説明

埋め込み式生体内物質採取デバイス

【課題】生体内組織に極めて少量存在する物質を、低侵襲かつ高効率に回収可能な体内埋め込み式の生体内機能的物質採取デバイス。
【解決手段】側壁部と上壁部と下壁部との間に中心中空部を有する扁平容器であって、上記上壁部及び/又は下壁部には1以上の開口部が設けられ、回収した目的物質を上記中心中空部に保持することのできる扁平容器を備えた物質採取デバイスであり、扁平容器内にはHMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8、S100A9又はこれらを分泌する細胞、これらタンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター、ヒアルロン酸等を挿入して、骨髄幹細胞を動員することができる。本発明は上記デバイスを含むキット及び上記デバイスの製造方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内組織に極めて少量存在する物質、例えば骨髄幹細胞などの機能的細胞を、低侵襲かつ高効率に回収することのできる体内埋め込み式の生体内機能的物質採取デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体内から高機能細胞を採取する方法としては、例えば造血髄幹細胞であれば、長骨や骨盤骨の骨髄中に針を直接刺入して骨髄液を採取して遠心分離後、セルソーターで採取・確認する手法が知られ、末梢血幹細胞であれば、予めG-CSFを投与して末梢血中に造血幹細胞を動員した後に末梢血を採取して造血幹細胞を分離する手法が知られ、間葉系幹細胞であれば、直接骨髄液を培養し付着性増殖細胞を回収する、脂肪組織などの末梢組織を手術により採取しその中に存在する間葉系幹細胞を分離・培養する手法等が知られていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Transplantation of hematopoietic stem cells from the peripheral blood. J Cell Mol Med. 2005;9:37-50
【非特許文献2】Role of mesenchymal stem cells in regenerate medicine:application to bone and cartilage repair. Expert Opin Biol Ther. 2008;8:255-268
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術においては、骨髄からの骨髄液採取は侵襲性が強く、被験者の負担が大きく、骨髄炎の危険性を伴うため極めて厳密な医療管理が必要であり、頻回の施行は困難である。末梢組織の手術的採取も同様のリスクを伴う。G-CSFによる造血幹細胞動員は、経済的な負担が大きく治療に長時間かかるのでやはり頻回の施行は困難である。
そこで、より効率よく安全に生体内機能性細胞を採取する方法として、本発明では、生体内に低侵襲性容器を挿入し、高効率に生体内機能性細胞を採取し、回収する技術を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の構成は下記に記載の通りである。
(1) 生体内組織に存在する目的物質を回収するための生体内埋め込み式物質採取デバイスであり、側壁部と上壁部と下壁部との間に中心中空部を有する扁平容器であって、上記上壁部及び/又は下壁部には1以上の開口部が設けられ、回収した目的物質を上記中心中空部に保持することのできる扁平容器を備えた物質採取デバイス。
(2) 前記扁平容器の上壁部及び/又は下壁部は、平面、凸型曲面、凹型曲面、凹字状に中央部を凹ませた形状のいずれかを有する上記(1)に記載の物質採取デバイス。
(3) 前記扁平容器の平面形状は、多角形、略多角形、円形、略円形、楕円形、略楕円形、台形及び略台形の中から選ばれる形状を有する上記(1)又は(2)に記載の物質採取デバイス。
(4) 前記扁平容器の上壁部と側壁部間及び下壁部と側壁部間の接合部分は、曲面状を呈している上記(1)〜(3)いずれか1項に記載の物質採取デバイス。
(5) 前記扁平容器は上壁部を含む部品と下壁部を含む部品を組み合わせて構成される上記(1)〜(4)いずれか1項に記載の物質採取デバイス。
(6) 前記扁平容器がシリコーン樹脂材料からなる、上記(1)〜(5)いずれか1項に記載の物質採取デバイス。
(7) 前記扁平容器は生体の上皮及び真皮の間に挿入される、上記(1)〜(6)いずれか1項に記載の物質採取デバイス。
(8) 前記目的物質が骨髄幹細胞である、上記(1)〜(7)いずれか1項に記載の物質採取デバイス。
(9) 前記骨髄幹細胞は多能性幹細胞である、上記(8)に記載の物質採取デバイス。
(10) 前記骨髄幹細胞が、前記扁平容器内に挿入された下記(a)〜(r)の群から選ばれた少なくとも一種を含む物質又は組成物によって動員される、上記(8)又は(9)に記載の物質採取デバイス:
(a)HMGB1(High mobility group box 1)タンパク質
(b)HMGB1タンパク質を分泌する細胞
(c)HMGB1タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(d)HMGB2(High mobility group box 2)タンパク質
(e)HMGB2タンパク質を分泌する細胞
(f)HMGB2タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(g)HMGB3(High mobility group box 3)タンパク質
(h)HMGB3タンパク質を分泌する細胞
(i)HMGB3タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(j)S100A8タンパク質
(k)S100A8タンパク質を分泌する細胞
(l)S100A8タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(m)S100A9タンパク質
(n)S100A9タンパク質を分泌する細胞
(o)S100A9タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(p)ヒアルロン酸
(q)細胞又は組織の抽出液
(r)細胞又は組織の抽出液のヘパリン結合画分。
(11) 前記物質又は組成物は、ポリエチレングリコール(PEG)の重合体又は共重合体、シクロデキストリン、ゼラチン、アルブミン、キトサン、カルボキシルメチルセルロースナトリウム及び生理食塩水の群から選ばれた少なくとも一種の媒体中に存在する、上記(10)に記載の物質採取デバイス。
(12) 上記(8)又は(9)に記載の物質採取デバイスを含むキットであって、下記(a)〜(r)の群から選ばれた少なくとも一種を含む物質又は組成物を更に含むキット:
(a)HMGB1タンパク質
(b)HMGB1タンパク質を分泌する細胞
(c)HMGB1タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(d)HMGB2タンパク質
(e)HMGB2タンパク質を分泌する細胞
(f)HMGB2タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(g)HMGB3タンパク質
(h)HMGB3タンパク質を分泌する細胞
(i)HMGB3タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(j)S100A8タンパク質
(k)S100A8タンパク質を分泌する細胞
(l)S100A8タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(m)S100A9タンパク質
(n)S100A9タンパク質を分泌する細胞
(o)S100A9タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(p)ヒアルロン酸
(q)細胞又は組織の抽出液
(r)細胞又は組織の抽出液のヘパリン結合画分。
(13) 更にポリエチレングリコール(PEG)の重合体又は共重合体、シクロデキストリン、ゼラチン、アルブミン、キトサン、カルボキシルメチルセルロースナトリウム及び生理食塩水の群から選ばれた少なくとも一種の媒体を含む、上記(12)に記載の物質採取デバイスを含むキット。
(14) 生体内組織に存在する骨髄幹細胞を回収するための埋め込み式物質採取デバイスの製造方法であり、
側壁部と上壁部と下壁部との間に中心中空部を有する扁平容器であって、上記上壁部及び/又は下壁部には1以上の開口部が設けられ、回収した骨髄幹細胞を上記中心中空部に保持することのできる扁平容器を用意し、
該扁平容器内に、下記(a)〜(r)の群から選ばれた少なくとも一種を含む物質又は組成物を挿入する工程を含む製造方法:
(a)HMGB1タンパク質
(b)HMGB1タンパク質を分泌する細胞
(c)HMGB1タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(d)HMGB2タンパク質
(e)HMGB2タンパク質を分泌する細胞
(f)HMGB2タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(g)HMGB3タンパク質
(h)HMGB3タンパク質を分泌する細胞
(i)HMGB3タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(j)S100A8タンパク質
(k)S100A8タンパク質を分泌する細胞
(l)S100A8タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(m)S100A9タンパク質
(n)S100A9タンパク質を分泌する細胞
(o)S100A9タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(p)ヒアルロン酸
(q)細胞又は組織の抽出液
(r)細胞又は組織の抽出液のヘパリン結合画分。
(15) 前記物質又は組成物は、ポリエチレングリコール(PEG)の重合体又は共重合体、シクロデキストリン、ゼラチン、アルブミン、キトサン、カルボキシルメチルセルロースナトリウム及び生理食塩水の群から選ばれた少なくとも一種の媒体中に存在する、上記(14)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の物質採取デバイスは、比較的簡単な手術で安全に生体内へ埋め込み、一定期間経過後取り出して目的物質を効率よく回収することができる一方、侵襲性が低いため被験者の身体的負担もリスクも少なく、経済的な負担も少ない。
具体的には、従来のシリコン製の円筒形容器は、製造が容易であるが一容器あたり回収して収容可能な細胞数が少なく、容器内に収容された細胞を回収する際の作業が困難であり回収率にも限界があった。本発明では、細胞を収容する際に通過する孔の数、位置の自由度を高め、その形態を扁平、好ましくは円盤状にした容器を採用することで、上皮及び真皮の間等、層状の生体組織の隙間に容易に挿入でき、装着中の異物感が低く、生体内からの回収も引き出しやすく侵襲性が低い。更に、中空部の容量が大きいため回収効率に優れている。
組み立て式で半分に分割できる本発明の容器は、容器内に骨髄多能細胞動員因子を挿入する際や、容器内に収容された細胞を回収する際の作業を容易にしつつ作業効率を高めることが可能である。
【0007】
本発明の物質採取デバイスを利用することにより、再生医療に有用な多能性幹細胞を、治療対象から低侵襲かつ高効率に採取することができるため、これまで治療困難であった疾患に対しても有効な再生医療を提供できる。その場合、本発明の物質採取デバイス内部に、骨髄多能性幹細胞、骨髄間葉系幹細胞又は骨髄間質幹細胞として分類される細胞を含む骨髄幹細胞の動員因子を挿入しておくと、末梢血流中を循環する少量の骨髄幹細胞を効率よく採取することができる。採取した細胞は、そのまま直接再生医療が必要な損傷組織に投与し治療を行うことができる。骨髄幹細胞は、多能性幹細胞として、骨、軟骨、脂肪の他、線維芽細胞や、神経、上皮など多彩な細胞を再生することが知られており、数多くの疾患、特に皮膚疾患(糖尿病性皮膚潰瘍等の難治性皮膚潰瘍、抗加齢医療など)、骨軟骨疾患(難治性骨折など)、脳神経疾患(脳梗塞など)等の疾患を治療対象とする事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の埋め込み式物質採取デバイスの、上壁部に開口部を有する容器の例である。
【図2】本発明の埋め込み式物質採取デバイスの、上壁部及び下壁部に開口部を有する容器の例である。
【図3】図1及び図2の例の開口部が設けられた上壁部を含む部品の断面図である。
【図4】図3の部品と組み合わせて図1の容器を構成できる、開口部が設けられていない部品の断面図である。
【図5】図3の部品と組み合わせて図2の容器を構成できる、開口部が設けられている部品の断面図である。
【図6A】図1及び2に示す本発明の物質採取デバイス及び従来のチューブ型物質採取デバイスの体内挿入時の形状である。
【図6B】図6Aに示したデバイスの細胞採取時の形状である。
【図7】中心中空部にHMGB-1及びヒアルロン酸が充填された本発明の物質採取デバイス内に回収されたGFP陽性細胞を示す写真である。
【図8】中心中空部にヒアルロン酸が充填された本発明の物質採取デバイス内に回収されたGFP陽性細胞を示す写真である。
【図9】TECs(容器内に集積した細胞)の培養開始24時間後の写真である。左の写真は培養プラスチックシャーレに付着して増殖している線維芽細胞様細胞及び上皮細胞様細胞の明視野像を、右の写真はその暗視野におけるGFP蛍光像を示す。
【図10】本発明の物質採取デバイスから回収したTECsの骨芽細胞分化能を評価した写真である。容器から回収した細胞を骨芽細胞分化誘導培地中で培養した結果、約2週間でアリザリンレッド染色陽性骨芽細胞への分化が確認された。
【図11】本発明の物質採取デバイスから回収したTECsの脂肪細胞分化能を評価した写真である。容器から回収した細胞を脂肪細胞分化誘導培地中で培養した結果、約2週間でオイルレッド染色陽性脂肪細胞への分化が確認された。
【図12】本発明の物質採取デバイスから回収したTECsの表皮細胞分化能を評価した写真である。容器から回収した細胞を表皮細胞分化誘導培地中で培養した結果、約2週間で表皮細胞特異的ケラチン5を発現する角化細胞への分化が確認された。
【図13】PDGFRα及びCD44のTECsにおける発現を検討した図である。PDGFRα陽性及びCD44陽性細胞が本発明の物質採取デバイスに回収されたことが確認された。
【図14】新生マウス皮膚抽出液中のHMGBファミリーをWestern blot法を用いて検出した写真である。
【図15】HMGB1発現ベクターの図である。
【図16】HEK293細胞に発現させた精製リコンビナントFlag tag-HMGBファミリー融合タンパク質のWestern blotの結果を示す写真である。
【図17】ボイデン・チャンバーを用いたリコンビナントHMGB1・HMGB2・HMGB3の骨髄間葉系幹細胞遊走活性を示す図である。いずれのリコンビナントタンパク質もコントロール群に比べ遊走活性を示した。
【図18】マウスの皮膚潰瘍治療モデルにおけるHMGBファミリーによる治療結果を示す図である。HMGB1・HMGB2・HMGB3いずれもコントロール群に比べ有意に潰瘍面積の縮小効果を示した。
【図19】ヒトHMGB1及びヒト皮膚抽出液がヒト骨髄由来間葉系幹細胞を遊走する活性をボイデン・チャンバーを用いて確認した写真である。
【図20】マウス心臓、マウス脳及びマウス皮膚抽出液中の骨髄間葉系幹細胞誘導活性物質をヘパリンカラムで精製し、ボイデン・チャンバーを用いて、活性を確認した写真である。
【図21】培養細胞株HEK293及びHeLa抽出液のヒト骨髄間葉系幹細胞遊走活性をボイデン・チャンバー法を用いて確認した写真である。いずれの培養細胞株もヒト骨髄間葉系幹細胞遊走活性を示した。
【図22】Aはマウスを脳定位固定装置に固定し、メスにて頭部に正中切開しドリルを用いて穿頭を施した写真である。Bは脳にシリンジを用いて、陰圧をかけ、脳組織を一部吸引した写真である。Cはフィブリン糊製剤(フィブリノゲン)に溶解した皮膚抽出液ヘパリンカラム精製画分を5μl注入し、次にフィブリン糊製剤(トロンビン)を5μl注入した後の写真である。DおよびEは脳損傷モデル治療後2週間後の写真である。コントロールのDに比べ皮膚抽出液ヘパリンカラム精製画分による治療群のEでGFP陽性細胞の集積が認められた。FおよびGは脳損傷モデル治療後6週間後の写真である。コントロールのFに比べ皮膚抽出液ヘパリンカラム精製画分による治療群のGでGFP陽性細胞の集積が認められた。
【図23】ボイデン・チャンバーを用いた皮膚抽出液の骨髄由来間葉系幹細胞遊走能活性測定結果を示す写真である。ボイデン・チャンバーの上槽内から8μmの微細穴を持つポリカーボネートメンブレン膜の微細穴を通過して皮膚抽出液を含む下槽側に遊走し、膜下槽側に付着している骨髄間葉系幹細胞を、青色色素にて染色した像である。下層には2日齢マウス及び6週齢マウスから採取した皮膚の抽出液を入れた。
【図24】皮膚抽出液中のS100A8、S100A9のタンパク質の存在をWestern blot法で確認した図である。
【図25】皮膚抽出液中のヘパリン結合タンパク質をヘパリンアフィニティーカラムからNaCl濃度勾配によって溶出した結果を示す写真である。それぞれのフラクションのタンパク質をSDS-PAGEによって分画し銀染色にて検出した。
【図26】ボイデン・チャンバーを用いた皮膚抽出液の骨髄由来間葉系幹細胞遊走能活性測定結果を示す写真である。ボイデン・チャンバーの上槽内から膜上の微細穴を通過して皮膚抽出液のヘパリン結合した各分画(下槽側)に遊走し、膜下槽側に付着している骨髄間葉系幹細胞を、青色色素にて染色した像である。
【図27】皮膚抽出液のヘパリン結合した各分画中のS100A8、S100A9タンパク質の存在をWestern blot法を用いて検出した結果を示す写真である。
【図28】S100A8、S100A9発現ベクターの図である。
【図29】ボイデン・チャンバーを用いた皮膚抽出液の骨髄由来間葉系幹細胞遊走能活性測定結果を示す写真である。ボイデン・チャンバーの上槽内から膜上の微細穴を通過してリコンビナントGST-S100A8、GST-S100A9、皮膚抽出液をそれぞれ含む下層側に遊走し、膜下槽側に付着している骨髄間葉系幹細胞を、青色色素にて染色した像である。
【図30】Aはマウスの尾静脈からGST-S100A8、GST-S100A9を投与し、12時間後末梢血中のCD45陰性細胞の画分に対してCD44、PDGFRα、PDGFRβのFACSを行った図である。BはFACSの結果を基にして、GST-S100A8、GST-S100A9投与12時間後末梢血中のCD45陰性CD44陽性PDGFRα陽性細胞、あるいはCD45陰性CD44陽性PDGFRβ陽性細胞の出現を定量的にグラフ化した図である。
【図31】皮膚抽出液、末梢血抽出液によってデバイス内に動員した細胞による皮膚潰瘍の治療効果を示す図である。
【図32】末梢血抽出液のヘパリンアフィニティーカラム結合成分によってデバイス内に動員した骨髄幹細胞を蛍光顕微鏡で検出した図である。
【図33】末梢血抽出液のヘパリンアフィニティーカラム結合成分によってデバイス内に動員した骨髄幹細胞を蛍光顕微鏡で検出し、画像処理ソフトを用いて細胞数を定量化したグラフである。
【図34】S100A8、HMGB1、HMGB2、HMGB3それぞれを用いてデバイス内に動員した骨髄由来細胞(GFP陽性細胞)を蛍光顕微鏡で検出した図である(A:S100A81、B:HMGB1、C:HMGB2、D:HMGB3、E:陰性コントロール)。
【図35】S100A8、HMGB1、HMGB2、それぞれを用いてデバイス内に動員した骨髄由来細胞によるBALB/cAJcl-nu/nuに作製した皮膚潰瘍に対する治療効果を示す図である。
【図36】HMGB1発現ベクターの図である。
【図37】マウス尾静脈から、皮膚抽出液(SE)を投与し、末梢血を採取する図である。
【図38】皮膚抽出液(SE)を投与後12時間後のマウス末梢血単核球画分を抗マウスPDGFRα抗体、抗マウスCD44抗体で蛍光標識し、フローサイトメトリーで分画した図である。上段3つは陰性コントロールのPBS投与群(n=3)、下段3つは皮膚抽出液(SE)投与群(n=3)である。縦軸はCD44の発現量を横軸はPDGFRαの発現量を示している。線で囲んだ部分がCD44陽性かつPDGFRα陽性細胞群を示し、皮膚抽出液投与群(SE)でPBS群に比して増加している。
【図39】マウス尾静脈から、HMGB1を投与し、末梢血を採取する図である。
【図40】HMGB1を投与後12時間のマウス末梢血単核球画分を抗マウスPDGFRα抗体、抗マウスCD44抗体で蛍光標識し、フローサイトメトリーで分画した図である。左は陰性コントロールのPBS投与マウス、右はHMGB1投与マウスの図である。縦軸はCD44の発現量を横軸はPDGFRαの発現量を示している。線で囲んだ部分がCD44陽性かつPDGFRα陽性細胞群を示し、HMGB1投与マウスでPBS投与マウスに比して増加している。
【図41】AはCD44およびPDGFRαをもつ細胞の存在頻度を表したフローサイトメトリーの結果を示す図である。末梢血中のPDGFRα陽性かつCD44陽性細胞およびPDGFRα陽性かつCD44陰性細胞いずれの細胞群もHMGB1投与によって増加している。BはPDGFRα陽性かつCD44陽性細胞、CはPDGFRα陽性かつCD44陰性細胞についてそれぞれPBS投与群とHMGB1投与群で末梢血中の出現頻度を比較した結果を示す図である。いずれの細胞群においても、HMGB1投与群において統計的有意に増加している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の埋め込み式物質採取デバイスに備えられた扁平容器は、側壁部と上壁部と下壁部との間に中心中空部を有する扁平容器であって、上記上壁部及び/又は下壁部には1以上の開口部が設けられ、生体内組織に存在する目的物質を回収して上記中心中空部に保持することのできる形状を有する。
【0010】
扁平容器の大きさは、皮下に挿入可能なサイズであればよく、例えば、円形平面形状であれば直径5〜20mm、厚さ2〜5mm、体積40〜1570mm3が挙げられるがこれらに制限されるものではない。
扁平容器側壁の厚さは、十分な強度維持に必要な厚みがあればよく、特に制限されないが、例えば、0.3〜0.9mm程度でもよい。。
【0011】
上記中心中空部の容量も回収した目的物質が保持でき、必要であれば細胞動員因子を設置できる程度であればよく、例えば20〜1000mm3が挙げられるがこれらに制限されるものではない。
上記開口部の形状は、目的物質が中心中空部内へ流入され、回収できるならばどのようなものでもよく、任意の数、大きさ、配置を選択できる。例えば、数個の円形の孔から構成されても良い。
【0012】
前記扁平容器の上壁部及び/又は下壁部は、平面、凸型曲面、凹型曲面、凹字状に中央部を凹ませた形状のいずれかを有する。生体内に配置する場合、体内で炎症を起こさず移動せず、埋め込まれたデバイスの異物感が少ないこと、製造上も容易で安価なことから、好ましくは平面、凹型曲面又は凹字状に中央部を凹ませた形状である。
【0013】
前記扁平容器の平面形状は、多角形、略多角形、円形、略円形、楕円形、略楕円形、台形及び略台形の中から選ばれる形状を有する。生体内に保持されるためには曲率半径の大きな(曲率の小さな)曲線を含む形状が好ましく、体内挿入位置に応じて適切な形状を選ぶことができる。同じ理由で、前記扁平容器の上壁部と側壁部間及び下壁部と側壁部間の接合部分は、曲率半径の大きな曲面を呈することが好ましい。
【0014】
前記扁平容器は一体に成形されても良いが、上壁部を含む部品と下壁部を含む部品を組み合わせて構成されてもよい。その場合、組み合わせに応じて開口部の数、大きさ、形状を適宜選択可能であり、また、開口部から挿入するのが困難な物質を中心中空部に設置して組み立てることも可能である。
【0015】
前記扁平容器の材料は、生体適合性があり、体内で一定期間分解されない材料であればどのようなものでも良い。例えば、ポリジメチルシロキサン(シリコーン樹脂)、ポリエステル、ポリアミド、フルオロカーボン、ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート、ポリウレタン、及びポリスチレン、塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、カーボン材料、カーボン複合化材料、セラミック、ガラス、金属等の様々な材料が挙げられるが、中でもシリコーン樹脂を材料とすると、安価で侵襲性が低く、使用中の違和感も少ない。更に、末梢血流中に含まれる骨髄幹細胞は、本発明の扁平容器内に回収される細胞が発達して組織化することは好ましくない。シリコーン樹脂は表面が疎水性で生体組織親和性が少ないため扁平容器内に回収された細胞が発達して容器内外で組織化しないため回収には困難が生じない。
【0016】
前記扁平容器は目的物質を採取可能な生体のどのような場所に挿入されてもよいが、好ましくは上皮及び真皮の間が挙げられる。上皮及び真皮の間に扁平容器が挿入された場合、上壁部及び/又は下壁部に設けられた開口部が上皮及び/又は真皮に直接向き合うため、毛細血管を通して末梢血流に含まれる目的物質が容器内に流入しやすく採取効率が高い。
【0017】
本発明の前記目的物質として、例えば骨髄幹細胞が挙げられる。本発明で目的とする骨髄幹細胞は、造血系幹細胞及びこれに由来する白血球、赤血球、血小板以外の細胞であり、骨髄多能性幹細胞、骨髄間葉系幹細胞又は骨髄間質幹細胞として分類されることのある骨髄幹細胞の動員因子を挿入し、末梢血流中を循環する少量の骨髄幹細胞を効率よく採取することができる。骨髄幹細胞は、末梢血に微量含まれており、多能性幹細胞として、骨、軟骨、脂肪の他、線維芽細胞や、神経、上皮など多彩な細胞を再生することが知られている。従って、採取した骨髄幹細胞は、そのまま直接再生医療が必要な損傷組織に投与して治療を行うことができる。
【0018】
本発明の目的とする好ましい骨髄幹細胞は、骨髄に由来し、末梢血液から採取され、(プラスチックあるいはガラス製)培養皿への付着細胞として培養・増殖可能であり、骨、軟骨、脂肪などの間葉系組織への分化能を有する間葉系幹細胞、又は骨格筋、心筋、さらには神経組織、上皮組織への分化能を有する多能性幹細胞である。上記骨髄幹細胞は、培養皿で培養・増殖させた細胞を生体の損傷部に投与することにより、例えば皮膚を構成するケラチノサイトなどの上皮系組織、脳を構成する神経系の組織への分化能も有するという特徴も持つ。
【0019】
本発明の目的とする骨髄幹細胞は、好ましくは骨芽細胞(分化を誘導するとカルシウムの沈着を認めることで特定可能)、軟骨細胞(アルシアンブルー染色陽性、サフラニン-O染色陽性などで特定可能)、脂肪細胞(ズダンIII染色陽性で特定可能)、線維芽細胞、平滑筋細胞、ストローマ細胞、腱細胞などの間葉系細胞、さらには神経細胞、上皮細胞、血管内皮細胞への分化能力を有する。ただし、分化後の細胞は上記細胞に限定されるものではなく、肝臓、腎臓、膵臓などの実質臓器細胞も含まれる。但し、分化後の細胞は上記細胞に限定されるものではない。
【0020】
本発明の目的とする骨髄幹細胞は、血液系以外の特定組織細胞への一方向性分化能を持つ未分化細胞である組織前駆細胞を含んでいても良い。組織前駆細胞は、上述した間葉系組織、上皮系組織、神経組織、実質臓器、血管内皮への分化能を有する未分化細胞を含む。
【0021】
また、本発明の目的とする骨髄幹細胞としては、例えば、細胞表面マーカーCD44、PDGFRα及びPDGFRβの少なくとも1つに対して陽性である骨髄幹細胞が挙げられるが、このような細胞に限定されない。
【0022】
本発明の生体内埋め込み式物質採取デバイスを皮下に埋め込む場合、例えば、全身(あるいは局所)麻酔を施行後、メスにより数mmの皮膚を切開し、先端の丸い金属棒(モスキートペアンなど)を用いて皮下脂肪組織内に鈍的剥離により必要なスペースを作成し、そのスペース内に本発明の物質採取デバイスを埋め込み、最後に切開した皮膚を縫合あるいはホチキス固定する。
皮下へのデバイス留置のためのその他の方法としては、上記切開後に、ガイドに沿って折り畳まれだデバイスを挿入し、ガイドを取り除いた後に扁平容器の中心中空部に薬液を注入して拡大させて留置する、などの方法が考えられる。
【0023】
容器を埋め込む対象としては、ヒト又は非ヒト動物が挙げられ、例えば、ヒト、マウス、ラット、サル、ブタ、イヌ、ウサギ、ハムスター、モルモットなどが例示できるが、好ましくはヒトである。
【0024】
本発明の生体内埋め込み式物質採取デバイスの中心中空部には、以下の(a)から(r)のいずれかに記載の1以上の物質又は混合物を挿入し、骨髄幹細胞を扁平容器内に動員することができる。
(a)HMGB1タンパク質
(b)HMGB1タンパク質を分泌する細胞
(c)HMGB1タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(d)HMGB2タンパク質
(e)HMGB2タンパク質を分泌する細胞
(f)HMGB2タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(g)HMGB3タンパク質
(h)HMGB3タンパク質を分泌する細胞
(i)HMGB3タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(j)S100A8タンパク質
(k)S100A8タンパク質を分泌する細胞
(l)S100A8タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(m)S100A9タンパク質
(n)S100A9タンパク質を分泌する細胞
(o)S100A9タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(p)ヒアルロン酸
(q)細胞又は組織の抽出液
(r)細胞又は組織の抽出液のヘパリン結合画分
【0025】
なお、上記HMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質の部分ペプチドであって骨髄幹細胞の誘導活性を有するペプチド、該部分ペプチドを分泌する細胞、又は、該部分ペプチドをコードするDNAが挿入されたベクターを利用することもできる。
【0026】
本発明におけるHMGB1タンパク質としては、配列番号:1、3又は5に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質が例示できるが、これらに限定されるものではない。本発明のHMGB1タンパク質には、配列番号:1、3又は5に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質も含まれる。そのようなタンパク質としては、例えば、1)配列番号:1、3又は5に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:1、3又は5に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等な単離されたタンパク質、及び、2)配列番号:2、4又は6に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるタンパク質であって、配列番号:1、3又は5に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等な単離されたタンパク質が挙げられる。
【0027】
本発明におけるHMGB2タンパク質としては、配列番号:7、9又は11に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質が例示できるが、これらに限定されるものではない。本発明のHMGB2タンパク質には、配列番号:7、9又は11に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質も含まれる。そのようなタンパク質としては、例えば、1)配列番号:7、9又は11に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:7、9又は11に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等な単離されたタンパク質、及び、2)配列番号:8、10又は12に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるタンパク質であって、配列番号:7、9又は11に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等な単離されたタンパク質が挙げられる。
【0028】
本発明におけるHMGB3タンパク質としては、配列番号:13又は15に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質が例示できるが、これらに限定されるものではない。本発明のHMGB3タンパク質には、配列番号:13又は15に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質も含まれる。そのようなタンパク質としては、例えば、1)配列番号:13又は15に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:13又は15に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等な単離されたタンパク質、及び、2)配列番号:14又は16に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるタンパク質であって、配列番号:13又は15に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等な単離されたタンパク質が挙げられる。
【0029】
本発明におけるS100A8タンパク質としては、配列番号:17、19又は21に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質が例示できるが、これらに限定されるものではない。本発明のS100A8タンパク質には、配列番号:17、19又は21に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質も含まれる。そのようなタンパク質としては、例えば、1)配列番号:17、19又は21に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:17、19又は21に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等な単離されたタンパク質、及び、2)配列番号:18、20又は22に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるタンパク質であって、配列番号:18、20又は22に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等な単離されたタンパク質が挙げられる。
【0030】
本発明におけるS100A9タンパク質としては、配列番号:23、25又は27に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質が例示できるが、これらに限定されるものではない。本発明のS100A9タンパク質には、配列番号:23、25又は27に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質も含まれる。そのようなタンパク質としては、例えば、1)配列番号:23、25又は27に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:23、25又は27に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等な単離されたタンパク質、及び、2)配列番号:24、26又は28に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるタンパク質であって、配列番号:23、25又は27に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等な単離されたタンパク質が挙げられる。
【0031】
配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25又は27に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等な単離されたタンパク質は、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25又は27に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質のホモログあるいはパラログでありうる。配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25又は27に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質は、当業者によって公知の方法で単離することができる。
【0032】
配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25又は27に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質としては、骨髄幹細胞の誘導活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0033】
配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25又は27に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25又は27に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質は、天然に存在するタンパク質を含む。一般に真核生物の遺伝子は、インターフェロン遺伝子等で知られているように、多型現象(polymorphism)を有する。この多型現象によって生じた塩基配列の変化によって、1又は複数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、及び/又は付加される場合がある。このように自然に存在するタンパク質であって、かつ配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25又は27に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列を有し、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25又は27に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質は、HMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質に含まれる。
【0034】
また、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25又は27に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質である限り、人為的に作製された変異タンパク質も本発明に含まれる。与えられた塩基配列に対してランダムに変異を加える方法としては、たとえばDNAの亜硝酸処理による塩基対の置換が知られている。
【0035】
改変されるアミノ酸の数は、典型的には50アミノ酸以内であり、好ましくは30アミノ酸以内であり、さらに好ましくは5アミノ酸以内(例えば、1アミノ酸)であると考えられる。
【0036】
アミノ酸を人為的に置換する場合、性質の似たアミノ酸に置換すれば、もとのタンパク質の活性が維持されやすいと考えられる。本発明のタンパク質には、上記アミノ酸置換において保存的置換が加えられたタンパク質であって、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25又は27に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質が含まれる。保存的置換は、タンパク質の活性に重要なドメインのアミノ酸を置換する場合などにおいて重要であると考えられる。このようなアミノ酸の保存的置換は、当業者にはよく知られている。
【0037】
保存的置換に相当するアミノ酸のグループとしては、例えば、塩基性アミノ酸(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性アミノ酸(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性アミノ酸(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性アミノ酸(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐アミノ酸(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族アミノ酸(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)などが挙げられる。
また、非保存的置換によりタンパク質の活性などをより上昇(例えば恒常的活性化型タンパク質などを含む)させることも考えられる。
【0038】
この他、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25又は27に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質を得る方法として、ハイブリダイゼーションを利用する方法を挙げることができる。すなわち、配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26又は28に示すような本発明によるHMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質をコードするDNA、あるいはその断片をプローブとし、これとハイブリダイズすることができるDNAを単離する。ハイブリダイゼーションをストリンジェントな条件下で実施すれば、塩基配列としては相同性の高いDNAが選択され、その結果として単離されるタンパク質にはHMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質と機能的に同等なタンパク質が含まれる可能性が高まる。相同性の高い塩基配列とは、たとえば70%以上、望ましくは90%以上の同一性を示すことができる。
【0039】
なおストリンジェントな条件とは、具体的には例えば6×SSC、40%ホルムアミド、25℃でのハイブリダイゼーションと、1×SSC、55℃での洗浄といった条件を示すことができる。ストリンジェンシーは、塩濃度、ホルムアミドの濃度、あるいは温度といった条件に左右されるが、当業者であればこれらの条件を必要なストリンジェンシーを得られるように設定することは自明である。
ハイブリダイゼーションを利用することによって、たとえば配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25又は27に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質以外のHMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質のホモログをコードするDNAの単離が可能である。
【0040】
配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25又は27に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質は、通常、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25又は27に記載のアミノ酸配列と高い相同性を有する。高い相同性とは、少なくとも30%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上(例えば、95%以上)の配列の同一性を指す。塩基配列やアミノ酸配列の同一性は、インターネットを利用したホモロジー検索サイトを利用して行うことができる[例えば日本DNAデータバンク(DDBJ)において、FASTA、BLAST、PSI-BLAST、及びSSEARCH等の相同性検索が利用できる。また、National Center for Biotechnology Information (NCBI) において、BLASTを用いた検索を行うことができる。
【0041】
例えばAdvanced BLAST 2.1におけるアミノ酸配列の同一性の算出は、プログラムにblastpを用い、Expect値を10、Filterは全てOFFにして、MatrixにBLOSUM62を用い、Gap existence cost、Per residue gap cost、及び Lambda ratioをそれぞれ11、1、0.85(デフォルト値)に設定して検索を行い、同一性(identity)の値(%)を得ることができる。
【0042】
本発明によるタンパク質、又はその機能的に同等なタンパク質は、糖鎖等の生理的な修飾、蛍光や放射性物質のような標識、あるいは他のタンパク質との融合といった各種の修飾を加えたタンパク質であることができる。後述する遺伝子組換え体においては、発現させる宿主によって糖鎖による修飾に差異が生じる可能性がある。しかしたとえ糖鎖の修飾に違いを持っていても、本明細書中に開示されたHMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質と同様の性状を示すものであれば、いずれも本発明によるHMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質、又は機能的に同等なタンパク質である。
【0043】
HMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質は、生体材料のみならず、これをコードする遺伝子を適当な発現系に組み込んで遺伝子組換え体(recombinant)として得ることもできる。HMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質を遺伝子工学的な手法によって得るためには、先に述べたHMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質をコードするDNAを適当な発現系に組み込んで発現させれば良い。本発明に応用可能なホスト/ベクター系としては、例えば、発現ベクターpGEXと大腸菌を示すことができる。pGEXは外来遺伝子をグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として発現させることができる(Gene,67:31-40,1988)ので、HMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質をコードする遺伝子を組み込んだpGEXをヒートショックでBL21のような大腸菌株に導入し、適当な培養時間の後にisopropylthio-β-D-galactoside(IPTG)を添加してGST融合HMGB1、GST融合HMGB2、GST融合HMGB3、GST融合S100A8又はGST融合S100A9タンパク質の発現を誘導する。本発明によるGSTはグルタチオンセファロース4Bに吸着するため、発現生成物はアフィニティークロマトグラフィーによって容易に分離・精製することが可能である。
【0044】
HMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質のrecombinantを得るためのホスト/ベクター系としては、この他にも次のようなものを応用することができる。細菌をホストに利用する場合には、ヒスチジンタグ、HAタグ、FLAGタグ等を利用した融合タンパク質の発現用ベクターが市販されている。酵母では、Pichia属酵母が糖鎖を備えたタンパク質の発現に有効なことが公知である。糖鎖の付加という点では、昆虫細胞をホストとするバキュロウイルスベクターを利用した発現系も有用である(Bio/Technology,6:47-55,1988)。更に、哺乳動物の細胞を利用して、CMV、RSV、あるいはSV40等のプロモーターを利用したベクターのトランスフェクションが行われており、これらのホスト/ベクター系は、いずれもHMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質の発現系として利用することができる。また、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター等のウイルスベクターを利用して遺伝子を導入することもできる。
【0045】
上記手法により得られたタンパク質は、宿主細胞内又は細胞外(培地など)から単離し、実質的に純粋で均一なタンパク質として精製することができる。タンパク質の分離、精製は、通常のタンパク質の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせればタンパク質を分離、精製することができる。
【0046】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
【0047】
また、本発明で使用するタンパク質は、実質的に精製されたタンパク質であることが好ましい。ここで「実質的に精製された」とは、タンパク質の精製度(タンパク質成分全体における目的とするタンパク質の割合)が、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、100%若しくは100%に近いことを意味する。100%に近い上限は当業者の精製技術や分析技術に依存するが、例えば、99.999%、99.99%、99.9%、99%などである。
【0048】
また、上記の精製度を有するものであれば、如何なる精製方法によって精製されたものでも、実質的に精製されたタンパク質に含まれる。例えば、上述のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、又は組み合わせることにより、実質的に精製されたタンパク質を例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
本発明におけるHMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質を放出又は分泌する細胞としては、基本的に生体内のすべての組織由来細胞が該当する。採取及び培養が容易な細胞としては、線維芽細胞(例えば正常皮膚線維芽細胞及びそれに由来する株化細胞)が例示できるが、これに限定されるものではない。また、HMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質を分泌する細胞は、HMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質をコードするDNA、あるいは、HMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質をコードするDNAに分泌シグナルをコードするDNA(ATG CAG ACA GAC ACA CTC CTG CTA TGG GTA CTG CTG CTG TGG GTT CCA GGT TCC ACT GGT GAC;配列番号:29)を結合させたDNAを、公知の発現ベクターや遺伝子治療用ベクターに挿入することで作製されたベクターを、線維芽細胞(例えば正常皮膚線維芽細胞及びそれに由来する株化細胞)などの哺乳類細胞や昆虫細胞、その他の細胞に導入することによっても作製することができる。分泌シグナルをコードするDNAとしては上述の配列を有するDNAが例示されるが、これに限定されない。また、これら細胞が由来する動物種に特に制限はないが、ベクターが投与される対象動物種の細胞、対象自身の細胞、あるいはベクターが投与される対象の血縁にあたる者に由来する細胞を使用することが好ましい。
【0050】
本発明におけるHMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質をコードするDNAは、HMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質をコードする限り、cDNAであっても、ゲノムDNAであってもよく、また、天然のDNAであっても、人工的に合成されたDNAであってもよい。HMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質をコードするDNAは、通常、ベクターに挿入された状態で、投与される。
【0051】
本発明におけるベクターとしては、プラスミドベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノアソシエートウイルスベクター、センダイウイルスベクター、センダイウイルスエンベロープベクター、パピローマウイルスベクター、などが例示できるが、これらに限定されるものではない。該ベクターには、遺伝子発現を効果的に誘導するプロモーターDNA配列や、遺伝子発現を制御する因子、DNAの安定性を維持するために必要な分子が含まれてもよい。ベクターやDNAを本発明のデバイス内に挿入した場合、デバイス近傍に存在するマクロファージ、皮膚線維芽細胞、脂肪細胞その他の細胞がデバイス内のベクターやDNAと接触して、HMGB1やS100A8などの目的タンパク質を生産、分泌するため、本発明のデバイス内にタンパクを挿入した場合と同様の効果が発生すると考えられる。
【0052】
ヒアルロン酸はNアセチルグルコサミンとグルクロン酸の二糖が結合・連結したグリコサミノグリカン(ムコ多糖)で、ヒアルノナンとも呼ばれる。化学名は[→3]-2acetamiod-2deoxy-β-D-glucopyranosyl-(1→4)β-D-glucopyranosyluronic acid-[1→]nで表記される。天然のヒアルロン酸の多くは分子量数十万以上の分子量を持つ高分子ヒアルロン酸であるが、一方人工的に2糖から14糖までの低分子ヒアルロン酸を作製することも可能である。例えば医療の分野では関節腔内に注入する用途でヒアルロン酸ナトリウムとして使用されている。製造方法としては、乳酸菌の一種であるStreptococcus zooepidemicusに生産させたヒアルロン酸を抽出し精製する方法、鶏のとさかなどから抽出し精製する方法などがある。ヒアルロン酸はエステル化、過ヨウ素酸酸化、イソウレアカップリング、硫酸化など様々な修飾を行うことが可能である。また、エーテル架橋、エステル架橋を行うことも可能である。このような修飾を行うことにより、分解に対して安定化したり、不溶性したり、スポンジ状に整形したり、物質を徐放化する性質を付加することが可能である。また、CD44はヒアルロン酸のレセプターであり、CD44を細胞表面に持つ間葉系幹細胞に対してヒアルロン酸は遊走活性を持つ。実験の結果、ヒアルロン酸単独と陰性コントロールとしての(生理的)リン酸緩衝液(Phosphate buffered sarine:PBS)とを比較すると、ヒアルロン酸は、PBSより明らかに有意に細胞を動員する効果を示した。
【0053】
本発明の扁平容器の中心中空部に挿入される細胞又は組織の抽出液は、細胞又は組織を溶媒に浸す工程を含む方法で製造することができる。
溶媒に浸される細胞又は組織としては、特に制限はないが、組織由来細胞、組織由来細胞から樹立された株化細胞(例えば、HeLa、HEK293が例示できるが、これらに制限されない)、単離された細胞、単離されていない細胞(例えば単離された組織中に存在する細胞)、HMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質をコードするDNAが導入された細胞などが例示できる。上記組織としては、どのような組織でもよく、例えば、生体皮膚組織、体内生検(手術)組織(脳、肺、心臓、肝臓、胃、小腸、大腸、膵臓、腎臓、膀胱、脾臓、子宮、精巣や血液など)が例示できるが、これらに制限されるものではない。
【0054】
上記溶媒としては生理食塩水、PBS(Phosphate-buffered saline)、TBS(Tris-buffered saline)が例示できるが、これらに制限されない。また、細胞や組織を溶媒に浸す時間としては、細胞壊死が誘導されるために必要・十分な時間、すなわち1時間から48時間(例えば6時間から48時間)、好ましくは12から24時間であるが、この時間に限定されるものではない。よって、「細胞を溶媒に浸す工程」は「壊死が誘導されるために必要・十分な時間、細胞を溶媒に浸す工程」や「細胞を壊死させる工程」と言い換えることができる。また、細胞や組織を溶媒に浸す温度として4℃から25℃(例えば4℃から8℃)、好ましくは4℃が例示できるが、これに制限されない。また、細胞や組織を溶媒に浸すpHとしてはpH7から8、好ましくはpH7.5が例示できるが、これに制限されない。また、緩衝液の成分として、10mM〜50mM、好ましくは10〜20mMの濃度のリン酸緩衝液(PBS)が挙げられるが、これに制限されない。
【0055】
また、本発明においては、上記の手順で細胞や組織を溶媒に浸した後に、細胞や組織を含む溶媒から該細胞や該組織を取り除くこともできる。溶媒から細胞や組織を取り除く方法は当業者に周知な方法であれば、特に制限されない。例えば、4℃〜25℃(例えば4℃)、また重力加速度10G〜100000G(例えば440G)で遠心し、上清を分取することにより、溶媒から細胞や組織を取り除くことができるが、これに制限されない。該上清を細胞や組織の抽出液として利用できる。
【0056】
本発明の扁平容器の中心中空部に挿入される細胞又は組織の抽出液としては、例えば、皮膚抽出液や末梢血単核球抽出液(末梢血抽出液)が挙げられるが、これらに制限されない。
末梢血抽出液の調整方法は、注射器などを用いて採血した後、冷凍庫や液体窒素、ドライアイスなどで細胞を凍結し、その後0℃以上の温度下で再融解する。さらに、細胞の不溶成分を取り除くために、例えば、4℃〜25℃(例えば4℃)、また重力加速度10G〜100000G(例えば440G)で遠心し、上清を分取することにより、溶媒から細胞の不溶成分を取り除くことができるが、これに制限されない。該上清を細胞や組織の抽出液として利用できる。細胞の不溶成分を除去するためには、遠心操作の代わりに、0.45μmの微少の孔をもつニトロセルロースフィルターなどを通過させることで、不溶成分を取り除くことができる。また、採血した末梢血を3時間から48時間4℃の状態に置くことで、細胞の壊死を誘発し、末梢血中の細胞から細胞内成分を分泌させることができる。この後重力加速度10G〜100000G(例えば440G)で遠心し、上清を分取することにより、溶媒から細胞の不溶成分を取り除くことができるが、これに制限されない。該上清を細胞や組織の抽出液として利用できる。細胞の不溶成分を除去するためには、遠心操作の代わりに、0.45μmの微少の孔をもつニトロセルロースフィルターなどを通過させることで、不溶成分を取り除くことができる。
【0057】
本発明の扁平容器の中心中空部に挿入される細胞又は組織の抽出液のヘパリン結合画分は、以下の工程を含む方法で製造することができる。
(a)細胞又は組織を溶媒に浸す工程、
(b)工程(a)で得られる抽出液を固定化ヘパリンに接触させる工程、及び
(c)固定化ヘパリンからヘパリン結合画分(ヘパリン精製画分、ヘパリンカラム精製画分とも表現しうる)を溶出する工程
固定化ヘパリンとは、ヘパリンを不溶性担体に共有結合させたものである。上記不溶性担体としては、Sepharose beads(Sepharose 4B,Sepharose 6B等:GE Healthcare)が例示されるが、これに制限されるものではない。本発明においては、市販の固定化ヘパリン(HitrapヘパリンHPカラム:GE Healthcare)を用いてもよい。
細胞や組織の抽出液と固定化ヘパリンの接触条件としては、pH7〜8程度(好ましくはpH7.5)、塩濃度は0〜200mM、好ましくは100〜200mM程度が例示されるが、これらに制限されない。抽出液と固定化ヘパリンとが接触している時間は特に限定されないが、ヘパリン結合画分を固定化ヘパリンに十分吸着させるという観点では5分以上保持されることが好ましい。また、温度としては、4〜8℃、好ましくは4℃が挙げられるが、これらに制限されない。さらに、固定化ヘパリンに吸着したヘパリン結合画分の溶出条件としては、pH7〜8程度、塩濃度200〜1000mM(好ましくは1000mM程度)が例示されるが、これらに制限されるものではない。
【0058】
本発明の扁平容器の中心中空部に挿入される上記(a)〜(r)に記載のいずれか2つ以上の物質の混合物としては、例えばヒアルロン酸とHMGB1タンパク質、ヒアルロン酸とHMGB2タンパク質、ヒアルロン酸とHMGB3タンパク質、ヒアルロン酸とS100A8タンパク質、ヒアルロン酸とS100A9タンパク質、ヒアルロン酸とHMGB1タンパク質とHMGB2タンパク質、ヒアルロン酸とHMGB2タンパク質とHMGB3タンパク質、ヒアルロン酸とHMGB1タンパク質とHMGB3タンパク質、ヒアルロン酸とHMGB1タンパク質とHMGB2タンパク質とHMGB3タンパク質、ヒアルロン酸とS100A8タンパク質とS100A9タンパク質、ヒアルロン酸とHMGB1タンパク質とS100A8タンパク質、ヒアルロン酸とHMGB2タンパク質とS100A8タンパク質、ヒアルロン酸とHMGB3タンパク質とS100A8タンパク質、ヒアルロン酸とHMGB1タンパク質とS100A9タンパク質、ヒアルロン酸とHMGB2タンパク質とS100A9タンパク質、ヒアルロン酸とHMGB3タンパク質とS100A9タンパク質、細胞又は組織の抽出液とヒアルロン酸、細胞又は組織の抽出液のヘパリン結合画分とヒアルロン酸などの組み合わせが挙げられ、好ましくは、細胞や組織の抽出液とヒアルロン酸の混合液であるが、これに限定されない。混合の割合は、溶媒に溶解した状態で、体積比として最も少ない成分を1とした場合、その10000倍まで他の成分を混合することができるが、好ましくは、もっとも少ない成分を1とした場合他の成分は、1から10倍量加えることができる。
【0059】
本発明の扁平容器の中心中空部に挿入される抽出液、ヘパリン結合画分、HMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質の起源となる動物種としては、ヒト又は非ヒト動物が挙げられ、例えば、ヒト、マウス、ラット、サル、ブタ、イヌ、ウサギ、ハムスター、モルモットなどが例示できるが、上記抽出液等が投与される動物種と同じ動物種であることが好ましい。
【0060】
上記(a)〜(r)の群から選ばれた少なくとも一種を含む物質又は組成物を本発明の扁平容器に挿入するには、例えば、溶媒として生理食塩水、PBS、TBS等に溶解した溶液を調製し、更にその溶液を生理食塩水と混合して注入できる。注入方法は、注射器やピペットを用いた手動、又はデバイス製造時の機械的注入等公知の方法が採用できる。上記生理食塩水の代わりに、ポリエチレングリコール(PEG)の重合体又は共重合体、シクロデキストリン、ゼラチン、アルブミン、キトサン及びカルボキシルメチルセルロースナトリウムの群から選ばれた少なくとも一種を媒体としてもよい。
【0061】
上記生理食塩水等と混合される物質又は組成物の溶液の濃度は、適宜選択でき、生理食塩水等との混合物の濃度も適宜選択できる。
また、本発明の扁平容器への挿入量は、容器の中心中空部の容積に応じて適宜決定できる。たとえばマウスでは、腹部皮下脂肪内に留置する際には10ml程度の挿入が可能であり、その他の皮下に留置する際には数ml以下でもよい。容器中へ挿入される上記物質又は組成物の総量も適宜選択できる。
【0062】
上記挿入に際しては、抽出液、ヘパリン結合画分、HMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質を、常法に従って製剤化することができ(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)、医薬的に許容される担体や添加物を共に含んでもよい。例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体が適宜使用できる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。
理論により本発明を限定するものではないが、本発明で使用された上記(a)〜(r)の物質は容器内から血中に放出され、骨髄内の骨髄幹細胞を血中に動員して、血液末端から回収される骨髄幹細胞数を増大させる効果を奏すると考えられる。
【0063】
本発明の生体内埋め込み式物質採取デバイスへの骨髄幹細胞への回収に際し、本発明の抽出液、ヘパリン結合画分、HMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質又はいずれか2つ以上の物質の混合物を血管又は筋肉に投与してもよい。上記混合物投与のタイミングは、デバイス埋め込み前でも、埋め込み直後でも、デバイス取り出し前であればいつでもよい。その投与方法は、血管内又は筋肉への非経口投与であり、具体的には、注射投与が挙げられる。例えば、血管内注射(動脈内注射、静脈内注射等)、筋肉内注射、皮下注射などによって本発明の薬剤を血管、筋肉、又は皮下(例えば皮下に埋め込んだ容器の中や、容器の近傍)に投与できる。また、経皮吸収可能な貼付剤や外用剤によって除放的に吸収させることも可能である。
【0064】
また、投与対象の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。HMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質を投与する場合、例えば、一回の投与につき、体重1kgあたり0.0000001mgから1000mgの範囲で投与量が選択できる。あるいは、例えば、対象あたり0.00001から100000mg/bodyの範囲で投与量が選択できる。HMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質を分泌する細胞やHMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質をコードするDNAが挿入された遺伝子治療用ベクターを投与する場合も、HMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質の量が上記範囲内となるように投与することができる。しかしながら、本発明における抽出液、ヘパリン結合画分、HMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8又はS100A9タンパク質の投与量はこれらの投与量に制限されるものではない。
【0065】
投与に際しては、上記本発明のデバイス挿入用組成物と同様に、常法に従って製剤化することができ、医薬的に許容される担体や添加物を共に含んでもよい。
【0066】
本発明の生体内埋め込み式物質採取デバイスから細胞集団を回収する工程としては、皮下に埋め込んだ状態の容器から細胞集団を回収する工程、又は、皮下から容器を取り出し、取り出された容器から細胞集団を回収する工程のどちらであってもよい。例えば、本発明の実施例では、皮下に埋め込んだ扁平容器を皮膚切開により回収し、容器内から細胞をピペットにより吸引・回収したが、その他の方法を用いてもよい。
【0067】
皮下に埋め込んだ状態の容器から細胞集団を回収する方法としては、皮下に埋め込む容器の開口部にチューブを挿入した状態で固定し、細胞回収時にチューブに注射器を固定させて、陰圧により細胞を吸引・回収できる。その後にHMGB1溶液など、細胞誘導液を生体内に留置したチューブ内に再注入することにより、くりかえし皮下に埋め込んだ容器内の細胞を回収できる。その場合、侵襲性を最小限に抑えながら回収量を増加できる。
【0068】
本発明において、回収した細胞集団から骨髄幹細胞を単離する工程は、例えば、回収した細胞集団から培養皿に付着する付着性細胞を単離することによって行われる。
その他の単離方法としては、例えば、体外に取り出した容器内からピペット操作により回収した細胞を、細胞表面マーカーCD44、PDGFRα、PDGFRβの少なくとも一つと反応させ、異なる蛍光種で標識された抗体と反応させた後、セルソーターを用い、それぞれの蛍光の有無を指標に特定の細胞表面マーカーを持った細胞集団を分取することができる。
【0069】
また、その他の単離方法としては、例えば、蛍光の代わりに金属粒子を固定させた抗体を用いて同様にそれぞれの細胞表面マーカーと反応させ、この金属付着抗体と結合した細胞を磁力によりチューブ内で片方の壁に吸着・固定して、抗体と非反応性の細胞は十分に溶出させたのち、磁力を取り除くことによってチューブ内に吸着した目的細胞を回収する方法(MACS)もある。
【0070】
本発明は、上記細胞集団を回収する方法によって回収される細胞集団を提供する。
また、本発明のデバイスで回収できる細胞集団又は骨髄幹細胞は、遺伝性疾患、皮膚疾患(熱傷、皮膚潰瘍等)、脳神経疾患(脳梗塞、アルツハイマー病、脊髄損傷、脳損傷等)、循環器疾患(心筋梗塞、心筋症、動脈塞栓症等)、骨軟骨疾患(骨折、リウマチ等)などの組織損傷を伴う疾患に対して投与して、治療することができる。採取した細胞を直接静脈内、動脈内などの循環血流内に投与し、若しくは損傷組織部位に直接投与することにより組織を再生することができる。又は、培養皿、培養フラスコを用いて培養操作を加えた後に、細胞を拡散した状態、シート状に整形した状態、細胞塊を形成した状態で投与することにより組織を再生することができる。治療のための投与量は、細胞1個から1014個投与することができるが、好ましくは102個から1010個を投与することができる。したがって、本発明はまた、上記細胞集団を回収する方法によって回収される細胞集団又は上記骨髄幹細胞を収集する方法によって回収される骨髄幹細胞を含有する、組織再生剤を提供する。
【0071】
再生される組織としては、特に制限はなく、損傷している組織である限り、どのような組織でもよく、例えば、生体皮膚組織、体内生検(手術)組織(脳、肺、心臓、肝臓、胃、小腸、大腸、膵臓、腎臓、膀胱、脾臓、子宮、精巣や血液など)が例示できる。特に、本発明の再生剤は、体外から直接薬剤を投与することが困難な組織(脳、心臓など)を再生するために、有効に利用される。本発明において、損傷組織としては、虚血、疎血・低酸素状態をきたす種々の病態、外傷、熱傷、炎症、自己免疫、遺伝子異常などによって損傷した組織が挙げられるが、これら原因に限定されるものではない。また、損傷組織には、壊死組織も含まれる。
【0072】
本発明で再生される組織としては、骨髄由来細胞が分化可能な組織である限り、特に制限はないが、例えば皮膚組織、骨組織、軟骨組織、筋組織、脂肪組織、心筋組織、神経系組織、肺組織、消化管組織、肝・胆・膵組織、泌尿・生殖器など、生体内のすべての組織が例示できる。また、上記組織再生剤を用いることで、難治性皮膚潰瘍、皮膚創傷、水疱症、脱毛症などの皮膚疾患はもとより、脳梗塞、心筋梗塞、骨折、肺梗塞、胃潰瘍、腸炎、などの組織損傷に対する治療が可能となる。上記組織再生剤が投与される動物種としては、ヒト又は非ヒト動物が挙げられ、例えば、ヒト、マウス、ラット、サル、ブタ、イヌ、ウサギ、ハムスター、モルモットなどが例示できるが、これらに限定されるものではない。また、本発明の再生剤は、糖尿病患者に対して投与することができる。糖尿病における皮膚の合併症である難治性皮膚潰瘍は、正常人の皮膚潰瘍に比べて治癒が困難であることが知られているが、本発明の再生剤はこのような糖尿病患者にも有効に利用される。
【0073】
本発明の組織再生剤は、採取後、生理的食塩水中に分散させた細胞を静脈内、動脈内などの循環血流内に投与することにより組織を再生することができる。もしくは損傷組織部位の表面に塗る、貼るなどして投与することにより組織を再生することができる。さらに損傷部位の内部に注射器などを用いて、注入することにより組織を再生することもできる。また、培養皿、培養フラスコを用いて培養操作を加えた後に、細胞を拡散した状態、シート状に整形した状態、細胞塊を形成した状態で損傷部位に投与することにより組織を再生することができる。投与量は、細胞1個から1014個投与することができるが、好ましくは102個から1010個を投与することができる。
なお本明細書において引用されたすべての先行技術文献の全体は、参照資料として本明細書に組み入れられる。また、国際出願PCT/JP2009/058525の出願書類の全体を参照資料として本明細書に組み入れる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕
目的:生体内組織に極めて少数存在する幹細胞などの機能的細胞を、低侵襲かつ高効率に回収する。
方法:上記の目的に対して以下の方法により研究を行った。
1)8週齢マウス(オス)に放射線(10Gy)照射した後、green fluorescent protein(GFP)トランスジェニックマウス由来骨髄幹細胞(5x106個/0.1ml PBS pH7.4)を尾静脈から移植してGFP骨髄移植マウスを作成した。
【0075】
2)東レ社製、商品名ダウコーニングエコノミータイプ硬さ30(シリコーン樹脂)を使用して製造された図3及び図4に示すサイズ及び形状の部品を組み合わせた扁平容器(片側開口部無し、中心中空部容積580μl)を4個用意した。比較例として、通常使用されることの多い外径0.3mm長さ10mmの円筒形状で、中孔内径0.15mm孔深さ0.85mmの中空部を有するチューブ型容器を用意した。実施例として扁平容器に(1)HEK293に発現ベクターを遺伝子導入し、培養上清中に分泌させた精製HMGB1100μgを含むPBS580μl、(2)MP Biomedicals社製、商品名Hyaluronic Acid(ヒアルロン酸)580μl(最終濃度1mg/ml)、(3)皮膚抽出液580μl、及び(4)PBS(pH7.4)580μlをそれぞれ充填した。比較例容器にも上記(1)精製HMGB1100μgを含むPBS580μlを充填した。
これらをGFP骨髄移植マウスの左右の背部皮下に、筋膜側に本発明のデバイスの開口部が接するように、比較例は円筒形が筋膜と平衡になるように左右一個ずつ(計2個/匹)移植した。なおマウス一匹の皮下に挿入可能な最大個数は、比較例容器も、本発明の扁平容器もそれぞれ4個である。
【0076】
上記(3)皮膚抽出液は、2日齢 C57/Bl6マウス1匹分の皮膚をPBS(nacalai社製)1mlに浸し24時間、4℃でインキュベートした。皮膚を溶液から取り除いた後、4℃、重力加速度440Gで遠心し、上清を分取することにより、溶媒から細胞や組織を取り除き、該上清を細胞や組織の抽出液として利用した。
【0077】
3)2週間後に容器を取り出した。図6Aに体内挿入時の本発明のデバイス及び従来例のデバイスの形状を、図6Bに細胞採取時のデバイスの形状を示す。本発明の分割型デバイスは細胞採取が容易であることが理解できる。容器内に集積した細胞(tube-entrapping cells;TECs)を、ピペットを使用して陰圧で吸引して回収した。回収後、10%牛胎仔血清含有ダルベッコ培地(D-MEM)にて37℃、炭酸ガス濃度5%の条件下で培養した。
【0078】
4)TECsの培養密度が培養皿底面積の約80%となった段階で、培地を骨分化誘導培地、脂肪分化誘導培地、表皮分化誘導培地のそれぞれに交換し、さらに培養を継続した。それぞれの分化誘導培地で培養開始2週間後に、骨分化はアリザリンレッド染色、脂肪分化はオイルレッド染色、表皮分化はケラチン5に対する免疫染色により評価した。
【0079】
5)TECsにおけるplatelet-derived growth factorα(PDGFRα陽性、CD44陽性細胞の割合を、フローサイトメトリーにより解析した。
【0080】
結果:HMGB1、ヒアルロン酸、皮膚抽出液を充填したシリコーン容器をGFP骨髄移植マウス皮下に移植した結果、いずれの溶液を充填した場合にも、1週間でGFP陽性の骨髄由来細胞(TECs)が多数容器内に集積した。
詳細には、本発明の実施例ではGFP陽性細胞が4968個、GFP陽性かつPDGFRα細胞が960個であるのに対し、チューブ型比較例ではGFP陽性細胞が595個、GFP陽性かつPDGFRα細胞が77個であり、顕著な差が見られた(評価手順は下記に示す)。なお、PDGFRαは骨髄幹細胞の一種である骨髄多能性幹細胞のマーカーの一種である。図7にHMGB-1及びヒアルロン酸を充填した本発明の容器内に集積したGFP陽性細胞像を示す。一方ヒアルロン酸のみを充填した本発明の容器では、回収された付着性TECsの数はHMGB-1及びヒアルロン酸よりは少なかったがブランクよりは有意に多かった(図8)。本発明のHMGB1及びヒアルロン酸充填シリコーン容器から回収した細胞を培養した結果、培養開始後24時間で培養皿に付着して増殖する付着性TECsが観察された(図9)。これらHMGB1及びヒアルロン酸充填シリコーン容器内に遊走した付着性TECsを骨分化、脂肪分化、及び表皮分化誘導培地で培養した結果、それぞれアリザリンレッド陽性骨芽細胞、オイルレッド陽性脂肪細胞、ケラチン5陽性表皮細胞への分化能を示し、付着性TECsに間葉系及び上皮系の分化能を持つ細胞集団が存在することが明らかとなった(図10〜12)。また、フローサイトメトリーにて、間葉系幹細胞表面で発現していることが知られているPDGFRα及びCD44のTECsにおける発現を検討した結果、TECsの約60%がPDGFRα及びCD44陽性であることが示された(図13)。
【0081】
また、ヒアルロン酸を100ng/ml(PBS)で充填した本発明の容器をGFP骨髄移植マウス背部皮下に移植し、2週間後に取り出して容器内に動員された細胞の表面マーカーをFACSにて解析した結果、HMGB1容器から得られたTECsと同様に、約60%がCD44陽性、PDGFRα陽性のP44細胞で、骨芽細胞や脂肪細胞などの間葉系細胞や上皮系細胞への分化能を示した。
【0082】
考察:今回本発明者らは、HMGB1、ヒアルロン酸、皮膚抽出液をそれぞれ充填した本発明のデバイスを皮下に移植することにより、極めて効率よく骨分化能、脂肪分化能、表皮分化能を持つ骨髄由来TECsを回収できることを見出した。これは比較例ではチューブ型容器の開口部が上皮と真皮の結合部分に向いているため血液末端へアクセスしにくい一方、本発明の扁平容器は開口部が筋膜と接するように移植されるていたため血液末端に直接接することが可能であり、末梢血管からの細胞の回収が促進されると考えられる。更に、比較例では被験体の移植部分の角張った末端角度がほとんど直角なので、移植部分が体外の異物と接触した場合に皮膚表面及び体内組織に刺激を受けやすく、装着性に劣るものであるが、本発明の容器は特に移植部分の端がなだらかな曲線であるため被験体の負担が少ない。更に本発明のデバイスからの細胞の回収は、複数の部品を組み合わせて作成されるデバイスの一部の部品をはずして内部から容易に回収できる。
回収された骨髄由来TECsの多くが間葉系幹細胞表面で発現することが知られているPDGFRα及びCD44を発現していること、HMGB1、ヒアルロン酸、皮膚抽出液がいずれも間葉系幹細胞動員活性を持つことと併せ考えると、TECsに骨髄由来間葉系幹細胞が選択的に動員されていると思われる。シリコーン容器に充填する溶液を選択することにより、その溶液内に含まれる特定機能細胞動員活性物質に応じて選択的かつ高効率に、特定の生体内機能細胞を回収することが可能になる。この新しい発明技術を用いることにより、骨髄に針を刺入するなどの高侵襲性の方法を回避して、必要に応じた生体内機能細胞を回収し、目的に応じたオーダーメード再生医療をデザインすることが可能になる。また、回収した細胞は、幹細胞研究をはじめとする多くの基礎研究の材料として提供可能であり、基礎的、臨床的研究の進展、創薬、医療技術の進歩に大きく寄与する。
【0083】
〔実施例2〕
目的:本発明のデバイスに動員された骨髄由来細胞の皮膚潰瘍治療効果の評価
1)実施例1と同じ本発明の体内埋め込み型デバイスを作製した。
【0084】
2)骨髄多能性幹細胞動員因子を含有する皮膚組織抽出液を調製するために、C57/BL6新生マウス(2日齢)2匹から得た遊離皮膚片をPBS(pH7.4)2ml内に浸し、4℃で24時間インキュベーションした後、組織を取り除くために、4℃で10分間、440Gで遠心し上清を回収して皮膚抽出液を作製した。
また、4週齢C57/BL6マウス2匹から末梢血全血を採取した後PBSを用いて全量を4mLに希釈した。遠心管にFicoll-Paque Plus(GE)液を3mL挿入後、その上に希釈血液を重層した。100G(18℃)で10分間遠心し、単核球を含む中間層を新しい遠心管に回収した。回収した中間層からFicoll-Paque Plus液をのぞくため、45 mLのPBSを加え440G(18℃)5分で遠心し上清を除去し、さらにもう一度45mLのPBSを加え440G(18℃)5分で遠心し上清を除去した。沈殿した細胞に200μlのPBSを加え懸濁した。細胞懸濁液は-80℃の冷凍庫内において30分間凍結し、冷凍庫から氷上で融解した。この凍結融解の操作を3回繰り返した。さらに440G(4℃)15分で遠心して上清を回収して末梢血単核球抽出液を得た。
【0085】
3)C57/BL6雄マウス(6〜8週齢)に致死量放射線(10Gy)を照射し、その直後に尾静脈からGFPトランスジェニックマウス由来骨髄幹細胞(5x106個/0.1ml PBS(pH7.4))を移植した。移植後8週間後まで生存しているマウスのみ以後の実験に使用した。
【0086】
4)3個の本発明のデバイスに、2)で作製した(1)皮膚抽出液、(2)末梢血抽出液、(3)陰性コントロールのためのPBS40μlを挿入した。このデバイスを3)で作製したマウスの左右の背部皮下の筋膜側にデバイスの開口部が接するように左右一個ずつ(計2個/匹)挿入した。2週間後、デバイスをマウスから取り出した。
【0087】
5)C.B-17/lcr-scid/scidJcl8週齢(日本チャールズリバー社より入手)の背部の毛を除去後、背部左右に直径6mmの円形の皮膚潰瘍を作製した。マウスの皮膚が収縮することを防ぐため、シリコーン製の外径10mm内径6mm厚さ1mmの円盤を両面粘着テープ及び医療用接着剤商品名「アロンアルファA」(三共社製)を用いて潰瘍部に接着した。3)で取り出した左右のデバイスの片側のデバイス内部から細胞を採取し、皮膚潰瘍に投与した。潰瘍部分の乾燥と細菌感染を防ぐため直径10mm厚さ1mmのシリコーン製の円盤で潰瘍部を覆った。潰瘍部を保護するため、商品名「テガダーム」(3M社製)で被覆した。7日後に潰瘍の面積を測定した。(図31)
【0088】
その結果、陰性コントロールの潰瘍面が7日経過しても閉鎖しなかったのに対し、血液抽出液で採取した細胞を投与した潰瘍では5日目に潰瘍面積の減少が観察された。また、皮膚抽出液で採取した細胞を投与した潰瘍では7日目に潰瘍面積の閉鎖が観察された(図31)。
【0089】
本実施例によって、組織抽出液を含む体内埋め込み型デバイス内に動員された、骨髄由来の細胞を皮膚潰瘍部分に投与することによる、潰瘍治療効果が確認された。骨髄幹細胞を骨髄から採取するのではなく、体内デバイスに動員しその細胞を利用して治療に応用する例はこれまでにない新規の治療法である。
【0090】
〔実施例3〕
1)上記実施例2に記載の方法で、皮膚抽出液及び末梢血抽出液を作製した。
HiTrapヘパリンHP1mLカラム(GE)を10mM PBS(pH.7.5)10mLで平衡化した。皮膚抽出液、末梢血抽出液をそれぞれ10倍容の10mM PBS(pH7.5)で希釈し、平衡化したカラムに結合させた。10mM PBS(pH7.5)を10mL用いてカラム内を洗浄し、非特異的吸着した成分を洗い流した。吸着した成分は1000mMの NaCl 含有10mM PBS(pH7.5)を用いて溶出し、120μlずつプラスチック容器に分注した。Protein assay kit(Bio-Rad社製)を用いてタンパク量を定量し最も濃度の高い3フラクションを回収した(組織抽出液ヘパリン吸着)。
【0091】
2)0.1%ヒアルロン酸含有PBSを作製し、このヒアルロン酸溶液10μlと組織抽出液40μlを混合して実施例1の本発明のデバイス内に挿入した。陰性コントロールは1000mMのNaCl含有10mM PBS(pH7.5)5とヒアルロン酸との混合液を使用した。
【0092】
3)実施例2と同様にGFP骨髄移植マウスを作製し、同マウスの背部皮下に2)で調製したデバイスを挿入した。挿入10日後、皮下からデバイスを取り出し、細胞を回収した。回収した細胞は、10%Fetal bovine serum含有IMDM(Invitrogen)中で培養皿を用いて、37℃、5%CO2環境下で培養した。培養開始1日後に培地を交換し非付着性細胞を除去した。その後は3日おきに培地を交換した。細胞回収1週間後に蛍光顕微鏡を用いて観察し、骨髄由来細胞(GFP陽性細胞)を検出した(図32)。また。GFP陽性細胞数を画像処理ソフト(Image J)を用いて計測した(図33)。
【0093】
ヒアルロン酸と組織抽出液のヘパリン結合画分混合液(血液抽出液(図32C)、皮膚抽出液(図28D))では、ヒアルロン酸単独(図32B)やPBS(図32A)に比べ、デバイス内への骨髄由来付着系細胞に対して強い動員活性があることが観察された(図32、35)。
【0094】
本実施例により、組織抽出液の骨髄幹細胞動員因子がヘパリンカラムで精製できることが確認された。皮膚抽出液中には、HMGB1、HMGB2、HMGB3、S100A8、S100A9が含有されており、これらの成分はヘパリンカラムに結合することから、骨髄幹細胞の動員はこれらの細胞が関与している可能性が示唆される。また、ヘパリンカラムには多くの成長因子などのサイトカインも結合するため、これらの複数の因子による総合的な効果によるものとも考えられる。
【0095】
〔実施例4〕
1)新生マウス皮膚から商品名Trizol(invitrogen社製)を用いてRNAを抽出し、更に商品名SuperScript III cDNA synthesis kit(Invitrogen社製)を用いてcDNAを合成した。このcDNAをテンプレートとしてS100A8のcDNAをPCR法を用いて増幅し、精製のためにアミノ酸配列のN末端にFlag tag及び6XHis tagの配列を付加したタンパク質を発現するように、哺乳類細胞でタンパク質を発現させるプラスミドベクターpCAGGSに挿入した。ヒト胎児腎細胞由来HEK293培養細胞株にポリエチレンイミン(PEI)を用いてpCAGGS-Flag-His-S100A8をトランスフェクションし、48時間後細胞及び培養上清を回収した。細胞及び培養上清は4℃で4400G・5分間遠心し上清と細胞を分離しそれぞれ回収した。回収した上清はさらに直径0.8μm孔をもつセルロースアセテートフィルター(Nalgene)を通過させた後、0.45μmの孔を持つニトロセルロースフィルター(Corning)を通過させ不溶画分を除去したサンプルを調製した。本サンプルを、50mMNaCl含50mM Tris HCl(pH8.0)50mLで平衡化した5mL HisTrap FF(GE)に挿入し、吸着成分をさらに、10mMイミダゾール含有50mMNaCl 50mM Tris HCl(pH8.0)で洗浄して非特異的吸着成分を除去した。特異的吸着成分をカラムから100mMイミダゾール含有50mM NaCl 50mM Tris HCl(pH8.0)溶出した。吸着画分はそれぞれ、500μlずつシリコーンコートしたプラスチック容器に分画し、タンパク質含有フラクションをまとめて抗Flag抗体M2ビーズ(Sigma)と混合し、4℃、12時間緩やかに混合しながら反応させた。反応後、ビーズを440Gで5分間遠心し、上清を除去後、PBSでビーズを懸濁し、さらに同様に遠心して上清を除去した。ビーズを容量3mL内径1cmのカラムに挿入し、100mMのGlycine-pH3.5でビーズから吸着タンパク質を溶出させ、10分の1量の500mM Tris HCl(pH 7.5)を用いて中和した。精製したタンパク質量はProtein assay kit(Bio-Rad社製)を用いて定量した。
【0096】
2)新生マウス皮膚からTrizol(invitrogen)を用いてRNAを抽出し更にSuperScript III cDNA synthesis kit(Invitrogen)を用いてcDNAを合成した。このcDNAをテンプレートとしてHMGB1のcDNAをPCR法を用いて増幅し、精製のためにアミノ酸配列のN末端にFlag tag及び6XHis tagの配列を付加したタンパク質を発現するように、哺乳類細胞でタンパク質を発現させるプラスミドベクターpCAGGSに挿入した。ヒト胎児腎細胞由来HEK293培養細胞株にポリエチレンイミン(PEI)を用いてpCAGGS-GST-His-HMGB1をトランスフェクションし、48時間後細胞及び培養上清を回収した。細胞及び培養上清は4℃で4400g・5分間遠心し上清と細胞を分離しそれぞれ回収した。回収した上清はさらに直径0.8μm孔をもつセルロースアセテートフィルターを通過させた後、0.45μmの孔を持つニトロセルロースフィルターを通過させ不溶画分を除去したサンプルを調整した。本サンプルを、50mM NaCl含50mM Tris HCl(pH8.0)50mLで平衡化した5 mL HisTrap FF(GE)に挿入し、吸着成分をさらに、10mMイミダゾール含有50mM NaCl 50mM Tris HCl(pH8.0)で洗浄して非特異的吸着成分を除去した。特異的吸着成分をカラムから100mMイミダゾール含有50mMNaCl 50mM Tris HCl(pH8.0)溶出した。吸着画分はそれぞれ、500μlずつシリコーンコートしたプラスチック容器に分画し、タンパク質含有フラクションをまとめた後、脱塩カラムPD10(GE)を用いてイミダゾールを除去し、50mM Tris HCl(pH7.5),150mM NaClを用いて溶出した。溶出したサンプルにHRV3C(Novagen社製)を添加し、4℃、3時間反応させた。切断後サンプルを50mM Tris HCl8(pH.7.5,150mM NaClで平衡化したHiTrapヘパリン1mLカラム(GE)に結合させ、50mM Tris HCl(pH.7.5),150mM NaClでカラム内部を洗浄後、50mM Tris HCl(pH.7.5),1000mM NaClで結合タンパク質を溶出した。溶出したサンプルはシリコーンコートしたプラスチック容器に500μlずつ分注した。
【0097】
3)S100A8、HMGB1、HMGB2、HMGB3をそれぞれ40μgずつ実施例1で使用した本発明のデバイスに挿入し、GFP骨髄移植マウスの左右背部皮下に孔が筋膜と接するように挿入した。挿入10日後、皮下からデバイスを取り出しデバイス内に集積した細胞を回収した。細胞は、10%Fetal bovine serum含有IMDM(Invitrogen)中で培養皿を用いて、37℃、5%CO2環境下で培養した。培養開始1日後に培地を交換し非付着性細胞を除去した。その後は3日おきに培地を交換した。細胞回収1週間後に蛍光顕微鏡を用いて観察し、骨髄由来細胞(GFP陽性細胞)を検出した(図34)。
【0098】
4)BALB/cAJcl-nu/nu 8週齢(日本クレア社より入手)の背部左右に直径6mmの円形の皮膚潰瘍を作製した。マウスの皮膚が収縮することを防ぐため、シリコーン製の外径10mm内径6mm厚さ1mmの円盤を両面粘着テープ及び医療用接着剤アロンアルファA(三共)を用いて潰瘍部に接着した。
【0099】
5)3)の細胞を0.5g/l-Trypsin/0.53mmol/l-EDTA液(ナカライ社製)を用いて処理し、培養皿から遊離させ、10%FBS含IMDMでトリプシンを不活化後、440G、4℃、5分間遠心し上清を除去後、4)で作製した潰瘍に投与した。局所の乾燥と細菌感染を防ぐため直径10mm厚さ1mmのシリコーン製の円盤で潰瘍部を覆った。さらに潰瘍部を保護するため、テガダーム(3M)で被覆した。7日後に潰瘍の大きさを測定した(図35)。
【0100】
陰性コントロール(E)に比較し、S100A8、HMGB1、HMGB2、HMGB3のいずれにおいても骨髄幹細胞の動員活性が認められた(図34-A;S100A8、B;HMGB1、C;HMGB2、D;HMGB3)。特に、HMGB1、HMGB2に強い動員活性が観察された。
また、HMGB1、HMGB2、S100A8によって動員された骨髄由来細胞を投与することで、皮膚潰瘍を治療した結果陰性コントロール(PBS投与)に比較し潰瘍の縮小効果が観察された(図35)。
【0101】
本実施例においては、S100A8、HMGB1、HMGB2、HMGB3いずれにおいてもデバイス内への骨髄由来付着性細胞の動員活性が認められた。骨髄内の主な細胞は赤血球、血球などの血球系細胞であるが、これらの細胞のほとんどは非付着性の細胞である。付着性の細胞としては間葉系幹細胞などの間葉系細胞が知られており、また上皮系や神経系に分化可能な多能性の細胞が含まれていると考えられている。本実施例によってS100A8、HMGB1、HMGB2によってデバイス内に動員した細胞によって皮膚潰瘍の治療効果が認められたことから、デバイス内に動員された細胞は、組織損傷を治療誘導可能な骨髄由来細胞である。骨髄間葉系幹細胞を皮膚潰瘍部位に投与することで治療効果を示すという報告もあり(Mesenchymal stem cells enhance wound healing through differentiation and angiogenesis. Wu Y, Chen L, Scott PG, Tredget EE.Stem Cells. 2007 Oct;25(10):2648-59. Epub 2007 Jul 5.)、本実施例における治療効果には骨髄間葉系幹細胞の関与が示唆される。また、骨髄間葉系幹細胞などの骨髄由来細胞は、神経細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、上皮系細胞に分化することが知られている。本デバイスで採取した細胞によって、損傷組織においてこれらの細胞を供給し治療する新しい再生誘導医療に応用することが可能である。
【0102】
〔参考例1〕
目的:皮膚抽出液中HMGB1ファミリーの同定と骨髄間葉系幹細胞誘導活性の検討
方法:新生マウス皮膚抽出液中に含まれるHMGB蛋白ファミリーの有無をWestern blot法を用いて確認した。
サンプルとして、新生マウス400匹から得た遊離皮膚片をPBS(pH7.4)400ml内に浸し、4℃で24時間インキュベーションした後、組織を取り除くために、4℃の条件下で10分間、440Gで遠心し上清を回収して得られた皮膚抽出液を10μlをSDS-PAGE法を用いて電気泳動し、ゲル中で分離した蛋白をブロッティング装置(ATTO)を用いPVDF膜にトランスファーした。3%スキムミルク0.1%Tween20 含PBS(S-T-PBS)にて、室温で1時間インキュベートした後、S-T-PBSで1000倍に希釈したラビット抗マウスHMGB1抗体、ラビット抗マウスHMGB2抗体、ラビット抗マウスHMGB3抗体をそれぞれ4℃で16時間反応させた。反応後、同PVDF膜をS-T-PBSにて5分間5回洗浄後、S-T-PBSで2000倍希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ラビットIgG抗体(GE Healthcare社製)にて同PVDF膜を25℃で1時間インキュベートした。さらにS-T-PBSにて5分間5回洗浄後ECL Western Blotting Detection System(GE Healthcare)を同PVDF膜と反応させ、ECL filmを感光させた後現像してHMGB1、HMGB2、HMGB3タンパク質の存在を検出した。
【0103】
新生マウス皮膚からTrizol(invitrogen)を用いてRNAを抽出し更にSuperScript III cDNA synthesis kit(Invitrogen)を用いてcDNAを合成した。このcDNAをテンプレートとしてHMGB1、HMGB2、及びHMGB3のcDNAをPCR法を用いて増幅し、アミノ酸配列のN末端にFlag tagの配列(Asp-Tyr-Lys-Asp-Asp-Asp-Lys;配列番号:30)を付加したタンパク質を発現するように、哺乳類細胞でタンパク質を発現させるプラスミドベクターpCAGGSに挿入した。これらのプラスミドベクターをHEK293(ヒト胎児腎細胞由来培養細胞株)に遺伝子導入し48時間培養しタンパク質を発現させた。HMGB1、HMGB2、及びHMGB3タンパク質をそれぞれ発現させた細胞及び培養上清は4℃で16時間インキュベートした後、4400g・5分間遠心し上清を回収した。この上清50mLあたり100μlのAnti Flag 抗体Gel(Sigma社製)を混合し4℃で16時間インキュベートした。遠心しGelを回収した後PBSを用いて、5回洗浄した。更に3X Flag peptide(final 100μg/ml)を用いて溶出した。リコンビナントタンパク質の発現をS-T-PBSで1000倍希釈したマウス抗Flag抗体、及びS-T-PBSで2000倍希釈したペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体(GE Healthcare)を用いたWestern blot法にて確認した。これらの精製リコンビナントタンパク質のマウス骨髄間葉系幹細胞の遊走活性をボイデン・チャンバーを用いて評価した。また、HMGBファミリーのin vivoでの薬効を観察するために、8週齢C57BL/6マウスの背部皮膚を直径8μmの円形に切除し皮膚潰瘍モデルを作製し、そこに精製したHMGB1・HMGB2・HMGB3それぞれ100ng/μl濃度の溶液を、1g/100mLPBSの濃度のヒアルロン酸溶液と等量ずつ混合しそのうち100μlを潰瘍面に投与した。潰瘍面は乾燥しないように、粘着性透明創傷被覆・保護材Tegaderm(スリーエムヘルスケア社製)で覆い、経時的に創傷面積を計測し治癒効果を測定した。
【0104】
さらにヒト骨髄間葉系幹細胞をヒト皮膚抽出液及びヒト精製HMGB1が遊走する活性があるかを調べるために、ボイデン・チャンバーを用いて評価した。面積1cm2のヒト皮膚を1mlのPBSに浸し、4℃の条件下で16時間インキュベーションした後、4℃の条件下で10分間440Gで遠心した。上清のみを回収し、ヒト皮膚抽出液として使用した。また、ボイデン・チャンバーの上部に入れる細胞はヒト骨髄間葉系幹細胞(Cambrex社)を用いた。(本細胞はフローサイトメトリーによる細胞表面抗原の分析の結果、CD105陽性、CD166陽性、CD29陽性、CD44陽性、CD34陰性、CD45陰性とされている。さらに分化誘導試験によって脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞への分化が陽性である。)また、チャンバー下部には、ヒトHMGB1を100ng/well(R&D社)及びPBSにて10倍希釈したヒト皮膚抽出液を入れ、コントロールとしてPBSを用いた。
【0105】
結果:Western blotの結果、HMGB1のバンドの他にHMGB2やHMGB3のバンドが検出された。よって新生マウス皮膚抽出液の中には、HMGB1の他にファミリータンパク質であるHMGB2及びHMGB3が含有されていることが確認された(図14)。それぞれのタンパク質のN末端にFlag tagを付加したHMGB1・HMGB2・HMGB3の発現ベクターを作製した(図15)。HEK293細胞に発現ベクターを遺伝子導入し、発現したタンパク質をFlag tagを用いて精製した後、Western blot法を用いてタンパク質を確認した(図16)。これらの精製タンパク質を用いたマウス骨髄間葉系幹細胞の遊走活性を測定したところ、いずれのタンパク質においても活性が確認された(図17)。マウスの背部に作製した潰瘍面積を7日毎に計測したところ、非治療群に比べHMGB1,2及び3による治療群の方が有意に潰瘍面積の縮小効果を確認できた(図18)。マウスの場合と同様に、ヒトHMGB1及びヒト皮膚抽出液はヒト骨髄間葉系幹細胞を遊走する活性があることが明らかとなった(図19)。
【0106】
考察:HMGB1と相同性が高いタンパク質としてHMGB2及びHMGB3が知られている。これらのタンパク質もHMGB1と同様の性質を有することが期待される。そこで、遊離皮膚片抽出液からHMGB1のファミリーであるHMGB2及びHMGB3も産生されることを確認した。さらにHMGB1・HMGB2・HMGB3のリコンビナントタンパク質を作製し、in vitroでの骨髄間葉系幹細胞遊走活性を確認し、in vivoにおける皮膚潰瘍治療効果も確認した。新生マウス遊離皮膚片中のHMGBファミリー(HMGB1・HMGB2・HMGB3)及びリコンビナントHMGBファミリーには骨髄間葉系幹細胞誘導活性や骨髄由来の上皮系に分化可能な幹細胞を局所に誘導する活性があり、さらにこれらの誘導された骨髄由来の細胞群が損傷組織において表皮ケラチノサイトや毛包や線維芽細胞のようなさまざまな細胞に分化して損傷組織の治癒を促進する効果があることが明らかになった。また骨髄間葉系幹細胞は多能性幹細胞であるので、他の組織損傷状態、例えば、脳損傷、心筋梗塞、骨折などの組織損傷の治療にHMGBファミリーを全身投与もしくは局所投与することで同様に治療効果が期待できると確信する。
【0107】
また、ヒトとマウスのHMGB1はそれぞれを構成するアミノ酸配列で98%(213/215)の相同性があり、HMGB2はそれぞれを構成するアミノ酸配列で96%(202/210)の相同性があり、HMGB3はそれぞれを構成するアミノ酸配列で97%(195/200)の相同性があることがわかっている。そこで、ヒトのHMGBがマウスのHMGBと同様の活性を有することが考えられるが、本結果から、ヒトの皮膚抽出液やHMGB1がマウスの皮膚抽出液や、HMGB1と同様に骨髄間葉系幹細胞を誘導する活性があることが明らかになった。
【0108】
〔参考例2〕
目的:骨髄間葉系幹細胞誘導因子組織抽出液の作製方法の確立
方法:6週齢C57BL6一匹分の脳、心臓、腸、腎臓、肝臓及び新生マウス皮膚一匹分をPBS(pH7.4)1ml内に浸し、4℃で24時間インキュベーションした後、組織を取り除くために、4℃の条件下で10分間、440Gで遠心し上清を回収して組織抽出液とした。得られた抽出液の中に骨髄間葉系幹細胞誘導活性が存在することを確認するため、ボイデン・チャンバーを用い、骨髄由来間葉系幹細胞に対する遊走活性を検討した。また、同じサンプル中に含まれるHMGB1の濃度をHMGB1 ELISA kit(シノテスト社製)を用いて計測した。更に脳、心臓及び皮膚の組織抽出液をヘパリンアフィニティーカラムに結合させ、結合画分のタンパク質の骨髄間葉系幹細胞誘導活性をボイデン・チャンバーを用いて確認した。
【0109】
結果:マウス脳抽出液には新生マウス皮膚抽出液と同等のHMGB1が含有されていた。さらに、骨髄間葉系幹細胞の誘導活性はマウス脳でも皮膚と同様に認められた。マウス腸抽出液とマウス心臓抽出液中にHMGB1はほとんど含まれなかったが、骨髄間葉系幹細胞の誘導活性は認められた。また、マウス脳、マウス心臓のヘパリンカラム結合画分はマウス皮膚のヘパリンカラム結合画分と同様に骨髄間葉系幹細胞を誘導する活性があった(図20)。表1は、マウス各組織抽出液のHMGB1濃度と骨髄間葉系幹細胞の誘導活性を測定した結果を示す。
【0110】
【表1】

【0111】
考察:皮膚のみならず脳でも臓器を生理的緩衝液に浸すだけという簡便な方法でHMGB1を簡便に抽出する方法を開発した。この方法は、他の臓器例えば、肝臓や腎臓でも同様である。また心臓や腸からの抽出液にはHMGB1をほとんど含有しないにもかかわらず骨髄間葉系幹細胞誘導活性を認めた。このことは抽出液中にHMGB1と異なる、他の骨髄間葉系幹細胞誘導物質が含まれていることが考えられる。これらの抽出液に含まれる物質は、もともとそれぞれの組織に存在するものであり、生理的には組織損傷時に骨髄間葉系幹細胞を損傷組織に誘導していると考えられる。上記によってHMGB1を含む複数の骨髄間葉系幹細胞誘導物質を各種臓器から機能的にかつ簡便に抽出する新規の方法を開発できた。さらに、組織抽出液から骨髄間葉系幹細胞誘導物質を精製するためにヘパリンカラムに結合させる方法を開発した。また、これらの骨髄間葉系幹細胞誘導活性を有する成分は皮膚と同様の方法で脳や心臓からもヘパリンカラムを用いて精製することが可能である。得られた精製成分は本発明のデバイスに挿入して骨髄幹細胞を回収するために使用できる。
【0112】
〔参考例3〕
目的:培養細胞から間葉系幹細胞遊走活性物質を抽出する方法を確立する。
方法:ヒト胎児腎由来培養細胞株HEK293及びヒト子宮頸癌細胞株HeLaはそれぞれ10%胎仔牛血清含D-MEM(nacalai社製)で培養した。それぞれの細胞をPBSで洗浄後、細胞107個を4℃の5mlのPBS(nacalai社製)に16時間浸した。重力加速度440Gで4℃で5分間遠心し上清を回収した。ボイデン・チャンバーの上層にヒト骨髄間葉系幹細胞をいれ、下層にDMEMで5倍希釈した細胞抽出液をいれ、ヒト骨髄間葉系幹細胞遊走活性を確認した。
結果:HEK293抽出液もHeLa抽出液も同様に骨髄間葉系幹細胞を遊走する活性を示した(図21)。
考察:培養細胞をPBSに浸すという簡便な方法で骨髄間葉系幹細胞を遊走する活性物質を抽出することに成功した。得られた活性物質は本発明のデバイスに挿入して骨髄幹細胞を回収するために使用できる。
【0113】
〔参考例4〕
目的:マウス脳欠損モデルを作成し、局所損傷部位に皮膚抽出液ヘパリンカラム精製画分を徐放化して投与することで、自己の骨髄系に含まれる幹細胞を局所損傷部位に遊走させ、神経系細胞の再生を誘導できないか検討する。
方法:
(1)皮膚抽出液ヘパリンカラム精製画分の作製
切除した新生マウス皮膚からPBS(一匹/ml)中に4℃で16時間インキュベーションし抽出した皮膚抽出液を4℃の9倍容20mM PBS(pH7.5)を用い10倍に希釈した。あらかじめ、20mM PBS(pH7.5)(30ml)をHiTrapヘパリンHPカラム(カラム容量:5ml、GE Healthcare)の中に流しカラムを平衡化した。さらに、希釈液をカラムに結合させた。その後20mM PBS(pH7.5),100mM NaCl(30ml)でカラムを洗浄した。吸着したタンパク質を溶出するため20mM PBS(pH7.5),1000mM NaClをカラム内に流入し、溶出液を容器に分画した。吸着画分をそれぞれ、マウス骨髄由来細胞株の遊走活性をボイデン・チャンバー法を用いて評価し遊走能を有する画分を集めた。この活性を有する溶液を皮膚抽出液ヘパリン精製画分として以下の参考例に使用した。
【0114】
(2)骨髄抑制マウスの作成
マウスに10GyのX線単回照射を行い、骨髄抑制マウスを作成した。
【0115】
(3)骨髄抑制マウスへのGFPマウス骨髄移植
GFPマウスの両側大腿骨及び下腿骨より骨髄幹細胞を採取した。これを照射後24時間経過した骨髄抑制マウスの尾静脈より投与した。なお、投与はイソフルランによる吸入麻酔下に施行した。
【0116】
(4)マウス脳損傷(脳組織欠損)モデルの作成
GFPマウスの骨髄幹細胞を移植した骨髄抑制マウスにイソフルランにて吸入麻酔を行い、ペントバルビタール(45mg/kg)を腹腔内に注入した。マウスを脳定位固定装置に固定し、メスにて頭部に正中切開を加えた。ブレグマから右外側2.5mm、前方1mmにドリルを用いて穿頭を施した(図22A)。この部位から深さ3mmの位置を先端にして、20Gサーフロー針の外筒を挿入して固定した。ここでシリンジを用いて、陰圧をかけ、脳組織を一部吸引した(図22B)。
【0117】
(5)皮膚抽出液ヘパリンカラム精製画分の脳組織欠損部への投与
前述の位置に、ハミルトンシリンジと26Gシリンジを用いて、フィブリン糊製剤(フィブリノゲン)(ボルヒール(化血研社製))に溶解した皮膚抽出液ヘパリンカラム精製画分を5μl注入し、次にフィブリン糊製剤(トロンビン)(ボルヒール(化血研))を5μl注入した(図22C)。この操作によって、皮膚抽出液ヘパリンカラム精製画分の徐放剤としての効果を狙った。
【0118】
(6)脳組織欠損部における神経系細胞再生効果の評価
コントロール群と治療群のマウスとを用いて評価した。適切な経過設定を決め(経時的に)、マウスを4%パラホルムアルデヒドにて灌流固定後、脳の切り出しを行った。さらに、4%パラホルムアルデヒドを外固定した。15%と30%の勾配をつけたショ糖にて脱水後、凍結切片を作成した。
DAPI(4',6-Diamidino-2-phenylindole,dihydrochloride)solusionにて核染色を行い、退光防止剤を用いて封入した。共焦点レーザー顕微鏡にて損傷部位(脳組織欠損部)でのGFP陽性細胞の集積を評価した。
結果:投与後、2週間及び6週間後のGFP陽性細胞集積を定性的に示す。2週間後(コントロール;図22D、皮膚抽出液ヘパリンカラム精製画分;図22E)及び6週間後(コントロール;図22F皮膚抽出液ヘパリンカラム精製画分;図22G)ともに、コントロール群に比して治療群の損傷部位にGFP陽性細胞の集積が高い傾向にあった。
考察:皮膚抽出液ヘパリンカラム精製画分投与により、骨髄由来細胞が脳組織欠損部位に集積し神経細胞の形態を示した。骨髄由来間葉系幹細胞は神経細胞にも分化することが知られており、本結果から、皮膚抽出液ヘパリンカラム精製画分によって脳損傷部位における神経系細胞再生の誘導できることが明らかになった。また、これは、脳虚血性疾患や脳挫傷における脳組織障害部位での神経再生にも応用可能である。
【0119】
〔参考例5〕
目的:皮膚組織抽出液内に存在する骨髄由来組織幹細胞誘導因子の同定
方法:疎血状態にある切除皮膚からの放出が予想される骨髄間葉系幹細胞動員因子の同定を目的として以下の方法のように研究を進めた。
1)マウス骨髄由来間葉系幹細胞を得るために、C57BL/6マウスの骨髄幹細胞を大腿骨もしくは下腿の骨から採取し、10%胎仔ウシ血清含D-MEM(Nacalai社製)を細胞培養培地として細胞培養皿に撒き、37℃、炭酸ガス濃度5%の条件下で培養した。細胞が占める面積が培養皿底面積に対して70から100%に増殖した時点で、0.25%トリプシン1mMEDTA(Nacalai社製)を用いて細胞を培養皿からはがし、さらに同じ条件で継代培養した。継代作業は少なくとも5回以上繰り返した。さらにこれらの付着細胞を単離培養しフローサイトメトリーによる細胞表面抗原の分析を行いLin陰性、CD45陰性、CD44陽性、Sca-1陽性、c-kit陰性であることを確認した。これらの細胞は骨細胞、脂肪細胞に分化可能で骨髄間葉系幹細胞の性質を有することを確認した。
【0120】
2)新生マウス(2日齢)5匹から得た遊離皮膚片をPBS(pH7.4)5ml内に浸し、4℃で24時間インキュベーションした後、組織を取り除くために、4℃の条件下で10分間、440Gで遠心し上清を回収して皮膚抽出液を作製した。また同様に、6週齢マウス1匹から得た遊離皮膚片をPBS(pH7.4)5ml内に浸し、4℃で24時間インキュベーションした後、組織を取り除くために、4℃の条件下で10分間、440Gで遠心し上清を回収して皮膚抽出液を作製した。
3)得られた皮膚抽出液の中に骨髄間葉系幹細胞誘導活性が存在することを確認するため、ボイデン・チャンバーを用い、本発明者らが既に株化しているC57BL6マウス骨髄由来間葉系幹細胞に対する遊走活性を検討した。具体的にはボイデン・チャンバーの下槽(容量25μl)に2日齢もしくは6週齢のマウス皮膚抽出液(5μl)とDMEM(20μl)の混合液を挿入し、8μmの微細穴を持つポリカーボネートメンブレンを乗せ、さらにこれに接してボイデン・チャンバー上槽(容量50μl)を載せて、その中に骨髄由来間葉系幹細胞浮遊液(5x104個/50ml培養液:DMEM/10%ウシ胎仔血清)を入れ、CO2インキュベーター内で37℃、4〜24時間培養した。培養後、チャンバーの上槽をはずし、シリコーン薄膜を取り出して、その微細穴を通過してチャンバー下槽に遊走した骨髄由来間葉系幹細胞の数を染色により定量的に検討した(図23)。
【0121】
4)2日齢マウス、6週齢マウスそれぞれの皮膚を約2cm2採取し、速やかに液体窒素で凍結後、乳鉢を用いて粉砕した。これらのサンプルからRNeasy(Qiagen社製)を用いてRNAを抽出精製した。精製したRNAを用いてマイクロアレイアッセイにより2日齢マウスでより多く発現しているmRNAをスクリーニングした。2日齢マウスの方が2倍以上のスコアが高い遺伝子は767あった。これらの遺伝子のうち、ヘパリンに親和性の高いタンパク質、分泌される可能性のあるタンパク質、2日齢マウスの方が6倍以上スコアが高い遺伝子を検討したところ上位57番目の遺伝子としてS100A9が存在した。そこで、S100A9とヘテロダイマーを形成することで知られているS100A8の2日齢皮膚抽出液中の存在をWestern blot法で検出した。すなわち、2日齢皮膚抽出液5μlとSDS-PAGEsample buffer 5μl(Bio-Rad)を混合し、98℃、5分間ヒートブロックで熱した後、25℃にまで冷却した。このサンプルを12.5%アクリルアミドゲルのe-PAGEL(ATTO)にアプライし、電気泳動装置(ATTO)を用いて、40mAで75分間電気泳動した。電気泳動後ゲルを回収し、ブロッティング装置(ATTO)を用いて、あらかじめ100%メタノールにて処理した縦7cm横9cmのPVDF膜(Millipore社製)にゲル中のタンパク質を転写した。転写は120mA、75分間施行した。転写終了後、PVDF膜を回収し、4%スキムミルク含PBS(nacalai)中で30分間室温振盪した。その後、抗S100A8抗体(R&D社製)もしくは抗S100A9(R&D)5μlを10mLの4%スキムミルク含PBSに希釈した液中に回収したPVDF膜を浸し、60分間室温振盪した。抗体液を除去後、30mLの0.1%Tween20 含PBSで膜を5分間室温で振盪し洗浄した。洗浄は5回繰り返した。洗浄後、HRP標識抗goat IgG抗体(GE healthcare)5μlを10mLの4%スキムミルク含PBSに希釈した液中に膜を入れ室温で45分間振盪した。抗体液を除去後、30mLの0.1%Tween20 含PBSで膜を5分間室温で振盪し洗浄した。洗浄は5回繰り返した。膜をECL検出キット(GE healthcare)にて発光させフィルムを感光させた。現像装置でフィルムを現像し、S100A8及びS100A9のタンパク質のシグナルを得た(図24)。
【0122】
5)皮膚抽出液内の骨髄由来間葉幹細胞動員活性をもつ因子を精製するために、ヘパリンアフィニティーカラム・クロマトグラフィーを施行した。以下の操作は、FPLC装置(GE healthcare)を用いて施行した。まず、2日齢マウス皮膚抽出液を4℃の9倍容20mM PBS(pH7.5)を用い10倍に希釈した(希釈液A)。あらかじめ、20mM PBS(pH7.5)(300ml)をHiPrep16/10ヘパリンFF(GE Healthcare)の中に流しカラムを平衡化した。さらに、希釈液Aをカラムに結合させた。その後20mM PBS(pH7.5),(300ml)でカラムを洗浄した。吸着したタンパク質を溶出するため、(A液)20mM PBS(pH7.5),10mMNaClと(B液)20mM PBS(pH7.5),500mM NaClを作製した。はじめA液100%/B液0%で送液し、徐々にB液の割合を増加し最終的にA液0%/B液100%で送液した。総送液量は150mLとした。溶出液はシリコーンコートした容器に3mLずつ分画した。分画したサンプルのそれぞれ5μlとSDS-PAGE sample buffer 5μl(Bio-Rad)を混合し、98℃、5分間ヒートブロックで熱した後、25℃にまで冷却した。このサンプルを(5-20%graduent)アクリルアミドゲルのe-PAGEL(ATTO)にアプライし、電気泳動装置(ATTO)を用いて、40mAで75分間電気泳動した。泳動後、Dodeca silver stain kit(Bio-Rad)を用いて泳動したタンパク質を検出した(図25)。
分画したサンプルをそれぞれ、上記と同様にボイデン・チャンバーを利用した遊走活性を評価した(図26)。
分画したサンプルをそれぞれ、上記と同様にWestern blot法を用いてS100A8とS100A9のタンパク質の存在を検出した(図27)。
【0123】
6)新生マウス皮膚からTrizol(invitrogen)を用いてRNAを抽出し更にSuperScript III cDNA synthesis kit(Invitrogen)を用いてcDNAを合成した。このcDNAをテンプレートとしてS100A8及びS100A9のcDNAをPCR法を用いて増幅し、アミノ酸配列のN末端にGST tagの配列(配列番号:31(アミノ酸配列)、配列番号:32(DNA配列))を付加したタンパク質を発現するように、哺乳類細胞でタンパク質を発現させるプラスミドベクターpCAGGSに挿入した。(図28)ヒト胎児腎細胞由来HEK293培養細胞株にリポフェクション試薬(Invitrogen)を用いてpCAGGS-GST-S100A8もしくはpCAGGS-GST-S100A9をトランスフェクションし、48時間後細胞及び培養上清を回収した。細胞及び培養上清は4℃で4400g・5分間遠心し上清(上清A)と細胞を分離しそれぞれ回収した。細胞は0.1%Tween20含PBSを加え氷冷下で30秒間超音波をあてることで細胞膜を破壊した。さらに、4℃で4400g・5分間遠心し上清を回収した(上清B)。上清A及び上清Bを混合し、あらかじめ30mLのPBSでバッファーを置換したHiTrap GST FF カラム(GE healthcare, 5mL)に添加した。添加後PBS100mLでカラムを洗浄し、還元型グルタチオン含20mM PBS(pH8)で吸着したタンパク質を溶出した。リコンビナントS100A8及びS100A9のボイデン・チャンバーを用いた、骨髄間葉系幹細胞遊走活性を検討した。ボイデン・チャンバーの下層には、精製したS100A8及びS100A9タンパク質を0.1ng/μlの濃度に調整しDMEMに溶かしたサンプルもしくは2日齢マウス皮膚抽出液は4倍容のDMEMで希釈したサンプルを挿入した。Negative controlはS100A及びS100A9 cDNAを挿入していないコントロールベクターをトランスフェクションした細胞からタンパク質を抽出し、HiTrap GST FF カラムから溶出した画分を同様に用いた。下層にサンプルを挿入後、8μmの微細穴を持つポリカーボネートメンブレンを乗せ、さらにこれに接してボイデン・チャンバー上槽(容量50μl)を載せて、その中に骨髄由来間葉系幹細胞浮遊液(5x104個/50ml培養液:DMEM/10%ウシ胎仔血清)を入れ、CO2インキュベーター内で37℃、4〜24時間培養した。培養後、チャンバーの上槽をはずし、シリコーン薄膜を取り出して、その微細穴を通過してチャンバー下槽に遊走した骨髄由来間葉系幹細胞の数を染色により定量的に検討した(図29)。
【0124】
7)前述の精製したGST-S100A8及びS100A9リコンビナントタンパク質を8週齢雄マウスの尾静脈から250μl(1ng/μl)注入した。12時間後イソフルランに容吸入麻酔下に、マウスの心臓からヘパリンコートした1mLのシリンジを用いて、末梢血1mLを採血し、3mLのPBSと混合した後、3mLのFicol(GE healthcare)の上に静かに重層した。遠心機を用い、25℃で400g、40分間遠心した。中間層の白濁した層の細胞を単核球画分として回収した。回収した細胞に1mLの溶血剤であるHLBsolution(免疫生物研究所社製)を加え室温で5分インキュベートした。この溶血操作を2回繰り返した。10mLのPBSを加え、25℃で440g、5分間遠心し上清を除去して細胞を回収した。この細胞1,000,000個に抗マウスPE標識PDGFRα抗体(e-Bioscience社製)、PE標識抗マウスPDGFRβ抗体(e-Bioscience)、FITC標識抗マウスCD45抗体(BD biosciences)、PerCy5標識抗マウスCD44抗体(BD biosciences)それぞれをPBSで100倍希釈し20分間室温でインキュベートした。その後この細胞を25℃、440g、5分間遠心し上清を除去した。1%パラホルムアルデヒド含PBSを400μl加え、フローサイトメトリー解析のサンプルとした。抗体は(I)PDGFRα/CD45/CD44(II)PDGFβ/CD45/CD44の組み合わせで使用した。解析結果はCD45弱陽性-陰性細胞に対してのPDGFRα(もしくはβ)及びCD44の発現細胞の割合を検討した。(図30A,図30B)
【0125】
結果:切除した2日齢マウス皮膚及び6週齢マウス皮膚の骨髄間葉系幹細胞の遊走活性を検討し、6週齢マウスに比べ2日齢マウスの皮膚抽出液に強い活性を見出した。DNAマイクロアレイの結果からS100A9が2日齢マウス皮膚で強い発現が認められた。皮膚抽出液をヘパリンカラムで粗精製したサンプルの間葉系幹細胞遊走活性とS100A9及びS100A8の含有に相関が認められた。これらのタンパク質の発現ベクターを作製し、HEK293を用いてリコンビナントタンパク質を生産精製した。これらのS100A8・S100A9精製品はボイデン・チャンバーを用いたアッセイにおいて骨髄間葉系幹細胞遊走活性を有していた。また、マウス静脈投与によってもPDGFRα、CD44陽性細胞群を末梢血中に動員する活性が認められた(図30)。
【0126】
考察:今回本発明者らは、世界で初めて、遊離皮膚片がS100A8及びS100A9を産生し、産生されたS100A8及びS100A9は骨髄由来間葉系幹細胞を遊走する強い活性を有することを見出した。また、骨髄間葉系幹細胞は骨組織、脂肪組織、軟骨組織、線維芽細胞等に分化する多能性幹細胞であることが知られているが、最近骨髄由来細胞の中には、心筋、神経細胞、表皮細胞等の組織にも分化する多能性幹細胞も存在することも指摘されている。今回植皮片の表皮細胞、毛包細胞、皮下組織の線維芽細胞などが骨髄由来の細胞で構成されていることから、S100A8やS100A9が骨髄由来組織幹細胞を植皮片に動員し、損傷組織の機能的修復を誘導していると考えられる。S100A8及びS100A9は静脈注射による投与で末梢血中に骨髄間葉系幹細胞を動員可能なため、局所投与が困難な深部組織(脳、心臓、脊髄など)にも末梢循環を介して投与可能である。本発明のデバイスの中央中空部にS100A8及びS100A9を挿入するか、全神経に投与して末梢血中に骨髄幹細胞を動員可能とすることにより、骨髄幹細胞のより効率の良い回収が達成できる。
【0127】
〔参考例6〕
目的:皮膚組織抽出液内に存在する骨髄由来組織幹細胞誘導因子による骨髄組織幹細胞の末梢血への動員
方法:上記の目的に対して以下の方法により研究を行った。
1)骨髄由来組織幹細胞誘導剤の調製:新生マウス(2日齢)25匹から得た遊離皮膚片をPBS(pH7.4)25mlに浸し、4℃で24時間インキュベーションした後、組織を取り除くために、4℃の条件下で10分間、440Gで遠心し上清を回収して皮膚抽出液(SE)を作製した。
また、C57/Bl6新生マウス皮膚からTrizol(invitrogen)を用いてRNAを抽出し更にSuperScript III cDNA synthesis kit(Invitrogen)を用いてcDNAを合成した。このcDNAをテンプレートとしてHMGB1のcDNAをPCR法を用いて増幅し、アミノ酸配列のN末端にFlag tagの配列(Asp-Tyr-Lys-Asp-Asp-Asp-Lys;配列番号:30)を付加したタンパク質を発現するように、哺乳類細胞でタンパク質を発現させるプラスミドベクターpCAGGSに挿入した(図36)。これらのプラスミドベクターをHEK293(ヒト胎児腎細胞由来培養細胞株)に遺伝子導入し48時間培養しタンパク質を発現させた。HMGB1タンパク質をそれぞれ発現させた細胞及び培養上清は4℃で16時間インキュベートした後、4400g・5分間遠心し上清を回収した。この上清50mLあたり100μlのAnti Flag抗体Gel(Sigma)を混合し4℃で16時間インキュベートした。遠心しGelを回収した後PBSを用いて、5回洗浄した。更に3X Flag peptide(final100μg/ml)を用いて溶出した。溶出したタンパク質はHMGB1 ELISA kit(シノテスト)を用いて濃度を確認し、凍結乾燥後PBSを用いて200μg/mLに調整した。
【0128】
2)8週齢雄マウス(C57/Bl6)の尾静脈から前述の皮膚抽出液(SE)500μlもしくは陰性コントロール群としてPBS500μlを30G1/2の注射針を装着したシリンジを用い投与した(図37)。投与6/12/24/48時間後、イソフルランによる吸入麻酔下、マウスの心臓からヘパリンコートした1mLのシリンジを用いて末梢血1mLを採血し、3mLのPBSと混合した後、3mLのFicol(GE healthcare)の上に静かに重層した。遠心機を用い、25℃で400g、40分間遠心した。中間層の白濁した層の細胞を単核球画分として回収した。回収した細胞に1mLの溶血剤であるHLB solution(免疫生物研究所)を加え室温で5分インキュベートした。この溶血操作を2回繰り返した。10mLのPBSを加え、25℃で440g、5分間遠心し上清を除去して細胞を回収した。この細胞1,000,000個に抗マウスPE標識PDGFRα抗体(e-Bioscience)、PE標識抗マウスPDGFRβ抗体(e-Bioscience)、PerCy5標識抗マウスCD44抗体(BD biosciences)それぞれをPBSで100倍希釈し20分間室温でインキュベートした。その後この細胞を25℃、440g、5分間遠心し上清を除去した。1%パラホルムアルデヒド含PBSを400μl加え、フローサイトメトリー解析のサンプルとした。
8週齢雄マウス(C57/Bl6)の尾静脈からマウスHMGB1を250μl(1μg/μl)もしくは陰性コントロール群としてPBS250μlを30G1/2の注射針を装着したシリンジを用い投与した(図39)。投与12時間後、イソフルランによる吸入麻酔下、マウスの心臓からヘパリンコートした1mLのシリンジを用いて末梢血1mLを採血し、3mLのPBSと混合した後、3mLのFicol(GE healthcare)の上に静かに重層した。遠心機を用い、25℃で400g、40分間遠心した。中間層の白濁した層の細胞を単核球画分として回収した。回収した細胞に1mLの溶血剤であるHLBsolution(免疫生物研究所)を加え室温で5分インキュベートした。この溶血操作を2回繰り返した。10mLのPBSを加え、25℃で440g、5分間遠心し上清を除去して細胞を回収した。この細胞1,000,000個に抗マウスPE標識PDGFRα抗体(e-Bioscience)、PerCy5標識抗マウスCD44抗体(BD biosciences)それぞれをPBSで100倍希釈し20分間室温でインキュベートした。その後この細胞を25℃、440g、5分間遠心し上清を除去した。1%パラホルムアルデヒド含PBSを400μl加え、フローサイトメトリー解析のサンプルとした。
【0129】
結果:皮膚抽出液(SE)を注射12時間後の末梢血において、有意にPDGFRα陽性、CD44陽性細胞が動員されていることが確認された(図38)。HMGB1を注射12時間後の末梢血において、有意にPDGFRα陽性、CD44陽性細胞が動員されていることが確認された(図40)。
【0130】
〔参考例7〕
目的:組み換えHMGB1蛋白の静脈内投与によって、間葉系幹細胞が末梢血中へ動員されるかを確認した。
方法:C57BL6マウス(8〜10週齢、オス)尾静脈より組み換えHMGB1蛋白/生理食塩水(100μg/ml)を400μl(40μgHMGB1)あるいは生理食塩水400μl投与した。12時間後にマウス末梢血を採取してPBSを加え全量を4mLに希釈した。遠心管にFicoll-Paque Plus(GE)液を3mL挿入後その上に希釈血液を重層した。100G(18℃)で10分間遠心し、単核球を含む中間層を新しい遠心管に回収し、45mLのPBSを加え440G(18℃)5分で遠心し上清を除去した。さらにもう一度45mLのPBSを加え440G(18℃)5分で遠心し上清を除去した。得られた単核球をPhycoerythrobilin(PE)標識抗マウスPDGFRα抗体及びAllophycocyanin(APC)標識抗マウスCD44抗体で反応させた後、フローサイトメトリー(Facscan;Becton,Dickinson and Company社製)により単核球分画内のPDGFRα陽性/CD44陽性細胞の存在頻度を評価した。
【0131】
結果:HMGB1投与12時間後に、末梢血単核球分画内のPDGFRα陽性かつCD44陽性細胞及びPDGFRα陽性かつCD44陰性細胞が有意に増加していることが明らかとなった(図41)。即ち、HMGB1は骨髄内から末梢血中に、間葉系幹細胞のマーカーとして知られているPDGFRα陽性細胞を動員する活性があることが示された。
【0132】
考察:PDGFRα及びCD44は骨髄由来の多能性幹細胞を代表する骨髄間葉系幹細胞の表面マーカーとして知られている。骨髄間葉系幹細胞は骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞に分化可能な多能性幹細胞であり、さらに神経細胞や上皮細胞などにも分化可能とされている。また、本実験で使用した皮膚片は、阻血状態であるため、徐々に組織が壊死状態となり、細胞の表面のタンパク質から核などの細胞内のタンパク質が周囲に放出される。また、HMGB1は皮膚抽出液に含有されるタンパク質である。植皮などではこれらのタンパク質が、シグナルとなって植皮片に骨髄由来の組織幹細胞を動員し、植皮片内で骨髄幹細胞由来表皮、皮下組織、毛包組織などを再構築し、機能的皮膚を再生していると考えられる。本実験は、このような皮膚抽出液もしくはHMGB1を静脈内に投与することで、末梢循環中に骨髄由来組織幹細胞を動員することに成功した初めての発見である。本発見によって、骨髄由来多能性幹細胞を末梢血中に動員し、本発明のデバイスによる骨髄幹細胞のより効率の良い回収が達成できる。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明のデバイスにより、従来困難であった生体内機能的細胞の低侵襲性回収が可能になった。その結果、それら生体由来機能性細胞を用いた基礎研究の進展、回収細胞を利用した再生医療の進展が期待され、難治性疾患に苦しむ患者に新たな医療を提供するための革新技術となると期待される。本発明のデバイスは、新たな医療材料開発のためのシーズであり、この分野の産業の進展に寄与すると期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内組織に存在する目的物質を回収するための生体内埋め込み式物質採取デバイスであり、側壁部と上壁部と下壁部との間に中心中空部を有する扁平容器であって、上記上壁部及び/又は下壁部には1以上の開口部が設けられ、回収した目的物質を上記中心中空部に保持することのできる扁平容器を備えた物質採取デバイス。
【請求項2】
前記扁平容器の上壁部及び/又は下壁部は、平面、凸型曲面、凹型曲面、凹字状に中央部を凹ませた形状のいずれかを有する請求項1に記載の物質採取デバイス。
【請求項3】
前記扁平容器の平面形状は、多角形、略多角形、円形、略円形、楕円形、略楕円形、台形及び略台形の中から選ばれる形状を有する請求項1又は2に記載の物質採取デバイス。
【請求項4】
前記扁平容器の上壁部と側壁部間及び下壁部と側壁部間の接合部分は、曲面状を呈している請求項1〜3いずれか1項に記載の物質採取デバイス。
【請求項5】
前記扁平容器は上壁部を含む部品と下壁部を含む部品を組み合わせて構成される請求項1〜4いずれか1項に記載の物質採取デバイス。
【請求項6】
前記扁平容器がシリコーン樹脂材料からなる、請求項1〜5いずれか1項に記載の物質採取デバイス。
【請求項7】
前記扁平容器は生体の上皮及び真皮の間に挿入される、請求項1〜6いずれか1項に記載の物質採取デバイス。
【請求項8】
前記目的物質が骨髄幹細胞である、請求項1〜7いずれか1項に記載の物質採取デバイス。
【請求項9】
前記骨髄幹細胞は多能性幹細胞である、請求項8に記載の物質採取デバイス。
【請求項10】
前記骨髄幹細胞が、前記扁平容器内に挿入された下記(a)〜(r)の群から選ばれた少なくとも一種を含む物質又は組成物によって動員される、請求項8又は9に記載の物質採取デバイス:
(a)HMGB1(High mobility group box 1)タンパク質
(b)HMGB1タンパク質を分泌する細胞
(c)HMGB1タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(d)HMGB2(High mobility group box 2)タンパク質
(e)HMGB2タンパク質を分泌する細胞
(f)HMGB2タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(g)HMGB3(High mobility group box 3)タンパク質
(h)HMGB3タンパク質を分泌する細胞
(i)HMGB3タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(j)S100A8タンパク質
(k)S100A8タンパク質を分泌する細胞
(l)S100A8タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(m)S100A9タンパク質
(n)S100A9タンパク質を分泌する細胞
(o)S100A9タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(p)ヒアルロン酸
(q)細胞又は組織の抽出液
(r)細胞又は組織の抽出液のヘパリン結合画分。
【請求項11】
前記物質又は組成物は、ポリエチレングリコール(PEG)の重合体又は共重合体、シクロデキストリン、ゼラチン、アルブミン、キトサン、カルボキシルメチルセルロースナトリウム及び生理食塩水の群から選ばれた少なくとも一種の媒体中に存在する、請求項10に記載の物質採取デバイス。
【請求項12】
請求項8又は9に記載の物質採取デバイスを含むキットであって、下記(a)〜(r)の群から選ばれた少なくとも一種を含む物質又は組成物を更に含むキット:
(a)HMGB1タンパク質
(b)HMGB1タンパク質を分泌する細胞
(c)HMGB1タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(d)HMGB2タンパク質
(e)HMGB2タンパク質を分泌する細胞
(f)HMGB2タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(g)HMGB3タンパク質
(h)HMGB3タンパク質を分泌する細胞
(i)HMGB3タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(j)S100A8タンパク質
(k)S100A8タンパク質を分泌する細胞
(l)S100A8タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(m)S100A9タンパク質
(n)S100A9タンパク質を分泌する細胞
(o)S100A9タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(p)ヒアルロン酸
(q)細胞又は組織の抽出液
(r)細胞又は組織の抽出液のヘパリン結合画分。
【請求項13】
更にポリエチレングリコール(PEG)の重合体又は共重合体、シクロデキストリン、ゼラチン、アルブミン、キトサン、カルボキシルメチルセルロースナトリウム及び生理食塩水の群から選ばれた少なくとも一種の媒体を含む、請求項12に記載の物質採取デバイスを含むキット。
【請求項14】
生体内組織に存在する骨髄幹細胞を回収するための埋め込み式物質採取デバイスの製造方法であり、
側壁部と上壁部と下壁部との間に中心中空部を有する扁平容器であって、上記上壁部及び/又は下壁部には1以上の開口部が設けられ、回収した骨髄幹細胞を上記中心中空部に保持することのできる扁平容器を用意し、
該扁平容器内に、下記(a)〜(r)の群から選ばれた少なくとも一種を含む物質又は組成物を挿入する工程を含む製造方法:
(a)HMGB1タンパク質
(b)HMGB1タンパク質を分泌する細胞
(c)HMGB1タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(d)HMGB2タンパク質
(e)HMGB2タンパク質を分泌する細胞
(f)HMGB2タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(g)HMGB3タンパク質
(h)HMGB3タンパク質を分泌する細胞
(i)HMGB3タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(j)S100A8タンパク質
(k)S100A8タンパク質を分泌する細胞
(l)S100A8タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(m)S100A9タンパク質
(n)S100A9タンパク質を分泌する細胞
(o)S100A9タンパク質をコードするDNAが挿入されたベクター
(p)ヒアルロン酸
(q)細胞又は組織の抽出液
(r)細胞又は組織の抽出液のヘパリン結合画分。
【請求項15】
前記物質又は組成物は、ポリエチレングリコール(PEG)の重合体又は共重合体、シクロデキストリン、ゼラチン、アルブミン、キトサン、カルボキシルメチルセルロースナトリウム及び生理食塩水の群から選ばれた少なくとも一種の媒体中に存在する、請求項14に記載の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図13】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図33】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図39】
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【図41】
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【図1】
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【図2】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図16】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図32】
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【図34】
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【図38】
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【図40】
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【公開番号】特開2011−92065(P2011−92065A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248107(P2009−248107)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(506364400)株式会社ジェノミックス (1)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】