説明

塗布装置

【課題】段ボールを構成するライナー紙に撥水液を塗布する際に液はねが発生せず、撥水加工スタート時にライナー紙の走行速度を減速しなくてよい塗布装置を提供する。
【解決手段】塗布装置は、上面が傾斜面1aとされ、当該傾斜面1aに沿って撥水液Hが流下する傾斜板1と、傾斜板1を挟んで上流側および下流側にそれぞれ設置された上流側ローラ3および下流側ローラ4と、傾斜板1から流れ落ちる撥水液Hを溜めておく撥水液槽5と、傾斜板1の上流部に設置される吐出管6と、撥水液槽5内の撥水液Hを吐出管6に供給する供給管8およびポンプ7とから概略構成され、ライナー紙Pは、傾斜面1a上の空間を上流側ローラ3から下流側ローラ4に向けて搬送される。ライナー紙Pの一方の面に撥水液Hを塗布する際は、下流側ローラ4が傾斜板1のほうに水平移動してライナー紙Pを傾斜板1の下流側端部2に接触させ、ライナー紙Pの一方の面に撥水液Hを付着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布装置に関し、特に、段ボールを構成するライナー紙に撥水液を塗布する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に段ボールは、表面および裏面を構成するライナー紙と、両ライナー紙の間に介装される波形状の中芯紙とから構成され、梱包材は言うに及ばず様々な用途に用いられている。しかし、この種の段ボールは耐水性がないため、図3に示すような塗布装置を用いて、ライナー紙の一方の面に撥水液を塗布することが行われている。この塗布装置は、ほぼ下半分が撥水液Hに浸っている塗工ロール50と、ライナー紙Pを塗工ロール50に押し付けるプレスロール51とを備え、塗工ロール50とプレスロール51がそれぞれ逆方向に回転してライナー紙Pを搬送する間に、塗工ロール50によってライナー紙Pの一方の面に撥水液Hが塗布されるものである。
しかし、上記塗布装置の場合、ほぼ下半分が撥水液に浸っている塗工ロールが回転する機構とされているため、撥水液が周囲に飛び散る液はねが発生するという問題があった。塗布装置をカバーで覆って液はねを防止することも考えられるが、塗布装置全体を覆う大型のカバーが必要となるうえ、カバーに付着した撥水液が固化してカバーの脱着が困難となるため、メンテナンスに多大な労力を要することになる。
また、撥水加工スタート時に、塗工ロールとプレスロールでライナー紙を挟み込むため、かなりの抵抗となり、紙切れや品質のばらつきなどの問題が生じることもある。このため、撥水加工スタート時には、ライナー紙の走行速度を減速する必要がある。
【0003】
他方、塗工ロールを使用しない塗布装置として、スライドビード型塗布装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この装置は、上面が一方向に傾斜した傾斜面とされ、当該傾斜面上に、下方から供給される塗布液が流出するスリットが形成されたスライドホッパーと、スライドホッパーの下流側に近接して配置され、プラスチックフィルムやポリエチレンラミネート紙などの帯状支持体を搬送するバッキングロールとを備えている。この装置では、傾斜面を流下する塗布液が傾斜面先端において帯状支持体と出会う間隙部にビード部を形成するようにし、当該ビード部を介して塗布液が帯状支持体面に塗布される。スライドビード型塗布装置は、1種以上の塗布液を帯状支持体に多層同時塗布できる塗布装置として、写真感光材料やインクジェット記録用紙、感熱記録用紙、感圧記録用紙等の生産に多用されている。
【特許文献1】特開2000−262949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
写真感光材料等の生産に多用されているスライドビード型塗布装置を用いてライナー紙の一方の面に撥水液を塗布することも考えられるが、以下のような問題がある。
バッキングロールがスライドホッパーの下流側に近接して配置されるため、ライナー紙に塗布された撥水液がまだ乾燥していない状態で、ライナー紙がバッキングロールによって搬送されることになる。その結果、ライナー紙に塗布された撥水液がバッキングロールの回転によって周囲に飛び散る液はねが発生する。また、塗布作業時におけるライナー紙の紙幅は1000mm〜2500mmの範囲で変化するため、ライナー紙の両側方を流れる撥水液がバッキングロールに付着し、バッキングロールに付着した撥水液が液はねを起こすという問題もある。加えて、スライドビード型塗布装置特有の問題として、ビード間隙およびビード背圧の設定が難しい(特許文献1参照)。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、段ボールを構成するライナー紙に撥水液を塗布する際に液はねが発生せず、撥水加工スタート時にライナー紙の走行速度を減速しなくてもよい塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、段ボールを構成するライナー紙に撥水液を塗布する装置であって、上面が傾斜面とされ、当該傾斜面に沿って撥水液が流下する傾斜板と、前記傾斜板を挟んで上流側および下流側にそれぞれ設置され、前記傾斜面上の空間を上流側から下流側に向けてライナー紙を搬送する上流側ローラおよび下流側ローラと、前記傾斜板から流れ落ちる撥水液を溜めておく撥水液槽と、前記撥水液槽内の撥水液を前記傾斜面に供給する供給手段とを備え、前記ライナー紙が前記傾斜板の下流側端部と接するように、前記上流側ローラおよび前記下流側ローラが配置されていることを特徴としている。
【0007】
本発明では、傾斜面に沿って撥水液が流下する傾斜板の下流側端部に、傾斜面上の空間を当該傾斜面の上流側から下流側に向けて走行するライナー紙を接触させることで、傾斜板の傾斜面とライナー紙との間に液溜まりを発生させ、ライナー紙の一方の面に撥水液を付着させる。ライナー紙に付着した余分な撥水液は、面内方向に作用する張力によってピンと張ったライナー紙が、傾斜板の下流側端部と接触することにより、かき落とされ、必要な量だけの撥水液がライナー紙に付着する。このため、下流側ローラの回転によって液はねが発生することはない。
なお、余分な撥水液は撥水液槽に流れ落ちた後、供給手段を介して傾斜板の傾斜面に再び供給される。
【0008】
また、本発明に係る塗布装置では、前記下流側ローラおよび/または前記上流側ローラが、水平方向および/または鉛直方向に移動可能とされていてもよい。
本発明では、下流側ローラおよび/または上流側ローラを、水平方向および/または鉛直方向に移動可能とすることにより、傾斜板の傾斜面とライナー紙との間の角度を調節して液溜まりを最適な状態に保つことができる。
【0009】
また、本発明に係る塗布装置では、前記傾斜板の下流側端部が着脱可能とされていてもよい。
本発明では、ライナー紙に撥水液を塗布する際、走行するライナー紙が傾斜板の下流側端部に常時、接触するため、長期間の使用によって傾斜板の下流側端部が摩耗するおそれがある。そこで、傾斜板の下流側端部を着脱可能とし、傾斜板の下流側端部が摩耗した際に、新しいものと交換できるようにする。
【0010】
また、本発明に係る塗布装置では、前記傾斜板の傾斜面とライナー紙との間の角度は5度以上60度以下であることが好ましい。
本発明では、傾斜板の傾斜面とライナー紙との間の角度を5度以上60度以下とすることにより、液溜まりを最適な状態に保つことができる。即ち、傾斜板の傾斜面とライナー紙との間の角度を5度未満にすると、液溜まり部分の面積は広がるが、滞留している撥水液の量が少なくなるため、ライナー紙を高速走行させた際に、撥水液が瞬間的に欠乏する可能性がある。一方、傾斜板の傾斜面とライナー紙との間の角度を60度より大きくすると、撥水液の量が多くなりすぎ、ライナー紙の両側方から回り込んだ撥水液がライナー紙の裏側に付着するおそれがある。
【0011】
なお、本明細書では、傾斜面の中間部を基準として、撥水液の流下方向下流側を単に「下流側」、撥水液の流下方向上流側を単に「上流側」と呼ぶ。また、これらの用語は、傾斜板だけではなく、傾斜板を越えた領域にも適用される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る塗布装置は、傾斜面に沿って撥水液が流下する傾斜板の下流側端部に、傾斜面上の空間を当該傾斜面の上流側から下流側に向けて走行するライナー紙を接触させることで、ライナー紙の一方の面に撥水液を付着させるものであり、面内方向に作用する張力によってピンと張ったライナー紙が、傾斜板の下流側端部と接触することにより、ライナー紙に付着した余分な撥水液は、かき落とされ、下流側ローラの回転による液はねが発生しない。また、ライナー紙に加わる抵抗が小さいので、ライナー紙が破断せず、撥水加工スタート時にライナー紙の走行速度を減速させる必要もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1(a)に示すように、本発明に係る塗布装置は、上面が傾斜面1aとされ、当該傾斜面1aに沿って撥水液Hが流下する傾斜板1と、傾斜板1を挟んで上流側および下流側にそれぞれ設置された上流側ローラ3および下流側ローラ4と、傾斜板1から流れ落ちる撥水液Hを溜めておく撥水液槽5と、撥水液槽5内の撥水液Hを傾斜板1の傾斜面1aに供給する供給手段とから概略構成されている。また、下流側ローラ4のさらに下流側には、ライナー紙Pを次の工程に搬送するための固定ローラ9が設置されている。
【0014】
ライナー紙Pは帯状とされ、一方の面を傾斜板1の傾斜面1aに向け、ピンと張った状態で上流側ローラ3から下流側ローラ4へ搬送される。この際、下流側ローラ4が上流側ローラ3よりも低い位置に設置されているため、ライナー紙Pは、上流側ローラ3から見て斜め下方向に搬送される。
また、下流側ローラ4は水平方向に移動できるようになっており、ライナー紙Pの一方の面に撥水液Hを塗布する際は、ライナー紙Pが傾斜板1の下流側端部2と接するように、下流側ローラ4が傾斜板1のほうに水平移動する(図1(b)参照)。
【0015】
図2に示すように、ライナー紙Pと接触する下流側端部2の上縁部2aには、ライナー紙Pが上縁部2aと接触した際に破断しないように、アールが設けられている。傾斜板1の下流側端部2は、図示しないボルト等によって着脱自在とされており、下流側端部2が、走行するライナー紙Pに長期間に亘って接触することによって摩耗した場合には、新しいものと交換することができる。
【0016】
本発明は、傾斜面1aに沿って撥水液Hが流下する傾斜板1の下流側端部2に、傾斜面1a上の空間を当該傾斜面1aの上流側から下流側に向けて走行するライナー紙Pを接触させることで、傾斜板1の傾斜面1aとライナー紙Pとの間に液溜まりRを発生させ、ライナー紙Pの一方の面に撥水液Hを付着させるものであり、液溜まりRの状態を最適に保つため、水平面に対する傾斜面1aの傾斜角度αは5度以上15度以下とされ、傾斜面1aとライナー紙Pとの間の角度βは5度以上60度以下、望ましくは10度以上30度以下に設定される。水平面に対する傾斜面1aの傾斜角度αを5度未満とした場合、撥水液Hの流量が多くなりすぎて逆流するおそれがあり、傾斜角度αを15度より大きくした場合、撥水液Hの流速が速くなりすぎて、ライナー紙Pに当たった撥水液Hがライナー紙Pの両側方から逃げてしまうおそれがある。また、傾斜面1aとライナー紙Pとの間の角度βを5度未満にすると、液溜まりRの面積は広がるが、滞留している撥水液Hの量が少なくなるため、ライナー紙Pを高速走行させた際に、撥水液Hが瞬間的に欠乏するおそれがあり、傾斜面1aとライナー紙Pとの間の角度βを60度より大きくすると、撥水液Hの量が多くなりすぎ、ライナー紙Pの両側方から裏側に撥水液Hが回り込むおそれがある。
加えて、本発明では、傾斜板1の下流側端部2を通過したライナー紙Pが水平面と成す角度γをα+βより大きくすることで、ライナー紙Pに付着した余分な撥水液Hを、傾斜板1の下流側端部2で完全に、かき落とすようにしている。
【0017】
撥水液槽5中の撥水液Hを傾斜板1に供給する供給手段は、傾斜板1の上流部に設置され、管路方向に沿って複数の吐出孔6aが底部に形成された吐出管6と、撥水液槽5と吐出管6とをつなぐ供給管8と、供給管8の中間部に設置されるポンプ7とから構成されている。
吐出管6は、傾斜板1の長さとほぼ同じ長さとされ、傾斜板1の傾斜方向と直交する方向に配置されている。ここで、傾斜板1の長さとは、傾斜方向と直交する方向の傾斜板1の長さのことであり、ライナー紙Pの紙幅が変化しても対応できるように、ライナー紙Pの最大幅より長くなっている。
【0018】
次に、上記構成からなる塗布装置の動作について説明する。
ポンプ7を作動させると、撥水液槽5内の撥水液Hが、供給管8を介して吐出管6に供給され、吐出孔6aから傾斜板1の傾斜面1a上に吐出される。傾斜面1a上に吐出された撥水液Hは、傾斜面1a上を流下して下流側端部2から流れ落ち、撥水液槽5に溜められ、供給手段を介して再び、傾斜面1a上に吐出される。
一方、ライナー紙Pは、一方の面を傾斜板1の傾斜面1aに向け、ピンと張った状態で、上流側ローラ3および下流側ローラ4、さらには固定ローラ9によって、傾斜面1a上の空間を上流側から下流側へ搬送される。
【0019】
ライナー紙Pの一方の面に撥水液Hを塗布する際は、下流側ローラ4を傾斜板1のほうに水平移動させて、ピンと張ったライナー紙Pを傾斜板1の下流側端部2に接触させる。これにより、傾斜板1の傾斜面1aを流下する撥水液Hがライナー紙Pの一方の面に付着し、余分な撥水液Hは、ライナー紙Pが傾斜板1の下流側端部2と接触することにより、かき落とされる。その結果、ライナー紙Pには、必要な量だけの撥水液Hが付着し、下流側ローラ4の回転によって液はねが発生することはない。
【0020】
本発明に係る塗布装置は、傾斜面1aに沿って撥水液Hが流下する傾斜板1の下流側端部2に、傾斜面1a上の空間を当該傾斜面1aの上流側から下流側に向けて走行するライナー紙Pを接触させることで、ライナー紙Pの一方の面に撥水液Hを付着させるものであり、ライナー紙Pに付着した余分な撥水液Hは、面内方向に作用する張力によって板のようにピンと張ったライナー紙Pが、傾斜板1の下流側端部2と接触することにより、かき落とされる。このため、下流側ローラ4の回転によって液はねが発生しない。また、ライナー紙Pに加わる抵抗が小さいので、ライナー紙Pが破断せず、撥水加工スタート時にライナー紙Pの走行速度を減速させる必要もない。
【0021】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記の実施形態では、下流側ローラ4を水平移動させているが、下流側ローラ4を鉛直方向に移動させてライナー紙Pを傾斜板1の下流側端部2に接触させるようにしてもよい。また、上記の実施形態では、下流側ローラ4を移動させるようにしているが、上流側ローラ3を移動させるようにしてもよい。要は、本発明において所期の機能が得られればよいのである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る塗布装置の模式図であり、(a)は非塗布時、(b)は塗布時の状態をそれぞれ示している。
【図2】塗布時における傾斜板の下流側部分を拡大した図である。
【図3】従来の塗布装置の概略図である。
【符号の説明】
【0023】
1 傾斜板
1a 傾斜面
2 下流側端部
2a 上縁部
3 上流側ローラ
4 下流側ローラ
5 撥水液槽
6 吐出管
6a 吐出孔
7 ポンプ
8 供給管
9 固定ローラ
50 塗工ロール
51 プレスロール
P ライナー紙
H 撥水液
R 液溜まり

【特許請求の範囲】
【請求項1】
段ボールを構成するライナー紙に撥水液を塗布する装置であって、
上面が傾斜面とされ、当該傾斜面に沿って撥水液が流下する傾斜板と、前記傾斜板を挟んで上流側および下流側にそれぞれ設置され、前記傾斜面上の空間を上流側から下流側に向けてライナー紙を搬送する上流側ローラおよび下流側ローラと、前記傾斜板から流れ落ちる撥水液を溜めておく撥水液槽と、前記撥水液槽内の撥水液を前記傾斜面に供給する供給手段とを備え、
前記ライナー紙が前記傾斜板の下流側端部と接するように、前記上流側ローラおよび前記下流側ローラが配置されていることを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記下流側ローラおよび/または前記上流側ローラが、水平方向および/または鉛直方向に移動可能とされていることを特徴とする請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
前記傾斜板の下流側端部が着脱可能とされていることを特徴とする請求項1または2に記載の塗布装置。
【請求項4】
前記傾斜板の傾斜面とライナー紙との間の角度が5度以上60度以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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