説明

塗膜の汚れ促進試験方法及び塗膜の耐汚れ性評価方法

【課題】 塗膜の耐汚れ性を簡単かつ短時間で評価でき、しかもその評価も信頼性の高いものとする。
【解決手段】紫外線含有光の照射により塗膜を光劣化させる光劣化工程及び酸性液により塗膜を酸劣化させる酸劣化工程よりなる劣化工程と、光劣化及び酸劣化した前記塗膜に人工汚れ物質を固着させる汚れ固着工程とを含む。光劣化及び酸劣化させた塗膜に対して人工汚れ物質を固着させることから、塗膜に対する人工汚れ物質の固着が確実となる。このため、サイクルを何回も繰り返す必要がない。また、試験後の汚れ状態と実際の暴露における汚れ状態との相関を大きくして、試験後の塗膜を、実際の暴露における汚れ状態に近似した汚れ状態とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗膜の汚れ促進試験方法及び塗膜の耐汚れ性評価方法に関し、詳しくは自動車外板塗膜などの耐汚れ性を評価すべく、塗膜に付着する汚れを促進して試験するための試験方法及びこの試験方法を用いた塗膜の耐汚れ性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車など屋外で使用される物に塗装された塗膜は、日光や雨にさらされるために次第に劣化し、この劣化は長期にわたって徐々に進行する。しかし、塗膜の設計開発において、長期にわたる暴露試験を実施していたのでは、開発に要する期間の長期化につながる。このため、一般には促進耐候性試験によって実際に暴露された場合の劣化度合いを判断している。
【0003】
この促進耐候性試験としては、サンシャインウェザオメータやQUVなどの各種促進耐候性試験装置が市販されている。そして、これらの装置を用いて得られた劣化状態と実際の暴露における劣化状態とは、時間的、定量的及び定性的な相関関係が明らかなものとなり、充分信頼性のある促進試験方法として確立されている。
【0004】
ところで、屋外で雨や風にさらされる塗膜には、工場や自動車から排出される汚れ物質、鳥の糞、あるいは砂や花粉などの種々の汚れ物質が付着する。この汚れは一般に水洗により除去できるが、その汚れ度合いや水洗性などは塗膜の種類や塗膜の劣化度などにより異なるため、塗膜設計に当たっては耐汚れ性も評価項目とすることが望ましい。
【0005】
そこで、塗膜の耐汚れ性を評価するための試験方法として、塗膜の汚れ促進試験方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
この汚れ促進試験方法は、粒径が小さい第1カーボンブラック、この第1カーボンブラックより粒径が大きい第2カーボンブラック及び粘土からなる人工汚れ物質を塗膜表面に付着させるA工程と、pHが4未満の酸性水を塗膜表面に付着させ次いで水分を乾燥させるB工程と、塗膜に紫外線を含む光を照射するC工程とからなり、A工程−B工程−C工程、B工程−A工程−C工程、(A工程+B工程)−C工程及びA工程−C工程−B工程から選ばれる一つの順に実施する試験を1サイクルとし、これを複数サイクル繰り返すものである。
【0007】
すなわち、この汚れ促進試験方法では、人工汚れ物質を塗膜に付着させるA工程及び酸性水で塗膜を酸化劣化させるB工程をこの順若しくは逆の順で実施するか又は同時に実施した後に塗膜を紫外線で光劣化させるC工程を実施するか、又は人工汚れ物質を塗膜に付着させるA工程、酸性水で塗膜を酸化劣化させるB工程及び塗膜を紫外線で光劣化させるC工程をこの順で実施する試験を1サイクルとし、これを複数サイクル繰り返す。そして、所定サイクル繰り返された後は塗膜を水洗し、例えば促進試験前の塗膜との色差を測定することで、塗膜の耐汚れ性を評価する。
【特許文献1】特開平7−35680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の汚れ促進試験方法では、1サイクルにおいてA工程、B工程及びC工程を上述した順で実施することから、以下に示すような不都合があることが本発明者の研究により判明した。
【0009】
すなわち、1サイクルにおいてA工程−B工程−C工程の順で実施する場合及びA工程−C工程−B工程の順で実施する場合は、酸劣化及び光劣化させる前の塗膜に人工汚れ物質を付着させることから、塗膜に汚れが十分に付着しない。同様に、1サイクルにおいてB工程−A工程−C工程の順で実施する場合は、酸劣化のみさせて光劣化はされていない塗膜に人工汚れ物質を付着させることから、塗膜に汚れが十分に付着しない。このため、試験後の汚れ状態を実際の暴露における汚れ状態に近づけて両者の相関を大きくするためには、複数サイクル繰り返す必要があり、これでは評価に手間と時間がかかってしまう。
【0010】
一方、1サイクルにおいて(A工程+B工程)−C工程の順で実施する場合のように、人工汚れ物質と酸性水を混合した分散液を塗膜に付着させ、その後光劣化させる場合は、塗膜の汚れ度合にサイクル毎でバラツキがあるということが判った。1サイクル実施後の塗膜に汚れ度合のバラツキがあっても、複数サイクルの繰り返しにより、バラツキが相殺されて試験結果と実際の暴露における汚れ状態との相関が大きくなることも偶然にはありうるが、このような偶然に頼っていては信頼性高く評価することが困難である。
【0011】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、塗膜の耐汚れ性を簡単かつ短時間で評価でき、しかもその評価も信頼性の高いものとすることのできる塗膜の汚れ促進試験方法及び塗膜の耐汚れ性評価方法を提供することを解決すべき技術課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の塗膜の汚れ促進試験方法は、紫外線含有光の照射により塗膜を光劣化させる光劣化工程及び酸性液により塗膜を酸劣化させる酸劣化工程よりなる劣化工程と、光劣化及び酸劣化した前記塗膜に人工汚れ物質を固着させる汚れ固着工程とを含むことを特徴とするものである。
【0013】
好適な態様において、前記光劣化工程を行った後に前記酸劣化工程を行う。
【0014】
好適な態様において、前記酸劣化工程では、前記塗膜に前記酸性液を接触させた後、加熱雰囲気で該塗膜を乾燥させる。
【0015】
好適な態様において、前記酸化劣化工程の後に、前記塗膜を水洗いして該塗膜表面から酸成分を除去する酸除去工程を行う。
【0016】
好適な態様において、前記汚れ固着工程では、前記人工汚れ物質を接触させた前記塗膜を所定温度に加熱して、該塗膜に該人工汚れ物質を固着させる。
【0017】
好適な態様において、前記汚れ固着工程の後に、前記塗膜に水を掛ける水洗工程を行う。
【0018】
上記課題を解決する本発明の塗膜の耐汚れ性評価方法は、請求項1乃至6に記載の塗膜の汚れ促進試験方法を1サイクル実施した後の前記塗膜の耐汚れ付き性を評価することを特徴とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の塗膜の汚れ促進試験方法は、紫外線含有光の照射により前記塗膜を光劣化させる光劣化工程及び酸性液により前記塗膜を酸劣化させる酸劣化工程よりなる劣化工程と、光劣化及び酸劣化した前記塗膜に人工汚れ物質を固着させる汚れ固着工程とを含む。
【0020】
このように本発明の塗膜の汚れ促進試験方法では、光劣化及び酸劣化させた塗膜に対して人工汚れ物質を固着させることから、塗膜に対する人工汚れ物質の固着が確実となる。このため、試験後の汚れ状態と実際の暴露における汚れ状態との相関を大きくするために、サイクルを何回も繰り返す必要がない。したがって、塗膜の耐汚れ性を簡単かつ短時間で評価することが可能となる。
【0021】
試験に供する塗膜としては、塗料で塗装されたものであれば特に限定されないが、本発明の汚れ促進試験方法は自動車外板の塗膜の耐汚れ性を評価する際に好適であるため、自動車外板の塗膜とすることが好ましい。
【0022】
上記光劣化工程で照射される紫外線含有光としては、例えばサンシャインウェザオメータやQUVなどの促進耐候性試験装置の光源を利用することができる。
【0023】
上記酸劣化工程では、酸性液により塗膜を加水分解させて酸劣化させる。このとき用いる酸性液は、塗膜の酸劣化を適当なものとするべく、pHが3.5以下であることが好ましく、pHが3.0以下であることが特に好ましい。
【0024】
また、この酸劣化工程では、好適には、前記塗膜に前記酸性液を接触させた後、加熱雰囲気で該塗膜を乾燥させる。こうすることで、塗膜を確実に加水分解させて酸劣化させることができる。
【0025】
さらに、この酸化劣化工程を行った後は、前記塗膜を水洗いして塗膜表面から酸成分を除去する酸除去工程を行うことが好ましい。塗膜表面に酸成分を付着させたままその後の汚れ固着工程を行うと、塗膜が過剰に酸劣化し、塗膜の汚れ度合が過大となる。また、この酸除去工程で水洗いする際は,物理的洗浄(例えば、ブラシ等で塗膜を擦ったり磨いたりすること)は行わない方が好ましい。物理的洗浄を行うと塗膜が傷付き、汚れが傷部に局部的に付着してしまうので、測色問うにより定量的に評価することが困難となるからである。
【0026】
なお、前記劣化工程における光劣化工程と酸劣化工程との順番はどちらを先に行ってもよいが、前記光劣化工程を行った後に前記酸劣化工程を行う方が好ましい。酸性液により塗膜全体が酸劣化した後に光照射する場合の方が、光照射による塗膜劣化が塗膜全体に(塗膜の内部深くまで)及び易く、塗膜劣化が大きくなる。このため、酸劣化工程後に光劣化工程を行うと、汚れ付着が過大となる場合がある。一方、酸劣化していない塗膜に光照射する場合は、塗膜の表層のみが光劣化する。このため、光劣化工程後に酸劣化工程を行えば、表層が光劣化した塗膜を酸劣化させることにより、光劣化と酸劣化との組合せにより適度な塗膜劣化とすることが容易となり、劣化のバラツキ程度も小さくすることができる。
【0027】
前記汚れ固着工程では、人工汚れ物質を接触させた前記塗膜を所定温度に加熱して、該塗膜に該人工汚れ物質を確実に固着させることが好ましい。このとき、人工汚れ物質を塗膜に接触させる方法としては特に限定されず、粉末状の人工汚れ物質をそのまま塗膜に振り掛けてもよいが、所定量の人工汚れ物質を水に添加して汚れ液として塗膜に接触させることが好ましい。このようにすれば湿式となるのでカーボンブラックが飛散することがなく、作業性が良くなる。また、汚れ液を塗膜に接触させる際には、霧吹きスプレー等を用いて噴霧することが好ましい。こうすることで、人工汚れ物質を塗膜に均一に付着させることができる。
【0028】
前記汚れ固着工程で用いる人工汚れ物質としては、好適には、粒径が小さい第1カーボンブラックと、この第1カーボンブラックより粒径が大きい第2カーボンブラックと、粘土とからなるものを挙げることができる。この人工汚れ物質では、粒径の異なる2種類のカーボンブラックを用い、かつ粘土を混合することで、汚れの付着程度を調節するとともに実際の汚れと同様の色調となるように構成し、これにより実際の暴露と同程度の汚れ具合とすることができる。
【0029】
上記第1カーボンブラックの粒径は0.03μm未満とし、上記第2カーボンブラックの粒径は0.03μm以上とするのが望ましい。粒径が小さ過ぎると汚れが目立ちにくく、粒径が大きくなると汚れが付着しにくくなり、その境界が0.03μm付近にあるからである。なお、粒径が小さくなり過ぎると汚れがほとんど目立たなくなるので、第1カーボンブラックは0.01μm以上とすることが望ましい。また粒径が大きくなりすぎると全く付着しなくなるので、第2カーボンブラックは0.5μm以下とするのが望ましい。
【0030】
なお、上記第1カーボンブラックと上記第2カーボンブラックとを混合して用いる場合の他、1種類のカーボンブラックであっても、粒径の分布がほぼ上記のようであれば用いることができる。粒径の小さな第1カーボンブラックのみを用いる場合は塗膜の汚れが過剰となり、また、粒径の大きな第2カーボンブラックのみを用いる場合は塗膜に汚れが付着しにくくなる。
【0031】
また、粒径の小さな第1カーボンブラックと粒径の大きな第2カーボンブラックは、重量比で第1カーボンブラック:第2カーボンブラック=1:1〜1:10の範囲に混合されているのが好ましい。第1カーボンブラック/第2カーボンブラック<1/10となると、塗膜に汚れが付着しにくくなる。また、1/1≦第1カーボンブラック/第2カーボンブラックとなると、塗膜の汚れが過剰となる。
【0032】
上記粘土は、人工汚れ物質の粘性を増大させて付着しやすくする他、汚れの色調を実際の汚れ状況におけるそれと近似させる機能をもつ。そして、全カーボンブラックと粘土との重量比(全カーボンブラック/粘土)が1/1〜1/200の範囲にあるように混合させることが好ましい。全カーボンブラック/粘土が1/1より大きいと、塗膜の汚れが過剰となる。また、1/200より小さいと塗膜に汚れが付着しにくくなる。
【0033】
さらに前記汚れ固着工程の後に、汚れ固着工程の後に、前記塗膜に水を掛ける水洗工程を行うことが好ましい。この水洗工程は、実際の暴露において塗膜に付着した汚れが雨水で洗い流されることを想定したものである。この水洗工程は、塗膜に水を均一にかけるべく、霧吹きスプレー等を用いて水を噴霧することが好ましい。
【0034】
以上の汚れ促進試験方法を実施することで、試験後の塗膜を、実際の暴露における汚れ状態に近似した汚れ状態とすることができる。
【0035】
したがって、本発明の塗膜の耐汚れ性評価方法では、上記塗膜の汚れ促進試験方法を1サイクル実施した後の前記塗膜の耐汚れ付き性を評価する。これによって、塗膜の耐汚れ性を簡単かつ短時間で評価でき、しかもその評価も信頼性の高いものとすることができる。
【0036】
耐汚れ付き性の評価方法としては特に限定されないが、例えば、汚れ促進試験の前後で塗膜の明度や色差を測定することで耐汚れ付き性を調べることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により、本発明を更に詳しく説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
(実施例)
まず、第1カーボンブラックとして、「FW200カーボン」(テグサ社製、平均粒径0.013μm)を準備するとともに、第2カーボンブラックとしてJISダスト15種(粒径0.03〜0.2μm)を準備した。また、粘土成分としてJISダスト8種を準備した。
【0039】
そして、第1カーボンブラック:第2カーボンブラック:粘土=1:4:5となるように混合して、粉末状の人工汚れ物質を調製し、濃度が0.25wt%となるように人工汚れ物質を水に添加して、汚れ液とした。
【0040】
一方、電着塗装及び中塗り塗装が施された試験板(自動車のフード用鋼板)に、ポリエステル及びメラミンよりなる白ソリッド上塗り塗膜を形成し、さらに酸アクリル及びエポキシアクリルからなるクリア塗膜aを形成して、これを試験用のサンプル塗膜aとした。
【0041】
また、同様の試験板にポリエステル及びメラミンよりなる白ソリッド上塗り塗膜を形成し、さらにアクリル、メラミン及びシリケートからなるクリア塗膜bを形成して、これを試験用のサンプル塗膜bとした。
【0042】
さらに、同様の試験板にポリエステル及びメラミンよりなる白ソリッド上塗り塗膜を形成し、さらにアクリル及びメラミンからなるクリア塗膜cを形成して、これを試験用のサンプル塗膜cとした。
【0043】
そして、以下に示すように、光劣化工程−酸劣化工程−酸除去工程−汚れ固着工程−水洗工程をこの順で行う汚れ促進試験方法を実施した。
【0044】
<光劣化工程>
上記サンプル塗膜a〜cに対して、促進耐候性試験機としてのSWOM(サンシャインウエザオメーター)を用い、温度:63±2℃、湿度:50〜60%RH、光波長:40〜255nm、光量100w/m2 の条件で、紫外線含有光を48時間照射した後、水シャワーを12時間かけて、各サンプル塗膜a〜cを光劣化させた。
【0045】
<酸劣化工程>
そして、光劣化された各上記サンプル塗膜a〜cに対して、脱イオン水に硫酸を加えて濃度が2.5%でpHが1に調整された酸性液を霧吹きスプレーで噴霧した後、40℃の加熱雰囲気で24時間乾燥して、各サンプル塗膜a〜cを酸劣化させた。
【0046】
<酸除去工程>
光劣化及び酸劣化された各上記サンプル塗膜a〜cの表面に水道水を12時間掛け流し、各サンプル塗膜a〜cの表面の酸を洗い流した。なお、このときブラシ等を用いた物理的洗浄は行わなかった。
【0047】
<汚れ固着工程>
酸除去後の各上記サンプル塗膜a〜cに対して、上記汚れ液を霧吹きスプレーで噴霧した後、80℃に設定した乾燥炉内で2時間加熱して、各サンプル塗膜a〜cに人工汚れ物質を熱により固着させた。
【0048】
なお、人工汚れ物質を塗膜に固着させる温度を80℃としたのは、走行中等の実車の塗膜表面温度が80℃程度になるため、それを再現するためである。
【0049】
<水洗工程>
汚れ固着後の各上記サンプル塗膜a〜cに対して、霧吹きスプレーで水を噴霧した。
【0050】
なお、本実施例の汚れ促進試験方法の全工程に要した時間は、約86時間であった。また、本実施例の汚れ促進試験方法における各工程の条件は、実車の塗膜が実際に汚れる状況に極力近似させたものである。
【0051】
(比較例1)
以下に示すように、光劣化工程−親水化工程−酸劣化・汚れ固着工程−水洗工程をこの順で行う汚れ促進試験方法を実施した。
【0052】
まず、前記実施例と同様にして、人工汚れ物質及び試験用のサンプル塗膜a〜cを準備した。
【0053】
<光劣化工程>
前記実施例と同様にして、各サンプル塗膜a〜cを光劣化させた。
【0054】
<親水化工程>
そして、光劣化させた各上記サンプル塗膜a〜cを40℃の温水に24時間浸漬して、各サンプル塗膜a〜cの親水性を高めた。
【0055】
<酸劣化・汚れ固着工程>
脱イオン水に硫酸を加えてpH2.8に調整された酸性液に、濃度が0.25wt%となるように上記人工汚れ物質を添加して、酸性汚れ液を準備した。
【0056】
そして、親水性を高めた各上記サンプル塗膜a〜cに対して、上記酸性汚れ液を霧吹きスプレーで噴霧した後、80℃に設定した乾燥炉内で2時間加熱して、各サンプル塗膜a〜cを酸劣化させると同時に、各サンプル塗膜a〜cに人工汚れ物質を熱により固着させた。
【0057】
<水洗工程>
汚れ固着後の各上記サンプル塗膜a〜cに対して、霧吹きスプレーで水を噴霧した。
【0058】
(比較例2)
以下に示すように、酸劣化・汚れ付着工程−光劣化工程を1サイクルとしてこれを2回繰り返す汚れ促進試験方法を実施した。
【0059】
まず、前記実施例と同様にして試験用のサンプル塗膜a〜cを準備するとともに、前記比較例1と同様にして酸性汚れ液を準備した。
【0060】
<酸劣化・汚れ付着工程>
各サンプル塗膜a〜cに対して、上記酸性汚れ液を霧吹きスプレーで噴霧して、各サンプル塗膜a〜cに人工汚れ物質を付着させた。
【0061】
<光劣化工程>
汚れ付着後の上記サンプル塗膜a〜cに対して、前記SWOMを用い、前記実施例と同様の条件で紫外線含有光を48時間照射した後、水シャワーを12時間かけて、各サンプル塗膜a〜cを光劣化させた。
【0062】
そして、上記汚れ付着工程及び光劣化工程を1サイクルとして、これを2回繰り返した。
【0063】
(比較例3)
以下に示すように、汚れ付着工程−酸劣化工程−光劣化工程−水洗工程をこの順で行う汚れ促進試験方法を実施した。
【0064】
まず、前記実施例と同様にして、汚れ液、酸性液及び試験用のサンプル塗膜a〜cを準備した。
【0065】
<汚れ付着工程>
各サンプル塗膜a〜cに対して、上記汚れ液を霧吹きスプレーで噴霧して、各サンプル塗膜a〜cに人工汚れ物質を付着させた。
【0066】
<酸劣化工程>
汚れ付着後の各上記サンプル塗膜a〜cを、前記実施例と同様にして、酸劣化させた。
【0067】
<光劣化工程>
酸劣化された各上記サンプル塗膜a〜cを、前記実施例と同様にして、光劣化させた。
【0068】
<水洗工程>
光劣化させた各上記サンプル塗膜a〜cに対して、霧吹きスプレーで水を噴霧した。
【0069】
(評価)
前記実施例及び前記比較例1〜3の汚れ促進試験方法を1サイクル実施した後の各サンプル塗膜a〜cについて、耐汚れ性を評価した。この耐汚れ性は、汚れ促進試験前のサンプル塗膜について測定した明度(L1値)と、汚れ促進試験後のサンプル塗膜について測定した明度(L2値)との差(ΔL=L2−L1)を調べることにより評価した。このΔLの値が大きいほど汚れていることを示す。なお、明度(L値)はミノルタ製CM−2002により測定した。得られた結果を表1に示す。
【0070】
また、汚れ促進試験方法により評価した耐汚れ性と、実際の暴露における耐汚れ性との相関性を調べるために、以下に示す暴露試験を行った。
【0071】
<暴露試験>
前記実施例の試験板と同様のフード用鋼板をもつモニター車Aの該フード用鋼板の右半分に、実施例と同様にして前記サンプル塗膜aを形成するとともに、このフード用鋼板の左半分に、実施例と同様にして前記サンプル塗膜cを形成した。
【0072】
また、前記実施例の試験板と同様のフード用鋼板をもつモニター車Bの該フード用鋼板の右半分に、実施例と同様にして前記サンプル塗膜bを形成するとともに、このフード用鋼板の左半分に、実施例と同様にして前記サンプル塗膜cを形成した。
【0073】
そして、このモニター車A及びBを用いて、以下に示す暴露試験条件で暴露試験を行った。なお、実車走行場所の選択は、日本の緯度の略中間点で平均的な天候環境をもつ場所を選択するという観点から行った。また、走行距離を7ヶ月としたのは、7ヶ月を超えて走行しても耐汚れ性は7ヶ月のものと略同等となるからである。
【0074】
実車走行場所:愛知県内の交通量の非常に多い国道
走行距離 :2000km/月
走行期間 :7ヶ月
洗車 :7ヶ月間なし
そして、走行期間が3ヶ月に到達した時点(モニター時間3ヶ月)の各サンプル塗膜a〜c及び7ヶ月の走行期間(モニター時間7ヶ月)を経過した暴露試験終了後の各サンプル塗膜a〜cについて、それぞれ前記と同様に暴露試験前の各サンプル塗膜a〜cとの明度の差(ΔL)を測定し、暴露試験における耐汚れ性を調べた。得られた結果を表1に併せて示す。
【0075】
【表1】

【0076】
前記実施例及び前記比較例1〜3の汚れ促進試験方法の試験板における各サンプル塗膜a〜cについて測定したΔLと、暴露試験のモニター車における各サンプル塗膜a〜cについて測定したΔLとの相関性を調べた結果を図1に示す。
【0077】
図1に示されるように、実施例ではR2 =0.9818であり、実施例1の汚れ促進試験と暴露試験との相関性がかなり高いことがわかる。
【0078】
したがって、光劣化工程−酸劣化工程−酸除去工程−汚れ固着工程−水洗工程をこの順で行う本実施例の汚れ促進試験方法によれば、約86時間の試験で、7か月の暴露試験に相当する汚れを形成することができ、しかも実際の暴露試験を良く再現していることが確認された。よって、本実施例の汚れ促進試験方法は、実車における塗膜の耐汚れ性を評価するのに、極めて有効な方法であることが確認された。
【0079】
一方、光劣化工程−親水化工程−酸劣化・汚れ固着工程−水洗工程をこの順で行う比較例1の汚れ促進試験方法では、耐汚れ性にバラツキが見られた。これは、酸劣化・汚れ固着工程で、酸劣化と汚れ付着とを同時に行ったことによる影響と考えられる。また、この比較例1の汚れ促進試験方法では、モニター車の塗膜よりもひどく汚れた。これは、汚れを固着させる前に塗膜を親水化しているため、塗膜が過剰に汚れやすい状態にされたためと考えられる。
【0080】
また、汚れ付着工程−光劣化工程を1サイクルとしてこれを2回繰り返す比較例2の汚れ促進試験方法では、耐汚れ性にバラツキが見られた。これは、酸劣化・汚れ固着工程で、酸劣化と汚れ付着とを同時に行ったことによる影響と考えられる。
【0081】
また、汚れ付着工程−酸劣化工程−光劣化工程−水洗工程をこの順で行う比較例3の汚れ促進試験方法では、モニター車の塗膜と比べて汚れが少なかった。これは、酸劣化及び光劣化させる前の塗膜に汚れを付着させたことによる影響と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】実施例及び比較例1〜3の汚れ促進試験方法の試験板における各サンプル塗膜について測定したΔLと、暴露試験のモニター車における各サンプル塗膜について測定したΔLとの相関性を調べた結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線含有光の照射により塗膜を光劣化させる光劣化工程及び酸性液により塗膜を酸劣化させる酸劣化工程よりなる劣化工程と、
光劣化及び酸劣化した前記塗膜に人工汚れ物質を固着させる汚れ固着工程とを含むことを特徴とする塗膜の汚れ促進試験方法。
【請求項2】
前記劣化工程では、前記光劣化工程を行った後に前記酸劣化工程を行うことを特徴とする請求項2記載の塗膜の汚れ促進試験方法。
【請求項3】
前記酸劣化工程では、前記塗膜に前記酸性液を接触させた後、加熱雰囲気で該塗膜を乾燥させることを特徴とする請求項1又は2記載の塗膜の汚れ促進試験方法。
【請求項4】
前記酸化劣化工程の後に、前記塗膜を水洗いして該塗膜表面から酸成分を除去する酸除去工程を行うことを特徴とする請求項1、2又は3記載の塗膜の汚れ促進試験方法。
【請求項5】
前記汚れ固着工程では、前記人工汚れ物質を接触させた前記塗膜を所定温度に加熱して、該塗膜に該人工汚れ物質を固着させることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の塗膜の汚れ促進試験方法。
【請求項6】
前記汚れ固着工程の後に、前記塗膜に水を掛ける水洗工程を行うことを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の汚れ促進試験方法。
【請求項7】
請求項1乃至6に記載の塗膜の汚れ促進試験方法を1サイクル実施した後の前記塗膜の耐汚れ付き性を評価することを特徴とする塗膜の耐汚れ性評価方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−23107(P2006−23107A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−199293(P2004−199293)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】