説明

基板上に固定化された膜結合型チトクロームP450の活性測定

【課題】固体基板上に膜結合型P450を酵素活性な状態で安定に固定化することで、多様な基質分子に対する酵素活性を高効率で検出する技術を提供する。
【解決手段】基板上に重合脂質膜部分と流動性脂質膜部分を含むパターンを有し、該流動性脂質膜部分に膜結合型チトクロームP450を含む膜画分を固定化してなる、パターン化膜結合型チトクロームP450を有する基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜結合型チトクロームP450を固定化した基板およびそれを用いた活性の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高等生物のチトクロームP450(以下P450)は多様な基質の酵素酸化反応に関与することが知られており、近年、P450酵素による物質生産や医薬・農薬などの安全性評価の指標などへの応用が注目されている(非特許文献1)。一般的に、P450酵素による酸化反応の評価にはヒト、マウスなどの肝臓組織から抽出したミクロゾーム画分または組換え微生物を用いて得られたP450酵素などが用いられている。これらP450酵素活性の評価には、各P450酵素と基質を反応させた後に代謝産物を有機溶媒抽出し、各酵素反応代謝産物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)やガスクロマトグラフィー質量分析器(GC-MS)などを用いて解析するのが一般的である。その結果、一分析の酵素反応の為に約50pmol程度のP450酵素が必要となり、高価な酵素を大量に消費していることが問題となっている。そこで、より簡便で高感度な酵素活性評価法の開発が望まれている。これらの目的のため、近年マルチウェルプレート中で蛍光基質や発光基質と目的化合物の競合アッセイを行うものなど(例:Invitrogen Vivid CYP450 screening kit, Promega P450-Glo)が利用されつつあるが、これらの手法においても酵素活性測定のために大量の酵素と高価な蛍光基質を利用しなければならないことなどから一般化していない。一方、物質生産の見地からすると、酵素代謝産物とP450を迅速に分離するためにP450を固定化するのは有効な手段である考えられる。P450を固定化する手法としては、アガロースゲルに封入する方法や電極表面に有機・無機材料を介して吸着される手法なども開発されつつあるが、いずれの手法においても膜結合型P450を生体膜と同等の環境で固定化することには成功していない(非特許文献2)。
【非特許文献1】P. Anzenbacher, and E. Anzenbacherova, Cytochromes P450 and metabolism of xenobiotics. Cellular and Molecular Life Sciences 58 (2001) 737-747
【非特許文献2】N. Bistolas, U. Wollenberger, C. Jung, F. W. Scheller, CytochromeP450 biosensors - a review, Biosens. Bioelectron. 20 (2005), 2408-2423
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、固体基板上に膜結合型P450を酵素活性を有する状態で安定に固定化することで、多様な基質分子に対する酵素活性を高効率で検出する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、以下の膜結合型チトクロームP450を固定化した基板およびそれを用いた活性の測定方法を提供するものである。
1. 基板上に重合脂質膜部分と流動性脂質膜部分を含むパターンを有し、該流動性脂質膜部分に膜結合型チトクロームP450を含む膜画分を固定化してなる、パターン化膜結合型チトクロームP450を有する基板。
2. 前記流動性脂質膜部分がホスファチジルコリン(PC)とホスファチジルエタノールアミン(PE)とホスファチジルセリン(PS)を含む、項1に記載の基板。
3. (1)基板上に光重合可能な脂質モノマー膜を形成するステップ、(2)該脂質モノマー膜に紫外線を照射することにより、脂質ポリマーのパターンを形成するステップ、(3)重合していない脂質モノマー膜を可溶化剤を用いて基板表面より除去するステップ、(4)脂質モノマー膜の除去により露出した基板領域に流動性脂質を導入するステップ、(5)前記流動性脂質の領域に膜結合型チトクロームP450を含む膜画分を適用して活性な膜結合型チトクロームP450を基板に固定化するステップを含む、パターン化膜結合型チトクロームP450を有する基板の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本明細書において、膜結合型チトクロームP450としては、膜結合型P450であれば基本的に利用可能であるので、P450分子種とそれら遺伝資源および基質は限定されない。例えば、ヒト薬物動態予測やヒトへの環境安全性評価用バイオセンサーへの利用を考慮すると、ヒトではCYP1A2、CYP2C9およびCYP3A4が薬物代謝の65%を占めると考えられていることから、これら主P450分子種が代謝する反応と酵素基質は重要である。すなわち、CYP1A2の基質であるアセトアニリド、7−エトキシレゾルフィン、カフェイン、芳香族アミン、CYP2C9の基質であるフェニトイン、イブプロフェン、トルブタミド、また、CYP3A4の基質であるテストステロン、エストラジオール、ケトコナゾール等を指標にしたバイオセンサー系へと本発明が応用できると考えられる。哺乳動物、特にヒトの膜結合型チトクロームP450が好ましい。
【0006】
本発明の基板は、光重合可能な脂質モノマーを基板上で特定のパターンになるように重合し、重合に関与していない脂質モノマーを除去後、該脂質モノマーの位置を疑似生体膜を構成する流動性脂質で満たし、次いでここに膜結合型チトクロームP450を固定化する。例えばパターンを有するマスクを通じて紫外線を照射することにより、脂質ポリマーによるパターンを形成することができる。膜結合型チトクロームP450は、膜に埋め込まれた酵素として基板上に適用されるのが好ましい。膜結合型チトクロームP450は、基板に直接結合させると失活するので、脂質モノマーの除去後に露出した基板表面を疑似生体膜を構成する流動性脂質で覆うことが重要である。
【0007】
ここで、露出した基板表面を覆う脂質としては、ホスファチジルコリン(PC)とホスファチジルエタノールアミン(PE)を含み、必要に応じてさらにホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルセリン(PS)、フォスファチジン酸(PA)などの酸性脂質を含む。該脂質(リン脂質)には1個又は2個のアシル基が含まれ、特に2個のアシル基が含まれる。該アシル基としては、通常のリン脂質に含まれるアシル基が挙げられ、例えばラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オレオイル基、パルミトオレオイル基、9,12-オクタデカジエノイル基、6,9,12-オクタデカトリエノイル基、9,12,15-オクタデカトリエノイル基などが挙げられる。また、該脂質には、コレステロールなどの生体膜を構成する他の成分が含まれていてもよい。該脂質は、ホスファチジルコリン(PC)とホスファチジルエタノールアミン(PE)を含み、さらにホスファチジルイノシトール(PI)及び/又はホスファチジルセリン(PS)を含むものが好ましく、ホスファチジルコリン(PC)とホスファチジルエタノールアミン(PE)とホスファチジルセリン(PS)を含むものが最も好ましい。
【0008】
PCとPEとPSを含む脂質において、PCが20〜60モル%、PEが20〜60モル%、PSが10〜30モル%のリン脂質混合物が、膜結合型チトクロームP450を含む膜画分を基板に固定するのに最も好ましい。
【0009】
膜に埋め込まれた膜結合型チトクロームP450は、例えばチトクロームP450遺伝子を大腸菌などの細菌、酵母、昆虫細胞、CHO細胞などの哺乳動物細胞で発現させ、膜結合型チトクロームP450を含む膜画分(ミクロゾーム画分を含む)を単離し、これを除去された脂質モノマーのあとの領域(該領域は、必要に応じて生体膜を構成する脂質で充填されていてもよい)に固定することにより、膜結合型チトクロームP450が特定のパターンで形成された本発明の基板を得ることができる。膜結合型チトクロームP450は、ヒトなどの哺乳動物細胞(形質転換されていない)のミクロゾーム画分を使用してもよい。
【0010】
基板としては、ガラス、プラスチック、シリコン、金属、セラミック或いは金などの金属でコーティングされたガラス、プラスチックなどの基板(好ましくは透明基板)を用いることができる。
【0011】
光重合可能な脂質モノマーとしては、光重合性基を少なくとも1つ有する脂質であれば特に限定されない。光重合性基としては、二重結合、三重結合、エポキシ基、α、β−不飽和カルボニルなどが例示され、好ましくは二重結合または三重結合、特に三重結合である。光重合性基は、1つの脂質分子あたり好ましくは1〜10個、より好ましくは2〜6個含まれる。脂質モノマーの重合は、紫外線照射などの方法により行うことができる。
【0012】
光重合性基と脂質モノマーの例を以下に示す。
【0013】
【化1】

〔式中、R,R1,R2は、重合性脂質を構成する残りの基を示す。〕
【0014】
【化2】

【0015】
光重合可能な脂質モノマーとしては、光重合性基を有するリン脂質が例示され、具体的にはホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリンの1または2のアシル基が光重合性基を少なくとも1個含む直鎖または分岐状で,通常C6〜C30好ましくはC6〜C24,より好ましくはC12〜C22の脂肪族のカルボン酸に由来する基であるのが好ましい。脂質は2つのアシル基を有するグリセロリン脂質が好ましいが、リン脂質のアシル基の1つが加水分解された、アシル基(光重合性基を有する)が1つのリン脂質を併用することも可能である。
【0016】
脂質モノマーの基本構造の例を以下に示す。
【0017】
【化3】

【0018】
疑似生体脂質としては、リン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、ステロイドなどが例示される。
【0019】
脂質膜は、通常二分子膜が使用されるが単分子膜を使用することもできる。
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照しながらより詳細に説明する。
1)P450固定化に適したパターン化基板の作製
P450は、ポリマー脂質膜と流動性脂質膜からなるパターン化疑似生体膜を用いて固体基板(例:スライドガラス)上に固定される。ポリマー脂質膜は、流動性を持った脂質膜を一定の配置にパターン化するとともに側方からサポートして安定化する働きがある。パターン化疑似生体膜は、以下のような工程で作製される(図1)。
(1)固体基板上に重合性基を含む分子からなる脂質膜を吸着させる。脂質膜は、水中において安定な二分子膜構造を持つ。基板材料としては、スライドガラスなどが例示されるが、その他にもシリコン基板や金属基板など多様な形態が可能である。重合可能な脂質としては、光重合基を少なくともひとつ有する脂質であれば特に限定されない。2つのアシル基を有するグリセロリン脂質の例としては、光重合基としてジアセチレンを持つ脂質分子(1,2-bis(10,12-tricosadiynoyl)-sn-glycero-3-phosphocholine (以下DiynePCと略する))が挙げられる(図1)。
(2)脂質膜の一部を光照射によって重合する。目的とするパターンは、膜の上に保護マスクを置くもしくはパターンを映写することで作製する。光重合には、300ナノメートル以下の深紫外波長域に強い光を発する光源を用いる。光重合性脂質としてDiynePCを用いた場合の典型的な露光条件は、紫外光強度43 mW/ cm2 (254 nm)、照射光量4 J/ cm2である。
(3)光照射を受けずモノマーのままである膜は、界面活性剤、有機溶媒などの可溶化剤を用いて基板表面より取り除かれる。重合された膜は、可溶化されず基板表面に二分子膜構造を保ったまま残る。未重合分子を選択的に可溶化するための条件例としては、Sodium dodecylsulfate (SDS) 溶液(0.1M)に25℃で30分間浸漬し、その後超純水で十分にリンスするというものが挙げられる。
(4)モノマーが除かれた領域に流動性を持つ疑似生体膜(リン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質など)を新たに導入する。この際、親水部位にエタノールアミンなどを持った膜融合誘起性脂質分子を流動性疑似生体膜に加えることによりP450固定化が効果的に起こる。P450を含む膜画分を効果的に固定化できる流動成膜組成の例としては、1-Palmitoyl-2-Oleoyl-sn-Glycero-3-Phosphocholine (POPC)、1-Palmitoyl-2-Oleoyl-sn-Glycero-3-Phospho-L-Serine (POPS)、1-Palmitoyl-2-Oleoyl-sn-Glycero-3-Phosphoethanolamine (POPE) の混合膜が挙げられる(脂質分子構造は図2を参照)。流動性脂質膜は、主にベシクル溶液を調製してパターン化基板に導入する手法(ベシクル融合法)で行われるが、その他の手法(例:界面活性剤と脂質の混合液より脂質膜を基板上に吸着させる)によっても可能である。
【0021】
2)P450を含む膜画分の調製
2−1:組換え体菌株の作製
ラットCYP1A1cDNAクローンを酵母発現ベクター(pAAH5N)のアルコールデヒドロゲナーゼプロモーターとターミネーターの間に順方向に導入し、発現ベクターpAFCR1を作製した。次に、発現ベクターpAFCR1を塩化リチウム法を用いて酵母(Succuromyces cerevisiae AH22株)へと導入した。以後、酵母発現系を用いた実験では、これら組換え酵母菌株を用いた。
2−2:組み換え体酵母菌株の培養およびミクロソーム膜画分の調整
組み換え体酵母菌株は、250mlのSD合成培地を用いて48時間培養した。組換え体酵母菌株培養液を7000rpmで遠心分離し、組換え体酵母菌株を得た。次に、終濃度0.375mg/mlのザイモリエース100Tで30℃、60分間消化後、10000rpmで遠心分離しスフェロプラスト画分を回収した。次に、超音波操作によりスフェロプラストを破砕後、400000rpmの超遠心操作によりミクロソーム画分を得た。ミクロソーム画分は、酵素活性を安定に保持するために20%のグリセロールを含むリン酸緩衝液中で-80℃保存し、以後の実験に用いた。
【0022】
3)パターン化疑似生体膜へのP450固定化
パターン化疑似生体膜にP450を含んだ膜画分を固定化する典型的な手順は以下の通りである。調製されたP450含有膜画分を20%グリセロールおよび2-mercaptoethanol (2-ME) を含んだ緩衝液で適当な濃度に希釈し、パターン化疑似生体膜に添加する。十分長い時間(望ましくは1日)インキュベーションした後に同じ緩衝液でリンスする。非特異吸着を抑制するために、さらにbovine serum albumin (BSA)を1%含んだ緩衝液でリンスする。
【0023】
このようにして基板上に固定化されたP450は、P450抗体を用いた抗体染色によって確認された(図3)。図中のパターン化疑似生体膜は、光重合性脂質によるポリマー脂質膜領域(格子)と流動性膜を組み込んだ領域(正方形の区画)よりなる。区画内に流動性脂質を含まない(ガラス基板の露出した)サンプルでは、区画内へのP450組み込みが観察された(図3(A))。一方、区画内に脂質膜を持つパターン化疑似生体膜へのP450固定化は、組み込まれた脂質膜の組成に応じて観察された。POPC 100%(図3(B))およびPOPC 80%、POPS 20%(図3(C))からなるサンプルでは、区画内へのP450組み込みが観察されなかった。POPC 40%、POPS 20%、POPE 40%からなるサンプル(以下POPC/POPS/POPEと略す)では、ガラス基板と同様に区画内への選択的な組み込みが観察された(図3(D))。基板表面へのP450固定化量は抗体の蛍光強度より推定された。ガラス基板とPOPC/POPS/POPE基板でほぼ同等のP450が組み込まれ、一方POPC基板にはP450組み込みが抑制されることが示された(図4)。ガラス基板表面にP450を含むミクロソーム画分が固定化されるのは、主に膜と基板とのファンデルワールス相互作用による非特異な吸着が原因であると考えられる。ポリマー化脂質膜やPOPCなどフォスフォコリン基は、タンパク質を含む生体試料の非特異吸着が極めて低い表面を形成することが知られている (Ref 1)。また、POPEは生体膜において膜融合を誘起させる性質を持っていることが知られており (Ref 2)、本系においても基板上の区画に埋め込まれたPOPC/POPS/POPE膜とミクロソーム画分の脂質膜とが部分的に融合することで基板上にP450を含んだミクロソームが固定化されているものと推定される。
【0024】
(Ref 1) D. Chapman, Biomembranes and new hemocompatible materials. Langmuir 9 (1993) 39-45.
(Ref 2) H. Ellens, D.P. Siegel, D. Alford, P.L. Yeagle, L. Boni, L.J. Lis, P.J. Quinn, and J. Bentz, Membrane-fusion and inverted phases. Biochemistry 28 (1989) 3692-3703.
【0025】
4)固定化されたP450の酵素活性評価
基板上に固定化されたP450の酵素活性は、蛍光基質(7-ethoxyresorufin (7-ER) および7-ethoxycoumarin (7-EC))を用いて評価した。7-ERおよび7-ECは、ともにP450によって酸化されることで蛍光色素(resolufinおよび7-hydroxycoumarin)へと変化する。また、それらの蛍光色素は異なる励起・蛍光波長を持つため、反応を別々に追跡するのに好適である。固定化されたP450の酵素活性は、図5(A)のように基板材料に依存することが示された。POPC/POPS/POPE基板では、ガラスおよびPOPC基板と比較して有意に高い酵素活性が観測された。P450への電子供与体であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)がない系では蛍光増加が見られなかったことからも、蛍光増加がP450の酵素反応によることが確認された(図5(B))。ガラス基板上において酵素活性が見られなかったのは、ガラス表面との相互作用によってP450もしくはP450還元酵素が不安定化し酵素活性を失ったためであると考えられる。一方、POPC基板においては、基板表面に膜画分が吸着されないために酵素活性が観察されないものと考えられる。POPC/POPS/POPE基板においては、膜融合誘起性を持ったPOPEのために膜画分の脂質膜と基板上の平面膜とが部分的に融合して膜画分を基板上に固定化しているものと考えられる。ここでPOPC/POPS/POPE平面膜は、(1)膜画分を基板に固定化する、(2)膜画分に含まれる酵素タンパク質と基板との相互作用を抑制することにより酵素活性を維持する、というふたつの役割を演じている。
【0026】
未知基質への酵素活性を評価する手法として、既知基質との競合アッセイが一般的に用いられる。その例として、7-ERと7-ECとの競合アッセイ実験を行った(図6)。P450の7-ERへの酵素活性は7-ECの存在下で抑制された。この結果は、P450の基質である7-ERと7-ECとが同一の酵素を取り合うことによってお互いの反応を阻害していることを示唆し、それぞれの存在下での反応速度を比較して相対的な活性を決定する競合アッセイが可能であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】パターン化疑似生体膜を用いた固体基板上へのP450固定化手法概念図:脂質二分子膜パターン化は、(1)基板上への重合性脂質(モノマー)の二分子膜吸着、(2)マスクを用いたパターン化光重合、(3)光重合反応から保護されたモノマー分子の界面活性剤もしくは有機溶媒による選択的除去、(4)流動性を持った新しい脂質二分子膜の導入、の4段階で行われる。最後の段階で組み込まれる流動性脂質膜には膜融合を促進する脂質成分(例:POPE)が含まれる。このパターン化疑似生体膜にP450を含んだ膜画分を加えると、膜画分はポリマー化脂質膜部位には吸着せず、流動性脂質膜部位に選択的に吸着する(B)。流動性脂質膜を含まないパターン化ポリマー脂質膜に膜画分を加えた場合にも膜画分が基板部位に選択的に吸着するが、ガラス基板に直接固定化した膜中では酵素活性は低下する(A)。
【図2】パターン化疑似生体膜に組み込まれる流動性脂質膜の構成分子例:POPCおよびPOPEは中性脂質、POPSは酸性脂質である。POPEは、膜融合を誘起する性質を持つ。
【図3】パターン化疑似生体膜上に固定化されたP450(ラットCYP1A1)の蛍光観察像。緑色の蛍光を持つ格子状部位はポリマー脂質膜、赤色の蛍光を持つ部位はP450を含有する膜画分である(2波長による蛍光観察を重ね合わせた)。ポリマー脂質膜間は、(A)ガラス基板(流動性脂質膜なし)、(B)流動性脂質膜(POPC 100%)、(C)流動性脂質膜(POPC 80%、POPS 20%)、(D)流動性脂質膜(POPC 40%、POPS 20%、POPE 40%)からなる。
【図4】蛍光標識抗体を用いたP450固定化量の比較。基板上に吸着したP450含有膜画分に1次抗体(anti-P450(CYP1A1))および蛍光標識した2次抗体(anti-IgG-Alexa Fluor 594)を作用させて蛍光スペクトルを測定した。(A)ガラス基板、(B)流動性脂質膜基板(POPC 60%、POPS 10%、POPE 30%)、(C)流動性脂質膜基板(POPC 100%)。
【図5】7-ERを用いたP450酵素活性評価(7-ERの脱エーテル化反応により生成するresorufinの蛍光増大をモニター)。(A)ガラス基板(●)、流動性脂質膜基板(POPC 60%、POPS 10%、POPE 30%:■)、流動性脂質膜基板(POPC 100%:▲)に固定化されたP450酵素活性の比較。(B)P450の補酵素であるNADPHの有無による影響:NADPH 1mM(■)、NADPHなし(●)。7-ER濃度は0.1mM。
【図6】2種類の酵素基質(7-ERおよび7-EC)を用いた競合アッセイ実験。P450による7-ERの脱エーテル化反応を7-EC共存下でモニターした。7-EC なし(■)、7-EC 1mM(●)。7-ER濃度は0.1mM。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に重合脂質膜部分と流動性脂質膜部分を含むパターンを有し、該流動性脂質膜部分に膜結合型チトクロームP450を含む膜画分を固定化してなる、パターン化膜結合型チトクロームP450を有する基板。
【請求項2】
前記流動性脂質膜部分がホスファチジルコリン(PC)とホスファチジルエタノールアミン(PE)とホスファチジルセリン(PS)を含む、請求項1に記載の基板。
【請求項3】
(1)基板上に光重合可能な脂質モノマー膜を形成するステップ、(2)該脂質モノマー膜に紫外線を照射することにより、脂質ポリマーのパターンを形成するステップ、(3)重合していない脂質モノマー膜を可溶化剤を用いて基板表面より除去するステップ、(4)脂質モノマー膜の除去により露出した基板領域に流動性脂質を導入するステップ、(5)前記流動性脂質の領域に膜結合型チトクロームP450を含む膜画分を適用して活性な膜結合型チトクロームP450を基板に固定化するステップを含む、パターン化膜結合型チトクロームP450を有する基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−187975(P2008−187975A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27382(P2007−27382)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】