説明

培養観察装置および運搬装置

【課題】培養観察空間に搬入した容器内の細胞の観察および撮影を所望のタイミングで確実に行なう。
【解決手段】培養観察装置1は、所定の温度および湿度に保たれ、培養容器14内の細胞の培養および観察を行なうためのチャンバー11を備える。キャリアケース12は、培養容器14を保持するホルダー13の運搬に用いられ、培養容器14をチャンバー11内に搬入する場合にキャリア保持台37上に配置される。制御部16は、モータ35,54,56を制御し、搬送アーム55によるキャリアケース12からチャンバー11へのホルダー13の搬入を制御する。また、制御部16は、キャリアケース12からチャンバー11に搬入する培養容器14の温度が搬入前に目標温度になるように、キャリアケース12内のホルダー13を支持する支持部材に埋め込まれているヒータを制御する。本発明は、例えば、細胞の培養観察装置に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養観察装置および運搬装置に関し、特に、細胞の培養および観察を行なうための培養観察装置および運搬装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞の培養に適した環境に保たれ、細胞の培養および観察を行なうための培養観察空間を備える培養観察装置が使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−209257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、細胞の培養に適した環境は、例えば、温度が約37℃、湿度が約90%RH、二酸化炭素の濃度が約5%の環境である。培養観察空間内がこの環境に保たれている場合、細胞の入った容器を培養観察空間に搬入したとき、容器の温度が約35℃以下であれば結露が発生する。そのため、例えば、細胞が入った容器を培養観察空間から取り出し、培地交換や継代などの作業を行なった後、容器を培養観察空間に搬入する場合、作業中に容器の温度が室温に近い温度になり、容器を培養観察空間に搬入ときに結露が発生してしまう可能性が高い。そして、結露が解消されるまで容器内の細胞の観察および撮影が困難になり、所望のタイミングで細胞の観察および撮影を行えなくなる。
【0005】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、培養観察空間に搬入した容器内の細胞の観察および撮影を所望のタイミングで確実に行なうことができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面の培養観察装置は、所定の温度および湿度に保たれ、容器内の細胞の培養および観察を行なうための培養観察空間を備える培養観察装置において、前記培養観察装置と外部空間との間で前記容器の運搬に用いられ、収納している前記容器を前記培養観察空間に搬入する場合に前記培養観察装置の所定の位置に設置される運搬ケースと、前記所定の位置に設置された前記運搬ケースから前記培養観察空間への前記容器の搬入を行なう搬送手段と、前記搬送手段を制御する搬送制御手段と、前記運搬ケース内の前記容器の温度を計測する温度計測手段と、前記運搬ケース内の前記容器を加熱する加熱手段と、前記運搬ケースから前記培養観察空間に搬入する前記容器の温度が、前記培養観察空間に搬入する前に目標温度になるように前記加熱手段を制御する加熱制御手段とを備える。
【0007】
本発明の第1の側面の培養観察装置においては、運搬ケースから培養観察空間に搬入する容器の温度が、前記培養観察空間に搬入する前に目標温度になるように制御される。
【0008】
本発明の第2の側面の運搬装置は、細胞の入った容器の運搬に用いられる運搬装置であって、収納している前記容器を、所定の温度および湿度に保たれ、前記容器内の細胞の培養および観察を行なうための培養観察空間を備える培養観察装置の前記培養観察空間に搬入する場合に、前記培養観察装置の所定の位置に設置される運搬装置において、前記運搬装置内の前記容器の温度を計測する温度計測手段と、前記運搬装置内の前記容器を加熱する加熱手段と、前記運搬装置から前記培養観察空間に搬入する前記容器の温度が、前記培養観察空間に搬入する前に目標温度になるように前記加熱手段を制御する加熱制御手段とを備える。
【0009】
本発明の第2の側面の運搬装置においては、運搬手段から培養観察空間に搬入する容器の温度が、前記培養観察空間に搬入する前に目標温度になるように制御される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1または第2の側面によれば、細胞の入った容器の結露の発生を抑制することができる。特に、本発明の第1または第2の側面によれば、培養観察空間に搬入した容器内の細胞の観察および撮影を所望のタイミングで確実に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用した培養観察装置の一実施の形態を示す図である。
【図2】キャリアケースの外観の構成の例を示す図である。
【図3】キャリアケースの内部を示す図である。
【図4】キャリアケースの支持部材の一例を示す平面図である。
【図5】培養容器搬入制御部の機能の構成の例を示す図である。
【図6】培養観察装置により実行される培養容器搬入処理を説明するためのフローチャートである。
【図7】支持部材の他の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明を適用した実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明を適用した培養観察装置の一実施の形態を示す外観図である。
【0014】
培養観察装置1は、細胞の培養に適した温度および湿度に保たれ、細胞の培養および観察を行なうための空間を備えるチャンバー11を有している。
【0015】
チャンバー11内には、スタッカー31、搬送装置32および観察装置33が配置されている。
【0016】
スタッカー31は、基台34上に配置され、棚31a−1乃至31a−9により上下方向に仕切られている。棚31a−1乃至31a−9の上面には、培養容器用ホルダー(以下、単にホルダーと称する)13が設置されている。各ホルダー13には、細胞を培養するための培養容器14が保持されている。このように、スタッカー31は、培養容器14を保管し、細胞を培養するための空間を提供する。
【0017】
なお、図1には、複数のホルダーが図示されているが、個々に区別する必要がなく、説明を簡単にするために、全て同じ符合を付してある。また、培養容器14は、棚31a−1上のホルダー13内にのみ図示しているが、他のホルダー13も同様に培養容器14を保持している。さらに、以下、棚31a−1乃至31a−9を個々に区別する必要がない場合、単に、棚31aと称する。
【0018】
搬送装置32は、基台34上に配置されるフレーム51を有している。フレーム51の中心には、上下方向に螺子軸52が配置されている。螺子軸52には移動部材53が螺合されており、モータ54により螺子軸52を回転させることにより、移動部材53が上下方向に移動する。移動部材53の下側には、移動部材53とともに上下に移動する搬送アーム55が配置されている。この搬送アーム55はモータ56により作動される駆動機構(不図示)により水平方向に移動可能とされている。各ホルダー13は、この搬送アーム55により、培養観察装置1の各所に搬送される。
【0019】
観察装置33は、観察部61と観察ステージ62とを有している。観察部61には、顕微鏡71が配置されている。この顕微鏡71は、倒立型の顕微鏡とされている。観察部61上には、搬送アーム55により搬送されたホルダー13を載置する観察ステージ62が配置されている。観察ステージ62は、ベース部材81と試料台82を有している。この試料台82に培養容器14をホルダー13とともに載置することにより培養容器14内の細胞が観察される。このように、観察装置33は、培養容器14内の細胞を観察するための空間を提供する。
【0020】
チャンバー11の側面の顕微鏡71の上方となる位置には、搬出入口11aが形成されている。この搬出入口11aの奥側には、モータ35により開閉されるドア36が配置されている。搬出入口11aの内側には、キャリアケース12を載置するためのキャリア保持台37が配置されている。キャリアケース12は、チャンバー11に搬入するホルダー13およびチャンバー11から搬出されたホルダー13を収納し、クリーンベンチ等との間においてホルダー13を運搬するために使用される。そして、キャリアケース12は、収納しているホルダー13をチャンバー11に搬入したり、チャンバー11から排出されるホルダー13を格納したりする場合に、キャリア保持台37上の所定の位置に設置される。また、キャリアケース12とキャリア保持台37とは、電気信号の送受信のための電気接点(コネクタ)17により電気的に接続される。
【0021】
チャンバー11の側面の外側には、各種情報を入力する情報入力部15が設けられている。この情報入力部15は、液晶表示部91およびタッチセンサ(不図示)を有している。
【0022】
情報入力部15の下側には、制御部16が設けられている。制御部16は、モータ54,56を制御して搬送アーム55を移動させたり、モータ35を駆動してドア36を開閉させたりして、ホルダー13の搬送を制御する。
【0023】
例えば、情報入力部15に、観察装置33により観察すべきホルダー13の管理番号が入力されると、制御部16は、モータ54,56を制御して搬送アーム55を移動させて、管理番号に対応するホルダー13を、スタッカー31の棚31aから観察装置33の試料台82上に搬送する。また、例えば、キャリア保持台37上にキャリアケース12が載置され、情報入力部15に、キャリアケース12内のホルダー13の搬入先(スタッカー31または観察装置33)が入力されると、制御部16は、モータ35を駆動してドアを開閉させたり、モータ54,56を制御して搬送アーム55を移動させたりして、キャリアケース12内のホルダー13を、スタッカー31の棚31aに搬入したり、観察装置33の試料台82上に搬入したりする。
【0024】
また、制御部16は、後述するように、キャリア保持台37を介して、キャリアケース12内の温度を制御する。
【0025】
図2は、キャリアケース12の外観の構成の例を示している。図2Aはキャリアケース12の側面図、図2Bは正面図、図2Cは上面図である。なお、以下、キャリアケース12の正面に向かって左側の面の左側面と称し、右側の面を右側面と称する。
【0026】
キャリアケース12の直方体状の本体部101の上面101aには、キャリアケース12を持ち運ぶための取っ手102が設けられている。また、本体部101の両側面には、軽量化を図るための肉抜き穴101b−1乃至101b−6が形成されている(ただし、肉抜き穴101b−4乃至101b−6は図示されていない)。さらに、本体部101の正面には、同じく軽量化を図るための肉抜き穴101c−1乃至101c−3が形成されている。また、本体部101の背面(図2Aの左側)には、開口部101dが形成されている。キャリアケース12へのホルダー13の出し入れは、開口部101dから矢印Sで示される方向に行なわれる。また、キャリアケース12は、開口部101dが、チャンバー11のドア36に対面するようにキャリア保持台37上に載置される。
【0027】
図3は、キャリアケース12の左側面を取り外したときのキャリアケース12の内部を示した図である。キャリアケース12の本体部101の内部には、ホルダー13を置くための支持部材111−1乃至111−3が、上下方向に所定の間隔を置いて水平に配置されている。なお、以下、支持部材111−1乃至111−3を個々に区別する必要がない場合、単に支持部材111と称する。
【0028】
図4は、支持部材111を上から見た平面図である。支持部材111には、ヒータ121が埋め込まれている。ヒータ121は、キャリアケース12がキャリア保持台37に載置された状態で、キャリア保持台37から電力が供給され、発熱する。そして、ヒータ121は、キャリア保持台37を介して制御部16により、オン/オフおよび発熱量が制御され、支持部材111に載置されているホルダー13内の培養容器14を加熱する。従って、支持部材111により仕切られるキャリアケース12内の複数の空間に配置されているホルダー13内の培養容器14を、空間ごとに個別に加熱することができる。
【0029】
また、支持部材111の上面の四隅付近には、支持部材111に載置されているホルダー13内の培養容器14の温度を計測するための温度センサ122−1乃至122−4が設けられている。温度センサ122−1乃至122−4は、計測した温度を示す信号を、キャリケース12とキャリア保持台37との電気接点17を介して制御部16に供給する。
【0030】
なお、以下、温度センサ122−1乃至122−4を個々に区別する必要がない場合、単に温度センサ122と称する。
【0031】
図5は、制御部16により実現される機能の一部である培養容器搬入制御部201の機能の構成の例を示すブロック図である。培養容器搬入制御部201は、キャリアケース12内のホルダー13およびホルダー13に保持されている培養容器14のチャンバー11への搬入を制御する機能を提供する。
【0032】
情報取得部211は、情報入力部15に入力された各種の情報を取得し、必要に応じて、目標温度設定部212および加熱制御部213に供給する。
【0033】
目標温度設定部212は、キャリアケース12内のホルダー13の搬入先(スタッカー31または観察装置33)に基づいて、ホルダー13内の培養容器14を加熱する際の目標温度を設定する。目標温度設定部212は、設定した目標温度を加熱制御部213に通知する。また、目標温度設定部212は、必要に応じて、キャリアケース12内のホルダー13のスタッカー31への搬入を搬送制御部214に指令する。
【0034】
加熱制御部213は、キャリア保持台37を介して、キャリアケース12内の支持部材111のヒータ121を制御し、キャリアケース12内のホルダー13に保持されている培養容器14を加熱する。また、加熱制御部213は、必要に応じて、キャリアケース12内のホルダー13のスタッカー31または観察装置33への搬入を搬送制御部214に指令する。
【0035】
搬送制御部214は、モータ54,56を制御して搬送アーム55を移動させたり、モータ35を駆動してドア36を開閉させたりして、搬送アーム55によるホルダー13の搬送を制御する。
【0036】
温度計測部215は、目標温度設定部212または加熱制御部213からの指令に従って、キャリア保持台37を介して、キャリアケース12内の支持部材111に設けられている温度センサ122から出力される信号に基づいて、キャリアケース12内のホルダー13に保持されている培養容器14の温度を計測する。温度計測部215は、計測した培養容器14の温度を目標温度設定部212または加熱制御部213に通知する。
【0037】
次に、図6のフローチャートを参照して、培養観察装置1により実行される培養容器搬入処理について説明する。なお、この処理は、例えば、ユーザが、チャンバー11に搬入する培養容器14を保持するホルダー13をキャリアケース12に挿入し、そのキャリアケース12をキャリア保持台37上の所定の位置に設置し、情報入力部15を操作して、ホルダー13(培養容器14)の搬入先(スタッカー31または観察装置33)を入力したとき開始される。情報入力部15に入力された搬入先の情報は、情報取得部211を介して目標温度設定部212および加熱制御部213に供給される。
【0038】
ステップS1において、目標温度設定部212は、情報入力部15から取得したホルダー13の搬入先の情報に基づいて、搬入先が観察装置33であるか否かを判定する。搬入先が観察装置33であると判定された場合、処理はステップS2に進む。
【0039】
ステップS2において、目標温度設定部212は、目標温度を所定の温度に設定する。すなわち、目標温度設定部212は、培養容器14をチャンバー11内に搬入したときに結露が発生しない温度(例えば、チャンバー11内と同じ温度)に目標温度を設定する。目標温度設定部212は、設定した目標温度を加熱制御部213に通知する。
【0040】
ステップS3において、温度計測部215は、培養容器14の温度を計測する。具体的には、加熱制御部213は、培養容器14の温度の計測を温度計測部215に指令する。温度計測部215は、キャリア保持台37を介して観察装置33に搬入するホルダー13が置かれた支持部材111の温度センサ122から出力される信号に基づいて、ホルダー13内の培養容器14の温度を計測する。温度計測部215は、計測した培養容器14の温度を加熱制御部213に通知する。
【0041】
ステップS4において、加熱制御部213は、搬送時間固定モードに設定されているか否かを判定する。ここで、キャリアケース12から観察装置33にホルダー13を搬入する際の搬入モードとして、搬送時間固定モードと搬送時間可変モードの2種類が設けられている。
【0042】
搬送時間固定モードに設定されている場合、ホルダー13の搬入の指令に同期して、キャリアケース12から観察装置33へのホルダー13の搬入が開始される。換言すれば、ホルダー13の搬入の指令が入力された直後に、キャリアケース12から観察装置33へのホルダー13の搬入が開始される。また、搬送アーム55により実際にホルダー13の搬入が開始されるまでに、培養容器14が目標温度になるようにヒータ121の発熱量が制御される。すなわち、搬送時間固定モードでは、ホルダー13の搬送時間に合わせて、培養容器14が加熱される。
【0043】
一方、搬送時間可変モードに設定されている場合、ヒータ121の発熱量が所定の値になるように制御され、ホルダー13内の培養容器14が目標温度になるまで、ホルダー13の搬入が待機される。そして、培養容器14が目標温度になってから、キャリアケース12から観察装置33へのホルダー13の搬入が開始される。すなわち、搬送時間可変モードでは、培養容器14が目標温度になる時間に合わせて、ホルダー13の搬入が行なわれる。
【0044】
なお、この搬入モードに関する設定は、例えば、ユーザが予め情報入力部15を操作して行ない、その設定情報が、情報取得部211を介して加熱制御部213に供給されている。そして、加熱制御部213が、その設定情報に基づいて、搬送時間固定モードに設定されていると判定した場合、処理はステップS5に進む。
【0045】
ステップS5において、加熱制御部213は、培養容器14の搬入が開始されるまでに培養容器14を目標温度まで加熱するのに必要な熱量を計算する。すなわち、加熱制御部213は、キャリアケース12内のホルダー13の位置まで搬送アーム55が移動し、搬送アーム55により実際にホルダー13の搬入が開始されるまでの所要時間t1の間に、培養容器14を現在の温度から目標温度まで加熱するのに必要な、ヒータ121の単位時間あたりの発熱量Q1を計算する。
【0046】
なお、ホルダー13および培養容器14の比熱や質量、所要時間t1など、発熱量Q1の計算に必要なパラメータは、例えば、ユーザ入力などにより外部から与えられる。
【0047】
ステップS6において、培養観察装置1は、計算した熱量での培養容器14の加熱を開始する。すなわち、加熱制御部213は、観察装置33に搬入するホルダー13が置かれている支持部材111のヒータ121の単位時間あたりの発熱量が、計算した発熱量Q1になるように、キャリア保持台37を介してヒータ121を制御する。
【0048】
ステップS7において、培養観察装置1は、培養容器14を観察装置33に搬入する。具体的には、加熱制御部213は、培養容器14の加熱を開始するのとほぼ同時に、ホルダー13の観察装置33への搬入を搬送制御部214に指令する。搬送制御部214は、モータ54、モータ56およびモータ35を制御して、観察装置33に搬入するホルダー13の位置まで搬送アーム55を移動させ、搬送アーム55を用いてホルダー13を観察装置33に搬入する。これにより、ホルダー13に保持されている培養容器14が観察装置33に搬入される。このとき、計算した単位時間あたりの発熱量Q1で培養容器14が加熱されているので、搬送アーム55が到着し、搬送アーム55により実際にホルダー13の搬入が開始されるまでに、培養容器14の温度が、ほぼ目標温度に達する。その後、培養容器搬入処理は終了する。
【0049】
一方、ステップS4において、搬送時間可変モードに設定されていると判定された場合、処理はステップS8に進む。
【0050】
ステップS8において、加熱制御部213は、所定の熱量で培養容器14を目標温度まで加熱するのに必要な所要時間t2を計算する。すなわち、加熱制御部213は、予め設定されているヒータ121の単位時間あたりの発熱量Q2により、培養容器14を現在の温度から目標温度まで加熱するのに必要な所要時間t2を求める。
【0051】
なお、ホルダー13および培養容器14の比熱や質量など、所要時間t2の計算に必要なパラメータは、例えば、ユーザ入力などにより外部から与えられる。
【0052】
ステップS9において、培養観察装置1は、所要時間t2の間、所定の熱量で培養容器14を加熱する。すなわち、加熱制御部213は、所要時間t2の間、観察装置33に搬入するホルダー13が置かれている支持部材111のヒータ121の単位時間あたりの発熱量が、所定の発熱量Q2になるように、キャリア保持台37を介してヒータ121を制御する。
【0053】
ステップS10において、培養観察装置1は、培養容器14を観察装置33に搬入する。具体的には、加熱制御部213は、培養容器14の加熱を開始してから所要時間t2が経過した後、ホルダー13の観察装置33への搬入を搬送制御部214に指令する。搬送制御部214は、ステップS7の処理と同様に、モータ54、モータ56およびモータ35を制御して、搬送アーム55を用いてホルダー13を観察装置33に搬入する。これにより、ホルダー13に保持されている培養容器14が観察装置33に搬入される。その後、培養容器搬入処理は終了する。
【0054】
一方、ステップS1において、搬入先がスタッカー31であると判定された場合、処理はステップS11に進む。
【0055】
ステップS11において、情報取得部211は、観察スケジュールを取得する。具体的には、例えば、ユーザは、培養容器14の搬入先としてスタッカー31を指定したとき、引き続き、情報入力部15を操作して、搬入する培養容器14内の細胞の観察時刻や観察方法などを示す観察スケジュールを入力する。情報取得部211は、入力された観察スケジュールを情報入力部15から取得し、目標温度設定部212に供給する。
【0056】
ステップS12において、温度計測部215は、培養容器14の温度を計測する。具体的には、目標温度設定部212は、培養容器14の温度の計測を温度計測部215に指令する。温度計測部215は、キャリア保持台37を介して観察装置33に搬入するホルダー13が置かれた支持部材111の温度センサ122から出力される信号に基づいて、ホルダー13内の培養容器14の温度を計測する。温度計測部215は、計測した培養容器14の温度を目標温度設定部212に通知する。
【0057】
ステップS13において、目標温度設定部212は、培養容器14を加熱せずに搬入した場合に、培養容器14の結露の解消に必要な所要時間t3を計算する。具体的には、目標温度設定部212は、現在の温度からチャンバー11内で結露が発生しなくなる温度まで培養容器14を加熱するのに必要な熱量を計算する。そして、目標温度設定部212は、求めた熱量を、単位時間あたりにチャンバー11内で培養容器14に与えられる熱量で割ることにより、所要時間t3を求める。
【0058】
なお、ホルダー13および培養容器14の比熱や質量、チャンバー11内で培養容器14に結露が発生しなくなる温度、単位時間あたりにチャンバー11内で培養容器14に与えられる熱量など、所要時間t3の計算に必要なパラメータは、例えば、ユーザ入力などにより外部から与えられる。
【0059】
ステップS14において、目標温度設定部212は、観察スケジュールに基づいて、最も早い観察時刻までの時間t4<所要時間t3であるか否かを判定する。すなわち、目標温度設定部212は、ユーザにより設定された観察スケジュールに基づいて、現在の時刻からスタッカー31に搬入するホルダー13内の培養容器14内の細胞が最初に観察される時刻までの時間、すなわち、最も早い観察時刻までの時間t4を求め、ステップS13において計算した所要時間t3と比較する。そして、最も早い観察時刻までの時間t4<所要時間t3であると判定された場合、すなわち、培養容器14を加熱せずに搬入した場合に、最も早い観察時刻までに培養容器14の結露を解消できない場合、処理はステップS15に進む。
【0060】
ステップS15において、目標温度設定部212は、最も早い観察時刻までに培養容器14の結露を解消することができる温度に目標温度を設定する。具体的には、所定のヒータ121の単位時間あたりの発熱量Q2により、培養容器14を現在の温度から温度T1まで加熱するのに必要な所要時間をt5とし、チャンバー11内で培養容器14を温度T1から結露が発生しなくなる温度まで加熱するのに必要な所要時間をt6とした場合、目標温度設定部212は、所要時間t5+所要時間t6≦最も早い観察時刻までの時間t4を満たす温度T1の最小値を計算し、目標温度に設定する。
【0061】
ステップS16において、ステップS8の処理と同様に、所定の熱量で培養容器14を目標温度まで加熱するのに必要な所要時間t5が計算される。
【0062】
なお、ホルダー13および培養容器14の比熱や質量など、所要時間t5,t6の計算に必要なパラメータは、例えば、ユーザ入力などにより外部から与えられる。
【0063】
ステップS17において、ステップS9の処理と同様に、所要時間t5の間、所定の熱量で培養容器14が加熱される。その後、処理はステップS18に進む。
【0064】
一方、ステップS14において、最も早い観察時刻までの時間t4≧所要時間t3であると判定された場合、ステップS15乃至S17の処理はスキップされ、処理はステップS18に進む。
【0065】
ステップS18において、培養観察装置1は、培養容器14をスタッカー31に搬入する。具体的には、培養容器14の加熱が行なわれた場合、加熱制御部213は、培養容器14の加熱を開始してから所要時間t5が経過した後、培養容器14のスタッカー31への搬入を搬送制御部214に指令する。一方、培養容器14の加熱が行なわれなかった場合、目標温度設定部212は、すぐに培養容器14のスタッカー31への搬入を搬送制御部214に指令する。搬送制御部214は、モータ54、モータ56およびモータ35を制御して、搬送アーム55を用いてホルダー13をスタッカー31の棚31aに搬入する。これにより、ホルダー13に保持されている培養容器14がスタッカー31に搬入される。その後、培養容器搬入処理は終了する。
【0066】
以上のようにして、チャンバー11内で培養容器14に結露が発生し、培養容器14内の細胞の観察および撮影が阻害されることが防止され、培養容器14内の細胞の観察および撮影を所望のタイミングで確実に行なうことができる。また、チャンバー11に搬入される前にキャリアケース12内で培養容器14が加熱されるため、チャンバー11内の環境に影響を及ぼさずに、培養容器14を目標温度まで加熱することができる。さらに、チャンバー11に搬入するホルダー13が置かれた支持部材111のヒータ121のみ発熱するように制御されるため、エネルギーの浪費を防止できる。
【0067】
なお、キャリアケース12内の培養容器14を加熱する方法は、上述した方法に限定されるものではなく、任意の方法を採用することができる。
【0068】
例えば、図4の支持部材111の代わりに、図7の支持部材301をキャリアケース12に設けるようにしてもよい。支持部材301は、導入口301aから熱風を導入し、支持部材301の上面に設けられている多数の通風口から熱風を排出し、支持部材111に置かれたホルダー13内の培養容器14を加熱する。また、支持部材301の四隅付近には、支持部材111と同様に、支持部材301に置かれたホルダー13内の培養容器14の温度を計測するための温度センサ311−1乃至311−4が設けられている。
【0069】
また、例えば、支持部材111または支持部材301のように、支持部材に設けられた加熱手段により培養容器14を加熱するのではなく、上方から局所的に熱風を当てるなどの方法により、培養容器14を加熱するようにしてもよい。
【0070】
さらに、培養容器14の温度を計測するための温度センサの数および設置位置は、上述した例に限定されるものではなく、任意の数および設置位置に設定することが可能である。
【0071】
また、キャリアケース12内の温度を制御する機能(例えば、図5の情報取得部211、目標温度設定部212、加熱制御部213、および、温度計測部215)を、キャリアケース12に設けるようにしてもよい。
【0072】
さらに、以上の説明では、所定の熱量で培養容器14を加熱する場合、目標温度まで加熱するのに必要な所要時間を計算して、所要時間の間加熱する例を示したが、培養容器14の温度を観測しながら、実際に目標温度に達するまで加熱するようにしてもよい。
【0073】
なお、上述した制御部16の一連の処理は、ハードウエアにより実行することもできるし、ソフトウエアにより実行することもできる。
【0074】
また、制御部16の処理がソフトウエアにより実行される場合、制御部16が実行するプログラムは、本明細書で説明する順序に沿って時系列に処理が行われるプログラムであっても良いし、並列に、あるいは呼び出しが行われたとき等の必要なタイミングで処理が行われるプログラムであっても良い。
【0075】
なお、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 培養観察装置, 11 チャンバー, 12 キャリアケース, 13 培養容器ホルダー, 14 培養容器, 15 情報入力部, 16 制御部, 17 電気接点, 31 スタッカー, 32 搬送装置, 33 観察装置, 35 モータ, 37 キャリア保持台, 52 螺子軸, 53 移動部材, 54 モータ, 55 搬送アーム, 56 モータ, 61 観察部, 62 観察ステージ, 71 顕微鏡, 81 ベース部材, 82 試料台, 111−1乃至111−3 支持部材, 121 ヒータ, 122−1乃至122−4 温度センサ, 201 培養容器搬入制御部, 211 情報取得部, 212 目標温度設定部, 213 加熱制御部, 214 搬送制御部, 215 温度計測部, 301 支持部材, 301a 導入口, 311−1乃至311−3 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の温度および湿度に保たれ、容器内の細胞の培養および観察を行なうための培養観察空間を備える培養観察装置において、
前記培養観察装置と外部空間との間で前記容器の運搬に用いられ、収納している前記容器を前記培養観察空間に搬入する場合に前記培養観察装置の所定の位置に設置される運搬ケースと、
前記所定の位置に設置された前記運搬ケースから前記培養観察空間への前記容器の搬入を行なう搬送手段と、
前記搬送手段を制御する搬送制御手段と、
前記運搬ケース内の前記容器の温度を計測する温度計測手段と、
前記運搬ケース内の前記容器を加熱する加熱手段と、
前記運搬ケースから前記培養観察空間に搬入する前記容器の温度が、前記培養観察空間に搬入する前に目標温度になるように前記加熱手段を制御する加熱制御手段と
を備える培養観察装置。
【請求項2】
前記培養観察空間は、前記容器を保管するための保管空間および細胞を観察するための観察空間を有し、
前記容器の搬入先が前記観察空間または前記保管空間のいずれであるかに基づいて、前記目標温度を設定する目標温度設定手段を
さらに備える請求項1に記載の培養観察装置。
【請求項3】
前記容器の搬入先が前記観察空間であり、かつ、第1の搬入モードに設定されている場合、
前記搬送制御手段は、前記容器の搬入の指令に同期して前記容器の搬入を開始するように前記搬送手段を制御し、
前記加熱制御手段は、前記搬送手段により実際に前記容器の搬入が開始されるまでに前記容器が前記目標温度になるように前記加熱手段を制御し、
前記容器の搬入先が前記観察空間であり、かつ、第2の搬入モードに設定されている場合、
前記加熱制御手段は、所定の熱量で前記容器を加熱するように前記加熱手段を制御し、
前記搬送制御手段は、前記容器が前記目標温度になる時間に合わせて、前記容器を前記観察空間に搬入するように前記搬送手段を制御する
請求項2に記載の培養観察装置。
【請求項4】
前記目標温度設定手段は、前記容器の搬入先が前記保管空間である場合、前記容器内の細胞が最初に観察される時刻までに前記容器の結露が解消する温度に前記目標温度を設定する
請求項2に記載の培養観察装置。
【請求項5】
前記加熱手段は、前記運搬ケース内の複数の空間を個別に加熱することが可能であり、
前記加熱制御手段は、前記培養観察空間に搬入される前記容器が収納されている前記運搬ケース内の空間のみを加熱するように前記加熱手段を制御する
請求項1乃至4のいずれかに記載の培養観察装置。
【請求項6】
細胞の入った容器の運搬に用いられる運搬装置であって、収納している前記容器を、所定の温度および湿度に保たれ、前記容器内の細胞の培養および観察を行なうための培養観察空間を備える培養観察装置の前記培養観察空間に搬入する場合に、前記培養観察装置の所定の位置に設置される運搬装置において、
前記運搬装置内の前記容器の温度を計測する温度計測手段と、
前記運搬装置内の前記容器を加熱する加熱手段と、
前記運搬装置から前記培養観察空間に搬入する前記容器の温度が、前記培養観察空間に搬入する前に目標温度になるように前記加熱手段を制御する加熱制御手段と
を備える運搬装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−263833(P2010−263833A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118294(P2009−118294)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】