化物が非磁性結晶粒の概ね90モル%以上の比率で存在することを意味する。
【0050】
前記強磁性結晶粒を構成するCo基合金としては、CoPtCr、CoPt、CoPtSi、CoPtCrBなどのCoPt基合金、CoCr、CoCrTa、CoCrTaPtなどのCoCr基合金等が挙げられる。中でも、CoPt基合金は、磁気異方性エネルギー(Ku)を高く設定することができる点で好ましい。
【0051】
前記非磁性結晶粒を構成する酸化物としては、上記のCo基合金の強磁性結晶粒を磁気的に分離する性能が高いSiO2、Cr2O3、ZrO2、Al2O3などが挙げられる。中でも、SiO2は、上記Co基合金からなる強磁性結晶粒を磁気的に分離する性能が優れている点で好ましい。
【0052】
また、磁気記録層110は、単層でも、また複数の層からなる積層体(図示せず)であってもよい。好ましくは、磁気記録層110は、複数の層から形成される積層体であり、複数の磁気記録層を含む。
【0053】
一の実施態様において、本願発明の磁気記録媒体は、磁気記録層と磁気記録層との間に交換結合力制御層111を設けてもよい。交換結合力制御層111は、第1グラニュラー磁気記録層110aと第2グラニュラー磁気記録層110bの間に設けて交換結合エネルギーを弱めることで、熱安定性をほとんど劣化させずに反転磁界を低減させ、書き込み特性を改善させる層である。
【0054】
前記交換結合力制御層111の材料としては、Ru、RuCo、RuCr、NiCr等が挙げられる。交換結合力制御層111の膜厚は、用いる材料により最適膜厚が異なるが、0.07〜0.8nmの範囲で用いることが好ましい。0.07nmより薄い場合は、第1グラニュラー磁気記録層110aと第2グラニュラー磁気記録層110bが強磁性結合して、書き込み特性が劣化する。また、0.8nmより厚い場合は、第1グラニュラー磁気記録層110aと第2グラニュラー磁気記録層110bとの磁気的な結合が切れてしまうため、熱安定性が劣化する。
【0055】
一の実施態様において、本発明の垂直磁気記録媒体は、さらに非グラニュラー磁気記録層110c(図示せず)を設けてもよい。非グラニュラー磁気記録層110cは、磁気記録媒体の優れた耐久性を担保し、かつ、前記グラニュラー磁気記録層110aおよび110b全体の磁気特性を好適に制御するために交換結合力制御層111、あるいは第2グラニュラー磁気記録層110b上に配設される構成要素である。非グラニュラー磁気記録層110cは、垂直磁気記録媒体の構成要素として用いる場合、Co基合金からなる強磁性結晶粒と、金属の酸化物および窒化物を含有しない金属の非磁性結晶粒とを含む構造とすることが好ましい。非グラニュラー磁気記録層110cは、第1グラニュラー磁気記録層110aおよび第2グラニュラー磁気記録層110bの非磁性結晶粒界から溶出するCo原子をブロックすることで磁気記録媒体の優れた耐久性を実現することができるとともに、前記第1グラニュラー磁気記録層110aおよび第2グラニュラー磁気記録層110b全体の磁気特性を好ましい状態に制御することができる。
【0056】
非グラニュラー磁気記録層110cの非磁性結晶粒界を構成する金属材料としては、Ta、Pt、B、Si、Nb、CuおよびTiのうちの少なくとも一種が挙げられる。中でも、Bは、上記Co基合金からなる強磁性結晶粒を磁気的に分離する性能が特に優れている点で好ましい。
【0057】
非グラニュラー磁気記録層110cの膜厚は、本発明の垂直記録媒体の性能を妨げるものでなければ任意の値をとることができるが、好ましくは1nm〜5nmであり、より好ましくは3nm〜4nmである。
【0058】
さらに、本発明の垂直記録媒体の磁気記録層110は、上記グラニュラー磁気記録層110aおよび/または110b、交換結合力制御層111、ならびに非グラニュラー磁気記録層110cを、十分な磁気記録性能を得るために任意選択的に組合せて積層し、形成することができる。一の実施態様において、第2グラニュラー層を省いて、交換結合力制御層111上に、非グラニュラー磁気記録層110cを直接成膜しても良い。
【0059】
(保護層および潤滑層)
保護層114は、図1の本発明の磁気記録媒体の断面図において、当該層114の下方に位置する各層102〜110cを保護するとともに、特に、下軟磁性裏打ち層103、上軟磁性裏打ち層105からのCoの溶出を防止するために配設する構成要素である。保護層114には、垂直磁気記録媒体に通常使用される材料を用いることができる。例えば、ダイヤモンド状カーボン(DLC)もしくはアモルファスカーボンなどのカーボンを主体とする保護層(好ましくはダイヤモンド状カーボン)、または磁気記録媒体の保護層として用いることが知られている種々の薄層材料を利用できる。保護層114の膜厚は、垂直磁気記録媒体の構成要素として通常用いられる膜厚を適用することができる。
【0060】
潤滑層115は、任意の構成要素であるが、保護層114と磁気ヘッド(図示せず)との間に生ずる摩擦力を低減し、磁気記録媒体の優れた耐久性および信頼性を得る目的で配設する液状の構成要素である。潤滑層115の材料としては、磁気記録媒体に通常用いられる材料を使用することができる。例えば、パーフルオロポリエーテル系の潤滑剤などが挙げられる。潤滑層115の膜厚は、垂直磁気記録媒体の構成要素として通常用いられる膜厚を適用することができる。
【0061】
(製造方法)
非磁性基板101の上に積層される各層は、磁気記録媒体の分野で通常用いられる様々な成膜技術によって形成することができる。密着層102から保護層114に至る各層の形成には、例えば、スパッタ法(DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法などを含む)、真空蒸着法などを用いることができる。また、保護層114の形成においては、前記の方法に加えてCVD法などを用いることもできる。一方、潤滑層115は、たとえば、ディップコート法、スピンコート法などの当該技術分野において知られている任意の塗布方法を用いて形成することができる。
【実施例】
【0062】
以下に本発明の実施例を説明するが、以下の実施例は、本発明を説明するための代表例に過ぎず、本発明をなんら限定するものではない。
【0063】
図1に示す構成を用い、各層の材料および膜厚を変更した実施例1〜7、ならびに比較例1および2を作製した。
【0064】
(実施例1)
非磁性基板101として、直径95mmのAl基板を用いた。Al基板は、10μm×10μmの測定領域におけるAFMでの粗さが1.2Å(オングストローム)以下であった。この基板上に、保護層および潤滑層を除き、スパッタリング法にて各層の成膜を行い、表1に記載の構成を有する磁気記録媒体を作製した。なお、本実施例におけるスパッタリング法は、特に示さない限り直流マグネトロンスパッタリング装置を用いて実施した。
【0065】
まず、非磁性基板101上に厚さ13nmのCrTi密着層102を作製した。次いで、厚さ13nmのFeCoTaB合金からなる第1軟磁性裏打ち層103a、厚さ1.2nmのRu層104、および厚さ12nmのFeCoTaB合金からなる第2軟磁性裏打ち層103bを順次形成し、軟磁性裏打ち層103とした。次に、アモルファス構造を有するCrTi合金からなるプレシード層106を厚さ9nmで、NiFeCrWTi合金からなるシード層107を厚さ6nmでそれぞれ形成した。
【0066】
次いで、該シード層107上に、第1非磁性中間層108をCo25Cr5Ru5W(全原子を基準として、25at.%のC、5at.%のRu、および残余のCoで構成される。以下同様。)合金ターゲットを用いたスパッタリング法により厚さ12nmで形成し、さらにRu単体層を厚さ8nmで形成して第2非磁性中間層109とした。
【0067】
次に、第2非磁性中間層109の上に、結合制御層111としてRu単体層をはさんでCo基合金からなる第1磁気記録層110aおよび第2磁気記録層110bを形成し、さらに第2磁気記録層110bの上に、CoPt合金からなる第3磁気記録層110cを形成して、磁気記録層110を作製した。詳細には、第1磁気記録層110aおよび第2磁気記録層110bはグラニュラー磁気記録層であり、第3磁気記録層110cは非グラニュラー磁気記録層であり、それらの膜厚は表1に示すとおりであった。
【0068】
その後、CVD法により厚さ2.0nmのカーボン保護層114を磁気記録層上に形成し、さらに、パーフルオロポリエーテルからなる潤滑層115を厚さ9nmで形成し、磁気記録媒体を作製した。
【0069】
【表1】
【0070】
(評価試験1)
得られた磁気記録媒体の電磁変換特性を、MFSpiSNR、SqzSNR、Squash、およびROWにより評価した。半径31.37mmの位置で、最大で、線記録密度約2000kfci、トラックピッチ400ktpiの測定条件で、電磁変換特性を評価した結果を表2に示す。
【0071】
MFSpiSNRとは、最高記録周波数の1/2の周波数におけるSN比であり、値が高いほど高密度記録が可能となる。線記録密度約1000kfciの場合について、スペクトルアナライザーを用いて再生信号出力(S)とトータルサイズ(Nt)の比を測定し、次式より求めた。
MFSpiSNR=20×log(S/Nt)
【0072】
SqzSNRは、センタートラックに書き込み後、隣接トラックの信号を消去した際に、センタートラックに残存する信号出力S1とトータルノイズ(Nt)の比を指し、次式で示される。
SqzSNR=log(S1/Nt)
【0073】
Squashは、センタートラックに書き込み後、隣接トラックの信号を消去した際に残存する信号出力の割合を示す。
【0074】
ROWは高密度の記録に低密度の記録を上書きしたときの、元の記録信号強度と消し残り信号強度との比であり、815kfciの線記録密度を有する信号上に、108kfciの線記録密度を有する信号を上書きした時の値を測定した。
【0075】
【表2】
【0076】
(比較例1)
第1非磁性中間層108として、厚さ10nmのCo25Cr5Mo5Ruと厚さ3nmのCo24Cr4Wとの2層膜を用い、磁気記録媒体を作製した。また、比較例1では、第1非磁性中間層108の材料のほか、第1軟磁性裏打ち層103aおよび第2軟磁性裏打ち層103bの材料にFeCoZrTaTiNb合金を用いている点、プレシード層106の膜厚を14nmとしている点、ならびに第1非磁性中間層108の膜厚の点で実施例1と相違していたが、第1非磁性中間層108の材料以外のこれらの相違点が電磁変換特性に及ぼす影響は、同一のROWに対するMFSpiSNRの値で、総じておよそ0.1dB以内であった。
【0077】
比較例1についても、実施例1と同様に、得られた磁気記録媒体の電磁変換特性を評価した。その結果を表2ならびに図2および図3に示す。比較例1−1および1−2と比べて、第1非磁性中間層108に厚さ12nmのCo25Cr5Ru5W合金を用いた実施例1−1および1−2では、同じROWに対して、MFSpiSNRは約0.4dB高くなった。さらにSqzSNRおよびSquashも同等以上となり、実施例1は比較例1よりも良好な結果となった。
【0078】
(実施例2)
軟磁性裏打ち層103をFeCoZrTiNb合金から形成した点、第1軟磁性裏打ち層103aおよび第2軟磁性裏打ち層103bの間のRu単体層104の膜厚を0.4nmとした点、ならびに第1非磁性中間層108の材料および膜厚をそれぞれ表3に記載したとおりに変更した点以外は、実施例1と同様に磁気記録媒体を作製した。また、得られた磁気記録媒体について、実施例1と同様に電磁変換特性を評価した。その結果を表4ならびに図4および図5に示す。
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
実施例2の比較には、実施例1と同じ比較例1を用いた。実施例2では、第1非磁性中間層108の材料のほか、軟磁性裏打ち層103におけるRu単体層104の膜厚を0.4nmとしている点、プレシード層106の膜厚を14nmとしている点、および第1非磁性中間層108の膜厚の点で比較例1と相違していたが、第1非磁性中間層108の材料以外のこれらの相違点が電磁変換特性に及ぼす影響は、同一のROWに対するMFSpiSNRの値で、総じておよそ0.2dB以内であった。
【0082】
比較例1−1および1−2と比べて、実施例2−1〜2−9では、いずれも同じROWに対してMFspiSNRは約0.3dB以上高くなった。さらに第1非磁性中間層108の膜厚を、比較例1−1および1−2と同様の10nmとした実施例2−4〜2−6では、比較例1−1および1−2と比べて、MFSpiSNRは約0.4dB以上高くなった。SqzSNRおよびSquashも同等以上となり、実施例2は比較例1よりも良好な結果となった。
【0083】
よって、第1非磁性中間層108にCo25Cr5Ru5W合金を用いた磁気記録媒体は、厚さ10nmのCo25Cr5Mo5Ru合金と厚さ3nmのCo24Cr4W合金とからなる積層中間層を用いた磁気記録媒体より優れた電磁変換特性を示すことがわかった。
【0084】
(実施例3)
軟磁性裏打ち層103をFeCoZrTiNb合金から形成した点、ならびに第1非磁性中間層108の材料および膜厚をそれぞれ表5に記載したとおりに変更した点以外は、実施例1と同様に磁気記録媒体を作製した。また、得られた磁気記録媒体について、実施例1と同様に電磁変換特性を評価した。その結果を表6ならびに図6および図7に示す。
【0085】
【表5】
【0086】
【表6】
【0087】
実施例3での比較には、実施例1と同じ比較例1を用いた。実施例3では、第1非磁性中間層108の材料のほか、プレシード層106の膜厚を14nmとしている点、および第1非磁性中間層108の膜厚の点で実施例1と相違していたが、第1非磁性中間層108の材料以外のこれらの相違点が電磁変換特性に及ぼす影響は、同一のROWに対するMFpiSNRの値で、総じておよそ0.1dB以内であった。
【0088】
比較例1−1および1−2と比べて、実施例3−1〜3−3では、同じROWに対してMFspiSNRは約0.2〜0.3dB高くなった。また、第1非磁性中間層の材料にCo20Cr5W5Ru合金を用いた3−4および3−5では、同じROWに対してMFSpiSNRは0.1〜0.2dB高くなった。SqzSNRおよびSquashも同等以上となり、実施例3は総じて比較例1より良好な結果となった。
【0089】
よって、第1非磁性中間層108にCo25Cr5W5Ru合金またはCo20Cr5W5Ru合金を用いた磁気記録媒体は、同様にして、厚さ10nmのCo25Cr5Mo5Ru合金と厚さ3nmのCo24Cr4W合金とからなる積層中間層を用いた磁気記録媒体より優れた電磁変換特性を示すことがわかった。
【0090】
(実施例4)
非磁性基板101として直径65mmのガラス基板(HOYA製型番N5)を用いた点、第1軟磁性裏打ち層103aおよび第2軟磁性裏打ち層103bの間のRu単体層104の膜厚を0.25nmとした点、プレシード層106の厚さを3nmとしている点、ならびに第1非磁性中間層108の材料および膜厚をそれぞれ表7に記載したとおりに変更した点以外は、実施例1と同様に磁気記録媒体を作製した。
【0091】
【表7】
【0092】
(評価試験2)
実施例4で得られた磁気記録媒体の電磁変換特性を、半径22.3mmの位置で、最大で、線記録密度約2000kfci、トラックピッチ400ktpiの測定条件で、評価試験1と同様に、MFSpiSNR、SqzSNR、Squash、およびROWにより評価した。結果を表8ならびに図8および9に示す。ROWは、997kfciの線記録密度を有する信号上に、133kfciの線記録密度を有する信号を上書きした時の値を用いた。
【0093】
図8および図9に示すとおり、実施例4−1〜4−4は、いずれも良好な電磁変換特性を有することが確認された。
【0094】
【表8】
【0095】
(実施例5)
非磁性基板101として直径65mmのガラス基板を用いた点、第1軟磁性裏打ち層103aおよび第2軟磁性裏打ち層103bの間のRu単体層104の膜厚を0.25nmとした点、プレシード層106の厚さを3nmとしている点、ならびに第1非磁性中間層108の材料および膜厚をそれぞれ表9に記載したとおりに変更した点以外は、実施例1と同様に磁気記録媒体を作製した。
【0096】
【表9】
【0097】
(評価試験3)
実施例5で得られた磁気記録媒体の電磁変換特性を、半径29.0mmの位置で、最大で、線記録密度約2000kfci、トラックピッチ400ktpiの測定条件で、評価試験1と同様に、MFSpiSNR、SqzSNR、Squash、およびROWにより評価した。結果を表10ならびに図10および図11に示す。ROWは、926kfciの線記録密度を有する信号上に、123kfciの線記録密度を有する信号を上書きした時の値を用いた。
【0098】
図10および図11に示すとおり、実施例5−1〜5−10は、いずれも良好な電磁変換特性を有することが確認された。
【0099】
【表10】
【0100】
(実施例6)
非磁性基板101として直径65mmのガラス基板を用いた点、第1軟磁性裏打ち層103aおよび第2軟磁性裏打ち層103bの間のRu単体層104の膜厚を0.25nmとした点、プレシード層106の厚さを6nmとしている点、ならびに第1非磁性中間層108の材料および膜厚をそれぞれ表11に記載したとおりに変更した点以外は、実施例1と同様に磁気記録媒体を作製した。
【0101】
【表11】
【0102】
得られた磁気記録媒体の電磁変換特性を、実施例5と同様の条件にて評価した。結果を表12ならびに図12および図13に示す。図12および図13に示すとおり、実施例6−1〜6−10は、いずれも良好な電磁変換特性を有することが確認された。また、第1非磁性中間層108として、厚さ6nmのCo10Cr15Ru5W合金膜より、厚さ6nmのCo15Cr15Ru5W合金膜のほうが良好な特性を示した。
【0103】
【表12】
【0104】
(実施例7)
プレシード層106にCoTi層を用いた以外は実施例1と同様に、直径95mmのAl基板からなる非磁性基板101上に、密着層102、第1軟磁性裏打ち層103a、Ru層104、第2軟磁性裏打ち層103b、プレシード層106、シード層107、第1非磁性中間層108、Ru単体層、第2非磁性中間層109、および第1磁気記録層110aを順次形成し、その上に保護層114を形成してXRD結晶構造解析用測定試料を作製した。
【0105】
(比較例2)
第1非磁性中間層108をCo25Cr5Mo5Ru5Mn合金を用いて形成した点以外は実施例7と同様に、XRD結晶構造解析用測定試料を作製した。
【0106】
(評価試験4)
実施例7および比較例2で作製した測定試料について、X線回折装置(型番Rint−Ultima III、(株)リガク製)を用いて、XRD結晶構造解析を行った。表13に層構成及びXRDによる結晶構造解析結果を示す。第1非磁性中間層108にCo25Cr5Ru5W合金膜を用いた実施例7は、第1非磁性中間層108にCo25Cr5Mo5Ru5Mn合金を用いた比較例2と比較して、試料のhcp(002)面に対応する42.2degおよび42.6degにおける半値幅(FWHM)が低下傾向を示し、c軸配向性が良好となった。
【0107】
【表13】
【符号の説明】
【0108】
101 非磁性基板
103 軟磁性裏打ち層
106 プレシード層
107 シード層
108 第1非磁性中間層
109 第2非磁性中間層
110 磁気記録層
114 保護層
115 潤滑層
【技術分野】
【0001】
本発明は各種磁気記録装置に搭載する垂直磁気記録媒体に関する。より詳細には、コンピュータ、AV機器等の外部記憶装置として用いられるハードディスクドライブに搭載される、高密度磁気記録が実現可能な垂直磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクドライブ(HDD)として用いられる磁気記録媒体は、磁気記録の高密度化をより実現する技術として、垂直磁気記録方式が採用されている。その層構成は、例えば、非磁性基体上に下地層と磁気記録層と保護膜と液体潤滑層とが順次積層されて形成される。垂直磁気記録方式では、垂直磁気記録媒体に記録された記録ビットは、隣接する記録ビットの反磁界の影響により、高記録密度であるほど残留磁化の大きさが安定するという利点がある。その結果、垂直磁気記録媒体は、優れた熱揺らぎ耐性を実現することもできる。
【0003】
そこで、垂直磁気記録媒体の記録密度を、さらに高密度化する方法が種々検討されてきた。例えば、2層垂直磁気記録媒体と呼ばれている方法では、下地層と基板の間に軟磁性裏打ち層を有する媒体が用いられている。2層垂直磁気記録媒体では、軟磁性裏打ち層が磁気ヘッドから発生される磁界を急峻に引き込むため、磁界勾配が小さくなり、信号の書き広がりの影響が低減される(例えば、非特許文献1等参照)。
【0004】
このほか、垂直磁気記録媒体のさらなる高記録密度を実現するために、磁性結晶粒の微細化、およびその分離性向上、ならびに磁性層の磁化容易軸であるc軸の配向分散Δθ50の減少などが検討され、以下に示すような種々の層構造を有する垂直磁気記録媒体が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1は、軟磁性裏打ち層、NiCr、NiCuを主成分とするfcc構造を有する配向制御下地層、およびhcp構造を有する垂直磁化膜からなる記録層を含む垂直記録媒体を開示する。また、特許文献1には、配向制御下地層にFe、Al、Rh、Pd、Ag、Pt、およびAuのうちから少なくとも1種がさらに添加されていること、Ta,W、Moのうちから1種を主成分とする非磁性非晶質層を配向制御下地層の下側に用いること、さらには、配向制御下地層と記録層の間に、Ru合金、またはTiのうちの1種からなる配向制御中間層を用いることが開示されている。
【0006】
また特許文献2では、基板上に、少なくとも裏打ち層、配向制御層、磁気記録層及び保護層を有する磁気記録媒体であって、配向制御層は少なくともシード層及び中間層を有する積層構造を有し、シード層は中間層より基板側に配されており、かつシード層にはCuを主成分とするCu−Ti合金層を有する磁気記録媒体が開示されている。また中間層は、Ru、Reまたはこれらの合金の少なくともいずれかを含有する合金材料を主材料とし、hcp構造を有することを開示する。さらには、中間層を2層化することで結晶配向と微細化を両立することを開示する。
【0007】
特許文献3は、非磁性基体上に下地層、磁気記録層、保護層、液体潤滑層を順次有する垂直磁気記録媒体を開示し、下地層が非磁性NiFeCrを含むことを特徴とする。さらに、下地層と磁気記録層の間に、CoCr、CoCrB、Ru、Pdの非磁性材料のいずれかを含む中間層を含むことが記載されている。
【0008】
また特許文献4では、非磁性基体上に軟磁性裏打ち層、中間層、CoCr系合金層の磁性層、保護層、および液体潤滑層を順次有する垂直磁気記録媒体であって、磁性層がグラニュラー構造の第1の磁性層と非グラニュラー構造の第2の磁性層とから構成された垂直磁気記録媒体を開示している。さらに、中間層は、hcp構造を有するTi、Re、Ru、Osのうちの少なくとも一種の金属を含む合金で構成されることが開示されている。
【0009】
特許文献5は、非磁性基体上に、シード層、下地層、磁気記録層、および被覆層が順次積層されてなる垂直磁気記録媒体であって、磁気記録層が異なる材料からなる磁性層を積層した構造からなる垂直磁気記録媒体を開示する。また、シード層として、NiFe合金あるいはNiFeに少なくともB、Si、Nb、Moのいずれかを添加した合金、またはCo或いはCoに少なくともB、Si、Nb、Mo、Fe、Niのいずれかを添加した合金を、さらに、下地層としては、例えばTi、Zr、Ru、Zn、Tc、Re等のhcp構造となる金属、またはCu、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Ni、Coなどのfcc構造となる金属を用いることがそれぞれ開示されている。
【0010】
特許文献6では、非磁性基体上に、軟磁性裏打ち層、中間層、CoCr系合金層の磁性層、保護層、および液体潤滑剤層が順次積層されてなる垂直磁気記録媒体であって、磁性層がグラニュラー構造の第1の磁性層と非グラニュラー構造の第2の磁性層とから構成された垂直磁気記録媒体を開示している。また、中間層がhcp結晶構造を有するTi、Re、Ru、Osのいずれかの金属、又はTi、Re、Ru、Osのうちの少なくとも一種の金属を含む合金で構成されることを開示する。
【0011】
特許文献7では、基板上に、軟磁性裏打ち層、FeCoBシード層、fcc構造の結晶配向制御層、非磁性下地層、及び磁気記録層を有する磁気記録媒体が開示され、該結晶配向制御層は、Ni、Fe、Co、Cu、Rh、Ir、Pd、Pt,Al、Au、およびAgのうち少なくとも1種の元素を含む合金より形成されることが開示されている。
特許文献8には、非磁性基体上に少なくとも下地層と磁気記録層と保護膜及び液体潤滑材層が順次積層されてなる垂直磁気記録媒体の製造方法が開示され、Ru或いはRuW、RuTi、RuAl、RuCu、RuSi、RuC、RuB、RuCoCrなどの少なくともRuを含む合金からなる下地層の下に、NiFe等のNi基合金であるシード層をさらに設けた磁気記録媒体の製造方法も開示されている。さらに、磁気記録層には、グラニュラー層と呼ばれる、CoCrPt合金を微粒子として、微粒子界面にSiO2、及びTiO2などの酸化物を偏析させた構造からなる磁気記録層を用いることを開示する。
【0012】
一方、特許文献9では、非晶質Taを含むシード層、NiおよびWを含む非磁性fcc合金下地層、非磁性hcp下地層、および磁気層を含む垂直磁気記録媒体が開示されており、hcp下地層にはRuCr30下地層を用いることが述べられている。また、媒体中からは、Ru、Ptのような貴金属元素は極力減らすことが望ましいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−34060号公報
【特許文献2】特開2010−44842号公報
【特許文献3】特開2002−358617号公報
【特許文献4】特開2003−168207号公報
【特許文献5】特開2005−196898号公報
【特許文献6】特開2006−277950号公報
【特許文献7】特開2008−84413号公報
【特許文献8】特許第4224804号公報
【特許文献9】特表2010−518536号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】「垂直磁気記録の最新技術」中村廣久監修 シーエムシー出版(2007)第127−131頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このように垂直磁気記録媒体の記録密度を向上させるための技術として多くの提案がなされている。しかしながら、垂直磁気記録媒体の特性は、積層される各層の成分、組成、及び積層順序などの諸事項に依存し、従来提案されている技術においては、これら諸事項のすべてを好適化しているとはいえず、ゆえに媒体特性は一長一短である。このため、近年においては、垂直磁気記録媒体の特性のさらなる改善が要請されている。
【0016】
垂直磁気記録媒体の信号出力の増大およびノイズの低減によって高い信号−ノイズ比(SN比)を実現するためには、磁気記録層の配向分散を可能な限り小さくする必要がある。さらに、磁気記録媒体の低ノイズ化のためには、磁気記録層の結晶粒径を縮小する必要がある。
【0017】
一方、シード層または中間層は、その上に形成される磁気記録層の結晶性、配向性および結晶粒径等を制御する機能を有しており、磁気記録層の特性に影響を及ぼすことが知られている。したがって、磁気記録層材料の結晶粒径を低減させるためには、シード層または中間層の結晶粒径を縮小することが有効である。
【0018】
しかしながら、シード層または中間層の膜厚を減少させた場合、磁気記録層材料の結晶配向性の低下、磁気結晶粒間の磁気的分離の阻害が起こり、磁気記録層の磁気特性が低下することも知られている。よって、これらの点を考慮すると、シード層または中間層は、磁気記録層の磁気特性を維持ないし向上させながら、膜厚を制御する必要がある。
【0019】
したがって、本発明の目的は、磁気記録層の配向分散低減および結晶粒径微細化と同時に、シード層及び中間層の膜厚の低減を可能とし、それによって低ノイズ化、およびSN比等の性能の向上を可能とする垂直磁気記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
このような状況に鑑み、本発明者らは、特定の金属合金からなる複数の非磁性中間層を積層させることで、それぞれの膜厚を、単層を中間層に用いた場合の膜厚よりも薄くすることができ、さらに磁気記録層の特性を低下させることなく磁気記録層の粒径を微細化しやすくすることを明らかにし、以下の手段に至った。
【0021】
本発明に係る垂直磁気記録媒体は、非磁性基板上に少なくとも、第1非磁性中間層、第2非磁性中間層、および磁気記録層が順次積層された垂直磁気記録媒体であって、前記第1非磁性中間層がCoCrRuW合金から形成され、かつ第2非磁性中間層がRu基合金から形成されることを特徴とする。
【0022】
本発明において、該CoCrRuW合金は、Cr量が14.5at.%以上、25.5at.%以下であり、Ru量が4.5at.%以上、20.5at.%以下であり、W量が 4.5at.%以上、8.5at.%以下であり、残部がCoであることが望ましい。また、第1非磁性中間層の膜厚は5〜14nm、好ましくは6〜12nmとする。また、該磁気記録層がグラニュラー構造を含むことが望ましい。
【0023】
さらに、本発明は、これらの垂直磁気記録媒体の製造方法も含む。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、より低ノイズ化およびSN比等の性能が向上され、高密度磁気記録が実現可能な垂直磁気記録媒を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の垂直磁気記録媒体の層構成を示す断面模式図である。
【図2】実施例1および比較例1におけるROWに対するMFspiSNRの値をプロットしたものである。
【図3】実施例1および比較例1におけるROWに対するSquashの値をプロットしたものである。
【図4】実施例2および比較例1におけるROWに対するMFspiSNRの値をプロットしたものである。
【図5】実施例2および比較例1におけるROWに対するSquashの値をプロットしたものである。
【図6】実施例3および比較例1におけるROWに対するMFspiSNRの値をプロットしたものである。
【図7】実施例3および比較例1におけるROWに対するSquashの値をプロットしたものである。
【図8】実施例4および比較例1におけるROWに対するMFspiSNRの値をプロットしたものである。
【図9】実施例4および比較例1におけるROWに対するSquashの値をプロットしたものである。
【図10】実施例5におけるROWに対するMFspiSNRの値をプロットしたものである。
【図11】実施例5におけるROWに対するSquashの値をプロットしたものである。
【図12】実施例6におけるROWに対するMFspiSNRの値をプロットしたものである。
【図13】実施例6におけるROWに対するSquashの値をプロットしたものである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の単なる一例であって、当業者であれば、適宜設計変更可能である。
【0027】
図1は、本発明の垂直磁気記録媒体を示す断面図である。本発明の垂直磁気記録媒体は、非磁性基板101上に、軟磁性裏打ち層103、第1非磁性中間層108、第2非磁性中間層109、および磁気記録層110をこの順に備えている。また、本発明の垂直磁気記録媒体は、任意選択的に、図1に示すように軟磁性裏打ち層103と第1非磁性中間層108との間にプレシード層106およびシード層107を有してもよい。さらに、本発明の垂直磁気記録媒体は、図1に示すように任意選択的に磁気記録層110上に形成された保護層114を有してもよく、また前記保護層114上に形成された潤滑層115を有してもよい。
【0028】
(非磁性基板)
本発明において用いる非磁性基板101は、非磁性体であり、また、後述する各層の形成に用いられる条件(溶媒、温度など)に耐えるものが用いられ、通常の磁気記録媒体に用いられる、表面が平滑である様々な基板を利用することができる。詳細には、NiPメッキを施したAl合金、強化ガラス、結晶化ガラス、およびシリコンなどの材料からなる基板を用いることができる。
【0029】
非磁性基板101は、他の構成要素102〜115を形成する前に洗浄しておくことが好ましい。洗浄は、ブラシやスポンジを用いたスクラブ方式、高圧水噴射方式、アルカリ洗剤への浸漬方式などにより行うことができる。また、これらの方式による洗浄を行った後、さらに紫外線照射を行うことができる。
【0030】
本発明の非磁性基板101は、その上に任意選択的に密着層102を設けてもよい。密着層102は、その上に形成される軟磁性裏打ち層103と非磁性基板101との密着性を高めるために用いられる。密着層102の材料としては、CrTi合金など、ガラス等の基板材料と密着性が良好な材料を用いることができる。
【0031】
(軟磁性裏打ち層)
軟磁性裏打ち層103は、非磁性基板101または密着層102上に形成され、情報の記録時に磁気ヘッドから発生する磁束の広がりを防止すべく、垂直方向の磁界を十分に確保する役割を担う構成要素である。軟磁性裏打ち層103の材料としては、Ni合金、Fe合金、Co合金を用いることができる。特に、非晶質のCoZrNb、CoTaZr、CoTaZrNb、CoFeZrNb、CoFeNiZrNb、CoFeTaZrNb、CoFeTaZr、 CoFeZrTaTiNb、FeCoTaBなどを用いることにより、良好な電磁変換特性を得ることができる。
【0032】
軟磁性裏打ち層103は、特定の組成を有する単層膜として構成することもできる。また、磁気記録層110に記録された磁化を安定化させるとともに媒体表面から漏洩する磁化強度を増大させ、その結果、記録媒体のノイズを低減するように、本発明の軟磁性裏打ち層103は、複数の磁性膜を強磁性的または反強磁性的に結合させた積層膜としてもよい。好ましくは、軟磁性裏打ち層103は、下軟磁性裏打ち層103aおよび上軟磁性裏打ち層103bを含む。
【0033】
下軟磁性裏打ち層103aと、上軟磁性裏打ち層103bの合計の膜厚は、情報の記録に使用する磁気ヘッドの構造および/または特性に応じて適宜設計変更することができるが、生産性を考慮した場合には、10〜100nmの膜厚で用いることが好ましい。10nm以上とすることで、十分な垂直方向の磁界を確保できる一方、100nm以下とすることで、生産性を向上できる。
【0034】
さらに好ましくは、軟磁性裏打ち層103は、下軟磁性裏打ち層103aと上軟磁性裏打ち層103bとの間に、軟磁性裏打ち層のRKKY結合を切断するRu層104を含む。Ru層104は、上下軟磁性裏打ち層同士の反強磁性結合を導出する目的で使用される。また、Ru層104のかわりに、Cr、Cu、Ag等を主成分とする非磁性合金を用いてもよい。
【0035】
(プレシード層およびシード層)
本願発明は、任意選択的にプレシード層106およびシード層107を、またはシード層107単独で、軟磁性裏打ち層103の上に形成してもよい。プレシード層106は、当該層に接して形成されるシード層107の配向性および粒径を好適に制御する。また、シード層107は、その上に形成される第1非磁性中間層108の配向性および粒径を好適に制御し、さらに第2非磁性中間層109の配向性および粒径を好適に制御し、その結果として磁気記録層110の良好な垂直配向性および粒径を好適に実現するために配設する構成要素である。
【0036】
プレシード層106の材料としては、XRD等ではブロードな回折線を示し、特有な結晶構造を有しないアモルファス状のTa、Ti、W等の合金、または金属間化合物を用いることができる。
【0037】
シード層107の材料としては、fcc構造を有するNi基合金を用いることができる。また、シード層107に、Mo、Ti、Ta、Wなどに代表される高融点金属を添加してもよい。
【0038】
プレシード層106およびシード層107の膜厚はその上に形成される層の配向性および粒径を制御できるものであれば特に限定されるものではないが、それぞれ1〜20nmおよび3〜8.5nmが好ましい。さらに好ましくは、プレシード層106の膜厚は 1〜9.5nmであり、シード層107の膜厚は3.5〜6.5nmである。
【0039】
(非磁性中間層)
本発明において用いる非磁性中間層は、CoCrRuW合金からなる材料からなる第1非磁性中間層108とRu基合金からなる第2非磁性中間層109とを含む。非磁性中間層は、その上に形成される磁気記録層110の結晶性、配向性および結晶粒径等を制御する機能を有する構成要素である。したがって、磁気記録層材料の結晶粒径を低減させるためには、非磁性中間層の結晶粒径を縮小することが有効である。
【0040】
一方、非磁性中間層の結晶粒径を縮小させるために中間層の膜厚を減少させた場合、磁気記録層材料の結晶配向性の低下により、磁気記録層の磁気特性が低下することも知られている。これらの点を考慮すると、単に非磁性中間層の膜厚を減少させるだけではなく、磁気記録層110の磁気特性を維持ないし向上させることも同時に必要とされる。
【0041】
本発明は、特定の金属合金からなる複数の非磁性中間層を積層させることで、それぞれの膜厚を、Ru単層を非磁性中間層に用いた場合の膜厚よりも薄くすることができ、さらに磁気記録層110の特性を低下させることなく磁気記録層の粒径を微細化しやすくするという効果を提供することができる。
【0042】
第1非磁性中間層108および第2非磁性中間層109の膜厚の合計は、10〜30nmとすることが好ましい。10nm以上とすることにより、第1非磁性中間層108および第2非磁性中間層109においてそれぞれ良好な結晶性が得られ、優れた配向性を実現することができる。そのため、第1非磁性中間層108および第2非磁性中間層109上に配設される磁気記録層110においても、優れた配向性および優れた結晶粒の分離性が得られる。
【0043】
また、第1非磁性中間層108および第2非磁性中間層109を合わせた膜厚を30nm以下とすることにより、非磁性中間層の粒径の肥大化がそれぞれ抑制され、前記磁気記録層110の粒径の肥大化も抑制され、その結果、磁気記録層110のノイズ低減に起因した優れたSN比を得ることができる。磁気記録層110と軟磁性裏打ち層103のスペースを低減でき、書き込み特性(writability)を高く維持できる。
【0044】
第1非磁性中間層108および第2非磁性中間層109の膜厚は、それぞれ4〜20nmであることが好ましい。第1非磁性中間層108の膜厚は5〜14nmが好ましく、6〜12nmがさらに好ましい。第2非磁性中間層109の膜厚は6〜11nmが好ましく、7〜9nmがさらに好ましい。
【0045】
本発明の第1非磁性中間層108は、hcp構造を有するCoCrRuW合金からなる。好ましくは、該CoCrRuW合金は、Cr含有量が14.5at.%以上、25.5at.%以下であり、Ru含有量が4.5at.%以上、20.5at.%以下であり、W含有量が4.5at.%以上、8.5at.%以下であり、かつ残部が主元素であるCoである。さらに好ましくは、Cr含有量が15at.%以上、25at.%以下であり、Ru含有量が5at.%以上、15at.%以下であり、W含有量が5at.%以上、10at.%以下であり、残部がCoである。
【0046】
薄膜合金材料に対し、Mo、Ti、Ta、Wなどに代表される高融点金属を添加することは、結晶粒子の微細化を促進が期待され、なかでも、最も融点が高い金属であるWについて、最もその効果が期待される。しかし、Coに対して、24at.%以上より多いMo、Ti、Ta、Wの金属を添加する場合にはCoW3などの金属間化合物が形成し、望ましくない結晶構造を生ずるため、それ以下の添加量が望ましい。
【0047】
本発明の第2非磁性中間層109は、Ru単独で、またはhcp構造を有するRu基合金により形成することができる。Ruは原子半径が大きいことから、より原子半径の大きなWやTaを第2非磁性中間層109に添加してもよい。Ru基合金はRuを5at.%以上含む合金をいい、好ましくは70at.%以上、さらに好ましくは95at.%以上のRuを含む。
【0048】
(磁気記録層)
磁気記録層110は、情報を記録するために配設する構成要素である。磁気記録層110は、垂直磁気記録媒体の構成要素として用いる場合、磁化容易軸が基板面に対して垂直方向に配向している必要がある。具体的には、hcp(0002)面が基板面に平行に配向していることが好ましい。
【0049】
また、磁気記録層110は、Co基合金からなる強磁性結晶粒を、酸化物を主成分とする非磁性結晶粒が囲むいわゆるグラニュラー構造を呈することが好ましい。グラニュラー構造とすることにより、前記磁気記録層110の電磁変換特性を十分に担保し、磁気記録媒体のノイズ低減に起因した優れたSN比を得ることができる。ここで、「酸化物を主成分とする」とは、他の成分を微量に含有することを妨げないことを意味し、酸化物が非磁性結晶粒の概ね90モル%以上の比率で存在することを意味する。
【0050】
前記強磁性結晶粒を構成するCo基合金としては、CoPtCr、CoPt、CoPtSi、CoPtCrBなどのCoPt基合金、CoCr、CoCrTa、CoCrTaPtなどのCoCr基合金等が挙げられる。中でも、CoPt基合金は、磁気異方性エネルギー(Ku)を高く設定することができる点で好ましい。
【0051】
前記非磁性結晶粒を構成する酸化物としては、上記のCo基合金の強磁性結晶粒を磁気的に分離する性能が高いSiO2、Cr2O3、ZrO2、Al2O3などが挙げられる。中でも、SiO2は、上記Co基合金からなる強磁性結晶粒を磁気的に分離する性能が優れている点で好ましい。
【0052】
また、磁気記録層110は、単層でも、また複数の層からなる積層体(図示せず)であってもよい。好ましくは、磁気記録層110は、複数の層から形成される積層体であり、複数の磁気記録層を含む。
【0053】
一の実施態様において、本願発明の磁気記録媒体は、磁気記録層と磁気記録層との間に交換結合力制御層111を設けてもよい。交換結合力制御層111は、第1グラニュラー磁気記録層110aと第2グラニュラー磁気記録層110bの間に設けて交換結合エネルギーを弱めることで、熱安定性をほとんど劣化させずに反転磁界を低減させ、書き込み特性を改善させる層である。
【0054】
前記交換結合力制御層111の材料としては、Ru、RuCo、RuCr、NiCr等が挙げられる。交換結合力制御層111の膜厚は、用いる材料により最適膜厚が異なるが、0.07〜0.8nmの範囲で用いることが好ましい。0.07nmより薄い場合は、第1グラニュラー磁気記録層110aと第2グラニュラー磁気記録層110bが強磁性結合して、書き込み特性が劣化する。また、0.8nmより厚い場合は、第1グラニュラー磁気記録層110aと第2グラニュラー磁気記録層110bとの磁気的な結合が切れてしまうため、熱安定性が劣化する。
【0055】
一の実施態様において、本発明の垂直磁気記録媒体は、さらに非グラニュラー磁気記録層110c(図示せず)を設けてもよい。非グラニュラー磁気記録層110cは、磁気記録媒体の優れた耐久性を担保し、かつ、前記グラニュラー磁気記録層110aおよび110b全体の磁気特性を好適に制御するために交換結合力制御層111、あるいは第2グラニュラー磁気記録層110b上に配設される構成要素である。非グラニュラー磁気記録層110cは、垂直磁気記録媒体の構成要素として用いる場合、Co基合金からなる強磁性結晶粒と、金属の酸化物および窒化物を含有しない金属の非磁性結晶粒とを含む構造とすることが好ましい。非グラニュラー磁気記録層110cは、第1グラニュラー磁気記録層110aおよび第2グラニュラー磁気記録層110bの非磁性結晶粒界から溶出するCo原子をブロックすることで磁気記録媒体の優れた耐久性を実現することができるとともに、前記第1グラニュラー磁気記録層110aおよび第2グラニュラー磁気記録層110b全体の磁気特性を好ましい状態に制御することができる。
【0056】
非グラニュラー磁気記録層110cの非磁性結晶粒界を構成する金属材料としては、Ta、Pt、B、Si、Nb、CuおよびTiのうちの少なくとも一種が挙げられる。中でも、Bは、上記Co基合金からなる強磁性結晶粒を磁気的に分離する性能が特に優れている点で好ましい。
【0057】
非グラニュラー磁気記録層110cの膜厚は、本発明の垂直記録媒体の性能を妨げるものでなければ任意の値をとることができるが、好ましくは1nm〜5nmであり、より好ましくは3nm〜4nmである。
【0058】
さらに、本発明の垂直記録媒体の磁気記録層110は、上記グラニュラー磁気記録層110aおよび/または110b、交換結合力制御層111、ならびに非グラニュラー磁気記録層110cを、十分な磁気記録性能を得るために任意選択的に組合せて積層し、形成することができる。一の実施態様において、第2グラニュラー層を省いて、交換結合力制御層111上に、非グラニュラー磁気記録層110cを直接成膜しても良い。
【0059】
(保護層および潤滑層)
保護層114は、図1の本発明の磁気記録媒体の断面図において、当該層114の下方に位置する各層102〜110cを保護するとともに、特に、下軟磁性裏打ち層103、上軟磁性裏打ち層105からのCoの溶出を防止するために配設する構成要素である。保護層114には、垂直磁気記録媒体に通常使用される材料を用いることができる。例えば、ダイヤモンド状カーボン(DLC)もしくはアモルファスカーボンなどのカーボンを主体とする保護層(好ましくはダイヤモンド状カーボン)、または磁気記録媒体の保護層として用いることが知られている種々の薄層材料を利用できる。保護層114の膜厚は、垂直磁気記録媒体の構成要素として通常用いられる膜厚を適用することができる。
【0060】
潤滑層115は、任意の構成要素であるが、保護層114と磁気ヘッド(図示せず)との間に生ずる摩擦力を低減し、磁気記録媒体の優れた耐久性および信頼性を得る目的で配設する液状の構成要素である。潤滑層115の材料としては、磁気記録媒体に通常用いられる材料を使用することができる。例えば、パーフルオロポリエーテル系の潤滑剤などが挙げられる。潤滑層115の膜厚は、垂直磁気記録媒体の構成要素として通常用いられる膜厚を適用することができる。
【0061】
(製造方法)
非磁性基板101の上に積層される各層は、磁気記録媒体の分野で通常用いられる様々な成膜技術によって形成することができる。密着層102から保護層114に至る各層の形成には、例えば、スパッタ法(DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法などを含む)、真空蒸着法などを用いることができる。また、保護層114の形成においては、前記の方法に加えてCVD法などを用いることもできる。一方、潤滑層115は、たとえば、ディップコート法、スピンコート法などの当該技術分野において知られている任意の塗布方法を用いて形成することができる。
【実施例】
【0062】
以下に本発明の実施例を説明するが、以下の実施例は、本発明を説明するための代表例に過ぎず、本発明をなんら限定するものではない。
【0063】
図1に示す構成を用い、各層の材料および膜厚を変更した実施例1〜7、ならびに比較例1および2を作製した。
【0064】
(実施例1)
非磁性基板101として、直径95mmのAl基板を用いた。Al基板は、10μm×10μmの測定領域におけるAFMでの粗さが1.2Å(オングストローム)以下であった。この基板上に、保護層および潤滑層を除き、スパッタリング法にて各層の成膜を行い、表1に記載の構成を有する磁気記録媒体を作製した。なお、本実施例におけるスパッタリング法は、特に示さない限り直流マグネトロンスパッタリング装置を用いて実施した。
【0065】
まず、非磁性基板101上に厚さ13nmのCrTi密着層102を作製した。次いで、厚さ13nmのFeCoTaB合金からなる第1軟磁性裏打ち層103a、厚さ1.2nmのRu層104、および厚さ12nmのFeCoTaB合金からなる第2軟磁性裏打ち層103bを順次形成し、軟磁性裏打ち層103とした。次に、アモルファス構造を有するCrTi合金からなるプレシード層106を厚さ9nmで、NiFeCrWTi合金からなるシード層107を厚さ6nmでそれぞれ形成した。
【0066】
次いで、該シード層107上に、第1非磁性中間層108をCo25Cr5Ru5W(全原子を基準として、25at.%のC、5at.%のRu、および残余のCoで構成される。以下同様。)合金ターゲットを用いたスパッタリング法により厚さ12nmで形成し、さらにRu単体層を厚さ8nmで形成して第2非磁性中間層109とした。
【0067】
次に、第2非磁性中間層109の上に、結合制御層111としてRu単体層をはさんでCo基合金からなる第1磁気記録層110aおよび第2磁気記録層110bを形成し、さらに第2磁気記録層110bの上に、CoPt合金からなる第3磁気記録層110cを形成して、磁気記録層110を作製した。詳細には、第1磁気記録層110aおよび第2磁気記録層110bはグラニュラー磁気記録層であり、第3磁気記録層110cは非グラニュラー磁気記録層であり、それらの膜厚は表1に示すとおりであった。
【0068】
その後、CVD法により厚さ2.0nmのカーボン保護層114を磁気記録層上に形成し、さらに、パーフルオロポリエーテルからなる潤滑層115を厚さ9nmで形成し、磁気記録媒体を作製した。
【0069】
【表1】
【0070】
(評価試験1)
得られた磁気記録媒体の電磁変換特性を、MFSpiSNR、SqzSNR、Squash、およびROWにより評価した。半径31.37mmの位置で、最大で、線記録密度約2000kfci、トラックピッチ400ktpiの測定条件で、電磁変換特性を評価した結果を表2に示す。
【0071】
MFSpiSNRとは、最高記録周波数の1/2の周波数におけるSN比であり、値が高いほど高密度記録が可能となる。線記録密度約1000kfciの場合について、スペクトルアナライザーを用いて再生信号出力(S)とトータルサイズ(Nt)の比を測定し、次式より求めた。
MFSpiSNR=20×log(S/Nt)
【0072】
SqzSNRは、センタートラックに書き込み後、隣接トラックの信号を消去した際に、センタートラックに残存する信号出力S1とトータルノイズ(Nt)の比を指し、次式で示される。
SqzSNR=log(S1/Nt)
【0073】
Squashは、センタートラックに書き込み後、隣接トラックの信号を消去した際に残存する信号出力の割合を示す。
【0074】
ROWは高密度の記録に低密度の記録を上書きしたときの、元の記録信号強度と消し残り信号強度との比であり、815kfciの線記録密度を有する信号上に、108kfciの線記録密度を有する信号を上書きした時の値を測定した。
【0075】
【表2】
【0076】
(比較例1)
第1非磁性中間層108として、厚さ10nmのCo25Cr5Mo5Ruと厚さ3nmのCo24Cr4Wとの2層膜を用い、磁気記録媒体を作製した。また、比較例1では、第1非磁性中間層108の材料のほか、第1軟磁性裏打ち層103aおよび第2軟磁性裏打ち層103bの材料にFeCoZrTaTiNb合金を用いている点、プレシード層106の膜厚を14nmとしている点、ならびに第1非磁性中間層108の膜厚の点で実施例1と相違していたが、第1非磁性中間層108の材料以外のこれらの相違点が電磁変換特性に及ぼす影響は、同一のROWに対するMFSpiSNRの値で、総じておよそ0.1dB以内であった。
【0077】
比較例1についても、実施例1と同様に、得られた磁気記録媒体の電磁変換特性を評価した。その結果を表2ならびに図2および図3に示す。比較例1−1および1−2と比べて、第1非磁性中間層108に厚さ12nmのCo25Cr5Ru5W合金を用いた実施例1−1および1−2では、同じROWに対して、MFSpiSNRは約0.4dB高くなった。さらにSqzSNRおよびSquashも同等以上となり、実施例1は比較例1よりも良好な結果となった。
【0078】
(実施例2)
軟磁性裏打ち層103をFeCoZrTiNb合金から形成した点、第1軟磁性裏打ち層103aおよび第2軟磁性裏打ち層103bの間のRu単体層104の膜厚を0.4nmとした点、ならびに第1非磁性中間層108の材料および膜厚をそれぞれ表3に記載したとおりに変更した点以外は、実施例1と同様に磁気記録媒体を作製した。また、得られた磁気記録媒体について、実施例1と同様に電磁変換特性を評価した。その結果を表4ならびに図4および図5に示す。
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
実施例2の比較には、実施例1と同じ比較例1を用いた。実施例2では、第1非磁性中間層108の材料のほか、軟磁性裏打ち層103におけるRu単体層104の膜厚を0.4nmとしている点、プレシード層106の膜厚を14nmとしている点、および第1非磁性中間層108の膜厚の点で比較例1と相違していたが、第1非磁性中間層108の材料以外のこれらの相違点が電磁変換特性に及ぼす影響は、同一のROWに対するMFSpiSNRの値で、総じておよそ0.2dB以内であった。
【0082】
比較例1−1および1−2と比べて、実施例2−1〜2−9では、いずれも同じROWに対してMFspiSNRは約0.3dB以上高くなった。さらに第1非磁性中間層108の膜厚を、比較例1−1および1−2と同様の10nmとした実施例2−4〜2−6では、比較例1−1および1−2と比べて、MFSpiSNRは約0.4dB以上高くなった。SqzSNRおよびSquashも同等以上となり、実施例2は比較例1よりも良好な結果となった。
【0083】
よって、第1非磁性中間層108にCo25Cr5Ru5W合金を用いた磁気記録媒体は、厚さ10nmのCo25Cr5Mo5Ru合金と厚さ3nmのCo24Cr4W合金とからなる積層中間層を用いた磁気記録媒体より優れた電磁変換特性を示すことがわかった。
【0084】
(実施例3)
軟磁性裏打ち層103をFeCoZrTiNb合金から形成した点、ならびに第1非磁性中間層108の材料および膜厚をそれぞれ表5に記載したとおりに変更した点以外は、実施例1と同様に磁気記録媒体を作製した。また、得られた磁気記録媒体について、実施例1と同様に電磁変換特性を評価した。その結果を表6ならびに図6および図7に示す。
【0085】
【表5】
【0086】
【表6】
【0087】
実施例3での比較には、実施例1と同じ比較例1を用いた。実施例3では、第1非磁性中間層108の材料のほか、プレシード層106の膜厚を14nmとしている点、および第1非磁性中間層108の膜厚の点で実施例1と相違していたが、第1非磁性中間層108の材料以外のこれらの相違点が電磁変換特性に及ぼす影響は、同一のROWに対するMFpiSNRの値で、総じておよそ0.1dB以内であった。
【0088】
比較例1−1および1−2と比べて、実施例3−1〜3−3では、同じROWに対してMFspiSNRは約0.2〜0.3dB高くなった。また、第1非磁性中間層の材料にCo20Cr5W5Ru合金を用いた3−4および3−5では、同じROWに対してMFSpiSNRは0.1〜0.2dB高くなった。SqzSNRおよびSquashも同等以上となり、実施例3は総じて比較例1より良好な結果となった。
【0089】
よって、第1非磁性中間層108にCo25Cr5W5Ru合金またはCo20Cr5W5Ru合金を用いた磁気記録媒体は、同様にして、厚さ10nmのCo25Cr5Mo5Ru合金と厚さ3nmのCo24Cr4W合金とからなる積層中間層を用いた磁気記録媒体より優れた電磁変換特性を示すことがわかった。
【0090】
(実施例4)
非磁性基板101として直径65mmのガラス基板(HOYA製型番N5)を用いた点、第1軟磁性裏打ち層103aおよび第2軟磁性裏打ち層103bの間のRu単体層104の膜厚を0.25nmとした点、プレシード層106の厚さを3nmとしている点、ならびに第1非磁性中間層108の材料および膜厚をそれぞれ表7に記載したとおりに変更した点以外は、実施例1と同様に磁気記録媒体を作製した。
【0091】
【表7】
【0092】
(評価試験2)
実施例4で得られた磁気記録媒体の電磁変換特性を、半径22.3mmの位置で、最大で、線記録密度約2000kfci、トラックピッチ400ktpiの測定条件で、評価試験1と同様に、MFSpiSNR、SqzSNR、Squash、およびROWにより評価した。結果を表8ならびに図8および9に示す。ROWは、997kfciの線記録密度を有する信号上に、133kfciの線記録密度を有する信号を上書きした時の値を用いた。
【0093】
図8および図9に示すとおり、実施例4−1〜4−4は、いずれも良好な電磁変換特性を有することが確認された。
【0094】
【表8】
【0095】
(実施例5)
非磁性基板101として直径65mmのガラス基板を用いた点、第1軟磁性裏打ち層103aおよび第2軟磁性裏打ち層103bの間のRu単体層104の膜厚を0.25nmとした点、プレシード層106の厚さを3nmとしている点、ならびに第1非磁性中間層108の材料および膜厚をそれぞれ表9に記載したとおりに変更した点以外は、実施例1と同様に磁気記録媒体を作製した。
【0096】
【表9】
【0097】
(評価試験3)
実施例5で得られた磁気記録媒体の電磁変換特性を、半径29.0mmの位置で、最大で、線記録密度約2000kfci、トラックピッチ400ktpiの測定条件で、評価試験1と同様に、MFSpiSNR、SqzSNR、Squash、およびROWにより評価した。結果を表10ならびに図10および図11に示す。ROWは、926kfciの線記録密度を有する信号上に、123kfciの線記録密度を有する信号を上書きした時の値を用いた。
【0098】
図10および図11に示すとおり、実施例5−1〜5−10は、いずれも良好な電磁変換特性を有することが確認された。
【0099】
【表10】
【0100】
(実施例6)
非磁性基板101として直径65mmのガラス基板を用いた点、第1軟磁性裏打ち層103aおよび第2軟磁性裏打ち層103bの間のRu単体層104の膜厚を0.25nmとした点、プレシード層106の厚さを6nmとしている点、ならびに第1非磁性中間層108の材料および膜厚をそれぞれ表11に記載したとおりに変更した点以外は、実施例1と同様に磁気記録媒体を作製した。
【0101】
【表11】
【0102】
得られた磁気記録媒体の電磁変換特性を、実施例5と同様の条件にて評価した。結果を表12ならびに図12および図13に示す。図12および図13に示すとおり、実施例6−1〜6−10は、いずれも良好な電磁変換特性を有することが確認された。また、第1非磁性中間層108として、厚さ6nmのCo10Cr15Ru5W合金膜より、厚さ6nmのCo15Cr15Ru5W合金膜のほうが良好な特性を示した。
【0103】
【表12】
【0104】
(実施例7)
プレシード層106にCoTi層を用いた以外は実施例1と同様に、直径95mmのAl基板からなる非磁性基板101上に、密着層102、第1軟磁性裏打ち層103a、Ru層104、第2軟磁性裏打ち層103b、プレシード層106、シード層107、第1非磁性中間層108、Ru単体層、第2非磁性中間層109、および第1磁気記録層110aを順次形成し、その上に保護層114を形成してXRD結晶構造解析用測定試料を作製した。
【0105】
(比較例2)
第1非磁性中間層108をCo25Cr5Mo5Ru5Mn合金を用いて形成した点以外は実施例7と同様に、XRD結晶構造解析用測定試料を作製した。
【0106】
(評価試験4)
実施例7および比較例2で作製した測定試料について、X線回折装置(型番Rint−Ultima III、(株)リガク製)を用いて、XRD結晶構造解析を行った。表13に層構成及びXRDによる結晶構造解析結果を示す。第1非磁性中間層108にCo25Cr5Ru5W合金膜を用いた実施例7は、第1非磁性中間層108にCo25Cr5Mo5Ru5Mn合金を用いた比較例2と比較して、試料のhcp(002)面に対応する42.2degおよび42.6degにおける半値幅(FWHM)が低下傾向を示し、c軸配向性が良好となった。
【0107】
【表13】
【符号の説明】
【0108】
101 非磁性基板
103 軟磁性裏打ち層
106 プレシード層
107 シード層
108 第1非磁性中間層
109 第2非磁性中間層
110 磁気記録層
114 保護層
115 潤滑層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に少なくとも、第1非磁性中間層、第2非磁性中間層、および磁気記録層が順次積層された垂直磁気記録媒体であって、
前記第1非磁性中間層がCoCrRuW合金から形成され、かつ前記第2非磁性中間層がRu基合金から形成されることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記CoCrRuW合金は、Cr量が14.5at.%以上、25.5at.%以下であり、Ru量が4.5at.%以上、20.5at.%以下であり、W量が 4.5at.%以上、8.5at.%以下であり、かつ残部がCoであることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁気記録層がグラニュラー構造を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
前記第1非磁性中間層が膜厚5〜14nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
非磁性基板上に少なくとも第1非磁性中間層、第2非磁性中間層、および磁気記録層を順次積層させる工程を含み、
前記第1非磁性中間層がCoCrRuW合金から形成され、かつ前記第2非磁性中間層がRu基合金から形成されることを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記CoCrRuW合金は、Cr量が14.5at.%以上、25.5at.%以下であり、Ru量が4.5at.%以上、20.5at.%以下であり、W量が 4.5at.%以上、8.5at.%以下であり、かつ残部がCoであることを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記磁気記録層がグラニュラー構造を含むことを特徴とする請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項1】
非磁性基板上に少なくとも、第1非磁性中間層、第2非磁性中間層、および磁気記録層が順次積層された垂直磁気記録媒体であって、
前記第1非磁性中間層がCoCrRuW合金から形成され、かつ前記第2非磁性中間層がRu基合金から形成されることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記CoCrRuW合金は、Cr量が14.5at.%以上、25.5at.%以下であり、Ru量が4.5at.%以上、20.5at.%以下であり、W量が 4.5at.%以上、8.5at.%以下であり、かつ残部がCoであることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁気記録層がグラニュラー構造を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
前記第1非磁性中間層が膜厚5〜14nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
非磁性基板上に少なくとも第1非磁性中間層、第2非磁性中間層、および磁気記録層を順次積層させる工程を含み、
前記第1非磁性中間層がCoCrRuW合金から形成され、かつ前記第2非磁性中間層がRu基合金から形成されることを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記CoCrRuW合金は、Cr量が14.5at.%以上、25.5at.%以下であり、Ru量が4.5at.%以上、20.5at.%以下であり、W量が 4.5at.%以上、8.5at.%以下であり、かつ残部がCoであることを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記磁気記録層がグラニュラー構造を含むことを特徴とする請求項5または6に記載の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−252746(P2012−252746A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125066(P2011−125066)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】
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