説明

垂直磁気記録媒体及びそれを用いた磁気記録再生装置

【課題】キャップ層を薄くすることで高分解能化を実現しつつ、交換スプリング効果によって書き込み容易性を高める。これによって、記録が容易で、記録磁化の熱揺らぎ耐性に優れ、かつ高密度記録が可能な垂直磁気記録媒体を得る。
【解決手段】磁気記録層15を4層で構成し、基板上に第1磁性層15aと磁気結合層15bと第2磁性層15cと第3磁性層15dを形成する。第1磁性層15aと第2磁性層15cは磁気結合層15bを介して互いに強磁性結合した酸化物を含有する垂直磁化膜であり、より好ましくは酸化物を含有するCo合金層である。第3磁性層15dは、第2磁性層15cと強磁性結合している。第3磁性層15dが含有する酸化物の濃度は第2記録層15cの酸化物濃度より低いか、または、第3磁性層15dは酸化物を含まない。ここで、第1磁性層15aの異方性磁界Hk1と第2磁性層15cの異方性磁界Hk2について、Hk1>Hk2を満たすように磁気特性を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体、及び垂直磁気記録媒体を用いた垂直磁気記録方式の磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)は、コンピューターや様々な民生エレクトロニクス製品、特に大容量情報記憶用途において必要不可欠な情報記憶装置となっている。磁気記録方式は磁気記録媒体中の磁気記録層における磁化ベクトルの方向によって基本的には二種類の技術的方法に分類され、その一つは面内磁気記録(LMR)であり、もう一つは垂直磁気記録(PMR)である。近年、HDDの記録方式は面内磁気記録方式から垂直磁気記録方式に移行している。面内磁気記録方式によって達成した記録密度が約100 Gb/inch2であるのに対して、垂直磁気記録方式では300 Gb/inch2よりも高い記録面密度を達成することが可能であることが実証されており、面内磁気記録方式に対して垂直磁気記録方式は優位である。
【0003】
非特許文献1および2は垂直磁気記録方式の記録媒体として用いられているグラニュラー構造の磁気記録層について開示している。グラニュラー構造の磁気記録層は、微小な磁性粒子が、酸化物などの非金属材料からなる磁性を持たない粒界によって分断された構造となっている。この構造により各磁性粒子間に働く交換相互作用が抑制されて磁化方向の独立性が高まり、磁気記録層における磁化反転単位が小さくなるので、記録密度の向上が可能となる。
【0004】
更に記録密度を向上させていくためには、磁気記録層における磁化反転単位を小さくするだけでなく、記録された磁化情報の保持を可能とする熱揺らぎ耐性を有し、有限の大きさの記録ヘッド磁界によっても記録が可能であることが必要である。
【0005】
垂直磁気記録方式は、記録ビット間の磁化遷移領域近傍に記録ビットからの反磁界が働かず、記録磁化状態が安定化される方向に働くため、従来の面内磁気記録方式と比べて高密度記録に有利と考えられている。さらに、面内磁気記録媒体と比較して、磁性膜厚が厚い場合にも高い分解能を維持できることから、熱揺らぎ耐性においても有利と考えられている。しかし、特に記録ビットが長い箇所では、磁化遷移領域から離れた部分にある磁化への反磁界の作用が大きく、再生出力が大きく低下することが報告されている。垂直磁気記録でも、熱揺らぎ耐性の検討を行うことが必要になってきている。
【0006】
垂直磁気記録媒体の熱揺らぎ耐性を向上させるためには、磁性粒子の持つ磁気異方性エネルギーを高めることが有効であるが、この場合は記録に必要な磁界が増加する。一方、記録ヘッドから発生させることが出来る記録磁界は有限であるため、必要な記録磁界が増加すると当該記録ヘッドを用いた場合の記録が困難になり、記録再生性能が著しく低下する恐れがある。また、磁気記録層の磁性粒子を大きくすることでも熱揺らぎ耐性を高めることは可能であるが、この場合は一般に、磁化遷移領域の微細なジグザグ形状が大きくなり、媒体ノイズが増大する恐れがある。
【0007】
このように、熱揺らぎ耐性を高めるための手段は、しばしば高記録密度領域における記録再生性能の劣化を伴う。そこで、熱揺らぎ耐性と記録再生性能を両立させるためのアイデアとして、複数の磁性層からなる様々な磁気記録層が考案されてきた。
【0008】
特許文献1、2、3および非特許文献3は、二層の強磁性層によって磁気記録層を構成し、かつ、基板側に形成された下部磁性層としては粒状構造もしくはグラニュラー構造を有する強磁性合金膜、媒体表面に近い側に形成された上部磁性層としては明確な粒状構造を持たない強磁性合金膜を適用した垂直磁気記録媒体を開示している。特許文献1および2においては前記上部磁性層を「キャップ層」と呼んでいる。この構造を用いた場合、前記下部磁性層内の磁性粒子間にはキャップ層を介した交換相互作用が働く。交換相互作用によって生じる交換相互作用磁界は、静磁相互作用による反磁界と逆方向に働くため、反転開始磁界Hnが大きく、飽和磁界Hsが小さくなる。したがって、磁気記録層の垂直磁化ループの角型比が向上し、また、記録に必要な磁界が小さくなる。キャップ層の材料や層厚を変えて交換相互作用を適当な強さに調節することにより、記録磁化状態の信号対雑音比(SNR)および熱揺らぎ耐性を同時に改善することが出来る。
【0009】
また、特許文献4は、磁化の反転し易さの異なる二つの強磁性層によって磁気記録層を構成した垂直磁気記録媒体を開示している。記録磁界による磁化反転の起こり易さは異方性磁界Hkによって表され、Hkが大きい磁性膜ほどその磁化反転に必要な磁界が大きくなる。特許文献4は更に、異方性磁界の異なる前記二つの強磁性層が結合層を介して強磁性結合している垂直磁気記録媒体を開示している。この時、前記結合層を介した強磁性結合は、二つの磁性層が接触している場合の交換結合よりも弱い。前記結合層はV, Cr, Fe, Co, Ni, Cu, Nb, Mo, Ru, Rh, Ta, W, Re, Irのいずれか一種の元素を主成分として含有し、好ましくは2 nm以下の厚みを有する。強磁性材料であるFe, Co, Niであっても非磁性材料との合金化、製膜条件や製膜雰囲気の調整により好適な結合エネルギーを得ることができることを開示している。
【0010】
特許文献5では、垂直記録磁界が印加されると磁気トルクを垂直磁気記録層に及ぼす磁気”トルク”層を備えた垂直磁気記録媒体を開示している。磁気”トルク”層は垂直磁気記録層と比べて小さな異方性磁界を有する強磁性層であり、垂直磁気記録層との間に適切な強磁性結合を与えることで、書き込みアシスト層の役割を果たす。適切な強磁性結合力を提供するため、磁気”トルク”層と垂直磁気記録層の間には結合層が配されている。特許文献5によれば、結合層は、Co含有量が少ない(原子百分率で約40%未満の)RuCoやRuCoCr、あるいは、CrやBの含有量が多い(CrとBの合計が原子百分率で約30%より多い)CoCrやCoCrBといった合金で形成することができる。
【0011】
特許文献6も、特許文献5と同様の観点で「交換スプリング層」という書き込みアシスト層を備えた垂直磁気記録媒体を開示している。磁気記録層と交換スプリング層との間には結合層を備える。特許文献6によれば、結合層はCoRu合金、CoCr合金、或いはCoRuCr合金等に加えて必要によりSi, Ti, Taの酸化物等の酸化物を含有する。結合層は、磁気記録層と交換スプリング層間の強磁性結合を好適な強度に調整するのに適した弱磁性或いは非磁性の六方最密(hcp)結晶構造を有したグラニュラー合金層であることが好ましい。また、結合層は、その材料の種類、特にコバルト含有量にもよるが、厚さが2nmよりも小さく、更に好ましくは0.2nm以上1nm以下の厚さである。
【0012】
非特許文献4は、各磁性粒子が異方性磁界の大きなハード磁性領域と異方性磁界の小さなソフト磁性領域から成る複合垂直記録媒体を開示している。非特許文献4によれば、ハード領域とソフト領域との間の結合が弱いことが好ましく、PtやPd等の分極し得る材料から成る薄層がハード領域とソフト領域との間に設けられていることが好ましい。
【0013】
非特許文献5も、ハード磁性領域とソフト磁性領域が垂直方向に交換結合した磁性粒子からなる垂直磁気記録媒体を開示している。非特許文献5によれば、ハード磁性領域とソフト磁性領域間の交換結合はPdSiから成る結合層の厚さにより調整される。結合層の最適な厚さは約0.5nmであった。
【0014】
【特許文献1】特開2001-23144号公報
【特許文献2】特開2003-91808号公報
【特許文献3】特開2003-168207号公報
【特許文献4】特開2006-48900号公報
【特許文献5】特開2006-209943号公報
【特許文献6】US2006/177704号公報
【非特許文献1】IEEE Trans. Magn., vol.36, p.2393 (2000)
【非特許文献2】IEEE Trans. Magn., vol.38, p.1976 (2002)
【非特許文献3】IEEE Trans. Magn., vol.38, p.2006 (2002)
【非特許文献4】Victora et al., IEEE Trans. MAG-41, No. 2, pp.537 (2005)
【非特許文献5】Wang et al., Appl. Phys. Lett. 86, p. 142504 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本願発明者らの検討によれば、前述の「キャップ層」を適用した磁気記録層を有する垂直磁気記録媒体は、角型比が高いために逆磁区ノイズや熱減磁を抑制することが可能であり、飽和磁界が低いために小さな記録磁界による記録が可能である。この媒体は、特に、シールド型記録ヘッド(単磁極の周囲に磁気シールドを配置した記録ヘッド)との組み合わせで性能を発揮した。シールド型記録ヘッドは単磁極型記録ヘッドよりも発生磁界は小さい一方で、発生磁界勾配は大きいことから、キャップ層を適用した垂直磁気記録媒体との相性が良い。
【0016】
しかし、本願発明者らは、垂直磁気記録媒体の記録分解能がキャップ層の適用により著しく低下することを見出した。すなわち、高周波記録した磁区の再生信号強度の低周波記録した磁区の再生信号強度に対する比が小さくなることを見出した。その原因としては、キャップ磁性層内部に発生した面内方向の交換相互作用により磁化遷移幅が大きくなること、記録および再生において主要な役割を担う下部磁性層(グラニュラー構造)が記録・再生ヘッドから離れてしまうこと、などが考えられる。キャップ層を薄くすることによってこの問題を抑制できるが、キャップ層を薄くするとSNRが著しく低下する。
【0017】
一方、前述の異方性磁界Hkの小さい「書き込みアシスト層」を備えた垂直磁気記録媒体においては、ソフト磁性層(書き込みアシスト層)とハード磁性層の双方をグラニュラー構造とすることによって、キャップ層付き媒体で見られた記録分解能の低下を回避することが可能である。しかし、キャップ層に特有の効果であった磁気記録層内部における周囲の磁性粒子との静磁気相互作用である反磁界を相殺する効果を有さない。
【0018】
本発明の目的は、高密度記録に適した垂直磁気記録媒体を提供することである。
本発明の他の目的は、比較的小さな書き込み磁界しか発生することが出来ない磁気ヘッドを使用した場合にも良好な記録再生特性が維持できる磁気記録再生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の代表的な垂直磁気記録媒体は、基板と、基板上に形成された磁気記録層および保護層とを有する垂直磁気記録媒体であって、磁気記録層は第1磁性層と磁気結合層と第2磁性層と第3磁性層を含み、第1磁性層が、基板と磁気結合層との間に設けられた酸化物を含有する垂直磁化膜であり、第2磁性層が磁気結合層を介して第1磁性層と強磁性結合した酸化物を含有する垂直磁化膜であり、第3磁性層が第2磁性層と保護層との間に設けられた強磁性層であり、この第3磁性層が含有する酸化物の濃度は第2記録層の酸化物濃度より低いか、または第3磁性層が酸化物を含まないことを特徴とする。
【0020】
前記第1磁性層の異方性磁界Hk1が、前記第2磁性層の異方性磁界Hk2より大きいことが望ましい。
【0021】
以上のような垂直磁気記録媒体の構造は、前述の「キャップ磁性層」と「書き込みアシスト層」を適用した媒体がそれぞれ持つ欠点を、補完し合うように考案されたものである。第1磁性層は最も大きな異方性磁界Hk1を有しており、記録磁化状態を保持する役割を担っている。第2磁性層は第1磁性層よりも小さな異方性磁界Hk2を有し、磁気結合層を介して適切な強度で第1磁性層と交換相互作用している。第2磁性層は第1磁性層に対する書き込みアシスト層の役割を担っている。また、第3磁性層は、他の磁性層よりも粒界材料である酸化物の含有量が少ない、より望ましくは酸化物を含まない磁性層であり、「キャップ磁性層」の役割を果たす。
【0022】
ここで、第3磁性層は、第1磁性層ではなく、第2磁性層の側に配置されなければならない。第2磁性層は異方性磁界が第1磁性層より小さく、磁気記録層内部に働く反磁界に対する耐性が弱いが、第3磁性層によってこれを補強することで、媒体角型比を高め、熱揺らぎ耐性を高めることが可能となる。ここで、第2磁性層および第3磁性層により構成される部位を部分キャップ構造(Partial capping structure)と呼ぶことにする。部分キャップ構造によって、第2磁性層の熱揺らぎ耐性が高まるだけでなく、記録磁界を用いて第2磁性層の磁化方向を揃えることが容易になる。
【0023】
第2磁性層で発生した磁化反転は磁気結合層を通じて第1磁性層に磁気トルクとして伝わるため、第1磁性層の磁化反転が促進される。これにより、最も大きな異方性磁界Hk1を有し、磁化反転が困難であった第1磁性層に、比較的小さい記録磁界によって記録することが可能となる。すなわち、部分キャップ構造部は全体として第1磁性層に対する「書き込みアシスト層」の役割を果たす。
【0024】
このように、本発明の垂直磁気記録媒体においては、第3磁性層における磁化反転が、第2磁性層、第1磁性層へと連鎖的に波及することで、低い記録磁界で所望の記録状態を実現することが期待できる。本発明の磁気記録層では、第3磁性層は第2磁性層の磁化反転のみに直接関与するため、第3磁性層の厚さを従来のキャップ磁性層よりも薄く設計しても、十分なキャップ磁性層としての効果を得ることが可能である。したがって、第3磁性層を薄くしつつ、小さい記録磁界で高いSNRを示す記録媒体が実現される。第3磁性層が薄い場合、従来の問題点であった記録分解能の低下が抑えられるため、高密度磁気記録に適した垂直磁気記録媒体を得ることが出来る。
【0025】
また、本発明の磁気記録再生装置は、磁気記録媒体と、磁気記録媒体を駆動する媒体駆動部と、磁気記録媒体に対して記録再生動作を行う磁気ヘッドと、磁気ヘッドを磁気記録媒体の所望のトラック位置に位置決めするヘッド駆動部とを備え、前記磁気記録媒体は、基板と、基板上に形成された磁気記録層および保護層を有する磁気記録媒体であって、磁気記録層は上述の構造を有するものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高い熱揺らぎ耐性、高い書き込み性能、および高い再生信号品質を有する垂直磁気記録媒体を提供することができる。特に、比較的薄いキャップ磁性層の適用により、記録分解能の低下を抑制し、より高密度磁気記録に適した垂直磁気記録媒体を得ることが出来る。
【0027】
また、磁気記録再生装置において、記録磁化情報の高密度化を推し進めるためには、磁気ヘッドの磁極を微細化するなどの方法により記録磁界勾配を高める必要があるが、この場合は、最大発生磁界は減少する。本発明の磁気記録再生装置では、比較的小さな書き込み磁界しか発生することが出来ない磁気ヘッドを使用した場合にも良好な記録再生特性が維持されるため、磁気記録再生装置の更なる高密度化が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
まず、図1を参照して本発明に係る垂直磁気記録媒体の基本的な構成について説明する。図1は、垂直磁気記録媒体の層構造を断面にて模式的に示した図である。垂直磁気記録媒体10は、非磁性基体11、軟磁性裏打ち層12、シード層13、中間層14、磁気記録層15、保護層16、及び液体潤滑膜17をこの順番で形成した構造となっている。磁気記録層15は、少なくとも第1磁性層15a、第2磁性層15c、第3磁性層15d、及び第1磁性層15aと第2磁性層15cの間に設けられた磁気結合層15bを含んで成る。
【0029】
非磁性基体11には、表面が平滑な様々な基板を用いることが出来る。例えば、現在磁気記録媒体に用いられている、NiPメッキを施したアルミ合金基板や強化ガラス基板を用いることが出来る。この他にも、光ディスク媒体に用いられているポリカーボネイト等の樹脂からなるプラスチック基板を用いることも出来る。ただし、プラスチック基板には基板の硬度が低いこと、高温で変形しやすいこと等の制約がある。
【0030】
軟磁性裏打ち層12としては、微結晶構造のFeTaC、FeSiAl(センダスト)合金、アモルファス構造のCo合金であるCoNbZr、CoTaZr、CoFeTaZr合金などを用いることが出来る。軟磁性裏打ち層12は、使用する記録ヘッドからの磁束を引き寄せ、垂直磁性層15を透過する磁束密度を上げるために配置するものであり、この目的を達成できるように軟磁性合金の飽和磁束密度や膜厚を設計する。最適な膜厚は磁気ヘッドの構造や特性によっても異なるが、生産性との兼ね合いから概ね20 nm以上200 nm以下とされる。記録ヘッドからの磁束密度を必要な大きさに維持できる場合には、軟磁性裏打ち層12を省略することができる。また、軟磁性裏打ち層12を複数層で構成することも出来る。二層の軟磁性層間にRu層を挟んで反強磁性的に結合させ、磁束を軟磁性裏打ち層12内で還流させる構造や、軟磁性層の下部にMnIr合金などの反強磁性材料を設けることで記録時以外の軟磁性層の磁化方向を固定化する構造などが知られている。これらの構造は、主として、再生時の軟磁性裏打ち層12を起因とするノイズを低減する効果がある。
【0031】
中間層14は、その上に形成される磁気記録層15の結晶性や微細構造を制御する目的で、垂直磁性層15に適用される材料に合わせて選択される。磁気記録層15としてCoCrPt系合金やCo/Pd人工格子膜からなる垂直磁化膜を選んだ場合には、これらの容易磁化方向を膜面垂直に向けるために面心立方格子(fcc)構造もしくは六方最密充填(hcp)構造を有する金属または合金が用いられる。磁気記録層15としてCoCrPt-SiO2グラニュラー磁性膜を用いた場合には、その中間層14としてRu層を用いることで比較的容易に優れた記録再生特性が得られることが知られている。中間層14の厚さは0.5 nm以上40 nm以下であることが好ましく、2 nm以上20 nm以下であることが更に好ましい。中間層14の厚さが2 nmよりも薄い場合には、結晶配向性を良好に保つことが困難になる場合があり、更に、磁気記録層15に良好なグラニュラー構造を付与することも困難になる場合がある。中間層14の厚さが20 nmよりも厚い場合には、磁気記録層15の磁性粒子サイズが大きくなりすぎる場合があり、更に、軟磁性裏打ち層12と磁気ヘッドとの間隔が大きくなりすぎる場合がある。これらの影響により、しばしば記録再生性能が著しく低下する。
【0032】
中間層14および磁気記録層15の結晶配向性はX線回折により検知することが出来る。ロッキングカーブの半値全幅(Full Width of Half Maximum)Δθ50は結晶軸配向の程度を表す。Δθ50の値が大きくなると結晶軸方向のばらつきが大きくなることを意味し、垂直磁気記録媒体の反転磁界分布が広くなり、記録・再生性能の低下を招いてしまう。良好な記録再生性能を得るためには、概ねΔθ50が4度よりも小さいことが好ましい。
【0033】
軟磁性裏打ち層12と中間層14の間にはシード層13を設けても良い。シード層13は中間層14の結晶成長を促したり、軟磁性裏打ち層12と中間層14の混合を防いだりする事により、媒体の記録再生性能の向上にしばしば効果的である。シード層13の材料としては、中間層14と同様に面心立方格子(fcc)構造もしくは六方最密充填(hcp)構造を有する多結晶材料や、非晶質材料が選択される。例えば、Ta, Ni, Cr, Ti, Fe, W, Co, Pt, Pd, Cから選ばれる一種以上の元素を含有する。多結晶構造を有するシード層を用いると、六方最密(hcp)結晶構造を有した材料からなる中間層14は、シード層上にエピタキシャル成長することが可能で、そのc軸は膜面垂直方向に配向するので好ましい。非晶質材料のシード層を用いると、適切な条件下で、中間層14はその最稠密面が製膜面に平行になるように結晶成長するため、そのc軸は膜面垂直方向に配向する。シード層13の厚さは0.5 nm以上10 nm以下とするのが好ましい。多結晶構造のシード層13の厚さが10 nmを超えると、磁気記録層15の粒子サイズが大きくなりすぎて、媒体の記録再生性能の低下を招くことがある。
【0034】
図1に示されているように、磁気記録層15は積層された4層、即ち、第1磁性層15a、磁気結合層15b、第2磁性層15c、及び第3磁性層15dにより構成されている。第1磁性層15a、磁気結合層15b、第2磁性層15c、及び第3磁性層15dは、この順序で中間層14と保護層16の間に積層される。
【0035】
第1磁性層15aおよび第2磁性層15cは強磁性合金材料に酸化物を添加することにより形成することができる。酸化物を添加することにより組成偏析を改良することができ、その結果、酸化物リッチな結晶粒界を有した微細なグラニュラー構造を形成することが可能になる。酸化物としては、例えばAl, Cr, Hf, Mg, Nb, Si, Ta, Ti, Zr等の酸化物が用いられ、Si, Ta, Tiの酸化物が特に優れている。また、酸化物の変わりに窒化物を用いることも出来る。
【0036】
酸化物および窒化物の含有率は、3 mol%以上12 mol%以下とすることが好ましい。第1および第2磁性層における酸化物の含有率が3 mol%よりも少ないと、磁性粒子が粒界により十分に分離されず、磁性粒子間に強力な交換結合が生じるため、媒体ノイズの低減が困難である。また、第1および第2磁性層における酸化物の含有率が12mol%よりも多いと、酸化物の一部が磁性粒子の内部に入り込み、磁性粒子コアの磁気特性の劣化を招く。
【0037】
第1磁性層15aには、磁気記録層15の中で最も大きな垂直磁気異方性を有する強磁性材料を用いる。強磁性材料としては、例えば、Co-PtやFe-Pt合金、及びそれらにCr, Ni, Cu, Nb, Ta, B等の元素を添加した合金のほか、Sm-Co合金、[Co/Pd]n多層膜(人工格子膜)などが考えられる。第2磁性層15cにも垂直磁気異方性を有する材料を適用するが、その異方性磁界Hk2は第1磁性層の異方性磁界Hk1よりも小さくなるように材料を選択する。尚、異方性磁界Hkは、磁性層の垂直磁気異方性エネルギーKuおよび飽和磁化MsによりHk=2Ku/Msという関係式で表される。
【0038】
第1および第2磁性層はグラニュラー構造であり、多数の結晶粒子からなるが、結晶粒子の粒径は5 nm以上15 nm以下とすることが好ましい。粒径が5 nmよりも小さい場合には熱安定性が不十分になる場合があり、粒子サイズが15 nmよりも大きい場合には媒体ノイズが増加しすぎてしまう場合がある。磁気記録層15の粒子サイズは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)によって測定することが可能である。
【0039】
第1および第2磁性層に適用する強磁性材料として、安定なhcp構造を有するCo-Cr-Pt合金は特に好適な材料である。第1および第2磁性層の両方にCo-Cr-Pt合金材料を適用し、適切に磁気結合層15bの材料を選択すれば、第1磁性層と第2磁性層の間でエピタキシャル成長を得て、結晶構造とグラニュラー構造の連続性が維持することが可能である。
【0040】
第1および第2磁性層におけるCr含有率は、原子百分率で5%以上25%以下とすることが望ましい。磁性層におけるCrの含有率が多くなると粒界への組成偏析が改善されるが、飽和磁化Msと垂直磁気異方性エネルギーKuが低下する。また、Cr添加によって磁性層の防食性が向上することも知られている。
【0041】
第1および第2磁性層の異方性磁界Hkは、各磁性層におけるPtの含有率に概ね比例する。Ptの含有率が高いほど必要な記録磁界は大きくなるので、適用する磁気ヘッドの記録性能を勘案してPtの含有率を決定する。本発明の垂直磁気記録媒体においては、第1磁性層15aの異方性磁界Hk1を第2磁性層15cの異方性磁界Hk2よりも大きくする。したがって、Co-Cr-Pt合金を第1および第2磁性層の強磁性材料として用いる場合には、第1磁性層に含まれるPtの含有率を第2磁性層に含まれるPtの含有率よりも大きく設定する必要がある。なお、Ptの含有率が原子百分率で25%よりも多くなると面心立方(fcc)相が現れ始め、KuはPtの量が多くなっても上昇しなくなることから、Ptの含有率は、原子百分率で25%以下とすることが望ましい。
【0042】
第1および第2磁性層には更に、Ta, B, Mo, Cu等の他の元素を添加することもできる。これらの元素の添加により、飽和磁化Ms等の磁気特性の調整、粒界偏析の促進、c軸垂直配向の改善などが可能である。
【0043】
磁気結合層15bは、第1磁性層15aと第2磁性層15cの間の強磁性結合(交換相互作用)を適度な強さに制御するための層である。第1磁性層と第2磁性層の強磁性結合が強すぎると両磁性層が一斉に磁化反転を起こすことになり、逆に弱すぎると両磁性層が別々に磁化反転を起こすことになるため、磁気記録層15全体の効率的な磁化反転をもたらす交換スプリング効果を得ることが出来ない。磁気結合層15bの厚さは、第1磁性層15aと第2磁性層15cの間の磁気的な結合の強さを決定する重要な要素である。一般に、磁気結合層15bが薄いと強磁性結合は強く、磁気結合層15bが厚いと強磁性結合は弱くなる。磁気結合層15bの厚さが最適値である場合にのみ、好適な交換スプリング効果が得られ、磁気記録層15の飽和磁界Hsが磁気結合層15bの厚さに対して最小値を持つ。磁気結合層15bの厚さは0.2 nm以上3 nm以下に設定するのが好ましい。磁気結合層15bが0.2 nmよりも薄いと強磁性結合を弱める効果が実質的に得られない。磁気結合層15bが3 nmよりも厚いと記録分解能の低下による記録再生性能の劣化が顕著になる。
【0044】
この磁気結合層15bの厚さの最適値は、磁気記録層15を構成する各層の磁気特性や厚さによって様々な値をとるが、とりわけ磁気結合層15bの飽和磁化Msの値に強く依存する。磁気結合層15bは非磁性層、もしくは飽和磁化Msの小さな磁性層であって、その飽和磁化は第1磁性層15aの飽和磁化よりも小さく、かつ、第2磁性層15cの飽和磁化よりも小さい。磁気結合層15bの厚さを前記の範囲とした時に適切な強磁性結合を得るためには、磁気結合層15bの飽和磁化Msの値は300 kA/m以下であることが好ましく、さらに100 kA/m以下であることが好ましい。ここで、飽和磁化Msの値は磁気結合層15bと同じ材料組成の薄膜を単独で作製した場合に得られる飽和磁化の大きさを表す。単独では強磁性を発現しない非磁性材料であっても、1 nm以下の厚さの磁気結合層15bとして使用すれば、良好な交換スプリング効果が得られる場合がある。
【0045】
磁気結合層15bには、背景技術で紹介したように様々な材料系を用いることが出来る。第1磁性層15aと第2磁性層15cとしてCo-Cr-Pt系合金を用いる場合は、両磁性層の間でエピタキシャル成長が得られるように、六方最密(hcp)結晶構造を有したCo-Ru合金、Co-Cr合金、Co-Cr-Ru合金を用いることが望ましい。これらの合金系ではRuやCrの含有率により、磁気結合層15bの飽和磁化Msや結晶の格子定数を適当に制御することが可能である。磁気結合層15bにはこれらの元素に加えて、Pt, B, Mo, Ta, V, Nbから選ばれる一種以上の元素を含有することができる。これらの元素は、磁気結合層15bの格子定数を調整し、磁気記録層15内の格子整合を改良するのに役立つ。
【0046】
更に、磁気結合層15bはAl, Cr, Hf, Mg, Nb, Si, Ta, Ti, Zr等の酸化物を含有しても良い。磁気結合層15bに酸化物等の粒界材料が添加されていない場合、第1磁性層15aおよび第2磁性層15cに形成されているグラニュラー構造が乱され易くなる。磁気結合層15bの膜厚が大きい場合にこの影響は顕著であり、媒体ノイズが急激に増大する現象がしばしば観察される。磁気結合層15bに前記酸化物を添加することにより、磁気結合層15bを介した粒間交換相互作用の増大が抑制され、媒体ノイズの増大を抑えることが出来る。特に、Si, Ta, Tiの酸化物を添加した場合には、この傾向が顕著であり好ましい。
【0047】
第3磁性層15dは第2磁性層15cと磁気的に結合した強磁性層であり、他の磁性層よりも粒界材料である酸化物の含有量が少なく、より望ましくは酸化物を含まないことを特徴とする。こうすることにより、第3磁性層15d内に均一な膜面方向の交換相互作用が働くようになる。第3磁性層15dにより発生する交換相互作用磁界によって磁気記録層内部に働く反磁界を相殺し、媒体の反転磁界分布を狭めることで、熱揺らぎ安定性を高めながら飽和記録を容易にすることが可能になる。すなわち、第3磁性層15dは第2磁性層15cに対して「キャップ磁性層」の役割を果たすことが出来る。更に媒体の信頼性の観点からも、酸化物を含まない磁気記録層材料は良好な防食性を与えるので好ましい。
【0048】
第3磁性層15dは六方最密(hcp)結晶構造を有するCo-Cr-Pt合金により形成することができ、酸化物を含有しないことが好ましい。第3磁性層15dの飽和磁化Msの値は300 kA/m以上1000 kA/m以下の範囲内に設定することができる。第3磁性層15dの飽和磁化Msが300 kA/mよりも小さい場合には、第3磁性層15d内、および第2磁性層15cとの界面において十分な強磁性結合を得ることが困難になる。第3磁性層15dの飽和磁化Msが大きいほど、媒体の記録し易さは改善されるが、飽和磁化Msが大きすぎると媒体ノイズが増大する。媒体の記録し易さと低ノイズ性を両立する為には、第3磁性層15dの飽和磁化は350 kA/m以上550 kA/m以下の範囲内とすることが好ましい。飽和磁化Msをこの範囲内に設定した媒体は、シールド型ヘッド(後述)によって記録再生を行うことで、特に好ましい性能を発揮する。
【0049】
第3磁性層15dは、Co, Cr, Ptに加えて、B, Ta, Nb, Mo, Cu, Nd, Sm, Tb, Ru, Re等から選ばれる一種以上の元素を含有することができる。これらの元素は、c軸の垂直配向性を改良する事、結晶の格子間隔を変化させる事などを目的として用いることができる。第3磁性層15dにおけるこれらの元素の含有量は原子百分率で15%未満であることが好ましい。それよりも多く含有すると、hcp結晶構造が壊れてしまう恐れがある。第3磁性層15dのPt含有量は原子百分率で10%以上25%以下とすることが好ましい。これよりもPtの含有量が多い場合には、面心立方相が第3磁性層15d内に現れ始める。これよりもPtの含有量が少ない場合には、第3磁性層の磁化方向を垂直に保持することが困難となり、磁化ループの角型比が低下する。その結果、熱揺らぎ耐性が低下し、記録分解能が低下するなどの現象が認められる。
【0050】
磁気記録層15全体の厚さは5 nm以上40 nm以下とするのが好ましく、10 nm以上25 nm以下とするのがより好ましい。磁気記録層全体の厚さが5 nmよりも薄い場合には熱安定性が不十分になる場合があり、40 nmよりも厚い場合には粒子サイズが大きすぎてノイズの増大を招く場合がある。
【0051】
加えて、本発明に係る垂直磁気記録媒体は、第1磁性層15aの厚さt1、第2磁性層の厚さt2、および第3磁性層の厚さt3について、
0.1 < t2/(t2+t3) < 0.6 (1)
および/または
0.2 < (t2+t3)/t1 < 0.6 (2)
を満たしていることが望ましい。
【0052】
式(1)は、第2磁性層15cと第3磁性層15dの膜厚の和t2+t3うちの、第2磁性層15cの膜厚t2の比率についての条件式である。両磁性層は全体として第1磁性層15aに対する書き込みアシスト層の役割を果たすが、それぞれの役割は異なるため、膜厚比率によって第1磁性層15aへの作用効果が変化する。第2磁性層15cの比率を高めることによって、高い記録分解能が実現される代わりに、飽和記録が困難になってくる。したがって、t2/(t2+t3)には最適な範囲があり、発明者らの検討の結果、最も優れた記録再生特性を発揮するのは0.1以上0.6以下の場合であった。
【0053】
式(2)は、第1磁性層15aの膜厚t1に対する、第2磁性層15cと第3磁性層15dの膜厚の和t2+t3の比率についての条件式である。第2磁性層15cと第3磁性層15dは全体として第1磁性層15aに対する書き込みアシスト層の役割を担うため、その厚さの和が大きいほど書き込みアシスト能力は高まる。また、第1磁性層15aは厚いほど書き込みアシスト効果を受け難くなる。したがって、書き込みアシストの効果はその膜厚比(t2+t3)/t1を指標として表すことが出来る。 (t2+t3)/t1には最適な範囲があり、発明者らの検討の結果、最も優れた記録再生特性を発揮するのは0.2以上0.6以下の場合であった。発明者らの検討の結果、0.2よりも(t2+t3)/t1が小さい場合、書き込みアシスト効果は実質的に無視できる程度に小さく、実質的な記録再生特性の改善は見られなかった。逆に0.6よりも(t2+t3)/t1を大きくしても、書き込みアシスト効果を更に高めることは出来なかった。
【0054】
保護層16には、例えば、カーボンを主体とする硬度の高い薄膜が用いられる。さらに、ヘッドと媒体が接触した場合の潤滑性を高める目的で、保護層16の表面に、パーフルオロポリエーテル(PFPE)油等のフッ素系高分子オイルからなる液体潤滑膜17を塗布する。液体潤滑膜17の塗布方法としては、ディップ法、スピンコート法などがある。
【0055】
非磁性基体11上に積層される各層の作製には、液体潤滑膜17を除いて、半導体や磁気記録媒体、光記録媒体の作製に用いられている様々な薄膜形成技術を用いることが出来る。薄膜形成技術としては、DCスパッタリング法、RFスパッタリング法、真空蒸着法などが良く知られている。スパッタリング法は、製膜速度が比較的速く、材料によらずに純度の高い膜を得られ、スパッタ条件(導入ガス圧、放電電力)の変更によって薄膜の微細構造や膜厚を制御することが可能なために、大量生産に好適である。グラニュラー構造を有する磁気記録層15を製膜中に、導入ガス中に酸素や窒素などの反応性ガスを混ぜること(反応性スパッタリング法)により、粒界形成を促進させることも可能である。また、基板に負バイアス電圧を印加することによっても、しばしば組成偏析が促進され、優れた粒界構造が得られる。これにより媒体の記録再生特性を改良することが出来る。負バイアス電圧は、例えば-100 Vから-300 Vの間に設定することができる。
【0056】
図2に、本発明に係る磁気記録再生装置の構成と構成部品の概略図を示す。図2(a)は平面図であり、図2(b)は図2(a)のA−A′線断面図である。この磁気記録再生装置に対して、上述の、本発明に係る垂直磁気記録媒体10を適用する。
【0057】
垂直磁気記録媒体10は、これを回転駆動するスピンドルモータ22に固定されており、所定の回転数で回転駆動される。垂直磁気記録媒体10にアクセスして記録再生動作を行う磁気ヘッド23は、金属製の板ばねからなるサスペンション24の先端に取付けられており、サスペンション24はさらに磁気ヘッドの位置を制御するためのアクチュエータ25に取り付けられている。電子回路からなるコントローラ26により、記録媒体とヘッドの動作制御や記録再生信号の処理等を行う。
【0058】
図3は、図2に示した磁気記録再生装置の一例について、垂直磁気記録媒体10と磁気ヘッド23が近接する領域の断面を概略的に示した図である。磁気ヘッド23は、書き込み主磁極31、補助リターン磁極32、書き込み主磁極31に近接して設けられたシールド33、巨大磁気抵抗(GMR)又はトンネル磁気抵抗(TMR)センサ34、再生シールド35によって構成される。このように主磁極31の周辺にシールド33を有する垂直記録ヘッドはシールド型(Shielded-pole type)ヘッドと呼ばれ、シールド33を有さない単磁極型(Single-pole type)ヘッドと比較してより大きな書き込み磁界勾配を有するが、その代わりに、書き込み磁界のピーク強度は小さくなる特徴を有する。主磁極11から出た磁束は軟磁性裏打ち層12を通過してリターン磁極32に到達し、主磁極31の直下に磁化情報が記録される。シールド型ヘッドを用いる場合は、飽和記録を可能にするために、媒体の飽和磁化Hsがより低いことが要求される。本発明に係る垂直磁気記録媒体10は、より低い飽和磁界Hsで優れた記録再生特性を実現することを目的として設計されたものであり、単磁極型ヘッドと組み合わせて用いるよりもシールド型ヘッドと組み合わせて用いるのに好適である。
【0059】
次に、上記垂直磁気記録媒体10の具体例を実施例1−3として説明する。
<実施例1>
洗浄した磁気ディスク用強化ガラス基板上に、インライン型スパッタリング装置を用いてDCスパッタリング法により、多層薄膜を形成した。多層薄膜としては、始めに、ガラス基板11への薄膜の密着性を確保するため、AlTi50ターゲット(下付きの数値は合金中の元素含有率の原子百分率。以下同様。)を用いて厚さ30 nmのAlTiアモルファス合金層を作製した。続けて、FeCo34Ta10Zr5ターゲットを用いて軟磁性アモルファス膜を30 nm、Ruターゲットを用いて反強磁性結合膜を0.5 nm、そして再びFeCo34Ta10Zr5ターゲットを用いて軟磁性アモルファス膜を30 nm製膜して、3層スタック構造の軟磁性裏打ち層12を形成した。以上の各層の製膜時のプロセスガスはArであり、ガス圧は1 Paとした。さらに、NiW8ターゲットを用いて2 PaのArガス圧下で厚さ7 nmのNiW合金シード層13を、4 PaのArガス圧下で厚さ12 nmのRu中間層14を、この順番で製膜した。NiW合金シード層13は(111)結晶方位が膜面垂直方向に配向したfcc構造を有していた。また、Ru中間層14はc軸が膜面垂直方向に配向したhcp構造を有していた。多結晶体であるRu中間層14を高Arガス圧下で形成することにより、Ru中間層14の表面凹凸が強調され、Ru中間層上に形成される磁気記録層15において、粒界への酸化物の偏析が促進される。
【0060】
Ru中間層14の上に、図4に示す組成および厚さの4層からなる磁気記録層15を製膜した。 CoCr17Pt18-SiO2(8 mol%)混合ターゲットを用いて、第1磁性層15aを形成した。プロセスガスとして、酸素ガス比を4%とした全圧4 Paのアルゴンと酸素の混合ガスを用い、-250 Vのバイアス電圧を基板に印加しつつ、第1磁性層15aの厚さが12 nmとなるように製膜を行った。
【0061】
次に、CoRu40合金ターゲットを用いて、2 PaのArガス中で、厚さ0.8 nmの磁気結合層15bを製膜した。次に、様々な組成比のCoCrPt-SiO2混合ターゲットを用い、2 PaのArガス中で第2磁性層15cを製膜した。この混合ターゲットとしては、CoCrPt合金の組成をCoCr17Pt7、CoCr17Pt10、CoCr17Pt13、CoCr17Pt16とした4種類のターゲットを用い、SiO2の含有率は全て8 mol%とした。また、比較例ではCoCr17Pt19-SiO2(8 mol%)混合ターゲットを用いた。最後に、第3磁性層15dとして、CoCr14Pt14B8ターゲットを用い、0.6 PaのArガス中で第3磁性層を形成した。第2磁性層15cと第3磁性層15dの厚さはいずれも2.7 nmとした。
【0062】
磁気記録層15の上に、窒素ガス比を10%とした全圧1.5 Paのアルゴンと窒素の混合ガス中で炭素ターゲットを放電させ、スパッタリング法により、保護層16を形成した。保護層16の厚さは3.5 nmとした。
【0063】
次に、作製した垂直磁気記録媒体10の膜面垂直方向に磁化を印加し、極カー(Kerr)磁力計を用いて、磁気ヒステリシスループ(カーループ)を測定した。図10に典型的なカーループの例を示す。図10に示すように、測定したカーループにおいて、磁化が飽和値の95%に達する磁界を飽和磁界Hsと定義した。この飽和磁界Hsは、媒体の書き込み容易性と強い相関がある。計算機シミュレーションを用いた推定によれば、良好な書き込み容易性を保証するためには、飽和磁界Hsは記録ヘッドの発生する最大磁界より小さい必要があり、前記最大磁界の85%以下であることがより望ましい。また、図10に示すように、測定したカーループにおいて、磁化曲線の磁化反転部、具体的には磁化が飽和磁化Msの-1/2以上1/2以下である領域に接線を引き、飽和磁化Msレベルと交差する点から反転開始磁界Hnを定義した。この反転開始磁界Hnを熱擾乱などに対する磁化の安定性を表す指標とした。
【0064】
垂直磁気記録媒体10の磁気特性を更に詳細に検討するため、強化ガラス基板上に前述のシード層13と中間層14を製膜し、次に磁気記録層15の各磁性層のうち一層だけを10 nm程度で製膜し、最後に保護層16を製膜した試料を作製し、その磁気特性の測定を行った。測定試料は8 mm角に切り出し、振動試料型磁力計と磁気トルク計を用いた測定により、飽和磁化Msと異方性磁界Hkを決定した。図4に、試作した垂直磁気記録媒体10の磁気記録層15を構成する各磁性層の飽和磁化Ms、異方性磁界Hkを示す。図4に示すように、本実施例の磁気結合層15bは単独では強磁性を示さなかった。
【0065】
図11に、第2磁性層15cのPt含有率と磁気記録層15の飽和磁界Hsとの関係を示す。本実施例のようにPt含有率が第1磁性層15aよりも少ない場合には飽和磁界Hsが小さく、比較例のようにPt含有率が第1磁性層15aよりも多い場合には飽和磁界Hsが大きくなった。本実施例の場合、Pt含有率が10〜13 原子%程度で飽和磁界Hsが最小となり、Pt含有率が第1磁性層の18原子%より少なければ、広い組成範囲で飽和磁界Hsが減少した。図4に示すように、第2磁性層15cのPt含有率が高いほどその異方性磁界Hkは大きい。したがって、第2磁性層15cの異方性磁界Hk2を第1磁性層15aの異方性磁界Hk1よりも小さくすることが、飽和磁界Hsの削減に有効であると考えられる。比較例のように、第2磁性層15cのPt含有率が第1磁性層15aよりも多く、Hk2>Hk1であるような場合には、飽和磁界Hsが増加し、媒体への記録がより困難であった。
【0066】
図12に、第2磁性層15cのPt含有率と反転開始磁界Hnとの関係を示す。反転開始磁界Hnの大きさはPtの含有率にほとんど影響を受けなかった。したがって、試作した媒体の熱安定性には大きな差がないことが期待される。第2磁性層15cの磁化は第3磁性層15dにより強力に保持されているため熱擾乱の影響を受けにくいものと考えられる。
【0067】
試作した媒体の磁気記録再生特性を(株)日立ハイテクノロジーズ製のスピンスタンドRH4160を用いて評価した。磁気記録再生測定を行う媒体に対しては、前記多層薄膜のスパッタ製膜後、ディップ法を用いてPFPE系潤滑剤を塗布し、表面をバーニッシュして突起部や異物を除去し、グライドヘッドを用いて予めヘッド浮上特性に問題が無いことを確認した。磁気ヘッドには、記録素子として主磁極幅160 nmの垂直記録用素子、再生素子として電極間隔140 nm、シールドギャップ長50 nmの巨大磁気抵抗(GMR)再生素子を搭載したヘッドを用いた。記録素子の主磁極の後端部にはシールドが配置されており、シールド型ヘッドとなっている。磁気ヘッドに対するディスクの回転速度は線速度が10 m/sとなるように制御した。この時の磁気ヘッドの浮上量は約8 nmであった。媒体に線記録密度19.7 kfr/mm (flux reversal per millimeter)(500 kfci)で記録を行った後に、同じ位置により低い線記録密度2.44 kfr/mm(62 kfci)で再び記録を行い、線記録密度500 kfciの信号の消え残り成分の強度と線記録密度62 kfciの信号強度の比によりオーバーライト値を決定し、書き込み容易性の指標とした。また、線記録密度20.9 kfr/mm(530 kfci)で記録を行った場合の信号強度Sと積算媒体ノイズNを測定し、その比によって信号対雑音比(SNR)を決定した。
【0068】
図13は、Ptの含有率とオーバーライト値(Overwrite)との関係を示す図である。オーバーライト値は飽和磁界Hsと非常に良い相関があり、Hsが低いほどオーバーライト値が小さくなり、記録が容易になった。低い記録磁界でも容易に飽和記録を行うことが可能な媒体であれば、より微小な主磁極を有する記録ヘッドや、主磁極に近いシールドを有する記録ヘッドによっても、所望の記録状態を実現することが出来るので、高い記録密度を実現するのに有利である。
【0069】
図14は、Ptの含有率とSNRとの関係を示す図である。Hk1<Hk2である比較例と比べて、本実施例の媒体は一貫して優れた記録再生性能を示し、最大でSNRにおいて2.5dBの改善が見られた。
【0070】
以上に示したように、垂直磁気記録媒体の磁気記録層の作製に際し、第1磁性層の異方性磁界Hk1と第2磁性層の異方性磁界Hk2がHk1>Hk2を満たすように材料や製法を選ぶことで、より高い記録密度を実現することが可能である。
<実施例2>
実施例1と同様の作製工程及び評価方法を用いて、垂直磁気記録媒体を作製し、磁気特性および記録再生特性を測定した。ただし、実施例2では、磁気結合層15bを厚さ1.8 nmのCoCr30合金で構成し、第2磁性層15cはCoCr17Pt13-SiO2(8 mol%)混合ターゲットを用いて作製した。そして、実施例2では第2磁性層15cの厚さt2と第3磁性層15dの厚さt3の和を一定として、t2の比率を様々に変えたサンプルを作製した。図5に、作製した垂直磁気記録媒体の磁気記録層を構成する各層の組成、飽和磁化Ms及び厚さの一覧を示す。
【0071】
図15は第2磁性層15cの厚さt2の第2磁性層15cと第3磁性層15dの厚さの総和(t2+t3)に対する比率t2/(t2+t3)と飽和磁界Hsとの関係を示す図である。飽和磁界Hsはt2/(t2+t3)が大きくなるにしたがって、徐々に大きくなるが、その増加の程度は0.6付近まで比較的小さかった。
【0072】
図16はt2/(t2+t3)と反転開始磁界Hnとの関係を示す図である。t2/(t2+t3)が0.1以上のとき、t2=0の場合と比べて、反転開始磁界Hnが増大する領域があった。この領域ではHnの増大に対応して熱揺らぎ安定性が向上することが期待できる。t2/(t2+t3)が0.6よりも大きい領域では第3磁性層15dの「キャップ層」としての効果が弱まり、反転開始磁界Hnが急激に小さくなった。この領域で十分な熱揺らぎ耐性を得ることは難しい。
【0073】
以上のような磁気特性を持つ垂直磁気記録媒体の記録再生特性をスピンスタンドで評価した。図17はt2/(t2+t3)とオーバーライト値との関係を示す図である。実施例1の時と同様に飽和磁界Hsとオーバーライト値の相関は強い。オーバーライト値はt2/(t2+t3)が大きくなるとともに徐々に増加した。0.6より大きくなると急激に書き込みが難しくなり、記録再生性能に影響があるレベル(この場合は-20dB程度)までオーバーライト値が増加した。
【0074】
図18はt2/(t2+t3)と記録分解能(Resolution)との関係を示す図である。ここで記録分解能とは、線記録密度20.9 kfr/mm(530 kfci)で記録を行った場合の信号強度の、線記録密度4.17 kfr/mm(106 kfci)で記録を行った場合の信号強度に対する割合を百分率で表した値である。記録分解能はt2/(t2+t3)が大きくなるに従い、際立って増加した。しかし、t2/(t2+t3)が0.7よりも大きくなると、記録ヘッドからの磁界が正常に記録を行うのに十分でなくなり、記録分解能は急激に低下した。
【0075】
図19はt2/(t2+t3)とSNRとの関係を示す図である。t2/(t2+t3)が0.1以上ではSNRの実質的な改善が認められるようになり、最大で1.8dBもの性能改善を実現できた。ところが、t2/(t2+t3)が0.6より大きくなると、記録分解能の増加にもかかわらず、SNRは急激に劣化した。これは第3磁性層15dに特有の「キャップ層」としての効果が弱まり、記録が困難になったためである。
【0076】
以上から分かるように、垂直磁気記録媒体の磁気記録層において、第2磁性層15cは本質的に重要な役割を果たしており、第2磁性層15cとして適切な膜厚t2を選び、具体的には0.1 <t2/(t2+t3)< 0.6を満たすようにすることで、本発明の垂直磁気記録媒体の利点を最大に生かして、高い記録再生性能を得ることが可能になる。
<実施例3>
実施例1と同様の作製工程及び評価方法を用いて、垂直磁気記録媒体を作製し、磁気特性および記録再生特性を測定した。ただし、実施例3では、磁気結合層15bを厚さ1.2 nmのCoCr25Cr10合金で構成し、第2磁性層15cはCoCr17Pt13-SiO2(8 mol%)混合ターゲットを用いて作製した。そして、実施例3では第2磁性層15cの厚さt2と第3磁性層15dの厚さt3を揃え(t2=t3)、第2磁性層15cと第3磁性層15dの厚さの総和(t2+t3)を変えたサンプルを作製した。図6に、作製した垂直磁気記録媒体の磁気記録層を構成する各層の組成、飽和磁化Ms及び厚さの一覧を示す。
【0077】
図20は第2磁性層15cと第3磁性層15dの厚さの総和(t2+t3)の第1磁性層15aの厚さt1に対する比率(t2+t3)/t1と飽和磁界Hsとの関係を示す図である。(t2+t3)が3 nm程度まで、(t2+t3)の増加と伴に飽和磁界Hsは急激に減少した。これは磁化反転アシストの効果が厚さと伴に強まることを表している。ところが、それ以上の厚さになるとHsの減少率は小さくなり、(t2+t3)が8 nm以上では飽和磁界Hsが逆に増加した。これは、第2磁性層15cと第3磁性層15dの厚さがある範囲を超えると、それ以上は磁化反転アシスト効果が強くならないことを表している。(t2+t3)が大きすぎると、磁性層間の距離が大きくなって強磁性結合の作用が伝わり難くなるため、むしろ飽和磁界Hsは増大すると考えられる。
【0078】
図21は (t2+t3)/t1とSNRとの関係を示す図である。飽和磁界Hsの振る舞いから予想されたとおり、SNRも(t2+t3)/t1に依存して大きく変化した。(t2+t3)/t1が0.2より小さい場合にSNRが著しく劣化しているのは、記録ヘッドからの書き込み磁界が不足した結果である。(t2+t3)/t1が0.6より大きい場合にSNRが劣化するのは、主として分解能の低下による。過剰に(t2+t3)を大きくすることは、磁気的スペーシングを増加させ、記録および再生分解能の劣化を招くため、極力避けなければならない。
【0079】
以上から分かるように、第2磁性層と第3磁性層の厚さの総和を第1磁性層の厚さに対して適切に設定することで、優れた記録再生特性を有する垂直磁気記録媒体が得られる。このように、第2磁性層と第3磁性層の厚さの総和を第1磁性層の厚さに対して適切に設定することは本質的に重要であり、それによって本発明の利点を最大限生かすことが可能となる。
【0080】
次に、上記した実施例の垂直磁気記録媒体における磁気結合層15bの働き、およびその重要性について検討した結果について述べる。実施例1と同様の作製工程及び評価方法を用いて、垂直磁気記録媒体を作製し、磁気特性および記録再生特性を測定した。
【0081】
磁気結合層15bの材料として実施例1,2,3で検討したCoRu40、CoCr30、CoCr25Ru10合金を選び、それぞれの材料について最適な厚さを見つけ出すために、様々な厚さで試料を作製した。図7に、作製した垂直磁気記録媒体の磁気記録層を構成する各層の組成、飽和磁化Ms及び厚さの一覧を示す。
【0082】
図22は磁気結合層15bの厚さと飽和磁界Hsとの関係を示す図である。いずれの材料にも飽和磁界Hsが最小となる最適厚さが存在し、CoRu40、CoCr30、CoCr25Ru10合金に対して、それぞれ0.8 nm、1.8 nm、1.2 nmであった。
【0083】
図23は磁気結合層15bの厚さとSNRとの関係を示す図である。いずれの材料にもSNRが最大となる最適厚さが存在し、その厚さは図22において最小の飽和磁化Hsを示す厚さと概略一致した。したがって、本発明に係る垂直磁気記録媒体は、適切な材料および厚さの磁気結合層15bを適用することによって始めて高い記録再生性能を得ることが出来るものである。
【0084】
以上の磁気結合層15bの材料のうちCoCr30合金を用いた場合について、更に詳細な検討を行った。第2磁性層15cの有無と磁気結合層15bの関係を調べるために、第2磁性層15cを無くした代わりに第3磁性層15dの厚さを倍にした(t2+t3は一定とした)比較用サンプルを作製し、第2磁性層15cを有する前述のサンプルと、磁気特性および記録再生特性を比較した。図8に、作製した垂直磁気記録媒体の磁気記録層15を構成する各層の組成、飽和磁化Ms及び厚さの一覧を示す。
【0085】
また、第1磁性層15a、第2磁性層15c、第3磁性層15dは図7と同じとし、磁気結合層15bはCoCr30合金にSiO2を5 mol%添加して製膜したサンプルを作製し、検討を行った。図9に、その垂直磁気記録媒体の磁気記録層を構成する各層の組成、飽和磁化Ms及び厚さの一覧を示す。詳細な作製工程は、実施例1と同じである。
【0086】
図24は、図7、図8、図9に示した媒体のうち磁気結合層15bにCoCr30合金を適用した媒体について、磁気結合層15bの厚さと飽和磁界Hsとの関係を示す図である。図7と図9に示した媒体は、磁気結合層15bの厚さに依存して飽和磁界Hsが大きく変化した。飽和磁界Hsが最小になる磁気結合層15bの最適な厚さはややずれたが、両媒体の振る舞いはほぼ同じであった。これに対して、第2磁性層15cのない比較用サンプルは、磁気結合層15bの厚さを変えても飽和磁界Hsの変化は顕著でなかった。
【0087】
図25は、図7、図8、図9に示した媒体のうち磁気結合層15bにCoCr30合金を適用した媒体について、磁気結合層15bの厚さとSNRとの関係を示す図である。図7と図9に示した媒体は、磁気結合層15bの厚さに依存してSNRも大きく変化し、飽和磁界Hsが最小になる磁気結合層15bの厚さ付近で、最大SNRを示した。ただし、SiO2を添加した磁気結合層15bを用いた図9の垂直磁気記録媒体の方が、より高いSNRを実現できている。磁気結合層15bに粒界形成を促すSiO2を添加することにより、磁気結合層15bが比較的厚い場合でもグラニュラー構造が乱れ難くなったことが原因と思われる。
【0088】
図25において、第2磁性層15cのない比較用サンプルは、飽和磁界Hs同様、SNRも磁気結合層15bの厚さに強く依存しなかった。磁気結合層15bを適切な厚さ(約2 nm)に調整することにより、第2磁性層15cを有する本発明のサンプルは、第2磁性層15cのない比較用サンプルより優れた記録再生特性を示すようになった。第2磁性層15cを有する本発明のサンプルがより優れた記録再生性能を示すのは、実施例2において示したように、主として記録分解能の改善による。すなわち、第3磁性層15dを相対的に薄く設定し、より高い記録分解能を実現したことによる。
【0089】
このように、本発明においては第2磁性層15cも欠かすことは出来ず、磁気結合層15bと第2磁性層15cを適切に組み合わせることが本質的に重要である。
【0090】
次に、本発明に係る垂直磁気記録媒体に対して、シールド型ヘッド、単磁極型ヘッドを用いてそれぞれ記録再生特性を調査した結果について示す。ここでシールド型ヘッドは実施例1で用いたものであり、単磁極型ヘッドは前記シールド型ヘッドから主磁極後端部のシールドを除いた構造のものである。媒体としては実施例3に用いたサンプルと同じものを使用した。
【0091】
図26は(t2+t3)/t1とSNRとの関係を示す図である。シールド型ヘッドの場合のデータは図21と同じで、適切な(t2+t3)/t1の領域で優れた記録再生性能が得られている。単磁極型ヘッドの場合のデータも同じ傾向を示したものの、シールド型ヘッドの場合と比べて、SNRの変化率は小さく、最大SNRは低かった。したがって、本発明の垂直磁気記録媒体はシールド型ヘッドと組み合わせることによって、特に高いSNRを実現する可能性があることが分かる。シールド型ヘッドは発生する磁界の最大値は単磁極型ヘッドに劣るが、発生する磁界の空間変化率(磁界勾配)は単磁極型ヘッドよりも大きくすることが出来る。本発明の垂直磁気記録媒体のように、書き易い(Hsの小さい)磁気特性を有する媒体は、シールド型ヘッドとの組み合わせることが特に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明に係る垂直磁気記録媒体の層構成を示す断面摸式図である。
【図2】本発明に係る磁気記録再生装置(ハードディスクドライブ)の構造と構成部品を示す平面図と断面図である。
【図3】本発明に係る磁気記録再生装置の垂直磁気記録媒体と磁気ヘッドが近接する領域の断面図である。
【図4】実施例1の垂直磁気記録媒体の各磁性層の組成、飽和磁化Ms、異方性磁界Hk、厚さを示す図である。
【図5】実施例2の垂直磁気記録媒体の各磁性層の組成、飽和磁化Ms、厚さを示す図である。
【図6】実施例3の垂直磁気記録媒体の各磁性層の組成、飽和磁化Ms、厚さを示す図である。
【図7】本発明に係る垂直磁気記録媒体であって、磁気結合層の組成および厚さを変えた試料の、各磁性層の飽和磁化Msと厚さを示す図である。
【図8】本発明との比較用の第2磁性層を有さない垂直磁気記録媒体であって、CoCr磁気結合層の厚さを変えた試料の、各磁性層の飽和磁化Msと厚さを示す図である。
【図9】本発明に係る垂直磁気記録媒体であって、CoCr磁気結合層にSiO2を添加した試料の、各磁性層の飽和磁化Msと厚さを示す図である。
【図10】実施例1の垂直磁気記録媒体における極カー磁気ヒステリシスループを示す図である。
【図11】実施例1の垂直磁気記録媒体における第2磁性層のPt含有率と飽和磁界Hsとの関係を示す図である。
【図12】実施例1の垂直磁気記録媒体における第2磁性層のPt含有率と反転開始磁界Hnとの関係を示す図である。
【図13】実施例1の垂直磁気記録媒体における第2磁性層のPtの含有率とオーバーライト値との関係を示す図である。
【図14】実施例1の垂直磁気記録媒体における第2磁性層のPtの含有率とSNRとの関係を示す図である。
【図15】実施例2の垂直磁気記録媒体における第2磁性層の厚さt2の第2磁性層と第3磁性層の厚さの総和(t2+t3)に対する比率t2/(t2+t3)と飽和磁界Hsとの関係を示す図である。
【図16】実施例2の垂直磁気記録媒体におけるt2/(t2+t3)と反転開始磁界Hnとの関係を示す図である。
【図17】実施例2の垂直磁気記録媒体におけるt2/(t2+t3)とオーバーライト値との関係を示す図である。
【図18】実施例2の垂直磁気記録媒体におけるt2/(t2+t3)と記録分解能との関係を示す図である。
【図19】実施例2の垂直磁気記録媒体におけるt2/(t2+t3)とSNRとの関係を示す図である。
【図20】実施例3の垂直磁気記録媒体における第2磁性層と第3磁性層の厚さの総和(t2+t3)の第1磁性層の厚さt1に対する比率(t2+t3)/t1と飽和磁界Hsとの関係を示す図である。
【図21】実施例3の垂直磁気記録媒体における(t2+t3)/t1とSNRとの関係を示す図である。
【図22】各実施例の垂直磁気記録媒体における磁気結合層の厚さと飽和磁界Hsとの関係を示す図である。
【図23】各実施例の垂直磁気記録媒体における磁気結合層の厚さとSNRとの関係を示す図である。
【図24】各実施例の垂直磁気記録媒体および比較用サンプルにおける磁気結合層の厚さと飽和磁界Hsとの関係を示す図である。
【図25】各実施例の垂直磁気記録媒体および比較用サンプルにおける磁気結合層の厚さとSNRとの関係を示す図である。
【図26】実施例3の垂直磁気記録媒体に対して、シールド型ヘッドと単磁極型ヘッドで記録を行った場合のSNRの比較図である。
【符号の説明】
【0093】
10…垂直磁気記録媒体、
11…非磁性基板、
12…軟磁性裏打ち層、
13…シード層、
14…中間層、
15…磁気記録層、
15a…第1磁性層、
15b…磁気結合層、
15c…第2磁性層、
15c…第3磁性層、
16…保護層、
17…液体潤滑膜、
22…スピンドルモータ、
23…磁気ヘッド、
24…ヘッド・サスペンション、
25…ヘッド・アクチュエータ、
26…動作制御および信号処理の電子回路、
31…書き込み主磁極、
32…補助リターン磁極、
33…トレーリングシールド、
34…再生センサ、
35…再生シールド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と磁気記録層と保護層とを有する垂直磁気記録媒体であって、
前記磁気記録層は第1磁性層と磁気結合層と第2磁性層と第3磁性層とを含み、
前記第1磁性層が、前記基板と前記磁気結合層との間に設けられた、酸化物を含有する垂直磁化膜であり、
前記第2磁性層が、前記磁気結合層を介して前記第1磁性層と強磁性結合した、酸化物を含有する垂直磁化膜であり、
前記第3磁性層が、前記第2磁性層と前記保護層との間に設けられた強磁性層であり、
前記第3磁性層が含有する酸化物の濃度は前記第2磁性層の酸化物濃度より低いか、または前記第3磁性層が酸化物を含まないことを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記第1磁性層の異方性磁界Hk1が、前記第2磁性層の異方性磁界Hk2より大きいことを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記第1磁性層および第2磁性層は、グラニュラー構造を有する強磁性層であることを特徴とする請求項1又は2記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
前記第1磁性層、第2磁性層および第3磁性層はCo、Cr及びPtを含有することを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
前記第1磁性層および第2磁性層に含まれる酸化物が、酸化珪素、酸化タンタル、酸化チタンのいずれか、あるいはその混合物であることを特徴とする請求項4記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項6】
前記磁気結合層が、CoとRuもしくはCrを含有することを特徴とする請求項5記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項7】
前記磁気結合層が、Co、Cr及びRuを含有することを特徴とする請求項5記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項8】
前記磁気結合層が、Co、Cr及び酸化物を含有することを特徴とする請求項5記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項9】
前記第1磁性層におけるPt元素の成分比が、前記第2磁性層におけるPt元素の成分比よりも大きいことを特徴とする請求項4記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項10】
前記第2磁性層の膜厚t2と前記第3磁性層の膜厚t3が
0.1 < t2/(t2+t3) < 0.6
を満たすことを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項11】
前記第1磁性層の膜厚t1、前記第2磁性層の膜厚t2、前記第3磁性層の膜厚t3が
0.2 < (t2+t3)/t1 < 0.6
を満たすことを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項12】
磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を駆動する媒体駆動部と、前記磁気記録媒体に対して記録再生動作を行う磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体の所望のトラック位置に位置決めするヘッド駆動部と、を備える磁気記録再生装置において、
前記磁気記録媒体は、基板と磁気記録層と保護層とを含む垂直磁気記録媒体であって、
前記磁気記録層は第1磁性層と磁気結合層と第2磁性層と第3磁性層とを含み、
前記第1磁性層が、前記基板と前記磁気結合層との間に設けられた、酸化物を含有する垂直磁化膜であり、
前記第2磁性層が、前記磁気結合層を介して前記第1磁性層と強磁性結合した、酸化物を含有する垂直磁化膜であり、
前記第3磁性層が、前記第2磁性層と前記保護層との間に設けられた強磁性層であり、
前記第3磁性層が含有する酸化物の濃度は前記第2磁性層の酸化物濃度より低いか、または前記第3磁性層が酸化物を含まないことを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項13】
前記磁気ヘッドが、書き込み主磁極と補助リターン磁極を有し、さらに前記主磁極の周辺に磁気シールドを有することを特徴とする請求項12記載の磁気記録再生装置。
【請求項14】
前記垂直磁気記録媒体の第1磁性層の異方性磁界Hk1が、第2磁性層の異方性磁界Hk2より大きいことを特徴とする請求項12又は13記載の磁気記録再生装置。
【請求項15】
前記垂直磁気記録媒体の第2磁性層の膜厚t2と第3磁性層の膜厚t3が
0.1 < t2/(t2+t3) < 0.6
を満たすことを特徴とする請求項12又は13記載の磁気記録再生装置。
【請求項16】
前記垂直磁気記録媒体の第1磁性層の膜厚t1、第2磁性層の膜厚t2、第3磁性層の膜厚t3が
0.2 < (t2+t3)/t1 < 0.6
を満たすことを特徴とする請求項12又は13記載の磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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