説明

塗布材押出容器

【課題】パイプ部材及び塗布材の移動順に係る誤作動の発生を抑制し、初期操作時において先筒に対する塗布材の移動を確実に行う。
【解決手段】塗布材押出容器100は、筒状を成し先端に吐出口1aを有する先筒1と、先筒1に対し軸線方向に摺動可能に内挿されその内部に塗布材Mが装填されたパイプ部材10と、を備え、本体筒2と操作筒3とが相対回転されると、第1及び第2の螺合部8,9の螺合作用により先筒1に対しパイプ部材10が塗布材Mとともに前進し、第1の螺合部の螺合作用が解除され、第2の螺合部9の螺合作用のみにより先筒1に対しパイプ部材10が塗布材Mともにさらに前進し、さらに相対回転されると、先筒1に対するパイプ部材10の前進が停止し、その後、第2の螺合部9の螺合作用により先筒1及びパイプ部材10に対し塗布材Mが前進する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布材を押し出して使用する塗布材押出容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の塗布材押出容器としては、例えば特許文献1に記載されているように、本体と、本体の先端側に相対回転可能に装着された先筒と、先筒に収容されると共に内部に棒状体(塗布材)が摺動可能に装填されたパイプ部材と、を備えたものが知られている。このような塗布材押出容器では、先筒と本体とが相対回転されると、第1の螺合部の螺合作用によって、先筒に対しパイプ部材が棒状体とともに前進され、第2の螺合部の螺合作用によって先筒及びパイプ部材に対し棒状体が前進され、その結果、棒状体が使用状態とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−305318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般的に、塗布材押出容器では、例えば操作性や使用性の観点から、初期操作時に容器から塗布材を確実に出没又は埋入させることが望まれており、そのため、初期操作時にて先筒に対する塗布材の移動を確実に行うことが求められている。ここで、パイプ部材内を塗布材が移動する場合、温度変化に伴う塗布材の状態等によっては、塗布材が移動し難い場合があることが見出される。従って、初期操作時においては、まず、先筒に対しパイプ部材を塗布材とともに移動させることが好ましい。
【0005】
この点、上記の塗布材押出容器では、第1及び第2の螺合部におけるリードの大小によってこれらの作動順が設定され、これにより、先筒に対するパイプ部材の移動とパイプ部材に対する塗布材の移動との順序(以下、「移動順」という)が制御されている。しかし、例えば、第1及び第2の螺合部の少なくとも一方に寸法誤差や螺子詰まり等による極端な摩擦抵抗の上昇等の異常が発生した場合、第1及び第2の螺合部の作動順に狂いが生じ、その結果、移動順が逆転するという誤作動が発生する虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、パイプ部材及び塗布材の移動順に係る誤作動の発生を抑制し、初期操作時において先筒に対する塗布材の移動を確実に行うことができる塗布材押出容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る塗布材押出容器は、容器内に第1及び第2の螺合部を具備し、塗布材を押し出して使用する塗布材押出容器であって、筒状を成し先端に吐出口を有する先筒と、先筒に対し軸線方向に摺動可能に内挿され、その内部に塗布材が装填されたパイプ部材と、を備え、容器前部と容器後部とが相対回転されると、第1及び第2の螺合部の螺合作用により、先筒に対しパイプ部材が塗布材とともに軸線方向一方側へ移動し、容器前部と容器後部とがさらに相対回転されると、先筒に対するパイプ部材の移動が停止し、第1及び第2の螺合部の少なくとも一方における螺合作用により、先筒及びパイプ部材に対し塗布材が軸線方向一方側へ移動することを特徴とする。
【0008】
この本発明に係る塗布材押出容器では、容器前部と容器後部とを相対回転すると、まず、第1及び第2の螺合部の螺合作用がともに働き、先筒に対しパイプ部材が塗布材とともに軸線方向一方側へ移動する。そして、パイプ部材の移動が停止し、その後、第1及び第2の螺合部の少なくとも一方の螺合作用が働き、先筒及びパイプ部材に対し塗布材が軸線方向一方側へ移動する。このように、本発明では、初期操作時において第1及び第2の螺合部の螺合作用が協働して働くため、例えば第1又は第2の螺合部に異常が生じても、パイプ部材及び塗布材の移動順に係る誤作動が発生するのを抑制することができる。よって、初期操作時においては、先筒に対するパイプ部材の移動を確実に行うことが可能となり、その結果、先筒に対する塗布材の移動を確実に行うことができる。
【0009】
このとき、容器前部と容器後部とが相対回転されると、第1及び第2の螺合部の螺合作用により、先筒に対しパイプ部材が塗布材とともに軸線方向一方側へ移動し、第1の螺合部の螺合作用が解除又は停止され、第2の螺合部の螺合作用のみにより、先筒及びパイプ部材に対し塗布材が軸線方向一方側へ引き続き移動し、容器前部と容器後部とがさらに相対回転されると、先筒に対するパイプ部材の移動が停止し、第2の螺合部の螺合作用のみにより、先筒及びパイプ部材に対し塗布材が軸線方向一方側へ移動することが好ましい。この場合、容器前部と容器後部とを相対回転し続けると、塗布材にあっては、まず、第1及び第2の螺合部の螺合作用でパイプ部材とともに移動した後、第2の螺合部の螺合作用のみでパイプ部材とともにさらに移動し、その後、パイプ部材内にて第2の螺合部の螺合作用のみで移動することとなる。
【0010】
このとき、先筒に対するパイプ部材の移動が停止した後、第1及び第2の螺合部の螺合作用により、先筒及びパイプ部材に対し塗布材が軸線方向一方側へ移動し、容器前部と容器後部とがさらに引き続き相対回転されると、第1の螺合部の螺合作用が解除又は停止され、第2の螺合部の螺合作用のみにより、先筒及びパイプ部材に対し塗布材が軸線方向一方側へ引き続き移動することが好ましい。この場合、容器前部と容器後部とを相対回転し続けると、塗布材にあっては、まず、パイプ部材とともに移動した後、パイプ部材内にて第1及び第2の螺合部の螺合作用で移動し、その後、パイプ部材内にて第2の螺合部の螺合作用のみでさらに移動することとなる。
【0011】
また、パイプ部材に対し軸線方向に摺動可能に内挿され、塗布材を移動させるための押出部を備え、先筒、パイプ部材及び押出部は、先筒とパイプ部材との摺動抵抗が押出部とパイプ部材との摺動抵抗よりも小さくなるように構成されていることが好ましい。この場合、先筒に対しパイプ部材が塗布材とともに移動した後に先筒及びパイプ部材に対し塗布材が移動するという上記移動順を好適に設定することができる。
【0012】
また、本発明の上記作用効果を好適に奏する構成として、具体的には、容器内に配設され、塗布材を移動させるための移動体と、容器前部と同期回転可能に係合する中間体と、容器後部を構成し、移動体と同期回転可能に係合する操作体と、を備え、第1の螺合部は、中間体と操作体との間に設けられ、第2の螺合部は、移動体と中間体との間に設けられている構成が挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、パイプ部材及び塗布材の移動順に係る誤作動の発生を抑制し、初期操作時において先筒に対する塗布材の移動を確実に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る塗布材押出容器を示す縦断面図である。
【図2】図1の塗布材押出容器におけるピストン後退時の状態を示す縦断面図である。
【図3】図1の塗布材押出容器におけるピストン前進限の状態を示す縦断面図である。
【図4】図1の塗布材押出容器の操作筒を示す分解斜視図である。
【図5】図1の塗布材押出容器の回転止筒における軟質部を示す斜視図である。
【図6】図1の塗布材押出容器の回転止筒における硬質部を示す斜視図である。
【図7】図1の塗布材押出容器の移動螺子筒を示す斜視図である。
【図8】図1の塗布材押出容器の先筒を示す縦断面図である。
【図9】図1の塗布材押出容器のパイプ部材を示す縦断面図である。
【図10】図1の塗布材押出容器のパイプ部材を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1は本発明の一実施形態に係る塗布材押出容器を示す縦断面図、図2は図1の塗布材押出容器におけるピストン後退時の状態を示す縦断面図、図3は図1の塗布材押出容器におけるピストン前進限の状態を示す縦断面図である。図1に示すように、本実施形態の塗布材押出容器100は、塗布材Mを収容すると共に適宜使用者の操作により押し出し及び引き戻し可能とするものである。
【0017】
この塗布材Mとしては、例えば、リップスティック、リップグロス、アイライナー、アイカラー、アイブロー、リップライナー、チークカラー、コンシーラー、美容スティック、ヘアーカラー等を始めとした種々の棒状化粧料、筆記用具等の棒状の芯等を用いることが可能であり、特に、非常に軟らかい(半固体状、軟固形状、軟質状、ゼリー状、ムース状、及びこれらを含む練り状等の)棒状物を用いるのが好適である。また、外径が1mm以下の細径棒状物や10mm以上の太めの棒状物が使用可能である。
【0018】
塗布材押出容器100は、塗布材Mが充填される充填領域1xを内部に備え吐出口1aを先端に有する先筒1と、その前半部に先筒1の後半部を内挿して該先筒1を軸線方向及び軸線回り回転方向(以下、単に「回転方向」ともいう)に係合し一体となるように連結する本体筒2と、この本体筒2の後端部に相対回転可能にして軸線方向に連結された操作筒3と、を外形構成として具備し、先筒1及び本体筒2により容器前部が構成されると共に、操作筒3により容器後部が構成されている。なお、「軸線」とは、塗布材押出容器100の前後に延びる中心線を意味する(以下、同じ)。
【0019】
この塗布材押出容器100は、その内部に、回転止筒4、移動螺子筒5、移動体6及びピストン7を概略備えている。回転止筒4は、本体筒2に対し相対回転可能にして軸線方向に係合する。移動螺子筒5は、本体筒2に同期回転可能且つ軸線方向移動可能に係合すると共に、回転止筒4に第1の螺合部8を介して螺合する。移動体6は、操作筒3に同期回転可能且つ軸線方向移動可能に係合すると共に、移動螺子筒5に第2の螺合部9を介して螺合する。ピストン7は、移動体6の前端(先端)部に装着されて充填領域1xの後端を形成する。また、本実施形態の塗布材押出容器100は、先筒1に対し軸線方向に摺動可能に内挿されて収容されたパイプ部材10を備えている。
【0020】
この塗布材押出容器100では、本体筒2(先筒1でも可)と操作筒3とが、一の回転方向である一方向に相対回転されると、移動螺子筒5が前進(軸線方向の一方側へ移動)し、移動体6が移動螺子筒5に伴われて前進すると同時に移動螺子筒5に対し単独でも前進する。これにより、先筒1に対しピストン7及びパイプ部材10がともに前進する。そして、図2に示すように、移動螺子筒5が前進限に達した後に本体筒2と操作筒3とがさらに同方向に相対回転されると、移動体6が移動螺子筒5に対し単独で前進し、先筒1に対しピストン7及びパイプ部材10がともに引き続き前進し、その後、パイプ部材10の前進が停止し、先筒1及びパイプ部材10に対しピストン7が前進する。
【0021】
他方、本体筒2と操作筒3とが、一方向と反対の回転方向である他方向に相対回転されると、図3に示すように、移動螺子筒5が後退(軸線方向の他方側へ移動)し、移動体6が移動螺子筒5に伴われて後退すると同時に移動螺子筒5に対し単独でも後退する。これにより、先筒1に対しピストン7及びパイプ部材10がともに後退する。そして、図3に示すように、移動螺子筒5が後退限に達した後に本体筒2と操作筒3とがさらに同方向に相対回転されると、移動体6が移動螺子筒5に対し単独で後退し、先筒1に対しピストン7及びパイプ部材10がともに引き続き後退し、その後、パイプ部材10の後退が停止し、先筒1及びパイプ部材10に対しピストン7が後退する。
【0022】
図1に戻り、本体筒2は、例えばABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンの共重合合成樹脂)で成形され、円筒状に構成されている。本体筒2は、その軸線方向中央部の内周面に、先筒1及び移動螺子筒5を回転方向に係合するものとして、周方向に多数の凹凸部が並設されて当該凹凸部が軸線方向に所定長延びてなるローレット2aを有している。また、本体筒2の前端部の内周面には、先筒1を軸線方向に係合するための環状凹凸部(凹凸部が軸線方向に並ぶもの)2bが設けられている。
【0023】
この本体筒2の後部側の内周面でローレット2aの後側には、回転止筒4を軸線方向に係合するものとして、内周面に沿って周方向に延在する円弧状凸部2cが互いに対向するように一対形成されている。さらにまた、本体筒2の内周面で円弧状凸部2cの後側には、操作筒3を軸線方向に係合するものとして、内周面に沿って周方向に延在する円弧状凸部2dが、互いに対向するように一対形成されている。これら円弧状凸部2c,2dは、軸線方向視において、互いに重ならないように周方向に間欠的(ズレて)に設けられている。
【0024】
図4は、図1の塗布材押出容器の操作筒を示す分解斜視図である。図4に示すように、操作筒3は、本体部31と、本体部31の後端部に外挿された有底円筒状の尾栓部38と、尾栓部38内に設けられた円柱状の錘部39と、を含んで構成されている。本体部31は、例えばABS樹脂で成形され、有底円筒状に構成された筒部31xと、前端側に向かうように筒部31xの底部中央に立設された軸体31yと、を有している。
【0025】
筒部31xの外周面の前部には、本体筒2に軸線方向に係合し且つ回転止筒4の後端に突き当たる環状凸部32が設けられている。また、筒部31xの外周面の中央には、本体筒2の後端面に当接するためのものとして、円環状の鍔部33が設けられている。さらにまた、筒部31xの後端部には、尾栓部38を軸線方向に係合するための凸部34と、尾栓部38を回転方向に係合するための溝部35が設けられている。
【0026】
この筒部31xは、ラチェット歯を構成する複数の凸部36を有している。凸部36は、回転止筒4の凸部44(後述)と係合するものとして、筒部31xの外周面の前側において径方向外側に向かって突設されている。ここでの凸部36は、周方向に鋸歯形状となるように、外周面において周方向八等配の位置に設けられている。
【0027】
これら凸部36における周方向の一方側(本体筒2と操作筒3とを他方向に相対回転したときに回転止筒4の凸部44と当接する側)の側面36aは、山型になるように外周面に対し傾斜している。一方、凸部36における周方向の他方側(本体筒2と操作筒3とを一方向に相対回転したときに回転止筒4の凸部44と当接する側)の側面36bは、外周面に対し側面36aと同じ方向に傾斜し、周方向内側に入り込むように構成されている。
【0028】
軸体31yは、非円形の外形を有する構成とされている。具体的には、軸体31yは、円柱体の外周面に、周方向六等配の位置に径方向外側に突出するよう配置されて軸線方向に延びる突条37を備える横断面非円形形状とされている。
【0029】
尾栓部38は、例えばABS樹脂で成形され、本体部31の後部を覆うように該本体部31に同期回転可能且つ軸線方向移動不能に装着されている。錘部39は、金属で形成され、尾栓部38に覆われるよう本体部31と尾栓部38との間に配置されている。この錘部39によって、塗布材押出容器100全体に対し、重量感を与えることができ、高級感を高めることが可能となる。
【0030】
図1,4に示すように、本体部31、尾栓部38及び錘部39からなる操作筒3は、その本体部31の前側が本体筒2に内挿され、その鍔部33が本体筒2の後端面に突き当てられると共に、本体部31の環状凸部32が本体筒2の円弧状凸部2dに軸線方向に係合することで、本体筒2に相対回転可能にして軸線方向に連結され装着されている。
【0031】
図5は図1の塗布材押出容器の回転止筒における軟質部を示す斜視図、図6は図1の塗布材押出容器の回転止筒における硬質部を示す斜視図である。回転止筒4は、軟質部104と、軟質部104の前側に外挿されて固定される硬質部105と、を含んで構成されている(図1参照)。
【0032】
図5に示すように、軟質部104は、その前側に位置する円筒状の小径部104xと、該小径部104xの後側に段差面104pを介して連続する円筒状の大径部104yと、を有している。小径部104xの内周面において前側には、リード12mmでピッチ2mmの第1の螺合部8を構成する雌螺子としての突条41が複数設けられている。これら突条41は、内周面に沿って螺旋状を成して延びると共に、隣接する突条41の端部同士は、軸線方向に互いにズレて離間している。また、突条41は、軸線方向視において互いに重ならないように間欠的に6つ設けられている。
【0033】
大径部104yは、ラチェット歯を構成する複数の凸部44を有している。凸部44は、操作筒3の凸部36と周方向に係合するものとして、大径部104yの内周面の後側にて径方向内側に向かって突設されている。ここでの凸部44は、周方向に鋸歯形状となるように、内周面において周方向四等配の位置に設けられている。
【0034】
これら凸部44における周方向の他方側(本体筒2と操作筒3とを他方向に相対回転したときに操作筒3の凸部36と当接する側)の側面44aは、山型になるように外周面に対し傾斜している。一方、凸部44における周方向の一方側(本体筒2と操作筒3とを一方向に相対回転したときに操作筒3の凸部36と当接する側)の側面44bは、外周面に対し側面44aと同じ方向に傾斜し、周方向内側に入り込むように構成されている。
【0035】
この軟質部104は、移動螺子筒5及び操作筒3よりも軟らかいものとされている。具体的には、軟質部104は、移動螺子筒5の材質であるPOM(ポリアセタール)よりも軟らかく、且つ、操作筒3の材質であるABS樹脂よりも軟らかい材質で成形されており、ここでは、熱可塑性エラストマでインジェンクション成形されている。なお、熱可塑性エラストマとしては、ポリエステル系、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、等の何れのものを用いることができる。
【0036】
図6に示すように、硬質部105は、筒状を呈しており、その内径が軟質部104の小径部104xの外径と等しくされている。硬質部105の外周面の後端部には、本体筒2に軸線方向に係合するための環状凸部106が設けられている。また、硬質部105の内周面の前端部には、軟質部104に対する挿入方向を規制する(つまり、前後方向が逆にならないようにする)ためのものとして、環状凸部107が設けられている。
【0037】
この硬質部105は、軟質部104よりも硬いものとされている。具体的には、硬質部105は、POM、ABS樹脂又はHDPE(高密度ポリエチレン)でインジェンクション成形されており、軟質部104よりも硬度が大きいものとなっている。そして、硬質部105は、図1に示すように、その環状凸部107が前側に位置する状態にして、その後端面105a(図8参照)が段差面104pに当接するまで軟質部104の小径部104xに外挿され、嵌合されて装着(固定)されている。
【0038】
図1,5,6に示すように、軟質部104及び硬質部105からなる回転止筒4は、その前側から本体筒2に内挿され、その環状凸部106が本体筒2の円弧状凸部2cに軸線方向に係合している。また、回転止筒4は、その後側が操作筒3の本体部31に外挿され、その後端面が環状凸部32(図4参照)に突き当てられている。これにより、回転止筒4は、軸線方向に挟持され、本体筒2に対して相対回転可能にして軸線方向に係合され装着される。
【0039】
これと共に、回転止筒4は、軟質部104の凸部44が操作筒3の凸部36に当接し、回転方向(周方向)に係合している。これにより、凸部44と凸部36との間には、例えば軟質部104の柔軟性に起因した弾性力(可撓性)等によって、所定係合力が生じることとなる。その結果、操作筒3と回転止筒4とは、一方向に相対回転される場合に同期回転可能となり、また、他方向に相対回転される場合、小回転力が加わると同期回転可能となると共に大回転力が加わると相対回転可能となる(詳しくは後述)。
【0040】
図7は、図1の塗布材押出容器の移動螺子筒を示す斜視図である。図7に示すように、移動螺子筒5は、例えばPOMで成形され、筒状を呈している。移動螺子筒5の前端部5xは、前端から軸線方向に所定長延在し対向するよう一対形成されたスリット51によって、径方向外側に拡開可能に構成されている。前端部5xの外周面の前側においてスリット51に近接する位置には、前端部5xの外径を調整するためのものとして、複数(ここでは4つ)の凸部52が設けられている。
【0041】
また、前端部5xの内周面において前端から所定長後方に亘る領域には、第2の螺合部9を構成する雌螺子53が設けられている。なお、ここでの第2の螺合部9のピッチは、第1の螺合部8のピッチより細かいものとされており、第1の螺合部8のリード(本体筒2と操作筒3との相対回転一回転当たりの推進量)が第2の螺合部9のリードよりも大きく設定されている。
【0042】
また、移動螺子筒5の中央部の外周面における後側には、円環状の鍔部54が設けられている。鍔部54の外周面には、本体筒2のローレット2a(図1参照)に係合するものとして、軸線方向に沿って延びる突条55が複数設けられている。また、移動螺子筒5の後端部の外周面には、第1の螺合部8を構成する雄螺子としての突条56が設けられている。これら突条56は、外周面おいて軸線を挟んで対向する一対の対向部分に設けられている。つまり、かかる対向部分にのみ螺旋状を成して延在するように、間欠的に設けられている。
【0043】
図1,7に示すように、この移動螺子筒5は、本体筒2に内挿され、その突条55が本体筒2のローレット2aに係合することで、本体筒2に対し回転方向に係合し且つ軸線方向移動可能に装着されている。また、移動螺子筒5は、操作筒3の軸体31yに外挿されると共に、その後端部の突条56が回転止筒4の軟質部104の突条41と螺合するように構成されている。ここでは、軟質部104が軟らかいことから、第1の螺合部8の螺合作用を充分に発揮させるべく、複数の突条56が複数の突条56に同時に係合するようになっている。
【0044】
図1に示すように、移動体6は、例えばPOMで成形され、先端側に鍔部6aを有する円筒状に構成されている。移動体6は、その鍔部6aより後側から後端部に亘る外周面に、第2の螺合部9の雄螺子6bを備えている。この移動体6の内周面において周方向六等配の位置には、操作筒3に回転方向に係合するものとして、放射状に突出し軸線方向に延びる突条6cが設けられている。この移動体6は、その後端側から、操作筒3の軸体31yと移動螺子筒5との間に外挿されている。このとき、移動体6は、その雄螺子6bが移動螺子筒5の雌螺子53と螺合すると共に、その突条6cが軸体31yの突条37,37間に進入し回転方向に係合することで、操作筒3に対し同期回転可能且つ軸線方向移動可能に装着されている。
【0045】
ピストン7は、例えばPP(ポリプロピレン)、HDPE、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)等で成形されている。ピストン7は、前端に向けて先細りとされた釣り鐘形状を呈しており、後端面に凹設された凹部7aの内周面には、移動体6に対し軸線方向に所定長だけ移動可能にして係合する環状突部7bが設けられている。このピストン7は、移動体6に外挿され、その環状突部7bが移動体6に軸線方向に係合することで、移動体6に対し同期回転可能且つ軸線方向移動可能(所定の範囲内を移動可能)に装着されている。
【0046】
図8は図1の塗布材押出容器の先筒を示す縦断面図、図9,10は図1の塗布材押出容器のパイプ部材を示す縦断面図、側面図である。図1に示すように、先筒1は、円筒形状を成し、その前端の開口が塗布材Mを出現させるための吐出口1aとされている。この先筒1は、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂やABS樹脂等で成形されている。吐出口1aは、軸線方向に対し所定角度で傾斜する傾斜角度面により形成されている。なお、吐出口1aは、軸線方向の垂直面で形成するフラット形状とする場合や山形形状とする場合もある。
【0047】
また、図8に示すように、先筒1の外周面には、本体筒2の環状凹凸部2bに軸線方向に係合するための環状凸凹部1bが設けられている。また、先筒1の外周面において環状凸凹部1bより後側の周方向四等配位置には、軸線方向に延びる突条1gが、本体筒2のローレット2aに回転方向に係合するものとして設けられている。
【0048】
ここで、先筒1の軸線方向に貫通する筒孔11においては、先端の吐出口1aから所定長後側の領域に、塗布材Mのみを進退させるための塗布材孔11aが形成されている。また、筒孔11では、塗布材孔11aから後側の領域に、パイプ部材10を塗布材Mとともに進退させるためのパイプ部材孔11bが形成されている。
【0049】
パイプ部材孔11bは、塗布材孔11aよりも大径とされ、パイプ部材10を軸線方向に摺動可能に内挿し収容する。このパイプ部材孔11bの後端部には、パイプ部材10に対し回転方向に係合するものとして、軸線方向に延びる一対の溝部12x,12yが互いに対向するように設けられている。溝部12x,12yは、周方向の溝幅が互いに異なっており、ここでは、溝部12xの溝幅が溝部12yの溝幅よりも大きくされている。
【0050】
これら塗布材孔11a及びパイプ部材孔11bの間には、パイプ部材10の前進を停止させるものとして、パイプ部材10の先端面に軸線方向に係合する段差面11cが形成されている。段差面11cは、パイプ部材10の先端に対応する面形状を成し、ここでは、吐出口1aに対応する角度(上記所定角度)で傾斜する傾斜角度面により形成されている。
【0051】
また、パイプ部材孔11bにおける軸線方向中央部には、パイプ部材10の肉厚を確保しつつ成形性を安定させるための段差面11dが形成されている。段差面11dは、周方向に延在し、且つ軸線方向に対し後側が拡径するよう傾斜する環状傾斜面とされている。これにより、パイプ部材孔11bでは、段差面11dよりも後側の孔径が該段差面11dよりも前側の孔径に対し若干大きくなっている。
【0052】
図1に示すように、パイプ部材10は、円筒形状を成し、その前端の開口は、吐出口1aと同様に、上記所定角度で傾斜する傾斜角度面により形成されている。パイプ部材10は、その内部に充填領域1xを備えている。具体的には、パイプ部材10は、塗布材Mが充填されて装填され、その内部に塗布材Mが軸線方向に摺動可能に密着している。このパイプ部材10の内径は、先筒1の塗布材孔11aの内径と等しくされている。これにより、パイプ部材10が先筒1のパイプ部材孔11b内に収容にされたとき、パイプ部材10の内周面と先筒1の塗布材孔11aの内周面とが面一とされている。
【0053】
一方、パイプ部材10の外径は、先筒1のパイプ部材孔11bの内径に対し僅かに(例えば15/100mm)小さくされている。これにより、パイプ部材10が先筒1のパイプ部材孔11b内に収容にされたとき、径方向においてパイプ部材10と先筒1との間に所定クリアランスが形成され、その結果、パイプ部材10が先筒1に対し軸線方向に摺動可能とされると共に、その摺動抵抗が所定クリアランスに応じた所望の摺動抵抗とされる。ここでは、パイプ部材10が、第1の摺動抵抗でもって先筒1に対し軸線方向に摺動可能とされている。
【0054】
図9,10に示すように、このパイプ部材10の外周面において軸線方向中央部の前側には、パイプ部材孔11bの段差面11d(図8参照)に対応するものとして、段差面10aが形成されている。この段差面10aは、段差面11dと同様な環状傾斜面とされている。すなわち、段差面10aは、周方向に延在し、且つ軸線方向に対し後側が拡径するよう傾斜する環状傾斜面とされている。これにより、パイプ部材10では、段差面10aよりも後側の外径が該段差面10aよりも前側の外径に対し若干大きくなっている。
【0055】
また、パイプ部材10の外周面において軸線方向中央部の後側には、パイプ部材孔11bの溝部12x,12yに対し回転方向に係合するものとして、軸線方向に短尺に延びる一対の突条10x,10yが互いに対向するように設けられている。突条10x,10yは、周方向の幅が互いに異なっており、ここでは、突条10xの幅が突条10yの溝幅よりも大きくされている。
【0056】
図1,8〜10に示すように、先筒1では、そのパイプ部材孔11bにパイプ部材10が内挿されて収容され、パイプ部材10が先筒1に対し軸線方向に摺動可能とされている。このとき、溝部12xに突条10xが回転方向に係合されると共に、溝部12yに突条10yが回転方向に係合され、これにより、先筒1に対するパイプ部材10の相対回転が規制されている。
【0057】
このように構成された先筒1は、その後側から本体筒2と移動螺子筒5との間に挿入され、その環状凸凹部1bに本体筒2の環状凹凸部2bが軸線方向に係合すると共に、その突条1gに本体筒2のローレット2aが回転方向に係合することで、本体筒2に軸線方向及び回転方向に係合されて装着され、当該本体筒2と一体化されている。
【0058】
また、先筒1のパイプ部材10内の後端部には、ピストン7が気密に密着するようにして内挿されている。つまり、ピストン7にあっては、パイプ部材10に内挿されて該パイプ部材10内における塗布材Mの後側に位置する共に、パイプ部材10に対し気密になるよう密接し、上記第1の摺動抵抗よりも大きい第2の摺動抵抗でもってパイプ部材10に対し軸線方向に摺動可能とされている。
【0059】
さらに、図1に示すように、塗布材押出容器100では、軸線方向における先筒1の後端面と移動螺子筒5の鍔部54(図7参照)との間であって径方向における本体筒2とパイプ部材10との間の位置に、コイルバネ14が同軸で介在するように装着されている。コイルバネ14は、所定弾性力を有する弾性部材であり、移動螺子筒5を軸線方向後方に付勢する。これにより、移動螺子筒5が一定量前進して第1の螺合部8の螺合作用が解除されたとき、移動螺子筒5は、第1の螺合部8が螺合復帰するように付勢される。
【0060】
ちなみに、ここでいう螺合復帰は、第1の螺合部8の雄螺子としての突条56が、雌螺子としての突条41の螺子山の側面に当接するまで戻る段階を意味している(以下、同じ)。コイルバネ14としては、例えば、POMやPP(ポリプロピレン)等の樹脂を利用し一部を切り欠いた円筒形状を射出成形で製造した樹脂バネや、ステンレス製線材をコイル状にしたスプリングを採用することができる。
【0061】
次に、塗布材押出容器100の動作の一例について説明する。
【0062】
例えば初期状態の塗布材押出容器100にあっては、先筒1の塗布材孔11aとパイプ部材10の内周面とピストン7とに塗布材Mが密着して装填された状態にある。そして、パイプ部材10の先端面が先筒1の段差面11cよりも後側に離れて位置し、パイプ部材10が先筒1に対し前進可能な状態とされている。
【0063】
この初期状態の塗布材押出容器100において、使用者によりキャップC(図1参照)が取り外されて本体筒2と操作筒3とが繰り出し方向である一方向に相対回転されると、回転止筒4の凸部44が操作筒3の凸部36に当接して回転方向に係止(強固に係合)され、操作筒3と回転止筒4とが同期回転する。これにより、移動螺子筒5と操作筒3及び回転止筒4とが相対回転し、移動螺子筒5の突条56及び回転止筒4の突条41により構成された第1の螺合部8の螺合作用が働き、移動螺子筒5の突条55と先筒1の突条1gとで構成された回止め部との協働により、移動螺子筒5が前進し、これに伴って移動体6が前進する。
【0064】
これと同時に、先筒1及び移動螺子筒5と移動体6とが相対回転し、移動螺子筒5の雌螺子53及び移動体6の雄螺子6bにより構成された第2の螺合部9の螺合作用が働き、操作筒3における軸体31yの突条37と移動体6の突条6cとで構成された回止め部との協働により、移動体6が前進する。すなわち、移動体6が移動螺子筒5に伴われて前進すると同時に移動螺子筒5に対し単独でも前進する。
【0065】
その結果、移動体6がピストン7に対し所定量前進し、移動体6がピストン7の後端面に当接してピストン7を前方に押圧し、先筒1に対しピストン7が前進すると共に、ピストン7とパイプ部材10との間の摺動抵抗によってパイプ部材10がピストン7と一体的に前進する。よって、パイプ部材10の前進に伴われて塗布材Mも先筒1に対して繰り出され(つまり、先筒1に対しパイプ部材10が塗布材Mとともに前進され)、塗布材Mが吐出口1aから出現する。
【0066】
このとき、前述のように、先筒1の溝部12x,12yに突条10x,10yが回転方向に係合されていることから、先筒1に対するパイプ部材10の前進を案内(ガイド)でき、パイプ部材10を周方向に回転させずにそのまま真っ直ぐ前進させることができる。よって、パイプ部材10が移動する際、パイプ部材10の先端側の開口における傾斜角度面が、吐出口1aの傾斜角度面と常に略平行な状態にされる。
【0067】
続いて、一方向の相対回転が続けられると、移動螺子筒5の突条56が回転止筒4の突条41の前端から外れ、第1の螺合部8の螺合作用が解除され、移動螺子筒5が前進限に達する。よって、一方向の相対回転がさらに続けられると、螺合復帰するよう第1の螺合部8がコイルバネ14で付勢されながら第2の螺合部9の螺合作用のみが作用し、先筒1に対しパイプ部材10がピストン7の前進に伴って塗布材Mとともにゆっくり前進する。そしてその後、先筒1の段差面11cにパイプ部材10の先端面が軸線方向に係合し、先筒1に対するパイプ部材10の前進が停止する(パイプ部材10が前進限に達する、図1参照)。
【0068】
続いて、一方向の相対回転が引き続き続けられると、螺合復帰するよう第1の螺合部8がコイルバネ14で付勢されながら第2の螺合部9の螺合作用のみが引き続き作用し、停止したパイプ部材10内においてピストン7により塗布材Mが押し出されて前進(つまり、先筒1及びパイプ部材10に対し塗布材Mが前進)する。その後、移動体6及びピストン7が前進限に達する(図2参照)。
【0069】
なお、移動螺子筒5の前進限の状態では、コイルバネ14の縮小の弾性力により移動螺子筒5が後方側へ付勢されることから、繰戻し方向である他方向へ本体筒2と操作筒3とが相対回転された場合、移動螺子筒5の突条56が回転止筒4の突条41における回転方向隣の先端に直ちに進入し、第1の螺合部8が直ちに螺合復帰する。
【0070】
また、第2の螺合部9の螺合作用のみが働きピストン7がさらに前進するときには、螺合解除された第1の螺合部8がコイルバネ14の付勢力で螺合復帰する方向に付勢されていることから、突条41,56同士の係合及び係合解除が繰り返され(つまり、突条41,56が互いに当接したり離れたりするのが繰り返され)、かかる係合及び係合解除の度に使用者にクリック感が付与され、塗布材Mの押出しが使用者に感知される。このとき、上述したように、突条41が突条56よりも軟らかくされている(柔軟性を有している)ため、生じるクリック感のクリック音(音量)が小さくされると共に、該クリック音が低音域で重厚なものとされている。
【0071】
ちなみに、移動体6及びピストン7の前進限の状態では、移動体6の突条6cが操作筒3の突条37から外れているものの第2の螺合部9が螺合されたままであることから、第2の螺合部9及び移動螺子筒5を介して移動体6がコイルバネ14で後方に引っ張られる。そのため、かかる前進限の状態にて本体筒2と操作筒3とが他方向へ相対回転された場合、突条6c,37同士が直ちに係合して回止め部が働き、移動体6及びピストン7が直ちに後退する。
【0072】
他方、例えば、使用後の塗布材押出容器100にあっては、パイプ部材10の後端面が移動螺子筒5の鍔部54よりも前側に離れて位置すると共に、この鍔部54の後端面が回転止筒4よりも前側に離れて位置し、パイプ部材10が先筒1に対し後退可能な状態とされている。
【0073】
この使用後の状態の塗布材押出容器100において、本体筒2と操作筒3とが他方向へ相対回転されると、操作筒3及び回転止筒4に小回転力が加わり、回転止筒4の凸部44の側面44a(図5参照)が操作筒3の凸部36の側面36a(図4参照)に当接して所定係合力で周方向に係合され、操作筒3と回転止筒4とが同期回転することから、移動螺子筒5と操作筒3及び回転止筒4とが相対回転し、第1の螺合部8の螺合作用が働いて移動螺子筒5が後退し、これに伴って移動体6が後退する。これと同時に、先筒1及び移動螺子筒5と移動体6とが相対回転し、第2の螺合部9の螺合作用が働いて移動体6が後退する。すなわち、移動体6は、移動螺子筒5に伴われて後退すると同時に移動螺子筒5に対し単独でも後退する。
【0074】
その結果、移動体6がピストン7に対し所定量後退し、移動体6の先端部がピストン7環状突部7bに係合してピストン7を後方に引っ張り、先筒1に対しピストン7が後退すると共に、ピストン7とパイプ部材10との間の摺動抵抗によってパイプ部材10がピストン7と一体的に後退する。よって、パイプ部材10の後退に伴われて塗布材Mも先筒1に対して繰り戻され(つまり、先筒1に対しパイプ部材10が塗布材Mとともに後退され)、塗布材Mが吐出口1aから没入する。このとき、前述のように、先筒1の溝部12x,12yに突条10x,10yが回転方向に係合されていることから、パイプ部材10を周方向に回転させずにそのまま真っ直ぐ後退させることができる。
【0075】
続いて、他方向の相対回転が続けられると、移動螺子筒5の鍔部54が回転止筒4の前端面に当接し、第1の螺合部8の螺合作用が停止され、移動螺子筒5が後退限に達する。そして、第1の螺合部8における螺合作用の停止前よりも大きい操作回転力で本体筒2と操作筒3とが他方向へ相対回転され、操作筒3及び回転止筒4に大回転力が加わると、凸部44が凸部36の側面36aを駆け上がるように摺動して凸部36を乗り越え、操作筒3と回転止筒4とが相対回転(いわゆる「空回転」)される。その結果、第2の螺合部9の螺合作用のみが作用し、先筒1に対しパイプ部材10がピストン7の後退に伴って塗布材Mとともにゆっくり後退し、その後、移動螺子筒5の鍔部55にパイプ部材10の後端面が軸線方向に当接する。これにより、先筒1に対するパイプ部材10の後退が停止する(パイプ部材10が後退限に達する、図3参照)。
【0076】
続いて、他方向の相対回転が引き続き続けられると、第2の螺合部9の螺合作用のみが引き続き作用し、停止したパイプ部材10に対してピストン7が後退し、先筒1内の減圧作用(密閉状態を保つ作用)によりピストン7の後退に従って塗布材Mが先筒1内で引き戻されて後退(つまり、先筒1及びパイプ部材10に対し塗布材Mが後退)する。その後、移動体6の後端が操作筒3の本体部31の底面に達し、移動体6及びピストン7が後退限に達する。
【0077】
ちなみに、第2の螺合部9の螺合作用のみで移動体6がさらに後退する際に回転止筒4の凸部44が操作筒3の凸部36を乗り越えるとき、クリック感が生じる。すなわち、移動体6がさらに後退するに際して、凸部44,36同士の係合及び係合解除(噛合及び噛合解除)が繰り返され、かかる係合及び係合解除の度に使用者にクリック感が付与される。これにより、相対回転1回転当り8回のクリック感が生じ、ピストン7及び移動体6の後退が感知される。このとき、上述したように、凸部44が凸部44よりも軟らかくされている(柔軟性を有している)ため、生じるクリック感のクリック音が小さくされると共に、該クリック音が低音域で重厚なものとされている。
【0078】
また、移動体6及びピストン7の後退限の状態では、その後に他方向に相対回転されて過大な回転力が第2の螺合部9に加わっても、スリット51(図7参照)によって前端部5xが拡開されて第2の螺合部9の螺合作用が解除される。
【0079】
以上、本実施形態の塗布材押出容器100では、繰出し始め又は繰戻し始め(初期操作時)からパイプ部材10の移動が停止するまでの初期段階で、第1及び第2の螺合部8,9の螺合作用が協働して作用するため、例えば第1又は第2の螺合部8,9に異常が生じても、パイプ部材10及び塗布材Mの移動順に係る誤作動が発生するのを抑制することができる。よって、初期操作時においては、塗布材Mと接触面積が大きいパイプ部材10を先筒1に対して確実に移動させることができ、その結果、塗布材Mは、パイプ部材10に連れられて一定量確実に移動されることとなる。
【0080】
ところで、一般的な塗布材押出容器では、例えば急激な温度変化による低温状態等によって塗布材Mが収縮し、パイプ部材10と塗布材Mとの間に空気が混入した場合、次の虞がある。すなわち、ピストン7を前進させても、空気が有する圧縮性に起因し塗布材Mの出没遅れ(タイムラグ)等が発生し、塗布材Mを精度よく押し出すことができないという虞や、ピストン7を後退させても、吸引作用によって塗布材Mが引き戻す(後退する)ことが困難になるという虞がある。この点、本実施形態では、上述したように、初期操作時にパイプ部材10自体が確実に移動することから、かかる虞の懸念が少なく、塗布材Mを確実に移動させるができる。
【0081】
従って、本実施形態によれば、パイプ部材10及び塗布材Mの移動順に係る誤作動の発生を抑制し、初期操作時において先筒1に対する塗布材Mの移動を確実に行うことが可能となる。その結果、初期操作時に吐出口1aから塗布材Mを確実に出没又は埋入させることができ、ひいては、塗布材押出容器100の操作性及び使用性を高めることが可能となる。
【0082】
また、本実施形態では、上述したように、径方向においてパイプ部材10と先筒1との間に所定クリアランスが形成され、パイプ部材10が第1の摺動抵抗で先筒1に摺動可能とされている。一方、ピストン7がパイプ部材10に対し気密になるよう密接し、第1の摺動抵抗よりも大きい第2の摺動抵抗でピストン7がパイプ部材10に対し摺動可能とされている。このように先筒1、パイプ部材10及びピストン7間の摺動抵抗を適宜調整することで、パイプ部材10及び塗布材Mの上記移動順、すなわち、先筒1に対しパイプ部材10が塗布材Mとともに移動した後に先筒1及びパイプ部材10に対し塗布材Mが移動することを、好適に実現することができる。
【0083】
また、本実施形態では、上述したように、先筒1の溝部12x,12yのそれぞれにパイプ部材10の突条10x,10yのそれぞれが回転方向に係合されていることから、先筒1に対するパイプ部材10の移動の際、先筒に対しパイプ部材が回転するのを防止することができる。
【0084】
また、本実施形態では、上述したように、溝部12xの周方向の幅と溝部12yの周方向の幅が互いに異なっており、これに対応して、突条10xの周方向の幅と突条10yの周方向の幅とが互いに異なっていることから、先筒1にパイプ部材10を組み付ける際、パイプ部材10の回転方向位置を規制する(つまり、上下が逆にならないようにする)ことができ、誤組立を防止することが可能となる。その結果、パイプ部材10の先端側の開口における傾斜角度面と、吐出口1aの傾斜角度面と、を確実に略平行な状態にすることができる。
【0085】
また、本実施形態では、上述したように、本体筒2と操作筒3とを一方向に相対回転することで、先筒1に対しパイプ部材10を、第1及び第2の螺合部8,9の螺合作用ですばやく前進させた後、第2の螺合部9の螺合作用のみでゆっくり前進させることができる。また、他方向に相対回転することで、先筒1に対しパイプ部材10を、第1及び第2の螺合部8,9の螺合作用ですばやく後退させた後、第2の螺合部9の螺合作用のみでゆっくり後退させることができる。
【0086】
なお、塗布材押出容器100における通常の使用では、パイプ部材10の後退限以上に塗布材Mを繰り戻すこと必要性が低く、よって、パイプ部材10の後退によって塗布材Mが後退される用いられ方が多い。そのため、塗布材押出容器100では、温度条件等に起因して塗布材Mが収縮しパイプ部材10に対する密着性ひいては上記減圧作用が低下したとしても、塗布材Mが確実に後退されることとなる。
【0087】
ちなみに、本実施形態では、次の作用効果も奏される。すなわち、上述したように、第2の螺合部9のみで移動体6が前進又は後退するとき、使用者にクリック感が付与される。これと共に、突条41が突条56よりも軟らかくされているため、かかるクリック感のクリック音を小さくしつつ(緩和しつつ)該クリック音を重厚なものとすることができる。よって、クリック音を高級感溢れる付加価値の高いものにすることができ、高級感を有するクリック感を生じさせることが可能となる。
【0088】
以上、上記において、ピストン7が押出部を構成し、移動螺子筒5が中間体を構成し、操作筒3及び回転止筒4が操作体を構成する。
【0089】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明に係る塗布材押出容器は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0090】
例えば、上記実施形態では、本体筒2と操作筒3とが相対回転されると、第1及び第2の螺合部8,9の螺合作用によって先筒1に対しパイプ部材10が塗布材Mとともに移動し、第1の螺合部8の螺合作用が解除又は停止して第2の螺合部9の螺合作用のみによってパイプ部材10が塗布材Mとともに引き続き移動し、そして、パイプ部材10の前進が停止し、その後、第2の螺合部9の螺合作用のみによってパイプ部材10に対し塗布材Mが移動しているが、第1の螺合部8の螺合作用の解除タイミング又は停止タイミングは、これに限定されるものではない。
【0091】
具体的には、第1及び第2の螺合部8,9の螺合作用によって先筒1に対しパイプ部材10が塗布材Mとともに移動した後、パイプ部材10の移動が停止し、その後、第1の螺合部8の螺合作用が解除又は停止して第2の螺合部9の螺合作用のみによってパイプ部材10に対して塗布材Mが前進してもよい。
【0092】
なお、上記において、「螺合作用の解除」とは、雄螺子と雌螺子との螺子山同士(突条41,56)の係合が外れ、螺合作用が働かなくなることを意味し、「螺合作用の停止」とは、雄螺子と雌螺子との螺子山同士(突条41,56)が係合し噛み合った状態で当接して螺合が働かなくなることを意味している。また、上述した雄螺子及び雌螺子は、螺子山や螺子溝だけでなく、間欠的に配される突起群、又は螺旋状且つ間欠的に配される突起群のように螺子山や螺子溝と同様な働きをするものであってもよい。
【0093】
また、塗布材Mとして、例えば、リップグロス、リップ、アイカラー、アイライナー、美容液、洗浄液、ネールエナメル、ネールケア溶液、ネールリムーバー、マスカラ、アンチエイジング、ヘアーカラー、頭髪用化粧料、オーラルケア、マッサージオイル、角栓ゆるめ液、ファンデーション、コンシーラー、スキンクリーム、マーキングペン等の筆記用具等のインク、液状の医薬品、泥状物等を始めとした液状の塗布材を用いた塗布材押出容器に対しても勿論適用可能である。
【符号の説明】
【0094】
1…先筒、3…操作筒(操作体)、4…回転止筒(操作体)、5…移動螺子筒(中間体)、1a…吐出口、6…移動体、7…ピストン(押出部)、8…第1の螺合部、9…第2の螺合部、10…パイプ部材、100…塗布材押出容器、M…塗布材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に第1及び第2の螺合部を具備し、塗布材を押し出して使用する塗布材押出容器であって、
筒状を成し先端に吐出口を有する先筒と、
前記先筒に対し軸線方向に摺動可能に内挿され、その内部に前記塗布材が装填されたパイプ部材と、を備え、
容器前部と容器後部とが相対回転されると、前記第1及び第2の螺合部の螺合作用により、前記先筒に対し前記パイプ部材が前記塗布材とともに軸線方向一方側へ移動し、
前記容器前部と前記容器後部とがさらに相対回転されると、前記先筒に対する前記パイプ部材の移動が停止し、前記第1及び第2の螺合部の少なくとも一方における螺合作用により、前記先筒及び前記パイプ部材に対し前記塗布材が前記軸線方向一方側へ移動することを特徴とする塗布材押出容器。
【請求項2】
前記容器前部と前記容器後部とが相対回転されると、前記第1及び第2の螺合部の螺合作用により、前記先筒に対し前記パイプ部材が前記塗布材とともに前記軸線方向一方側へ移動し、前記第1の螺合部の螺合作用が解除又は停止され、前記第2の螺合部の螺合作用のみにより、前記先筒に対し前記パイプ部材が前記塗布材とともに前記軸線方向一方側へ引き続き移動し、
前記容器前部と前記容器後部とがさらに相対回転されると、前記先筒に対する前記パイプ部材の移動が停止し、前記第2の螺合部の螺合作用のみにより、前記先筒及び前記パイプ部材に対し前記塗布材が前記軸線方向一方側へ移動することを特徴とする請求項1記載の塗布材押出容器。
【請求項3】
前記先筒に対する前記パイプ部材の移動が停止した後、前記第1及び第2の螺合部の螺合作用により、前記先筒及び前記パイプ部材に対し前記塗布材が前記軸線方向一方側へ移動し、
前記容器前部と前記容器後部とがさらに引き続き相対回転されると、前記第1の螺合部の螺合作用が解除又は停止され、前記第2の螺合部の螺合作用のみにより、前記先筒及び前記パイプ部材に対し前記塗布材が前記軸線方向一方側へ引き続き移動することを特徴とする請求項1記載の塗布材押出容器。
【請求項4】
前記パイプ部材に対し軸線方向に摺動可能に内挿され、前記塗布材を移動させるための押出部を備え、
前記先筒、前記パイプ部材及び前記押出部は、前記先筒と前記パイプ部材との摺動抵抗が前記押出部と前記パイプ部材との摺動抵抗よりも小さくなるように構成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項記載の塗布材押出容器。
【請求項5】
容器内に配設され、前記塗布材を移動させるための移動体と、
前記容器前部と同期回転可能に係合する中間体と、
前記容器後部を構成し、前記移動体と同期回転可能に係合する操作体と、を備え、
前記第1の螺合部は、前記中間体と前記操作体との間に設けられ、
前記第2の螺合部は、前記移動体と前記中間体との間に設けられていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項記載の塗布材押出容器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−5526(P2012−5526A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141673(P2010−141673)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(591147339)株式会社トキワ (141)
【Fターム(参考)】