説明

堰止壁及びその製造方法

【課題】 現場への搬入物が少なく、特殊な作業を要することがない、岩石の移動を堰止める堰止壁及びその製造方法を提供する。
【解決手段】表面に岩石が存在する設置面の所定位置に、岩石の移動を堰止める堰止壁を形成する堰止壁の製造方法であって、該設置面に存する岩石を採取する採取ステップと、採取ステップにより採取された岩石を、岩石を接着する接着組成物により接着し積み上げて該堰止壁を形成する壁形成ステップと、を含んでなる、堰止壁の製造方法である。そして、当該堰止壁が形成された設置面に存する岩石と同種の岩石と、該岩石を接着する接着組成物と、を含んでなり、そして少なくとも一部の該岩石の表面の一部が露出するものである、岩石の移動を堰止める堰止壁である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堰止壁及びその製造方法に関し、より詳細には、表面に岩石が存在する設置面の所定位置に形成され、岩石の移動を堰止める堰止壁及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
岩石が斜面等に沿って転がったり滑ることで移動することがあり、それによって移動した岩石が人や物に衝突することや、地盤が変形するといった問題が生じ得る。
これを防止するため、岩石の斜面等に沿った移動を防止又は減少させる様々な対策が提案されてきた(例えば、特許文献1)。
特許文献1は、「斜面における岩塊・転石等が落石あるいは滑動しないように、また、岩盤斜面におけるオーバーハング部が崩落しないように、コンクリート類で前記岩塊等を支持する擁壁を形成して落石の防止を図る落石防止工法に関する」(特許文献1、段落番号0001)ものであり、「斜面上の浮石やオーバーハング部の安定化を図る工法として、対象斜面にモルタル等の表層硬化材を吹付けて、対象斜面上にモルタル吹付壁を構築するモルタル吹付工法や、ロックネットと呼ばれる可撓性ネットを対象浮石や対象オーバーハング部を被覆するようにして斜面に打設して、前記対象浮石等の滑動や崩落の防止を図るロックネット工法が知られている。また、対象浮石や対象オーバーハング部の下方に補強筋を設置した後、この鉄筋を被覆するように木製の型枠(木枠ともいう。)を配置し、その後に前記木枠内にコンクリートを流し込んで、対象浮石や対象オーバーハング部の下側にこれらを支持する擁壁を形成して安定化する工法(以下、擁壁工法いう。)も知られている。」(特許文献1、段落番号0002〜0003)中で、「簡易かつ迅速に施工が可能な落石防止工法を提供する」(特許文献1、要約の課題)ためになされたもので「対象浮石Fの下側にロックボルト類を複数打設し、このロックボルト類の頭部に鉄筋を連結して面状の鉄筋組体2を形成し、この鉄筋組体に網体を法肩側面が開口する状態に付設し、その後に、前記法肩側面の開口から前記網体と対象斜面との間に前記網体の網目から流出しない物性のコンクリート等を流し込み、前記対象浮石Fを支持する擁壁Xを形成して、落石の防止を図る。」(特許文献1、要約の解決手段)というものが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−251073号公報(例えば、要約、特許請求の範囲、発明の詳細な説明中の段落番号0001〜0017、第1〜7図等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のモルタル吹付工法は、多量のモルタル等を調製し吹き付けることを要するため、これらを行うための装置等や多量のモルタル原料の現場への搬入やモルタルを吹きつける特殊な作業を要する。
そして、特許文献1に記載のロックネット工法は、ロックネットの現場への搬入や、ロックネットにより斜面等を被覆する特殊な作業を要する。
さらに、特許文献1にて提案された「対象浮石Fの下側にロックボルト類を複数打設し、このロックボルト類の頭部に鉄筋を連結して面状の鉄筋組体2を形成し、この鉄筋組体に網体を法肩側面が開口する状態に付設し、その後に、前記法肩側面の開口から前記網体と対象斜面との間に前記網体の網目から流出しない物性のコンクリート等を流し込み、前記対象浮石Fを支持する擁壁Xを形成」する方法(以下、「特許文献1提案工法」という。)は、複数のロックボルト類、鉄筋、網体、コンクリート等の現場への搬入や、ロックボルト類の打設、ロックボルト類の頭部に鉄筋を連結することで面状の鉄筋組体2の形成、鉄筋組体への網体の付設、そしてコンクリート等の流し込みといった多くの特殊な作業を要する。
【0005】
このためこれらモルタル吹付工法、ロックネット工法及び特許文献1提案工法のいずれも、現場への装置や材料等の難儀な搬入作業や特殊作業を要することから、これら搬入作業や特殊作業等が可能な施工場所でなければ施工できず、汎用性に問題があった。とりわけ装置や材料等の搬入が困難な深い山地や急な斜面では、これらの工法を施工することができないという問題があった。
そこで、本発明においては、現場への搬入物が少なく、特殊な作業を要することがない、岩石の移動を堰止める堰止壁及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の堰止壁の製造方法(以下、「本製造方法」という。)は、表面に岩石が存在する設置面の所定位置に、岩石の移動を堰止める堰止壁を形成する堰止壁の製造方法であって、該設置面に存する岩石を採取する採取ステップと、採取ステップにより採取された岩石を、岩石を接着する接着組成物により接着し積み上げて該堰止壁を形成する壁形成ステップと、を含んでなる、堰止壁の製造方法である。
【0007】
本製造方法は、表面に岩石が存在する設置面の所定位置に堰止壁を形成するものであり、堰止壁が所定位置に形成される設置面の表面に既に存在する岩石を用いて堰止壁を形成し、堰止壁によって設置面における岩石の移動を堰止めるものである。
本製造方法は、採取ステップと壁形成ステップとを含んでなる。
採取ステップにおいては、堰止壁が所定位置に形成される設置面に存する岩石を採取する。なお、このとき採取する岩石は、壁形成ステップにおいて堰止壁を形成するために用いるものであるので、堰止壁を形成するのに使用可能な岩石を採取する。
壁形成ステップにおいては、採取ステップにより採取された岩石を、岩石を接着する接着組成物により接着し積み上げて堰止壁を形成する。なお、接着組成物としては、堰止壁を形成するために十分な強度及び耐久性にて岩石を接着できるものであれば何ら制限なく用いることができるが、一例を挙げれば、モルタルや岩石用接着剤等を例示することができる。このように壁形成ステップでは、岩石を接着組成物により接着し積み上げることで所望形状及び寸法の堰止壁を形成する。
このような本製造方法によれば、堰止壁が所定位置に形成される設置面に既に存在する岩石を用いて堰止壁を形成するので、現場への搬入物が少なく(岩石は現場で調達するので岩石を現場に搬入する必要がない)、特殊な作業を要することなく(現場周辺に存する岩石を採取し、その岩石を接着組成物により接着しつつ積み上げて堰止壁を形成すればよい。)、岩石の移動を堰止める堰止壁を製造(形成)することができる。
【0008】
本製造方法は、採取ステップ及び壁形成ステップが、重機を用いることなく人力により行われるものであってもよい。
岩石を採取する採取ステップと、岩石を接着組成物により接着し積み上げて堰止壁を形成する壁形成ステップと、を重機なしに人力のみで行うようにすれば、現場への重機搬入が不要であるので重機搬入に係る工数や費用を削減できると共に、作業員が作業可能であれば重機の設置が難しい場所(例えば、樹木が密集した場所や急な斜面等)であっても施工することができる(施工場所の自由度が高い)。
【0009】
本製造方法は、壁形成ステップが、少なくとも一部の前記岩石の表面の一部が露出するよう前記岩石を接着し積み上げるもの(以下、「岩石表面露出本製造方法」という。)であってもよい。
こうすることで堰止壁が所定位置に形成される設置面に存する岩石のうち、採取ステップにより採取された岩石の少なくとも一部の岩石の表面の一部が露出するよう壁形成ステップにおいて岩石を接着し積み上げるので、壁形成ステップにて形成される堰止壁の表面の少なくとも一部が、該設置面に存していた岩石の表面によって形成される。該設置面に存していた岩石の表面は、該設置面の景観を構成していたものであるので、該設置面に存していた岩石の表面により形成される堰止壁の表面の該少なくとも一部は該設置面の景観にうまくとけ込むことができる。このため本製造方法により堰止壁を形成(製造)することで現場近辺の景観を害することを防止又は減少させることができる。
【0010】
岩石表面露出本製造方法においては、壁形成ステップにより形成された堰止壁の表面のうち、前記接着組成物の表面によって形成された前記岩石の表面以外の目地部分に、前記接着組成物の表面色よりも前記岩石の表面色に近い着色を施す目地着色ステップを、さらに含むもの(以下、「目地着色本製造方法」という。)であってもよい。
岩石表面露出本製造方法においては、壁形成ステップにて形成される堰止壁の表面の少なくとも一部が、前記設置面に存していた岩石の表面によって形成されるので、前記設置面に存していた岩石の表面により形成される堰止壁の表面の該少なくとも一部は前記設置面の景観にうまくとけ込むことができる。しかしながら、壁形成ステップにより形成された堰止壁の表面のうち、前記接着組成物の表面によって形成された前記岩石の表面以外の目地部分は、接着組成物の表面に特有な色彩を有することにより前記設置面の景観にとけ込まず現場近辺の景観を害することが考えられる。これを防止するため、接着組成物の表面色よりも岩石(堰止壁の周辺に存する岩石)の表面色に近い着色を該目地部分に施す目地着色ステップを、さらに含むようにしてもよい。そうすることで目地部分が接着組成物の表面色よりも岩石の表面色に近い色彩を有することとなり、堰止壁が前記設置面の景観に一層うまくとけ込むことができ、現場近辺の景観を害することを効果的に防止又は減少させることができる。
【0011】
目地着色本製造方法においては、目地着色ステップが、前記設置面に存する土砂又は前記岩石を粉砕した粉砕物を前記目地部分に被覆することで着色を施すものであってもよい。
こうすることで接着組成物の表面色よりも岩石の表面色に近い着色を目地部分に施す目地着色ステップが、前記設置面に存する土砂又は前記設置面に存する前記岩石を粉砕した粉砕物を前記目地部分に被覆するので(前記設置面に存する土砂と、前記設置面に存する前記岩石と、のいずれも被覆される前は前記設置面に存していたものであるので、該土砂及び該粉砕物のいずれも前記設置面の景観にうまくとけ込むものである。)、これらによって被覆された前記目地部分が前記設置面の景観にうまくとけ込むことができ、現場近辺の景観を害することを防止又は減少させる。そして、前記設置面に存する土砂及び前記岩石を粉砕した粉砕物のいずれも前記設置面に存していたものを有効利用するので、目地着色ステップを実施するための費用を低減することができると共に、現場への材料搬入を増加させない。
【0012】
本製造方法では、前記設置面が、上部から下部に向けて岩石の移動が予期される斜面であってもよい。
本製造方法では、岩石が存在する設置面の所定位置に堰止壁を形成することにより、堰止壁によって設置面における岩石の移動を堰止めるものであるが、岩石の移動を堰止める必要が大きい設置面としては、上部から下部に向けて岩石の移動が予期される斜面が挙げられる。かかる上部から下部に向けて岩石の移動が予期される斜面(前記設置面)の場合、前記設置面には上部から下部に向けて移動してきた岩石が存在していることが多いので、前記設置面の表面に既に存在している岩石を用いて堰止壁をうまく形成することができる。
【0013】
また、本発明の堰止壁(以下、「本堰止壁」という。)は、当該堰止壁が形成された設置面に存する岩石と同種の岩石と、該岩石を接着する接着組成物と、を含んでなり、そして少なくとも一部の該岩石の表面の一部が露出するものである、岩石の移動を堰止める堰止壁である。
本堰止壁は、本堰止壁が形成された設置面に存する岩石(以下、本堰止壁の周辺に存する岩石であるので「周辺岩石」という。本堰止壁から肉眼目視にて岩石の個々の塊が確認できるもの。)と同種の岩石(以下、本堰止壁を構成する岩石であるので「構成岩石」という。)と、該岩石(構成岩石)を接着する接着組成物と、を含み、少なくとも一部の該岩石(構成岩石)の表面の一部が(本堰止壁の外部に)露出するので、本堰止壁の表面の少なくとも一部が、該設置面に存する岩石(周辺岩石)と同種の岩石(構成岩石)の表面によって形成される。このため該設置面に存する岩石(周辺岩石)の表面と同様の表面(周辺岩石と同種の構成岩石の表面)により本堰止壁の表面の少なくとも一部が形成されることから、本堰止壁の表面の該少なくとも一部は該設置面の景観にうまくとけ込むことができ、現場近辺の景観を害することを防止又は減少させることができる。また、このような本堰止壁は本製造方法により形成することができるので、本堰止壁が形成される設置面に既に存在する岩石を用いて本堰止壁を形成することで、現場への搬入物が少なく(本製造方法と同様、岩石を搬入する必要がない)、特殊な作業を要することなく(現場周辺に存する岩石を採取し、その岩石を接着組成物により接着しつつ積み上げて本堰止壁を形成すればよい。)、岩石の移動を堰止める本堰止壁を製造(形成)することができる。
なお、設置面に存する岩石(周辺岩石)と同種の岩石(構成岩石)とは、周辺岩石の表面の少なくとも一部が有する模様や色彩と同視される模様や色彩を構成岩石の表面が有することをいう。
また、接着組成物としては、本製造方法にて説明したように、堰止壁を形成するために十分な強度及び耐久性にて岩石を接着できるものであれば何ら制限なく用いることができるが、一例を挙げれば、モルタルや岩石用接着剤等を例示することができる。
【0014】
本堰止壁においては、堰止壁の表面のうち、前記接着組成物の表面によって形成された前記岩石の表面以外の目地部分に、前記接着組成物の表面色よりも前記岩石の表面色に近い着色が施されたもの(以下、「目地着色本堰止壁」という。)であってもよい。
本堰止壁の表面の少なくとも一部が、前記設置面に存する岩石(周辺岩石)と同種の岩石(構成岩石)の表面によって形成されるので、前記設置面に存する岩石(周辺岩石)の表面と同様の表面(周辺岩石と同種の構成岩石の表面)により形成される本堰止壁の表面の該少なくとも一部は前記設置面の景観にうまくとけ込むことができる。しかしながら、本堰止壁の表面のうち、前記接着組成物の表面によって形成された目地部分(前記岩石(構成岩石)の表面以外の部分)は、接着組成物の表面に特有な色彩を有することにより前記設置面の景観にとけ込まず現場近辺の景観を害することが考えられる。これを防止するため、接着組成物の表面色よりも岩石(周辺岩石)の表面色に近い着色を該目地部分に施すようにしてもよく、そうすることで目地部分が接着組成物の表面色よりも岩石(周辺岩石)の表面色に近い色彩を有することとなり、本堰止壁が前記設置面の景観に一層うまくとけ込むことができ、現場近辺の景観を害することを効果的に防止又は減少させることができる。
【0015】
目地着色本堰止壁においては、前記堰止壁が形成された設置面に存する土砂又は前記岩石を粉砕した粉砕物を前記目地部分に被覆することで前記着色が施されたものであってもよい。
接着組成物の表面色よりも岩石の表面色に近い着色を目地部分に施すことが、本堰止壁が形成された設置面に存する土砂又は前記岩石(周辺岩石)を粉砕した粉砕物を前記目地部分に被覆することによるので(該設置面に存する土砂と、該設置面に存する前記岩石(周辺岩石)と、のいずれも被覆される前は該設置面に存していたものであるので、該土砂及び前記岩石の粉砕物のいずれも前記設置面の景観にうまくとけ込むものである。)、これらによって被覆された前記目地部分が該設置面の景観にうまくとけ込むことができ、現場近辺の景観を害することを防止又は減少させる。そして、該設置面に存する土砂及び前記岩石(周辺岩石)を粉砕した粉砕物のいずれも該設置面に存していたものを有効利用するので、目地部分の着色のための費用を低減することができると共に、現場への材料搬入を増加させない。
【0016】
そして、本発明の堰止構造(以下、「本構造」という。)は、上部から下部に向けて岩石の移動が予期される斜面と、該斜面の途中に配置される本堰止壁と、を含んでなる、堰止構造である。
本堰止壁は、岩石が存在する設置面の所定位置に設けられることにより、本堰止壁によって設置面における岩石の移動を堰止めるものであるが、岩石の移動を堰止める必要が大きい設置面としては、上部から下部に向けて岩石の移動が予期される斜面が挙げられる。かかる上部から下部に向けて岩石の移動が予期される斜面の場合、該設置面には上部から下部に向けて移動してきた岩石が存在していることが多いので、該設置面に存する岩石(周辺岩石)と同種の岩石(構成岩石)の表面によって表面の少なくとも一部が形成される本堰止壁を設置すれば、本堰止壁の表面の該少なくとも一部は該設置面の景観にうまくとけ込むことができ、現場近辺の景観を害することを防止又は減少させることができる。また、上部から下部に向けて岩石の移動が予期される斜面には上部から下部に向けて移動してきた岩石が既に存在していることが多いので、この既に存在している岩石を用いて堰止壁をうまく形成することもできる。
【0017】
本構造においては、少なくとも2以上の堰止壁が前記斜面に沿って配置されるものであってもよい。
本構造においては、斜面を上部から下部に向けて移動してきた岩石を本堰止壁の上方側で受け止め、斜面における岩石の移動を堰止めることを目的とするが、1の本堰止壁のみでは十分な量の岩石を堰き止めることができない問題が生じうる。このため堰き止めるべき所望量の岩石が1の本堰止壁のみでは十分堰き止めることができない場合には、少なくとも2以上の本堰止壁を斜面に沿って配置するようにしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。しかしながら、これらによって本発明は何ら制限されるものではない。
【0019】
図1は、一実施形態の本発明の堰止壁(本堰止壁)11を示す図である。詳細には、図1(a)は本堰止壁11の正面図(本堰止壁11が連続する方向Eに対して垂直かつ本堰止壁11が配置された斜面51の下部51bから本堰止壁11を見たところを示している。)であり、図1(b)は図1(a)のA−A断面図である。そして、図2は、図1(b)中に矢印Bにて指した部分の一部拡大断面図である。図1及び図2を参照して、本堰止壁11について説明する。
【0020】
本堰止壁11は、図示しない山の中腹に位置する斜面51において、斜面51の等高線に略平行な方向Eに沿って斜面51の上部51aと下部51bとの途中に配設されている。斜面51は、上部51aから下部51bに向けて岩石(周辺岩石)53の転がりや滑りによる移動が予測されているため、かかる上部51aから下部51bへの岩石(周辺岩石)53の移動を堰き止めるため本堰止壁11は斜面51から上方(鉛直上方向。図1(b)中に矢印Jとして示す。)に向けて立ち上がるように形成されている。
【0021】
本堰止壁11は、本堰止壁11が形成された斜面51に存する岩石(周辺岩石。本堰止壁から肉眼目視にて岩石の個々の塊が確認できるものであり、例えば、本堰止壁11から50メートル以内の距離に存する岩石。)53と同種の岩石(構成岩石)15と、岩石(構成岩石)15を接着する接着モルタル(硬化済み、接着組成物)13と、を含んでなり、接着モルタル(硬化済み、接着組成物)13の表面には着色層17(特に、図2参照)が薄く設けられる(塗着)ことで着色が施されている。
岩石(構成岩石)15は、互いが接着モルタル13によって接着されることで本堰止壁11を構成していると共に、一部の岩石(構成岩石)15の表面の一部(例えば、図2においては表面15s)は本堰止壁11の外部91に露出することで本堰止壁11の表面を構成している。
そして、着色層17は、後述するように、斜面51に存する土砂(図示せず)を接着モルタル13の表面に接着することで形成されている。着色層17は、接着モルタル13の表面色(ここではほぼ白色)よりも岩石(周辺岩石)53の表面色に近い色彩を有している。なお、ここでは着色層17を斜面51に存する土砂によって形成しているが、岩石(周辺岩石)53を粉砕して調製した岩粉や、該土砂と該岩粉との混合物によって形成するようにしてもよい。
【0022】
次いで、本堰止壁11の構築(製造)方法について説明する。
まず、本堰止壁11の構築場所として、図3(a)に示すような表面に岩石53が存在し、岩石53の移動を堰止めたい斜面51を決定する。
そして、斜面51に存する岩石53のうち、本堰止壁11の構築(製造)に使用可能な岩石を採取する(採取ステップ)。ここでは岩石53のうち一辺が10cm〜30cm程度のもの(詳細には、10cm×10cmの正方形状のふるい穴を通過不可能かつ30cm×30cmの正方形状のふるい穴を通過可能)でかつ本堰止壁11の構築予定場所から約50メートル以内の距離に存する岩石を採取した。なお、この程度の大きさの岩石の採取は、重機等の必要はなく人力のみで十分なし得る。
その後、図3(b)に示すように、斜面51の所定位置(本堰止壁11を構築(製造)すべき位置)に応じ、本堰止壁11の基礎部分(土中に存する部分)を形成する位置に沿って溝状の穴51hを掘って形成する。なお、穴51hは深さ約50cm及び幅200cm程度の溝であるので、穴51hの掘削作業も重機等の必要はなく人力のみで十分なし得る。
【0023】
一方、接着モルタル(硬化済み)13となる接着モルタル(未硬化、スラリー状、以下、「未硬化モルタル」という。)を調製する。
未硬化モルタルは、上述の採取した岩石(構成岩石)15を所望の強度及び耐久性で接着し得るものであれば何ら制限なく用いることができるが、第二建設株式会社が販売している次の材料を用いて調製されるものを用いれば十分な強度及び耐久性で岩石(構成岩石)15を接着し得るので好ましい。第二建設株式会社販売の材料としては、商品名「DKハイエマルション」(EVA系:エチレン酢酸ビニル共重合樹脂系)及び商品名「DKボンドフィラー」(ケイ砂と普通ポルトランドセメントとを主材とする無機質粉体)が挙げられ、これらを用いて未硬化モルタルを調製するには、DKハイエマルションの18kg(18リットル缶の一缶)を約100リットル程度の容器(例えば、200リットルのドラム缶を半分に切断したもの)に注ぎ、さらに水を36リットルを加え、よく混合してDKハイエマルションと水との混合物(以下、「希釈液」という。)を調製する。そして、DKボンドフィラー25kgを容器(例えば、練り舟を用いてもよい。)に投入した後、さらに希釈液を約4.17kg注入し、2〜3分よく練り混ぜることで未硬化モルタルが調製される。なお、未硬化モルタル中には、DKボンドフィラーと希釈液との練り混ぜによって、空気が小さな気泡として自然に混入される(未硬化モルタル中には、通常、約9体積%程度の空気が含まれる。)。なお、ここで例示したDKハイエマルションと水とDKボンドフィラーとの配合比率は、作業状況、天候及び温度等の条件に応じ適宜変更されてよいことは言うまでもなく、例えば、未硬化モルタルの粘度を増加及び減少させるにはDKボンドフィラーの配合量をそれぞれ増加及び減少させるようにしてもよい。
【0024】
その後、図3(b)に示す溝状の穴51hに沿って、上述のように採取した岩石を未硬化モルタルによって接着しつつ積み上げ、本堰止壁11を形成する(壁形成ステップ)。なお、この未硬化モルタルによって岩石(構成岩石)15を接着しつつ積み上げ本堰止壁11を形成する作業(壁形成ステップ)は、重機を用いることなく人力のみで行うことができる(採取された岩石(構成岩石)15は、重機を用いることなく、人力で取り扱うことのできる大きさや重量を有する。)。
そして岩石(構成岩石)15を接着する未硬化モルタルがある程度硬化した後、接着モルタル13の表面に、第二建設株式会社販売の商品名「DKハイエマルション」を接着剤として噴霧又は塗布し、その上に土砂(斜面51に存する土砂)を圧着(圧力をかけ押しつけるように塗りつける)することで接着モルタル13の表面に該土砂を接着し、着色層17を形成する(目地着色ステップ)。なお、ここでは斜面51に存する土砂を、DKハイエマルションを接着剤として接着モルタル13の表面に接着することで着色層17を形成したが、これに限定されるものではなく、例えば、斜面51に存する土砂とDKハイエマルションとを予め混合し塗着液を調製しておき、該塗着液を接着モルタル13の表面に圧着(圧力をかけ押しつけるように塗りつける)又はハケにて塗布するようにしてもよい。さらに、前述の通り、斜面51に存する土砂に替えて、岩石(周辺岩石)53を粉砕して調製した岩粉や、該土砂と該岩粉との混合物を用いるようにしてもよい。
接着モルタル13が完全に硬化することで、図1及び図2に示した本堰止壁11が完成される。なお、上記の通り、本堰止壁11の構築(製造)は、重機を用いることなく人力のみで行い得るので、作業者が立ち入ることができる場所であれば場所を選ぶことなく本堰止壁11を構築(製造)することができる。そして、完成された本堰止壁11の表面は、岩石(構成岩石)15の表面及び着色層17(斜面51に存していた土砂によって形成される)によって形成され、斜面51及びそれに存する岩石(周辺岩石)53に似た表面を本堰止壁11が有するので、人工物としての違和感を生じることを防止又は減少させることができる。また本堰止壁11は、岩石(構成岩石)15と接着モルタル13と着色層17を形成する微量の土砂を有するが、時間の経過によって本堰止壁11が劣化崩壊等しても斜面51に以前から存在しなかったものは接着モルタル13のみであるので(岩石(構成岩石)15と該土砂とは本堰止壁11構築前から斜面51に存在していた。)、周辺環境の破壊や汚染は生じないか生じたとしても極小にとどまる。
【0025】
このようにして完成された本堰止壁11は、斜面51の上部51aから下部51bに向けた岩石(周辺岩石)53の移動を堰き止める。図4(a)は、本堰止壁11の構築(製造)後に、斜面51の上部51aから下部51bに向いて移動した岩石(周辺岩石)53を本堰止壁11が堰き止めた状態を示す断面図(断面位置は図1(b)と同じである。)である。斜面51の上部51aから下部51bに向けて移動してきた岩石(周辺岩石)53は、本堰止壁11やその近傍に存する岩石に衝突等することで堰き止められ(停止)ることで、本堰止壁11の背後(本堰止壁11の上部51a側)に蓄積する(蓄積した岩石(周辺岩石)を岩石53aとして図4(a)に示した。)。
また、斜面51の上部51aから下部51bまでの間に、本堰止壁11を複数構築(製造)することもできる。図4(b)は、斜面51の上部51aから下部51bまでの間に、本堰止壁11aと本堰止壁11bとの2の本堰止壁を構築(製造)したところを示す断面図(断面位置は図4(a)と同様である。)である。なお、本堰止壁11aと本堰止壁11bとのいずれも上述した本堰止壁11と同様の構造を有している。本堰止壁11aの背後(本堰止壁11aの上部51a側)には岩石53aが蓄積していると共に、本堰止壁11bの背後(本堰止壁11bの上部51a側)には岩石53bが蓄積している。これはまず本堰止壁11aを構築(製造)し、本堰止壁11aの背後(本堰止壁11aの上部51a側)に岩石53aを堰き止め蓄積させたが、本堰止壁11aにより更なる岩石53aを堰き止めることができなくなったため(本堰止壁11aの上縁と岩石53aの上面とが略同じ高さになっており、更なる岩石53aが移動して来ると本堰止壁11aの上縁を乗り越える可能性がある。)、本堰止壁11aよりも上部51a側に本堰止壁11bを構築(製造)し、本堰止壁11bの背後(本堰止壁11bの上部51a側)に岩石53bを堰き止め蓄積させたところを示している。このように必要に応じ、斜面51の上部51aから下部51bまでの間に、本堰止壁を複数時間をずらせて構築(製造)することもできる。
【0026】
以上説明したように本堰止壁11は、当該堰止壁11が形成された設置面(ここでは斜面51)に存する岩石(周辺岩石)53と同種の岩石(構成岩石)15と、該岩石(構成岩石)15を接着する接着組成物たる接着モルタル(硬化済み)13と、を含んでなり、そして少なくとも一部の該岩石(構成岩石)15の表面の一部(図2においては表面15s)が露出するものである、岩石(周辺岩石)53の移動を堰止める堰止壁である。なお、ここでは設置面(ここでは斜面51)に存する岩石(周辺岩石)と同種の岩石(構成岩石)とは、周辺岩石の表面の少なくとも一部(例えば、構成岩石と同程度の大きさの周辺岩石を無作為に複数個(例えば5個)採取し、この採取された複数個の周辺岩石の合計表面積のうちの所定割合(例えば50%)以上の表面)が有する模様や色彩と同視される模様や色彩を構成岩石の表面が有するか否かによって判断した。
また、本堰止壁11の表面のうち、前記接着組成物(接着モルタル(硬化済み)13)の表面によって形成された前記岩石(構成岩石)15の表面以外の目地部分に、前記接着組成物(接着モルタル(硬化済み)13)の表面色(ここではほぼ白色)よりも前記岩石(周辺岩石)53の表面色(ここではほぼ黄土色)に近い着色(ここではほぼ黄土色)が施されたものである。そして、ここでは前記堰止壁11が形成された設置面(斜面51)に存する土砂を前記目地部分に被覆する(着色層17を形成する)ことで前記着色が施されたものである。なお、接着組成物の表面色C1よりも岩石の表面色C2に近い着色C3か否かは、通常、目視により判断することができるが、より定量的に判断するようにしてもよく、例えば、C1、C2及びC3を均等色空間に表した際に、C2とC3との間の距離が、C1とC2との間の距離よりも小さいことで判断してもよい。ここに均等色空間とは、等しい大きさに知覚される色差が、空間内の等しい距離にほぼ対応するように意図した色空間をいい、例えば、コンピュータなどのディスプレイの発色特性(分光分布)の測定値と3種類の網膜の視細胞である錐体の分光吸収特性から各錐体の刺激値を求めたもの(LMS Color Space)や、錐体から脳に信号が伝達される過程で行われる演算を考慮して、LMS値から脳が知覚する色感覚を求めたもの(Opponent Color Space)や、CIE L*u*v* 色空間や、CIE L*a*b* 色空間等が例示できる。
【0027】
上で説明した本堰止壁11の構築(製造)方法は、表面に岩石(周辺岩石)53が存在する設置面(斜面51)の所定位置に、岩石(周辺岩石)53の移動を堰止める堰止壁11を形成する堰止壁の製造方法であって、該設置面(斜面51)に存する岩石を採取する採取ステップと、採取ステップにより採取された岩石を、岩石を接着する接着組成物(未硬化モルタル)により接着し積み上げて該堰止壁11を形成する壁形成ステップと、を含んでなる、堰止壁の製造方法である。
また、上で説明した本堰止壁11の構築(製造)方法は、採取ステップ及び壁形成ステップが、重機を用いることなく人力により行われるものである。
加えて、壁形成ステップが、少なくとも一部の前記岩石(構成岩石)15の表面の一部(図2においては表面15s)が露出するよう前記岩石(構成岩石)15を接着し積み上げるものである。
ここでは壁形成ステップにより形成された堰止壁11の表面のうち、前記接着組成物(接着モルタル(硬化済み)13)の表面によって形成された前記岩石(構成岩石)15の表面以外の目地部分に、前記接着組成物(接着モルタル(硬化済み)13)の表面色(ここではほぼ白色)よりも前記岩石(周辺岩石)53の表面色(ここではほぼ黄土色)に近い着色(ここではほぼ黄土色)を施す目地着色ステップを、さらに含むものである。そして、目地着色ステップが、前記設置面(斜面51)に存する土砂を前記目地部分に被覆する(着色層17を形成する)ことで着色を施すものである。なお、接着組成物の表面色C1よりも岩石の表面色C2に近い着色C3か否かは、通常、目視により判断することができるが、より定量的に判断するようにしてもよく、例えば、C1、C2及びC3を均等色空間(均等色空間については上で説明した通りである。)に表した際に、C2とC3との間の距離が、C1とC2との間の距離よりも小さいことで判断してもよい。
また、前記設置面が、上部51aから下部51bに向けて岩石(周辺岩石)53の移動が予期される斜面51である。
【0028】
そして、図4(a)に示された堰止壁11が形成された斜面51は、上部51aから下部51bに向けて岩石(周辺岩石)53の移動が予期される斜面51と、該斜面51の途中に配置される本堰止壁11と、を含んでなる、堰止構造である。
また、図4(b)に示された堰止壁11a、11bが形成された斜面51は、上部51aから下部51bに向けて岩石(周辺岩石)53の移動が予期される斜面51と、該斜面51の途中に配置される本堰止壁11a、11bと、を含んでなる、堰止構造であり、少なくとも2以上(図4(b)では2)の堰止壁11a、11bが前記斜面51に沿って配置されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】一実施形態の本発明の堰止壁(本堰止壁)を示す図(図1(a)は本堰止壁の正面図であり、図1(b)は図1(a)のA−A断面図である。)である。
【図2】図1(b)中に矢印Bにて指した部分の一部拡大断面図である。
【図3】本堰止壁の構築(製造)方法について説明するための図である。
【図4】本堰止壁が岩石の移動を堰き止めた状態を説明するための図である。
【符号の説明】
【0030】
11 本堰止壁
13 接着モルタル
15 岩石(構成岩石)
15s (外部に露出した)表面
17 着色層
51 斜面
51a 上部
51b 下部
51h 穴
53 岩石(周辺岩石)
53a、53b 蓄積した岩石(周辺岩石)
91 外部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に岩石が存在する設置面の所定位置に、岩石の移動を堰止める堰止壁を形成する堰止壁の製造方法であって、
該設置面に存する岩石を採取する採取ステップと、
採取ステップにより採取された岩石を、岩石を接着する接着組成物により接着し積み上げて該堰止壁を形成する壁形成ステップと、
を含んでなる、堰止壁の製造方法。
【請求項2】
採取ステップ及び壁形成ステップが、重機を用いることなく人力により行われるものである、請求項1に記載の堰止壁の製造方法。
【請求項3】
壁形成ステップが、少なくとも一部の前記岩石の表面の一部が露出するよう前記岩石を接着し積み上げるものである、請求項1又は2に記載の堰止壁の製造方法。
【請求項4】
壁形成ステップにより形成された堰止壁の表面のうち、前記接着組成物の表面によって形成された前記岩石の表面以外の目地部分に、前記接着組成物の表面色よりも前記岩石の表面色に近い着色を施す目地着色ステップを、さらに含むものである、請求項3に記載の堰止壁の製造方法。
【請求項5】
目地着色ステップが、前記設置面に存する土砂又は前記岩石を粉砕した粉砕物を前記目地部分に被覆することで着色を施すものである、請求項4に記載の堰止壁の製造方法。
【請求項6】
前記設置面が、上部から下部に向けて岩石の移動が予期される斜面である、請求項1乃至5のいずれか1に記載の堰止壁の製造方法。
【請求項7】
当該堰止壁が形成された設置面に存する岩石と同種の岩石と、該岩石を接着する接着組成物と、を含んでなり、そして少なくとも一部の該岩石の表面の一部が露出するものである、岩石の移動を堰止める堰止壁。
【請求項8】
堰止壁の表面のうち、前記接着組成物の表面によって形成された前記岩石の表面以外の目地部分に、前記接着組成物の表面色よりも前記岩石の表面色に近い着色が施されたものである、請求項7に記載の堰止壁。
【請求項9】
前記堰止壁が形成された設置面に存する土砂又は前記岩石を粉砕した粉砕物を前記目地部分に被覆することで前記着色が施されたものである、請求項8に記載の堰止壁。
【請求項10】
上部から下部に向けて岩石の移動が予期される斜面と、
該斜面の途中に配置される請求項7乃至9のいずれか1に記載の堰止壁と、
を含んでなる、堰止構造。
【請求項11】
少なくとも2以上の堰止壁が前記斜面に沿って配置されるものである、請求項10に記載の堰止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−90575(P2010−90575A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260219(P2008−260219)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(508301755)
【Fターム(参考)】