説明

塗布装置

【課題】塗布対象物に塗布される塗布剤の厚さが安定し易い塗布装置を提供する。
【解決手段】塗布対象物に塗布剤を塗布する静電誘引式の塗布装置1であって、塗布剤を収容するタンク21と、ノズル部13と、タンク21に収容されている塗布剤をノズル部13に送り出すギアポンプ22と、ノズル部13との間に所定の間隔をおいてノズルに対向して配置されている対向電極(図示せず)と、ノズル部13と対向電極との間に電圧を印加する電圧発生回路(図示せず)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布対象物に塗布剤を塗布する静電誘引式の塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ノズルと対向電極との間に電圧を印加してノズルから塗布剤を誘引する静電誘引式の塗布装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この従来の塗布装置は、タンクに収容されている塗布剤を塗布剤の自重によってノズルに供給するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−246353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、タンクに収容されている塗布剤を自重によってノズルに供給すると、タンク内の塗布剤の残量が時間の経過とともに変化することによって単位時間当たりにノズルに供給される塗布剤の量が変化するので、塗布対象物に塗布される塗布剤の厚さが安定し難いという問題がある。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、タンクに収容されている塗布剤を自重によってノズルに供給する場合に比べ、塗布対象物に塗布される塗布剤の厚さが安定し易い塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、塗布対象物に塗布剤を塗布する静電誘引式の塗布装置であって、前記塗布剤を収容するタンクと、ノズルと、前記タンクに収容されている前記塗布剤を前記ノズルに送り出すポンプと、前記ノズルとの間に所定の間隔をおいて前記ノズルに対向して配置されている対向電極と、前記ノズルと前記対向電極との間に電圧を印加する電圧発生回路と、を備える。
この発明によると、タンクに収容されている塗布剤をポンプによってノズルに供給するので、タンクに収容されている塗布剤を自重によってノズルに供給する場合に比べ、塗布対象物に塗布される塗布剤の厚さが安定し易い。
【0007】
第2の発明は、導電性を有する塗布対象物に塗布剤を塗布する静電誘引式の塗布装置であって、前記塗布剤を収容するタンクと、ノズルと、前記タンクに収容されている前記塗布剤を前記ノズルに送り出すポンプと、前記ノズルとの間に所定の間隔をおいて前記ノズルに対向して配置されている前記塗布対象物と前記ノズルとの間に電圧を印加する電圧発生回路と、を備える。
この発明によると、タンクに収容されている塗布剤をポンプによってノズルに供給するので、タンクに収容されている塗布剤を自重によってノズルに供給する場合に比べ、塗布対象物に塗布される塗布剤の厚さが安定し易い。
【0008】
第3の発明は、第1又は第2の発明の塗布装置であって、前記ポンプはギアポンプである。
ギアポンプは微量の流体を長時間安定して供給できるという性質を有しているので、ギアポンプを用いると微量の塗布剤をノズルに長時間安定して供給できる。
【0009】
第4の発明は、第1〜第3のいずれかの発明の塗布装置であって、前記ポンプから単位時間当たりに送り出される前記塗布剤の量である送出量を変更するように前記ポンプを制御する制御手段を備える。
この発明によると、ポンプの送出量を変更することができる。
【0010】
第5の発明は、第4の発明の塗布装置であって、前記制御手段は、前記ノズルから単位時間当たりに流出する前記塗布剤の量である流出量に相関する情報を検出する情報検出手段と、前記情報検出手段によって検出された情報に基づいて、前記流出量が所定の範囲内に収まるように前記ポンプをフィードバック制御するフィードバック制御手段と、を有する。
この発明によると、何らかの原因で流出量が変化しても、ポンプをフィードバック制御することによって流出量を所定の範囲内に収めることができる。
【0011】
第6の発明は、第5の発明の塗布装置であって、前記情報は、前記ノズルに流れる電流の電流値である。
流出量が変化するとそれに比例してノズルに流れる電流の大きさも変化するので、ノズルに流れる電流の大きさ(電流値)は、流出量に相関する情報であるといえる。
【0012】
第7の発明は、第4〜第6のいずれかの発明の塗布装置であって、前記塗布剤の物性を表わす情報を取得する取得手段を有し、前記制御手段は、前記取得手段によって取得された情報に基づいて前記送出量を変更する。
この発明によると、塗布剤の物性に応じて送出量を変更することができる。
【0013】
第8の発明は、第1〜第7のいずれかの発明の塗布装置であって、前記ポンプから送り出された前記塗布剤を前記ノズルに導入する第1の流路を形成する第1の流路部材と、前記ポンプから送り出された前記塗布剤を前記タンクに戻す第2の流路を形成する第2の流路部材と、前記第1の流路と前記第2の流路とを切り替える切替手段と、を備える。
この発明によると、塗布対象物に塗布剤を塗布しないときは第2の流路に切り替えてタンク内の塗布剤をポンプによって循環させることにより、塗布剤の成分の沈殿を低減できる。
【0014】
第9の発明は、第8の発明の塗布装置であって、前記ポンプから単位時間当たりに送り出される前記塗布剤の量である送出量を、前記第1の流路に前記塗布剤を送り出すときと前記第2の流路に前記塗布剤を送り出すときとで変更するように前記ポンプを制御する制御手段を備える。
この発明によると、第1の流路に切り替えているときに必要な量の塗布剤がノズルに供給されなかったり、あるいは第2の流路に切り替えているときに塗布剤が無駄に多く循環したりすることを低減できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、タンクに収容されている塗布剤を自重によってノズルに供給する場合に比べ、塗布対象物に塗布される塗布剤の厚さが安定し易い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態1に係る塗布装置の塗布部の構成を示す模式図。
【図2】塗布装置の塗料供給部の構成を示す模式図。
【図3】塗布装置の電気的構成を示すブロック図。
【図4】電圧発生回路の構成を示すブロック図。
【図5】ノズルに印加される電圧と検出される電流との関係を示すグラフ。
【図6】主制御回路による制御の流れを示すフローチャート。
【図7】本発明の実施形態2に係るフローチャート(前半)。
【図8】本発明の実施形態2に係るフローチャート(後半)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図1ないし図6によって説明する。
(1)塗布装置の構成
本実施形態では円筒状のワーク40(図3参照、塗布対象物の一例)の外周面に静電誘引式によって塗料(塗布剤の一例)を塗布する塗布装置を例に説明する。
図1、図2及び図3は、本発明の実施形態1に係る塗布装置1の構成を示す模式図である。塗布装置1は、図1に示す塗布部10と、図2に示す塗料供給部20と、図3に示す制御部30とを備えて構成されている。
【0018】
(1−1)塗布部
図1に示すように、塗布部10は、主走査装置11、副走査装置12、ノズル部13、対向電極支持部材14、及び、対向電極15を備えて構成されている。なお、図1では制御部30の電圧発生回路34も併せて示している。
【0019】
主走査装置11は、水平面上のXY座標系においてX軸方向に延びるガイドレール11a、ガイドレール11aにスライド可能に保持されているスライダ11b、スライダ11bをガイドレール11aに沿ってX軸方向に往復移動させる図示しないステッピングモータ、スライダ11bに固定されている平板状の台座部11cなどを備えて構成されている。
【0020】
副走査装置12は、回転軸がX軸方向に延びる姿勢で固定されているステッピングモータ12a、ステッピングモータ12aの回転軸に固定されて当該回転軸の軸方向に延びるワーク保持部12bなどを備えて構成されている。ワーク保持部12bの外径は円筒状のワーク40の内径と概ね同径であり、ワーク40は内周部がワーク保持部12bに嵌合されてワーク保持部12bに保持される。
【0021】
台座部11cには、ノズル部13、対向電極支持部材14、電圧発生回路34が固定されている。
ノズル部13は、本体部13aと、ノズル13bとを備えて構成されている。ノズル13bは導電性を有する素材で細い筒状に形成されており、先端側の端面がノズル13bの中心軸線に対して傾斜している。ノズル13bは、ノズル13bの中心軸線とステッピングモータ12aの回転軸線とが同一の水平面上で垂直に交差する姿勢で配置されている。
【0022】
本体部13aは一端にノズル13bが固定されており、他端に第1の流路24a(図2参照)が接続されている。本体部13a内には塗料が流れる流路が形成されており、第1の流路24aから本体部13aに供給される塗料は本体部13a内の流路を流れてノズル13bに導入される。
【0023】
対向電極支持部材14は長方形の板状に形成されており、長手方向の一方の端部が台座部11cに固定されている。対向電極支持部材14の他方の端部はワーク保持部12bの近傍まで伸びており、先端部に対向電極15が設けられている。
【0024】
対向電極15は、ノズル13bの先端からワーク保持部12b側に所定距離(例えば1mm)離間した位置でノズル13bに対向して配置されている。対向電極15は1本の棒状電極を略C字状に曲折して形成されており(図3参照)、対向電極15の両端の間にはノズル13bから誘引される塗料を通過させるための間隙(例えば4mm)が設けられている。
【0025】
(1−2)塗料供給部
図2に示すように、塗料供給部20は、塗料タンク21、ギアポンプ22、塗料タンク21に収容されている塗料をギアポンプ22に供給する流路を形成する流路部材23、ギアポンプ22から送り出された塗料をノズル部13に導入する第1の流路24aを形成する第1の流路部材24、第1の流路24aの途中で分岐し、ギアポンプ22から送り出された塗料を塗料タンク21に戻す第2の流路25aを形成する第2の流路部材25、第1の流路24aを開閉する常閉式の第1の電磁弁26、第2の流路25aを開閉する常閉式の第2の電磁弁27を備えて構成されている。
【0026】
塗料タンク21(タンクの一例)にはワーク40に塗布する塗料が収容されている。塗料としては低導電性かつ高誘電性の油性インクなどが用いられる。なお、塗料は低導電性かつ高誘電性を有するものであればよく、例えば透明樹脂(クリヤー)に微細アルミ粒子を混合したメタリック塗料やパール粉を混合したパール塗料であってもよい。
【0027】
ギアポンプ22(ポンプの一例)は、2個の歯車22a、22bと、それらを収容する筺体22cと、いずれか一方の歯車を回転駆動する図示しない駆動モータとを備えて構成されている。駆動モータが回転すると2個の歯車22a、22bが互いに逆方向に回転し、回転する歯車22a、22bの歯に押されて塗料が第1の流路24aに送り出される。
【0028】
第1の電磁弁26(切替手段の一例)、及び第2の電磁弁27(切替手段の一例)は、電磁石(ソレノイド)を用いて弁部材を電気的に駆動する弁である。なお、経路制御回路36(図3参照)から出力される制御信号に応じて流路を開閉する弁であれば電磁弁以外の弁を用いてもよい。
【0029】
本実施形態では、第1の流路24aを開いて第2の流路25aを閉じた状態のことを塗布状態といい、第1の流路24aを閉じて第2の流路25aを開いた状態のことを循環状態という。
【0030】
(1−3)制御部
図3は、制御部30の電気的構成を示すブロック図である。制御部30は、主制御回路31、データ入力部32、ポンプ制御回路33、電圧発生回路34、走査制御回路35、経路制御回路36などを備えて構成されている。
【0031】
主制御回路31(制御手段、フィードバック制御手段の一例)は塗布装置1の全体を制御する回路であり、データ入力部32によって入力されたデータや指示に応じた制御信号をポンプ制御回路33、電圧発生回路34、走査制御回路35、及び経路制御回路36に出力する。
【0032】
主制御回路31によるポンプ制御回路33の制御では、主制御回路31はギアポンプ22の回転、停止などの制御の他、ギアポンプ22から単位時間当たりに送り出される塗料の量である送出量を変更する制御も行う。具体的には例えば、主制御回路31は、塗料の物性に応じてギアポンプ22の送出量を変更する制御や、第1の流路に塗料を送り出すときと第2の流路に塗料を送り出すときとでギアポンプ22の送出量を変更する制御なども行う。
【0033】
データ入力部32(取得手段の一例)は操作部として構成されており、作業者が各種のデータや指示を入力するための操作ボタンや、LCDなどの表示装置を備えている。作業者はデータ入力部32を操作して、塗料の物性(塗料の表面張力、粘性、誘電率など)、ノズル13bの移動範囲(X軸方向におけるワーク40の一方の端の位置と他方の端の位置)、塗布膜厚(塗布剤の厚さ)、その他各種のデータを入力することができる。また、作業者はデータ入力部32を操作することにより、作業の開始や停止、塗布の開始などを指示することができる。
【0034】
なお、本実施形態ではデータ入力部32を操作部として構成した場合を例に説明するが、データ入力部32は上述したデータや指示を外部の装置から主制御回路31に入力するための通信インタフェースとして構成されてもよい。
【0035】
ポンプ制御回路33は、主制御回路31から出力される制御信号に応じた大きさの電流をギアポンプ22の駆動モータに供給する回路である。
【0036】
電圧発生回路34は、主制御回路31から出力される制御信号に応じた大きさの電圧をノズル13bと対向電極15との間に印加する回路である。本実施形態ではノズル13bを正極(+)とし、対向電極15を負極(−)として電圧を印加する。電圧発生回路34の構成については後述する。
ノズル13bと対向電極15との間に電圧を印加して電位差を生じさせると、ノズル13bの先端に形成されるメニスカスに表面張力を上回る静電誘引力が作用し、その静電誘引力によって塗料がノズル13bから誘引される。誘引された塗料は曳糸状に飛翔し、やがて分裂霧化する。分裂霧化した塗料は次第に散乱してワーク40に到達する。
【0037】
なお、ワーク40が導電性を有する場合は、ワーク40を電気的に接地することにより、ワーク40を負極(−)として用いてもよい。これにより対向電極15を省くことができ、塗布装置1の構成をより簡素にできる。
【0038】
また、ノズル13bに電圧を印加する電圧発生回路と対向電極15に電圧を印加する電圧発生回路とを独立させ、ノズル13bに印加するバイアス電圧Vbと対向電極15に印加する電圧Vsとの電位差(Vb−Vs)によって静電誘引力を生じさせる構成であってもよい。
【0039】
走査制御回路35は、主制御回路31から出力される制御信号に応じて主走査装置11のステッピングモータ、及び副走査装置12のステッピングモータにパルス信号を出力する回路である。
より具体的には、走査制御回路35には主制御回路31からスライダ11bの移動速度、及び副走査装置12の回転速度を指示する制御信号が出力され、走査制御回路35は指示された移動速度でスライダ11bを移動させるとともに、指示された回転速度で副走査装置12を回転させる。
また、走査制御回路35には主制御回路31からノズル13bの移動範囲を指示する制御信号が出力され、走査制御回路35はその制御信号に基づいてスライダ11bの移動範囲を決定する。
【0040】
経路制御回路36(切替手段の一例)は、主制御回路31から出力される制御信号に応じて第1の電磁弁26、及び第2の電磁弁27を駆動することにより、塗料の経路の状態を塗布状態と循環状態との間で切り替える回路である。
【0041】
図4は、電圧発生回路34の構成を示すブロック図である。電圧発生回路34は、静電コントローラ50と静電発生器60とで構成されている。ここではワーク40が電気的に接地されているものとする。
制御電源部51は、外部から供給される交流電圧を、主制御回路31から出力される制御信号に応じた交流電圧に変換して高周波発振部52に出力する回路である。
高周波発振部52は、制御電源部51から出力される交流電圧をより高周波の交流電圧に変換する回路である。
トランス53は、高周波発振部52から出力される交流電圧を降圧する回路である。
【0042】
トランス61は、トランス53で降圧された交流電圧を昇圧する回路である。
高電圧発生器62は、トランス61で昇圧されて図示しない整流回路によって直流に変換された電圧をマイナスの直流高電圧に変換してノズル13bに印加する回路である。直流高電圧の印加によってノズル13bに流れる電流は、ワーク40、及び接地物体を経由して高圧側電流検出回路54に入力される。
【0043】
高圧側電流検出回路54(情報検出手段の一例)は、入力された電流の電流値を検出し、検出した電流値を高圧側過電流遮断判定回路55、高圧側定電流制限回路56、及び主制御回路31に出力する回路である。
また、高圧側電流検出回路54に入力された電流は、送電ケーブルを経由して静電発生器60の高電圧発生器62のプラス端子に戻される。
【0044】
高圧側過電流遮断判定回路55は、電圧発生回路34に何らかの異常が発生し、それにより高圧側電流検出回路54から出力された電流値が第1の設定値を超えた場合に、高周波発振部52の作動を停止させる回路である。
高圧側電流制限回路56は、高圧側電流検出回路54によって検出された電流値が第1の設定値を超えた場合に、制御電源部51の作動を停止させる回路である。高圧側電流制限回路56は高圧側過電流遮断判定回路55に異常が発生して高周波発振部52の作動が停止しなかった場合のために設けられている。
【0045】
低圧側電流制限回路57は、制御電源部51から出力された交流電圧による電流の電流値を検出し、検出した電流値が第2の設定値を超えた場合に、制御電源部51に異常が発生したとして制御電源部51の作動を停止させる回路である。
【0046】
図5は、高電圧発生器62によってノズル13bに印加される電圧(ノズル13bと対向電極15との間に印加される電圧に相当)と、高圧側電流検出回路54によって検出される電流との関係を示すグラフである。主制御回路31は高圧側電流検出回路54から出力された電流値に対応する電圧を図5に示す関係から判断することにより、ノズル13bに印加されている電圧を把握することができる。
【0047】
(2)主制御回路による制御の流れ
図6は、主制御回路31による制御の流れを示すフローチャートである。本処理は作業者がデータ入力部32で各種のデータを入力して作業の開始を指示すると開始される。
【0048】
ここではノズル13bと対向電極15との間に印加する電圧の大きさ、及びギアポンプ22から単位時間当たりに送り出される塗料の量(送出量)を塗料の物性に応じて変更する場合を例に説明する。また、ここでは塗料の物性と目標の塗布膜厚とに応じてスライダ11bの移動速度、及び副走査装置12の回転速度を変更する場合を例に説明する。
【0049】
S101では、主制御回路31は走査制御回路35を制御してノズル13bを所定の原点位置に移動させる。
S102では、主制御回路31は経路制御回路36を制御して塗料の経路の状態を循環状態に切り替える。
【0050】
S103では、主制御回路31はポンプ制御回路33を制御してギアポンプ22を所定の速度で回転させる。ギアポンプ22が回転すると塗料タンク21に収容されている塗料がギアポンプ22によって送り出され、塗料タンク21と第2の流路部材25との間を塗料が循環し始める。塗料を循環させるのは、塗布装置1の停止中に塗料タンク21の底に沈殿した成分を塗料全体に均一に行き渡らせるためである。
なお、メタリック塗料やパール塗料などのように成分が沈殿し易い塗料の場合は、成分が沈殿し難い他の塗料に比べてギアポンプ22の回転速度を速くしてもよい。
【0051】
S104では、主制御回路31は作業者が塗布の開始を指示するまで待機する。作業者はワーク保持部12bにワーク40を保持させた後、データ入力部32を操作して塗布の開始を指示する。主制御回路31は塗布の開始が指示されるとS105に進む。
【0052】
S105では、主制御回路31はノズル13bと対向電極15との間に印加する電圧の大きさをデータ入力部32によって入力された塗料の物性に応じて決定する。
印加する電圧の大きさを塗料の物性に応じて決定するのは、同じ大きさの電圧を印加しても生じる静電誘引力が塗料の物性によって異なったり、あるいは生じさせるべき静電誘引力が塗料の物性によって異なったりするからである。印加する電圧の大きさを塗料の物性に応じて決定することにより、塗料ごとにその塗料の物性に適した静電誘引力を作用させることができる。
【0053】
S106では、主制御回路31は走査制御回路35を制御してノズル13bを塗布開始位置に移動させる。塗布開始位置は適宜に設定可能であるが、本実施形態では「ノズルの移動範囲」のいずれか一方の端を塗布開始位置とする。
S107では、主制御回路31は電圧発生回路34を制御して、ノズル13bと対向電極15との間にS105で決定した大きさの電圧を印加させる。
【0054】
S108では、主制御回路31はデータ入力部32によって入力された塗料の物性に応じてギアポンプ22の回転速度を変更する、すなわちギアポンプ22の送出量を変更する。
ギアポンプ22の送出量を塗料の物性に応じて変更するのは、同じ送出量であっても粘性の低い塗料の場合はノズルから塗料が滴り落ちる所謂ぼた落ちが起きたり、逆に粘性の高い塗料の場合は液切れが起きたりすることがあるからである。塗料の物性に応じてギアポンプ22の送出量を変更することにより、ぼた落ちや液切れを低減できる。
【0055】
S109では、主制御回路31は経路制御回路36を制御して塗料の経路の状態を塗布状態に切り替える。塗布状態に切り替えるとポンプから送り出された塗料がノズル13bに導入され、塗料がノズル13bから誘引されてワーク40に塗布される。
【0056】
S110では、主制御回路31は走査制御回路35を制御して主走査装置11及び副走査装置12の駆動を開始する。
具体的には例えば、主制御回路31はデータ入力部32によって入力された塗料の物性と塗布膜厚とに基づいてスライダ11bの移動速度と副走査装置12の回転速度とを決定し、決定した移動速度及び回転速度に応じた制御信号を走査制御回路35に出力する。
【0057】
スライダ11bの移動速度と副走査装置12の回転速度とを塗料の物性と塗布膜厚とに基づいて決定するのは、塗料の物性に応じてギアポンプ22の送出量を変更すると単位時間当たりにワーク40に到達する塗料の量も変わるので、それに応じてスライダ11bの移動速度と副走査装置12の回転速度とを決定することによって目標の塗布膜厚を実現するためである。
【0058】
S111では、主制御回路31は塗布が完了したか否かを判断する。具体的には例えば、主制御回路31はスライダ11bが移動範囲の他方の端(塗布開始位置とは逆側の端)に到達したか否かを判定し、到達していれば塗布が完了したと判断する。スライダ11bが移動範囲の他方の端に到達したか否かは、例えばスライダ11bが移動範囲の端に達したときに走査制御回路35が主制御回路31に通知することによって判断することができる。主制御回路31は塗布が完了するとS112に進む。
【0059】
S112では、主制御回路31は経路制御回路36を制御して塗料の経路の状態を循環状態に切り替える。これによりノズル13bからの塗料の吐出が停止する。
S113では、主制御回路31はポンプ制御回路33を制御して、ギアポンプ22に供給する電流の大きさを循環状態のときの大きさに戻す。
【0060】
S114では、主制御回路31は走査制御回路35を制御して主走査装置11及び副走査装置12の駆動を停止する。
S115では、主制御回路31は電圧発生回路34を制御して電圧の印加を停止させる。
S116では、主制御回路31は作業者が塗布の開始を指示するか、または作業の終了を指示するまで待機する。作業者は他のワーク40への塗布を行う場合はワーク保持部12bに他のワーク40を保持させて塗布の開始を指示し、全てのワーク40の塗布が終了した場合は作業の終了を指示する。主制御回路31は作業者が指示を入力するとS117に進む。
【0061】
S117では、主制御回路31は塗布の開始が指示された場合はS106に戻って処理を繰り返し、作業の終了が指示された場合はS118に進む。
S118では、主制御回路31は走査制御回路35を制御してノズル13bを原点位置に移動させる。
S119では、主制御回路31はポンプ制御回路33を制御してギアポンプ22の駆動を停止する。
【0062】
(3)実施形態の効果
以上説明した本発明の実施形態1に係る塗布装置1によると、塗料タンク21に収容されている塗料をギアポンプ22によってノズル13bに供給するので、塗料を長時間安定して供給できる。このため塗布装置1によると、塗料タンク21に収容されている塗料を自重によってノズル13bに供給する場合に比べ、ワーク40に塗布される塗布膜厚が安定し易い。その結果、塗布膜厚の不良によって廃棄されるワーク40の数を低減でき、歩留まりを向上できる。
【0063】
更に、塗布装置1によると、塗料タンク21に収容されている塗料をノズル13bに送り出すポンプとしてギアポンプを用いている。ギアポンプは微量の流体を長時間安定して供給できるという性質を有しているので、ギアポンプを用いると微量の塗料をノズル13bに長時間安定して供給できる。
【0064】
更に、塗布装置1によると、塗料の物性に応じて塗料タンク21の形状を変更しなくてよいという効果がある。いずれの塗料についても同じ塗料タンクを用いると、塗料の物性によってはぼた落ちや液切れが起きたりすることがある。この場合、ぼた落ちや液切れが起きないようにするために塗料の物性に応じて塗料タンクの形状を変更することも考えられる。しかしながら、その場合は塗料ごとにその塗料の物性に応じた最適な形状の塗料タンクを設計しなければならないため多くの作業時間が必要になる上、塗料ごとに塗料タンクを用意することによって部品点数が増加する。
これに対し、塗布装置1によると、塗料の物性に応じてギアポンプ22の送出量を変更することによってぼた落ちや液切れを低減できるので、塗料の物性に応じて塗料タンク21の形状を変更しなくてよい。
【0065】
更に、塗布装置1によると、ワーク40に塗料を塗布しないときは循環状態に切り替えて塗料タンク21内の塗料をギアポンプ22によって循環させることにより、塗料タンク21内の塗料が攪拌され、塗料の成分の沈殿を低減できる。
【0066】
更に、塗布装置1によると、塗布状態のときと循環状態のときとで送出量を変更するので、塗料の経路の状態に応じて送出量を適切に変更できる。これにより、例えば塗布状態のときに必要な量の塗料がノズル13bに供給されなかったり、あるいは循環状態のときに塗料が無駄に多く循環したりすることを低減できる。
【0067】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2を図7ないし図8によって説明する。
実施形態2では、ノズル13bから単位時間当たりに流出する塗料の量である流出量に相関する情報を検出し、検出した情報に基づいて、流出量が所定の範囲内に収まるようにギアポンプ22をフィードバック制御する。
【0068】
ここで、ギアポンプ22から単位時間当たりに送り出される塗料の量である送出量と流出量とはほぼ一致するが、ノズルの傾き方などによって塗料が流れ易かったり流れ難かったりするなど、送出量と流出量とは必ずしも一致しない可能性もあるので、本実施形態では送出量と流出量とを区別している。
【0069】
ここでは流出量に相関する情報として、ノズル13bに流れる電流の大きさを例に説明する。流出量が変化するとそれに比例してノズル13bに流れる電流の大きさも変化するので、ノズル13bに流れる電流の大きさは、流出量に相関する情報であるといえる。
【0070】
図7及び図8は、実施形態2に係る主制御回路31による制御の流れを示すフローチャートである。ここでは実施形態1と実質的に同一の処理には同一の符号を付して説明を省略する。
【0071】
S201では、主制御回路31はノズル13bに流れる電流の大きさを高圧側電流検出回路54によって検出し、検出した電流値が所定の上限値を超えているか否かを判断する。所定の上限値は塗料の物性に応じて決まる値である。この値は理論的に算出された値であってもよいし、実験的に求められた値であってもよい。後述する下限値についても同様である。
主制御回路31は、検出した電流値が所定の上限値を超えている場合は実際の流出量が本来の流出量より多いと判断してS202に進み、所定の上限値以下である場合はS203に進む。
【0072】
S202では、主制御回路31はポンプ制御回路33を制御してギアポンプ22に供給する電流を一段階小さくする。一段階当たりの電流の変化量は適宜に設定可能である。ギアポンプ22に供給する電流を小さくするとギアポンプ22の回転速度が遅くなって送出量が減少し、その結果、ノズル13bに流れる電流値が小さくなる。
【0073】
S203では、主制御回路31は検出した電流値が所定の下限値未満であるか否かを判断し、下限値未満である場合は実際の流出量が本来の流出量より少ないと判断してS204に進み、下限値以上である場合はS111に進む。
【0074】
S204では、主制御回路31はポンプ制御回路33を制御してギアポンプ22に供給する電流を一段階大きくする。ギアポンプ22に供給する電流を大きくするとギアポンプ22の回転速度が速くなって送出量が増加し、その結果、ノズル13bに流れる電流の電流値が大きくなる。
【0075】
以上説明した本発明の実施形態2に係る塗布装置によると、ノズル13bから単位時間当たりに流出する塗料の量である流出量に相関する情報(ここではノズル13bに流れる電流の電流値)を検出し、その情報に基づいて流出量が所定の範囲内に収まるようにギアポンプ22をフィードバック制御するので、何らかの原因で流出量が変化しても、ギアポンプ22をフィードバック制御することによって流出量を所定の範囲内に収めることができる。これにより、塗料をより安定して供給できる。
【0076】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0077】
(1)上記実施形態ではギアポンプ22として外歯歯車を2個使用するタイプのギアポンプ22を用いているが、外歯歯車と内歯歯車とを使用するタイプのギアポンプを用いてもよい。
また、ポンプはギアポンプに限られるものではなく、チューピングポンプやプランジャーポンプを用いてもよい。
【0078】
(2)上記実施形態では円筒状のワーク40の外周面に塗料を塗布する場合を例に説明したが、ワークの形状は円筒状に限られるものではなく、平板状であってもよい。
【0079】
(3)上記実施形態では塗料の経路の状態を第1の電磁弁26、及び第2の電磁弁27を用いて切り替える場合を例に説明したが、三方弁を用いて切り替えてもよい。
【0080】
(4)上記実施形態ではノズル13bから単位時間当たりに流出する塗料の量である流出量に相関する情報としてノズル13bに流れる電流の電流値を例に説明したが、ノズル13bから流出する塗料の量を検出する流量センサを設け、流量センサによって検出される流量を流出量に相関する情報として用いてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 塗布装置、10 塗布部、11 主走査装置、11a ガイドレール、11b スライダ、11c 台座部、12 副走査装置、12a ステッピングモータ、12b ワーク保持部、13 ノズル部、13a 本体部、13b ノズル、14 対向電極支持部材、15 対向電極、20 塗料供給部、21 塗料タンク(タンク)、22 ギアポンプ(ポンプ)、22a、22b 歯車、22c 筺体、23 流路部材、24 第1の流路部材、24a 第1の流路、25 第2の流路部材、25a 第2の流路、26 第1の電磁弁(切替手段)、27 第2の電磁弁(切替手段)、30 制御部、31 主制御回路(制御手段、フィードバック制御手段)、32 データ入力部(取得手段)、33 ポンプ制御回路(制御手段、フィードバック制御手段)、34 電圧発生回路、35 走査制御回路、36 経路制御回路(切替手段)、54 高圧側電流検出回路(情報検出手段)、40 ワーク(塗布対象物)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布対象物に塗布剤を塗布する静電誘引式の塗布装置であって、
前記塗布剤を収容するタンクと、
ノズルと、
前記タンクに収容されている前記塗布剤を前記ノズルに送り出すポンプと、
前記ノズルとの間に所定の間隔をおいて前記ノズルに対向して配置されている対向電極と、
前記ノズルと前記対向電極との間に電圧を印加する電圧発生回路と、
を備える塗布装置。
【請求項2】
導電性を有する塗布対象物に塗布剤を塗布する静電誘引式の塗布装置であって、
前記塗布剤を収容するタンクと、
ノズルと、
前記タンクに収容されている前記塗布剤を前記ノズルに送り出すポンプと、
前記ノズルとの間に所定の間隔をおいて前記ノズルに対向して配置されている前記塗布対象物と前記ノズルとの間に電圧を印加する電圧発生回路と、
を備える塗布装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の塗布装置であって、
前記ポンプはギアポンプである、塗布装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の塗布装置であって、
前記ポンプから単位時間当たりに送り出される前記塗布剤の量である送出量を変更するように前記ポンプを制御する制御手段を備える塗布装置。
【請求項5】
請求項4に記載の塗布装置であって、
前記制御手段は、
前記ノズルから単位時間当たりに流出する前記塗布剤の量である流出量に相関する情報を検出する情報検出手段と、
前記情報検出手段によって検出された情報に基づいて、前記流出量が所定の範囲内に収まるように前記ポンプをフィードバック制御するフィードバック制御手段と、
を有する、塗布装置。
【請求項6】
請求項5に記載の塗布装置であって、
前記情報は、前記ノズルに流れる電流の電流値である、塗布装置。
【請求項7】
請求項4乃至請求項6のいずれか一項に記載の塗布装置であって、
前記塗布剤の物性を表わす情報を取得する取得手段を有し、
前記制御手段は、前記取得手段によって取得された情報に基づいて前記送出量を変更する、塗布装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の塗布装置であって、
前記ポンプから送り出された前記塗布剤を前記ノズルに導入する第1の流路を形成する第1の流路部材と、
前記ポンプから送り出された前記塗布剤を前記タンクに戻す第2の流路を形成する第2の流路部材と、
前記第1の流路と前記第2の流路とを切り替える切替手段と、
を備える塗布装置。
【請求項9】
請求項8に記載の塗布装置であって、
前記ポンプから単位時間当たりに送り出される前記塗布剤の量である送出量を、前記第1の流路に前記塗布剤を送り出すときと前記第2の流路に前記塗布剤を送り出すときとで変更するように前記ポンプを制御する制御手段を備える塗布装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−251254(P2011−251254A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127012(P2010−127012)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000117009)旭サナック株式会社 (194)
【出願人】(500372717)学校法人福岡工業大学 (32)
【Fターム(参考)】