説明

塗布ブラシ

【課題】 2種類のブラシ毛の配列具合によって放射状のブラシ毛の長さがまちまちとなり、ある部分では短いブラシ毛が集中し、ある部分では長いブラシ毛が集中することによりまだらになったりする。そのため、塗布液の付着が均一でなくなり、ある部分では、たっぷりと保液されるが、他の部分では保液が少なく、まつ毛に均一に塗布することが困難になる。
【解決手段】 合成樹脂製のフィラメントを束ねた塗布ブラシにおいて、この塗布ブラシが中空よりなるフィラメントであって、そのフィラメントの基部の断面形状及び中空部の断面形状が異形形状であり、また、そのフィラメントの一部に分割片を形成すると共に、その分割片が形成されたフィラメントを前記塗布ブラシの長手方向に沿って一部、又は、全部に亘り配置されている塗布ブラシ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスカラやリップカラーなどの化粧液、筆跡修正液、接着剤、化粧ブラシ、漆器用の平筆といった塗布ブラシに関し、インキの供給が良好で、筆記時のタッチが滑らかにした塗布ブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のまつ毛にマスカラ液を塗布するのに一般的に使われる塗布ブラシは、2本の金属線間にブラシ毛を金属線に対して交差状に挟み、金属線をらせん状に捻ることによりブラシ毛を巻き輪間に固定させたタイプの塗布ブラシが広く使用されている。その形状としては、各ブラシ毛群の端部により形成した外部包絡線は、円筒形、円筒円すい形又は円すい形の形状を持つものが一般的である。
【0003】
このような構造では、マスカラ液を収容した容器に塗布ブラシを挿入して、マスカラ液に浸し、取り出したときに容器口部に設けられている拭取り部により塗布ブラシがしごかれ、粘稠のマスカラ液が塗布ブラシの付根付近の金属線部分に溜まってしまい、その結果、塗布ブラシの毛先への付着量が少なくなってしまう。そのため、マスカラ液をたっぷりと塗布ブラシに付着したつもりでも塗布に有効な量とはならず、まつ毛に塗布したときにボリュームをつけることが難しく、無理に擦り付けようとすると、一様に付着されずにまだらになったり、時には、何度も塗布ブラシを容器に挿入するなどしてマスカラ液の補充操作をしなければならなかった。
【特許文献1】特開平5−192226号公報(特許請求範囲)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、こうした不具合を改善するために、塗布ブラシのブラシ毛の断面積が大きなブラシ毛と相対的に断面積が小さなブラシ毛とを混在させ、かつ後者の融点を前者の融点よりも高いものとし、金属線の撚りにより固定した後、過熱することで部分的に溶融させ、長さが相対的に短く外端部に毛玉状のふくらみを形成したブラシ毛を混毛させた塗布ブラシが提案されている。
しかしながら、この構造では、2種類のブラシ毛の配列具合によって放射状のブラシ毛の長さがまちまちとなり、ある部分では短いブラシ毛が集中し、ある部分では長いブラシ毛が集中することによりまだらになったりする。そのため、塗布液の付着が均一でなくなり、ある部分では、たっぷりと保液されるが、他の部分では保液が少なく、まつ毛に均一に塗布することが困難になる。そこで、これを避けるために製作時に2種類のブラシ毛の配列を精密に行う試作もなされたが、面倒で手間と時間がかかり、しかも、塗布ブラシの素体を作った後に、加熱手段による加熱工程を要するので工程が増し、コストが高くなるという問題が生じてしまった。さらに、この種の従来技術にあっては、ブラシ毛の形状が金属線にブラシ毛を配列した段階で決定されてしまうため、後には変更することは困難であり、仕様の自由度に乏しいという問題があった。つまり、無理に変更しようとブラシ毛に外力を加えてしまうと毛玉状のふくらみが取れてしまう危険性があるのである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、合成樹脂製のフィラメントを束ねた塗布ブラシにおいて、この塗布ブラシが中空よりなるフィラメントであって、そのフィラメントの基部の断面形状及び中空部の断面形状が異形形状であり、また、そのフィラメントの一部に分割片を形成すると共に、その分割片が形成されたフィラメントを前記塗布ブラシの長手方向に沿って一部、又は、全部に亘り配置されていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、合成樹脂製のフィラメントを束ねた塗布ブラシにおいて、この塗布ブラシが中空よりなるフィラメントであって、そのフィラメントの基部の断面形状及び中空部の断面形状が異形形状であり、また、そのフィラメントの一部に分割片を形成すると共に、その分割片が形成されたフィラメントを前記塗布ブラシの長手方向に沿って一部、又は、全部に亘り配置されているので、ブラシ先端が均一に蜜集しているため、塗布時の塗布液の供給が良好で、安定したボリュームのある線が描けるマスカラ用塗布ブラシが得られるものである。又、ブラシ作成作業においても、加熱工程のようなものや段差形状にする必要でないため、通常の砲弾型の形状のものを砥石等の形状や押し付け距離を変えるだけで、前記のような品質が得られるため、あらいる形状のものや分割長さ等が1回の作業で出来るので、手間の削減やコスト低減ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、添付図面に基づき本発明の実施例を説明する。図1は本発明によるマスカラ用塗布ブラシ5に適用した第1例を示している。参照符号1は摘み、2は摘み1と一体の軸、3はフィラメント群3である。前記塗布ブラシ部5は、所定のピッチで螺旋状に巻回された芯線4と、該芯線4の軸線と交差して放射状に伸びる多数のフィラメント群3から構成されており、芯線4の後部が前記軸2に圧入されている。このものを所定の形状にフィラメント群3の外観を整えるカットを施しマスカラ塗布ブラシ5が構成されている。又、フィラメント群3は、フィラメント6の先端部を研磨機や繊維を叩いて2本以上に分割(分割片7)されて構成されている。そして、そのフィラメント6は塗布ブラシ5の長手方向に沿って複数個所に部分的に設けても良く、或いは、塗布ブラシ5の全部に亘って設けても良い。また、フィラメント6は、中空部8を有している。
尚、本実施例においては、マスカラ用塗布ブラシを1例として説明するが、これに限られることはなく、例えば、リップブラシや修正液、接着剤、化粧ブラシ、漆器用の平筆などのフィラメントに適用させても良い。
また、塗布用ブラシの構成として、ブラシ毛を金属製の芯線間にこれと交差状に配し、芯線をらせん状に巻回する構成について説明しているが、これに限られることはなく、例えば、フィラメントを束ねて後端部を熱溶着や接着剤等で固定したブラシと言った種々の構成に適宜適用が可能である。
【0008】
各フィラメント6に使用している材質としては、ポリアミド(6,6―ナイロン、6―ナイロン、12―ナイロン、6,10―ナイロン、6,12ナイロンなど)ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)などを用いることができるが、各ブラシ毛の材質は同一であっても異なっていても良い。
フィラメント6の基部の断面形状及び中空部断面形状が異形なフィラメント6は、市販品としてはタイネックスブラッシュフィラメント0960シリーズ(材質:ナイロン、断面形状:風車型(シーホース形状)、米国デュポン社製)、タイネックスブラッシュフィラメント:Diamond Hollow Filaments(材質ナイロン、断面形状:四角形型、米国デュポン社製)、タイネックスブラッシュフィラメント:Splittable Filamente(材質TPE、断面形状:三角形型、米国デュポン社製)タイネックスブラッシュフィラメント:Supersoft splittable(材質ポリエステル、断面形状:家紋型、米国デュポン社製)等が上げられる。
尚、断面異形形状とは、フィラメント6の軸方向に垂直な面の形状が円形以外のものであり、上記市販品として例示したように、略四角形状、略三角形状、略風車状、略家紋状や半円状、矩形状のものがあり、特に断面が略四角状・略三角状や略家紋状といった形状のものの方が半円形、矩形状のものより顕著な効果を示すので好ましい。
【0009】
フィラメント6の基部の断面形状が異形なフィラメント6を使用する目的は、表面に角が多い方が、マスカラ液の掻き取り性を良くし、マスカラ液の保持を良くするので、1回の塗布操作でボリュームのある線が描けるために使用するものである。又、先端を分割する作業においても、フィラメント6に力を加えたときに多くの角があった方が分割された部分が外形に対して広がりにくく、均一に分割しやすいので、塗布時に安定した吐出量が得られるからである。又、フィラメント6の基部の断面形状が丸型であると、フィラメント6に力を加えたときに、分割された部分(分割片7)が外径に対して広がり易く均一な分割が得られず、ある部分では、先端の分割部が広がったりして、塗布ブラシ5内で密集しているところや密集していないところが出来て、その結果として、塗布時にマスカラ液が、塗布ブラシ5内で吐出状態にバラツキが発生して、均一な安定したボリュームのある仕上がりにならないからである。特に、基部の断面形状が四角形状、三角形状、風車状、家紋状のもの方が顕著な効果を示すので好ましい。
また、フィラメント6を分割し、分割片7を構成する目的としては、前記断面形状を異形にすると同様に、マスカラ液の保持性、即ち、分割した部分への保持性を良好なものとしている。尚、その分割片7は、2分割以上であるならば良いが、分割する増加に伴って、保持されるマスカラ液の液量も増加する。
【0010】
フィラメント6の中空部8の断面形状が異形なフィラメント6を使用する目的は、断面形状の中空部8の中にマスカラ液が入り込み、そのマスカラ液の保持を良くすると共に、フィラメント6の乾燥性を遅くするので、長い時間使用してもカスレなどの不具合が出にくい。又、先端を分割する作業において、中空部8の断面形状が異形の方が表面積が大きいことや中空部8内に筋が多い方が分割され易く、分割される本数が多くなり、又、基部断面に突起部(風車型)が多い方が分割され易くなるので、フィラメント6の先端の密度が密集するので、マスカラ液を保持し易く、1回の塗布操作で安定した線が描けるために使用するものである。
又、フィラメント6の中空部8の断面形状を丸型にすると、先端を分割する際において、フィラメント6に力を加えたとき中空部が潰れやすくなったり、異形に比べて表面積が小さいことや筋が少ないので分割し難くいため、フィラメント6表面が不均一になり、分割される本数が減ったりするので、結果として、そのフィラメント6の向きが一定せずフィラメント6間における空間にバラツキが発生してしまい、フィラメント群3が広がったり、バラケて塗布時に均一な塗布が得られないからである。尚、フィラメント6の中空部の断面形状が四角形状、三角形状、風車状、家紋状のもの方が顕著な効果を示すので好ましい。又、フィラメント6の中空部8の穴の数は、1〜6個が好ましい。
【0011】
上記フィラメント6の基部の断面形状及び中空部8の断面形状が異形形状のものを使用する時は、インキの種類によって、フィラメント6の基部断面形状及び中空部断面形状をのみならず、クリンプ繊維、研磨剤入り繊維、丸型繊維等を混毛して使用することも出来る。
【0012】
本発明のフィラメント群3を製造するに当たっては、フィラメント6を金属製の芯線間に、これと交差状に配し、芯線をらせん状巻回することによりフィラメント群3を構成する。前記分割片7が形成されたフィラメント6は、そのフィラメント6の基部断面形状及び中空部断面形状が異形形状であり、塗布ブラシ5の少なくとも長手方向に沿って一部又は全部に亘り配置するのが好ましい。又、フィラメント6の先端にテーパー加工を施し、先端を分割して使用しても良い。
【0013】
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。図2(a)において、基部の断面形状及び中空部8の断面形状が異形なフィラメント6を所定の長さに裁断して、無作為に配列し、次いでフィラメント6の長さのほぼ中央部を芯線4a、4bで挟持する。この場合、芯線4a、4bは1本の芯線4を折曲げて形成したものであってよい。
【0014】
図2(b)に示すように、芯線4a、4bを捩り合わせると、フィラメント群3は、芯線4a、4bの形成する螺旋パターンに従って芯線4a、4bに固定され、外形がほぼ円柱状の螺旋ループを描いてマスカラ用塗布ブラシ5が形成される。
図2(c)に示すように、マスカラ用塗布ブラシ5の外形を形成しているフィラメント6の毛先を剪定して所要の形状に外形を整えて形成する。フィラメント群3は、フィラメント6の基部の断面形状及び中空部8の断面形状が異形のものを用いるが、他の条件を表1に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
実施例1〜12、比較例13〜24
表2に実施例1〜12、並びに、比較例13〜24のマスカラ塗布ブラシ5のフィラメント6の基部の断面形状及び中空部8の断面形状と分割する長さを示す。
【0017】
【表2】

【0018】
上記実施例1〜12および比較例13〜24のフィラメント6を用いて図1のようなマスカラ用塗布ブラシ5を形成し、塗布試験を行った。
【0019】
塗布試験(モニター調査)
方法:任意に抽出したモニターに実際にマスカラ用塗布ブラシ5を使用してもらい、使用性についてのモニター調査を実施した。又、フィラメント6の先端の分割のし易さについても評価を実施した。その調査結果を表3に示す。
【0020】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)本発明に係わるマスカラ用塗布ブラシである。 (b)要部拡大図である。
【図2】(a)はブラシ毛を針金に挟持した状態を示す。 (b)は針金を捩ってブラシ素材を形成した状態を示す。 (c)は成形されたブラシ素材を示す。
【図3】本発明に係わるマスカラ用塗布ブラシのフィラメント先端の拡大模式図である。
【図4】本発明に係わるマスカラ塗布ブラシのフィラメントの拡大模式図である。
【図5】本発明に係わるマスカラ塗布ブラシのフィラメントの基部断面形状及び中空部断面形状の拡大模式図である。
【図6】変形例を示す図である。
【図7】変形例を示す図である。
【図8】変形例を示す図である。
【図9】本発明に係るノック式リップライナーの側面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 摘み
2 摘み1と一体の軸
3 フィラメント群
4 芯線
5 塗布ブラシ
6 フィラメント
7 分割片
8 中空部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製のフィラメントを束ねた塗布ブラシにおいて、この塗布ブラシが中空よりなるフィラメントであって、そのフィラメントの基部の断面形状及び中空部の断面形状が異形形状であり、また、そのフィラメントの一部に分割片を形成すると共に、その分割片が形成されたフィラメントを前記塗布ブラシの長手方向に沿って一部、又は、全部に亘り配置されていることを特徴とする塗布ブラシ。
【請求項2】
前記フィラメントは、フィラメントの基部断面形状及び中空部の断面形状が異形形状であるものを2種類以上混毛したことを特徴とする請求項1に記載の塗布ブラシ。
【請求項3】
前記フィラメントの分割片の長さが0.5〜5.0mmとしたことを特徴とする請求項1、或いは、請求項2に記載の塗布ブラシ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−131334(P2009−131334A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308051(P2007−308051)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】