説明

塗工紙

【課題】高い剛度を有しながら優れた白紙光沢度および印刷光沢度を有する塗工紙を提供する。
【解決手段】紙上に少なくとも2層の塗工層を有する塗工紙であり、前記塗工層は下塗り塗工層と、前記下塗り塗工層上に形成される上塗り塗工層とを有し、前記下塗り塗工層は、主成分として水溶性高分子を当該下塗り塗工層の全質量に対して50〜100質量%含み、前記上塗り塗工層には顔料および接着剤を含有し、前記接着剤は、水溶性高分子を接着剤全体に対し50〜100質量%含み、前記上塗り塗工層に含まれる前記顔料は、平均粒子径0.2〜1.9μmの粒子から成る顔料を全顔料に対し90質量%以上含有したことを特徴とする、塗工紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工紙に関し、より特定的には、高い剛度と、優れた白紙光沢度および印刷光沢度を有する塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
塗工紙は、塗工液の塗工量や塗工層表面の平坦化処理の度合い、要求品質に応じて、アート紙(A1グレード)、塗工紙(A2グレード)、軽量塗工紙(A3グレード)、微塗工紙に大別して分類される。一般的に、A1グレードの塗工紙は、高級美術書や、雑誌の表紙、口絵、カレンダー、ポスター、ラベル、煙草包装用などの、高精細な印刷を要求されるものに使用されている。A2グレードの塗工紙は、カタログ、パンフレット等の見栄えが必要とされる商業印刷等に使用されている。A3グレードの塗工紙および微塗工紙は、チラシ等の商業印刷等に利用されている。
【0003】
そして、近年は、より安価な塗工紙に対する要求が高くなっている。より安価な紙とは、従来と同程度の品質でありながら、単位面積あたりの重量(坪量)が少ない紙である。例えば、坪量が60g/m2以下の塗工紙において、坪量を小さくする方法としては、塗工紙のうち基紙部分の坪量を低減させる方法がある。しかしながら、基紙部分の坪量を低減すると、塗工紙の剛性が低下して見栄えが低下する問題がある。
【0004】
このような問題を鑑みて、例えばルンケル比が高く剛性に優れたパルプを用いて塗工紙の剛性を向上させる方法(特許文献1を参照)、原紙に水溶性高分子を塗工して紙腰を向上させる方法(特許文献2を参照)、潰れやすい有機顔料を塗工層に含有させ、平坦化処理における線圧を調整する方法(特許文献3を参照)などが開発されている。
【0005】
塗工紙の坪量を小さくする方法としては、塗工紙のうち塗工層部分の重量(塗工液の塗工量)を低減させる方法が考えられる。例えば、A3グレードの塗工紙の塗工層を、より塗工量が少なく安価な微塗工紙に置き換える方法が考えられる。しかし、微塗工紙の塗工量は、両面で15g/m2以下が一般的であるため、A3グレードの塗工量15〜20g/m2程度に比べて少なく、平滑性や白紙光沢度等の品質が低下しやすくなるという問題がある。
【0006】
そこで、塗工量を増加させずに、光沢性および平坦性を向上させる方法として、塗工層を2層に分けて設ける方法が開発されている。例えば、基紙に近い下塗り塗工層として、粒子径が大きく粗い顔料を用いて原紙の粗さを改善し、上塗り塗工層として粒子径が小さく細かい顔料を用いて塗工紙表面の平坦性および光沢性を向上する方法(特許文献4を参照)がある。
【0007】
また、塗工層を2層に分けて塗工量を低減する方法としては、下塗りの塗工層を低塗工量にし、かつ上塗り塗工層の塗工量を多くして塗工紙の平坦性および平滑性を向上させる方法も考えられる。但し、このような方法を用いる場合に、塗料濃度が高いと、塗料を薄く均一に塗工することが難しく、塗工ムラが発生する問題がある。特にブレード塗工で塗工する場合は塗工層に非塗工部分が発生する問題がある。また、塗工層を均一に設けることができるフィルム転写型ロールコーターを用いて塗工を行う場合は、塗料の塗布量を低減できず厚塗りになり、塗工量そのものを低減することができない。したがって、上記のように塗工層を低塗工量にする場合、塗工層の塗料濃度を低下させる必要がある。
【0008】
一方で塗料濃度を低減すると、塗料中の水やバインダーが原紙に先に吸収され、顔料が塗着しないか、塗着したとしても顔料を基紙に接着できず、顔料が脱落する問題がある。このような問題を解決するために、塗料に保水剤を添加して、容易に基紙に水が吸収されないよう調整する方法が考えられる。
【0009】
しかしながら、保水剤は塗料濃度50質量%を超えて70質量%程度と、高濃度環境下で効果が出るよう設計されており、塗工量を低減するために塗料濃度を低減させた場合、保水剤による保水性向上が得られにくく、充分に保水性が向上できない。保水剤を多く含有させると、塗料粘度が急激に向上して塗工性が悪化し、塗工ムラが発生する問題がある。このため、比較的低濃度の塗料、例えば濃度10〜50質量%、特に15〜30質量%と低濃度の塗料においては、充分な保水性を得ることができず、低塗工量で均一な塗工層を設けることができなかった。すなわち、平坦性や光沢度等について十分な品質を得ることができなかった。特に微塗工紙においては、塗工量が両面で15.0g/m2以下(片面あたり7.5g/m2以下)と低いため、塗工ムラを防止しつつ、顔料塗工層を2層設けることは困難である。
【0010】
したがって、下塗り塗工層を低塗工量にするためには、例えば顔料を含有させず、澱粉などの水溶性高分子を主成分とする塗工層を設ける方法がある(特許文献5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−049386号公報
【特許文献2】特開平11−061690号公報
【特許文献3】特開平09−119090号公報
【特許文献4】特開2002−69894号公報
【特許文献5】特開2007−270377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献1乃至3に係る手法を微塗工紙に適用した場合、充分な剛度および白紙光沢度を両立することができなかった。
【0013】
また、上記特許文献4のように塗工層を2層に分けて設けた場合であっても、下塗り塗工層として粗い顔料を用いた場合、下塗り塗工後の表面が粗くなり、上塗り塗工層を設けたとしても充分に平滑性および光沢度の高い塗工紙を得ることができなかった。加えて塗工量を両面あたり15.0g/m2以下に押えようとした場合、片面1層あたりの塗工量は3.25g/m2以下と少なくなり、均一に塗工することが困難である。
【0014】
また、上記特許文献5のように下塗り塗工層の主成分を接着剤にしただけでは、下塗り塗工層上に上塗り塗工液を均一に塗工できず、平坦性および光沢性のムラが発生する問題があった。
【0015】
以上に示した通り、従来の技術では、求められる高い剛度、優れた平坦性および光沢度を全て満たす微塗工紙を得ることが困難であった。
【0016】
本発明は上記の課題を鑑みて成されたものであり、高い剛度、優れた白紙光沢度および印刷光沢度を有する塗工紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するため、本願は以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明は、紙上に少なくとも2層の塗工層を有する塗工紙であって、塗工層は下塗り塗工層と、下塗り塗工層上に形成される上塗り塗工層とを有し、下塗り塗工層は、主成分として水溶性高分子を当該下塗り塗工層の全質量に対して50〜100質量%含み、上塗り塗工層には顔料および接着剤を含有し、接着剤は、水溶性高分子を接着剤全体に対し50〜100質量%含み、上塗り塗工層に含まれる顔料は、平均粒子径0.2〜1.9μmの粒子から成る顔料を全顔料に対し90質量%以上含有したことを特徴とする、塗工紙である。
【0018】
第2の発明は、第1の発明において、上塗り塗工層の接着剤がさらに水溶性高分子より少ない割合でラテックスを含有し、ラテックス中のアクリロニトリル成分の含有割合は、10質量%以下であることを特徴とする塗工紙である。
【0019】
第3の発明は、第1または第2の発明の何れかにおいて、下塗り塗工層の主成分である水溶性高分子が、酸化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉および尿素リン酸エステル化澱粉の少なくとも何れか1つであることを特徴とする塗工紙である。
【0020】
第4の発明は、第1から第3の何れかの発明において、上塗り塗工層が、顔料および接着剤を含む塗工液が基紙にフィルム転写型ロールコーターで塗工されて成り、塗工液中の固形分濃度が10〜50質量%であることを特徴とする塗工紙である。
【発明の効果】
【0021】
第1の発明によれば、高い剛性、優れた白紙光沢度および印刷光沢度を有する微塗工紙を得ることができる。具体的には、第1の発明においては、下塗り塗工層として水溶性高分子を主成分とする塗工層を設け、上塗り塗工層として顔料および水溶性高分子を主成分とする塗工層を設けている。すなわち、上塗り塗工層と下塗り塗工層とに水溶性高分子を多く含有させているため、上塗り塗工層と下塗り塗工層の親和性が高くなり、下塗り塗工層上に均一に上塗り塗工層を形成することができ、高い平坦性を有する塗工紙を得ることができる。特に、上塗り塗工層の塗工量が片面あたり7.5g/m2以下と少なくても、十分に高い平坦性を得ることができる。一方、基紙に直接上塗り塗工層を塗布したり、下塗り塗工層の接着剤の主成分が水溶性高分子以外であると、上塗り塗工層と下塗り塗工層との親和性が低いため、上塗り塗工層が均一に塗布できず、塗工ムラが発生する。このような塗工ムラは、特にフィルム転写方式を用いて上塗り塗工層を設けた場合に顕著に発生するものである。
さらに、第1の発明においては上塗り塗工層の顔料として粒子径の小さい顔料が用いられる。粒子径の小さい顔料は粒子径が大きい顔料に比べて比表面積が大きいため、粒子同士の隙間に水を溜め込みやすく、保水性に優れるため、塗工時に水や水溶性高分子が基紙に先に吸収されることを防ぐことができる。但し、一般に粒子径が小さい顔料を基紙に直接塗布すると、顔料が基紙に沈み込み、目止め効果が得られない問題がある。このような問題を鑑み、第1の発明においては、下塗り塗工層に水溶性高分子を主成分とする塗工層を設ける構成を採用した。下塗り塗工層に水溶性高分子を主成分とする塗工層を設けることで、水や水溶性高分子の基紙への吸収を抑制でき、かつ顔料の沈み込みを防止する目止め効果を奏することができる。
【0022】
すなわち、第1の発明は、上述の引用文献5とは異なり、単に水溶性高分子を主成分とする下塗り塗工層上に顔料塗工層を設けるのではなく、上塗り塗工層の接着剤の主成分を水溶性高分子としたものである。つまり第1の発明は、水溶性高分子を主成分とする下塗り塗工層を設け、この下塗り塗工層上に同じく顔料および水溶性高分子を主成分とする上塗り塗工層を設けることで、高い剛性が得られ、かつ上塗り塗工層に用いる顔料として、より細かい粒子を用いることで、特に優れた平坦性および光沢度が得られるものである。
【0023】
第2の発明によれば、特に光沢度および平坦性に優れた塗工紙を得ることができる。第2の発明において示した通り、上述の上塗り塗工層としては、接着剤として水溶性高分子に加えてラテックスを併用することが好ましい。上塗り塗工層に、親油性のラテックスを主成分とする接着剤を併用し、かつ、下塗り塗工層に、親水性の水溶性高分子を主成分とする塗工層を設けることで、上塗り塗工層と下塗り塗工層の親和性が低下し、上塗り塗工層が下塗り塗工層に浸透することを抑制でき、塗工後〜乾燥の間に発生するレべリング(塗料が流動性を持って基紙上を移動し、塗工面が均一にならされる現象)が発生する時間をより長くすることができる。そのため、特に光沢度および平坦性に優れた塗工紙が得られ、好ましい。このような構成により、例えば上塗り塗工層および下塗り塗工層の合計塗工量を片面あたり7.5g/m2以下と少なくした塗工紙においても、十分に高い平坦性および光沢性を得ることができる。但し、上塗り塗工層中の接着剤のうち、ラテックスの占める割合が水溶性高分子の占める割合よりも多くなった場合、上塗り塗工層と下塗り塗工層の親和性が低下しすぎ、上塗り塗工層が下塗り塗工層上に均一に転写しにくくなり、塗工ムラが発生しやすくなる場合がある。このため上塗り塗工層においては、水溶性高分子の含有割合は、ラテックスの含有割合より多くすることが好ましい。
【0024】
また、第2の発明においては、アクリロニトリルの含有量が10質量%以下と、下塗り塗工層へ浸透しにくいラテックスを併用するため、形成されたレベリング後の上塗り塗工層も高い平坦性を有しており、特に平坦性および光沢度が高い塗工紙を得ることができる。なお、ラテックス中のアクリロニトリル含有割合が10質量%を超過した場合、下塗り塗工層へ浸透しやすくなり、アクリロニトリル含有割合が10質量%以下の場合に比べてレベリング時間が短くなり、塗工層を充分に平坦化できない可能性がある。
上述の通り、上塗り塗工層中の接着剤として水溶性高分子およびラテックスを併用し、かつラテックスよりも水溶性高分子の割合を多くし、かつラテックス中のアクリロニトリル含有割合を10質量%以下とすることで、下塗り塗工層上の上塗り塗工層の平坦性を向上できるため、さらに光沢性および平滑性を向上させることができる。
【0025】
第3の発明によれば、上塗り塗工層に含まれる顔料を下塗り塗工層上に留めやすくして、光沢度および平滑度に優れた塗工紙を得ることができる。第3の発明において示した通り下塗り塗工層の水溶性高分子は、酸化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉および/または尿素リン酸エステル化澱粉であることが好ましい。本発明においては、上塗り塗工層に平均粒子径が0.2〜1.9μmと小さい粒子を90質量部以上含むため、基紙にこれら顔料粒子が沈み込まないよう、分子量が大きい水溶性高分子を下塗り塗工層に用いることが好ましい。一般に未変性の澱粉は、分子量が大きく、顔料粒子を充分に保持できるため好ましいが、腐食しやすいため取り扱いが難しい。そこで通常は酸による分解、官能基または高分子差鎖の導入、架橋剤による架橋等により変性した変性澱粉を用いる。しかし、変性澱粉は変性時に分子鎖が切れて分子量が低下するため、変性澱粉の中でも微細顔料を塗工層中に留めやすい分子量や分子構造を有する変性澱粉を用いることが好ましい。これら分子量や分子構造による、微細顔料の留めやすさについて詳細は不明だが、発明者らが検討した結果、酸化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉および尿素リン酸エステル化澱粉の何れかを使用、または併用すると、より微細顔料を下塗り塗工層上に留めやすく、光沢度および平滑度に優れた塗工紙が得られやすいことを見出した。
【0026】
第4の発明によれば、優れた白紙光沢度および印刷光沢度を有する塗工紙を製造する際に転写不良の発生を抑制することができる。第4の発明に示した通り、上塗り塗工層をより低塗工量で且つ均一に設けるためには、フィルム転写型ロールコーターを用いることが好ましい。一般にフィルム転写型ロールコーターは塗工液を一度、ロールに塗工して塗膜化してから紙に転写するため、塗工液中の固形分の濃度が薄い場合は保水性不足による紙への転写不良が発生しやすい。しかしながら本発明においては、平均粒子径が0.2〜1.9μmと保水性の高い顔料を用い、かつ接着剤として保水性の高い水溶性高分子を用いているため、例えば塗工液中の固形分の濃度が10〜50質量%、さらには15〜30質量%と比較的低くても、転写不良の発生を防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本願発明の実施形態に係る塗工紙は、基紙に水溶性高分子を主成分とする下塗り塗工層と、顔料および水溶性高分子を主成分とする上塗り塗工層の2層の塗工層を設けて成る塗工紙である。
【0028】
(基紙)
本発明に係る塗工紙の基紙の原料としては、一般に製紙用途で使用される化学パルプや機械パルプ、脱墨古紙パルプを用いることができる。また、本発明に係る塗工紙の基紙の原料としては、一般に製紙用途で使用される填料を用いることができる。
【0029】
(基紙の製造方法)
基紙は従来一般に用いられる製造方法で製造することができる。基紙を抄紙する工程のうちワイヤーパートでは、円網フォーマー、長網フォーマー、ハイブリッドフォーマー、ギャップフォーマーなど、従来一般に製紙用途で使用できるフォーマーを使用することができる。この中でも、脱水初期からワイヤーの両側で脱水することができ、微細繊維の含有割合が少ないギャップフォーマーを用いることが好ましい。本発明においては後述のとおり、水溶性高分子を主成分とする下塗り塗工層を設けるが、この水溶性高分子が塗工層を形成することで、下塗り塗工層上に塗布する上塗り塗工液の基紙への浸透を防止できる。つまり、基紙表面に水溶性高分子の皮膜を形成することで、後に塗工される上塗り塗工液が基紙内部にまで浸透することを防止でき、もって平坦性および光沢性に優れた塗工紙を得ることができる。加えて、基紙の坪量を55g/m2以下と低くすることで、基紙への下塗り塗工層の浸透量を低減することができ、水溶性高分子の皮膜による基紙被覆性を向上できるため、特に平坦性および光沢性に優れた塗工紙を得ることができる。
加えて、基紙は通常、ワイヤーパートにより表裏差が発生する。例えば長網フォーマーであれば、ワイヤーと接する面(ワイヤー面)は脱水により微細繊維が抜ける一方、ワイヤーと接しない面(フェルト面)は微細繊維が抜けない。このため、フェルト面は微細繊維に起因する細孔が多く水溶性高分子が浸透しやすくなる一方、ワイヤー面は細孔が少なく水溶性高分子が浸透しにくくなり、表裏で上塗り塗工層の塗工性が異なる、見栄えの悪い塗工紙となりやすい。しかしながらワイヤーパートにおいてギャップフォーマーを用いると、基紙両面において微細繊維が抜け細孔が少なくなっており、両面とも水溶性高分子を浸透しにくくなっていることから、下塗り塗工層の水溶性高分子が表裏とも浸透しにくくなり、より水溶性高分子の皮膜を形成しやすく、上塗り塗工液の浸透を防止しやすい。
【0030】
(下塗り塗工層)
以上のような基紙の両面に、水溶性高分子を主成分とする下塗り塗工層を設ける。
【0031】
水溶性高分子としては、従来一般に製紙用途で使用されているものを用いることができる。例えば、酸化澱粉、陽性化澱粉、エステル化澱粉、ヒドロキシエチル澱粉、デキストリン等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリビニルアルコールやシラノール変性ポリビニルアルコール等の各種変性ポリビニルアルコールが例示され、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して併用することができる。
【0032】
本発明においては上述した水溶性高分子の中でも、酸化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉および/または尿素リン酸エステル化澱粉を下塗り塗工層の主成分として用いることが好ましい。これらは上塗り塗工層中の0.2〜1.9μm、好ましくは0.2〜0.8μmの顔料粒子を下塗り塗工層上に留めて基紙に浸透させにくく、上塗り塗工後の平坦性を充分に向上できるため好ましい。また、このような構成により、後述する上塗り塗工液の濃度が10〜50質量%、さらには15〜30質量%と低くしても塗料を均一に塗工しやすく、低濃度であっても高い平滑性を有する塗工紙が得られやすい。
また、接着剤に占める水溶性高分子の割合は、50〜100質量%、好ましくは70〜100質量%、特に好ましくは90〜100質量%である。接着剤に占める水溶性高分子の割合が50質量%を下回る場合、上塗り塗工層を均一に塗布できなくなる可能性があるため、上塗り塗工液濃度を10〜50質量%、さらには15〜30質量%に低減した際に、上塗り塗工層の塗工ムラが発生し易くなるおそれがある。
【0033】
(下塗り塗工層の顔料)
下塗り塗工層には、接着剤の他に従来一般に製紙用途で使用できる顔料を含有させることができる。顔料を含有させることで下塗り塗工後の平坦性をより向上でき、得られる塗工紙の光沢性および平坦性をさらに向上させることができる。さらに、後述するプレカレンダーによる平坦化効果と組み合わせることにより、特に光沢性および平滑性に優れた塗工紙が得られるため好ましい。
顔料としては、小粒子径の顔料を多く含むものを用いることが好ましい。特に2.0μm以下の粒子を75質量%以上、好ましくは90質量%以上含有するものであれば、下塗り塗工層表面の平坦性がさらに向上しやすく、プレカレンダーによる平坦性向上効果ともあいまって、特に塗工紙の光沢性および平滑性が向上しやすいため好ましい。
【0034】
(下塗り塗工層の塗工量)
下塗り塗工層の塗工量は特に限定されないが、完成後の塗工紙の剛性を出すためには基紙の坪量を多くし、かつ光沢性を向上させるためには上塗り塗工層を多くすることが好ましいため、下塗り塗工層の塗工量は少ない方が好ましい。つまり本発明においては、下塗り塗工層の塗工量は、両面あたり0.01〜5.0g/m2、好ましくは0.01〜3.0g/m2とすることが好ましい。
【0035】
(下塗り塗工層の塗工方法)
上記下塗り塗工液を塗布する方法は特に限定されないが、下塗り塗工層を上述のとおり両面あたり0.01〜5.0g/m2、好ましくは0.01〜3.0g/m2設けるためには、低塗工量であっても均一に塗工層を設けることができるフィルム転写方式の塗工装置を用いることが好ましい。このようなフィルム転写方式の塗工装置としては、例えばゲートロールコーター、ロッドメタリングサイズプレスなどを用いることができる。
【0036】
(プレカレンダー)
本発明においては、水溶性高分子を主成分とする下塗り塗工層を設けた後、上塗り塗工液を塗布する前に、カレンダーによる平坦性向上を図ることが好ましい。なぜならば、下塗り塗工層の平坦性が比較的低い場合、上塗り塗工液を塗工した後に発生するレベリングを充分に達成したとしても、レベリングにより得られた上塗り塗工層表面の平坦性も低くなり、結果として高い平坦性および光沢性を有する塗工紙が得られない場合があるからである。そこで、本発明においては、上述の下塗り塗工層を基紙に設けた後、後述の上塗り塗工層を設ける前に、カレンダー等による平坦化処理(プレカレンダー)を行うことが、より好ましい。このような処理によれば、上塗りおよび下塗り塗工液の塗工量を、より低減しつつ、高い平滑性および光沢性を付与できるようにすることができる。なお、プレカレンダーの処理条件は、圧力20〜200kN/m、温度50〜150℃とすることが好ましい。
【0037】
(上塗り塗工層)
以上のようにして製造された下塗り塗工層の上に、顔料および水溶性高分子を主成分として含有する上塗り塗工層を設ける。上塗り塗工層に含まれる顔料は、平均粒子径0.2〜1.9μm、好ましくは0.2〜0.8μmの粒子が90質量%以上を占めるものである。上塗り塗工層に含まれる水溶性高分子は、全接着剤中50〜100質量%、好ましくは60〜100質量%、特に好ましくは80〜90質量%含有するものである。
【0038】
従来、基紙に上塗り塗工液を塗布する際、当該塗工液の保水性が小さいと、基紙に塗工液中の水が早く吸収されすぎて、顔料および水溶性高分子が紙面上で流動性を失いやすく、均一に塗布しにくいだけでなく、塗工後〜乾燥の間に発生するレべリングが充分に発生せず、塗工ムラや平坦性の低下が発生しやすくなる。このため、上塗り塗工液が水を容易に放出しないよう、当該塗工液に保水剤を含有させたり、基紙にサイズ剤を含有させたり等して水の吸収を抑制することが一般的に行われている。
【0039】
しかしながら、上塗り塗工液に保水剤を含有させると塗工液粘度が向上して塗工ムラが発生したり、サイズ剤を基紙に含有させたりすると異物が発生する問題がある。このため、高い光沢性を付与するためには、塗工後のレベリングを最大限に活用する必要がある。すなわち、発明者らは鋭意検討した結果、平均粒子径0.2〜1.9μm、好ましくは0.2〜0.8μmの小粒子径の顔料を用い、かつ上塗り塗工層の水溶性高分子を50〜100質量%、好ましくは60〜100質量%、特に好ましくは80〜90質量%含有する接着剤を用いることで、塗工液の保水性を特に向上させることができ、上塗り塗工後のレベリングを充分に実施できるため、上塗り塗工後においては平滑性および光沢性に特に優れた塗工紙を得ることができた。一方、平均粒子径0.2〜1.9μmの小粒子径の顔料を用いなかった場合や、接着剤のうち水溶性高分子の割合が50質量%を下回る場合、充分な白紙光沢度および印刷光沢度が得られにくいため好ましくない。
【0040】
一般に塗工液の保水性は保水剤の添加により調整するが、保水剤は塗工液濃度が50質量%を超えて70質量%程度と高い場合に効果が得られるものである。低塗工量で上塗り塗工液を塗布させるため、塗工液濃度を50質量%を下回る程度にまで薄めると、上塗り塗工液の保水性を向上させにくい。その一方で、保水性を向上させるために保水剤を塗工液に大量に含有させると、塗工液の粘度が増加して塗工ムラが発生しやすくなる。その点、発明者らは鋭意検討した結果、上塗り塗工層の構成を上述のとおりとすることによって、塗工液濃度を10〜50質量%、さらには15〜30質量%と低く、かつ保水剤の含有量を0.1質量%以下、さらには0.01質量%以下にまで低減、または無配合にしても、充分に高い保水性を有する上塗り塗工液を得ることができた。そして、この上塗り塗工液を、同じく水溶性高分子を含む下塗り塗工層上に塗工することで、上塗り塗工層を均一に塗布することができ、例えば塗工量が片面あたり7.5g/m2以下と低塗工量であっても、十分に塗工ムラを防止でき、平坦性および光沢性に優れた塗工紙を得ることができる。
【0041】
(上塗り塗工層に用いる顔料)
上塗り塗工層で用いる顔料としては特に限定されず、一般に製紙用途で用いる顔料を使用することができる。例えば、上塗り塗工層で用いる顔料としては、クレーや炭酸カルシウム等を用いることができる。
【0042】
上塗り塗工層に含まれる顔料は、平均粒子径が0.2〜1.9μm、好ましくは0.2〜0.8μmと比較的粒子径の小さな顔料粒子が90質量%以上を占めるものとする。一般に、粒子が小さいほど粒子間に水を溜め込みやすいため、上塗り塗工液の保水性は高くなる。したがって、上塗り塗工層に含まれる顔料を上記のような構成とすると、後述する上塗り塗工液濃度を10〜50質量%、さらには15〜30質量%と低くしても保水性を高いまま維持しやすく、低濃度であっても高保水性の上塗り塗工液が得られやすく、より均一な上塗り塗工層が得られやすいため好ましい。一方、顔料中において細かい粒子の含有率が多くなりすぎ、例えば、平均粒子径が0.2μmを下回ると、基紙中の水分が塗工層表面から抜けにくくなるため、印刷後乾燥時にブリスター欠陥等が発生する問題がある。また、粒子の平均粒子径が1.9μmを超過すると、保水性が得られにくくなり上塗り塗工液の転写不良が発生する問題がある。
また、顔料は平均粒子径の異なるものを2種類以上併用することが好ましい。単一の顔料では粒子径分布の範囲が狭く、類似した粒子径を有する粒子同士が集まると粒子間の隙間が密になりやすい傾向がある。しかしながら例えば、異なる平均粒子径を有する2種類以上の顔料を混合すると、粒子間の隙間が大きくなりやすく、粒子間の水の溜め込みが大きくなりやすいため、より保水性に優れた塗料となり、より均一な上塗り塗工層が得られやすい。
【0043】
(上塗り塗工層に用いる水溶性高分子)
上塗り塗工層に用いる水溶性高分子としては、従来一般に製紙用途で使用している水溶性高分子を用いることができ、例えば上述の下塗り塗工層に用いることができるものとして列挙した水溶性高分子を用いることができる。
【0044】
この中でも、特に酸化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉および/または尿素リン酸エステル化澱粉を上記の水溶性高分子として用いることが好ましい。これらは0.2〜1.9μm、好ましくは0.2〜0.8μmの顔料粒子を塗料中に留めて基紙に浸透させにくく、上塗り塗工後の平坦性を充分に向上できるため好ましい。また、このような構成により、上塗り塗工液濃度が10〜50質量%、さらには15〜30質量%と低くしても保水性を高いまま維持しやすく、低濃度でありながら高保水性を有する上塗り塗工液を調製しやすい。
【0045】
(上塗り塗工層に用いるラテックス)
上塗り塗工層には、上述の水溶性高分子に加えて、従来一般に製紙用途で使用するラテックスを併用することができる。上述のとおり、本発明においては上塗り塗工層の接着剤として水溶性高分子を用い、かつ下塗り塗工層にも水溶性高分子を主成分とする塗工層を設けることで、下塗り塗工層上に上塗り塗工層を均一に塗布できるものである。しかしながら、より平坦性および光沢性を向上させるために、上塗り塗工層の接着剤としてラテックスを併用することもできる。
ラテックスとしては、例えばメチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス等の共役ジエン系ラテックス、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの重合体ラテックスもしくは共重合体ラテックス等のアクリル系ラテックス、エチレン−酢酸ビニル重合体ラテックス等のビニル系ラテックス、あるいはこれらの各種共重合体ラテックスをカルボキシル基等の官能基含有単量体で変性したアルカリ部分溶解性又は非溶解性のラテックス等のラテックス類が挙げられ、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して併用することができる。
これら併用するラテックスの種類は任意として良いが、中でも、アクリロニトリル成分の含有割合が10質量%以下、さらには5質量%以下、好ましくは3質量%以下のラテックスを用いることが好ましい。アクリロニトリルは下塗り塗工層に含有される水溶性高分子との親和性が高いため、下塗り塗工層に浸透しやすい傾向があり、ラテックス中のアクリロニトリル含有割合が10質量%を超過するとレベリング時間が短くなる場合がある。これに対し、アクリロニトリル含有割合を10質量%以下にまで低減したラテックスでは、アクリロニトリル含有割合を10質量%超まで含有させたラテックスに比べ、上塗り塗工層を塗工した後のレべリング時間を長くとることができ、光沢度および平坦性を特に向上させることができる。
【0046】
なお、仮に、上塗り塗工層の接着剤の主成分をラテックスとした場合、上塗り塗工液が下塗り塗工層上に均一に塗布し難くなり、塗工ムラが発生しやすくなる。このような塗工ムラは、例えば塗工量が片面あたり7.5g/m2を超過した場合には目立ちにくいが、塗工量が7.5g/m2以下と少ない場合には、塗工ムラが顕著となり、見栄えの低下が目立つようになる。その点、本発明に係る塗工紙は、上述のような各塗工層の構成により、例え塗工量が片面あたり7.5g/m2以下(両面で15.0g/m2以下)と低塗工量の微塗工紙であっても、塗工量が両面で15〜20g/m2のA3グレードの塗工紙と同程度の平滑性および光沢性を得ることができる。
【0047】
なお、上塗り塗工層に用いる接着剤としては、上述の水溶性高分子およびラテックス以外にも、一般に製紙用途で使用される接着剤を併用することができ、例えばカゼイン、大豆蛋白等の蛋白質類;オレフィン−無水マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂等の合成樹脂系接着剤を併用することもできる。
【0048】
上塗り塗工層の接着剤に占める水溶性高分子の割合は、50〜100質量%、好ましくは60〜100質量%、特に好ましくは80〜90質量%である。接着剤に占める水溶性高分子の割合が50質量%を下回る場合、下塗り塗工層上に上塗り塗工液が均一に塗布できない。特に、上塗り塗工層をフィルム転写方式で設ける場合において、塗工量を片面あたり7.5g/m2以下と低塗工量にする場合、上塗り塗工液濃度を10〜50質量%、さらには15〜30質量%に低減することが好ましいため、特に転写不良が発生し易くなる。すなわち、転写不良を防止するためには、上塗り塗工層の接着剤に占める水溶性高分子の割合を上述の範囲とする。
顔料に対する接着剤の割合は、顔料100質量部に対して10〜900質量部が好ましく、10〜80質量部と顔料よりも接着剤が少なくなることがより好ましい。特に、顔料が水溶性高分子より多いと、保水性の向上効果が高いことに加えて、塗工層表面に顔料粒子が表出しやすくなり、優れた平坦性および光沢性を得ることができる。
【0049】
(上塗り塗工層の塗工量)
上塗り塗工層の塗工量は特に限定されず、例えば片面あたり0.1〜20.0g/m2とすることができる。光沢性を向上させるためには、塗工量はより多い方が好ましいが、本発明においては、片面あたり7.5g/m2以下(両面で15.0g/m2以下)、さらには片面あたり4.0g/m2以下(両面で8.0g/m2以下)であっても、十分に高い光沢性および平坦性を得ることができる。
【0050】
(上塗り塗工層の塗工方法)
上記上塗り塗工液を塗布する方法は特に限定されないが、上塗り塗工層を上述のとおり片面あたり7.5g/m2以下とするには、均一に塗工層を設けることができるフィルム転写方式の塗工装置を用いることが好ましい。このような塗工装置としては、例えばゲートロールコーター、ロッドメタリングサイズプレスなどを用いることができる。
【0051】
(上塗り塗工液濃度および保水度)
上述のとおり、上塗り塗工液の濃度を例えば10〜50質量%、さらには15〜30重量%まで希釈すると、比較的少ない塗工量で均一な上塗り塗工層を得ることができる。このため、例えば上塗り塗工層の塗工量を片面あたり7.5g/m2以下とすることもできる。
【0052】
上塗り塗工液濃度が10質量%を下回ると、下塗り塗工層上に上塗り塗工液を均一に塗布しにくくなり、平坦性が低下しやすいだけでなく、塗工ムラに起因する光沢ムラが発生して見栄えが低下しやすいため好ましくない。加えて、上塗り塗工層を均一に塗布するため、上塗り塗工液の保水度は、塗工液の濃度20質量%において150g/m2以下、さらには100g/m2以下とすることが好ましい。上塗り塗工液の保水度が150g/m2を上回ると、上塗り塗工液中の水や水溶性高分子が下塗り塗工層に吸収されやすく、光沢低下や顔料の脱落が発生しやすくなる。また、上塗り塗工液の保水度が30g/m2を下回ると塗工後の乾燥が遅くなるため、ドライヤーに上塗り塗工液が付着して塗工層表面が荒れ、平坦性が低下しやすい。
【0053】
本発明においては上述のとおり、濃度および保水度を上記範囲内とすることで、上塗り塗工層を片面あたり7.5g/m2以下で塗工することができる。しかしながら、従来の保水剤は、一般的な上塗り塗工液濃度(50質量%を超えて70質量%程度)であれば保水性を調整可能であるものの、上塗り塗工液の濃度が比較的低い場合、例えば濃度10〜50質量%、特に15〜30質量%と低い場合では、保水性向上効果が少なく、充分な保水性が得られない場合があった。
【0054】
低濃度の上塗り塗工液の保水性を向上させるためには保水剤を大量に含有させる必要があるが、例えば保水剤を0.1質量%を超過するまで含有させると、保水性向上効果は見られるものの、粘度が急激に向上し、塗工時に塗工ムラが発生しやすくなる問題があった。このため、単に保水剤を添加しただけでは、上塗り塗工液濃度を10〜50質量%として塗工量を低減する場合に、保水度を150g/m2以下、特に100g/m2以下とすることができなかった。
【0055】
発明者らは鋭意検討した結果、平均粒子径が0.2〜1.9μm、好ましくは0.2〜0.8μmの顔料を全顔料の90質量%以上含有した顔料、および接着剤中の水溶性高分子の割合を50〜100質量%、好ましくは60〜100質量%、特に好ましくは80〜90質量%含有し、特に顔料に対する水溶性高分子の割合を10〜80質量部と顔料よりも少なく含有した上塗り塗工液を用いることで、上塗り塗工液に添加する保水剤の含有量を0.1質量%以下、さらには0.01質量%以下と少なくしても、上記濃度および保水度を有する上塗り塗工液を調整することができた。すなわち、上塗り塗工層の塗工量を従来に比して低減しつつ平坦性や光沢性に優れた塗工紙を好適に得ることができた。加えて、下塗り塗工層の水溶性高分子として酸化澱粉を用いると、特に保水性に優れた上塗り塗工液を、下塗り塗工層上に均一に塗布できるため好ましい。
【0056】
(保水剤)
上述の通り、本発明においては上塗り塗工層に保水剤を用いることなく、または保水剤の含有量を0.1質量%以下、さらには0.01質量%以下としても、高い保水性を付与させることができるが、塗工ムラが発生しない程度に保水剤を用いても構わない。上塗り塗工液に用いる保水剤としては、従来一般に製紙用途で使用している保水剤を用いることができる。
【0057】
以上に示した通り、本発明においては、水溶性高分子を主成分とする下塗り塗工層と、顔料および水溶性高分子を主成分とする上塗り塗工層を設けた塗工紙であり、上塗り塗工層に顔料として平均粒子径0.2〜1.9μm、好ましくは0.2〜0.8μmの粒子を90質量%以上含有し、かつ上塗り塗工層中の接着剤のうち、50〜100質量%、好ましくは60〜100質量%、特に好ましくは80〜90質量%を水溶性高分子とすることで、特に平滑性および光沢性を有する塗工紙を得ることができる。これら構成にすることにより、例えば塗工量が片面あたり7.5g/m2以下(両面で15.0g/m2以下)と低い、さらには坪量60g/m2以下の微塗工紙であっても、塗工量15〜20g/m2とA3グレードの塗工量を有する塗工紙と同程度の平滑性および光沢性を有する塗工紙を得ることができる。
【0058】
また、上述の構成とすることで、例えば上塗り塗工層の塗工液の濃度を10〜50質量%、特に15〜30質量%にしても、濃度20質量%における保水度を150g/m2以下、特に100g/m2以下に調整できるため、フィルム転写型ロールコーターを用いて片面あたり塗工量0.1g/m2〜7.5g/m2、さらには0.1g/m2〜4.0g/m2と比較的低塗工量で塗工することができるものである。
【0059】
(坪量)
本発明においては、上述のとおりの構成とすることで、例えば坪量が60g/m2以下、さらには坪量50g/m2以下、特には坪量45g/m2以下と軽量な塗工紙であっても、高い剛性と、優れた平坦性および光沢度を獲得することができ、見栄えに優れた塗工紙を得ることができる。
【0060】
<実施例>
次に、表1から表4を参照し、本発明の塗工紙を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、表1から表4は、各実施例および比較例に係る塗工紙の製造条件、および評価結果を示す表である。
【0061】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【0062】
まず、原料パルプとして、NBKPを20質量%およびLBKPを80質量%混合して100質量%とし、このパルプ100質量%(絶乾量)に対して、各々固形分で、填料(紡錘型軽質炭酸カルシウム、品番:TP−121―6S、奥多摩工業社製)5.0質量%、および、内添サイズ剤(品番:AK−720H、ハリマ化成(株)製)0.02質量%、カチオン化澱粉(品番:アミロファックスT−2600、アベベジャパン(株)製)1.0質量%、及び歩留向上剤(品番:NP442、日産エカケミカルス(株)製)0.02質量%を添加してパルプスラリーを得た。尚、NBKPのフリーネスは500ml、LBKPのフリーネスは400mlに調整した。
【0063】
次に、表1および表2に記載のワイヤー形状のワイヤーパート、オープンドローのないストレートスルー型のプレスパート、シングルデッキドライヤーからなるプレドライヤーパートを経て基紙を製造した。
【0064】
基紙の両面に、表1および表2の各実施例および比較例に示す接着剤を含む下塗り塗工液を、両面合計で1.0g/m2となるようフィルム転写方式の塗工機で下塗り塗工した。下塗り塗工後、アフタードライヤーパートで乾燥し、プレカレンダーパートで、ニップ圧20kN/mで平坦化処理を行った。尚、実施例27および実施例28は、顔料として表1に記載のものを、顔料100質量部に対して接着剤150質量部の割合で含有させた下塗り塗工液を用いて、下塗り塗工層を設けた。
【0065】
下塗り塗工層の両面に、表1および表2の各実施例および比較例に示す顔料、接着剤および保水剤を含む上塗り塗工液を、片面あたり表1および表2の塗工量となるよう表1から表2に記載の塗工機で上塗り塗工した。その後、上塗り塗工層を乾燥した後にソフトカレンダーを用い、ニップ圧30kN/m、ロール温度80℃で2ニップの平坦化処理を行い、坪量44g/m2の塗工紙を得た。なお、実施例2から28では、ラテックス中のアクリロニトリル成分の割合等を表1および表2に記載のとおり変更した以外は、実施例1と同じラテックスを用いた。
【0066】
上記各実施例および比較例において、塗工液の調製に用いた顔料、接着剤および保水剤は次の通りである。なお、含有量は固形分換算の含有量である。
(顔料)
・炭酸カルシウム
重質炭酸カルシウム、品番:ハイドロカーブ90、備北粉化工業社製、平均粒子径1.3μm。
・クレー
デラミクレー、品番:カピムCC、イメリス社製、平均粒子径3.2μm。
【0067】
(接着剤)
・水溶性高分子
酸化澱粉 品番:オキセル、三晶社製
リン酸澱粉(尿素リン酸エステル化澱粉) 品番:スターコート14、日本食品加工社製
HES(ヒドロキシエチル化澱粉) 品番:コートマスターK96F、三晶社製
・ラテックス
スチレン−ブタジエンラテックス 品番:T−2736E、JSR社製、アクリロニトリル含有割合0%
PVA:ポリビニルアルコール 品番:PVA−205、クラレ社製
・保水剤
アニオン系合成ポリマー 品番:ソマレックス−270K、ソマール社製
【0068】
なお、ここでいう顔料の平均粒子径は、レーザー粒度分布測定装置(レーザー解析式粒度分布測定装置「SALD−2200型」島津製作所社製)にて粒度分布を測定し、全粒子の体積に対する累積体積が50%になるときの粒子径(d50)として求めた。上塗り塗工層に用いたクレーおよび炭酸カルシウムは、表1および表2に記載の平均粒子径になるよう、湿式粉砕機(品名:プラネタリーミル、セイシン企業製)を用いて粉砕した。
【0069】
また、保水度およびB型粘度は次のとおり測定した。
(1)塗工液の保水度
AA−GWR保水度計(SMT社製)を用い、B型粘度150cps、23℃に温度調整した塗工液を、圧力2.0kg/cm2、接触時間30秒にて測定した。値が小さい程保水性がよいことを示す。
(2)塗工液のB型粘度
30℃に温度調整した塗工液を、60rpmにて測定した。B型粘度が200cpsを超過すると塗工ムラが発生して塗工できないため、B型粘度が200cps以下となるよう、塗料濃度を調整した。
比較例7および8においては、塗料濃度を低減してB型粘度を200cps以下に調整したが、水溶性高分子の割合が低いため保水性が悪い(保水度が高い)値となった。
【0070】
<評価結果>
上記各実施例および比較例において得られた塗工紙の下記(a)〜(g)の評価項目に係る物性について、以下の方法に基づいて調べた。なお、詳細な評価結果は表3から表4に示す。
【0071】
(a)坪量
JIS P 8124:1998「紙及び板紙−坪量測定方法」に準拠して測定した。
【0072】
(b)剛度
JIS P 8143:1996「紙−こわさ試験方法−クラークこわさ試験機法」に準拠して、抄紙幅方向(CD方向)を測定した。剛度が15以上であれば剛性に優れ、10以上であれば剛性があり、10を下回ると光沢性に劣るものである。
【0073】
(c)平滑度
JIS P 8119:1998「紙及び板紙−ベック平滑度試験機による平滑度試験方法」に準拠して測定した。平滑度が200秒以上であれば平滑性に優れ、100秒以上であれば平滑性があり、100秒を下回ると平滑性に劣るものである。
【0074】
(d)白紙光沢度
JIS P 8142:2005「紙及び板紙−75度鏡面光沢度の測定方法」に準拠して測定した。白紙光沢度が10%以上であれば光沢性に優れ、8%以上であれば光沢性があり、8%を下回ると光沢性に劣るものである。
【0075】
(e)印刷光沢度
次の条件で塗工紙に印刷を行って印刷試験体を作製した。
・印刷機:RI‐3型、(株)明製作所製
・インキ:WebRexNouverHIMARKプロセス(藍)、大日精化社製
・インキ量:上段ロールに0.3ml、下段ロールに0.2ml
・試験方法:上段、下段ロールでそれぞれインキを各3分間練り(2分間練った後、ロールを反転させてさらに1分間練る)、回転速度30rpmで2色同時印刷を行った。
前記印刷試験体について、JIS P 8142:2005「紙及び板紙−75度鏡面光沢度の測定方法」に準拠して測定した。印刷光沢度が20%以上であれば光沢性に優れ、10%以上あれば光沢性があり、10%を下回ると光沢性に劣るものである。
【0076】
(f)塗工ムラ
各実施例および比較例に係る塗工紙の塗工面の平坦性および光沢性のムラについて、次の基準で評価した。
◎:塗工ムラがなく、見栄えに優れる。
○:塗工ムラが僅かに見られるが、印刷後には目立たなくなり実使用上問題ない
△:塗工ムラが多少あり、印刷後でもムラが見られるが、実使用できる下限レベル
×:塗工ムラが目立ち、印刷後でもムラが目立ち、実使用不可能なレベル
【0077】
(g)表裏差
各実施例および比較例に係る塗工紙の塗工面の平坦性および光沢性の表裏差について、次の基準で評価した。
◎:表裏差がなく、見栄えに優れる。
○:表裏差が僅かに見られるが、印刷後には目立たなくなり実使用上問題ない
×:表裏差が目立ち、印刷後でも表裏差が目立ち、実使用不可能なレベル
【0078】
実施例1から28の塗工紙はいずれも、下塗り塗工層の主成分が水溶性高分子であり、上塗り塗工層に含まれる前記顔料が平均粒子径0.2〜1.9μmの粒子から成る顔料を全顔料に対し90質量%以上含有したものであり、上塗り塗工層に含まれる前記接着剤が水溶性高分子を接着剤全体に対し50〜100質量%含むものであるという構成を満たすため、上記各評価項目において良好な結果が得られた。すなわち、各実施例に係る塗工紙は、本願課題を解決できるものである。
【0079】
これに対して、比較例1から8の塗工紙はいずれも、下塗り塗工層の主成分が水溶性高分子であり、上塗り塗工層に含まれる前記顔料が平均粒子径0.2〜1.9μmの粒子から成る顔料を全顔料に対し90質量%以上含有したものであり、上塗り塗工層に含まれる前記接着剤が水溶性高分子を接着剤全体に対し50〜100質量%含むものであるという構成の何れかを満たさないため、何れかの評価項目において良好な結果が得ることができず、本願課題を必ずしも解決できないものである。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係る塗工紙は、高い剛度、優れた白紙光沢度および印刷光沢度を有する塗工紙などとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙上に少なくとも2層の塗工層を有する塗工紙であって、
前記塗工層は下塗り塗工層と、前記下塗り塗工層上に形成される上塗り塗工層とを有し、
前記下塗り塗工層は、主成分として水溶性高分子を当該下塗り塗工層の全質量に対して50〜100質量%含み、
前記上塗り塗工層には顔料および接着剤を含有し、前記接着剤は、水溶性高分子を接着剤全体に対し50〜100質量%含み、
前記上塗り塗工層に含まれる前記顔料は、平均粒子径0.2〜1.9μmの粒子から成る顔料を全顔料に対し90質量%以上含有したことを特徴とする、塗工紙。
【請求項2】
前記上塗り塗工層の接着剤はさらに前記水溶性高分子より少ない割合でラテックスを含有し、
前記ラテックス中のアクリロニトリル成分の含有割合は、10質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の塗工紙。
【請求項3】
前記下塗り塗工層の主成分である水溶性高分子は、酸化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉および尿素リン酸エステル化澱粉の少なくとも何れか1つであることを特徴とする、請求項1または2に記載の塗工紙。
【請求項4】
前記上塗り塗工層は、前記顔料および前記接着剤を含む塗工液が前記基紙にフィルム転写型ロールコーターで塗工されて成り、
前記塗工液中の固形分濃度が10〜50質量%であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の塗工紙。

【公開番号】特開2012−92455(P2012−92455A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238960(P2010−238960)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】