説明

塗料用組成物

【課題】 食品及び飲料用金属缶に塗装され、加工性や密着性、耐レトルト性、フレーバー性に優れた塗膜となる塗料用組成物を提供する。
【解決手段】 2種のポリエステル樹脂(A)及び(B)を含有する塗料用組成物であって、ポリエステル樹脂(A)はジカルボン酸成分が芳香族ジカルボン酸80〜100モル%からなり、グリコール成分が2−メチル−1,3−プロパンジオール40〜90モル%、1,2−プロパンジオール10〜60モル%からなり、かつ極限粘度が0.45以上、ガラス転移温度が50℃以上であり、ポリエステル樹脂(B)はジカルボン酸成分が芳香族ジカルボン酸60〜100モル%からなり、グリコール成分が側鎖を有する脂肪族グリコール50〜100モル%からなり、かつ極限粘度が0.60以上、ガラス転移温度が20℃未満であって、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)との混合比率が質量比で(A)/(B)=90〜50/10〜50である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品、及び飲料用金属缶に塗装され、加工性や金属密着性、耐レトルト性、フレーバー性に優れた塗膜となり得る樹脂組成物に関するものであり、また、汎用の有機溶剤に対する溶解性が良好で塗装時の取り扱い性、溶液の貯蔵安定性に優れた塗料となり得る塗料用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属缶用鋼板を塗装する場合にはポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂等の塗料が用いられている。また、中でも食料や飲料用の金属缶に用いられる塗料は、内容物の風味やフレーバーを損なわず、かつ多種多様の食物による缶材質の腐食を防止することを目的として使用されるものであり、したがって、無毒性であること、さらに加熱殺菌処理に耐えること、接着性、加工性に優れること等が要求されているが、ポリ塩化ビニル系樹脂やエポキシ−フェノール系樹脂は、衛生上や環境上の問題を抱えているのが現状である。
【0003】
一方、特許文献1や特許文献2には、塗装や焼付けが容易で、金属密着性に優れ、焼却時に有毒、腐食ガスを発生しない樹脂として、ポリエステル系樹脂が提案されている。しかし、近年では食料缶や飲料缶の形態が複雑なものとなり、そのような複雑な加工処理に対しては金属密着性が不足しているために加工性に劣り、さらには沸水又は蒸気による加熱処理時における耐レトルト性や内容物の風味が変化してしまうというフレーバー性にも劣るものである。そして、これらの問題を解決する方法として特許文献3や特許文献4には、プロピレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオールを1種以上含有するポリエステルが提案されているが、加工性、耐レトルト性、フレーバー性等の塗膜性能と汎用の有機溶剤に対する溶解性を両立することできなかった。
【特許文献1】特公昭60-42829号
【特許文献2】特公昭61-36548号
【特許文献3】特開2001-106969号
【特許文献4】特開2001-311040号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記のような問題点を解決し、汎用の有機溶剤に対する溶解性が良好で、かつ金属密着性に優れ、加工性や耐レトルト性、フレーバー性が良好で、缶に適した塗装金属板を与える塗料用組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記したポリエステル樹脂の溶剤溶解性や密着性、加工性、耐レトルト性、フレーバー性の問題を解決するために、鋭意検討を行った結果、特定の樹脂組成でガラス転移温度の異なる2種のポリエステル樹脂を特定比率で混合することにより高い金属密着性を示し、さらには加工性と耐レトルト性の両特性を併せ持つ塗料組成物を見出し、本発明に到達した。
【0006】
すなわち本発明は、2種のポリエステル樹脂(A)及び(B)を含有する塗料用組成物であって、ポリエステル樹脂(A)はジカルボン酸成分が芳香族ジカルボン酸80〜100モル%からなり、グリコール成分が2−メチル−1,3−プロパンジオール40〜90モル%、1,2−プロパンジオール10〜60モル%からなり、かつ極限粘度が0.45以上、ガラス転移温度が50℃以上であり、ポリエステル樹脂(B)はジカルボン酸成分が芳香族ジカルボン酸60〜100モル%からなり、グリコール成分が側鎖を有する脂肪族グリコール50〜100モル%からなり、かつ極限粘度が0.60以上、ガラス転移温度が20℃未満であって、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)との混合比率が質量比で(A)/(B)=90〜50/10〜50であることを特徴とする塗料用組成物を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の缶塗料用樹脂組成物によれば、レトルト性、フレーバー性に優れた塗膜を得ることができ、また、巻締め加工や絞り加工等の高度な加工に対しても塗膜の剥離やクラックを生じることなく、食料品容器等の2ピース缶の上蓋、缶胴や3ピース缶の上蓋、底蓋として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明の塗料組成物はポリエステル樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)を含有するものであり、この内、ポリエステル樹脂(A)のジカルボン酸成分は芳香族ジカルボン酸80〜100モル%からなることが必要である。芳香族ジカルボン酸が80モル%未満では得られる樹脂のガラス転移温度が低くなり、得られる塗膜が耐レトルト性、フレーバー性に劣るものとなるため好ましくない。
【0010】
また、ポリエステル樹脂(A)のグリコール成分は、2−メチル−1,3−プロパンジオール40〜90モル%、1,2−プロパンジオール10〜60モル%からなる。
【0011】
加工性を向上させるためには、分子量を高くすることが好ましく、また、耐レトルト性、耐ブロッキング性を向上させるためには、ガラス転移温度が高い方が良い。更に溶剤溶解性を付与するためには、側鎖を有するモノマーを共重合することが好ましい。これらを考慮すると、ガラス転移温度と溶剤溶解性の点から1,2−プロパンジオールを主体とするポリエステルとすることが好ましい。しかし、1,2−プロパンジオールを共重合するとその熱安定性の悪さから重合性が低下し、本発明の目的とする加工性を満足できる程に分子量を高くすることは困難であった。一方、2−メチル−1,3−プロパンジオールを主体とするポリエステルでは、溶剤溶解性が向上し、分子量の増加と柔軟性の付与による加工性の向上を図ることができるが、ガラス転移温度が低下するため、耐レトルト性が劣るものとなる。従って、1,2−プロパンジオールと2−メチル−1,3−プロパンジオールを適切に組み合わせることによって、初めて本発明の目的を達成しうるポリエステルを得ることができるようになるのである。
【0012】
すなわち、グリコール成分のうち2−メチル−1,3−プロパンジオールが40モル%未満では、得られるポリエステル樹脂の溶剤溶解性が低下するとともに、塗膜とした時の加工性が低下するため好ましくない。90モル%を越える場合には、ポリエステル樹脂の溶剤溶解性が低下するとともに、ガラス転移温度が低くなり、耐レトルト性やフレーバー性、耐ブロッキング性に劣るものとなるため好ましくない。また、1,2−プロパンジオールが10モル%未満ではポリエステル樹脂の溶剤溶解性が低下するとともに、ガラス転移温度が低くなり、耐レトルト性やフレーバー性に劣るものとなるため好ましくない。60モル%を越える場合には、ポリエステル樹脂の重合性が悪化し、生産性が低下するとともに、フレーバー性が劣るものとなるため好ましくない。
【0013】
次に、ポリエステル樹脂(B)のジカルボン酸成分は、芳香族ジカルボン酸60〜100モル%からなることが必要である。芳香族ジカルボン酸が60モル%に満たないと樹脂のフレーバー性が劣るものとなるため好ましくない。
【0014】
また、ポリエステル樹脂(B)のグリコール成分は、側鎖を有する脂肪族グリコール50〜100モル%からなることが必要である。側鎖を有する脂肪族グリコールを共重合することで金属密着性が向上すると共に、疎水性が向上するため耐レトルト性、溶剤溶解性も向上する。すなわち側鎖を有する脂肪族グリコールが50モル%未満の場合では、得られる樹脂の溶剤溶解性が劣るものとなるため好ましくない。
【0015】
ポリエステル樹脂(A)及び(B)を構成する芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。
【0016】
また、ポリエステル樹脂(A)又は(B)を構成する芳香族ジカルボン酸以外の成分として、本発明の効果を損ねない範囲で以下のようなカルボン酸を共重合しても構わない。そのようなカルボン酸成分としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、水添ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、非水添ダイマー酸等の不飽和ジカルボン酸、トリメリット酸等のトリカルボン酸が挙げられ、中でもコハク酸、アジピン酸、セバシン酸が好ましい。
【0017】
本発明において、ポリエステル樹脂(B)を構成する側鎖を有するグリコール成分としては、1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−エチル−1,5−ペンタンジオール、3−プロピル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,6−ヘキサンジオール、4−メチル−1,7−ヘプタンジオール、4−メチル−1,8−オクタンジオール、4−プロピル−1,8−オクタンジオールが挙げられ、中でもガラス転移温度の点から1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオールが好ましい。
【0018】
また、ポリエステル樹脂(A)及び(B)を構成するグリコールとしては、本発明の効果を損ねない範囲で以下のようなグリコールを共重合しても構わない。すなわち、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等の脂肪族グリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール等が挙げられ、中でも、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコールが好ましい。
【0019】
ポリエステル樹脂(A)の極限粘度は0.45以上であることが必要であり、好ましくは0.48以上である。ポリエステル樹脂(B)の極限粘度は0.60以上であることが必要であり、好ましくは0.65以上である。それぞれのポリエステル樹脂の極限粘度が所望の範囲に満たない場合には、得られる塗膜が脆くなり、加工性に劣るものとなるため好ましくない。
【0020】
また、ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度は50℃以上であることが必要であり、好ましくは60℃以上である。ポリエステル樹脂(B)のガラス転移温度は20℃未満であることが必要であり、好ましくは15℃未満である。ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が60℃未満であると耐レトルト性が低下しやすくなるため、好ましくない。一方、ポリエステル樹脂(B)のガラス転移温度が20℃以上の場合には、得られる塗膜による柔軟性付与の作用が低下するため、加工性が低下し好ましくない。
【0021】
ポリエステル樹脂(A)及び(B)の酸価は3mgKOH/g未満が好ましく、更に好ましくは2mgKOH/g未満である。ポリエステル樹脂の酸価が3mgKOH/g以上の場合には、ポリエステル樹脂の耐加水分解性が低下するため、レトルト処理時に粘度低下し好ましくない。
【0022】
また、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)は質量比で(A)/(B)=90〜50/10〜50の比率で混合されていることが必要である。ポリエステル樹脂(A)の比率が90質量%を越えると、塗料組成物の分子量が低くなり、塗装金属板の延伸加工性が低下するため好ましくない。また、ポリエステル樹脂(A)の比率が50質量%未満では、塗膜にしたときのガラス転移温度が低くなり、耐レトルト性、フレーバー性が低下するだけでなく、塗装金属板を重ねる、あるいは巻いた状態で保存した場合にブロッキングを起こしやすくなるため好ましくない。
【0023】
ガラス転移温度が低い樹脂は延伸加工における加工性が良好であり、ガラス転移温度の高い樹脂に混合することで加工性を改良する方法は一般的である。しかし、上述したポリエステル樹脂(B)は、それ自身も金属密着性に優れているため、ポリエステル樹脂(A)と混合することで、ポリエステル樹脂(A)の高い金属密着性を損ねることなく、加工性を更に向上させ、深絞り加工のような高度な延伸加工性が必要な用途にも十分な延伸追随性を有する塗膜を得ることが可能となったのである。
【0024】
本発明の塗料組成物に用いるポリエステル樹脂を製造する方法は、特に制限されるものではなく、上記したジカルボン酸成分とグリコール成分とを用い、直接エステル化やエステル交換法等の溶融重縮合による従来公知の製造方法によって製造することができる。
【0025】
例えば、ジカルボン酸成分、グリコール成分及び重縮合触媒を一括して反応器に仕込み、系内の空気を排出し、窒素置換する。その後、エステル化温度(通常200〜260℃)になるまで昇温し、攪拌しながら3〜5時間反応を行う。エステル化反応終了後、重縮合温度(通常220〜260℃)まで昇温し、さらに系内を減圧にし高真空下(5hPa以下)で重縮合反応を行う。反応時間は製造するポリエステル樹脂の種類によって異なるが、通常4〜6時間である。重縮合反応終了後、系内に窒素を封入し減圧を解除した後、得られた樹脂を払い出す方法が挙げられる。
【0026】
また、重縮合触媒としては、従来から一般的に用いられているスズ、チタン、アンチモン、ゲルマニウム、コバルト等の金属化合物が好適である。
本発明の塗料用組成物は、上記した本発明のポリエステル樹脂の他に、硬化剤及び有機溶剤からなるものである。
【0027】
本発明の塗料用組成物に用いられる硬化剤としては、フェノール樹脂、アミノプラスト樹脂、メラミン樹脂、多官能イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、多官能アジリジン化合物から選ばれる少なくとも1種のものが用いられる。硬化剤の配合量は、ポリエステル樹脂の水酸基価に対して0.9〜1.2倍量とすることが好ましい。硬化剤の配合量が0.9倍量未満であると、架橋反応が不十分になり、特に缶とした場合にレトルト白化の問題が起こり易くなる。一方、硬化剤の配合量が1.2倍量を超えると、硬化剤が過剰になるため、飲料に溶け出しフレーバー性を悪化させる傾向となる。
【0028】
本発明の塗料用組成物に使用することができる有機溶剤としては、上述したポリエステル樹脂と硬化剤をともに溶解するものであればいかなるものでも良い。
【0029】
使用可能な有機溶剤を具体的に例示すると、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系の溶剤、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン等の塩素系の溶剤、酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系の溶剤、イソホロン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系の溶剤、ジエチルエーテル、ブチルセルソルブ、エチルセルソルブ、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系の溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系の溶剤、ブタン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、ソルベッソ100 、ソルベッソ150 等の脂肪族炭化水素系の溶剤等が挙げられる。これらは単独で使用することもできるが、複数種以上混合して使用することもできる。この中で好適に用いられるものとして、シクロヘキサノンやシクロヘキサノンとソルベッソ100の混合溶剤、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶剤、酢酸エチル等が挙げられ、溶解性や蒸発速度を考慮して適宜選択し、使用すればよい。
【0030】
また、塗料用組成物には、本発明の特性を損なわない範囲で、ポリエステル樹脂と硬化剤として用いられる樹脂以外の樹脂、例えばアルキド樹脂、ウレタン樹脂、ビスフェノール構造を含有しないエポキシ樹脂、アクリル樹脂変性オレフィン樹脂、セルロース誘導体等を併用させることができる。さらに必要に応じて、硬化反応を促進させる反応触媒、ハジキ防止剤、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、レオロジーコントロール剤、顔料分散剤、滑剤、離型剤等を併用することもできる。
【0031】
塗料用組成物中における固形分濃度は、10質量%以上であることが好ましく、15〜50質量%の範囲とすることがより好ましい。固形分濃度が10質量%未満である場合には、分厚い塗膜を形成することが困難になるばかりでなく、塗料中の有機溶剤の比率が高くなり、塗膜を形成する際の溶剤留去に時間を要し、生産性が低下するといった問題が生じる。
【0032】
本発明の塗料用組成物はディップコート法、はけ塗り法、ロールコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、カーテンフローコート法、各種印刷法等により、金属板に均一に塗布される。
【0033】
次に、本発明の塗装金属板について説明する。
【0034】
塗布用基材である金属板としては、シート状又は帯状の鋼板、アルミニウム板、あるいはそれらの表面に種々のメッキ処理や化成処理を施したものが挙げられる。その中でも、クロム水和酸化物皮膜を有したものが好ましく、下層が金属クロムで上層がクロム水和酸化物の二層構造の皮膜をもつティンフリースチール(TFS)が好ましい。また、鋼板表面に錫、ニッケル、亜鉛、アルミニウム等の一種又は二種以上の複層メッキもしくは合金メッキを施し、その上層に前記の二層構造をもつ皮膜もしくはクロム水和酸化物皮膜を形成させたもの、アルミニウムに電解クロム酸処理もしくは浸漬クロム酸処理等を施し、表層にクロム水和酸化物皮膜を形成させたもの等も用いることができる。
【0035】
そして、塗料を金属板上に塗布後、焼き付けつけることで缶内面コート層を形成することができる。塗膜の厚みは、0.2〜100μmとすることが好ましく、1〜10μmとすることがより好ましい。0.2μm未満の厚みでは、缶成形工程で塗膜が破損(剥離、亀裂)し、耐食性、フレーバー性の劣った缶しか得られない。一方、100μmを超える厚みでは、塗料に用いられる有機溶剤が残留する恐れがあったり、有機溶剤を完全に除去できたとしても、溶剤留去工程に時間がかかり生産性が低下する問題が生じる。
【0036】
焼き付け工程は、温度180〜250℃で10〜60分の範囲で行うことが好ましく、温度200〜240℃で20〜40分の範囲で行うことがより好ましい。温度180℃未満で焼き付けた場合には、有機溶剤の除去が不完全になったり、硬化反応が十分に進行しないため、耐食性の劣った缶しか得られない。一方、温度250℃を超える温度で焼き付けた場合には、硬化剤との反応は十分に進行するが、ポリエステル樹脂が熱分解することがある。また、焼き付け時間が10分未満である場合には、有機溶剤の除去が不完全になったり、硬化反応が十分に進行せず、耐食性の劣った缶しか得られない。一方、焼き付け時間が60分を超える場合には、生産性が低下する。
【0037】
このようにして得られた樹脂被膜が形成された金属板を用いることにより、耐熱性に優れ、レトルト処理のような高温処理が可能で、過酷な加工処理を施してもピンホールやミクロクラック等の欠陥が生じることがなく、しかも耐食性や耐衝撃性に優れた金属缶体を製造することができる。
【0038】
上記のようにして得られた塗膜を有する金属板は、2ピース缶の缶胴や上蓋、3ピース缶の上蓋、底蓋材等加工性が必要な部材として用いることができる。
【0039】
本発明の塗料組成物が優れた加工性を示す理由は、ポリエステル樹脂中に1,2−プロピレングリコールを共重合していることで、基材となる金属との密着性が向上し、更に2−メチル−1,3−プロパンジオールが共重合されていることで、ポリエステル樹脂の柔軟性、延伸性が向上しているため、金属の変形に対する追随性が非常に高くなっているのである。さらに、側鎖を有するグリコールが共重合され金属密着性に優れたガラス転移温度の低い樹脂と組み合わせることで、加工性が更に向上しているのである。
【実施例】
【0040】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
各測定、評価項目は下記の方法によった。
(1)樹脂組成の測定
日本電子工業社製1H-NMRスペクトロメータJNM-LA400装置で測定した。
(2)極限粘度([η])の測定
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、温度20℃で測定した。
(3)ガラス転移温度(Tg)の測定
セイコー電子工業社製示差走査熱量計SSC5200を用いて10℃/分の昇温速度で測定した。
(4)溶剤溶解性
得られたポリエステル樹脂をシクロヘキサノンに溶解し、30質量%溶液とした後、25℃で1週間放置した後の溶解安定性を溶解性として評価した。
○:良好
×:白濁、固化あるいは不溶
(5)塗料組成物の作製
硬化剤としてフェノール樹脂(群栄化学社製、レジトップ PL-4523)を、ポリエステル樹脂の末端水酸基価と等量配合し、シクロヘキサノン/ソルベッソ100 の混合溶剤(体積比1/1)に30質量%となるように溶解し、塗料組成物を作製した。
(6)塗装金属板の作製
上記(5)で作成した塗料組成物をTFS(ティンフリースチール、150mm×150mm×0.3mm)上にバーコーター#38にて膜厚が10〜15μmになるように塗布し、引き続き200℃に調節した熱風循環型のオーブン内で30分間乾燥と焼き付けを行って、塗装金属板を作製した。
(7)加工性
上記(6)で作成した塗装金属板を円形に打ち抜き、薄肉深絞り成形を行って、直径100mm、深さ120mm、絞り比(深さと直径との比)1.2のカップを作成した。このカップ内に1質量%の食塩水を入れ、80℃で24時間加熱し、カップ内に生じた錆の量及びその状態を目視で判定した。
○:殆ど錆が見られない。
×:錆が見られる。
(8)耐レトルト性
塗装金属板を130℃水蒸気下で30分処理した後、塗膜の白化の状態を目視で判定した。
○:良好
×:白化あり
(9)フレーバー性
フッ素樹脂シート上に膜厚50μmとなるように塗料樹脂組成物を塗布し、230℃で60秒乾燥硬化した後、膜を剥がしフィルム状サンプルを得た。得られたフィルムを150mm×450mmに切り出し、D−リモネン95%水溶液に浸し、40℃で10日間浸漬した。その後、フィルムを取り出し、80℃で30分間熱処理し、ガスクロマトグラフィーによりフィルム1g当たりのD−リモネン吸着量(mg/g)を測定した。なお、D−リモネン吸着量が10mg/g以下を合格とした。
○:D−リモネン吸着量が10mg/g以下である。
×:D−リモネン吸着量が10mg/gを越えている。
【0041】
樹脂製造例A−1
テレフタル酸38.8kg、2−メチル−1,3−プロパンジオール14.7kg、1,2−プロパンジオール16.0kgをエステル化反応器に仕込み、圧力0.5MPa、温度230℃で4時間エステル化反応を行った。得られたポリエステルオリゴマーを重合反応器に移送し、ヒドロキシブチルスズオキサイド39.1gを投入した後、反応系内を60分かけて0.4hPaとなるまで徐々に減圧し、その後、温度230℃で4時間の重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の特性値を表1に示す。
【0042】
樹脂製造例A−2〜8、B−1〜5
原料の仕込み条件を変更し、ポリエステル樹脂の組成と極限粘度を表1に示すように変更した以外は、樹脂製造例1と同様にしてポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の特性値を表1に示す。
【0043】
【表1】

実施例1
ポリエステル樹脂(A)として樹脂製造例A−1で得られた樹脂と、ポリエステル樹脂(B)として樹脂製造例B−1で得られた樹脂を用い、質量比(A)/(B)=80/20となるように混合した後、先に述べた方法により塗料用組成物、及び塗装金属板を得た。得られた塗装金属板による加工性と耐レトルト性の評価結果を表2に示す。
【0044】
実施例2〜5、比較例1〜7
ポリエステル樹脂(A)及び(B)、さらには混合比率を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして塗料組成物、及び塗装金属板を得た。得られた塗装金属板による加工性と耐レトルト性の評価結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

表1及び表2から明らかなように、実施例1〜5のポリエステル樹脂から得られる塗膜は、加工性やレトルト性、フレーバー性の全てを満足するものであった。一方、比較例1では、ポリエステル樹脂(A)に2ーメチル−1,3−プロパンジオールが含まれてないために、溶剤溶解性に劣るものであり、塗料化できなかった。比較例2では、ポリエステル樹脂(A)に1,2−プロパンジオールが含まれていないために、溶剤溶解性に劣るものであり、塗料化できなかった。比較例3では、ポリエステル樹脂(A)の2−メチル−1,3−プロパンジオールが多いために、ガラス転移温度が低いものとなりレトルト性やフレーバー性に劣るものであった。比較例4では、ポリエステル樹脂(B)に共重合されているセバシン酸が多いために、フレーバー性に劣るものであった。比較例5では、ポリエステル樹脂(B)の側鎖を有する脂肪族グリコールが少ないために、溶剤溶解性に劣るものであり、塗料化できなかった。比較例6では、ポリエステル樹脂(A)の混合比率が低いため、塗膜のガラス転移温度が低下し、耐レトルト性、フレーバー性が低下した。比較例7では、ポリエステル樹脂(A)および(B)の極限粘度が低いため、加工性に劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種のポリエステル樹脂(A)及び(B)を含有する塗料用組成物であって、ポリエステル樹脂(A)はジカルボン酸成分が芳香族ジカルボン酸80〜100モル%からなり、グリコール成分が2−メチル−1,3−プロパンジオール40〜90モル%、1,2−プロパンジオール10〜60モル%からなり、かつ極限粘度が0.45以上、ガラス転移温度が50℃以上であり、ポリエステル樹脂(B)はポリカルボン酸成分が芳香族ジカルボン酸60〜100モル%からなり、グリコール成分が側鎖を有する脂肪族グリコール50〜100モル%からなり、かつ極限粘度が0.60以上、ガラス転移温度が20℃未満であって、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)との混合比率が質量比で(A)/(B)=90〜50/10〜50であることを特徴とする塗料用組成物。
【請求項2】
請求項1記載の塗料用組成物を金属板の少なくとも片面に塗布したことを特徴とする塗装金属板。

【公開番号】特開2006−37014(P2006−37014A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−221944(P2004−221944)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】