説明

培養リアクタおよび培養リアクタ用治具

【課題】細胞等の培養および観察に利用可能な細胞培養リアクタおよびその治具の提供。
【解決手段】内部に細胞を培養するための収容部と、収容部内の細胞接触面の少なくとも一部を構成する透明プレート5と、透明プレート5の細胞接触面側には、収容部の内側から外側に連続して設けられるセンサ部、電気刺激部またはヒータ部を構成することを第1の透明導電膜10d、前記第1の透明導電膜設置面の逆側に、それぞれヒータ部またはセンサ部を構成する第2の透明導電膜および第3の透明導電膜のうち少なくとも1層を有する培養リアクタ、および、培養リアクタを固定するための培養リアクタ用治具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞等の培養および観察に利用可能な細胞培養リアクタおよびその治具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、再生医療分野では万能細胞およびタンパク質等に関する基礎研究、臨床試験、創薬開発および疾患治療方法等の開発が進められている。一般に培養細胞を用いた研究においては、細胞を培養するための培養容器を用いて細胞培養試験、細胞観察または得られた細胞の分析等を行うが、そのような評価は細胞を直接、顕微鏡的に観察することにより行われることが望ましい場合がある。このような観察を可能とするため、スライドガラスを細胞培養面とする培養容器が知られている。
【0003】
また、加温または電気刺激を与えて、細胞の変化を観察しまたは細胞を分化させることがある。このような試験を行うため、温度を調節するためのヒータ、細胞に電気刺激等を与えるための電極、または、細胞からの電気信号もしくは細胞温度を検出するための電極を細胞培養容器に配置する場合がある。
【0004】
細胞の顕微鏡による直接的な観察と培養温度の調節を同時に実現するため、本発明者は、スライドガラス基板またはシャーレに、ヒータとして機能する透明導電膜を成膜した培養容器を報告した(特許文献1参照)。本培養容器では、透明導電膜を透明な基板に備えることで、培養中の細胞を培養容器上で顕微鏡により直接観察することができる。
【0005】
さらに、神経細胞等の細胞評価試験においては、電気的な刺激を付与した場合の細胞の反応を観察することがある。本発明者らは、細胞接触面に透明導電膜を成膜することで、細胞に電気刺激を与えることができる細胞培養容器について提案している(特許文献2参照)。当該容器は、細胞培養面に透明導電膜が設置されていることから、細胞に電気的な刺激を付与することの他、当該透明導電膜をヒータとして使用して細胞を直接加温したり、透明導電膜を介して電気化学的な培養実験を可能としている。また、別の透明導電膜では、検出された電流から、培養容器中の細胞培養面の温度を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−093126号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2009−201509号公報(特許請求の範囲の請求項6等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1および特許文献2に記載の培養容器は細胞培養に通常用いられるシャーレを利用するため、細胞接触面に設置した透明導電膜用の電極を設置するためには、培養容器の蓋に貫通孔を設け、その貫通孔から細胞接触面に配置した透明電極膜層にプローブ電極を接触させる必要がある。そのため、培養途中の蓋の開閉等の作業性が悪いという問題がある。さらに、貫通孔への電極の設置が必要なためコンタミネーションを起こしやすいという問題がある。さらに、プローブ電極からの不純物の溶出等により、不純物が培養容器内部に混入する可能性があるという問題もある。
【0008】
本発明は、上記問題に応えるべくなされたものであって、作業性がよく、コンタミネーションの可能性が低減される培養リアクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の実施の形態に係る培養リアクタの実施の形態は、内部に細胞を培養するための収容部と、収容部内の細胞接触面の少なくとも一部を構成する透明プレートと、透明プレートの細胞接触面側には、収容部の内側から外側に連続して設けられる第1の透明導電膜とを有するものである。
【0010】
さらに、上述の第1の透明導電膜のうち、収容部外に延出する部分は、電極取出し端子部を構成し得る。
【0011】
さらに、その収容部は、筒部と鍔部とを接合して成り、第1の透明導電膜は、筒部の内部および外部に連続する同一平面上に形成され得る。
【0012】
上記第1の透明導電膜は、センサ部、電気刺激部またはヒータ部を構成し得る。また、上記第2の透明導電膜および上記第3の透明導電膜も、センサ部、電気刺激部またはヒータ部を構成し得る。
【0013】
さらに、その筒部の外周は、筒部の軸方向に見た場合に外側へ突出する角部を有し、第1の透明導電膜のうち収容部外に延出する部分は、角部から突出し得る。
【0014】
本発明の培養リアクタにおいて、前記透明プレートの第1の透明導電膜設置面の逆側には、少なくとも1の透明導電膜を有し得る。本発明の培養リアクタにおいて、前記透明プレートの第1の透明導電膜設置面の逆側に2以上の透明導電膜を有する場合、これらの透明導電膜の膜間には絶縁層を有する。また、本発明の培養リアクタにおいて、前記透明プレートの第1の透明導電膜設置面の逆側に透明導電膜が設置されている場合、当該透明導電膜は、透明プレートから近い順に第2の透明導電膜、第3の透明導電膜と呼ぶこととする。
【0015】
また、本発明の実施の形態に係る培養リアクタにおいて、第1の透明導電膜、第2の透明導電膜および第3の透明導電膜のうち、少なくとも1つの膜の膜厚が80nm以下であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の培養リアクタにおいて、第2の透明導電膜および第3の透明導電膜のうち少なくとも1つは、膜厚が500nm以下であり得る。
【0017】
ある実施態様において、第1の透明導電膜は、電気刺激部またはセンサ部を構成すると共に、その膜厚が1000nm以下であり、第2の透明導電膜は、ヒータ部を構成すると共に、その膜厚が500nm以下であり、第3の透明導電膜は、温度を測定するためのセンサ部を構成すると共に、その膜厚が80nm以下であるのが好ましい。あるいは、前記第1の透明導電膜は、電気刺激部またはセンサ部を構成すると共に、その膜厚が1000nm以下であり、前記第2の透明導電膜は、温度を測定するためのセンサ部を構成すると共に、その膜厚が80nm以下であり、前記第3の透明導電膜は、ヒータ部を構成すると共に、その膜厚が500nm以下であるのが好ましい。
【0018】
また、本発明の培養リアクタ用治具は、内部に細胞を培養するための収容部と、収容部内の細胞接触面の少なくとも一部を構成する透明プレートと、透明プレートの細胞接触面側には、収容部の内側から外側に連続して設けられる透明導電膜とを有する培養リアクタを固定するものである。また、培養リアクタ用治具は、培養リアクタを固定するための固定手段と、透明導電膜に給電するため、または電流を検出するための電極と、透明プレートと重なる領域に光を照射するための透光部とを有するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、作業性がよく、コンタミネーションの可能性が低減され、かつ、不純物が混入しにくい培養リアクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係る培養リアクタの斜視図である。
【図2】図1に示す培養リアクタの蓋部を皿部から取り外しした場合の斜視図である。
【図3】図1に示す培養リアクタの分解斜視図である。
【図4】図1に示す培養リアクタを上面から見た場合の平面図である。
【図5】図4に示す培養リアクタのA−A線断面図である。
【図6】図4に示す培養リアクタのB−B線断面図である。
【図7】培養リアクタが有するトップ透明プレートを図4のA−A線で切断した場合の断面図である。
【図8】培養リアクタが有するボトム透明プレートを図4のA−A線で切断した場合の断面図である。
【図9】ボトム透明プレートの下面側のヒータ部としての透明導電膜を下面側からみた場合の平面図である。
【図10】ボトム透明プレートのヒータ部と、ヒータ部の下面側に設けられたセンサ部としての透明導電膜とを厚さ方向に透過させて見た場合の平面図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る培養リアクタ用治具の斜視図である。
【図12】図11の培養リアクタ用治具に培養リアクタを載置した状態を示す斜視図である。
【図13】図11の培養リアクタ用治具に培養リアクタを載置し、電極等を取り付けた状態を示す斜視図である。
【図14】図11の培養リアクタ用治具に培養リアクタを載置し、顕微鏡で観察する場合の状態を示す概略図である。
【図15】本発明の実施の形態に係る培養リアクタを用いて細胞を培養する際のブロック図である。
【図16】本発明の変形例において、センサ部としての透明導電膜を上側に有するボトム透明プレートの上側から見た場合の平面図である。
【図17】図16のボトム透明プレートを図4のA−A線と同様の線で切断した場合の断面図である。
【図18】本実施例において作製した透明導電膜をヒータ部として用いた場合の上昇温度をシミュレーション結果と比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の培養リアクタの実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
(培養リアクタの構成)
図1は、本実施の形態に係る培養リアクタ1の斜視図である。図2は、図1に示す培養リアクタ1の蓋部2を皿部3から取り外しした場合の斜視図である。図3は、図1に示す培養リアクタ1の分解斜視図である。以後、培養リアクタ1から蓋部2を取り外した場合に、蓋部2が皿部3から離脱する方向を上、その逆方向を下という。また、上下方向間の距離を厚さという。
【0023】
培養リアクタ1は、主に付着性細胞を培養するために用いられる。培養リアクタ1は、収容した細胞等の様子が見えるように、好ましくは、透明な材料から構成される。たとえば、培養リアクタ1は、透明性が高く、かつ、硬化時の収縮率が小さいポリスチレンにより好適に構成される。培養リアクタ1は、たとえば、上面から見た場合に一片が40mmの略正方形状であって、その厚さ方向の高さが15mmであり、いわゆる略直方体形状を有している。
【0024】
図1および図2に示すように、培養リアクタ1は、蓋部2および皿部3を主に有する。皿部3は、培養するための細胞を内包に収容できる収容部(後で詳述する)を有し、収容部の開口部を蓋部2により塞ぐことで、収容した細胞を外部から隔離できる。
【0025】
図4は、図1に示す培養リアクタ1を上面から見た場合の平面図である。図5は、図4に示す培養リアクタ1のA−A線断面図である。図6は、図4に示す培養リアクタ1のB−B線断面図である。以後、各断面図においては、見易さのため、厚さ方向および幅方向の縮尺を適宜変更して図示している。
【0026】
蓋部2は、上面側から枠部2a、トップ透明プレート4および筒部2bを主に有する。枠部2a、筒部2bおよびトップ透明プレート4を接合、嵌合あるいはインサート成型することで、蓋部2は、一体的に構成される。
【0027】
枠部2aは、上側から見た場合に、略正方形の外周を有し、その内方に略正方形の開口部を有する枠状の部材である。筒部2bは、上側から見た場合に、外周が枠部2aの外周よりも小さい略正方形の筒状部材である。筒部2bは、上側から見た場合にその筒内側が枠部2aの開口部と重なるように、枠部2aに固着されている。その枠部2aと筒部2bとにより構成された窓部は、トップ透明プレート4を備える。
【0028】
トップ透明プレート4は、枠部2aの外周よりも小さく、かつ筒部2bの外周よりも大きい外周を有する略正方形の透明な板状部材である。トップ透明プレート4は、枠部2aの開口部および筒部2bの筒内側から、蓋部2の外面に露出する。したがって、ユーザが蓋部2の上側から見た場合に、トップ透明プレート4の下側に存在する被観察物(たとえば、培養中の細胞)を、トップ透明プレート4を介して視認できる。トップ透明プレート4は、それを介して顕微鏡観察が容易であるように、カバーガラスと同等の光学的特性を有するのが好ましい。また、トップ透明プレート4は、全光線透過率が高く、屈折率が低く、かつ、光学的特性が均一であることが求められ、たとえば、ホウケイ酸ガラスや、ホウケイ酸ガラスと同等の光学的特性を有する樹脂等から主に構成される。たとえば、トップ透明プレート4は、厚さが150μm、一片の長さが35mmの略正方形の部材である。
【0029】
さらに、蓋部2は、炭酸ガス注入孔7、灌流注入孔8および灌流排出孔9を有していてもよい。炭酸ガス注入孔7、灌流注入孔8および灌流排出孔9は、蓋部2の上側面と下側面とを貫通する貫通孔であり、上側から見て、筒部2bの内周よりも内側に設けられる。炭酸ガス注入孔7、灌流注入孔8および灌流排出孔9は、炭酸ガス、酸素、オゾン、あるいは灌流等を収容部に注入または排出するために用いられる。たとえば、炭酸ガス注入孔7から、炭酸ガス、酸素あるいはオゾン等を培養中の細胞に供給できる。また、灌流注入孔8から、培地等を供給し、灌流排出孔9から、古い培地等を排出するようにしてもよい。炭酸ガス注入孔7、灌流注入孔8および灌流排出孔9の直径は、たとえば4mm前後であり、それらの孔径に嵌合可能な径のチューブを用いて各供給物質を供給してもよい。また、炭酸ガス注入孔7、灌流注入孔8および灌流排出孔9に嵌合させるチューブとしては、シリコーン系樹脂、ポリアミド系樹脂あるいはフッ素系樹脂製のチューブを用いることができる。
【0030】
皿部3は、上側から筒部3a、ボトム透明プレート5および鍔部3bを主に有する。筒部3a、ボトム透明プレート5および鍔部3bを接合、嵌合あるいはインサート成型することで、蓋部2は、一体的に構成される。筒部3aの筒内側の面、鍔部3bの上側の面、ボトム透明プレート5の上側の面、および蓋部2の下側の面は、培養する細胞を収容する空間、すなわち、収容部を構成する。
【0031】
筒部3aは、上側から見て、略正方形の開口部を有する筒状部材である。また、筒部3aは、その下面側端部に外周すべてを取り囲むように外側方向へ延出するフランジ部6を有する。フランジ部6は、筒部3aの角部の部分に切り欠き部7を有する。皿部3と蓋部2とを嵌合させる際には、筒部3aの外周は、筒部2bの内周に囲まれるような形態で嵌合される。その場合に、筒部2bの内周と筒部3aの外周とが密着するように、筒部2bの内周よりも筒部3aの外周がわずかに小さいのが好ましい。
【0032】
鍔部3bは、上側から見て、略正方形の外周および略正方形の開口部を有する部材である。鍔部3bは、筒部3aの筒内側よりも内方に開口部を有する。ボトム透明プレート5は、トップ透明プレート4と同様の部材から構成される。また、ボトム透明プレート5は、上側から見て、筒部3aの外周よりも大きい外周を有するため、ボトム透明プレート5の端部は、フランジ部6の切り欠き部7から露出する。したがって、ボトム透明プレート5は、筒部3aの筒内側、鍔部3bの開口部および切り欠き部7の内側から、皿部3の外側に露出する。かかる構造の皿部3では、ユーザが皿部3の下側から光を照射することで、ボトム透明プレート5の上にある被観察物を照らすことができる。
【0033】
図7は、トップ透明プレート4のA−A線断面図である。図8は、ボトム透明プレート5のB−B線断面図である。
【0034】
トップ透明プレート4およびボトム透明プレート5には、透明導電膜10a,10b,10c,10d(以後、透明導電膜10a,10b,10c,10dすべてを指す場合には、「透明導電膜10」という。)が形成されている。透明導電膜10は、スズをドープした酸化インジウム(ITO:Indium Tin Oxide)や酸化スズ(TO:Tin Oxide)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO:Fluoride−doped Tin Oxide)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO:Antimony−doped Tin Oxide)、または酸化亜鉛(ZnO:Zinc Oxide)等の導電性金属酸化物を主成分とする半導体セラミックス層から構成できる。これらの導電性金属酸化物を主成分とする半導体セラミックス層は、可視光に対する優れた透明性と高い電気伝導性を併せ持っている。これらの透明導電層の中でも、ITOを主成分とする透明導電膜10は、透明性および耐熱性が高く、抗菌作用を有することから、特に好ましい。
【0035】
透明導電膜10は、ヒータ部、センサ部または電気刺激部として機能する。たとえば、透明導電膜10が所定の電気抵抗値を有する場合には、透明導電膜10に通電すると、電気エネルギーの一部が熱エネルギーとして放出され、透明導電膜10が発熱する。その発熱により、透明導電膜10は、被観察物を加熱するためのヒータ部として機能できる。
【0036】
また、透明導電膜10は、温度を測定するためのセンサとして機能できる。一般に、温度変化ΔTに対し、電気抵抗は、ΔR[Ω]=kΔTの関係で変化する(k:係数)。ΔRは、電圧V[V]を印加した場合の電流変化ΔI[A]を検出することで測定できる。したがって、温度変化は、透明導電膜10に流れる電流値Iを検出することで測定できる。このように、透明導電膜10が電流量を検出するセンサ部として機能することで、得られた電流量により温度を測定することができる。
【0037】
さらに、透明導電膜10に接触している細胞が存在する場合、透明導電膜10は、細胞が生じる電気信号を検出するためのセンサとして機能できる。たとえば、電気信号を生じる神経細胞等の活動の活発さを測定するために、電気信号を検出してもよい。
【0038】
また、透明導電膜10に接触している細胞が存在する場合、透明導電膜10に通電することにより、細胞に電気刺激を与えることができる。細胞に電気刺激を与えることで、細胞の分化誘導等をコントロールできる場合がある。また、直流の電気パルス信号を利用して、細胞膜等の隔壁に穿孔を設け、遺伝子またはたんぱく質等の生理活性物質を導入させることがある。このように、細胞接触面に設けられた透明電極膜10は、電気刺激部として機能することができる。
【0039】
本実施の形態においては、トップ透明プレート4の上側の面(すなわち、細胞非接触面)には、ヒータ部としての透明導電膜10aが形成されている。透明導電膜10aは、膜厚が1000nm以下、好ましくは、500nm以下であるのが好ましい。透明導電膜10aは、透明導電膜10aの層あたりの電気抵抗値が150Ω以下になるように形成される。トップ透明プレート4の上面にヒータ部としての透明導電膜10aを設けることで、蓋部2が結露により曇るのを防ぐことができる。
【0040】
また、図8に示すように、ボトム透明プレート5の上側の面には、第1の透明導電膜としての透明導電膜10dが形成されている。透明導電膜10dは、筒部3aの内側(すなわち、細胞接触面)から連続して、筒部3aの外側であってフランジ部6の切り欠き部7から露出する部分(すなわち、リアクタ外)にまで形成されている。透明導電膜10dのうち、切り欠き部7から露出している部分は、以後、「電極取り出し部8」という。ボトム透明プレート5の上面は、培養する細胞と接触する細胞接触面であるため、ボトム透明プレート5の上面の透明導電膜10dに電圧を印加することで、細胞に電気刺激を与えることができる。なお、透明導電膜10dは、平滑な膜であってもよいし、凹凸形状を有する膜であってもよい。透明導電膜10dが凹凸形状を有する場合には、細胞の足場となるため、細胞が付着しやくすくなる場合がある。
【0041】
図9は、ボトム透明プレート5を下側から見た場合の、透明導電膜10bを示す平面図である。
【0042】
図8および図9に示すように、ボトム透明プレート5の下側の面(すなわち、細胞非接触面)には、ボトム透明プレート5側から、第2の透明導電膜およびヒータ部としての透明導電膜10b、絶縁層11およびセンサ部としての第3の透明導電膜としての透明導電膜10cが形成されている。
【0043】
ヒータ部として機能する透明導電膜10bは、膜厚が1000nm以下、好ましくは、500nm以下であるのが好ましい。透明導電膜10bは、透明導電膜10bの層あたりの電気抵抗値が150Ω以下になるように形成される。また、透明導電膜10bは、その一部に溝12を有しているのが好ましい。透明導電膜10bが適切な位置に溝12を有する場合には、透明導電膜10bは、電極からの距離に関わらず、温度分布が均一になる。溝12は、たとえば、幅1mmで互いに対向する2辺の端部から他辺へ向かって延びている。また、溝12は、長手方向の長さが、透明導電膜10bの同方向の長さの約半分程度で、他の溝12とは、交わらないように形成される。溝12は、たとえば、溝12を設ける部分の透明導電膜10bを、レーザ加工等により除去することで形成される。また、透明電極膜10bには、溝12と重ならない位置に、陽極端子13および陰極端子14が設けられる。
【0044】
絶縁層11は、透明導電膜10bと、透明導電膜10cとが電気的に導通しないように設けられる絶縁のための層である。絶縁層11は、たとえば、二酸化ケイ素(SiO)あるいは酸化アルミニウム(Al)等の絶縁性の材料であって、耐熱性の高い材料から主に構成される。また、絶縁層11は、十分に絶縁できる膜厚で形成するのが好ましく、たとえば、絶縁層11は、膜厚が2000nmにて形成される。なお、本明細書において、「絶縁性」とは、実質的に電気を通さないことを意味し、たとえば、1.0×10−6S/m以下の電気伝導率を有するものを指す。
【0045】
図10は、ボトム透明プレート5を下側から見た場合の、透明導電膜10bと透明導電膜10cとを重ねて示す平面図である。なお、図10では、絶縁層11の図示を省略している。
【0046】
透明導電膜10bは、その下面側に、センサ部としての透明導電膜10cを絶縁層11を介して備える。透明導電膜10cは、膜厚が18〜80nm、特に好ましくは、膜厚が18〜50nm以下であるのが好ましい。透明導電膜10cの膜厚が18nm以上の場合には、均一な膜の成膜が容易である。透明導電膜10cの膜厚が80nm以下である場合には、透明導電膜10cのシートあたりの電気抵抗値は、10kΩ以上となる。透明導電膜10cの電気抵抗値が10kΩ以上の場合には、透明導電膜10cに流れる電流の大きさが、温度変化により測定できる程度に変化できることから、透明導電膜10cは、センサとして機能できる。また、透明導電膜10cの膜厚が80nm以下の場合、環境温度に応じた電気抵抗値の変化率が十分に大きいため、透明導電膜10cは、検出感度に優れたセンサ部となる。特に、透明導電膜10cの膜厚が50nm以下のセンサ部は、環境温度に応じた電気抵抗値の変化率が10%以上であるため、検出感度により優れている。
【0047】
センサ部として機能する透明導電膜10cは、たとえば、幅1mmで、全長が10.8mmになるように形成される。具体的には、幅1mmで長さ(図10のSL2)が20mmの透明導電膜を6本平行に設け、それらを蛇腹状になるように接続することで、透明導電膜10cを構成することができる。透明導電膜10cの回路全長を長くし、かつそれを蛇腹状に配置することで、検出できる領域の面積を増加できる。また、その透明導電膜10cの端部は、長さ(図10のSL3,SL4)が9mmの陽極用端子および陰極用端子に接続されている。透明導電膜10cの蛇腹形状部分は、ヒータ部としての透明導電膜10bの発熱部分に配置されている。したがって、ヒータ部の温度に応じて、透明導電膜10cの抵抗値が変化するため、透明導電膜10cにある一定の電圧を印加した場合に流れる電流量を検出することで、透明導電膜10bの温度変化を検出することができる。すなわち、上述の膜厚および形状を有する透明導電膜10cとすることで、透明導電膜10cのセンサ機能を最適化できる。
【0048】
また、上述のような培養リアクタ1では、透明導電膜10cへの電圧の印加が容易となる。透明導電膜10cのうち、切り欠き部7から露出している電極取り出し部8から、電圧を印加できるからである。したがって、蓋部2に貫通孔を設けて、あるいは、筒部3aと鍔部3bとの間に貫通孔を設けて、収納部内方へ電極を挿入する必要がない。このように、培養容器の蓋に貫通孔を設ける必要が無いことから、作業性がよくコンタミネーションを起こしにくい。また、透明導電膜10cを収納部内側から外側まで延出させることで、電極が培養物に接触することがなく、収納部内方へプローブ電極を挿入した場合と比較して、電極を構成する物質からの溶出物等がないため、不純物の混入を少なくすることができる。
【0049】
上述のような培養リアクタ1では、透明導電膜10cを用いてより高い検出感度で温度を検出できる。なぜなら、センサ部としての透明導電膜10cの抵抗値を向上させるために、上面から見た透明導電膜10cの平面形状を蛇腹状とするだけでなく、膜厚を80nm以下としているからである。かかる構造の透明導電膜10cは、温度に応じた電気抵抗値の変化率が10%以上となり、検出感度に優れたセンサ部となる。また、センサ部にて検出した温度に応じて、ヒータ部の発熱量を調節するような制御部を用いてもよい。また、センサ部としての透明導電膜10cとヒータ部としての透明導電膜10bとが、絶縁層のみを介して隣接するため、温度の検出が容易である。さらに、透明導電膜10bは、ボトム透明プレート5のみを介して培養中の細胞と隣接するため、細胞を効率よく加熱できる。
【0050】
また、上述のような培養リアクタ1では、ヒータ部としての透明導電膜10bに、溝12を設けたことで、場所によらず均一に加熱できる。特に、透明導電膜10bは、ボトム透明プレート5を介して細胞接触面に隣接していることから、より温度分布がより均一なヒータ部であるのが好ましい。
【0051】
(培養リアクタ用治具)
次に、本実施の形態に係る培養リアクタ用治具20について説明する。図11は、本実施の形態に係る培養リアクタ1を培養リアクタ用治具20に固定し、倒立顕微鏡により観察する場合の断面図である。
【0052】
図12は、本実施の形態に係る培養リアクタ用治具20を示す斜視図である。図13は、図12の培養リアクタ用治具20に培養リアクタ1を載置した状態を示す斜視図である。図14は、図12の培養リアクタ用治具20に培養リアクタ1を固定し、電極等を取り付けた状態を示す斜視図である。なお、図12においては、見易さのため、後述のプローブ電極25およびそのプローブ電極25を保持するための部材の図示を省略している。
【0053】
培養リアクタ用治具20は、培養リアクタ1を載置するための台座21を有する。台座21は、皿部3の下側の面と接触する面である。台座21は、培養リアクタ1を側面側から固定するための固定手段として機能する固定ホルダ22を有する。固定ホルダ22は、培養リアクタ1を挟み込む方向に移動できるのが好ましい。
【0054】
培養リアクタ用治具20は、透明導電膜10に給電または電流を検出するための電極として、センサ部用電極24、プローブ電極25,25、電極26,26およびヒータ部用電極27,27等を有する。センサ部用電極24およびヒータ部用電極27,27は、台座21の上側の面に設けられている。そのため、培養リアクタ1を台座21に所定の向きで載置した場合には、透明導電膜10cの陽極用電極および陰極用電極にセンサ用電極24が電気的に接続される。同様に、培養リアクタ1を台座21に所定の向きで載置した場合には、陽極端子13および陰極端子14にヒータ部用電極27,27が電気的に接続される。したがって、台座21の所定の場所に培養リアクタ1を固定することで、センサ部用電極24を介して透明導電膜10cに流れる電流値を検出できることに加え、ヒータ部用電極27,27を介して透明導電膜10bに電圧を印加できる。なお、台座21または固定ホルダ22には、所定の向きでのみ培養リアクタ1を載置できるように、ガイド溝等が設けられているのが好ましい。
【0055】
また、プローブ電極25,25は、電極取り出し部8に電気的に接続し、透明導電膜10dに電圧を印加するために設けられている。なお、プローブ電極25,25は、電圧を印加するためではなく、電流を流すため、あるいは、電流を検出するための電極であってもよい。また、電極26,26は、蓋部2に設けられた透明導電膜10aに給電するために設けられている。したがって、培養リアクタ1を固定ホルダ22等により台座21に載置した後、電極取り出し部にプローブ電極25,25を接続し、蓋部2に設けられた透明導電膜10aに電極26,26をそれぞれ接続できる。
【0056】
台座部21のうち、開口部と重なる領域には、透光部としての貫通孔28が設けられている。したがって、培養リアクタ用治具20の内部に設けられた照光用部材からの光は、貫通孔28および開口部を抜けて、培養リアクタ1の内部の培養中の細胞等を照光できる。
【0057】
図15は、培養リアクタ1で細胞等を培養するためのシステム概略を示すブロック図である。
【0058】
培養リアクタ用治具20は、たとえば、以下のように用いられる。まず、培養リアクタ1を固定ホルダ22により固定する。それを倒立顕微鏡30の対物レンズ真上の架台上に配置する。次に電極を電源(付図示)につなぎ、炭酸ガス供給ユニット31から、チューブ32を通じてコントローラ33へ炭酸ガスを供給する。コントローラ33では、培養に適した濃度をセンシングして、そのセンシング値を培養に適する濃度(たとえば、約5%)とする様に炭酸ガス供給ユニット32で微調整を行い、チューブ32を通じて培養リアクタ1の収容部内へ炭酸ガスを供給する。灌流に使用する方法も同様で、循環させる灌流ユニット装置34を用いて実施する。
【0059】
上述のような培養リアクタ用治具20を用いることで、培養リアクタ1に接続するための各電極を、簡便に接続することができる。また、培養リアクタ1を固定することができるため、培養した細胞を観察しやすい。また、上述のように培養リアクタ1を用いることで、各ガスボンベからの供給物を、コントローラ33により適宜供給できる。したがって、培養条件別のガスボンベを準備しなくても、チューブ等を経由して供給物をコントローラに供給することで、培養条件を変えることができる。そのため、培養装置の小型化を図ることができると共に、顕微鏡観察する机上のスペースを有効に活用することができる。
【0060】
(その他の実施の形態)
以上、本発明の培養リアクタ1、および培養リアクタ用装置の各実施の形態について説明したが、本発明は、上述の実施の形態に限定されることなく、種々変形を施して実施可能である。
【0061】
たとえば、本実施の形態においては、センサ部としての透明導電膜10cは、温度を検出するセンサとして機能するものとしたが、センサ部は、温度以外を検出するために用いられてもよい。
【0062】
本実施の形態においては、各部材の寸法を例示したが、例示した寸法に限定されず、また、誤差を含みうるものである。たとえば、培養リアクタ1は、上面から見て1辺が40mmの正方形であって、厚さが15mmとしたが、この数値に限定されない。また、培養リアクタ1は、上から見て平面視が略正方形でなくてもよい。測定する細胞によってこれらの値を適宜変えることができる。しかし、倒立顕微鏡30を用いて効率よく観察を行い、かつ、細胞を培養できる大きさの培養リアクタ1としては、上から見た平面視にて1辺が20〜50mmの正方形と同等の面積を有する形状であるのが好ましい。
【0063】
また、本実施の形態においては、培養リアクタ1は、上から見た平面視にて略正方形であるものとしたが、そのような形態に限らない。たとえば、上側から見た場合の形状が、円形、正方形以外の多角形、楕円等その他どのような形状であってもよい。上側から見て筒部3bの外周が角部を有する場合には、角部に切り欠き部7を設けることで、電極取り出し部8を容易に形成できる。なお、本明細書において「角部」とは、鋭角であるか鈍角であるかを問わず、また、平面あるいは曲面で面取りされていてもよい。また、培養リアクタ1の上側から見た場合の形状が四角形の場合には、培養リアクタ1を横に並べて観察する際に、観察が容易である。また、上側から見た場合の培養リアクタ1の形状が、正多角形の場合には、積み上げて保存する場合等に、積み上げやすいという利点を有する。
【0064】
また、本実施の形態においては、電極取り出し部8は、角部に設けられるものとしたが、このような形態に限らない。たとえば、フランジ部6のうち、角部以外に切り欠き部7を設けることで、角部以外の部分に電極取り出し部8を設けることができる。しかし、角部に電極取り出し部8を設けることにより、電極を接触させやすい。
【0065】
また、本実施の形態においては、蓋部2は、枠部2aと筒部2bとの間にトップ透明プレート4を挟むものとしたが、このような形態に限らない。トップ透明プレート4を支持できるような蓋部2であればどのような形態であってもよい。しかし、トップ透明プレート4は、薄肉ガラスであり脆いことから、枠部2aと筒部2bとで挟むように固定することで、好適に固定できる。同様に、皿部3は、筒部3aと鍔部3bとの間にボトム透明プレート5を挟むように一体成型されているがこのような形態に限られない。
【0066】
また、本実施の形態においては、蓋部2は、炭酸ガス注入孔7、灌流注入孔8および灌流排出孔9を有しているが、これらは必須ではない。蓋部2は、炭酸ガス注入孔7のみ、または、灌流注入孔8および灌流排出孔9のみを有していてもよいし、炭酸ガス注入孔7、灌流注入孔8および灌流排出孔9すべてを有していなくてもよい。また、蓋部2は、炭酸ガスおよび灌流以外の物質を挿入するための孔を有していてもよい。また、炭酸ガス注入孔7、灌流注入孔8および灌流排出孔9から、チューブ以外のものにより物質を注入してもよい。たとえば、シリンジ等により注入してもよい。
【0067】
また、上述の実施の形態では、枠部2aおよび鍔部3bは、略正方形形状の開口部を有するものとしたが、このような形態に限らない。たとえば、枠部2aおよび鍔部3bに設けられた開口部は、正方形ではなく、円形あるいは多角形、楕円等様々な形状であってもよい。しかし、枠部2aおよび鍔部3bの開口部を、筒部2bおよび筒部3aの内周と同様の形状とすることで、顕微鏡で観察できる領域をより広く確保できる。
【0068】
また、上述の実施の形態は、透明導電膜10a,10b,10c,10dのすべてを有するが、これらの内の一部がなくてもよい。たとえば、結露等が生じない場所で培養リアクタ1を用いる場合には、透明導電膜10aは、必須ではない。細胞に加熱する必要がない場合には、透明導電膜10b,10cを設けなくてもよい。また、透明導電膜10bにより加熱された場合の温度を検出する必要がない場合には、透明導電膜10cを設けなくてもよい。また、透明導電膜10aの上側に、絶縁層を介して、センサ部としての別の透明導電膜10を設けてもよい。あるいは、センサ部としての透明導電膜10は、細胞接触面に設けられてもよい。
【0069】
図16は、細胞接触面に設けた場合のセンサ部としての透明導電膜10eを、ボトム透明プレート5の上側から見た場合の平面図である。図17は、透明導電膜10eを、図4のA−A線と同様の線で切断した場合の断面図である。
【0070】
図16に示すように、細胞接触面にセンサ部としての透明導電膜10eを設けた場合には、透明導電膜10eは、透明導電膜10cと同様に、たとえば、幅1mmで、全長が10.8mm以上になるように形成される。具体的には、幅1mmで長さ(図16のSL2)が20mmの透明導電膜を6本平行に設け、それらを蛇腹状になるように接続することで、構成され得る。また、その透明導電膜10eの2つの末端は、ボトム透明プレート5の辺に沿ってそれぞれ別の電極取り出し部8まで伸びている。図16に示す透明導電膜10eでは、プローブ電極25により電流を測定できる。図16に示す構造を有することで、透明導電膜10eは、細胞接触面に設けられているため、細胞の温度を直接検出できる。したがって、細胞の温度をより正確に測定することが求められている場合には、図16のように透明導電膜10eをボトム透明プレート5の上側に設けるのが好ましい。なお、細胞接触面にセンサ部としての透明導電膜10eを設ける場合には、細胞に電流が流れないように、透明導電膜10eの上側に絶縁層を設けることが好ましい。しかし、培養する細胞が、センサ部として機能させるための電流程度の電気刺激に耐えうる、あるいは電気刺激に対して特段の変化がない場合には、透明導電膜10eの上側に絶縁層を設けなくてもよい。
【0071】
また、透明導電膜10は、筒部3b等に設けられてもよい。しかし、付着性細胞は、一般に、ボトム透明プレート5の上側の面に付着するため、ボトム透明プレート5にヒータ部としての透明導電膜10を設けることで、細胞を直接加熱できるため好ましい。また、電気刺激部としての透明導電膜10は、細胞が付着する面に設けられる必要があることから、通常、ボトム透明プレート5の上側の面に設けられるのが好ましい。また、細胞接触面に、ヒータ部あるいはセンサ部としても機能する透明導電膜を設けてもよい。
【0072】
また、本実施の形態においては、細胞接触面に設けられる透明導電膜10aは、電気刺激部として機能するものとしたが、このような形態に限らない。たとえば、透明導電膜10aは、細胞が生じる電気信号を受信するためのセンサ部として機能するものとしてもよい。透明導電膜10aが細胞からの電気信号を受信するためのセンサ部として機能する場合には、個々の領域毎に電気信号を観測できるように透明導電膜10aを分割してもよい。
【0073】
また、上述の実施の形態では、培養リアクタ1は、透明な部材から構成されるものとしたが、ここで透明とは、実質的に可視光を透過するものを指し、たとえば、全光線透過率が60%以上、好ましくは80%以上のものを指す。また、本明細書で「透明」とは、無色透明のみならず、上記の全光線透過率である場合には、有色透明であってもよい。また、トップ透明プレート4およびボトム透明プレート5としては、その他の部材よりも透過率が高いものを用いるのがより好ましい。
【実施例】
【0074】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0075】
(ヒータ部の設計)
上から見て一片が40mmの略正方形の培養リアクタを用意した。細胞を培養する際に用いるヒータ部は、通常、培養リアクタ内を約20℃昇温できる能力が要求されている。したがって、縦が2.0cm、横が2.3cmの透明導電膜にて、室温から20℃昇温できるようなヒータ部としての透明導電膜の仕様を計算により設計した。計算結果を表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
次に、透明導電膜に溝を設けた場合の端子間抵抗値を計算にて求め、それにより消費される電力を計算した結果を表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
さらに、上昇温度を考慮して抵抗値電圧を入力し、実際の測定値との比較を行った結果を表3に示す。なお、透明導電膜は、加工ロット毎に厚さ等が異なることから、透明導電膜の電気抵抗値の誤差を考慮し、表2の電気抵抗値の80%の値が実際の電気抵抗値になると仮定して補正し、補正後の計算を行った。
【0080】
【表3】

【0081】
上記検討を基に、ヒータ部の設計仕様を決定した。仕様を表4に示す。また、表4の仕様で作製したヒータの電流に対する温度特性を示すグラフを図18に示す。なお、透明導電膜は、真空蒸着装置(BMC−1400、株式会社シンクロン製)にて成膜した。また、透明導電膜中に溝を設けるため、レーザーマイクロカッター(LR−3100FSUV、HOYA株式会社製)を用いて、YAGレーザで溝部分の透明導電膜を除去した。
【0082】
【表4】

【0083】
(センサの設計)
次に、センサの設計について説明する。まず、上述のように作製した、ヒータ部としての透明導電膜に、絶縁層を設けた。絶縁層としては、真空蒸着装置(BMC−1400、株式会社シンクロン製)にて、SiO膜を形成した。次に、形成した絶縁層の上にセンサ部として、ITOからなる透明導電膜を形成した。
【0084】
ここで、透明導電膜あたりの抵抗値(以後、シート抵抗値という。)が5〜150kΩ/シートの場合、透明導電膜は、センサとして機能できた。したがって、センサ部が温度センサとして機能するためには、測定温度に対して十分な端子間抵抗値の変化があるのが好ましい。本実施例では、端子間抵抗値を10kΩ以上に設定するため、幅が1mm、長さが20mmの層を6本平行に設け、それらを蛇腹状に接続し、総回路長が10.8mmの透明導電膜を形成した。なお、図10において、SL1が20mm、SL2が18mm、SL3が9mm、SL4が9mmとなるように、センサ部としての透明導電膜を形成した。
【0085】
シート抵抗値が5〜150Ω/シートの場合、透明導電膜の膜厚および端子間抵抗値が、シート抵抗値に応じてどのように変化するかシミュレーションにより計算した。その結果を表5に示す。
【0086】
【表5】

【0087】
また、ヒータ部としての透明導電膜の仕様計算と同様の計算方法で、膜厚の異なる透明導電膜の端子間抵抗値を計算した結果を表6に示す。
【0088】
【表6】

【0089】
表6の結果より、膜厚が80nm以下の場合は、端子間抵抗値が10kΩ以上になった。したがって、膜厚が80nm以下の透明導電膜は、センサ部として用いるのに適していることが示されていると言える。
【0090】
ここで、シート抵抗値が120Ω/シートであって、膜厚が18nmの透明導電膜を実際に作成し、温度に対する端子間抵抗値を、抵抗測定器(デジタルマルチテスターR6552、株式会社アドバンテスト製)を用いて測定した。温度は、サーミスタ温度計(RF−100、Electronic Temperature Instruments Ltd,社製)を用いて測定した。測定結果を表7に示す。
【0091】
【表7】

【0092】
表7のデータに示されるように、シート抵抗値が120Ω/シートであって、膜厚が18nmの透明導電膜では、温度の上昇と端子間抵抗値の上昇とに相関関係がある。また、シート抵抗値が120Ω/シートであって、膜厚が18nmのセンサは、1℃あたりの端子間抵抗値が10%以上変化することから、センサとして十分な検出能を有していた。
【0093】
(比較例)
ここで、23℃におけるシート抵抗値が5Ω以下であって、膜厚を400nmとした透明導電膜を用いて、温度を変化させた場合の端子間抵抗値を測定した。測定結果を表8に示す。
【0094】
【表8】

【0095】
表8の結果より、膜厚を400nmとした比較例では、膜厚を18nmとした場合よりも、温度の上昇傾向と端子間抵抗値との間の相関関数が低下していた。また、温度1℃あたりの端子間抵抗値の変化率は、6%であったため、センサ部として用いるには難しかった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、たとえば、細胞等の培養および観察等に用いることができる。
【符号の説明】
【0097】
1 培養リアクタ
2,2a,2b 蓋部
3,3b 皿部
3a 筒部(皿部の一部)
4 トップ透明プレート(透明プレート、蓋部の一部)
5 ボトム透明プレート(透明プレート、皿部の一部)
6 鍔部(皿部の一部)
7 切り欠き部(皿部の一部)
8 電極取り出し部(透明導電膜、センサ部または電気刺激部の一部)
11 絶縁層
10a,10 透明導電膜(ヒータ部)
10b,10 透明導電膜(ヒータ部,第2の透明導電膜)
10c,10 透明導電膜(センサ部,第3の透明導電膜)
10d,10 透明導電膜(電気刺激部,第1の透明導電膜)




【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に細胞を培養するための収容部と、
上記収容部内の細胞接触面の少なくとも一部を構成する透明プレートと、
上記透明プレートの細胞接触面側には、上記収容部の内側から外側に連続して設けられる第1の透明導電膜とを有することを特徴とする培養リアクタ。
【請求項2】
請求項1に記載の培養リアクタにおいて、
前記第1の透明導電膜のうち、前記収容部外に延出する部分は、電極取出し端子部を構成することを特徴とする培養リアクタ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の培養リアクタにおいて、
前記第1の透明導電膜は、センサ部、電気刺激部またはヒータ部を構成することを特徴とする培養リアクタ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の培養リアクタにおいて、
前記収容部は、筒部と鍔部とを接合して成り、
前記第1の透明導電膜は、上記筒部の内部および外部に連続する同一平面上に形成されていることを特徴とする培養リアクタ。
【請求項5】
請求項4に記載の培養リアクタにおいて、
前記筒部の外周は、当該筒部の軸方向に見た場合に外側へ突出する角部を有し、
前記第1の透明導電膜のうち前記収容部外に延出する部分は、前記角部から突出していることを特徴とする培養リアクタ。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の培養リアクタにおいて、
前記透明プレートの前記第1の透明導電膜設置面の逆側に、第2の透明導電膜および第3の透明導電膜のうち少なくとも1層を有し、
上記第2の透明導電膜および上記第3の透明導電膜の両方を有する場合には、当該第2の透明導電膜および当該第3の透明導電膜が絶縁層を介して積層されていることを特徴とする培養リアクタ。
【請求項7】
請求項6に記載の培養リアクタにおいて、
第1の透明導電膜、第2の透明導電膜および第3の透明導電膜の少なくとも1つの膜厚が80nm以下であることを特徴とする培養リアクタ。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の培養リアクタにおいて、
前記第1の透明導電膜は、センサ部又は電気刺激部を構成し、
前記第2の透明導電膜および前記第3の透明導電膜は、それぞれヒータ部またはセンサ部を構成することを特徴とする培養リアクタ。
【請求項9】
請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の培養リアクタにおいて、
前記第2の透明導電膜および前記第3の透明導電膜のうち少なくとも1方は、膜厚が500nm以下であることを特徴とする培養リアクタ。
【請求項10】
請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の培養リアクタであって、
前記第1の透明導電膜は、前記電気刺激部または前記センサ部を構成すると共に、その膜厚が1000nm以下であり、
前記第2の透明導電膜は、前記ヒータ部を構成すると共に、その膜厚が500nm以下であり、
前記第3の透明導電膜は、温度を測定するための前記センサ部を構成すると共に、その膜厚が80nm以下であることを特徴とする培養リアクタ。
【請求項11】
内部に細胞を培養するための収容部と、
上記収容部内の細胞接触面の少なくとも一部を構成する透明プレートと、
上記透明プレートの細胞接触面側には、上記収容部の内側から外側に連続して設けられる透明導電膜とを有する培養リアクタを固定するための培養リアクタ用治具であって、
上記培養リアクタを固定するための固定手段と、
上記透明導電膜に給電するため、または電流を検出するための電極と、
上記透明プレートと重なる領域に光を照射するための透光部とを有する培養リアクタ用治具。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−80869(P2012−80869A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254303(P2010−254303)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(510054809)株式会社バイオ光学研究所 (1)
【Fターム(参考)】