説明

塗布膜形成方法、ガラス代替物

【要 約】
【課題】高分子材料からなる基材と電気伝導体薄膜と塗布膜から成る塗工品と塗布膜形成方法を提供する。
【解決手段】高分子材料から成る基材21の表面に電気伝導体薄膜22を成膜し、さらにその電気伝導体薄膜22の表面に塗布液膜23を成膜して得られた塗工対象物202の塗布液膜23に向けて電磁波を照射する。電磁波が照射されると、誘導加熱効果により電気伝導体薄膜22の塗布液膜23内に渦電流が発生し、発生した渦電流によりジュール熱が生じ、電気伝導体薄膜22は、加熱され、塗布液膜23は電気伝導体薄膜22からの熱伝導により加熱され、昇温する。塗布液膜23の溶媒が蒸発温度以上に加熱されると溶媒は蒸発し、塗布液膜23は乾燥し、塗布膜24が形成され、本発明の塗工品203が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性樹脂の技術分野にかかり、紙、又はプラスチックなどから成る高分子材料と電気伝導体薄膜と塗布膜から成る塗工品と塗布膜形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂は、熱硬化型塗料との密着力は得られ難く、オレフィン系樹脂から成る基材の表面をプラズマ処理し、基材の表面改質をしたうえで、熱硬化型塗料が塗布されている。
熱硬化型塗料が塗布された基材を乾燥するには、その基材を乾燥室に配置し、乾燥室内で、熱硬化型塗料の硬化温度程度の温風を基材に供給することにより、溶媒を蒸発させ、塗料を硬化させている。
【0003】
金属板に電磁波を照射すると金属板の内部に渦電流が生じ、金属板の内部が加熱されることは、公知であり、金属に対する電磁波の照射は、金属粒の窒化及び酸化処理や金属粒同士の焼結等の目的に用いられている。
出力20W〜20KWの電磁波を水性塗料に照射して、水性塗料を乾燥させる方法が下記文献に記載されているが、120度以上の高温硬化型塗料では、乾燥、硬化しにくい。
【特許文献1】特開2004-344860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、基材を熱変形、溶解せずに、塗布液膜を乾燥、硬化し、塗布膜と電気伝導体薄膜及び、電気伝導体薄膜と基材との密着力を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、高分子材料から成る基材の表面に電気伝導体薄膜を成膜する電気伝導体薄膜成膜工程と、前記電気伝導体薄膜の表面に塗布液膜を成膜する塗布液膜成膜工程と、前記塗布液膜に向けて電磁波を照射して前記塗布液膜側の前記電気伝導体薄膜の表面を発熱させ、前記塗布液膜側の前記電気伝導体薄膜の表面から熱伝導により前記塗布液膜を加熱し、前記塗布液膜を乾燥、硬化させる電磁波加熱工程とを有する塗布膜形成方法である。
本発明は、前記基材は、フィルムであり、前記基材が巻き回されている原反ロールから引き出された前記基材が、巻き取りロールに巻き取られ、前記基材が静止又は、移動しながら前記電気伝導体薄膜成膜工程と、塗布液膜成膜工程と、電磁波加熱工程とを行う塗布膜形成方法である。
本発明は、前記電気伝導体薄膜成膜工程は、前記電気伝導体薄膜をスパッタリングにより成膜する塗布膜形成方法である。
本発明は、前記基材は、板状のポリカーボネイトであり、前記電気伝導体薄膜は、透明なNi-Crであり、前記塗布膜はハードコート塗料であり、塗布膜成膜方法によって得られるガラス代替物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、従来の塗布膜と基材との密着力と比べ塗布膜と電気伝導体薄膜及び、電気伝導体薄膜と基材との密着力が高くなり、従来の焼き付け塗装と比べて短い時間で塗布液膜を乾燥、硬化することができる。また、本発明のガラス代替物は、ポリカーボネイトと比べて、塗布膜との密着力が高いので寿命が長い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
<本発明の第一例>
本発明の塗布膜形成方法の第一例を説明する。
図1(a)の符号21は、高分子材料から成る基材であり、プロセス対象物である。
図2の符号10は電気伝導体薄膜成膜装置である。電気伝導体薄膜成膜装置10は、真空槽11を有しており、真空槽11の内部の天井部分に導電性材料から成るターゲット12が配置されている。ターゲット12にはターゲット電源25が接続され、真空槽11にはガス導入系26と真空排気系27が接続されている。真空排気系27により真空槽11の内部を真空排気して真空雰囲気にし、真空槽11の内部に基材21を配置する。ガス導入系26から真空槽11の内部にスパッタガスを導入し、ターゲット12に電圧を印加し、スパッタガスのプラズマを形成し、ターゲット12をスパッタリングすると、基材21の表面に電気伝導体薄膜22が形成される。
【0008】
図1(b)の符号201は、基材21と、基材21上に成膜された電気伝導体薄膜22から成る塗工対象物である。
所定膜厚の電気伝導体薄膜22が形成された後、真空槽11内に大気を導入し、塗工対象物201を真空槽11の外部に取り出す。
【0009】
上記例では、電気伝導体薄膜22の製造方法には、スパッタリングを用いたが、これに限定されるものではなく、真空蒸着、電解及び無電解めっき等の方法を用いて電気伝導体薄膜22を形成してもよい。透明度が得られる薄さの電気伝導体薄膜22の成膜には、スパッタリングが適している。
【0010】
真空槽11の外部に取り出した塗工対象物201を、図3の塗布液膜成膜装置31の下に配置し、塗布液膜成膜装置31の噴出部(不図示)と電気伝導体薄膜22の表面を対面させる。
塗布液膜成膜装置31は、噴出部から塗布液の液滴を噴霧して、電気伝導体薄膜22の表面に着弾させて、塗布液膜23を成膜できるように構成されている。符号36は噴霧された液滴である。
【0011】
塗布液膜23の成膜方法は、これに限定されず、噴出部から染み出した液滴を電気伝導体薄膜22の上に配置してもよく、スクリーン印刷等で塗布液を塗布してもよいし、フィルム状の塗布液膜23を電気伝導体薄膜22の表面に貼付けてもよい。また、電気伝導体薄膜22上に塗布液を塗布した後で、膜厚を調整するために余分な塗布液を除去する装置も本発明の塗布液膜成膜装置31に含まれる。
塗布液と塗布液膜23は溶媒と、溶媒に溶解又は分散された塗布物質で構成されており、溶媒や塗布物質は、基材21と化学反応しない物質であり、電気伝導体薄膜22が薄くて孔が形成され、基材21と塗布液が接触する場合も基材21は溶解されない。
【0012】
図1(c)の符号202は、基材21と、基材21上に成膜された電気伝導体薄膜22と、電気伝導体薄膜22上に成膜された塗布液膜23から成る塗工対象物である。
電気伝導体薄膜22と基材21が加熱され、昇温する場合、電気伝導体薄膜22より基材21の熱膨張率が大きいから、同じ温度に昇温しても、電気伝導体薄膜22より基材21の方が伸びる。基材21に成膜された電気伝導体薄膜22に電磁波を照射した場合に、電気伝導体薄膜22の膜厚が薄いときより厚いときの方が伸びる力が大きいので、電気伝導体薄膜22と基材21が接着する界面にかかる応力が大きくなる。後述する表1より、電気伝導体薄膜22の膜厚が60.0nmを超えた66.7nmでは、基材21と電気伝導体薄膜22が密着する界面に密着力より大きな応力がかかり剥離し、剥離した部分に電荷が溜まりチャージアップして放電する。
電気伝導体薄膜22の膜厚が3.3nm未満の1.7nmでは、電磁波の照射では電気伝導体薄膜22を十分に加熱できない。
【0013】
塗工対象物202の上に、図4の電磁波照射装置35を配置する。塗布液膜23に向けて電磁波を照射すると電気伝導体薄膜22内部に渦電流が発生し、ジュール熱が発生する。電磁波の周波数が300MHz〜30GHzの範囲では、誘導加熱効果により、電気伝導体薄膜22を加熱することが可能と考えられる。
【0014】
塗工対象物202の上に、図4の電磁波照射装置35を配置する。塗布液膜23に向けて電磁波を照射すると電気伝導体薄膜22内部に渦電流が発生し、ジュール熱が発生する。
電磁波の周波数が2.45GHzでは、渦電流が集中する表皮深さは、ニッケルでは約3μmであり、電気伝導体薄膜22の厚さはこれより充分に小さいことから、電気伝導体薄膜22の内部では、ほぼ均一に渦電流が発生するものと考えられる。
【0015】
電気伝導体薄膜22内部の電磁波が照射された表面に近い部分を塗布液側領域221とし、基材21に近い部分を基材側領域222とすると、塗布液側領域221および基材側領域222において渦電流のジュール熱が発生する。
【0016】
塗布液側領域221は塗布液膜23と接触しており、塗布液側領域221で発生した熱は塗布液膜23を加熱し、塗布液膜中の溶媒を蒸発させる。
この溶媒の蒸発によって塗布液膜23は冷却されるので、塗布液側領域221から塗布液膜23へ熱が伝導され易くなっている。
塗布液膜23の中の溶媒が蒸発温度以上に加熱されると溶媒は蒸発し、塗布液膜23は乾燥、硬化し、電気伝導体薄膜22上に塗布膜24が形成される。
【0017】
基材側領域222は基材21と接触しており、基材側領域222で発生した熱は熱伝導により基材21の表面を加熱する。しかし、加熱される基材21の領城は、基材側領域222との接触面から数μmの深さの範囲であり、基材21全体の厚さからすると充分に小さく、基材21全体が過熱されることではないため、熱変形しない。
【0018】
塗布液膜23の中の溶媒が蒸発温度以上に加熱されると溶媒は蒸発し、塗布液膜23は乾燥、硬化し、電気伝導体薄膜22上に塗布膜24が形成される。
符号37は、照射された電磁波を示している。
図1(d)の符号203は、基材21と、基材21上に成膜された電気伝導体薄膜22と、電気伝導体薄膜22上に成膜された塗布膜24から成る塗工品である。
この塗工品203の電気伝導体薄膜22と基材21との密着力は、電磁波照射前より強くなっており、その理由は、基材21の表面が改質されたからと考えられる。
本発明において、電磁波の照射回数は一回に限定されず、複数回に分けて照射してもよい。
【0019】
本発明の第一例では、温風による乾燥の替わりに電磁波を照射して塗布液膜を乾燥、硬化したが、温風による本乾燥の前に仮乾燥として塗工対象物202に電磁波を照射してもよい。
【0020】
<実施例1>
本発明の第一例で、基材21に厚さ1mm、縦5cm、横5cmの板状のポリエチレンを用い、電気伝導体薄膜22として3.3nm、13.3nm、20.0nm又は26.7nmのNi-Cr膜を成膜し、塗布液にオキツモ株式会社製のCL−200を用い、塗布液膜23の膜厚を5μmとし、電磁波の照射電力を100W、150W、300W、500W、照射時間を30秒として、塗工品203を得た。
予め、電磁波照射前に塗布液膜23の重量を測定しておき、照射後に塗布膜24の重量を測定し、電磁波照射前と後の塗布液膜23の重量変化率を求めた。
【0021】
図5に、Ni-Cr膜の膜厚が、3.3nm、13.3nm、20.0nm、26.7nmの場合の測定結果をグラフ上に符号◆、■、●、▲で示す。
比較例として、膜厚が、3.3nm、13.3nm、20.0nm、26.7nmのNi-Cr膜上の塗布液膜23に対し、電磁波照射による塗布液膜23の加熱に替え、温度70℃の温風に10分間曝して加熱し、他の条件は実施例1と同じにして得た結果をそれぞれ同じ符号(◆、■、●、▲)で示す。
【0022】
また、ガラス上に膜厚5μmのCL−200から成る塗布液膜を形成し、乾燥室内で180℃の温風に20分間曝して乾燥させた場合の乾燥前と乾燥後の塗布液膜の重量変化率(約−30%)を得た。図5中に、この重量変化率の値を通り、横軸と平行な基準線Kを点線で記載した。
CL−200は、キシレン、N−ブタノール、シクロヘキサン、シリコーン等から構成されており、約180℃の温風に20分間曝すと乾燥し、硬化する熱硬化型塗料であるから、180℃で加熱するのが望ましいが、基材21がプラスチックから成る高分子材料では変形や剥離が起こり、望ましくない。
図5から、本発明の実施例1の重量変化率が、比較例の重量変化率より基準線Kに近い場合は、塗布液膜は180℃近くの温度で加熱されたと考えられるが、変形は生じておらず、望ましい。
それに対し、膜厚が13.3nmで300Wの電磁波を照射した場合と、膜厚が13.3nmと26.7nmで500Wの電磁波を照射した場合では、重量変化率の絶対値が30%より大きく、Ni-Cr膜が加熱され過ぎて塗布膜24が昇温し、塗布膜24が分解したと考えられ、望ましくない。
【0023】
<実施例2>
本発明の第一例で、基材21に厚さ1mm、縦5cm、横5cmの板状のポリエチレンを用い、電気伝導体薄膜22として20.0nmのNi-Cr膜を成膜し、塗布液にCL−200を用い、電磁波の照射電力を150Wとして、塗工品203を得た。
電磁波を照射後に塗布膜24の表面温度を測定した。図6に、その測定結果をグラフ上に符号Mで示す。
これに対して電気伝導体薄膜22の表面温度を測定するために、ポリエチレンの基材21上に0nm、又は20.0nmのNi-Cr膜を成膜した後、Ni-Cr膜に向けて照射電力を100W〜300Wの電磁波を照射し、電磁波の照射後にNi-Cr膜の表面温度を測定した。
【0024】
図6に、膜厚が、0nm、又は20.0nmのNi-Cr膜の温度の測定結果を符号L1、L2で示す。
図5から、実施例2のNi-Cr膜厚の膜厚条件及び加熱条件と同一条件で求められた重量変化率の絶対値は、30%に近いので、図6で、塗布膜24の温度が180℃以上になっていればCL−200は乾燥、硬化できると考えられる。
【0025】
図6において、実施例2の塗布膜24の温度と、塗布液膜23を成膜していない以外は、実施例2と同一条件のNi-Cr膜の温度を比較すると、その温度差は10℃程度なので、塗布液膜23を成膜していなくても、符号L2から塗布膜24が形成された場合の塗布膜24の表面温度を推定することができる。
また、図6には図示していないが、Ni-Cr膜の表面が250℃以上に上昇することを確認した。
【0026】
<実施例3>
本発明の第一例で基材21に、ポリエチレン又は、ポリプロピレンを用い、電気伝導体薄膜22として3.3nm、6.7nm、13.3nm、20.0nm、26.7nm、33.3nm、40.0nm、50.0nm、又は60.0nmの膜厚のNi-Cr膜を成膜し、塗布液にCL−200を用い、電磁波の照射電力を100W、照射時間を30秒として、塗工品203を得た。
Ni-Cr膜の膜厚の条件に対する、塗布液膜23の加熱の状況を示す表1を得た。
【0027】
【表1】

【0028】
表1の○は、電磁波照射によってNi-Cr膜が所望の温度(塗布液の硬化温度程度)に加熱されていることを示している。表1のBは、火花が発生したことを示している。火花が発生したのは、基材21とNi-Cr膜が剥離し、その間で放電が起こったからである。
比較例として、電気伝導体薄膜22として0nm、1.7nm、66.7nm、105nm、133nm、200nmの膜厚のNi-Cr膜を成膜して、塗布液膜23を成膜後に電磁波を照射して、塗布液膜23の加熱の状況を調べた。
【0029】
表1のAは、Ni-Cr膜が、加熱されず、塗布液膜23が昇温していないことを示している。
Ni-Cr膜の膜厚が1.7nmの場合に、電気伝導体薄膜22の表面が発熱しないのは、膜厚が薄くて電磁波による誘導加熱効果が生じ難いからと考えられる。
実施例3より、Ni-Cr膜の膜厚は、3.3nm〜60.0nmの範囲が望ましい。
表1のスパッタ時間は、Ni-Cr膜の成膜に要する時間を示し、表1のNi-Cr膜の光の透過率は、Ni-Cr膜の各膜厚に対する光( 波長が2000nm)の透過率である。Ni-Cr膜の膜厚が3.3nmのときの光の透過率は、80%に近いので、後述する本発明の第二例のガラス代替品の製造に用いることができる。
【0030】
表1とは別に、300Wの電磁波を用いて、他は表1の0nm〜1.7nmのNi-Cr膜と同一条件で塗布液膜23に照射したところNi-Cr膜は、昇温したが、所望の温度までは昇温しなかった。電磁波の照射電力を上げると電気伝導体薄膜表面に渦電流は生じるが、塗布液膜23を乾燥することはできなかった。膜厚が105nmと200nmの場合のNi-Cr膜の体積抵抗率は、それぞれ2.17×10−4Ωcm、1.62×10−4Ωcmである。
Ni-Cr膜の膜厚が13.3nmの場合に、100Wの電磁波を塗布液膜23に照射し、予め、電磁波照射前に測定しておいた塗布液膜の重量から、電磁波を照射後の塗布膜の重量の減少量を測定したところ、減少量は30秒で飽和した。従って、塗布液がCL−200の場合の電磁波の照射時間は30秒間が望ましい。
【0031】
<実施例4>
本発明の第一例で、基材21に表面積が25cm2のポリエチレンを用い、電気伝導体薄膜22として、膜厚13.3nmのNi-Cr膜を成膜し、塗布液に、CL−200を用い、塗布液膜成膜装置31に、回転速度が200r.p.m.及び2000r.p.m.のスピンコートを用いて、重さが、0.1203g、又は0.0174gであり、膜厚が、30.0μm又は、5.0μmの塗布液膜23を成膜した。電磁波の照射電力を100W、150W、300W、500W、照射時間を30秒として、塗工品203を得た。
【0032】
予め、電磁波照射前に測定した塗布液膜23の重量と電磁波照射後の塗布膜24の重量から、塗布液膜23の重量変化率を求めた。電磁波照射前の塗布液膜23の重量は、常温で大気に10分間曝した後に測定した。
電磁波の照射電力の条件と、塗布液膜23の重量の条件を替えて表2を得た。
【0033】
【表2】

【0034】
表2のPE1、PE2は、ポリエチレンを表している。
比較例としてガラスの表面にスピンコートによって、重さが0.014gのCL−200から成る塗布液膜23を形成し、180℃の温風に20分間曝して塗布液膜23を乾燥し、硬化させた。
【0035】
表2のG1はガラスを示している。G1に、塗布液膜23を成膜するのに回転数が2000r.p.m.のスピンコートを用いた。
比較例から、温風により、塗布液膜23が乾燥し、硬化した場合の重量変化率の絶対値は30%程度である。
【0036】
PE1に、100W、150W、300W、500Wの電磁波を照射した場合の重量変化率の絶対値は、30%より小さいので、塗布液膜23は、乾燥するほど十分には加熱されていないことがわかる。PE1が加熱されないのは、実施例1と比較すると塗布液膜23の膜厚が厚いので、Ni-Cr膜の表面から塗布液膜23の表面まで熱が伝わり難いからと考えられる。電磁波の照射電力が、100Wの場合のPE1の重量変化率の絶対値は30%より小さいので、塗布液膜23は、十分に加熱されておらず、望ましくない。PE1が加熱されないのは、100Wの場合のPE2と比べ塗布液膜23の膜厚が大きく重量も大きいので、Ni-Cr膜の表面から塗布液膜23の表面まで熱が伝わり難いからと考えられる。150Wの場合のPE2の重量変化率の絶対値は30%に近く、塗布液膜23は、乾燥し、硬化していると考えられ、望ましい。300Wと500Wの場合のPE2の重量変化率の絶対値は、30%より大きく、電気伝導体薄膜22が過度に加熱され、基材21が熱変形したり、塗布膜24が昇温し、塗布膜24が分解したと考えられ、望ましくない。
【0037】
実施例4より、塗布液膜23に照射される電磁波の照射電力は、1cm2当たり4W〜20Wの範囲が、電気伝導体薄膜22を加熱し、塗布液膜23を乾燥、硬化できると考えられる。
【0038】
<本発明の第二例>
本発明の第一例の塗工品203は、自動車及び電気電子部品及び住宅等の工業用品や日用雑貨品で用いられている樹脂やガラスの代替品として利用が可能である。
例えば、自動車の窓ガラスとして使用するときは、本発明の第一例の工程で基材21に、板状のポリカーボネイトを用い、電気伝導体薄膜22として透明なNi-Crを成膜し、塗布液膜23の塗布物質は、SiO2から成るハードコート塗料として、塗布液膜23に電磁波を照射し、塗布膜24を形成して得られる塗工品203は、自動車や建物の窓ガラスとして利用可能である。電気伝導体薄膜22としては、ITO等の透明な導電体薄膜を用いてもよい。
【0039】
<本発明の第三例>
本発明の塗布膜形成方法の第二例を説明する。
図7の符号60は、樹脂フィルム塗工装置であり、ロール55と、電気伝導体薄膜成膜装置16と、塗布液膜成膜装置31と、電磁波照射装置35と、を有している。
ロール55には、紙、又はフィルム状の樹脂から成る基材51が巻き回されている。
電気伝導体薄膜成膜装置16は、前室17と、成膜室18と、後室19とを有しており、各室は、基材51を通す細長孔152、153で接続されている。
【0040】
前室17は、成膜室18の前段に配置され、後室19は、成膜室18の後段に配置されている。ロール55は、前室17の前段に配置されており、ロール55から基材51を引き出すと、前室17から成膜室18を通り、後室19から外部に引き出せるように構成されている。
後室19の後段には、塗布液膜成膜装置31と電磁波照射装置35がこの順序で並んで配置されており、引き出された基材51は、塗布液膜成膜装置31の下と電磁波照射装置35の下を通過し、巻き取り装置39に巻き取られるように構成されている。
各室17〜19は、真空排気系27〜29により真空排気されており、成膜室18の圧力は、前室17と後室19内部の圧力より低くなるように構成されている。
【0041】
基材51の先端を巻き取り装置39に保持し、巻き取り装置39を動作させると、基材51はロール55から引き出される。引き出された基材51は移動しながら細長孔151を通り、前室17の内部に入る。基材51は前室17と成膜室18の間の細長孔152を通り、成膜室18の内部に入る。
成膜室18の内部の天井部分にはターゲット12が配置されており、成膜室18内部にスパッタガスを導入し、スパッタガスのプラズマを形成し、ターゲットをスパッタリングすると、移動しながら基材51の表面にフィルム状の電気伝導体薄膜52が成膜される。
電気伝導体薄膜52が成膜された基材51は、成膜室18と後室19の間の細長孔153を通り、後室19の内部に入る。
【0042】
基材51は、後室19の内部を移動しながら基材51の出口となる細長孔154を通り、後室19の外部に出る。
基材51は、塗布液膜成膜装置31の下迄到達する。基材51の電気伝導体薄膜52側から電気伝導体薄膜52に向けて塗布液膜成膜装置31の噴出部から塗布液の液滴が噴出されると、基材51は、移動しながら電気伝導体薄膜52の表面上に液滴が着弾し、フィルム状の塗布液膜53が形成される。
【0043】
最表層に塗布液膜53が形成された基材51は、塗布液膜成膜装置31の下を通過し、電磁波照射装置35の下迄到達する。基材51の塗布液膜53側へ電磁波を照射すると、基材51は移動しながら誘導加熱効果により、塗布液膜53側の電気伝導体薄膜52の表面が加熱され、熱伝導により塗布液膜53が昇温すると、乾燥、硬化し、塗布液膜53は、フィルム状の塗布膜54と成る。塗布膜54が形成された後、基材51は、電磁波照射装置35の下を通過する。
【0044】
符号57は、この製造方法によって得られた塗工フィルムであり、塗工フィルム57は、巻き取り装置39に巻き取られると塗工フィルムロール59が生成される。上述した塗布膜形成方法の第二例では、基材51は、移動しながら工程を行ったが、静止する間に電気伝導体薄膜の成膜工程と電磁波照射による加熱の工程を行ってもよい。
【0045】
符号56は、接着剤が配置された剥離フィルム58から成る接着フィルムロールであり、接着フィルムロール56から剥離フィルム58を引き出して、貼り合わせローラー38上で、基材51の裏面に接触し、剥離フィルム58を貼り合わせて、塗工フィルム57に接着層を作ることもできる。
【0046】
また、剥離フィルム58を貼り合わせるのではなく、電磁波を照射し、塗布液膜53を乾燥後、生成された塗工フィルム57を裏返し、塗布液膜54が形成されていない面に接着剤から成る塗布液を塗布して接着層を形成してもよい。接着層が形成された後に、接着層に向けて電磁波を照射させて接着剤を硬化させることもできる。
【0047】
<本発明の第四例>
本発明の第三例の塗工フィルム57は、成膜対象物に貼付けて使用でき、成膜するには困難な立体的な曲面形状の成膜対象物に貼り付けて利用することも可能である。本発明の第三例の塗布液膜の成膜工程で塗布液膜53の塗布物質にSiO2又はSiNを用いて得られた塗工フィルム57は、アルミサッシやガソリンタンク等に貼り付けて保護用フィルムとして利用可能であり、塗布液に塗料を用いて得られた塗工フィルム57は、携帯電話の筺体等の装飾に利用が可能であり、塗布膜54に機能性フィルムを用いて得られた塗工フィルム57は、防汚、防カビ、脱臭等の様々な用途に利用可能である。
【0048】
<その他>
上記例では、電磁波照射によって塗布液膜23、53を乾燥、硬化させたが、電磁波照射によって塗布液の溶媒を蒸発すると共に化学反応を生じさせて塗布液膜23、53を硬化させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】(a)〜(c):本発明の塗工対象物を説明するための図、(d):本発明の塗工品を説明するための図
【図2】本発明の基材に成膜する成膜装置の例
【図3】本発明の塗工対象物と電気伝導体薄膜に塗布液膜を形成する塗布液膜成膜装置の例
【図4】本発明の塗工対象物と電気伝導体薄膜を加熱する電磁波照射装置の例
【図5】塗布液膜の重量変化率を説明するためのグラフ
【図6】塗布液膜及び電気伝導体薄膜の温度特性を説明するためのグラフ
【図7】本発明の他の例
【符号の説明】
【0050】
201 、202……塗工対象物 203……塗工品 21、51……基材 22、52……電気伝導体薄膜 23、53……塗布液膜 24、54……塗布膜 10、16……電気伝導体薄膜成膜装置 31……塗布液膜成膜装置 35……電磁波照射装置 57……塗工フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料から成る基材の表面に電気伝導体薄膜を成膜する電気伝導体薄膜成膜工程と、
前記電気伝導体薄膜の表面に塗布液膜を成膜する塗布液膜成膜工程と、
前記塗布液膜に向けて電磁波を照射して前記塗布液膜側の前記電気伝導体薄膜の表面を発熱させ、前記塗布液膜側の前記電気伝導体薄膜の表面から熱伝導により前記塗布液膜を加熱し、前記塗布液膜を乾燥、硬化させる電磁波加熱工程とを有する塗布膜形成方法。
【請求項2】
前記基材は、フィルムであり、前記基材が巻き回されている原反ロールから引き出された前記基材が、巻き取りロールに巻き取られ、前記基材が静止又は、移動しながら前記電気伝導体薄膜成膜工程と、
塗布液膜成膜工程と、
電磁波加熱工程とを行う請求項1記載の塗布膜形成方法。
【請求項3】
前記電気伝導体薄膜成膜工程は、前記電気伝導体薄膜をスパッタリングにより成膜する請求項1記載の塗布膜形成方法。
【請求項4】
前記基材は、板状のポリカーボネイトであり、前記電気伝導体薄膜は、透明なNi-Crであり、前記塗布膜はハードコート塗料であり、請求項1記載の塗布膜成膜方法によって得られるガラス代替物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−131572(P2010−131572A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312571(P2008−312571)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000132932)株式会社タカギセイコー (29)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【Fターム(参考)】