説明

埋土種子の発芽向上方法および植生基体ならびに緑化方法

【課題】 表土に含まれる埋土種子の発芽率を向上させることができる埋土種子の発芽向上方法および植生基体ならびに緑化方法を提供すること。
【解決手段】 表土に含まれる埋土種子aの発芽率を向上させる方法であって、埋土種子を含む表土を細分化させる土壌物理性向上工程と、表土に含まれる埋土種子に対して振動ストレス・空気ストレス・光ストレス・損傷ストレスのうち少なくとも2種以上を与えるストレス付与工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、表土に含まれる埋土種子の発芽率を向上させる埋土種子の発芽向上方法および植生基体ならびに緑化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
法面や裸地などの緑化に際して、近年では、緑化工の施工現地(施工対象地)に隣接する山野表層の落葉を含む表層土(腐植質を含む土壌)を採取して、これが含む現地植生の落下種子(埋土種子)を活用した緑化工法が採用されつつある(下記特許文献1参照)。 すなわち、現地植生の落下種子を含む表層土を採取して、これを植生土とし、これに土壌改良材などを混合して緑化材料とし、これを客土材料として法面などに吹き付けたり、土嚢袋に詰めて植生土嚢として使用したりして、現地周域の植物相を混乱させない緑化を図るようにしている。
そしてこのような埋土種子を緑化材料として法面緑化を行う際には、採取した表土をそのまま他の材料と混合したものを用いるのが一般的である。
【特許文献1】特許第3454352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一方で、採取した表土は、採取地の状態、採取方法等の様々な条件によって緑化資材としての品質が左右されやすい。
また、表土に含まれる埋土種子が休眠状態であった場合、埋土種子が豊富に含まれていても発芽、生育しない場合もある。更には、表土に含まれる埋土種子は複数種混在しており、発芽メカニズムもそれぞれ異なるため、季節や現場条件などの要因によって発芽、生育にムラが生じる場合もある。
そこで、一定の品質を保ちつつ、埋土種子群の発芽、生育をより良好な状態とするための処理技術は、今後の森林表土を利用した法面緑化において欠かせない技術であるという観点から、本発明者らは、各種試験を行い、その結果、埋土種子を含む表土に対して複数の処理を施すことにより埋土種子の発芽促進効果が得られることを見出すに至った。
【0004】
この発明は、上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、表土に含まれる埋土種子の発芽率を向上させることができる埋土種子の発芽向上方法および植生基体ならびに緑化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、この発明は、表土に含まれる埋土種子の発芽率を向上させる方法であって、埋土種子を含む表土を細分化させる土壌物理性向上工程と、表土に含まれる埋土種子に対して振動ストレス・空気ストレス・光ストレス・損傷ストレスのうち少なくとも2種以上を与えるストレス付与工程と、を含むことを特徴とする埋土種子の発芽向上方法を提供する(請求項1)。
すなわち、本願の請求項1に係る発明は、埋土種子を含む表土を細分化して土壌物理性を向上させるとともに、表土に含まれる埋土種子に対して振動ストレス・空気ストレス・光ストレス・損傷ストレスのうち少なくとも2種以上のストレスを与えることを特徴としている。
【0006】
この発明は、土壌物理性向上工程を含んでいる。
すなわち、この発明においては、埋土種子を含む表土を細分化することにより土壌粒子が小さくなり、容積重、団粒、構造、孔隙量などの要素を植物の発芽生育に適した状態にすることができる。
細分化方法としては、例えば、
(1)細断機を用いて表土を細分化する方法、
(2)風力分級機などブロアを用いて表土を細分化する方法、
(3)土塊を軽く粉砕しながらフィルター上で振盪させることにより表土を細分化する方法などを挙げることができる。
また、表土の細分化目安としては、土壌構造として粒径5mm以下の「土粒子(団粒・単粒)」が30%以上となることが好適である。なお、此処で言う「土粒子」とは、土粒子が単独で存在する単粒と、土粒子が集合して形成されている団粒を共に含んだ意味で用いている。
そして、本発明者らは、採取した表土を前記細断機や前記フィルターなどの細分化手段によって粒径5mm以下に調整し、粒径5mm以下に調整した採取表土を未調整の表土に混入して、混入割合別にその発芽成立本数を調べた。
【0007】
下記表1は、粒径5mm以下の土粒子の混入割合(%)と播き出し試験結果(発芽成立本数)の関係を示し、図1は対応するグラフを示している。
その結果、混入割合が25%までは未調整表土とほぼ変わらない数値を示したが、30%から発芽成立本数の増加が見られた。このことにより、細分化の目安としては、粒径5mm以下の土粒子が30%以上となるように調整することが好適であることが分かった。
【0008】
【表1】

【0009】
また、この発明は、ストレス付与工程を含んでいる。
表土内には複数種の埋土種子が含まれており、その発芽促進(発芽向上)方法も種類によって異なる。
この発明では、振動・空気・光・損傷の4種のうち、複数のストレスを埋土種子に付与することにより、この多様性に対応することか可能となる。
すなわち、表土に含まれる埋土種子に対して各ストレスを付与することにより以下のことが判明した。
(1)振動ストレス:表土に含まれる埋土種子に対して振動を与えることによって埋土種子の休眠を打破することができた。
(2)空気ストレス(空気接触):地中に埋もれて空気と接触していなかった埋土種子に対し、積極的に空気と触れさせることによって埋土種子の休眠を打破することができた。この空気接触における発芽要因は酸素や窒素など様々であるため、一括して以下、空気として表現する。
(3)光ストレス(光照射):当該表土を採取するまで(今まで)光を与えられていない状態の埋土種子に対し、光を浴びさせることにより休眠を打破することができた。
なお、関連する光の種類(波長)は埋土種子によって異なるため、日光に晒すことが最も好ましい。
(4)損傷ストレス:埋土種子の表皮を軽度に傷つけることで埋土種子の発芽を促進させることができた。埋土種子への損傷の方法としては、通常の物理的損傷の他には薬品利用(酸など)による化学的損傷が挙げられる。
そして、この発明では、これらのストレスは順次付与するようにしてもよいが、過度のストレスを与えないため、且つ、処理時間を短縮するために、4種のストレスを可能な限り同時に付与することが好適である。
【0010】
また、この発明は別の観点から、表土に含まれる埋土種子の発芽率を向上させる方法であって、表土から未分解の粗大有機物を取り除く発芽抑制作用低減工程と、埋土種子を含む表土を細分化させる土壌物理性向上工程と、表土に含まれる埋土種子に対して振動ストレス・空気ストレス・光ストレス・損傷ストレスのうち少なくとも2種以上を与えるストレス付与工程と、を含むことを特徴とする埋土種子の発芽向上方法を提供する(請求項2)。
すなわち、本願の請求項2に係る発明は、発芽抑制作用低減工程をを含んでおり、埋土種子を含む表土内に存在する未分解粗大有機物の除去により発芽抑制作用を低減させることを特徴としている。
この発明における「未分解の粗大有機物」とは、植物の根茎や樹皮、葉、倒木の断片などを含む。もちろん発芽可能な種子は「未分解の粗大有機物」には入らない。
そして、この発明では、表土から未分解の粗大有機物(例えば、根や地下茎など)を取り除くことにより、未分解の粗大有機物(例えば、根や地下茎など)からのアレロパシー作用や、分解時における土壌内窒素の大量消費など、埋土種子の発芽に悪影響を及ぼす要因を低減することができる。
除去方法としては、
(1)前記フィルターによる除去、
(2)前記分級機による除去、
(3)目視下における手による除去などを挙げることができる。
そして、この発明では、礫や石など、植生基盤として利用し難い不純物も同時に除去しておくことが望ましい。
【0011】
また、この発明はさらに別の観点から、請求項1または請求項2に記載の方法を施した埋土種子含有表土を装着してなることを特徴とする植生基体を提供する(請求項3)。
この発明における植生基体とは、その単体を緑化対象地(施工対象地)に設置することで、植物を生育させることができるものの事を言う。
具体的な形態を以下の(1)〜(4)に列挙する。
(1)表土(他の植生基材を混合することもある)を中身に詰めた「表土袋」形状を挙げることができる。
袋としては土嚢形態・小袋形態・筒状袋形態など何でも良い。また、袋素材としては特に限定は無いが、植物が発芽生育可能な素材であることが必須要件である。
具体的には、「表土袋」として、例えばネット目合いを有する袋や腐食素材製袋(部分的腐食でも可)、水溶性素材袋や水解性素材袋などが挙げられる。
(2)中空の棒状体内部に表土を詰めた「植生杭」形状を挙げることができる。
(3)圧縮や固化材を用いて任意形状に固形化した表土や、袋詰めした表土を、ネットに取り付けてなる「植生マット」形状を挙げることができる。
(4)表土を上下のシート状体で挟持してなる「植生シート」形状を挙げることができる。
前記シート状体の素材は、紙や不織布、スフ、生分解性樹脂や水解性樹脂からなるシート(フィルム)、ヤシ等の植物繊維シートなど様々なものを挙げることができる。また、前記シート状体は、0.01〜20mm程度から選択可能な厚みを有するのが好ましい。 更には、上下のシート状体を連結して袋状とし、袋内部に表土等を注入してマット形状を形成させることも可能である。
【0012】
さらに、この発明は、請求項1または請求項2に記載の方法を施した埋土種子含有表土を施工対象地に客土することを特徴とする緑化方法を提供する(請求項4)。
この場合、湿式吹付け方法や乾式吹付け方法等の公知の吹付け方法を用いて、請求項1または請求項2に記載の方法を施した埋土種子含有表土を施工対象地(緑化対象地)に客土するのが好ましい。また、それ以外の客土の仕方として、ただ単に施工対象地(緑化対象地)へ請求項1または請求項2に記載の方法を施した埋土種子含有表土を撒き出すだけでも良い。
【0013】
また、この発明は、請求項3に記載の植生基体を施工対象地に設置することを特徴とする緑化方法を提供する(請求項5)。
本願の請求項5に係る発明は、前記植生基体を利用するものであり、この場合、表土を利用した植生マット・シートや袋体(土嚢)や緑化杭を、施工対象地(緑化対象地)に施工するのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、採取表土を細分化させると共に、一定の処理を行うことにより、表土中の埋土種子の発芽率を向上させるものである。細分化によって表土を一定粒径以下とすることで、容積重、団粒、土壌構造、孔隙量などの要素を整え、保水性が改善される等、植生基盤としてより良好な状態とすることができる。また、振動、空気接触・光・損傷の各種ストレスを少なくとも2種以上、より好ましくは4種全てを略同時に埋土種子に与えることで、様々な種類の埋土種子を活性化させることに繋がるのである。
更には、埋土種子を含む表土から未分解の粗大有機物(根毛や木の葉などの不純物)を除去することで、アレロパシー作用や窒素飢餓などの植物生育阻害要因が取り除かれ、より一層埋土種子の発芽、生育に適した状態を形成させることができる。
【0015】
このように、この発明による処理を行うことによって、従来の表土の使用方法と比べて、表土の植生材料としての品質を安定させることができ、埋土種子の発芽、生育面から見てよりポテンシャルの高い状態で表土を活用することができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態を、図を参照しながら説明する。なお、それによってこの発明は限定されるものではない。
【0017】
まず、任意の方法により採取した表土を、風力分級機によって表土に含まれる未分解の粗大有機物や石・礫などの不純物を取り除く(発芽抑制作用低減)。その後、略透明な覆蓋付きの回転刃式細断機に表土を投入して攪拌・細断することによって、表土を細分化する(土壌物理性向上)と共に、埋土種子に対して振動や軽度な損傷を与えつつ積極的な空気接触・光照射が為され(ストレス付与)、埋土種子が活性化されることとなり埋土種子含有表土からの発芽が向上するのである。
尚、細断機投入時に、表土に対して酸溶液やアルカリ溶液を添加することで、別種の損傷ストレスを埋土種子に付与でき好適である。また、細断機の回転刃表面に適宜の方法で電流を与えることで、更に別種の損傷ストレスを付与することも可能である。
この様に発芽向上処理を施された表土はそのまま用いても構わないが、緑化施工の前に有孔フィルターを用いてフィルタリングすることが、より発芽力が向上するため好適である。すなわち、フィルタリングによって再度表土は細分化され、振動(フィルターを通過させるために与えられる振動)、空気接触(フィルターから落下する際に空気に接触)、光(フィルターから落下する際に光を浴びる)、損傷(フィルターの目を構成する素材に触れることで、種子表面が軽度の物理的損傷を受ける)の4種全てをほぼ同時に埋土種子に付与することができるため、発芽向上効果を確実に発揮させることができるのである。尚、フィルターによるフィルタリングだけでも十分発芽向上効果を発揮することができ、少量の表土しか用いない現場や機械搬入困難な現場など、条件によって使い分けることが可能である。
【0018】
この発明による発芽向上効果を明確にするため、次の通り播き出し試験を行った。
【0019】
試験方法
(1)人力にて表土を採取した後、採取した表土の均一化を図るために鍬などの道具を使用して攪拌した。
(2)試験区(処理区):上記表土に前述の発芽向上処理(風力分級機による粗大有機物除去、細断機による細分化・ストレス付与、フィルターによる再度の細分化・ストレス付与)を施し、プランターに充填した(図2参照)。尚、本処理を施すことにより、表土の容積は処理前と比較して約25%減少した。これは、余分な根や木片などの粗大有機物が除去されると共に、表土構成土粒子が細分化されたためである。
(3)比較区(未処理区):前記(1)の表土(試験区と同容積分)をそのままプランターに充填した(図3参照)。
(4)周辺から植物がプランター内へ侵入しないように、試験区および比較区夫々のプランターを網(目合い1.25mmの透明プラスチック製ネット)で覆い、試験区および比較区共、同一条件にて発芽生育させた。試験結果は以下の通りであった。
【0020】
試験結果
下記表2は、播き出し試験結果(発芽成立本数)を示す。図4は、三ヵ月後の試験区のプランターでの生育状態を示す。図5は、三ヵ月後の比較区のプランターでの生育状態を示す。図6は、試験区のプランターでの発芽成立本数と、比較区のプランターでの発芽成立本数を比較して示すグラフである。
【0021】
【表2】

【0022】
上述したように、今回の試験では、表土に発芽向上処理を施すことにより表土容積が処理前の25%減少した。この場合、粗大有機物が25%除去されたと考えると、同量の処理有り表土と処理無し表土では、含まれる埋土種子の量は処理有り表土の方が33%程度多くなると考えられる。しかし、試験結果では、表2および図6から判るように、処理有りの方が処理無しよりも発芽成立本数が3倍も多くなっている。このことから、この発明によって発芽向上効果が発揮されていることが確認できた。
尚、この発明で使用する機具には特に限定は無く、分級機能や細分化機能など、基本的機能が備わっているものであれば使用可能である。フィルターについても、網や有孔板など物理的フィルターとしての効果を発揮できるものであれば良く、損傷ストレス付与上、素材は金属などの硬い材料が好ましいものの、素材や形状などは特に限定するものではない。
但し、フィルターの目合いについては5〜50mmが好ましく、20〜30mmがより一層好ましい。これは、以下の試験結果から導き出された数値である。
目合いの寸法とフィルターを通過する表土の割合との関係、ならびにそれらの処理を行った表土からの植物生育状況を試験により確認した。播き出し試験は、各表土4Lをプランターに投入し、28日後の発芽成立本数を計測した。
【0023】
下記表3は、フィルターの目合い(mm)と目合い別のフィルター通過表土の割合(%)との関係を示し、図7は対応するグラフを示している。
【0024】
【表3】

【0025】
下記表4は、フィルターの目合い(mm)とフィルターの目合い別の播き出し試験結果(発芽成立本数)を示し、図8は対応するグラフを示している。
【0026】
【表4】

【0027】
その結果、以下のことが判明した。
A.50mmより大きい目合いを持つフィルターでは、全体の1〜2%の未分解の粗大有機物しか除去されておらず、播き出し試験の結果からも未処理区と殆ど差は見られなかった。
B.また、2mmの目合いを持つフィルターを用いた場合、投入した表土の20%しか通過せず、播き出し試験の結果も未処理区より遙かに劣ったものとなった。これは、フィルターが2mmという小さな目合いを持つから、未分解の粗大有機物と同時に埋土種子までもが除去されてしまったためと推測される。
C.以上より、未処理区と比較して10%以上の発芽率向上が見込まれることから、5mm以上かつ50mm以下の目合いD(5mm≦D≦50mm)を持つフィルターを用いることが好適であることが分かった。
【0028】
また、表土の歩留り性や、播き出し試験の結果から考えて、未処理区から1.5倍以上発芽率が向上する、目合い寸法が20〜30mmのフィルターを用いることがより好ましいことが分かった。
【0029】
次に、この発明の優位性を示す二つのの実証試験について説明する。
【0030】
〈一つの実証試験〉
(a)採取した表土を屋内で光を遮った状態で攪拌し、それをそのままプランターに播き出したものと、
(b)晴天時に屋外で1時間天日干しした後にプランターに播き出したものとで生育比較試験を行った。
その結果、後者(b)の条件で行った方が、前者(a)の条件で行ったものよりも光照射を行う点で発芽率が向上することが確認された。
【0031】
〈別の実証試験〉
(c)採取した表土をそのままプランター播き出す場合と、
(d)採取した表土を細断機を用いて細分化したものをプランター播き出す場合と、
(e)採取した表土を細断機を用いて細分化するにあたり、事前に目視で未分解の粗大有機物を除去してから細断機に投入した場合の三つのパターンで同様の生育比較試験を行った。
その結果、成立本数が(d)の条件で行った方が、(c)の条件で行ったものより多くなるとともに、(e)の条件で行った方が、(d)の条件で行ったものよりさらに多くなることが分かった。これは、未分解の粗大有機物を除去してから細分化する方が好ましいことを裏付けている。
【0032】
図9〜図12は、例えば土壌物理性向上工程(例えばフィルター20による除去)、発芽抑制作用低減工程およびストレス付与工程にて処理が施された埋土種子含有表土aと、肥料、保水材、ピートモスやバーク堆肥などを含む植生基材bとを混合して植生基盤材cを作成し、この植生基盤材cを不織布製小袋9a,9b,9cに詰め、浸食防止シート8付きネット1のポケット部分6に装着させたこの発明の他の実施の形態を示す。なお、図9〜図12において、図1〜図8に示した符号と同一のものは同一または相当物である。
【0033】
図9〜図12において、1は、ポケット付ネットである。このポケット付ネットは、フロントネット2とバックネット3とを重ね合わせた二重構造の網状体本体の両ネット2,3間に、縦方(A方向)方向に連続してまたは適宜間隔をおき複数の収容部4を横方向(B方向)に沿って設け、更に、前記収容部4の横方向中間位置の1〜複数箇所において、複数目合い分の隣り合う経糸を連結しないことで縦長の開口部5〔図12(B)参照〕を、又は複数目合い分の隣り合う緯糸を連結しないことで横長の開口部5’〔図12(C)参照〕を形成してポケット部6を形成してある。
7は、植生マットで、ポケット付ネット1の前記バックネット3の下面に、薄綿、紙、不織布(被覆材の例)のような雨水等で脆弱化する浸食防止シートとしての植生シート8や、脆弱化した後溶けるPVAシートのような可溶性素材(被覆材の例)の浸食防止シートとしての植生シートを貼着してなる。
9a,9b,9cは、周辺地域(同一県内又は同一地方内を含む)から採取された埋土種子を含む表土に例えば土壌物理性向上工程、発芽抑制作用低減工程およびストレス付与工程を施して得られた埋土種子含有表土aと、肥料、保水材、ピートモスやバーク堆肥などを含む植生基材bとを混合してなる植生基盤材cを収納する袋体である。これら袋体9a,9b,9cは前記各収容部7に収容される。
【0034】
そして、左右端が閉じられている収容部4と縦長の開口部5とでポケット部6が形成される〔図12(A)参照〕とともに、袋体9a,9b,9cが収容される前記ポケット部6と、肥料袋10が収容される肥料袋収容部11と、両部6,11間の両ネット2,3編み込みゾーン12とでポケット付ネット1が構成される。
【0035】
なお、側部を編み込んだ収容部4を示したが、必要に応じて、側部が開放して左右の収容開口と連通している収容部を用いてもよい。
【0036】
而して、上述のように構成された植生マット7は、山腹等の法面Nの土壌表面に植生シート8を介して敷設され、収容部4内に収容された袋体9a,9b,9cが、上方向に膨出した収容部4を貫通する止め串(図示せず)で固定される。
【0037】
そして、収容部4が上方向に膨出しているので、等高線と直角な方向(A方向)に沿って隣接する肥料袋10,10を区分けする堰止め機能を収容部4は有することになり、降雨による肥料袋10内の長期養分補給基体10aの流れの移動を効果的に防止できるとともに、表層土の移動を阻止できる。
【0038】
また、膨出した収容部4の存在により、外部から飛来する植物種子や侵入植生も定着しやすい。更に、現場で植生シート8を介してポケット付ネット1を張設後でも、縦長開口部5,5から、現地で採取し処理された埋土種子含有表土aを含む植生基盤材cを収納する複数個の袋体9a,9b,9cを容易に投入が可能である。また、ポケット付ネット1に縦長開口部5,5が形成されていることから、現場でネットに切込みを入れて開口部を形成する必要がなく、施工が煩雑とならない。また、現地で採取した埋土種子を含む表土を処理して使用するので、環境の変化が少なく、小動物の棲家になり易い。
【0039】
なお、この実施の形態では、処理が施された埋土種子含有表土aと、肥料、保水材、ピートモスやバーク堆肥などを含む植生基材bとを混合してなる植生基盤材cを不織布製小袋9a,9b,9cに詰め、浸食防止シート8付きネット1のポケット部分6に装着させたものを示したが、不織布製小袋9a,9b,9cを用いることなく植生基盤材cを施工対象地(緑化対象地)に例えば播き出しや吹付けにより客土するだけでもよい。
【0040】
次に、吹付けによるこの発明の実施の形態について説明する。
図13は、乾式吹付け方法を用いて、緑化の施工現地(施工対象地)に隣接する山野表土から採取して処理した埋土種子含有表土aと、植生基盤材cとを混合してなる植生基盤材cを施工対象地(緑化対象地)に客土するようにしたこの発明の更に他の実施の形態を示す。なお、図13において、図1〜図12に示した符号と同一のものは同一または相当物である。
図13において、緑化の施工現地(施工対象地)、この場合は法面Nに流亡防止用のネット30を張設して、例えばエアロシーダー等の吹付け機31を用いて、これの攪拌タンク32に必要量の埋土種子含有表土aと植生基材bとを投入し、この攪拌された緑化材料としての植生基盤材cを、ホース33先端のノズル34から法面Nに例えば1〜15cm程度の厚みで吹付けて、法面Nを現地植生の埋土種子によって緑化する。
また、この吹付け施工に代えて、予め法面Nに、土壌あるいは土壌と植生基材bとの混合物、または、植生基材bのみによって基盤層を形成した上で、上記の採取した埋土種子含有表土aを吹付ける2層吹付けの形態をとることも好適であって、少量の埋土種子含有表土aで大面積の緑化施工が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】粒径5mm以下の土粒子の混入割合(%)と播き出し試験結果(発芽成立本数)の関係を示すグラフである。
【図2】この発明の一つの実施の形態において、埋土種子を含む表土を処理し、これを試験区のプランターに充填した試験開始の状態を示す、図面に代わる写真である。
【図3】埋土種子を含む表土をそのまま比較区のプランターに充填した試験開始の状態を示す、図面に代わる写真である。
【図4】この発明の一つの実施の形態において、試験開始から三ヵ月後の試験区のプランターでの生育状態を示す、図面に代わる写真である。
【図5】埋土種子を含む表土をそのままプランターに充填した試験開始から三ヵ月後の比較区のプランターでの生育状態を示す、図面に代わる写真である。
【図6】試験区のプランターでの発芽成立本数と、比較区のプランターでの発芽成立本数を比較して示すグラフである。
【図7】フィルターの目合い(mm)と目合い別のフィルター通過表土の割合(%)との関係を示すグラフである。
【図8】フィルターの目合い(mm)とフィルターの目合い別の播き出し試験結果(発芽成立本数)を示すグラフである。
【図9】(A)は、この発明の他の実施の形態を示す斜視図である。(B)は、この他の実施形態における収容形態を示す構成説明図である。
【図10】上記他の実施形態で用いたポケット付ネットを示す平面図である。
【図11】上記他の実施形態で用いたポケット付ネットにおける収容状態を示す斜視図である。
【図12】(A)は、上記他の実施形態における袋体を収容部の中央二箇所に設けた縦長の開口部から収容してあることを示す概略図である。 (B)は、上記他の実施形態における前記縦長の開口部を示す図である。 (C)は、この発明の横長の開口部を示す図である。
【図13】この発明の更に他の実施の形態を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
a 処理が施された埋土種子含有表土

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表土に含まれる埋土種子の発芽率を向上させる方法であって、
埋土種子を含む表土を細分化させる土壌物理性向上工程と、
表土に含まれる埋土種子に対して振動ストレス・空気ストレス・光ストレス・損傷ストレスのうち少なくとも2種以上を与えるストレス付与工程と、
を含むことを特徴とする埋土種子の発芽向上方法。
【請求項2】
表土に含まれる埋土種子の発芽率を向上させる方法であって、
表土から未分解の粗大有機物を取り除く発芽抑制作用低減工程と、
埋土種子を含む表土を細分化させる土壌物理性向上工程と、
表土に含まれる埋土種子に対して振動ストレス・空気ストレス・光ストレス・損傷ストレスのうち少なくとも2種以上を与えるストレス付与工程と、
を含むことを特徴とする埋土種子の発芽向上方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の方法を施した埋土種子含有表土を装着してなることを特徴とする植生基体。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の方法を施した埋土種子含有表土を施工対象地に客土することを特徴とする緑化方法。
【請求項5】
請求項3に記載の植生基体を施工対象地に設置することを特徴とする緑化方法。


【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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