説明

塗布製品及び塗布製品の製造方法

【課題】塗布した箇所を視認し易く、且つその後確実に無色となることで塗布した箇所を目立たなくし得る特性を有する塗布製品を提供する。
【解決手段】塗布製品である転写具1は、特定の波長を有する紫外光が照射されると発色し自然条件下の光が照射されると無色となるジアリールエテン系のフォトクロミック化合物が添加されることにより自然条件下の光が照射されると発色状態から消色状態となる塗布物たる粘着剤55と、発色状態にある塗布物を可視光から遮光された状態で収納する遮光性容器たる遮光ケース2とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糊や接着剤等、対象物に塗布物を塗布するための塗布製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、塗布製品において、塗布された瞬間から色が消えるものや色が変わるものが種々提案されている。ここで、「塗布製品」とは糊や接着剤、粘着剤やインキなどの着色料に限られず、油やその他の塗布物を、対象とする物に塗布するための製品を広く指す概念である。
【0003】
そして上記の塗布製品の一つとしてスティック糊と呼ばれるものが挙げられる(例えば、非特許文献1参照)。このスティック糊においては、アルカリ性を呈する固形糊にpH指示薬を混合しておくことにより有色状態で密閉された筐体に収容されている。そして有色状態にある固形糊は塗布された後、空気に触れることによって前記pH指示薬の色が消えていく、すなわち消色していくものとなっている。このような糊は、塗布直後には塗布した箇所が使用者にとって明確に視認され得ることで塗り残しが生じた箇所が容易に判別できるという利点に加え、上記の通りその後無色となるために使用した箇所が目立たないという利点をも有し、これらの利点が使用者に広く用いられる大きな要因となっている。
【0004】
そして現在、塗布した箇所がより明確に視認し得るように、より強く発色し、且つ塗布後にはより目立たなくなるよう消色し得るものが求められている。
【0005】
ところで、特定の波長の光が照射されることにより発色し、また別の特定の波長の光が照射されると無色となるという特性を有するフォトクロミック化合物が知られている。このフォトクロミック化合物の多くは、特定の波長の紫外光を照射することにより明確に発色し得るとともに、特定の波長の可視光を照射することにより無色となるという特性を有している。そして、このフォトクロミック化合物を用いた塗布製品の一例としては、マーカーなどの筆記具にフォトクロミック化合物を用いた例が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながらこのフォトクロミック化合物については、自然条件の光に照射されることで無色となる特性を有するものは知られているものの(例えば、特許文献2参照)、当該文献に用いられているスピロピラン系のフォトクロミック化合物は、遮光した状態を維持していても有色の状態を長時間保持することができず徐々に消色してしまうものとなっている。そのため、有色の状態で塗布製品を製造してもその後の保管・流通過程において消色してしまい、十分な発色を示すことができない。
【0007】
他方、特許文献1において開示されているようなジアリールエテン系のフォトクロミック化合物は、一度紫外光を照射して有色の状態とすれば、その後遮光しておけば有色の状態を安定して維持し得ることが知られている。しかし、同文献に記されているようにこれまで塗布製品に用いられてきたジアリールエテン系のフォトクロミック化合物は、可視光が照射されていても、太陽光を始め紫外光を含む自然条件下の光であると、当該紫外光による発色に係る反応が優先して起こってしまい、紫外光を別体のフィルタによって遮断しなければ消色し得ないものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4499443号公報
【特許文献2】特許第4578623号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「コクヨ2011総合カタログ」、ステーショナリー編、コクヨ株式会社、2008年12月発行、P.519
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述したような点を踏まえたものであり、十分に発色した状態を長期間安定して維持することで塗布した箇所を視認し易く、且つその後消色することで塗布した箇所を目立たなくし得る特性を有する塗布製品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。すなわち本発明に係る塗布製品は、特定の波長を有する紫外光が照射されると発色し自然条件下の光が照射されると無色となるフォトクロミック化合物が添加されることにより自然条件下の光が照射されると発色状態から消色状態となる塗布物と、発色状態にある塗布物を可視光から遮光された状態で収納する遮光性容器とを具備することを特徴とする。
【0012】
また本発明に係る塗布製品の製造方法は、特定の波長を有する紫外光の照射により発色するとともに自然条件下の光が照射されることにより無色となるフォトクロミック化合物を添加対象物へ添加することにより自然条件下の光の照射により発色状態から消色状態へとなる塗布物を作成する塗布物作成工程と、作成された前記塗布物に前記紫外光を照射することにより前記塗布物を前記発色状態とする照射工程と、この照射工程を経た前記塗布物を遮光性を有する遮光性容器に前記発色状態で充填する充填工程とを有することを特徴とする。
【0013】
本発明は、「自然条件下の光が照射されると発色状態から消色状態となる」特性を有し、且つ発色した状態を安定して維持し得るフォトクロミック化合物を塗布製品として利用することに本願発明者が初めて想到することによりなされたものである。
【0014】
ここで、「自然条件下の光」とは、太陽光や室内灯に照射された条件下での光を意味する。具体的には可視光を主体とし、太陽光に含まれる5〜6%程度の紫外光や蛍光灯に含まれる微量の紫外光が含まれる光のことである。すなわち、太陽光と同じか、それ以下の割合で紫外光を含んでいる光のことを指す。
【0015】
加えて、本発明における「消色状態」とは、完全に無色となる態様のみならず、無色に近づくように退色している態様をも含むとともに、当該退色した態様のまま維持されている状態をも含む概念である。
【0016】
また、発色状態を安定して維持できるものを得るためには、フォトクロミック化合物が、ジアリールエテン系のフォトクロミック化合物であることが望ましい。
【0017】
本発明に用い得るジアリールエテン系のフォトクロミック化合物とは、具体的には一般に紫外線を5〜6%含むとされる太陽光を照射したとき、紫外光による閉環反応よりも可視光による開環反応が優先して進むものを指す。このようなジアリールエテン系のフォトクロミック化合物を用いることにより、太陽光が照射される条件や室内灯が照射されているような自然条件下で安定して消色状態となる。
【0018】
ここで、ジアリールエテン系のフォトクロミック化合物において開環、閉環反応を行なう際の指標として「反応量子収率」という値が一般的な指標として用いている。特に本発明に用いられるジアリールエテン系のフォトクロミック化合物では、特に無色となる開環反応に関する反応量子収率が閉環反応に関する反応量子収率に対して同程度の値を示すなど、十分に高い値を示すものである。このようなジアリールエテン系のフォトクロミック化合物の一例として、1,2−ビス(2−メチルベンゾ(b)チオフェン−3−イル)ヘキサフルオロシクロペンテンを挙げることができる。しかし勿論、前記の化合物の他、他の既存のもの、又は今後発見されるものであっても、「特定の波長を有する紫外光が照射されると発色し自然条件下の光が照射されると無色となる」という特性が満たされるもので有ればよい。
【0019】
このようなものであれば、遮光性容器内で発色状態に安定して維持され塗布物を塗布されることとなるので、フォトクロミック化合物自体の発色により塗布物を塗布した位置の確認が容易であり且つ塗布時における塗布物の塗り残しがより容易に視認できるとともに、自然条件下の光のもとで塗布製品は消色状態となるので塗布物の塗布した跡を目立たなくし得る塗布製品を提供することができる。
【0020】
フォトクロミック化合物による発色がより有効に塗布物の発色状態に反映されるようにするためには、塗布物が、前記フォトクロミック化合物を当該フォトクロミック化合物が添加される添加対象物に対し0.005〜5.0重量%、好ましくは0.05〜3.0重量%、より好ましくは0.1〜1.0重量%添加されたものであることが望ましい。フォトクロミック化合物の添加量が0.1重量%よりも低いと発色状態による発色が有効に現れ難く、1.0重量%よりも高い場合には添加量の増加に似合うだけの発色状態における視認性の向上が現れ難い傾向にあるからである。
【0021】
そして、本発明の塗布製品として、好適に使用され得る一例としては、塗布物が薄膜状の基材に剥離可能に塗布された状態で感圧式転写テープを構成する粘着剤であり、前記遮光性容器が、前記感圧式粘着剤を保持している転写具のケースであるといった態様を挙げることができる。
【0022】
また本発明に係る塗布製品を転写具とした場合、発色状態における明確な発色と対象物を他の物に対し確実に止着し得る性能とを有効に両立させるためには、塗布物を、アクリル系粘着剤とすることが望ましい。
【0023】
また他方、本発明の塗布製品として、好適に使用され得る他の例としては、この塗布製品における塗布物が液状をなす接着剤である接着製品である態様を、併せて挙げることができる。
【0024】
斯かる接着製品として、フォトクロミック化合物の発色を有効に利用し得る一例として、接着剤がシアノアクリレートを含む、所謂瞬間接着剤と称されるものを挙げることができる。
【0025】
また他にも本発明の塗布製品として好適に使用され得る例を挙げると、塗布物を固形状をなす糊とした、所謂スティック糊等を称される糊製品とする態様を挙げることができる。
【0026】
さらに自然状態の光の照射により、より確実に消色状態となり得るようにするためには、フォトクロミック化合物に加えて、紫外線吸収剤を含むものとすればよい。このようにすれば、消色状態が有効に維持されるのみならず、太陽光の照射による再発色をも有効に回避し得る。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、遮光性容器内で発色状態に安定して維持され塗布物を塗布されることとなるので、フォトクロミック化合物自体の発色により塗布物を塗布した位置の確認が容易であり且つ塗布時における塗布物の塗り残しがより容易に視認できるとともに、自然条件下の光のもとで塗布製品は消色状態となるので塗布物の塗布した跡を目立たなくし得る塗布製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第一実施形態に係る外観図。
【図2】本発明の第二実施形態に係る外観図。
【図3】同実施形態に係る作用説明図。
【図4】本発明の第三実施形態に係る外観図。
【図5】同実施形態に係る構成説明図。
【図6】同作用説明図。
【図7】本発明の実施例1に係るデータを表として示す図。
【図8】本発明の実施例2に係るデータを表として示す図。
【図9】本発明の実施例3に係るデータを表として示す図。
【図10】本発明の実施例4に係るデータを表として示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<第一実施形態>
以下、本発明の第一実施形態について図面を参照して説明する。
【0030】
本発明に係る塗布製品の一例として示される本実施形態に係る転写具1は、図1に示すように、例えば塗布物としてテープ状の感圧式転写テープ54に塗布されたアクリル系粘着剤を採用し、所要の長さずつ送り出した粘着剤55を紙片等の対象物の表面に転写ヘッド53を押し付けた状態で表面に沿ってスライドさせることにより転写させて使用するものである。なお感圧式転写テープ54は、樹脂製の長尺かつ薄肉な基材56の一方の面に予め粘着剤55を塗布したものである。本実施形態において転写具1は、粘着剤55やそれを送り出す送出機構部品を収容した遮光ケース2と、この遮光ケース2内にて感圧式転写テープ54を保持した状態で装着されているテープ収容部5とを主たる構成部品としている。なおこの転写具1は別途転写ヘッド53を被覆し得る遮光性のキャップを具備しているが、このキャップの形状については既存のものを広く適用し得るため、本実施形態ではその図示と説明を省略する。
【0031】
ここで、本実施形態に係る塗布製品である転写具1は、特定の波長を有する紫外光が照射されると発色し自然条件下の光が照射されると無色となるジアリールエテン系のフォトクロミック化合物が添加されることにより自然条件下の光が照射されると発色状態から消色状態となる塗布物たる粘着剤55と、発色状態にある塗布物を可視光から遮光された状態で収納する遮光性容器たる遮光ケース2とを具備することを特徴とする。
【0032】
また、本実施形態に係る転写具1は、特定の波長を有する紫外光の照射により発色するとともに自然条件下の光が照射されることにより無色となるジアリールエテン系のフォトクロミック化合物を添加対象物へ添加することにより自然条件下の光の照射により発色状態から消色状態へとなる塗布物たる粘着剤55を作成する塗布物作成工程と、作成された粘着剤55に紫外光を照射することにより粘着剤55を発色状態とする照射工程と、この照射工程を経た粘着剤55を遮光性を有する遮光性容器たる遮光ケース2に発色状態で充填する充填工程とを有する塗布製品の製造方法により製造されたものである。すなわち本発明に係る塗布製品の製造方法における充填工程とは、テープ収容部5を図1に示すような状態となるよう遮光ケース2内に収容する工程である。
【0033】
以下、転写具1における各部の構成について説明する。この転写具1は、遮光ケース内にテープ収容部を支持したものである。なお本実施形態に係る転写具は感圧式転写テープ54の使用後には、遮光ケース2及びテープ収容部5を、すなわち転写具1ごと交換する、所謂ディスポーサブルタイプの転写具1としているが、勿論テープ収容部5のみを交換し得る、所謂リフィル交換式のものとしても良い。
【0034】
遮光ケース2は、少なくとも外部からの可視光を遮光し得るように構成されたものであり、送出機構部品をテープ収容部5とともに収容保持しているものである。この遮光ケース2に上述した図示しないキャップを装着した状態では、テープ収容部5は完全に遮光された状態となる。すなわち本発明に係る塗布製品の製造方法における充填工程とは、テープ収容部5を図1に示すような状態となるよう遮光ケース2内に収容する工程である。
【0035】
テープ収容部5は、遮光ケース2に装着された状態で本発明の塗布物たる粘着剤55を対象物に転写し得るように保持するためのものである。このテープ収容部5は、具体的には基材56の表面側に粘着剤55を塗布した感圧式転写テープ54を保持するものである。そしてこのテープ収容部5は感圧式転写テープ54の他、未使用時において殆どの感圧式転写テープ54を巻回保持している図示しない繰出リールと、粘着剤55が転写された基材56のみの状態か、或いは転写され得なかった粘着剤55を基材56が支持した状態の感圧式転写テープ54を巻き取るための図示しない巻取リールとを有する他、感圧式転写テープ54を対象物へ押し付けるための転写ヘッド53を具備しているものである。転写ヘッド53は、感圧式転写テープ54を対象物に押し付けるときに当該感圧式転写テープ54を基材56の裏面56aから支持するものであり、送り出される基材56の動作に応じて回転し得る転写ローラ53aと、この転写ローラ53aを回転可能に支持しているローラ支持部53bとを有している。
【0036】
しかして本実施形態に係る塗布製品である転写具1は、感圧式転写テープ54に塗布されている粘着剤55が、特定の波長を有する紫外光が照射されると発色し自然条件下の光が照射されると無色となるジアリールエテン系のフォトクロミック化合物を含むことにより、紫外光が照射されると発色状態となり自然条件下の光が照射されると消色状態となる特性を有する粘着剤55を有している。
【0037】
またここで、「自然条件下の光」とは、太陽光や室内灯に照射された条件下での光を意味する。具体的には可視光を主体とし、太陽光に含まれる5〜6%程度の紫外光や蛍光灯に含まれる微量の紫外光が含まれる光のことである。すなわち、太陽光と同じか、それ以下の割合で紫外光を含んでいる光のことを指す。
【0038】
これより、本実施形態に係る感圧式転写テープ54の構成について説明する。
【0039】
粘着剤55は、主に添加対象物たるアクリル系粘着剤を主体とし、このアクリル系粘着剤の重量に対し、フォトクロミック化合物を0.005〜5.0重量%、好ましくは0.05〜3.0重量%、より好ましくは0.1〜1.0重量%添加されたものである。すなわち本発明に係る塗布製品の製造方法における塗布物作成工程とは、このように添加対象物たるアクリル系粘着剤に対しフォトクロミック化合物を添加する工程である。またアクリル系粘着剤は、本実施形態では溶剤等を用いずに単体として基材56へ塗布し得るアクリル系エマルション粘着剤55を使用しているが勿論、溶剤に溶解された状態で基材56へ塗布される溶剤系の粘着剤55を使用しても良い。そしてこのフォトクロミック化合物は、本実施形態では、例えば波長365nmの紫外光が照射されると発色し自然条件下の光が照射されると無色となるジアリールエテン系のフォトクロミック化合物である。しかし勿論、前記の紫外光は、当該フォトクロミック化合物や本実施形態に用い得る他のフォトクロミック化合物が発色し得る波長の光であれば良く、斯かる紫外光の波長は前記の365nmに限定されることはない。本実施形態では具体的には当該ジアリールエテン系のフォトクロミック化合物の一例として、1,2−ビス(2−メチルベンゾ(b)チオフェン−3−イル)ヘキサフルオロシクロペンテン(1,2-Bis(2-methylbenzo(b)thiophen-3-yl)hexafluorocyclopentene)を使用している。しかし勿論、「紫外光が照射されると発色し自然条件下の光が照射されると無色となる」という特性を満たすジアリールエテン系のフォトクロミック化合物であれば、既存のものであっても、また勿論今後発見されるものであっても有効に適用し得る。また勿論、当該フォトクロミック化合物はジアリールエテン系のものの他、スピロピラン系のフォトクロミック化合物であっても良く、これらの化合物が混合されたものであっても良い。
【0040】
本実施形態に係る粘着剤55を構成するジアリールエテン系のフォトクロミック化合物である1,2−ビス(2−メチルベンゾ(b)チオフェン−3−イル)ヘキサフルオロシクロペンテンとは、発色する閉環反応時に示される反応量子収率、並びに、無色となる開環反応時に示される反応量子収率が、ともに0.35という既存のものに比べて高い値を示すものである。特に既存のジアリールエテン系のフォトクロミック化合物に比べて、可視光の照射による開環反応時に示される反応量子収率が著しく高いという特性を有している。これにより、例えば太陽光であれば紫外光を5〜6%含むような自然条件下の光が照射された場合であっても、開環反応が優先して進むことにより無色となる。よって勿論、当該1,2−ビス(2−メチルベンゾ(b)チオフェン−3−イル)ヘキサフルオロシクロペンテンを含む粘着剤55は、それに応じて消色状態となる。ただし、季節や場所によっては、太陽光の紫外光と可視光とのバランスが変わることがあり、このバランスにより、粘着剤55はわずかに有色を呈することがある。また粘着剤55は一旦消色状態となっても、ごく僅かに有色状態を呈することもある。この場合には、完全に無色ではないが、粘着材55の転写すなわち塗布物の塗布時に呈していた有色状態と比べると、かなり無色に近い状態である。このような場合は勿論想定され得る事項である。さらに本実施形態に係る粘着材55は、上述したフォトクロミック化合物に加えて、紫外線吸収剤を、例えば0.1〜1.0重量%含むものとしている。これにより、自然条件下の光が照射された場合であればその光に含まれる紫外光が紫外線吸収剤に吸収されるので、フォトクロミック化合物に対しては可視光がより作用し易い状態となり、速やかに消色状態となる。
【0041】
そしてこの粘着剤55はテープ収容部5の一部として遮光ケース2に収容されるに先立ち、365nmの波長を有する紫外光を所定の強さ並びに所定時間照射されることにより、予め発色状態となった状態とされる。すなわち本発明に係る塗布製品の製造方法における照射工程とは、テープ収容部5を図1に示すような状態となるよう遮光ケース2内に収容するに先立ち、粘着剤55に紫外光を照射しておく工程である。
【0042】
そして本実施形態に係る転写具1を転写する際の動作並びに作用について同図を参照して説明する。
【0043】
この転写具1が使用されるとき、予め紫外光が照射され発色状態が維持された粘着剤55が対象物に塗布すなわち転写される。そして転写された発色状態にある粘着剤55は転写されてしばらくの間発色状態を保つが、時間の経過により徐々に退色し、消色状態となる。これは粘着剤55に含まれた閉環体となっているジアリールエテン系フォトクロミック化合物が自然条件下の光のうちの可視光が照射されることにより、その異性体である開環体へと移行する反応が進行し、完了するからである。
【0044】
以上のような構成とすることにより、本実施形態に係る塗布製品たる転写具1は、ジアリールエテン系のフォトクロミック化合物自体の発色により塗布時における粘着剤55の塗布した位置の確認が容易であるので塗り残しがより容易に視認できるとともに、自然条件下の光のもとで粘着剤55は消色状態となるので粘着剤55の塗布した跡を目立たなくし得たものとなっている。
【0045】
そして本実施形態では、当該フォトクロミック化合物が添加される添加対象物に対し0.005〜5.0重量%、好ましくは0.05〜3.0重量%、より好ましくは0.1〜1.0重量%添加されたものとしているので、フォトクロミック化合物による発色がより有効に塗布物の発色状態に反映されるようになっている。
【0046】
発色状態における明確な発色と対象物を他の物に対し確実に止着し得る性能とを有効に両立させるために本実施形態では、フォトクロミック化合物を添加する対象である添加対象物を、アクリル系粘着剤としている。
【0047】
さらに本実施形態に係る粘着材55はフォトクロミック化合物に加えて、紫外線吸収剤を、例えば0.1〜1.0重量%含むものとているので、自然条件下の光が照射された場合であればその光に含まれる紫外光が紫外線吸収剤に吸収され、フォトクロミック化合物に対しては可視光がより作用し易い状態となり、速やかに消色状態となり得るものとなっている。
【0048】
<第二実施形態>
以下に、本発明の第二実施形態に係る塗布製品である接着製品1Aについて図2及び図3を参照しつつ説明する。当該実施形態において、上記実施形態の構成要素に相当するものについては同じ数字に「A」を付したものとするとともに、その詳細な説明を適宜省略するものとする。
【0049】
本実施形態に係る塗布製品である接着製品1Aは、一般には「瞬間接着剤」と称されるものであり、シアノアクリレートを主体とする添加対象物の重量に対し、例えば0.005〜5.0重量%、好ましくは0.05〜3.0重量%、より好ましくは0.1〜1.0重量%のフォトクロミック化合物を混合させたものとしている。
【0050】
この接着製品1Aは、上記実施形態同様、特定の波長を有する特定波長光たる紫外光が照射されると発色し自然条件下の光が照射されると無色となるフォトクロミック化合物を含み、紫外光が照射されると発色状態となり自然条件下の光が照射されると消色状態となる塗布物たる接着剤55Aと、予め発色状態にある接着剤55Aを収納する容器である遮光ケース2Aとを具備することを特徴とするものである。
【0051】
この接着製品1Aは、具体的には遮光ケース2Aと、接着剤55Aを可撓性を有する樹脂からなる封入体56Aに封入させた充填容器5Aとを有している。
【0052】
遮光ケース2Aは、少なくとも可視光を遮光し得るように構成されたものであり、例えば合成樹脂製やアルミチューブ製のものが挙げられる。また遮光ケース2Aは、具体的には、接着剤55Aを収容し得る本体ケース3Aと、この本体ケース3Aを蓋止し得るキャップ4Aとを有している。
【0053】
充填容器5Aは、例えば上記の遮光ケース2Aと同程度の遮光性を有した可撓性を有する樹脂からなる封入体56Aに予め発色状態とされた接着剤55Aを入れたものである。
【0054】
封入体56Aは未使用時には接着剤55Aを封入し、使用時には図示しない針などで先端に孔が穿たれることにより、接着剤55Aが塗布され得るようになる。孔が穿たれた後に、例えば傾けられたり、使用時に指などで押圧されたりすることにより接着剤55Aは孔から吐出され、対象物へ塗布される。なお本実施形態では封入体56Aとは別に、封入体56Aの先端に孔を穿つとともに当該孔を塞ぎ得る針状体を別途具備したものとしているが、この針状体は既存の構成を適宜利用したものであるため、本実施形態では当該針状体の図示並びに説明を省略する。
【0055】
接着剤55Aは、上述の通りシアノアクリレートを主体とする添加対象物に対し、上記第一実施形態同様のフォトクロミック化合物を例えば0.1〜1.0重量%混合させたものとしている。
【0056】
そして図3に示すようにこの接着製品1Aを使用するときには、まずキャップ4Aを本体ケース3Aから取り外し、接着剤55Aを塗布する。そうすることにより、塗布される接着剤55Aは予め発色状態となっているので、使用者に好適に視認される。またこの接着剤55Aは上記実施形態同様、時間の経過により消色状態となる。これも上記実施形態同様に、接着剤55Aに含まれた閉環体となっているジアリールエテン系フォトクロミック化合物が自然条件下の光のうちの可視光が照射されることにより、その異性体である開環体へと移行する反応が進むからである。さらに本実施形態に係る接着剤55Aは、上述したフォトクロミック化合物に加えて、紫外線吸収剤を、例えば0.1〜1.0重量%含むものとしている。これにより、自然条件下の光が照射された場合であればその光に含まれる紫外光が紫外線吸収剤に吸収されるので、フォトクロミック化合物に対しては可視光がより作用し易い状態となり、速やかに消色状態となる。
【0057】
このように、本発明の塗布製品として、液状の接着剤55Aを塗布し得る接着製品1Aであっても、上記第一実施形態同様、フォトクロミック化合物自体の発色により塗布時における接着剤55Aの塗布した位置の確認が容易であるので塗り残しがより容易に視認できるとともに、自然条件下の光のもとで接着製品1Aは消色状態となるので接着剤55Aの塗布した跡を目立たなくし得たものとなっている。
【0058】
<第三実施形態>
以下に、本発明の第三実施形態に係る塗布製品である糊製品1Bについて図4乃至図6を参照しつつ説明する。当該実施形態において、上記実施形態の構成要素に相当するものについては同じ数字に「B」を付したものとするとともに、その詳細な説明を適宜省略するものとする。
【0059】
本実施形態に係る塗布製品である糊製品1Bは、一般には「スティック糊」と称されるものであり、固形状とし得る添加対象物の重量に対し、例えば0.005〜5.0重量%、好ましくは0.05〜3.0重量%、より好ましくは0.1〜1.0重量%のフォトクロミック化合物を混合させたものとしている。
【0060】
この糊製品1Bは、上記実施形態同様、特定の波長を有する特定波長光たる紫外光が照射されると発色し自然条件下の光が照射されると無色となるフォトクロミック化合物を含み、紫外光が照射されると発色状態となり自然条件下の光が照射されると消色状態となる塗布物たる糊55Bと、予め発色状態にある糊55Bを収納する容器である遮光ケース2Bとを具備することを特徴とするものである。
【0061】
この糊製品1Bは、具体的には遮光ケース2Bと、糊55Bスティック状に固めるようにして円柱状に整形してなるブロック5Bとを有している。
【0062】
遮光ケース2Bは、少なくとも可視光を遮光し得るように構成されたものであり、例えば合成樹脂製のものである。また遮光ケース2Bは、具体的には、糊55Bを収容し得る本体ケース3Bと、この本体ケース3Bを蓋止し得るキャップ4Bとを有している。またこの遮光ケース2Bは、例えば本体ケース3Bの基端側を回転させることによりブロック5Bを長手方向に突没させ得る構成を有しているが、当該構成は既存の構成を適用し得るので、具体的な説明を省略する。
【0063】
ブロック5Bは、糊55Bを円柱状に固め、その基端部がケース本体3Bに固定されることにより、ケース本体3Bから突没可能に動作し得るものである。
【0064】
糊55Bは、上述の通り固形の糊を構成し得る添加対象物に対し、上記第一実施形態同様のフォトクロミック化合物を例えば0.005〜5.0重量%、好ましくは0.05〜3.0重量%、より好ましくは0.1〜1.0重量%混合させたものとしている。
【0065】
そして図6に示すようにこの糊製品1Bを使用するときには、まずキャップ4Bを本体ケース3Bから取り外し、糊55Bを塗布する。そうすることにより、塗布される糊55Bは予め発色状態となっているので、使用者に好適に視認される。またこの糊55Bは上記実施形態同様、時間の経過により消色状態となる。これも上記実施形態同様に、糊55Bに含まれた閉環体となっているジアリールエテン系フォトクロミック化合物が自然条件下の光のうちの可視光が照射されることにより、その異性体である開環体へと移行する反応が進むからである。さらに本実施形態に係る糊55Bは、上述したフォトクロミック化合物に加えて、紫外線吸収剤を、例えば0.1〜1.0重量%含むものとしている。これにより、自然条件下の光が照射された場合であればその光に含まれる紫外光が紫外線吸収剤に吸収されるので、フォトクロミック化合物に対しては可視光がより作用し易い状態となり、速やかに消色状態となる。
【0066】
このように、本発明の塗布製品として、固形の糊55Bを塗布し得る糊製品1Bであっても、上記第一実施形態同様、フォトクロミック化合物自体の発色により塗布時における糊55Bの塗布した位置の確認が容易であるので塗り残しがより容易に視認できるとともに、自然条件下の光のもとで糊製品1Bは消色状態となるので糊55Bの塗布した跡を目立たなくし得たものとなっている。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0068】
例えば、上記各実施形態では転写具や接着剤といった塗布製品の態様を開示したが、勿論、本発明に係る塗布製品とは上記実施形態に限定されるものではない。また、塗布物としてウレタン系接着剤やゴム系溶剤形接着剤等の所謂多用途接着剤、酢酸ビニル樹脂系エマルションなどの木工用接着剤、液体のり等の水系接着剤を用いた塗布製品としても良い。さらに例えば、塗布物をインキとし筆記具のように使用し得る塗布製品や、塗布物をグリスとし、このグリスを散布し得る、所謂スプレーグリスとして使用される塗布製品であるなど、対象物に塗布する製品であれば、本発明の塗布製品を好適に構成し得る。また本発明に用い得るフォトクロミック化合物は、特定の波長を有する紫外光が照射されると発色し自然条件下の光が照射されると無色となるものであれば、スピロピラン系、スピロオキサジン系、フルギド系、シクロファン系又はアゾベンゼン系のフォトクロミック化合物や、他の化合物としても良い。また塗布物が収容される形状や遮光ケースの構成といった各部の具体的な態様は上記実施形態のものに限定されることはなく、既存のものを含め、種々の態様のものを適用することができる。
【0069】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【実施例】
【0070】
以下、本発明の実施例について詳述するが、本発明は当該実施例に限定されるものではない。
【0071】
<実施例1>
本実施例では、図7に示すように、上記第一実施形態において開示した粘着剤55を実現するために実施例1−1乃至1−23を作成し、それぞれの発色を調査した。発色の調査においてはそれぞれ1級(十分にかなり濃い発色)、2級(十分な発色)、3級(目視で発色が判断できる)、4級(少し発色が弱い)、5級(発色が弱い)及び6級(殆ど発色しない)という6段階評価を行なった。
【0072】
<試験方法>
同図に示すように、これら実施形態は、単体で粘着剤として使用し得るアクリル系エマルションを添加対象物として用い、上記各実施形態で適用されたジアリールエテン系のフォトクロミック化合物である1,2−ビス(2−メチルベンゾ(b)チオフェン−3−イル)ヘキサフルオロシクロペンテン(1,2-Bis(2-methylbenzo(b)thiophen-3-yl)hexafluorocyclopentene)(以下、化合物と記す)をそれぞれ図示の各ジアリールエテン濃度で添加した。化合物を添加する際には、各種溶剤に溶解させるか或いは直接化合物を分散させ、それを添加対象物にミキサー或いはマグネティックスターラーを用いてそれぞれ所定の時間にて混合攪拌を行なった。その後、両面剥離処理を施した厚さ19μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに塗工を行ない、所定の温度及び時間にて熱乾燥させた。なお、ここまでの工程が、本発明に係る塗布物作成工程に該当する。
しかる後に、粘着剤の厚み(のり厚み)を測定した。そしてその後、本発明に係る照射工程に該当するものとして、UVランプを十分に照射し発色状態とした。但しUVランプの照射は発色度合いを評価する便宜上、本実施例では感圧転写式テープに対してでは無く、粘着剤をコピー用紙(コクヨS&T社製 品番:KB−39N)に転写した後、AS ONE Handy Lamp SLUV−4を用い、波長365nmの紫外光を9.0W、0.15Aの出力にて所定時間照射するものとした。
そして実施例1−1〜1−11については、発色状態にある粘着剤に可視光を照射した際の、色の消え度合いをも調査した(消え色確認)。具体的には上述のコピー用紙に転写された発色状態にある当該実施例1−1〜1−11に対し、その上にさらに同コピー用紙を貼り合わせ、所定のオフィス内デスク上にて蛍光灯下に放置した。この放置された状態で上方から発色度合いを確認し、完全に色が消えた時間をそれぞれ記録した。
【0073】
<試験結果:実施例1−1〜1−11>
実施例1−1〜1−11について、ジアリールエテン濃度の違いによる発色の違いについて試験した。その結果、ジアリールエテン濃度が高い程強い発色を示す結果となった。特に添加対象物に対しジアリールエテンを0.05重量%添加した実施例1−3において、目視で発色を判断し得る5級の発色を得た。また実施例1−10、1−11の発色度合いが何れも1級と同程度の発色を示したことから、ジアリールエテンを5重量%以上添加しても、発色にそれ以上の影響がみられないものと考えられる。
また、これら実施例1−1〜1−11の色の消え度合いについては、化合物を0.05重量%以下のジアリールエテン濃度で添加した実施例1−1〜1−3については殆どすぐに消色が確認された。その一方で、0.1重量%以上のジアリールエテン濃度で添加した各実施例では、ジアリールエテン濃度に比例して色が消えるまでの時間が長くなる傾向を示した。そして最もジアリールエテン濃度が高い10.0重量%添加した実施例1−11については、39分後にして色が消えたことが確認された。
【0074】
<試験結果:実施例1−12〜1−17>
実施例1−12〜1−17について、溶剤の種類及び化合物と溶剤とを攪拌させる攪拌時間の違いによる発色の違いについて試験した。その結果、何れの実施例についても化合物を0.5重量%添加している実施例1−7の3級と同じ3級という結果を得た。このことから、溶剤の有無や種類に拘わらず、十分な攪拌を行なえばジアリールエテンは有効に発色し得ることが判った。
【0075】
<試験結果:実施例1−18、1−19>
実施例1−18及び1−19について、化合物を溶解させる溶剤すなわちアセトンの量の違いによる発色の違いについて試験した。その結果何れも実施例1−4に比べてアセトンの量を増やしたものの、発色には影響が見られなかった。
【0076】
<試験結果:実施例1−20〜1−23>
実施例1−20〜1−23について、化合物を溶解させる溶剤すなわちアセトンの量及び添加対象物への攪拌時間の違いによる発色の違いについて試験した。その結果何れも実施例1−7に比べ、発色には影響が見られなかった。
【0077】
<試験結果:実施例1−24〜1−26>
実施例1−24〜1−26について、粘着剤塗工後の乾燥時間及び乾燥温度の違いによる発色の違いについて試験した。その結果何れも実施例1−7に比べ、発色には影響が見られなかった。
【0078】
<試験結果:実施例1−27〜1−29>
実施例1−27〜1−29について、粘着剤の厚み寸法(のり厚み)の違いによる発色の違いについて試験した。その結果、粘着剤の厚みに比例して発色が強くなるという結果を得た。このことは、厚みに比例して化合物の量が増すことが影響していることが明らかとなった。併せて、上述したUVランプの照射によって、塗工された粘着剤の表面のみならず、厚み寸法における全領域に亘って隈無く発色している点も明らかとなった。
【0079】
以上に示した試験結果から、最も発色に影響するのはジアリールエテン濃度である点、次いで発色に影響するのは粘着剤の厚み寸法(のり厚み)である点が明らかとなった。発色を示す最も低いジアリールエテン濃度0.01重量%で添加した実施例1−2であり、逆に実施例1−10、1−11の結果から、ジアリールエテン濃度が5.0重量%以上になると発色が劇的に変わることも無い反面、消色時間は長く掛かってしまうことから、上記第一実施形態に係る塗布製品に好適に適用され得るジアリールエテン濃度は0.01〜5.0重量%であり、さらに好ましくは実施例1−4〜1−8に相当する0.1〜1.0重量%が発色・消色ともにバランスが良いと考えられる。
【0080】
<実施例2>
本実施例では、図8に示すように、上記第二実施形態において開示した接着剤55Aを実現するために実施例2−1乃至2−12を作成し、それぞれの発色を調査した。発色の調査においては実施例1同様、それぞれ1級(十分にかなり濃い発色)、2級(十分な発色)、3級(目視で発色が判断できる)、4級(少し発色が弱い)、5級(発色が弱い)及び6級(殆ど発色しない)という6段階評価を行なった。
【0081】
<試験方法>
同図に示すように、これら実施形態は、単体で瞬間接着剤として使用し得る、添加剤を加えていないシアノアクリレート単量体(純粋モノマー)及び市販品であるアロンアルフア(登録商標)・プロ用(ハイスピード)(コニシ株式会社製)アロンアルフア(登録商標)・プロ用(耐衝撃)(コニシ株式会社製)及びアロンアルフア(登録商標)・ゼリー状(コニシ株式会社製)、を添加対象物として用い、上記各実施形態で適用された化合物をそれぞれ図示の各濃度で添加した。化合物を添加する際には、溶剤を用いずにそのまま分散させ、容量5mlのポリプロピレン製カップ内でそれぞれ所定の時間にて混合攪拌を行なった。なお、ここまでの工程が、本発明に係る塗布物作成工程に該当する。
しかる後に、本発明に係る照射工程に該当するものとして、UVランプを十分に照射した。UVランプの照射は、AS ONE Handy Lamp SLUV−4を用い、波長365nmの紫外光を9.0W、0.15Aの出力にて所定距離、所定時間照射するものとした。
【0082】
<試験結果:実施例2−1〜2−4>
実施例2−1〜2−4について、添加対象物の違いについて試験した。その結果、何れの実施例についても2級という十分な発色を得た。これは当該化合物か、既存の瞬間接着剤として用いられるものに対し、溶剤を用いなくとも有効に適用し得ることを意味している。
【0083】
<試験結果:実施例2−5〜2−16>
実施例2−5〜2−16について、ジアリールエテン濃度の違いによる発色の違いについて試験した。その結果、化合物の濃度が高い程強い発色を示す結果となった。特に、ジアリールエテン濃度と発色については、0.005重量%添加した実施例2−5でもわずかに発色を示し、実施例2−15、実施例2−16の結果から明らかなように、5.0重量%以上のジアリールエテン濃度では変化が見られないほど十分な発色を示している。これらの結果から、上記の第二実施形態への適用を考えれば、好ましくは2〜4級の発色を示す実施例2−8〜2−13、すなわち、0.1〜1.0重量%のジアリールエテン濃度であることが望ましいことが明らかとなった。
【0084】
<試験結果:実施例2−17〜2−19>
実施例2−17〜2−19について、化合物を溶解させる際の攪拌方法及び攪拌時間の違いによる発色の違いについて試験した。その結果何れも実施例2−1同様に十分な発色を得た。換言すれば、化合物を溶解させる際の攪拌方法及び攪拌時間の違いによる発色の違いについては影響が見られなかった。
【0085】
<試験結果:実施例2−20〜2−21>
実施例2−20〜2−21について、照射工程におけるUVライト照射時の接着剤表面からの照射距離すなわち離間距離と、照射時間の違いによる発色の違いについて試験した。その結果、照射距離を二倍とし、照射時間を半分に短縮した実施例2−21については、目視で発色が判断できるに足る2.5級の発色を示したものの、実施例2−20の2級には及ばなかった。
【0086】
<実施例3>
本実施例では、図9に示すように、上記第一実施形態において開示した粘着剤55を実現するために実施例3−1乃至3−9並びに比較例3−1を作成し、それぞれを上記実施例1同様に発色させたものを可視光を当てて完全に消色させた後、特に紫外光が強い状況の野外に載置し、再発色が起こるか否かを調査した。発色の調査においてはそれぞれ1級(十分にかなり濃い発色)、2級(十分な発色)、3級(目視で発色が判断できる)、4級(少し発色が弱い)、5級(発色が弱い)及び6級(殆ど発色しない)という6段階評価を行なった。本実施例に用いる紫外線吸収剤は、シプロ化成株式会社の製品である「SEESORB 101(2-Hydroxy-4-methoxybenzophenone)」、「SEESORB 102(2-Hydroxy-4-n-octyloxybenzophenone)」及び「SEESORB 701(2-(2-Hydroxy-5-methylphenyl)benzotriazole)」を用いた。
【0087】
<試験方法>
同図に示すように、これら実施形態は、単体で粘着剤として使用し得るアクリル系エマルションを添加対象物として用い、上記各実施形態で適用されたジアリールエテン系のフォトクロミック化合物である1,2−ビス(2−メチルベンゾ(b)チオフェン−3−イル)ヘキサフルオロシクロペンテン(1,2-Bis(2-methylbenzo(b)thiophen-3-yl)hexafluorocyclopentene)(以下、化合物と記す)を1.0重量パーセント添加するとともに、3種の紫外線吸収剤をそれぞれ0.1、0.5及び1.0重量%添加した実施例3−1乃至3−9を作成した。また紫外線吸収剤を添加しない比較例3−1も併せて作成した。紫外線吸収剤の添加は、0.1mlのアセトンに薬さじで30秒間手動攪拌し溶解させた後、粘着剤に対しミキサーを用いてそれぞれ1分攪拌することにより行なった。その後、両面剥離処理を施した厚さ19μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに20〜25μmの厚みで塗工を行ない、150°で二分間熱乾燥させた。なお、ここまでの工程が、本発明に係る塗布物作成工程に該当する。
【0088】
<試験結果:比較例3−1、実施例3−1〜3−9>
紫外線吸収剤を何も配合していない比較例3−1に関しては、特に紫外光が強い状況の野外で4.5級もの再発色が確認された。それに対し、各実施例では4.5級よりも再発色することが無く、紫外線吸収剤による効果が確認された。特に紫外線吸収剤を1.0重量%混合した実施例3−3、3−6及び3−9については殆ど再発色することは無いとゆう特に良好な効果が確認された。
【0089】
<実施例4>
本実施例では、図10に示すように、上記第二実施形態において開示した接着剤55Aを実現するために比較例4−1及び実施例4−1乃至4−9を作成し、それぞれを上記実施例3同様に発色させたものを可視光を当てて完全に消色させた後、特に紫外光が強い状況の野外に載置し、再発色が起こるか否かを調査した。再発色の調査においては実施例1同様、それぞれ1級(十分にかなり濃い発色)、2級(十分な発色)、3級(目視で発色が判断できる)、4級(少し発色が弱い)、5級(発色が弱い)及び6級(殆ど発色しない)という6段階評価を行なった。
【0090】
<試験方法>
同図に示すように、これら実施例では、単体で瞬間接着剤として使用し得る、添加剤を加えていないシアノアクリレート単量体(純粋モノマー)を添加対象物として用い、上記各実施形態で適用された化合物並びに紫外線吸収剤をそれぞれ図示の各濃度で添加した。化合物を添加する際には、溶剤を用いずにそのまま分散させ、容量5mlのポリプロピレン製カップ内でそれぞれ所定の時間にて混合攪拌を行なった。なお、ここまでの工程が、本発明に係る塗布物作成工程に該当する。
しかる後に、本発明に係る照射工程に該当するものとして、UVランプを十分に照射した。UVランプの照射は、AS ONE Handy Lamp SLUV−4を用い、波長365nmの紫外光を9.0W、0.15Aの出力にて所定距離、所定時間照射するものとした。そして本実施例では発色させた比較例及び実施例を上記実施例3同様に発色させたものを可視光を当てて完全に消色させた後、特に紫外光が強い状況の野外に載置し、再発色が起こるか否かを調査した。
【0091】
<試験結果:比較例4−1、実施例4−1〜4−9>
紫外線吸収剤を何も配合していない比較例4−1に関しては、特に紫外光が強い状況の野外で4級もの再発色が確認された。それに対し、各実施例では4.5級よりも再発色することが無く、紫外線吸収剤による効果が確認された。特に紫外線吸収剤を1.0重量%混合した実施例4−3、4−6及び4−9については殆ど再発色することは無いとゆう特に良好な効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は糊や接着剤等、対象物に塗布物を塗布するための塗布製品として利用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1…塗布製品(転写具)
2…遮光ケース
54…感圧式転写テープ
55…塗布物(粘着剤)
56…基材
1A…塗布製品(接着製品)
2A…遮光ケース
55A…塗布物(接着剤)
1B…塗布製品(糊製品)
2B…遮光ケース
55B…塗布物(糊)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の波長を有する紫外光が照射されると発色し自然条件下の光が照射されると無色となるフォトクロミック化合物が添加されることにより自然条件下の光が照射されると発色状態から消色状態となる塗布物と、
発色状態にある前記塗布物を可視光から遮光された状態で収納し、前記塗布物の前記発色状態を維持する遮光性容器とを具備することを特徴とする塗布製品。
【請求項2】
前記フォトクロミック化合物が、ジアリールエテン系のフォトクロミック化合物である請求項1記載の塗布製品。
【請求項3】
前記塗布物が、前記フォトクロミック化合物を当該フォトクロミック化合物が添加される添加対象物に対し0.005〜5.0重量%添加されたものである請求項1又は2記載の塗布製品。
【請求項4】
前記塗布物が、前記フォトクロミック化合物を当該フォトクロミック化合物が添加される添加対象物に対し0.1〜1.0重量%添加されたものである請求項3記載の塗布製品。
【請求項5】
前記塗布物が薄膜状の基材に剥離可能に塗布された状態で感圧式転写テープを構成する粘着剤であり、前記遮光性容器が、前記感圧式粘着剤を保持している転写具のケースである請求項1、2、3又は4記載の塗布製品。
【請求項6】
前記塗布物が、アクリル系粘着剤である請求項5記載の塗布製品
【請求項7】
前記塗布物が液状をなす接着剤である請求項1、2、3又は4記載の塗布製品。
【請求項8】
前記接着剤がシアノアクリレートを含むものである請求項7記載の塗布製品。
【請求項9】
前記塗布物が固形状をなす糊である請求項1、2、3又は4記載の塗布製品。
【請求項10】
前記塗布物が、紫外線吸収剤を含むものである請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載の塗布製品。
【請求項11】
特定の波長を有する紫外光の照射により発色するとともに自然条件下の光が照射されることにより無色となるフォトクロミック化合物を添加対象物へ添加することにより自然条件下の光の照射により発色状態から消色状態へとなる塗布物を作成する塗布物作成工程と、
作成された前記塗布物に前記紫外光を照射することにより前記塗布物を前記発色状態とする照射工程と、
この照射工程を経た前記塗布物を遮光性を有する遮光性容器に前記発色状態で充填する充填工程とを有することを特徴とする塗布製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−10184(P2013−10184A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142556(P2011−142556)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000001351)コクヨ株式会社 (961)
【Fターム(参考)】