説明

培養容器

【課題】 生体細胞などの培養作業において、高コントラストの顕微鏡観察に好適な培養容器を提供する。
【解決手段】 培養容器10は容器本体11および蓋体12を備え、容器本体11は平板状の底部11aと円筒状の側部11bが一体構造に形成される。蓋体12は容器本体11を施蓋する蓋天部12aと、容器本体11に嵌め合うように形成される蓋側壁部12bを備える。そして、底部11aの中央領域に設けられた本体開口部11cが第1板状ガラス13により閉塞されている。それに対向して蓋天部12aに設けられた蓋体開口部12cが第2板状ガラス14により閉塞されている。ここで、第2板状ガラス14には、第1板状ガラス13の対向面である第2板状ガラス下面14bに親水性ポリマー層が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば生体細胞、生物組織片、微生物などの被培養物の顕微鏡観察に適した培養容器に関する。
【背景技術】
【0002】
生体細胞等の培養は、被培養物が収容された例えばシャーレ等の培養容器を用い、一般にいわゆるインキュベータといわれる所定の温度、雰囲気ガスに制御されたチャンバー内に上記培養容器が載置されて行われる。そして、適宜にインキュベータから培養容器が取り出され、その被培養物の培養状態を検査するために顕微鏡を用いた観察が行われる。
【0003】
従来、上記培養容器として例えばシャーレのように高い光透過性の平板状の底部と筒状の側部を有する容器本体、この本体を上方から施蓋する蓋体とからなる容器が用いられている。ここで、蓋体はその閉蓋状態において容器本体を密閉しないように隙間を生じ、容器本体の培地がこの隙間を通してインキュベータ内の例えば酸素と所定濃度の二酸化炭素等の雰囲気ガスに通気する構造になっている。このような培養容器には、その他に複数の囲繞部が例えばマトリクス状に配置されてなるマイクロプレートやマルチウェルプレート等といわれる容器がある。以下、このような培養容器を従来型培養容器と呼称する。
【0004】
従来型培養容器としては、以前は、例えばガラス蓋付きの皿状ガラス容器であるシャーレが用いられてきたが、近年では、その培養容器は例えばポリスチレンのような光透過性を有する合成樹脂材により形成されるようになっている。これは、合成樹脂材が安価でその成形が容易であり、所望の形状の培養容器が低コストに製造できるからである。しかも、この合成樹脂製の培養容器は、生体の細胞や組織片などの付着を容易にする表面処理の作業も円滑に行うことができ、顕微鏡観察に適する平面性の確保も容易である。
【0005】
また、近年では、培養容器の少なくとも底部を光透過性が高く自己蛍光の低い材料、例えば合成石英で構成し、容器内の被培養物を、高倍率及び高感度に観察または測定できるようにした培養容器が提案されている(例えば特許文献1)。
【0006】
一方、微分干渉顕微鏡などを使用し、培養容器内の細胞や組織片などを、より高倍率、高コントラストで観察をする必要が生じてきている。ところが、合成樹脂材からなる上記従来型培養容器を用いてかかる要請に応えようとしても、所望する微分干渉顕微鏡観察は難しい。これは、光路途中に容器の樹脂材料が介在すると、成型上不可避的に生じてしまう樹脂の歪によって、微分干渉顕微鏡にとって重要な照射光の振動面が、撹乱されてしまうためである。
【0007】
特許文献1の培養容器でも、依然として、蓋については従来の樹脂製であり、かかる問題は解消されない。
【0008】
蓋体に樹脂ではなく、ガラスを用いる生化学用容器として、蓋体を構成する上部部材の窓部が石英ガラスからなる容器(例えば特許文献2)や、ウェルを備えた容器上面を、板ガラスとその板ガラスを補強するために板ガラス周囲に取り付けられた枠体により構成されている蓋体で覆う容器(例えば特許文献3)が提示されている。
【0009】
特許文献2では、蓋体を構成する上部部材の窓部が石英ガラスからなり、容器本体を構成するシャーレの窓部がカバーガラスからなる構造の培養容器が開示されている。ここで、上部部材は、その窓部がシャーレの内部に突出して、その内部に収容された培養液と接するようになる。この場合、例えば一部の蒸発した培養液あるいは雰囲気ガス等が結露することから生じる窓部の曇りは、窓部が培養液に接することにより容易に回避される。
【0010】
また、特許文献3では、蓋体が板ガラスおよびこの板ガラスの周囲に取り付けられた枠体により構成され、容器本体が多数のウェルを備えた光透過性のガラスからなるマイクロプレートになる例が開示されている。ここで、上記蓋体の内面に形成され易い雰囲気ガス等の結露による曇りを防止するため、親水性ポリマーとシリコンアルコキシドの重合物を板ガラスの下面に含浸させたり、板ガラスの下面に表面加工を施して微細な凹凸を形成する。なお、板ガラス表面の凹凸は親水性を高めるように働くものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3529014号公報
【特許文献2】特許第3427105号公報
【特許文献3】特開2006−191834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ガラス材は、樹脂材と比較してその平面性を確保しながらより薄い肉厚に加工でき、また低蛍光でもあることから、特許文献2,3に提示された培養容器は、顕微鏡の光路が樹脂製のものに較べ高倍率・高感度の顕微鏡観察を容易にする。特に、特許文献2に開示されている培養容器は、被培養物に照明光を投射するためのコンデンサレンズあるいは顕微鏡の対物レンズを培地に近づけることが容易な構造であり、焦点深度が浅い高倍率の場合にも充分に対応できるようになる。しかしながら、この場合、蓋体を構成する上部部材の窓部が突出して培養液に接する構造になるために、インキュベータ内での培養あるいは顕微鏡観察において、培地への雰囲気ガスのガス交換効率が、従来型培養容器と比較して、相対的に低下するという不具合がある。
【0013】
そして、特許文献3に提示された蓋体を有する培養容器では、例えば微分干渉顕微鏡のような高いコントラストにできる顕微鏡において、観察対象である被培養物の解像度が向上し難いという不具合が生じる。これは、上述したような結露による曇りを防止するために含浸させた親水性ポリマーとシリコンアルコキシドの重合物、板ガラスの下面に施した微細な凹凸によって、微分干渉顕微鏡における直線偏光の振動面が乱され易くなるからである。
【0014】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、培養等における雰囲気ガスのガス交換効率を低下させることなく、しかも、特に高コントラストの顕微鏡観察に好適な培養容器を提供することを目的とする。そして、培養操作における作業効率を向上させる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、これまでにガラス材、樹脂材、防曇剤等の種々の材料の可視光における偏光について検討を行ってきた。その中で、非晶質無機材からなり、歪の少ない板状ガラスの場合、高分子からなる樹脂性部材あるいは防曇部材等に較べて偏光が小さく、例えば微分干渉顕微鏡のような高いコントラストの顕微鏡における解像度が向上することを見出した。また、板状ガラスを培養容器に適用する場合に、板状ガラスの平面性を高くしその表面に極薄の親水性ポリマー層を形成することが、結露を防止し、観察像の明度の向上に有効になることを見出した。本発明はこのような知見に基づいてなされている。
【0016】
すなわち、上記目的を達成するために、本発明にかかる培養容器は、被培養物を収容する培養容器であって、その底部が平板状でありその側部が筒状になり上方向に開いた容器本体と、前記容器本体を上方向から閉蓋する蓋体と、を有し、前記容器本体の底部の前記被培養物が収容される領域は光透過性の第1の平板ガラスにより形成され、前記蓋体のうちで前記第1の平板ガラスに対向する領域は光透過性の第2の平板ガラスにより形成されている、構成になっている。ここで、前記第2の平板ガラスにおいて、前記第1の平板ガラスに対向する面に親水性ポリマー層が形成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の構成により、被培養物の培養における雰囲気ガスのガス交換効率が低下することなく、例えば微分干渉顕微鏡のような高いコントラストの顕微鏡による被培養物の観察においてその解像度が向上する。そして、本発明にかかる培養容器を用いることにより、培養操作における培養あるいは顕微鏡観察等の作業効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態にかかる顕微鏡観察に適した培養容器の一例を閉蓋状態のもとに示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のX−X矢視断面図である。
【図2】本発明の実施形態にかかる顕微鏡観察に適した培養容器の本体における他例を示す図1(a)のX−X矢視の略断面図である。
【図3】本発明の実施形態にかかる顕微鏡観察に適した培養容器の蓋体における他例を示す図1(a)のX−X矢視の略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態にかかる顕微鏡観察に適した培養容器について図1を参照して説明する。ここで、図1は本実施形態にかかる培養容器の一例を閉蓋状態のもとに示す図であり、(a)はその平面図、(b)は(a)のX−X矢視の断面図である。以下、互いに同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は一部省略される。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なる。
【0020】
図1に示すように、培養容器10は、通常の細胞培養用シャーレのような従来型培養容器であり、容器本体11および蓋体12を備えている。容器本体11は、上方に開いた有底円筒状の構造であり、例えば中央領域が円形状にくり抜かれた底部11aと円筒状の側部11bが、例えばポリスチレンなどの合成樹脂の成形により一体構造に形成されている。そして、上記円形状にくり抜かれて設けられる本体開口部11cは、第1板状ガラス上面13aおよび第1板状ガラス下面13bを有する例えば円盤状の非晶質素材からなる第1板状ガラス13により下方から閉塞されている。
【0021】
ここで、被培養物(図示せず)は、通常液体培地中で、第1板状ガラス上面13a上に培養されるようになっている。また、底部11aの外底面111aは凹陥状になっており、第1板状ガラス13はその第1板状ガラス下面13bが上記外底面111aにより形成される凹陥部内に位置するように取り付けられる。このようにして、第1板状ガラス13は上記凹陥状の外底面111aにより培養容器の外部から保護される。
【0022】
蓋体12は、容器本体11の上方から着脱自在に施蓋する略円板状の部材からなる蓋天部12aと、容器本体11の側部11bの段差111bの部分に嵌め合うように形成された円環状の蓋側壁部12bとを備えている。蓋天部12aは、例えばその中央領域が円形状にくり抜かれて、上記本体開口部11cにほぼ対向する領域に蓋体開口部12cが設けられた構造になっている。ここで、図1(a)に示すように、蓋体開口部12cの口径は本体開口部11cのそれより大きくなるように形成されるとよい。また、蓋天部12aの下面の例えば3箇所に突起部12dが形設される。このような蓋体12は例えばポリスチレンなどの合成樹脂の成形により一体構造に形成される。
【0023】
そして、上記蓋体開口部11cは、第2板状ガラス上面14aおよび第2板状ガラス下面14bを有する例えば円盤状の非晶質素材からなる第2板状ガラス14により上方から閉塞されている。ここで、第2板状ガラス下面14bには1nm程度以下の例えば原子層レベルの薄い親水性ポリマー層15が形成される。
【0024】
なお、上記突起部12dは、容器本体11の側部11bの先端面112bに当接して隙間を生じさせ、閉蓋状態において容器本体11を密閉しないようになっている。このようにして、容器本体11の培地の被培養物がその培養下あるいは顕微鏡観察下において培養雰囲気ガスに通気する構造になり、その雰囲気ガスのガス交換効率は高く維持される。
【0025】
上記培養容器10において、底部11aおよび側部11bの一体成形、並びに蓋天部12a、蓋側壁部12bおよび突起部12dの一体成形には、それ等の軽量化、成形容易性等を考慮して樹脂を用いることが好ましい。このような樹脂としては、ポリスチレンの他にアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂あるいは脂環式構造を有する樹脂等が挙げられる。そして、培養容器10に要請される機械的強度、平坦性、均一性あるいは光学特性を良好に実現できる樹脂材を用いることが好ましい。ここで、この樹脂材は光透過性、光非透過性のどちらであっても構わない。
【0026】
第1板状ガラス13および第2板状ガラス14の素材としては、光透過性に優れたホウケイ酸ガラス材が好適である。その他に、石英ガラス材、ソーダライムガラス材、合成ガラス材等の光透過性のガラス材を使用することができる。ここで、合成ガラス材は、例えば酸化珪素、酸化ホウ素、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン等を適宜に含んでいる。このような板状ガラスの肉厚は例えば0.08mm〜0.5mm程度に薄くすることが容易である。
【0027】
上記第1板状ガラス13および第2板状ガラス14は、その平面形状が円形の他に楕円形、三角形、矩形、多角形等の所望の形状に作製される。ここで、これ等の平板ガラスは、本体開口部11cあるいは蓋体開口部12cの形状に合わせて形成され、互いに同じあるいは異なるガラス材から加工製造される。
【0028】
そして、第1板状ガラス13および第2板状ガラス14は高い平面性を有している。例えば、それ等の両面は、その平均面粗さ(Ra)が150nm以下になるようにダウンドローあるいはフロート法による成形、または、ラッピング加工、ポリッシング加工されると好適である。Ra値が150nmを超えてくると、例えば微分干渉顕微鏡を用いた被培養物の観察において、その解像度の低下により培養状態の検査、判定等が難しくなり、その操作性および作業性が悪くなる。
【0029】
また、第2板状ガラス14の下面14bすなわち第1板状ガラス13の対向面に形成される親水性ポリマー層15としては、リン脂質ポリマーが好適である。リン脂質ポリマーは、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマー(MPCポリマー)、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド重合体および2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・ブチルメタリレート共重合体から適宜に選択されたものである。
【0030】
ここで、親水性ポリマー層15は、リン脂質ポリマーの吸着による方法で形成される。すなわち、先ず第2板状ガラス下面14bをリン脂質ポリマー塗液に浸し室温で一定時間保持する。その後に上記下面14bを洗い流して室温において乾燥させる。このようにして、nmオーダーあるいは原子層レベルの薄い親水性ポリマー層15を第2板状ガラス下面14bへの吸着により形成することができる。
【0031】
そして、第1板状ガラス13は、第1板状ガラス上面13aの周縁部が底部11aの外底面111aに接着剤を介して接合し、本体開口部11cを下方から覆うように取り付けられる。同様に、第2板状ガラス14は、第2板状ガラス下面14bの周縁部が蓋天部12aの蓋上面121aに接着剤を介して接合し、蓋体12を上方から覆う。ここで、接着剤は培養容器に収容される培養液に溶け込まない樹脂組成物からなる。
【0032】
次に、図2および図3を参照して本実施形態の他例について説明を加える。図2(a)〜(d)は本実施形態にかかる顕微鏡観察に適した培養容器の本体における4種類の他例を示す断面図である。図3(a)〜(c)は本実施形態にかかる顕微鏡観察に適した培養容器の蓋体における3種類の他例を示す断面図である。ここで、図2および図3は、図1(a)に示した培養容器のX−X矢視の略断面図になっている。以下、図1で説明した培養容器10の場合の構造と異なるところを主に説明する。
【0033】
容器本体の場合の図2(a)に示す他例では、円盤状の第1板状ガラス13が円筒状の側部11bに第1板状ガラス上面13aの周縁部で接合し、容器本体11の底部になるように取り付けられている。この場合、第1板状ガラス13の肉厚は、容器本体11の大きさに合わせてその強度が確保できる程度に設定される。例えば0.12mm〜1mm程度の範囲で設定される。
【0034】
図2(b)に示す他例では、容器本体11の底部11aに複数の孔16が形成され、その外底面111aに第1板状ガラス13の第1板状ガラス上面13aが接合されている。そして、この底部11aおよび第1板状ガラス13は、マトリクス状に配置された複数の透孔を有するマルチウェルプレートを構成する。この場合の第1板状ガラス13は、その素材あるいは肉厚が図2(a)の場合と同様になるように作製される。
【0035】
図2(c)に示す他例では、容器本体11において、底部11aに本体開口部11cが形成され、例えば0.08mm〜0.5mm程度の肉厚の第1板状ガラス13が本体開口部11cを上方から覆うように取り付けられている。ここで、第1板状ガラス13の第1板状ガラス下面13bの周縁部が底部11aの内底面112aに接合される。
【0036】
そして、図2(d)に示す他例では、第1板状ガラス13は本体開口部11cに嵌合するように取り付けられている。ここで、第1板状ガラス13は、その肉厚が容器本体11の底部11aの厚さより小さくなるように設定され、作製される。
【0037】
次に、蓋体の場合の図3(a)に示す他例では、円盤状の第2板状ガラス14が第2板状ガラス下面14bの周縁部において円環状の蓋側壁部12に接合し取り付けられ、蓋体12の蓋天部になっている。この場合、第2板状ガラス14の肉厚は、容器本体11の大きさに合わせてその強度が確保できるような程度になるが、例えば0.12mm〜1mm程度の範囲で設定される。ここで、蓋側壁部12は例えば3つの突起部12dを有している。
【0038】
図3(b)に示す他例では、蓋体12において、蓋天部12aに蓋体開口部12cが形成され、第2板状ガラス14が蓋体開口部12cを下方から塞ぐように取り付けられている。ここで、例えば0.08mm〜0.5mm程度の肉厚の第2板状ガラス14が、第2板ガラス上面14aの周縁部において蓋天部12aの蓋下面122aに接合している。
【0039】
そして、図3(c)に示す他例では、第2板状ガラス14は蓋体開口部12cに嵌合するように取り付けられている。ここで、第2板状ガラス14は、その肉厚が例えば蓋体12の蓋天部12aの厚さとほぼ同程度になるように設定され、作製される。
【0040】
本実施形態の顕微鏡観察に適した培養容器は、図1乃至図3で説明した容器本体11および蓋体12のうちのそれぞれいずれか1つを選択し組み合わせることにより、図1で説明した以外の種々の構造にできる。ここで、蓋体開口部12cは、その平面形状の大きさが本体開口部11cのそれと同じあるいはそれ以上になるように形成されると好適である。
【0041】
本実施形態では、いずれの構造の培養容器であっても、容器本体11の底部11aの被培養物が収容される領域は、光透過性の平板ガラスである第1板状ガラス13により作製される。そして、その蓋体12の蓋天部12aにおいては、第1板状ガラス13に対向するように光透過性の第2板状ガラス14が配置され取り付けられている。また、第1板状ガラス13の対向面となる第2板状ガラス14の下面14bには、薄い親水性ポリマー層15が形成される。
【0042】
そして、第1板状ガラス13および第2板状ガラス14は、好ましくは平面性が高くなるように、その平均面粗さが例えば150nm以下と小さく加工製造される。また、特に倒立顕微鏡の対物レンズ側になる第1板状ガラス13は、好ましくは0.2mm以下の肉厚になるように薄く作製される。更に、親水性に優れた親水性ポリマー層15は、例えばリン脂質ポリマーからなり、その厚さがnmオーダー以下あるいは原子層レベルになると好適である。
【0043】
本実施形態の培養容器では、被培養物の高コントラストの光学顕微鏡観察において、従来の有機高分子からなる樹脂材あるいは防曇剤を用いた培養容器の場合に較べて、光透過における直線偏光の振動面の乱れが格段に低減する。このために、高コントラストの顕微鏡、その中でも特に微分干渉顕微鏡における解像度が大きく向上する。そして、培養のための雰囲気ガスのガス交換効率が低下することなく、培養操作における作業効率が向上する。
【0044】
また、培養容器の載置されるインキュベータでは、その内部における雰囲気ガスの温度が例えば37℃程度であり、その湿度が例えば95%以上に高く設定される場合がある。そして、顕微鏡観察においてインキュベータから室温に取り出される際に、培養容器の蓋体12の内面にその結露による水滴が形成されて曇り易くなる。しかし、本実施形態の培養容器では、上述した親水性に優れた薄い親水性ポリマー層は、充分な防曇効果を有すると共に、顕微鏡の透過光の明度の低下をほとんど生じさせない。
【0045】
また、第1板状ガラス13および第2板状ガラス14以外の容器本体および蓋体は安価で所望の形状に容易に一体成形できる合成樹脂材により作製できことから、本実施形態の培養容器は低コストに製造できるようになる。
【0046】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものでない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0047】
本実施形態の培養容器は、培養容器内の被培養物の観察を下方から行う倒立顕微鏡の他に、被培養物を上方から観察する正立顕微鏡で使用される場合であっても効果的になる。
【0048】
また、容器本体および蓋体は、前記第1板状ガラス13および第2板状ガラス14を除いて、それぞれ樹脂材による一体成形あるいは部分成形により形成されてもよいし、樹脂材と無機材の複合体により形成されても構わない。
【符号の説明】
【0049】
10…培養容器,11…容器本体,11a…底部,111a…外底面,112a…内底面,11b…側部,111b…段差,112b…先端面,11c…本体開口部,12…蓋体,12a…蓋天部,121a…蓋上面,122a…蓋下面,12b…蓋側壁部,12c…蓋体開口部,12d…突起部,13…第1板状ガラス,13a…第1板状ガラス上面,13b…第1板状ガラス下面,14…第2板状ガラス,14a…第2板状ガラス上面,14b…第2板状ガラス下面,15…親水性ポリマー層,16…孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被培養物を収容する培養容器であって、
その底部が平板状でありその側部が筒状になり上方向に開いた容器本体と、
前記容器本体を上方向から閉蓋する蓋体と、を有し、
前記容器本体の底部の前記被培養物が収容される領域は光透過性の第1の平板ガラスにより形成され、前記蓋体のうちで前記第1の平板ガラスに対向する領域は光透過性の第2の平板ガラスにより形成されていることを特徴とする培養容器。
【請求項2】
前記第2の平板ガラスにおいて、前記第1の平板ガラスに対向する面に親水性ポリマー層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の培養容器。
【請求項3】
前記第1の平板ガラスおよび第2の平板ガラスはホウケイ酸ガラス材、石英ガラス材およびソーダライムガラス材のうちのいずれかからなり、前記親水性ポリマーはリン脂質ポリマーであることを特徴とする請求項1又は2に記載の培養容器。
【請求項4】
前記容器本体および前記蓋体は、前記第1の平板ガラスおよび第2の平板ガラスを除いて、それぞれ樹脂材が一体成形された構造になっていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の培養容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−244691(P2011−244691A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117498(P2010−117498)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】