説明

培養用容器

【課題】採取した微生物・動植物組織などに培地を加えて微生物・動植物組織などを培養するための透明性、柔軟性、耐蒸気滅菌性に優れた培養用容器を提供する。
【解決手段】芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック[B]とからなり、全重合体ブロック[A]のブロック共重合体全体に占める重量分率をwAとし、全重合体ブロック[B]のブロック共重合体全体に占める重量分率をwBとした時に、wAとwBとの比(wA:wB)が30:70〜60:40であるブロック共重合体の、全不飽和結合の90%以上を水素化したブロック共重合体水素化物から培養用容器を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は培養用容器に関し、更に詳しくは、採取した微生物・動植物組織などに培地を加えて微生物・動植物組織などを培養するための透明性、柔軟性、耐蒸気滅菌性に優れた培養用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
培養用容器として、使い捨て可能なバイオリアクターは、プラスチックの滅菌容器・バッグを利用するデバイスであり、生物学的物質を処理するため(例えば、微生物・動植物組織などを培養・増殖させるため)に使用される。使い捨て可能なバイオリアクターは、金属・木材などからなる支持構造物及びこの支持構造物内に配置される可撓性プラスチック容器を備えているもの、可撓性プラスチックバッグにフィードチューブ・サンプリングポート・フィルター付通気口・フィルター付排気口・などを備えたもの、などがある。これら使い捨て可能なバイオリアクターは小型のものは内容量1リットルから5リットル程度の可撓性プラスチックバッグ状のもの、大型のものは内容量10リットルから2000リットル程度のステンレス製支持構造体の中に可撓性プラスチックバッグを備えたもの、などが使用されている。
【0003】
可撓性プラスチックバッグを形成するためのプラスチックフィルムもしくはシートとしては、耐酸・アルカリ性、柔軟性、高周波融着や熱融着による融着性、などの要求があり、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系素材が好ましく使用されている。
【0004】
しかしながら、例えば、特許文献1〜2などで提案されているポリプロピレンの場合は、耐熱性に優れ、125℃・30分以上の高圧蒸気滅菌も可能であるが、弾性率が高く柔軟性に劣ること、透明性が著しく低く内容物視認性に劣ることなどの難点がある。また、例えば、特許文献3〜4などで提案されているポリエチレンの場合は、柔軟性は優れているが、耐熱性が低く、高圧蒸気滅菌には耐えないためγ線滅菌や電子線滅菌が必要であること、ポリプロピレン同様に結晶性ポリマーであるため肉厚バッグでは透明性が低く内容物視認性に劣ることなどの難点がある。
【0005】
また、特許文献5にはポリ(エチレンブチレン)ポリスチレンブロック共重合体・ポリプロピレン・エチレンアクリル酸エステル共重合体からなる重合体混合物からなる細胞培養用バッグが提案され、透明性が良く、高圧蒸気滅菌でも変形しないことが記載されている。しかし、開示されているものは厚さ150μm程度の薄いシートで、容量150cc程度の小さい細胞培養用バッグの例であり、より厚い、大容量の容器での透明性は示されていない。また、内容液が存在する状態での高圧蒸気滅菌が可能であるか不明である。
【0006】
特許文献6にはビニルシクロヘキサン系ポリマーを用いた多層フィルムが開示され、包装材や可撓性容器に使用できることが記載されている。しかし、開示されているブロック共重合体は、ビニルシクロヘキサン系ブロックのポリマー全体に対する割合は65〜97重量%と高く、柔軟性の低いブロック共重合体であり、本発明の目的とする柔軟性と耐熱性を両立させるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平1−99200号公報
【特許文献2】特開平5−219834号公報
【特許文献3】特開平3−277268号公報
【特許文献4】特開2005−245424号公報
【特許文献5】特開平3−65177号公報
【特許文献6】特表2003−517951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこうした実状に鑑みてなされ、柔軟性、高周波融着や熱融着による融着性などに優れ、耐熱性が高く高圧蒸気滅菌も可能であり、かつ、透明性が高く優れた内容物視認性を有する培養容器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はこれら従来技術の欠点を改良するために鋭意検討した結果、特定の芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック[B]とからなるブロック共重合体の、全不飽和結合の90%以上を水素化したブロック共重合体水素化物から形成されてなる容器を微生物・動植物組織などの培養用容器に使用することにより、透明性が高く内容物視認性に優れ、耐熱性が高くスチーム滅菌も可能であり、柔軟性、高周波融着や熱融着による融着性、酸素透過性などにも優れた培養用容器が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
かくして、本発明によれば、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック[B]とからなり、全重合体ブロック[A]のブロック共重合体全体に占める重量分率をwAとし、全重合体ブロック[B]のブロック共重合体全体に占める重量分率をwBとした時に、wAとwBとの比(wA:wB)が30:70〜60:40であるブロック共重合体の、全不飽和結合の90%以上を水素化したブロック共重合体水素化物から形成されてなる微生物・動植物組織などの培養用容器が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明に使用するブロック共重合体水素化物は、ガラス転移温度が高く耐熱性に優れた重合体ブロック[A]と、ガラス転移温度が低く柔軟性に優れた重合体ブロック[B]を有しており、非晶性であり、また、低吸湿性、低透湿性、耐酸・アルカリ性を有しており、このようなブロック共重合体水素化物を使用することにより、透明性が高く内容物視認性に優れ、耐熱性が高く高圧蒸気滅菌も可能であり、柔軟性、高周波融着や熱融着による融着性、酸素透過性などにも優れた培養容器を提供することができる。また、本発明の培養容器は、微生物・動植物組織などに対して非毒性である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1及び2に記載された培養用容器を示す平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の培養用容器は、特定のブロック共重合体の炭素−炭素不飽和結合を水素化したブロック共重合体水素化物を成形してなる。
【0014】
1.ブロック共重合体
本発明で用いるブロック共重合体は、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と少なくとも1つの重合体ブロック[B]を含有する。
【0015】
重合体ブロック[A]は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主成分とするものであり、重合体ブロック[A]中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位の含有量は、通常90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは99重量%以上である。また、重合体ブロック[A]中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位以外の成分としては、鎖状共役ジエン由来の構造単位及び/又はその他のビニル化合物由来の構造単位を含むことができ、その含有量は通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。重合体ブロック[A]中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位が少なすぎると、本発明の樹脂組成物の耐熱性が低下する恐れがある。
【0016】
複数の重合体ブロック[A]は、上記の範囲を満足すれば互いに同じであっても、異なっていても良い。
【0017】
重合体ブロック[B]は、鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位を主成分とするものであり、重合体ブロック[B]中の鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位の含有量は、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位が上記範囲にあると、本発明の樹脂組成物の柔軟性、高周波融着や熱融着による融着性のバランスに優れる。また、重合体ブロック[B]中の鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位以外の成分としては、芳香族ビニル化合物由来の構造単位及び/又はその他のビニル化合物由来の構造単位を含むことができ、その含有量は、通常30重量%以下、好ましくは10重量%以下である。重合体ブロック[B]中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位の含有量が増加するに連れて、本発明の樹脂組成物の透明性が向上するが、あまりに多くなりすぎると、本発明の樹脂組成物の柔軟性が低下し、高周波融着や熱融着による融着性が低下する恐れがある。
【0018】
重合体ブロック[B]が複数ある場合には、重合体ブロック[B]は、上記の範囲を満足すれば互いに同じであっても、異なっていても良い。
【0019】
本発明で用いられる芳香族ビニル化合物としては、具体的には、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、4−モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、4−モノフルオロスチレン、4−フェニルスチレンなどが挙げられ、吸湿性の面で極性基を含有しないものが好ましく、スチレンが特に好ましい。
【0020】
本発明で用いられる鎖状共役ジエン系化合物としては、具体的には、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどが挙げられ、吸湿性の面で極性基を含有しないものが好ましく1,3−ブタジエン、イソプレンが特に好ましい。
【0021】
本発明で用いられるその他のビニル系化合物としては、鎖状ビニル化合物や環状ビニル化合物が挙げられ、具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−エイコセン、4−メチル−1−ペンテン、4,6−ジメチル−1−ヘプテンなどの鎖状オレフィン;ビニルシクロヘキサンなどの環状オレフィンなどの、極性基を含有しないものが耐酸・アルカリ性の面で好ましく、鎖状オレフィンがより好ましく、エチレン、プロピレンが特に好ましい。
【0022】
本発明に使用するブロック共重合体中の重合体ブロック[A]の数は、通常5個以下、好ましくは4個以下、より好ましくは3個以下である。重合体ブロック[A]及び/又は重合体ブロック[B]が複数存在する際、重合体ブロック[A]の中で重量平均分子量が最大と最少の重合体ブロックの重量平均分子量をそれぞれMw(A1)及びMw(A2)とし、重合体ブロック[B]の中で重量平均分子量が最大と最少の重合体ブロックの重量平均分子量をそれぞれMw(B1)及びMw(B2)とした時、該Mw(A1)とMw(A2)との比(Mw(A1)/Mw(A2))、及び、該Mw(B1)とMw(B2)との比(Mw(B1)/Mw(B2))は、それぞれ通常2.0以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.2以下である。
【0023】
本発明に使用するブロック共重合体のブロックの形態は、鎖状型ブロックでもラジアル型ブロックでも良いが、鎖状型ブロックであるものが、機械的強度に優れ好ましい。本発明のブロック共重合体の最も好ましい形態は、重合体ブロック[B]の両端に重合体ブロック[A]が結合したトリブロック共重合体、及び、重合体ブロック[A]の両端に重合体ブロック[B]が結合し、更に、該両重合体ブロック[B]の他端にそれぞれ重合体ブロック[A]が結合したペンタブロック共重合体である。
【0024】
本発明に使用するブロック共重合体中の、全重合体ブロック[A]がブロック共重合体全体に占める重量分率をwAとし、全重合体ブロック[B]がブロック共重合体全体に占める重量分率をwBとした時に、wAとwBとの比(wA:wB)は、30:70〜60:40、好ましくは35:65〜55:45、より好ましくは40:60〜50:50である。wAが高過ぎる場合は、本発明の樹脂組成物の耐熱性は高くなるが、柔軟性が低く、高周波融着や熱融着による融着性が低下し、wAが低過ぎる場合は、スチーム滅菌での耐熱性が劣る。
【0025】
ブロック共重合体の分子量は、THF(テトラヒドロフラン)を溶媒とするGPCにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常30,000〜200,000、好ましくは40,000〜150,000、より好ましくは50,000〜100,000である。また、ブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn)を、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、特に好ましくは1.5以下である。
【0026】
本発明で使用するブロック共重合体の製造方法は、例えば3つの重合体ブロックを有するブロック共重合体を製造する場合、重合体ブロック[A]を形成させるモノマー成分として、芳香族ビニル化合物を含有するモノマー混合物(a1)を重合させる第1工程と、重合体ブロック[B]を形成させるモノマー成分として、鎖状共役ジエン系化合物を含有するモノマー混合物(b1)を重合させる第2工程と、重合体ブロック[A]を形成させるモノマー成分として、芳香族ビニル化合物を含有するモノマー混合物(a2)(ただし、モノマー混合物(a1)とモノマー混合物(a2)は同一でも異なっていてもよい。)を重合させる第3工程を、有するものである。
【0027】
上記モノマー混合物を用いてそれぞれの重合体ブロックを重合する方法としては、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、配位アニオン重合、配位カチオン重合などのいずれを用いてもよい。ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などを、リビング重合により行う方法、特にリビングアニオン重合により行う方法を用いた場合に、重合操作及び後工程での水素化反応が容易になり、得られるブロック共重合体の透明性が向上する。
【0028】
重合は、重合開始剤の存在下、通常0℃〜100℃、好ましくは10℃〜80℃、特に好ましくは20℃〜70℃の温度範囲において行う。リビングアニオン重合の場合は、開始剤として、例えば、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウムなどのモノ有機リチウム;ジリチオメタン、1,4−ジリチオブタン、1,4−ジリチオ−2−エチルシクロヘキサンなどの多官能性有機リチウム化合物などが使用可能である。
【0029】
重合反応形態は、溶液重合、スラリー重合などのいずれでも構わないが、溶液重合を用いると、反応熱の除去が容易である。この場合、各工程で得られる重合体が溶解する不活性溶媒を用いる。使用可能な不活性溶媒としては、例えば、n−ブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソオクタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロ[4.3.0]ノナン、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカンなどの脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられる。中でも脂環式炭化水素類を用いると、後述する水素化反応にも不活性な溶媒としてそのまま使用でき、ブロック共重合体の溶解性も良好であるため好ましい。これらの溶媒は、それぞれ単独で用いてもよいし、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することもできる。これらの溶媒の使用量は、全使用モノマー100重量部に対して、通常200〜2000重量部である。
【0030】
それぞれのモノマー混合物が2種以上の成分からなる場合、或る1成分の連鎖だけが長くなるのを防止するために、ランダマイザーなどを使用することができる。特に重合反応をアニオン重合により行う場合には、ルイス塩基化合物などをランダマイザーとして使用するのが好ましい。
【0031】
使用可能なルイス塩基化合物としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルフェニルエーテルなどのエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジンなどの第3級アミン化合物;カリウム−t−アミルオキシド、カリウム−t−ブチルオキシドなどのアルカリ金属アルコキシド化合物;トリフェニルホスフィンなどのホスフィン化合物;などが挙げられる。これらのルイス塩基化合物は、それぞれ単独で用いてもよいし、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0032】
2.ブロック共重合体水素化物
本発明で用いられるブロック共重合体水素化物は、上記のブロック共重合体の主鎖及び側鎖の炭素−炭素不飽和結合、並びに芳香環の炭素−炭素不飽和結合を水素化したものであり、その水素化率は通常90%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上である。水素化率が高いほど、本発明の樹脂組成物の透明性、耐熱性が良好である。本発明で用いられるブロック共重合体水素化物の水素化率は、H−NMRによる測定において求めることができる。
【0033】
不飽和結合の水素化方法や反応形態などは特に限定されず、公知の方法にしたがって行えばよいが、水素化率を高くでき、重合体鎖切断反応の少ない水素化方法が好ましい。このような好ましい水素化方法としては、ニッケル、コバルト、鉄、チタン、ロジウム、パラジウム、白金、ルテニウム、レニウムなどから選ばれる少なくとも1種の金属を含む触媒を用いて行う方法が挙げられる。水素化触媒は、不均一系触媒、均一系触媒のいずれも使用可能であり、水素化反応は有機溶媒中で行うのが好ましい。
【0034】
使用可能な不均一系触媒は、金属又は金属化合物のままで、又は適当な担体に担持して用いることができる。担体としては、例えば、活性炭、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、チタニア、マグネシア、ジルコニア、ケイソウ土、炭化珪素、フッ化カルシウムなどが挙げられる。触媒の担持量は、触媒と担体との合計量に対して通常0.1〜60重量%、好ましくは1〜50重量%の範囲である。担持型触媒としては、例えば、比表面積が100〜500m/g、平均細孔径100〜1000Å、好ましくは200〜500Åを有するものが好ましい。上記の比表面積の値は窒素吸着量を測定し、BET式を用いて算出した値であり、平均細孔径の値は水銀圧入法により測定した値である。
【0035】
使用可能な均一系触媒としては、例えば、ニッケル、コバルト、チタン又は鉄化合物と有機金属化合物(例えば、有機アルミニウム化合物、有機リチウム化合物)とを組み合わせた触媒;ロジウム、パラジウム、白金、ルテニウム、レニウムなどの有機金属錯体触媒などを用いることができる。
【0036】
ニッケル、コバルト、チタン又は鉄化合物としては、例えば、各種金属のアセチルアセトナト化合物、カルボン酸塩、シクロペンタジエニル化合物などが用いられる。有機アルミニウム化合物としては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのアルキルアルミニウム;ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムジクロリドなどのハロゲン化アルミニウム;ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどの水素化アルキルアルミニウムなどが挙げられる。
【0037】
有機金属錯体触媒としては、例えば、ジヒドリド−テトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジヒドリド−テトラキス(トリフェニルホスフィン)鉄、ビス(シクロオクタジエン)ニッケル、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケルなどの遷移金属錯体が挙げられる。
【0038】
これらの水素化触媒は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。水素化触媒の使用量は、重合体100重量部に対して、通常0.01〜100重量部、好ましくは0.05〜50重量部、より好ましくは0.1〜30重量部である。
【0039】
水素化反応温度は、通常10℃〜250℃、好ましくは50℃〜200℃、より好ましくは80℃〜180℃である時に水素化率が高くなり、分子切断も減少する。また水素圧力は、通常0.1MPa〜30MPa、好ましくは1MPa〜20MPa、より好ましくは2MPa〜10MPaであると水素化率が高くなり、分子鎖切断も減少し、操作性にも優れる。
【0040】
上記した方法で得られるブロック共重合体水素化物は、水素化触媒及び/又は重合触媒を、ブロック共重合体水素化物を含む反応溶液から例えば濾過、遠心分離などの方法により除去した後、反応溶液から回収される。反応溶液からブロック共重合体水素化物を回収する方法としては、例えば、ブロック共重合体水素化物が溶解した溶液から、スチームストリッピングにより溶媒を除去するスチーム凝固法、減圧加熱下で溶媒を除去する直接脱溶媒法、ブロック共重合体水素化物の貧溶媒中に溶液を注いで析出、凝固させる凝固法などの公知の方法を挙げることができる。
【0041】
回収されたブロック共重合体水素化物の形態は限定されるものではないが、その後に成形加工し易いようにペレット形状とするのが通常である。直接脱溶媒法を用いる場合は、例えば、溶融状態のブロック共重合体水素化物をダイからストランド状に押し出し、冷却後、ペレタイザーでカッティングしてペレット状にして各種の成形に供することができる。凝固法を用いる場合は、例えば、得られた凝固物を乾燥した後、押出機により溶融状態で押し出し、上記と同様にペレット状にして微生物・動植物組織などの培養用容器用途に供することができる。
【0042】
本発明で用いられるブロック共重合体水素化物の分子量は、THFを溶媒としたGPCにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常30,000〜200,000、好ましくは40,000〜150,000、より好ましくは50,000〜100,000である。このMwが範囲であると、本発明の培養用容器の機械強度や耐熱性が向上する。また、ブロック共重合体水素化物の分子量分布(Mw/Mn)を、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、特に好ましくは1.5以下にする。Mw及びMw/Mnが上記範囲となるようにすると、本発明のブロック共重合体水素化物の機械強度や耐熱性が向上する。
【0043】
3.配合剤
本発明の培養用容器に使用する前記ブロック共重合体水素化物は、微生物・動植物組織などの培養に影響を及ぼさない範囲で、培養用容器の性能を向上させるための配合成分を含有させることができる。配合成分としては、酸化防止剤、紫外線による培養組織の死滅を防止するための紫外線吸収剤、樹脂特性を向上させるための前記ブロック共重合体水素化物以外の重合体、滑剤、界面活性剤、無機フィラーなどであり、単独でも、2種以上併用してもよい。これらの配合剤は培養用容器内容物中に溶出しないよう、配合量は極少にする。
【0044】
[酸化防止剤]
本発明において、ブロック共重合体水素化物に酸化防止剤を配合することにより、熱安定性を向上することもできる。本発明の培養用容器は、使い捨てを前提としているため、ブロック共重合体水素化物を加熱溶融して容器に成形する際に酸化劣化を受けない程度に配合すれば良い。酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤、フェノ−ル系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などが挙げられ、着色がより少ないリン系酸化防止剤が好ましい。
[紫外線吸収剤]
本発明において、紫外線による培養組織の死滅を防止するために、上記酸化防止剤に加えて、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤などの紫外線吸収剤を配合することができる。
[ブロック共重合体水素化物以外の重合体]
培養用容器の特性を向上させるために配合できるブロック共重合体水素化物以外の重合体としては、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体などのオレフィン系重合体;ポリイソブチレン、イソブチレン・イソプレン共重合体水素化物などのイソブチレン系重合体;ポリイソプレン、イソプレン・ブタジエンランダム共重合体、ブタジエン・スチレンランダム共重合体、イソプレン・スチレンランダム共重合体、ブタジエン・スチレンブロック共重合体、イソプレン・スチレンブロック共重合体などのジエン系重合体の水素化物;1,3−ペンタジエン系石油樹脂、シクロペンタジエン系石油樹脂、芳香族系石油樹脂などの石油樹脂及びその水素化物;などが挙げられる。
[滑剤]
成形性や耐ブロッキング性の観点で用いられる滑剤としては、炭化水素系離型剤、脂肪酸系離型剤、アルコール系離型剤;脂肪族エステル系離型剤;脂肪酸アマイド系離型剤;脂肪酸金属石鹸系離型剤;シリコーン系離型剤等が挙げられる。
【0045】
本発明に使用するブロック共重合体水素化物に、上記配合剤を均一に分散する方法は、例えば、配合剤を適当な溶剤に溶解してブロック共重合体水素化物の溶液に添加した後、溶媒を除去して配合剤を含むブロック共重合体水素化物を回収する方法;二軸混錬機、ロール、ブラベンダー、押出機などでブロック共重合体水素化物を溶融状態にして配合剤を混練する方法;などが挙げられる。
【0046】
4.培養用容器
本発明の培養用容器は、主として、使い捨て可能なバイオリアクターとしての使用を意図している。容器の形状は、通常、バッグ状、筒状、袋状などであるが、特に制限はない。容器の大きさは、特に制限されないが、通常は、内容量が0.1〜2000リットル程度である。容器の厚さは、特に制限されないが、通常0.1〜2mm程度、好ましくは0.2〜1mm程度である。容器自体で自立するものはそのまま使用できるが、大きさが大きく容器自体で自立しないものは金属製支持構造物で支えて使用される。本発明の培養容器には、フィードチューブ・サンプリングポート・フィルター付通気口・フィルター付排気口・などを備えることもできる。また、外部攪拌機を取り付けることもできる。
【0047】
培養用容器の成形方法は、特に制限はないが、通常は、特定のブロック共重合体水素化物を押し出し成形、カレンダー成形、インフレーション成形などの成形方法でシート状にし、得られたシートを好ましい形状に裁断した後、高周波融着や熱融着により融着して繋ぎ合わせ、望ましい形状の容器とすることができる。また、公知のブロー成形、射出成形、射出ブロー成形、押出成形、インフレーション成形などの方法により、容器に成形することもできる。シートの成形条件は、成形方法により適宜選択されが、例えば溶融押出成形法による場合は、樹脂温度は、通常170〜250℃、好ましくは180〜230℃、より好ましくは190〜220℃の範囲で適宜選択される。樹脂温度が低過ぎる場合は、流動性が悪化し、成形シートにゆず肌やダイラインなどの不良を生じ易く、また、樹脂温度が高過ぎる場合は、ブロック共重合体水素化物の熱分解による分解生成物が溶出し易くなったり、分子量低下して機械的強度が低下するなどの不良を生じ易く、好ましくない。
【実施例】
【0048】
以下、本発明について、実施例及び比較例を挙げて、より具体的に説明する。本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、部及び%は、特に断りがない限り、重量基準である。
【0049】
以下に各種物性の測定法を示す。
(1)重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)
ブロック共重合体及びブロック共重合体水素化物の分子量は、テトラヒドロフランを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による標準ポリスチレン換算値として38℃において測定した。測定装置としては、東ソー社製HLC8020GPCを用いた。
(2)水素化率
ブロック共重合体水素化物の主鎖及び芳香環の水素化率は、H−NMRスペクトルを測定して算出した。
(3)光線透過率
ブロック共重合体水素化物及び比較例で用いた樹脂の押出成形シートで、JIS K 7361に従い測定した。
(4)曲げ弾性率
ブロック共重合体水素化物及び比較例で用いた樹脂の射出成形試験片(厚さ4mm)で、曲げ試験機(ベントグラフーII、東洋精機社製)を用いて、JIS K 7171の方法で、23℃の条件で測定した。
(5)引張り強度及び引張り伸び
ブロック共重合体水素化物及び比較例で用いた樹脂の押出成形シートで、テンシロン万能試験機(ORIENTIC社製、製品名「RTC−1125A」)を用いて、JIS K 7127の方法で測定した。試験片はタイプ5、23℃の条件下、チャック間距離10cmで破断するまで引張り試験を行った。破断時の強度を引張り強度とし、破断時の伸びを引張り伸びとした。
(6)溶出物
ブロック共重合体水素化物及び比較例で用いた樹脂のペレットを使用し、第15改正日本薬局方「プラスチック製医薬品容器試験法」に従い溶出物試験を行い、泡立ち、pH差、紫外線吸収、過マンガン酸カリウム還元性物質の評価を行った。
【0050】
[参考例1]ブロック共重合体水素化物[P1]の合成
充分に窒素置換された、攪拌装置を備えた反応器に脱水シクロヘキサン550部、脱水スチレン25.0部、n−ジブチルエーテル0.475部を入れ、60℃で攪拌しながらn−ブチルリチウム(15%シクロヘキサン溶液)0.68部を加えて重合を開始した。攪拌しながら60℃で60分反応させた。ガスクロマトグラフィーにより測定したこの時点で重合転化率は99.5%であった。
次に、脱水イソプレン50.0部を加えそのまま30分攪拌を続けた。この時点で重合転化率は99%であった。
その後、更に、脱水スチレンを25.0部加え、60分攪拌した。この時点での重合転化率はほぼ100%であった。ここでイソプロピルアルコール0.5部を加えて反応を停止した。得られたブロック共重合体(p1)の重量平均分子量(Mw)は61,700、分子量分布(Mw/Mn)は1.05であった。
【0051】
次に、上記重合体溶液を、攪拌装置を備えた耐圧反応器に移送し、水素化触媒としてシリカ−アルミナ担持型ニッケル触媒(日揮触媒化成社製、製品名「E22U」、ニッケル担持量60%)4.0部及び脱水シクロヘキサン100部を添加して混合した。反応器内部を水素ガスで置換し、更に溶液を攪拌しながら水素を供給し、温度170℃、圧力4.5MPaにて6時間水素化反応を行った。水素化反応後のブロック共重合体水素化物(P1)の重量平均分子量(Mw)は65,300、分子量分布(Mw/Mn)は1.06であった。
【0052】
水素化反応終了後、反応溶液を濾過して水素化触媒を除去した後、フェノ−ル系酸化防止剤であるペンタエリスリチル・テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASF社製、製品名「イルガノックス(登録商標)1010」)0.05重量部を溶解したキシレン溶液1.0部を添加して溶解させた。
次いで、上記溶液を、ゼータプラス(登録商標)フィルター30H(キュノ社製、孔径0.5〜1μm)にて濾過し、更に別の金属ファイバー製フィルター(ニチダイ社製、孔径0.4μm)にて順次濾過して微小な固形分を除去した後、円筒型濃縮乾燥器(日立製作所社製)を用いて、温度260℃、圧力0.001MPa以下で、溶液から、溶媒であるシクロヘキサン、キシレン及びその他の揮発成分を除去し、濃縮乾燥器に直結したダイから溶融状態でストランド状に押し出し、冷却後、ペレタイザーでカットしてブロック共重合体水素化物[P1]のペレット95部を得た。得られたブロック共重合体水素化物[P1]の重量平均分子量(Mw)は64,600、分子量分布(Mw/Mn)は1.11であった。水素化率はほぼ100%であった。
【0053】
[実施例1]
(押出フィルム)
参考例1で得られたブロック共重合体水素化物[P1]のペレット100部を、空気を流通させた熱風乾燥器を用いて50℃で4時間加熱して、溶存空気を除去した後、エチレンビスステアリン酸アマイド粉末(花王社製、製品名「カオーワックス EB−P」)0.01部を加えて均一に混合した。このペレットを、40mmφのスクリューを備えた樹脂溶融混練機を有するTダイ式フィルム溶融押出成形機(Tダイ幅600mm)を使用して、溶融樹脂温度200℃、Tダイ温度180℃、ロール温度50℃の成形条件にて、厚さ500μm、幅500mmのシート[SP1]を押出成形し、ロールに巻き取り回収した。
【0054】
(押出チューブ)
参考例1で得られたブロック共重合体水素化物[P1]のペレット100部を、空気を流通させた熱風乾燥器を用いて50℃で4時間加熱して、溶存空気を除去した後、エチレンビスステアリン酸アマイド粉末(花王社製、製品名「カオーワックス EB−P」)0.01部を加えて均一に混合した。このペレットを、40mmφのスクリューを備えた樹脂溶融混練機にチューブ押し出し用ダイを設置して、溶融樹脂温度190℃、ダイ温度170℃の成形条件にて、外径6mm、内径4mmのチューブ[CP1]を押出成形し、巻き取って回収した。
【0055】
(射出成形)
参考例1で得られたブロック共重合体水素化物[P1]のペレット100部に、前記と同様に、エチレンビスステアリン酸アマイド粉末0.01部を加えて均一に混合した。このペレットを、射出成形機を使用し、樹脂温度240℃、金型温度40℃の成形条件にて、厚さ4mmの試験片[MP1]を成形した。
【0056】
(培養用容器用樹脂の評価)
得られたブロック共重合体水素化物[P1]のペレット、押出シート[SP1]及び試験片[MP1]を用いて、光線透過率、曲げ弾性率、引張り強度、引張り伸び及び溶出物の評価を実施した。光線透過率は91%、曲げ弾性率は725MPa、引張り強度は45MPa、引張り伸びは530%であった。溶出物試験結果は、泡立ちは3分以内消失し、pH差は−0.03、紫外線吸収は0.007、過マンガン酸カリウム還元性物質0.15mlであった。これらの結果から、ブロック共重合体水素化物[P1]は、透明性に優れ、柔軟性及び十分な機械的強度を有し、低溶出性で医療用プラスチックとしても適合可能で、培養用容器の材料として優れた特性を有していることが分かった。
【0057】
(培養用容器)
押出シート[SP1]を長さ600mm、幅250mmに切り出したシート2枚及び押出チューブ[CP1]を使用して、接合部をヒートシーラーで熱融着して図1に示す内容量約5リットルの培養用容器1を作成した。容器には、上部にフィード用チューブ2、サンプリング用チューブ3、排気用チューブ4、下部に抜出し用チューブ5を融着して固定し、チューブ端部には金属製コック6を繋いで、開閉可能にした。
【0058】
次に、この培養用容器を架台に固定し、フィードチューブ2からLB培地(バクトトリプトン1%、イーストエクストラクト0.5%、塩化ナトリウム1%、グルコース0.1%の水溶液をpH7.5に調整)4000mlを入れた。この培養用容器は透明性に優れ、内容物視認性は良好であった。
内容物を入れた培養用容器のコックを全て閉じて架台からはずし、高圧蒸気滅菌装置(トミー精工社製、製品名「SX−700」)に入れ、2気圧、121℃、30分の高圧蒸気滅菌を行った。常温まで冷却した後、外観を目視観察したが、変形や溶融は認められず耐熱性に優れていることが確認された。また、内容物を目視観察し、内容物は透明で濁りなどの変化がないことを確認した。
高圧蒸気滅菌処理後の培養用容器を架台に固定し、25℃に7日間保持したが、菌類の増殖は認められず、滅菌処理が確実に行われたことが分かった。
【0059】
(テトラヒメナの培養)
新たに準備した培養用容器に、蒸留水4000mlを入れ、上記と同様にして高圧蒸気滅菌処理した。常温まで冷却後、下部の抜出し用チューブ5から蒸留水を流去して培養用容器を空にした。その後、滅菌済の培養用容器に、テトラヒメナの培養液(PYD培地:プロテオースペプトン1%,酵母エキス0.5%,デキストロース0.87%)4000mlをフィードチューブ2を通して入れた。培養液中の初期生細胞数は、トリバンブルー色素排除試験法により血球計算盤で計測した。培養液中の初期生細胞数は約1.2×10cells/mlであった。
培養用容器のフィードチューブ2の金属製コック6の出口をゴム栓で密閉した後、ゴム栓を貫通してフィードチューブ2から長さ80cmの金属製注射針を培養用容器の底部まで挿入し、孔径0.2μmのメンブレンフィルターを通して除菌した空気を約200cc/分の割合で供給し、底部からバブリングして上部の排気用チューブ4から孔径0.2μmのメンブレンフィルターを通して排気しながら、室温25℃で72時間培養を行った。内容液をサンプリングし、生細胞数を計測した結果、約25×10cells/mlに増殖したことが確認され、この培養用容器が微生物の培養に使用できることが示された。
【0060】
[参考例2]ブロック共重合体水素化物[P2]の合成
重合段階でモノマーとして、スチレン20.0部、n−ブチルリチウム(15%シクロヘキサン溶液)0.55部、イソプレン60.0部及びスチレン20.0部をこの順に反応系に添加して重合する以外は参考例1と同様にして、ブロック共重合体水素化物[P2]のペレット96部を得た。得られたブロック共重合体水素化物の重量平均分子量(Mw)は79,500、分子量分布(Mw/Mn)は1.15であった。水素化率はほぼ100%であった。
【0061】
[実施例2]
(押出フィルム)
参考例2で得られたブロック共重合体水素化物[P2]のペレットを使用し、実施例1と同様にして、厚さ500μm、幅500mmのシート[SP2]を成形した。
【0062】
(押出チューブ)
参考例2で得られたブロック共重合体水素化物[P2]のペレットを使用し、実施例1と同様にして、外径6mm、内径4mmのチューブ[CP2]を成形した。
【0063】
(射出成形)
参考例2で得られたブロック共重合体水素化物[P2]のペレットを使用し、実施例1と同様にして、厚さ4mmの試験片[MP2]を成形した。
【0064】
(培養用容器用樹脂の評価)
得られたブロック共重合体水素化物[P2]のペレット、押出シート[SP2]及び試験片[MP2]を用いて、実施例1と同様に、光線透過率、曲げ弾性率、引張り強度、引張り伸び及び溶出物の評価を実施した。光線透過率は91%、曲げ弾性率は250MPa、引張り強度は41MPa、引張り伸びは580%であった。溶出物試験結果は、泡立ちは3分以内消失し、pH差は−0.02、紫外線吸収は0.006、過マンガン酸カリウム還元性物質0.16mlであった。これらの結果から、ブロック共重合体水素化物[P2]は、透明性に優れ、柔軟性及び十分な機械的強度を有し、低溶出性で医療用プラスチックとしても適合可能で、培養用容器の材料として優れた特性を有していることが分かった。
【0065】
(培養用容器)
押出シート[SP2]及び押出チューブ[CP2]を使用して、実施例1と同様にして図1に示す培養用容器を作成した。
【0066】
次に、この培養用容器に実施例1と同様にしてLB培地4000mlを入れた。この培養用容器は透明性に優れ、内容物視認性は良好であった。
次に実施例1と同様にして、この培養用容器を高圧蒸気滅菌した。外観を目視観察したが、変形や溶融は認められず耐熱性に優れていることが確認された。また、内容物を目視観察し、内容物は透明で濁りなどの変化がないことを確認した。
高圧蒸気滅菌処理後の培養用容器を実施例1と同様に、25℃に7日間保持したが、菌類の増殖は認められず、滅菌処理が確実に行われたことが分かった。
【0067】
(テトラヒメナの培養)
実施例1と同様に、新たに準備した培養用容器に、テトラヒメナの培養液4000mlを入れて培養した。培養液中の初期生細胞数は約1.2×10cells/ml、培養後の生細胞数は約27×10cells/mlに増殖したことが確認され、この培養用容器が微生物の培養に使用できることが示された。
【0068】
[比較例1]
(押出フィルム)
ポリエチレン(宇部丸善ポリエチレン社製LDPE、製品名「UBE ポリエチレン(登録商標) F023」)を使用し、空気を流通させた熱風乾燥器を用いて50℃で4時間加熱して、溶存空気を除去した後、実施例1と同様の成形条件にて、厚さ500μm、幅500mmのシート[CS1]を押出成形した。
【0069】
(射出成形)
同じポリエチレンを使用し、実施例1と同様にして、厚さ4mmの試験片[CM1]を成形した。
【0070】
(培養用容器用樹脂の評価)
得られたポリエチレンの押出シート[CS1]及び試験片[CM1]を用いて、実施例1と同様に、光線透過率、曲げ弾性率、引張り強度、引張り伸びの評価を実施した。光線透過率は72%、曲げ弾性率は180MPa、引張り強度は20MPa、引張り伸びは680%であった。押出シート[CS1]及び試験片[CM1]を実施例1で行ったのと同様にスチーム滅菌装置に入れ、121℃、30分の高圧蒸気滅菌処理を行ったところ、著しく変形した。
これらの結果から、ポリエチレン(LDPE)は柔軟性や機械強度は十分であるが、透明性は不十分で内容物視認性が劣り、耐熱性が低く高圧蒸気滅菌処理は不可であり、培養用容器用樹脂としては物性上の改善が望まれるものである。
【0071】
[比較例2]
(押出フィルム)
ポリプロピレン(日本ポリプロ社製、製品名「ノバテック(登録商標)PP FB3HAT」)を使用し、空気を流通させた熱風乾燥器を用いて50℃で4時間加熱して、溶存空気を除去した後、実施例1と同様の成形条件にて、厚さ500μm、幅500mmのシート[CS2]を押出成形した。
【0072】
(射出成形)
同じポリプロピレンを使用し、実施例1と同様にして、厚さ4mmの試験片[CM2]を成形した。
【0073】
(培養用容器用樹脂の評価)
得られたポリプロピレンの押出シート[CS2]及び試験片[CM2]を用いて、実施例1と同様に、光線透過率、曲げ弾性率、引張り強度、引張り伸びの評価を実施した。光線透過率は50%、曲げ弾性率は1700MPa、引張り強度は34MPa、引張り伸びは110%であった。押出シート[CS1]及び試験片[CM1]を実施例1で行ったのと同様にスチーム滅菌装置に入れ、121℃、30分のスチーム滅菌処理を行ったところ、変形は小さく、耐熱性を有していた。
これらの結果から、ポリプロピレンは耐熱性が高くスチーム滅菌処理は可能であるが、透明性が不良で内容物視認性が著しく劣り、柔軟性も不十分で、培養用容器用樹脂としては物性上の改善が望まれるものである。
【0074】
[参考例3]ブロック共重合体水素化物[P3]の合成
重合段階でモノマーとして、スチレン32.5部、n−ブチルリチウム(15%シクロヘキサン溶液)0.68部、イソプレン35.0部及びスチレン32.5部をこの順に反応系に添加して重合する以外は参考例1と同様にして、ブロック共重合体水素化物[P3]のペレット94部を得た。得られたブロック共重合体水素化物の重量平均分子量(Mw)は65,500、分子量分布(Mw/Mn)は1.10であった。水素化率はほぼ100%であった。
【0075】
[比較例3]
(押出フィルム)
参考例3で得られたブロック共重合体水素化物[P3]のペレットを使用し、実施例1と同様にして、厚さ500μm、幅500mmのシート[SP3]を成形した。
【0076】
(射出成形)
参考例3で得られたブロック共重合体水素化物[P3]のペレットを使用し、実施例1と同様にして、厚さ4mmの試験片[MP3]を成形した。
【0077】
(培養用容器用樹脂の評価)
得られたブロック共重合体水素化物の押出シート[SP3]及び試験片[MP3]を用いて、実施例1と同様に、光線透過率、曲げ弾性率、引張り強度、引張り伸びの評価を実施した。光線透過率は91%、曲げ弾性率は2100MPa、引張り強度は11MPa、引張り伸びは4%であった。押出シート[SP3]及び試験片[MP3]を実施例1で行ったのと同様にスチーム滅菌装置に入れ、121℃、30分のスチーム滅菌処理を行ったところ、変形は小さく、耐熱性を有していた。
これらの結果から、スチレン成分の多いブロック共重合体水素化物は透明性が高く内容物視認性に優れ、耐熱性が高くスチーム滅菌処理は可能であるが、柔軟性が低く、折り曲げると割れてしまい、培養用容器用樹脂としては不適当なものである。
【0078】
本発明の特定のブロック共重合体水素化物から形成されてなる培養用容器は、透明性、柔軟性、耐熱性、低溶出性に優れており、内容物視認性が良好で、電子線やγ線による滅菌の他、スチーム滅菌処理も可能で、微生物や動植物組織などの培養に適した培養用容器であり、使い捨て可能なバイオリアクターとして有用である。
【符号の説明】
【0079】
1 : 培養用容器本体
2 : フィード用チューブ
3 : サンプリング用チューブ
4 : 排気用チューブ
5 : 抜出し用チューブ
6 : 各チューブ端部には接続した金属製コック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック[B]とからなり、全重合体ブロック[A]のブロック共重合体全体に占める重量分率をwAとし、全重合体ブロック[B]のブロック共重合体全体に占める重量分率をwBとした時に、wAとwBとの比(wA:wB)が30:70〜60:40であるブロック共重合体の、全不飽和結合の90%以上を水素化したブロック共重合体水素化物から形成されてなる培養用容器。

【図1】
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【公開番号】特開2013−48560(P2013−48560A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186657(P2011−186657)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】