塔状構造物の補強構造
【課題】基盤上に支持された塔状構造物と基盤との接合部の曲げ耐力を向上する。
【解決手段】塔状構造物22の外面に接するようにしてこの外面を取り囲んでいる補強部材12A、12Bに、緊張力が付与された緊張部材14A、14Bが螺旋状に設けられている。緊張部材14A、14Bに付与された緊張力は、伝達部16A、16Bにより基礎20へ伝達され、基礎20に補強部材12A、12Bが固定される。よって、支持接合部42に発生する圧縮応力により、塔状構造物22の支持接合部42の曲げ耐力を向上することができる。
【解決手段】塔状構造物22の外面に接するようにしてこの外面を取り囲んでいる補強部材12A、12Bに、緊張力が付与された緊張部材14A、14Bが螺旋状に設けられている。緊張部材14A、14Bに付与された緊張力は、伝達部16A、16Bにより基礎20へ伝達され、基礎20に補強部材12A、12Bが固定される。よって、支持接合部42に発生する圧縮応力により、塔状構造物22の支持接合部42の曲げ耐力を向上することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設の塔状構造物を補強する塔状構造物の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図17に示すように、特許文献1の柱状構造物500は、コンクリートパネル502を周方向並びに鉛直方向に組み合わせて周壁を構成することにより構築されている。
柱状構造物500のような塔状比(=構造物の高さ/構造物の幅)の大きい塔状構造物が基盤上に支持されている場合、地震等が発生したときに、塔状構造物と基盤との接合部に大きな曲げモーメントが作用する。
よって、既設の塔状構造物の耐震性を高めたり、老朽化した塔状構造物を改修したりする為の対策として、接合部の曲げ耐力を向上させる補強技術が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−101363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は係る事実を考慮し、基盤上に支持された塔状構造物と基盤との接合部の曲げ耐力を向上することが可能な塔状構造物の補強構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、基盤上に支持された既設の塔状構造物を補強する塔状構造物の補強構造において、前記塔状構造物の外面を取り囲んで接する補強部材と、前記補強部材に螺旋状に設けられ緊張力が付与された緊張部材と、前記緊張部材に付与された緊張力を前記基盤へ伝達し前記基盤に前記補強部材を固定する伝達部と、を有する。
【0006】
請求項1に記載の発明では、塔状構造物の外面に接するようにして補強部材が塔状構造物の外面を取り囲んでいる。そして、補強部材に螺旋状に設けられている緊張部材に付与された緊張力が、伝達部により基盤へ伝達される。
よって、緊張部材に付与された緊張力が基盤へ伝達されることにより塔状構造物と基盤との接合部(以下、「支持接合部」とする)に発生する圧縮応力によって、外力として支持接合部に作用する曲げモーメントに起因して生じる曲げ引張応力を低減することができる。すなわち、支持接合部の曲げ耐力を向上することができる。
また、緊張力が付与された緊張部材により補強部材が塔状構造物に圧着され、塔状構造物と補強部材とが一体化されるので、塔状構造物のせん断耐力を向上させることができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記補強部材の外面に、前記緊張部材が配置される溝が形成されている。
請求項2に記載の発明では、補強部材の外面に、緊張部材が配置される溝が形成されているので、補強部材の外面の適正な位置に緊張部材を配置でき、また、配置した緊張部材がずれるのを防ぐことができる。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記塔状構造物の材軸に対して右巻きの前記緊張部材と、前記塔状構造物の材軸に対して左巻きの前記緊張部材とが設けられている。
請求項3に記載の発明では、右巻きの緊張部材と左巻きの緊張部材とが、それぞれ逆方向に塔状構造物を捻ろうとするので、塔状構造物の捩れを低減又は無くすことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上記構成としたので、基盤上に支持された塔状構造物と基盤との接合部の曲げ耐力を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る塔状構造物の補強構造を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る塔状構造物の補強方法を示す説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る補強部材に形成された溝を示す説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る緊張部材の定着方法を示す拡大図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る緊張部材の定着方法を示す拡大図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る塔状構造物の補強構造の作用を示す説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る塔状構造物の補強構造を示す正面図である。
【図9】図8のB−B断面図である。
【図10】図8のC−C断面図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る塔状構造物の補強構造の変形例を示す斜視図である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る塔状構造物の補強構造の変形例を示す斜視図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る塔状構造物の補強構造の変形例を示す断面図である。
【図14】本発明の実施形態に係る塔状構造物の補強構造の変形例を示す斜視図である。
【図15】本発明の実施形態に係る塔状構造物の補強構造の変形例を示す斜視図である。
【図16】本発明の実施形態に係る塔状構造物の補強構造の変形例を示す斜視図である。
【図17】従来の柱状構造物を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明の実施形態では、鉄筋コンクリートによって形成された既設の塔状構造物を補強する例を示すが、本発明の実施形態は、コンクリート製、鋼製、木製等のさまざまな塔状構造物の補強に適用することができる。
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。図1の斜視図、図1のA−A断面図である図2、及び図3(c)の正面図に示すように、第1の実施形態の塔状構造物の補強構造10は、補強部材としてのパネル状の構造体12A、12B、緊張部材としての複数のPC鋼より線14A、14B、及び伝達部としての定着部16A、16Bを有し、地盤18上に構築された基盤としての鉄筋コンクリート製の基礎20上に支持された既設の塔状構造物22を補強する。
【0012】
塔状構造物22は、鉄筋コンクリートによって形成され、基礎20の上面から上方に向かって先細った形状の円筒状の構造物である。
構造体12A、12Bは、図2に示すように、塔状構造物22の下部外周面を覆う円筒状の部材を平面視にて左右に二等分した形状にほぼなっており、鉄筋コンクリートによって形成されている。構造体12A、12Bは、塔状構造物22の下部外面に内壁面が接触するようにして塔状構造物22の周囲に配置されている(塔状構造物22の外面を取り囲んでいる)。なお、図2に示すように、図1の状態で、構造体12Aの側端面24Aと、構造体12Bの側端面24Bとの間には隙間が形成されている。
【0013】
図1に示すように、構造体12A、12Bの外面には、螺旋状の溝26A、26Bが形成されている。そして、溝26A、26Bに、緊張力が付与された状態のPC鋼より線14A、14Bが螺旋状に設けられている。PC鋼より線14Aは、塔状構造物22の材軸に対して上方へ向かって右巻き(時計回り)に設けられ、PC鋼より線14Bは、塔状構造物22の材軸に対して上方へ向かって左巻き(反時計回り)に設けられている。
【0014】
図4(a)の斜視図に示すように、溝26Aの深さは、溝26Bの深さとPC鋼より線14Aの直径とを足し合わせた長さよりも深くなっており、PC鋼より線14Aの外側にPC鋼より線14Bが配置されているので、図4(b)の斜視図、及び図4(c)の断面図に示すように、PC鋼より線14AとPC鋼より線14Bとが交差する所において、PC鋼より線14A、14Bの干渉を防ぐことができる。説明の都合上、図4(a)、(b)には、構造体12A、12Bの側端面24A、24Bが省略されている。
なお、PC鋼より線14Bは、図4(c)に示すように、構造体12A、12Bの外面から突出させてもよいし、突出させなくてもよい。構造体12A、12Bの外面からPC鋼より線14Bを突出させれば、構造体12A、12Bの風下側に発生するカルマン渦に起因して生じる渦励振を低減することができる。
【0015】
図1及び図3(c)に示すように、PC鋼より線14A、14Bは、緊張力が付与された状態で、下端部が基礎20の下部に設けられた定着部16A、16Bで基礎20に定着され、上端部が構造体12A、12Bの上部に設けられた定着部28A、28Bで構造体12A、12Bに定着されている。これにより、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力が、定着部16A、16Bにより基礎20へ伝達されて、基礎20に構造体12A、12Bが固定される。
【0016】
次に、補強構造10を用いた塔状構造物の補強方法について説明する。図3(a)〜(c)には、補強部材配置工程、緊張部材配置工程、緊張工程及び補強部材固定工程を有する塔状構造物の補強方法によって、基礎20に支持された既設の塔状構造物22を補強する例が示されている。まず、図3(a)の正面図に示すように、塔状構造物22の外面に構造体12A、12Bの内壁面が接するようにして基礎20の上面に構造体12A、12Bを載置し、構造体12A、12Bにより塔状構造物22の外面を取り囲む(補強部材配置工程)。
【0017】
次に、図3(b)の正面図に示すように、構造体12A、12Bに形成された溝26AにPC鋼より線14Aを螺旋状に設ける(緊張部材配置工程)。次に、油圧ジャッキ等の緊張装置によってPC鋼より線14Aの上下端部を同時に引っ張り、PC鋼より線14Aに緊張力を付与した状態で、PC鋼より線14Aの下端部を定着部16Aにおいて基礎20に定着し、PC鋼より線14Aの上端部を定着部28Aにおいて構造体12A、12Bに定着する(緊張工程)。
【0018】
定着部16AにおけるPC鋼より線14Aの下端部の基礎20への定着は、図5の拡大図に示すように、PC鋼より線14Aの下端部に設けられた雄ネジに、基礎20の下面に形成された切り欠き30内に配置されたアンカープレート32を介してナット34を捩じ込み、締め付けることによって行う。
定着部28AにおけるPC鋼より線14Aの上端部の構造体12A、12Bへの定着は、図6の拡大図に示すように、PC鋼より線14Aの上端部に設けられた雄ネジに、構造体12A、12Bの上面に形成された切り欠き36内に配置されたアンカープレート32を介してナット34を捩じ込み、締め付けることによって行う。図6に示すように、構造体12A、12Bの上部には、構造体12A、12Bの上部外周面に形成された切り欠き38の天井面から、構造体12A、12Bの上端面に形成された切り欠き36の底面へ貫通する貫通孔40が形成されている。そして、この貫通孔40にPC鋼より線14Aの上端部が挿入されている。
【0019】
次に、図3(c)に示すように、構造体12A、12Bに形成された溝26BにPC鋼より線14Bを螺旋状に設ける(緊張部材配置工程)。次に、油圧ジャッキ等の緊張装置によってPC鋼より線14Bの上下端部を同時に引っ張り、PC鋼より線14Bに緊張力を付与した状態で、PC鋼より線14Bの下端部を定着部16Bにおいて基礎20に定着し、PC鋼より線14Bの上端部を定着部28Bにおいて構造体12A、12Bに定着する(緊張工程)。
定着部16BにおけるPC鋼より線14Bの下端部の基礎20への定着は、図5で説明した定着部16Aにおける定着と同様の方法で行なう。また、定着部28BにおけるPC鋼より線14Bの上端部の構造体12A、12Bへの定着は、図6で説明した定着部28Aにおける定着と同様の方法で行なう。
【0020】
そして、PC鋼より線14A、14Bに対して行った緊張工程により、PC鋼より線14A、14Bに緊張力を付与しこの緊張力を基礎20へ伝達する。これによって、基礎20に構造体12A、12Bを固定する(補強部材固定工程)。
【0021】
次に、本発明の第1の実施形態の作用及び効果について説明する。第1の実施形態の塔状構造物の補強構造10、及び塔状構造物の補強方法では、図7の断面図に示すように、PC鋼より線14A、14B(不図示)に付与された緊張力が基礎20へ伝達されることにより、塔状構造物22と基礎20との接合部(以下、「支持接合部42」とする)に圧縮応力が発生する。
また、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bにより構造体12A、12Bが塔状構造物22に圧着されるので(矢印44)、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力を、構造体12A、12B及び塔状構造物22を介して基礎20へ効果的に伝達することができる。
これらにより、支持接合部42に発生する圧縮応力によって、外力として支持接合部42に作用する曲げモーメントMに起因して生じる曲げ引張応力Pを低減することができる。すなわち、支持接合部42の曲げ耐力を向上することができる。
【0022】
また、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bにより構造体12A、12Bが塔状構造物22に圧着され、塔状構造物22と構造体12A、12Bとが一体化されるので、塔状構造物22のせん断耐力を向上させることができる。
また、図1に示すように、PC鋼より線14A、14Bは、構造体12A、12Bの外面に形成された溝26A、26Bに設けられているので、構造体12A、12Bの外面の適正な位置にPC鋼より線14A、14Bを配置することができ、また、配置したPC鋼より線14A、14Bがずれるのを防ぐことができる。
【0023】
また、塔状構造物22の材軸に対して上方へ向かって右巻き(時計回り)に設けられたPC鋼より線14Aと、塔状構造物22の材軸に対して上方へ向かって左巻き(反時計回り)に設けられたPC鋼より線14Bとが、塔状構造物22の材軸に対してそれぞれ逆方向に塔状構造物22を捻ろうとするので、PC鋼より線14A、14Bの一方に緊張力を付与した際に生じる塔状構造物22の捩れを低減又は無くすことができる。
【0024】
また、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bにより構造体12A、12Bが塔状構造物22に圧着されるので、接着剤等を用いずに塔状構造物22の外面に構造体12A、12Bを固定することができる。この場合、塔状構造物22の外面と構造体12A、12Bの内壁面との間に、グラウト等の充填材を充填したり、又は弾性体を挟み込んだりすれば、塔状構造物22の外面に対する構造体12A、12Bの内壁面の密着度を高めることができる。
【0025】
また、塔状構造物22はコンクリートによって形成されているので、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bにより、塔状構造物22の材軸方向にプレストレスが導入される。これにより、塔状構造物22の材軸方向に作用する引張応力が低減される。よって、塔状構造物22の材軸方向にプレストレスを導入していない構成に比べて、塔状構造物22のひび割れ抵抗及び引張耐力を向上させることができる。
また、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bにより、塔状構造物22の周方向にプレストレスが導入される。これにより、塔状構造物22が周方向に拘束されコンファインド効果が発揮される。よって、塔状構造物22の周方向にプレストレスを導入していない構成に比べて、塔状構造物22の圧縮耐力を向上させることができる。
そして、塔状構造物22に導入される材軸方向のプレストレスによって、塔状構造物22に作用する曲げモーメントに起因して塔状構造物22に生じる曲げ引張応力が低減され、塔状構造物22に導入される周方向のプレストレスによって、塔状構造物22に作用する曲げモーメントに起因して塔状構造物22に生じる曲げ圧縮応力が低減されるので、塔状構造物22の曲げ耐力を向上させることができる。
【0026】
以上、本発明の第1の実施形態について説明した。
なお、第1の実施形態では、補強部材を、円筒状の部材を平面視にて左右に二等分した形状にほぼ近い構造体12A、12Bとした例を示したが、補強部材は、塔状構造物22の外面を取り囲んで接することができる部材であればよい。また、複数の補強部材を上下に積み上げて設置してもよいし、3つ以上の補強部材によって塔状構造物22の外面を取り囲むようにしてもよいし、塔状構造物22の周方向に補強部材を点在させてもよい。
多くの数の補強部材によって塔状構造物22の外面を取り囲むようにすれば、補強部材の大きさや重量を小さくすることができ、補強部材の運搬作業や設置作業の煩雑さを軽減することができる。また、構造断面の大きさが異なるさまざまな塔状構造物の外面を取り囲むことが可能となるので、補強部材の標準化を図ることができる。
【0027】
また、第1の実施形態では、塔状構造物22の下部の外面に補強部材(構造体12A、12B)を配置した例を示したが、補強部材は、塔状構造物22のどのような高さまで配置してもよく、例えば、後に説明する塔状構造物の補強構造74(図11を参照のこと)のように、塔状構造物22の外面の全域に対して補強部材を配置してもよい。このようにすれば、補強部材に取り囲まれている塔状構造物22全体の曲げ耐力を向上させることができる。
また、補強部材(構造体12A、12B)を鉄筋コンクリートによって形成した例を示したが、補強部材は、塔状構造物22と一体となることにより塔状構造物22のせん断耐力を向上させることができる材料によって形成されていればよく、例えば、高強度コンクリート、繊維補強コンクリート、鋼材、樹脂によって形成してもよい。
【0028】
また、第1の実施形態では、PC鋼より線14A、14Bを、構造体12A、12Bの外面(外側)に設けた例を示したが、PC鋼より線14A、14Bの数や配置は適宜決めればよい。また、構造体12A、12Bの内部にPC鋼より線14A、14Bを設けてもよい。
【0029】
また、第1の実施形態では、緊張部材をPC鋼より線14A、14Bとした例を示したが、緊張部材は、緊張力を確実に付与できる線状の部材であればよい。PC鋼より線、PC鋼線等のPC鋼材を緊張部材として用いるのが好ましい。
また、PC鋼より線14A、14Bの上下端部を同時に引っ張り、PC鋼より線14A、14Bに緊張力を付与させた例を示したが、PC鋼より線14A、14Bの下端部をアンカープレート32及びナット34によって基礎20に固定しておき、PC鋼より線14A、14Bの上端部を引っ張ってPC鋼より線14A、14Bに緊張力を付与させてもよいし、PC鋼より線14A、14Bの上端部をアンカープレート32及びナット34によって構造体12A、12Bに固定しておき、PC鋼より線14A、14Bの下端部を引っ張ってPC鋼より線14A、14Bに緊張力を付与させてもよい。
【0030】
また、第1の実施形態では、構造体12A、12Bの外面に形成する溝26A、26Bを螺旋状とした例を示したが、どのような螺旋形状にしてもよい。螺旋形状の傾きで、塔状構造物22の材軸方向と周方向とに導入されるプレストレスの割合が決まる。
また、図3(c)に示すように、基礎20内に配置されるPC鋼より線14A、14Bは、基礎20と塔状構造物22との接合面(以下、「接合面46」とする)に対して斜めに配置されてもよいし、接合面46に対して垂直に配置されてもよいし、接合面46に対する垂線を旋回軸として螺旋状に配置されてもよい。
【0031】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。図8の正面図に示すように、第2の実施形態の塔状構造部材の補強構造48では、構造体12A、12Bの上面に伝達部材としてのブロック体50A〜50Dが載置されている。ブロック体50A〜50Dは、図8のB−B断面図である図9に示すように、円筒状の部材を平面視にて四等分した円弧形状にほぼなっており、鉄筋コンクリートによって形成されている。
【0032】
ブロック体50A〜50Dは、塔状構造物22の外面に内壁面が接触するようにして塔状構造物22の周囲に配置されている。すなわち、ブロック体50A〜50Dは、塔状構造物22の外面に接するようにして塔状構造物22の外面を取り囲んでいる。
図9に示すように、ブロック体50A〜50Dが塔状構造物22の外面を取り囲んだ状態で、ブロック体50Aの側端面52Aとブロック体50Bの側端面52B、ブロック体50Bの側端面52Bとブロック体50Cの側端面52C、ブロック体50Cの側端面52Cとブロック体50Dの側端面52D、及びブロック体50Dの側端面52Dとブロック体50Aの側端面52Aとの間には隙間が形成されている。
【0033】
ブロック体50A、50Cには、アンカープレート54を介したナット56により、改修のために塔状構造物22に形成された略水平の貫通孔58、60を貫通する鋼棒62の両端が固定されている。ブロック体50B、50Dには、アンカープレート54を介したナット56により、改修のために塔状構造物22に形成された略水平の貫通孔64、66を貫通する鋼棒68の両端が固定されている。
鋼棒62と鋼棒68とは、円形の横断面を有し、平面視にて略直交している。また、図9のC−C断面図である図10に示すように、鋼棒68は、鋼棒62の下方に配置されている。
【0034】
図8に示すように、ブロック体50A〜50Dの外面には、螺旋状の溝70A、70Bがそれぞれ形成されている。そして、ブロック体50A〜50Dが塔状構造物22の外面を取り囲んだ状態で、溝70A、70Bと、構造体12A、12Bの溝26A、26Bとは、連なっている。溝70A、70Bは、溝26A、26Bと同様に、PC鋼より線14AとPC鋼より線14Bとが交差する所で、PC鋼より線14A、14Bの干渉を防ぐことができる深さに形成されている。
【0035】
PC鋼より線14A、14Bは、緊張力が付与された状態で、下端部が基礎20の下部に設けられた定着部16A、16Bにおいて基礎20に定着され、上端部がブロック体50A〜50Dの上部に設けられた定着部72A、72Bにおいてブロック体50A〜50Dに定着されている。定着部72A、72Bの定着機構は、構造体12A、12Bの上部に設けられた定着部28A、28Bの定着機構と同様である。
【0036】
次に、本発明の第2の実施形態の作用及び効果について説明する。第2の実施形態の塔状構造物の補強構造48では、第1の実施形態の塔状構造物の補強構造10とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0037】
また、構造体12A、12Bの上面にブロック体50A〜50Dを設置することによって、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を、ブロック体50A〜50D、鋼棒62、68、及び塔状構造物22を介して基礎20へ効果的に伝達することができる。
すなわち、第1の実施形態の塔状構造物の補強構造10では、塔状構造物22の外面と構造体12A、12Bの内壁面との間の摩擦力により、構造体12A、12Bから塔状構造物22へPC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を伝達しているのに対して、第2の実施形態の塔状構造物の補強構造48では、この伝達機構に加えて、鋼棒62、68から直接、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を塔状構造物22に加えているので、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を基礎20へ効果的に伝達することができる。
【0038】
以上、本発明の第2の実施形態について説明した。
なお、第2の実施形態では、塔状構造物22に貫通させた2つの鋼棒62、68により、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を塔状構造物22に加える例を示したが、力の伝達効率をさらに上げたい場合には、鋼棒62、68の本数を増やしたり、角柱状にしたりすればよい。鋼棒62、68の本数を増やす場合には、断面欠損による塔状構造物22の強度低下を十分に考慮する必要がある。
【0039】
また、第2の実施形態では、伝達部材としてのブロック体50A〜50Dを構造体12A、12Bの上面に載置した例を示したが、図11、12の斜視図に示す塔状構造物の補強構造74に示すように、塔状構造物22の頂部上面82に伝達部材を載置するようにしてもよい。
図11に示すように、補強構造74では、構造体12A、12Bが、基礎20の上面に載置され、構造体12C、12Dが、構造体12A、12Bの上面に載置され、構造体12E、12Fが、構造体12C、12Dの上面に載置されている。構造体12C〜12Fは、構造体12A、12Bと同様の構成を有し、円筒状の部材を平面視にて左右に二等分した形状にほぼなっており、鉄筋コンクリートによって形成されている。
【0040】
構造体12A〜12Fは、塔状構造物22の外面に内壁面が接触するようにして塔状構造物22の周囲に配置されている(塔状構造物22の外面を取り囲んでいる)。また、対向する構造体12A〜12Fの側端面同士の間には隙間が形成されている。このようにして、塔状構造物22の外面全域が構造体12A〜12Fによって覆われている。
【0041】
構造体12A〜12Fの外面には、構造体12A〜12Fが塔状構造物22の外面を取り囲んだ状態で螺旋状の溝76A、76Bを形成する螺旋状の溝26A、26Bがそれぞれ形成されている。溝76Aには、PC鋼より線14Aが配置され、溝76Bには、PC鋼より線14Bが配置されている。このようにして、PC鋼より線14A、14Bは、緊張力が付与された状態で構造体12A〜12Fに螺旋状に設けられている。
PC鋼より線14Aは、塔状構造物22の材軸に対して上方へ向かって右巻き(時計回り)に設けられ、PC鋼より線14Bは、塔状構造物22の材軸に対して上方へ向かって左巻き(反時計回り)に設けられている。
【0042】
溝26A、26Bは、第1の実施形態の図4で説明したように、PC鋼より線14AとPC鋼より線14Bとが交差する所で、PC鋼より線14A、14Bの干渉を防ぐことができる深さに形成されている。なお、PC鋼より線14Bは、構造体12A〜12Fの外面から突出させてもよいし、突出させなくてもよい。構造体12A〜12Fの外面からPC鋼より線14Bを突出させれば、構造体12A〜12Fの風下側に発生するカルマン渦に起因して生じる渦励振を低減することができる。
【0043】
図12、及び塔状構造物22の頂部付近を縦割りにした断面図である図13に示すように、構造体12E、12Fの上面78、80と、塔状構造物22の頂部上面82とは、面一となっており、水平面を形成している。そして、構造体12E、12Fの上面78、80、及び塔状構造物22の頂部上面82に、伝達部材としての円環状のブロック体84が載置されている。すなわち、ブロック体84の下面は、構造体12E、12Fの上面78、80と、塔状構造物22の頂部上面82との両方に接触している。ブロック体84は、鉄筋コンクリートによって形成されている。
なお、構造体12E、12Fの上面78、80と、ブロック体84の下面とは、接触していなくてもよい。例えば、構造体12E、12Fの上面78、80と、ブロック体84の下面との間に隙間が形成されていてもよいし、構造体12E、12Fの上面78、80と、ブロック体84の下面とが大きく離れていてもよい。
ブロック体84の外面に形成された溝や、ブロック体84の上部に設けられた定着部の構成は、ブロック体50A〜50Dと同様なので、同符号を付すると共に、説明を省略する。
【0044】
PC鋼より線14A、14Bは、緊張力が付与された状態で、下端部が基礎20の下部に設けられた定着部16A、16Bで基礎20に定着され、上端部がブロック体84の上部に設けられた定着部72A、72Bでブロック体84に定着されている。
よって、塔状構造物の補強構造74では、塔状構造物22の外面と構造体12A〜12Fの内壁面との間の摩擦力により、構造体12A〜12Fから塔状構造物22へPC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を伝達すると共に、ブロック体84から直接、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を塔状構造物22に加えているので、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を基礎20へ効果的に伝達することができる。
【0045】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について説明した。
なお、第1及び第2の実施形態では、補強対象となる構造物を基礎20上に支持された塔状構造物22とした例を示したが、第1及び第2の実施形態の塔状構造物の補強構造10、48、74は、さまざまな用途や規模の塔状構造物に適用することが可能である。例えば、風力発電用タワー、煙突、送電線塔、飛行場の管制塔、テレビ塔、塔状の建物等の塔状構造物に補強構造10、48、74を適用することができる。
また、基盤を基礎20とした例を示したが、これに限らず、例えば基盤を、構造物、建物の屋上部、杭を介して海底に支持されて洋上に配置される構造体、又は洋上に浮いて配置される構造体としてもよい。また、基盤を地盤として、アンカーによって地盤に緊張部材を固定するようにしてもよい。
【0046】
また、第1の実施形態では、PC鋼より線14A、14Bの上端部を、構造体12A、12Bの上部に設けられた定着部28A、28Bで構造体12A、12Bに定着し、第2の実施形態では、PC鋼より線14A、14Bの上端部を、ブロック体50A〜50D、84の上部に設けられた定着部72A、72Bでブロック体50A〜50D、84に定着した例を示したが、PC鋼より線を構造体12A、12Bの上部や、ブロック体50A〜50D、84の上部に巻きつけるようにしてもよい。
例えば、図14の斜視図に示すように、PC鋼より線14A、14Bを1つのPC鋼より線86とし、構造体12A、12Bの上部に形成された円環状の溝88にPC鋼より線86を巻きつけて、構造体12A、12BにPC鋼より線86を定着するようにしてもよい。図14は、構造体12A、12Bに対する定着方法を示したものであるが、ブロック体50A〜50D、84に対しても同様の定着方法を用いればよい。
【0047】
また、第1の実施形態では、旋回方向が逆向きのPC鋼より線14A、14Bを、構造体12A、12Bに設けた例を示したが、図15(b)の斜視図に示すように、構造体12A、12Bを二層にして、内側に配置された構造体12A、12B(以下、「構造体90A、90B」とする)の外面に形成された溝26AにPC鋼より線14Aを螺旋状に設け、外側に配置された構造体12A、12B(以下、「構造体92A、92B」とする)の外面に形成された溝26BにPC鋼より線14Bを螺旋状に設けてもよい。
図15(a)の斜視図には、塔状構造物22の外面に接するようにして、塔状構造物22の外面を構造体90A、90Bで取り囲み、緊張力が付与されたPC鋼より線14Aが構造体90A、90Bに螺旋状に設けられている状態が示されている。また、図15(b)の斜視図には、構造体90A、90Bの外面に接するようにして、構造体90A、90Bの外面を構造体92A、92Bで取り囲み、緊張力が付与されたPC鋼より線14Bが構造体92A、92Bに螺旋状に設けられている状態が示されている。
なお、図15(a)、(b)に示した例は、図8、11に示した、塔状構造物の補強構造48、74にも応用することができる。
【0048】
また、第1及び第2の実施形態では、塔状構造物22の形状を円筒状とした例を示したが、補強対象となる塔状構造物の構造断面は、どのような形状でもよい。例えば、塔状構造物の構造断面が、円形、楕円形、三角形、正方形、長方形、多角形であってもよい。また、塔状構造物の形状が錐体状であってもよい。図16(a)の斜視図には、円形の構造断面を有する円筒状の塔状構造物94の例が示され、図16(b)の斜視図には、正六角形の構造断面を有する円筒状の塔状構造物96の例が示され、図16(c)の斜視図には、正八角形の構造断面を有する円筒状の塔状構造物98の例が示されている。
【0049】
また、第1及び第2の実施形態では、PC鋼より線14A、14Bの端部に設けられた雄ネジに、アンカープレート32を介してナット34を捩じ込み、締め付けることによって、PC鋼より線14A、14Bの端部を定着する例を示したが、くさびを用いた定着方法等の他の方法によってPC鋼より線14A、14Bの端部を定着してもよい。
また、第1及び第2の実施形態の説明で用いられている用語の「螺旋」は、円柱面上を回転しながら軸方向に一定の速度で進んでいく時にできる渦巻状の空間曲線を意味するが、角柱面上、円錐面上及び角錐面上を回転しながら軸方向に一定の速度で進んでいく時にできる渦巻状の空間折れ線も螺旋に含まれる。また、PC鋼より線14A、14Bの螺旋形状の捻りは平面視にて360度未満であってもよい。
【0050】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、第1及び第2の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0051】
10、48、74 塔状構造物の補強構造
12A〜12F、90A、90B、92A、92B 構造体(補強部材)
14A、14B、86 PC鋼より線(緊張部材)
16A、16B 定着部(伝達部)
20 基礎(基盤)
22、94、96、98 塔状構造物
26A、26B、76A、76B 溝
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設の塔状構造物を補強する塔状構造物の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図17に示すように、特許文献1の柱状構造物500は、コンクリートパネル502を周方向並びに鉛直方向に組み合わせて周壁を構成することにより構築されている。
柱状構造物500のような塔状比(=構造物の高さ/構造物の幅)の大きい塔状構造物が基盤上に支持されている場合、地震等が発生したときに、塔状構造物と基盤との接合部に大きな曲げモーメントが作用する。
よって、既設の塔状構造物の耐震性を高めたり、老朽化した塔状構造物を改修したりする為の対策として、接合部の曲げ耐力を向上させる補強技術が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−101363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は係る事実を考慮し、基盤上に支持された塔状構造物と基盤との接合部の曲げ耐力を向上することが可能な塔状構造物の補強構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、基盤上に支持された既設の塔状構造物を補強する塔状構造物の補強構造において、前記塔状構造物の外面を取り囲んで接する補強部材と、前記補強部材に螺旋状に設けられ緊張力が付与された緊張部材と、前記緊張部材に付与された緊張力を前記基盤へ伝達し前記基盤に前記補強部材を固定する伝達部と、を有する。
【0006】
請求項1に記載の発明では、塔状構造物の外面に接するようにして補強部材が塔状構造物の外面を取り囲んでいる。そして、補強部材に螺旋状に設けられている緊張部材に付与された緊張力が、伝達部により基盤へ伝達される。
よって、緊張部材に付与された緊張力が基盤へ伝達されることにより塔状構造物と基盤との接合部(以下、「支持接合部」とする)に発生する圧縮応力によって、外力として支持接合部に作用する曲げモーメントに起因して生じる曲げ引張応力を低減することができる。すなわち、支持接合部の曲げ耐力を向上することができる。
また、緊張力が付与された緊張部材により補強部材が塔状構造物に圧着され、塔状構造物と補強部材とが一体化されるので、塔状構造物のせん断耐力を向上させることができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記補強部材の外面に、前記緊張部材が配置される溝が形成されている。
請求項2に記載の発明では、補強部材の外面に、緊張部材が配置される溝が形成されているので、補強部材の外面の適正な位置に緊張部材を配置でき、また、配置した緊張部材がずれるのを防ぐことができる。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記塔状構造物の材軸に対して右巻きの前記緊張部材と、前記塔状構造物の材軸に対して左巻きの前記緊張部材とが設けられている。
請求項3に記載の発明では、右巻きの緊張部材と左巻きの緊張部材とが、それぞれ逆方向に塔状構造物を捻ろうとするので、塔状構造物の捩れを低減又は無くすことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上記構成としたので、基盤上に支持された塔状構造物と基盤との接合部の曲げ耐力を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る塔状構造物の補強構造を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る塔状構造物の補強方法を示す説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る補強部材に形成された溝を示す説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る緊張部材の定着方法を示す拡大図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る緊張部材の定着方法を示す拡大図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る塔状構造物の補強構造の作用を示す説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る塔状構造物の補強構造を示す正面図である。
【図9】図8のB−B断面図である。
【図10】図8のC−C断面図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る塔状構造物の補強構造の変形例を示す斜視図である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る塔状構造物の補強構造の変形例を示す斜視図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る塔状構造物の補強構造の変形例を示す断面図である。
【図14】本発明の実施形態に係る塔状構造物の補強構造の変形例を示す斜視図である。
【図15】本発明の実施形態に係る塔状構造物の補強構造の変形例を示す斜視図である。
【図16】本発明の実施形態に係る塔状構造物の補強構造の変形例を示す斜視図である。
【図17】従来の柱状構造物を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明の実施形態では、鉄筋コンクリートによって形成された既設の塔状構造物を補強する例を示すが、本発明の実施形態は、コンクリート製、鋼製、木製等のさまざまな塔状構造物の補強に適用することができる。
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。図1の斜視図、図1のA−A断面図である図2、及び図3(c)の正面図に示すように、第1の実施形態の塔状構造物の補強構造10は、補強部材としてのパネル状の構造体12A、12B、緊張部材としての複数のPC鋼より線14A、14B、及び伝達部としての定着部16A、16Bを有し、地盤18上に構築された基盤としての鉄筋コンクリート製の基礎20上に支持された既設の塔状構造物22を補強する。
【0012】
塔状構造物22は、鉄筋コンクリートによって形成され、基礎20の上面から上方に向かって先細った形状の円筒状の構造物である。
構造体12A、12Bは、図2に示すように、塔状構造物22の下部外周面を覆う円筒状の部材を平面視にて左右に二等分した形状にほぼなっており、鉄筋コンクリートによって形成されている。構造体12A、12Bは、塔状構造物22の下部外面に内壁面が接触するようにして塔状構造物22の周囲に配置されている(塔状構造物22の外面を取り囲んでいる)。なお、図2に示すように、図1の状態で、構造体12Aの側端面24Aと、構造体12Bの側端面24Bとの間には隙間が形成されている。
【0013】
図1に示すように、構造体12A、12Bの外面には、螺旋状の溝26A、26Bが形成されている。そして、溝26A、26Bに、緊張力が付与された状態のPC鋼より線14A、14Bが螺旋状に設けられている。PC鋼より線14Aは、塔状構造物22の材軸に対して上方へ向かって右巻き(時計回り)に設けられ、PC鋼より線14Bは、塔状構造物22の材軸に対して上方へ向かって左巻き(反時計回り)に設けられている。
【0014】
図4(a)の斜視図に示すように、溝26Aの深さは、溝26Bの深さとPC鋼より線14Aの直径とを足し合わせた長さよりも深くなっており、PC鋼より線14Aの外側にPC鋼より線14Bが配置されているので、図4(b)の斜視図、及び図4(c)の断面図に示すように、PC鋼より線14AとPC鋼より線14Bとが交差する所において、PC鋼より線14A、14Bの干渉を防ぐことができる。説明の都合上、図4(a)、(b)には、構造体12A、12Bの側端面24A、24Bが省略されている。
なお、PC鋼より線14Bは、図4(c)に示すように、構造体12A、12Bの外面から突出させてもよいし、突出させなくてもよい。構造体12A、12Bの外面からPC鋼より線14Bを突出させれば、構造体12A、12Bの風下側に発生するカルマン渦に起因して生じる渦励振を低減することができる。
【0015】
図1及び図3(c)に示すように、PC鋼より線14A、14Bは、緊張力が付与された状態で、下端部が基礎20の下部に設けられた定着部16A、16Bで基礎20に定着され、上端部が構造体12A、12Bの上部に設けられた定着部28A、28Bで構造体12A、12Bに定着されている。これにより、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力が、定着部16A、16Bにより基礎20へ伝達されて、基礎20に構造体12A、12Bが固定される。
【0016】
次に、補強構造10を用いた塔状構造物の補強方法について説明する。図3(a)〜(c)には、補強部材配置工程、緊張部材配置工程、緊張工程及び補強部材固定工程を有する塔状構造物の補強方法によって、基礎20に支持された既設の塔状構造物22を補強する例が示されている。まず、図3(a)の正面図に示すように、塔状構造物22の外面に構造体12A、12Bの内壁面が接するようにして基礎20の上面に構造体12A、12Bを載置し、構造体12A、12Bにより塔状構造物22の外面を取り囲む(補強部材配置工程)。
【0017】
次に、図3(b)の正面図に示すように、構造体12A、12Bに形成された溝26AにPC鋼より線14Aを螺旋状に設ける(緊張部材配置工程)。次に、油圧ジャッキ等の緊張装置によってPC鋼より線14Aの上下端部を同時に引っ張り、PC鋼より線14Aに緊張力を付与した状態で、PC鋼より線14Aの下端部を定着部16Aにおいて基礎20に定着し、PC鋼より線14Aの上端部を定着部28Aにおいて構造体12A、12Bに定着する(緊張工程)。
【0018】
定着部16AにおけるPC鋼より線14Aの下端部の基礎20への定着は、図5の拡大図に示すように、PC鋼より線14Aの下端部に設けられた雄ネジに、基礎20の下面に形成された切り欠き30内に配置されたアンカープレート32を介してナット34を捩じ込み、締め付けることによって行う。
定着部28AにおけるPC鋼より線14Aの上端部の構造体12A、12Bへの定着は、図6の拡大図に示すように、PC鋼より線14Aの上端部に設けられた雄ネジに、構造体12A、12Bの上面に形成された切り欠き36内に配置されたアンカープレート32を介してナット34を捩じ込み、締め付けることによって行う。図6に示すように、構造体12A、12Bの上部には、構造体12A、12Bの上部外周面に形成された切り欠き38の天井面から、構造体12A、12Bの上端面に形成された切り欠き36の底面へ貫通する貫通孔40が形成されている。そして、この貫通孔40にPC鋼より線14Aの上端部が挿入されている。
【0019】
次に、図3(c)に示すように、構造体12A、12Bに形成された溝26BにPC鋼より線14Bを螺旋状に設ける(緊張部材配置工程)。次に、油圧ジャッキ等の緊張装置によってPC鋼より線14Bの上下端部を同時に引っ張り、PC鋼より線14Bに緊張力を付与した状態で、PC鋼より線14Bの下端部を定着部16Bにおいて基礎20に定着し、PC鋼より線14Bの上端部を定着部28Bにおいて構造体12A、12Bに定着する(緊張工程)。
定着部16BにおけるPC鋼より線14Bの下端部の基礎20への定着は、図5で説明した定着部16Aにおける定着と同様の方法で行なう。また、定着部28BにおけるPC鋼より線14Bの上端部の構造体12A、12Bへの定着は、図6で説明した定着部28Aにおける定着と同様の方法で行なう。
【0020】
そして、PC鋼より線14A、14Bに対して行った緊張工程により、PC鋼より線14A、14Bに緊張力を付与しこの緊張力を基礎20へ伝達する。これによって、基礎20に構造体12A、12Bを固定する(補強部材固定工程)。
【0021】
次に、本発明の第1の実施形態の作用及び効果について説明する。第1の実施形態の塔状構造物の補強構造10、及び塔状構造物の補強方法では、図7の断面図に示すように、PC鋼より線14A、14B(不図示)に付与された緊張力が基礎20へ伝達されることにより、塔状構造物22と基礎20との接合部(以下、「支持接合部42」とする)に圧縮応力が発生する。
また、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bにより構造体12A、12Bが塔状構造物22に圧着されるので(矢印44)、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力を、構造体12A、12B及び塔状構造物22を介して基礎20へ効果的に伝達することができる。
これらにより、支持接合部42に発生する圧縮応力によって、外力として支持接合部42に作用する曲げモーメントMに起因して生じる曲げ引張応力Pを低減することができる。すなわち、支持接合部42の曲げ耐力を向上することができる。
【0022】
また、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bにより構造体12A、12Bが塔状構造物22に圧着され、塔状構造物22と構造体12A、12Bとが一体化されるので、塔状構造物22のせん断耐力を向上させることができる。
また、図1に示すように、PC鋼より線14A、14Bは、構造体12A、12Bの外面に形成された溝26A、26Bに設けられているので、構造体12A、12Bの外面の適正な位置にPC鋼より線14A、14Bを配置することができ、また、配置したPC鋼より線14A、14Bがずれるのを防ぐことができる。
【0023】
また、塔状構造物22の材軸に対して上方へ向かって右巻き(時計回り)に設けられたPC鋼より線14Aと、塔状構造物22の材軸に対して上方へ向かって左巻き(反時計回り)に設けられたPC鋼より線14Bとが、塔状構造物22の材軸に対してそれぞれ逆方向に塔状構造物22を捻ろうとするので、PC鋼より線14A、14Bの一方に緊張力を付与した際に生じる塔状構造物22の捩れを低減又は無くすことができる。
【0024】
また、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bにより構造体12A、12Bが塔状構造物22に圧着されるので、接着剤等を用いずに塔状構造物22の外面に構造体12A、12Bを固定することができる。この場合、塔状構造物22の外面と構造体12A、12Bの内壁面との間に、グラウト等の充填材を充填したり、又は弾性体を挟み込んだりすれば、塔状構造物22の外面に対する構造体12A、12Bの内壁面の密着度を高めることができる。
【0025】
また、塔状構造物22はコンクリートによって形成されているので、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bにより、塔状構造物22の材軸方向にプレストレスが導入される。これにより、塔状構造物22の材軸方向に作用する引張応力が低減される。よって、塔状構造物22の材軸方向にプレストレスを導入していない構成に比べて、塔状構造物22のひび割れ抵抗及び引張耐力を向上させることができる。
また、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bにより、塔状構造物22の周方向にプレストレスが導入される。これにより、塔状構造物22が周方向に拘束されコンファインド効果が発揮される。よって、塔状構造物22の周方向にプレストレスを導入していない構成に比べて、塔状構造物22の圧縮耐力を向上させることができる。
そして、塔状構造物22に導入される材軸方向のプレストレスによって、塔状構造物22に作用する曲げモーメントに起因して塔状構造物22に生じる曲げ引張応力が低減され、塔状構造物22に導入される周方向のプレストレスによって、塔状構造物22に作用する曲げモーメントに起因して塔状構造物22に生じる曲げ圧縮応力が低減されるので、塔状構造物22の曲げ耐力を向上させることができる。
【0026】
以上、本発明の第1の実施形態について説明した。
なお、第1の実施形態では、補強部材を、円筒状の部材を平面視にて左右に二等分した形状にほぼ近い構造体12A、12Bとした例を示したが、補強部材は、塔状構造物22の外面を取り囲んで接することができる部材であればよい。また、複数の補強部材を上下に積み上げて設置してもよいし、3つ以上の補強部材によって塔状構造物22の外面を取り囲むようにしてもよいし、塔状構造物22の周方向に補強部材を点在させてもよい。
多くの数の補強部材によって塔状構造物22の外面を取り囲むようにすれば、補強部材の大きさや重量を小さくすることができ、補強部材の運搬作業や設置作業の煩雑さを軽減することができる。また、構造断面の大きさが異なるさまざまな塔状構造物の外面を取り囲むことが可能となるので、補強部材の標準化を図ることができる。
【0027】
また、第1の実施形態では、塔状構造物22の下部の外面に補強部材(構造体12A、12B)を配置した例を示したが、補強部材は、塔状構造物22のどのような高さまで配置してもよく、例えば、後に説明する塔状構造物の補強構造74(図11を参照のこと)のように、塔状構造物22の外面の全域に対して補強部材を配置してもよい。このようにすれば、補強部材に取り囲まれている塔状構造物22全体の曲げ耐力を向上させることができる。
また、補強部材(構造体12A、12B)を鉄筋コンクリートによって形成した例を示したが、補強部材は、塔状構造物22と一体となることにより塔状構造物22のせん断耐力を向上させることができる材料によって形成されていればよく、例えば、高強度コンクリート、繊維補強コンクリート、鋼材、樹脂によって形成してもよい。
【0028】
また、第1の実施形態では、PC鋼より線14A、14Bを、構造体12A、12Bの外面(外側)に設けた例を示したが、PC鋼より線14A、14Bの数や配置は適宜決めればよい。また、構造体12A、12Bの内部にPC鋼より線14A、14Bを設けてもよい。
【0029】
また、第1の実施形態では、緊張部材をPC鋼より線14A、14Bとした例を示したが、緊張部材は、緊張力を確実に付与できる線状の部材であればよい。PC鋼より線、PC鋼線等のPC鋼材を緊張部材として用いるのが好ましい。
また、PC鋼より線14A、14Bの上下端部を同時に引っ張り、PC鋼より線14A、14Bに緊張力を付与させた例を示したが、PC鋼より線14A、14Bの下端部をアンカープレート32及びナット34によって基礎20に固定しておき、PC鋼より線14A、14Bの上端部を引っ張ってPC鋼より線14A、14Bに緊張力を付与させてもよいし、PC鋼より線14A、14Bの上端部をアンカープレート32及びナット34によって構造体12A、12Bに固定しておき、PC鋼より線14A、14Bの下端部を引っ張ってPC鋼より線14A、14Bに緊張力を付与させてもよい。
【0030】
また、第1の実施形態では、構造体12A、12Bの外面に形成する溝26A、26Bを螺旋状とした例を示したが、どのような螺旋形状にしてもよい。螺旋形状の傾きで、塔状構造物22の材軸方向と周方向とに導入されるプレストレスの割合が決まる。
また、図3(c)に示すように、基礎20内に配置されるPC鋼より線14A、14Bは、基礎20と塔状構造物22との接合面(以下、「接合面46」とする)に対して斜めに配置されてもよいし、接合面46に対して垂直に配置されてもよいし、接合面46に対する垂線を旋回軸として螺旋状に配置されてもよい。
【0031】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。図8の正面図に示すように、第2の実施形態の塔状構造部材の補強構造48では、構造体12A、12Bの上面に伝達部材としてのブロック体50A〜50Dが載置されている。ブロック体50A〜50Dは、図8のB−B断面図である図9に示すように、円筒状の部材を平面視にて四等分した円弧形状にほぼなっており、鉄筋コンクリートによって形成されている。
【0032】
ブロック体50A〜50Dは、塔状構造物22の外面に内壁面が接触するようにして塔状構造物22の周囲に配置されている。すなわち、ブロック体50A〜50Dは、塔状構造物22の外面に接するようにして塔状構造物22の外面を取り囲んでいる。
図9に示すように、ブロック体50A〜50Dが塔状構造物22の外面を取り囲んだ状態で、ブロック体50Aの側端面52Aとブロック体50Bの側端面52B、ブロック体50Bの側端面52Bとブロック体50Cの側端面52C、ブロック体50Cの側端面52Cとブロック体50Dの側端面52D、及びブロック体50Dの側端面52Dとブロック体50Aの側端面52Aとの間には隙間が形成されている。
【0033】
ブロック体50A、50Cには、アンカープレート54を介したナット56により、改修のために塔状構造物22に形成された略水平の貫通孔58、60を貫通する鋼棒62の両端が固定されている。ブロック体50B、50Dには、アンカープレート54を介したナット56により、改修のために塔状構造物22に形成された略水平の貫通孔64、66を貫通する鋼棒68の両端が固定されている。
鋼棒62と鋼棒68とは、円形の横断面を有し、平面視にて略直交している。また、図9のC−C断面図である図10に示すように、鋼棒68は、鋼棒62の下方に配置されている。
【0034】
図8に示すように、ブロック体50A〜50Dの外面には、螺旋状の溝70A、70Bがそれぞれ形成されている。そして、ブロック体50A〜50Dが塔状構造物22の外面を取り囲んだ状態で、溝70A、70Bと、構造体12A、12Bの溝26A、26Bとは、連なっている。溝70A、70Bは、溝26A、26Bと同様に、PC鋼より線14AとPC鋼より線14Bとが交差する所で、PC鋼より線14A、14Bの干渉を防ぐことができる深さに形成されている。
【0035】
PC鋼より線14A、14Bは、緊張力が付与された状態で、下端部が基礎20の下部に設けられた定着部16A、16Bにおいて基礎20に定着され、上端部がブロック体50A〜50Dの上部に設けられた定着部72A、72Bにおいてブロック体50A〜50Dに定着されている。定着部72A、72Bの定着機構は、構造体12A、12Bの上部に設けられた定着部28A、28Bの定着機構と同様である。
【0036】
次に、本発明の第2の実施形態の作用及び効果について説明する。第2の実施形態の塔状構造物の補強構造48では、第1の実施形態の塔状構造物の補強構造10とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0037】
また、構造体12A、12Bの上面にブロック体50A〜50Dを設置することによって、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を、ブロック体50A〜50D、鋼棒62、68、及び塔状構造物22を介して基礎20へ効果的に伝達することができる。
すなわち、第1の実施形態の塔状構造物の補強構造10では、塔状構造物22の外面と構造体12A、12Bの内壁面との間の摩擦力により、構造体12A、12Bから塔状構造物22へPC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を伝達しているのに対して、第2の実施形態の塔状構造物の補強構造48では、この伝達機構に加えて、鋼棒62、68から直接、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を塔状構造物22に加えているので、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を基礎20へ効果的に伝達することができる。
【0038】
以上、本発明の第2の実施形態について説明した。
なお、第2の実施形態では、塔状構造物22に貫通させた2つの鋼棒62、68により、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を塔状構造物22に加える例を示したが、力の伝達効率をさらに上げたい場合には、鋼棒62、68の本数を増やしたり、角柱状にしたりすればよい。鋼棒62、68の本数を増やす場合には、断面欠損による塔状構造物22の強度低下を十分に考慮する必要がある。
【0039】
また、第2の実施形態では、伝達部材としてのブロック体50A〜50Dを構造体12A、12Bの上面に載置した例を示したが、図11、12の斜視図に示す塔状構造物の補強構造74に示すように、塔状構造物22の頂部上面82に伝達部材を載置するようにしてもよい。
図11に示すように、補強構造74では、構造体12A、12Bが、基礎20の上面に載置され、構造体12C、12Dが、構造体12A、12Bの上面に載置され、構造体12E、12Fが、構造体12C、12Dの上面に載置されている。構造体12C〜12Fは、構造体12A、12Bと同様の構成を有し、円筒状の部材を平面視にて左右に二等分した形状にほぼなっており、鉄筋コンクリートによって形成されている。
【0040】
構造体12A〜12Fは、塔状構造物22の外面に内壁面が接触するようにして塔状構造物22の周囲に配置されている(塔状構造物22の外面を取り囲んでいる)。また、対向する構造体12A〜12Fの側端面同士の間には隙間が形成されている。このようにして、塔状構造物22の外面全域が構造体12A〜12Fによって覆われている。
【0041】
構造体12A〜12Fの外面には、構造体12A〜12Fが塔状構造物22の外面を取り囲んだ状態で螺旋状の溝76A、76Bを形成する螺旋状の溝26A、26Bがそれぞれ形成されている。溝76Aには、PC鋼より線14Aが配置され、溝76Bには、PC鋼より線14Bが配置されている。このようにして、PC鋼より線14A、14Bは、緊張力が付与された状態で構造体12A〜12Fに螺旋状に設けられている。
PC鋼より線14Aは、塔状構造物22の材軸に対して上方へ向かって右巻き(時計回り)に設けられ、PC鋼より線14Bは、塔状構造物22の材軸に対して上方へ向かって左巻き(反時計回り)に設けられている。
【0042】
溝26A、26Bは、第1の実施形態の図4で説明したように、PC鋼より線14AとPC鋼より線14Bとが交差する所で、PC鋼より線14A、14Bの干渉を防ぐことができる深さに形成されている。なお、PC鋼より線14Bは、構造体12A〜12Fの外面から突出させてもよいし、突出させなくてもよい。構造体12A〜12Fの外面からPC鋼より線14Bを突出させれば、構造体12A〜12Fの風下側に発生するカルマン渦に起因して生じる渦励振を低減することができる。
【0043】
図12、及び塔状構造物22の頂部付近を縦割りにした断面図である図13に示すように、構造体12E、12Fの上面78、80と、塔状構造物22の頂部上面82とは、面一となっており、水平面を形成している。そして、構造体12E、12Fの上面78、80、及び塔状構造物22の頂部上面82に、伝達部材としての円環状のブロック体84が載置されている。すなわち、ブロック体84の下面は、構造体12E、12Fの上面78、80と、塔状構造物22の頂部上面82との両方に接触している。ブロック体84は、鉄筋コンクリートによって形成されている。
なお、構造体12E、12Fの上面78、80と、ブロック体84の下面とは、接触していなくてもよい。例えば、構造体12E、12Fの上面78、80と、ブロック体84の下面との間に隙間が形成されていてもよいし、構造体12E、12Fの上面78、80と、ブロック体84の下面とが大きく離れていてもよい。
ブロック体84の外面に形成された溝や、ブロック体84の上部に設けられた定着部の構成は、ブロック体50A〜50Dと同様なので、同符号を付すると共に、説明を省略する。
【0044】
PC鋼より線14A、14Bは、緊張力が付与された状態で、下端部が基礎20の下部に設けられた定着部16A、16Bで基礎20に定着され、上端部がブロック体84の上部に設けられた定着部72A、72Bでブロック体84に定着されている。
よって、塔状構造物の補強構造74では、塔状構造物22の外面と構造体12A〜12Fの内壁面との間の摩擦力により、構造体12A〜12Fから塔状構造物22へPC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を伝達すると共に、ブロック体84から直接、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を塔状構造物22に加えているので、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を基礎20へ効果的に伝達することができる。
【0045】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について説明した。
なお、第1及び第2の実施形態では、補強対象となる構造物を基礎20上に支持された塔状構造物22とした例を示したが、第1及び第2の実施形態の塔状構造物の補強構造10、48、74は、さまざまな用途や規模の塔状構造物に適用することが可能である。例えば、風力発電用タワー、煙突、送電線塔、飛行場の管制塔、テレビ塔、塔状の建物等の塔状構造物に補強構造10、48、74を適用することができる。
また、基盤を基礎20とした例を示したが、これに限らず、例えば基盤を、構造物、建物の屋上部、杭を介して海底に支持されて洋上に配置される構造体、又は洋上に浮いて配置される構造体としてもよい。また、基盤を地盤として、アンカーによって地盤に緊張部材を固定するようにしてもよい。
【0046】
また、第1の実施形態では、PC鋼より線14A、14Bの上端部を、構造体12A、12Bの上部に設けられた定着部28A、28Bで構造体12A、12Bに定着し、第2の実施形態では、PC鋼より線14A、14Bの上端部を、ブロック体50A〜50D、84の上部に設けられた定着部72A、72Bでブロック体50A〜50D、84に定着した例を示したが、PC鋼より線を構造体12A、12Bの上部や、ブロック体50A〜50D、84の上部に巻きつけるようにしてもよい。
例えば、図14の斜視図に示すように、PC鋼より線14A、14Bを1つのPC鋼より線86とし、構造体12A、12Bの上部に形成された円環状の溝88にPC鋼より線86を巻きつけて、構造体12A、12BにPC鋼より線86を定着するようにしてもよい。図14は、構造体12A、12Bに対する定着方法を示したものであるが、ブロック体50A〜50D、84に対しても同様の定着方法を用いればよい。
【0047】
また、第1の実施形態では、旋回方向が逆向きのPC鋼より線14A、14Bを、構造体12A、12Bに設けた例を示したが、図15(b)の斜視図に示すように、構造体12A、12Bを二層にして、内側に配置された構造体12A、12B(以下、「構造体90A、90B」とする)の外面に形成された溝26AにPC鋼より線14Aを螺旋状に設け、外側に配置された構造体12A、12B(以下、「構造体92A、92B」とする)の外面に形成された溝26BにPC鋼より線14Bを螺旋状に設けてもよい。
図15(a)の斜視図には、塔状構造物22の外面に接するようにして、塔状構造物22の外面を構造体90A、90Bで取り囲み、緊張力が付与されたPC鋼より線14Aが構造体90A、90Bに螺旋状に設けられている状態が示されている。また、図15(b)の斜視図には、構造体90A、90Bの外面に接するようにして、構造体90A、90Bの外面を構造体92A、92Bで取り囲み、緊張力が付与されたPC鋼より線14Bが構造体92A、92Bに螺旋状に設けられている状態が示されている。
なお、図15(a)、(b)に示した例は、図8、11に示した、塔状構造物の補強構造48、74にも応用することができる。
【0048】
また、第1及び第2の実施形態では、塔状構造物22の形状を円筒状とした例を示したが、補強対象となる塔状構造物の構造断面は、どのような形状でもよい。例えば、塔状構造物の構造断面が、円形、楕円形、三角形、正方形、長方形、多角形であってもよい。また、塔状構造物の形状が錐体状であってもよい。図16(a)の斜視図には、円形の構造断面を有する円筒状の塔状構造物94の例が示され、図16(b)の斜視図には、正六角形の構造断面を有する円筒状の塔状構造物96の例が示され、図16(c)の斜視図には、正八角形の構造断面を有する円筒状の塔状構造物98の例が示されている。
【0049】
また、第1及び第2の実施形態では、PC鋼より線14A、14Bの端部に設けられた雄ネジに、アンカープレート32を介してナット34を捩じ込み、締め付けることによって、PC鋼より線14A、14Bの端部を定着する例を示したが、くさびを用いた定着方法等の他の方法によってPC鋼より線14A、14Bの端部を定着してもよい。
また、第1及び第2の実施形態の説明で用いられている用語の「螺旋」は、円柱面上を回転しながら軸方向に一定の速度で進んでいく時にできる渦巻状の空間曲線を意味するが、角柱面上、円錐面上及び角錐面上を回転しながら軸方向に一定の速度で進んでいく時にできる渦巻状の空間折れ線も螺旋に含まれる。また、PC鋼より線14A、14Bの螺旋形状の捻りは平面視にて360度未満であってもよい。
【0050】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、第1及び第2の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0051】
10、48、74 塔状構造物の補強構造
12A〜12F、90A、90B、92A、92B 構造体(補強部材)
14A、14B、86 PC鋼より線(緊張部材)
16A、16B 定着部(伝達部)
20 基礎(基盤)
22、94、96、98 塔状構造物
26A、26B、76A、76B 溝
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基盤上に支持された既設の塔状構造物を補強する塔状構造物の補強構造において、
前記塔状構造物の外面を取り囲んで接する補強部材と、
前記補強部材に螺旋状に設けられ緊張力が付与された緊張部材と、
前記緊張部材に付与された緊張力を前記基盤へ伝達し前記基盤に前記補強部材を固定する伝達部と、
を有する塔状構造物の補強構造。
【請求項2】
前記補強部材の外面に、前記緊張部材が配置される溝が形成されている請求項1に記載の塔状構造物の補強構造。
【請求項3】
前記塔状構造物の材軸に対して右巻きの前記緊張部材と、前記塔状構造物の材軸に対して左巻きの前記緊張部材とが設けられている請求項1又は2に記載の塔状構造物の補強構造。
【請求項1】
基盤上に支持された既設の塔状構造物を補強する塔状構造物の補強構造において、
前記塔状構造物の外面を取り囲んで接する補強部材と、
前記補強部材に螺旋状に設けられ緊張力が付与された緊張部材と、
前記緊張部材に付与された緊張力を前記基盤へ伝達し前記基盤に前記補強部材を固定する伝達部と、
を有する塔状構造物の補強構造。
【請求項2】
前記補強部材の外面に、前記緊張部材が配置される溝が形成されている請求項1に記載の塔状構造物の補強構造。
【請求項3】
前記塔状構造物の材軸に対して右巻きの前記緊張部材と、前記塔状構造物の材軸に対して左巻きの前記緊張部材とが設けられている請求項1又は2に記載の塔状構造物の補強構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−236651(P2011−236651A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109327(P2010−109327)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
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