塑性締付け用ボルト
【課題】塑性域締めにおいて高価な器具や装置を使用せずに適正軸力で被締結物を締結でき、そのボルトが塑性変形前のものか塑性変形後のものかを簡単に選別できる塑性締付け用ボルトを提供する。
【解決手段】ボルト4の初期締付の際、前記ボルト4の軸部4Aが塑性変形するまで締め付ける塑性締付用ボルトにおいて、前記ボルト頭部4Bから前記ボルトの軸部4Aまで貫通する検知部埋め込み用の穴5と、前記ボルト軸部4Aが軸方向に塑性変形したことを検知する検知部1とを備え、前記検知部1は、予め前記ボルト4に軸方向の張力をかけた状態で前記ボルト4の前記穴5の中に設置された。
【解決手段】ボルト4の初期締付の際、前記ボルト4の軸部4Aが塑性変形するまで締め付ける塑性締付用ボルトにおいて、前記ボルト頭部4Bから前記ボルトの軸部4Aまで貫通する検知部埋め込み用の穴5と、前記ボルト軸部4Aが軸方向に塑性変形したことを検知する検知部1とを備え、前記検知部1は、予め前記ボルト4に軸方向の張力をかけた状態で前記ボルト4の前記穴5の中に設置された。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被締結物を締結する塑性締付け用ボルトに係り、更に詳しくは塑性域締めにおいて適正軸力で被締結物を締結できる塑性締付け用ボルトに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、二つの部材をボルトとナットで締め付けると、被締結体である二つの部材はボルトとナットから締付け圧縮力を受ける。一方、ボルトには、その反作用により引張方向の軸力が生じる。この軸力が弱いと緩みを引き起こす虞が生じ、強すぎると被締結部材の破壊を招く虞が生じる。
【0003】
この軸力をボルトに適正に付与するために、通常はトルクレンチなどのトルク検出機能を備えた締付け具を用いて締付けトルクを管理しながら締め付けるトルク管理法が行われている。
【0004】
しかし、ボルト締結時の軸力とトルクとの関係には、雄ねじと雌ねじの接触部、及び、ボルト頭と被締結部材の接触部の2箇所の摩擦係数の影響が大きく左右する。摩擦係数が小さい場合はトルクに対する軸力の勾配が増加し、摩擦係数が大きい場合はトルクに対する軸力の勾配が減少する。このように、トルク管理法は、上述した接触部の潤滑条件によって、トルクとボルトの軸力の関係特性がばらつくため、所定のトルクで締め付けてもボルトの軸力が不足したり、逆に高くなりすぎたりするという問題があった。
【0005】
このため、より正確なボルト締結方法として、所定の軽度のトルク(スナッグトルク)まで一旦締め付けた後、所定の角度だけボルトを回転させることにより所定の軸力を得る回転角度法や、ボルトの回転角と締付けトルクとをモニタしながらボルトを締め付け、ボルトが塑性域に達してボルトの回転角に対してトルクの増加が少なくなる状態を検知したときに締め付けを終了することにより安定した軸力を得るトルク勾配法などが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−79552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したボルト締結方法において、回転角度法は、ボルト頭と座面を密着させるのに必要な締付けトルクであるスナッグトルクで最初に締め付けを行うが、雄ねじと雌ねじの接触部のかじりなどの影響で同じ締付けトルクでも軸力が異なる場合がある。したがって、スナッグトルクで締め付けた位置から同じ回転角度で締め付けても所定の軸力にならない場合があった。
【0008】
トルク勾配法は、ボルトが塑性域に達した状態を検知することから安定した軸力が得られる。したがって、他の方法と比べて精度よく軸力を管理することができる。しかし、ボルトの回転角度と締付けトルクを測定すると共に、回転角度に対する締付けトルクの変動率を演算する必要があり、限られた箇所にしか適用できないという問題と締付け装置が高価になるという問題があった。
【0009】
更に、塑性域まで締め付けたボルトは初期状態より伸びているため、一旦緩めた後に、再度使用するのは好ましくないが、そのボルトが塑性変形する前のものか塑性変形した後のものかを見分けるのは困難であるという問題があった。
【0010】
本発明は、上記事項に基づいてなされたもので、その目的は、塑性域締めにおいて高価な器具や装置を使用せずに、適正な軸力で被締結物を締結でき、そのボルトが塑性変形前のものか塑性変形後のものかを簡単に選別できる塑性締付け用ボルトを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、ボルトの初期締付の際、前記ボルトの軸部が塑性変形するまで締め付ける塑性締付用ボルトにおいて、前記ボルト頭部から前記ボルトの軸部まで貫通する検知部埋め込み用の穴と、前記ボルト軸部が軸方向に塑性変形したことを検知する検知部とを備え、前記検知部は、予め前記ボルトに軸方向の張力をかけた状態で前記ボルトの前記穴の中に設置されたものとする。
【0012】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記検知部は切欠き部を持つ導電体を備え、前記導電体は非導電体の接着剤により前記切欠き部を除く両端部を前記ボルトの前記検知部埋め込み用の穴にそれぞれ固定されていることを特徴とする。
【0013】
更に、第3の発明は、第2の発明において、前記検知部は前記ボルトの軸方向の塑性変形に伴い前記切欠き部を切断させ、導電性を消失させることを特徴とする。
【0014】
また、第4の発明は、第3の発明において、前記検知部の導電性を検出するための端子部を前記ボルトの頭部に設けたことを特徴とする。
【0015】
更に、第5の発明は、第4の発明において、前記端子部とケーブルを介して電気的に接続され、前記検知部の導電性の有無を確認する電気回路を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ボルトの軸線方向に形成された穴にボルトが塑性変形すると切断する導電体の検知部を設置したので、検知部の導通を監視することで塑性域までの締め付けが可能となる。この結果、このボルトにより塑性域に達する適正な軸力で被締結物を塑性域締めすることができる。また、検知部の導通を確認することで、ボルトが塑性変形前のものか塑性変形後のものかを簡単に選別することができる。この結果、塑性変形後のボルトの誤使用を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を構成する検知部を示す正面図である。
【図2】本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を一部断面で示す正面図である。
【図3】本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態において検知部をボルトに装着する方法の一例を一部断面で示す正面図である。
【図4】本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態において検知部をボルトに装着する方法の他の例を一部断面で示す正面図である。
【図5】本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を構成する検知部の切欠き部の機能を説明する概念図であって、図5(A)は検知部全体が固定されている場合を示し、図5(B)は検知部の切欠き部周辺が固定されていない場合を示す。
【図6】本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を構成する検知部の切断を検知する方法の一例を示すボルト正面図と検知器の電気回路図である。
【図7】本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を構成する検知部の切断を検知する方法の他の例を示すボルト正面図と検知器の電気回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の塑性締付け用ボルトの実施の形態を図面を用いて説明する。
図1乃至図4は、本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を示すもので、図1は本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を構成する検知部を示す正面図、図2は本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を一部断面で示す正面図、図3は本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態において検知部を埋め込む方法の一例を一部断面で示す正面図、図4は本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態において検知部を埋め込む方法の他の例を一部断面で示す正面図である。
【0019】
本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を構成する検知部としての板状検知部材1は、図1に示すように、板状の樹脂製ベース1Aと、この樹脂製ベース1Aの上にフォトエッチング加工された金属膜1Bと、この金属膜1Bの軸方向両端部に形成され樹脂製ベース1A外側に露出する端子部1C,1Cと、この金属膜1Bの軸方向略中央部に幅方向外側から内側へ向かって幅を極めて細くするように形成された切欠き部2と、この切欠き部2の周辺部分を樹脂製ベース1Aと共に後述する接着剤が侵入しないように空隙を設けて封止する例えば樹脂等からなる封止部材3とを備えている。
【0020】
なお、金属膜1Bは両端部に形成された端子部1C,1C以外は例えばエポキシ部材の塗布処理等により電気的に絶縁処理されている。
【0021】
図2は上述した検知部としての板状検知部材1が埋め込まれた本発明の塑性締付け用のボルト4を示す図である。
本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態は、図2に示すように、軸部4Aと軸部4Aの一方側に設けた頭部4Bと軸部4Aの他方側に設けた雄ねじ部4Cとを備えるボルト4と、このボルト4の頭部4Bから軸部4Aに軸方向に設けた検知部材埋め込み用穴5と、この検知部材埋め込み用穴5に埋め込まれ接着剤6により固定される板状検知部材1とを備えている。
【0022】
検知部材埋め込み用穴5は、頭部4Bを開口部とし、ボルト4の締め付けにより軸部4Aの塑性変形が生じる部分を底部として形成されている。この検知部材埋め込み用穴5の形成は、ボルト4の製造過程または製造後のいずれでも可能である。
【0023】
板状検知部材1は、図2に示すように、その一端の端子部1Cを検知部材埋め込み用穴5の底部に接するように埋め込み、検知部材埋め込み用穴5と板状検知部材1との空隙を接着剤6で充填することでボルト4に固定する。この際、切欠き部2の周辺部分は、空隙を設けて封止する封止部材3に覆われていることから、接着剤6と付着しない。この結果、切欠き部2の周辺部分は、ボルト4に検知部材埋め込み用穴5を介して固定されない。
【0024】
図3は検知部材埋め込み用穴5に板状検知部材1を埋め込み固定させる際、ボルト4に予張力を与える方法の例を説明する図である。
本実施の形態で使用する予張力付与用の冶具7は、ボルト4の頭部4Bの下面を支える天井板8aと天井板8aに対向する底板8bとこの天井板8aと底板8bとを連結する少なくとも2枚の対向する側板8c,8cからなる枠構造体8と、この枠構造体8の底板8bに載置固定されるロードセル9と、このロードセル9の上部に固定されボルト4の雄ねじ部4Cに螺合する雌ねじ部が形成された連結部材9Aとを備えている。なお、枠構造体8の天井板8aには、図3に示すように、ボルト4の軸部4Aは貫通するがボルト4の頭部4Bは貫通しない径に形成された孔8dの中心が、連結部材9Aに形成された雌ねじ部の中心と合致するように設けられている。
【0025】
また、図3に示すように、枠構造体8の内側は、天井板8aと側板8c,8cと連結部材9Aとで空間が形成され、図示垂直方向は開口状態である。
【0026】
まず、ボルト4の雌ねじ部4Cを冶具7の枠構造体8の天井板8aの孔8dから内部へ挿入し、連結部材9Aの雌ねじ部に螺合させる。その後、ボルト4のねじ込みを行う。この際に、ロードセル9の出力をモニタしながらねじ込みを行うことで、図3の符号Xで示すようにボルト4に所定の予張力を与えることができる。具体的には、ボルト4を連結部材9Aにねじ込み、ボルト4の頭部4Bの下部面と天井板8aの上部面とが接触した後から、ボルト4の予張力であるロードセル9の出力が表示される。
【0027】
所定の予張力(軸力)まで、ねじ込みを行なった後、検知部材埋め込み用穴5に板状検知部材1を挿入し、検知部材埋め込み用穴5と板状検知部材1との間隙に接着剤6を流し込みこの状態で放置することで、接着剤6を硬化させ板状検知部材1をボルト4に埋め込み固定させる。
【0028】
接着剤6の硬化後に、ボルト4を連結部材9Aから緩める方向にまわすことで除荷し、冶具7からボルト4を取り出す。これによりボルト4が締め付けられていない状態ではボルト4に埋め込み固定された板状検知部材1は圧縮状態になる。上述したように、板状検知部材1の金属膜1Bに形成された切欠き部2の周辺部分は、封止部材3によって、接着剤6が侵入せず固定されていない。この結果、切欠き部2は、この圧縮力を受けて大きく変形するが、薄い膜構造のため撓むことにより破損することは無い。
【0029】
なお、図4は本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態において検知部を埋め込む方法の他の例を一部断面で示す正面図であって、図3に示すロードセル9の下方に油圧シリンダ10を設けたものである。ロードセル9には、上方に連結部材9Aが下方には油圧シリンダ10のロッドがそれぞれ連結されていて、油圧シリンダ10でボルト4を引っ張ることで、所定の軸力をボルト4に印加できる。また、油圧シリンダ10の油圧力に替えて、例えば送りねじ等の機械的方法で引っ張ることも可能である。
【0030】
次に、本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態における検知部としての切欠き部2の動作について図5を用いて詳細に説明する。図5は本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を構成する検知部の切欠き部の機能を説明する概念図であって、図5(A)は検知部全体が固定されている場合を示し、図5(B)は検知部の切欠き部周辺が固定されていない場合を示す。図5(A)及び図5(B)において、図1乃至図4に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0031】
図5(A)及び図5(B)において、ボルト4を左下がりの細線の長方形で、板状検知部材1のボルト4に接着されている部分を右下がりの太線の長方形でそれぞれ模式的に示している。上述したように、図5(A)は板状検知部材1全体がボルト4に接着されている状態を示し、図5(B)は本発明の実施の形態と同様に切欠き部2の周辺が接着されていない状態を示している。
【0032】
例えば被締結物をボルト4で締めこむとボルト4は軸方向に伸び変形する。このとき板状検知部材1はボルト4に接着剤6で固定されているので、ボルト4の伸びと共に軸方向に伸び変形する。図5(A)の右側の図及び図5(B)の右側の図はボルト4が軸方向に伸び変形した状態を示している。
【0033】
図5(A)のように板状検知部材1全体が接着剤6でボルト4に接着されていると、ボルト4が一様に伸び変形するのと一緒に板状検知部材1全体が一様に変形する。このため板状検知部材1に切欠き部2があっても切欠き部2の部分だけが大きく変形することは無い。したがって、ボルト4の軸方向の伸び変形にともなう、板状検知部材1の伸び変形が生じても、切欠き部2における軸方向上下端の切断分離は難しくなる。
【0034】
一方、図5(B)に示す本発明の実施の形態のように切欠き部2の周辺をボルト4に接着しない方法を採用すると、この接着していない部分が自由に変形することが可能となる。この結果、切欠き部2から離れた部位ではほとんど変形せず、切欠き部2に応力が集中することから、この切欠き部2の部分が大きく変形する。
【0035】
ボルト4の締め付けにより、板状検知部材1埋め込み時の予張力よりも軸力が増加すると、板状検知部材1は引張り状態になり、切欠き部2は大きく変形することになる。
【0036】
したがって、板状検知部材1を埋め込むときの予張力をボルト4が塑性変形する荷重よりわずかに低く設定して塑性締付け用ボルトを形成し、この塑性締付け用ボルトで被締結物を締め付けることで、容易に被締結物の塑性締付けが可能になる。この塑性締付け用ボルトで被締結物を締め込み、ボルト4が塑性変形するとボルト4の伸び変形が大きくなり上述したように板状検知部材1の切欠き部2がきわめて大きく変形するため、切欠き部2における軸方向上下端の切断分離が容易に発生する。この切欠き部2の軸方向上下端の切断を検知するまで、ボルト4を締め付けることにより、被締結物の塑性締付けが容易に実施できる。
【0037】
なお、切欠き部2が切断するボルト4の伸び量は板状検知部材1の幅に対する切欠き部2の幅で調整可能である。したがって、ボルト4に板状検知部材1を埋め込むときの予張力に合わせて切欠量を予め算出し設定しておけばよい。
【0038】
次に、本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態における検知部の切断検知方法について図6及び図7を用いて説明する。図6は本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を構成する検知部の切断を検知する方法の一例を示すボルト正面図と検知器の電気回路図、図7は本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を構成する検知部の切断を検知する方法の他の例を示すボルト正面図と検知器の電気回路図である。図6及び図7において、図1乃至図5に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0039】
図6において、検知器11は、大略バッテリ12と、トランジスタ13と、スイッチSと、ブザーBと、抵抗Rと、ケーブル14とを備えている。
【0040】
スイッチSは、一端がバッテリ12の正極に接続され、他端がブザーBの一端と抵抗Rの一端に接続されている。
【0041】
トランジスタ13は、コネクタ部cをブザーBの他端に、エミッタ部eをバッテリ12の負極に、ベース部bを抵抗Rの他端にそれぞれ接続されている。トランジスタ13のベース部bとエミッタ部eは、ケーブル14a,14bと板状検知部材1の他端の端子部1Cと一端の端子部1Cとを介して通常時導通状態となっている。なお、板状検知部材1の一端の端子部1Cは、検知部材埋め込み用穴5の底部に接するように配設されるため、図6に示すようにボルト4の頭部4Bにケーブル14bを接続すれば、上述の電気回路が構成される。
【0042】
図6において、スイッチSを閉じた状態において、板状検知部材1が切断していない状態で他端の端子部1Cと一端の端子部1C間に導通がある場合はブザーB側に電流が流れないためブザーBは鳴動しない。一方、ボルト4の伸び変形に伴って板状検知部材1の切欠き部2が切断し、他端の端子部1Cと一端の端子部1C間の導通が無くなると、ブザーB側に電流が流れブザーBが鳴動する。このように、ブザーBの鳴動の有無で、ボルト4の伸び変形に伴う板状検知部材1の切断を検知することができる。
【0043】
この検知器11の電気回路は簡明であり、例えばバッテリ12としてボタン電池等を用いればボルト4の頭部4Bにも装着可能なほど小型化することができる。例えば、ボルト4の頭部4B全体にソケット部を被せるようなソケットレンチ等を使用する場合であっても、このように、ボルト4の頭部4Bに検知器11を装着することで、ソケットの底部との隙間に納めることができ、支障なく使用することができる。
【0044】
このように、検知器11をボルト4の締結前にボルト頭部4Bに装着すれば、特別な締め付け器具や装置等を使用せずに締め付けを行った場合であっても、ブザーBの鳴動が生じた時点で締め付けを終了すれば適切な塑性締めが可能になる。
【0045】
また、レンチで締付を行っている際にブザーBの鳴動が生じても、具体的にはブザーB鳴動後、若干さらに締付けが進行して終了することになる。このため、板状検知部材1の切断後もボルト4の塑性変形は若干増加する。このため板状検知部材1の切断部間は引張り力が開放され弾性変形分元に戻った分と、ボルトの塑性変形が増加した分広がっている。この結果、ボルト4を緩めても切欠き部2の切断部は再度接続することはなく、取り外したボルト4の板状検知部材1の導通を調べることにより、そのボルト4が塑性変形したものか否かを選別することが可能になる。
【0046】
一方、図7に示すような検知器11の場合は、図6の場合とは逆に板状検知部材1が切断していない間だけブザーBが鳴動し、板状検知部材1が切断するとブザーBの鳴動が停止するものである。この場合はブザーBの鳴動が停止音したときに締め付けを終了すれば適切な塑性締めが可能になる。
【0047】
また、上述した検知器11はブザーBの鳴動で板状検知部材1の切断、すなわち塑性締めを検知していたが、例えば、ナットランナー等の自動締め付け装置の塑性締めによる自動締め付け停止に適用することができる。
【0048】
具体的には、図6及び図7の検知器11の電気回路におけるブザーBの接続部を、外部からの信号で停止可能なナットランナー等の自動締め付け装置等に接続する。この結果、板状検知部材1の切断により図6の場合には電流導通性有の方向へ、図7の場合には電流導通性無しの方向へそれぞれ変化するので、自動締め付け装置等を自動的に停止させることが可能になる。
【0049】
なお、この自動締め付け停止に本実施の形態を適用した場合であっても、板状検知部材1の切断した瞬間に止まるわけではなく、若干締め付けが進行するため板状検知部材1の切欠き部2の切断部はボルト4を緩めても再度接続せず、取り外したボルト4の板状検知部材1の導通を調べることにより、そのボルト4が塑性変形したものか否かを選別することが可能になる。
【0050】
上述した本発明の一実施の形態によれば、ボルト4の軸線方向に形成された検知部材埋め込み用穴5にボルト4が塑性変形すると切断する導電体の板状検知部材1を設置したので、板状検知部材1の導通を監視することで塑性域までの締め付けが可能となる。この結果、このボルト4により塑性域に達する適正な軸力で被締結物を塑性域締めすることができる。また、板状検知部材1の導通を確認することで、ボルト4が塑性変形前のものか塑性変形後のものかを簡単に選別することができる。この結果、塑性変形後のボルト4の誤使用を防止することができる。
【0051】
なお、本実施の形態においては、板状検知部材1を樹脂製ベース1Aとこの樹脂製ベース1Aの上にフォトエッチング加工された金属膜1Bと端子部1C,1Cとで形成する場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、導電性材料を切削したりエッチング加工したりして棒状に形成してもよい。
【0052】
また、本実施の形態においては、封止部材3を空隙を設けて封止する場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、柔軟性のある樹脂部材でコーティング形成してもよく、また、切欠き部2の近傍につばを設けて接着剤6の進入を防止してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 板状検知部材
1A 樹脂製ベース
1B 金属膜
1C 端子部
2 切欠き部
3 封止部材
4 ボルト
4A 軸部
4B 頭部
4C 雄ねじ部
5 検知部材埋め込み用穴
6 接着剤
7 冶具
8 枠構造体
9 ロードセル
9A 連結部材
10 油圧シリンダ
11 検知器
12 バッテリ
13 トランジスタ
B ブザー
【技術分野】
【0001】
本発明は、被締結物を締結する塑性締付け用ボルトに係り、更に詳しくは塑性域締めにおいて適正軸力で被締結物を締結できる塑性締付け用ボルトに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、二つの部材をボルトとナットで締め付けると、被締結体である二つの部材はボルトとナットから締付け圧縮力を受ける。一方、ボルトには、その反作用により引張方向の軸力が生じる。この軸力が弱いと緩みを引き起こす虞が生じ、強すぎると被締結部材の破壊を招く虞が生じる。
【0003】
この軸力をボルトに適正に付与するために、通常はトルクレンチなどのトルク検出機能を備えた締付け具を用いて締付けトルクを管理しながら締め付けるトルク管理法が行われている。
【0004】
しかし、ボルト締結時の軸力とトルクとの関係には、雄ねじと雌ねじの接触部、及び、ボルト頭と被締結部材の接触部の2箇所の摩擦係数の影響が大きく左右する。摩擦係数が小さい場合はトルクに対する軸力の勾配が増加し、摩擦係数が大きい場合はトルクに対する軸力の勾配が減少する。このように、トルク管理法は、上述した接触部の潤滑条件によって、トルクとボルトの軸力の関係特性がばらつくため、所定のトルクで締め付けてもボルトの軸力が不足したり、逆に高くなりすぎたりするという問題があった。
【0005】
このため、より正確なボルト締結方法として、所定の軽度のトルク(スナッグトルク)まで一旦締め付けた後、所定の角度だけボルトを回転させることにより所定の軸力を得る回転角度法や、ボルトの回転角と締付けトルクとをモニタしながらボルトを締め付け、ボルトが塑性域に達してボルトの回転角に対してトルクの増加が少なくなる状態を検知したときに締め付けを終了することにより安定した軸力を得るトルク勾配法などが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−79552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したボルト締結方法において、回転角度法は、ボルト頭と座面を密着させるのに必要な締付けトルクであるスナッグトルクで最初に締め付けを行うが、雄ねじと雌ねじの接触部のかじりなどの影響で同じ締付けトルクでも軸力が異なる場合がある。したがって、スナッグトルクで締め付けた位置から同じ回転角度で締め付けても所定の軸力にならない場合があった。
【0008】
トルク勾配法は、ボルトが塑性域に達した状態を検知することから安定した軸力が得られる。したがって、他の方法と比べて精度よく軸力を管理することができる。しかし、ボルトの回転角度と締付けトルクを測定すると共に、回転角度に対する締付けトルクの変動率を演算する必要があり、限られた箇所にしか適用できないという問題と締付け装置が高価になるという問題があった。
【0009】
更に、塑性域まで締め付けたボルトは初期状態より伸びているため、一旦緩めた後に、再度使用するのは好ましくないが、そのボルトが塑性変形する前のものか塑性変形した後のものかを見分けるのは困難であるという問題があった。
【0010】
本発明は、上記事項に基づいてなされたもので、その目的は、塑性域締めにおいて高価な器具や装置を使用せずに、適正な軸力で被締結物を締結でき、そのボルトが塑性変形前のものか塑性変形後のものかを簡単に選別できる塑性締付け用ボルトを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、ボルトの初期締付の際、前記ボルトの軸部が塑性変形するまで締め付ける塑性締付用ボルトにおいて、前記ボルト頭部から前記ボルトの軸部まで貫通する検知部埋め込み用の穴と、前記ボルト軸部が軸方向に塑性変形したことを検知する検知部とを備え、前記検知部は、予め前記ボルトに軸方向の張力をかけた状態で前記ボルトの前記穴の中に設置されたものとする。
【0012】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記検知部は切欠き部を持つ導電体を備え、前記導電体は非導電体の接着剤により前記切欠き部を除く両端部を前記ボルトの前記検知部埋め込み用の穴にそれぞれ固定されていることを特徴とする。
【0013】
更に、第3の発明は、第2の発明において、前記検知部は前記ボルトの軸方向の塑性変形に伴い前記切欠き部を切断させ、導電性を消失させることを特徴とする。
【0014】
また、第4の発明は、第3の発明において、前記検知部の導電性を検出するための端子部を前記ボルトの頭部に設けたことを特徴とする。
【0015】
更に、第5の発明は、第4の発明において、前記端子部とケーブルを介して電気的に接続され、前記検知部の導電性の有無を確認する電気回路を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ボルトの軸線方向に形成された穴にボルトが塑性変形すると切断する導電体の検知部を設置したので、検知部の導通を監視することで塑性域までの締め付けが可能となる。この結果、このボルトにより塑性域に達する適正な軸力で被締結物を塑性域締めすることができる。また、検知部の導通を確認することで、ボルトが塑性変形前のものか塑性変形後のものかを簡単に選別することができる。この結果、塑性変形後のボルトの誤使用を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を構成する検知部を示す正面図である。
【図2】本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を一部断面で示す正面図である。
【図3】本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態において検知部をボルトに装着する方法の一例を一部断面で示す正面図である。
【図4】本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態において検知部をボルトに装着する方法の他の例を一部断面で示す正面図である。
【図5】本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を構成する検知部の切欠き部の機能を説明する概念図であって、図5(A)は検知部全体が固定されている場合を示し、図5(B)は検知部の切欠き部周辺が固定されていない場合を示す。
【図6】本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を構成する検知部の切断を検知する方法の一例を示すボルト正面図と検知器の電気回路図である。
【図7】本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を構成する検知部の切断を検知する方法の他の例を示すボルト正面図と検知器の電気回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の塑性締付け用ボルトの実施の形態を図面を用いて説明する。
図1乃至図4は、本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を示すもので、図1は本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を構成する検知部を示す正面図、図2は本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を一部断面で示す正面図、図3は本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態において検知部を埋め込む方法の一例を一部断面で示す正面図、図4は本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態において検知部を埋め込む方法の他の例を一部断面で示す正面図である。
【0019】
本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を構成する検知部としての板状検知部材1は、図1に示すように、板状の樹脂製ベース1Aと、この樹脂製ベース1Aの上にフォトエッチング加工された金属膜1Bと、この金属膜1Bの軸方向両端部に形成され樹脂製ベース1A外側に露出する端子部1C,1Cと、この金属膜1Bの軸方向略中央部に幅方向外側から内側へ向かって幅を極めて細くするように形成された切欠き部2と、この切欠き部2の周辺部分を樹脂製ベース1Aと共に後述する接着剤が侵入しないように空隙を設けて封止する例えば樹脂等からなる封止部材3とを備えている。
【0020】
なお、金属膜1Bは両端部に形成された端子部1C,1C以外は例えばエポキシ部材の塗布処理等により電気的に絶縁処理されている。
【0021】
図2は上述した検知部としての板状検知部材1が埋め込まれた本発明の塑性締付け用のボルト4を示す図である。
本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態は、図2に示すように、軸部4Aと軸部4Aの一方側に設けた頭部4Bと軸部4Aの他方側に設けた雄ねじ部4Cとを備えるボルト4と、このボルト4の頭部4Bから軸部4Aに軸方向に設けた検知部材埋め込み用穴5と、この検知部材埋め込み用穴5に埋め込まれ接着剤6により固定される板状検知部材1とを備えている。
【0022】
検知部材埋め込み用穴5は、頭部4Bを開口部とし、ボルト4の締め付けにより軸部4Aの塑性変形が生じる部分を底部として形成されている。この検知部材埋め込み用穴5の形成は、ボルト4の製造過程または製造後のいずれでも可能である。
【0023】
板状検知部材1は、図2に示すように、その一端の端子部1Cを検知部材埋め込み用穴5の底部に接するように埋め込み、検知部材埋め込み用穴5と板状検知部材1との空隙を接着剤6で充填することでボルト4に固定する。この際、切欠き部2の周辺部分は、空隙を設けて封止する封止部材3に覆われていることから、接着剤6と付着しない。この結果、切欠き部2の周辺部分は、ボルト4に検知部材埋め込み用穴5を介して固定されない。
【0024】
図3は検知部材埋め込み用穴5に板状検知部材1を埋め込み固定させる際、ボルト4に予張力を与える方法の例を説明する図である。
本実施の形態で使用する予張力付与用の冶具7は、ボルト4の頭部4Bの下面を支える天井板8aと天井板8aに対向する底板8bとこの天井板8aと底板8bとを連結する少なくとも2枚の対向する側板8c,8cからなる枠構造体8と、この枠構造体8の底板8bに載置固定されるロードセル9と、このロードセル9の上部に固定されボルト4の雄ねじ部4Cに螺合する雌ねじ部が形成された連結部材9Aとを備えている。なお、枠構造体8の天井板8aには、図3に示すように、ボルト4の軸部4Aは貫通するがボルト4の頭部4Bは貫通しない径に形成された孔8dの中心が、連結部材9Aに形成された雌ねじ部の中心と合致するように設けられている。
【0025】
また、図3に示すように、枠構造体8の内側は、天井板8aと側板8c,8cと連結部材9Aとで空間が形成され、図示垂直方向は開口状態である。
【0026】
まず、ボルト4の雌ねじ部4Cを冶具7の枠構造体8の天井板8aの孔8dから内部へ挿入し、連結部材9Aの雌ねじ部に螺合させる。その後、ボルト4のねじ込みを行う。この際に、ロードセル9の出力をモニタしながらねじ込みを行うことで、図3の符号Xで示すようにボルト4に所定の予張力を与えることができる。具体的には、ボルト4を連結部材9Aにねじ込み、ボルト4の頭部4Bの下部面と天井板8aの上部面とが接触した後から、ボルト4の予張力であるロードセル9の出力が表示される。
【0027】
所定の予張力(軸力)まで、ねじ込みを行なった後、検知部材埋め込み用穴5に板状検知部材1を挿入し、検知部材埋め込み用穴5と板状検知部材1との間隙に接着剤6を流し込みこの状態で放置することで、接着剤6を硬化させ板状検知部材1をボルト4に埋め込み固定させる。
【0028】
接着剤6の硬化後に、ボルト4を連結部材9Aから緩める方向にまわすことで除荷し、冶具7からボルト4を取り出す。これによりボルト4が締め付けられていない状態ではボルト4に埋め込み固定された板状検知部材1は圧縮状態になる。上述したように、板状検知部材1の金属膜1Bに形成された切欠き部2の周辺部分は、封止部材3によって、接着剤6が侵入せず固定されていない。この結果、切欠き部2は、この圧縮力を受けて大きく変形するが、薄い膜構造のため撓むことにより破損することは無い。
【0029】
なお、図4は本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態において検知部を埋め込む方法の他の例を一部断面で示す正面図であって、図3に示すロードセル9の下方に油圧シリンダ10を設けたものである。ロードセル9には、上方に連結部材9Aが下方には油圧シリンダ10のロッドがそれぞれ連結されていて、油圧シリンダ10でボルト4を引っ張ることで、所定の軸力をボルト4に印加できる。また、油圧シリンダ10の油圧力に替えて、例えば送りねじ等の機械的方法で引っ張ることも可能である。
【0030】
次に、本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態における検知部としての切欠き部2の動作について図5を用いて詳細に説明する。図5は本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を構成する検知部の切欠き部の機能を説明する概念図であって、図5(A)は検知部全体が固定されている場合を示し、図5(B)は検知部の切欠き部周辺が固定されていない場合を示す。図5(A)及び図5(B)において、図1乃至図4に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0031】
図5(A)及び図5(B)において、ボルト4を左下がりの細線の長方形で、板状検知部材1のボルト4に接着されている部分を右下がりの太線の長方形でそれぞれ模式的に示している。上述したように、図5(A)は板状検知部材1全体がボルト4に接着されている状態を示し、図5(B)は本発明の実施の形態と同様に切欠き部2の周辺が接着されていない状態を示している。
【0032】
例えば被締結物をボルト4で締めこむとボルト4は軸方向に伸び変形する。このとき板状検知部材1はボルト4に接着剤6で固定されているので、ボルト4の伸びと共に軸方向に伸び変形する。図5(A)の右側の図及び図5(B)の右側の図はボルト4が軸方向に伸び変形した状態を示している。
【0033】
図5(A)のように板状検知部材1全体が接着剤6でボルト4に接着されていると、ボルト4が一様に伸び変形するのと一緒に板状検知部材1全体が一様に変形する。このため板状検知部材1に切欠き部2があっても切欠き部2の部分だけが大きく変形することは無い。したがって、ボルト4の軸方向の伸び変形にともなう、板状検知部材1の伸び変形が生じても、切欠き部2における軸方向上下端の切断分離は難しくなる。
【0034】
一方、図5(B)に示す本発明の実施の形態のように切欠き部2の周辺をボルト4に接着しない方法を採用すると、この接着していない部分が自由に変形することが可能となる。この結果、切欠き部2から離れた部位ではほとんど変形せず、切欠き部2に応力が集中することから、この切欠き部2の部分が大きく変形する。
【0035】
ボルト4の締め付けにより、板状検知部材1埋め込み時の予張力よりも軸力が増加すると、板状検知部材1は引張り状態になり、切欠き部2は大きく変形することになる。
【0036】
したがって、板状検知部材1を埋め込むときの予張力をボルト4が塑性変形する荷重よりわずかに低く設定して塑性締付け用ボルトを形成し、この塑性締付け用ボルトで被締結物を締め付けることで、容易に被締結物の塑性締付けが可能になる。この塑性締付け用ボルトで被締結物を締め込み、ボルト4が塑性変形するとボルト4の伸び変形が大きくなり上述したように板状検知部材1の切欠き部2がきわめて大きく変形するため、切欠き部2における軸方向上下端の切断分離が容易に発生する。この切欠き部2の軸方向上下端の切断を検知するまで、ボルト4を締め付けることにより、被締結物の塑性締付けが容易に実施できる。
【0037】
なお、切欠き部2が切断するボルト4の伸び量は板状検知部材1の幅に対する切欠き部2の幅で調整可能である。したがって、ボルト4に板状検知部材1を埋め込むときの予張力に合わせて切欠量を予め算出し設定しておけばよい。
【0038】
次に、本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態における検知部の切断検知方法について図6及び図7を用いて説明する。図6は本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を構成する検知部の切断を検知する方法の一例を示すボルト正面図と検知器の電気回路図、図7は本発明の塑性締付け用ボルトの一実施の形態を構成する検知部の切断を検知する方法の他の例を示すボルト正面図と検知器の電気回路図である。図6及び図7において、図1乃至図5に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0039】
図6において、検知器11は、大略バッテリ12と、トランジスタ13と、スイッチSと、ブザーBと、抵抗Rと、ケーブル14とを備えている。
【0040】
スイッチSは、一端がバッテリ12の正極に接続され、他端がブザーBの一端と抵抗Rの一端に接続されている。
【0041】
トランジスタ13は、コネクタ部cをブザーBの他端に、エミッタ部eをバッテリ12の負極に、ベース部bを抵抗Rの他端にそれぞれ接続されている。トランジスタ13のベース部bとエミッタ部eは、ケーブル14a,14bと板状検知部材1の他端の端子部1Cと一端の端子部1Cとを介して通常時導通状態となっている。なお、板状検知部材1の一端の端子部1Cは、検知部材埋め込み用穴5の底部に接するように配設されるため、図6に示すようにボルト4の頭部4Bにケーブル14bを接続すれば、上述の電気回路が構成される。
【0042】
図6において、スイッチSを閉じた状態において、板状検知部材1が切断していない状態で他端の端子部1Cと一端の端子部1C間に導通がある場合はブザーB側に電流が流れないためブザーBは鳴動しない。一方、ボルト4の伸び変形に伴って板状検知部材1の切欠き部2が切断し、他端の端子部1Cと一端の端子部1C間の導通が無くなると、ブザーB側に電流が流れブザーBが鳴動する。このように、ブザーBの鳴動の有無で、ボルト4の伸び変形に伴う板状検知部材1の切断を検知することができる。
【0043】
この検知器11の電気回路は簡明であり、例えばバッテリ12としてボタン電池等を用いればボルト4の頭部4Bにも装着可能なほど小型化することができる。例えば、ボルト4の頭部4B全体にソケット部を被せるようなソケットレンチ等を使用する場合であっても、このように、ボルト4の頭部4Bに検知器11を装着することで、ソケットの底部との隙間に納めることができ、支障なく使用することができる。
【0044】
このように、検知器11をボルト4の締結前にボルト頭部4Bに装着すれば、特別な締め付け器具や装置等を使用せずに締め付けを行った場合であっても、ブザーBの鳴動が生じた時点で締め付けを終了すれば適切な塑性締めが可能になる。
【0045】
また、レンチで締付を行っている際にブザーBの鳴動が生じても、具体的にはブザーB鳴動後、若干さらに締付けが進行して終了することになる。このため、板状検知部材1の切断後もボルト4の塑性変形は若干増加する。このため板状検知部材1の切断部間は引張り力が開放され弾性変形分元に戻った分と、ボルトの塑性変形が増加した分広がっている。この結果、ボルト4を緩めても切欠き部2の切断部は再度接続することはなく、取り外したボルト4の板状検知部材1の導通を調べることにより、そのボルト4が塑性変形したものか否かを選別することが可能になる。
【0046】
一方、図7に示すような検知器11の場合は、図6の場合とは逆に板状検知部材1が切断していない間だけブザーBが鳴動し、板状検知部材1が切断するとブザーBの鳴動が停止するものである。この場合はブザーBの鳴動が停止音したときに締め付けを終了すれば適切な塑性締めが可能になる。
【0047】
また、上述した検知器11はブザーBの鳴動で板状検知部材1の切断、すなわち塑性締めを検知していたが、例えば、ナットランナー等の自動締め付け装置の塑性締めによる自動締め付け停止に適用することができる。
【0048】
具体的には、図6及び図7の検知器11の電気回路におけるブザーBの接続部を、外部からの信号で停止可能なナットランナー等の自動締め付け装置等に接続する。この結果、板状検知部材1の切断により図6の場合には電流導通性有の方向へ、図7の場合には電流導通性無しの方向へそれぞれ変化するので、自動締め付け装置等を自動的に停止させることが可能になる。
【0049】
なお、この自動締め付け停止に本実施の形態を適用した場合であっても、板状検知部材1の切断した瞬間に止まるわけではなく、若干締め付けが進行するため板状検知部材1の切欠き部2の切断部はボルト4を緩めても再度接続せず、取り外したボルト4の板状検知部材1の導通を調べることにより、そのボルト4が塑性変形したものか否かを選別することが可能になる。
【0050】
上述した本発明の一実施の形態によれば、ボルト4の軸線方向に形成された検知部材埋め込み用穴5にボルト4が塑性変形すると切断する導電体の板状検知部材1を設置したので、板状検知部材1の導通を監視することで塑性域までの締め付けが可能となる。この結果、このボルト4により塑性域に達する適正な軸力で被締結物を塑性域締めすることができる。また、板状検知部材1の導通を確認することで、ボルト4が塑性変形前のものか塑性変形後のものかを簡単に選別することができる。この結果、塑性変形後のボルト4の誤使用を防止することができる。
【0051】
なお、本実施の形態においては、板状検知部材1を樹脂製ベース1Aとこの樹脂製ベース1Aの上にフォトエッチング加工された金属膜1Bと端子部1C,1Cとで形成する場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、導電性材料を切削したりエッチング加工したりして棒状に形成してもよい。
【0052】
また、本実施の形態においては、封止部材3を空隙を設けて封止する場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、柔軟性のある樹脂部材でコーティング形成してもよく、また、切欠き部2の近傍につばを設けて接着剤6の進入を防止してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 板状検知部材
1A 樹脂製ベース
1B 金属膜
1C 端子部
2 切欠き部
3 封止部材
4 ボルト
4A 軸部
4B 頭部
4C 雄ねじ部
5 検知部材埋め込み用穴
6 接着剤
7 冶具
8 枠構造体
9 ロードセル
9A 連結部材
10 油圧シリンダ
11 検知器
12 バッテリ
13 トランジスタ
B ブザー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトの初期締付の際、前記ボルトの軸部が塑性変形するまで締め付ける塑性締付用ボルトにおいて、
前記ボルト頭部から前記ボルトの軸部まで貫通する検知部埋め込み用の穴と、
前記ボルト軸部が軸方向に塑性変形したことを検知する検知部とを備え、
前記検知部は、予め前記ボルトに軸方向の張力をかけた状態で前記ボルトの前記穴の中に設置された
ことを特徴とする塑性締付け用ボルト。
【請求項2】
請求項1に記載の塑性締付け用ボルトにおいて、
前記検知部は切欠き部を持つ導電体を備え、
前記導電体は非導電体の接着剤により前記切欠き部を除く両端部を前記ボルトの前記検知部埋め込み用の穴にそれぞれ固定されている
ことを特徴とする塑性締付け用ボルト。
【請求項3】
請求項2に記載の塑性締付け用ボルトにおいて、
前記検知部は前記ボルトの軸方向の塑性変形に伴い前記切欠き部を切断させ、導電性を消失させる
ことを特徴とする塑性締付け用ボルト。
【請求項4】
請求項3に記載の塑性締付け用ボルトにおいて、
前記検知部の導電性を検出するための端子部を前記ボルトの頭部に設けた
ことを特徴とする塑性締付け用ボルト。
【請求項5】
請求項4に記載の塑性締付け用ボルトにおいて、
前記端子部とケーブルを介して電気的に接続され、前記検知部の導電性の有無を確認する電気回路を備えた
ことを特徴とする塑性締付け用ボルト。
【請求項1】
ボルトの初期締付の際、前記ボルトの軸部が塑性変形するまで締め付ける塑性締付用ボルトにおいて、
前記ボルト頭部から前記ボルトの軸部まで貫通する検知部埋め込み用の穴と、
前記ボルト軸部が軸方向に塑性変形したことを検知する検知部とを備え、
前記検知部は、予め前記ボルトに軸方向の張力をかけた状態で前記ボルトの前記穴の中に設置された
ことを特徴とする塑性締付け用ボルト。
【請求項2】
請求項1に記載の塑性締付け用ボルトにおいて、
前記検知部は切欠き部を持つ導電体を備え、
前記導電体は非導電体の接着剤により前記切欠き部を除く両端部を前記ボルトの前記検知部埋め込み用の穴にそれぞれ固定されている
ことを特徴とする塑性締付け用ボルト。
【請求項3】
請求項2に記載の塑性締付け用ボルトにおいて、
前記検知部は前記ボルトの軸方向の塑性変形に伴い前記切欠き部を切断させ、導電性を消失させる
ことを特徴とする塑性締付け用ボルト。
【請求項4】
請求項3に記載の塑性締付け用ボルトにおいて、
前記検知部の導電性を検出するための端子部を前記ボルトの頭部に設けた
ことを特徴とする塑性締付け用ボルト。
【請求項5】
請求項4に記載の塑性締付け用ボルトにおいて、
前記端子部とケーブルを介して電気的に接続され、前記検知部の導電性の有無を確認する電気回路を備えた
ことを特徴とする塑性締付け用ボルト。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2012−77797(P2012−77797A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221777(P2010−221777)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】
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