説明

堤体

【課題】 堤体盛土と遮水シートとの間に間隙が生じにくい構造を有する堤体を提供する。
【解決手段】 所定の盛土材により形成される堤体盛土10の少なくとも表側法面11に、通気性を有する遮水シートを有する護岸構造物30が敷設される。遮水シートは、堤体盛土10に接して敷設される。遮水シートが通気性を有するために、この遮水シートを介して、堤体盛土10と遮水シートとの間の気体が外部に通気されるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川堤防のような堤体に関する。
【背景技術】
【0002】
河川堤防は、河川の氾濫を防止することを主目的とした構造が採用されている。河川の氾濫は、河川堤防が決壊することで発生する。河川堤防は、河川による浸食が進んで決壊する。そのために河川堤防は、河川堤防の河川側である表側法面からの浸食を無くす構造であることが重要になっている。従って、堤体の構造は防水性を重視したものとなる。例えば、堤体の基礎部分となる堤体盛土の表側法面に、遮水シートとコンクリートとの複合構造からなる護岸構造物を用いて堤体盛土への水の浸潤を防止するような重厚な構造形式がとられている。
【0003】
図8は、従来の堤体の構造を説明するための図である。図8の堤体は、堤体盛土10の表側表面11に接して護岸構造物20が形成されている。
【0004】
堤体盛土10は、透水性の低い、例えば透水係数が1.0×10−7〜10−4cm/secの盛土材が用いられる。堤体盛土10の表側法面11に形成される護岸構造物20は、例えば図9に示すような断面構造を有している。
護岸構造物20は、堤体盛土10の表側法面11に接する側から、遮水シート21、コンクリート22、表土23、及び芝24により構成されている。遮水シート21は、例えば透水係数が1.0×10−13〜10−11cm/secのものが用いられる。コンクリート22は、連接ブロック等で形成される。表土23は、芝24が生育しやすい土壌に改良されており、芝24により表土23の流出を防止するようになっている。このような護岸構造物20により、河川から堤体盛土10への水の浸潤を防止する。
【0005】
このような堤体は、表側法面11で河川と接することになる。図8において一点波線は、河川の水面の位置を表しており、H1は低水位のときの水面、H2は高水位のときの水面の位置を表している。このような堤体盛土10は、防水性を重視した護岸構造物20を表側法面11に形成していても、様々な要因により水が浸潤してくることがある。
【0006】
図8において二点波線は、堤体盛土10に水が浸潤したときの残留水位である浸潤線を表しており、HI1は低水位H1のときの浸潤線、HI2は高水位H2のときの浸潤線を表している。堤体盛土10に浸潤した水は、護岸構造物20から、あるいは堤体盛土10の下方向などから流出する。
【0007】
堤体の安定性を求めると、例えば河川の水位が高水位H2から低水位H1へと変化した場合に、堤体内の残留水位を速やかに低下させることが重要である。堤体の下方向から流出する水の量は限られているので、遮水シート21から水を速やかに流出させることが重要になる。
【0008】
堤体盛土10は、水が浸潤するとその部分が脆くなり、また、堤体盛土10と護岸構造物20の遮水シート21の間から水が流出する場合には、同時に堤体盛土10の表面を削り取っていくこともある。堤体盛土10が削られると、堤体盛土10と護岸構造物20の遮水シート21との間に間隙が発生する。このような間隙は、遮水シート21の破損の原因となる。遮水シート21の破損は、堤体盛土10へ浸潤する水の量の増大を招く。その結果、堤体盛土10が水を多く含むと、堤体が決壊しやすくなり、河川の氾濫防止という最も重要な機能を果たさなくなることもある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑み、堤体盛土と遮水シートとの間に間隙が生じにくい構造を有する堤体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決する本発明の堤体は、所定の盛土材により形成される堤体盛土の少なくとも表側法面に、通気性を有する遮水シートが敷設されており、前記遮水シートを介して、前記堤体盛土と前記遮水シートとの間の気体が外部に通気されるように構成されたことを特徴とする。
このような堤体は、遮水シートを介して堤体盛土と遮水シートの間の気体が通気することで、例えば、堤体盛土と遮水シートの間に溜まる空気を外部に抜くことができるようになる。空気を抜くことができるために堤体盛土と遮水シートの間の不要な間隙の発生が抑止され、もし間隙が発生した場合でも速やかに空気が抜けて間隙を無くすことができる。そのために、堤体盛土と遮水シートの間に間隙が生じることにより起こる従来の様々な問題を解決することができる。また、遮水シートを敷設する際に堤体盛土と遮水シートとの間に間隙が生じても、敷設後に間隙から空気を抜くことができるので、従来よりも敷設作業が簡単になる。さらに、河川の水位が下がる場合には、空気の堤体盛土内部への流入が速やかに行われるために、堤体盛土内の飽和水の移動が速やかに行われ、堤体盛土下部に設けられて堤体盛土内部の水を外部に排出するための排水部及び堤体盛土の表面から、浸潤した水を抜きやすくなる。
【0011】
本願発明の堤体に用いる前記遮水シートには、通気性が例えば220m/m/24h〜1200m/m/24hのシートを用いることができる。また、透水係数が例えば7.7×10−9cm/sec〜8.6×10−5cm/secのシートを用いることができる。
【0012】
このような堤体は、遮水シートが表側法面側に敷設してあれば、河川が通常の水量のときの堤体盛土への水の流入を防ぐことができるが、水面の高さが堤体の高さを超える程の水量である場合には、堤体盛土の表側法面以外の部分から水が流入する。これを防止するために、前記遮水シートを、前記堤体盛土の裏側法面にさらに敷設するようにしてもよい。裏側法面にも遮水シートを敷設すると、降雨時の裏側法面から堤体盛土への水の浸潤を防ぐとともに、堤体盛土のせん弾力を補強することができる。
【0013】
また本発明の堤体は、前記遮水シート上に不織布をさらに設けた構成になっていてもよい。この不織布により、前記遮水シートを介して前記堤体盛土から流出する液体を排出する。本願発明の遮水シートは、従来用いられていた遮水シートよりも透水係数が高いので、従来よりも堤体盛土から滲み出す水の量が多くなる。そのために、従来と同様にコンクリートを遮水シートの上に設けると、コンクリートに対する水による影響が起きやすくなる。また、コンクリートそのものが重いために、堤体盛土自体が変形することも考えられる。本実施形態では、遮水シートの上に、コンクリートに代えて不織布を敷設することで、遮水シートから滲み出す水などの液体を速やかに排出することができ、従来のコンクリートを用いたことによる問題を解決することができる。
前記不織布は、透水係数が例えば1.0×10−2cm/sec〜1.0cm/secである。
【0014】
さらに、前記不織布上に表土を盛り、この表土に、表土の流出を防止するための植物を植えるようにしてもよい。植物は、芝などであり、表土に根を張ることで流水により表土が流出することを防止することができる。遮水シートは通気性に優れているために、植物の生育には好条件である。また、植物により美観を保つことができる。
従来は、コンクリートを用いるために、遮水シートの敷設から植栽までを順序立てて行う必要があった。しかし、遮水シートから植物までを一体として構成した場合には、一度に敷設でき従来よりも施工が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は、本実施形態の堤体の構造を説明するための図である。この堤体は、堤体盛土10及び護岸構造物30を有している。
【0017】
堤体盛土10は第1層12〜第3層14までの3層から成っている。最も内側にある第1層12は、堤体盛土10のコアとして働き、最も透水性の低い盛土材を用いて形成される。堤体盛土10に用いられる盛土材は、第1層12から第2層13、第3層14と外側になるにつれて、透水性が高くなる。第1層12〜第3層14に用いられる盛土材の透水係数は、例えば1.0×10−7〜10−4cm/secである。
【0018】
堤体盛土10の河川側とは反対に位置する裏側法面15の下端部分には、排水部が形成される。排水部は、ドレーン部17、堤脚水路18、及びフィルタ部19により構成される。ドレーン部17には、堤体盛土10内に浸潤した水が集められるようになっている。堤脚水路18は、ドレーン部17に集められた水を所定の流末に導くための水路である。堤脚水路18により、ドレーン部17に集められた水が確実に排水されるようになる。フィルタ部19は、堤体盛土10の各層から土粒子が移動してドレーン部17に目詰まりが生じないように設けられる。ドレーン部17は、堤体盛土10の各層の盛土材よりも透水性が大きいものが用いられる。そのために、フィルタ部19を堤体盛土10とドレーン部17の間に設けて、ドレーン部17の目詰まりを防止する必要がある。
【0019】
護岸構造物30は、図2に示すような構造になっている。護岸構造物30は、堤体盛土10の表側法面11に接する側から、遮水シート31、不織布32、表土23、及び芝24により構成されている。
【0020】
遮水シート31は、空気は通すが水を通しにくい性質を持った繊維性のシートで構成される。遮水シート31は、例えば通気性が220m/m/24h〜1200m/m/24h、透水係数が7.7×10−9cm/sec〜8.6×10−5cm/secの繊維性シートである。例えば遮水シート31の通気性が220m/m/24h、透水係数が8.6×10−9cm/secである。透水係数がこの程度の遮水シート31を用いると、堤体に要求される程度の水密性を確保することが可能である。遮水シート31を用いることで、堤体盛土10の表側法面11の透水係数のバラツキを解消することができ、表側法面11に本来要求される防水性能を確保できる。
【0021】
この遮水シート31は、空気を通しやすい性質であるので表側法面11との間に間隙が形成された場合でも、間隙から空気が抜けて、速やかに間隙を埋めることができる。間隙が埋まるので、遮水シート31が従来よりも破損の危険性が低くなる。また、遮水シート31が空気を通しやすいために、芝24のような植物の維持、育成に有効である。
【0022】
図3は、遮水シート31の構造を説明するための図である。この遮水シート31は、通気・防水層33を補強層34、35で挟んだ構成になっている。通気・防水層33により、空気は遮水シート31を通過し、水はそのほとんどが遮られるようになっている。補強層34、35により、外的要因による通気・防水層33の劣化、破損を防止するようになっている。
【0023】
通気・防水層33は、例えば約0.5μmの有孔径を有するポリエチレン連続性極細繊維不織布により構成され、補強層34、35は、例えば不織布により構成される。水滴の径は通常1000〜3000μmであり、霧雨の径は通常100〜200μmである。遮水シート31の通気・防水層33の有孔径が上記の値であれば、水滴の径、霧雨の径などは、通気・防水層33の有孔径よりも大きいので、通気・防水層33を通過することはない。そのために、遮水シート31は防水性を有することになる。また、水蒸気の径は通常0.004μmであり、炭酸ガスの径は通常0.0023μmである。これらの径は通気・防水層33の有孔径よりも小さいので、通気・防水層33を通過する。そのために、遮水シート31は通気性を有することになる。
【0024】
不織布32は、排水機能に優れたジオテキスタイルであり、遮水シート31から流出した残留水を速やかに堤体外に排水するようになっている。不織布32の遮水シート31側の透水係数は、例えば1.0×10−2cm/sec〜1.0cm/secであり、サンドマットと同程度の排水性能を有している。例えば透水係数が5.0×10−1cm/secである。
【0025】
このような不織布32は、従来の護岸構造物20にはない構成物である。従来の護岸構造物20では、不織布32の部分には、コンクリート22が用いられている。コンクリート22を使用すると、表側法面11に大きな荷重がかかることになる。護岸構造物20は、1度施工すると何十年という単位で使用されるので、コンクリート22を用いると、堤体の沈下や表側法面11のはらみ出し等の堤体の変形を誘発しやすい。これに対して、本願発明のように不織布32を用いると、表側法面11への荷重が激減するので、堤体の変形が起こりにくく、長期間の使用に耐えうるものとなる。
【0026】
表土23は、芝24が生育しやすい土壌に改良されており、芝24により表土23が流出しないようになっている。芝24は表土23に育成される植物の一例である。芝24以外の植物であっても、根が張ることにより表土23からの土の流出を防ぐことができる。
【0027】
図4〜図6は、遮水シート31の敷設構造を説明するための図である。
遮水シート31は、一枚で堤体の表側法面11をすべて被覆できることは希である。そのために通常は、複数枚の遮水シート31a、31b、31cを用いて表側法面11のすべてを被覆する。遮水シート31は、表側側面11に対して図5、図6に示すようにして敷設される。
【0028】
図5は図4のA−A’断面図であり、図6は図4のB−B’断面図である。
図5では、遮水シート31aが表側法面11の上端及び下端にどのようにして固定されるかが示されている。図5からわかるように、遮水シート31aは、堤体盛土10の上端に端部がカギ型になるように埋設される。また、表側法面11の下端には、遮水シート31aの別の端部が表側法面11に対して垂直に埋設される。遮水シート31b、31cも同様に固定される。
【0029】
遮水シート31aと遮水シート31bの境界部分は、図6のようになる。ここでは、遮水シート31c側が上流であり、水が遮水シート31c側から遮水シート31a側に流れているものとする。遮水シート31aと遮水シート31bとは、遮水シート31bが上になるように重ねられる。これは、流水によって遮水シート31aの端部から水が入り込むことを防止するためである。遮水シート31aの遮水シート31bに重なる部分は、遮水シート31bの下で表側法面11に埋設される。また、遮水シート31aと遮水シート31bの重なる部分は、固定部材25で表側法面11に固定される。
【0030】
また、遮水シート31と不織布32とを一体に形成しておき、これらを図4〜図6に示すようにして堤体盛土10の表側法面11に敷設するようにしてもよい。いずれにしても図5、図6に示すようにして遮水シート31a、31b、31c(不織布を一体形成する場合は不織布も含む)を固定するので、各遮水シート31a、31b、31cの端部から水が堤体盛土10側に大量に浸潤することはない。
【0031】
図7は、堤体の機能を高機能化させた別の実施形態の堤体の構造を説明するための図である。この図では、護岸構造物40が、堤体盛土10の表側法面11のみならず、その裏側法面15及び頂上面16を覆うように敷設される。護岸構造物40の構造は、図1の護岸構造物30と同じであるので、詳細な説明は省略する。このような構造の堤体では、堤体の裏側法面15についても表側法面11と同様の機能を持たせることができる。
【0032】
そのために、集中豪雨のときなどに予想外の水量により、堤体の高さよりも水面が高くなって越水することになっても、越水による堤体の浸食を防止することができ、堤体の決壊を遅らせることができる。また、降雨により裏側法面15から水が直接浸潤することを防止することができる。
【0033】
護岸構造物40に用いられる遮水シート31は、水を通しにくい性質を持つが完全に水を通さないということではないので、例えば、河川の水量が増えたときや、集中豪雨のときなどに、微量ではあるが表側法面11から堤体盛土10に水が浸潤することが考えられる。堤体盛土10内には、通常、空気が含まれている。堤体盛土10に水が浸潤すると、この空気は、圧縮されて固まりとなり裏側法面15側に押しやられ、その圧を高める。これにより、護岸構造物40に破損が生じるおそれもないとはいえない。この実施形態における、裏側法面15に敷設された護岸構造物40の遮水シート31は、空気を通しやすい性質であるので、裏側法面15に押しやられた空気の固まりが、遮水シート31を介して堤体盛土10の外部へ抜けるようになっているので、上述のごとき護岸構造物40の破損のおそれはほぼないといえる。
【0034】
なお堤体盛土10の頂上面16の護岸構造物40を除いて、表側法面11及び裏側法面15に護岸構造物40を敷設するようにしても、裏側法面15からの水の浸潤を防止するには十分な構成である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態の堤体の構造を説明するための図。
【図2】本実施形態の護岸構造物の構造を説明するための図。
【図3】遮水シートの構造を説明するための図。
【図4】遮水シートの敷設構造を説明するための図。
【図5】遮水シートの敷設構造を説明するための図。
【図6】遮水シートの敷設構造を説明するための図。
【図7】別の実施形態の堤体の構造を説明するための図。
【図8】従来の堤体の構造を説明するための図。
【図9】従来の護岸構造物の構造を説明するための図。
【符号の説明】
【0036】
10 堤体盛土
11 表側法面
12 第1層
13 第2層
14 第3層
15 裏側法面
16 頂上面
17 ドレーン部
18 堤脚水路
19 フィルタ部
20、30、40 護岸構造物
21、31、31a、31b、31c 遮水シート
22 コンクリート
23 表土
24 芝
25 固定部材
32 不織布
33 通気・防水層
34、35 補強層
H1 低水位のときの水面の位置
H2 高水位のときの水面の位置
HI1 低水位のときの浸潤線
HI2 高水位のときの浸潤線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の盛土材により形成される堤体盛土の少なくとも表側法面に、通気性を有する遮水シートが敷設されており、
前記遮水シートを介して、前記堤体盛土と前記遮水シートとの間の気体が外部に通気されるように構成されたことを特徴とする、
堤体。
【請求項2】
前記遮水シートは、通気性が220m/m/24h〜1200m/m/24hである、
請求項1記載の堤体。
【請求項3】
前記遮水シートは、透水係数が7.7×10−9cm/sec〜8.6×10−5cm/secである、
請求項1記載の堤体。
【請求項4】
前記遮水シートは、前記堤体盛土の裏側法面にさらに敷設される、
請求項1記載の堤体。
【請求項5】
前記遮水シート上に不織布が設けられており、この不織布により、前記遮水シートを介して前記堤体盛土から流出する液体を排出するようになっている、
請求項1記載の堤体。
【請求項6】
前記不織布は、透水係数が1.0×10−2cm/sec〜1.0cm/secである、
請求項5記載の堤体。
【請求項7】
前記不織布上には表土が盛られており、この表土には植物が植えられている、
請求項5または6記載の堤体。
【請求項8】
前記遮水シート、不織布、表土、及び植物が、一体に構成されている、
請求項7記載の堤体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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